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【事件名】大阪市ピクトグラム事件
【年月日】平成27年9月24日
 大阪地裁 平成25年(ワ)第1074号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成27年7月14日)

判決
原告 株式会社仮説創造研究所
同訴訟代理人弁護士 辻村和彦
被告 大阪市
同訴訟代理人弁護士 阿多博文
同 森末尚孝
被告 財団法人大阪市都市工学情報センター
同訴訟代理人弁護士 小林敬
同 上田智子


主文
1 被告大阪市は、原告に対し、22万6500円及びこれに対する平成25年2月14日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 原告の被告大阪市に対するその余の請求及び被告財団法人大阪市都市工学情報センターに対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、原告と被告大阪市との間に生じた費用はこれを50分し、その49を原告の、その余を被告大阪市の各負担とし、原告と被告財団法人大阪都市工学情報センターとの間に生じた費用は原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告財団法人大阪都市工学情報センター及び被告大阪市は、大阪市内の案内表示に用いている別紙1及び2著作物目録記載のピクトグラムを抹消・消除せよ。
2 被告財団法人大阪都市工学情報センター及び被告大阪市は、原告に対し、連帯して、@344万円及びこれに対する平成25年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員、A142万円及びこれに対する平成26年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員、並びにB平成26年4月1日から前項の抹消・消除済みまで月8万3333円の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告に対し、連帯して、698万2500円及びこれに対する平成25年2月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告大阪市は、原告に対し、40万5000円及びこれに対する平成25年2月14日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 被告大阪市は、別紙4記載の案内図(ただし「現在地」の表示はこれに限らない。)を複製してはならない。
6 被告大阪市は、大阪市内の案内表示に用いている前項の案内図を抹消・消除せよ。
7 被告大阪市は、原告に対し、75万2500円及びこれに対する平成26年4月11日から支払済みまで年5分の割合による金員並びに平成26年4月1日から前項の抹消・消除済みまで月3万7625円の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、別紙1及び2のピクトグラム(以下「本件ピクトグラム」という。)及び別紙5の地図デザイン(以下「本件地図デザイン」という。)の著作権者であると主張する原告が、各被告に対し、次のとおりの請求をしている事案である。
(1) 請求の趣旨1項
ア @被告財団法人大阪市都市工学情報センター(以下「被告都市センター」という。)については、本件ピクトグラムについての使用許諾契約及び本件地図デザインに本件ピクトグラムを配した大阪市観光案内図(以下「本件案内図」といい、「本件ピクトグラム」と「本件案内図」とをあわせて「本件ピクトグラム等」という。)についての使用許諾契約の各期間満了による原状回復義務として、A被告大阪市については、被告都市センターから許諾を受けた者である以上同様の原状回復義務を負うとして民法613条を類推して、被告らに対し、各使用許諾期間内に作成した大阪市内の案内表示に用いている本件ピクトグラムの撤去・抹消請求。
イ 被告らに対し、被告大阪市が前記アの各使用許諾期間満了後に新たな本件ピクトグラムを複製したとして、著作権法112条1項に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除請求。
(2) 請求の趣旨2項
 被告らに対し、上記(1)アの各使用許諾期間内に作成した案内表示に用いている本件ピクトグラムについての原状回復義務違反、及び上記(1)イの各使用許諾期間満了後の本件ピクトグラムの著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として、以下の金員の支払請求。
ア 本件ピクトグラムに関し、使用許諾期間満了の平成22年3月31日から平成26年3月31日までの4年分の使用料相当損害金400万円、及びうち258万円に対する不法行為日後の訴状送達の日の翌日から、うち142万円に対する訴えの変更申立書送達の日の翌日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金。
イ 本件ピクトグラムに関し、平成26年4月1日以後の使用料相当損害金として月額8万3333円。
ウ 本件ピクトグラムを配した本件案内図に関し、使用期間満了後の平成22年8月31日から撤去終了日である平成24年7月31日までの使用料相当損害金として86万円及びこれに対する不法行為日後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金。
(3) 請求の趣旨3項
 公益社団法人大阪観光コンベンション協会(以下「コンベンション協会」という。)が無断で本件ピクトグラムの複製使用及び公衆送信を行った不法行為につき、被告大阪市は本件ピクトグラムを使用するように指示し、被告都市センターは本件ピクトグラムのデータをコンベンション協会に送信して教唆又は幇助したと主張し、共同不法行為に基づく損害賠償請求として、698万2500円の損害賠償及びこれに対する不法行為日後である訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払請求。
(4) 請求の趣旨4項
 被告大阪市に対し、被告大阪市が原告に依頼した本件ピクトグラムの一部の修正につき、原告の営業の範囲内の行為を行ったものであるとして、商法512条に基づく相当額40万5000円の報酬及びこれに対する催告の日である訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払請求。
(5) 請求の趣旨5項ないし7項
被告大阪市が、遅くとも平成24年8月1日以降、本件地図デザインを用いた別紙4の案内図(以下「別紙4案内図」という。)を複製又は翻案して使用し、原告の本件地図デザインにかかる複製権又は翻案権を侵害しているとして、@本件地図デザインを用いた別紙4案内図を複製することの差止め(請求の趣旨5項)、A同案内図の抹消・消除(請求の趣旨6項)、B(ア)同日から平成26年3月31日までの使用料相当額として75万2500円の損害賠償及びこれに対する不法行為日後である訴えの変更申立書送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金並びに(イ)同年4月1日から前記案内図が抹消・消除されるまでの使用料相当損害金として月額3万7625円の支払請求。
(6) なお、被告らに対する本件訴状の送達日は、いずれも平成25年2月13日であり、平成26年4月19日付け訴えの変更申立書の送達日はいずれも平成26年4月10日である。
2 前提事実
 以下の各事実は当事者間に争いがないか、掲記の各証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 当事者
ア 原告は、ビジュアル・アイデンティティ(Visual Identity、企業や商品のイメージを統一して、字体、色及びマークなどの視覚的なものによって、そのイメージを統一し、もって、企業や商品に対する認知度や好感度を高め、他企業との差別化を図るもの。以下「VI」という。)等の制作等を主たる目的とする株式会社である。原告の取締役であるP1は、国内外のデザインコンテストで受賞歴がある等の経歴を有するアートディレクター・デザイナーであり、本件ピクトグラムの制作者である(甲9、12)。
 被告都市センターは、平成3年1月、大阪市における計画的なまちづくりの推進のため、各種計画情報、並びに都市工学情報の整備と提供を行うとともに、民間活力を導入した総合的な都市整備に資する業務を行い、都市工学に関する技術交流の進展を図り、もって、魅力と活力にあふれるまちづくりの推進に寄与することを目的として設立された財団法人である。被告都市センターは、平成25年4月1日に解散し、清算手続を行っている。(丙3)
 コンベンション協会は、平成15年4月、大阪の魅力を国内外に強くアピールし、ビジターやコンベンションの誘致を促進するためオール大阪での観光・コンベンション振興を図る目的で設立された公益財団法人である。
イ 株式会社板倉デザイン研究所(以下「板倉デザイン研究所」という。)は、昭和63年8月30日に設立された広告及びデザイン制作等を目的とする株式会社であり、P1が代表取締役を務めていた。P1がデザインしたVIの著作権はP1から板倉デザイン研究所に譲渡され、その上で板倉デザイン研究所がVIデザインの使用許諾契約を行っていた。(甲13、67、弁論の全趣旨)
(2) 被告都市センターと板倉デザイン研究所との間の業務委託契約
 被告都市センターは、平成11年11月2日、板倉デザイン研究所に対し、被告都市センターにおいてローカルピクトグラム使用契約のためのプレゼンテーション資料として使用することを予定した、ローカルピクトグラム企画書の作成業務を業務委託料270万円(消費税込み)で委託した(甲14)。
 P1は、上記業務委託を受けて企画書を作成し、被告都市センターに国際集客都市大阪におけるローカルピクトグラム作成のコンセプトを提案した(甲15)。
 P1は、本件ピクトグラムの対象となった19施設及びユニバーサル・スタジオ・ジャパンを加えた20施設について、「大阪市ローカルピクトグラム基本デザイン」を作成し、これを被告都市センターに提案した(甲16)。
(3) 被告都市センターと板倉デザイン研究所との間のローカルピクトグラム使用契約
ア 被告都市センターは、平成12年3月31日、大阪市各局の設置する案内表示等に、P1がデザインしたローカルピクトグラムを使用することを目的として、板倉デザイン研究所との間で、ローカルピクトグラム使用契約を締結した(甲17、丙5、以下「本件使用許諾契約1」という。)。
 本件使用許諾契約1の対象は、前記(2)の「大阪市ローカルピクトグラム基本デザイン」からユニバーサル・スタジオ・ジャパンを除いた19施設のピクトグラム(本件ピクトグラム)であり、その形状や色彩等は、別紙1及び2の著作物目録記載のとおりである。
イ 本件使用許諾契約1には以下の条項が定められている。
 被告都市センター(以下甲)と板倉デザイン研究所(以下乙)とは、大阪市ローカルピクトグラム使用協定書による大阪市ローカルピクトグラム(以下本件ローカルピクトグラム)の使用許諾に関し、次の通り使用契約を締結する。
 第2条(対象物)
 大阪市案内表示ガイドラインに従って実施される大阪市各局の案内表示ならびにそれらを補足する地図等の媒体(別表の項目a)
 別表 ローカルピクトグラムの適用事例項目
 a 1 案内サイン、誘導サイン、案内地図
   2 バナー、フラッグ等の装飾物
   3 集客印刷物(ポスター、パンフレット、チラシ、DM等)の案内図
 第3条(使用の制限)
  本件ローカルピクトグラムの対象となる集客施設は本件ローカルピクトグラムを一般のサービスマークやシンボルマークとして使用することはできない(別表の項目b)。
  ただし甲乙協議して合意できる使用についてはこの限りではない。
  別表 ローカルピクトグラムの適用事例項目
 b 1 ビジネスフォーム(名詞、便せん、封筒、紙袋類等)
   2 パッケージ(キャリーバック、包装紙、ステッカー。および商品用パッケージ類等)
   3 商品(記念品、贈答品、販売用商品類等)
 4 媒体使用の制作物(ホームページ、屋外広告看板、新聞雑誌、CM等の広告類)
 第5条(乙への発注)(改定前)
  甲は、本件ローカルピクトグラムを使用する対象物のデザイン及びその製作を乙に依頼するものとする。
 2 前項に基づく本件ローカルピクトグラムを利用する対象物のデザイン料、製作料等取り引き条件については、別途協議して取り決めるものとする。
 3 ただし、甲乙協議により乙が認める対象物については乙への発注を除外することができる。
 (甲第18号証で改定)
  新たなローカルピクトグラムの追加については、乙に依頼することを前提に、協議によるものとする。
 第6条(第三者への使用許諾)
  甲及び乙は本契約の有効期間中、甲が大阪市経済局と締結するローカルピクトグラム使用協定書に定義される第三者の広告宣伝物等への使用を許諾しないものとする。
 第7条(有効期間)
  本契約の有効期間は、平成12年3月31日から1年間とする。但し、期間満了の1ヶ月前までに甲乙いずれからも何らの申出のないときは、更に1年間延長されるものとし以後も同様とする。本件ローカルピクトグラムの使用権の有効期間を10年とし、その間ローカルピクトグラムの効果的な普及に努める。その後の継続については公的なローカルピクトグラムの性格から評価して、施設管理者の承認のもとで使用権を開放することを検討する。
 第8条(対価)
  以上の条件で10年間の使用権および次の製作項目とその納品に対して甲は成果品の納品後1月以内に契約額6、982、500円(税込み)を支払う。ただし、10年を経過して後の使用権の追加支払いは生じないものとする。
(4) 被告都市センターと板倉デザイン研究所との間の大阪市観光案内図使用契約
ア 被告都市センターは、平成12年8月31日、被告大阪市が設置する観光案内表示板等に、P1のデザインした本件ピクトグラムを配した大阪市観光案内図を使用することを目的として、板倉デザイン研究所との間で、大阪市観光案内図使用契約を締結した(甲18、丙6。ただし、甲18の別紙は、原本である丙6には添付されていない。以下この契約を「本件使用許諾契約2」といい、本件使用許諾契約1と併せて「本件各使用許諾契約」という。)。
イ 本件使用許諾契約2には、次の条項がある。
 被告都市センター(以下甲)と板倉デザイン研究所(以下乙)とは、大阪市観光案内図の使用の許諾に関し、次の通り使用契約を締結する。
 第2条(対象)
  本件大阪市観光案内図は、大阪市が設置する観光案内表示板のほか大阪市各局ならびにローカルピクトグラム使用契約を結んでいる施設管理者が設置する案内表示板に使用することができる。
 第3条(使用の制限)
  本件大阪市観光案内図の印刷物並びに電子媒体への使用はできないものとする。
  ただし、甲乙協議して合意できる場合についてはこの限りではない。
 第6条(有効期間)
  本契約の有効期間は、平成12年8月31日から1年間とする。但し、期間満了の1か月前までに甲乙いずれからも何らの申出のないときは、更に1年間延長されるものとし以後も同様とする。大阪市観光案内図の使用権の有効期間を10年とし、その間大阪市観光案内図の効果的な普及に努める。その後の継続については公的な性格から評価して、使用権を開放することを検討する。
 第8条(対価)
  以上の条件で10年間の使用権および次の成果品に対して甲は成果品の納品後1か月以内に契約額451万5000円(税込み)を支払う。ただし、10年を経過して後の使用権の追加支払いは生じないものとする。
(5) 被告大阪市への使用許諾
 被告都市センターは、本件使用許諾契約1における本件ピクトグラムの使用権に基づいて、被告大阪市に対し、大阪市各局の案内表示への本件ピクトグラムの使用を許諾し、また、本件使用許諾契約2における本件案内図の使用権に基づいて大阪市各局の設置する案内表示板への本件案内図の使用を許諾した。
(6) 板倉デザイン研究所の原告への統合
 原告は、平成19年6月1日、板倉デザイン研究所の行っていた事業を原告内に統合し、「株式会社仮説創造研究所・ブランディング事業部」を立ち上げ、P1は、原告において取締役・クリエイティブディレクターに就任し、「株式会社仮説創造研究所・ブランディング事業部」として活動するようになった。板倉デザイン研究所は、同年9月10日解散し、P1が清算人として登記され、同年11月13日清算結了した。(甲13、19、66)
(7) 被告大阪市及びコンベンション協会の行為
ア 被告大阪市は、合計341か所の案内板で平成22年3月31日以降も本件ピクトグラムを使用し、そのうち23か所で、同年8月31日以降も本件案内図を使用してきた(甲21、乙21、22)。
 他方で、被告大阪市は、従前から別紙4案内図又はその基となった案内図(乙45のNo.302)を使用してきた。
イ コンベンション協会は、別紙3の「大阪街歩きガイド」と題する冊子(以下「本件冊子」という。)を発行してこれを不特定人に対して無償譲渡し、平成22年4月2日以降、同冊子の電子データ(PDFファイル)をホームページに掲載して閲覧及びダウンロード可能な状況においた。本件冊子中の地図及び路線図中には、本件ピクトグラム(フェスティバルゲートのピクトグラム及び別紙2の著作権目録記載のピクトグラムを除く。)の四角枠と文字を除いた絵の部分が配されている。コンベンション協会は、遅くとも、平成23年7月27日から平成24年3月までの間に、上記PDFファイルを削除した。(甲30ないし33、弁論の全趣旨)
(8) 平成23年5月以降の経緯
ア 被告都市センターは、平成23年5月頃、P1に対し、本件各使用許諾契約にかかる使用権の期間満了について問い合わせ、これを契機に、被告都市センター、被告大阪市及び原告は、約1年にわたり、本件ピクトグラム及び本件案内図の著作権の権利処理につき協議を行った(甲22の1)。
イ 被告大阪市は、当初、使用許諾の再契約をする方向で検討し、これを前提に、平成23年10月頃には、原告が本件ピクトグラムの修正を行うなどした。しかしながら、平成24年4月の協議において、被告大阪市は、本件ピクトグラムの著作権を譲り受ける方針に変更したため、相当額の協議を行うことになり、原告において本件ピクトグラム1施設につき100万円の提示がされるなどしたが、結局、原告との間で譲渡額の合意に至らなかった(甲22の1)。
 被告大阪市は、同年5月17日頃、原告に対し、本件ピクトグラム及び本件案内図の使用を中止し撤去する旨の申し出をし、同年6月15日付け書面において、同月18日から同年7月末までに撤去・抹消を完了する予定である旨通知し、平成24年6月頃から同年7月頃にかけて、それらを順次撤去・抹消するなどした(甲21、25)。
