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【事件名】英語教材の販促DVD事件(2)
【年月日】令和元年10月10日
 知財高裁 平成31年(ネ)第10028号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成29年(ワ)第16958号)
 (口頭弁論終結日 令和元年8月6日)

判決
控訴人(一審被告) ラクサス・テクノロジーズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 松永克彦
同 白日雄歩
同 中川徹
同 安西紀皓
被控訴人(一審原告) 株式会社エスプリライン
同訴訟代理人弁護士 平津慎副
同 神田知宏
同 田村有加吏


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
 以下、用語の略称及び略称の意味は、原判決に従い、原判決の引用部分の「別紙」を全て「原判決別紙」と改める。
第1 控訴の趣旨
1 原判決のうち控訴人の敗訴部分を取り消す。
2 上記取消しに係る部分の被控訴人の請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人が、控訴人による原判決別紙被告DVD目録記載のパッケージ内のDVD(以下「被告DVD」という。)の作成、配布等が、主位的には、映画の著作物又は編集著作物である、原判決別紙原告DVD目録記載のパッケージ内のDVD(以下「原告DVD」という。)について被控訴人が有する複製権及び翻案権並びに同一性保持権を侵害すると主張し、予備的には、言語の著作物である、原告DVDのスクリプト部分(音声で流れる言語の部分)について被控訴人が有する複製権、翻案権及び譲渡権並びに同一性保持権を侵害すると主張して、控訴人に対し、民法709条に基づき、損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成29年5月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原判決は、控訴人による被告DVDの作成等は、映画の著作物としての原告DVDの一部についての翻案権及び同一性保持権を侵害するとして、被控訴人の請求の一部を認容したが、それ以外の被控訴人の請求を棄却したところ、控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、(1)のとおり補正し、(2)のとおり当審における主張を追加するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第2事案の概要等」2〜4に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決の補正
ア 原判決2頁13行目〜14行目の「容易に」を削る。
イ 原判決2頁22行目の「制作し、」の次に「これを被控訴人の著作名義で公表し、」を加える。
ウ 原判決3頁5行目で引用している原判決別紙「DVDの内容の対照表」の「被告DVDの構成」欄の項目アの「社名」を「商品名」に改める。
エ 原判決21頁17行目の「被告DVD」を「平成26年1月16日から同年8月1日までの被告DVD」に、19行目の「被告」を「平成26年1月16日から同年8月1日までに行われた控訴人」に、22行目の「著作者人格権」を「平成26年1月16日から同年8月1日までに行われた同一性保持権」に、それぞれ改める。
(2)当審における主張
ア 映画の著作物としての原告DVDの複製権、翻案権侵害の有無(争点1)について
(控訴人の主張)
(ア)項目イ及びウについて
 原判決は、「英会話の宣伝、紹介用のDVDにおいて、教材を利用することで新しい状況となることについて紺色の背景とする白い扉やその奥に広がる宇宙で表現するとともに、教材により達成できる状況について、扉の奥に、その状況を表しているともいえる写真を英会話を学習する動機を示すフレーズとともに複数回示すことで表現しているものといえ、その表現は、全体として、個性があり、創作性があるといえる」と判断している。
 しかし、項目イについては、新しい状況となることについて白い扉で表現することや、白い扉の奥に新しい状況として宇宙を表現することは、ありふれた表現であるし、素材や画面構成もありふれたものである。このような表現について創作性を認めた場合、デザイナーが論理的にデザインを創り上げると、類似した表現となってしまうから、高い確率で同表現に対する著作権侵害が成立してしまう。
