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【事件名】ハードオフのピクトグラム事件(2)
【年月日】令和元年10月23日
 知財高裁 令和元年(ネ)第10045号 標章使用差止反訴請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成29年(ワ)第37350号)
 (口頭弁論終結日 令和元年9月11日)

判決
控訴人 有限会社エス・オー・ディ
同訴訟代理人弁護士 藤巻元雄
同 犬井純
同補佐人 牛木理一
被控訴人 株式会社ハードオフコーポレーション
同訴訟代理人弁護士 高橋善樹
同 伊藤真
同 平井佑希
同 丸田憲和


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2(1)被控訴人は、原判決別紙反訴原告標章目録1ないし5記載の各標章及び同反訴原告ピクトグラム目録0、同1ないし5記載の各ピクトグラム並びに同反訴原告関連標章目録0、同1ないし4記載の各標章を展示し、宣伝用のカタログ、パンフレット、名刺、封筒に付して頒布し、車輌に表示し、テレビコマーシャル、ウェブサイトに掲出してはならない。
(2)被控訴人は、その本店及び事務所、店舗、倉庫、車輌、ロードサイド看板から、原判決別紙反訴原告標章目録1ないし5記載の各標章及び同反訴原告ピクトグラム目録0、同1ないし5記載の各ピクトグラム並びに同反訴原告関連標章目録0、同1ないし4記載の各標章を抹消せよ。
3(1)被控訴人は、原判決別紙反訴被告標章目録1ないし5記載の各標章を展示し、宣伝用のカタログ、パンフレット、名刺、封筒に付して頒布し、車輌に表示し、テレビコマーシャル、ウェブサイトに掲出してはならない。
(2)被控訴人は、その本店及び事務所、店舗、倉庫、車輌、ロードサイド看板から、原判決別紙反訴被告標章目録1ないし5記載の各標章を抹消せよ。
4(1)被控訴人は、原判決別紙反訴原告関連標章追加目録0記載の各標章及び同反訴原告関連標章追加目録1記載の各標章並びに同反訴原告ピクトグラム追加目録0及び1記載の各ピクトグラムを展示し、宣伝用のカタログ、パンフレット、名刺、封筒に付して頒布し、車輌に表示し、テレビコマーシャル、ウェブサイトに掲出してはならない。
(2)被控訴人は、その本店及び事務所、店舗、倉庫、車輌、ロードサイド看板から、原判決別紙反訴原告関連標章追加目録0記載の各標章及び同反訴原告関連標章追加目録1記載の各標章並びに同反訴原告ピクトグラム追加目録0及び1記載の各ピクトグラムを抹消せよ。
第2 事案の概要等(略称は、特に断らない限り原判決に従う。)
1 本件は、控訴人(原審反訴原告)が、原判決別紙反訴原告標章目録、同反訴原告関連標章目録及び同反訴原告関連標章追加目録記載の各標章(ただし、反訴原告標章目録0記載の標章を除く。以下、本項において同じ。)並びに原判決別紙反訴原告ピクトグラム目録及び同反訴原告ピクトグラム追加目録記載の各ピクトグラムの著作権者であると主張して、控訴人が作成した上記各標章及び各ピクトグラム並びにそれらに類似等する被控訴人(原審反訴被告)が作成等した原判決別紙反訴被告標章目録記載の各標章(ただし、原判決別紙反訴被告標章目録0記載の標章を除く。以下、本項において同じ。)を使用する被控訴人に対し、@控訴人及び被控訴人間の合意、A著作権法112条又は商標法29条に基づき、原判決別紙反訴原告標章目録、同反訴原告関連標章目録、同反訴原告関連標章追加目録及び同反訴被告標章目録記載の各標章並びに同反訴原告ピクトグラム目録、同反訴原告ピクトグラム追加目録記載の各ピクトグラムについて、展示その他の使用行為の差止め及び店舗における表示の抹消等を求める事案である。
2 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴した。なお、控訴人は、当審において、原判決別紙反訴被告ピクトグラム追加目録記載の各ピクトグラムについての差止め及び表示の抹消等を求める請求(原判決「事実及び理由」の第1の4に係る請求)を取り下げ、被控訴人はこれに同意した。
3 前提事実
 前提事実は、原判決「事実及び理由」の第2の2(原判決3頁23行目から6頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決5頁20行目「などにより」の後に「使用」を付加する。)。
