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【事件名】漫画「グラップラー刃牙」事件
【年月日】令和元年6月19日
 東京地裁 平成28年(ワ)第10264号 著作権侵害差止等請求事件(第1事件)、平成28年(ワ)第22298号 損害賠償請求事件(第2事件)
 (口頭弁論終結日 平成31年4月17日)

判決
第1事件原告兼第2事件被告 X(以下「原告」という。)
第2事件被告 有限会社いたがきぐみ
上記両名訴訟代理人弁護士 山ア司平
同 柳楽久司
同 星晶広
同 正岡有希子
第1事件被告兼第2事件原告 FWD株式会社(以下「被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 高橋直


主文
1 被告は、別紙著作物目録記載の著作物を、自ら又は第三者をして、翻案してはならない。
2 被告は、別紙一覧表の番号3−7、8、17、18、35〜59記載の各商品を、自ら又は有限会社スパイダーウェブスをして、譲渡してはならない。
3 被告は、別紙一覧表の番号4−1、6、11〜21、29〜39、同5−2〜4の各画像を、自ら又は有限会社スパイダーウェブスをして、送信可能化してはならない。
4 被告は、別紙映画目録記載の映画を、自ら又は第三者をして、複製、翻案してはならない。
5 被告は、別紙映画目録記載の映画を、自ら又は第三者(中央映画貿易株式会社を除く。)をして、送信可能化してはならない。
6 被告は、別紙一覧表の番号2−1、2−2記載の各商品を頒布してはならない。
7 被告は、原告に対し、別紙商標目録記載の商標権の移転登録手続をせよ。
8 その余の原告の請求及び被告の請求をいずれも棄却する。
9 訴訟費用は第1事件・第2事件を通じ、原告と被告との間に生じたものは、これを100分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とし、第2事件被告有限会社いたがきぐみと被告との間に生じたものは、被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
【第1事件】
1 被告は、別紙著作物目録記載の著作物を、自ら又は第三者をして、翻案、譲渡及び送信可能化してはならない。
2 被告は、別紙映画目録記載の映画を、自ら又は第三者をして、複製、頒布、翻案及び送信可能化してはならない。
3 被告は、原告に対し、別紙商標目録記載の商標権の移転登録手続をせよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
【第2事件】
1 原告及び第2事件被告有限会社いたがきぐみ(以下、単に「第2事件被告」という。)は、被告に対し、連帯して、3200万円及びこれに対する原告につき平成28年7月27日から、第2事件被告につき同年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要等
第1事件の概要
 第1事件は、別紙著作物目録記載の漫画(以下「本件漫画」という。)の著作者兼著作権者である原告が、被告に対し、
(1)被告が原告の許諾を受けずに、(@)本件漫画を原作として翻案された別紙映画目録記載の映画(以下「本件アニメ」という。)を、自己又は第三者をして、配信し、DVDに複製して販売する行為(別紙一覧表番号1、2)、(A)本件漫画を翻案したキャラクター商品を、自己又は第三者をして製造、販売する行為(別紙一覧表番号3)、(B)本件漫画及び本件アニメの静止画像並びにこれらの翻案物を、自己又は第三者をしてウェブサイトに掲載する行為(別紙一覧表番号4、5)、(C)本件漫画及び本件アニメを翻案したぱちんこ・パチスロ遊技機を、第三者をして製造、販売する行為(別紙一覧表番号6)が、原告の著作権(本件漫画につき翻案権、譲渡権、送信可能化権、本件アニメにつき原著作者の権利としての複製権、頒布権、送信可能化権)を侵害すると主張し、被告に対し、@別紙著作物目録記載の著作物を、自ら又は第三者をして、翻案、譲渡及び送信可能化することの差止め(請求の趣旨第1項)、A別紙映画目録記載の映画を、自ら又は第三者をして、複製、頒布、翻案及び送信可能化することの差止め(請求の趣旨第2項)を求め、
(2)株式会社フリーウィル(以下「フリーウィル」という。)が商標登録を受け、被告がその商標権を承継した別紙商標目録記載の商標(以下「本件商標」という。)について、本件商標は、本来は原告に帰属し、本件アニメの制作等に関して締結された契約又は本件商標に係る合意に基づき、フリーウィルの名義で商標登録を受けることを許諾したものであるから、上記契約又は合意の終了により、原告は、被告に対し、本件商標の返還を求めることができると主張して、本件商標の移転登録手続(請求の趣旨第3項)を求める、事案である。
2 第2事件の概要
 第2事件は、被告が、原告及び第2事件被告(以下「原告ら」という。)に対し、@被告が本件アニメの公衆送信を許諾した第三者に対し、原告らが本件アニメの公衆送信の停止を求めた行為、A被告を経由した第三者からの本件漫画の利用許諾を求める申入れを原告らが拒絶した行為、B本件漫画の二次的利用に係る窓口業務(窓口業務の意義は後述する。)を被告が行うことを内容とする契約を原告らが不当に更新拒絶した行為が、それぞれ共同不法行為に該当し、また、上記A及びBについては、債務不履行に該当すると主張して、@につき民法719条、A及びBにつき同条又は同法415条に基づき、連帯して、損害賠償金1億4491万5749円(@につき1億1263万6325円、Aにつき200万円、Bにつき3027万9424円の合計額)のうち3200万円及びこれに対する不法行為又は催告の後である、原告につき平成28年7月27日、第2事件被告につき同年8月5日(いずれも第2事件訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
3 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告は、「板垣恵介」の筆名で活動する漫画家であり、本件漫画の著作者兼著作権者である。
イ 第2事件被告は、漫画の企画・制作等を業とし、原告の著作物に係る著作権の管理業務を行う有限会社であり、原告が取締役に、原告の配偶者が代表取締役にそれぞれ就任している。
ウ 被告は、アニメーションの企画と制作及び販売等を業とする株式会社であり、本件アニメの著作権者である。
エ フリーウィルは、アニメーションの企画と制作及び販売等を業とする株式会社である。
オ 株式会社秋田書店(以下「秋田書店」という。)は、出版印刷製本を業とする株式会社であり、平成3年以降、本件漫画、その続編及びスピンオフシリーズを、雑誌「週刊少年チャンピオン」等に掲載し、又は単行本として発刊している。
(2)本件漫画
 本件漫画は、格闘技を通じて少年の成長を描いた物語であり、美術の著作物に該当する。
(3)窓口業務
 漫画業界においては、漫画を掲載した雑誌又は単行本を出版する出版社が当該漫画の著作権者の同意の下、自己の名で第三者への使用許諾を行う窓口業務という商習慣がある。窓口業務とは、著作権者の代理人として、著作権者の許諾を受けて、ライセンシーとの間で著作物の翻案、送信可能化及び譲渡等に関する交渉を行い、自己の名で許諾契約を締結して著作権使用料を収受し、監修等、許諾に伴い発生する作業の著作権側の窓口となる業務をいう。
(4)本件アニメ化契約の締結及び本件アニメの放送
ア 原告の窓口業務を行っていた秋田書店は、原告の同意を得て、平成12年9月22日、フリーウィルとの間で、本件漫画をテレビ用アニメーションに翻案し、公衆送信することを使用許諾することなどを内容とする契約(以下「本件アニメ化契約」という。)を締結した。(甲5)
 本件アニメ化契約には、以下の条項が置かれている。
 柱書き
 株式会社秋田書店(以下『甲』という。)と株式会社フリーウィル(以下『乙』という。)は甲を著作権者板垣恵介及び著作物「グラップラー刃牙」及び同シリーズ「バキ」「外伝」(以下、本作品という)の正当なる著作権代行者として、テレビ用アニメーション化(以下、アニメ化、その作品を本アニメという)及び商品化について次の通り契約をする。
 第2条(基本事項)
(1)〜(3)略
(4)乙は本アニメの商品化において、試作品をすみやかに甲に提供し承認を受ける。
(5)略
 第3条(甲の権利)
(1)本作品に関するすべての権利は、本契約によって乙に許諾される権利を除き甲に留保される。
(2)甲は本アニメに関連する出版物(フィルムブック・ムック本等)の商品化権の第1次優先権を有し、商品化にあたっての条件等は甲乙での別途協議とする。
(3)本作品はもとより本アニメに関しての表題及びキャラクター等に関する商標、意匠を含むすべての知的所有権を登録する権利は甲に専属し、乙は甲の文章による許諾なしにこれらの登録をすることができない。乙が甲の許諾を得てこれらの登録を行った場合でも、許諾時の特別の定めがない限り、本契約が満了あるいは解除になったときは、乙の名義で登録されているすべての知的所有権は無償で甲に移転するものとし、乙は乙の責任と費用でこの移転に必要な手続きをすみやかに行う。
 第4条(乙の権利)
(1)乙は本契約期間中、本作品を使用し、独占的にアニメ化を行うことができる。テレビアニメーション以外の劇場用、インターネット用等の別媒体向けの新たなアニメーション化を行う場合は乙が第1次優先権を有し、条件等については別途協議とする。
(2)乙は本アニメのキャラクターを使用した商品化の窓口として、これを管理し、行使する権利を有する。権利の行使にあたって、乙は甲と綿密な意思疎通を図るものとする。また、甲は第三者から本件商品化権についての問い合わせ、申し込み等を受けた場合は、本作品、本アニメのキャラクターの利用を問わず、すみやかにこれを乙に通知し、その取り扱いを甲乙協議のうえで決定する。
(3)乙は本アニメの放送、再放送、上映、インターネット及びその他の通信手段を使用しての配信等を独占的に且つ自由に行うことができる。
(4)本アニメに関連する商品化のために制作された原盤、原版、原型、本アニメの原画、フィルム及びデジタルデータ等一切の素材の所有権は乙に帰属する。
 第6条(著作権)
(1)本アニメの著作権に関しては甲、乙はそれぞれ原作権、出版権、商品化権(アニメーション化権含む)という同等の権利を有し、表記は以下の通りとする。
 1.著作権表記(C)板垣恵介/秋田書店・フリーウィル
(2)(3)略
 第7条(対価)
(1)乙は甲に対し、本作品のテレビアニメーション化の対価としてキャラクター使用料を本契約期間中、1テレビ放送作品に対し、50、000円(消費税別)を支払う(全48話予定)。但し、再放送及び2次使用に於ける放送、上映、配信等はこれを除く。
(2)乙は甲に対し商品化において下記計算式に従い対価を支払う。
(ア)ビデオグラム/第1条(5)(6)
 税抜販売価格×純売上本数×0.9(パッケージ控除10%)×1.75%
(イ)2次使用商品/第1条(3)(4)他、乙自身による商品化
 税抜販売価格×純売上本数×0.9(パッケージ控除10%)×3%×1/2(窓口手数料1/2)×2/3
(ロ)省略
(3)〜(5)省略
(6)乙は、本契約の総合的対価として著作権者板垣恵介に製作協力費(監修費)
 金500,000円を甲を経由して支払う。
(7)以下 略
 第9条(契約期間と地域)
(1)本契約の有効期間は契約締結日より本アニメの最終話の放送日(再放送等は除く)以後5年間とする。
(2)(3) 略
 第12条(契約の終了と解除後の処理)
(1)略
(2)本契約の終了及び途中解除の場合、それまでに商品化されたものについては、第7条に基づき対価を支払うことにより、発売元及び販売元、問屋、市中の在庫に限り販売を行なうことができる。
イ フリーウィルは、本件アニメ化契約に基づき本件アニメを制作し、平成13年中に全48話をテレビ放送した。本件アニメ化契約の有効期間は契約締結日より本件アニメの最終話の放送日以後5年間と定められており(同契約9条)、本件アニメ化契約は、遅くとも平成18年末日に終了した。
(5)フリーウィル及び被告に対する窓口業務の委託
ア 原告は、平成14年9月頃、秋田書店との窓口業務の委託契約を終了し、フリーウィルとの間で、同社に窓口業務を委託する契約を締結した(以下「本件窓口契約」という。)。
イ 本件窓口契約の締結に伴い、平成14年9月24日、フリーウィル及び秋田書店の間で、本件漫画について、商品化の正当な著作権代行者をフリーウィルとすることなどを内容とする覚書(以下「本件覚書」という。)が作成された。(甲6)
ウ 平成19年6月29日、被告が設立され、その後、フリーウィルから被告に対し、本件アニメの著作権、本件窓口契約における受託者の地位及びフリーウィルが本件窓口契約に基づき第三者との間で締結した各種の許諾契約における許諾者の地位が譲渡された。
(6)四者契約の締結
 第2事件被告、秋田書店、被告及びフリーウィルは、平成23年3月1日、本件漫画の二次的利用に係る窓口業務に関して、本件覚書を合意解除し、これに付随して取り交わした全ての合意事項・了解事項が失効すること(3条1項)、同日以降は秋田書店と被告が共に窓口業務を行うことを確認すること(同条2項)を主な内容とする契約(以下「四者契約」という。)を締結した。四者契約には、以下の条項が置かれている。(甲7)
 柱書き
 有限会社いたがきぐみを甲とし、株式会社秋田書店を乙とし、FWD株式会社を丙とし、株式会社フリーウィルを丁として、漫画家・板垣恵介(以下、「本著作権者」という。)の著作物である漫画作品「グラップラー刃牙」「バキ」「範馬刃牙」等(以下、「本著作物」という)の二次的利用にかかわる窓口業務を主題として以下のとおり約定する。
 第3条(本契約の目的)
 1 略
 2 全当事者は、今後、新たな映像化、キャラクター商品化等を含む本著作物の二次的利用(ただし、出版及び電子書籍出版を含まない。以下同じ)のすべての窓口業務を乙および丙がそれぞれ行うことを確認する。案件ごとの窓口業務は、その案件を推進した当事者である乙または丙のどちらかが単独でおこない、本著作物の二次的利用を希望する第三者(以下、「二次的利用者」という)との契約にかかわる最終的な判断は甲により決定され、乙および丙はその決定にしたがわなくてはならない。