 被告大阪市は、原告に対し、シール剥離による本件ピクトグラムの露出の可能性を無くすため、ラッカー等で着色してシールを貼付する作業を、同年11月末までに終了する予定である旨通知した(甲28)。
第3 争点
1 本件各使用許諾契約の有効期間内に作成された本件ピクトグラム等の原状回復義務違反について
(1) 被告らは、本件各使用許諾契約における有効期間の満了により、有効期間内に作成した本件ピクトグラム等についての原状回復義務を負うか(争点1−1)
(2) 原告は、被告らに対し、板倉デザイン研究所から本件各使用許諾契約の許諾者たる地位を承継したとして、同契約上の権利を主張し得るか(争点1−2)
2 本件各使用許諾契約の有効期間満了後に作成された本件ピクトグラムの複製権侵害について
(1) 本件ピクトグラムの著作物性(争点2−1)
(2) 被告大阪市による有効期間満了後に作成された本件ピクトグラムの使用による著作権侵害の有無(争点2−2)
(3) 原告は、本件ピクトグラムの著作権を取得したとして、その著作権を被告らに対して主張し得るか(争点2−3)
3 1の原状回復義務及び2の著作権に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除の必要性(使用継続のおそれ)(争点3)
4 1の原状回復義務違反及び2の著作権侵害の不法行為による原告の損害額(争点4)
5 被告らは、本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載による、本件ピクトグラムの複製権及び公衆送信権侵害の不法行為責任を負うか
(1) 本件ピクトグラムの著作物性(争点5−1)
(2) 本件冊子において本件ピクトグラムが「複製」されているか(争点5−2)
(3) 本件冊子における本件ピクトグラムの掲載が「引用」に当たるか(争点5−3)
(4) 本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載は、本件使用許諾契約1により許諾されたものか(争点5−4)
(5) 被告らは共同不法行為責任を負うか(争点5−5)
(6) 原告は、本件ピクトグラムの著作権を取得したとして、その著作権を被告らに対して主張し得るか(争点5−6)
(7) 損害額(争点5−7)
6 被告大阪市は、原告による本件ピクトグラムの一部修正について報酬支払義務を負うか
(1) 被告大阪市の商法512条に基づく報酬支払義務の有無(争点6−1)
(2) 相当報酬額(争点6−2)
7 被告大阪市は、別紙4案内図を作成することにより、本件地図デザインについての複製権又は翻案権の侵害として不法行為責任を負うか
(1) 本件地図デザインの著作物性(争点7−1)
(2) 別紙4案内図は、本件地図デザインの複製又は翻案か(争点7−2)
(3) 原告は、本件地図デザインの著作権を取得したとして、その著作権を被告大阪市に対して主張し得るか(争点7−3)
(4) 損害額(争点7−4)
第4 争点についての当事者の主張
1 争点1−1(被告らは、本件各使用許諾契約における有効期間の満了により、有効期間内に作成した本件ピクトグラム等についての原状回復義務を負うか)について
(原告の主張)
(1) 本件各使用許諾契約に基づく使用権について
 被告都市センターの、本件使用許諾契約1に基づく本件ピクトグラムの使用権は平成22年3月31日の経過をもって、本件使用許諾契約2に基づく本件案内図の使用権は同年8月31日の経過をもって、有効期間満了により消滅した。
(2) 有効期間満了後の被告らの義務
ア 被告都市センターについて
(ア) 本件各使用許諾契約において許諾されたのは、あくまで「使用権」である。使用権という文言は著作権法上規定されているものではないが、本件ピクトグラム等の使用には必然的に複製を伴うため、著作権に基づいて「使用権」を許諾すること自体は何ら不合理ではない。「使用」という言葉の通常の語義に照らせば、本件ピクトグラム等の「使用」には、単に複製にとどまらず、案内板等に複製された本件ピクトグラム等の展示を継続すること等をも含むことは明らかである。契約当事者の意思としても「使用権の有効期間を10年」と定めた以上は、10年を経過した後には使用権が消滅するのであって、その後は単に本件ピクトグラム等を新たに複製できなくなるだけではなく、既に複製された本件ピクトグラム等の展示を継続する態様での使用もできなくなると理解するのが通常であり、本件各使用許諾契約は、10年に限り案内板等で本件ピクトグラム等を展示する態様での使用ができるという条件で「複製」を許諾したものである。
 したがって、本件各使用許諾契約において10年経過後の措置に関する規定がないとしても、10年の経過後には被告都市センターが本件ピクトグラムを抹消・消除すべきことは本件各使用許諾契約から導かれる当然の義務である。
(イ) 10年経過後の継続及び使用権の開放については、あくまで検討すると定められているに過ぎず、確定的に約されている訳ではない。また、10年経過後の「使用権」の追加支払いが生じないことを定めているのも、10年経過後の状況を踏まえて、その後「使用権」を認めた場合の追加支払いが生じないことを定めているに過ぎず、許諾がない場合の取扱いを定めたものではない。そうでなければ10年の有効期間を明定した意味がない。
イ 被告大阪市について
 被告大阪市は、被告都市センターの有する上記使用権に基づいて、本件ピクトグラム等を使用していたものであるから、民法613条の準用、同条の趣旨を類推して、原状回復義務として本件ピクトグラム等を撤去・抹消すべき義務を負う。
 なお、被告大阪市は、原告との間で有効期間経過後の段階では本件ピクトグラム等の使用を継続することができないことを前提に協議を繰り返し、最終的に使用を中止し順次撤去する旨原告に伝えるなど、有効期間経過したことを前提に、本件ピクトグラム等を撤去する義務を負うことを認識した上で、同義務を原告に対して履行する旨約したものである。
(被告らの主張)
(1) 本件各使用許諾契約に基づく使用権は消滅していないこと
 本件ピクトグラム等に関し、被告らの使用権は消滅していない。
 本件ピクトグラムに係る本件使用許諾契約1には、10年経過後も「その後の継続については公的なローカルピクトグラムの性格から評価して・・・使用権を開放することを検討する」(第7条)と規定されるとともに、対価につき「10年を経過して後の使用権の追加支払いは生じないものとする」(第8条)と規定されており、10年経過後の使用権の存在を前提とする規定が存在する。本件案内図に係る本件使用許諾契約2においても同様の規定があり(第6条、第8条)、10年経過後の使用権の存在を前提とし、10年経過後は契約当事者間において無償で本件ピクトグラムを開放させることを前提とする協議がされており、10年後に使用権が完全に消滅しその撤去義務が生じるとか、使用権の対価が発生するなどの事態は全く想定されていなかった。
 このことは、本件各使用許諾契約において、有効期間が定められながら、抹消や撤去に関する条項がないことや、被告都市センターから問い合わせをするまで、原告側から有効期間を相当期間過ぎても抹消等に関し何らの要請もなかったこと等からも明らかである。
(2) 有効期間満了後の被告らの義務について
 仮に、使用権が消滅したとしても、被告らに撤去・抹消義務はない。
ア 被告都市センターについて
 本件ピクトグラムを使用した案内表示は、破損等の特別の事情がない限り通常は老朽化するまで撤去されることはなく、少なくとも10年程度での撤去は考えられず、設置数からしても容易に撤去できるものではなく、撤去には相当の費用と時間がかかることは容易に想定できる。本件ピクトグラム等の使用権が10年経過後に消滅するのであれば、使用許諾契約において撤去義務を明記し、費用負担、撤去期間、撤去義務不履行時の罰則等が当然に規定されているはずである。本件各使用許諾契約には、本件ピクトグラムや本件案内図の普及に努めるなどの規定がされていることからすれば、普及させた本件ピクトグラム及びこれを使用した本件案内図を、10年後には抹消・消去することを合意したという解釈は、あまりにも不自然かつ不合理であるし、契約の経緯を無視している。
 仮に、本件各使用許諾契約の文言を原告の主張どおり10年経過後に使用権が消滅すると解釈する余地があるとしても、10年間で本件ピクトグラム等の普及が義務づけられていることからすれば、既に案内板等に複製された本件ピクトグラム等の展示を継続するといった態様での使用もできなくなる、とまで解釈すべきではなく、「新たな複製」は禁止するという趣旨にすぎないと解すべきである。
 よって、10年経過後も、本件各使用許諾契約に基づく使用権は消滅しておらず、抹消・消除する義務はない。
イ 被告大阪市の義務について
 本件各使用許諾契約には、原状回復についての規定はなく、本件は転貸の事案でないから、民法613条を根拠として被告大阪市が原状回復義務を負うものではない。被告大阪市が板倉デザイン研究所及び原告に対し、原状回復義務を負っていることを認めた事実も存在しない。
 また、利用のために占有の移転を要し、目的物を使用収益させることを本質とする有体物の賃貸借契約と、占有の移転がなく重畳的な利用が可能であり、権利者の権利不行使という不作為義務をも本質とする無体物(情報)の著作権の利用許諾契約の場合を同視すること自体妥当ではなく、様々な内容の契約がされる著作物の利用許諾契約は、典型契約の1つである賃貸借とは契約の基本的性格が異なるものである。無体物(情報)は、修繕や保存行為の必要がなく、滅失、損耗せず、返還も要しないので、賃貸借契約における目的物の修繕、保存、改良、滅失、損耗、返還を前提とする諸規律は著作物の利用許諾契約には適用ないし類推適用することは許されない。
2 争点1−2(原告は、被告らに対し、板倉デザイン研究所から本件各使用許諾契約の許諾者たる地位を承継したとして、同契約上の権利を主張し得るか)について
(原告の主張)
(1) 著作権譲渡と契約上の地位の移転
 原告は、平成19年6月1日、板倉デザイン研究所の行っていた事業を統合した際、本件ピクトグラム等を含むP1が板倉デザイン研究所において手がけたVIデザイン等の著作権全てを、包括的に譲り受ける旨の合意をした(特定承継)。原告は、被告都市センターを含む板倉デザイン研究所の取引先に対し、連絡文及び別途著作権譲渡に関するお知らせ文書を送付した。
 原告と板倉デザイン研究所は、原告が顧客の事業全体のコンセプト策定とブランディングを主たる業務とし、必要なVIデザイン等について板倉デザイン研究所に依頼するという関係にあった。板倉デザイン研究所は、専ら顧客から依頼を受けたデザイン業務を営み、大手百貨店からの広告デザインに関連する売上げが全体の7、8割を占めており、什器備品以外は、P1の弟子の従業員デザイナー4名が主たる資産であった。原告は、上記取引先や従業員を引き受けておらず、単に、P1が板倉デザイン研究所を解散・清算することを前提に原告に移籍し、従前の顧客から問合せがあった場合にアフターケアを行うための窓口となるという趣旨で、著作権を譲り受けたにすぎないもので、事業譲渡といった実体を有するものではない。
(2) 対抗関係について
 被告らは、原告が著作権を承継していたとしても、被許諾者との間で対抗関係にある旨主張する。
 しかし、そもそも著作権の利用に関する被許諾者は、許諾者に対して、著作物の利用を阻害されないという債権的権利を有しているにすぎないから、著作権の譲受人にはかかる債権的権利を対抗することはできないのであって、譲受人と被許諾者とが対抗関係に立つものではない。被許諾者は、譲受人からの差止請求又は損害賠償請求に原則として応じなければならない地位にあるものである。とすれば、譲受人が、従前同様の許諾条件を引き継いで、利用許諾契約上の許諾者の地位を承継しようとした場合には、これを承諾するのが被許諾者の通常の意思といえる。
 したがって、特段の事情がない限りは、著作権譲渡に伴い、譲受人に利用許諾契約上の許諾者の地位が承継されるといえ、本件においても、原告が本件ピクトグラムの著作権を譲り受けた際、被告らは本件使用許諾契約1に基づく使用権を有する地位にあり、原告もこれを変動させる意思はもっていなかったのであるから、著作権譲渡に伴い原告が本件使用許諾契約1の許諾者たる地位を承継したものである。被告らも、遅くとも平成23年5月16日以降の協議において、原告が本件ピクトグラムの著作権を譲り受けたことを知ったが、これを積極的に争わず、むしろ、それを前提に利用再許諾又は著作権譲渡の交渉を行っており、その対応からして、これを承諾していたものといってよい。
(被告らの主張)
(1) 著作権の譲渡
 原告が主張する著作権の譲渡及び承継は、いずれも立証がない。
 板倉デザイン研究所を解散・清算して原告に統合するにあたり、原告が著作権の一切を包括的に譲り受けることは、事業の全部譲渡・譲受に該当するもので、会社法467条1項1号及び3号により板倉デザイン研究所及び原告双方で株主総会の特別決議による承認を受けなければならないもので、何らの契約書も作成しないということはあり得ない。会計処理や税務処理上の記録を提出することもなく、何ら具体的な立証を行わない以上、原告の主張は認められない。仮に、板倉デザイン研究所から原告への譲渡が事実であったとしても、株主総会の特別決議による承認がされていないのであれば、無効である。
(2) 契約上の地位の移転について
 仮に、原告が本件ピクトグラムの著作権を承継したとしても、被許諾者とは対抗関係にあるところ、原告は、著作権の承継について登録を経由しておらず、対抗できない。
 被告大阪市は、著作権譲渡を認めていたわけではなく、移転されていることについて証明を求めるなどしている。原告との協議の際、原告側の言い分を尊重しつつ誠意をもって対応していたため、被告大阪市の側から著作権譲渡を積極的に否定しなかったものである。
3 争点2−1(本件ピクトグラムの著作物性)について
(原告の主張)
(1) ありふれた表現ではないこと
 本件ピクトグラムは、本質的には美的鑑賞の対象となり得る絵・デザイン画であり、著作物である。
 実在する施設を絵・デザイン画に落とし込む場合の表現方法は多種多様であり、グラフィックデザインのデザイン技法で描く場合であってもこの点に変わりはない。本件ピクトグラムについていえば、当該施設をどの角度から捉えて表現するか、どの部分を表現上切り捨て、あるいは強調して表現するか、各箇所にどのように配色するかなどの点において、多様な表現方法の選択可能性が存し、これらの点において、創作者の個性が発揮されている以上、本件ピクトグラムは著作物としての創作性を備えている。
 以下のとおり、本件ピクトグラムと各施設の写真を対比すれば、創作者は、少なくとも以下のアからテに記載した点において(さらにはその組合せにおいて)多様な表現方法が存在する中から、独自の表現方法を選択・採用しており、創作者の個性が発揮されているといえる。
 なお、被告らが実際に使用していたのが、別紙1の青白2色版であることに鑑み、以下では、同青白2色版について主張するが、別紙2多色版と別紙1の青白2色版とは、表現方法を異にする別の著作物であり、その創作性のポイントが異なり得ることは当然である。
ア 大阪城
@  数ある角度の中から写真Bの角度を採用して、その外観形状を表現していること
A 大阪城の上下3段に連なる薄緑色の三角形の屋根部分に囲まれた白色の壁部分のみが白抜きされ、その余の屋根部分と壁部分を区別なく青色のシルエットにしてコントラストを作ることで、上記の三角形の屋根部分に囲まれた白色の壁部分の白抜きを強調して表現していること
B 大阪城の金鯱その他の装飾部分を省略して表現していること
C 石垣部分についても、過去の大阪城の石垣が巨大な岩石で構築されていたことに鑑み、現在の大阪城の石垣(写真@)に比して極めて大きく構成することで、石垣のスケールの大きさを強調して表現していること
(画像省略)
イ 海遊館
@ 数ある角度の中から写真@の角度を採用して、その外観形状を表現していること
A 上部左右の格子状部分の格子数を極端に減らして、格子のサイズを大きくし、全ての格子を白抜きすることで特徴的な格子状部分を強調するとともに、青色に塗りつぶされた面の組合せで構成された下部の安定感のあるイメージと、青色の線の組合せで構成された上部格子状部分の軽やかなイメージとを対比して強調して表現していること
B 海遊館の建物に施された海をイメージする装飾を一切省略して表現していること
(画像省略)
ウ WTCコスモタワー
@ 数ある角度の中から写真Bの左斜前からの角度を採用して、その外観形状を表現していること
A @の角度から見た場合、建物本体は上下方向で5ブロックに分かれ、最下部のブロックは斜面となって前方にせり出す立体的形状となっており、また、最上部のブロックは両端の部分がそぎ落とされたような上方視断面凸状の立体的形状となっているが、同ピクトグラムでは、かかる形状を省略することで、形状の均一性を強調するとともに、最下部から最上部に向かって連続する縦の白いラインを多数配することで高さ方向のスケール感を強調して表現していること
(画像省略)
エ ATC
@ 実際のATCを構成する構造物の多くを省略し、ITM棟(写真A)とO’s北棟とO’s南棟の間の部分(写真B)を取り上げ、本来は略直行している両部分(写真@)を同一の視点から近傍に並べて表現していること
A ITM棟について、下方左右側に伸びたガラス部分等の表現を省略するとともに、中央上下部2箇所の前方に突出したガラス部分のみを、大きな格子の形で白抜きし、強調して表現していること
B O’s北棟とO’s南棟の間の部分については、対面する2棟でハの字状の屋根を構成する構造物のみを、格子状ではなく単に白抜きすることで強調するとともに、ハの字の角度を鋭角にして屋根部分のボリュームを落とし、さらに間の連絡通路を簡素な線で示すことで、全体をすっきりと表現していること
(画像省略)
オ 大阪ドーム(現京セラドーム大阪、以下「大阪ドーム」という。)
@ 大阪ドームは、上部のドームを取り囲む波形の屋根部分の下の柱部分を中央に据えた場合には、同屋根部分の両端近傍に柱部分が存するが(写真@)、同ピクトグラムでは、同屋根部分の両端近傍の柱部分を省略して、表現していること
A ドーム部分の格子その他の装飾的要素を省略して、形状を青色に塗りつぶされた面の組合せで構成した後に、中央部の縦方向の長短2本の白いスリット線をもって、中央の柱部分を表現していること
B 上記のとおり、形状を青色に塗りつぶされた面の組合せで構成した
後に、上部のドームを取り囲む波形の屋根部分を、横方向の曲線を用いることなく、実際の屋根部分よりも比率の大きな縦の白いスリット線を複数配することで、強調して表現していること
(画像省略)
カ 通天閣
@ 塔全体の鉄骨構造のうち、脚部の鉄骨構造については線の組合せで構成しているのに対し、2階部分より上の塔本体の鉄骨構造については青色に塗りつぶされた3つの面の組合せで構成して表現していること
A 2階部分及び5階展望台部分も窓等を省略して青色に塗りつぶされた面の組合せで構成しており、脚部のみを線の組合せで構成し、鉄骨構造であることを強調して表現していること
(画像省略)
キ フェスティバルゲート
