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【事件名】ツイート引用事件(2)
【年月日】令和4年3月29日
 知財高裁 令和3年(ネ)第10060号 損害賠償等請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和2年(ワ)第19351号)
 (口頭弁論終結日 令和3年11月24日)

判決
控訴人 X
同訴訟代理人弁護士 小沢一仁
被控訴人 Y(以下「被控訴人Y」という。)
被控訴人株式会社 現代書館(以下「被控訴人会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 神原元
同 太田啓子


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における追加請求をいずれも棄却する。
3 当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1控訴人の求めた裁判
1 控訴の趣旨
 原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して220万3300円及びこれに対する令和元年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)被控訴人らは、別紙書籍目録記載の書籍を複製し、譲渡してはならない。
(3)被控訴人らは、別紙書籍目録記載の書籍を廃棄せよ。
2 控訴人の当審における追加請求
 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して110万円及びこれに対する令和元年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要(略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。)
1 事案の要旨
 本件は、控訴人が、ソーシャル・ネットワーキング・サービスである「Twitter」(以下「ツイッター」という。)の原判決別紙「スレッド上の投稿一覧」記載のスレッド(以下「本件スレッド」という。)に控訴人が投稿したツイート(原判決39頁)に係る原判決別紙「原告ツイート」の投稿内容欄記載の文字情報(以下「本件ツイート」という。)が言語の著作物であり、被控訴人Yが、その全文を複製した上で、これを批判する文章を執筆し、被控訴人会社が別紙書籍目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)に別紙対象著作物のとおりの態様で本件ツイートを掲載して出版した行為が、控訴人の著作権(複製権及び譲渡権)、著作者人格権(同一性保持権)及び名誉感情の侵害に当たる旨主張し、被控訴人らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償として、220万3300円及びこれに対する令和元年11月12日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定(以下「改正前民法所定」という。)の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、著作権法112条1項及び2項に基づき、本件書籍の複製等の差止め及び廃棄を求めた事案である。
 原審は、被控訴人らが本件ツイートを本件書籍に掲載した行為は、同法32条1項の引用に当たり、控訴人の著作権を侵害するものではなく、また、被控訴人らの上記行為によって、控訴人の同一性保持権を侵害したと認めることはできないし、控訴人の名誉感情を侵害する不法行為の成立も認められない旨判断し、控訴人の上記各請求をいずれも棄却した。
 控訴人は、原判決を不服(ただし、損害賠償請求の遅延損害金の起算日は令和元年11月20日)として、本件控訴を提起した。
 その後、控訴人は、当審において、被控訴人らの上記行為が、控訴人の名誉権の侵害及び名誉又は声望を害する方法による本件ツイートの利用による著作者人格権のみなし侵害(著作権法113条11項(令和2年法律第48号による改正前は同条7項))に当たる旨主張し、被控訴人らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償として110万円及びこれに対する同日(不法行為の日である本件書籍の出版日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める請求を追加した。
2 前提事実
