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【事件名】カラオケ無断使用事件(SUQSUQ)(2)
【年月日】令和元年9月18日
 知財高裁 平成31年(ネ)第10035号、令和元年(ネ)第10047号 著作権侵害差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件
 (原審・静岡地裁平成28年(ワ)第907号)
 (口頭弁論終結の日 令和元年7月8日)

判決
控訴人兼附帯被控訴人 X(以下「控訴人X」という。)
控訴人兼附帯被控訴人 Y(以下「控訴人Y」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 津田薫
被控訴人兼附帯控訴人 一般社団法人日本音楽著作権協会(以下「被控訴人」という。)
同訴訟代理人弁護士 小野森男
同 伊代田雄大
同訴訟復代理人弁護士 山本純


主文
1 本件控訴及び本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 令和元年7月9日以降に生ずべき損害賠償金又は不当利得金の支払を求める訴えをいずれも却下する。
3 控訴人らは、静岡市〈以下略〉「MusicLoungeSUQSUQ」において、原判決別紙1「楽曲リスト」及び原判決別紙2「カラオケ楽曲リスト」各記載の音楽著作物を次の方法により使用してはならない。
(1)奏者をして楽器演奏させ又は自ら楽器演奏する方法
(2)奏者、従業員及び客をして楽器演奏と併せて歌唱させ又は自ら歌唱する方法
4 控訴人Xは、被控訴人に対し、470万4605円(ただし、51万3523円の限度で控訴人Yと連帯して)及びこれに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 控訴人Yは、被控訴人に対し、51万3523円及びこれに対する平成28年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし、51万3523円及びこれに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で控訴人Xと連帯して)を支払え。
6 控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して、153万2903円を支払え。
7 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを10分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。
9 この判決は第4項及び第5項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴及び附帯控訴の趣旨
(控訴の趣旨)
 原判決主文第2項から第4項を次のとおり変更する。
(1)却下に係る部分を除く被控訴人の請求をいずれも棄却する。
(2)訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。
(附帯控訴の趣旨)
 原判決主文第1、3、4項を次のとおり変更する。
(1)控訴人Xは、被控訴人に対し、473万8677円(ただし、52万2720円の限度で控訴人Yと連帯して)及びこれに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人Yは、被控訴人に対し、控訴人Xと連帯して52万2720円及びこれに対する平成28年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して、平成28年11月1日から静岡市〈以下略〉「MusicLoungeSUQSUQ」において、原判決別紙1「楽曲リスト」及び原判決別紙2「カラオケ楽曲リスト」各記載の音楽著作物の使用終了に至るまで1か月4万7520円の割合による金員を支払え。
 なお、被控訴人は、差止請求に係る原判決主文第2項を不服の範囲としていないことが明らかである。
第2 事案の概要等(略称は原判決のそれに従う。)
1 事案の概要
(1)本件は、著作権等管理事業者である被控訴人が、控訴人らに対し、被控訴人との間で利用許諾契約を締結しないまま、@控訴人Xが、平成20年6月18日から平成27年1月22日までの間「MusicLoungeSUQSUQ」(旧SUQSUQ)の、平成27年7月9日から同年11月30日までの間「LIVEBANDPARADISE」(PARADISE)の実質的経営者として、A控訴人らが、平成27年12月7日から現在に至るまで、「MusicLoungeSUQSUQ」(現SUQSUQ)の実質的経営者として、それぞれ上記各店において、楽曲につき演奏、歌唱ないしカラオケ機器により使用した行為が、被控訴人が著作権を管理する著作物(管理著作物)の演奏権ないし上映権侵害に当たると主張して、控訴人らに対し、〈1〉著作権法112条1項に基づいて、現SUQSUQにおける管理著作物の演奏・歌唱による使用の差止めを求めるとともに、〈2〉主位的に著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として、予備的に不当利得返還請求として、i)控訴人Xにつき、上記各店における平成20年6月18日から平成28年10月31日までの使用料相当額及び弁護士費用から既払金8万7480円を控除した残額472万0620円(このうち52万2720円の限度で控訴人Yと連帯して)並びにこれに対する不法行為以後又は請求の日の翌日である平成28年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息金、ii)控訴人Yにつき、現SUQSUQにおける平成27年12月7日から平成28年10月31日までの使用料相当額及び弁護士費用52万2720円並びにこれに対する不法行為以後又は請求の日の翌日である同年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は利息金、iii)控訴人らにつき、現SUQSUQにおける同年11月1日から管理著作物の使用終了に至るまで、連帯して、月4万3200円の割合による将来の使用料相当額の各支払を求める事案である。