@ メインゲート(写真@)その他数ある構造物の中から、中庭に入った際に確認できる写真A奥上部の塔状の構造物を採用して、その外観形状を表現していること
A フェスティバルゲートの塔状の構造物の右下方には、左下方と対照な構造物は存在しないが、同ピクトグラムでは、塔状の構造物の右下方にも、左下方と対照な図柄を付加して表現していること
B ジェットコースター通路を極めて簡素化・抽象化し、左端中央部から右上方に伸びて、塔状の構造物の上部の白抜き部分を通過して湾曲し、下端中央部に向けて幅を広げながら伸びる曲線として構成することで、スピード感を表現していること
(画像省略)
ク 新梅田シティ
@ 数ある角度の中から写真@の右斜前からの角度を採用して、その外観形状を表現していること
A 幅方向に対する高さ方向の比率を、実際の梅田スカイビルよりもかなり大きく構成するとともに、一対のビル本体を、壁面の格子形状や装飾を省略して、高さ方向に伸びる2つの細長い青色の面とこれを分断する高さ方向に伸びる細長い白色のスリット線とで構成し、さらに、一対のビル本体の間の構造物をやはり細長い青色の線で構成することで、高さ方向にスマートに伸びる点を強調して、表現していること
(画像省略)
ケ 咲くやこの花館
@ 複雑なアシンメトリー構造の建物について、数ある角度の中から写真Aのコーナーからの角度を採用して、その外観形状をシンメトリーに表現していること
A 格子状部分の格子数を極端に減らして、格子のサイズを大きくして白抜きすることで、格子状部分を強調し、たくさんの自然光を取り込む植物園のイメージを表現していること
B 天井中央部分に青色の三角形の中央部が縦方向の白色スリット線で分断された装飾が配されるとともに、天井右上部分から突出した椰子の木の装飾が配されていること
(画像省略)
コ 大阪人権博物館
@ 実際の建物では、中央下部の入口及び入口左右両側の窓を囲う部分の地面に向かったコの字形状が前方にせり出す一方で、窓部分はくぼんでおり、凹凸のある構造となっているが、同ピクトグラムでは、これを直交する線と全ての内角が直角の面のみで構成することで、極めて平面的に表現していること
A 実際の建物の入口上の横方向の構造部分を、あえて白抜きして、その上部の窓口と連通して構成するとともに、実際の建物の入口上部から屋根近傍にまで伸びる2本の細長い構造部分を、あえて途中で分断することで、中央部分の平面的な幾何学模様を強調して表現していること
(画像省略)
サ OCAT
@ 数ある角度の中から写真@の右斜前からの角度を採用して、その外観形状を表現していること
A 建物本体については上部の曲線でその曲線構造を表現する一方、白抜きの柱の上端部分は横方向の直線で構成し、柱相互の間隔の違いのみならず、建物本体から突出した部分を青色にして、青色部分の長さの違いを強調することで、曲線的配置を表現していること
B 同ピクトグラムでは、上部に、実際の建物には存在しない飛行機のデザインの装飾が施されていること
(画像省略)
シ 大阪国際会議場
@ 数ある角度の中から写真Aの角度を採用して、その外観形状を表現していること
A 建物の壁面構造のうち、連続するます記号形状の装飾部分の間に存する格子状の装飾部分、上から3番目の格子状の装飾部分の左右辺の略中央部分から左右方向に突出した一の字形の装飾部分、及び建物壁面のタイル構造を省略して、青く塗りつぶした面で表現する一方で、連続するます記号形状の装飾部分及びそこから左右方向に突出した二の字形の装飾部分のみを取り上げ、これを白抜きして強調して表現していること
B 屋根上の構造物に外観上存在しない半円が白い線で描かれていること
(画像省略)
ス なにわの海の時空館
 実際のドームにおいて特徴的な表面の格子構造やフロート部分の構造を省略して、ドーム部分を青色に塗りつぶした半円形状に構成して、中央部に横方向の白色スリット線3本、下部に横方向の白色波線を配するとともに、外観上存在しない白抜きした帆船の装飾が施されていること
(画像省略)
セ 水道記念館
@ 左右方向に伸びる建物の構造を一切省略し、建物中央の入口部分のブロックのみを切り出して、強調して表現していること
A 中央部の透明な四角形状の入口及び窓の部分と、その上方の透明な半円形状の窓の部分を、青色に塗りつぶした四角形または半円形の面で構成することで、直ちに窓や入口であるとは判別できないように表現しており、また、上記の半円形の面から放射状に青色の面を構成することで、半円形の面と放射状の面が連続しているように表現していること
B 中央入口部分の下方に、外観上存在しない白抜きした2つの丸印の装飾が施されていること
(画像省略)
ソ 鶴見はなぽ〜とブロッサム
@ 数ある角度及び状態の中から写真Aの角度及び開閉部分が開いた状態を採用して、その外観形状を表現していること
A 建物の屋根より上の部分のみを取り上げて、その余の構造部分は一切省略し、屋根部分を丸みを帯びた曲線で構成する一方で、開閉部分をより直線的かつ鋭角に構成することで、花が開いた状態を表現していること
(画像省略)
タ 長居陸上競技場
@ 数ある角度の中から写真@の角度を採用して、その外観形状を表現していること
A 屋根部中央の突起状の構造物の左右の曲線状の構造物を、実際よりもかなり高く大きく構成することで、飛び立つ鳥の翼のイメージを表現していること
B 土台部分を青色の面で構成することで、安定感を表現するとともに、特徴的な太さのことなるコンクリート支柱を白抜きして強調して表現していること
(画像省略)
チ 水道科学館(大阪市下水道科学館)
@ 数ある角度の中から写真Aの角度を採用して、その外観形状を表現していること
A 実際の水道科学館では、正面上部に格子状のパネル構造部、パネル構造部の中央下部から高さ方向に伸びて屋根高さから突出する格子状の中央窓部、パネル構造部左側を地面から伸びて屋根高さから突出し格子状に窓の配された縦長構造物、パネル構造部右下の格子状の窓が4分の1円弧状に湾曲した円弧構造物が配されているが、同ピクトグラムでは、パネル構造部についてのみ、格子を実際よりも大きく構成して白抜きすることで格子状の形状を強調する一方、円弧構造物の格子状の窓は青色の面に横方向の白色の曲線を配するだけに省略することで湾曲形状を強調し、中央窓部及び縦長構造物の格子状の窓は青色の面に縦方向の直線を配するだけに省略することで高さ方向への伸び
を強調して表現していること
B 左下部分において、実際に存在する柱や他の構造物が省略され、実際には存しない大きな白抜きの丸印を大胆に配する装飾が施されていること
(画像省略)
ツ クラフトパーク
@ 数ある角度の中から写真@右斜前からの角度を採用して、その外観形状を表現していること
A 特徴的な円筒状のレンガ調の建物だけではなく、これに加えて別棟の左右隣の建物のみを切り取って、これらを近接させて一体のものとして表現するとともに、左右隣の建物を直線的かつ平面的に構成する
一方で、中央部の建物を曲線的に構成することで、中央部の建物の円筒形状を強調して表現していること
B  実際には右隣の建物は前後位置及び高さ位置をそれぞれ異にする2棟の建物であるが、同ピクトグラムでは、上部が連続した鳥居形状の特異な構造物として表現していること
(画像省略)
テ ラスパOSAKA
@ 実際のラスパOSAKAを構成する建物部分の多くを省略し、円筒形状の建物のみを取り上げて、外観形状を表現していること
A 円筒建物壁面の格子状の窓部について、実際の格子よりも大きな青色に塗りつぶした四角形を規則的に並べて縦方向の白色の直線的及び横方向の白色の曲線を構成することで、あたかもタイル張りの
質感の円筒形状を表現していること
B 円筒建物の下部の石塀部分を省略して、ほぼ上下方向にわたってタイル張りの質感の青色の四角形を配するとともに、実際の横長の入口についても、下部中央を縦長の四角形状に白抜きして構成することで、円筒建物全体をスリムな印象となるように表現していること
(画像省略)
(2) 本件ピクトグラムが情報伝達機能を果たすことについて
 本件ピクトグラムは、本来的に美的鑑賞の対象となり得る絵・デザインをピクトグラムという情報伝達用途に用いたものであり、本来的に情報伝達手段である文字・記号に何らかの特徴、装飾ないしデザインを施したものとは異なる。本件ピクトグラムが特定の施設を示すものであることにより、表現方法に一定の制約となることがあるとしても、その表現方法には多様な選択肢があり得るのであるから、ピクトグラムに著作物性を認めたとしても、およそ情報伝達手段の独占を認めることにはならない。被告らの主張する種々の弊害は、販売用の商品写真その他の表現物に著作物性を認めた場合にも程度の差こそあれ生じ得るものであるから、これをもってピクトグラム一般の著作物性を否定するのは相当でない。
(3) 被告らは、本件ピクトグラムが著作権を有することを前提としていたこと
 被告都市センターは、本件許諾契約1を締結し、本件ピクトグラムの10年間の使用料等の対価として698万2500円を支払い、被告大阪市も平成23年7月20日以降の原告との協議過程において、終始、本件ピクトグラムに著作物性があることを前提に著作権の権利処理を行うべく行動していたものである。本件ピクトグラムが、数多くの実績があるアートディレクター・デザイナーであるP1によって制作されたことも本件ピクトグラムの経済的価値を高めるとともに、その著作物性を基礎付ける理由ともなる。
(被告らの主張)
(1) 本件ピクトグラム等は、観光客等に対する情報伝達機能を発揮するという実用的目的を有するものであり、当該実用的目的に適うものとして、表現の幅は自ずから限定されているものである。本件ピクトグラム等は、ありふれた表現であり、創作性がなく、著作物として著作権法の保護対象となるものとはいえない。
(2) そもそも、ピクトグラムとは、絵文字、絵言葉のことであり、表現対象である事物や情報から視覚イメージを抽出、抽象化し、文字以外のシンプルな図記号によって表したものである。ピクトグラムは、言語能力や年齢差を超えて誰にも容易に表示内容(伝達する情報内容)が伝わることを目的とするもので、情報伝達という実用的な機能を果たすものであるから、文芸・学術・美術又は音楽の範囲には属さないものであり、また、専ら美の表現のみを目的とする純粋美術の作品ではないうえ、美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているものでもない。したがって、美術の著作物ではない。
 本件ピクトグラムの絵の部分については、施設そのものの外観形状を描くことから、その選択の幅は狭くならざるを得ないため、ありふれた表現で創作性がないもので、著作物として著作権法の保護対象とはならない。本件ピクトグラムに著作物性を認めて特定人に独占させることは情報伝達手段の独占を認めることになりかねず、著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与しようとする著作権法の目的に反することとなる。本件ピクトグラム(特に特定の施設を示すもの)は、その目的から、その形態には一定の制約を受けるものであるところ、これが一般的に著作物として保護されるとすると、わずかな差異を有する無数のピクトグラムについて著作権が成立し、権利関係が複雑となり混乱を招き、利用に支障を来すことが予想されるなど、相当でない。
4 争点2−2(被告大阪市による有効期間満了後に作成された本件ピクトグラムの使用による著作権侵害の有無)について
(原告の主張)
 被告大阪市は、本件使用許諾契約1の有効期間満了後に、新たに本件ピクトグラムを複製使用し、あるいは、本件使用許諾契約2の有効期間満了後に、新たに、本件案内図を複製使用しているものである。
(被告大阪市の主張)
 否認する。本件各使用許諾契約の有効期間経過後、本件ピクトグラム等を複製した上で使用したことはない。
5 争点2−3(原告は、本件ピクトグラムの著作権を取得したとして、その著作権を被告らに対して主張し得るか)について
(原告の主張)
 上記2(原告の主張)(1)のとおり。
(被告らの主張)
 上記2(被告らの主張)(1)のとおり。
6 争点3(原状回復義務及び著作権に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除請求の必要性)について
(原告の主張)
 被告大阪市は、被告都市センターからの使用許諾を受けて、ゆとりみどり振興局緑化推進部所管の案内表示83箇所、建設局所管の案内表示223箇所、及び港湾局所管の案内表示6箇所において本件ピクトグラムを複製して使用し、本件使用許諾契約1の有効期間満了後もその使用を継続した。
 被告大阪市は、シールを貼る方法で抹消したとしているが、シール下において本件ピクトグラムが判別可能な状態で残存し、容易にはがすことが可能な状態であり、実際その一部においては本件ピクトグラムが透けて見えたり、シールがはがれかかったりしている。また、黒色塗料で塗る方法についても、これを容易に削り取ることができるなど、いずれにしても、本件ピクトグラムの撤去・抹消というに十分な処置とはいえず、未だ使用を継続しているというべきである。実際にも、平成25年3月頃に至っても本件ピクトグラムが放置されている(甲52の1ないし3、甲53の1及び2)状況に照らせば、あたかも抹消作業を徹底しているかのような被告大阪市の主張はとうてい信用に足るものではない。
(被告らの主張)
 被告大阪市は、平成24年7月末までに、本件ピクトグラム及び本件大阪市観光案内図については、抹消・撤去を行った。抹消後に第三者によりシールがはがされたり、塗りつぶしが消されたりしている部分についても、同年11月以降繰り返し抹消作業等を行っており、本件ピクトグラムを継続使用している事実はない。
 原告が指摘する甲第52号証の海遊館のピクトグラムについては、シールを貼りさらに黒塗りを行ったが(乙18)、何者かによって黒塗りが剥がされたため、平成25年3月20日に最終的に差替えを行ったこと、甲第53号証については、原告からの指摘を受けて直ちに抹消作業を行い、同年8月30日にはこれを完了しており(乙20)、いずれも現状において大阪市が本件ピクトグラムの使用を放置していることはない。
7 争点4(原状回復義務違反及び著作権侵害の不法行為による原告の損害額)について
(原告の主張)
(1) 被告大阪市は、上記6のとおり、本件ピクトグラム等の使用を継続している状態である。また、本件使用許諾契約1の期間満了後も新たに本件ピクトグラムを複製使用し、あるいは、本件使用許諾契約2の期間満了後に新たに本件案内図を複製使用している。
(2) 本件ピクトグラムについての損害金
 本件ピクトグラムの10年間の相当な使用対価は1000万円を下ることはなく、平成22年3月31日から平成26年3月31日までの4年間、被告都市センター及び被告大阪市の本件ローカルピクトグラムの使用継続により、原告に生じた使用料相当の損害額は400万円(1000万円÷10年×4年=400万円)を下らない。
 また、被告都市センター及び被告大阪市は、本件ピクトグラムを抹消・消除しておらず、今後も使用を継続することが明らかであるから、同使用継続により、原告には月額8万3333円(1000万円÷10年÷12か月≒8万3333円)の損害が発生し続けることになる。
(被告らの主張)
(1) 原状回復義務違反及び新たな使用行為がないこと
 被告大阪市が、現状において本件ピクトグラムの使用を放置していることはないし、新たに本件ピクトグラム等を複製使用している事実はない。
(2) 原状回復義務に関する損害の不発生
 本件各使用許諾契約は、10年後には本件ピクトグラム等につき、施設利用者にその使用を自由にさせることを検討し、「10年を経過して後の使用権の追加支払いは生じないものとする。」と規定しているところ、10年経過後、当事者において使用権開放の検討もその後の開放の実行もされていない以上、本件ピクトグラムや本件案内図を別途の施設などが新たに使用することは許容されないが、当該契約に従って従前どおりの形態で使用する限り、原告に契約違反を問われる余地はなく、10年目以降において追加での使用料の支払義務も発生しない。
 したがって、原告に本件ピクトグラム等の使用権に係る支払請求権(損害賠償請求権)はそもそも存在しない。
(3) 原告が主張する損害額が過大であること
 また、原告の主張どおり有効期間後に使用権が消滅するとしても、平成22年4月1日以降の使用のみが原告の権利の侵害となり、被告大阪市は、本件ピクトグラムの撤去・抹消作業を遅くとも平成24年7月末までに行っており、使用期間は長く見積もっても28か月である。
8 争点5−1(本件ピクトグラムの著作物性)について
(原告の主張)
 前記3(原告の主張)のとおり。
(被告らの主張)
 前記3(被告らの主張)のとおり。
9 争点5−2(本件冊子において本件ピクトグラムが「複製」されているか)について
(原告の主張)
 本件冊子の作製により、本件ピクトグラムの内容及び形式を覚知されるものを再製したことは明らかであるから、複製に該当する。ピクトグラムは、本質的には、絵・デザイン画であって、情報伝達手段である文字のような特殊性を考慮する必要はなく、「複製」に該当するか否かの判断において、内容及び形式を覚知させるものを再生したか否かという要件とは別個に、鑑賞性を備えるか否かという要件を定立する必要はない。
(被告らの主張)
 著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再生することをいう。しかるところ、本件冊子に掲載されたピクトグラム(以下18施設分をまとめて「掲載ピクトグラム」という。)の絵の部分の大きさは、面積にすると、別紙1記載のピクトグラムの絵の部分の約35分の1であり、その利用態様は、地図中の施設の所在場所に本件ピクトグラムの絵の部分を表示しているというものである。このような掲載ピクトグラムの絵の大きさや態様からすれば、仮に本件ピクトグラムに著作物性が認められたとしても、掲載ピクトグラムは、著作物法が本来その保護の対象とする芸術性、美の創作性を複製したものではなく、如何なる施設であるかという情報を提供する単なる記号の意味合いに過ぎないもので、美術の著作物の複製が著作権法上の「複製」に該当するために必要な鑑賞性を備えず、本件ピクトグラムの創作的表現の内容及び形式を覚知するに足りるものではないから、複製にあたらない。
10 争点5−3(本件冊子における本件ピクトグラムの掲載が「引用」に当たるか)について
(被告らの主張)
 仮に、本件冊子の作製が著作権上の「複製」に該当するとしても、本件ピクトグラムは公表された著作物であり、本件冊子における本件ピクトグラムの絵の部分の利用は、著作権法32条の引用に該当するので、本件ピクトグラムの著作権を侵害しない。