 第4条(本窓口業務の運用)
 1〜3 略
 4 本契約の主題にかかわる許諾の可否の最終判断は、すべて甲によって一元的におこなわれ、乙及び丙はその結論に従って二次的利用者との契約を締結し、乙及び丙において速やかに情報を共有する。
 第6条(権利の帰属)
 1 全当事者は、著作権者及び甲乙丙に帰属する権利が以下のとおりであることを確認する。
(1)本著作権者・・・本著作物にかかわる著作権のすべて及び丁が製作したテレビ・アニメーションにおける原作者としての権利
(2)略
(3)丙・・・丁が甲より許諾を得て2001年に製作したテレビ・アニメーションにかかわる著作権
 2 略
 第10条(契約終了後の措置)
 1 本契約期間の終了時に、乙または丙と二次的利用者との間の許諾契約が有効に存続している案件については、その許諾契約の有効期間にかぎり当該乙または丙が引き続き二次的利用の窓口業務を継続することができる。ただし、本契約が前条の契約解除により終了した場合の窓口業務については、甲、乙、及び丙が別途協議して定めるものとする。
 2・3 略
(7)被告の行為
ア 本件アニメの送信可能化
 被告は、平成20年10月10日、中央映画貿易株式会社(以下「中央映画貿易」という。)に対し、本件アニメを送信可能化することを許諾し、平成25年10月1日、被告と中央映画貿易は、許諾期間を2013年(平成25年)11月1日から2020年(令和2年)10月31日まで延長することを合意した(以下、併せて「本件送信許諾契約」という。)。(甲9の1・2)
 中央映画貿易は、平成27年2月頃までに、株式会社ニワンゴ(ニコニコチャンネル)など9社(以下「本件配信先9社」という。)に対し、本件アニメを送信可能化させた。
 被告は、平成24年1月から平成27年9月にかけて、中央映画貿易から本件アニメの配信に係るロイヤリティの支払を受け(乙18、24)、その一部を、平成21年12月から平成27年7月にかけて、原告又は原告の著作権管理団体である第2事件被告に対し、「著作権料」名目で支払った(甲17、21、22、乙15)。
イ 本件アニメの複製・頒布
 被告は、自身が運営する「ANIMATIONBAKITHEGRAPPLEROFFICIALWEBSHOP」という名称のウェブサイト(以下「被告ウェブサイト」という。)において、本件アニメを複製したDVD(以下「本件DVD」という。)を自ら販売し、また、有限会社スパイダーウェブス(以下「スパイダーウェブス」という。)に本件DVDを販売させた。(甲12、13)
ウ 本件漫画及び本件アニメの翻案
(ア)別紙一覧表の番号3欄記載の各商品について
a 被告は、本件漫画を翻案したクリアファイル、ミストグラフ(特殊な手法で印刷された絵画)(別紙一覧表の番号3−7、8、17、18の各商品。以下「スパイダーウェブス販売商品」という。)につき、スパイダーウェブスとの間でライセンス契約を締結し、同社に販売させていた。現在は、被告とスパイダーウェブスとのライセンス契約は終了し、クリアファイル(別紙一覧表の番号3−7、8)については、在庫は存在するが、その販売を停止しており、ミストグラフ(同3−17、18)については、在庫が存在しない。(甲13、42)
b 被告は、本件漫画を翻案したTシャツ、ライター、ステッカー、靴下(別紙一覧表の番号3−35〜59の各商品。以下「被告販売商品」という。)を販売していたが、現在は販売を終了している。(乙48、50、51)
(イ)別紙一覧表の番号6記載のぱちんこ・パチスロの遊技機について
a フリーウィルは、原告の許諾を得て、フィールズ株式会社(以下「フィールズ」という。)との間で、平成17年7月1日、本件アニメに係る商品化権使用許諾契約を締結した(以下「平成17年フィールズ契約」という。)。同契約には以下の条項が置かれている。(乙2。なお、「甲」はフリーウィル、「乙」はフィールズ、「本商品」は回胴式遊技機及びぱちんこ遊技機を指す。)
 第6条(使用料)
 1・2 略
 3 乙は甲に対し、本件商品の最低保証使用料として金2、500万円(税別)を支払う。なお、乙の甲に対する使用料の支払い効果は、甲及び原作者に帰属する。
 4 略
 5 乙は、甲に対し、原作者の代理人手数料として、別途最低保証使用料の10%にあたる金250万円(税別)を支払う。
 第10条(商標権)
 1 甲は、自らの費用により、本プロパティを用いた商標を出願する。
 2・3略
b 被告は、原告の許諾を受けて、平成24年9月28日、フィールズとの間で、フィールズが本件漫画及び本件アニメを翻案してぱちんこ遊技機及び回胴式遊技機に使用することを被告が許諾することを内容とする商品化権使用許諾契約(以下「平成24年フィールズ契約」という。)を締結し、別紙一覧表の番号6−1、2記載のぱちんこ・パチスロ遊技機を、フィールズの下請けである株式会社ニューギン(以下「ニューギン」という。)に製造、販売させた。(甲14、18)
 なお、平成24年フィールズ契約には、以下の条項が置かれている(「FWD」とは被告を指す。)。
 第4条(保証)
 1 FWDは、本作品のうちアニメーション作品の著作権がFWDに、本作品のうちアニメーション作品の原著作権及び本作品のうち漫画作品の著作権が板垣恵介(以下「板垣氏」という。)に帰属することを表明する。なお、板垣氏保有の著作権について、FWDは、板垣氏からの委任により、当該板垣氏保有の著作権の代理行使を行うものである。
 2〜5 略
c 平成24年フィールズ契約は、平成29年6月30日に期間満了により終了した。(甲18)
d 被告は、本件漫画及び本件アニメを翻案したパチスロ遊技機(別紙一覧表の番号6−3)につき、フィールズに販売させた。
エ 被告ウェブサイト等における本件漫画及び本件アニメの送信可能化
(ア)被告は、被告ウェブサイトにおいて、本件漫画及び本件アニメの画像(静止画)(別紙一覧表の番号4―1〜5、7、8)を掲載していたが、現在は、別紙一覧表の4−2〜5、7、8の画像は掲載されていない。(乙46、47)
(イ)スパイダーウェブスは、同社のウェブサイトにおいて、本件漫画及び本件アニメの画像(静止画)(別紙一覧表の番号4−6、9〜39)を掲載していたが、現在は、別紙一覧表の4−9、10、22〜28の画像は掲載されていない。
オ 被告ウェブサイトにおける本件漫画、その翻案物及び本件アニメの送信可能化
(ア)本件ツイッター
 被告は、被告ウェブサイト中に「BAKITWITTER」(以下「本件ツイッター」という。)とのコンテンツを設けている。本件ツイッターは、インターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において、不特定多数人がしたツイート(投稿)の中から、「バキ」、「刃牙」、「#baki」、「グラップラー」又は「範馬」というワードを含むツイートを表示するものである。(甲27の1〜3)
(イ)本件ニュース
 被告ウェブサイト中の「CLUBGRAPPLER」内の「ニュース」(以下「本件ニュース」という。)には、本件アニメの静止画像、本件漫画並びに本件漫画の複製物及び翻案物が掲載されていたが(以下「本件ニュース画像」という。)、現在は、本件ニュースにアクセスしようとすると、「認証のためのユーザー名とパスワードが間違っている」と表示され、閲覧することができない。(甲27の4、43〜61)
(ウ)本件クイズ
 被告ウェブサイト中の「CLUBGRAPPLER」内の「刃牙クイズ」(以下「本件クイズ」という。)には、本件漫画の翻案物が掲載されていたが(以下「本件クイズ画像」という。)、現在は、本件クイズにアクセスしようとすると、「認証のためのユーザー名とパスワードが間違っている」と表示され、閲覧することができない。(甲27の5、62)
(エ)本件ブログ
 被告ウェブサイト中の「CLUBGRAPPLER」内の「ブログ」(以下「本件ブログ」という。)には、本件漫画の翻案物が掲載されていたが(以下「本件ブログ画像」といい、本件ニュース画像、本件クイズ画像と併せて「本件ニュース画像等」という。)、現在は、本件ブログにアクセスしようとすると、「認証のためのユーザー名とパスワードが間違っている」と表示され、閲覧することができない。(甲27の6、63〜86)
(8)四者契約の更新拒絶等
ア 第2事件被告は、被告に対し、平成26年8月22日、四者契約8条2項に基づき同契約を更新しない旨の意思表示をした(以下「本件更新拒絶」という。)。その際、第2事件被告は、被告から開示を受けたライセンス契約の契約書の中に、本件アニメに関するものが含まれていないとして、改めて調査、報告の必要があるとし、今後の対応について話合いをするため面談することを求めた。(甲8)
イ 被告は、第2事件被告に対し、平成26年10月7日付け通知書を送付し、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社から、使用料200万円で、同社のゲーム内のキャラクターとして本件漫画のキャラクターを実装して販売する企画の提案(以下「ガンホー提案」という。)を受けているとして、必要があれば同提案の詳細について説明する旨を添えてライセンス契約の許諾を求めたが、第2事件被告は、同月17日付け書面によりこれを拒絶した。(乙6、7)
ウ 第2事件被告は、中央映画貿易に対し、平成27年3月24日付けの書面を送付し、同年1月22日頃に同社に対して通知をし、同社と被告との間で作成した契約書等の写しの送付を求めたにもかかわらず、中央映画貿易からは一切の連絡がなく、被告との間の契約の有効期間を教えてもらえないため、同年3月1日以降の配信を許諾のないものとみなすとして、本件アニメの配信停止を求め、配信を停止しなければ法的措置を採る旨通知した。(乙16)
 原告は、本件配信先9社のうち、株式会社NTTドコモ及び株式会社メディエーターに対し、平成27年5月22日付けの書面を送付し、本件アニメの公衆送信は公衆送信権を侵害する違法行為であるとして、公衆送信が停止されないときは法的措置を採る旨通知した(乙17。以下、中央映画貿易に対する上記通知と併せて「本件配信停止通知」という。)。
(9)本件に関する商標権
 フリーウィルは、平成17年12月20日、本件商標に係る商標登録出願を行い、平成19年2月23日、商標登録を受け、被告は、フリーウィルから本件商標に係る商標権を承継した。(甲15)
(10)原告による仮処分申立て
 原告は、被告に対し、平成27年5月22日、被告ウェブサイトの削除等を求める仮処分命令の申立て(当庁平成27年(ヨ)第22043号)以下「本件仮処分申立て」という。)、平成28年2月3日、本件アニメの複製、公衆送信及び送信可能化等を差し止める仮処分決定がされた。(甲10、乙12)
4 争点
【第1事件関係】
(1)本件アニメの配信について
ア 本件アニメの原著作者の権利が原告からフリーウィルに譲渡されたか(争点1−1)
イ 本件アニメの送信可能化権の譲渡又は期間の定めのない許諾がされたか(争点1−2)ウ 黙示の許諾の有無(争点1−3)
(2)本件DVDの制作、販売について複製権、頒布権侵害の成否(争点2)
(3)本件漫画及び本件アニメの翻案について
ア スパイダーウェブス販売商品の差止めの可否及び差止めの必要性の有無(争点3−1)
イ 被告販売商品の差止めの必要性の有無(争点3−2)
ウ ニューギン及びフィールズによるぱちんこ・パチスロ遊技機の差止めの必要性の有無(争点3−3)
(4)本件漫画及び本件アニメの公衆送信について
ア 本件DVDの画像を被告ウェブサイトに掲載することの可否(別紙一覧表番号4−1関係)(争点4−1)
イ 被告ウェブサイトに係る差止めの可否(別紙一覧表番号4−2〜5、7、8)(争点4−2)
ウ スパイダーウェブスのウェブサイトに係る差止めの可否(別紙一覧表番号4−6、9〜39関係)(争点4−3)
(5)被告ウェブサイトにおける本件漫画及び本件アニメの公衆送信について
ア 本件ツイッターによる送信可能化権侵害の成否(争点5−1)
イ 本件ニュース画像を掲載することの可否(争点5−2)
ウ 本件ニュース画像等の差止めの必要性の有無(争点5−3)
(6)原告の被告に対する本件商標の移転登録手続請求権の有無(争点6)
【第2事件関係】
(7)本件配信停止通知について共同不法行為の成否(争点7)
(8)ガンホー提案の許諾を拒絶した行為について共同不法行為又は四者契約の債務不履行の成否(争点8)
(9)四者契約の更新拒絶について共同不法行為又は債務不履行の成否(争点9)
(10)損害の有無及びその額(争点10)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1−1(本件アニメの原著作者の権利が原告からフリーウィルに譲渡されたか)について
〔被告の主張〕
 以下のとおり、本件アニメについての原著作者の権利は、本件アニメ化契約により原告からフリーウィルに譲渡され、被告に承継されたから、原告は本件アニメの原著作者の権利を有しておらず、原告の差止請求は理由がない。
(1)本件アニメ化契約の文言解釈
ア 本件アニメ化契約4条は、フリーウィルの権利として、@アニメ化に関する権利(同条(1))、Aその他商品化に関する権利(同条(2))、Bアニメ化の成果物である本件アニメに関する権利(同条(3)及び(4))を挙げているところ、上記Bの権利については、上記@の権利と異なり、「本契約期間中」との限定はされていない上、「独占的に且つ自由」(同条(3))、「所有権」(同条(4))という文言が用いられており、フリーウィルは、本件アニメについて、絶対的な権利、すなわち原著作者の権利を含めた完全な著作権の設定を受けたものと解することができる。
イ 本件アニメ化契約6条(1)は、主語が「甲、乙」であり、目的語が「原作権、出版権、商品化権」とされているが、これは、フリーウィルに与えられたアニメーション化権が、原作権と同等のもの、すなわち原著作者の権利を含むものであることを規定するものであり、原著作者の権利が譲渡されたという被告の主張に沿うものである。
ウ 原著作者の権利の譲渡の対価に関し、原告に直接支払われるものとしては、本件アニメ化契約7条(6)に「乙(フリーウィル)は、本契約の総合的対価として著作権者板垣恵介に制作協力費(監修費)金500、000円を甲(秋田書店)を経由して支払う。」との規定があり、また、原告は、本件アニメが放映されることによる宣伝効果や、ロイヤリティという形でフリーウィル及び被告から支払われる利益を得ている。
