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【事件名】ニンテンドーDSソフトのコピー機(マジコン)事件B(2)
【年月日】平成26年6月12日
 知財高裁 平成25年(ネ)第10067号 不正競争行為差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成21年(ワ)第40515号、同平成22年(ワ)第12105号、同第17265号)
 (口頭弁論終結日 平成26年3月13日)

判決
控訴人 X1
訴訟代理人弁護士 小倉秀夫
控訴人 メディアフォース株式会社
控訴人 X2
控訴人 Mediaforce株式会社
上記3名訴訟代理人弁護士 小川憲久
同 山田基司
被控訴人 任天堂株式会社
訴訟代理人弁護士 青柳ヤ子
同 粟田英一
同 平井佑希


主文
1 控訴人らの控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、これを2分し、その1を控訴人X1の、その余を控訴人メディアフォース株式会社、控訴人X2及び控訴人Mediaforce株式会社の各負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 控訴人X1の控訴の趣旨
(1) 原判決のうち、被控訴人の控訴人X1に対する請求について、同控訴人の敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の控訴人X1に対する請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1審、第2審を通じて、被控訴人の負担とする。
2 控訴人メディアフォース株式会社、控訴人X2及び控訴人Mediaforce株式会社の控訴の趣旨
(1) 原判決のうち、被控訴人の控訴人メディアフォース株式会社、控訴人X2及び控訴人Mediaforce株式会社に対する請求について、同控訴人らの敗訴部分を取り消す。
(2) 被控訴人の控訴人メディアフォース株式会社、控訴人X2及び控訴人Mediaforce株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1審、第2審を通じて、被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
1 本件は、@ 携帯型ゲーム機で実行されるゲーム等のプログラムが記録された記録媒体を販売している被控訴人(原審原告)が控訴対象外の原審原告らとともに、有限会社シーフォートジャパン(以下「シーフォート」という。)、株式会社マジカルカンパニー(以下「マジカル」という。)及び控訴人X1(以下「控訴人X1」という。シーフォート、マジカル及び控訴人X1を併せて「シーフォートら」ということがある。)が別紙物件目録記載1の各製品(以下「シーフォートマジコン」という。)を、控訴人メディアフォース株式会社(以下「控訴人メディア」という。)及び控訴人Mediaforce株式会社(以下「控訴人Media」という。)が別紙物件目録記載2の各製品(以下「メディアマジコン」という。また、別紙物件目録記載1及び2の各製品を併せて「本件DS用マジコン」という。)を、輸入・販売等したところ、当該行為は不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項10号に掲げる不正競争に該当するとして、法3条に基づき、シーフォート、マジカル及び控訴人X1に対してシーフォートマジコンの、控訴人メディア及び控訴人Mediaに対しメディアマジコンの、譲渡、輸入等の差止め及び廃棄を求め、A 被控訴人が、上記の者らは本件DS用マジコンを輸入・販売等したところ、当該行為は平成23年法律第62号による改正前の不正競争防止法(以下「旧法」という。)2条1項10号に掲げる不正競争に該当するとして、(i) シーフォート、マジカル及び控訴人X1に対し、法4条、民法709条、会社法429条1項、民法719条に基づき、損害金●(省略)●円又は●(省略)●円の一部である5737万5000円及びこれに対する不法行為の後の日である平成21年12月11日(マジカルに対する原審訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払、(ii) 控訴人メディア、控訴人X2(以下「控訴人X2」という。)及び控訴人Media(以下、控訴人メディア、控訴人X2及び控訴人Mediaを併せて「控訴人メディアら」ということがある。)に対し、法4条、民法709条、会社法429条1項、653条、民法719条に基づき、損害金●(省略)●円又は●(省略)●円の一部である3825万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成22年4月25日(控訴人Mediaに対する原審訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払をそれぞれ求めた事案である。