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁21行目及び26行目の各「行っている。」をいずれも「行っている者である。」と改める。
(2)原判決3頁1行目の「出版社」を「株式会社」と改める。
(3)原判決4頁13行目の「「A…」」の次に「を使用する者」を、同頁19行目の「「B…」」の次に「を使用する者」を加え、同頁20行目の「原告(アカウント名「C…」)」を「控訴人(アカウント名「D」、ユーザー名「@●(省略)●」)」と改め、同頁21行目の「E…」の次に「を使用する者」を加える。
(4)原判決4頁25行目の「#kutooの」を「#kutooの」(ママ)と改める。
(5)原判決6頁8行目の「(以下、両頁の記載全体を「本件批評」という。)」を「(以下「本件見開き」という。)」と、同頁9行目から10行目にかけての「原告のアカウント名、ユーザー名」を「アカウント名「F」、ユーザー名「@●(省略)●」」と改め、同頁14行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「(5)本件見開きの左頁における本件ツイートの掲載は、著作権法上の複製に該当する。」
3 争点
(1)本件見開きにおける本件ツイートの掲載が著作権法32条1項の引用に当たるか否か(争点1)
(2)同一性保持権侵害の成否(争点2)
(3)名誉感情侵害による不法行為の成否(争点3)
(4)名誉権侵害による不法行為の成否(争点4)(当審における追加請求関係)
(5)著作者人格権のみなし侵害(著作権法113条11項)の成否(争点5)
(当審における追加請求関係)
(6)控訴人の損害額(争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件見開きにおける本件ツイートの掲載が著作権法32条1項の引用に当たるか否か)について
 以下のとおり原判決を訂正し、当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決の訂正
ア 原判決6頁25行目の「本件批評における本件ツイートの複製」を「本件見開きにおける本件ツイートの掲載」と、同頁末行の「又は翻案権」を「及び譲渡権」と改める。
イ 原判決7頁7行目、8頁19行目、23行目、10頁19行目、11頁19行目、21行目、22行目、12頁15行目、13頁7行目及び14頁6行目の各「本件批評」をいずれも「本件見開き」と、13頁8行目の「同批評」を「本件見開き」と改める。
ウ 原判決9頁5行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「(4)控訴人は、本件ツイートに対する被控訴人Yのツイートに対し、控訴人が反論したツイートが掲載されていないことを問題とするが、本件で問題となるのは、本件ツイートの掲載が著作権法32条1項の引用に当たるか否かであって、上記の反論の引用の適否ではない。
 また、控訴人は、本件書籍において、本件ツイートが被控訴人Yにリプライしたように読めると主張するが、本件見開きにおいて、本件ツイートの上部に被控訴人Yのツイートは掲載されていないし、本件ツイートの返信先として被控訴人Yのアカウントの表示もないため、デザイン上、本件ツイートが被控訴人Yのツイートに宛ててリプライされたものであると誤信されることはない。そもそも、ツイッターに投稿されたツイートは、世界に向けて発信され、世界中どこにいても誰でも閲覧できるものであり、本件ツイートは「#kutooの賛同者は」との表現(本件見開きの左頁上段参照)で被控訴人Yを含む本件運動の賛同者全てに向けて発信されているものである。」
エ 原判決11頁10行目の各「本書」をいずれも「本件書籍」と、同頁24行目の「一連のスレッドであることを示す縦線が引かれており、」を「特定のツイートに対するリプライであることを示す「縦棒」が接続され、本件ツイートの返信先のアカウントのユーザー名の表示(「返信先:@●(省略)●さん」との表示。以下、返信先のアカウントのユーザー名の表示を「返信先アカウント表示」という。)は削除された上、実際には本件ツイートの引用ツイートである被控訴人Yのツイートが控訴人に対するリプライの形式に変更され、」と改める。
オ 原判決12頁13行目の「引用リツイート」を「引用ツイート」と、同頁16行目の「無視されている。」を「掲載されていない。」と改める。
カ 原判決13頁17行目の「本件ツイートは、」の次に「前記ア(ア)aのとおり、」を加える。
(2)当審における被控訴人らの補充主張
ア 出版実務においては、著作権法32条1項の引用の要件として@必要性、A明瞭区別性、B主従関係の明示、C出典の明示で判断するのが慣行として定着している。本件書籍における本件ツイートの引用は上記の各要件を満たしている。