エ 原告が原著作者の権利が譲渡されていないことの根拠として挙げる以下の条項は、いずれも原告の主張の根拠となり得ない。
 本件アニメ化契約2条(4)は、フリーウィルが、秋田商店に対して試作品を提供して承認を得る旨を規定しているが、承認を得る対象が試作品にとどまっていることは、むしろ原著作者の権利が原告に帰属しないことを前提とするものである。
 同契約4条(2)は、文言どおり、「本アニメのキャラクターを使用した商品化の窓口」に関する規定であり、本件アニメの使用に関する規定ではない。
 原告は、同契約7条について、印税方式での支払が予定されていると主張するが、本件アニメの再放送及び二次使用における放送、上映、配信等につきフリーウィルに支払義務はなく、必ずしも印税方式での支払が予定されているわけではない。
(2)合理的意思解釈
 上記の文理解釈に加え、以下の事実を合理的に解釈すれば、本件アニメ化契約は、原告がフリーウィルに対し本件アニメの原著作者の権利を譲渡したものと解釈すべきである。
ア フリーウィルが本件アニメを制作するに当たり、アニメーション制作費及びテレビ東京電波使用料として少なくとも6億6900万円もの資本を投下している(乙3、4)。本件アニメ化契約がフリーウィルに原著作者の権利を譲渡するものではなく、本件アニメの最終放送から5年間に契約期間が限定されていたとすれば、仮に年間1億円の売上げを上げたとしても、フリーウィルは投下資本の回収すらできないことになるが、そのような契約を締結することは不合理である。
イ 原告は、本件アニメ化契約を締結してから、14年間にわたり、本件アニメの原著作者の権利を有しているとの主張をしなかった。
ウ 四者契約6条1項は、「本著作権にかかわる著作権」と、テレビ・アニメーションについての「原作者としての権利」という文言を使い分けていることから、原告は、本件アニメについては「原作者としての権利」、すなわち著作者人格権を有するにすぎないことを確認し、他方で、被告は「テレビ・アニメーションにかかわる著作権」を有するとされており、権利の分属を前提とするような文言(例えば「二次的著作物の著作者」など。)を用いていないことから、原著作者の権利をも含む完全な著作権が被告に帰属することを確認している。
(3)ア本件アニメの配信について、被告が原告に一定の支払をしたのは、窓口として原告との友好関係を保つためであり、著作権料として支払っていたものではない。被告は、原告に対し、平成27年6月分まで一定の支払をしたが(甲21、22、乙15、18、24の1〜6)、それ以降については、そもそも支払義務がないため、支払っていない(乙24の7〜9)。
イ 平成24年フィールズ契約(甲18)は、フィールズが起案して被告に提示し、被告において法務上のアドバイスを受けることなく締結したものであって、「原著作権」という概念を正確に理解した上で締結したものではないから、同契約4条1項は、本件アニメの原著作者の権利が原告に帰属することを認めたものではない。
(4)したがって、本件アニメ化契約により、本件アニメの原著作者の権利は原告からフリーウィルに譲渡され、被告が承継したから、原告が原著作者の権利を有することを前提とする原告の差止請求は理由がない。
〔原告の主張〕
 以下のとおり、本件アニメ化契約は、本件漫画の翻案と二次的著作物である本件アニメの利用に関する許諾契約であり、フリーウィルに対し本件アニメの原著作者の権利を譲渡するものではない。
(1)本件アニメ化契約の文言解釈
ア 本件アニメ化契約には本件アニメの原著作者の権利を譲渡することや、譲渡の対価について明記されておらず、かえって、同契約3条(1)は「本作品に関するすべての権利は、本契約によって乙(フリーウィル)に許諾される権利を除き甲(秋田書店)に留保される。」と定めており、本件アニメ化契約が、フリーウィルに本件漫画の翻案及びその翻案物の利用を許諾する契約にすぎないことが明らかである。
イ 本件アニメ化契約4条には、原告が、フリーウィルに対し、本件漫画をテレビ用アニメーション映画に翻案すること、本件アニメのキャラクターを使用した商品化の窓口業務を行うこと、本件アニメの放送、上映、配信等を行うことについて許諾する旨の規定が置かれているが、これは、本件アニメ化契約が本件漫画の翻案と二次的著作物である本件アニメの利用に関する許諾契約であることを示している。
ウ 本件アニメ化契約が原著作者の権利の譲渡を合意したものであるとすれば、その対価についても何らかの定めが設けられるはずであるが、同契約にはそのような条項は存在しない。
エ 本件アニメの商品化の際にフリーウィルが原告の代理人である秋田書店に試作品を提供するという本件アニメ化契約2条(4)や、フリーウィルが窓口業務を行う際に秋田書店と綿密な意思疎通を図るとする同契約4条(2)、本件アニメの著作権表示を「(C)フリーウィル/第一発行年」ではなく「(C)板垣恵介/秋田書店・フリーウィル」とし、原告の代理人である秋田書店、すなわち原告に原著作者の権利と出版権を、フリーウィルにアニメ化を含む商品化権を認めた同契約6条(1)、本件アニメのビデオグラム販売(複製、譲渡)や商品化(翻案)について、フリーウィルがその対価を印税方式で秋田書店に支払うことを定めた同契約7条は、いずれも原告が本件アニメの原著作者の権利を有することを前提とする定めである。
オ 本件アニメ化契約の有効期間については、同契約9条1項に「契約締結日より本アニメの最終話の放送日(再放送等は除く)以後5年間」という明確な定めがあり、その性質に反しない限り、あらゆる条項の効力の終了時期を画している。被告主張のように「本契約期間中」という文言がない限り、期間の定めがないものと解すると、本件アニメに関する出版物の第一次優先権を秋田書店が有するとする同契約3条(2)やフリーウィルの本件アニメの商品化権について定めた4条(2)にも有効期間の定めがないこととなるが、フリーウィルは秋田書店が第一次優先権を半永久的に有することになるとは認識していなかったはずであるし、フリーウィルが商品化権を半永久的に有することは、同契約12条(2)のいわゆるセル・オフ条項と矛盾する。
カ 本件アニメ化契約4条(3)の「独占的に且つ自由」という文言は、原告がフリーウィルに対し、独占的かつ包括的な利用を許諾したことを示すものにすぎない。
 同条(4)の「所有権」の対象は、原盤、原版、原型、原画及びフィルム等の有体物たる「一切の素材」であって、この所有権の帰属と、本件アニメの原著作者の権利とは無関係である。
(2)被告が主張する合理的意思解釈
 本件アニメ化契約の合理的意思解釈に係る主張は、いずれも理由がない。
ア 被告が本件アニメ化の制作に6億6900万円の資本を投下した事実はない。被告が計上するテレビ東京電波使用料1億8900万円は、一般的にスポンサーからの資金提供によってまかなわれるものであり、これを制作費に計上することは不当である。
イ 原告が平成12年のアニメ化契約締結後、平成26年まで、約14年間本件アニメについて原著作者の権利を有するとの権利主張を行わなかったことは認めるが、それは、本件アニメの原著作者の権利が原告に帰属することが原告及び被告の共通認識であったことから、その必要がなかったためである。
(3)被告は原告を原著作者の権利を有する者として扱っていること
 以下のとおり、被告は、原告を原著作者の権利を有する者として扱っており、原著作者の権利の譲渡がされていないことが明らかである。
ア 被告は、中央映画貿易等の配信に関して、原告に「著作権料」を支払っていた。本件アニメの原著作者の権利が被告にあるのであれば、原告に著作権料を支払う必要はないはずである。
イ 平成17年フィールズ契約(乙2)には、最低保証金が被告及び原告に帰属すること(6条3項)、被告に対して原作者(原告)の代理人手数料が支払われること(同条5項)が定められており、原告が本件アニメの原著作者の権利を有することを前提としている。
ウ 平成24フィールズ契約(甲18)の4条1項においては、「FWDは、本作品のうちアニメーション作品の著作権がFWDに、本作品のうちアニメーション作品の原著作権及び本作品のうち漫画作品の著作権が板垣恵介…に帰属することを表明する。」との記載があり、本件アニメの原著作者の権利が原告に帰属することが端的に確認されている。
(4)したがって、本件アニメ化契約によって本件アニメの原著作者の権利が原告からフリーウィルに譲渡された事実はなく、原告の差止請求は認められるべきである。
2 争点1−2(本件アニメの送信可能化権の譲渡又は期間の定めのない許諾がされたか)について
〔被告の主張〕
 仮に、フリーウィルが本件アニメの原著作者の権利を取得していなかったとしても、本件アニメ化契約4条(3)は、「乙(フリーウィル)は本アニメの放送、再放送、上映、インターネット及びその他の通信手段を使用しての配信等を独占的に且つ自由に行うことができる。」と定め、同条(1)と異なり「本契約期間中」との期間の定めもないことからすれば、原告は、フリーウィルに対し、本件アニメの送信可能化権を譲渡し、又は、送信可能化を期限の定めなく許諾し、被告は、フリーウィルから送信可能化権又は期限の定めなく許諾を受けた地位を承継したものである。
 したがって、被告は、本件アニメの送信可能化を第三者に許諾することができるのであるから、中央映画貿易に本件アニメの送信可能化を許諾した行為は、原告の送信可能化権を侵害しない。
〔原告の主張〕
 前記1〔原告の主張〕のとおり、本件アニメ化契約は本件漫画の翻案及び本件アニメの公衆送信について許諾する契約にすぎず、有効期間も定められているから、送信可能化権の譲渡又は送信可能化を期限の定めなく許諾するものではない。
3 争点1−3(黙示の許諾の有無)について
〔被告の主張〕
 以下のとおり、中央映画貿易との本件送信許諾契約の締結及び更新については、原告の黙示の許諾があったから、四者契約10条1項に基づき、本件送信許諾契約の有効期間である令和2年(2020年)10月31日までは同契約は有効であって、差止めをすることはできない。
(1)被告は、本件送信許諾契約の締結に際し原告から許諾を受けていないが、被告担当者は、事前に原告に同契約を締結することを伝えており、その際、原告は、「アニメはそっちのものだから(好きにしていいよ)。」と言われている。
 被告は、平成21年12月7日から平成27年7月31日の間、本件送信許諾契約によって得たロイヤリティの一部を原告に支払っている(甲17の1・4・6〜11、21、22、乙15)。甲17等の「御支払明細書」には「アニメ」「配信」との記載があり、原告が本件アニメの配信に気付かないはずがない。
 このように、原告は、本件送信許諾契約の存在を認識しながら、特に異議を述べることなく、被告から本件アニメの配信に係る支払を継続して受けていたことからすれば、原告は、本件送信許諾契約の締結及び更新について黙示の許諾をしたものといえる。
 また、支払明細書の宛先である第2事件被告においては、代表者である原告の妻が経理を担当し、被告とやりとりをしていること、これまで本件送信許諾契約に係る多額の支払を受けていることからすれば、原告が本件送信許諾契約を知らないなどと主張することは信義則上許されない。
(2)平成14年9月24日、著作権代行者をフリーウィルとする本件覚書が交わされ(甲6)、平成20年10月10日に同覚書に基づき、中央映画貿易との間の本件送信許諾契約が締結された(甲9の1)。そして、平成23年3月1日に四者契約が締結され(甲7)、原告の窓口業務を行う被告と中央映画貿易との間で平成25年10月1日に上記許諾契約の許諾期間延長の合意書が締結されたのであるから(甲9の2)、原告は被告のした上記許諾契約及びその期間延長を明示的に承認したと評価することができる。
(3)したがって、本件送信許諾契約は、その有効期間である令和2年(2020)10月31日までは有効であるから、中央映画貿易は、上記有効期間内は本件アニメの公衆送信ができるのであって、原告の送信可能化権を侵害しない。
〔原告の主張〕
 以下のとおり、原告は、被告が中央映画貿易をして本件アニメを送信可能化することを許諾していないから、原告の送信可能化権を侵害する。
(1)第2事件被告が、本件送信許諾契約による被告の収益の一部を受領したことは認めるが、原告が被告担当者に対し、「アニメはそっちのものだから」と発言したことは否認する。
 被告は、ライセンシーとの間で契約を締結する際には、利用の申込み、交渉の進捗状況及びその内容、許諾の可否に至る情報に係る通知義務(四者契約4条1項、3項)を負うが、本件送信許諾契約の締結及び更新に際し同義務を履行していない。
 また、被告が作成して第2事件被告に送付した「御支払明細書」(甲17)には、中央映画貿易の名称が記載されていないものがある上、雑誌連載で多忙を極める原告が、逐一その内容を確認することは不可能であった。
 そのため、原告は、被告が中央映画貿易との間で本件送信許諾契約を締結し、更新したことを認識しておらず、同契約の内容についても、本件仮処分申立てをした後の平成27年6月10日まで知らなかった。契約内容を知らず許諾をすることはあり得ないから、異議を述べなかったことや支払を受けていたことをもって黙示の許諾と評価することはできない。
(2)本件覚書は、四者契約3条1項により合意解除され、それに付随して取り交わされた合意事項等は全て失効している。そのため、被告が窓口を担当する契約は四者契約によって規律されることとなるが、同契約は、平成27年2月28日に終了した。そして、四者契約10条1項は、同契約終了時に被告とライセンシーの許諾契約が有効に存続している案件については、その契約の有効期間に限り被告が窓口業務を継続することができると定めるが、同条項が適用されるのは、同契約4条3項の第2事件被告の承認を得た契約に限られるところ、被告は本件送信許諾契約及びその期間の延長の合意について原告の許諾を受けていないことを認めているから、四者契約10条1項は適用されない。
(3)したがって、本件送信許諾契約の締結及び更新について黙示の許諾は認められず、被告が中央映画貿易をして本件アニメの送信可能化をさせたことは、原告の送信可能化権を侵害する。
4 争点2(本件アニメのDVD制作・販売について複製権及び頒布権侵害の成否)について
〔被告の主張〕
(1)主位的主張