 引用は、著作物の全ての利用形態でなされ得るところ、適法な引用の基準として、従来、明瞭区別性と主従関係を挙げる裁判例があり、本件冊子は、その一部である地図上に本件ピクトグラムの絵の部分を重ねて掲載しており、引用して利用する側である本件冊子と引用される本件ピクトグラムの絵の部分は明瞭に区別して認識できるうえ、両者の間に前者が主、後者が従の関係があり、適法な引用に該当する。また、本件冊子において、本件ピクトグラムは、どのような施設かという情報を視覚的に伝達し、その対象である施設を特定するためのものとして掲載されているものであるところ、本件ピクトグラムはまさにその目的のために制作されたもので、利用の必要性・有用性が認められる。本件冊子における掲載が、本件ピクトグラムの価値を高め、著作権者等の権利の保護を図ることにもつながるものであることなどを併せ考慮すると、本件冊子に本件ピクトグラムの複製を利用することは、著作権法の規定する引用の目的に含まれるといえる。本件冊子の作製に際して、本件ピクトグラムを複製し、地図に掲載することは、その方法ないし態様としてみても、社会通念上、合理的な範囲にとどまるものということができる。以上の方法ないし態様であれば、本件ピクトグラムの著作権者が本件ピクトグラムの複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われるということも考えがたいのであり、これらを総合考慮すれば、コンベンション協会が本件冊子の作製に際して本件ピクトグラムの複製を掲載したことは、著作物を引用して地図を作成する方法ないし態様において求められる公正な慣行に合致したものであるということができ、かつ、その引用の目的上でも、正当な範囲内のものであるということができるというべきで、著作権32条1項の規定する引用として許されるものである。
(原告の主張)
 本件冊子においては、本件ピクトグラムが地図及び路線図上に特段の区別が施されることもなく一体的に表示されており、引用する本件冊子と明確に区別されているとは到底言えない。また、本件ピクトグラムの本件冊子への使用にはそもそも報道、批評、研究等引用の目的自体が存在しない。
 したがって、本件ピクトグラムの本件冊子への使用が著作権法32条所定の「引用」として正当化されることはない。
11 争点5−4(本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載は、本件使用許諾契約1により許諾されたものか)について
(原告の主張)
 本件使用許諾契約1は、被告都市センターの管理の下、被告大阪市が本件ピクトグラムを案内表示等に用いることを予定したものであって、コンベンション協会が本件ピクトグラムの一部を複製使用した本件冊子を多数作製してこれを頒布し、あるいは同冊子の電子データをホームページに掲載するなどはおよそ想定されていない。コンベンション協会が、本件ピクトグラムのデータを使用して本件冊子を印刷し、不特定人に対して無償譲渡していたものである以上、被告大阪市が複製の主体に該当するかどうかは別としても、コンベンション協会が複製の主体に該当する。
(被告らの主張)
(1) 本件使用許諾契約1による使用権
 本件冊子の頒布及びホームページへの掲載は、本件使用許諾契約1による使用権に含まれる。
(2) 被告都市センターの主張
ア 本件冊子は、本件使用許諾契約1の第2条に定められた「大阪市各局の案内表示ならびにそれらを補足する地図等の媒体(別表の項目a)」の「3 集客印刷物(・・・パンフレット等・・・)」に含まれており、本件使用許諾契約1により認められた使用態様である。
 本件冊子は、コンベンション協会が製作に関与しているが、被告大阪市との共同名義で発行したもので、コンベンション協会が被告大阪市から受託し、平成20年までは経費の全額、平成21年以降は経費の95%を被告大阪市が支出している。したがって、本件冊子における本件ピクトグラムの使用は、本件使用許諾契約1により認められたものである。
イ コンベンション協会はそのホームページ上に本件冊子のPDFファイルを一定期間掲載したことを認めているが、ホームページへ本件冊子をPDF化してダウンロード可能な状態にしたことは「冊子の配布」として、本件使用許諾契約1による使用許諾の範囲内であり、原告の権利を害するものではない。本件使用許諾契約1第3条の使用制限の対象物として引用された別表の項目bには「4 媒体使用の製作物(ホームページ・・・等)」との記載がされているが、同条は、「本件ローカルピクトグラムの対象となる集客施設」が当該集客施設のサービスマークやシンボルマークとして使用することに対して使用制限をかけたものであり、その趣旨の媒体使用の制作物(ホームページ)を意味するもので、本件冊子は、同条の使用制限のかかる対象物ではない。
12 争点5−5(被告らは共同不法行為責任を負うか)について
(原告の主張)
 コンベンション協会は、原告に無断で、本件ピクトグラムを複製使用した本件冊子を発行して頒布し、また、遅くとも平成22年4月2日以降、同冊子の電子データをホームページに掲載して閲覧可能な状況においており、これは原告の複製権、公衆送信権を侵害したものである。
 被告大阪市は、本件冊子を作成するにあたり、コンベンション協会に対して、本件ピクトグラムを使用するように指示し、コンベンション協会の侵害行為を教唆又は幇助した。また、被告都市センターは、本件冊子を作成するにあたり、コンベンション協会に対して、本件ピクトグラムのデータを送信し、コンベンション協会の侵害行為を幇助した。したがって、被告らは、コンベンション協会と連帯して、損害賠償義務を負担する。
 本件冊子は、被告大阪市及びコンベンション協会の共同名義で発行されており、コンベンション協会にとっては被告大阪市からの受託事業(後に分担事業)であった。従来、被告大阪市は本件ピクトグラムを大阪市観光案内に使用していた一方、コンベンション協会にはかかる使用実績はなかったのであるから、コンベンション協会が被告大阪市とは無関係に自らの意思で、本件冊子に本件ピクトグラムを掲載したなどとは到底考えがたく、被告大阪市の指示(少なくとも何らかの意思的関与)があったことは明らかである。また、本件ピクトグラムのデータ管理は、被告都市センターにおいて行われていたのであるから、被告都市センター、被告大阪市及びコンベンション協会の関係性に照らせば、本件冊子に掲載された本件ピクトグラムのデータが被告都市センターから提供されたものといえ、被告都市センターも共同不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
(1) 被告大阪市の主張
 被告大阪市が、コンベンション協会に対して本件ピクトグラムを使用するように指示した事実はない。
(2) 被告都市センターの主張
ア 被告都市センターが保管する本件ピクトグラム関連資料には、コンベンション協会に対し、本件ピクトグラムの電子データを提供した形跡はないことから(実際に記録提供をした際にはその許可関係の記録がある。)、提供の事実はない。
 仮に、提供の事実があったとしても、そもそも本件冊子の製作及び増刷は、被告大阪市が主体となって、本件使用許諾契約1に記載された有効期間内になされているため、原告の権利の侵害となる余地はないし、被告大阪市の指示に従ってそのデータを提供することは、当然のことである。コンベンション協会によると、本件冊子のホームページ掲載開始は平成22年4月2日のようであるが、被告都市センターは、ホームページ掲載については全く関知しておらず、何らの関与もしていない。仮にホームページへの掲載が本件使用許諾契約1に反すると解する余地があるとしても、被告都市センターには当該違反につき何らの故意も過失もなく、責任を負う義務はない。
イ 複製の主体の判断にあたっては、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であり(最高裁平成23年1月20日判決・平成21年(受)第788号参照)、本件では、当初、コンベンション協会は被告大阪市の受託業者として本件ピクトグラムを使用するように指示され、本件冊子を不特定人に対して無償譲渡したものである。形の上では、被告大阪市とコンベンション協会との分担事業になったが、実体は受託事業と変わらないものであり、複製主体は被告大阪市であり、仮に著作権侵害行為が成立するとしても、その責を負うのは被告大阪市である。
13 争点5−6(原告は、本件ピクトグラムの著作権を取得したとして、その著作権を被告らに対して主張し得るか)について
(原告の主張)
 前記5(原告の主張)記載のとおり。
(被告らの主張)
 前記5(被告らの主張)記載のとおり。
14 争点5−7(損害額)について
(原告の主張)
 被告ら及びコンベンション協会による本件ピクトグラムの複製使用及び公衆送信により、原告は、本件ピクトグラムの「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」の損害を被っている(著作権法114条3項)。
 コンベンション協会が本件ピクトグラムを使用するためには、その使用態様は異なるものの、少なくとも本件使用許諾契約1に定められた使用対価である698万2500円を支払う必要があったことは明らかであり、原告には同額の損害が生じている。
(被告らの主張)
(1) 損害の不発生
 そもそも、本件各使用許諾契約には、10年経過後の使用権の消滅が明示されていないばかりか、本件ピクトグラムの開放を検討することが予定され、使用権の追加支払は生じないとしており、期間経過後も13か月原告から協議の申入れもなく放置されていたと予想される状況にあったことからして、10年経過後の使用の損害金が発生する余地はないというべきである。
(2) 損害額
 本件使用許諾契約1の8条に定められた対価は、別紙1だけではなく、別紙2も対象としたうえで、使用権の対価だけでなく、第9条に定める「ローカルピクトグラム(19施設)のデザインデータ」の制作項目とその納品に対するものである旨が定められ、10年後の使用権の追加支払は生じない旨規定されているものであり、利用態様と関係なく、また、期間も10年以上の使用も含めての上で対価が定められているものである。さらに「第三者に使用許諾しない」とする第6条の規定からすれば、使用権は独占的なものであるといえ、本件使用許諾契約1に定められた対価を負担すべき基準とすることは合理的根拠がない。
 また、本件使用許諾契約1の第6条には第三者に使用許諾しないことが規定されており、少なくとも本件使用許諾契約1の有効期間中、原告は利用許諾権原を有していないのであるから、著作権法114条3項の前提を欠き、有効期間中の損害賠償請求について同条項を適用する余地はない。
 以下の点を考慮すると、いずれにしても、原告の請求にかかる使用料相当額の損害額は過大である。
@ 本件ピクトグラムについては、大阪市及びその関連団体(外郭団体)その他の公共機関が公共目的で使用する以外に営利目的利用の需要があるとは考えられないこと
A 使用許諾契約1自体10年経過後パブリックドメイン化し、対価の回収を考えていなかったこと
B 本件冊子の発行、無償譲渡、公衆送信における掲載ピクトグラムの利用につきコンベンション協会は対価を得ていないこと
C 本件冊子で掲載ピクトグラムの使用は、裏表紙を含めて56頁のうち、頁数で8頁、ピクトグラムの数で累計26個に過ぎないこと
D 本件冊子は、イベント「水都大阪2009」開催にあわせて平成21年3月に15万部印刷し、平成22年3月に8万部増刷したが、それ以降は増刷しておらず、遅くとも平成23年7月27日から平成24年3月までの間に削除したこと
E 掲載ピクトグラムは、情報伝達する実用的機能を果たすもので、大きさも約35分の1程度であること(別紙1の絵と比較して)
F 本件ピクトグラムが普及することはP1や原告の意向に沿うものであり、評価を高めるものであること
(3) 過失相殺等
 仮に被告大阪市の原告に対する損害賠償責任が認められるとしても本件使用許諾契約1の第7条において「その後の継続については公的なローカルピクトグラムの性格から評価して、…使用権を開放することを検討する」と規定されていること、第8条において「10年を経過して後の使用権の追加支払いは生じないものとする」と規定され、本件使用許諾契約2においても同様の規定があること、及び本件に関する従前の被告大阪市と原告との間の交渉経過等に鑑み、相当額の過失相殺がなされるべきである。
 また、平成26年5月26日の第11回弁論準備手続期日において、相被告であったコンベンション協会が原告に対し金70万円の解決金を支払うこと等を内容とする和解が成立し、同額が支払われていることから、仮に、被告大阪市の原告に対する損害賠償責任が認められるとしても、金70万円が控除されなければならない。
15 争点6−1(被告大阪市の商法512条に基づく報酬支払義務の有無)について
(原告の主張)
(1) 被告大阪市は、平成23年10月7日、原告に対し、本件ピクトグラムについて、以下の修正依頼を行い、原告はこれを承諾して、修正後のデータを被告大阪市に納めた。
ア 本件ピクトグラムの修正の「WTCコスモタワー」「WTC Cosmo Tower」との表記を、「コスモタワー(大阪府咲州庁舎)」「Cosmo Tower(Osaka Prefectural Government Sakishima Building)」との表記に変更する。
イ 「鶴見はなぽ〜とブロッサム」「Tsurumi Hanaport Blossam」との表記を「三井アウトレットパーク大阪鶴見」「MITSUI OUTLET  PARK OSAKA TSURUMI」との表記に変更する。
ウ OCATの飛行機図柄を削除する。
(2) 商人たる原告が、今後も本件ピクトグラムの使用を予定していた被告大阪市からの依頼を受け、本件ピクトグラムの修正という営業の範囲内の行為を行ったのであるから、商法512条に基づき、被告大阪市に対して相当額の報酬を請求することができる。
(被告大阪市の主張)
 原告の主張(1)アないしウの依頼を行ったことは認めるが、軽微な修正につき、無償で依頼し、原告代表者から可能であるとの返答を得た。被告大阪市職員が送付したメールには、有償である旨の記載はなく、P1から被告大阪市職員宛に送信されたメールにおいても、「無償での業務」とされていることからも裏付けられる。
16 争点6−2(相当報酬額)について
(原告の主張)
(1) 前記15(1)ウの飛行機図柄削除の相当対価は、34万5000円を下るものではない。
 「JAGDA制作料金算定基準」の「バリエーション料 バリエーションにおける作業量は、原則としてa作業料が80%、b作業料は100%、付加価値料は質的指数を0.5〜0.8にして算出した金額を参考にして決めます。」との記載、または「リ・サイズ料 リ・サイズにおける作業料は、a作業料が70%、b作業料は100%、付加価値料は、質的指数を0.5〜0.8にして算出した金額を参考にして決めます。」との記載(甲50の12頁)がある。この記載によれば、ピクトグラムのリ・サイズについては、デザイン1点あたりのa作業料が3万5000円〜4万円、b作業料が3万円、Y指数が1.5〜2.4、Z指数が5ということとなり、これをX=aY+b+aYZ(+C)の算式に当てはめると、対価額は34万5000円〜60万6000円(ただしC:支出経費を含まない。)となる。
 したがって、飛行機図柄削除にかかる相当対価は、34万5000円を下るものではない。
(2) 前記15(1)ア及びイの文字の修正についても、各施設に関してb作業料として各3万円を要するから、その相当対価は6万円を下るものではない。
(3) よって、原告は、被告大阪市に対して、商法512条に基づき、合計40万5000円の報酬請求権を有している。
(被告大阪市の主張)
 仮に原告に商法512条に基づく報酬請求権が発生囲するとしても、このような軽微な変更だけの修正作業に40万5000円という額は相当ではない。
17 争点7−1(本件地図デザインの著作物性)について
(原告の主張)
(1) 本件地図デザインの創作者
 本件案内図(甲61)は、その全体がP1のデザインにかかるものであり、本件案内図から本件ピクトグラムを除いた地図部分(別紙5、本件地図デザイン)もP1のデザインである。P1は、本件ピクトグラムと本件地図デザインとを別々に創作した上で、本件地図デザイン上に本件ピクトグラムを配して本件案内図を完成させた。P1は、本件地図デザインを当時の市販されていた地図や各種ガイドブックに掲載されていた大阪市の全域図に依拠し、一種のデザイン画として作成した。
(2) 本件地図デザインの著作物性
 本件地図デザインは、大阪市の地形を簡略にデザインしたものであるが、全体形状をどのように描くか、どの程度まで抽象化して描くか、表現する内容をどのように取捨選択するか等の点について、多数の選択肢が存在するから、本件地図デザインに創作者であるP1の何らかの個性が表れていることは明らかであり、本件地図デザインは著作物に該当する。
 大阪市の市境の複雑な曲線を、一定程度の写実性は残しつつも、シンプルな直線の組合せで構成することで、西側の人工島の直線的な構成との統一感を表現するとともに、大阪市の入り組んだ川の流れを、やはり一定程度の写実性は残しつつも、シンプルな直線とシンプルな曲線の組合せで構成するとともに、一部は川の流れの記載自体を省略して簡略化することで全体をすっきりと表現している点に、その創作的特徴部分がある。そして、かかる表現手法は、@淀川流域のシンプルなライン、A平野川及び平野川
分水路流域のシンプルなライン及び省略化、並びにB咲洲の形状の修正等の具体的表現に結実しており、このような点において、本件地図デザインには創作者であるP1の個性が十分に発揮され、創作性すなわち著作物性を認めることができる。
(被告大阪市の主張)
 別紙5の本件地図デザインは、著作物には該当しない。本件地図デザインは、大阪市市域の境界部分、川、都市公園、鉄道路線等の形をデフォルメし、路線や駅の名称、都市公園の名称等をそのまま記載したものに過ぎず、色についても、川や湾のように水に関係するものには水色、都市公園のような緑を連想させるものには緑色、路線図には大阪市交通局がその路線図において配色している色をそのまま採用したものに過ぎない。このように、記載すべき情報の取捨選択及びその表示方法に関して、地図作製者の個性、学識、経験、現地調査の程度等が反映されたものではなく、およそ創作性が認められるものではない。
 裁判例においても、地図の本質的特徴をなしている個所について、デフォルメ等を施し創造性を表した地図については、著作物性を肯定し、そうでないものについては、創造性を否定している。これを本件地図デザインでみると、地図の目的は観光案内であることから、原告が主張する大阪市の市境を西側の人工島の直線的な構成との統一感を表現したり、大阪市の入り組んだ川の流れを簡略化したりすることは、地図の目的からしておよそ本質的特徴をなしている個所ではなく、既存の地図を基にさしたる変更を加えず、客観的に表現したものに過ぎない。
 よって、本件地図デザインには著作物性は認められない。
18 争点7−2(別紙4案内図は、本件地図デザインの複製又は翻案か)について
(原告の主張)
(1) 被告大阪市は、遅くとも平成24年8月1日以降、本件案内図に代えて、新たに別紙4案内図(ただし「現在地」の表示はこれに含まれない。)を複製して大阪市内の案内表示に使用している。
