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【事件名】仕入価格分析ソフトとデータベースの翻案権侵害事件(2)
【年月日】平成29年6月28日
 知財高裁 平成28年(ネ)第10110号 不正競争行為等差止請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成27年(ワ)第24340号)
 (口頭弁論終結日 平成29年3月15日)

判決
控訴人(1審原告) 株式会社ジヤコス
訴訟代理人弁護士 師子角允彬
訴訟復代理人弁護士 鈴木彩葉
被控訴人(1審被告) 株式会社ロウィンズ
訴訟代理人弁護士 杉本憲昭


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほか、原判決に従い、原判決で付された略称に「原告」とあるのを「控訴人」に、「被告」とあるのを「被控訴人」と、適宜読み替える。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙事業目録記載の事業を営んではならない。
3 被控訴人は、原判決別紙営業秘密目録記載の情報を利用して、小売業者に対し、仕入効率の良否を判定するための情報が記載された文書を配布してはならない。
4 被控訴人は、原判決別紙営業秘密目録記載の情報の全部又は一部を記載した書面、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
5 被控訴人は、原判決別紙ソースコード1及び2のソフトウェアを使用してはならない。
6 被控訴人は、原判決別紙ソースコード1及び2のソフトウェアが収納されたCD−ROM、MO、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
7 被控訴人は、原判決別紙データベース目録記載のデータベースを使用してはならない。
8 被控訴人は、原判決別紙データベース目録記載のデータベースを収納したCD−ROM、MO、ハードディスク等の記憶媒体を廃棄せよ。
9 訴訟費用は、第1審、第2審とも、被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、(1) 被控訴人との間で、被控訴人が原判決別紙事業目録記載の事業(以下「本件事業」という。)を行わない旨の競業禁止の合意(以下「本件競業禁止合意」という。)をしたにもかかわらず、被控訴人が本件事業を行うのは、本件競業禁止合意に違反すると主張して、当該合意に基づき、被控訴人が本件事業を行うことの差止めを、(2) 控訴人が有する原判決別紙営業秘密目録記載の情報(以下「本件情報」という。)は営業秘密に該当するところ、被控訴人は控訴人から示された本件情報を不正の利益を得る目的で使用しており、被控訴人において本件情報を使用する行為が不正競争防止法2条1項7号に該当すると主張して、同法3条1項及び2項に基づき、本件情報を利用して小売業者に対し仕入効率の良否を判定するための情報が記載された文書を配布することの差止めを求めるとともに、本件情報が記載された書面及び記憶媒体の廃棄を、(3) 控訴人は、原判決別紙ソースコード1及び2(以下「本件ソフトウェア」という。)並びに原判決別紙データベース目録記載のデータベース(以下「本件データベース」という。)の著作権を有すると主張し、また、被控訴人との間で、被控訴人が控訴人の本件事業の拡大のために本件ソフトウェア及び本件データベースを利用する旨の合意(以下「本件利用合意」という。)をしたにもかかわらず、被控訴人が本件ソフトウェア及び本件データベースを無断で改変し自らの事業のためにこれらを使用する行為は、控訴人の著作権(翻案権)を侵害するとともに、本件利用合意にも違反すると主張して、著作権法112条1項及び2項並びに本件利用合意に基づき、本件ソフトウェア及び本件データベースの使用の差止めを求めるとともに、本件ソフトウェア及び本件データベースが収納された記憶媒体の廃棄を、それぞれ求める事案である。
2 原審は、本件情報及び本件データベースの各内容が特定されていないため、これらの情報に関する請求は特定を欠くものであって、上記(2)に係る全ての請求及び上記(3)に係る各請求のうち本件データベースに係る請求は不適法であるとして、これらをいずれも却下するとともに、本件競業禁止合意及び本件利用合意が成立したものと認めることができず、また、控訴人は、被控訴人が本件ソフトウェアを翻案したことを具体的に主張立証するものではないから、上記(1)に係る請求及び上記(3)に係る各請求のうち本件ソフトウェアに係る請求をいずれも棄却した。
 控訴人は、これを不服として控訴した。