(2)原判決は、控訴人らが管理著作物の演奏主体に当たると判断して、〈1〉被控訴人の差止め請求を認容し、〈2〉金銭請求について、i)控訴人Xにつき、平成20年6月18日から平成28年10月31日までの不法行為についての損害賠償金から既払金を控除した残額477万0876円(このうち51万3216円の限度で控訴人Yと連帯して)及びこれに対する不法行為以後である同年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、ii)控訴人Yにつき、控訴人Xと連帯して、平成27年12月7日から平成28年10月31日までの不法行為についての損害賠償金51万3216円及びこれに対する不法行為以後である同年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金、iii)控訴人らにつき、連帯して、同年11月1日から平成30年11月15日(原審口頭弁論終結日)までの不法行為についての損害賠償金105万8400円の各請求を認め、同月16日から上記著作物の使用終了に至るまでの不法行為に基づく損害賠償金又は不当利得金の将来請求に係る部分を却下し、その余の請求を棄却した。
(3)控訴人らは、被控訴人の請求を認容した部分を不服として控訴した。また、被控訴人は将来請求について却下した部分及び被控訴人の請求を棄却した部分を不服として附帯控訴した上で、〈2〉のi)の控訴人Xに対する請求を473万8677円(このうち52万2720円の限度で控訴人Yと連帯して)及びこれに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の請求に、〈2〉のiii)の控訴人らに対する将来請求について月4万7520円の割合による請求に、それぞれ拡張した。
2 前提事実
 前提事実は、次のとおり訂正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の1(原判決4頁16行目から14頁6行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決5頁11行目冒頭から同頁25行目末尾までを、「していた(弁論の全趣旨)。」と改める。
(2)原判決6頁1行目「であり、」から同頁3行目末尾までを「である(弁論の全趣旨。)」と改める。
(3)原判決6頁9行目「アーク」を「合同会社アーク(以下「アーク」という。また、同社の業務執行社員兼代表社員Aを「A」という。甲9)」と改める。
(4)原判決6頁19行目冒頭から14頁6行目末尾までを次のとおり改める。
「(3)各店における管理著作物の利用行為
ア 旧SUQSUQ
 旧SUQSUQにおいて、平成20年6月から平成27年1月まで、管理著作物について、@控訴人Xによる楽器演奏、Aその他の奏者による楽器演奏、B楽器演奏と併せて奏者、従業員及び客による歌唱がされていた。
 また、旧SUQSUQには、平成26年10月までカラオケ関係機器(カラオケ機器、モニターテレビ及び関連機器)が備え付けられ、控訴人Xや従業員が、客にカラオケ曲目リストを見せて選曲させ、上記カラオケ装置を使用し、伴奏音楽を再生して客や従業員らによる歌唱がされていた(弁論の全趣旨)(カラオケ関係機器の設置時期については、当事者間に争いがある。)。
イ PARADISE
 PARADISEにおいて、平成27年7月から同年11月まで、管理著作物について、@控訴人Xによる楽器演奏、Aその他の奏者による楽器演奏、B楽器演奏と併せて奏者、従業員及び客による歌唱がされていた。
 また、PARADISEには、カラオケ関係機器(カラオケ機器、モニターテレビ及び関連機器)が備え付けられ、従業員が、客にカラオケ曲目リストを見せて選曲させ、上記カラオケ装置を使用し、伴奏音楽を再生して客や従業員らによる歌唱がされていた。
ウ 現SUQSUQ(甲10、47の1、2、弁論の全趣旨)
 現SUQSUQにおいて、平成27年12月7日から現在まで、管理著作物について、@控訴人らによる楽器演奏、Aその他の奏者による楽器演奏、B楽器演奏と併せて奏者、従業員及び客による歌唱がされている。
エ 旧SUQSUQ、PARADISE及び現SUQSUQにおける管理著作物の利用についての利用許諾契約は締結されていなかった。
(4)仮処分決定に係る経緯
ア 被控訴人は、平成26年9月9日付けで控訴人Xを債務者として仮処分命令の申立てを行い、静岡地方裁判所は、平成27年1月9日、原判決別紙3の主文記載のとおりの仮処分決定をした(以下「本件仮処分決定」という。)。同裁判所執行官は、平成27年1月22日、本件仮処分決定に基づき、旧SUQSUQ内に設置された楽器や音楽機器につき執行官の保管とした(甲18、19、弁論の全趣旨)。
イ 控訴人Xは、平成27年4月21日、事情変更による仮処分決定の取消しを申し立て、控訴人Xと被控訴人との間で、同年5月13日の審尋期日における和解が成立し、同月19日、被控訴人による申立ての取下げを理由として上記楽器や音楽機器についての執行官保管が解かれた(甲20、21)。
(5)被控訴人使用料規程及び使用料規程取扱細則(社交場)の定め
ア 被控訴人の使用料規程(甲3。以下「使用料規程」という。)「第2章第1節8社交場における演奏等」には、以下の趣旨の定めがある。
(ア)ライブハウス、キャバレー、ディスコ、バー、スナック、旅館その他設備を設け客に飲食又はダンスをさせる営業を行う施設(以下「社交場」という。)において、当該営業とともに著作物を演奏等する場合の使用料は、次により算出した金額に、消費税相当額を加算した額とする。
(イ)使用料の種類
a 包括的利用許諾契約を結ぶ場合
(a)年間を通して毎月音楽を利用する場合の月額使用料(年間利用月額)
(b)1年に満たない一定期間音楽を利用する場合の月額使用料
(期間利用月額)
(c)1日1回あたりの使用料
b aによらない場合
 1曲1回の使用料
(ウ)使用料の適用区分
 社交場における演奏等の使用料は、原則として1演奏場所又は1上映場所を単位とし、主として不特定の客を対象とする営業(区分1)のうち、バー、スナック、居酒屋、レストランなどにおける音楽利用については、@1曲1回5分までの演奏の使用料について、原判決別紙5の使用料規程別表8の4(以下「別表8の4」という。)、Aカラオケ伴奏による歌唱1曲1回5分までの使用料について、原判決別紙6の使用料規程別表8の5(以下「別表8の5」)による。
