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【事件名】イルカ写真事件
【年月日】平成11年3月26日
 東京地裁 平成8年(ワ)第8477号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成11年1月27日)

原告 水口博也
右訴訟代理人弁護士 前田哲男
被告 株式会社毎日コミュニケーションズ
右代表者代表取締役 佐々山泰弘<ほか一名>
被告ら訴訟代理人弁護士 山口博久


主文
一 被告らは、原告に対し、各自金一七八万円及びこれに対する平成八年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。
四 この判決の一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第一 請求
一 被告らは、原告に対し、連帯して金一三六四万円及びこれに対する平成八年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告株式会社毎日コミュニケーションズは、原告に対し、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞には別紙謝罪広告掲載方法目録一記載の方法で、同被告の発行する雑誌「CD−ROM Fan」には別紙謝罪広告掲載方法目録二記載の方法で、それぞれ一回ずつ掲載せよ。
第二 事案の概要
一 争いのない事実等
1 原告は、鯨・イルカ等の野生の海洋生物を対象とする写真撮影、ルポルタージュの執筆等を業とする写真家・科学ジャーナリストである。
 被告株式会社毎日コミュニケーションズ(以下「被告会社」という。)は、書籍の出版・販売等を目的とする株式会社であり、CD−ROMソフトに関する月刊の情報雑誌「CD−ROM Fan」を発行している。
 被告佐々山泰弘(以下「被告佐々山」という。)は、被告会社の代表取締役であり、かつ、「CD−ROM Fan」の発行人である。
2 原告は、別紙写真目録記載1ないし34の各写真を撮影し、これを「Dolphin Blue ドルフィン・ブルー」と題するCD−ROMソフト(以下「Dolphin Blue」という。)に収録した(以下、「Dolphin Blue」に収録された別紙写真目録記載の各写真を「本件写真」という。)。
 「Dolphin Blue」は、平成七年、株式会社シンフォレスト(以下「シンフォレスト社」という。)から発売された。
3 被告らは、「Dolphin Blue」から本件写真合計三四点を複製し、「CD−ROM Fan」平成七年一〇月号(以下「本件雑誌」という。)に掲載して、同年九月八日、本件雑誌を定価五八○円で発売した。
 「Dolphin Blue」から複製された本件写真三四点は、本件雑誌の「イルカと泳ごう」と題する特集記事(一六○頁ないし一七三頁に掲載、以下「本件記事」という。)の中に掲載されており、本件雑誌の一六一頁、一六二頁の見開きに掲載された一点の写真、一六八頁に掲載された八点の写真、一六九頁に掲載された二点の写真、一七〇頁に掲載された八点の写真、一七一頁に掲載された八点の写真及び一七二頁に掲載された七点の写真である。
二 本件は、原告が、被告らは原告が撮影した本件写真を原告に無断で複製し本件雑誌に掲載して発売し、本件写真についての著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害したと主張して、被告らに対し、著作権及び著作者人格権の侵害による各不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに、被告会社に対し、著作権法一一五条に基づき、謝罪広告の掲載を求めた事案である。
第三 争点及び争点に関する当事者の主張
一 本件写真は著作物性を有するかどうか。
1 原告の主張
 本件写真は、原告が自然の中におけるイルカの生態を撮影した写真のポジフィルムを現像し、これをスキャナーで読み取って画像をデジタル化し、それに色調・輪郭線の調製、トリミング等のデジタル的な加工を加えたものであり、著作物性を有する。
2 被告らの主張
