判例全文 line
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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件B
【年月日】令和元年12月24日
 東京地裁 平成29年(ワ)第33550号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年10月17日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 齋藤理央
被告 ツイッター・インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁護士 平津慎副
同 中島徹
同 大澤大
同訴訟復代理人弁護士 中所昌司


主文
1 被告は、原告に対し、被告が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において、
(1)別紙投稿情報目録第1の1記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータのモニター画面に、同目録第1の1「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1のアカウントの利用者
(2)別紙投稿情報目録第2記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータのモニター画面に、同目録第2「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2のアカウントの利用者
(3)別紙投稿情報目録第3記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータのモニター画面に、同目録第3「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した別紙開示請求アカウント目録記載アカウント3のアカウントの利用者
(4)別紙投稿情報目録第4の1記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータのモニター画面に、同目録第4の1「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した別紙開示請求アカウント目録記載アカウント4のアカウントの利用者
(5)別紙投稿情報目録第5の1記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータのモニター画面に、同目録第5の1「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した別紙開示請求アカウント目録記載アカウント5のアカウントの利用者
(6)別紙投稿情報目録第6の1記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータのモニター画面に、同目録第6の1「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した別紙開示請求アカウント目録記載アカウント6のアカウントの利用者
(7)別紙投稿情報目録第7記載のURLにアクセスしたクライアントコンピュータのモニター画面に、同目録第7「表示される画像」記載の画像が表示されるように設定した別紙開示請求アカウント目録記載アカウント7のアカウントの利用者の別紙発信者情報目録第1の1(1)記載の情報を開示せよ。
2 被告は、原告に対し、被告が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において、
(1)別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1について、別紙投稿情報目録第1の2@「投稿ツイート」記載の投稿(投稿に係るテキストデータの送信)の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレス、並びに同IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から被告の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻
(2)別紙開請求アカウント目録記載アカウント6について、別紙投稿情報目録第6の2@「投稿ツイート」記載の投稿(投稿に係るテキストデータの送信)の直前に同アカウントにログインした際のIPアドレス、並びに同IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から被告の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻を開示せよ。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを6分し、その1を被告の、その余の原告の負担とする。
5 被告のために、この判決に対する控訴の付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各発信者情報を開示せよ。
2 被告は、原告に対し、78万6000円及びこれに対する平成27年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、@被告が運営するインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」(以下「ツイッター」という。)において、原告の著作物である別紙写真目録記載の各写真(以下、同目録1記載の写真を「本件写真1」、同目録2記載の写真を「本件写真2」、同目録3記載の写真を「本件写真3」という。)が、(a)氏名不詳者により無断でアカウントのプロフィール画像又は投稿の一部として用いられ、その後当該アカウントに係るウェブページに表示されたことにより著作権(自動公衆送信権)が侵害され、(b)氏名不詳者による投稿に伴って当該アカウントに係るウェブページに丸くトリミングされて表示されたことにより著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたと主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求めるとともに、A被告が無断でアカウントのプロフィール画像として用いられた本件写真1につき十分な送信防止措置を講ずることなく再度閲覧可能な状態に置いたことは著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害すると主張して、被告に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき78万6000円及びこれに対する不法行為の日である平成27年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(以下の各事実については、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(1)当事者等
ア 原告は、日本に居住する職業写真家であり、本件写真1ないし3を撮影した。
イ 被告は、米国法人であり、ツイッターを管理・運営している。本件につき、プロバイダ責任制限法3条1項の「関係役務提供者」及び同法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる(争いのない事実、弁論の全趣旨)。
(2)本件写真1ないし3
 本件写真1ないし3は、いずれも写真の著作物(著作権法10条1項8号)であり、原告は、本件写真1ないし3の著作者として著作権を有する。
(3)ツイッターの仕組みについて
ア ツイッターの利用者はツイッターへの投稿等を行うためにアカウントを開設することができる。
 アカウントを開設するなどし、そのアカウントを用いてツイッターのサービスを利用する者(以下、単に「アカウント利用者」ということがある。)は、ツイッターにおいて、当該アカウントを用いてログインすることができ、テキストデータ等(以下「ツイート」という。)をツイッターのサーバに送信して、ツイートを投稿する(以下「ツイートする」ともいう。)ことができる。当該アカウントのホーム画面に係るウェブページには、当該ツイート等が時系列に従って表示され(以下、この表示部分を「タイムライン」という。また、以下において「タイムラインのウェブページ」という場合には、タイムラインを含むホーム画面のウェブページを指すものとする。)、設定に従い、これをツイッターの閲覧者(以下、単に「ユーザ」ということがある。)が閲覧することができる。また、タイムラインに表示された個々のツイートを選択すると、当該ツイートのみを表示するウェブページ(以下「ツイートのウェブページ」等ということがある。)が表示され、設定に従い、これをユーザが閲覧することができる。
イ アカウント利用者は、ツイッターのサーバに画像データを送信することで当該アカウントのプロフィール画像を設定・登録・変更することができる。
 アカウントのプロフィール画像として設定された画像は、タイムラインに表示される当該アカウントにおける個々のツイート及び同ツイートのウェブページにおいて、ツイートの冒頭に丸く表示される(以下、この表示を「本件円形表示」という。)。(以上、甲14ないし16、20、22、48、50、97)
 アカウント利用者は、当該アカウントにツイートをすることができるほか、そのプロフィール画像の変更や過去に投稿したツイートの削除をすることができる(争いのない事実)。
ウ 本件円形表示に関係するデータは、HTMLデータ、画像データ、CSSデータ及びJAVASCRIPTデータの4種類である。
 このうちCSSデータは、ウェブページのデザインを指定するデータであり、被告によって、ツイッターのアカウント利用者からプロフィール画像のために送信された画像データについては、その四隅が透過するようになり、画像が丸の形状として表示されるための設定がされている(甲57ないし62、69、70)。
 上記各データが保存されるツイッターのサーバは、以下の3つのURLに存在する。
(a)(URLは省略)/(以下「サーバ1」という。)
(b)(URLは省略)/(以下「サーバ2」という。)
(c)(URLは省略)/(以下「サーバ3」という。)
 CSSデータ及びJAVASCRIPTデータは、アカウント利用者がプロフィール画像を設定・登録する時点よりも前に、サーバ3に記録され、保存されている。
エ アカウント利用者がプロフィール画像として設定・登録した画像が、ツイッターを閲覧するユーザのコンピュータ(以下、ユーザが、特定のアカウント保有者のタイムライン又はツイートに係るウェブページを閲覧する際に使用するコンピュータを「クライアントコンピュータ」という。)のモニター画面上で本件円形表示されるまでのサーバの挙動及びデータの流れ等は、以下のとおりである。
(ア)アカウント利用者がプロフィール画像を設定・登録する段階
 アカウント利用者が、プロフィール画像を設定・登録すると、プロフィール画像として設定・登録された画像データが4個のURL(甲3ないし6、以下「画像データ保存URL」という。)のウェブページに対応するサーバ2の記憶領域に、それぞれ400×400ピクセル(甲3)、128×128ピクセル(甲4)、73×73ピクセル(甲5)、48×48ピクセル(甲6)に縮小されたサイズで記録され、保存される。また、アカウントのタイムライン及びツイートのウェブページに係るHTMLデータが、上記の画像データに対するインラインリンク情報を含むものにアップデートされ、また、このHTMLデータにおいて、この画像データに適用されるべきCSSデータがこれらの画像データに紐づけされることとなる。
 なお、インラインリンクとは、ユーザの操作を介することなく、リンク元のウェブページが立ち上がった時に、自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルがクライアントコンピュータに送信されて、リンク先のウェブサイトからクライアントコンピュータ上に自動表示されるように設定されたリンクをいう(甲74。以下、インラインリンクの設定に係る情報を「インラインリンク情報」という。)。
(イ)アカウント利用者がツイートをする段階
 アカウント利用者がツイートをすると、ツイートをしたアカウント利用者の端末から、当該ツイートの内容であるテキストデータ等がツイッターのサーバに送信される。そうすると、ツイッターのシステムによって、サーバ1上に記録保存されている当該アカウントのタイムラインに係るHTMLデータが新たな内容にアップデートされ、かつ、当該新たなツイートのウェブページに係るHTMLデータがサーバ1上に新たに生成される。
(ウ)ユーザが特定のアカウントのタイムライン又はツイートのウェブページを閲覧する段階