(エ)備考
a 生演奏とは、ピアノ、ギターなどの楽器を用いて行う演奏又は歌手などの歌唱をいう。ただし、カラオケ伴奏による歌唱を含まない。
b カラオケ伴奏による歌唱とは、カラオケ設備により行う客の歌唱をいう。
c 座席数とは、社交場に設備されている客席の総数をいう。
d 座席数の算定方法は、次のとおりとする。
(a)椅子席等の場合1人用の椅子又は座席については、その数を、2人掛け以上の長椅子式の椅子席にあっては、当該椅子席の正面巾を0.5mで除して得た数を座席数とみなす。
(b)その他の場合椅子又は座席以外の客席(客にダンスをさせるための場所を含む。)については、当該部分の面積を1.5uで除して得た数を座席数とみなす。
e 標準単位料金とは、客1人あたりにつき通常支払うことを必要とされる税引き後の料金相当額(いずれの名義をもってするかを問わない)をいい、その基準については、使用料規程取扱細則に定める。
f 1曲1回あたりの使用料とは、著作物の全部又は一部を1回利用するごとの使用料をいう。
g 1曲1回の利用時間が5分を超える場合の使用料は、5分を超えるごとに、利用時間が5分までの場合の金額に、その同額を加算した額とする。
イ 被控訴人の使用料規程取扱細則(社交場)(甲36。以下「細則」という。)には、以下の趣旨の定めがある。
(ア)上記ア(エ)eの標準単位料金の基準は、原判決別紙7の細則の別表(以下「細則別表」という。)による。この場合において、標準単位料金・宿泊料金の欄に掲げる各代金又は料金は、著作物の利用を伴う営業の料金体系における標準的な額とする。
(イ)「使用料の適用区分」とは、使用料規程第2章第1節8社交場における演奏等に定める使用料の適用区分をいう。定額制・チケット制とそれ以外の料金体系が並立する場合の標準単位料金は、定額制による料金とする。」
3 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件における争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決14頁13行目、及び17頁24行目の「本件店舗の各店におけるバンド演奏が営利性を有するか」を「著作権法38条1項該当性」と改め、後記5のとおり当審における補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第2の2及び3(原判決14頁7行目から26頁7行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
4 当審における補充主張
(1)侵害主体(争点(1)ア、イ)について
(被控訴人の主張)
 控訴人らは、管理著作物の著作権の侵害主体である。
(控訴人らの主張)
 控訴人Xが現SUQSUQにおいて受領した給与は僅か月額15〜6万円であり、店舗の実質的支配とはほど遠い。
(2)著作権法38条1項該当性(争点(1)ウ)について
(控訴人らの主張)
ア SUQSUQではセット料金の実質は飲み放題の飲料と食べ放題のおつまみなど飲食物の代金そのものであり、時間制限も設けていないので、極めて合理的な「飲食代金」である。しんちゃんバンドは控訴人らなど店の経営者や従業員(全員素人)だけで構成され、有償で雇用したメンバーはいないから、演奏はスタッフによる無料サービスの域を超えていない。SUQSUQは前記バンド演奏の場を確保するために存在するものでもなく、そこでの演奏は、飲食店の客寄せのための従業員による無
料のサービス提供(もしくは演奏者らの趣味)に過ぎないから、純然たる無償の演奏行為であり、著作権の侵害もなく、本来的に使用料が発生しない範疇のものである。
イ バンドのメンバーへの支払については、控訴人Xは、SUQSUQの元オーナーで店の経営に習熟しており、店の雰囲気を含め総務全体を担当してきた労働対価であり、その他のメンバーも店員としての雑務の対価又は安い日当程度で金額も極めて僅少であり、演奏料の対価ではない。飲食店の従業員らが、店舗の宣伝ないし売り上げの向上を目指し、営業の一助として演奏活動をしたからといって、間接的にでも、営利性が帰結されるものではない。
(3)損害額(争点(2))について
(被控訴人の主張)
 被控訴人の損害額ないし損失は次のとおりである(請求の拡張)。
ア 旧SUQSUQ
(ア)生演奏について
a 平成20年6月18日〜平成26年3月31日
  月額使用料 4万2000円
  (計算式)100円×20曲×20日×1.05(消費税)
  侵害期間 70か月
  使用料相当額 294万円
b 平成26年4月1日〜平成27年1月22日
  月額使用料 4万3200円
  (計算式)100円×20曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 9.7か月
  使用料相当額 41万9040円
(イ)カラオケについて(原審における主張と変更なし)
a 平成23年8月1日〜平成26年3月31日
  月額使用料 9450円
  (計算式)90円×5曲×20日×1.05(消費税)
  侵害期間 32か月
  使用料相当額 30万2400円
b 平成26年4月1日〜同年10月31日
  月額使用料 9720円
  (計算式)90円×5曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 7か月
  使用料相当額 6万8040円
(ウ)旧SUQSUQに係る損害額410万2428円
 以上によれば、旧SUQSUQに係る使用料相当額は372万9480円であり、相当因果関係ある弁護士費用は1割である37万2948円であるから、その合計額は410万2428円である。
イ PARADISE(平成27年7月9日〜同年11月30日)
(ア)生演奏について
  月額使用料 2万9160円
  (計算式)90円×15曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 4.7か月
  使用料相当額 13万7052円
(イ)カラオケについて
  月額使用料 9720円