4 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件における争点及び当事者の主張は、次のとおり補正し、後記5から7のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」の第2の3及び4(原判決6頁5行目から12頁16行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決6頁23行目及び12頁14行目の各「無償使用許諾契約」を、いずれも「使用許諾契約」と改める。
(2)原判決7頁2行目の「反訴原告が反訴被告から」を「反訴被告が反訴原告に対する」と改める。
(3)原判決8頁5行目の「ピクトサイン」を「ピクトグラム」と改める。
5 争点1(被控訴人と控訴人の間において、被控訴人が控訴人に対する店舗デザイン設計監理業務の委託を止めた場合には、控訴人の被控訴人に対する反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムの無償使用許諾が終了し、被控訴人が控訴人に上記各標章や各ピクトグラムの制作料及び使用料を支払うという合意があったか)について
(控訴人の主張)
ア 反訴原告主張合意の成立
 控訴人と、被控訴人は、平成14年2月に依頼を受けたガレージオフの直営1号店(新潟近江店)の店舗デザインとロゴ、ピクトグラムのデザインについて、ロゴ、関連ロゴ3個、ピクトグラム追加分2個を納品し、その店舗デザイン設計料50万円の支払を受けた(乙14の4)。
 その際、被控訴人代表者から、ロゴ、ピクトグラムのデザイン料などについて、「今後もガレージオフの店舗デザインを控訴人に依頼するので、店舗デザインの依頼をする限り請求するな。」との申出を受けたことから、控訴人代表者が「本当にガレージオフの店舗が続くのですか。」「他の業者に店舗デザイン設計を頼んだときはどうなるのですか。」と確認した上で、「そのときは、ロゴ、ピクトグラムのデザイン料を下さいね。」と伝えたところ、被控訴人代表者は「わかったよ。」と答えた。そのため、控訴人は、やむなくガレージオフの店舗デザインの設計の依頼を受ける限り、ガレージオフのロゴのデザインなどの請求をしないと合意した。このとき、被控訴人代表者の口から初めて店舗デザインの設計の依頼をしなくなったら、「ロゴ、ピクトグラムのデザイン料などを支払う。」との約束(反訴原告主張合意)を得たため、この段階で、上記の点が、控訴人と被控訴人との合意となったものである。
イ 反訴原告主張合意を裏付ける事実
 前記アの反訴原告主張合意を裏付ける事実は、次のとおりである。
(ア)被控訴人は、サウンド北越との商号であった平成元年頃、ロゴマークのデザインを控訴人に依頼し、控訴人に対して、そのデザイン料約20万円を支払った。被控訴人は、反訴原告標章などのデザインを控訴人に依頼した当時、デザイン料支払の必要性を認識していたといえる。
(イ)控訴人は、被控訴人から店舗デザイン、反訴原告標章などの制作依頼を受けた当時、他の第三者からの店舗デザインの依頼については100万円から120万円、ロゴマークのデザインの依頼については、120万円から600万円程度の料金を受け取っていた。かかる実績に照らすと、ロゴマークのデザイン料の方が店舗デザイン設計料より高く、店舗デザイン料の支払を受けただけで、ロゴやピクトグラムのデザイン料をなしにする合意をすることはあり得ない。また、控訴人は、平成10年10月頃に被控訴人のフランチャイズ店の親会社からロゴマークデザイン制作の依頼を受けて、これを制作し、150万円のデザイン料の支払いを受けており、被控訴人もこれを知っていた。以上によれば、控訴人が店舗デザイン設計料の中にロゴ及びピクトグラムのデザイン料を含めるはずがない。
(ウ)控訴人は、被控訴人に対し、ハードオフ、オフハウス、ガレージハウス、モードオフ、ホビーオフのロゴ及びピクトグラム制作時に、その都度、これらの制作料を請求し、同一業態の店舗デザインを依頼するかぎりロゴなどの制作料を請求するなとの要請を受けて、これを了承してきた。
