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【事件名】「はるか夢の址」事件
【年月日】令和元年11月18日
 大阪地裁 令和元年(ワ)第6020号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年9月17日)

判決
原告 株式会社講談社
同訴訟代理人弁護士 塩月秀平
同 稲垣勝之
同 小坂準記
同 小勝有紀
同 呉竹辰
同 松岡亮
被告 P1
被告 P2
被告 P3


主文
1 被告P1は、原告に対し、被告P2及び同P3と、以下の金員の限度で連帯して、1億6558万0928円及びこれに対する令和元年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(1)被告P2との関係において、1億6558万0928円及びこれに対する令和元年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員。
(2)被告P3との関係において、1億6536万1011円及びこれに対する同月20日から支払済みまで年5分の割合による金員。
2 被告P2は、原告に対し、被告P1及び同P3と、以下の金員の限度で連帯して、1億6558万0928円及びこれに対する令和元年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(1)被告P1との関係において、1億6558万0928円及びこれに対する令和元年7月26日から支払済みまで年5分の割合による金員。
(2)被告P3との関係において、1億6536万1011円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員。
3 被告P3は、原告に対し、被告P1及び同P2と、以下の金員の限度で連帯して、1億6536万1011円及びこれに対する令和元年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(1)被告P1との関係において、1億6536万1011円及びこれに対する令和元年7月20日から支払済みまで年5分の割合による金員。
(2)被告P2との関係において、1億6536万1011円及びこれに対する同月26日から支払済みまで年5分の割合による金員。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、原告と被告P1及び同P2との間においては、これを被告P1及び同P2の連帯負担とし、原告と被告P3との間においては、これを1000分し、その1を原告の負担とし、その余を被告P3の負担とする。
6 この判決は、第1項〜第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して、1億6558万0928円及びこれに対する令和元年7月20日(被告P1と同P3との連帯関係につき)又は同月26日(被告P2と他の被告らとの連帯関係につき)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 当事者の主張
1 原告の主張(請求原因)
(1)原告の著作権
 別紙著作物目録の「著作物の名称」欄記載の各漫画雑誌合計353号(以下、これらを併せて「原告各雑誌」という。また、誌名ごとに併せて「本件各週刊少年マガジン」のようにいい、個別の雑誌については、誌名及び同別紙の番号欄記載の番号を組み合わせて「本件週刊少年マガジン1」のようにいう。)は、いずれも編集著作物であるところ、原告は、そのいずれについても、編集著作者として著作権を有する。
(2)被告らの著作権侵害行為
 被告らは、共謀の上、被告P3が、別紙著作物目録の「created」欄記載の各日時頃、「サイバーロッカー」と呼ばれるオンラインストレージサイト(本件で問題となるオンラインストレージサイトは複数あるが、以下、一括して「本件サイバーロッカー」という。)のサーバに、各日時に対応する同別紙の「著作物の名称」欄記載の各漫画雑誌について、自ら購入した電子書籍の画面を表示させた上でキャプチャする方法により電子化させたファイル(以下「原告各雑誌複製ファイル」という。)をアップロードすること(以下、これらのアップロード行為を併せて「本件各アップロード行為」という。)により、インターネットに接続されている自動公衆送信装置であるサーバコンピュータの記録媒体に原告各雑誌複製ファイルを記録、蔵置し、当該ファイルを不特定多数の者がダウンロードできる状態にし、もって、原告の原告各雑誌に係る著作権(複製権、自動公衆送信権〔送信可能化権を含む。以下同じ〕)を侵害した。
(3)故意
 被告らは、本件各アップロード行為に当たり、当該行為が著作権侵害に当たることを認識していた。
(4)損害の発生及び額並びに因果関係
 原告は、本件各アップロード行為により、以下のとおり、合計1億6558万0928円の損害を被った。
ア 逸失利益(著作権法114条1項による算定)