3 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、後記第3の2において当審における控訴人の主張を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1から3まで(原判決2頁24行目から15頁7行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求のうち、原判決別紙却下請求目録記載の各請求に係る部分は、いずれも請求の特定を欠くため不適法であり、その余の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正し、後記2において当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1から5まで(原判決15頁9行目から24頁10行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決16頁18行目の「出資した。」の次に「この際に、控訴人及び被控訴人は、本件競業禁止合意及び本件利用合意に関する契約書その他書面を一切作成しなかった。」を加える。
(2) 同18頁16行目から19頁9行目までを次のとおり改める。
 「しかし、前記認定事実によれば、本件競業禁止合意及び本件利用合意が成立したことを裏付ける契約書その他の客観的証拠はなく、かえって、控訴人の主張を唯一裏付けるAの陳述書(甲12〔10頁〕)によっても、Aは、Bが被控訴人を設立するに当たり、「当社と競業して当社の顧客を簒奪しないことは暗黙裏の前提として当然の共通認識になっていたと思っています。」と陳述するにとどまり、当時のBについても「出資してください。ジヤコスに損はさせません。」又は「ジヤコスの発展に寄与します。」と言っていたと陳述するにすぎないことが認められる。
 上記認定事実によれば、上記各合意を裏付ける客観的証拠がない上、Aの上記陳述によっても、上記各合意を認めるに足りないというべきであり、仮に上記各合意が締結されていたとしても、控訴人は被控訴人が顧客を簒奪した事実を具体的に主張立証するものではないから、控訴人の主張は、その前提を欠くものである。
 したがって、控訴人の主張は、採用することができない。」
(3) 同21頁14行目の末尾に次のとおり加える。
 「しかも、本件ソフトウェアと被控訴人ソフトウェアを比較すると、モジュールの名前及び数が全く異なる上、モジュール内で使用されている変数、関数、サブルーチンの名前もほとんど異なるのであるから、被控訴人ソフトウェアを作成した者が、控訴人に過去派遣されていたベトナム人のプログラマーであったという事情を考慮しても、被控訴人ソフトウェアは、少なくとも被控訴人が独自に作成したものであって、被控訴人は、本件ソフトウェアに依拠せずに、被控訴人ソフトウェアを作成したものと認められる。
 したがって、被控訴人ソフトウェアの作成は、本件ソフトウェアに依拠したものと認められず、本件ソフトウェアの著作権を侵害するものとはいえない。」
2 当審における控訴人の主張に対する判断
 控訴人は、当審においても、本件情報及び本件データベースは特定されている上、本件競業禁止合意及び本件利用合意並びに本件ソフトウェアに係る著作権侵害がいずれも認められるにもかかわらず、これらを否定した原審の判断には誤りがあるなどと繰り返し主張する。
 しかしながら、控訴人は、当審に至っても、本件情報及び本件データベースにつき具体的な特定をすることなく、かえって、これを書面で明確に特定することは不可能を強いる措置であるなどと主張しており、また、本件競業禁止合意及び本件利用合意についても、被控訴人代表者であるBの人物像等をいうにとどまり、これを裏付ける新たな証拠を提出するものではない。さらに、控訴人は、本件ソフトウェアの著作権侵害についても、原審において、被控訴人ソフトウェアのソースコード(乙7)が証拠として現に提出されたにもかかわらず、当審に至っても、これと本件ソフトウェアを比較対照するなどの具体的な主張を一切行っていない。かえって、当審においては、被控訴人が上記ソースコードの電子データを提出せず、控訴人の比較対照の作業を妨害していると主張して、当該妨害行為から本件ソフトウェアと被控訴人ソフトウェアは本質的特徴を共通にすることが推認されるなどと主張する。
 上記の事情に鑑みると、前記引用に係る原判決が説示するとおり、控訴人の主張は、具体的な裏付けを欠くもの又は憶測の域を出ないというべきである。そのほかに控訴人の当審における主張を改めて十分検討しても、原審における主張を裏付けなく繰り返すものにすぎず、前記判断を左右するに至らない。控訴人の上記主張は、採用することができない。
第4 結論
 以上によれば、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 中島基至
 裁判官 岡田慎吾
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