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【事件名】ニフティへの発信者情報開示請求事件C
【年月日】令和元年5月23日
 東京地裁 平成30年(ワ)第39200号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成31年4月16日)

判決
原告 株式会社WILL
同訴訟代理人弁護士 山口孝太
同 芝崎晴哉
同 原木航
被告 ニフティ株式会社
同訴訟代理人弁護士 村島俊宏
同 穂積伸一
同 谷口悠樹
同 工藤友良


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、映画の著作物について著作権を有すると主張する原告が、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている被告に対し、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して上記映画を何者かが動画共有サイトにアップロードした行為によって原告の公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。
2 請求原因(原告の主張)
(1)原告は、別紙著作物目録記載の「グラビアアイドル究極進化!1年で開発された神BODY!大痙攣イキまくり乱交解禁スペシャル!A」と題する映像作品(以下「本件著作物」という。)の制作に発意と責任を有し、本件著作物の監督であるBは、原告に対し、本件著作物の製作に参加することを約束して本件著作物の全体的形成に創作的に寄与した。
 仮に、上記Bが本件著作物の著作者であると認められない場合、原告が本件著作物の著作者である。このことは、本件著作物を収録したDVD及びBlu-rayDiscのパッケージに原告のメーカー名(屋号)や登録商標が表示されていることなどから明らかである。
(2)別紙動画目録「IPアドレス」欄記載の各IPアドレス(インターネットプロトコルアドレス)の割当を受けてインターネットに接続した何者か(以下「本件利用者」という。)は、本件著作物を複製して動画ファイルを作成し、同目録「投稿日時」欄記載の各日時に、ファイル交換共有ソフトウェアを通じて本件著作物に係る同目録記載の各動画(以下「本件各動画」という。)のアップロードを行い、同ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いた。
(3)被告は、上記各日時において、本件利用者に対し、上記各IPアドレスを割り当ててインターネット接続サービスを提供していた。よって、被告は、プロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。
(4)被告は、本件利用者についての氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの情報(別紙発信者情報目録記載の各情報。以下「本件各発信者情報」という。)を保有している。
(5)原告は、本件利用者に対し、本件著作物について有する公衆送信権の侵害に基づく損害賠償請求等を行う必要があるが、本件利用者の氏名、住所等が不明であるため、本件各発信者情報の開示を受けるべき「正当な理由」がある。
3 請求原因に対する認否(被告の主張)
 請求原因(1)(2)は否認し、(3)の第1文は認め、(3)の第2文は不知、(4)は認め、(5)は争う。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因について
(1)証拠(甲7ないし14。枝番を付したものは各枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、@Bは、原告の企画に基づき、原告に本件著作物の著作権が帰属するとの認識の下、監督として、脚本の創作や映像の編集等の総指揮を行うなどして本件著作物を制作したこと、A上記Bが取締役を務める有限会社レインメーカーは、原告に対し、本件著作物の撮影初日である平成29年4月18日の約1週間後の同月25日に、本件著作物の制作費として、200万円を請求したこと、B本件著作物の制作に要する費用については、A20の費用も含めて全て原告が負担したこと、C原告は、「MOODYZ(ムーディーズ)」というメーカー名(屋号)を用いているところ、本件著作物を収録したDVD及びBlu-rayDiscのパッケージには、「制作・著作・販売/ムーディーズ」との記載があるほか、原告が商標権を有する登録商標「MOODYZ」も付されており、また、上記DVD・Blu-rayDiscのほか、本件著作物をダウンロード又はストリーミング通信の方法で販売しているウェブサイト「FANZA」の販売ページにおいても、「メーカー:ムーディーズ」との記載があること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告は、本件著作物を製作する意思を有し、本件著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体でもあることが明らかであるから、原告が本件著作物の製作に発意と責任を有していたと認めることができ、また、上記Bは、原告に対し、本件著作物の製作に参加することを約束し、本件著作物の全体的形成に創作的に寄与したと認めることができる。したがって、請求原因(1)前段の事実を認めることができる。
(2)次に、証拠(甲3、4、6、15ないし19)及び弁論の全趣旨によれば、@何者かが別紙動画目録「投稿日時」欄記載の各日時に、ファイル交換共有ソフトウェアBitTorrentを通じ、本件各動画のアップロードを行ったこと、Aそれにより、本件各動画は、同ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置かれたこと、B上記各日時に本件各動画をアップロードする際に使用されたIPアドレスが同目録「IPアドレス」欄記載の各IPアドレスであること、C本件各動画が本件著作物と長さ及び内容において同一であること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件利用者が、同目録「投稿日時」欄記載の各日時に、同目録「IPアドレス」欄記載の各IPアドレスを利用して、本件著作物を複製した動画をファイル交換共有ソフトウェアを利用してアップロードし、同ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いたことが明らかであるから、請求原因(2)の事実を認めることができる。
(3)被告は、本件各発信者情報を保有しているものと認められるところ、上記(2)に認定した事実関係からすれば、本件各発信者情報は、いずれもプロバイダ責任制限法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるのであるから、被告は、本件各発信者情報に関し、同条項の「開示関係役務提供者」に該当する(請求原因事実(3)第2文)。
(4)以上に説示したところによれば、原告は本件利用者に対して著作権侵害を理由に損害賠償請求権等を行使し得るところ、本件利用者の氏名、住所等を覚知する手段が他にあることはうかがわれないのであるから、原告には、本件各発信者情報を有し、この情報に関しプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる被告(請求原因(3)、(4)に対し、その「開示を受けるべき正当な理由」がある(請求原因(5))ということができる。
2 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 安岡美香子
 裁判官 古川善敬


(別紙)発信者情報目録
 別紙動画目録記載のIPアドレスを同目録記載の投稿日時に使用して情報を送信していた者に関する情報であって、次に掲げるもの。
 @ 氏名又は名称
 A 住所
 B 電子メールアドレス

(別紙動画目録省略)

(別紙)著作物目録
作品名:グラビアアイドル究極進化!1年で開発された神BODY!大痙攣イキまくり乱交解禁スペシャル!A
発売日:平成29(2017)年9月1日
メーカー:MOODYZ(ムーディーズ)
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