 前記1〔被告の主張〕のとおり、被告は、本件アニメの著作権者であり、原告から本件アニメの原著作者の権利を譲渡されているから、本件アニメの複製物である本件DVDを販売するに当たり、原告の許諾を受ける必要はない。
 したがって、被告による本件アニメの複製及び頒布は、原告の著作権を侵害しない。
(2)予備的主張
 本件アニメを複製した本件DVDは本件アニメ化契約に基づいて商品化したものであって、同契約が終了した場合でも、それまでに商品化されたものについては、市中の在庫に限り販売することができると規定されている(本件アニメ化契約12条(2)。以下「本件セル・オフ条項」という。)。本件DVDは平成18年8月23日に発売されたものであり(甲12)、アニメ化15契約終了時までに商品化された在庫であるから、被告が本件DVDを販売することは原告の複製権、頒布権を侵害しない。
〔原告の主張〕
(1)主位的主張について
 前記1〔原告の主張〕のとおり、原告は被告に本件アニメの原著作者の権利を譲渡していない。
(2)予備的主張について
 以下のとおり、被告の本件DVDの複製・頒布は、本件セル・オフ条項(本件アニメ化契約12条(2))に基づくものとはいえない。
 本件アニメを複製した本件DVDが本件アニメ化契約終了時の在庫であることの立証がない。甲12は本件アニメのDVDの発売日が平成18年8月23日である旨の記載があるものの、この記載は本件アニメのDVDが初めて発行された年月日を示したものであり、被告が現に販売している本件DVDの制作された年月日を示すものではない。
 また、本件セル・オフ条項は、対価を支払うことを条件にするところ、平成28年10月以降、被告は対価の支払をしていないから、同条項が定める条件を充たしていない。
 本件セル・オフ条項は期限が定められていないが、フリーウィル及び被告は、平成18年8月23日の販売開始から現在まで10年以上本件DVDを販売することができたのであり、在庫を販売する十分な期間が経過していることに加え、原告が原著作者の権利を有することを否定し、原告に無断で本件アニメの配信を第三者に許諾するなどの被告の行為により、原告と被告との間の信頼関係が破壊されたから、本件セル・オフ条項は失効していると解すべきである。
(3)したがって、被告が本件DVDを複製・頒布することは、原告の複製権及び頒布権を侵害する。
5 争点3関係(本件漫画及び本件アニメの翻案について)
(1)争点3−1(スパイダーウェブス販売商品の差止めの可否及び差止めの必要性の有無)
〔原告の主張〕
 別紙一覧表番号3−7、8、17、18の「原告の主張」欄記載のとおり、スパイダーウェブス販売商品の製作、販売行為は原告の翻案権及び譲渡権の侵害に当たり、スパイダーウェブスは、被告との間のライセンス契約に基づき、商品を販売しているから、被告に対し、販売等の差止めをすることができる。
 同3−7、8については、在庫がある以上再度販売される可能性があり、同3−17、18については、取り寄せ販売とされているため(甲42)、今後注文があれば販売される可能性があるから、いずれも差止めの必要性が認められる。
〔被告の主張〕
 別紙一覧表番号3−7、8、17、18の「被告の主張」欄記載のとおり、スパイダーウェブス販売商品は、原告との個別合意又は四者契約に基づき被告とライセンス契約を締結したスパイダーウェブスが販売するものであるから、被告を名宛人として販売の差止めをすることはできない。
 また、同3−7、8については、在庫は存在するが販売を停止しており、同3−17、18については在庫が存在しないため、いずれも差止めの必要性がない。
(2)争点3−2(被告販売商品の差止めの必要性の有無)
〔原告の主張〕
 別紙一覧表番号3−35〜59の「原告の主張」欄記載のとおり、在庫がある以上再度販売される可能性があるから、差止めの必要性がある。
〔被告の主張〕
 別紙一覧表番号3−35〜59の「被告の主張」欄記載のとおり、被告商品は、原告からライセンス許諾を受けて被告が製作、販売したものであり、在庫が存在するが、既に販売を終了しているから、差止めの必要性がない。
(3)争点3−3(ニューギン及びフィールズによるぱちんこ・パチスロ遊技機の差止めの必要性の有無)
〔原告の主張〕
 被告が本件漫画及び本件アニメを翻案したぱちんこ・パチスロの遊技機をフィールズ及びニューギンに製作、販売させていることは、原告の翻案権及び譲渡権の侵害に当たる(著作権法28条、27条、26条の2)。
 別紙一覧表番号6−1及び2の遊技機については、原告が商品化を許諾したことは認めるが、同3については否認する。いずれにしても、平成24年フィールズ契約(甲18)の契約期間が平成29年6月30日に(17条)、同契約のセル・オフ期間も平成30年6月30日に(18条1項)それぞれ終了し、フィールズの下請であるニューギンの契約関係も終了したにもかかわらず、被告は指定商品を「ぱちんこ器具」等とする本件商標の移転登録請求を争っている。
 そうすると、被告が上記ぱちんこ・パチスロ遊技機について今後販売を再開し、又は第三者をして販売を再開させる可能性があるから、差止めの必要がある。
〔被告の主張〕
 被告は、原告の許諾を得て(乙21、22)、平成17年フィールズ契約(乙2)及び平成24年フィールズ契約(甲18)を締結し、同社の下請であるニューギン(別紙一覧表番号6−1、2)又はフィールズ自身に(別紙一覧表番号6−3)ぱちんこ・パチスロ遊技機を製造、販売させていたが、同契約に基づく商品の販売は既に終了し、在庫も存在しないから、差止めの必要性がない。
6 争点4関係(本件漫画及び本件アニメの公衆送信について)
(1)争点4−1(本件DVDの画像を被告ウェブサイトに掲載することの可否(別紙一覧表番号4−1関係))
〔原告の主張〕
 被告が被告ウェブサイトにおいて本件漫画及び本件アニメの画像(静止画)を掲載することは、原告の送信可能化権の侵害に当たる(著作権法28条、23条)。なお、本件DVDのパッケージ及び本体に印刷された画像が本件漫画の画像であり、Tシャツやフィギュア等が本件漫画の翻案物の画像となる。
 前記1及び4の〔原告の主張〕記載のとおり、原告が被告に本件アニメの原著作者の権利を譲渡したことはなく、被告の本件DVD販売が本件セル・オフ条項に基づくものともいえないから、被告の主張は前提を欠く。
〔被告の主張〕
 前記1及び4の〔被告の主張〕記載のとおり、被告は、原告から譲渡を受けた原著作者の権利又は本件セル・オフ条項に基づき、本件DVDを販売する権利を有している以上、その宣伝のために本件DVDの画像を被告ウェブサイトに掲載することも当然許されるから、原告の送信可能化権の侵害に当たらない。
(2)争点4−2(被告ウェブサイトに係る差止めの可否(別紙一覧表番号4−2〜5、7、8関係))
〔原告の主張〕
 被告が被告ウェブサイトにおいて本件漫画及び本件アニメの画像(静止画)を掲載することは、原告の送信可能化権の侵害に当たる(著作権法28条、23条)。
 別紙一覧表番号4−2〜5、7、8の画像について、現在画像が掲載されていないことは認めるが、サーバに画像のデータは残っており、一時的に閲15覧できない状態にしているにとどまり、将来閲覧できる状態になる可能性があるため、差止めの必要性がある。
〔被告の主張〕
 ぱちんこ・パチスロ遊技機については、被告は原告から商品化について許諾を得ているところ、その宣伝のために被告ウェブサイトに本件漫画及び本件アニメの画像(静止画)(別紙一覧表番号4−7、8)を掲載することは、同ライセンスに含まれているといえるから、原告の送信可能化権の侵害に当たらない。
 別紙一覧表番号4−2〜5、7、8の画像については、既に掲載を止めており、差止めの必要性がない。
(3)争点4−3(スパイダーウェブスのウェブサイトに係る差止めの可否(別紙一覧表番号4−6、9〜39関係))
〔原告の主張〕
 スパイダーウェブスがそのウェブサイトにおいて本件漫画の翻案物の画像を掲載することは、原告の送信可能化権の侵害に当たる(著作権法28条、23条)。
 スパイダーウェブスは、被告との間のライセンス契約に基づき、画像を掲載しているから、被告に対し、第三者をして画像を掲載することの差止請求をすることができる。
〔被告の主張〕
 別紙一覧表番号4−6、9〜39の各画像は、スパイダーウェブスが同社のウェブサイトに掲載しているものであって、被告を名宛人とする差止請求はできない。
7 争点5関係(被告ウェブサイトにおける本件漫画及び本件アニメの公衆送信について)
(1)争点5−1(本件ツイッターによる送信可能化権侵害の成否)
〔原告の主張〕
 原告が削除を求める画像は、被告ウェブサイトのトップページ内の画像である。これは、被告が、ツイッターの検索フィルター機能を用いて日々投稿される第三者のツイートを集めたページをリンク先として、リンク元である被告ウェブサイトに埋め込みリンクの形で表示したものである。
 リンク先に集められたツイートの画像とは、例えば、甲27の1〜3などの本件漫画の画像であり、原告が、これらの画像の投稿者に対し、当該画像をツイッターで使用することについて許諾を与えた事実はない。そのため、これらの画像は、原告の送信可能化権を侵害するものである。
 被告は、違法なアップロード画像が含まれる第三者のツイートを埋め込みリンクによって掲載しているが、ツイッターは、不特定多数の者によって日々投稿されるものであるから、被告ウェブサイトに掲載される画像も日々増加しており、原告の著作権侵害の度合いは小さくない。
 また、被告の本件ツイッターによるリンクは、ハイパーリンクではなく、埋め込み型のリンクであり、閲覧者は、被告のウェブサイトの一部として本件ツイッターの画像を閲覧することになる。
 さらに、被告は、窓口契約である四者契約が終了し、原告の窓口たる地位を失ったにもかかわらず、被告ウェブサイトのトップページに「OFFICIALSITE」(公式サイト)の文字を掲げて上記の行為に及んでおり、これは、閲覧した者に対して、原告が本件漫画をアップロードすることを推奨しているとの誤解を与えかねない行為である。
 したがって、被告が本件ツイッターを被告ウェブサイトに掲載する行為は原告の送信可能化権を侵害する。
〔被告の主張〕
 インターネット上のツイートを集めたものをタイムラインというところ、被告ウェブサイトにおけるツイッターは、ツイッター社の提供するタイムラインウィジェットを用いて、不特定多数人がしたツイートを集めたタイムラインを被告ウェブサイトに埋め込み、「バキ」、「刃牙」、「#baki」、「グラップラー」又は「範馬」というワードを含むツイートを自動的に抽出して表示するものである。被告ウェブサイトに表示されるツイートは、被告が投稿したものではなく、第三者のツイートに対してリンクを張る行為に等しいから、被告は原告の著作権を侵害しておらず、差止請求は認められない。
(2)争点5−2(本件ニュース画像を掲載することの可否)
〔原告の主張〕
 本件ニュース画像には、本件漫画又はその複製物、翻案物が掲載されており(甲43〜61)、同画像を掲載する行為は、原告の送信可能化権を侵害する。
 前記1及び2の〔原告の主張〕のとおり、原告は、本件アニメの原著作者の権利をフリーウィルに譲渡した事実はなく、また、送信可能化権の譲渡又は期限の定めなく送信可能化を許諾したこともない。
 被告ウェブサイトに本件ニュース画像を掲載することを許諾したとの主張は争う。
〔被告の主張〕
 本件ニュース画像のうち、本件アニメから抜粋した画像については、前記1及び2の〔被告の主張〕のとおり、被告は本件アニメの原著作者の権利を有し、また、自由に公衆送信できるから、原告の送信可能化権を侵害しない。
 その他の画像については、商品紹介、イベント紹介、原作の紹介に関するものであるところ、被告ウェブサイトは、連載20周年を機に刃牙シリーズを盛り上げてほしいという原告の希望により強化したものであるから、これらの画像を使用することを原告は承諾していたといえる。また、被告ウェブサイトから画像を削除する時期についての取り決めもなかった。
 したがって、本件ニュース画像を被告ウェブサイトに掲載することは、著作権侵害に当たらない。
(3)争点5−3(本件ニュース画像等の差止めの必要性の有無)
〔原告の主張〕
 本件ニュース画像等には、本件漫画又はその複製物、翻案物が掲載されており(甲43〜86)、これらの画像を掲載する行為は、原告の送信可能化権を侵害する。
 本件ニュース画像等にアクセスしようとすると、「認証のためのユーザー名とパスワードが間違っている。」と表示され(甲27の4〜6)、上記画像を閲覧できないが、これは、サーバにデータが残っており、一時的に閲覧できないようにしているにすぎず、将来閲覧できるようにされる可能性がある。
 したがって、差止めの必要性がある。
〔被告の主張〕
 被告ウェブサイトのサーバ内には本件ニュース画像等のデータが保存されているが、現在は外部からアクセスができない状態としているから、差止めの必要性がない。
8 争点6(原告の被告に対する本件商標の移転登録手続請求権の有無)
〔原告の主張〕
 以下のとおり、原告は、本件アニメ化契約に基づき、又は、後記本件商標合意に基づき、被告に対し、本件商標の移転登録手続請求権を有している。
(1)主位的主張
ア 原告の代理人である秋田書店とフリーウィルは、本件アニメ化契約3条(3)において、「本作品はもとより本アニメに関しての表題及びキャラクター等に関する商標、意匠を含むすべての知的所有権を登録する権利は甲(秋田書店)に専属し、…乙(フリーウィル)が甲の許諾を得てこれらの登録を行った場合でも、許諾時の特別の定めがない限り、本契約が満了あるいは解除になったときは、乙の名義で登録されているすべての知的所有権は無償で甲に移転するものとし、乙は乙の責任と費用でこの移転に必要な手続きをすみやかに行う」ことを合意した。
 原告とフリーウィルは、平成17年頃、本件アニメ化契約3条(3)の条件に基づいて、被告が本件商標を登録することを求め、原告がこれを許諾する旨の合意をし(以下「本件商標合意」という。)、フリーウィルは、同許諾に基づき、本件商標の登録を受け、その後、被告がこれを承継した。本件アニメ化契約は、遅くとも平成18年中に期間満了により終了した。
 したがって、原告は、被告に対し、本件アニメ化契約3条(3)に基づき、本件商標の移転登録手続請求権を有する。