 ガレージオフ新潟近江店のときのやりとりは、前記アのとおりである。また、その他にも、平成16年3月頃のホビーオフのロゴ等の見積書(乙57)を出した際には、被控訴人代表者から×をつけられて「何度も同じことを言わせるな」と叱責され、「今後も同じだぞ」と念押しされた。そして、平成26年以降の食品コーナー、リカーコーナー、楽器スタジオ、オーディオサロンの関連ロゴ及び関連ピクトグラム制作の際、平成28年2月のレトロコーナーのピクトグラム制作料の見積書(乙18の17)を出した際などには、「約束が違う」としていずれも拒否された。
(エ)被控訴人は、平成5年から平成29年5月までの間、1000店舗近くの全ての直営店、フランチャイズ店について控訴人に店舗デザイン設計を依頼してきた。これは、控訴人への依頼をやめれば、反訴原告標章やピクトグラムのデザイン料を支払わなければならなくなるからである。
(オ)被控訴人は、平成10年頃、同業他社が、控訴人の納品したピクトグラムを使用した際、控訴人を著作権者として、連名で警告書を出した。
(カ)控訴人の従業員であるAらが平成29年5月に退社し、被控訴人は、同年6月からAらが設立した会社に店舗デザインを依頼することになった。そのため、控訴人は、被控訴人に対し、それまでのロゴ・ピクトグラムの制作料として、制作料の一括支払の代わりに、今後10年間、出店1店舗当たり10万円(年間40店舗として4000万円程度)を支払ってほしい旨の要請をした。
 その際、被控訴人代表者は、上記要請を拒否し、控訴人代表者に対し、「今後、H君は使わない。ロゴ、ピクトグラムも使わない。丸ゴシックを角ゴシックに代えればいいだけだ。」などと述べた。
 控訴人の上記要請及び被控訴人代表者の上記発言は、いずれも反訴原告主張合意の存在を前提とするものである。
(キ)被控訴人代表者は、平成29年4月26日、前記(カ)の控訴人からの要請を受けて「今までさんざんいい思いをしてきただろう」「今ここに飴があるとする。その飴の甘い部分が残っているので、それをしゃぶろうとしているのか。」と発言した。この「飴の甘い部分」は、反訴原告主張合意に基づく反訴原告標章、ピクトグラムの制作料の請求権を指すものである。
(ク)控訴人は、平成29年5月頃、Aが設立する会社に、パソコンやデータを1000万円で譲渡することになったが、その譲渡契約書案に、上記会社は、控訴人、被控訴人との話し合いがつくまでロゴ・ピクトグラムは使用しないこと及びその違約金条項を入れた。
 かかる違約金条項の定めは、反訴原告主張合意の存在を前提とする。
(ケ)控訴人は、平成29年5月20日、Aから、パソコンなどの譲渡契約を締結することができなくなったと告げられた際、被控訴人代表者がAに対し、「エス・オー・ディには1円も払うな。」、(譲渡契約を締結せずに)「ゼロで出てこい。」、「丸ゴシックを角ゴシックに代えればいいだけだ。」などと述べていたと告げられた。これも、前記(カ)と同様、反訴原告主張合意の存在を前提とする。
(コ)各業態の1号店の店舗デザイン設計料には、2号店の店舗デザイン設計料よりも安くなっているものもあるから、1号店の店舗デザイン設計料に、ロゴ、ピクトグラムのデザイン料が入っていないことは明らかである。また、ハードオフ1号店の店舗デザイン設計料50万円が決まった際には、ピクトグラムは存在していなかった。そうすると、かかる50万円の中にピクトグラムのデザイン料が入っているとは考えられない。
(被控訴人の主張)
 事実は不知又は否認し、主張は争う。
 控訴人は、反訴原告主張合意が成立したと主張し、それを裏付ける事実として複数の事実を主張する。
 しかしながら、反訴原告主張合意のような重大な合意を書面作成もせずに合意することは取引通念に反する。また、控訴人が、反訴原告主張合意を裏付けるとして主張する事実は、いずれも反訴原告主張合意の裏付けにはならないものである。
 したがって、控訴人の主張は認められない。
6 争点2?1(反訴原告標章が著作物(著作権法2条1項1号)に該当するか)について
(控訴人の主張)
 反訴原告標章1、2、4、5、5?2は、次のとおり、いずれも作成者の個性が発揮されたものであり、著作物であるといえる。また、美的創作性を感得することができるものでもある。
(1)反訴原告標章1及び同2