 項目ウについては、商品の効能等(英会話教材であれば英語が話せることによって生じる新しい世界)を強調するために、その効能等を示す写真とフレーズを複数回示すことは、ありふれた表現である。被告DVDも英会話教材の試聴用DVDであり、その特性上、英会話を学ぶ動機付けを訴求する表現を用いることは当然であることから、項目ウのような表現に創作性を認めることは、英会話教材を紹介、宣伝する表現そのものに独占権を与えることになり相当でない。
 したがって、仮に項目イ及びウに共通点があり類似性が認められるとしても、原告DVDの項目イ及びウに創作性は認められないから、翻案権の侵害とはならない。
(イ)項目オについて
 原判決は、「項目オにおける原告DVDと被告DVDの共通点は、教材を学ぶことで状況が変わることを、二度にわたる態様の光を含む空の情景で示し、また、自社の商品を用いることで交流の範囲が広がることなどを人物が写った多数の写真を自社商品の周りを回転させることなどで表現しているものといえ、その表現は、全体として、個性があり、創作性があるといえる」と判断している。
 しかし、画面の切り替え後に空を映すこと、何かを学ぶという動機付けをしたり、新しい状況となることを表現することについて太陽の光を含む空の情景で示すこと、自社商品や自社サービスの宣伝、広告において、自社商品等を利用している者の写真を自社商品等の回りを回転させることで、自社商品等が世間で広く利用されていることを表現することは、ありふれた表現である。
 したがって、仮に項目オに共通点があり類似性が認められるとしても、原告DVDの項目オに創作性は認められないから、翻案権の侵害とはならない。
(ウ)項目ケについて
 原判決は、「項目ケの部分の原告DVDと被告DVDの共通点は、空に浮かんだ階段を下から見上げる構図とすることによって、階段を上っていくイメージを抱かせ、階段と英語学習のステップが結び付くものであり、原告DVDと被告DVDでほぼ共通するフレーズの内容に照らしても、一定の階段を踏んで英語学習を進めることができるなどのイメージを与えるものである。そのようなステップが7段階あり、その内容がほぼ同一であることをも考慮すると、この共通点は、作成者の個性が表れており、全体として創作的な表現であると認められる」と判断している。
 しかし、英会話に限らず、学習の過程においては段階を踏む必要があることは当然のことであり、そのことを、階段を用いて表現することはありふれた表現である。
 また、一つ一つのステップでどういったものが得られるのかを表示しながら階段を上っていく表現も一般的なものであるところ、階段に示されているフレーズは外国語学習において当然の過程であり、他に代替する表現がない。被告DVDと原告DVDは、同じビジネスモデルの商品であるから、その特徴の洗い出しが似ているのは当然であり、各ステップで利用される表現も当然に類似することになる。項目ケの表現に創作性を認めることは、英会話教材を紹介、宣伝する表現そのものに独占権を与えることになり相当でない。
 したがって、仮に項目ケに共通点があり類似性が認められるとしても、原告DVDの項目ケに創作性が認められないから、翻案権の侵害とはならない。
(エ)項目テ及びトについて
 原判決は、項目テについて、「項目テの共通点は、各DVDにおいて宣伝している英会話教材が日本全国で広く支持を得ていることやその英会話教材を使用することによって、日本中、世界中の人間とつながることができることにつき、音声に加え、日本列島における光や地球の周りの写真を用いて伝えることを意図していると考えられるものであり、具体的な表現において作成者の個性が現れており、全体として創作的な表現であると認められる」と、項目トについて、「項目トの共通点も、英会話の上達について、日の出から青空への変化を通じて伝えることを意図したものであると考えられ、具体的な表現において作成者の個性が現れており、全体として創作的な表現であると認められる」と判断している。
 しかし、英会話教材に限らず、商品やサービスの宣伝、広告として、日本中又は世界中で利用されていることを示すために、日本列島の地図を用いて表現することは、ありふれた表現である。また、英会話が上達したこと等を日の出から青空への変化で表現することも、ありふれた表現である。このような表現に創作性を認めることは、英会話教材を紹介、宣伝する表現そのものに独占権を与えることになり相当でない。