イ(ア)被告が本件商標登録の根拠として主張する代理業務委託依頼書(乙21。以下「本件業務委託依頼書」という。)の作成日は、平成19年9月20日であり、本件商標の出願日である平成17年12月20日より後であるから、同書面に基づき本件商標の出願がされることはあり得ない。また、同書面には、フリーウィルが同社の名義で商標登録することを認める旨の文言はない。そもそも、同書面は、フリーウィルが、平成17年フィールズ契約(乙2)について原告の窓口として稼働していたところ、その代理権限の存在をフィールズに疑われる事態となったため、その疑いを払拭するために作成した書面であり、これにより、原告とフリーウィルとの間に新たな合意がされたものではない。仮に被告主張に係る合意が同書面によってされていたとしても、四者契約3条1項により失効している。
(イ)乙22の代理業務委託覚書が、本件商標について本件アニメ化契約3条(3)の適用を排除する趣旨を含むとの被告主張は争う。
ウ 被告は、平成18年8月21日付け証明書(甲26。以下「本件証明書」という。)により、被告が原告の漫画作品に係る各種事業を管理運営することについての包括的な合意が成立したと主張するが、同合意に係る契約書などは作成されておらず、同合意が成立した事実はない。
 仮に、被告が主張する包括的な合意が成立し、それに基づいて本件商標登録がされたとしても、原告が被告に本件商標を被告名義で登録することを許諾した時期は、遅くとも本件商標出願がされた平成17年12月20日であるところ、本件アニメ化契約の終期は平成18年末であり、同契約3条(3)は、同契約が終了した場合について定めたものであるから、同契約終了後も効力を有するのであり、上記の包括的な合意の成立により本件アニメ化契約3条(3)の適用が排除されることにはならない。
エ 消滅時効の援用については、争う。
 商標権は差止請求が認められ、物権に類似するところ、アニメ化契約3条(3)に基づく移転登録手続請求権は、物権に類似した権利を債権的に表現したものにすぎないから、消滅時効にかからないというべきである。仮に、同請求権が消滅時効にかかるとしても、被告は、フリーウィルがぱちんこ・パチスロの窓口業務を行える期間を期限として、商標登録に関する原告の同意を得たものであるから(本件商標合意)、消滅時効の起算点は、平成24年フィールズ契約(甲18)の契約期限が満了した平成29年6月30日又は同契約のセル・オフ条項の期間が満了した平成30年6月30日であるから、いずれの時点を前提としても、消滅時効は未だ完成していない。
(2)予備的主張
 登録商標権について、本来その権利帰属者(登録名義人)たるべき者はその商標の登録を許諾した相手に対し、ライセンス契約の終了に伴う原状回復義務として、ライセンスされた商標の移転登録手続を求めることができる。
 すなわち、本件商標合意には、その期限を、フリーウィルが本件商標の登録に関する実体法上の権利を有している期間(つまり、フリーウィルがぱちんこ・パチスロに関する許諾について窓口業務を行うことができる期間)とするという黙示の合意が含まれていた。
 フリーウィルから本件アニメ契約のライセンシーとしての地位を承継した被告は、四者契約に基づき、平成24年フィールズ契約(甲18)を締結したが、平成27年2月末日、四者契約は期間満了により終了し、これにより、被告は、フィールズとの上記契約の窓口たる地位を失った。仮に、同時点で被告が窓口たる地位を失ったといえない場合であっても、平成24年フィールズ契約の有効期間は平成29年6月30日である(17条)から、遅くとも同日までには、被告は窓口たる地位を失い、本件商標合意は終了した。
 したがって、原告は、被告に対し、本件商標合意の終了に伴う原状回復義務として、本件商標の移転登録手続請求権を有する。
〔被告の主張〕
(1)主位的主張について
ア 本件商標の登録は、本件アニメ化契約に基づくものではなく、以下のとおり、乙21の本件業務委託依頼書又は甲26の本件証明書に基づくものであるから、本件アニメ化契約3条(3)に基づく原告の請求は理由がない。
(ア)フリーウィルは、平成17年フィールズ契約(乙2)について、原告から、平成19年9月20日付けの本件業務委託依頼書(乙21)をもって、本件アニメ化契約とは別に、代理業務委託を受けた。なお、被告も同様に、平成24年フィールズ契約(甲18)について、原告から、同年5月1日付けの代理業務委託覚書(乙22)により、代理業務委託を受けている。
 フリーウィルは、本件業務委託依頼書に基づいて本件商標の登録を受けたものである。
(イ)本件商標の出願手続において提出された原告の記名押印がされた本件証明書には、「株式会社フリーウィルは、私の漫画作品に係る各種事業を管理運営している法人であって、同法人が、標記出願商標の登録を同法人名義で受けることにつき、異議なく同意していることを証明します。」との記載がある。原告が上記証明書で認めるとおり、本件商標の登録が被告名義でされたのは、原告と被告の間で、被告が原告の漫画作品に係る各種事業を管理運営することについての包括的な合意がされていたからである。
(ウ)したがって、本件アニメ化契約3条(3)に基づく原告の本件商標移転登録手続請求は理由がない。
イ 仮に、本件商標の登録が本件アニメ化契約に基づきなされているとしても、以下のとおり、同契約3条(3)の適用は排除されている。すなわち、原告は、平成24年5月1日、被告に本件漫画のアニメ化、商品化などの業務に係る代理権を授与し(乙22)、これに基づき、被告は平成24年フィールズ契約を締結したところ(甲18)、同契約12条は、被告がフィールズに対し、「本件商品、本件派生商品及び販促物への本契約有効期間中の使用につき、本件商標の無償による独占的な通常使用権を許諾する」と定める。そうすると、原告は、被告に対し、本件商標の独占的通常使用権を許諾することを承認したものであり、同承認は、アニメ化契約3条(3)の適用を排除する「許諾時の特別の定め」(同項)を含むものであるから、本件商標については、本件アニメ化契約3条(3)は適用されない。
ウ 本件アニメ化契約が終了した平成18年末日から5年を経過し、同契約3条(3)に基づく義務について消滅時効が完成した。被告は、平成31年1月18日付け準備書面により、消滅時効を援用する。
(2)予備的主張について
 前記(1)イのとおり、本件商標については、四者契約とは別に、平成24年5月1日に原告が被告に授与した代理権(乙22)に基づき、同年9月28日に平成24年フィールズ契約が締結され、同契約が被告に本件商標に関する独占的な通常使用権を許諾すると定めていることから、仮に四者契約が終了したとしても、四者契約の終了時点では、被告は原状回復義務を負わない。
9 争点7(本件配信停止通知について共同不法行為の成否)
〔被告の主張〕
(1)被告は、中央映画貿易との間で、平成20年10月10日、原告が中央映画貿易に対して本件アニメを送信可能化することを許諾する契約を締結し、平成25年10月1日、同契約を2020年(令和2年)10月31日まで延長する合意をした。中央映画貿易は、上記契約に基づき、本件配信先9社に対し、本件アニメを送信可能化することを許諾した。
 しかし、原告らは、中央映画貿易に対し、第2事件被告代理人名義で平成27年3月24日付けの書面を送付し、本件アニメの配信停止を求め、配信を停止しなければ法的措置をとる旨通告した上(乙16)、本件配信先9社のうち、株式会社NTTドコモ及び株式会社メディエーターに対し、原告代理人名義で同年5月22日付けの書面を送付し、本件アニメの公衆送信は原告の公衆送信権を侵害する違法行為であるとして、公衆送信が停止されないときは断固とした法的措置をとる旨通告した(乙17)。
 その結果、法的紛争に巻き込まれることを恐れた株式会社NTTドコモ及び株式会社メディエーターは、遅くとも、平成27年10月には、本件アニメの配信を停止した。
 被告は、本件アニメ化契約により、本件漫画をアニメ化する権利及び本件アニメの原著作者の権利を取得したから、本件アニメの送信可能化を自由に許諾する権利を有しており、原告らの上記各行為は、その権利を侵害する共同不法行為に該当する。
(2)また、前記3〔被告の主張〕のとおり、本件送信許諾契約はその有効期間である令和2年(2020年)10月31日までは有効であり、被告が中央映画貿易に本件アニメを配信させることには法的な根拠があった。
(3)したがって、被告は、原告らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。
〔原告らの主張〕
(1)ア 前記1〔原告の主張〕のとおり、本件アニメの原著作者の権利は原告に帰属するので、被告が「本件アニメの送信可能化を自由に許諾する権利」を有するという前提が成り立たないから、同権利の侵害を理由として原告らの行為が共同不法行為に該当するとする被告の主張は理由がない。
イ 原告らが中央映画貿易、株式会社NTTドコモ及び株式会社メディエーターに対して本件配信停止通知を行った経緯は以下のとおりである。
 第2事件被告は、平成26年9月頃から、被告に対し、本件アニメに関する全ての契約書の開示を求めたが、被告は、本件仮処分申立ての審理において平成27年6月10日に本件送信許諾契約に係る契約書(甲9)を提出するまで開示しなかった。
 また、被告は、平成26年11月7日に、本件アニメの原著作者の権利が被告に譲渡されているとの主張を始めたが、その根拠を原告らが尋ねても回答を拒否したため、原告らは被告の主張の当否を判断できず、第2事件被告は、やむなく、被告作成の支払明細書(乙15)に社名が記載された中央映画貿易に対し、直接通知を送付した(乙16)。
 第2事件被告は、中央映画貿易に対し、被告との間の契約書の開示を求め、株式会社ニワンゴ等が中央映画貿易のサブライセンシーであるかを尋ねたが(乙16)、中央映画貿易は回答しなかった。
 そのため、原告らにおいて、株式会社ニワンゴ等の配信業者が本件アニメを配信している根拠が判断できなかったため、やむなく、本件アニメを配信していた本件配信先9社のうち2社に対し、配信の停止を求める通知を送付した(乙17)。
 このように、原告らの対応は、著作権者及び著作権の管理者として当然のものであって、共同不法行為は成立しない。
(2)前記3〔原告の主張〕のとおり、原告が本件送信許諾契約について許諾をしたことはないから、同契約が令和2年(2020年)10月31日まで有効であることを前提とする被告の主張は理由がない。
(3)したがって、本件配信停止通知について、共同不法行為は成立しない。
10 争点8(ガンホー提案の許諾を拒絶した行為について不法行為又は四者契約の債務不履行の成否)
〔被告の主張〕
 被告は、第2事件被告に対し、平成26年10月7日付け通知書を送付し、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社から、使用料200万円で、同社のゲーム内のキャラクターとして本件漫画のキャラクターを実装して販売する企画の提案(ガンホー提案)を受けているとして、必要があれば同提案の詳細について説明する旨を添えてライセンス契約の許諾を求めたが(乙6)、第2事件被告代理人は、被告の説明を聞くことなく、即時にこれを拒絶した(乙7)。
 第2事件被告は、原告の代理人の立場も兼ねており(四者契約1条1項)、また、許諾について実質的な判断をするのは原告であるから、原告は四者契約の契約当事者ということができる。四者契約は、ライセンス契約締結によって使用料を得る被告の利益のための契約でもあるから、拒否の最終決定権が原告らにあるとしても、不当な拒絶が許されるものではない。原告らは、ガンホー提案の内容に関する被告の説明を聞くことなく即時に許諾を拒絶しており、このような行為は、四者契約の目的に反し、債務不履行に当たる。
 また、原告らは、被告に対し、四者契約の終了と新規の許諾契約を締結しないことを通知し(甲8)、四者契約の契約期間中にもかかわらず、同契約の効力を一方的に停止する方針に基づき、ガンホー提案に対する許諾を拒絶しており、このような行為は、四者契約の終了事由が発生していないにもかかわらず、一方的に同契約を破棄するに等しく、同契約違反の債務不履行を構成する。
 その結果、被告は上記ライセンス許諾に関する契約を失注し、使用料200万円を得ることができなかった。
 したがって、被告は、原告らに対し、共同不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権を有する。
〔原告らの主張〕
 原告は、四者契約の当事者ではなく、ガンホー提案を拒絶した主体も原告ではなく第2事件被告であるから、原告について債務不履行又は不法行為が成立する余地はない。
 四者契約3条2項及び4条4項において、第2事件被告が許諾に関する決定権を有していることが明記されているところ、第2事件被告は、これらの条項に基づきガンホー提案を許諾しなかったものであり、何ら四者契約に違反するものではない。
 したがって、ガンホー提案を拒絶した行為は、債務不履行又は不法行為を構成しない。
11 争点9(四者契約の更新拒絶について不法行為又は債務不履行の成否)
〔被告の主張〕
 継続的契約である四者契約の更新拒絶には正当事由が必要であるところ、原告らによる本件更新拒絶には正当事由はない。
 すなわち、四者契約には、更新を原則とする自動更新の規定(8条)が設けられており、本件更新拒絶がされるまで、3回もの更新が行われている。この間、被告は、本件漫画のシリーズ連載20周年となる平成23年に、原告から
 「刃牙シリーズを盛り上げて欲しい。」という強い希望を受けたことから、多大な労力、費用を費やして、事業内容を拡大し、新たに専属人員を採用して増やし、同シリーズのコンテンツ事業の体制を整えた。
 四者契約には、本件アニメに関する規定が設けられていることから、商品化を促進して被告が本件アニメに関する投下資本を回収することも四者契約の目的の一つに含まれ、そうであるからこそ、被告は、四者契約締結以前は、本件覚書(甲6)によって商品化窓口が被告に一本化されていた状況であったのに、四者契約によって秋田書店を窓口に加えることに合意したものである。しかし、被告は、いまだに投下資本を回収できていない。
 以上のような事情があるにもかかわらず、原告らは、本件更新拒絶を突如として行い、その理由も、秋田書店に窓口を一本化したいというもので、被告に何らかの落ち度があったというものではない。