(一) 本件写真が、原告が自然の中におけるイルカの生態を撮影した写真のポジフィルムを現像し、これをスキャナーで読み取って画像をデジタル化し、それに色調・輪郭線の調製、トリミング等のデジタル的な加工を加えたものであることは認める。
(二) 通常、写真はカメラという機械的技術的な装置を用いて被写体をフィルム等に再現するものであり、自然の景観や自然のなかの動物の生態など同一の画像ができる可能性が極めて高い写真は、それだけでは創作的に表現したものとは言いがたく、写真は、被写体の選択、構図のとらえ方、写真技術などに撮影者の独自の創意と工夫が認められ、それが思想、感情を表現したものと評価できなければ著作物とは認められない。
 このような観点からすると、本件写真は、著作物であるとはいえない。
二 被告らが本件写真を複製して本件雑誌に掲載したのは、原告が本件写真について有する複製権を侵害する行為に当たるかどうか。
1 被告らの主張
(一) 被告らが発行している本件雑誌は、最新で良質のCD−ROMの情報やタイトルを紹介し、読者の購買意欲を高めるCD−ROMのカタログ的性格を有する雑誌である。
 「Dolphin Blue」は、シンフォレスト社から発売されたが、原告とシンフォレスト社との間の「Dolphin Blue」の出版契約において、原告は、「Dolphin Blue」の販売促進のため、シンフォレスト社がその裁量により「Dolphin Blue」に収録された画像データを使用し、雑誌に宣伝広告することを承諾していた。
(二) シンフォレスト社は、「Dolphin Blue」の発売に当たり、平成七年三月、右発売を前提とした宣伝広告を被告らに依頼し、被告らは、「CD−ROM Fan」平成七年五月号(平成七年四月八日発売)に、原告のインタビュー記事を載せ、新作紹介頁の「New Title Selections」の中で「Dolphin Blue」を紹介した。
(三) 被告らは、平成七年夏ごろ、夏のイメージを持つイルカのCD−ROMの画像を広告タイアップ的な匂いを出さないで視覚を通じて紹介し、イルカのCD−ROMの販売に協力することを企画した。
 被告らは、「Dolphin Blue」からも多数の画像を紹介したいと考え、シンフォレスト社に対し、「イルカを見られるCD−ROMの特集を企画している」、「シンフォレスト社発売の『Dolphin Blue』からも何点か掲載したい、貸してもらえないか」と申し入れたところ、シンフォレスト社は「宣伝になるよう大きく紹介してほしい」と述べて被告らの申入れを承諾し、一、二日後「Dolphin Blue」のCD−ROMを送付してきた。
(四) 被告らが本件雑誌に掲載した本件写真は、シンフォレスト社から送付された「Dolphin Blue」のCD−ROMの画像データである。
(五) 以上のとおり、被告らは、右掲載につき、原告から権限を与えられたシンフォレスト社の許諾を得た。したがって、被告らが本件写真を複製して本件雑誌に掲載したからといって、原告が本件写真について有する複製権を侵害することはない。
2 原告の主張
(一) 原告は、シンフォレスト社に対し、本件写真を、原告の作品集であるCD−ROM「Dolphin Blue」の形態で発売することを許諾したが、本件写真を他の媒体に転用・転載することを許諾していないし、シンフォレスト社に対し、第三者に転用・転載の許諾を与える権限を付与したこともない。
(二) 本件記事は、本件写真によって紙面を構成しているところ、シンフォレスト社は、このような形で雑誌の紙面を構成するために本件写真を複製することを承諾していない。
三 被告らが本件写真を掲載した本件雑誌を発売したのは、原告が本件写真について有する氏名表示権を侵害する行為に当たるかどうか。
1 原告の主張
 被告らは、本件写真を本件雑誌に掲載して公衆に提供するに当たり、原告の氏名を表示しなかった。
 なお、本件雑誌の一七二頁には、「Dolphin Blue」がごく小さく掲載されており、そこには「(P160−P161、P168−P172の写真は「Dolphin Blue」を使用)」と極めて小さい文字で記載されているが、これをもって原告の氏名を表示したことにはならない。
2 被告らの主張
 被告らは、本件雑誌の一七二頁に、各写真を特定してその出所が「Dolphin Blue」であることを明記し、そのジャケット写真を掲載している。このジャケット写真には原告の氏名が記載されており、「Dolphin Blue」の画像が原告撮影のものであることが明確に認識できるようになっている。