 したがって、仮に、項目テ及びトに共通点があり、類似性が認められるとしても、原告DVDの項目テ及びトに創作性が認められないから、翻案権の侵害とはならない。
 また、原判決は、項目トについて、「『あなたの心があなたの未来を創ります。』(原告DVD)、『あなたの心であなたの未来が180度変わります。』(被告DVD)という音声が流れるとともに、同趣旨の文字を画面に表示する点などが共通する」とするが、そこで流されている音声・文字の具体的な表現は主語も述語も異なる表現であり、共通しているとはいえない。
(被控訴人の主張)
(ア)項目イ及びウについて
 控訴人は、「新しい状況となることについて白い扉で表現することや、白い扉の奥に新しい状況として宇宙を表現すること」、「商品の効能等を強調するために、その効能等を示す写真とフレーズを複数回示すこと」は、ありふれた表現であると主張する。
 しかし、原判決は、そのような点のみを捉えて創作性を認めたものではない。原判決は、被告DVDと原告DVDの共通点である、「紺色の背景の中央に白い扉が現れ、白い扉が拡大されるに従いその扉が手間に開き、その奥に宇宙が広がる点」、「扉の先の宇宙の中心に白い光が現れ、それが次第に大きくなり、その後海外の光景の写真が表示され、その写真が拡大していくとともに、『外国人の友達が欲しい』という英会話を学ぶ動機を示すフレーズが画面の下部に赤色で表示され、そのような写真の表示、拡大とフレーズの表示が、写真及びフレーズを変えて5回繰り返される点」を捉えて、具体的な表現のレベルとして、全体として、個性があり、創作性があると判断したものである。
 控訴人の上記主張は、原判決が認定した共通点を正しく把握していないばかりか、項目イ及びウが「全体として」創作性があるとの原判決の判断を全く理解しないものであり、失当である。
(イ)項目オについて
 控訴人は、項目オについて、「新しい状況となることについて太陽の光を含む空の情景で示すこと」、「自社商品あるいは自社サービスの宣伝、広告において、自社商品等を利用している者の写真を自社商品等の回りを回転させることで、自社商品等が世間で広く利用されていることを表現すること」は、ありふれた表現であると主張する。
 しかし、原判決は、そのような点のみを捉えて創作性を認めたものではない。
 原判決は、被告DVDと原告DVDの共通点である、「白い雲の奥に太陽が白く光る青空の光景となり、その後、別の画面となった後、暗い雲の一部から太陽の光が差す光景となり、『新しい言葉を習得すると新しい自分を発見したり新しい世界が広がります。人間にはもともと言葉を話せる力が備わっています』という音声が流れ、さらに、その後、『さあここから一緒に始めましょう、(商品名)の世界へようこそ』という音声が流れ、画像中央の商品のDVDが回転するとともに、その周囲を人物の写真が左回りで周り、『Welcometo(商品名)、(商品名)の世界へようこそ』という文字テキストが表示される点」を捉えて、具体的な表現のレベルとして、全体として、個性があり、創作性があると判断したものである。
 控訴人の上記主張は、原判決が認定した共通点を正しく把握していないばかりか、項目オが「全体として」創作性があるとの原判決の判断を全く理解しないものであり、失当である。
(ウ)項目ケについて
  控訴人は、項目ケについて、「学習の過程においては段階を踏む必要があることは当然のことであり、そのことを、階段を用いて表現すること」は、ありふれた表現であると主張する。
 しかし、原判決は、そのような点のみを捉えて創作性を認めたものではない。
 原判決は、被告DVDと原告DVDの共通点である、「画面上部が光り、雲が浮かんでいる空の様子となった後、画面の上方から階段が伸びてきて、階段を下から見上げる構図となり、その後、空を背景に、最下段の階段の側面に英語学習のステップのフレーズが表示され、そのフレーズの読み上げが終わると一段上の階段の側面が拡大されると同時に、その階段の側面に次の英語学習のステップのフレーズが右からスライドして表示されるとともに、そのフレーズがナレーションされ、それを7回繰り返して、七つ目の英語学習のステップが表示されると、側面にフレーズが記載された階段が最下段まで表示されるという点」、「各階段の側面に表示されるフレーズは、原