 以上の諸事情を考慮すれば、本件更新拒絶には正当事由はない。原告らによる四者契約の不当な更新拒絶は、同契約が更新されることに対する被告の合理的期待を侵害するものとして、債務不履行に該当し、また、不法行為にも該当する。
 したがって、被告は、原告らに対し、共同不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権を有する。
〔原告らの主張〕
 四者契約8条は、更新拒絶に特段の事由を要求しておらず、正当の事由があることは必要ではない。被告が主張する社内体制の強化と刃牙コンテンツの活性化は、被告が四者契約の締結により、原告の窓口として当然に行うべき窓口業務を行ったというものにすぎず、被告が主張する個別的な事情も、継続的契約の更新に正当事由を要求する根拠となる多大な人的物的投資には当たらない。
 したがって、四者契約の更新拒絶には正当事由は必要ではないから、本件更新拒絶は不法行為又は債務不履行に当たらない。
12 争点10(損害の有無及びその額)
〔被告の主張〕
(1)本件配信停止通知による損害
 被告は、本件送信許諾契約により、平成24年から平成26年にかけて、6758万1795円のロイヤリティを得ており、年平均額は2252万7265円である。本件送信許諾契約の期限は、令和2年(2020年)10月31日であったところ、本件配信先9社は、遅くとも平成27年10月には全社が本件アニメの配信を停止したから、原告の損害は、少なくとも、過去実績の5年分に当たる1億1263万6325円(計算式:年平均額2252万7265円×5年間)となる。
 被告は、原告らに対し、上記の損害の一部である2000万円の損害賠償を請求する。
(2)ガンホー提案の拒絶による損害
 被告は、原告らが本件ガンホー提案を拒絶したことにより、使用料200万円を得ることができなくなったから、その損害額は200万円である。
(3)本件更新拒絶による損害
 被告は、四者契約により、平成24年から平成26年にかけて、1億3373万0287円の売上を得ており(乙20)、この間、6560万1551円を原告らに支払った(乙15)。その差額6812万8736円(月平均189万2464円)が被告の利益である。
 原告らの主張する四者契約の期間満了時(平成27年2月末日)から本訴提起までに16か月が経過し、少なくとも3027万9424円(189万2464円×16月)の逸失利益が生じている。
 被告は、原告らに対し、上記逸失利益のうち1000万円を請求する。
(4)したがって、被告は、原告らに対し、連帯して、上記(1)〜(3)の合計額である1億4491万5749円のうち3200万円及びこれに対する第2事件訴状送達日の翌日(原告につき平成28年7月27日、第2事件被告につき平成28年8月5日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔原告らの主張〕
 いずれも争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1−1(本件アニメの原著作者の権利が原告からフリーウィルに譲渡されたか)について
 本件アニメ化契約当時、本件アニメの原著作者の権利を原告が有していたことについては当事者間に争いがないところ、被告は、同契約により、本件アニメの原著作者の権利が原告からフリーウィルに譲渡されたと主張するので、以下、検討する。
(1)本件アニメ化契約は秋田書店とフリーウィルとの間で締結されたものであるが、秋田書店は当時原告のために窓口業務を行っており、同契約の効果は原告に帰属すると解されるところ、本件アニメ化契約(前記第2の3(4))には、原告がフリーウィルに対して本件アニメの原著作者の権利を譲渡する旨の明示的な条項は存在しない。著作権の一部を譲渡する契約において、譲渡の対象として原著作者の権利が特掲されていない場合には、原著作者の権利は著作権者に留保されたものと推定されるが(著作権法61条2項)、本件アニメ化契約においても、原告がフリーウィルに本件アニメの原著作者の権利を譲渡する旨の明示的な規定は置かれていないので、本件アニメの原著作者の権利は原告に留保されていたと推定される。
(2)以下のとおり、本件アニメ化契約の各条項を参酌しても、原告に本件アニメの原著作者の権利が留保されていたとの推定を覆すに足りる事情が存在するとは認められない。
ア 本件アニメ化契約3条(1)は、「本作品に関するすべての権利は、本契約によって乙(判決注:フリーウィル)に許諾される権利を除き甲(判決注:秋田書店)に留保される。」とした上で、同契約4条において、フリーウィルに付与された権利について規定しているが、同条は、@本件漫画をアニメ化する独占的な権利をフリーウィルに与えること(同条(1))、Aフリーウィルが本件アニメのキャラクターを使用した商品化の窓口としてこれを管理し、行使する権利を有すること(同条(2))、B本件アニメの放送、インターネット上での配信等の独占的な権利を付与すること(同条(3))、C本件アニメに関連する商品化のために制作された原盤、原画等の所有権がフリーウィルに帰属すること(同条(4))を規定しているにすぎず、同条の規定に基づき本件アニメの原著作者の権利がフリーウィルに譲渡されたと認めることはできない。
 これに対して、被告は、上記B及びCの権利については、「本契約期間中」との限定はされていない上、「独占的に且つ自由」又は「所有権」という文言が用いられているので、フリーウィルは、本件アニメについて、原著作者の権利を含めた完全な著作権の設定を受けたものであると主張する。
 しかし、本件アニメ化契約の有効期間については、同契約9条において、「本契約の有効期間は契約締結日より本アニメの最終話の放送日(再放送等は除く)以後5年間とする。」と規定されているのであるから、上記B及びCの権利のみが期限なく永続すると解することはできない。また、同契約4条(3)に基づいて「独占的に且つ自由」に行うことができるのは、本件アニメの放送等についてであり、「所有権」を有するのは本件アニメに関連する商品化のために制作された原盤等であるから、これらの文言をもって、被告が本件アニメの原著作者の権利を譲渡されたと認めることはできない。
イ 本件アニメ化契約6条(1)は、本件アニメの著作権に関して、原告の窓口である秋田書店及びフリーウィルが「それぞれ原作権、出版権、商品化権(アニメーション化権含む)という同等の権利を有」するとし、その表記を「(C)板垣恵介/秋田書店・フリーウィル」とする旨規定するところ、同条の趣旨は必ずしも明確ではないものの、いずれにしても、本件アニメの原著作者の権利を被告が有することを明示的に規定するものではなく、原告も「同等の権利を有」するとされていることに照らしても、原告がフリーウィルに対して本件アニメの原著作者の権利を譲渡したことの根拠となるものではないというべきである。
 これに対して、被告は、同項の規定は、フリーウィルに与えられたアニメーション化権が原著作者の権利を含むことを規定するものであると主張するが、同項はその文言に照らしても本件アニメの原著作者の権利の所在について規定するものではないというべきである。
ウ 本件アニメ化契約7条は、フリーウィルが原告に対して支払うべき対価として、@本件漫画のアニメ化の対価としての使用料(同条(1))、A商品化の対価(同条(2))、B本件アニメ化契約の総合的対価としての制作協力費(監修費)(同条(6))について規定しているが、本件アニメの原著作者の権利についての対価の規定は存在しない。
 この点について、被告は、上記Bの規定に加え、本件アニメが放映されることによる宣伝効果、フリーウィルから原告に支払われたロイヤリティなどを総合すると、被告は、本件アニメの原著作者の権利の価値に相当する支払をしている旨主張するが、上記Bの制作協力費をもって本件アニメの原著作者の権利の対価としての性格を有すると解することはできず、本件アニメ化契約には、他に本件アニメの原著作者の権利の対価に関する規定がない以上、同権利は譲渡の対象になっていなかったと解するのが相当である。
(3)被告は、@本件アニメを制作するに当たり多額の投資をしたが、本件アニメの原著作者の権利の譲渡を受けることなく、このような多額の投資をすることは考えられない、A原告は、本件アニメ化契約を締結してから、14年間にわたり、本件アニメの原著作者の権利を有しているとの主張をしていない、B四者契約6条1項の文言に照らしても、原告は、本件アニメについて著作者人格権を有するにすぎないと主張する。
 しかし、原告から本件漫画をアニメーション化する権利を付与された被告が一定額の投資をしてアニメ制作等を行うのは当然であり、その投資額が多額であったとしても、そのことから、ただちに、被告が原告から本件アニメの原著作者の権利の譲渡を受けたと推認することはできない。
 また、原告が長年にわたって本件アニメの原著作者の権利を有しているとの主張をしていないという点についても、原告と被告との間で本件アニメの原著作者の権利の帰属について紛争が生じたなどの事情はうかがわれないのであるから、原告がかかる権利主張をしなかったとしても不自然とはいうことはできない。むしろ、後記(4)で判示する事情に照らすと、原告が本件アニメの原著作者の権利を有することが当然の前提とされていたからこそ、原告はかかる権利主張をしなかったと解するのが合理的である。
 さらに、被告が指摘する四者契約6条1項は、本件漫画にかかわる著作権の全て及びフリーウィルが制作したテレビ・アニメーションにおける原作者としての権利を原告が有し、フリーウィルが原告から許諾を得て平成13年(2001年)年に制作したテレビ・アニメーションにかかわる著作権を被告が有することを確認する条項であり、これによれば、被告が有するのは本件漫画の二次的著作物としての本件アニメの著作権に限定され、原著作者の権利も含むそれ以外の権利は原告に留保されていたものと解するのが相当である。(4)前記認定(第2の3(7)ア)のとおり、被告は、平成21年12月から平成27年7月まで、原告又は第2事件被告に対し、本件アニメの配信に関して中央映画貿易から受領したロイヤリティの一部を「著作権料」名目で支払った事実が認められる。被告は、かかる支払は原告との友好関係を保つためのものであったと主張するが、友好関係を維持するためにこのような支払を継続的に行ったとは考え難く、被告により支払われた上記対価は、その名目どおり、本件アニメの原著作権を有する者に対する許諾料の支払であると認めるのが相当である。
 また、前記認定(第2の3(7)ウ(イ)b)のとおり、平成24年フィールズ契約4条1項には「FWDは、本作品のうちアニメーション作品の著作権がFWDに、本作品のうちアニメーション作品の原著作権及び本作品のうち漫画作品の著作権が板垣恵介…に帰属することを表明する。」との条項が置かれており、同条項によれば、被告自身、本件アニメの原著作者の権利が原告に帰属するとの認識を有していたことは明らかである。
(5)以上のとおり、本件アニメの原著作者の権利は原告に留保されていたとの推定を覆すに足りる事情は認められず、本件アニメ化契約をもって、原告からフリーウィルに本件アニメの原著作者の権利が譲渡されたと認めることはできない。
2 争点1−2(本件アニメの送信可能化権の譲渡又は期間の定めのない許諾がされたか)について
 被告は、本件アニメ化契約4条(3)に「契約期間中」との文言がないことから、本件アニメ化契約により、被告は原告から本件アニメの送信可能化権の譲渡を受け、又は送信可能化について期限の定めなく許諾を受けたと主張するが、前記判示のとおり、同条項は、原告が被告に対し、同契約9条(1)に定める契約期間内に限り、本件漫画を翻案して本件アニメを制作することや、本件アニメの送信可能化等を許諾したものと解される。
 したがって、被告の上記主張は理由がない。
3 争点1−3(黙示の許諾の有無)について
 被告は、中央映画貿易との間の本件送信許諾契約については、原告の黙示の許諾があったから、四者契約10条1項に基づき、本件送信許諾契約の有効期間である令和2年(2020年)10月31日までは同契約は有効であって、差止めをすることはできないと主張するところ、原告は同許諾の有無について争うので、以下検討する。
(1)前記認定(第2の3(7))のとおり、被告は、平成20年10月10日、中央映画貿易に対し、本件アニメを送信可能化することを許諾し、平成25年10月1日、被告と中央映画貿易は、許諾期間を2013年(平成25年)11月1日から2020年(令和2年)10月31日まで延長することに合意した事実が認められる。
 本件送信許諾契約に関し、原告は、その締結及びその更新について承諾をしていないと主張するが、前記認定のとおり、原告は、本件送信許諾契約の締結後、同契約更新後の期間も含め、平成21年12月から平成27年7月まで3年半以上の間、被告から、本件アニメの配信により中央映画貿易から得たロイヤリティの一部の支払を受けていたとの事実が認められる。
 そして、当該支払の際に原告に交付された支払明細書の項目欄には「中央映画貿易株式会社映像配信権利料」などと中央映画貿易の社名が明記されたものがあること(甲17の7、8、10、乙15の7〜10枚目、15枚目、16枚目)や、支払明細書に同封された書類(甲17の2・3)には中央映画貿易からの配信名と支払明細が記載されたものも存在することなどによれば、原告は、本件送信許諾契約について認識しつつ、その使用許諾料の一部の支払を受けていたと認めるのが相当である。
 これに加えて、原告及び第2事件被告は、被告に対し、平成27年3月24日に第2事件被告が中央映画貿易に配信停止を求めるまで、本件アニメの配信について異議を述べていないことも考慮すると、原告は、本件送信許諾契約の締結及び更新について、黙示の許諾をしたものと認めるのが相当である。
(2)四者契約10条1項は、「本契約期間の終了時に、乙(判決注:秋田書店)または丙(判決注:被告)と二次的利用者との間の許諾契約が有効に存続している案件については、その許諾契約の有効期間にかぎり当該乙または丙が引き続き二次的利用の窓口業務を継続することができる。」と定めるところ、同契約が終了した平成27年2月28日の時点で、本件送信許諾契約は有効であったから、被告は、本件送信許諾契約については、その契約期間の終期である令和2年(2020年)10月31日まで窓口業務を継続することができ、同契約に基づいて、中央映画貿易に本件アニメを配信させることができる。