 また、被告らは、「CD−ROM Fan」平成七年一一月号に「お詫びとご訂正」の記事を載せ、本件写真は原告撮影のものであると表示した。
 したがって、氏名表示権の侵害はない。
四 被告らが本件写真を本件雑誌に掲載したのは、原告が本件写真について有する同一性保持権を侵害する行為に当たるかどうか。
1 原告の主張
(一) トリミングによる同一性保持権の侵害
 被告らは、本件写真をそのまま複製せず、別紙写真切除目録記載のとおり、原告の意に反して本件写真の上下・左右を切除して本件雑誌に掲載しており、これにより、原告の同一性保持権を侵害した。
(二) 写真に文字を重ねることによる同一性保持権の侵害
 被告らは、本件雑誌一六〇頁及び一六一頁に見開きで、本件写真に「本誌独占インタビュー イルカに愛され、イルカを愛した男 ジャック・マイヨールが語る イルカと泳ごう 華麗なジャンプ、水中での優雅なダンスなど愛らしいイルカの姿をCD−ROMで楽しもう」という文字を重ねて掲載した。右の文字のうち、「イルカと泳ごう」との文字は極めて大きい装飾文字である。
 これらの文字によって本件写真のかなりの部分が切除されたから、被告らは、本件写真に右のとおり文字を重ねることによって本件写真の同一性保持権を侵害した。
(三) CD−ROMから紙媒体に転用したことに伴う同一性保持権の侵害
(1) 「Dolphin Blue」に収録された本件写真は、オリジナルポジからスキャナーで読みとってデジタル化し、それを加工して完成させたものであるが、これは、CD−ROMという媒体に収録されてコンピュータディスプレイ(以下「ディスプレイ」という。)上で鑑賞されることを前提としている。さらに、「Dolphin Blue」は、そのパッケージ上において、使用するディスプレイに関する指定をしており、本件写真はそのようなディスプレイで鑑賞されることを前提としている。
(2) ディスプレイ上で写真の著作物を鑑賞する場合、人間の目は、透過光によって電子的発色により色彩・形状・線・明るさ等を認識する。そして、透過光による電子的発色の場合には、紙媒体における反射光による化学的発色の場合に比べて、色の再現性が格段によくなるため、同じドット数・色数であっても、色の濃淡・諧調をよりきれいに表現することができる。また、人間の目は、透過光により視覚する場合よりも反射光により視覚する場合のほうが、全体的な印象よりも細部を知覚する傾向があるため、ディスプレイ上では意識されない輪郭線のぎざぎざが紙媒体上では強く知覚されることになる。
(3) このような透過光による視覚と反射光による視覚との相違から、透過光により一定条件のディスプレイ上で鑑賞されることを予定した著作物が紙媒体に転用されて反射光によって鑑賞されると、著作者の意に反して、その質が低下することになる。
(4) 被告らは、「Dolphin Blue」に収録された本件写真のデジタル情報を抽出して本件雑誌に印刷することにより、原告の意に反して、その質を低下させ、本件写真についての同一性保持権を侵害した。
2 被告らの主張
(一) 被告らが、別紙写真切除目録記載のとおり、本件写真の上下又は左右を一部切除して本件雑誌に掲載したことは認めるが、それは、いずれも作品の同一性、創作性に影響を与えるものではない。
(二) 本件雑誌一六〇頁及び一六一頁に見開きで、本件写真に「本誌独占インタビュー イルカに愛され、イルカを愛した男 ジャック・マイヨールが語る イルカと泳ごう 華麗なジャンプ、水中での優雅なダンスなど愛らしいイルカの姿をCD−ROMで楽しもう」という文字を重ねて掲載したことは認める。
(三) 前記三1のとおり、被告らは、本件写真の掲載につき、シンフォレスト社の承諾を得ており、右の見開きが特集記事の扉頁である以上、題字等のコピーを入れるのは当然のことであるし、CD−ROMの画像データを紙媒体に転用することについても同社の承諾を得ている。
五 被告らの故意、過失
1 原告の主張
 被告らには、本件写真についての原告の著作権及び著作者人格権を侵害するについて、故意又は過失がある。
 なお、被告らの主張(後記2)に係る雑誌業界とCD−ROMの販売業界との業界慣行は存在しない。
2 被告らの主張
 本件写真が収録された「Dolphin Blue」は販売を前提に制作されたCD−ROMである。
