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 最新N.Y.美術館情報
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 N.Y.の美術館では、市内に分館を置くというのが、最近のひとつの流行になっているようだ。有名なグッゲンハイム美術館も、SOHOに分館をおいている。しかし、残念ながら規模が小さいので、行ってみてがっかりする人も少なくないという。ただ、意欲的な芸術家のための実験的作品を発表する場と割り切るならば、行って見る価値がある。なお、ここのショップで売っている分厚い写真集の一つは、うわさには聞いていたが、かなりハードコア。「後学のため」に買って帰ろうかと思ったが、税関で「学術研究目的」との弁解を信じさせる自信がないのでやめた。
 分館のはしりといえば、メトロポリタン美術館の分館である。ちょっと遠いので、地下鉄で行くのが便利で安価。最近は、地下鉄も清潔だ。
 ここクロイスターは、廃屋となった修道院の建物を寄せ集めて建てたもの。そのため、展示物は宗教的色彩が強い。地下にある「ホービングの十字架」に感動したという人は多い。遠くまで行く価値あり。同じように、気づかなかったという声も多いのは残念。控えめな演出というのも良し悪しだ。
 こういう美術館の広範囲で多彩な作品と比べると個人のコレクションを一堂に介した美術館は、一つの嗜好に基づく統一性が感じられ、ゆったりとした気分で見ることが出来る。もちろん、コレクターの嗜好と鑑賞者の趣味とが合致すれば、だが。
 その点で、ホイットニー美術館と並んでぜひお勧めしたいのが、フリックコレクション。メトロポリタン美術館から5分ほどのところ(もちろんセントラルパークの東)。フリックという鉄鋼王(私は鉄鋼王というと、カーネギーしか思いつかなかったが。)のコレクションである。
 その中の圧巻はベリーニの「砂漠の聖フランチェスコ」。予備知識無しにその絵の飾られた部屋に入って、思わず息を飲む。あわてて、ガイドの解説機(入り口で電話機のようなものを無料で貸してくれる)を耳にあてる。「アメリカが所有するルネッサンス絵画の最高傑作」という評価は、極めて控えめなものである。霊的啓示を感じさせる、といっても過言ではない。但し、同美術館で売っている図録がこの感動を万分の一も伝えていないのは残念。
 他に、ゴヤの「鍛冶屋」も素晴らしい。「身近に置いて心地よい絵」というフリック氏の収集の基準からして例外的コレクションではないかとの解説があるが、同氏が鉄鋼産業で身を起こしたことを考えれば、この絵もまたある種の心地よさの源泉であったに違いない。
 いわゆる心地よさだけでいえば、フラゴナールの有名な連作がある。
 フラゴナールは宮廷画家として貴族青年たちの甘美な恋を描きつつ、フランス革命によってその地位を失い窮乏のうちに亡くなっている。
 この4枚の作品の少し前、1768年にフラゴナールによって書かれた「The Swing」もまた、広い意味での連作の一つといえよう。この作品の方は、フリック氏のコレクションには含まれていないが、トニー賞受賞ミュージカルの「Contact」の3つのテーマの第1話の土台になっている。もっとも、このミュージカルには、封建制への手放しの賛美の図を借用しつつも、市民社会に生きるものに伝わるピリッとした落ちがついている。フリックは、その処世において、この甘美さを他山の石としていたのかもしれない。
 この他、近代美術館(MOMA)の改修工事は、かなり大掛かりだ。日本人建築家の手で、現在の建物の周辺はかなりの変貌を遂げるであろう。
 書いた後で、N.Y.の World Trade Center ビルへのテロ攻撃のニュースが入った。N.Yの美術館は、せめてもの行動として、当面の間、無料公開に踏み切った。この対応に拍手。メトロポリタン美術館は有料にしつつ、開館時間を延長している。N.Yからの飛行機の便がとれない人が、夜遅くまで、美術館めぐりをしているという。
 軍事力によるリベンジだけが、テロに対するリアクションではないことを、大統領閣下に是非理解してほしいものだ。
 
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