 別紙4案内図は、その全体形状からみて、本件地図デザインに修正を施す方法で作成されたことが明らかであるが、その修正も極めて微細なものにとどまっているため、本件地図デザインと一致ないし酷似している。
 板倉デザイン研究所が平成11年11月に被告都市センターとローカルピクトグラム企画書作成業務についての業務委託契約書を正式に締結する前の段階から、P1は、既に平成9年には、被告都市センターとの間で打合せを繰り返す中で、被告都市センターより、ローカルピクトグラム及びそれを配した大阪市地域案内図のデザイン開発の打診を受けており、同年10月22日には、板倉デザイン研究所としてその開発等にかかる見積書を作成した。また、P1は、同年12月16日には、大阪城のローカルピクトグラムのデザインデータを被告都市センターに渡し、その後も制作途上のローカルピクトグラムや大阪市地域案内図のデザインデータを被告都市センターに渡すなどし、最終的に本件使用許諾契約2に至ったものである。
 別紙4案内図は、本件地図デザインと完全には一致していないが、本件地図デザインと別紙4案内図は酷似しており、別紙4案内図が本件地図デザインに依拠して複製又は翻案されたものであることは明らかである。
(2) 本件地図デザインと別紙4案内図との一致点
ア 咲洲の形状(別紙6@)
 別紙4案内図作成に参考にしたという乙第27号証の地図(以下「公社地図」という。)及び乙第41号証の地図(以下「大阪市全図」という。)では、咲洲の北側の海岸線が平らな直線になっているのに対し、本件地図デザイン及び別紙4案内図においては、同箇所がいずれもM字状の曲線で表現されている点で一致しており、咲洲の全体形状においても一致している。また、咲洲は、南西の海上に位置する最も大きい島として描かれており、目を引く部分である。
イ 淀川の形状(別紙6A)
 公社地図及び大阪市全図では、淀川の複雑な形状であるのに対し、本件地図デザインは一定程度の写実性は残しつつも平滑かつシンプルな曲線の組合せで構成し、全体をすっきりと表現しており、この点が創作的特徴部分である。別紙4案内図においても、平滑かつシンプルな曲線のカーブの形状及び川幅等の点で、本件地図デザインと一致している。本件地図デザインと被告案内図の北東部から西側までを貫く大きな部分として描かれている特徴的な部分である淀川の形状は、全体の形状としても合致している。
ウ 第二寝屋川から南方向に記載された2本の河川の形状(別紙6B)
 公社地図及び大阪市全図では第二寝屋川から南方向に記載された2本の河川の形状が複雑な曲線で記載されているのに対し、本件地図デザインでは、一定程度の写実性は残しつつも、シンプルな直線と曲線の組合せで構成するとともに、一部は川の流れの記載自体を省略して簡略化することで全体をすっきりと表現しており、この点が創作的特徴部分である。別紙4案内図においても、シンプルな直線と曲線の組合せ方、カーブの形状、川幅及び川の流れの記載の省略の仕方等の点で、中央右寄りの箇所に比較的大きな面積にわたって描かれている特徴的な部分において本件地図デザインとことごとく合致している。
エ その他にも本件地図デザインと別紙4案内図とは、木津川の形状や尼崎市海岸の形状など、多々合致する点が存する。また、例えば、大阪市の市境等についても、別紙4案内図は、直線の組合せの細部の構成に若干の相違はあるものの、大阪市の市境の複雑な曲線を、一定程度の写実性は残しつつも、シンプルな直線の組合せで構成するという点においては、本件地図デザインの創作的特徴部分を備えている。
オ 以上のとおり、本件地図デザインと別紙4案内図とは、細部においては相違点があるものの、本件地図デザインの創作的特徴部分に関連しない箇所であるか、別紙4案内図において公社地図及び大阪市全図に微修正を加えたに過ぎない創作性のない箇所で、かつ地図全体に占める面積割合やその他の記載との関係で看取しにくい箇所に関するものである。
 一方で、本件地図デザインと別紙4案内図とは、上記のとおり、一致点が多々存し、しかも、公社地図及び大阪市全図に記載もない本件地図デザインの創作的特徴部分にかかる箇所であり、かつ地図全体に占める面積割合も大きく描かれていて看取されやすい特徴的部分にかかるものである。
 以上からすれば、別紙4案内図は、本件地図デザインの表現上の本質的特徴部分を直接感得させるものであるから、本件地図デザインを複製又は翻案したものというべきである。そして、作成経緯や両者の一致点に照らせば、別紙4案内図が本件地図デザインに依拠して作成されたものであることは明白である。
(被告大阪市の主張)
(1) 別紙4案内図の元となる地図データ(以下「被告地図データ」という。)の作成者
 被告地図データは、株式会社ジェネシス(以下「ジェネシス」という。)が、平成10年に大阪市道路公社から入手した地図(公社地図、乙27)をベースとし、同地図を観光案内用の地図としてある程度簡略化するのに大阪市全図(乙41)も参考にして作成したものである。
(2) 被告地図データ作成の経緯等
ア ジェネシスは、平成9年度から10年度にかけて、被告都市センターから国際集客都市大阪推進本部案内表示部会における資料作成の業務を受託(乙25)し、案内表示のあり方に関する調査報告書(乙26)や観光案内表示マニュアル(乙30)の作成にも携わっていた。被告大阪市においては、このマニュアルに基づいて案内表示システムを整備していくこととなり、ジェネシスは、被告都市センターより「観光案内表示板整備に伴う掲載施設情報整備と製作施工管理支援業務」(乙32)を受託した。この業務には、案内図の基本データの標準化・誘導サインの調整作業、観光案内情報の整理作業、製作原稿の作成から、製作仕様書の作成や製作支援や工事監理支援を含むものであった。
 ジェネシスは、平成10年2月28日に、平成9年度調査報告書及びその後作成する予定であった観光案内表示マニュアルの作成資料とするため、訴外大阪市道路公社の施設部調査課より、本件地図の元データとなる大阪市域の地図データ(公社地図)の提供を受けている。公社地図のデータを観光案内図用に簡略化するなどの修正を加えて被告地図データを作成し、その上にP1から受領した本件ピクトグラムを配し、別紙4の元データを作成した。
 その後、被告都市センターは、平成11年度の観光案内板整備事業として、平成12年2月9日付けで、株式会社コトブキとの間で、「観光案内表示板製作設置工事」契約(乙33)を締結し、観光案内図の実際の設置を始めた。
イ 観光案内板設置工事は、平成12年度以降順次行われ、全てジェネシスより提供された被告地図データがベースとして用いられている。
 別紙4の観光案内や平成23年度整備工事において設置された大阪観光案内(施工:(株)大阪デジタル広告社、乙39)には、尼崎市域を示すグレー部分が大阪港舞洲と重なっており、淀川河口を塞いでいる。これは、施工会社が、整備工事のデータ修正の際に、尼崎部分のデータを誤って南(舞洲方向)にずらし、そのままにしてしまったためである。
(3) 別紙4案内図(甲60の2)と本件地図デザイン(別紙5、甲60の1)との相違点等
ア 原告が模倣したと主張する2本の河川について(別紙7@)
 この2本の河川は、大阪市東成区、生野区及び平野区を南から北方向(地図の下から上方向)に流れる平野川、平野川分水路を指しているが、ジェネシスは、大阪市域における流域に限定して表現しているものである。
 観光用の案内図には路線図等を記載するため、地形に関しては簡略化し、観光用の案内図として不要な部分を省略するものであるが、その省略は理由があってされるものであり(本件であれば、例えば今川や駒川のような河川については、狭隘で小規模なものであるため、観光用の案内図に記載する必要はないため)、簡略化すればある程度似通ったデザインの地図となるものである。実際に、大阪市全図においても、2本の河川の上端と下端については同様の表記がされている。そのため、2本の河川の形状は、何の根拠にもならない。
イ 大阪市北区中之島の形状について(別紙7A)
 土佐堀川と堂島川に挟まれる大阪市北区中之島の地形について、別紙4案内図では、滑らかな曲線で描かれているのに対し、本件地図デザインでは、直線で描かれているため角ばっており、両者の形状は明らかに異なっている。
ウ 寝屋川と第二寝屋川の形状及び両河川に挟まれた箇所の地形について(別紙7B)
 寝屋川と第二寝屋川の形状について、別紙4案内図では、滑らかな曲線で描かれているのに対し、本件地図デザインは、直線的な形状となっている。また、本件地図デザインは、両河川に挟まれた箇所の地形についても角ばっており、特に西端は鋭角に表現されており、両者の形状は明らかに異なっている。
エ 住吉川について(別紙7C)
 住之江区を東西に流れる住吉川について、別紙4案内図では、住吉公園以東及び同公園の西で南北に流れる河川が表記されている。これに対し、本件地図デザインでは、当該河川が住之江公園を若干過ぎたあたりで切れているとともに、南北に流れる河川も表記されておらず、両者の形状は明らかに異なっている。
オ 寝屋川と第二寝屋川を結ぶ河川の有無について(別紙7D)
 寝屋川と第二寝屋川を結ぶ河川の有無について、公社地図、大阪市全図及び本件地図デザインでは、寝屋川と第二寝屋川を結ぶ平野川分水路が描かれているが、別紙4案内図では、作成過程におけるミスにより、当該河川の表記がなされていない。この作成過程におけるミスは、ジェネシスが別紙4案内図の地図デザインを作成したことの表れである。
カ 安治川河口の形状について(別紙7E)
 安治川河口の形状について、別紙4案内図では、滑らかな曲線で描かれているのに対し、本件地図デザインは、直線で描かれているため角ばっており、両者の形状は明らかに異なっている。
キ 天保山運河の形状について(別紙7F)
 天保山運河の形状について、別紙4案内図では、港区八幡屋3丁目と海岸通3丁目を結ぶ浮島橋の取り付け部(八幡屋側)の凸部、及び福崎3丁目と海岸通4丁目を結ぶ新福崎橋が表記されているが、本件地図デザインではこれらが表記されておらず、両者の形状は明らかに異なっている。
ク 小括
 以上のとおり、別紙4案内図と本件地図デザインには、顕著な相違点があり、ジェネシスが作成した被告地図データは、公社地図及び大阪市全図を参考にデザインされており、表記については基本的に両図を踏襲しているものである。したがって、ジェネシスが地図を作成するにあたり、本件地図デザインを複製、翻案したとする原告の主張は事実に反する。
 なお、これらの4つの地図を全体的に比較すると、公社地図⇒大阪市全図⇒別紙4案内図⇒本件地図デザインの順にシンプル化されていることが分かる。別紙4案内図が本件地図デザインを模倣しているのであれば、ジェネシスは、あえて、シンプル化の流れに逆行する形で、再度公社地図及び大阪市全図に則した複雑な形状等に地図を修正したこととなるが、このような流れは極めて不自然である。上記各図の抽象化度合いの流れからすれば、むしろ、P1が別紙4案内図を参考にして本件地図デザインを作成したと考える方が自然である。
19 争点7−3(原告は、本件地図デザインの著作権を取得したとして、その著作権を被告大阪市に対して主張し得るか)について
(原告の主張)
 本件地図デザインを作成したのはP1であり、本件地図デザインの著作権も、本件ピクトグラム等と同様、板倉デザイン研究所から原告に移転されている(前記5(原告の主張)記載のとおり)。
(被告大阪市の主張)
 前記5(被告らの主張)記載のとおり。
20 争点7−4(損害額)について
(原告の主張)
 原告は、本件地図デザインにつき「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)の損害を被っている。
 この点、本件案内図の10年間の使用対価である451万5000円を基準とし、被告大阪市が別紙4案内図を設置した平成24年8月1日から平成26年3月31日までで既に1年8か月が経過しているから、この間に原告に生じた使用料相当の損害額は、75万2500円(451万5000円÷10年÷12か月×1年8か月=75万2500円)を下らない。また、被告大阪市は、別紙4案内図を抹消・消除せずに今後も使用を継続することが明らかであり、同使用継続により、原告には月額3万7625円(451万5000円÷10万円÷12か月)の損害が発生し続けることになる。
(被告大坂市の主張)
 争う。
第5 当裁判所の判断
1 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる(争いのない事実及び前記第2の2前提事実を含む。)。
(1) 被告大阪市における案内表示設置の経緯等
ア 被告大阪市は、平成8年6月18日付けで国際集客都市大阪推進本部を設置し、その一部会である国際集客都市大阪推進本部案内表示部会(以下「集客案内表示部会」という。)の中で、大阪市における案内表示が利用者である市民及び海外を含めた多様な来阪者にとって一層利便で有意なものとなるよう検討を行うこととした(争いがない)。
イ 平成9年度から平成10年度にかけて、集客案内表示部会における検討として、被告大阪市における案内表示の整備のあり方に関する調査が行われ、当該調査については、平成10年2月6日、被告都市センターがジェネシスとの間で業務委託契約を締結し、ジェネシスが集客案内表示部会における資料の作成を受託した(乙25、42)。
 ジェネシスは、「案内表示のあり方に関する調査」と題する報告書(以下「平成9年度調査報告書」という。)を作成し、被告都市センターを通じて、集客案内表示部会に提出した(乙26)。
 集客案内表示部会は、「大阪市案内表示ガイドライン」を、平成9年度調査報告書を抜粋する形で作成し、案内表示施設の整備の考え方や整備にあたっての原則、基本的な考え方等を取りまとめた(乙28)。
ウ さらに、集客案内表示部会は、大阪市における観光案内マニュアルを策定することとし、当該マニュアルについては、平成10年11月6日、被告都市センターがジェネシスとの間で、観光案内マニュアルの作成業務を委託業務とする業務委託契約を締結した。同契約書の末尾に添付された仕様書には、事業内容として次の記載がある(乙29)。
(ア) (1)観光案内表示整備基本計画の策定
D観光案内表示において図記号表記する対象の選定
Eローカルピクトグラムのデザイン開発
(イ) (2)観光案内板の整備・設置計画の策定
A観光案内板の基本仕様(案内板の材質、形状、文字・図記号等の標準仕様)の作成
エ 集客案内表示部会は、平成11年3月に、「大阪市観光案内マニュアル」を策定した。同マニュアルには、大阪市域を示す図として、28頁で「2-8案内図表現6 市域案内図06/市域交通案内図」(標題:地下鉄路線案内)、29頁で「2-8 案内図表現7 市域案内図07/歩行者案内標識」(標題:大阪市全体案内)、30頁で「2-8 案内図表現8 市域案内図08/観光案内表示板」(標題:大阪市域案内)が掲載された(本件ピクトグラムとは異なるが、対象施設について白抜きされたローカルピクトグラムが配された。)。(乙30)
オ 被告大阪市は、大阪市域における主要集客施設及び地下鉄駅構内への観光案内図の設置を実際に進めることとし(乙42)、同年11月1日付けで被告都市センターとの間で委託契約を締結し、観光案内表示システムの整備業務を委託した(乙31)。被告都市センターは、平成11年11月2日付けで、ジェネシスとの間で観光案内表示板整備に伴う掲載施設情報整備と製作施工管理支援業務を委託業務とする業務委託契約を締結した(乙32)。同契約書の末尾に添付された仕様書には次の記載がある。
(ア) 1案内図の基本データの標準化、誘導サインの調整作業
2.サイン表示面デザインの標準化
1.地区案内図、市域案内図デザイン
(イ) 2観光案内情報の整理作業
1.地区観光案内情報の整理と記載対象の抽出
(ウ) 3製作原稿作成
1.設置個所別案内図等製作原稿データの調整編集
(エ) 4本体製作仕様書作成及び製作管理支援
1.資料(本体製作仕様書)作成
2.意匠・構造等の詳細設計における管理支援
カ 被告都市センターは、同日付けで、板倉デザイン研究所との間で、ローカルピクトグラムの企画書作成業務を委託し(甲14)、同研究所は、企画書を作成して提出し(甲15)、P1は、本件ピクトグラムを含むピクトグラムの基本デザインを作成して提案した(甲16)。
 これに対し、被告都市センター側は、当初、本件ピクトグラムの使用権を買い取ることを要望したが、金額が折り合わなかったことから、その後、平成12年3月31日付けで、本件許諾契約1が締結された(甲17、67、丙4)。
 被告都市センターは、平成11年度の観光案内板整備事業として、平成12年2月9日付けで、株式会社コトブキとの間で、「観光案内表示板製作設置工事」契約を締結し(乙33)、本件案内図の実際の設置を始めた。そこでは、案内表示板に使用するデータはジェネシスにおいて作成するが、被告都市センターの承認を受けたもので実施することとされた。そして、平成11年度には、大阪城周辺に大阪市観光案内表示板(別紙4案内図に変更する前のもの)が設置され、同案内表示板には、P1作成の本件ピクトグラムが配された(乙45)。また、被告都市センターは、平成12年8月31日付けで本件使用許諾契約2を締結し(甲18)、同年度以降も観光案内板の整備を行っていった。
(2) 本件各使用許諾契約の有効期間満了後の経緯等
ア 被告都市センターは、平成23年5月11日、P1に対し、本件各使用許諾契約にかかる有効期間満了についての問合せをし、同月16日、面談をして本件各使用許諾契約の内容を確認したところ、P1は、本件ピクトグラムの著作権が原告にある旨述べた(甲67)。
イ 同年7月20日、原告代表者及びP1、被告大阪市の担当者、並びに被告都市センターの三者で面談の機会を持ち、今後、既に有効期間が経過している本件ピクトグラムの権利関係について調整していくこととなり、原告は、板倉デザイン研究所から著作権を承継している旨伝えた(甲65、乙1)。
ウ 同年8月25日、原告と被告大阪市は面談し、被告大阪市は、原告に対し、本件ピクトグラムを大阪市公認ローカルピクトグラムとしてホームページに掲載し、原告のクレジットを入れるなどの考え方を示した上で、既存の本件ピクトグラムについては追加の費用負担がないよう使用権の開放を前提に契約を新たに締結し直す旨や、今後、原告から新たなローカルピクトグラムの追加について提案があれば、予算と随意契約について検討する旨の意向が示された。この際、被告大阪市から、WTCや三井アウトレットの文字について軽微な変更が必要であるとの話が出されたところ、P1がこれを引き受ける旨表明した(これが無償であるか否かについては争点6−1のとおり争いがある。)。また、被告大阪市からは、今後、同年9月から10月頃までに原告からの提案があれば、予算要求で検討するとの話が出た。(甲64の2、66、乙2)
エ 原告は、同年10月7日、被告大阪市に対し、22施設につき、新たなローカルピクトグラムを1施設50万円で開発し、観光案内のための営利目的でない使用を許諾する旨の業務委託契約書の提案をした。被告大阪市は、同月11日、原告に対し、上記契約書については検討する旨のほか、同月7日の打合せの際に話の出た、本件ピクトグラムのうち、WTCコスモタワー及び鶴見はなぽ〜とブロッサムの表記の変更、並びにOCATの飛行機の削除について依頼し、原告は、これを引き受け、同月26日にこれらを修正したものを納品した。(甲35から38まで、乙3)。