  (計算式)90円×5曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 4.7か月
  使用料相当額 4万5684円
(ウ)PARADISEに係る損害額 11万3529円
 以上によれば、PARADISEに係る使用料相当額は18万2736円であり、相当因果関係ある弁護士費用は1割である1万8273円であるから、その合計額は20万1009円である。PARADISEに係る損害ないし損失についての既払金8万7480円を控除した残額は11万3529円となる。
ウ 現SUQSUQ
(ア)平成27年12月7日〜平成28年10月31日
  月額使用料4万3200円
  (計算式)100円×20曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 11か月
  使用料相当額 47万5200円
 以上によれば、現SUQSUQに係る平成28年10月31日までの使用料相当額は47万5200円であり、相当因果関係ある弁護士費用は1割である4万7520円であるから、その合計額は52万2720円である。
(イ)平成28年11月1日以降の部分について
 月額使用料は4万3200円であり、相当因果関係ある弁護士費用は1割である月額4320円であるから、管理著作物の使用終了に至るまでの将来の損害ないし損失は、月4万7520円の割合である。
エ まとめ
 したがって、@控訴人Xは、473万8677円(ただし、52万2720円の限度で控訴人Yと連帯して)及びこれに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払、A控訴人Yは、控訴人Xと連帯して52万2720円及びこれに対する同月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払、B控訴人らは、連帯して、同年11月1日から管理著作物の使用終了に至るまで1か月4万7520円の割合による金員の支払義務がある。
(控訴人らの主張)
ア 使用料規程の違法性
 使用料規程のうち、入場料もなく無償で行われる著作物の演奏に対しても使用料を徴収する規定は違法である。著作権法等が保護しようとするものは、著作物の経済的側面を中核とする文化的所産の公正な利用(著作権法1条)であり、著作権者以外の第三者が、無断で著作物を使用してその対価を得ることによって、著作物の中核が侵害され、その公正な利用ができなくなるからである。
 一般市民が、何ら対価を得ることなく無償で、著作物を演奏して楽しむことは、無償の演奏者の数が増えるに従って著作物の存在と内容とが社会に広く知れ渡ることとなるが、それは著作物の本来の目的に適うものではあれ決して著作権を侵害したりその公正な利用を害するものではない(私たちが普段歌を口ずさんだり自分の楽器で奏でたりすることの延長線上にあるというべきである)。そういった無償の演奏行為や歌唱に対してまで著作物の使用料を支払うことを義務付け、行為そのものを制限する規定を設けることは、憲法が保障する表現の自由(憲法21条1項)や幸福追求権(同法13条)などの権利を過度に制約することとなり、当該規定は違憲、違法であり、無効である(民法90条)。
 本件におけるSUQSUQでの演奏活動は著作権法の規制の範囲外のものであり、無償の範疇にあった。
イ 使用料規程は具体性、合理性を欠くものであること
 使用料規程によると、「定員」を決める基準は具体的に何なのか、調査員はいかなる内部基準に依拠して調査し、報告書を書くのか、別表8の4の席数、面積を決める基準は具体的に何なのか、席数とは補助席を含めた単純な椅子の数なのか、座れる定席の数なのか、それとも、一定期間における実際入場者数の平均値なのか、面積とはカウンターや飲食の専用部分を含む店舗全体の面積なのか、それとも演奏スペースプラス客席部分に限るのか、標準単位料金を定める具体的基準は何なのか、ディナーショウやジャズバーなどでは、飲食料金に加えた演奏ないし歌唱鑑賞料が込みとなって全体料金が定められるのが通常であるが、飲食料金を含めた全料金で計算するのか、それとも料金の内訳を店舗側に明らかにしてもらい、演奏ないし歌唱鑑賞の対価部分だけを基準とするのか、そういった具体的な徴収基準を被控訴人内部ではどのように定められているのかに疑問がある。
 著作権使用料の意義から常識的に考えても、使用料、対価は、演奏ないし歌唱と関連する部分に限定して徴収されなければならず、それと無関係な調理や飲食の部分は除かなければならないであろう。このように、被控訴人が決め、控訴人らに対して徴収しようとしてきた著作権料の決定基準そのものが、具体性を欠き、しかも正確でない調査に基づく使用料の徴収なのであり、極めて不合理だといわざるを得ない。
ウ 被控訴人の実態調査の不当性
 被控訴人が行ってきた調査方法そのものに大きな問題があり、その調査結果の信憑性は低いといわざるを得ない。被控訴人が作成したSUQSUQに対する実態調査結果は、同店の経営実態を反映したものとなっていない。
 SUQSUQテーブルや座席の数、配置などを全般的にみると、椅子はすべてテーブルの回りに配置され、演奏を聴くための配置ではなく、飲食を前提としたものとなっている他、椅子の数は確かに形式的には40席あるが、それらの多くが補助椅子であり、また、被控訴人側の実態調査結果を見ても、さらには、丙2、3のYの確定申告書から算出されるSUQSUQの来店者数、日々の売り上げなどから見ても、椅子の大半が使用されることがなかったことは明白であった。
 SUQSUQの営業は大変厳しく、毎日、用意された座席数の大半が埋まることはなく、来客がない日も多かった。演奏が入るのは「客が入ったときのみ」なのである。客が入らない日、演奏されない日は、年間で平均すると月に6〜7日はあった。また、客が入っても、客から演奏は要らないと言われれば演奏はしない。毎年11月と12月は店の繁忙期であるが、平成29年の11月21日から12月11日にかけて、来店者数がゼロの日が2日であり、それ以外の日も、来店者数は1〜30名、演奏回数は30分×1から30分×3であり、売上げは5000円から16万1000円であった。店の閑亡期になると、来店者数はさらに少なくなり、売上げとともに0の日がもっと多くなる。