(3)これに対し、原告は、被告が四者契約4条1項及び3項に基づく通知義務を果たしておらず、また、原告は雑誌連載等で多忙であったから、被告から交付された支払明細書の内容を確認することは不可能であり、平成27年6月10日まで中央映画貿易との契約を認識していなかったと主張する。
 しかし、原告及び原告の著作権管理等を行う第2事件被告が、いかに多忙であったとしても、原告が著作権を有する本件漫画の二次的利用の状況や、そこから得られるロイヤリティ収入について把握していなかったとは考え難く、前記判示のとおり、支払明細書にも中央映画貿易から受領した許諾料であることが明示されていたのであるから、原告は本件送信許諾契約及びその更新について認識しつつ、黙示の承諾をしていたと認めることが相当である。
(4)したがって、被告において、本件送信許諾契約に基づき、中央映画貿易に本件アニメを公衆送信又は送信可能化させる行為は、令和2年(2020年)10月31日までの間は、原告の原著作者の権利としての送信可能化権を侵害するものではないから、同行為の差止めを求める原告の請求は理由がない。
4 争点2(本件アニメのDVD制作・販売について複製権及び頒布権侵害の成否)について
(1)被告は、原告から本件アニメの原著作者の権利を譲渡されているとして、本件DVDの複製及び頒布が原告の著作権を侵害しないと主張するが、被告が本件アニメの原著作者の権利を有すると認めることはできないことは、前記判示のとおりである。
(2)被告は、仮に、被告が本件アニメの原著作者の権利を有しないとしても、本件アニメ化契約12条(2)(本件セル・オフ条項)は「本契約の終了及び途中解除の場合、それまでに商品化されたものについては、第7条に基づき対価を支払うことにより、発売元及び販売元、問屋、市中の在庫に限り販売を行うことができる。」と規定しているところ、本件DVDは、本件アニメ化契約が終了した平成18年末より前の平成18年8月23日に発売された商品であり、被告ウェブサイトで販売しているDVDは、その在庫であるから、被告は、同条項に基づき、本件DVDを販売することができると主張する。
 しかし、本件アニメ化契約12条(2)は、その文言どおり、同契約の終了日(本件では平成18年末日)までに商品化された商品在庫について、同日後の販売を認めるものであるところ、本件DVDの発売開始日が平成18年8月23日であったとしても、被告が現に保有し、販売している本件DVDが、平成18年末日までに製造された在庫であることを認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、被告による本件DVDの複製・頒布が、本件セル・オフ条項に基づいて許容されるものであるということはできない。
(3)したがって、原告の被告に対する本件DVDの複製・頒布の差止めを求める請求は、理由がある。
5 争点3関係(本件漫画及び本件アニメの翻案について)
(1)争点3−1(スパイダーウェブス販売商品の差止めの可否及び差止めの必要性の有無)
ア 原告は、被告とのライセンス契約に基づき、スパイダーウェブスが販売する商品(別紙一覧表の番号3−7、8、17、18の各商品)について、既に同ライセンス契約は終了しているとしても、在庫等が存在するとして、被告に対して、その販売差止めを求める。
 これに対し、被告は、スパイダーウェブスは第三者に当たるので、原告がその販売行為について差止めを求めることはできないと主張するが、著作権侵害行為の主体が誰であるかは、行為の対象、方法、行為への関与の内容、程度等の諸般の事情を総合的に考慮して、規範的に解釈すべきであるところ、本件において、スパイダーウェブスは、被告と無関係にスパイダーウェブス商品を販売しているものではなく、被告との間でライセンス契約を締結し、同契約に基づき同商品を販売しているのであるから、被告は、スパイダーウェブス商品の販売について管理・支配を及ぼし、かつ、当該ライセンス契約によって利益を得ているということができる。
 そうすると、原告は、被告に対し、被告とのライセンス契約に基づくスパイダーウェブス商品の販売について、その販売の差止めを求めることができるというべきである。
 イ これに基づいて、スパイダーウェブス各商品の販売行為について検討すると、まず、別紙一覧表番号3−7、8の商品については、販売は既に停止されているものの、在庫は存在すると認められる(甲42)ので、販売を再開する可能性があるということができる。
 別紙一覧表番号3−17、18については、在庫が存在しないものの、これらの商品は取り寄せ販売であると認められる(甲42)ので、仮に現在在庫がないとしても、今後注文が入った場合に、販売がされる可能性があるというべきであり、同商品の取り寄せが不可能となっているなどの事情はうかがわれない。
ウ そうすると、別紙一覧表3−7、8、17、18の各商品については、いずれも、被告に対して翻案・譲渡の差止めを求める必要性があると認められるので、同各商品に関する原告の被告に対する差止請求は理由がある。
(2)争点3−2(被告販売商品の差止めの必要性の有無)
ア 被告は、本件漫画を翻案したTシャツ、ライター、ステッカー、靴下(別紙一覧表の番号3−35〜59の各商品。被告販売商品)を販売していたが、現在はその販売を終了していることは前記認定のとおりである。
イ 別紙一覧表の番号3−35〜59の各商品のうち、同3−44の商品を除く各商品の在庫が存在することについては当事者間に争いがないが、同3−44の商品については、在庫の有無について争いがある。
 証拠(甲87)によれば、被告は、平成29年3月31日時点の被告の在庫数を記載したリストを作成し、原告に交付しているところ、同リストには、同3−44記載のTシャツについて在庫数23と記載されていることが認められる。なお、同3−41〜44は同一のTシャツのサイズが異なる商品であるが、同リストにはサイズの記載はない。
 被告は、同3―41〜43の商品(上記TシャツのXLサイズ、Lサイズ、Mサイズ)については在庫があるが、同3−44の商品、すなわち上記TシャツのSサイズのみ在庫が存在しないと主張するが、平成29年3月31日時点以降にSサイズが販売されるなどして在庫がなくなったこと、または、同日時点において既にSサイズの在庫がなかったと認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、別紙一覧表3−44についても在庫があると認めるのが相当である。
ウ 被告は、被告販売商品につき、既に販売を終了しているから、差止めの必要性がないと主張する。
 しかし、被告は、被告販売商品の在庫を有していると認められるところ、被告ウェブサイトで販売を終了した旨を表示していたとしても、当該在庫を再度販売するおそれがあるから、差止めの必要性はなお認められる。
エ したがって、原告の被告に対する、別紙一覧表3−35〜59の各商品の翻案・譲渡の差止めを求める請求は、理由がある。
(3)争点3−3(ニューギン及びフィールズによるぱちんこ・パチスロ遊技機の差止めの必要性の有無)
 被告は、フィールズとの商品化権使用許諾契約に基づき、同社の下請であるニューギン(別紙一覧表番号6−1、2)又はフィールズ自身(別紙一覧表番号6−3)にぱちんこ・パチスロ遊技機を製造、販売させていたところ、同契約に基づく商品の販売は既に終了し、同各商品の在庫が存在すると認めるに足りる証拠も存在しない。
 原告は、被告が本件商標の移転登録請求を争っていることを理由に、被告は、ぱちんこ・パチスロ遊技機である上記各商品について、自己又は第三者をして販売を再開する可能性があると主張するが、商標の移転登録手続請求を争っていることから直ちに当該商標の指定商品に係る商品を販売する可能性が高いということはできず、被告に在庫があるとも認められない以上、同各商品の販売を差し止める必要はないというべきである。
 したがって、原告の被告に対する、別紙一覧表6−1〜3の各商品の翻案・譲渡の差止めを求める請求は、理由がない。
6 争点4関係(本件漫画及び本件アニメの公衆送信ついて)
(1)争点4−1(本件DVDの画像を被告ウェブサイトに掲載することの可否(別紙一覧表番号4−1関係))
 被告は、本件アニメの原著作者の権利の譲渡を受け、あるいは本件アニメ化契約の本件セル・オフ条項に基づき、本件DVDの販売をすることができるから、その宣伝のために被告ウェブサイトに本件DVDの画像を掲載しても、原告の送信可能化権を侵害しないと主張する。
 しかし、前記判示のとおり、被告に原著作者の権利の譲渡がされたことは認められず、本件DVDの販売が本件セル・オフ条項の要件を充足するものであるともいえないから、被告の上記主張はその前提を欠き、理由がない。
 そして、被告が被告ウェブサイトに本件DVDの画像を掲載することは、本件漫画に係る原告の送信可能化権を侵害するから、原告の被告に対する、別紙一覧法4−1記載の本件DVDの画像の送信可能化の差止めを求める請求は、理由がある。
(2)争点4−2(被告ウェブサイトに係る差止めの可否(別紙一覧表番号4−2〜5、7、8))
 別紙一覧表番号4−2〜5、7、8記載の各画像は、被告ウェブサイトに掲載されていたものであるところ、乙46、47及び弁論の全趣旨によれば、現在は被告ウェブサイトに掲載されていないと認められる。
 同各画像は、DVDのパッケージ画像、フィギュアの画像、ニューギン及びフィールズによるぱちんこ・パチスロ遊技機の画像であって、いずれも被告ウェブサイトに掲載されていたものであるが、これらの商品はいずれも既に販売が停止され、在庫も存在しないのであるから、これらの画像のデータがサーバに残存しているとしても、被告がその掲載を再開するとは考え難い。
 したがって、原告の被告に対する別紙一覧表4−2〜5、7、8の画像につき、その送信可能化を差し止める必要性はないものというべきである。
(3)争点4−3(スパイダーウェブスのウェブサイトに係る差止めの可否(別紙一覧表番号4−6、9〜39関係))
ア 同4−6、11〜21、29〜39関係
 本件漫画の翻案物であるこれらの画像をスパイダーウェブスが自社のウェブサイトに掲載していることについては、当事者間に争いがない。
 被告は、第三者であるスパイダーウェブスが自社のウェブサイトに本件漫画の翻案物の画像を掲載する行為について、被告に差止めを求めることはできないと主張するが、前記判示のとおり、スパイダーウェブスは、被告と無関係にスパイダーウェブス商品などの本件漫画の翻案物を販売しているものではなく、被告との間でこれらの商品についてライセンス契約を締結し、同商品を販売するために画像を掲載しているのであるから、原告は、被告に対し、スパイダーウェブスをして本件漫画の翻案物の画像を自社のウェブサイトに掲載することの差止めを求めることができる。
イ 同4−9、10、22〜28関係
 スパイダーウェブスが自社サイトに画像を掲載していないことは、当事者間に争いがない。被告とスパイダーウェブスとの間のライセンス契約が終了していることに照らすと、スパイダーウェブスが再度これらの画像を自社サイトに掲載するとは考え難いので、差止めの必要性はないというべきである。
ウ したがって、原告の被告に対する別紙一覧表4−6、11〜21、29〜39の画像につき、送信可能化の差止めを求める請求は理由があるが、同4−9、10、22〜28の画像につき、送信可能化の差止めを求める請求は理由がない。
7 争点5関係(本件漫画及び本件アニメの公衆送信について)
(1)争点5−1(本件ツイッターによる送信可能化権侵害の成否)
 証拠(甲27の1〜3)及び弁論の全趣旨によれば、本件ツイッターは、不特定多数人がしたツイートを集めたタイムラインをリンク先とし、被告ウェブサイトをリンク元として、上記タイムラインが被告ウェブサイト上に表示される形でリンクが張られたもの(埋込リンク)であり、「バキ」、「刃牙」、「#baki」、「グラップラー」又は「範馬」というワードを含むツイートを自動的に抽出して表示するものであることが認められる。
 本件ツイッターに表示される画像は、閲覧者の端末上では、リンク元である被告ウェブサイト上で閲覧できる状態に置かれていたとしても、被告がツイートしたものではなく、被告ウェブサイトのサーバにその画像データが保存されているということもできないから、被告が、自動公衆送信又は送信可能化をしたということはできない。
 また、被告は、「バキ」、「刃牙」、「#baki」、「グラップラー」又は「範馬」とのワードを含むツイートを表示するように設定しているのみであり、どのようなツイートをするかについて影響を及ぼすことができるわけではないことはもとより、本件漫画の画像を掲載したツイートが表示されるように設定しているわけでもないこと、本件ツイッターによって被告に何らかの利益が帰属するとはいえないことを踏まえると、被告を利用主体と評価することもできない。
 したがって、被告が本件ツイッターを被告ウェブサイトに掲載する行為が原告の送信可能化権を侵害するということはできない。
(2)争点5−2(本件ニュース画像を掲載することの可否)
ア 被告は、本件ニュース画像のうち、本件アニメの画像(静止画)を掲載したことについては、被告が本件アニメの原著作者の権利を有し、又は自由に公衆送信できる権利を有するから、原告の送信可能化権を侵害しないと主張する。
 しかし、被告の上記主張が認められないことは、前記判示のとおりである。
イ 被告は、被告ウェブサイトは、本件漫画の連載20周年を機に原告から刃牙シリーズを盛り上げてほしい旨の希望を受けてコンテンツを充実させたものであるところ、本件ニュース画像のうち、本件アニメの画像以外の画像は、本件漫画やこれを翻案した商品、本件漫画に関するイベントなどを紹介し、刃牙シリーズを盛り上げるために掲載されたものであるから、原告は、これらの画像を掲載することについて承諾しており、画像の削除時期についての取り決めもないから、原告の送信可能化権を侵害しないと主張する。
 しかし、原告が本件ニュース画像を被告ウェブサイトに掲載することを承諾していたとしても、それは被告が原告の窓口業務を行う限りにおいてであって、四者契約が平成27年2月28日に終了し、被告が原告の窓口たる地位を失った時点以降についてまで、原告が承諾していたことを認めるに足りる証拠はない。
ウ したがって、被告が本件ニュース画像を被告ウェブサイトに掲載する行為は、原告の送信可能化権を侵害する。
