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【事件名】ビッグローブへの発信者情報開示請求事件B
【年月日】平成29年6月22日
 東京地裁 平成28年(ワ)第35208号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 平成29年5月16日)

判決
原告 有限会社プレステージ
同訴訟代理人弁護士 提箸欣也
同 渡邉俊太郎
同 野口耕治
同 藤沢浩一
同 成豪哲
同 小椋優
同 鶴谷秀哲
被告 ビッグローブ株式会社
同訴訟代理人弁護士 平出晋一
同 橋利昌
同 太田絢子


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、映画の著作物につき著作権を有する原告が、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている被告に対し、被告の提供するインターネット接続サービスを経由して上記映画を何者かが動画共有サイトにアップロードした行為により原告の公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害されたと主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。
2 請求原因(原告の主張)
(1) 原告は「素人AV体験撮影493」と題する映像作品(以下「本件動画」という。)の製作に発意と責任を有し、原告の従業員は原告に対してその製作に参加することを約束した上で本件動画を製作した。
(2) IPアドレス(インターネットプロトコルアドレス)「●(省略)●」(以下「本件IPアドレス」という。)の割当てを受けてインターネットに接続した何者か(以下「本件利用者」という。)は、本件動画を複製して動画ファイルを作成し、これを別紙動画目録記載の「投稿日時」欄記載の日時に、「投稿先URL」欄記載の動画共有サイトにアップロードして、利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いた。
(3) 被告は、上記日時において、本件利用者に対し、本件IPアドレスを割り当ててインターネット接続サービスを提供していた。したがって、被告はプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。
(4) 被告は、本件利用者についての住所、氏名及び電子メールアドレスの情報(別紙発信者情報目録記載の情報。以下「本件発信者情報」という。)を保有している。
(5) 原告は、本件利用者に対し、本件動画について有する公衆送信権の侵害に基づく損害賠償等の請求を行う必要があるが、本件利用者の氏名、住所等が不明であるため、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
3 請求原因に対する認否(被告の主張)
 請求原因(1)及び(2)は不知、(3)及び(4)は認め、(5)は不知。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因について
(1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、@原告の従業員が原告の指揮監督の下、原告に著作権が帰属するとの認識で監督として職務上本件動画を製作したこと(甲12)、A本件動画の出演者等を原告が手配したこと(甲13、19〜24)、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告が本件動画の製作を企画すると共に製作に係る負担を負ったことが明らかであるから、原告が本件動画の製作に発意と責任を有していると認めることができる。また、職務上動画を製作する者は製作に当たって所属先に対して製作に参加することを約束するのが通常であり、上記従業員の上記認識に照らしても、上記従業員は原告に対して製作に参加することを約束して本件動画を製作したということができる。したがって、請求原因(1)の事実が認められる。
 次に、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、@何者かが別紙動画目録記載の「投稿日時」欄記載の日時に、「投稿先URL」欄記載の動画共有サイトに長さ46分47秒の動画をアップロードしたこと(甲3、27)、A上記日時に上記動画をアップロードするために使用されたIPアドレスが本件IPアドレスであること、B上記動画が本件動画と長さ及び内容において同一であること(甲3、11、16、27)、以上の事実が認められる。そうすると、本件利用者が別紙動画目録記載の「投稿日時」欄記載の日時に本件IPアドレスを利用して本件動画を複製した動画をアップロードしたことが明らかであるから、請求原因(2)の事実が認められる。
 以上の事実関係によれば、別紙動画目録の「投稿日時」欄記載の日時に本件IPアドレスを用いてインターネットに接続していた本件利用者は、原告が著作権を有する本件動画を複製した動画を多数の者に対して送信可能な状態にしていたものであるところ、本件において著作権法30条以下に定める著作権の制限事由が存在することはうかがわれないから、本件利用者が原告の本件動画に係る公衆送信権(同法23条1項)を侵害したことが明らかである。
(2) 以上に説示したところによれば原告は本件利用者に対して著作権侵害を理由に損害賠償請求権等を行使し得るところ、本件利用者の氏名、住所等を覚知する手段が他にあるとうかがわれないから、本件発信者情報を有し、この情報に関しプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる被告(請求原因((3)及び(4)。当事者間に争いがない。)に対し、その開示を受けるべき正当な理由がある(請求原因(5))ということができる。
2 結論
 よって、原告の請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 萩原孝基
 裁判官 大下良仁


(別紙)発信者情報目録
 別紙動画目録記載の投稿日時頃に、同目録記載のIPアドレスを使用してインターネットに接続していた者の次の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
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