 被告らは、販売目的で制作された「Dolphin Blue」の販売促進のための宣伝広告として、そこに収録された画像データを、CD−ROMのカタログ的性格を有する本件雑誌に掲載したのであり、しかも右掲載については「Dolphin Blue」の発売元であるシンフォレスト社の承諾を得ていた。
 被告らのような雑誌業界とCD−ROMの販売業界との業界慣行では、制作者の意思は作品を発売している業者を通じて知らされるものであり、右のような宣伝広告のための雑誌掲載については制作者の承諾は不要であり、販売元の承諾をもって足りるとされてきた。
 被告らは、右業界慣行に従って「Dolphin Blue」の発売元であるシンフォレスト社の承諾を得ていたから、制作者である原告が掲載を承諾しているものと信じていたのであり、原告の直接の承諾を得ずに本件写真を掲載したからといって、故意はもとより過失もない。
六 原告の損害額及び謝罪広告の必要性
1 原告の主張
(一) 著作権侵害による損害額
(1) 原告が自らの作品である写真を商業出版物である雑誌に掲載することを事前に許諾する場合に支払を受けるべき金銭の額は、写真一点につき次のとおりである。
ア 雑誌二頁以上にわたる大きさに掲載する場合 四〇万円
イ 雑誌一頁以内の大きさに掲載する場合 一〇万円
(2) 一般に写真家は、その作品が、事前の許諾の申込みを受けることなく無断使用され、事後的に許諾料の支払を受ける場合には、事前に許諾する場合の一〇倍の金額の支払を受けている。
(3) 本件雑誌は商業出版物であるところ、被告らは、
ア 本件雑誌一六〇頁・一六一頁の見開きに本件写真一点を使用し、
イ 本件雑誌一六八頁に本件写真八点を、一六九頁に二点を、一七〇頁に八点を、一七一頁に八点を、一七二頁に七点を、それぞれ一頁以内の大きさで使用した。
(4) したがって、本件写真を本件雑誌へ掲載するにつき、原告が支払を受けるべき金銭の額は、
ア 四〇〇万円(四〇万円×一〇×一点)
イ 三三〇〇万円(一〇万円×一〇×三三点)
の合計である三七〇〇万円となり、原告は被告ら各自に対し、著作権法一一四条二項に基づき右金額に相当する額の損害賠償を請求できるところ、その一部として七四〇万円の損害賠償を請求する。
(5) 本件において、著作権侵害に基づく請求に係る弁護士費用は、七四万円が相当である。
(6) よって、原告は、被告ら各自に対し、損害賠償として八一四万円及びこれに対する不法行為の後である平成八年六月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(二) 著作者人格権の侵害による損害額
 被告らによる著作者人格権の侵害により原告の被った精神的苦痛を慰謝するに相当な金額は、五〇〇万円を下らない。
 本件において、著作者人格権侵害に基づく請求に係る弁護士費用は、五〇万円が相当である。
 よって、原告は、被告ら各自に対し、損害賠償として五五〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成八年六月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(三) 謝罪広告の必要性
 原告は、本件写真についての著作者人格権の侵害により極めて重大な被害を被り、しかも右侵害に係る本件雑誌が日本全国に多数頒布されたことからすると、原告が著作者であることを確保するため及び著作者人格権により害された原告の名誉、声望を回復するためには謝罪広告の掲載が必要であり、その方法としては、朝日、読売、毎日の各新聞紙上及び本件雑誌の最新号にそれぞれ別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を別紙謝罪広告掲載方法目録記載の条件で掲載する必要がある。
2 被告らの主張
 原告の損害及び謝罪広告に関する主張をいずれも争う。
第四 当裁判所の判断
一 本件写真の著作物性について判断する。
 <証拠略>によると、本件写真は原告が自然の中に生息している野性のイルカを被写体として撮影した写真であること、原告は、本件写真を撮影するに当たり自らの撮影意図に応じて構図を決め、シャッターチャンスを捉えて撮影を行ったこと、以上の事実が認められ、これらの事実に<証拠略>によって認められる本件写真の映像とを併せて考えると、本件写真は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物性を有するものと認められ、本件写真は著作物とはいえない旨の被告らの主張(前記第三の一、2(二))は、採用することができない。