 甲24、25に関しては、営業時間は20時00分〜24時00分である(2つの報告書でも内容が異なっている)。演奏方法は生演奏であるが、実質は客のリクエストに応じて客が歌唱する「カラオケ演奏」である。客のリクエストがないときに限り、主に、ポップスを演奏しているものの、これも、カラオケボックスで、客がリクエスト曲を歌わないときにずっと他の音楽が流れているのと同じである。SUQSUQでは、飲食代のセット料金以外、カラオケを含めて別途料金を徴収していない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 認定事実は、次のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」第3の1(原判決26頁9行目から33頁24行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決27頁6行目「補助椅子を入れて」を削除する。
(2)原判決27頁14行目「前提事実(6)の」を削除する。
(3)原判決28頁21行目末尾に「控訴人Xは、アークないしAから、店舗内の備品等の動産や音響機器の使用についての対価は受領していなかった。」を加える。
(4)原判決30頁10行目「(前提事実(5)、証人B7頁)」を削除する。
(5)原判決33頁2行目末尾に改行の上、次のとおり加える。
「ケ同店は、本件訴訟の第一審の口頭弁論終結後も同様の営業を継続している(甲47の1、2)。」
2 控訴人らの責任(争点(1))について
 控訴人らの責任(争点(1))についての判断は、次のとおり訂正するほか、原判決「事実及び理由」第3の2(原判決33頁25行目から37頁26行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決34頁6行目「本件仮処分」から同頁12行目「したこと、」までを「本件仮処分決定の執行がされたため、控訴人Xは、自分の経営名義ではいつまでも演奏ができず、一旦廃業して他人の名義で営業を再開すれば、
本件仮処分決定の執行の対象となった楽器等も使用できるようになると考え、旧SUQSUQを閉店し、Aに相談してAの名義でPARADISEを開店したこと、控訴人XはPARADISEの売上げから収入を得ていたこと、」と改める。
(2)原判決34頁15行目「これらの事実からすれば」から21行目末尾までを、「これらの事実に加え、後記(2)のとおりのPARADISE閉店後の現SUQSUQの開店に至る経緯をも併せ考えると、PARADISEは、飲食店営業許可及び風俗営業許可をアークの名義で受けていたものの、実質的には控訴人Xによる管理支配が及んでいたものと認めるのが相当である。そして、旧SUQSUQと同様にしんちゃんバンドによる生演奏等は同店の営業における顧客誘引力となっており、また、控訴人Xは店内の備品等を同店の営業に使用し、その結果得られた同店の収益を控訴人XとアークないしAにおいて得ていたといえるから、控訴人Xは、同店の共同経営者であったものといえる。」と改める。
(3)原判決35頁9行目「めたいと考え、」を「めるために、元の店に戻したいと考え、」と改める。
(4)原判決35頁15行目「同人は、」から同頁19行目「述べていたこと、」までを削除する。
(5)原判決35頁24、25行目「その名義は控訴人Yが有していたにせよ、」を「飲食店営業許可を控訴人Yの名義で受けていたとしても、」と改める。
(6)原判決36頁14行目末尾に、「控訴人らは、控訴人Xが現SUQSUQにおいて受領した給与は15〜16万円であり、店舗の実質的支配にほど遠い金額であると主張するが、控訴人Xが得る金額は控訴人Yが現SUQSUQの売上げから得る利益よりも高額であることに照らし、採用できない。」
(7)原判決36頁15行目冒頭から37頁16行目末尾までを次のとおり改める。
 「(3)著作権法38条1項該当性(争点(1)ウ)について著作権法38条1項は、@営利を目的とせず、A聴衆又は観衆から料金を受けない場合で、B実演家等に対して報酬が支払われない場合には、演奏権が及ばないことを規定するところ、@の非営利目的とは、当該利用行為が直接的にも間接的にも営利に結びつくものでないことをいうものと解される。
 上記1に認定した事実によれば、控訴人らは本件店舗の各店におけるバンド演奏によりバンド音楽を好む客の来集を図っているものというべきであるから、本件店舗の各店におけるバンド演奏による管理著作物の利用行為が、直接的にも間接的にも営利に結びつくものでなかったということはできない。したがって、本件店舗の各店におけるバンド演奏について、同条の規定する、演奏権が及ばない場合に当たるとはいえない。
 控訴人らは、現SUQSUQにおけるセット代金は飲食代金であるとか、演奏する者がスタッフによる無料サービスであるなどと主張して、非営利性を主張するが、飲食店での客寄せのための演奏であることは自認しており、間接的に営利に結びつくものでなかったといえないことは明らかである。」
(8)原判決37頁21行目「前提事実(8)及び認定事実(3)オ」を「前提事実(3)及び認定事実(3)オ、ケ」と改める。
(9)原判決37頁26行目末尾に改行の上、次のとおり加える。
「(5)控訴人らの責任
 ア 以上によれば、控訴人Xは本件店舗の本件各店において管理著作物に係る著作権を侵害したこと、控訴人Yは現SUQSUQにおいて管理著作物に係る著作権を侵害したこと、控訴人らにおける著作権侵害についての故意があることが認められる。
 したがって、控訴人らは、被控訴人に対し著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償責任を負う(現SUQSUQにおける著作権侵害については共同不法行為が成立する)。
イ 控訴人Xは、被控訴人は控訴人Xの旧SUQSUQにおける著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権につき消滅時効の完成を主張する。しかし、被控訴人が、本件訴訟の提起日(平成28年11月11日)の3年前である平成25年11月10日までに旧SUQSUQにおける控訴人Xによる著作権侵害の事実を知ったことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、被控訴人調査担当者が平成26年2月28日に社交場調査を行い(甲11)、これにより旧SUQSUQにおける著作権侵害による具体的な損害の発生を認識したということができる。したがって、本件訴訟の提起時に、不法行為に基づく損害賠償請求権について消滅時効が完成したということはできない。」