 ユーザが特定のアカウントのタイムライン又はツイートのウェブページを閲覧しようとすると、上記(イ)の各ウェブページに係るHTMLデータが、サーバ1から当該ユーザのクライアントコンピュータに送信される。当該HTMLデータには、当該アカウントのタイムライン又はツイートのウェブページを構成するテキストデータ等の各種コンテンツの他に、画像データ、CSSデータ及びJAVASCRIPTデータに対するインラインリンク情報が含まれる。そのため、クライアントコンピュータは、自動的に、これらの合計3種類のデータが記録保存されているリンク先サーバであるサーバ2及び3にアクセスする。そして、サーバ2から画像データが、サーバ3からCSSデータ及びJAVASCRIPTデータが、それぞれクライアントコンピュータに送信される。
 クライアントコンピュータにおいては、上記で受信したHTMLデータ、画像データ、CSSデータ及びJAVASCRIPTデータの4種類のデータに基づき、HTMLデータ、CSSデータ及びJAVASCRIPTデータに記載された指示に従い、HTMLデータに含まれるテキストデータ、画像データ等の各種コンテンツが組み合わされ、相互の配置、位置関係が調整されるなどして、タイムライン又はツイートのウェブページに係るレンダリングデータが生成され、ブラウザ上で各ウェブページが表示される。その際タイムライン又はツイートのウェブページに表示されるプロフィール画像の画像データは円形に表示される(本件円形表示)。
(4)氏名不詳者によるツイッター上での本件写真1ないし3の表示
ア 別紙開示請求アカウント目録記載アカウント1(以下「本件アカウント1」という。)
(ア)氏名不詳者は、平成29年2月16日午後4時4分47秒頃、原告に無断で、本件アカウント1のプロフィール画像として本件写真2の画像を設定・登録した(甲23、24。以下、この設定等の行為を「プロフィール画像設定行為1」という。)。これによって、ユーザが本件アカウント1のタイムライン等において、本件写真2を閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る原告の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(イ)氏名不詳者は、平成30年9月28日午後4時47分頃、本件アカウント1を利用して、別紙投稿情報目録第1の2@「投稿ツイート」記載のツイートをした(甲48。以下「ツイート行為1」といい、投稿されたツイートを「ツイート1」という。)。これにより、アカウント1のタイムラインのほか、ツイート1のウェブページに本件円形表示された本件写真2が表示される(別紙投稿情報目録第1の2C)。
イ 別紙開示請求アカウント目録記載アカウント2(以下「本件アカウント2」という。)
 氏名不詳者は、平成28年12月18日午後10時14分36秒頃、本件アカウント2を利用し、原告に無断で、別紙投稿情報目録第2記載のとおり、本件写真2(ただし、ペンギンの顔の部分が人間の顔の写真に改変がされたもの)の画像ファイルを含むツイートをした(甲12、15、25。以下「ツイート行為2」といい、投稿されたツイートを「ツイート2」という。)。これによって、ユーザがツイート2のウェブページ等において、本件写真2を閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る原告の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
ウ 別紙開示請求アカウント目録記載アカウント3(以下「本件アカウント3」という。)
 氏名不詳者は、平成28年1月14日午後8時43分13秒頃、本件アカウント3を利用し、原告に無断で、別紙投稿情報目録第3記載のとおり、本件写真2の画像ファイルを含むツイートをした(甲16、26。以下「ツイート行為3」といい、投稿されたツイートを「ツイート3」という。)。これによって、ユーザがツイート3のウェブページ等において、本件写真2を閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る原告の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
エ 別紙開示請求アカウント目録記載アカウント4(以下「本件アカウント4」という。)
(ア)氏名不詳者は、平成30年1月12日午後1時11分56秒頃、原告に無断で、本件アカウント4のプロフィール画像として本件写真2の画像ファイルを設定・登録した(甲19、27。以下、「プロフィール画像設定行為2」という。)。これによって、ユーザが本件アカウント4のタイムライン等において、本件写真2を閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る原告の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(イ)氏名不詳者は、平成30年1月15日午前1時34分頃、本件アカウント4を利用して、別紙投稿情報目録第4の2@「投稿ツイート」記載のツイートをした(甲20。以下「ツイート行為4」といい、投稿されたツイートを「ツイート4」という。)。これにより、アカウント4のタイムラインのほか、ツイート4のウェブページに本件円形表示された本件写真2が表示される(別紙投稿情報目録第4の2C)。
オ 別紙開示請求アカウント目録記載アカウント5(以下「本件アカウント5」という。)
(ア)氏名不詳者は、平成29年3月8日午後8時19分36秒頃、原告に無断で、本件アカウント5のプロフィール画像として本件写真2の画像ファイルを設定・登録した(甲21、28。以下、「プロフィール画像設定行為3」という。)。これによって、ユーザが本件アカウント5のタイムライン等において、本件写真2を閲覧することができる状態となり、本件写真2に係る原告の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(イ)氏名不詳者は、平成27年9月1日午後2時56分頃、本件アカウント5を利用して、別紙投稿情報目録第5の2@「投稿ツイート」記載のツイートをした(甲22。以下「ツイート行為5」といい、投稿されたツイートを「ツイート5」という。)。これにより、アカウント5のタイムラインのほか、ツイート5のウェブページに本件円形表示された本件写真2が表示される(別紙投稿情報目録第5の2C)。
カ 別紙開示請求アカウント目録記載アカウント6(以下「本件アカウント6」という。)(ア)氏名不詳者は、遅くとも平成30年2月1日までに、原告に無断で、本件アカウント6のプロフィール画像として本件写真1の画像ファイルを設定・登録した(甲49、50。以下、「プロフィール画像設定行為4」という。)。これによって、ユーザが本件アカウント6のタイムライン等において、本件写真1を閲覧することができる状態となり、本件写真1に係る原告の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(イ)氏名不詳者は、令和元年9月2日午前7時31分頃、本件アカウント6を利用して、別紙投稿情報目録第6の2@「投稿ツイート」記載のツイートをした(甲109、以下「ツイート行為6」といい、投稿されたツイートを「ツイート6」という。)。これにより、アカウント6のタイムラインのほか、ツイート6のウェブページに本件円形表示された本件写真1が表示される(別紙投稿情報目録第6の2C)。
キ 別紙開示請求アカウント目録記載アカウント7(以下「本件アカウント7」という。)
 氏名不詳者は、平成31年2月1日午後4時45分頃、本件アカウント7を利用し、原告に無断で、別紙投稿情報目録第7記載のとおり、本件写真3の画像ファイルを含むツイートをした(甲108。以下「ツイート行為7」といい、投稿されたツイートを「ツイート7」という。)これによって、ユーザがツイート7のウェブページ等において、本件写真3を閲覧することができる状態となり、本件写真3に係る原告の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
(5)被告の保有情報
 被告は、本件アカウント1ないし7に係る別紙発信者情報目録第1の1(1)記載の情報(以下、単に「電子メールアドレス」という。)、本件アカウント2及び4に係る同目録第1の1(2)記載の情報(以下「ショートメールアドレス」という。)、本件アカウント1ないし7を開設した際のIPアドレス及びタイムスタンプ(同目録第1の2及び3、以下、アカウント利用者が当該アカウントを開設した際のIPアドレスおよびタイムスタンプを「アカウント開設時IPアドレス等」という。)、本件アカウント1及び6利用者がツイート行為1又は6の直前に同各アカウントにログインした際の各IPアドレス及びタイムスタンプ(同目録第3の1及び2、以下、アカウント利用者がツイート直前に当該アカウントにログインした際のIPアドレスおよびタイムスタンプを「ツイート直前ログイン時IPアドレス等」という。)、本件アカウント1、2、4、6及び7に係る本判決確定の日の正午時点(日本標準時)で最も新しいログイン(以下「最新ログイン」という。)におけるIPアドレス及びタイムスタンプ(同目録第4の1及び2、以下、当該アカウントについて本判決確定の日の正午時点で最も新しくアカウント利用者がログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプを「最新ログイン時IPアドレス等」という。)を保有している。
 他方、本件において原告がプロバイダ責任制限法4条1項により開示されるべき「権利の侵害に係る発信者情報」(以下、単に「発信者情報」という。)として開示を請求するその余の情報については、被告が保有していること、また、今後保有することを認めるに足りる証拠はなく、これらの情報については被告は保有していない。
(6)ショートメールアドレスについて
ア ショートメールサービスとは、送信元の携帯電話等から送信されたテキストメッセージが、ショートメッセージサービスセンターと呼ばれるメールサーバ相当のコンピュータに蓄積保存され、受信携帯電話等が同センターに接続すると、同メッセージが同センターから受信携帯電話等に送信されるシステムをいう(甲80)。
 電子メールサービスはパケット交換方式(通信を多数者間で共用する方式)で実現されるサービスであるのに対し、ショートメールサービスは回線交換方式(通信を一対一で占有する方式)によって実現されるサービスである(甲77、79)。
イ ショートメールアドレスとは、ショートメールサービスの利用者を識別するための文字列であり、携帯電話番号と同一である(弁論の全趣旨)。
(7)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由
 原告は、本件アカウント1ないし7に本件写真1ないし3を表示させた者に対し、著作権又は著作者人格権の侵害を理由として権利行使し得るところ、上記の者の特定に資する情報を知る手段が他にあるとは認められないから、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる(プロバイダ責任制限法4条1項1号、争いのない事実)。
(8)送信防止措置と再表示に至る経緯
ア 氏名不詳者は、平成27年1月21日頃、原告に無断で、アカウントID(以下省略)のアカウント(以下「本件アカウント8」という。)のプロフィール画像として本件写真1の画像ファイル(ただし、原告が本件写真1の左下部分に「cA」等の文字を加えた画像。以下「本件画像データ」という。)を設定・登録し(甲3ないし6。以下「プロフィール画像設定行為5」という。)、本件画像データは、画像データ保存URLのウェブページに対応するサーバ2の記憶領域に保存された(争いのない事実)。
 これによって、ユーザが本件アカウント8のタイムライン等において、本件写真1を閲覧することができる状態となり、本件写真1に係る原告の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
イ 原告は、TwitterJapan株式会社に対し、上記アの公衆送信状態の停止を求める平成27年1月26日付の「侵害サイト1発信者情報開示請求書兼公衆送信差止請求書」と題する文書を送付した(甲42、46の1、46の2)。同文書は、遅くとも同年2月13日までに、被告の知るところとなった(争いのない事実)。
ウ 被告は、平成27年2月13日頃、画像データ保存URL上の本件画像データにつき送信防止措置(以下「第1回送信防止措置」という。)をとった(争いのない事実)。
エ 本件画像データは、遅くとも平成28年5月26日には、画像データ保存URL上において再び閲覧可能となり(甲7ないし10、以下「本件再表示」という。)、本件写真1に係る原告の公衆送信権が侵害された(当事者間に争いがない。)。
オ 被告は、平成28年6月10日頃、上記エの状態を知り、遅くとも同月13日までに、再度、画像データ保存URL上の本件画像データにつき送信防止措置(以下「第2回送信防止措置」という。)をとった(争いのない事実)。
 その後、本件口頭弁論終結時に至るまで、本件画像データが本件アカウント8に係るウェブページにおいて閲覧可能となった事実はない(甲37ないし40、弁論の全趣旨)。
(9)なお、本件アカウント1ないし8利用者によるツイートはいずれも日本語でされていることから(甲14ないし16、20、22、43、44、48、50、107、109)、同利用者らによるプロフィール画像設定行為1ないし5及びツイート1ないし7はいずれも日本においてされたと推認でき、これを覆すに足りる証拠はない。