 控訴人は、反訴原告標章1の制作に当たり、老若男女すべての人に親しまれるキャラクターとしてHを人に見立て、顔、耳、目、口、両手、両足を連想させるキャラクター文字とし、これにH君の名をつけた。H君の両手はそれぞれが円に納まるようにし、右手を右目に向けて前方上向きとし、左手を逆に左目の後ろの位置から左顎辺りに向けて前方下向きとし、両手の先端を矢印で表した。この両手には循環型社会を示すリサイクルの意を込めている。そして、バックを環境保護色のグリーンとしたのは、顧客対象がファミリーであることを意味している。文字は清潔感を表すために白抜き文字とした。これが反訴原告標章1である。
 H君は反訴原告標章2でも使用されている。H君は控訴人の個性が発揮されており、著作物である。また、それ自体で美的創作性を感得できる。標章に使ったアルファベットのひとつひとつも控訴人が独自に作成したものであり、H君を組み込んだ反訴原告標章1、2は「О」「F」などひとつひとつのパーツだけではなく、全体のバランス・配置、文字部分の色、背景(バック)の色など全体としての組み合わせで「オフハウス」「ホビーオフ」という業態を表現している。H君を組み入れた反訴原告標章1、同2は控訴人の個性が発揮され、創作性があり、思いが込められていて著作物である。そして、美的創作性を感得することもできる。
(2)反訴原告標章4
 反訴原告標章4は、モードオフの新しい店舗のために制作した標章である。すべての文字にできるだけ丸みをもたせ、しかも、その丸み(円)をОの円文字を20とした場合のいろいろな比率を以て表現し、また、大人っぽいイメージを表すためにmとFの文字の下端部から丸みを切り取った直線としたことで全体が円と直線を組み合わせたオリジナル文字で、控訴人の創作文字である。そして、この標章は従来の太く、角の丸まった書体でハードオフグループに属していることを顧客に意識させながらも、さらにmとFの下端部を切り取って直線としたことで新しい時代への突入をも表しており、作成者の個性が発揮されており、著作物である。また、反訴原告標章4はバックも含めた全体として美的創作性を感得できるものでもある。
(3)反訴原告標章5及び同5−2
 控訴人は、リカーオフ店用に反訴原告標章5、5−2を制作した。これらはリカーの最初のLのみを大文字とし、その余の5文字を小文字としてハードオフグループに属していることを顧客に意識させ、その上で新しい事業であることを示すために、リカーとオフとの間には・を入れず、また、リカーとオフの上にも2つの∴を加えなかった。そして、顧客対象が主として成人であることから、Liquorの文字のL、i、u、rの天端部と下端部から丸みを切り取り直線とし、大人っぽいイメージにするとともに新しい時代、新しい事業への突入を表現したのである。この文字も、モードオフと同じく控訴人が創作したオリジナル書体である。
 そして、バックに入れるシルエットについてもボックスボイテル型のボトルをイメージし、シルエットに用いる色をワイン色として強い高級感を出し、文字を白抜き文字とし、濃赤色のボックスボイテル型のボトルのシルエットの入った反訴原告標章5とシルエットの入らない反訴原告標章5−2(反訴被告標章5と同じもの)の2つを制作したものである。これらは、いずれも控訴人の創作であって、作成者の個性が十分に発揮されており、美術の著作物と言えるものである。また、反訴原告標章5、同5の2はバックも含めた全体として美的創作性を感得することができるものである。
(被控訴人の主張)
 争う。
7 争点3?1(反訴原告ピクトグラムが著作物に該当するか)について
(控訴人の主張)
 反訴原告ピクトグラムは、別紙反訴原告ピクトグラム説明文(補充)のとおり、作成者の個性が発揮され、美的創作性を感得することができるものである。
(被控訴人の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人と被控訴人との間には、被控訴人が、反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムを、店舗デザイン設計料とは別に、制作料や使用料を支払うことなく使用し続けることができる旨の合意が成立したものと認められ、また、反訴被告標章の作成・使用等は、反訴原告標章の複製又は翻案にはあたらないから、控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。
 その理由は、次のとおりである。
1 認定事実