 したがって、原告は、本件写真について著作権及び著作者人格権を有する。
二 被告らが本件写真を複製し本件雑誌に掲載したことは、原告の本件写真についての複製権を侵害するかどうかについて判断する。
1 被告らが本件写真を複製し、これを本件雑誌に掲載したことは、前記第二の一3のとおりである。
 また、前記第二の一の事実に<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。
(一) 平成七年八月上旬ごろ、被告会社の「CD−ROM Fan」編集部で本件記事が企画され、編集部員の水上茂治(以下「水上」という。)がシンフォレスト社で「Dolphin Blue」を担当していた品田伸(以下「品田」という。)に電話をかけ、「CD−ROM Fan」の一〇月号でイルカのCD−ROMを紹介したいので「Dolphin Blue」を送付してほしい旨依頼をした。ただし、その時点では、右企画の準備の早い段階であったので、右編集部においても、具体的にどのような紙面構成にするのか、「Dolphin Blue」から何点の写真を使用するのか、どの位の大きさで使用するのかといった具体的な使用態様は決まっておらず、水上は、品田に対する右依頼に際し、このような具体的なことは何も説明しなかった。
 品田は、右依頼に応じて「Dolphin Blue」を右編集部に送付した。
 以上のほかには、右編集部と品田との間に「Dolphin Blue」に収録された写真の使用についての話合い等は一切なかった。
(二) 本件記事は、本件雑誌の一六〇頁から一七四頁に掲載された「イルカと泳ごう」と題する、ジャック・マイヨールのインタビューを中心とした特集記事であり、一六〇頁、一六一頁は、「イルカと泳ごう」という題名等が重ねて記載された大きな見開きのイルカの写真(別紙写真目録記載1の写真)、一六二頁はジャック・マイヨールの顔写真、一六三頁、一六四頁は、ジャック・マイヨールのインタビュー記事、一六五頁ないし一七五頁は、イルカの写真(ただし、一七五頁は「イルカに会える水族館」の一覧表も掲載している。)という構成になっている。
(三) 右イルカの写真のうち、一六七頁、一六八頁は「デルフォイの記憶」と題するCD−ROMの写真が、一六八頁ないし一七二頁は「Dolphin Blue」の写真(別紙写真目録記載2ないし34、一頁の二分の一の大きさのもの二枚、一頁の八分の一の大きさのもの三一枚)が、一七三貝は「1994・the Bonin islands」と題するCD−R0Mの写真が、一七四頁は「クジラに魅せられて 望月昭伸作品集」と題するCD−ROMの写真が、一七五頁は「ガラパゴスの海へ」と題するCD−ROMの写真が掲載されている。
(四) 本件雑誌の一七二頁の左下の一頁の八分の一の大きさの部分に、「Dolphin Blue」のジャケットの写真とともに、「『Dolphin Blue』」「Mac,Win両用」「価格:3,980円(税込)」「問い合わせ先:シンフォレスト」「TEL:03−3440−6108」「(P160−P161,P168−P172の写真は「Dolphin Blue」を使用)」と小さな文子で記載されており、右(三)記載の「Dolphin Blue」以外のCD−ROMについても、本件雑誌の一六七頁、一七三貝、一七四頁の一頁の八分の一の大きさの部分に、それぞれジャケットの写真とともに、右「Dolphin Blue」と同様の事項が小さな文字で記載されているが、その他には、右(三)記載の各写真を紹介する記事は存しない。