 P1は、納品後の同年11月29日、被告大阪市の担当者に対し、「お渡しした修正データ類は、公式ピクトグラムとしてご紹介いただくと共に、契約締結を前提とした無償での業務となっています」とし、本件ピクトグラム等に関する契約や新たなローカルピクトグラムの制作についての契約締結を早く行うよう求めた。これに対し、同年12月9日、大阪市担当者は、新市長が当選したことにより、政策が予測不能な状態にあるので方向性を見いだせていないが、ローカルピクトグラムを活用する旨の紹介を被告大阪市のホームページで行っていく等の回答をした。(甲51、乙25)
オ 被告大阪市は、同年12月20日、「ローカルピクトグラムの活用によりわかりやすい施設案内に努めています。」「各ピクトグラムの使用については企画・製作元である株式会社仮説創造研究所にご協力いただいています。」との文言ともに本件ピクトグラム(前記3つについては修正後のもの)をホームページに掲載した(甲39)。
 被告大阪市は、そのころ、平成23年度予算で本件ピクトグラムを使用する予定がある大阪市観光案内図のデザイン案の募集を行うなどした(甲40の各号)ことから、原告は、使用許諾契約を締結する前にこのようなことを行うことに反発し、募集を停止すべきである旨申し入れた。被告大阪市は、平成24年2月8日、本件ピクトグラムについての使用許諾契約書の案(甲41)を提示したが、結局、契約の締結には至らなかった。(乙8ないし10)
カ 被告大阪市は、原告からの解決のための方向性を問う通知(甲42)に応じ、同年3月23日付けで、本件ピクトグラムだけでなく、新たに追加するローカルピクトグラムを含めて著作権を取得し、これらの使用を推奨していきたいとの方針を示し(甲44)、同年4月には、具体的な方針をまとめた(甲47)。これに対し、原告は、新たなローカルピクトグラム及び本件ピクトグラムにつきいずれも著作権譲渡(簡易ガイドライン付き)の対価として1施設100万円を提示し、被告都市センター及びコンベンション協会の賠償責任についての話合いが必要などとした(甲48、乙13)。被告大阪市は、同年5月17日、原告との会合において、原告提案の金額では協議継続は難しく、自由に使用することができないのであれば活用方針を採れないなどとして、本件ピクトグラム及び本件案内図を平成24年度内に順次撤去する旨を伝え、本件ピクトグラム等に関する協議は終了した(甲49、乙14)。
キ 被告大阪市は、原告に対し、同年6月15日付けの書面により、本件ピクトグラム等については順次撤去を行う旨通知し、これに対し、原告は、同月27日付けの書面により、被告ら及びコンベンション協会に対し、本件ピクトグラム等の使用中止、抹消撤去を求めるとともに、3つのピクトグラムの修正についての報酬支払を求めるなどした(甲21ないし24)。
 被告大阪市は、第2の2前提事実(7)アのとおり、本件各使用許諾契約の有効期間満了後も本件ピクトグラム及び本件案内図を使用していたが、同(8)イのとおり、同年6月頃から7月頃にかけて、それらを順次撤去・抹消するなどし、同年8月、原告に対し、本件ピクトグラムを使用していた、ゆとりみどり振興局緑化推進部所管の案内板83箇所、建設局所管の案内板223箇所及び港湾局所管の案内板6か所、並びに本件案内図を使用していたゆとりみどり振興局観光室所管の23箇所については、同年7月末までにこれらを抹消・撤去した旨を通知した(甲25)。これに対し、原告は、同年9月19日付けの書面で、被告大阪市が本件ピクトグラムの上に白地あるいは別のピクトグラムがイラストされた簡易なシールを貼付しただけで、一部シールがはがれかかっていることも現認されており、抹消・撤去として不十分である旨指摘した(甲27の1)。そこで、被告大阪市は、シール貼付前にラッカー等で本件ピクトグラムを着色抹消した上でシールを貼付する作業を進め、同年11月末までに完了する予定である旨やピクトグラムの修正は無償のサービスとして実施するものであった旨を通知した(甲28)。
 原告は、平成25年2月、本訴を提起した。
2 判断
(1) 争点1−1(被告らは、本件各使用許諾契約における有効期間の満了により、有効期間内に作成した本件ピクトグラム等についての原状回復義務を負うか)について
ア 各使用許諾契約に基づく使用権について
 前記第2の2前提事実のとおり、本件各使用許諾契約において、本件ピクトグラムを大阪市各局の案内表示等に、本件案内図を大阪市が設置する観光案内表示板等に使用することができるとし、使用権の有効期間を10年とする旨定められている(本件使用許諾契約1第2条、第7条、同契約2第2条、第6条)。
 この点、被告らは、本件各使用許諾契約が10年後の使用権を前提とした規定がある、また、有効期間後の措置等についての定めがないなどとして、使用権が有効期間後も消滅しない旨主張する。
 確かに、被告側が当初は本件ピクトグラムの使用権を買い取ることを要望していたことは前記認定のとおりであり、10年経過後について、「使用権を開放することを検討する」、「10年を経過して後の使用権の追加支払いは生じないものとする。」(本件使用許諾契約1の7条及び8条、同2の6条及び8条)と規定されたのも被告側の求めによるものと考えられることからすると、被告側は、10年経過後には本件ピクトグラムの使用権が開放され、追加費用の支払を要しないようにしようとしていたと認められる。
 しかし、被告側が求めた使用権の買取りができなかったのは、板倉デザイン研究所との間で対価の折合いがつかなかったためであることからすると、本件許諾契約1は、本件ピクトグラムの使用条件を限定することで、所定の対価による折合いがついたものであると認められる。このような経緯からすると、10年が「契約の有効期間」と明記され、10年経過後の継続については、「使用権を開放することを検討する」と規定されるにとどまっており、何らの協議なく当然に開放されるとはされていないこと、「10年を経過して後の使用権の追加支払いは生じないものとする」との定めも、使用権に対する支払の規定であり、使用権の存続を定めるものではないことからすると、被告が有していた意図は、そのまま契約内容として条項化するには至らなかったというべきである。
 そうすると、再契約や使用権の開放等がない以上、使用権は本件各使用許諾契約に定められた10年で消滅すると解するのが相当である。
イ 有効期間満了後の被告らの義務
(ア) 被告都市センターについて
 本件各使用許諾契約には、有効期間満了後の被告らの義務について明確な規定はない。
 しかし、本件各使用許諾契約において、被告都市センターに認められた本件ピクトグラム等の使用権は、主として複製後も継続して展示される案内表示が対象とされており、複製後も被告大阪市において使用し続ける形態であることを前提としている。本件各使用許諾契約は、このような使用形態を前提に、有効期間を設定して契約当事者間の折合いをつけたものであることからすると、有効期間を新たな複製ができる期間と解したのでは、その趣旨が損なわれることになる。また、「使用」の通常の意義からしても、「使用権の有効期間」とは、本件ピクトグラム等を複製することだけでなく、複製した案内表示等の展示を継続することの有効期間を定めたものと解するのが自然である。そうすると、本件各許諾契約においては、有効期間が満了した以上、少なくとも案内表示での本件ピクトグラム等の使用を中止し、原状に復するという合意までが含まれていると認めるのが相当であり、原状回復義務として、既に複製された本件ピクトグラム等の抹消・消除の義務が生じると解するのが相当である。
 この点について、被告らは、本件各使用許諾契約において本件ピクトグラム等が展示され続けることが予想されながら撤去等の規定がないこと、本件各使用許諾契約が本件ピクトグラム等の普及を目指していた経緯等から、既に期間内に複製された本件ピクトグラムの展示等が「使用」に含まれると解するのは不合理である旨主張する。
 しかし、本件各使用許諾契約において、本件ピクトグラム等の効果的な普及に努めることが定められ、有効期間満了後の使用権の開放等も念頭に置かれていたことや、原告が、有効期間満了後の協議において、大阪市観光における本件ピクトグラム等の位置づけやその普及を重視していたこと(乙1、2)等からすれば、10年経過後も円満に使用継続がされるとの希望的観測の下に、有効期間満了後の撤去等の具体的定めを置かなかったにすぎないとしても不合理でないし、本件ピクトグラム等の使用権が継続されず、本件ピクトグラムの普及が困難となった場合、観光における意味は早晩無くなることは必至であるところ、原告が、そのような場合にまで、有効期間内に複製された本件ピクトグラム等を継続して展示することを了解していたと解することはできない。
 よって、本件各使用許諾契約の期間満了による原状回復義務として、被告都市センターは本件ピクトグラム等の抹消・消除義務を負う。
(イ) 被告大阪市について
 本件各使用許諾契約においては、板倉デザイン研究所が、被告都市センターに対し本件ピクトグラム等についての使用を許諾するに当たり、大阪市案内表示ガイドラインに従って実施される大阪市各局の案内表示とそれらを補足する地図等の媒体において、被告大阪市が本件ピクトグラム等を使用することが定められている。このような構造からすると、被告大阪市は、板倉デザイン研究所の承諾の下に、都市センターの使用権を前提に、本件ピクトグラム等の一種の再使用許諾を受けているものといえ、これは、賃貸人の承諾を受けて転貸借がされている状況と同様の状況にあるといえる。そして、民法613条の趣旨は、転貸借が適法に行われている場合に、目的物を現実に用益する転借人に対する直接請求権を認めることにより、賃貸人の地位を保護する点にあるが、再使用許諾関係の場合にも、本件ピクトグラムを現実に使用するのが再被許諾者である被告大阪市である以上、同様の趣旨が妥当するというべきである。
 この点について、被告らは、占有移転を前提とする賃貸借と、権利者の権利不行使を本質とする著作権の利用許諾を同一視できない旨主張するが、本件における本件ピクトグラム等の使用は、案内板等における継続的使用を対象とし、本件各使用許諾契約において被告都市センターに原状回復義務が認められるのであるから、賃貸借終了後の原状回復義務に類似した関係にあるといえる。
 したがって、被告大阪市においては、本件各使用許諾契約の当事者ではないものの、民法613条を類推適用し、本件ピクトグラム等の抹消・消除義務を直接負うものと解される。
(2) 争点1−2(原告は、被告らに対し、板倉デザイン研究所から本件各使用許諾契約の許諾者たる地位を承継したとして、同契約上の権利を主張し得るか)について
ア 原告が、平成19年6月1日に板倉デザイン研究所の事業を統合する際に、P1が板倉デザイン研究所において作成したVIデザイン等の著作権全てを板倉デザイン研究所から包括的に譲り受ける合意をしたことについては、原告代表者と板倉デザイン研究所の代表であったP1との間で認識が合致しており(甲54)、その後同年9月に板倉デザイン研究所が解散清算していること等からしても、当事者間において本件ピクトグラム等を含む著作権(後記争点5−1及び7−1のとおり本件ピクトグラム等は著作物性を有すると認められる。)が譲渡された事実が認められ、そうである以上、本件各使用許諾契約上の地位も譲渡されたと認められる。
 被告らは、事業の全部譲渡に該当するとして、必要な株主総会特別決議がないことから譲渡はなく、仮に譲渡があったとしても総会決議がなく無効である旨主張するが、原告が板倉デザイン研究所における雇用関係や顧客を承継していないこと(甲67)からすれば、事業の全部譲渡には該当せず、被告の主張は採用できない。
イ そして、本件各使用許諾契約における許諾者の義務は、許諾者からの権利不行使を主とするものであり、本件ピクトグラムの著作権者が誰であるかによって履行方法が特に変わるものではないことからすれば、本件ピクトグラムの著作権の譲渡と共に、被許諾者たる被告都市センターの承諾なくして本件各使用許諾契約の許諾者たる地位が有効に移転されたと認めるのが相当である(賃貸人たる地位の移転に関するものではあるが最高裁判所昭和46年4月23日判決・民集25巻3号388頁参照)。
ウ しかし、著作物の使用許諾契約の許諾者たる地位の譲受人が、使用料の請求等、契約に基づく権利を積極的に行使する場合には、これを対抗関係というかは別として、賃貸人たる地位の移転の場合に必要となる権利保護要件としての登記と同様、著作権の登録を備えることが必要であると解される(賃貸人たる地位の移転に関するものではあるが最高裁判所昭和49年3月19日判決・民集28巻2号325頁参照)。
 この点について、原告は、被告らは平成23年5月以降の協議において原告が著作権者であることを認めていたと主張するが、甲第47号証に照らして採用できない。
 したがって、原告は、被告らに対し、著作権の登録なくして本件各使用許諾契約上の地位を主張することはできない。
エ よって、その余の点について判断するまでもなく、本件各使用許諾契約の有効期間内に作成された本件ピクトグラム等について、原告の被告らに対する、本件各使用許諾契約による原状回復義務及びその違反に基づく請求(前記第2の1(1)ア及び(2)の一部)は理由がない。
(3) 争点2−2(被告大阪市による有効期間満了後に作成された本件ピクトラムの使用による著作権侵害の有無)及び争点3(原状回復義務及び著作権に基づく本件ピクトグラムの抹消・消除の必要性)について
 原告は、本件使用許諾契約1の有効期間満了後に、被告大阪市が本件ピクトグラム等を用いた案内板等を新たに作成している旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、そのおそれがあると認めるに足りる証拠もない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告大阪市による本件ピクトグラムの使用による著作権及び著作権侵害に基づく請求(前記第2の1(1)イ及び(2)の残部))は理由がない。
(4) 争点5−1(本件ピクトグラムの著作物性)について
ア 著作権法において保護の対象として定められる著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」をいう(同法2条1項1号)。
 本件ピクトグラムは、実在する施設をグラフィックデザインの技法で描き、これを、四隅を丸めた四角で囲い、下部に施設名を記載したものである。本件ピクトグラムは、これが掲載された観光案内図等を見る者に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され、実際にも相当数の観光案内図等に記載されて実用に供されているものであるから、いわゆる応用美術の範囲に属するものであるといえる。
 応用美術の著作物性については、種々の見解があるが、実用性を兼ねた美的創作物においても、「美術工芸品」は著作物に含むと定められており(著作権法2条2項)、印刷用書体についても一定の場合には著作物性が肯定されていること(最高裁判所平成12年9月7日判決・民集54巻7号2481頁参照)からすれば、それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には、美術の著作物として保護の対象となると解するのが相当である。
イ 本件ピクトグラムについてこれをみると(侵害が問題となっている別紙1の19個に限る。)、ピクトグラムというものが、指し示す対象の形状を使用して、その概念を理解させる記号(サインシンボル)である(甲15)以上、その実用的目的から、客観的に存在する対象施設の外観に依拠した図柄となることは必然であり、その意味で、創作性の幅は限定されるものである。しかし、それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか、そのためにもどの角度からみた施設を描くのか、また、どの程度、どのように簡略化して描くのか、どこにどのような色を配するか等の美的表現において、実用的機能を離れた創作性の幅は十分に認められる。このような図柄としての美的表現において制作者の思想、個性が表現された結果、それ自体が実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている場合には、その著作物性を肯定し得るものといえる。
 この観点からすると、それぞれの本件ピクトグラムは、以下のとおり、その美的表現において、制作者であるP1の個性が表現されており、その結果、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているといえるから、それぞれの本件ピクトグラムは著作物であると認められる(弁論の全趣旨)。
(ア) 大阪城
 大阪城は角度により屋根部分の数やその形態が全く異なるところ、3つの屋根部分が見える角度の大阪城を、屋根の下の三角形状の壁部分のみを白抜きして強調し、他の部分を捨象して青色に塗りつぶした形状のみで表現し、石垣部分については、現在の石垣の高さよりも大きく構成して強調してスケール感を出しつつ、格子状の線部分を白抜きにして石垣を簡略に表現するなどしている。当該本件ピクトグラムは、一見して大阪城と認識できるものの、その表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(イ) 海遊館
 海遊館は、複雑な構造の建築物であるが、左右対称となる角度からの建物を、上部左右の格子については、実際は透明と赤色であるのを色の境に青色斜め線を入れ、それ以外の格子を全て青色の線で囲んだ大きめの白抜きにしてこれを強調し、他の壁面部分については、海の生物等の装飾を排し、青色に塗りつぶした面に、真中にある縦長の壁部分が分かる程度の白い線を入れて安定的な下部を表現している。このように、当該本件ピクトグラムは、海遊館の特徴を選択して様々な表現をしており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(ウ) WTCコスモタワー
 WTCコスモタワーのうち幅の広い面から見る角度の建物を選択し、同角度からの建物は、下から上まで5つのブロックに分かれ、最下部のブロックは前方に拡がる斜面となっており、最上部のブロックは両端部が奥に凹んでいるが、このような形状を捨象して、下から上まで青色で塗りつぶした一直線の形状とし、5ブロックに分かれる白い横線はあるものの下から上までの白い縦のラインを多数配して高層ビルである同建物の高さを強調している。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(エ) ATC