 次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」の第3の1(原判決12頁18行目から23頁8行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決18頁24行目から19頁2行目までを次のとおり改める。
 「控訴人は、平成16年3月22日に上記直営店3店舗の店舗デザイン設計料とともに、ホビーオフの基本デザイン料として50万円と記載した見積書を提出したが、被控訴人は基本デザイン料の支払を拒否した(乙57、乙59)。
 そのため、控訴人は、平成16年4月下旬、上記直営店3店舗の店舗デザイン設計などを完成させ、それらを被控訴人に納品した後、同年4月30日、被控訴人に対して、上記見積書からホビーオフの基本デザイン料を除き、『デザイン設計監理料一式』として80万円(竹尾店)、100万円(長岡古正寺西店)、50万円(新潟近江店)をそれぞれ請求してその支払を受けた。なお、上記見積書からは、上記基本デザイン料のほか、「ハードオフオフハウス等全店舗面積データ入力料」10万円の項目も除かれた上で、残りの項目が請求されている。(乙15の1、乙53の2、乙57、控訴人代表者〔13頁〕)」
(2)原判決23頁4行目の末尾を改行の上、次のとおり付加する。
 「控訴人が、この4月26日の申し入れにあたり、弁護士と相談して作成し、持参した書面(甲4の1)には、『本来であればこれまでも店舗デザイン設計料とは別にこれらについてのデザインの使用料を頂くべきでしたが、使用料は店舗のデザイン料に含むというB様のご要望にお応えしてきました。しかし、今後このデザイン設計の仕事をいただけなくなりますから、A君の新会社設立後の出店からはあらためて著作物の使用料という形でご契約を頂きたいと思います。』との記載が存在する。(甲4の1、乙53の3)」
2 争点1(被控訴人と控訴人の間において、被控訴人が控訴人に対する店舗デザイン設計監理業務の委託を止めた場合には、控訴人の被控訴人に対する反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムの無償使用許諾が終了し、被控訴人が控訴人に上記各標章や各ピクトグラムの制作料及び使用料を支払うという合意があったか)について
(1)控訴人は、反訴原告標章や反訴原告ピクトグラムを作成して、被控訴人に納品してから、少なくとも請求書等の書面上明確に表れる形で、その制作料(デザイン料)や使用料を被控訴人から支払ってもらったことはなかった。すなわち、被控訴人は、控訴人が制作した反訴原告標章や反訴原告ピクトグラムにつき、その制作料や使用料を、店舗デザイン設計(監理)料と区別した形で支払うことはないまま、長期間(平成4年10月頃から平成29年5月末日)にわたり、使用を継続してきたといえる(ただし、反訴原告関連標章1−6を除く。)。
 ここで、控訴人は、かかる使用継続の根拠を、自らの被控訴人に対する無償使用許諾であるとした上で、被控訴人が控訴人に直営店、フランチャイズ店の店舗設計業務の委託を止めた場合、控訴人の被控訴人に対する上記各標章、ピクトグラムの無償使用許諾が終了し、被控訴人が控訴人にそれらの制作料、使用料を支払う旨の合意(反訴原告主張合意)が存在すると主張する。
 そこで、かかる合意が認められるか否かについて検討する。
(2)まず、控訴人が主張する反訴原告主張合意については、これを記載した契約書等の書面は作成されていない。また、控訴人が主張する平成14年頃の反訴原告主張合意の成立にかかる事実経過(前記第2の5(控訴人の主張)ア)も、これを裏付ける客観的な証拠は見当たらない。
ア そこで、控訴人と被控訴人との間の取引経過についてみると、各業態の第1号店を出店する際の請求書をみても、店舗デザイン設計料とのみあるだけで、反訴原告標章であるロゴや反訴原告ピクトグラムに係る制作料、使用料については何ら記載されていない。そして、ロゴやピクトグラムについては、ハードオフ、オフハウス、モードオフ、ガレージオフ、ホビーオフ、リカーオフといった各業態の第1号店を出店した(ハードオフのピクトグラムについては、平成7年頃に使い始めた)後は、コーナーの拡大などの必要に応じて更なるピクトグラムの制作・納品をしつつも、基本的にはそれまでに制作したロゴやピクトグラムを用いて店舗デザインの設計等を行うのが恒例となっており、各業態によって差はあるものの、制作したロゴ及びピクトグラムはその後の出店店舗でも用いられていた。また、平成29年4月26日に請求するまで(前記1において引用する原判決第3の1(15))、20年以上の長期間にわたって、控訴人は、反訴原告標章であるロゴや反訴原告ピクトグラムの使用料を店舗デザイン設計(監理)料と別に請求したことはなく、制作料についても、その請求を裏付ける書面は基本的に存在しない。