2 原判決は、@ (i) 被控訴人の差止請求については、マジカル及び控訴人X1に対しシーフォートマジコンの譲渡、輸入等の差止め、控訴人Mediaに対しメディアマジコンの譲渡、輸入等の差止めを求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、(ii) 廃棄請求については、これらの者が本件DS用マジコンを保有していることを認めるに足りる証拠がないから、理由がない、A損害賠償請求は、(i) マジカル及び控訴人X1に対し、マジカルに対する損害金合計●(省略)●円と控訴人X1に対する損害金●(省略)●円(うち●(省略)●円の限度で連帯)の各一部である5737万5000円及びこれに対する平成21年12月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払、(ii) 控訴人メディアらに対し、損害金●(省略)●円の一部である3825万円及びこれに対する平成22年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないと判断して、これらの限度で被控訴人及び控訴対象外原審原告らの請求を認容し、その余の請求をいずれも棄却した。
 これに対して、原審被告らのうち、控訴人X1及び控訴人メディアらが、被控訴人のみとの関係で(控訴人メディアらのその余の原審原告らに対する控訴は取り下げられた。)、本件控訴を提起した。なお、原審被告らのうち、マジカルについては控訴を提起せず、マジカルとの関係では原判決は確定した。控訴人らは、現時点では被控訴人に対してのみ控訴を提起しており、その余の原審原告らと原審被告らとの間でも、原判決は確定した。原審原告らのシーフォートに対する請求はいずれも棄却されたが、原審原告らは控訴を提起せず、シーフォートとの関係でも原判決は確定した。また、被控訴人は、原判決が控訴人らに対する廃棄請求を棄却した部分及び控訴人メディアに対する差止請求を棄却した部分については、不服を申し立てていない。
3 争いのない事実等
 本件を検討する上で前提となる、当事者間に争いのない事実並びに掲示の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実は、次のとおりである。
(1) 当事者
ア 被控訴人は、トランプ類、娯楽用具及びゲームの製造及び販売等を業とする株式会社である。
イ シーフォートは、平成14年7月12日、旅行並びに観光土産品及び電機通信機械器具の輸出入及び販売等を業とし、控訴人X1を取締役として設立された有限会社である。
 マジカルは、平成20年2月13日、インターネットを利用した情報システム及び通信ネットワークの企画、開発、設計及び運用並びにゲームソフト及び輸入雑貨の販売等を業とし、Aを代表取締役として設立された株式会社である。平成21年8月28日に、Aに代わり、控訴人X1がマジカルの唯一の取締役になり、代表取締役に就任した。マジカルは、原審判決の後である、平成25年9月30日、株主総会の決議により解散し、控訴人X1は、代表清算人に就任した。マジカルについては、同年12月31日に清算結了したとして、その旨の登記がされた。(甲220、222の1ないし3、254)
ウ 控訴人メディアは、平成15年4月10日、コンピュータ部品の開発、輸出入及び販売等を業とし、代表取締役を控訴人X2として設立された株式会社であるが、平成20年5月31日、解散し、同年10月22日、同月15日に清算が結了したとして、その旨の登記をした。
 控訴人Mediaは、昭和62年6月18日、商号を「株式会社大豊システム」、飲食店の経営等を業とし、代表取締役をBとして設立された株式会社であり、平成16年2月1日に「有限会社大豊システム」への組織変更を経て、平成19年8月17日に商号を「メディアフォース株式会社」に変更して特例有限会社から通常の株式会社に移行するとともに、控訴人X2が代表取締役に就任し、同年9月26日に商号を「Mediaforce株式会社」に変更した。(甲111の1ないし7)
(2) 「ニンテンドーDS」シリーズ及びDSカードの販売
 被控訴人は、平成16年12月から携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」を、平成18年3月から携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS Lite」を、平成20年から携帯型ゲーム機「ニンテンドーDSi」を、それぞれ販売し(以下、上記各ゲーム機を併せて「DS本体」という。)、DS本体で実行されるゲーム等のプログラム(そのうち被控訴人が承認した正規のプログラムを指して、以下「DSプログラム」という。)が記録されたゲームカード(以下「DSカード」という。)を販売してきた。(甲169の1、173、194、195の2及び5)
(3) DS用マジコンの販売
 少なくともシーフォート及びマジカルは、シーフォートマジコンを輸入、販売し、控訴人メディアは、少なくとも別紙物件目録記載2(1)の製品(以下、同記載1(1)の製品と併せて「R4」という。また、同1(2)と2(2)の製品を「DSTT」と、同1(3)の製品を「R4i」と、同2(3)の製品を「M3さくら」という。)を販売し、控訴人Mediaは、少なくともM3さくらを販売していた。
(4) 本件DS用マジコンの使用法
 マジコンとはマジックコンピュータの略称であり、各種のゲーム機に対応した様々な種類のものがある(以下、DS本体に対応したマジコンを指して、「DS用マジコン」という。)。
