民事事件の内訳
民事事件を事務処理の性質で分けた場合、訴訟事件と契約書作成・交渉等との割合は、4対6くらいである。契約書作成等に顧問先を中心とした相談業務を加えると、訴訟事件の比率は3割くらいに更に減少する。
法的紛争が最終的に訴訟事件に帰する以上、訴訟の未然防止の工夫と訴訟遂行能力とをいずれも重視する当事務所の姿勢は今後とも変わらない。刑事事件を軽んじてはならないとする理由の一つは、訴訟技術の高度化という観点からでもある。
民事事件をジャンル別に見た内訳は、従来からの著作権に近時の商標など工業所有権を加えた事件比率が30%超とやや高くなっている。それと共に企業組織法に関する業務の比率が増加しつつあるため、いわゆる一般民事事件(ここでは民法中心として処理し得る事件と言う意味)の割合は相対的に低下しつつある。しかし、依然として一般民事についての個人事務所並みの多様さに変化はなく、また今後これを軽視する考えも全くない。
司法改革の論議と一般民事事件軽視の傾向
司法改革の論議で軽視されつつあるのが、一般民事事件である。
弁護士の専門性を求める声とともに、一般民事事件を手際よく処理する弁護士の存在の必要性は益々増加している。一般民事事件を軽視してはならない理由の一つは、専門性を求める社会の現実が、専門性のみを求めてはいないからである。
しかしそれ以上に私たちが一般民事事件の重要性を強調する理由は、一般民事事件を貫く市民法原理の実現が、弁護士の重要な責務のひとつだからである。
極めて残念なことに、旧来の企業法務の理論や実務は、営利の追求と言う企業の当然の目的の前に萎縮し、コンプライアンスやコーポレートガヴァナンスの軽視に傾いていた。
しかし、営利を追求しない企業が、現実によってその存立を許されなくなるのと同様に、適法性にもとる企業の存立が社会から許されなくなるのは必然である。弁護士は、営利追求と適法執行との両立に関してもっと早くからその使命を果たすべきであった。
我々は企業にかかわる法律分野を取引法ジャンル、組織法ジャンル等として分析し、それらを市民法原理に深く通底させ、そのうえに各ジャンル固有の取引の安全性・反復性・技術性等を位置付けることを早くからの視座としてきた。企業の適法執行の思想は、海の向こうから指摘されて初めてその都度「気付く」のではなく、根底にある原理に根ざすことを日々追求し実現するものでなければならない。そうでないなら、いつまでも状況の後追いを繰返す他ない。
刑事事件受任の軽視は、弁護士の本分の放棄
刑事事件の取扱いは、全体の2%程度ではあるが、新人・ベテランを問わず、私選のみでなく、国選事件や当番弁護士などの弁護士会の活動へ参加するよう事務所は奨励している。
報酬の多寡にかかわりなく、使命を果たすのが弁護士の本分であり、訴追者と異なる観点、すなわち「乾坤只一人」(けんこんただいちにん)の観点から被疑者・被告人に光を与え、事案の社会性を明らかにするのは弁護士の固有の使命である。
かかる使命の自覚こそ、個々の弁護士にとって欠くことの出来ない姿勢の一つだという認識が必要である。刑事事件の出来ない法律事務所など、論外である。