 ただし、控訴人から被控訴人に対する制作料の請求については、平成16年3月22日の制作料(基本デザイン料)の請求(前記1(1)において改めた原判決引用部分第3の1(10))及び平成28年3月の制作料の請求(前記1において引用する原判決第3の1(12)エ)が存在する。しかしながら、仮に反訴原告主張合意が存在したのであれば、かかる請求ができないことは控訴人にとって明らかであって、それにもかかわらず請求したこと自体、それまでに作成・納品した制作料について将来も請求できないことを認識していたからこそ、新たに作成・納品したロゴ等について、制作料の支払合意を取り付けるべく、このような行為に及んだと考えられるところである。なお、仮に、かかる2回の請求以外に、控訴人が被控訴人に対し、口頭で、ロゴ等の制作料の請求をしたことがあったとしても同様である。
 このような状況に照らすと、将来的に、控訴人、被控訴人の間において、店舗デザイン設計(監理)料等の名目で支払われた金員とは別に、反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムの制作料・使用料を請求する権利が留保されていたとは考えにくく、むしろ、これらの制作料及び使用料の支払義務を前提とする反訴原告主張合意がなかったことが窺われる。
イ また、契約終了に当たり、控訴人が被控訴人に当初交付した書類の内容は前記1(2)に記載のとおりであるところ、かかる記載内容からは、無償使用許諾を前提とする反訴原告主張合意の存在というよりも、むしろ、使用料は店舗のデザイン設計料に含まれていたとの認識が窺われる。また、同書面には、制作料そのものについての言及は存在しない。
ウ 加えて、被控訴人においては、仮に反訴原告標章や反訴原告ピクトグラムの使用ができなくなれば、重大な不利益が生じることが明らかである。したがって、仮に反訴原告主張合意のような合意が存在するのであれば、これによって生じる不利益の重大性に鑑み、合意の内容を書面化することが通常であると考えられるところ、そのような書面が存在しないことは既に指摘したとおりである。
エ 以上によれば、被控訴人は、店舗デザイン設計料等とは別に、ロゴやピクトグラムの制作料、使用料を支払う意思はなく、控訴人も、被控訴人からの店舗デザイン設計の依頼を受ける際に、ロゴや平成7年頃以降はピクトグラムの制作をも必要に応じて行うことを前提としつつも、これらの制作料や使用料については、将来的にも被控訴人から引き続き店舗設計業務の依頼を受けられることを期待したことから、明示的に制作料や使用料として請求することはせずに、店舗設計業務を継続して受注していく中で、これらについて実質的に回収を図っていこうという意向であったと考えられる。
オ その他、反訴原告主張合意の存在を窺わせる証拠はない。
 したがって、控訴人が主張する反訴原告主張合意の成立は認められない。
(3)控訴人の主張について
ア 控訴人は、反訴原告主張合意を裏付ける事実として、種々の事実を主張する。しかしながら、これらの事実は、そもそもこれを裏付ける客観的証拠のないものも存在する上、仮にその存在が認められるとしても反訴原告主張合意の存在を推認させるものではない。
イ 具体的には、控訴人は、被控訴人又は第三者との別件の契約の存在を反訴原告主張合意の存在を裏付けるものであると主張する(前記第2の5(控訴人の主張)イ(ア)(イ))。
 しかしながら、これらはあくまで別件の契約に関するものである。本件のロゴやピクトグラムについては、前述のとおり、ロゴやピクトグラムの制作自体の依頼のみを受けたわけではなく、店舗デザインの依頼とともに受けているものである上、将来的にも、被控訴人からの店舗デザインの依頼が継続的に行われるであろうことが期待されていたものとみられる(そして、実際にも20年以上にもわたり、継続的に依頼を受けている。)。そうすると、ロゴやデザインの制作のみを請け負う場合と同一の条件でなければ不自然であるとまではいえず、これをもって反訴原告主張合意を推認させるとはいえない。