 DS本体は、本来、DSカードを購入するなどして入手した上で、DSカードを背面のスロットに挿入し、ゲーム等をすることが想定されていた。DS本体においては、正規のDSカードに記録されたDSプログラムのみが起動するような手段が講じられており、本来、DSカードから複製されたDSプログラムが記録された記録媒体をDS本体に挿入しても、DS本体は当該プログラムを実行しないようにされていた。
 本件DS用マジコンには、いずれもMicroSDカードを挿入することができるスロットが設けられている。インターネット上のウェブサイトには、何者かによってDSカードから抽出されたと思われるゲーム等のデータが多数アップロードされている。これらのデータをダウンロードした上で、MicroSDカードにコピーし、当該MicroSDカードを本件DS用マジコンのスロットに挿入し、さらに、本件DS用マジコンをDS本体のスロットに挿入することで、ダウンロードしたデータによってゲーム等を行うことができる。(甲1ないし4、5の1・2、6、8ないし22、45、149)
4 争点
 本件の主な争点は次のとおりである。
(1) 法2条1項10号、旧法2条1項10号の不正競争の存否について
ア 本件DS用マジコンが、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げることによりプログラムの実行を可能とする機能を有するか (争点1−1)
イ 本件DS用マジコンが、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げる機能以外の機能を併せて有するか(法2条1項10号) (争点1−2)
ウ 本件DS用マジコンが、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げる機能のみを有するか(旧法2条1項10号) (争点1−3)
(2) 差止請求・廃棄請求について
 控訴人らの不正競争によって被控訴人の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるか (争点2)
(3) 損害賠償請求について
ア 控訴人らが不正競争によって被控訴人の営業上の利益を侵害したか(争点3)
イ 控訴人X1及び控訴人X2に故意・過失や悪意・重過失があるか(争点4)
ウ 被控訴人が受けた損害の額 (争点5)
(4) 権利濫用について
 被控訴人の差止め及び損害賠償の請求が権利濫用に該当するか (争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 本件DS用マジコンが、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げることによりプログラムの実行を可能とする機能を有するか(争点1−1)について
(被控訴人の主張)
(1) 技術的制限手段の意義
 法2条7項にいう、技術的制限手段とは、@電磁的方法によりプログラムの実行を制限する手段であって、A視聴等機器が特定の反応をする信号を、Bプログラムとともに記録媒体に記録する方式のものをいう。
 法2条7項にいう「技術的制限手段」は、立法の経緯に鑑みても、また、2条7項の文言上も、「検知→可能方式」(特定の信号とともに記録されたプログラムのみを実行可能とし、特定の信号を有しないプログラムを実行不能とすることでプログラムの実行を制限するもの)が含まれることは明白である。平成11年法律第33号による改正(以下「平成11年改正」という。)は、コンテンツの提供に関与する事業者の利益を保護するために、プログラムと共に記録される特定の信号と同一の信号を有することにより複製されたプログラムの実行を可能とするMODチップの譲渡等を規制する目的で行われたことや立法者の意思を考慮すれば、視聴等機器がある信号を受信するとプログラムを実行しないこと(検知→不能方式)だけでなく、視聴等機器がある信号を受信するとプログラムを実行すること(検知→可能方式)も、同項にいう「特定の反応」に当たる。
(2) DS本体における技術的制限手段
ア DS本体の動作モード
 ●(省略)●
イ 特定信号
 DS本体が法2条7項にいう特定の反応をする信号(以下「特定信号」ということがある。)としては、次の特定信号1ないし特定信号4がある。
 ●(省略)●
ウ 特定信号1ないし4の技術的制限手段への該当性
 これらの特定信号1ないし4がDSプログラムとともにDSカードに記録されているから、これらは技術的制限手段に該当する。
(3) 本件DS用マジコンの動作
ア 特定信号に関して
 ●(省略)●
イ ローダプログラムの動作について
 本件DS用マジコンには、ローダプログラムが記録されており、このローダプログラムがDSカードの技術的制限手段を回避する動作をしている。
