経費共同型

経費共同型

経費共同型とは、収入はあくまでも弁護士各自に帰属し、その個人の財布から、経費のうちの一定範囲のものについて、一定の基準に基づいて拠出する方式である。

この方式による法律事務所は、よくある、判りやすい、とりわけ対等な複数人にとってはお互いが比較的容易に共同しやすい、法律事務所のタイプである。

しかし、これは複数人からなる法律事務所ではあっても、その実質からすると共同法律事務所の名には値しない。なぜなら、そこには、質の高い法的サービスを提供してゆくためにお互いがどう共同し合うかという、最も本質的な観点がないからである。このような事務所づくりにおける主たる動機と共通の関心事は、いかにして安上がりに事務所を経営するかである。このタイプの大半は、一個のドアと一個の看板を持つにすぎない複数弁護士からなる個人事務所であり、有り体に言えば「見せかけの共同法律事務所」である。

かかる事務所は、成員の経済力(あるいは稀には能力)が不均等に発展すると(そしてそのような不均等発展は最も自然な発展形態であるが)、個人事務所への分化のときをむかえる。なぜなら、発展している成員にとって、未発展な他の成員は桎梏以外の何者でもなくなるからである。明瞭な分裂の形を取ることが出来ないくらい、初めから見せかけ性が強い共同事務所すら少なくない。この傾向と、現状維持的な持たれ合い関係が結びついている場合には、各個人の発展が生じることすらなく、かかる現実が共同事務所の維持に寄与することとなる。

収入共同型

収入共同型の概念を要約すれば、業務から生ずる全ての収入を共通の財布に入れ、経営主体となる弁護士の協議に基づき、業務に関する使途=支出を(通常は予算制により)決定して支弁する方式である。

といっても、収入が本源的には個人に由来するものであることを否定すべきではない。それどころか、これを正視することこそがきわめて重要である、と言っておこう。なぜなら、これを無視する共同法律事務所構想は、詳細な説明をここでは略すが、現実がこれを許さないからである。

そうすると、ここにいう収入を共通の財布に入れるということと、経費共同における個人の財布から経費を取り出すということとは、一本の棒を各々反対の一端から表現したものに過ぎないようにみえるかもしれない。が、そう考えて思考を止めるのは、形式論理に呪縛された判断である。

両者は経費概念からして異なる。収入共同にあっては、各自の受ける所得もまた内部的には経費とみるからである。すなわち、収入共同型では、予算決定(実際には、その基礎となる報酬配分に関する内部ルール)を通して、収入の少ない者が収入の多い者の所得についても制約しうることを経費概念の射程に入れる。収入共同の複数経営者は、相互にこの仕組みを容認して事務所を経営しなければならないのである。

そのためには、お互いがなんのために共同するかという事務所の存在意義に関する一定の合意が不可欠である。このとき、収入が本源的に個人に由来するものであるという事実は、その具体化たる内部ルールにおいて、決して無視しうるものではないばかりか、むしろこれを正面から認識し、ルールに反映させなければならない。これを抽象的理念に解消しないで、いわば台所の問題を踏まえたルールの合理性を追及することが必要なのである。

経済合理性なかんずく収益をいかに上げるかという観点に特化すれば、この合意は容易になる。しかし、いうまでもなく、ここにおける合理性とは、経済合理性のみならず、(事務所という)結合した弁護士の仕事が、いかにして、かつ持続的にどのような社会価値を生み出すか、そもそも法律事務所がいかなる社会的存在であるべきか等を踏まえた合理性のことである。

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