2 <証拠略>によると、原告とシンフォレスト社との間において、「Dolphin Blue」の出版に関し、原告がシンフォレスト社に対し、同社が「Dolphin Blue」の販売促進・広告のために作成し、無償で配布、又は貼付するポスター・チラシその他の物品に、「Dolphin Blue」の画像データを使用することを無償で認める旨の約定があったことが認められるから、シンフォレスト社は右約定の範囲で「Dolphin Blue」の画像データを使用する権限を有していたものと認められるが、同社が右約定の範囲を超えて右画像データを使用し又は使用を許諾する権限を有していたことを認めるに足りる証拠はない。しかるところ、「CD−ROM Fan」が、「シンフォレスト社が『Dolphin Blue』の販売促進・広告のために作成し、無償で配布、又は貼付するポスター・チラシその他の物品」でないことは明らかであるから、シンフォレスト社が被告らに対して「CD−ROM Fan」において「Dolphin Blue」に収録された画像データの使用を許諾する権限を有していたとは認められない。
3 また、右1認定の事実によると、本件記事はジャック・マイヨールのインタビューを中心とした特集記事であり、本件写真は、別紙写真目録記載1の写真が記事の最初の見開きの頁に題字とともに大きく掲載されているほか、別紙写真目録記載2ないし34の三三枚もの写真が掲載されており、「Dolphin Blue」のジャケットの写真等が掲載されているものの、その扱いは、本件写真に比べて著しく小さいというべきである。そうすると、本件記事において、本件写真は、単なるCDROMの紹介の域を超えて、読者に鑑賞させるために掲載されたものであると認められる。
 他方、右1認定の事実によると、「CD−ROM Fan」の編集部員である水上はシンフォレスト社の品田に対し、具体的な使用態様等を告げないまま「CD−ROM Fan」一〇月号でイルカのCD−ROMを紹介するので「Dolphin Blue」を送付してほしい旨依頼し、品田はこれに応じて「Dolphin Blue」を送付したに過ぎないことが認められるから、シンフォレスト社の品田が被告らに対して読者に鑑賞させるような態様で本件写真を掲載することを承諾したとは到底認められず、他にシンフォレスト社が被告らに対してこのような許諾を与えたことを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、本件記事における本件写真の掲載について、シンフォレスト社が許諾していたとも認められない。
4 その他、被告らが、本件写真を複製し、本件雑誌に掲載することについて原告が許諾していたことの主張立証はないから、被告らが、本件写真を複製し、本件雑誌に掲載したことは、原告の本件写真についての複製権を侵害する行為であると認められる。
三 被告らが本件写真を掲載した本件雑誌を発売したことが原告の有する氏名表示権を侵害するかどうかについて判断する。
1 右二1(四)認定のとおり、本件雑誌の一七二頁の左下欄に、「Dolphin Blue」のジャケットの写真等が掲載されていることが認められるが、<証拠略>によると、右ジャケットの写真には「水口博也」という同ジャケットに印刷された文字が見えるものと認められる。また、右二1(四)認定のとおり、本件記事には他のCD−ROMのジャケットの写真も掲載されていることが認められるが<証拠略>によると、その中には、ジャケットには撮影者の氏名が印刷されていないため、写真の著作者が誰であるか分からないものがあることが認められる。
 右認定の事実によると本件雑誌の一七二頁のジャケット上の「水口博也」の氏名は、ジャケットの写真の一部として出ているものであり、著作者の氏名を表示するものとして記載されているものではないと認められるから、右ジャケット上の「水口博也」の氏名が見えるからといって、被告らが本件写真を本件雑誌に掲載して公衆に提供するに際して、原告の氏名を表示したとは認められない。
 そして、以上述べたところに弁論の全趣旨を総合すると、被告らは、本件写真を本件雑誌に掲載して公衆に提供するに際して、原告の氏名を表示しなかったものと認められるから、被告らが本件写真を掲載した本件雑誌を販売したことは、原告が本件写真について有する氏名表示権を侵害する。
2 なお、<証拠略>によると、「CD−ROM Fan」平成七年一一月号(平成七年一〇月八日発売)に、「CD−ROM Fan 10月号の161〜162ページにおきましてイルカの写真のクレジットが抜けていました。正しくは「本写真は「Dolphin Blue」(撮影:水口博也)より使用しています。(Mac,Win両用)、価格:3,980円(税込)、発売元:シンフォレスト」です。迷惑をおかけしました関係各位に謹んでお詫び申し上げます。」という内容の「お詫びとご訂正」の記事を掲載したことが認められるが、氏名表示権は、著作物の公衆への提供に際して、氏名を表示し又は表示しないこととする権利であるから、事後的に右「お詫びとご訂正」の記事を掲載したからといって、氏名表示権を侵害しないこととなるものではない。