ウ また、控訴人は、長期間にわたる取引経過の中で、各業態のロゴやピクトグラムを制作する都度、これらの制作料を請求し、同一業態の店舗デザインを依頼する限りロゴなどの制作料を請求するなとの要請を受けてこれを了承してきたなどと主張する(前記第2の5(控訴人の主張)イ(ウ))。
 しかしながら、控訴人がこのような制作料の請求をしたことについて客観的裏付けが認められるのは、平成16年3月22日付けの見積書(乙57)における「ホビーオフ基本デザイン料」と、平成28年3月の御見積書(乙18の17)における「レトロコーナーサインデザイン」のみである(前記1(1)において改めた原判決引用部分第3の1(10)と、前記1において引用する原判決第3の1(12)エ)上、仮に、これらの請求事実が認められるとしても、それは、かえって、反訴原告主張合意の不存在を窺わせるものであることは、前記(2)において指摘したとおりである。
 そうすると、控訴人が主張するような複数回にわたる制作料等の請求がされた事実自体認められないし、かかる事実が存在したとしても、反訴原告主張合意の存在を推認させるものではない。
エ 控訴人は、被控訴人による長期間にわたる控訴人への店舗デザイン設計の依頼行為や、連名での警告書発出をもって、反訴原告主張合意を裏付けると主張する(前記第2の5(控訴人の主張)イ(エ)(オ))が、これらは何ら反訴原告主張合意の存在を窺わせるものではない。
オ また、控訴人は、被控訴人代表者の発言内容等をもって反訴原告主張合意の存在を裏付けられるとも主張する(前記第2の5(控訴人の主張)イ(カ)(キ)(ケ))。
 しかしながら、そもそもそのような発言があったことを的確に裏付ける客観的証拠は存在しない。また、仮に「今後、H君は使わない。ロゴ、ピクトグラムも使わない。丸ゴシックを角ゴシックに代えればいいだけだ。」との発言があったとしても、控訴人との紛争を避けるためにロゴやピクトグラムを変更することは十分ありうるものであるし、また、「今ここに飴があるとする。その飴の甘い部分が残っているので、それをしゃぶろうとしているのか。」などとする発言があったとしても、それは単に、控訴人代表者の認識を問うものにすぎないともいいうるのであって、結局のところ、その趣旨は明らかでない。
 したがって、これらの発言から反訴原告主張合意の存在が裏付けられることはない。
カ 控訴人は、譲渡契約書案に含まれる違約金条項案が反訴原告主張合意の存在を裏付けると主張する(前記第2の5(控訴人の主張)イ(ク))が、そもそもかかる書面は、控訴人の主張によっても、控訴人と被控訴人との間でロゴやピクトグラムの使用等をめぐる本件の紛争が発生した後に、一方当事者である控訴人の作成した案に過ぎず、合意にも至っていないのであって、反訴原告主張合意の存在を窺わせるものではない。
キ 控訴人は、各業態の1号店の店舗デザイン設計料の中にロゴ、ピクトグラムのデザイン料が入っていないことも、反訴原告主張合意の存在を裏付けるなどと主張する(前記第2の5(控訴人の主張)イ(コ))。
 しかしながら、前記(2)で述べたとおり、本件においては、制作料や使用料が独立の費目として明示的に計上され、支払われることが予定されていたわけではなく、むしろ、店舗デザイン設計等に関する取引全体の中から回収されることが予定されていたと解されるのであるから、控訴人主張の点は、反訴原告主張合意の存在を推認させるものではない。
ク なお、控訴人は、自らの経営状態が苦しかったかのような主張もする。
 しかしながら、控訴人の主張によっても、被控訴人から店舗デザインの依頼を受ける限りは、制作料や使用料を受け取れるものではないのであるから、経営状態の苦しさは、制作料や使用料が本来請求できるはずだったことを推認させる事情ではない。
ケ 以上によれば、控訴人の主張はいずれも採用できない。
(4)したがって、反訴原告主張合意の存在を前提とする控訴人の差止め及び抹消等の請求はいずれも理由がない。
3 争点4(控訴人と被控訴人の間において、控訴人が作成したロゴ及びピクトグラムの制作料及び使用料等は、「店舗デザイン設計一式」などの名目の料金に含まれており、その支払いがされた後は、被控訴人が当該ロゴ及びピクトグラムを使用し続けることを認める旨の合意(包括的使用許諾)があったか)について