 ローダプログラムが組み込まれたマジコン本体が、法2条1項10号にいう「営業上用いられている技術的制限手段・・・により制限されている・・・プログラムの実行・・・を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置」に該当し、ファームウェアその他の自主制作プログラムや違法コピープログラム等が記録されたMicroSDカードと併せて同号括弧書きにいう「当該装置を組み込んだ機器」に当たる。また、ローダプログラムが、同号にいう「営業上用いられている技術的制限手段・・・により制限されている・・・プログラムの実行・・・を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有するプログラム」に該当し、ローダプログラムを記録した本件DS用マジコンは、同号にいう「・・・を記録した記憶媒体若しくは記憶した機器」に当たる。さらに、ローダプログラムとMicroSDカード内に記録されたファームウェアその他の自主制作プログラムや違法コピープログラム等を併せて、同号括弧書きにいう「当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたもの」に当たり、これらが記録されたMicroSDカードが挿入されたマジコンも、同号にいう「・・・を記録した記録媒体若しくは記憶した機器」に当たる。
ウ 自主制作プログラム等について
 違法コピープログラムの実行も自主制作プログラム(ファームウエアも含む)の実行も、「検知→可能方式」という技術的制限手段を回避することにより、「検知→可能方式」という技術的制限手段のもとでは実行が制限されていたプログラムの実行を可能にするという意味で、機能は同一である。ファームウェア等の設計により、違法コピープログラムの実行に用いるのか、メディアプレーヤープログラム等の実行に用いるのかは、当該機能の用途の選択にすぎない。
 M3さくらの公式ファームウェアは、違法コピープログラムを実行しないと称しているが、M3さくらにおいても、技術的制限手段を無効化することで公式ファームウェア等のプログラムを実行しているのであるから、他のDS用マジコンと変わるところはない。
エ 営業上用いられていること
 DS本体における技術的制限手段は、DSカードを購入させるために用いられている。また、被控訴人や株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下「ソニー」という。)が互換性のないゲーム機をそれぞれ開発して販売している現状において、ゲームソフトの販売を申し入れたソフトウエアの製作販売業者からライセンス料を得てDSカードに前記各信号を記録することを許諾することが優越的な地位を濫用したり取引を不当に妨害したりすることにはならないから、これらの技術的制限手段は、適法な営業に用いられている。そうすると、これらの技術的制限手段は、営業上用いられているものに当たる。
(控訴人X1の主張)
(1) 法2条1項10号と同条7項の「プログラム」について
 法2条1項10号は、「営業上用いられている技術的制限手段・・・により制限されている・・・プログラム(@)の実行・・・を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置・・・を譲渡・・・する行為」を不正競争行為と規定している。ここで用いられている「技術的制限手段」との用語は、同条7項で、「電磁的方法・・・により・・・プログラム(A)の実行・・・を制限する手段であって、視聴等機器・・・が特定の反応をする信号を・・・プログラム(B)とともに記録媒体に記録・・・する方式・・・によるものをいう」と定義している。
 AのプログラムとBのプログラムは同一のものを指していると解するのが素直である。また、Aのプログラムの実行と、@のプログラムの実行は同一ものを指しているとするのが素直である。だとすれば、@のプログラムとBのプログラムも同一のものであるとならざるを得ない。
 本件において、特定信号1ないし4とともに記録媒体に記録されているプログラムとは、DSプログラムであるから、特定信号1ないし4によりその実行が制限される「プログラム」もまたDSプログラムである。さらに、法2条1項10号によりその実行を可能とする機能を有する装置の譲渡等が不正競争行為とされる前記の「プログラム」もまたDSプログラムに他ならない。したがって、特定信号1ないし4とともに記録媒体に記録されているわけではない自主作成のプログラムの実行を可能にすることは、技術的制限手段の効果を妨げることに当たらない。
 また、上記の「プログラム」に自主制作されて実行等が制限されていないプログラムを含めることは、憲法21条1項に違反する。
(2) 「検知→可能方式」が技術的制限手段に含まれないこと
 平成11年改正に至る立法段階の議論や改正担当者による当時の解説を見ても、平成11年改正が「検知→可能方式」をも保護の対象とすることは明確に意識されていたわけではない。当時の認識としても、MODチップは、コピープロテクトを回避するための部品、あるいは、コピーされたCDによってゲームを勝手にすることができるようにするための部品と認識されており、自主制作コンテンツの視聴又は実行を可能にするものとして位置づけられていたわけではない。「のみ」要件を撤廃した平成23年改正の際にも、ゲーム機器メーカーによるプラットフォームの囲い込みを保護するものではないことが確認されているから、平成11年改正はなおさら「検知→可能方式」を保護するものではない。