3 損害ないし損失額(争点(2))について
(1)損害額の算定
 被控訴人は使用料規程により使用料を得ているのであるから、使用料規程に従って算出される使用料相当額をもって、被控訴人の損害と認めるのが相当である。
 これに対し、控訴人らは、使用料規程のうち、入場料もなく無償で行われる著作物の演奏に対しても使用料を徴収する規定は、著作権法による保護の範囲を超えており、憲法上の表現の自由及び幸福追求権などの権利を過度に制約するもので、公序良俗に反し無効であるし、本件におけるSUQSUQでの演奏活動は著作権法の規制の範囲外のものであり、無償の範疇にあったと主張する。しかし、演奏権が及ばない場合については著作権法38条1項が規定するとおりであり、使用料規程の内容に照らし、一般に演奏権が及ぶ場合について使用料を規定したものであることは明らかであり、著作権の保護範囲に関する控訴人らの主張は独自の見解であって採用できない。また、控訴人らの行為が著作権法38条1項により演奏権が及ばない場合に該当しないことは上記2(7)において説示したとおりであり、控訴人らの行為が著作権法の規制の範囲外であるとの控訴人らの主張は失当である。
 さらに、控訴人らは、使用料規程は具体性、合理性を欠くものであることを主張する。しかし、使用料規程には、社交場として定義される施設において、椅子又は座席以外の客席(客にダンスをさせるための場所を含む。)については面積を1.5uで除した数を座席数とみなすことを含めた座席数の算出方法、標準単位料金の算出方法(客1人あたりにつき通常支払うことを必要とされる税引き後の料金相当額(いずれの名義をもってするかを問わない))が定められており、十分に具体性がある。また、著作権等管理事業者において締結する著作物の利用許諾契約の性質上、このような座席数及び標準単位料金を基準に使用料を定めることにも合理性があるというべきである。
 また、控訴人らは、損害額の算定に当たり、包括的利用許諾契約を締結する場合の規定によるべきであるとか、本件店舗における生演奏はカラオケと異ならないから使用料規程の別表7(2)記載の表中の2の区分が適用されるべきであるなどと主張するが、いずれも採用できない。
(2)旧SUQSUQにおける著作権侵害の損害額
ア 使用料
 認定事実(1)ウによれば、旧SUQSUQの座席数は31席以上40席以下であり、1人当たりの平均料金を考慮すれば標準単位料金は4001円以上5000円以下であるから、1曲1回5分までの演奏についての使用料は、生演奏については100円(別表8の4)、カラオケ伴奏による歌唱については90円(別表8の5)である。
イ 平均使用曲数
 認定事実(1)ウ、エから窺える1日当たりの平均使用曲数と、営業時間が5時間であり、被控訴人調査担当者はその営業時間の一部の時間帯しか滞在していないことを踏まえた単純計算をすると、生演奏については、1日当たり約30曲、カラオケ伴奏による歌唱については、1日当たり約5曲が演奏されていることになる。もっとも、被控訴人調査担当者が調査を行ったのは、各社交場実態調査報告書が作成された日に限られる一方、客の入りが悪い日には、ほとんど演奏しないこともあるという控訴人Xの主張には裏付けとなる証拠はないものの、不合理であるとまではいえず、その可能性もまた否定できない。以上によれば、旧SUQSUQにおいては、平均して、少なくとも生演奏で1日当たり20曲程度、カラオケ伴奏による歌唱で5曲程度は演奏ないし歌唱しているとする被控訴人の主張には一応の合理性があるといえ、これに基づいて管理著作物の使用料相当額を算定するのが相当である。
 なお、カラオケ伴奏による歌唱については厳密には5曲も歌唱されていない可能性もある。しかし、認定事実(1)エによれば、生演奏曲数が20曲を優に超えることや、1曲当たりの使用料が生演奏の方が高額であること、生演奏となるかカラオケ伴奏による歌唱となるかは、しんちゃんバンドによる演奏が可能か否かによるなど流動的であることを考慮すれば、上記認定には一定の合理性があるというべきである。
ウ 営業日数
 認定事実(1)ウによれば、1か月当たりの平均営業日数は、定休日及び都合による休業日が存在する可能性も考慮し、20日程度と認めるのが相当である。
エ 侵害期間
 前提事実(2)及び(4)によれば、生演奏による侵害期間は旧SUQSUQにつき風俗営業許可を受けた日である平成20年6月18日から本件仮処分決定の執行(平成27年1月22日)までの間、カラオケ伴奏による侵害期間はカラオケ関係機器を備え付けていた平成23年8月から平成26年10月までであると認めるのが相当である。
オ 損害額
(ア)生演奏の使用料相当額
a 平成20年6月18日〜平成26年3月31日
  月額使用料 4万2000円
  100円×20曲×20日×1.05(消費税)
  侵害期間 69か月14日
 以上によれば、上記期間の使用料相当額は291万6968円である。
 (計算式)42,000×69+42,000×14/31(小数点以下四捨五入、以下同じ。)
b 平成26年4月1日〜平成27年1月22日
  月額使用料 4万3200円
  100円×20曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 9か月22日
 以上によれば、上記期間の使用料相当額は41万9458円である。
 (計算式)43,200×9+43,200×22/31
(イ)カラオケの使用料相当額
a 平成23年8月1日〜平成26年3月31日
  月額使用料 9450円
  90円×5曲×20日×1.05(消費税)
  侵害期間 32か月
 以上によれば、上記期間の使用料相当額は30万2400円である。
 (計算式)9,450×32
b 平成26年4月1日〜同年10月31日
  月額使用料 9720円
  90円×5曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 7か月
 以上によれば、上記期間の使用料相当額は6万8040円である。
 (計算式)9,720×7