 被控訴人は、前記2(1)にみたとおり、これまで長期間にわたり、控訴人が制作したロゴやピクトグラムを書面上明確に表れる形では制作料や使用料を支払うことなく使用してきたものである。
 被控訴人は、かかる使用継続の根拠を、控訴人と被控訴人の間において、控訴人が作成した反訴原告標章であるロゴ及び反訴原告ピクトグラムの制作料及び使用料等は、「店舗デザイン設計一式」などの名目の料金に含まれており、その支払いがされた後は、当該ロゴ及びピクトグラムについて被控訴人が包括的に使用することを認める旨の合意(反訴被告主張合意)であると主張し、被控訴人は、控訴人が作成したロゴ及びピクトグラムを使用し続けることができると主張する。
 そこで、かかる合意が認められるか否かについて検討する。
(1)まず、被控訴人が主張する反訴被告主張合意については、これを記載した契約書は作成されていない。
 しかし、前記2(2)のとおり、被控訴人としては、作成・納品したロゴやピクトグラムについては、店舗デザイン設計料とは別にその制作料や使用料を支払う意思はなく、控訴人もこれを別途請求する意思はなかったものと認められる。
 そうすると、控訴人と被控訴人の間には、控訴人が作成・納品した反訴原告標章であるロゴや反訴原告ピクトグラムについては、店舗デザイン設計料とは別に、制作料や使用料として支払うことなく、当該ロゴやピクトグラムを使用し続けることができる合意が黙示的に成立したものと認められる。
(2)したがって、被控訴人は、控訴人が作成した反訴原告標章であるロゴ及び反訴原告ピクトグラムについて、控訴人との取引が終了した平成29年5月31日以降も、使用し続けることができる。
4 争点5(控訴人は、被控訴人との間における反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムについての使用許諾契約を、被控訴人の債務不履行を理由として解除することができるか)について
(1)控訴人は、被控訴人が、平成29年6月1日以降、アークスペースに対して店舗デザイン設計監理業務を依頼したこと及び被控訴人が同日以降に反訴原告標章、反訴原告関連標章及び反訴原告ピクトグラムの使用料を支払わないことを主張して債務不履行を主張する。
 しかしながら、いずれについても、その前提となる被控訴人の義務を裏付ける証拠はなく、控訴人主張の債務の存在自体、認めることができない。
 よって、控訴人の主張は採用できない。
(2)以上によれば、反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラム並びに反訴被告標章3及び4については、反訴原告標章及び反訴原告ピクトグラムの著作物性について判断するまでもなく、控訴人の著作権法112条に基づく差止め及び抹消等を求める請求には理由がない。また、商標法29条は、著作権法に基づく権利行使が可能であることを前提とする規定であるから、同様に、同条に基づく控訴人の請求には理由がない。
5 争点2−2(反訴被告標章の作成、使用等が反訴原告標章の著作権(複製権又は翻案権)を侵害するか)について
 この点に関する判断は、原判決「事実及び理由」第3の4?ア及びイ並びに?(原判決29頁12行目から30頁16行目まで及び同31頁16行目から23行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決31頁16行目の「及び反訴原告ピクトグラム」、同17行目の「並びに反訴被告ピクトグラム」及び19から20行目の「並びに反訴被告ピクトグラム」をいずれも削除する。)。そして、控訴人が当審において主張する点も、上記判断を左右するものではない。
6 そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人の請求を全部棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
 裁判官 高橋彩
 裁判官 菅洋輝は、転補のため署名押印することができない。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
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