告DVDでは、@『聞くことを習慣化する』、A『単語やフレーズの音がキャッチできるようになる』、B『言っていることが理解でき短い言葉で反応できるようになる』、C『短い言葉で自分の意思を伝えられるようになる』、D『簡単な会話のキャッチボールができるようになる』、E『言葉のキャッチボールが長く続くようになる』、F『意識せずに自然に外国人との会話が楽しめるようになる』であるのに対し、被告DVDでは、@『流して聞くことを習慣化する』、A『単語、フレーズの音が聞き取れるようになる』、B『言っていることが分かり、短いフレーズで返事ができるようになる』、C『短いフレーズで自分の言いたいことが伝えられるようになる』、D『簡単な会話のキャッチボールができるようになる』、E『言葉のキャッチボールが長く続けられる』、F『意識せず、自然に外国人との会話が楽しめるようになる』であり、その内容、表現はほぼ共通している」点を捉えて、具体的な表現のレベルとして、「作者の個性が現れており、全体として創作的な表現である」と判断したものである。
 控訴人の上記主張は、原判決が認定した共通点を正しく把握していないばかりか、項目ケが「全体として」創作性があるとの原判決の判断を全く理解しないものであり、失当である。
(エ)項目テ及びトについて
 控訴人は、項目テ及びトについて、「商品やサービスの宣伝、広告として、日本中又は世界中で利用されていることを示すために、日本列島の地図を用いて表現すること」、「英会話が上達したこと等を日の出から青空への変化で表現すること」は、ありふれた表現であると主張する。
 しかし、原判決は、そのような点のみを捉えて創作性を認めたものではない。原判決は、被告DVDと原告DVDの共通点である、「日本列島の一部を上から見下ろした後に、暗い日本列島に光る部分が現れて、それが増えていき、日本列島全体がおおよそ光り、その後、人物が映った多くの小さい長方形の写真が宇宙から見た地球の周囲を回る点、商品をきっかけにできた仲間達の輪又は商品の輪の広がりについて、日本列島全体がおおよそ光る部分で、それが日本全国に広がる旨の音声が流れ、その直後の多くの小さい長方形の写真が宇宙から見た地球の周囲を回る場面で、それが世界中へ広がり始めている旨の音声が流れる点」、「日の出の情景の後、赤っぽい太陽が大きく移され、その後、左上方に太陽の光が見える青空に変わり、『あなたの心があなたの未来を創ります。』、『あなたの心であなたの未来が180度変わります。』という音声が流れるとともに、同趣旨の文字画面に表示する点」を捉えて、具体的な表現のレベルとして、全体として、個性があり、創作性があると判断したものである。
 控訴人の上記主張は、原判決が認定した共通点を正しく把握していないばかりか、項目テ及びトが「全体として」創作性があるとの原判決の判断を全く理解しないものであり、失当である。
イ 損害の有無及びその額(争点5)について
(控訴人の主張)
(ア)原判決が翻案権の侵害を認めた部分の時間は、以下のとおり、約2分16秒(136秒)であり、原告DVDの全体の時間約32分07秒(1927秒)の約7%にすぎない。
  原告DVDの時間
項目イ 7秒(00:08〜00:15)
項目ウ 21秒(00:15〜00:36)
項目オ 31秒(00:58〜01:29)
項目ケ 47秒(15:30〜16:17)
項目テ 20秒(31:37〜31:57)
項目ト 10秒(31:57〜32:07)
合計 2分16秒(00:00〜32:07)
(イ)また、原告DVDの作成に当たり、翻案権の侵害が認められた部分の背景画像等を被控訴人が自ら撮影したとは考え難いこと、その一方、翻案権の侵害が認められていないインタビュー部分の撮影編集には時間を要したと考えるのが自然であることからすると、原告DVDの作成において、原判決が翻案権の侵害を認めた部分の作成に要した時間、労力、創意工夫の割合も低かったはずである。
(ウ)被告DVDも原告DVDも、いずれもDVD全体を通じて初めてその役割を果たす成果物であり、全体が著作権侵害とされているわけではなく、上記のとおり7%程度時間にすぎない部分しか共通していないと判断されていること、試聴版DVDのもつ本質的な目的は体験者のインタビュー部分や製作者の説明の部分であるから、本質的ではない部分についてのみ共通していると判断されたにすぎないことからすると、被控訴人に損害は発生していないとも考えられる。