 本件各アップロード行為によりアップロードされたファイルのダウンロード回数は、100万8743回である。もっとも、本件各アップロード行為の中には、複数号のデータを1つのファイルにまとめてアップロードしたものが3件存在する。これらにつき単体の漫画雑誌ごとにダウンロード数を計算すると、原告各雑誌複製ファイルのダウンロード回数は、101万5511回となる(個別の雑誌ごとのダウンロード回数は、別紙本件計算表の「downloaded」欄記載のとおりである。)。
 他方、原告は、原告各雑誌を販売しているところ、その本体価格は、別紙著作物目録の「本体価格(円)」欄記載のとおりである。また、電子書籍一般の価格構造における出版社の利益率は最低でも45%とされていることに鑑みると、原告各雑誌に係る販売利益率が45%を下回ることはない。
 したがって、ダウンロード数、本体価格及び販売利益率を乗じて算定した本件各アップロード行為により原告が被った逸失利益は、合計1億5052万8116円を下回らない(個別の雑誌ごとには、別紙本件計算表の「本体価格×ダウンロード数」欄参照)。
イ 弁護士費用
 本件訴訟につき弁護士に依頼したことによる弁護士費用相当損害額は、1505万2812円を下らない。
(5)まとめ
 よって、原告は、被告らに対し、著作権(複製権及び自動公衆送信権)侵害の共同不法行為に基づき、連帯して、損害賠償金1億6558万0928円及びこれに対する不法行為後の日である訴状送達の日の翌日(被告P1及び同P3については令和元年7月20日。被告P2については同月26日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 被告らの主張等(請求原因に対する認否等)
(1)被告P1及び同P2について
 被告P1及び同P2は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。
(2)被告P3について
ア 原告の著作権(上記1(1))について
 認める。
イ 被告らの著作権侵害行為(上記1(2))について
 否認ないし争う。本件各アップロード行為の全てを被告P3が行ったわけではなく、別の者がアップロードを行い、リンク先として提供されたURLを代理投稿したものや、外部のウェブサイト等からリンク先のURLを転載したものも多数存在する。
ウ 故意(上記1(3))について
 否認ないし争う。
エ 損害の発生及び額並びに因果関係(上記1(4))について
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 被告P1及び同P2に対する請求について
 被告P1及び同P2は、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を争うことを明らかにしないものと認め、これを自白したものとみなす。
 以上の事実からすると、原告の被告P1及び同P2に対する請求は、いずれも認められる。
2 被告P3に対する請求について
(1)原告の著作権について
 原告が原告各雑誌の著作権を有することは、当事者間に争いがない。
(2)被告らの著作権侵害行為について
ア 認定事実
 証拠(各項に掲げたもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア)原告各雑誌(合計353号)について、いずれも、何らかの方法により電子化されたファイル(原告各雑誌複製ファイル)が本件サイバーロッカーのサーバにアップロードされ、不特定多数の者がこれらをダウンロードできる状態にされた(甲13、19)。
(イ)被告P3は、平成27年3月30日午前2時36分16秒頃〜平成29年7月19日午前2時1分12秒頃までの間に、「はるか夢の址」と題するウェブサイト(以下「本件サイト」という。)に、原告各雑誌複製ファイルを始めとする漫画雑誌等が電子化されたファイルに関して、当該漫画雑誌等のタイトルとともにアップロード先のサイバーロッカーのURL等の情報を合計4223件投稿した。このうち、コメント欄に「代理投稿」の文言が含まれる投稿は1095件であった。また、この4223件のうち、原告各雑誌複製ファイルに係る投稿件数は352件(ただし、号数は、原告各雑誌353号分)であった(甲13、19、20)。
 被告P3は、自ら漫画雑誌等を電子化しアップロードする場合、以下のような方法によっていた。すなわち、まず、電子書籍を購入し、購入した電子書籍をビューワーでパソコンの画面上に表示し、その表示画面を画面キャプチャにより別形式に電子化してフォルダに保存し、ファイルの圧縮等を行う。この作業に15分程度を要する。その後、当該ファイルをサイバーロッカーにアップロードし、アップロード先のURLを確認する。この作業に10分程度を要する。さらに、本件サイトに、アップロード先のURLその他所定の事項を入力するなどして、投稿を完了する。この作業に10分程度を要する(甲8、18)。
(ウ)被告P3による電子書籍の購入(甲8、18)
 被告P3は、平成29年6月6日午前零時1分53秒〜同年7月19日午前零時1分34秒の間、原告各雑誌のうち、以下の各電子書籍を購入した。
a 週刊少年マガジン