3 争点
 原告がプロバイダ責任制限法4条1項に基づき開示を求める発信者情報のうち、被告が保有していると認められるのは前記2(5)に記載した情報であり、同情報以外の情報は被告が保有していない。そして、被告が保有していない情報の開示を求める原告の請求は、その余を判断するまでもなく理由がない。
 このことを踏まえると、本件においては、被告が保有している情報についての開示請求の当否が問題となるといえ、以下の点が争点となる。
(1)本件アカウント1、2、4、6及び7につき、最新ログイン時IPアドレス等の開示を求めることができるか
ア 本件写真1ないし3に係る画像データを削除しないことが不作為による著作権(自動公衆送信権)侵害に該当し、侵害情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
イ 最新ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか(争点2)
(2)本件アカウント1及び6につき、ツイート直前ログイン時IPアドレス等の開示を求めることができるか
ア ツイート1のウェブページへの本件写真2の表示及びツイート6のウェブページへの本件写真1の表示により、原告の著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたことが明らかであるか(争点3)
イ ツイート直前ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか(争点4)
(3)本件アカウント1ないし7につき、アカウント開設時IPアドレス等が発信者情報に該当するか(争点5)
(4)本件アカウント2及び4につき、ショートメールアドレスが発信者情報に該当するか(争点6)
(5)本件再表示につき、被告が損害賠償責任を負うか(争点7)
(6)本件再表示による損害の数額(争点8)
4 争点についての当事者の主張
(1)争点1(本件写真1ないし3に係る画像データを削除しないことが不作為による著作権(自動公衆送信権)侵害に該当し、侵害情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか)について
(原告の主張)
 本件アカウント1、2、4、6及び7利用者は、それぞれプロフィール画像設定行為1、ツイート行為2、プロフィール画像設定行為2、ツイート行為6及び7により違法に本件写真1ないし3をアップロードしたのであるから、プロフィール画像を変更するかツイートを削除した上で、各アカウントに紐づけられた本件写真1ないし3のデータを被告に削除要請するなどして本件写真1ないし3の画像データをツイッターのサーバから削除すべき条理上の送信防止義務を負っていた。
 そして、上記アカウント利用者らは、アカウントにログインできる以上、上記削除を行うことは容易であり、また違法な公衆送信状態を知っていたか、知り得たにもかかわらず、ログイン後も上記画像データを削除しなかった。このように漫然と違法な自動公衆送信状態を維持することは、違法アップロードと同価値といえる。
 したがって、本件アカウント1、2、4、6及び7利用者は、不作為により本件写真1ないし3に係る原告の自動公衆送信権を侵害し続けており、各最新ログイン時点における不作為による侵害情報の発信者と評価されるべきである。
(被告の主張)
 自動公衆送信(著作権法2条1項9号の4)とは、本件アカウント1、2、4、6及び7利用者が本件写真1ないし3の画像データを被告のサーバにアップロード(送信可能化)した後、一般のユーザからのアクセスに応じて被告のサーバから当該ユーザのクライアントコンピュータに対して本件写真ないし3の画像データが送信されることを指す。すなわち、自動公衆送信権は、個々の画像データの送信行為によって侵害されるものであって、具体的な送信行為が存在しないところには自動公衆送信権侵害も存在しない。
 本件においては、最新ログインの時点において、被告のサーバからクライアントコンピュータに対して画像データが送信されたものではない(少なくとも、原告はその旨の主張立証を一切していない)から、最新ログイン時点において自動公衆送信権は侵害されていない。
 したがって、最新ログインの時点において不作為によって自動公衆送信権が侵害されているとの原告の主張は失当である。
(2)争点2(最新ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(原告の主張)
ア ログイン時のIPアドレス等一般について
 ウェブサイトの仕組みにより、IPアドレス保存のタイミングは様々であり、ツイッターのように侵害情報投稿時のIPアドレス及びタイムスタンプを保存していない場合も想定される。特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(以下「発信者情報省令」という。)4号が「侵害情報に係る」IPアドレスと幅を持たせた表現で規定された趣旨は、「侵害情報送信時のIPアドレス」というように幅のない規定とすれば、不合理に発信者情報の開示請求ができない場合が発生することが容易に想定されるため、このような事態を回避し、権利者の法的救済を受ける権利を実効的に保障することにある。
 また、「侵害情報に係る」とは、侵害情報の発信者以外の者を誤って発信者と特定する合理的な疑いのないことを意味するところ、ツイッターにおいてログイン時のIPアドレスを開示したとしても、侵害情報の発信者以外の者を誤って発信者と特定する合理的な疑いはない。すなわち、ツイートするためにはアカウントへのログインが必要であり、ログインした者とログイン後のアカウントからツイートした者が別人であることは通常考え難い。また、アカウントへのログインはパスワードによって厳重に保護されており、異なるデバイスからログインした場合には警告メールが送信されるなど、セキュリティ対策も十全なものとなっており、ログイン者が発信者である蓋然性は極めて高い。仮にアカウントを第三者と共有している場合であっても、両者の間にはパスワードを共有するような強い人間関係が存在し、同第三者は「侵害情報の送信に係る者」(発信者情報省令1号、2号)に該当し、同第三者の情報も発信者情報に該当する。
 さらに、発信者情報省令7号がタイムスタンプを発信者情報としたのは、経由プロバイダにおいて、接続の都度、利用者にIPアドレスを割り当てている場合には、契約者を特定するためにIPアドレスとタイムスタンプをあわせて確認することが必要となるからである。そうすると、「侵害情報が送信された年月日及び時刻」との発信者情報省令7号の文言に拘泥する合理性はなく、発信者情報省令4号でIPアドレスの開示が認められる場合には、広くタイムスタンプも開示対象となると解すべきである。
 したがって、ログイン時のIPアドレスは、発信者情報省令4号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当し、ログイン時のタイムスタンプは発信者情報省令7号にいう「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当するから、発信者情報として開示を求めることができる。
イ 最新ログイン時IPアドレス等について
(ア)前記アで述べた理由は、最新ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプにも当てはまる。
 さらに、原告は、前記(1)のとおり、不作為による自動公衆送信権の侵害を主張しているところ、本件アカウント1、2、4、6及び7利用者は、アカウントにログインしながら本件写真1ないし3に係る画像データを削除していないから、最新ログイン時IPアドレス等は、この不作為の直前のログイン時IPアドレス等と同義である。
(イ)仮に、最新ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当しないとしても、原告の発信者に対する訴訟提起の機会を保障するために、憲法32条の趣旨に鑑み、プロバイダ責任制限法4条1項及び発信者情報省令を拡張解釈し、被告に対して情報開示が命ぜられるべきである。また、そのような解釈を採用することは、憲法上の権利を保障するために司法権による合理的拡張解釈を許容した最高裁判所平成20年6月4日大法廷判決(民集62巻6号1367頁)の趣旨にも適う。
 したがって、最新ログイン時のIPアドレスは、発信者情報省令4号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当し、最新ログイン時のタイムスタンプは発信者情報省令7号にいう「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当するから、発信者情報として開示を求めることができる。
(被告の主張)
ア ログイン時のIPアドレス等一般について
 プロバイダ責任制限法が、発信者情報開示請求権を創設した反面、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下でのみ発信者情報開示請求を認めている趣旨に加え、同法4条1項が単に「当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報」と規定するのではなく、「当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」と定めていることからすると、発信者情報開示請求は、侵害情報の発信者に関する情報全てを幅広く対象とするものではなく、「当該権利の侵害」、すなわち請求者が侵害情報であると主張する特定の情報の発信行為に関する情報のみを対象とするものと解される。
 そして、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは、侵害情報の発信行為とは全く別個の行為であるアカウントへのログイン行為(アカウントID、パスワード等のログインに必要な情報の送信行為)に関する情報であるから、そもそも「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。
 また、発信者情報省令7号は「侵害情報が送信された年月日及び時刻」と規定しており、侵害情報送信時とは全く異なる時点であるログイン時のタイムスタンプが、同号の文言に照らして開示対象とならないことは明らかである。一方、発信者情報省令4号は「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定するが、これは発信者が所属する企業や大学が経由プロバイダとインターネット接続サービスを締結している場合等、発信者本人がいわゆる経由プロバイダの契約者と同一人物とは限らないため、当該企業や大学等に関する情報の開示を可能とするためにすぎない。
 加えて、ツイッターのシステム上、1個のアカウントに対して数十個にわたる複数のログイン状態が競合することが可能であり、このような状態は現実にも頻繁に発生しているから、プロフィール画像のアップロード行為又はツイートがその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われたものであるかどうかは全く明らかではない。
 したがって、ログイン時のIPアドレスは、発信者情報省令4号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当せず、ログイン時のタイムスタンプは発信者情報省令7号にいう「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当しないから、発信者情報として開示を求めることはできない。
イ 最新ログイン時IPアドレス等について
 仮に一定の範囲のログイン時IPアドレス等が開示の対象となり得るとして、以下に述べるとおり、最新ログイン時IPアドレス等は開示の対象とならない。
 すなわち、侵害情報以外の情報を投稿した時のIPアドレスは、仮にそれが本判決確定日の正午時点において最新の投稿時のものであるとしても「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」(発信者情報省令4号)に該当しない。また、最新ログイン時のIPアドレスは、訴訟提起や仮処分命令申立後も対象アカウントの管理者が対象アカウントにログインする度に新たに発生する情報であって、判決の確定や仮処分決定の発令まで具体的な情報を確定できないことに加え、通常膨大な数が存在するログイン時IPアドレスの中で侵害情報の投稿時から最も離れた時点のIPアドレスであり、侵害情報の投稿行為との関連性が最も希薄である。
(3)争点3(ツイート1のウェブページへの本件写真2の表示及びツイート6のウェブページへの本件写真1の表示により、原告の著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたことが明らかであるか)について
(原告の主張)
ア 本件円形表示による同一性保持権侵害の成否について