(エ)以上からすると、被控訴人が、原告DVDの著作権の行使につき受けるべき金銭の額を、被告DVD1枚当たり1000円とすることは高額にすぎる。
(被控訴人の主張)
 控訴人の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、映画の著作物としての原告DVDについての翻案権及び同一性保持権の侵害による不法行為に基づく損害賠償金36万5000円及びこれに対する平成29年5月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を求める請求を認めた原判決は、正当であると判断する。
 その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の事実及び理由欄の「第3当裁判所の判断」1、3〜5に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
1 原判決25頁4行目の括弧内を「最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照」に改める。
2 原判決25頁9行目の「解される。」を、「解されるが、上記の「創作的な表現」というためには、作成者の何らかの個性が現れている必要があり、表現方法がありふれている場合など、作成者の個性が何ら現れていない場合は、「創作的な表現」ということはできないというべきである。」
3 原判決25頁15行目冒頭から26頁20行目末尾までを次のとおり改める。「(ア)前記前提事実(3)及び証拠(甲5、6)によると、イントロダクション部分において、原告DVDと被告DVDは、最初に文字が大きく表示される点(項目ア)、紺色の無地の背景の中央に白い扉が宙に浮いているような状態で現れ、白い扉が拡大されるに従いその扉が手前に開き、その奥に宇宙が広がる点(項目イ)、扉の先の宇宙の中心に白い光が現れ、それが次第に大きくなり、その後、海外の光景の写真と共に、「外国人の友達が欲しい」(原告DVD)、「外国人の友達や交流を増やしたい」(被告DVD)などの英会話を学ぶ動機を示す五つのフレーズの音声が流れ、その文字テキストが、順次、画面の下部に赤色で表示されるが、同フレーズは画面の前面から奥に向かっていき、反対に、上記各写真が画面の奥から前面に拡大してくるように見えるように表現している点(項目イ、ウ)、外国人と話している様子と共に、「あなたはどんな自分になりたいですか。なりたい未来のあなたを想像してください。」などの音声が流れる点(項目エ)、白い雲の奥に太陽が白く光る青空の光景となり、別の画面が挿入された後、暗い雲の一部から太陽の光が差す光景となり、その際、「新しい言葉を習得すると新しい自分を発見したり新しい世界が広がります。人間にはもともと言葉を話せる力が備わっています。」などの音声が流れ、さらに、その後、「さあここから一緒に始めましょう、(商品名)の世界へようこそ」という音声が流れ、画像中央で商品のDVDが回転すると共に、その周囲を人物の写真が左回りで周り、「Welcometo(商品名)、(商品名)の世界へようこそ。」という文字テキストが表示される点(項目オ)などにおいて、共通している(暗い雲の一部から太陽の光が差す光景の部分の表現は酷似している。)。
 他方、冒頭に表示される文字は、原告DVDでは社名を意味する文字であるが、被告DVDでは商品名を意味する文字である点(項目ア)、上記の白い扉における具体的な模様や、原告DVDでは、白い扉の奥はすぐに宇宙となるのに対し、被告DVDでは、白い扉の奥は人物が写されている多数の写真が貼られたトンネルであり、そこを進んだ後に宇宙が光る点(項目イ)、英会話を学ぶ動機を示す五つのフレーズの文字テキストが、順次、画面の下部に表示される際に表示される海外の光景の写真が、原告DVDでは5枚であるのに対し、被告DVDでは、6枚であり、また、そのうちの1枚は、画面の手前から奥へ向かっていくように見える写真であり、さらに、同写真が表示される前に被告DVDでは全体が金色に光る点(項目ウ)、白い雲の奥に太陽が白く光る青空の光景と暗い雲の一部から太陽が差す光景の間に、原告DVDでは花が開く様子と強い光が重なって表示される映像を挿入しているのに対し、被告DVDでは握手と地球が重なって表示される映像及び朝日が地平線を上っていく映像を挿入している点(項目オ)などが異なり、使用される写真、登場人物やその背景、商品のDVDが回転する際の背景の色(項目ウ〜オ)も異なる。