 被告P3は、別紙著作物目録第1の75番〜81番の「created」欄記載の各日時頃、それぞれ、本件週刊少年マガジン75〜81の電子書籍を購入した。
b 月刊少年マガジン
 被告P3は、別紙著作物目録第2の28番の「created」欄記載の日時頃、本件月刊少年マガジン28の電子書籍を購入した。
c 別冊少年マガジン
 被告P3は、別紙著作物目録第3の22番及び23番の「created」欄記載の各日時頃、それぞれ、本件別冊少年マガジン22及び23の電子書籍を購入した。
d ヤングマガジン
 被告P3は、別紙著作物目録第5の85番〜90番の「created」欄記載の各日時頃、それぞれ、本件ヤングマガジン85〜90の電子書籍を購入した。
e 月刊ヤングマガジン
 被告P3は、別紙著作物目録第6の5番の「created」欄記載の日時頃、本件月刊ヤングマガジン5の電子書籍を購入した。
f モーニング
 被告P3は、別紙著作物目録第7の71番〜76番の「created」欄記載の各日時頃、それぞれ、本件モーニング71〜76の電子書籍を購入した。
g イブニング
 被告P3は、別紙著作物目録第8の45番〜47番の「created」欄記載の各日時頃、それぞれ、本件イブニング45〜47の電子書籍を購入した。
(エ)その他
a 被告P3は、本件ヤングマガジン87及び本件イブニング46を含む書籍データのアップロード等の行為につき、著作権法違反の事実により起訴され、有罪判決を受けた(甲4、17)。
 被告P3は、その捜査段階において、平成27年秋頃以降、「『ヤングマガジン』は、…毎号だいたい私が投稿していました。」、すなわち、「ヤングマガジン」の電子書籍をおおむね毎号購入し、これを画面キャプチャにより電子化したファイルを本件サイバーロッカーのサーバにアップロードしては、本件サイトにアップロード先のURL等の情報を投稿することを繰り返した結果、本件サイトの利用者のうちデータのアップロードを行う者の間では、暗黙の了解として、「ヤングマガジン」については「◎丼◎」(本件サイトにおける被告P3のユーザ名)が「担当」すなわち電子化から投稿までを行う者であると認識されていたと供述していた(甲8)。それとともに、被告P3は、平成27年夏頃の投稿開始以降、「イブニング」について、上記同様の経過をたどった旨をも供述していた(甲18)。
b 被告P1は、本件サイトの運営管理者であった。また、本件サイトにおいては、広告を掲載してアフィリエイト収入を得る仕組みが構築されていたところ、これを中心的に構築したのは被告P2であった。他方、被告P3は、本件サイトの実質的な運営管理を任されていた一方、本件サイバーロッカーを含むサイバーロッカーからアップロード者に対してダウンロード数に応じて支払われる報酬を目当てに、漫画雑誌等を電子化してそのファイルをアップロードする行為を自ら行っていた(争いのない事実、甲4、6、21、23、24)。
イ 検討
(ア)被告P3がファイルのアップロード等をした雑誌
a 本件各ヤングマガジン及び本件各イブニングについて
 被告P3は、自己の刑事事件の捜査段階で、「ヤングマガジン」及び「イブニング」について、平成27年夏頃(「イブニング」)ないし同年秋頃(「ヤングマガジン」)以降、おおむね毎号を購入し、電子化、アップロード及び本件サイトへのURLの投稿を行っていたこと、本件サイトの利用者において被告P3がこうした行為を「担当」する者であることが暗黙の了解となっていたことを供述しているところ(前記ア(エ)a)、平成29年6月6日〜同年7月19日の購入履歴により、本件ヤングマガジン85〜90及び本件イブニング45〜47の購入は裏付けられている(前記ア(ウ)a、d。なお、これらの号数はいずれも連続している。)。また、本件サイトへの投稿間隔及び投稿時間に着目すると、本件ヤングマガジン85〜90及び本件イブニング45〜47と他の本件各ヤングマガジン及び本件各イブニングとは、被告P3が本件サイトに関与するようになった当初の時期を除くと、投稿間隔の点については発売日に基づくと思われる規則性がうかがわれるとともに、投稿時間の点についてはおおむね共通している。他方、本件各ヤングマガジン及び本件各イブニングの投稿開始時期は、上記供述とおおむね符合する。
 このことと、被告P3による本件サイトへのURLの投稿4223件のうち、コメント欄に「代理投稿」との記載があるものが1095件あり(前記ア(イ))、他の3128件は被告P3自ら電子化したファイルを本件サイバーロッカーのサーバにアップロードした上でそのURLを本件サイトに投稿したものと合理的に推認されること、及び被告P3が報酬目当てでこうした行為を行っていたこと(前記ア(エ)b)を併せ考慮すると、上記捜査段階における同人の供述の信用性は高いといえる。
 以上によれば、被告P3は、別紙著作物目録第5及び同第8の「created」欄記載の各日時頃、本件サイバーロッカーのサーバに、各日時に対応する同別紙の「著作物の名称」欄記載の漫画雑誌(本件各ヤングマガジン及び本件各イブニング)について、購入した電子書籍のデータを別形式で電子化させたファイルをアップロードすることにより、これらを不特定多数の者がダウンロードできる状態にしたことが認められる。