(ア)同一性保持権侵害においては、複製権侵害のような有形的な再製や物への固定は求められておらず、暫定的なデータの生成であっても、著作物の外形に変更を加えるのであれば改変行為に該当するから、クライアントコンピュータにおいて、HTMLデータ、画像データ及びCSSデータが結合してレンダリングデータを生成する行為が、同一性保持権侵害を招来する。
 したがって、ツイート行為1及び6は、本件写真1及び2を「変更、切除その他の改変」(著作権法20条1項)するものと評価することができる。
(イ)被告は、本件円形表示が著作権法20条2項4号所定の「やむを得ないと認められる改変」に当たると主張するが、被告が平成29年6月15日頃にプロフィール画像に設定されている画像を円形にトリミングする内容のCSSデータをアップロードして一斉に本件円形表示を発生させる以前には、プロフィール画像に本件円形表示がされていなかったことからしても、アバター画像をあえて円形にトリミングする必要性がないことは明らかである。
イ 侵害情報の流通によって原告の同一性保持権が侵害されたことが明らかであるか否かについて
 本件円形表示は、クライアントコンピュータのブラウザソフトによるHTMLデータの解析と、同データを母体としたCSSデータとのデータ結合、さらにHTMLデータとCSSデータの結合で決定されたノードの内容として画像データが結合され、レンダリングデータが生成されることによって発生する。
 本件において、本件アカウント1利用者は、平成30年9月28日午後4時47分に、ツイート行為1によりHTMLデータをアップロードした。このとき、本件円形表示の組成データであるHTMLデータ、本件写真2の画像データ及びCSSデータがすべてクライアントコンピュータにそろう状態が整い、本件円形表示が発生した。同様に、本件アカウント6利用者は、令和元年9月2日午前7時31分頃、ツイート行為6によりHTMLデータをアップロードした、このとき、本件円形表示の組成データであるHTMLデータ、本件写真1の画像データ及びCSSデータがすべてクライアントコンピュータにそろう状態が整い、本件円形表示が発生した。
 したがって、ツイート行為1及び6の行為者が侵害行為の主体であり、侵害情報の流通によって原告の同一性保持権が侵害されたことは明らかである。
(被告の主張)
ア 本件円形表示による同一性保持権侵害の成否について
(ア)クライアントコンピュータ上で生成されるレンダリングデータは、端末上にごく一時的・瞬間的に蓄積されるだけで、継続的に保存されることはないから、レンダリングデータが生成されることのみをもって、本件写真1及び2に「変更、切除その他の改変」(著作権法20条1項)がされたということはできない。
 また、本件円形表示は、HTMLデータやCSSデータ等によって指定された枠(額縁)に本件写真1及び2をはめ込んで表示した結果として本件写真1及び2の一部が表示されないことになっただけであり、画像データそれ自体には何ら「変更、切除その他の改変」は行われていない。
 さらに、ユーザが丸くトリミングされた本件写真1又は2の部分を右クリックすれば、トリミングされていない本件写真1又は2を見ることができ、ユーザは、トリミング後の本件写真1又は2が本来の本件写真1又は2の構図であると誤解することはないから、実質的には、本件写真1又は2に係る原告の精神的・人格的利益は害されていないといえる。
 加えて、同一性保持権侵害となるためには、原著作物を利用することを要するところ、ツイート行為1及び6は、インラインリンクを設定する行為にすぎず、著作物を利用する行為、すなわち著作権の支分権の定義に該当する行為ではない。
 したがって、ツイート行為1及び6は、本件写真1及び2を「変更、切除その他の改変」(著作権法20条1項)するものとは評価できない。
(イ)仮に、ツイート行為1又は6が本件写真1又は2を改変するものと認められるとしても、(a)上記改変はツイッターのシステム上、本件アカウント1及び6利用者の意図とは全く関係なく、自動的かつ機械的に行われるものであること、(b)ユーザが本件写真1又は2の部分を右クリックすれば改変されていない本件写真1又は2の画像データを即座に閲覧することができること、(c)ツイート行為1又は6によって本件アカウント1又は6利用者の端末からツイッターのサーバに送信されるのは本件円形表示とは何の関係もないテキストデータ等のみであること、(d)本件円形表示は、リンク元のウェブページに設けられたフレームないし枠にリンク先のコンテンツを埋め込むというフレームリンクないし埋め込み型リンクを採用した場合に、リンク先のコンテンツを無理なく自然に表示するために必然的かつ不可避的に生じるものであることなどの諸事情に鑑みれば、上記改変は、本件写真1又は2に係る原告の人格的利益を害するものではなく、「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当するというべきである。
イ 侵害情報の流通によって原告の同一性保持権が侵害されたことが明らかであるか否かについて
(ア)発信者情報開示請求の可否は、個々の特定電気通信ごとに判断されるべきであり、「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件(プロバイダ責任制限法4条1項1号)については、実際に発信ないし流通される侵害情報それ自体による権利侵害が認められなければならない。ツイート行為1及び6は、画像データ保存URLに対するインラインリンク情報を生成させるだけであって、侵害情報の流通それ自体による権利侵害は認められない。
(イ)原告は、権利侵害の原因、起点となる情報をもって侵害情報である旨主張するが、本件のように、そのような原因、起点となる情報の流通だけでなく、それ以外の情報の流通やその他の事情が存在してはじめて権利侵害が惹起される場合には、原因、起点となる情報の流通それ自体によって直接権利が侵害されるとはいえないし、権利侵害が原因、起点となる情報によって完結しているとはいえないから、「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件を充足しない。
 ツイート行為1又は6とは全く関係ない別個の行為であるプロフィール画像設定行為1又は4がなければ、本件写真1又は6の画像データがクライアントコンピュータに送信されることはなく、同写真に係る同一性保持権侵害が成立することもない。したがって、それらの情報の流通それ自体によっては原告の同一性保持権は侵害されないし、同一性保持権侵害が特定電気通信による侵害情報の流通によって完結しているということもできない。
 原告の主張が認められるのであれば、他人の権利を直接侵害する情報にリンクを設定した事案においても、リンクの設定行為は、いわゆるリンク情報をサーバに記録ないし入力するだけの行為であり、上記権利侵害情報を記録ないし入力する行為ではないにもかかわらず、「侵害情報の流通」によって権利が侵害されたこととなり、リンクの設定者は「発信者」として発信者情報の開示が認められることになるが、このような結論は、プロバイダ責任制限法の立法担当者の見解や裁判例等に反して失当である。
(ウ)したがって、本件アカウント1及び6利用者は侵害行為の主体ではなく、侵害情報の流通によって原告の同一性保持権が侵害されたことは明らかではない。
(4)争点4(ツイート直前ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(原告の主張)
 前記(2)アのとおり。
(被告の主張)
 前記(2)アのとおり。
(5)争点5(本件アカウント1ないし7につき、アカウント開設時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(原告の主張)
 ツイッターなどのログインにIDとパスワードを要するSNSにおいては、通常、異なる主体がログインすることはないから、アカウント開設時のIPアドレスも侵害情報の発信者のした通信に係るものとして発信者情報省令4号「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当する。
 また、これに対応するタイムスタンプも、開示されなければ発信者の特定に至らないため、開示されるべきである。
 したがって、アカウント開設時IPアドレス等は、発信者情報省令4号及び7号所定の発信者情報に該当するから、開示を求めることができる。
(被告の主張)
 発信者情報省令7号の「侵害情報が送信された年月日および時刻」との明確な文言に照らして、アカウントを開設した際のタイムスタンプが当該文言に該当すると解する余地はない。
 また、IPアドレス及びタイムスタンプは、両者が一体となってはじめて発信者を特定するための情報として意味を持つものであるから、発信者情報省令は、4号のIPアドレスについても、侵害情報送信時のIPアドレスを想定して「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」との文言を用いているものと解される。
 したがって、アカウントを開設した際のIPアドレス及びタイムスタンプは、発信者情報省令4号及び7号所定の発信者情報には該当せず、開示を求めることはできない。
(6)争点6(本件アカウント2及び4につき、ショートメールアドレスが発信者情報に該当するか)について
(原告の主張)
 電子メールアドレスは、発信者情報省令3号に定められたとおり「電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう」ところ、電子メールアドレスには、「携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式」が含まれるから、ショートメールサービスが法律上「電子メール」に該当することは明らかである(特定電子メールの送信の適法化等に関する法律[以下「特定電子メール法」という。]2条1号、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令[以下「特定電子メール省令」という。]2号)。発信者情報省令制定後に、特定電子メール法及び特定電子メール省令において電子メールアドレスにショートメールアドレスが含まれることが明示されたにもかかわらず、発信者情報省令が電子メールアドレスにショートメールアドレスを含まないとの改正を行なっていないのは、総務省が、同解釈がプロバイダ責任制限法及び発信者情報省令にも妥当することを認めていると解されるべきである。
 被告は、原告が開示を求める情報は携帯電話番号であると主張するが、原告は、携帯電話番号と全く同じ文字列でアドレスを特定するショートメールアドレスの開示を請求しているにすぎず、開示の結果、携帯電話番号も判明することとなるとしても、それは、たまたまショートメールアドレスと携帯電話番号が同一の文字列であるからにすぎない。
 したがって、ショートメールアドレスは、発信者情報省令3号の「電子メールアドレス」に含まれるものとして、開示を求めることができる。
(被告の主張)
 総務省は、平成14年の発信者情報省令制定時におけるパブリックコメント回答において、電話番号を開示の対象とすべきとのコメントに対し電話番号を発信者情報開示請求の対象としないことを明確に述べている。このように、発信者情報省令の立法者である総務省の立法意図は、発信者情報省令3号の「電子メールアドレス」に携帯電話番号を含めるものではなく、同号括弧書の「電子メール」にショートメッセージサービスを含めるものでもないことが明らかである。
 また、発信者情報省令5号所定の携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号は平成23年9月15日総務省令第128号によって新設されたものであるが、同号の解説においても「電話番号については、本省令の制定時に、(中略)開示の対象としないこととした」ことが明記され、携帯電話番号を発信者情報開示の対象に追加するものではないことを明らかにするため、同5号に「利用者をインターネットにおいて識別するために」との規定が設けられた。
 このように、携帯電話番号を発信者情報開示請求の対象としないという総務省の立法意図は、平成23年の発信者情報省令改正時においても変わっていない。また、その後も、発信者情報省令3号は何ら改正されておらず、上記総務省の立法意図が変更されたことをうかがわせる事情は一切存在しない。
 したがって、ショートメールアドレスは、発信者情報省令3号の「電子メールアドレス」に含まれないから、発信者情報として開示を求めることはできない。
(7)争点7(本件再表示につき、被告が損害賠償責任を負うか)について
(原告の主張)
 被告は、主位的に作為又は不作為による著作権及び著作者人格権侵害に基づき、予備的に準委任契約又は事務管理に基づく善管注意義務の不履行に基づき、本件再表示によって原告が被った損害を賠償する義務を負う。
ア 作為による著作権及び著作者人格権侵害
 原告は、本件写真1をいったん自動公衆送信されていない状態にしながら、平成27年7月1日以降、本件再表示をさせて、原告の著作権(自動公衆送信権)を侵害した。