 また、本件ツイートを掲載するに当たって、被控訴人らが主張するように、返信先アカウント表示が掲載されていなかったり、被控訴人Yの引用ツイートをリプライの形式のような体裁で掲載したという事情が認められるとしても、本件運動を批判・揶揄する本件ツイートの意味内容が変わるわけではなく、本件ツイートは元のままの文言で本件書籍に引用されているから、社会通念上相当なものである。
 以上によれば、本件書籍における本件ツイートの引用は、公正な慣行に合致しているといえる。
イ 控訴人は、ツイッターに投稿されたツイートを書籍に引用するときは、実際のツイッター上の表示をそのまま掲載することが求められる旨主張するが、控訴人が指摘する甲59〜62のみではそのようなことが求められているということはできず、かえってツイッターの画面上横書きで表示されるツイートを縦書きで掲載している書籍も存在している。
 なお、ツイッター社が作成したブランドガイドライン(甲52)は、あくまで「マーケティング目的でツイートを表示する場合」に適用されるものであり、ツイート本文を批評目的で書籍に引用する場合はその射程外である。
(3)当審における控訴人の補充主張
ア ツイッターにおいては、規約等により、原文どおり引用することが求められており、ツイートの形式の変更も明示的に禁止されている。また、他人のツイートを許諾なく印刷物に掲載するときは、スクリーンショットを掲載することが通例とされている(甲59〜62)。その理由は、1ツイートは上限が140字と短文のため、そのまま掲載することが容易であり、短文ゆえにその意味を解釈するのに形式面の表示も重要な意味を持つからである。
 したがって、ツイートを書籍に引用するときは、実際のツイッター上の表示をそのまま掲載すること(スクリーンショット等を使用しない場合には、注釈等を用いて、これに準じる程度の正確な表示をすること)が求められており、その一内容として、リプライや引用ツイート等によるやり取りの一部を抜粋して掲載するときは、実際のツイッター上の表示をそのまま掲載することが求められるというべきであって、これを変更することが許容される公正な慣行は認められない。
 本件書籍は、本件ツイートを掲載するに当たって、本件見開きの左頁のとおり、本件ツイートの返信先アカウント表示を削除し、特定のツイートに対するリプライであることを示す「縦棒」で接続し、本件ツイートの引用ツイートである被控訴人Yのツイートを控訴人に対するリプライの形式に変更するなどしており、その結果、控訴人が被控訴人Yに対する直接の返信として本件ツイートをしたと受け取られるものとなっており、本件ツイートの意味を誤解させるものであるから、本件ツイートの上記掲載の仕方は、社会通念上相当なものとはいえない。
 したがって、本件書籍における本件ツイートの引用は、公正な慣行に合致するものとはいえない。
イ 本件書籍の58〜59頁の記載によれば、本件書籍においてツイートを引用する目的は、単なる批評を超えた本件活動に対する誹謗中傷や、被控訴人Yの生命身体の安全を脅かすような悪質なツイートを批評、記録する点にあると認められるところ、本件ツイートは、そのようなものではなく、引用の目的に含まれないことは明らかである。
2 争点2(同一性保持権侵害の成否)について
 原判決15頁17行目及び22行目の各「本件批評」をいずれも「本件見開き」と改め、以下のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)当審における控訴人の補充主張
 本件書籍においては、本件ツイートの返信先アカウント表示が削除され、特定のツイートに対するリプライであることを示す「縦棒」が接続され、被控訴人Yによる本件ツイートの引用ツイートが控訴人に対するリプライの形式に変更されるなどして、実際にはEに対するリプライであった本件ツイートが、被控訴人Yに対するリプライであるかのように掲載されたことにより、本件ツイートの意味に変更が加えられている。
 また、本件ツイートの「#kutoo」はハッシュタグ化していない(ハッシュタグを示す青文字になっていない)ため、拡散の意味を持っていないところ、本件書籍では、ハッシュタグ化していないことについて注記等せずに漫然と「#KuToo」との文字列で掲載しており、本件ツイートに拡散の意味を付加する変更を加えている。
 これらの変更は、著作権法20条1項の「変更、切除その他の改変」に当たり、控訴人の本件ツイートに係る同一性保持権を侵害する。
(2)当審における被控訴人らの補充主張