 ATC(アジア太平洋トレードセンター)は、複数の建物等から成り立つ複合施設であるところ、その一部であるITM棟及びO’s北棟とO’s南棟の間の連絡通路周辺の建物形状を選択し、これを実際の配置とは異なる構成で、両者を適宜の間隔に並べて表現している。ITM棟は中央にあるガラス部分と左右にある窓部分とを白抜きして強調し、本来白い壁部分や下部にあるガラス部分は省略して表現している。また、連絡通路周辺部分も、形状のイメージは維持しつつ、多少形状を変えて格子のガラスや屋根部分を単に白抜きしてすっきりと表現し、連絡通路についても同様に簡素な線で表現しており、全体としてすっきりとした表現になっている。このように、当該本件ピクトグラムは、ATCについて印象的な一部を選択してそれぞれを簡略化し、すっきりとした印象を与える表現をしており、その表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(オ) 大阪ドーム
 大阪ドームについては、全体の形状を青色に塗りつぶした面の組み合わせで構成し、上部のドームを取り囲む波形の屋根部分の下の柱を中心に据え、その柱を中央部にある縦方向の長短2本の白い線で表現し、それ以外の柱を省略し、屋根部分を実際よりも比率の大きな縦の白い曲線のスリットを用いることで、横方向の曲線を用いることなく屋根の波形の形状を表現している。このよう表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(カ) 通天閣
 通天閣は、2階部分と展望台部分はガラスの窓で覆われ、他の部分は鉄骨構造の塔であるところ、塔全体について青色に塗りつぶされた面にし、最下部の脚部のみ線の組み合わせで構成して鉄骨構造であることを強調し、それより上の部分については青色の面に二本の縦線で橋脚部分と展望台部分のラインを示して青色のシルエットとともに通天閣の形状を表現している。このような表現には、個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(キ) フェスティバルゲート
 フェスティバルゲートは、多数の建物やアトラクションが存在する複合施設であるが、その中にある塔状の建物を中心に、その下部には実在しない左右対称の構造物を配し、ジェットコースター通路を左端中央部から建物を回り込んで下端中央部に向けて湾曲させた青色と白抜きの幅のある曲線で構成するなど、その表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(ク) 新梅田シティ
 新梅田シティは、細長い2棟のビルの間に連絡通路や屋上部分の空中庭園等が設けられているところ、ビルの間が見える角度を採用し、2棟のビルについては格子状のガラス面や白い窓部分を捨象し、2本の細長い青色の面とこれを分断する高さ方向に延びる細長い白色のスリット線とで構成し、さらにビル間の連絡通路等の構造物を細長い青色の線で構成するとともに高さを実際の幅との比率より高く表現して、すっと伸びるように強調して表現している。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(ケ) 咲くやこの花館
 咲くやこの花館は、アシンメトリーで複雑な構造を持つ建物であるところ、そのうちある角からの建物の形状を採用し、これをシンメトリーに表現している。全体がガラスに覆われた外観については、格子数を減らして白抜きして格子状部分を強調し、自然光を取り込む植物園のイメージを表現しており、また、天井中央部分に青色三角形の中央部が縦方向のスリットで分断された装飾を配し、天井右上部分から突出した椰子の木の装飾が施されている。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(コ) 大阪人権博物館
 大阪人権博物館の建物は、正面部分の壁や窓部分に凹凸があり、入り口を取り囲むアーチ部分も突出した構造になっているところ、建物全体を直線的なシルエットで描いたうえ、長方形の窓を白抜きし、入り口部分の構造については入り口を併せてあえて白抜きとし、本来左右の壁と繋がっている入り口上部の部分を視覚的に分断し、中央部分を強調して表現している。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(サ) OCAT
 OCAT(大阪シティエアターミナル)は、半円筒状になった部分を正面から見る角度を採用し、その角度からみた半円筒状部分の上部を曲線で、下部の柱部分の上端部を横方向の直線で表現し、その下に配した白抜きの柱については、その間隔を中央から端に向けて狭くし、柱が建物下部より下に出た部分を青色にし、青色部分を中央から端に向けて短くすることで、柱が半円筒状の上部同様曲線的に配置されていることを表現している。また、建物の上部には、実在しない飛行機のデザイン装飾がされている。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(シ) 大阪国際会議場
 大阪国際会議場は、直方体の建物の上部に円柱状の構造物が配置されているところ、そのうち、連続する枡記号形状の装飾が左右対称に横方向に配された壁の面から見る建物の外観を採用している。建物全体はその形状を青色の面で表現し、壁の装飾については、枡記号形状の装飾の間にある梯子状の装飾を捨象し、枡記号形状の装飾及びその左右に配された二の字形の装飾部分を特に取り上げて白抜きのラインで強調して表現し、屋上円柱状構造物については、上部が曲線となった台形状の青色面に白抜きの半円を描いて表現している。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(ス) なにわの海の時空館
 なにわの海の時空館は、フロートの上にある半球状のドームが格子枠により作られている構造物であるところ、フロート部分を省略し、青色に塗りつぶした半円状の構成に、格子枠を捨象し、中央部に横方向の白色スリット線3本、下部に横方向の白色波線を配するとともに、実際にはない帆船を白抜きして装飾を施して表現している。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(セ) 水道記念館
 水道記念館は、正面入口を取り囲むアーチを構成する建物部分とその左右に延びる建物から構成されているところ、中央部にある入口部分の建物のみ切り出して強調して表現している。入口扉部分及びその上部のガラス部分、並びに煉瓦造りの壁部分及び白い屋根部分を青色で塗りつぶした形状で表現し、壁の白色部分を白抜きで強調し、入口に白い丸印を二つ配することで扉であることを表現している。対象とする建物の選択や、ものの配色等の表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(ソ) 鶴見はなぽ〜とブロッサム
 鶴見はなぽ〜とブロッサムは、中央の鉄骨構造のタワーとその周囲に配された建物部分とからなる施設であるが、タワー周辺の中央屋根部分は開閉式となっており、開いた状態でシンメトリーとなる角度を採用し、屋根部分より下の部分を省略してその外観を表現している。鉄骨タワーの上に延びる部分を4本の直線で表し、屋根部分は丸みを帯びた曲線で構成する一方、開閉部分は直線的かつ鋭角に構成することで花が開いた状態を表現している。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(タ)  長居陸上競技場
 長居陸上競技場は、1対の三日月形の屋根を持つ楕円形の競技場であるところ、屋根と屋根の間にあるスクリーンが中央にくる位置を真横から見る角度を採用し、対となる屋根部分及びスクリーンを白抜きしてその形状を描き、屋根の下の土台部分を青色の面で構成して安定感を表現し、太い2本の柱のみを太く白抜きして強調して表現しており、その表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(チ) 水道科学館
 水道科学館は、複数の形状の構造が組み合わさった建築物であるところ、竜骨車が左下に来る角度を採用し、正面上部に格子状の壁部分について格子を実際のものより大きく構成して白抜きし、格子状の形状を強調する一方、右下の4分の1円弧状の構造物の格子状の窓は青色の面に横方向の白色の曲線を配するだけで湾曲形状を強調し、中央上部にある窓部及び左下から伸びて屋根の高さから突出し格子状に窓の配された縦長構造物の窓は、青色の面に縦方向の白色直線を配するだけにして高さ方向への伸びを強調して表現している。左下部分には、実際に存在する柱や他の構造物は省略され、架空の大きな白抜きの丸印を大胆に配する装飾が施されている。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(ツ) クラフトパーク
 クラフトパークは、円筒状のレンガ調の建物を含む複数の建物で構成されているところ、円筒状の建物と左右にある建物を近接させて一体のものとして表現しており、左右の建物は実際とは異なる形状で直線的かつ平面的に構成しながら、円筒状の建物を曲線的に構成することで、その形状を強調して表現している。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
(テ) ラスパOSAKA
 ラスパOSAKAは、異なる形状の複数の建物部分からなるが、そのうち、円筒形状の建物とそれを挟む長方形のパネル張り部分だけを取り上げて外観を表現しており、円筒形状建物の壁面にある格子状の窓を、上部を湾曲させた青色面で塗りつぶし、縦方向の白色の直線を中央から端に向かってその幅を狭くし、横方向に中央部分から湾曲させた曲線を用いて円筒形状を表現し、下部にある入口部分を縦に長い白抜きの長方形とし、建物を挟むパネル部分は、その模様を捨象して左右に青色に塗りつぶした面として表現している。このような表現には個性が表れており、実用的機能を離れても、それ自体が美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえる。
ウ 被告らは、本件ピクトグラムについて著作権法による保護を与えることにより、わずかな差異を有する無数のピクトグラムについて著作権が成立し、権利関係が複雑となり混乱を招き、利用に支障を来すなどの不都合が生じる旨指摘する。この点、本件ピクトグラムが実在の施設等を前提とすることから、当該施設を描く他の著作物と似通う部分が生じることは当然予想されるが、本件ピクトグラムの複製又は翻案は、上記アに記載の選択により個性が表現されたものであるから、ほとんどデッドコピーと同様のものにしか認められないと解され、多少似ているものがあるとしても、その著作物との権利関係が複雑となり混乱を招くといった不都合は回避されるものである。
(5) 争点5−2(本件冊子において本件ピクトグラムが「複製」されているか)について
 本件冊子では、本件ピクトグラムがそのまま掲載されているから、本件ピクトグラムの複製とすべき範囲を上記のとおりデッドコピーと同様のものに限定されると解するとしても、本件ではなお「複製」に当たると認められる。
 この点について、被告らは、本件ピクトグラムは本件冊子に小さく掲載されているにすぎないとして、複製に該当しない旨主張する。
 しかし、複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再生することをいうところ、本件冊子の路線図に配された掲載ピクトグラムは、本件使用許諾契約2の本件案内図(小546o×546o等、甲18)や別紙1と比較すれば、小さなものであるが、本件冊子が本件ピクトグラムのデータを使用して作製されたもので(後記(8)イ)、本件ピクトグラムが掲載された態様(甲33)から本件ピクトグラムであることが十分看取できるものであることからすれば、本件ピクトグラムの内容及び形式を覚知させるに足りるものといえ、このような本件冊子の作製は、本件ピクトグラムの複製に該当するというべきである。
(6) 争点5−3(本件冊子における本件ピクトグラムの掲載が「引用」に当たるか)について
 被告らは、本件冊子における本件ピクトグラムの絵の部分の利用は、引用に該当する旨主張する。
 著作権法32条1項の規定によれば、他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用の目的との関係で正当な範囲内、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要である。
 本件ピクトグラムは、大阪市の主要な観光施設をサインシンボル化し、これを案内表示等に活用するという同市の国際観光イメージ戦略の一環として制作されたものである(甲15、丙4)ところ、本件冊子は、大阪の観光ガイドとして、地図や路線図を見る利用者に観光対象となる施設とその場所を、掲載ピクトグラムを配することにより認識させるために掲載したものである。そうすると、本件冊子における本件ピクトグラムの掲載は、本件ピクトグラムが有する価値を、本来の予定された方法によってそのまま利用するものであるということができ、他の表現目的のために本件ピクトグラムを利用しているものではないから、このような利用態様をもって、目的上正当な範囲内で行われた引用であるとはいえない。
(7) 争点5−4(本件冊子の頒布及びPDFファイルのホームページへの掲載は、本件使用許諾契約1により許諾されたものか)について
ア 本件冊子の頒布について
 本件使用許諾契約1においては、使用許諾の対象について、「大阪市各局の案内表示ならびにそれらを補足する地図等の媒体(別表の項目a)」(第2条)と規定し、別表における項目aとして、「集客印刷物(・・・パンフレット等・・・)の案内図」が記載されている。
 本件冊子は、大阪観光ガイドブックとして、被告大阪市がコンベンション協会との共同名義で発行したものであり(甲33)、そのような集客印刷物である観光パンフレットの案内図に本件ピクトグラムを使用したものであるから、本件使用許諾契約1の予定する範囲内であり、許諾されたものといえる。
 この点について、原告は、複製の主体はコンベンション協会であり、同協会による使用は許諾の範囲外である旨主張するが、コンベンション協会が共同名義になっていたとしても、共同で発行する被告大阪市が許諾を受けているのであれば、コンベンション協会の行為も上記許諾に基づくものであると解されるし、仮にそうでないとしても、本件使用許諾契約1の第6条の趣旨に照らして適法な再々使用許諾がされたと認めるのが相当である。
 そして、本件冊子については、発行日を認めるに足る証拠はないが、発刊の知らせがホームページ上に掲載されたのが平成22年4月2日であること(甲31)からすれば、その製作自体は遅くとも同年3月31日までにされていたと推認できるから、時期的にも本件使用許諾契約1の範囲内のものといえる。なお、本件冊子のように頒布が当然予定される集客印刷物について、頒布されたか否かを覚知することは一般に困難であることからすれば、被告大阪市が所有管理する前記(1)の案内板等の場合とは異なり、本件使用許諾契約1の有効期間内に作製された集客印刷物については、有効期間満了後これを回収し、廃棄することまでを合意していたと解することはできない。したがって、本件冊子が有効期間内に作製されたものである以上、その頒布も許諾されているものと解される。
イ ホームページへの掲載
 次に、コンベンション協会のホームページに、本件冊子がPDFファイルにしてダウンロード可能な状態に置かれたことについて検討する。
 この点について、被告都市センターは、本件冊子のPDFファイルをダウンロードできる状態に置くことは、本件冊子の頒布にすぎず、本件使用許諾契約1による許諾の範囲内であると主張する。しかし、不特定多数の公衆がダウンロードすることにより閲覧可能となる状態のものが、使用許諾対象とされた「集客印刷物」に該当するとはいえないし、不特定多数人がダウンロードすることが可能な状況を、アクセスの限定されている印刷物の「頒布」と同視することもできない。なお、ホームページでのこのような掲載方法は、本件使用許諾契約1第3条で使用許諾が禁止された別表bの4には該当しないといえるが、これは禁止対象を明確化したにとどまり、許諾対象自体は第2条で規定されているのであるから、第2条に該当しない以上、使用許諾の範囲内にあるとはいえない。
 しかも、上記のホームページ掲載は、前提事実記載のとおり、その時期の面でも本件使用許諾契約1の有効期間経過後にされたものといえ、同契約上の使用権が消滅している以上、許諾されたものとはいえない。
 したがって、本件冊子のホームページへの掲載は、原告の著作権(公衆送信権)を侵害する行為を構成する。
(8) 争点5−5(被告らは共同不法行為責任を負うか)について
ア 被告大阪市の責任
 前記のとおり、本件冊子はコンベンション協会のホームページに掲載されたものである。しかし、被告大阪市も、本件冊子を共同発行するほどコンベンション協会と共同で同市の観光振興を図っていたことからすると、上記ホームページの掲載に関与したものと推認するのが相当であるから、被告大阪市も本件冊子をホームページに掲載した侵害行為について、共同不法行為責任を負うと認められる。
イ 被告都市センターについて
 本件使用許諾契約1において、被告都市センターが本件ピクトグラムの使用権を包括的に管理する旨規定されており(第1条、甲17)、被告大阪市が本件ピクトグラムのデータ使用を認められていたことからすれば、被告都市センターは、本件冊子の作成のために、本件ピクトグラムのデータを提供したことが推認できる。しかし、本件冊子の上記ホームページへの掲載は、本件冊子をPDFファイル化してされたものであり、その掲載に上記データが直接用いられたとは認められない。また、被告都市センターが上記ホームページへの掲載に関与したことをうかがわせる事情もない。そうすると、被告都市センターに本件冊子のホームページへの掲載について共同不法行為責任を問うことはできない。
ウ 以上からすれば、被告大阪市については共同不法行為責任が認められるが、被告都市センターについては認められない。
(9) 争点5−6(原告は、本件ピクトグラムの著作権を取得したとして、その著作権を被告らに対して主張し得るか)について
 前記(2)アのとおり、原告は、本件ピクトグラムの著作権を取得したと認められるところ、著作権を取得した者は、著作権を侵害する不法行為者に対し、何ら対抗要件を要することなく自己の権利を対抗することができると解されるから、原告は、被告大阪市に対し、著作権侵害に基づく損害賠償を請求することができる。
(10) 争点5−7(損害額)について
ア 原告は、損害額について、本件使用許諾契約1の8条に定められた対価(698万2500円)を主張する。しかし、本件使用許諾契約1は、別紙1及び2全体の38個の本件ピクトグラムのデータ作製及び10年間の使用権に対する対価として定められたものであり、本件冊子のPDFファイルデータの掲載に対する損害としては相当ではない。
 そこで検討するに、上記ホームページへの掲載は、平成22年4月2日以降、遅くとも平成24年3月までされたというものであるところ、本件使用許諾契約1の対価が前記のとおりのピクトグラムの数、対価項目及び使用期間に対するものであるのに対し、本件冊子において用いられたものは別紙1の本件ピクトグラムのうち18個の絵部分であること、期間として長くみても2年程度であることからすれば、多く見積もっても、70万円を超えることはないと認められる。