 また、本件画像データは、本件アカウント8利用者によりプロフィール画像として設定登録されることにより、前記前提事実(3)エ(ア)のとおり、128×128ピクセル、73×73ピクセル及び48×48ピクセルといった縮小されたサイズに指定され、原告の氏名表示が判読できず、また元のサイズで表示された際に本件写真1から感得される本質的特徴が損なわれる状態となった。被告は、遅くとも平成27年2月13日までには、このような状態を認識していたか、認識できたにもかかわらず、少なくとも過失により、本件再表示によって本件写真1の公衆への提示に際して原告氏名が判読できない事態を招来し、また過度に縮小されたデータを再生して、原告の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害した。
イ 不作為による著作権及び著作者人格権侵害
(ア)被告は、ツイッターのサーバとしてコンテンツ・デリバリ・ネットワーク(以下「CDN」という。)を利用していたが、CDNを含めた全てのサーバから本件画像データを完全に削除することは「技術的に可能」(プロバイダ責任制限法3条1項柱書本文)である。原告は、平成27年1月26日から同年2月13日の間に本件写真1の表示を知ったにもかかわらず、条理又は著作権法112条1項に基づく削除義務に違反して、本件画像データを完全に削除せず、本件再表示により原告の著作権(自動公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を過失により侵害した。
(イ)また、送信防止措置がコンテンツプロバイダの管理するシステムの領域で行われること、コンテンツプロバイダは国家に匹敵すべき社会的影響力を有していることに鑑みれば、コンテンツプロバイダが負う上記削除義務には、画像データ等を削除して送信防止措置を実施する義務のほか、送信防止措置が奏功したことを適切かつ必要な範囲で確認する送信防止措置奏功確認義務が含まれる。現在の技術では、被告が用いるような複雑なコンテンツ・デリバリー・システムから1回の削除命令で完全なコンテンツの削除を実行することは不可能であり、被告もこのことを認識している。また、被告にとって、違法な送信状態が確認されたURLにつき、定期的に、あるいは少なくともCDNのキャッシュの保存期間を超えた時点で、再表示が発生していないかを確認することは容易であったにもかかわらず、被告は、第1回送信防止措置が奏功しているか否かを一度も確認せず、本件再表示による違法送信状態を継続させた。
ウ 準委任契約又は事務管理に基づく善管注意義務違反
 被告は、平成27年2月13日頃、原告からの委託に基づいて、本件写真1の送信防止措置を講じるという委任事務を受託し、第1回送信防止措置を講じるという挙動によって受託の意思を表示したから、原告と被告との間には、同日までの間に準委任契約が成立した。
 また、準委任契約が成立していないとしても、被告は、義務なくして原告のためにする意思をもって、原告に代わって本件写真1の送信防止措置を講じ、事務を実行したのであるから、少なくとも事務管理が成立した。
 被告は、準委任契約又は事務管理に基づいて善管注意義務を負っていたにもかかわらず、これに違反して不完全な送信防止措置を講じ、本件再表示を招来した。
(被告の主張)
ア 作為による著作権及び著作者人格権侵害
 被告は、プロフィール画像設定行為5及び本件再表示を知った後、いずれも適切なタイミングで適切な内容の送信防止措置を講じ、同措置によって本件写真1が閲覧可能な状態は解消されているのであるから、被告が著作権又は著作者人格権の侵害主体に該当すると判断されるべき立場にない。
イ 不作為による著作権及び著作者人格権侵害
(ア)被告は、本件画像データにつき、法的義務として削除義務ないし送信防止措置義務を負うものではない。すなわち、プロバイダ責任制限法3条1項は、プロバイダの損害賠償責任の制限を規定したものにすぎず、情報の削除義務その他のいかなる義務も規定したものではない。原告は、著作権法112条1項を根拠に被告が削除義務を負うとも主張するが、被告はプロフィール画像設定行為5また本件再表示を知った後、適切な時期に送信防止措置を講じたのであるから、被告は「著作権(中略)を侵害する者又は侵害するおそれがある者」には該当しない。
 仮に被告が何らかの義務を負うと仮定しても、原告が主張するような送信を確実に防止すべき注意義務を負うことはない。すなわち、プロバイダ責任制限法3条1項の「講ずることが技術的に可能な場合」との文言に照らせば、プロバイダが「技術的に可能な」限度において侵害情報の送信防止措置を講じている以上、損害賠償責任を負うことはない。本件当時、被告はCDNを利用していたが、当該CDNに係るバグの有無を事前に調査し、バグをもれなく検知することは、技術的な観点からもビジネス実務の観点からも現実的かつ合理的な対応ではないから、「技術的に可能」とはいえない。
(イ)また原告は、被告が送信防止措置奏功確認義務に違反したとも主張するが、一度非表示となった画像データが再度表示されることは通常予想されず、送信防止措置を講じた後も定期的に再表示の有無を確認するなどということは必要かつ合理的な対応とはいえないから、被告が上記送信防止措置奏功確認義務を負う理由はない。また、一般的にCDNのキャッシュ保存期間はごく短期間であるところ、本件では第1回送信防止措置を講じた平成27年2月頃から約1年3か月もの期間が経過した平成28年5月26日になって本件再表示が発生したのであり、原告が主張するようにCDNのキャッシュ保存期間が経過するまで対象URLを確認する作業を継続していたとしても、本件再表示を発見できなかったと考えられる。さらに、仮に被告が本件再表示を発見できたとしても、再表示を未然に防止することができたことを意味するものではない。
 したがって、被告が送信防止措置奏功確認義務に違反したといえるとしても、同違反行為と本件再表示との間には相当因果関係がない。
ウ 準委任契約又は事務管理に基づく善管注意義務違反
 原告は、被告との間に準委任契約が成立したと主張するが、その内容は明らかでないし、同契約に基づく善管注意義務の具体的内容も明らかではない。また、被告が第1回送信防止措置を講じたことをもって、原告の委託の申し出に対する承諾の意思表示を行ったとも認め難いから、仮に第1回送信防止措置の時点で準委任契約が成立したとしても、その成立と同時に役割を終えて終了していると考えるのが自然であり、その後においてまで被告が何らかの義務を負う理由は一切ない。
 また原告は事務管理が成立したとも主張するが、送信防止措置は被告が権限を有するものであり、被告の事務であるから、事務の他人性の要件を満たさず、事務管理は成立しない。
(8)争点8(本件再表示による損害の額)について
(原告の主張)
 本件再表示は、原告が、第1回送信防止措置が奏功していることを最後に確認した平成27年6月30日の翌日である同年7月1日に発生した可能性があり、同日から本件再表示による損害が発生したと推認することができる。原告が被った損害は、以下のとおり、合計78万6000円を下らない。
ア 著作権侵害による経済的損害
 プロの写真家である原告が設定する利用料金の基準によれば、以下の計算式のとおり、32万4000円となる。本件のように、自動的に画像が複製され、ツイートごとに表示数が増え、極度に縮小された画像が含まれるような常識外の利用の場合、著作使用料相当損害金は上記32万4000円を1.5倍した48万6000円をもって相当とすべきである。
 1年以内の1点利用料金5万円×4件=20万円
 海外サーバ利用割増50%=10万円
 消費税8%=2万4000円
イ 著作者人格権侵害による慰謝料
 原告が被った著作者人格権侵害を慰謝するに足りる慰謝料額は20万円を下らない。
ウ 弁護士費用 10万円
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件写真1ないし3に係る画像データを削除しないことが不作為による著作権(自動公衆送信権)侵害に該当し、侵害情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)原告は、本件アカウント1、2、4、6及び7利用者は、それぞれプロフィール画像設定行為1、ツイート行為2、プロフィール画像設定行為2、ツイート行為6及び7により違法に本件写真1ないし3をアップロードしている以上、本件写真1ないし3を削除すべき条理上の義務を負い、これを削除しないという不作為によって原告の自動公衆送信権を侵害していて、自動公衆送信状態を維持することは、最新ログイン時点における不作為による侵害情報の発信者と評価されるべきであることを理由として、最新ログイン時IPアドレス等の情報の開示を求める。
(2)特定電気通信(プロバイダ責任制限法2条1号)による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴がある。一方、発信者情報は、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となる。これらを踏まえ、プロバイダ責任制限法4条は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るものと解される(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁、最高裁平成22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。
 そして、プロバイダ責任制限法4条は「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は(中略)当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。)の開示を請求することができる。」(1項柱書)、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。」(1項1号)と規定し、発信者情報の開示を求めることができるのは、情報が流通したこと自体(「情報の流通」、「侵害情報の流通」)によって権利の侵害がされたことを前提としている。また、プロバイダ責任制限法2条4号は、「発信者」について、特定電気通信設備の記録媒体又は送信装置に情報を記録、入力した者であるとして、特定の記録、入力という積極的な行為を行った者として特定している。そして、発信者情報省令は、発信者情報を「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」(4号)、「侵害情報に係る携帯電話端末又はPHS端末」(5号)、「侵害情報に係るSIMカード識別番号」(6号)として、侵害情報に関係する情報のみを発信者情報として特定している。
 上記の法の趣旨及び規定によれば、プロバイダ責任制限法は、特定の記録、入力という積極的な行為が行われた場合に、その行為により情報が流通し、その情報の流通自体によって権利が侵害された場合に、そのような情報の流通による権利侵害の特殊性等を考慮し、その記録、入力という作為をした者を「発信者」とし、その発信者の情報の開示を請求することができることを定めているといえる。
 原告は、対象のアカウントについて、最新ログイン時点よりも前に原告の権利侵害が行われたことによって最新ログイン時点における不作為による権利侵害があり、当該最新ログインをしたアカウント利用者は、その侵害情報の発信者と評価されるべきであることを理由として、最新ログイン時IPアドレス等の情報の開示を求める。
 しかし、原告の上記主張は、ログインをした者が本件写真1ないし3を削除しないとう単なる不作為を問題としており、特定の記録、入力という積極的な行為自体を問題とするものではなく、積極的な行為がない以上、その時点における積極的な行為に基づく情報の流通があるわけではない。このような不作為の行為者について、上記に述べたプロバイダ責任制限法が想定する「発信者」ということは直ちにはできない。また、本件において、最新ログイン時点におけるアカウント利用者を上記のとおりの「発信者」ということができる特段の事情を認めるに足りる証拠もなく、最新ログイン時点におけるアカウント利用者をプロバイダ責任制限法が想定する「発信者」ということはできない。
 したがって、本件アカウント1、2、4、6及び7利用者がプロフィール画像等としてアップロードした本件写真1ないし3を削除しないことが不作為による公衆送信権侵害であることを前提として発信者情報の開示を求める原告の請求は、これらアカウント利用者が不作為による公衆送信権侵害を行ったと評価されるか否かを判断するまでもなく、理由がない。
2 争点2(最新ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(1)原告は、本件アカウント1、2、4、6及び7に係る最新ログイン時のIPアドレスが、発信者情報省令4号にいう「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当し、最新ログイン時のタイムスタンプが同省令7号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」にそれぞれ該当すると主張する。
