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【事件名】GMOインターネットへの発信者情報開示請求事件B
【年月日】令和元年7月17日
 東京地裁 平成31年(ワ)第99号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和元年5月29日)

判決
原告 株式会社トップ・トレンド
同訴訟代理人弁護士 寺尾幸治
被告 GMOインターネット株式会社
同訴訟代理人弁護士 川ア友紀
同 八木優大
同訴訟復代理人弁護士 松井将征


主文
1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、@原告が、被告の運用するレンタルサーバ上に開設された別紙2ウェブページ目録記載のウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)に掲載された別紙4侵害行為目録記載1の画像(以下「本件画像」という。)によって、別紙3著作物目録記載のウェブ広告(以下「本件広告」という。)についての原告の著作権(複製権)が侵害されたことが明らかであり、また、これと選択的に、A本件ウェブページに掲載された別紙4侵害行為目録記載2の各記載(以下、これらを一括して「本件各記載」という。)によって、原告の社会的評価が低下し、信用が毀損されたことが明らかであり、本件画像及び本件各記載の掲載者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償請求等を行うために、被告の保有する別紙1発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示が必要であると主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない又は後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、インターネットを利用した各種情報提供サービス等を営む株式会社である。
イ 被告は、第三者がウェブページ等を運営するためのサーバを提供するホスティング事業等を営む株式会社である。
(2)本件広告
 原告は、利用者に競艇の予想情報を提供するウェブサイト(以下「競艇予想サイト」といい、原告が開設しているものを「原告サイト」という。)を開設し、そのトップページに、別紙3著作物目録記載のとおりの本件広告を掲載している(甲1)。
(3)本件発信者の行為
ア 本件ウェブページは、「比較競艇.net」と題するウェブサイトを構成するウェブページの一つであり、これらは被告が運用するレンタルサーバ上に開設されている(甲2、3)。
イ 本件発信者は、本件ウェブページを開設し、その中に、平成30年12月26日までに本件画像を掲載した(甲3)。
(4)被告の本件発信者情報の保有等
 被告は、本件画像の掲載について、本件発信者情報を保有している。
3 争点
(1)原告の著作権(複製権)が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)原告の社会的評価が低下し、信用が毀損されたことが明らかであるか(争点2)
(3)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はあるか(争点3)
4 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(原告の著作権(複製権)が侵害されたことが明らかであるか)について
【原告の主張】
 以下のとおり、本件画像の本件ウェブページへの掲載によって、原告の著作権(複製権)が侵害されたことは明らかである。
ア 本件広告は、「徹底!当日主義!!徹底!現場主義!!」等の個性的なキャッチコピー及び説明文等に、会議室で整然と並んで座る8名の人物を被写体とする個性的な写真(以下、本件広告のうち、原告が主張する写真を「本件写真」という。)等を組み合わせて配置し、配色し、思想又は感情を創作的に表現したものであるから、著作物性が認められる。
イ 原告は、平成16年4月、日本情報コンサルタンツ株式会社の制作した本件広告のキャッチコピー及び説明文の著作権の譲渡を受け、平成19年4月、株式会社オフィスキューブが撮影した本件写真の著作権の譲渡を受けたものであるから、本件広告について著作権を有する。
ウ 本件発信者は、本件ウェブページに、本件広告をそのままコピーした本件画像を掲載しており、本件広告についての原告の著作権(複製権)を侵害した。
エ 本件画像を掲載しなくても、原告サイトのURLを添付するなどすれば、競艇予想サイトの批評という目的を達することができることなどに照らせば、本件画像の本件ウェブページへの掲載は、公正な慣行に合致せず、引用の目的上正当な範囲内で行われたものでもないから、適法な引用(著作権法32条1項)に当たらない。
【被告の主張】
 以下のとおり、原告の著作権(複製権)が侵害されたことが明らかであるとはいえない。
ア 本件広告のキャッチコピーは、ごく短いものであり、筆者の個性が表れているとはいえず、その他の説明文や写真の配置等も、ありふれており、創作的な表現であるとはいえないから、本件広告には著作物性が認められない。
イ 本件広告に著作物性が認められるとしても、原告が本件広告について著作権を有するかは明らかでない。
ウ 本件画像は、本件広告に依拠して作成されたものか明らかでなく、また、画質が粗く、本件広告の本質的な特徴を直接感得することもできないから、本件広告を複製したものとはいえない。
エ 本件ウェブページにおいて、本件画像は、他のコンテンツと明瞭に区別して認識することができ、かつ、他のコンテンツと主従関係が認められる。また、競艇予想サイトを批評する前提として、原告サイトがどのような形式のウェブサイトであるかを掲載することは重要である。さらに、本件画像の横には原告サイトのURLも記載されている。したがって、本件画像の掲載は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるから、適法な引用(著作権法32条1項)に該当する。
(2)争点2(原告の社会的評価が低下し、信用が毀損されたことが明らかであるか)について
【原告の主張】