 控訴人の著作物は、本件ツイートに限られるところ、本件ツイートの返信先アカウント表示は、ツイッターのサイトの画面のデザインであって、控訴人の著作物ではないから、本件ツイートの返信先アカウント表示を本件書籍に転載しなかったとしても、本件ツイートの一部を削除、変更したことにはならない。そして、本件ツイートは、「#kutoo賛同者は」という表現を含むものであり、それ自体から、その批判の対象が本件運動の賛同者全員であることが読み取れるものであって、返信先アカウント表示の有無により本件ツイートの意味内容が変わることはない。
 また、本件書籍上、本件ツイートはハッシュタグ化しておらず、そのようにも見えない。
3 争点3(名誉感情侵害による不法行為の成否)について
 原判決15頁末行、16頁2行目、3行目、17頁2行目及び19行目の各「本件批評」をいずれも「本件見開き」と改めるほか、原判決の「事実及び理由」の第3の3記載のとおりであるから、これを引用する。
4 争点4(名誉権侵害による不法行為の成否)について(当審における追加請求関係)
(控訴人の主張)
(1)ツイッターにおいては、一つのアカウントにユーザーのツイッター上における活動が全て紐付いているため、ユーザーはツイッター上で一つの人格を形成している。このような場における活動が長期かつ継続的である場合には、実社会上の活動と同視できるから、匿名のアカウントを用いてツイッター上で活動する個人としての社会的評価は、戸籍上の氏名を使って社会活動を行う個人としての社会的評価と同様に重要であり、法的保護に値する名誉に当たるというべきである。
 控訴人は、平成24年8月に同人のツイッターのアカウント(ユーザー名「@●(省略)●」)を開設し、令和2年6月まで2万件のツイートを長期かつ継続的に行ってきたから、匿名のアカウントを用いてツイッター上で活動する個人としての控訴人の社会的評価は、法的保護に値するものといえる。
(2)本件見開きの記載を一般読者の通常の注意と読み方に従って解釈すると、「「ユーザー名「@●(省略)●」を称するアカウント」(以下「本件アカウント」という場合がある。)は、「女性の靴問題に関する活動#KuTooの提唱者である被控訴人Yに対し、同問題の逆の例として男性が海水パンツで職場に出勤する事例を掲げ、これを容認するのか質問した」との事実を摘示するものである。
 上記の摘示事実によれば、控訴人は、女性の靴問題に対し、男性が海水パンツで職場に出勤するという的外れな例を持ち出すような、通常人の感覚とは異なる感覚を持つおかしな人物であるとの印象が持たれる。また、女性である被控訴人Yに対し、男性が海水パンツ姿で職場に出勤することを容認するのかと直接問うことは、性的な嫌がらせをしているとの印象も持たれる。
 したがって、上記の摘示事実は、控訴人の社会的評価を低下させるものである。
 そして、筆者である被控訴人Yと出版社である被控訴人会社は、共同して本件書籍を出版・販売することによって、控訴人の名誉権を侵害し、被控訴人らには故意又は過失が認められるから、共同不法行為が成立する。
(被控訴人らの主張)
(1)ユーザーが長期的かつ継続的に活動しているアカウントであっても、同定可能性については、権利を侵害されたと主張する者が、一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準として、当該表現が同人に関するものであると同定できることを主張立証しなければならないと解される。しかし、本件書籍が発行された令和元年11月20日当時、一般閲覧者から見て、ユーザー名「@●(省略)●」を称するアカウント(本件アカウント)の投稿者が控訴人であると同定できる事情はなかった。
(2)本件見開きの記載は、本件ツイートの存在を事実として摘示した上で、本件ツイートが「本件運動の賛同者の主張によれば、男性が海水パンツで出勤することを容認するという非常識な結論になる」という意味を含意するものであることを受けて、これに反論したり、本件ツイートを論評したりするものであり、控訴人が主張するような事実を摘示するものではない。
 また、控訴人が本件運動を批判する文脈で「靴問題の逆の例として男性が海水パンツで職場に出勤する事例を掲げた」としても、そのこと自体で控訴人の社会的評価が低下することはない。
(3)本件ツイートは、前記(2)のとおりの意味を含意するものであり、本件運動に対する誤解や批判等を含むものであったため、被控訴人らは、本件運動の真意を伝える目的で、本件書籍で本件ツイートを引用して論評したのであり、これが公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったことは明らかである。また、上記の論評の前提事実は全て真実である。そして、本件見開きの記載中には、控訴人を「へんてこりんな人」と評する部分があるが、本件ツイートが本件運動の趣旨を正しく理解していない点を捉えて議論がかみ合わないと評する文脈におけるものであることからすれば、意見ないし論評としての域を逸脱したものではない。