(イ)原告DVDと被告DVDの項目アにおける共通点である冒頭に文字を大きく表示すること自体はアイデアであり、その具体的な表現内容は前記(ア)のとおり異なっている。」
4 原判決27頁15行目の「上記共通する」から16行目の「考慮すれば」までを「このことに、同共通点は、視聴者に与える印象は強いものと認められるが、一方で、前記(ア)で判示した原告DVDと被告DVDの相違点は、視聴者に与える印象は弱く、原告DVDに些細な変更を加えたにすぎないものと認められることを併せ考慮すると」に改める。
5 原判決27頁17行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
 「(ウ)控訴人の主張について
a 控訴人は、項目イについて、新しい状況となることについて白い扉で表現することや、白い扉の奥に新しい状況として宇宙を表現することはありふれた表現であるし、素材や画面構成もありふれたものである、このような表現について創作性を認めた場合、デザイナーが論理的にデザインを創り上げると、類似した表現となってしまうから、高い確率で同表現に対する著作権侵害が成立してしまうと主張し、また、項目ウについては、商品の効能等を強調するために、その効能等を示す写真とフレーズを複数回示すことはありふれた表現であり、このような表現に創作性を認めることは、英会話教材を紹介、宣伝する表現そのものに独占権を与えることになり相当ではないと主張し、さらに、項目オについては、画面の切り替え後に空を映すこと、何かを学ぶという動機付けをしたり、新しい状況となることを表現することについて、太陽の光を含む空の情景で示すこと、自社商品や自社サービスの宣伝、広告において、自社商品等を利用している者の写真を自社商品等の回りを回転させることで、自社商品等が世間で広く利用されていることを表現することは、ありふれた表現であると主張する。
 しかし、項目イ、ウ及びオにおける原告DVDと被告DVDは、前記(ア)で判示したとおり、控訴人の上記主張に係る表現方法に比べてより具体的な表現方法において共通しており、前記(イ)のとおり、同表現方法に創作性が認められるのであって、控訴人が主張する上記の抽象的な表現方法に創作性が認められると判断するものではない。また、これらの点に関する表現方法は、前記(ア)で判示した共通点に係る表現方法の他にも多様な表現方法が考えられるから、同表現部分に著作物性を認めたとしても、英会話教材を紹介、宣伝する表現方法が不当に制約されたり、独占権を与えるということにはならない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
b 控訴人は、原告DVDの表現がありふれた表現であることを立証するために乙6を提出する。
 しかし、乙6には、扉や商品の特徴の説明や青空の画像や複数の写真等を円形に配置した画像が掲載されているが、当該画像がいかなる思想、感情を表現したものであるのかや当該画像がどのように変化していくかは不明であるし、また、当該画像のみを見ても、その表現方法は、前記(ア)で判示した原告DVDと被告DVDの共通点に係る表現方法とは大きく異なることは明らかであるから、乙6から、上記の共通点に係る表現方法がありふれた表現方法であると認めることはできない。」
6 原判決30頁1行目の「まず、」から9行目の「共通している。」までを次のとおり改める。
 「まず、画面中央最上部が光り、雲が浮かんでいる空の様子となった後、7段の階段が、空中を浮いた状態で、画面上方奥から手前に近づいてきて、階段の最下段の側面が画面中央に大きく拡大して、同側面に英語学習のステップのフレーズが、効果音と共に右側からスライドして表示されて、同フレーズが読み上げられ、その後、同側面は下方に移って画面から消え、代わって一段上の階段の側面が画面中央に拡大し、同側面に英語学習のステップのフレーズが、効果音と共に右側からスライドして表示され、その後、同様の動作が、残りの5段分繰り返されて、最上段の側面のフレーズが読み上げられると、側面にフレーズが記載された階段が最上段から最下段まで映し出されるという点で共通している。」
7 原判決31頁1行目冒頭から11行目末尾までを次のとおり改める。