(2)プロバイダ責任制限法4条1項が「権利の侵害に係る発信者情報」と規定し、発信者情報省令4号が「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定して、「係る」という表現を用いてそれぞれやや幅をもって規定していることからすれば、侵害情報の発信そのものから把握される発信者情報だけでなく、侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であっても、これに対する開示が許容される場合もあると解される。一方、上記各規定に照らしても、侵害情報の発信に関係がないといえる情報は「権利侵害に係る発信者情報」に含まれないと解される。
 前記前提事実(4)によれば、原告の本件写真1ないし3に係る公衆送信権を侵害する行為が行われたのは、プロフィール画像設定行為1について平成29年2月16日であり、ツイート行為2について平成28年12月18日であり、プロフィール画像設定行為2について平成30年1月12日であり、プロフィール画像設定行為4について平成30年2月1日以前であり、ツイート行為7について平成31年2月1日である。また、原告が本件写真1及び2の同一性保持権を侵害すると主張する行為が行われたのは、ツイート1について平成30年9月28日であり、ツイート4について平成30年1月15日であり、ツイート6について令和元年9月2日である。
 本判決の言渡しが令和元年12月24日に予定されていることを勘案すれば、本判決確定日時点における最新のログインは、侵害行為が行われ、侵害情報が発信された上記各時点から相当の期間が経過した時点で行われたものとなる可能性があるものである。これらを考慮すると、本判決確定日時点における最新ログイン時におけるIPアドレス等は、侵害情報の発信に関連して把握される情報とは認められないというべきであり、侵害情報の発信と関係がないといえる情報として発信者情報省令4号及び7号のいずれにも該当しないというべきである。
 したがって、別紙発信者情報目録第4記載の発信者情報の開示を求める原告の請求には理由がない。
(3)これに対し、原告は、本件アカウント1、2、4、6及び7利用者による不作為の自動公衆送信権侵害を主張し、最新ログイン時IPアドレス等は、この不作為の直前のログイン時のIPアドレス等と同義であると主張するが、前記1のとおり、本件写真1ないし3を削除しないという不作為の行為者は、プロバイダ責任制限法が想定する発信者ということはできないから、同不作為の直前のログイン時のIPアドレス等は侵害情報の発信と関連する情報とは評価できない。
 また、原告は、原告の発信者に対する訴訟提起の機会を保障するために、憲法32条の趣旨に鑑み、プロバイダ責任制限法4条1項及び発信者情報省令を拡張解釈して開示が命じられるべきとも主張する。しかし、前記1(2)のとおり、プロバイダ責任制限法4条は、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、発信者情報の開示請求につき、侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であることなど厳格な要件を定めたものであるところ、上記各規定を拡張解釈して最新ログイン時IPアドレス等の開示を許せば、侵害情報の発信者以外の者の情報が開示される可能性が高まることとなり、上記プロバイダ責任制限法の趣旨に反するというべきである。
 したがって、原告の上記主張にもいずれも理由がない。
3 争点3(ツイート1のウェブページへの本件写真2の表示及びツイート6のウェブページへの本件写真1の表示により、原告の著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)本件円形表示による同一性保持権侵害の有無
ア(ア)本件アカウント1利用者は、平成20年9月28日、ツイート1を投稿した。本件アカウント1には、プロフィール画像として本件写真2の画像が設定・登録されていた。また、本件アカウント6利用者は、令和元年9月2日、ツイート6を投稿した。本件アカウント6には、プロフィール画像として本件写真1の画像が設定・登録されていた。
 本件写真1は正方形の写真であり(別紙写真目録1記載)、本件写真2は横長の長方形の写真である(同目録2記載)。
 上記ツイートの際、本件アカウント1又は6利用者は、プロフィール画像としてどの画像を設定するかなど、プロフィール画像を選択し、これを設定・登録・変更することができた。(前記前提事実(3)イ)
(イ)本件アカウント1又は6利用者がツイートを投稿すると、当該ツイートの内容であるテキストデータ等が同利用者の端末からツイッターのサーバに送信され、サーバ1に記録保存されている本件アカウント1又は6のタイムラインのウェブページのHTMLデータ(CSSデータが紐づけされた本件写真1又は2の画像データに対するインラインリンク情報を含む。)が新たな内容にアップデートされると共に、当該ツイートのウェブページのHTMLデータ(CSSデータが紐づけされた本件写真1又は2の画像データに対するインラインリンク情報を含む。)がサーバ1に新たに生成される。(前記前提事実(3)エ)(ウ)ユーザが本件アカウント1又は6のタイムラインあるいはツイート1又はツイート6に係るウェブページを閲覧しようとすると、上記のとおりアップデート又は生成されたHTMLデータがサーバ1から当該ユーザのクライアントコンピュータに送信される。クライアントコンピュータは、当該HTMLデータに含まれる上記インラインリンク情報に従って、サーバ2及び3にアクセスし、サーバ2から本件写真1又は2の画像データを、サーバ3からCSSデータ及びJAVASCRIPTデータを受信し、これらを組み合わせ、相互の配置、位置関係を調整するなどして、本件アカウント1又は6のタイムラインあるいはツイート1又は6に係るウェブページのレンダリングデータを生成する。これらにより、クライアントコンピュータにおいては、本件アカウント1又は6のタイムラインにおいてツイート1又は6(これらの左側に本件円形表示された本件写真1又は2が表示される。)を閲覧することができるとともに、ツイート1又は6をそれらに係るウェブページ(左側に本件円形表示された本件写真1又は2が表示される。)で閲覧することができる。そのうち本件アカウント1又は6のアカウントのタイムラインにおけるツイート1又は6の左側の本件円形表示された本件写真1又は2、及び、ツイート1又は6に係るウェブページにおける本件円形表示された本件写真1又は2は、ツイート1又は6をしたことによってHTMLデータが新しく生成され又はHTMLデータがアップデートされることで新たに表示されることになったものである。
イ 上記アによれば、本件アカウント1又は6利用者が本件写真1又は2が当該アカウントのプロフィール画像として設定された状態でツイートを投稿したことに基づき、CSSデータが紐づけされた本件写真1又は2の画像データに対するインラインリンク情報を含む当該ツイートに係るHTMLデータがサーバ1に新たに作成されるなどし、本件アカウント1又は6のタイムライン等を閲覧しようとするユーザのクライアントコンピュータ上においては、サーバ1から送信されたHTMLデータとサーバ2及び3から送信された本件写真1又は2に係る画像データ、CSSデータ等によってレンダリングデータが生成され、このレンダリングデータがクライアントコンピュータに一時的に記録され、クライアントコンピュータのブラウザ上で本件円形表示がされた本件写真1又は2が表示されると認められる。
 この表示に際し、ツイッターのサーバ2上に記録保存された本件写真1又は2の画像データそのものに改変は加えられず、またクライアントコンピュータ上において上記レンダリングデータが恒常的に保存されることはない。他方、クライアントコンピュータの画面上においては、本件写真1又は2は、あたかも本件写真1又は2の4隅を切除して円形とした改変が加えられたように表示され、それが本件アカウント1又は6のタイムラインあるいはツイート1又は6に係るウェブページを閲覧する際に表示され、そのうち本件アカウント1又は6のアカウントのタイムラインにおけるツイート1又は6の左側の本件円形表示された本件写真1又は2、及び、ツイート1又は6に係るウェブページにおける本件円形表示された本件写真1又は2は、ツイート1又は6をしたことによって新たに表示されることになった。
 本件写真1又は2は前記ア(ア)のとおり正方形又は長方形の写真であったところ、ユーザが本件アカウント1又は6のタイムラインあるいはツイート1又は6に係るウェブページを閲覧する際には、それらの一部のみが、クライアントコンピュータにおいて、円形の写真として表示されているといえるのであり、本件円形表示は本件写真1及び2を著作者の意に反して改変するものと評価することができる。
 したがって、本件円形表示は本件写真1及び6に係る原告の同一性保持権を侵害する。
ウ これに対し、被告は、クライアントコンピュータ上で生成されたレンダリングデータは、端末上に継続的に保存されることはない上、本件円形表示は本件写真1及び2にHTMLデータやCSSデータ等によって指定された枠(額縁)をはめ込んで表示した結果として本件写真1又は2の一部が表示されないことになったのであり、画像データそれ自体に改変が加えられたものではないから、「変更、切除その他の改変」(著作権法20条1項)に当たらないと主張する。
 しかしながら、本件円形表示がされた際、画像データそれ自体の改変はされていないものの、ユーザが視覚的に認識することができる、クライアントコンピュータに表示される画像の形状等が変更されているのであり、このような表示の変更がされることは著作権法20条1項所定の「改変」と評価することができる。
 また、本件のように、当該アカウントを示すアイコンとして一定の画面に表示される画像が特定の同じ形状となる設定がシステムにおいてされているとき、これに接する者はそれが上記アイコンとするために設定された画像の一部分であることを前提として接していて、一つの新しい独立した表現として表示されていると評価できないなどして「改変」されていないといえるかについて検討しても、本件のプロフィール画像は、その表示の態様からもクライアントコンピュータの画面において、円形の写真として、それ自体で一つの表現として表示されているととらえることができるものであり、そのようにとらえるとすると、著作者は、著作物を改変したそのような表現がされないことについての利益を有するといえることから、本件において「改変」がされたとするのが相当と解される。また、被告は、本件円形表示が同一性保持権侵害となるためには、原著作物を利用することを要するところ、ツイート行為1及び2はインラインリンクを設定する行為にすぎず、著作権の支分権の定義に該当する行為ではないとも主張する。しかしながら、インラインリンクを設定する行為が本件写真1又は2の複製や翻案に当たる著作権侵害行為にはならないとしても、上記のように著作物である本件写真1又は2を利用し、本件写真1又は2とは異なる表示がされたのであれば、同一性保持権が侵害されたというべきである。
エ 被告は、本件のようなトリミング表示は、リンク元のウェブページに設けられたフレームないし枠にリンク先のコンテンツを埋め込むというフレームリンクないし埋め込み型リンクを採用した場合に、リンク先のコンテンツを無理なく自然に表示するために必然的かつ不可避的に生じるものであることなどの諸事情に鑑みれば、本件円形表示は「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当するとも主張する。
 リンク先のコンテンツを無理なく自然に表示するためリンク先の画像について一定の変形が加えられることが技術的な必要のためにされるやむを得ない改変とされて同一性保持権の侵害とならない場合があるとしても、本件においては、四角形の画像の一部を、もとの画像とは全く異なる形状の丸い画像としているのであり、リンク先のコンテンツを無理なく自然に表示するといった技術的な観点からそのような変形をする必要性があるとは認められない。本件について、上記のような技術的な必要のためにされるやむを得ない改変と認めることは相当でない。
 したがって、本件円形表示は「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)には該当せず、被告の主張はいずれも理由がない。
(2)原告の同一性保持権が、「侵害情報の流通によって」侵害されたことが明らかであるか否かについて
ア ツイート行為1又は6の行為者は、本件アカウント1又は6にログインしていた者である。アカウント利用者は、プロフィール画像の設定、登録、変更をすることができ(前記前提事実(3)イ)、ツイートに当たって、本件写真1又は2をプロフィール画像として設定・登録したままにしてそれらについて本件円形表示がされることを許容するのか、別の画像に変更するのかなどの行為を選択し得る立場にあった。ツイート行為1及び6の行為者は、その上で、当該ツイートに係るウェブページ等が閲覧される際には、本件写真1又は2について本件円形表示がされることを知ってツイート1又は6を投稿した。