 これに対し、被告P3は、アップロード自体は別の者がしたものが含まれるなどと主張する。しかし、被告P3の本件サイトに対する投稿には、アップロードをした第三者から提供されたURLを代理投稿したものが含まれることはうかがわれるものの、本件各ヤングマガジン及び本件各イブニングとの関係で、被告P3の上記主張を具体的に裏付ける証拠はなく、上記認定を覆すに足りる証拠はない。そうである以上、この点に関する被告P3の主張は採用できない。
b 本件各週刊少年マガジン、本件各月刊少年マガジン、本件各別冊少年マガジン、本件各月刊ヤングマガジン及び本件各モーニングについて
 前記ア(ウ)のとおり、被告P3は、平成29年6月6日午前零時1分53秒〜同年7月19日午前1分34秒の間、本件週刊少年マガジン75〜81、本件月刊少年マガジン28、本件各別冊少年マガジン22及び23、本件月刊ヤングマガジン5及び本件モーニング71〜76の各電子書籍を購入している。前記ア(イ)のとおり、被告P3が電子書籍の購入、本件サイバーロッカーのサーバへのアップロード及び本件サイトへのURLの投稿を自ら行う場合、これらの作業は近接した時間内に連続的に行われていたと認められるところ、被告P3の購入した上記各書籍については、いずれも購入から近接した時間内に本件サイトにURLが投稿されたことが認められる(甲8、13、18、弁論の全趣旨)。そうすると、上記各書籍については、被告P3が購入後にそのデータを電子化し、そのファイルを本件サイバーロッカーのサーバにアップロードした上で、本件サイトにURLを投稿したものと認められる。
 また、本件サイトへの投稿間隔及び投稿時間に着目すると、本件各ヤングマガジン及び本件各イブニングの場合と同様に、本件各週刊少年マガジン、本件各月刊少年マガジン、本件各別冊少年マガジン、本件各月刊ヤングマガジン及び本件各モーニングは、いずれも、被告P3が本件サイトに関与するようになった当初の時期を除き、投稿間隔の点についてはそれぞれ発売日に基づくと思われる規則性がうかがわれるとともに、投稿時間の点についてはおおむね共通している。本件サイトに関与するようになった当初の時期についても、被告P3が本件各ヤングマガジン及び本件各イブニングについての投稿を開始した時期と大きくは異ならないことなどに鑑みると、被告P3が電子化からURLの投稿までを実行したと見ることを妨げる事情とまではいえない。
 これらの事情に加え、被告P3による本件サイトへのURLの投稿4223件のうち、コメント欄に「代理投稿」との記載があるものを除く3128件は、被告P3自ら電子化したファイルを本件サイバーロッカーのサーバにアップロードした上でそのURLを本件サイトに投稿したものと合理的に推認されること、及び被告P3が報酬目当てでこうした行為を行っていたこと(前記ア(エ)b)を併せ考慮すると、被告P3は、本件各週刊少年マガジン、本件各月刊少年マガジン、本件各別冊少年マガジン、本件各月刊ヤングマガジン及び本件各モーニングについても、別紙著作物目録第1〜第3、同第6及び同第7の「created」欄記載の各日時頃、本件サイバーロッカーのサーバに、各日時に対応する同別紙の「著作物の名称」欄記載の漫画雑誌について、購入した電子書籍のデータを別形式で電子化させたファイルをアップロードすることにより、これらを不特定多数の者がダウンロードできる状態にしたことが認められる。
 これに対し、被告P3は、アップロード自体は別の者がした可能性があると主張する。しかし、本件各ヤングマガジン及び本件各イブニングの場合と同様に、この点に関する被告P3の主張は採用できない。
c 本件各少年マガジンエッジについて
 本件各少年マガジンエッジについては、別紙著作物目録第4記載のいずれの雑誌についても、被告P3がその電子書籍を購入したことを認めるに足りる直接的な証拠はない。また、本件少年マガジンエッジ1〜3の発売時期はそれぞれ異なると見られるにもかかわらず、一まとめに電子化されたファイルのアップロード先のURLが本件サイトに投稿されたものと認められ(甲13、19、弁論の全趣旨)、本件サイトへの投稿態様が本件各ヤングマガジン及び本件各イブニングとは異なる。
 したがって、本件各少年マガジンエッジについては、被告P3が購入した電子書籍のデータを別形式で電子化させたファイルをアップロードすることにより、これらを不特定多数の者がダウンロードできる状態にしたと認めることはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。
d 小括
 以上より、被告P3は、原告各雑誌(ただし、本件各少年マガジンエッジを除く。以下同じ。)につき、購入した電子書籍のデータを別形式で電子化させたファイルをアップロードすることにより(以下、これらのアップロード行為を併せて「本件各違法アップロード行為」という。)、これらを不特定多数の者がダウンロードできる状態にしたものと認められる。
(イ)本件サイトの運営管理に関する被告ら相互の役割等(前記ア(エ)b)に鑑みると、被告P3による本件各違法アップロード行為につき、被告らの共謀が認められる。この点に関する被告P3の主張は採用できない。