 この点について、原告は、本件使用許諾契約1の対価の額は、同契約第5条に定める追加発注の可能性を考慮して低額としたものであると主張するが、前記のとおり、本件使用許諾契約1は、当初は被告側と板倉デザイン研究所とが対価面で折合いがつかなかったことから、種々の限定をした上で上記の対価額で折合いをつけたものであることや、板倉デザイン研究所にとっても本件ピクトグラムが公共機関で幅広く使用されることのメリットが十分あったと考えられることからすると、上記の対価額が、本件における著作権法112条3項の損害額の算定資料とならないほどに低額であるとは認められない。
イ そうすると、コンベンション協会が、上記行為に対する解決金として、原告に対し、70万円を支払ったことは当裁判所に顕著な事実であるところ、共同不法行為に基づく損害は、既に共同不法行為者であるコンベンション協会の支払により消滅しており、被告大阪市において、支払うべき損害はない。
 以上によれば、原告の被告大阪市に対する本件冊子関係での著作権侵害に基づく損害賠償請求は、理由がない。
(11) 争点6−1(被告大阪市の商法512条に基づく報酬支払義務の有無)について
ア 被告大阪市が、原告に対し、本件ピクトグラムのうち2つの表記の変更及びOCATの飛行機図柄を削除する依頼を行い、原告がこれを受けて上記ピクトグラム3つの修正を行い、データを引き渡したことについては当事者間に争いがない。そこで、被告大阪市がいう無償での合意が成立していたか否かが問題となる。
イ 前記1(2)ウエで認定したとおり、上記ピクトグラムの修正は、被告大阪市と原告との間において、本件ピクトグラムの使用継続に向けた協議がされていた際に、被告大阪市の側が、原告に対し、本件ピクトグラムを大阪市公認ピクトグラムとすることや、原告のクレジットを入れるといった、原告の名声向上に寄与する優遇策を示す一方、既存の本件ピクトグラムの継続使用について追加の費用の支払がないようにするよう求め、さらに、原告から新たなピクトグラムの提案があれば予算と随意契約について検討するといった原告の商機拡大の提案もしていた中で、被告大阪市からの求めがあり、原告がこれに応じたものである。そして、その後に原告が、新たなピクトグラムを有償で開発する旨の業務委託契約書の提案をしたのに対し、被告大阪市側は、それを検討すると回答しつつ、上記のピクトグラムの修正を求めたことから、原告はそれに応じて実際に修正作業をし、納品したものである。
 このように、当時、被告大阪市は、既存の本件ピクトグラムの継続使用を無償でできるようにするために、原告に対してさまざまな優遇策を示し、原告側はそのような提案の得失を検討して、それらの提案に乗る形で再契約をしようとしており、上記の3つのピクトグラムの修正も、その最中で行われたことからすれば、原告が、被告大阪市の依頼について特に報酬額を定めることなく請け負ったのは、今後、被告大阪市において本件ピクトグラムが公認である旨の何らかの表示がされたうえで法的処理がなされるとともに、新たなローカルピクトグラムを請け負うことができることを条件に、費用の支払なくその前に必要な修正を行うことを合意したもので、今後何の契約も行われない場合にまで当該修正についての報酬を放棄する趣旨ではなかったと認められ、このことは、納品後にP1が被告大阪市の担当者に送付したメールにおいて、「お渡ししたデータ類は、公式ピクトグラムとしてご紹介いただくと共に、契約締結を前提とした無償での業務となっています。」と述べたことからも明らかである。そして、このような原告の意図は、当時の状況からして、被告大阪市側も当然理解していたと推認される。
 この点について被告大阪市は、原告が無償で修正することに同意した証拠として乙2を指摘するが、乙2は、平成23年8月25日の原告と被告大阪市とのやりとりを被告大阪市の担当者がまとめたものであるにすぎず、同やりとりの録音反訳である甲64の2に照らして採用できない。
 そうすると、被告大阪市との間で上記条件が成就されなかった以上、商人である原告が、本件ピクトグラムの修正という営業の範囲内の行為を行ったのであるから、被告大阪市は、商法512条に基づき、原告に対して報酬を支払う義務を負う。
(12) 争点6−2(相当報酬額)について
ア 証拠(甲39、50)によれば、次の事実が認められる。
(ア) 社団法人日本グラフィックデザイナー協会が定める制作料金算定基準によれば、制作料金を次の式により求めることとなっている。
 X(制作料金)=a(作業料)Y(質的指数)+b(b作業料)+aYZ(量的指数)+C
(イ) ピクトグラムの制作において、a作業料はデザイン1点5万円、b作業料はカンプ1点1万円、フィニッシュ1点2万円とされ、Y指数は、質的指数であり、制作者の能力度(知名度等を含む)の指数とされており、後記のとおり作業内容により範囲が定められている。また、Z指数は、量的指数であり、制作物の達成目標、使用媒体、数量など、制作者の知名度、能力以外の付加価値支配要因を集約すべき指数であるところ、本件ピクトグラムを使用した案内板等の数を考慮すれば、5とするのが相当である。
 そして、バリエーションにおける作業料は、a作業料が80パーセント、b作業料が100パーセント、質的指数を0.5〜0.8にして算出した金額を参考にするとされ、リ・サイズにおける作業料は、a作業料が70パーセント、b作業料が100パーセント、質的指数を0.5〜0.8にして算出した金額を参考にするとされている。
(ウ) P1は、被告大阪市の依頼を受けて、OCATの本件ピクトグラムから、飛行機の部分を削除し、建物部分を四角枠の中の中央にくるように修正した。また、「WTCコスモタワー」及び「鶴見はなぽ〜とブロッサム」の各表記(日本語及び英語のもの)を変更した。
イ(ア) そうすると、上記の料金基準によれば、OCATのローカルピクトグラムから飛行機部分を削除する作業については、バリエーションの制作とまでいえるものではないから、リ・サイズ料金を採用し、質的指数については削除するだけで能力による差はあまり生じないと考えられることから中間値の0.65を採用して算定すると、制作料金は、次の算定式のとおり16万6500円となる。上記基準が、デザイン制作者の団体が定めたものであることからすれば、同額は相当なものといえる。
 5万円×0.7(a作業料)×0.65(Y)+3万円(b作業料)+5万円×0.7×0.65×5(Z)=16万6500円
(イ) また、表記の訂正1件の料金について、b作業である制作物の仕上がりを具体的に示すためのカンプの制作と最終的な仕上げ(フィニッシュ)料金の合計額である3万円とする原告の請求は上記基準に照らしても相当な額といえ、2件で6万円となる。
ウ 以上からすれば、原告の被告大阪市に対する相当報酬額は合計22万6500円となる。
(13) 争点7−1(本件地図デザインの著作物性)について
ア 別紙5の本件地図デザインは、大阪市の地図に電車の路線図を組み合わせたものである。地図は、著作物として挙げられているが(著作権法10条1項6号)、既存の地理上の事象を図面に書き込んだものであることから、正確に描くほどその表現には創作性を認める余地が少なくなるものである。しかし、記載すべき情報の取捨選択や表記の方法に作成者の経験、個性が表れており、この点において作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には、著作物に該当するものといえる。
イ 後掲証拠によれば、被告大阪市においては、次のとおりの各種地図が取り扱われていた事実が認められる。
(ア) 被告大阪市土木局が、昭和62年に作成した「大阪市歩行者用サインシステム」には、公社地図(乙27、甲60の3)と似通った全体案内図が使用された案内表示板が掲載されている(乙35、37、40)。また、平成11年3月に作成された大阪市観光案内表示マニュアルにも、公社地図に似た地図が掲載されている(乙30の28頁ないし30頁)。これらからすると、公社地図は、少なくともこれらの間に作成されたものと推認される。
(イ) また、大阪市全図(乙41)も、具体的作成時期は不明であるが、乙42によれば、別紙4案内図が作成される以前から存在していたものであると認められる。
ウ 本件地図デザインは、P1が、市販の地図等を参考に大阪市の地形を簡略にデザインしたものであるところ、その全体構成は、公社地図や大阪市全図とほぼ同じであり、大阪市の全体形状を再現したものにすぎず、例えば甲59の1のようにデフォルメされているものではない。したがって、本件地図デザインの創作性の有無は、細部の表現に基づいて検討する必要があるところ、そこでは、比較的詳細な地図である公社地図及び大阪市全図と比べると、全体的に、西側の海岸及び人工島、並びに多くの川の複雑な曲線をある程度簡略にし、大阪市の東側の境の部分も直線的なシンプルな線で描いており、また、河川については、一部の川の記載自体を省略するなどの取捨選択をし、全体的にすっきりとした表現がされていることが認められる。このように、そのシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択にP1の個性が表れていることからすると、その点において、創作性が認められる。
エ よって、本件地図デザインは、P1の制作した著作物であるといえる。
(14) 争点7−2(別紙4案内図は、本件地図デザインの複製又は翻案か)について
ア 上記のとおり、本件地図デザインに著作物性が認められるとしても、観光案内を目的とする地図では、大阪地域の全体を分かりやすく見せる必要があるために、観光上重要でない部分を省略したり、地理上の入り組んだ部分を簡略化することはよく見られる表現であり(甲59の1ないし3)、観光案内を目的とするものではない公社地図や大阪市全図でも相応に行われている。そうすると、本件地図デザインのシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択に創作性が認められるとしても、その創作性は、従来の地図には見られない細部の簡略化等を地図全体にわたって総合的に行うことにより一つの地図を創作した点にあるというべきであるから、その創作性の幅は狭く、その複製又は翻案と認められるためには、地図全体にわたって、ほぼ同一のシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択が行われることが必要であると解するのが相当である。
イ 本件地図デザインと別紙4案内図との共通点として原告が指摘する点
 証拠(甲60の1ないし3、乙27、41)によれば、次の事実が認められる(別紙6参照)。なお、被告大阪市が平成11年当初に設置した案内図は甲45の302のものであるが、平成23年以降の設置工事に用いられたものが別紙4案内図であり(乙38、39)、そこでは尼崎市域が大阪市西部の舞洲と重なるようになっている。本件で原告が請求原因として主張するものは別紙4案内図であるので、以下では、別紙4案内図について検討する。
(ア) 咲洲の形状について
 咲洲の形状は、その北側部分において、別紙4案内図と本件地図デザインとは、M字となっている点で共通する。公社地図及び大阪市全図においては、小さな段を除いて直線的に描かれている。
(イ) 淀川の形状について
 淀川の形状については、別紙4案内図と本件地図デザインとは、原告が指摘する川筋において似ている部分もあるが、川の太さ、橋の架かっている部分の白抜きの形状、別紙4案内図においては川の部分に立体的に影(少し濃い青い部分)があること等において異なっている。
 原告が指摘する部分の川のラインは、公社地図及び大阪市全図においても同様に似通っており、いずれにおいても相応の簡略化が行われている。
(ウ) 第二寝屋川から南方向に記載された2本の川の形状について
 別紙4案内図と本件地図デザインとは、生野区と東住吉区との境上にある川が省かれている点、二本の川筋、左側の平野川が生野区より南が描かれていない点において共通している。
 公社地図は、別紙4案内図と、二本の川筋は概ね同様であるが、左側の平野川が緩く蛇行している点、右側の平野川分水路のさらに南への川筋が多少複雑に記載されている点、生野区と東住吉区との境上にある2つの川を繋ぐ川が記載されている点、平野川が生野区より南側も記載がされている点で異なっている。
 大阪市全図は、別紙4案内図と、川筋と左の平野川が生野区より南が描かれていない点で共通するが、平野川分水路の生野区内の一部で記載されていない点、平野川分水路の南への川筋が多少複雑である点で異なる。
 また、昭和62年の全体案内図(乙40)では、左側の平野川は、緩やかに蛇行している点以外は同じであり、右側の平野川分水路は、JR大和路線のやや北側より南部分が描かれていない点で異なる。
(エ) その他
 別紙4案内図と本件地図デザインとは、木津川の川筋は似ているが、尼崎市の海岸形状は、別紙4案内図が平成23年度以降尼崎市部分の海岸が明確でなくなっていることから、対比できない。また、東側の市境については、双方直線的に記載しているものの、別紙4案内図には一部曲線を用いている箇所があり、また、凸部の形状が両者において相当部分で異なっている(例えば、地下鉄千日前線今里から南巽の東側の市境の凸部などは相当形状が異なっている。)。
ウ 本件地図デザインと別紙4案内図との相違点として被告が指摘する点
 証拠(甲60の1ないし3、乙27、41)によれば、次の事実が認められる(別紙7参照)。
(ア) 中之島の形状
 土佐堀川と堂島川に挟まれる中之島の形状については、別紙4案内図では滑らかな曲線で描かれているのに対し、本件地図デザインでは直線的に描かれている点で、異なっている。
(イ) 寝屋川と第二寝屋川の形状、両河川に挟まれる地形の形状
 寝屋川と第二寝屋川の形状及びこれらの河川に挟まれる地形の形状については、別紙4案内図では滑らかな曲線で描かれているのに対し、本件地図デザインでは直線的な形状となっており、挟まれる地形も西側が極端に狭く鋭角となっている点で異なっている。
(ウ) 住吉川の有無
 別紙4案内図においては住吉川が記載されているのに対し、本件地図デザインでは記載がない点で異なっている。
(エ) 寝屋川と第二寝屋川を結ぶ河川の有無
 別紙4案内図においては、当該河川が描かれていないが、本件地図デザイン、公社地図及び大阪市全図は、描かれている点で異なっている。
(オ) 安治川河口の形状
 安治川河口の形状については、別紙4案内図では滑らかな曲線で描かれているのに対し、本件地図デザインでは直線的で角張った形状となっている点で異なっている。
(カ) 天保山運河の形状
 天保山運河の形状については、別紙4案内図では、港区は八幡屋3丁目と海岸通り3丁目を結ぶ浮島橋の取付部(八幡屋側)の凸部、及び福崎3丁目と海岸通り4丁目を結ぶ新福崎橋が表記されているが、本件地図デザインにおいては、いずれの表記もなく、すっきりした直線となっている点で異なっている。
エ 判断
 以上の事実関係を前提に別紙4案内図が本件地図デザインの複製あるいは翻案かについて検討する。
 別紙4案内図は、上記イ(ア)及び(ウ)のとおり、本件地図デザインと、咲州の北側の形状、第二寝屋川から南方向に記載された二本の川の形状において共通し、この点は、被告大阪市が別紙4案内図を作成する際に参考したとする公社図面及び大阪市全図や昭和62年の全体案内図と異なっている。しかし、上記の二本の川の形状についても、一部については上記地図と似ているほか、同イ(イ)及び(エ)のとおり、別紙4案内図と本件地図デザインとは、淀川や木津川の川筋は似ているものの、これは他の公社地図及び大阪市全図においてもほぼ同様であり、地形的に存在する川筋を客観的に記載したためにすぎず、これを形状において共通すると評価することはできない。むしろ、その余の点については、両者は異なっている。さらに、別紙4案内図は、前記ウの点で、本件地図デザインとは異なっており、かえって公社地図あるいは大阪市全図と似通っている。
 このように、原告が主張する共通点のうち、別紙4案内図が本件地図デザインの特徴と共通する部分は咲州及びごく一部の川の形状についてのみであるところ、他に多数の点で相違していること、本件地図デザインが全体的に直線的な線ですっきりと描かれているのに対し、別紙4案内図がある程度地理的な曲線を簡略にせず描いていることからすれば、本件地図デザインの表現において認められるP1の個性が、別紙4案内図においてこれを感得することはできないと言わざるを得ない。
 そうすると、仮に、原告が指摘するように、ジェネシスが別紙4案内図を作成するにあたり、本件地図デザインの一部を参考にした事実があったとしても、別紙4案内図が、本件地図デザインの複製又は翻案ということはできないから、原告の本件地図デザインの著作権及び著作権侵害に基づく請求は理由がない。
3 結論
 以上をまとめると、本件の各請求についての結論は次のとおりとなる。
(1) 被告都市センター及び被告大阪市に対する本件各使用許諾契約の各有効期間満了による原状回復義務(ないしは民法613条を類推)に基づく、有効期間内に作成した本件ピクトグラムの抹消・消除請求は、原告が契約上の権利を被告らに対抗することができないから、理由がない。
(2) 被告らに対する著作権侵害に基づく本件ピクトグラムの撤去・抹消請求は、被告らにおいて本件各使用許諾契約の有効期間満了後に新たに本件ピクトグラムを作成した事実が認められず、そのおそれも認められないから、理由がない。
(3) 被告らに対する原状回復義務違反ないし著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は、(1)及び(2)が認められないことから、理由がない。
(4) 被告らに対する本件冊子の頒布及びホームページへの掲載による著作権侵害に基づく損害賠償請求については、被告都市センターについては共同不法行為の成立が認められず、被告大阪市については損害が填補されていることから、理由がない。
(5) 被告大阪市に対する商法512条に基づく請求は、先に述べた限度で理由がある。
(6) 被告大阪市に対する本件地図デザインの著作権侵害にもとづく損害賠償請求は、複製ないし翻案と認められないことから、理由がない。
(7) よって、原告の請求は、被告大阪市に対し、主文記載の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、被告大阪市に対するその余の請求及び被告都市センターに対する請求についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法64条本文、61条を、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 松宏之
 裁判官 田原美奈子
 裁判官 中山知


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