イ そして、上記アのようなツイート行為1及び6の行為者がツイートを投稿して、ツイート1及び6の投稿内容であるテキストデータ等を同行為者の端末からツイッターのサーバに送信・記録させると、前記のとおり、これを端緒として、直ちに、本件円形表示を行うように設定されたCSSデータが紐づけされた本件写真1又は2の画像データに対するインラインリンク情報を含む新たなHTMLデータが生成又はHTMLのデータがアップデートされ、これにより、ユーザが閲覧することによりクライアントコンピュータ上で本件円形表示がされることになり、そのうち、本件アカウント1又は6のアカウントのタイムラインにおけるツイート1又は6の左側の本件円形表示された本件写真1又は2、及び、ツイート1又は6に係るウェブページにおける本件円形表示された本件写真1又は2は、ツイート1又は6をしたことによって新たに表示されることになったものである。前記テキストデータ等の送信は、本件円形表示による改変の不可欠の要素である2つのデータ(画像データとCSSデータ)がクライアントコンピュータ上に存在し、新しく本件円形表示をさせることとなる直接の契機となった行為と評価することができる。
ウ 上記ア及びイによれば、ツイート行為1及び6の行為者は、少なくとも、本件アカウント1又は6のアカウントのタイムラインにおけるツイート1又は6の左側の本件円形表示された本件写真1又は2、及び、ツイート1又は6に係るウェブページにおける本件円形表示された本件写真1又は2について、本件円形表示による同一性保持権侵害の主体であるといえる。そして、ツイート1及び6に係るテキストデータ等は侵害情報であり、ツイート行為1及び6の行為者はこれをサーバに記録した「発信者」(プロバイダ責任制限法2条4号)であると評価するのが相当である。
4 争点4(ツイート直前ログイン時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
(1)原告は、本件アカウント1及び6につき、ツイート1及び6の直前のログイン時IPアドレス等の開示を求めるのに対し、被告は、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは、侵害情報の発信行為とは全く別個の行為であるアカウントへのログイン行為に関する情報であるから、「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書)に該当しないと主張する。
(2)プロバイダ責任制限法4条1項が「権利の侵害に係る発信者情報」と規定し、発信者情報省令4号が「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定していて、開示されるべき発信者情報について、権利の侵害や侵害情報に「係る」というように、やや幅をもって規定していることからすれば、侵害情報の発信そのものから把握される発信者情報だけでなく、侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であれば、これを開示することも許容されると解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、前記3(2)で述べたとおり、ツイート行為1及び6によって送信されたテキストデータ等は本件写真1及び2に係る原告の同一性保持権の侵害を発生させた侵害情報と評価することができる。そして、ツイッターに投稿(ツイート)するためには特定のアカウントにログインしなければならず、ツイート1又は6は直前における本件アカウント1又は6へのログイン行為によるログイン状態を利用してされたと認められる。これらのことからすれば、上記直前のログインに係る情報は、侵害情報の送信と密接に関連する情報であると評価できる。
 したがって、ツイート1及び6の直前のログインに係るIPアドレス及びタイムスタンプは侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であると認められるべきであり、原告は、被告に対し、別紙発信者情報目録第3記載の各情報の開示を請求することができる。
(3)これに対し、被告は、ツイッターのシステム上、一つのアカウントに対して、複数のログイン状態が競合することは頻繁に発生しており、ツイート行為がその直前のログイン行為によるログイン状態を利用して行われたものであるかどうかは明らかではないから、ツイート行為と直前のログイン行為の関連性は明らかとはいえない旨主張する。
 しかしながら、ツイッターのシステム上、一つのアカウントに対して複数のログイン状態が競合することがあるとしても、本件アカウント1及び6につき、複数のログイン状態が競合する状態が頻繁に発生していると認めるに足りる証拠はなく、被告の指摘は、ツイート行為1及び6の直前のログイン時におけるIPアドレス及びタイムスタンプが、侵害情報の発信に関連して把握される情報であるとの上記認定を左右しない。
 したがって、被告の上記主張には理由がない。
5 争点5(本件アカウント1ないし7につき、アカウント開設時IPアドレス等が発信者情報に該当するか)について
 原告は、本件アカウント1ないし7につき、アカウント開設時IPアドレス等の開示を求める。
 ここで、前記4と同様に、プロバイダ責任制限法及び発信者情報省令の規定文言からすれば、侵害情報の発信そのものから把握される発信者情報だけでなく、侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報であれば、これを開示することも許容されると解される一方、侵害情報の発信に関係ない情報は「権利侵害に係る発信者情報」に含まれないと解するのが相当である。
 これを本件アカウント1ないし7についてみるに、本件アカウント1においては本件写真2に係る原告の公衆送信権を侵害するプロフィール画像設定行為1が平成29年2月16日に行われているが、ツイッターにおいてはアカウントの開設時にプロフィール画像を必ず設定しなければならないというものではなく、アカウント利用者が任意の時期にこれを設定・変更できることからすれば(甲43、44)、プロフィール画像設定行為1がアカウント開設時のログイン行為とこれによるログイン状態を利用してされたとは限らず、かえって本件アカウント1は平成27年1月頃に開設されたと認められることからすれば(甲48)、プロフィール画像設定行為1がアカウント開設時のログイン状態を利用して行われたものでないことは明らかである。同様に、本件アカウント5は平成25年5月頃に開設されたと認められ(甲22)、プロフィール画像設定行為3(平成29年3月8日)がアカウント開設時のログイン状態を利用して行われたものでないことは明らかである。本件アカウント4及び6についても、プロフィール画像設定行為2及び4が、各アカウント開設時のログイン行為とこれによるログイン状態を利用してされたと認めるに足りる証拠はない。
 本件アカウント2、3及び7においては、それぞれ本件写真2又は3に係る原告の公衆送信権を侵害するツイート2、3及び7が行われているが、これらのツイートが各アカウント開設時のログイン行為とこれによるログイン状態を利用してされたと認めるに足りる証拠はない。特に、本件アカウント7は、アカウントの開設時期が平成28年11月頃と認められ(甲118)、ツイート7がアカウント開設時のログイン状態を利用してされたものでないことは明らかである。
 したがって、本件アカウント1ないし7の開設時のログインに係るIPアドレス及びタイムスタンプは侵害情報の発信に関連して把握される発信者情報とは認められないから、原告は、被告に対し、別紙発信者情報目録第1の2及び1の3記載の各情報の開示を請求することができない。
6 争点6(本件アカウント2及び4につき、ショートメールアドレスが発信者情報に該当するか)について
(1)原告は、本件アカウント2及び4につき、ショートメールアドレスは発信者情報省令3号の「電子メールアドレス」に含まれるものとして開示を求める。
(2)発信者情報省令3号は「発信者の電子メールアドレス」が発信者情報に該当することを定めるとともに、「電子メールアドレス」を「電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。」と定義する。
 総務省は、発信者情報省令制定時のパブリックコメント回答(平成14年5月10日)において、「発信者情報の開示は、通信の秘密や表現の自由という重大な権利利益に関する問題である上、ひとたび開示されてしまうと原状回復は不可能であるという性質を有していることから、開示請求の対象となる発信者情報は、訴訟による権利回復を可能にするという制度の趣旨に照らして必要最小限の範囲に予め限定するのが相当である。」、「法的な権利回復のためには、請求の相手方となるべき者を特定することが必要であるが、相手方を特定し、法的な権利回復措置を可能とするためには、氏名及び住所を開示させれば足り、あえて電話番号やファックス番号まで開示させる必要性は低いと考えられる。他方、特定電気通信役務提供者の中には、無料の電子掲示板の設置者等、氏名や住所を通常は保有していない者も存在する。このような場合であっても、電子メールアドレスは記録されていることがあるものと考えられ、これらの情報も発信者を特定するための手掛かりになり得るものであるので、電子メールアドレスも開示請求の対象に含めるのが適当である。」として、電話番号を開示対象とする必要性は低い旨回答した(乙1)。また総務省は、平成23年9月15日総務省令第128号により携帯電話端末等からのインターネット接続サービス利用者識別符号(省令5号)、SIMカード識別番号(省令6号)及びそれらのタイムスタンプ(省令7号)を、平成27年12月9日総務省令第102号により侵害情報に係るIPアドレスと組み合わされたポート番号(省令4号)を、それぞれ発信者情報として追加する発信者情報省令の改正を行なったが、電話番号を発信者情報として追加することはなく、上記5号には「利用者をインターネットにおいて識別するため」との文言を加えて、携帯電話番号等の端末系伝送路設備を識別するための電気通信番号を同号の発信者情報に含まれないものとした(乙24)。
 プロバイダ責任制限法4条は、前記1(2)のとおり、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密にかかわる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となることを踏まえ、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、特定電気通信役務提供者に対して、加害者の特定のために発信者情報の開示を請求することができるとした。このことからも、開示を請求することができる情報は、情報の発信者のプライバシー等に配慮して決定されるべきものである。そして、このような観点も踏まえ、発信者情報の内容を規定する省令において、プロバイダ責任制限法4条に基づき開示を請求することができる情報から電話番号が除かれていることは、関係する規定の文言や制定過程における説明等から明らかである。発信者情報開示請求の手続において携帯電話番号と同一の文字列をもって利用者を識別するショートメールアドレスについて開示を請求することができるとすると、同手続において、少なくとも携帯電話番号の開示を一般的に請求することができることとなるが、これは上記規定等の趣旨に反する。このことに照らせば、発信者情報省令3号における「電子メールアドレス」には、携帯電話番号と同一の文字列をもって利用者を識別するショートメールアドレスを含まないと解することが相当である。
 したがって、ショートメールアドレスは発信者情報省令3号所定の発信者情報に該当しないから、原告は、本件アカウント2及び4につき、別紙発信者情報目録第1の1(2)記載の情報(ショートメールアドレス)の開示を請求することはできない。
(3)これに対し、原告は、特定電子メール法2条1号の「電子メール」がショートメールアドレスを含むこと(特定電子メール省令2号)を根拠に、発信者情報省令3号の「電子メール」も同様に解すべきである旨主張する。
 しかしながら、特定電子メール法は、広告又は宣伝の目的で一時に多数の者に対して送信される特定電子メールの送信を適正化し、電子メールの利用についての良好な環境の整備を図り、もって高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的とするのに対し(特定電子メール法1条参照)、プロバイダ責任制限法4条は、特定電気通信による情報の流通によって権利が侵害された者に発信者情報の開示を請求する権利を認めて訴訟による権利回復を可能とすることを目的とするのであり、両者はその目的も適用の場面も異にする。また、発信者情報としての「電子メールアドレス」(発信者情報省令3号)は、個人のプライバシーや通信の秘密として保護される情報について、権利を侵害された者の被害回復の利益との関係でどこまで開示対象とするのが適切かという配慮のもとに定められるべきであるのに対し、特定電子メール法における「電子メール」は、一時に多数の者に対して送信される特定電子メールの送信等による送受信上の支障を防止する対象として定められている。特定電子メール法とプロバイダ責任制限法4条の目的や適用の場面が異なることから「電子メール」の解釈も異なり得るのであり、特定電子メール法における「電子メール」にショートメールアドレスが含まれるからといって、発信者情報としての「電子メールアドレス」にショートメールアドレスが含まれると解することはできない。
 したがって、原告の上記主張には理由がない。