 したがって、仮に本件見開きの記載が、控訴人の社会的評価を低下させるものであると判断されるとしても、違法性が阻却されるため、不法行為は成立しない。
5 争点5(著作者人格権のみなし侵害(著作権法113条11項)の成否)について(当審における追加請求関係)
(控訴人の主張)
 原判決別紙「スレッド上の投稿一覧」及び同別紙「被告Yの引用ツイート」のとおり、本件ツイートは、控訴人とEとのやり取りの中でされたものであり、その後、被控訴人Yが本件ツイートを引用ツイートして割り込んできたというのが、本件スレッドにおける実際の経過である。しかし、本件見開きの左頁に本件ツイートを掲載するに当たって、本件ツイートの返信先アカウント表示を削除し、特定のツイートに対するリプライであることを示す「縦棒」で接続し、引用ツイートであった被控訴人Yのツイートを控訴人に対するリプライの形式に変更することによって、控訴人が被控訴人Yに対し直接返信したような形で掲載されている。さらに、本件見開きの右頁では、本件ツイートについて、被控訴人Yに対し、女性の靴問題の逆の例として、男性が海水パンツで職場に出勤することを掲げたとの事実に反する説明がされており、この説明によると、女性の靴問題について話している被控訴人Yに対し、本件アカウントを使用する者(控訴人)が、的外れな例を唐突に投げかけたような、通常人の感覚とは異なる感覚を持つおかしな人物であるとの印象が持たれ、また、女性である被控訴人Yに対し、男性が海水パンツ姿で職場に出勤することを容認するのかと直接問うことは、性的な嫌がらせをしているとの印象も持たれるから、控訴人の本件アカウントに係る社会的評価を低下させるものである。
 したがって、被控訴人Yが本件見開きにおいて本件ツイートを実際のやり取りとは異なる形で掲載し、上記説明をした行為は、控訴人の名誉又は声望を害する方法により控訴人の著作物である本件ツイートを利用したものといえるから、控訴人の著作者人格権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条11項)。
(被控訴人らの主張)
 名誉声望として保護されるのは、著作権者が社会から受ける客観的評価であるから、一般読者・閲覧者から見て、表現の対象となっている者と名誉声望侵害を訴える者との同定可能性が立証されなければならない。しかし、本件書籍が発行された令和元年11月20日当時、一般閲覧者から見て、本件アカウントの投稿者が控訴人であると同定できる事情はなかった。
 また、本件書籍には、控訴人が被控訴人Yに対して質問したとか、リプライしたという記載はどこにもなく、本件書籍のデザインや他の記載によってもそのように誤解される余地もないことからすれば、本件書籍から本件ツイートが「靴問題の逆の例として男性が海水パンツで職場に出勤する事例を掲げた」との事実を読み取ることはできない。
6 争点6(控訴人の損害額)について
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第3の4記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決18頁13行目の「計200万円」を「計300万円」と改め、同頁23行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「ウ 名誉権侵害50万円
   被控訴人らの名誉権侵害行為により控訴人が受けた精神的苦痛を金銭的に評価すると、その額は50万円を下らない。
エ 著作者人格権のみなし侵害50万円
  被控訴人らの著作者人格権のみなし侵害行為により控訴人が受けた精神的苦痛を金銭的に評価すると、その額は50万円を下らない。」
(2)原判決18頁24行目の「20万0300円」を「30万0300円」と改め、同頁末行末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「(4)よって、控訴人は、被控訴人らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償として、330万0300円及びこれに対する令和元年11月20日(不法行為の日である本件書籍出版の日)から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。」
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件見開きにおける本件ツイートの掲載が著作権法32条1項の引用に当たるか否か)について