四 被告らが本件写真を本件雑誌に掲載したことが原告の有する同一性保持権を侵害するかどうかについて判断する。
1 被告らが別紙写真切除目録記載のとおり、本件写真の上下又は左右を一部切除して本件雑誌に掲載したことは、当事者間に争いがない。
 著作権法二〇条一項にいう著作物についてのその意に反する「変更、切除その他の改変」とは、その著作者の意に反して著作物の表現を変更することを意味するものと解されるから、被告らが本件写真の上下又は左右を一部切除して本件雑誌に掲載したことは、その切除箇所が極めてわずかであるなど著作者の人格的利益を害することがないと認められる場合を除き、原則として同一性保持権の侵害に当たるものとされる。
 そして、右争いのない事実と<証拠略>によると、別紙写真切除目録記載の各写真は、上下又は左右の一部が切除されたことにより各写真の本来の構図が明らかに変更されており、これによって著作者の制作意図に沿わないものとなっていることが認められるから、右切除は著作者の人格的利益を害することがないとは認められない。
 したがって、被告らが別紙写真切除目録記載のとおり、本件写真の上下又は左右を一部切除して本件雑誌に掲載したことは、原告が本件写真(別紙写真目録記載22及び34の各写真を除く。)について有する同一性保持権を侵害する。
2 <証拠略>によると、別紙写真目録記載1の写真は、概ね別紙写真切除目録記載1のとおり文字が重ねられていることが認められ、これは右写真の表現を改変するものと認められるから、被告らが右写真に文字を重ねて掲載したことは、原告が右写真について有する同一性保持権を侵害する。
3 原告は、CD−ROMから紙媒体に転用したことが同一性保持権の侵害になる旨主張する(前記第三の四1(三))。
 しかし、<証拠略>により、本件写真をディスプレイ上に映した映像と本件雑誌に掲載された写真を対比すると、媒体が異なることから両者は全く同一であるとはいえないものの、本件雑誌の写真は本件写真をかなり忠実に再現しており、本件雑誌の写真がディスプレイ上の映像よりも特に質的に劣るとも認められないから、本件写真をCD−ROMから紙媒体に転用したことが、同一性保持権の侵害になるということはできない。
五1 以上認定判断したところによると、被告らが本件写真を複製して本件雑誌に掲載し、これを発売したことは、原告の有する複製権並びに氏名表示権及び同一性保持権を侵害すると認められるところ、被告会社は、出版社として、自らの発行する雑誌「CD−ROM Fan」の記事に写真を掲載するに当たっては、一般的に、その著作者の著作権及び著作者人格権を侵害することがないよう注意すべき義務があり、被告佐々山も右雑誌の発行人として右と同様の注意義務を負っていたものと認められる。しかるに、前記認定のとおり、被告らが本件写真を本件雑誌に掲載するに当たっては、「CD−ROM Fan」の編集部員である水上が「Dolphin Blue」の販売元であるシンフォレスト社の品田に「Dolphin Blue」の送付を依頼したのみで、それ以上に著作者の著作権及び著作者人格権を侵害するかどうかについて考慮することなく、本件写真を複製して、本件雑誌に掲載し、これを発売したのであるから、被告らには右注意義務を怠った過失があるというべきである。
 なお、被告らは、本件写真を掲載するについてシンフォレスト社の許諾を得ていたから過失はない旨主張する(前記第三の五2)が、前記認定のとおり、シンフォレスト社の許諾があったとは認められないから、右主張は採用できない。
 したがって、被告らは、原告の著作権及び著作者人格権を侵害したことにより原告に生じた各損害を賠償する責任があるものと認められるから、各損害額について判断する。
2 まず、複製権侵害による損害額について判断する。
(一) <証拠略>によると、国内において写真の貸出し業務を行っている写真ライブラリー業者が写真を一般雑誌に掲載するために貸し出した場合の使用料は、見開きで使用する場合については、五万円、一頁の二分の一以上であるが一頁に満たない場合については、三万円ないし三万五〇〇〇円、一頁の二分の一に満たない場合については、二万五〇〇〇円ないし三万円といった例のあることが認められる。