 なお、プロバイダ責任制限法3条の2第2号は、特定電気通信役務提供者が、選挙運動用又は落選運動用文書図画に係る情報の流通によって自己の名誉を侵害されたとする公職の候補者等から送信防止措置を講ずるように申出があった場合で、発信者の電子メールアドレス等が通信端末機器の映像面に正しく表示されていないときには、必要な限度において当該情報の送信防止措置を講じたとしても損害賠償責任を問われない旨規定し、上記電子メールアドレス等にはショートメールアドレスが含まれる(プロバイダ責任制限法3条の2第2号、公職選挙法142条の3第3項、特定電子メール法2条3号、同条1号、特定電子メール省令2号)。しかし、上記規定は特定電気通信役務提供者が情報の送信を防止した措置によって損害賠償責任を負わない場合について規定したものであり、発信者情報の開示請求について定めたものではない。また、上記規定の電子メールアドレスにショートメールアドレスが含まれるのは、公職選挙法142条の3第3項及び同法142条の5第1項が選挙運動用又は落選運動用の文書図画等にショートメールアドレスを含めた電子メールアドレス等が発信者の連絡先として正しく表示されるようにすべき旨定めるのを受けたことによるものである。プロバイダ責任制限法4条と同法3条の2第2号の趣旨は異なり、その趣旨に応じて、「電子メール」の解釈は異なり得る。したがって、同法3条の2第2号の下における「電子メール」の範囲は、同法4条の適用される場面の「電子メール」の範囲についての前記解釈を左右するものではない。
7 争点7(本件再表示につき被告が損害賠償責任を負うか)について
(1)前記前提事実に加え、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 第1回送信防止措置当時における被告のシステム
 コンテンツ・デリバリ・ネットワーク(CDN)とは、複数のサーバを地理的に分散して設置し、画像やZIPファイル等のコンテンツをそれらの複数のサーバにキャッシュし、各ユーザからのコンテンツ配信に関するリクエストを同ユーザの最寄りのサーバが処理することにより、コンテンツの配信を高速化するシステムをいう(甲89、91、92、94)。
 被告は、第1回送信防止措置当時(平成27年2月)、ツイッターの運営のため、自社が管理するサーバを利用するほか、少なくともCDNのサービスを提供する事業者であるEdgeCast(現在の名称はVerizonDigitalMediaServicesInc.以下「EdgeCast社」という。)及びFastlyInc.(以下「Fastly社」という。)が提供するサーバを利用していた(甲92、乙21、23)。
イ 本件再表示に至る経緯
(ア)平成27年1月21日頃、本件写真1に関する本件画像データが被告の画像データ保存URLのウェブページに対応するサーバの記憶領域に保存されることにより、本件写真1に係る原告の公衆送信権が侵害された。被告は、原告からの上記侵害の事実を伝える文書により同事実を知って、平成27年2月13日頃、第1回送信防止措置をとった。(前記前提事実(8)ア及びウ)
 第1送信防止措置は、被告がツイッター運営のための使用する、CDNのサーバを含めた全てのネットワーク上に保存された本件画像データ(被告が管理するサーバに保存されたコンテンツとしてのデータ、同サーバに保存されたキャッシュデータ及びCDNの事業者によって提供されるサーバに保存されたキャッシュデータ)を削除するように指令(以下「本件削除指令」という。)すると共に、本件画像データが保存された画像データ保存URLに対するインラインリンク情報を削除するというものであった(乙21、弁論の全趣旨、前記前提事実(8)エ)。
(イ)原告は、平成27年2月13日、本件画像データが画像データ保存URL上で閲覧できなくなっていることを確認し、同年6月末日時点においても、同状態が維持されていることを確認した(甲35、42ないし44)。
(ウ)本件画像データは、遅くとも平成28年5月26日には、画像データ保存URL上において再び閲覧可能になり、原告は、平成28年5月26日、本件再表示を発見し、被告を相手方とする別件訴訟において、同年6月10日付け訴えの(追加的)変更申立書にこれを記載して被告に送付した(甲7ないし10、35、42)。
(エ)被告は、上記訴えの変更申立書を受領して本件再表示の発生を知ると、速やかに本件削除指令と同じ内容で、第2回送信防止措置を行い、平成28年6月13日までに、本件画像データは画像データ保存URL上で閲覧できない状態となった。
 その後、本件画像データは、画像データ保存URL上で閲覧することはできない。(甲36ないし40、弁論の全趣旨)。
ウ 本件再表示の原因
(ア)被告は、平成28年6月、原告の上記イ(ウ)の指摘により、いったん削除したはずの画像が再び表示されるという問題があることを認識した。被告は、同年、本件再表示以前に、もう1件同様の再表示が発生した事実を認識していた。被告は、その時点では、それが関連する画像に特有の原因のものなのか、システム上の問題なのか分からなかった。
(イ)被告は、削除した写真の再表示について、被告が利用していたCDNサービスを提供する事業者であったEdgeCast社及びFastly社と共同して調査を行った。その結果、再表示に関係して、システム又はソフトウェア・プログラムが意図された動作をしない又は意図されていない動作をするとの事象であるバグの問題があり、そのバグは、複数の事業者のネットワークをまたいで発生するものではなく、また被告のシステムやEdgeCast社以外のCDN事業者のシステムに起因するものでもなく、EdgeCast社のネットワーク内部における削除指令に関するものであることが確認された。(乙21)
(ウ)被告は、EdgeCast社に対してバグの問題を通知し、同社はこの問題を解決した。なお、同社がどのようにバグを解決したかについては不明である。(乙21)
(エ)被告のシニア・リティゲーション・カウンシルであるBは、本件再表示が発生した原因が完全に明らかになっているわけではないが、本件再表示は、EdgeCast社がCDNにおいて利用するサーバに本件画像データのキャッシュデータが残存していたために発生したものであり、そのようなデータが残存していた原因は、EdgeCast社のシステム内において、削除指令が同社が利用するサーバの一部に到達しないというバグが存在したことであると推測している。同推測を覆すに足りる証拠や同推測を不合理とするような事情はない。
 また、同人は、令和元年8月29日時点において、ツイッターの全世界における利用において、被告が送信防止措置を講じた画像等が再表示された事例は、本件再表示を含めて10件未満であると推測している(乙21)。
(オ)以上によれば、本件再表示は、被告が利用していたCDNの事業者の1つであるEdgeCast社によって提供されていたサーバの一部に本件画像データのキャッシュが残存していたことによって発生し、その原因は、同社のシステムにバグ(以下「本件バグ」という。)が存在し、本件削除指令がEdgeCast社のサーバに行き渡らなかったことにあると認められる。
(2)原告は、被告が、本件再表示をさせて、原告の本件写真1に係る著作権(自動公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害したと主張する。
 しかしながら、前記(1)のとおり、本件再表示は、被告が利用していたCDNにおいて、CDNの事業者によって提供されていたサーバの一部に本件画像データのキャッシュが残存していたことによって発生し、その原因は、上記事業者の1つであるEdgeCast社のシステムに本件バグが存在し、本件削除指令がEdgeCast社のサーバに行き渡らなかったことにあると認められる。そうすると、被告が、積極的に何らかの行為をして本件再表示を発生させ、原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害したとは認められない。
 したがって、上記原告の主張には理由がない。
(3)次に、原告は、被告には条理又は著作権法112条1項に基づく削除義務が認められ、これに違反して完全な送信防止措置をとらなかったと主張するので、以下この点について検討する。
ア 被告は、前記(1)イ(ア)のとおり、被告は本件写真1に係る公衆送信権侵害の事実を知った後、速やかに本件削除指令をして第1回送信防止措置をした。本件削除指令は、被告がツイッター運営のために使用する、CDNのサーバを含めた全てのネットワーク上に保存された本件画像データ(被告が管理するサーバに保存されたコンテンツとしてのデータ、同サーバに保存されたキャッシュデータ及びCDNの事業者によって提供されるサーバに保存されたキャッシュデータ)を削除するように命ずるものであった。そして、第1送信防止措置後、本件画像データが画像データ保存URL上で閲覧できなくなっていることが確認され、この状態が少なくとも4か月以上維持されたことからしても前記(1)イ(イ))、本件削除指令は、送信防止措置として、その方法自体は適切なものであったといえる。
 他方、前記(1)ウ(オ)のとおり、被告が利用していたEdgeCast社のシステムには削除するよう指示を受けた画像が再表示される本件バグが存在した。本件再表示は本件バグによって発生したものと認められるから、本件再表示を防止するためには、本件バグに対してプログラムの修正等の適切な対応を講じる必要があった。そうすると、本件再表示について、被告の損害賠償責任が肯定されるのは、被告が上記対応を講じる義務があったにもかかわらず、これを講じなかったといえる場合であり、少なくとも、被告が本件バグに対して適切な対応を講じる義務が存在することが前提となる。
 ここで、本件バグによる再表示の問題は平成28年6月頃、本件再表示を含む2件の再表示の発生により被告の知るところとなったのであり、第1回送信防止措置がとられた平成27年2月当時、本件バグの存在は被告に知られていなかった(前記(1)ウ(ア))。また、本件再表示同様の再表示は全世界で10件未満しか発生しておらず(前記(1)ウ(エ))、本件バグによる問題の発生の頻度は極めて小さく、第1回送信防止措置は客観的に送信防止措置の実質を有するといえるものであり、当時、被告において本件バグの内容等を知り得たといえるものではなかったといえる。
 これらのことに照らせば、第1回送信防止措置の当時、本件削除指令は再表示を防止するものとして合理的なものであり、被告は、本件削除指令をすることを超えて、本件バグに対して適切な対応を講じる義務を負っていたとは認められないとするのが相当である。また、第1回送信防止措置から本件再表示が発生するまでの間をみても、本件バグに関する問題が合計2件しか認識されておらず、その原因がシステムにあるか否かは当時の被告には不明であり、不明であったことが客観的に不合理といえることをうかがわせる事情もないことに照らせば、本件バグに対してプログラムの修正等の適切な対応を講じる義務があったとは認められない。
 以上によれば、仮に条理又はその他の原因に基づいて被告が本件写真1を削除する義務を負うとしても、被告は、合理的な措置と評価することができる本件削除指令をすることを超えて、本件バグに対して適切な対応を講じる義務はそもそもなかったというべきであるから、その余を判断するまでもなく、その義務があることを前提とする本件再表示に係る損害賠償責任を負わない。
イ 原告は、被告は、削除義務の一内容として送信防止措置が奏功したかを適切かつ必要な範囲で確認する送信防止措置奏功確認義務を負うにもかかわらず、第1回送信防止措置が奏功しているか否かを一度も確認せず、本件再表示による違法送信状態を継続させたとも主張する。
 しかしながら、本件再表示までの間、被告が本件バグに対して適切な対応を講じる義務があったとはいえないことは前記アのとおりである。原告の主張は採用することができない。
(4)さらに、原告は、原告の委託に基づいて第1送信防止措置を講じた被告は、準委任契約又は事務管理に基づいて善管注意義務を負っていたにもかかわらず、これに違反して不完全な送信防止措置を講じ、本件再表示を招来したとも主張する。
 しかし、被告が侵害情報の送信を防止する措置を講じたとしても、そのことによって、原告との間に特段の合意がされたとは認められないし、特段の合意等もなく、被告がそれ以前に比べ特段に内容的に加重された義務を負うとは認められない。本件再表示までの間、被告が本件バグに対して適切な対応を講じる義務があったとはいえず、本件再表示について損害賠償責任を負わないことは前記(3)のとおりである。原告の主張は採用することができない。
(5)以上によれば、被告は本件再表示について、原告に発生した損害を賠償する義務を負わない。
8 結論
 以上によれば、原告の請求は、原告の公衆送信権を侵害するものであることが当事者間に争いがない行為(前記前提事実(4)ア(ア)、イ、ウ、エ(ア)、オ(ア)、カ(ア)、キ)をした本件アカウント1ないし7の各利用者に係る別紙発信者情報目録第1の1(1)記載の情報、及び、原告の同一性保持権を侵害した本件アカウント1及び6における当該ツイートの直前にこれらのアカウントにログインした際の同目録第3記載の情報の開示を求める限度で理由があり、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 安岡美香子
 裁判官 古川善敬


(別紙省略)
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