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第4の1記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決20頁4行目の「第3小法廷」を「第三小法廷」と、同頁6行目の「法律第29号」を「法律第39号」と、同頁10行目の「見開き」を「本件見開き」と改める。
(2)原判決20頁19行目の「被告Yの」から20行目末尾までを「被控訴人Yのツイートや批評が主であり、本件ツイートが従であると認められる。」と、同頁21行目の「本件批評」を「本件見開き」と改め、同頁21行目から22行目にかけての「著作権法32条1項の」を削る。
(3)原判決21頁8行目、17行目、23行目、22頁18行目、23頁19行目、24頁2行目、3行目から4行目にかけて、5行目、25頁11行目、15行目、16行目、20行目及び末行の各「本件批評」をいずれも「本件見開き」と改める。
(4)原判決21頁9行目の「その全文を掲載されている」を「本件ツイートの全文を掲載する」と改め、同頁11行目の「できる。」を「できるものである。」と改める。
(5)原判決21頁15行目の「したがって」から16行目末尾までを次のとおり改める。
 「他方で、本件見開きの左頁の本件ツイートが掲載された部分の横には、人の図柄のある丸いアイコンがあり、その上方及び下方には「縦棒」(縦線)が引かれており、下方の「縦棒」の下には被控訴人Yのアイコンと、被控訴人Yのツイート(実際には、被控訴人Yが本件ツイートを引用ツイートしたものである。)が掲載されている。このような掲載の仕方は、読者によっては、上方及び下方の「縦棒」が特定のツイートに対するリプライであることを示す「縦棒」を模したものとして本件ツイートが被控訴人Yとのツイッター上の直接のやり取りの中でされたものであると受け取られる可能性があることも否定できないしかしながら、上方の「縦棒」の上には、ツイートの掲載はなく、本件ツイートの返信先アカウント表示も掲載されていないことからすれば、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、本件見開きの記載から、一般の読者によって本件ツイートが被控訴人Yのツイートに対するリプライとしてされたものであると受け取られるものであるとまではいえない。そして、実際には、本件ツイートに対する被控訴人Yのツイートは引用ツイートとしてされたものであるが、本件ツイートに対してされたものであることには変わりがなく、本件ツイートと対比をするためにこれと上下に並べ、その間に特定のツイートに対するリプライであることを示す「縦棒」を模した「縦棒」が引かれたとしても、そのことによって、本件ツイートの意味内容が異なるものになるとはいえないから、上記掲載の仕方は、社会通念に照らし、相当な範囲にとどまるものであるというべきである。
 以上によれば、本件見開きにおける本件ツイートの掲載の仕方は、公正な慣行に合致するものであるということができる。」
(6)原判決22頁1行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「エ 控訴人は、ツイッターにおいては、規約等により、原文どおり引用することが求められており、ツイートの形式の変更も明示的に禁止されていること、他人のツイートを許諾なく印刷物に掲載する場合にはスクリーンショットを掲載することが通例とされていること(甲59〜62)からすれば、ツイートを書籍に引用するときは、実際のツイッター上の表示をそのまま掲載することが求められる旨主張する。
 しかし、控訴人が指摘するツイッター社のブランドガイドライン(甲52)は、「マーケティング目的でツイートを表示する場合」について「ツイートの内容は原文どおりに引用し、変更、編集、改ざんをしないでください」とするものであって、言語の著作物であるツイートされた文字情報を引用する場合について定めたものではなく、また、甲52、53は、ツイッターにおけるツイート、引用ツイート等に関して定めるものにすぎない。そして、ツイッターの画面をスクリーンショットで掲載した甲59〜62等の書籍が存在するとしても、他方で、ツイートの文字情報のみを掲載した書籍も複数存在すること(乙36〜38)に照らすと、ツイートを書籍に引用する場合には実際のツイッター上の表示をそのまま掲載することが求められるものであるとまではいえない。
 したがって、控訴人の上記主張は、理由がない。」
(7)原判決22頁12行目及び21行目から22行目にかけての「本件批評」をいずれも「本件見開きの記載」と、同頁15行目の「ツイッター」を「ツイート」と改め、同頁17行目末尾に「これに対し、本件書籍においてツイートを引用する目的は、単なる批評を超えた本件活動に対する誹謗中傷や、被控訴人Yの生命身体の安全を脅かすような悪質なツイートを批評、記録する点にあるとの控訴人の主張は、採用することができない。」を加える。