 また、<証拠略>によると、本件写真は、原告において、本来雑誌への掲載を許可する予定のなかったものであることが認められる。
 そして、右認定の事実に前記二認定に係る本件記事における本件写真の使用態様を総合すると、本件記事における本件写真の使用料は、見開きで使用されたもの(一枚)については一〇万円、一頁の二分の一のもの(二枚)については各五万円、一頁の八分の一のもの(三一枚)については各三万円が相当であると認められる。
(二) 原告は、一般に写真が無断使用されたときの事後的な許諾料は事前に許諾する場合の一〇倍の金額となる旨主張する(前記第三の六1(一)(2))。
 <証拠略>によると、写真ライブラリー業者の写真使用料規定には、無断使用の場合には使用料の一〇倍を請求するとされているものがあることが認められるが、それのみで、写真が無断使用されたときの事後的な許諾料は事前に許諾する場合の一〇倍の金額が相当であると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 また、原告は、自らの写真の使用料を示すものとして請求書を証拠として提出するが、右請求書に係る写真がどのようなもので、どのようにして使用されたのか、また、右金額がどのようにして決定されたのか、本件全証拠によるも必ずしも明らかではないから、右請求書の金額をもって本件写真の使用料相当額を算定することはできない。
(三) 右(一)の認定に基づいて、被告らが本件写真を複製して本件雑誌に掲載したことについて原告が受けるべき金額を算定すると、右金額は、
見開き使用分
 一〇万円(100,000*1=100,000)
一頁の二分の一使用分
 一〇万円(50,000*2=100,000)
一頁の八分の一使用分
 九三万円(30,000*31=930,000)
の合計一一三万円となる。
 したがって、複製権侵害による損害額は、一一三万円である。
四 原告が本訴の提起及び遂行のために弁護士である原告代理人を選任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理の経緯その他諸般の事情を考慮すると、原告に生じた弁護士費用のうち、一〇万円は被告らの複製権侵害の不法行為と相当因果関係のある損害として被告らに負担させるべきものと認めるのが相当である。
3 氏名表示権及び同一性保持権の侵害による損害額(慰謝料)は、前記認定の被告らの侵害行為の態様及び諸般の事情を勘案すると、五〇万円と認めるのが相当である。
 また、右2(四)に述べたところからすると、原告に生じた弁護士費用のうち、五万円は被告らの著作者人格権侵害の不法行為と相当因果関係のある損害として被告らに負担させるべきものと認めるのが相当である。
4 謝罪広告の必要性について判断する。
 原告は、謝罪広告の必要性について前記第三の五1(三)のとおり主張する。
 被告らが原告の氏名表示権を侵害したことは前示のとおりであるが、前記二1認定の事実によると、本件記事において本件写真がジャック・マイヨールを著作者とするような構成になっているとまでは認められず、本件雑誌の一七二頁において、本件写真が「Dolphin Blue」から使用された旨が記載されており、さらに、「CD−ROM Fan」一一月号に前記認定のとおり「お詫びと訂正」の記事が掲載されたことからすると、著作者であることを確保するために謝罪広告を掲載することが必要であるとまでは認められない。
 また、被告らが本件写真を本件雑誌に掲載したことにより原告の名誉又は声望が侵害されたことを認めるに足りる証拠はないから、これを回復するために謝罪広告を掲載する必要があるとも認められない。
六 結論
 以上のとおりであって、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、一七八万円及びこれに対する不法行為の後である平成八年六月二七日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

裁判長裁判官 森義之
裁判官 榎戸道也
裁判官 中平健

別紙
 謝罪広告目録〈略〉
 謝罪広告掲載方法目録一・二〈略〉
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