(3)争点5−3(本件ニュース画像等の差止めの必要性の有無)本件ニュース画像等は、被告ウェブサイトに掲載されていたところ、現時点においては、これらのウェブページにアクセスしようとすると、「認証のためのユーザー名とパスワードが間違っている。」と表示され、閲覧することができない状態にあるが、これらの画像のデータはサーバ上に保管されており、上記の本件ニュース画像等を閲覧することができない状態は、被告においてユーザー名とパスワードの入力を要求する設定とすることによって作出されたものであること、閲覧を制限すること及び制限を解除することは可能であると考えられる。
 そうすると、現在において、本件ニュース画像等を閲覧できる状態にないとしても、被告によって閲覧できる状態に復することが可能であるから、差止めの必要性はなお認められると解するのが相当である。
 したがって、原告の被告に対する別紙一覧表5−2〜4記載の本件ニュース画像等の送信可能化の差止めを求める請求は、理由がある。
8 争点6(原告の被告に対する本件商標の移転登録手続請求権の有無)
(1)本件商標の移転登録手続請求に関し、以下の事実が認められる。
ア 前記第2の3(4)のとおり、本件アニメ化契約3条(3)は、本件漫画はもとより本件アニメに関しての表題及びキャラクター等に関する商標、意匠を含むすべての知的所有権を登録する権利は秋田書店に専属し、フリーウィルが秋田書店の許諾を得てこれらの登録を行った場合でも、許諾時の特別の定めがない限り、本件アニメ化契約が満了あるいは解除になったときは、フリーウィルの名義で登録されているすべての知的所有権は無償で秋田書店に移転するものとし、フリーウィルはその責任と費用でこの移転に必要な手続きをすみやかに行う旨定めている(甲5)。
イ 平成17年フィールズ契約10条1項は、フリーウィルが、自らの費用により商標を出願する旨定めており(乙2)、これに基づき、フリーウィルは、平成17年12月20日、本件商標の登録出願を行った(甲15)。
ウ 原告は、本件商標の出願手続において、以下の記載がある平成18年8月21日付けの本件証明書(甲26)を提出した。
 「私、板垣恵介(本名X)は、漫画作品「グラップラー刃牙」の原作者であるところ、…株式会社フリーウィルは、私の漫画作品に係る各種事業を管理運営している法人であって、同法人が、標記出願商標の登録を同法人名義で受けることにつき、異議なく同意していることを証明します。」
エ フリーウィルは、平成19年2月23日、本件商標の登録を受けた(甲15)。
オ 原告は、平成19年9月20日、フリーウィルに対し、本件漫画及び刃牙シリーズ並びに原告が今後制作する著作物全てについて、「アニメ化、商品化などの代理業務一切を株式会社フリーウィルに業務委託するものとする。」と記載した本件業務委託依頼書を作成・交付した(乙21)。
カ 原告は、平成24年5月1日、被告に対し、本件漫画及び刃牙シリーズについて、「アニメ化、商品化などの代理業務をFWD株式会社に業務委託するものとする。」と記載した代理業務委託覚書を作成・交付した(乙22)。
キ フリーウィル、被告及びフィールズは、平成24年9月28日、平成17年フィールズ契約の契約上の地位を、フリーウィルから被告に譲渡する旨の地位譲渡の覚書を作成し(甲25)、同日、被告とフィールズは、平成24年フィールズ契約を締結した(甲18)。
 平成24年フィールズ契約には、以下の条項がある(なお、「FWD」は被告、「Fi」はフィールズ、「下記登録商標」は本件商標を指す。)。
第12条(商標権)
1 FWDはFiに対し、Fi及びFiの再許諾先による本プロパティに関連する下記登録商標(以下「本件商標」という。)の本件商品、本件派生商品及び販促物への本契約有効期間(第18条の猶予期間を含む。以下同じ。)中の使用につき、本件商標の無償による独占的な通常使用権を許諾する。

2 以下略
第17条(契約期間)
 本契約の有効期間は、本契約締結日より2017年6月30日までとする。

(2)上記のとおり、本件アニメ化契約3条(3)によれば、本件アニメに関する商標権は秋田書店に窓口業務を依頼した原告に帰属し、フリーウィルが原告の許諾を得て商標登録を行った場合でも、許諾時の特別の定めがない限り、本件アニメ化契約が満了あるいは解除になったときは、フリーウィルは同商標権を無償で原告に移転する義務を負うと解するのが相当である。
 そして、本件証明書によれば、原告が本件商標出願に同意をしていたことは明らかであり、その指定商品に照らせば、原告は、本件商標出願が平成17年フィールズ契約に基づくものであり、フィールズに本件商標の使用権を付与することについても承諾していたと認めるのが相当であり、被告がフリーウィルの地位を承継し、平成24年フィールズ契約を締結した以降についても、同様に承諾していたと認められる。
 そうすると、原告は、平成24年フィールズ契約が存続する間は、本件商標権の移転登録手続を求めることはできないが、同契約は既に終了している以上、本件アニメ化契約3条(3)に基づき、被告に対して本件商標権の移転登録手続を求めることができるというべきである。
(3)これに対し、被告は、フリーウィルによる本件商標の登録は、本件業務委託依頼書(乙21)又は本件証明書に基づくものであり、本件アニメ化契約3条(3)に基づくものではないから、同条項に依拠して本件商標の移転登録手続をすることはできないと主張する。
 しかし、本件業務委託依頼書は、本件商標権の登録より後に作成されたものであり、商標に関する言及もないのであるから、これにより本件商標の出願が行われたと認めることはできない。
 また、本件証明書は、原告が本件商標の出願・登録について同意していることを特許庁に表明するために作成されたものにすぎず、同証明書により本件アニメ化契約とは異なる合意がされたものと解することはできない。
(4)被告は、本件商標の登録が本件アニメ化契約3条(3)に基づきされているとしても、同条項は、平成24年フィールズ契約12条1項により、その適用が排除されると主張する。
 しかし、平成24年フィールズ契約12条1項は、その文言に照らしても、被告がフィールズに本件商標の通常使用権を許諾することを規定するにとどまり、本件アニメ化契約3条(3)の適用を排除し、原告と被告との間の法律関係を変更する趣旨を含むと解することはできない。
(5)被告は、本件アニメ化契約3条(3)に基づく本件商標の移転登録請求につき、同契約が終了した平成18年末から5年の消滅時効期間が経過したから、同請求権は時効により消滅したと主張する。
 しかし、前記判示のとおり、原告は、被告とフィールズとの間の平成24年フィールズ契約が存続する間は、本件商標権の移転登録手続を求めることはできないと解されるのであるから、原告が本件アニメ化契約3条(3)に基づき本件商標の移転登録手続請求権の行使をすることができるようになったのは、平成24年フィールズ契約が終了した平成29年6月30日であると認められる。
 そうすると、同日から5年が経過していない以上、消滅時効が完成しているということはできない。
(6)したがって、原告の被告に対する本件アニメ化契約3条(3)に基づく本件商標の移転登録手続請求は、理由がある。
9 争点7(本件配信停止通知について共同不法行為の成否)
(1)被告は、本件漫画をアニメ化する権利及び本件アニメの原著作者の権利を取得したことを前提に、被告は本件アニメの送信可能化を自由に許諾する権利を有しており、原告らが中央映画貿易や本件配信先9社のうち2社に対し本件配信停止通知を行って配信を停止させた行為が、不法行為に該当すると主張する。
 しかし、前記判示のとおり、本件アニメの原著作者の権利が被告に譲渡されたとは認められないから、被告の上記主張は前提を欠き、理由がない。
(2)被告は、仮に、被告が本件アニメの原著作者の権利を有しないとしても、本件送信許諾契約はその有効期間である令和2年10月31日までは有効であり、被告が中央映画貿易に本件アニメを配信させることには法的な根拠があったから、原告らによる本件配信停止通知は、不法行為に該当すると主張する。
 この点について、確かに、本件送信許諾契約は令和2年(2020年)10月31日まで有効であると認められるが、原告らは、本件アニメの原著作者の権利を有する者とその著作権管理団体であり、原告の許諾を得ずに本件アニメを公衆送信又は送信可能化する者に対しては、差止めを求めることができるのであるから、本件配信停止通知が被告の債権を侵害するものとして不法行為に該当するというためには、原告らにおいて、被告と中央映画貿易との間にライセンス契約が締結され、当該契約が有効であること、つまり、差止めを求める理由がないことを認識しながら、あえて当該行為を行ったといえることが必要と解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記(第2の3(8))のとおり、原告らは、四者契約の更新拒絶後、被告及び中央映画貿易に対し、複数回にわたり、契約書の開示を求め、契約の有効期間を把握しようと努めたものの、被告及び中央映画貿易はこれに応じず、平成27年5月22日申立てに係る本件仮処分申立ての審理において本件送信許諾契約の契約書(甲9)が提出されるまで、原告らはその契約内容を知り得なかったことが認められる。
 そうすると、原告らは、本件配信停止通知をした平成27年3月24日及び同年5月22日の時点では、本件送信許諾契約の契約内容、特に契約期間がいつまでであるかを認識しておらず、本件送信許諾契約が有効であるとの認識を有していなかったと認められる。
 したがって、本件配信停止通知について、不法行為は成立しない。
10 争点8(ガンホー提案の許諾を拒絶した行為について共同不法行為又は四者契約の債務不履行の成否)
 被告は、原告らがガンホー提案の内容に関する被告の説明を聞くことなく即時に許諾を拒絶する行為は、窓口業務を通じて被告の利益を図ることも目的の一つとする四者契約に反し、債務不履行又は不法行為に該当すると主張する。
 しかし、本件漫画の著作権者である原告及びその著作権管理団体である第2事件被告において、本件漫画の二次的利用につき許諾を与えるか否かは本来自由であり、四者契約には、許諾すること自体を義務付ける規定や、二次的利用の申込みがあった際に、その提案内容の説明を受ける義務を負う旨の規定は存在しない。かえって、四者契約3条2項及び4条4項は、本件漫画の二次的利用の許諾に係る最終的な判断権が第2事件被告にあり、被告は、その判断に従わなくてはならないことが明記されているのであるから、第2事件被告がガンホー提案についてその内容の説明を聴取することなく許諾を拒絶したとしても、四者契約に違反したということはできず、また、不法行為にも該当しない。
 したがって、ガンホー提案の拒絶が債務不履行又は不法行為に当たることを理由とする被告の原告らに対する損害賠償請求は、理由がない。
11 争点9(四者契約の更新拒絶について共同不法行為又は債務不履行の成否)
 被告は、四者契約の目的には、被告が本件アニメに関する投下資本を回収することも含まれることを前提にした上で、被告が本件アニメに関する投下資本を十分に回収しないうちにその更新を拒絶するのは、その合理的な期待を侵害するものであるから、正当な事由なくその更新を拒絶するものとして、債務不履行又は不法行為を構成すると主張する。
 しかし、四者契約には被告の上記利益を保護することを目的とする旨の規定は存在しない。また、四者契約は、本件漫画の二次的利用に関して、秋田書店及び被告が窓口業務を行うことを主な内容とするものであるところ、その業務を行うに必要な資本の投下と回収は、四者契約の契約期間も考慮しつつ被告の計算で行うべき事項であり、四者契約の期間満了までにその資本の回収が十分にできないうちに四者契約の更新が拒絶されたとしても、それをもって、原告らによる更新拒絶について正当な理由がないとはいうことはできず、本件において、原告らが被告に対して投下資本の回収が終了するまで更新拒絶をしない旨の約束又は示唆をしたなどの事情もうかがわれない。
 したがって、原告らによる四者契約の更新拒絶が同契約に違反し、又は、不法行為を構成するということはできない。
 以上のとおり、第2事件における被告の請求は、その余の争点について検討するまでもなく、理由がない。
12 結論
 よって、第1事件における原告の請求については、被告に対し、本件漫画の自ら又は第三者をしての翻案の差止め、別紙一覧表3−7、8、17、18、35〜59記載の各商品の自ら又はスパイダーウェブスをしての譲渡の差止め、同4−1、6、11〜21、29〜39、5−2〜4の各画像の自ら又はスパイダーウェブスをしての送信可能化の差止め、本件アニメの自ら又は第三者をしての複製又は翻案の差止め、本件アニメの自ら又は第三者(中央映画貿易株式会社を除く。)をしての送信可能化の差止め、同2−1、2−2記載の各商品の頒布の差止め及び本件商標の移転登録手続を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余の請求には理由がないからこれらを棄却することとし、第2事件における被告の請求については、いずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 三井大有
 裁判官 今野智紀


著作物目録
題名 グラップラー刃牙
著者 板垣恵介ことX
発行所 株式会社秋田書店
発行年月日 平成3年10月10日〜平成11年6月24日(雑誌掲載日)
平成4年3月20日(単行本第1巻初版発行日)

映画目録
題名 グラップラー刃牙
製作・著作 株式会社フリーウィル
原著作者 板垣恵介ことX
企画ダ イナマイト・トミーこと冨岡裕
アニメーション制作 グループ・タック
製作年 平成13年
話数 全48話

商標目録
登録番号 第5027047号
出願日 平成17年(2005年)12月20日
登録日 平成19年(2007年)2月23日
登録商標 グラップラー刃牙\GRAPPLERBAKI
商品及び役務の区分 第9類 第28類
指定商品 スロットマシン、パチンコ玉を使用するスロットマシン(以上第9類)ぱちんこ器具、その他の遊戯用器具(以上第28類)
権利者 FWD株式会社


別紙1
別紙2
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/