 「(イ)項目ケにおける原告DVDと被告DVDの共通点は前記(ア)のとおりであるが、同共通点に係る表現方法は、階段を一つ上ることにより、その側面に表示された効果を得られ、このステップを一つずつ踏み、階段を上りきることで、階段の最上段にある光り輝く未来に到達できることを表現しようとしたものと理解できるところ、上記表現方法は、個性的であり、視聴者に強い印象を与えるものと認められることからすると、上記表現方法には創作性が認められるというべきである。
 そして、このことに、前記(ア)で判示した原告DVDと被告DVDの相違点は、視聴者に与える印象は弱く、原告DVDに些細な変更を加えたにすぎないものと認められることを併せ考慮すると、被告DVDから、項目ケの原告DVDの表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものと認められる。
(ウ)控訴人の主張について
a 控訴人は、学習の過程においては段階を踏む必要があることを、階段を用いて表現することや各ステップで得られるものを表示しながら階段を上っていく表現はありふれた一般的なものである、階段に示されているフレーズは外国語学習において当然の過程であり、他に代替する表現がない、被告DVDと原告DVDは各ステップで利用される表現も当然に類似することになる、項目ケの表現に創作性を認めることは、英会話教材を紹介、宣伝する表現そのものに独占権を与えることになり相当でないと主張する。
 しかし、項目ケにおける原告DVDと被告DVDは、前記(ア)で判示したとおり、控訴人の上記主張に係る表現方法に比べてより具体的な表現方法において共通しており、前記(イ)のとおり、同表現方法に創作性が認められるのであって、控訴人が主張する上記の抽象的な表現方法に創作性が認められると判断するものではない。
 また、この点に関する表現方法は、前記(ア)で判示した原告DVDと被告DVDの共通点に係る表現方法の他にも、多様な表現方法が考えられるから、同表現部分に著作物性を認めても、英会話教材を紹介、宣伝する表現方法を独占させることにはならない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
b 控訴人は、乙6を提出し、乙6には、階段の画像が掲載されているが、前記ア(ウ)bの判示と同様の理由により、乙6から、上記の共通点に係る表現方法がありふれた表現方法であると認めることはできない。」
8 原判決35頁25行目の「日本列島」から26行目の「現れて」までを、「日本列島の地図を上から示し、同地図は、最初は全体的に暗かったのが、一部に光る部分が現れて」に改める。
9 36頁6行目の「太陽が」から10行目の「表示する点」までを次のとおり改める。
 「太陽が速い速度で上っていく状況が大きく映され、その後、早い速度で雲が流れている明るい青空の映像に切り替わり、同青空の映像の中央部分に「あなたの心があなたの未来を創る!」(原告DVD)、「あなたの心であなたの未来が180度変わる!」(被告DVD)との文字が2段で表示され、また、同文字が読み上げられる点」
10 原判決36頁11行目の「日本列島」から、12行目〜13行目の「映され」までを「日本列島の光る部分は、関東地方から北の地域に広がり、その後日本列島全体に広がっていき」に改め、14行目の「日本列島」から15行目の「順に映され」までを「日本列島の光る部分は、概ね南から順に北に向かって日本列島全体に広がっていき」に改める。
11 原判決36頁17行目の「原告DVD」から同行目末尾までを次のとおり改める。
 「原告DVDと被告DVDとでは、地球を回る写真、太陽が上る方向や太陽の大きさ、青空に流れる雲の形、青空が映っている画面に表示される文字及びその色等が異なる。さらに、原告DVDと被告DVDとでは、被告DVDでは、太陽が上っていく映像に切り替わる前に、外国人と日本人が交流する様子を映した映像が挿入されている点や青空に雲が流れる場面で、太陽がはっきりとは映っていない点で異なる。」
12 原判決37頁1行目の「上記」から「考慮すれば」までを「このことに、同共通点は、視聴者に与える印象は強いものと認められるが、一方で、前記(ア)で判示した原告DVDと被告DVDの相違点は、視聴者に与える印象は弱く、原告DVDに些細な変更を加えたにすぎないものと認められることを併せ考慮すると」に改める。
13 原判決37頁3行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
 「(ウ)控訴人の主張について