ウ まとめ
 以上より、被告らは、共謀の上、被告P3が、本件各違法アップロード行為により、インターネットに接続されている自動公衆送信装置であるサーバコンピュータの記録媒体に原告各雑誌複製ファイル(本件各少年マガジンエッジに係るファイルを除く。)を記録、蔵置し、当該ファイルを不特定多数の者がダウンロードできる状態にしたことが認められる。このような本件各違法アップロード行為は、原告の原告各雑誌に係る著作権(複製権、自動公衆送信権)を侵害するものである。
(3)故意について
 証拠(甲8、10、18、20)及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、本件各違法アップロード行為が原告各雑誌に係る原告の著作権を侵害することを認識していたことが認められる。これに反する被告P3の主張は採用できない。
(4)損害の発生及び額並びに因果関係について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各違法アップロード行為により、逸失利益及び弁護士費用相当額の損害を被ったことが認められる。その額については、以下のとおりである。
ア 逸失利益(著作権法114条1項による算定)
(ア)原告各雑誌複製ファイル(本件各少年マガジンエッジに係るファイルを除く。)の複製物の数量
 証拠(甲13、19)によれば、本件各違法アップロード行為によりアップロードされた原告各雑誌に係るファイルのダウンロード回数は、100万8497回であると認められる(別紙本件計算表の「downloaded」欄参照)。もっとも、証拠(甲13、19、弁論の全趣旨)によれば、本件各違法アップロード行為のうち、本件月刊少年マガジン3及び本件別冊少年マガジン1〜3は、いずれも、複数号のデータを1つのファイルにまとめてアップロードしたものと認められる。これらに係る損害額の算定に当たっては、単体の漫画雑誌ごとにダウンロード数を計上するのが相当である。そうすると、本件各違法アップロード行為による原告各雑誌に係るファイルのダウンロード回数は101万4773回であるものとして損害額を算定するのが相当である。
(イ)原告の単位利益額
 証拠(甲2、13)及び弁論の全趣旨によれば、原告が原告各雑誌を販売していること、その本体価格は別紙著作物目録の「本体価格(円)」欄にそれぞれ記載のとおりであることが認められる。
 また、証拠(甲25の1〜25の4)によれば、平成27年〜平成30年にそれぞれ発行された調査報告書には、電子書籍の価格構造における出版社の利益率は、配信プラットフォームの違いに応じた代表的な複数の事例の中で、最も低いもので45%であることが認められる。本件各違法アップロード行為の対象となった原告各雑誌に係る販売利益率がこの割合を下回ることをうかがわせる事情はないから、これが45%であるものとして算定することには十分な合理性がある。
(ウ)逸失利益額
 各雑誌に係るファイルごとのダウンロード数並びに雑誌ごとの本体価格及び販売利益率を乗じると、1億5032万8192円となる。他方、被告P3は、「販売することができないとする事情」(著作権法114条1項ただし書)について、何ら主張立証していない。したがって、本件各違法アップロード行為による原告の逸失利益額は、同額であると認められる。
イ 弁護士費用相当損害額
 原告の逸失利益額(上記ア)その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告らの本件各違法アップロード行為と相当因果関係に立つ弁護士費用相当損害額は、1503万2819円と認めるのが相当である。
ウ 小括
 以上によれば、被告らの本件各違法アップロード行為と相当因果関係に立つ損害の額は、1億6536万1011円とするのが相当である。これに反する被告P3の主張は採用できない。
(5)まとめ
 よって、原告は、被告P3に対し、被告P1及び同P2と連帯して、著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害の共同不法行為に基づき、1億6536万1011円の損害賠償請求権、及び被告P1との関係においてはこれに対する令和元年7月20日から、被告P2との関係においてはこれに対する同月26日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求権を有する。
第4 結論
 以上より、被告P1及び同P2に対する原告の各請求は理由があるからいずれも全部認容し、被告P3に対する原告の請求は上記第3の2(5)の限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 野上誠一
 裁判官 大門宏一郎


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別紙 本件計算表
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