(ウ)旧SUQSUQに係る損害額407万7553円
 以上によれば、旧SUQSUQに係る使用料相当額は(ア)と(イ)の合計である370万6866円であり、弁護士費用としては1割である37万0687円をもって相当と認めるから、その合計額は407万7553円である。
 なお、被控訴人は、上記ア(ア)及び(イ)の生演奏の侵害期間について70か月及び9.7か月として計算することを主張するが、上記の侵害期間に照らし採用できないのは明らかである。
(3)PARADISEにおける著作権侵害の損害額
ア 使用料
 認定事実(2)イ及びウによれば、PARADISEの座席数は31席以上40席以下であり、標準単位料金は3001円以上4000円以下であるから、1曲1回5分までの演奏についての使用料は、生演奏については90円(別表8の4)、カラオケ伴奏による歌唱についても90円(別表8の5)である。
イ 平均使用曲数
 認定事実(2)オによれば、被控訴人調査担当者によるPARADISEの調査は1日のみであり、生演奏の曲数は14曲、カラオケの曲数は1曲であったことが認められるが、被控訴人調査担当者は6時間の営業時間のうちの2時間11分しか滞在していないこと、客の入りが悪い日には、ほとんど演奏しないこともあるという控訴人Xの主張が不合理であるとまではいえず、その可能性もまた否定できないことを考慮すれば、PARADISEにおいては、少なくとも1日当たり15曲程度、カラオケ伴奏による歌唱で5曲程度を演奏しているとする被控訴人の主張には一応の合理性があるといえ、これに基づいて管理著作物の使用料相当額を算定するのが相当である(生演奏とカラオケ演奏の割合については上記(1)イにおいて説示したところが妥当する。)。
ウ 営業日数
 認定事実(2)カによれば、1か月当たりの平均営業日数は、定休日及び都合による休業日が存在する可能性も考慮し、20日程度と認めるのが相当である。
エ 侵害期間
 前提事実(2)によれば、侵害期間は、PARADISEにつき風俗営業許可を受けた日である平成27年7月9日から閉店日である同年11月30日までの間であると認めるのが相当である。
オ 損害額
(ア)生演奏の使用料相当額
  月額使用料2万9160円
  90円×15曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 4か月22日
 以上によれば、上記期間の使用料相当額は13万8024円である。
 (計算式)29,160×4+29,160×22/30
(イ)カラオケの使用料相当額
  月額使用料9720円
  90円×5曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 4か月22日
 以上によれば、上記期間の使用料相当額は4万6008円である。
 (計算式)9,720×4+9,720×22/30
(ウ)PARADISEに係る損害額11万3529円
 以上によれば、PARADISEに係る使用料相当額は18万4032円であり、弁護士費用としては1割である1万8403円をもって相当と認めるから、その合計額は20万2435円である。そして、被控訴人の計算方法に従い、既払金8万7480円を損害金元本から控除すると損害金残額は11万4955円となる。
 もっとも、被控訴人は、PARADISEに係る損害額として11万3529円を主張しているので、その限度で損害額を認定する。
(4)現SUQSUQにおける著作権侵害の損害額
ア 使用料
 認定事実(3)ア〜ウによれば、現SUQSUQの座席数は31席以上40席以下であり、1人当たりの平均料金を考慮すれば標準単位料金は4001円以上5000円以下であるから、1曲1回5分までの演奏についての使用料は、生演奏について100円(別表8の4)である。
イ 平均使用曲数
 認定事実(3)エ及びオから窺える1日当たりの平均使用曲数と、営業時間が4時間程度であり、被控訴人調査担当者はその営業時間の一部の時間帯しか滞在していないことを踏まえた単純計算をすれば、生演奏について、1日当たり25曲以上が演奏されていることになる。もっとも、被控訴人調査担当者が調査を行ったのは、各社交場実態調査報告書が作成された日に限られる一方、客の入りが悪い日には、ほとんど演奏しないこともあるという被告Xの主張が不合理であるとまではいえず、その可能性もあるのは上記(1)説示のとおりである。以上を総合考慮すれば、被告らは、平均すれば少なくとも生演奏で1日当たり少なくとも20曲程度を演奏しているとする被控訴人の主張には一応の合理性が認められるから、これに基づいて使用料相当額を算定するのが相当である。
ウ 営業日数
 認定事実(3)カによれば、1か月当たりの平均営業日数は、定休日及び都合による休業日が存在する可能性も考慮し、20日程度と認めるのが相当である。
エ 侵害期間
 前提事実(3)によれば、侵害期間は、現SUQSUQの開店日である平成27年12月7日から現在までであると認められる。
オ 損害額
(ア)平成27年12月7日〜平成28年10月31日の損害額(被控訴人が過去の損害として遅延損害金を請求する分)
a 使用料相当額
  月額使用料 4万3200円
  100円×20曲×20日×1.08(消費税)
  侵害期間 10か月25日
 以上によれば、上記期間の使用料相当額は46万6839円である。
 (計算式)43,200×10+43,200×25/31
b 現SUQSUQに係る損害額@(平成27年12月7日〜平成28年10月31日分)51万3523円以上によれば、現SUQSUQに係る平成28年10月31日までの使用料相当額は46万6839円であり、弁護士費用としては1割である4万6684円をもって相当と認めるから、その合計額は51万3523円である。
 なお、被控訴人は、侵害期間を11か月として計算することを主張するが、上記の侵害期間に照らし採用できないことが明らかである。
(イ)平成28年11月1日〜令和元年7月8日の損害額(被控訴人が将来の損害として請求する分のうち、控訴審の口頭弁論終結日までの分)
a 使用料相当額
  月額使用料 4万3200円(上記(ア)と同様)
  侵害期間 32か月8日
 以上によれば、上記期間の使用料相当額は139万3548円である。
 (計算式)43,200×32+43,200×8/31