(8)原判決23頁5行目の「Eの主張」から6行目の「認められる。」までを「Eの主張に対し、控訴人が批判、反論するツイートを繰り返した結果行われたものであると認められる。」と改め、同頁8行目の「記載は、」の次に「本件ツイートがされた上記経緯及び主語が「#kutooの賛同者は」とされていることからすれば、」を加える。
(9)原判決24頁3行目の「容易であり、」を「可能であって、他方、」と改める。
(10)原判決25頁18行目末尾に次のとおり加える。
 「また、本件見開きの左頁の本件ツイートが掲載された部分の横には、人の図柄のある丸いアイコンがあり、その上方には「縦棒」が引かれているが、「縦棒」の上には、ツイートの掲載はなく、本件ツイートの返信先アカウント表示もないことからすれば、本件見開きにおいて、本件ツイートが被控訴人Yのツイートに対するリプライとして掲載されているということもできない。」
(11)原判決25頁末行の「本件批評中に」を「本件見開きにおいて」と改める。
(12)原判決26頁2行目の「又は翻案権」を「及び譲渡権」と改める。
2 争点2(同一性保持権侵害の成否)について
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第4の2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決26頁4行目の冒頭に「(1)」を加える。
(2)原判決26頁8行目冒頭から10行目の「ない上、」までを次のとおり改める。
 「しかし、本件ツイート中の「#kutooの賛同者」との表記は、「本件活動(「#KuToo」と称する活動)に賛同する者」を意味するものであり、これを「#KuTooの賛同者」と表記したとしても、その意味するところが異なることはないし、表記上の差異も「k」と「t」の各文字が大文字となっているにすぎず、本件ツイートのそのほかの部分は本件見開きにおいてそのまま掲載されていることからすれば、本件見開きにおいて、本件ツイートは実質的に変更がされていないとみるべきである。また、」
(3)原判決26頁12行目の「被告Y」を「被控訴人ら」と改める。
(4)原判決26頁13行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
 「(2)控訴人は、@本件見開きにおいては、本件ツイートの返信先アカウント表示が削除され、被控訴人Yによる本件ツイートの引用ツイートが控訴人に対するリプライの形式に変更されるなどして、本件ツイートが、被控訴人Yに対するリプライであるかのように掲載されたことにより、本件ツイートの意味に変更が加えられている、A本件ツイートの「#kutoo」はハッシュタグ化していない(ハッシュタグを示す青文字になっていない)ため、拡散の意味を持っていないところ、本件見開きでは、ハッシュタグ化していないことについて注記等せずに漫然と「#KuToo」との文字列で掲載しており、本件ツイートに拡散の意味を付加する変更を加えているとして、これらの変更が著作権法20条1項の「変更、切除その他の改変」に当たる旨主張する。
 しかし、@については、前記1(5)イのとおり、本件見開きにおいて、本件ツイートが被控訴人Yのツイートに対するリプライとして掲載されているということはできない。
 Aについては、本件見開きにおいて、「#KuToo」の文字列は他の文字と同一の黒色で記載されており、ハッシュタグ化しているように記載されていないから、本件ツイートに拡散の意味を付加する変更が加えられたものとは認められない。
 したがって、控訴人の上記主張は、理由がない。」
3 争点3(名誉感情侵害による不法行為の成否)について
 以下のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第4の3記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決26頁23行目の「人の」を「同人の」と、同頁末行、27頁3行目及び7行目の各「本件批評」をいずれも「本件見開き」と改める。
(2)原判決27頁12行目の「表現」を「記載」と改め、同頁14行目の「しかし、」から15行目の「ところ、」までを「しかし、上記記載は、控訴人の人格的価値に関し、具体的事実を摘示してその社会的評価を低下させるものではなく、」と改める。
4 争点4(名誉権侵害による不法行為の成否)について(当審における追加請求関係)