 本件発信者が本件ウェブページに本件各記載を掲載したことにより、原告の社会的地位が低下し、信用が毀損された。本件各記載の掲載に公益目的は認められず、違法性阻却事由は認められない。したがって、原告の社会的地位が低下し、信用が毀損されたことは明らかである。
【被告の主張】
 争う。本件各記載の掲載により、原告の社会的評価が低下し、信用が毀損されたとはいえない。また、本件各記載の掲載は、原告の批評という公益目的によるものであり、違法性阻却事由が認められる。
(3)争点3(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はあるか)について
【原告の主張】
 原告は、本件発信者に対して不法行為による損害賠償等を請求する予定であり、そのためには本件発信者情報の開示を受ける必要があるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
【被告の主張】
 不知又は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告の著作権(複製権)が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)本件広告の著作物性について
 前記第2の2(2)のとおり、本件広告は、競艇予想サイトである原告サイトのトップページに掲載されたウェブ広告であり、別紙3著作物目録のとおり、「競艇予想のプロ集団TOPTREND」という標題の下に、会議室のような場所でテーブルを囲んで着席している8名の人物を被写体とする本件写真が大きく表示されているほか、「徹底!当日主義!!徹底!現場主義!!」、「『勝てる!』『獲れる!』」といったキャッチコピーや説明文が表示されている。
 そして、本件広告の構成要素のうち、少なくとも、本件写真については、被写体の選択、構図等において、撮影者の思想又は感情が創作的に表現されているということができるから、写真の著作物として認められるべきものであり、そうである以上、本件広告を全体として見た場合に一定の個性が発揮されていることは否定し難く、本件広告について、著作物性が認められるというべきである。
(2)本件広告の著作権者について
 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、本件広告は、原告サイトのトップページに掲載されていたものであり、本件広告の右下には、「Copyright2004-2018」として、原告の名称の英語表記と合致する「ToptrendCo..Ltd.」との表示がされており、「Copyright」が著作権を意味する語として一般的に用いられ、原告の名称の英語表記も原告を示すものとして一般的に理解し得るものと認められるから、原告は、本件広告に、その名称が著作者名として通常の方法により表示されている者であるということができ、著作者と推定されこれを覆すに足りる証拠はないから、本件広告について著作権を有すると認められる。
(3)複製権侵害について
 証拠(甲1、3)及び弁論の全趣旨によれば、本件画像は、原告サイトに掲載された本件広告をそのまま縮小して本件ウェブページに掲載したものであると認められ、本件広告の特徴的部分である本件写真を覚知することができる。
 したがって、本件画像は、本件広告に依拠して再製したものであり、本件発信者は、本件画像の掲載に際し、本件広告を複製したものと認められる。
(4)違法性阻却事由の不存在(適法な引用の成否)について
ア 証拠(甲2、3)及び弁論の全趣旨によれば、本件ウェブページは、競艇予想サイトの批評を目的とするものであり、本件画像は、原告サイトを批評するために掲載されたものと認められる。
 しかしながら、批評の対象となる原告サイトを特定する必要があるとしても、そのために、原告サイトの名称やURLを掲載することに加えて、本件広告を複製して掲載する必要性が高いとはいえないから、本件画像の掲載が、引用の目的上正当な範囲内のものであるとはいえない。
 したがって、本件画像の掲載は、適法な引用(著作権法32条1項)には当たらない。
イ そして、本件全証拠によっても、本件画像の掲載について、その他の違法性阻却事由をうかがわせる事情は認められない。
(5)小括
 以上によれば、本件発信者が本件ウェブページに本件画像を掲載したことにより、本件広告についての原告の著作権(複製権)が侵害されたことが明らかであるというべきである。
2 争点3(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はあるか)について
 前記1によれば、原告は、本件発信者に対し、著作権(複製権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をするために被告が保有する、本件ウェブページに係る本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものと認められる。
3 結論
 以上のとおり、本件画像の掲載による原告の権利侵害が明白であるところ、本件発信者情報は上記権利侵害に係る発信者情報に該当し、その開示を受けるべき正当な理由があるといえるから、被告は、開示関係役務提供者として本件発信者情報を開示すべき義務を負う。
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 山田真紀
 裁判官 矢野紀夫
 裁判官 西山芳樹


(別紙1)発信者情報目録
 被告が管理するサーバコンピュータにおいて、別紙2ウェブページ目録記載のウェブページを開設する者に関する情報であって、次に掲げるもの。
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス

(別紙2)ウェブページ目録
 名称 「比較競艇.net」
 URL http://以下省略

(別紙3)著作物目録
(略)

(別紙4)侵害行為目録
1 次の画像
(略)
2 次の各記載
(1)「悪評」
(2)「このサイト、上手いこと法のギリギリやってる、信じたらバカみるょ。」
(3)「トップトレンド!?まだ懲りずにバカな事してるんやな!絶対に入会したらバカ見るよ。全て嘘。何もかもが嘘で固められているから、頭おかしぃ連中なんか相手にするもんじゃない。」
(4)「ここで1文目から“ねつ造”ともとれる情報が記載されている。」
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