b 現SUQSUQに係る損害額A(平成28年11月1日〜令和元年7月8日分)153万2903円
 以上によれば、現SUQSUQに係る平成28年11月1日から令和元年7月8日までの使用料相当額は139万3548円であり、弁護士費用としては1割である13万9355円をもって相当と認めるから、その合計額は153万2903円である。
(ウ)令和元年7月9日以降の損害ないし損失に係る請求について
 将来の給付を求める訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り認められるところ(民訴法135条)、継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については、たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても、損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず、具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ、かつ、その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく、事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは、将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決民集35巻10号1369頁、最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決集民224号391頁等参照)。
 以上によれば、現SUQSUQにおける、控訴審の口頭弁論終結日の翌日である令和元年7月9日以降の不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求に係る訴えは不適法であり、却下を免れない。
(5)控訴人らの主張について
 控訴人らは、被控訴人による実態調査の方法そのものに大きな問題があり、その調査結果の信憑性は低いと主張するが、そのようにいえないことは前記1において引用した訂正された原判決説示のとおりである。
 使用料規程によれば、座席の配置、実際の売上げや来店者数や椅子の利用状況により使用料額が変動するものではないから、これらの点についての控訴人らの主張は採用できない。また、控訴人らの主張する補助椅子がどのような椅子を指すのかは明らかではないが、甲10、24、25、41、42からは、本件店舗の各店の座席数は31〜40席であったものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
 控訴人らは、平成29年11月21日から同年12月11日にかけての利用状況や営業時間についての主張をするが、いずれもこれを裏付ける的確な証拠はなく、上記認定を左右するものではない。
 控訴人らのその余の主張も採用できない。
4 小括
 以上によれば、被控訴人の拡張後の請求は、〈1〉差止請求、〈2〉金銭請求のうち、i)控訴人Xにつき、平成20年6月18日から平成28年10月31日までの著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償金合計から既払金を控除した残額470万4605円(このうち51万3523円の限度で控訴人Yと連帯して)及びこれに対する不法行為以後である同年12月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払、ii)控訴人Yにつき、平成27年12月7日から平成28年10月31日までの著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償金51万3523円及びこれに対する不法行為以後である同年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(うち、51万3523円及びこれに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で控訴人Xと連帯支払)、iii)控訴人らにつき、連帯して、同年11月1日から令和元年7月8日(控訴審口頭弁論終結日)までの不法行為についての損害賠償金153万2903円の支払を求める限度で理由があり、同月9日から管理著作物の使用終了に至るまでの不法行為に基づく損害賠償金又は不当利得金の将来請求に係る部分は不適法であり、その余の請求は理由がないことになる。
 したがって、原判決中、〈1〉の差止請求を認容した部分、〈2〉iii)の控訴人らに対する請求について、令和元年7月9日以降に生ずべき損害賠償金又は不当利得金の支払を求める訴えを却下した部分は相当である。〈2〉のi)の控訴人Xに対する請求に関する部分については、470万4605円(このうち51万3523円の限度で控訴人Yと連帯して)及びこれに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を超えて認容するのは相当でないから、本件控訴に基づき変更すべきことになる。〈2〉のii)の控訴人Yに対する請求に関する部分については、51万3523円及びこれに対する同年12月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払(うち、51万3523円及びこれに対する平成28年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で控訴人Xと連帯支払)を、〈2〉のiii)の控訴人らに対する請求のその余の部分については、153万2903円の連帯支払を命じるべきであるから、本件附帯控訴に基づき変更すべきことになる。また、仮執行宣言については、被控訴人が求める限度で付するのが相当である。
第4 結論
 よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第3部
 裁判長裁判官 鶴岡稔彦
 裁判官 山門優
 裁判官 高橋彩
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