(1)本件見開きの左頁には、アカウント名「F」及びユーザー名「@●(省略)●」とともに本件ツイートが掲載され、その下に被控訴人Yの顔写真のアイコン及び名前とともに「そんな話はしてないですね。もしも#KuTooが「女性に職場に水着で出勤する権利を!」ならば容認するかもしれないですが、#KuTooは「男性の履いている革靴も選択肢にいれて」なので。」との文章が掲載されている。また、本件見開きの右頁には、「逆が全然逆じゃない系」との表題の下、「なんで女性の靴問題の逆が水着になるんだょ笑。全然よろしくないわ!「逆に」の使い方おかしいよ!#KuTooを男性が海パンで出勤する話に繋げるこの人の思考回路、どうなっているんだろう。この人が海パンで出勤したい願望あるのかな?海の家とかプールで働くことをおすすめしたいです……。そこで女性のみ水着での勤務が許されていて、男性はサウナスーツです、という状況だったら「俺たちにも水着を着る権利を!」ってなるんじゃないかな。逆に(ってこういうふうに使うんだよね?)、女性が「私たちにもサウナスーツを着る権利を!」とか。#KuTooっていうのはそういう感じの運動です。…」との記載がある。これらの本件見開きの記載は、ユーザー名「@●(省略)●」を称するアカウント(本件アカウント)を使用する者が、女性の靴問題に関する本件活動について、同問題の逆の例として男性が海水パンツで職場に出勤する事例を挙げ、本件活動の賛同者がこれを容認するのかという質問をしたという事実を摘示するものと認められる。
 そして、上記質問が誰と誰との間のいかなるやり取りで発せられたものであるのかについては本件見開きの記載から明らかでないことからすれば、上記事実は、本件アカウントを使用する者が、本件活動に対し、上記事例を挙げて批判的な質問をしたというにとどまるものであり、一般の読者からみると、その質問の当否を判定する情報が必ずしも十分に提供されているとはいえないから、上記事実が摘示されたことによって本件アカウントを使用する者の社会から受ける客観的評価が低下すると認めることはできない。
 そうすると、本件見開きの記載によって控訴人の社会的評価が低下するものとは認められないから、控訴人の上記主張は、理由がない。
(2)控訴人は、本件見開きの記載は、ユーザー名「@●(省略)●」を称するアカウントが、女性の靴問題に関する活動#KuTooの提唱者である被控訴人Yに対し、同問題の逆の例として男性が海水パンツで職場に出勤する事例を掲げ、これを容認するのか質問したとの事実を摘示するものであると主張するが、前記1(3)イのとおり、本件見開きの記載から、一般の読者によって本件ツイートが被控訴人Yのツイートに対するリプライとしてされたものであると受け取られるものであるとはいえないから、控訴人主張の上記事実を摘示するものとは認められない。
(3)以上によれば、本件見開きの記載によって控訴人の社会的評価が低下し、控訴人の名誉権が侵害された旨の控訴人の主張は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。
5 争点5(著作者人格権のみなし侵害(著作権法113条11項)の成否)について(当審における追加請求関係)
 控訴人は、被控訴人Yが、本件見開きの左頁で本件ツイートを控訴人が被控訴人Yに対し直接返信したような形で掲載し、右頁で事実に反する説明をしたことは、控訴人の名誉又は声望を害する方法により控訴人の著作物である本件ツイートを利用したものといえるから、著作権法113条11項により、控訴人の著作者人格権を侵害する行為とみなされる旨主張する。
 しかしながら、本件見開きの記載から、一般の読者によって本件ツイートが被控訴人Yのツイートに対するリプライとしてされたものであると受け取られるものであるとはいえないことは、前記1(3)イのとおりである。
 そして、同項の「名誉又は声望」は、社会的な名誉又は声望であると解されるところ、本件見開きの記載が控訴人の社会的評価を低下させるものとは認められないことは、前記4のとおりである。
 したがって、被控訴人Yによる本件見開きにおける本件ツイートの掲載は、控訴人の名誉又は声望を害する方法により本件ツイートを利用したものと認められないから、控訴人の上記主張は、理由がない。
第5 結論
 以上によれば、控訴人の著作権侵害、同一性保持権侵害及び名誉感情侵害に基づく請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、また、控訴人の当審における追加請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 大鷹一郎
 裁判官 小林康彦
 裁判官 小川卓逸


(別紙)書籍目録
 書籍名:#KuToo(クートゥー)靴から考える本気のフェミニズム
 発行年月日:令和元年11月20日
 著者:Y
 発行者:G
 発行所:株式会社現代書館

(別紙)対象著作物
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