a 控訴人は、商品やサービスの宣伝、広告として、日本中又は世界中で利用されていることを示すために、日本列島の地図を用いて表現すること、英会話が上達したこと等を日の出から青空への変化で表現することは、ありふれた表現であり、このような表現に創作性を認めることは、英会話教材を紹介、宣伝する表現そのものに独占権を与えることになり相当でないと主張する。
 しかし、項目テ及びトにおける原告DVDと被告DVDは、前記(ア)で判示したとおり、控訴人の上記主張に係る表現方法に比べてより具体的な表現方法において共通しており、前記(イ)のとおり、同表現方法に創作性が認められるのであって、控訴人が主張する上記の抽象的な表現方法に創作性が認められると判断するものではない。また、この点に関する表現方法は、前記(ア)で判示した原告DVDと被告DVDの共通点に係る表現方法の他にも、多様な表現方法が考えられるから、同表現部分に著作物性を認めても、英会話教材を紹介、宣伝する表現方法を独占させることにはならない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。
b 控訴人は、項目トについて、「あなたの心があなたの未来を創ります。」(原告DVD)、「あなたの心であなたの未来が180度変わります。」(被告DVD)との音声、文字は、共通しているとはいえないと主張する。
 しかし、上記の音声、文字の意味内容は似ており、また、いずれも2段で表示され、1段目は、「あなたの心が」(原告DVD)と「あなたの心で」(被告DVD)であり、2段目は「あなたの未来を創ります!」(原告DVD)と「あなたの未来が180度変わります!」(被告DVD)であり(甲5、6)、外観も似ている。原告DVD及び被告DVDにおいては、このような文字が、雲が速い速度で流れる青空の映像の中央部分に表示されるのであるから、上記のとおり、項目トについて原告DVDの表現上の本質的な特徴を被告DVDから直接感得することができる。
c 控訴人は、乙6を提出し、乙6には、日本列島の画像や複数の写真等を配置した画像が掲載されているが、前記ア(ウ)bの判示と同様の理由により、乙6から、上記の共通点に係る表現方法がありふれた表現方法であると認めることはできない。」
14 原判決39頁18行目の「証拠」を「前記前提事実、証拠」に改め、19行目の「認められる」の次に「(著作権法15条、16条)」を加える。
15 原判決41頁3行目の冒頭に「ア」を加え、6行目の「(1)」を「(2)」に改める。
16 原判決41頁21行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。
 「イ控訴人は、仮に、被告DVDが原告DVDの翻案権を侵害したとしても、侵害部分は、原告DVDの全体のうちの極めて限定的な部分であり、また、本質的でない部分であり、その作成に要した労力等も少なかったことから、被控訴人に損害は発生しておらず、発生していたとしても、原判決の1枚1000円という認定は高額すぎると主張する。
 しかし、前記前提事実並びに前記(2)及びアのとおり、原告DVD及び被告DVDは、いずれも、英会話教材である原告商品又は被告商品の宣伝、広告のために作成されたものであるところ、原告商品と被告商品は、販売方法が似通ったものであることからすると、控訴人の被告商品の売上げがそのまま被控訴人の原告商品の売上げの減少につながるおそれがあり、そのため、被控訴人が控訴人に対して、原告DVDを翻案して被告DVDを作成することを許諾することは通常考え難いというべきである。そして、このことを前記(2)及びアで判示した諸事情に併せて考慮すると、控訴人が主張する上記の事情を考慮しても、被告DVDの項目イ、ウ、オ、ケ、テ及びトの部分の利用許諾料を1枚当たり1000円とすることが高額にすぎるということはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は理由がない。」
第4 結論
 よって、争点2(編集著作物としての複製権、翻案権侵害の有無)及び争点3(言語の著作物としての複製権、翻案権及び譲渡権侵害の有無)について判断するまでもなく、原判決は正当であるということができる。本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 森義之
 裁判官 眞鍋美穂子
 裁判官 熊谷大輔
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