 「検知→可能方式」においては、制約を課す主体は、「映像、音又はプログラムを提供する者」ではなく、視聴等機器を提供する者である。平成11年改正により法2条1項10号を新設した趣旨は、「コンテンツの視聴・使用に対する対価徴収の確保や無断コピーの防止」をすることで、コンテンツ提供者の営業上の利益を守ることにあった。「検知→可能方式」が法2条1項10号の対象となるとすると、コンテンツを提供する者は、特定の視聴等機器上で自らのコンテンツを視聴、実行又は記録することができるようにしてもらうために、視聴等機器の提供者に多額の上納金を支払うことを余儀なくされ、かえってコンテンツ提供者の営業上の利益が害される結果となる。また、「検知→可能方式」は、視聴等機器の開発コストの回収機会を確保するものであるところ、視聴等機器の開発コストの回収を確保することは平成11年改正の目的とするところではない。
(3) 特定の反応をする信号について
 法2条7項にいう「信号」により視聴等機器がする「特定の反応」は、信号とともに記録媒体に記録されたプログラムの実行又は記録を制限する手段であることが予定されている。被控訴人の主張する特定信号1ないし4により生じるDS本体の反応は、いずれも当該信号とともに記録媒体に記録されたプログラムの実行を制限するものではない。したがって、これらの信号は、法2条7項にいう「特定の反応をする信号」には該当しない。
(4) 技術的規制手段を付する主体について
 「技術的制限手段」によるプログラムの実行等の制限は、当該プログラムの流通等について一定の権限を有する者によって付されることが必要である。自主制作プログラムについては、その流通について一定の権限を有する者によって「技術的制限手段」が付されたものではないから、プログラムの実行等が技術的制限手段によって制限されているとはいえない。
(5) 営業上用いられることについて
 仮に被控訴人の主張する「検知→可能方式」が技術的制限手段に当たるとしても、この方式は、パソコンやCDプレイヤー等とは異なり、被控訴人にライセンス料を支払わずに自主制作されたプログラムの実行をも制限する手段であり、最も市場占有率の高い被控訴人がソフトウエアの製作販売業者に対して優越的な地位を濫用したり取引を不当に妨害したりすることに用いられているから、独占禁止法19条で禁止する不公正な取引方法に該当するもので、公序良俗に反するものである。そうすると、上記方式は、適法な営業に用いられていないから、営業上用いられているものに当たらない。
(控訴人メディアらの主張)
(1) 法2条1項10号と同条7項の「プログラム」
 「技術的制限手段」とは、「電磁的方法によりプログラム(@)の実行を制限する手段であって、視聴等機器が特定の反応をする信号をプログラム(A)とともに記録媒体に記録媒体に記録する方式のもの」をいう(法2条7項)。ここで、@のプログラムとAのプログラムは、同一条文中の同一文言である以上同一のプログラムを指すと解すべきである。
 法2条1項10号においては、技術的制限手段により制限されている前記@、Aのプログラムの実行を技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とすることが禁止されているものである。
 M3さくらにおけるメディアプレーヤーのプログラムを始めとして自主制作のプログラムは、DSカードの販売者が不正な実行をプロテクトするために制限を加えたプログラム(すなわち前記@、Aのプログラム)ではない。
(2) 「検知→可能方式」について
 法2条1項7号の技術的制限手段とは、保護対象であるプログラムの実行を制限する手段で、当該手段として機能する特定の信号が当該プログラムとともに記録媒体に記録されているものをいうのであって、保護対象は特定信号が付加記録されたプログラムであって、「検知→可能方式」の仕組みではない。
 また、平成11年改正による旧法2条1項10号の立法趣旨は、コンテンツ提供事業者が技術的制限手段を付して守ろうとするコンテンツの対価としての利益が、その技術的制限手段を無効化する機器により侵害されることを防止するところにある。これに対して、技術的制限手段の付されていない自主制作ソフトは、コンテンツ提供事業者が技術的制限手段を付して守ろうとする利益の対象ではない。
(3) 特定信号1ないし4について
 被控訴人の主張する特定信号1ないし4は、DS本体を起動するための信号であり、DSカードに格納されているゲームプログラム自体の起動には直接かかわっていない。DS本体は特定信号1ないし4が与えられれば、DSカードの有無を問わずに起動し、保護されるべきDSカード内のゲームプログラムの存在は不要となる。そうすると、特定信号1ないし4は、DS本体とDSカードとの間の通信を確立させるプロトコルにすぎず、DSプログラムを起動させる信号ではないから、控訴人の主張する各信号をプログラムと共に記録媒体に記録する方式は、技術的制限手段に当たらない。
2 本件DS用マジコンが、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げる機能以外の機能を併せて有するか(法2条1項10号)(争点1−2)及び本件DS用マジコンが、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げる機能のみを有するか(旧法2条1項10号)(争点1−3)について
(控訴人X1の主張)
 自主制作されて実行等が制限されていないプログラムは、法2条1項10号にいう「営業上用いられている技術的制限手段・・・により制限されている・・・プログラム」に当たらない。したがって、本件DS用マジコンは、DS本体で自主制作されて実行等が制限されていないプログラムの実行も可能とする機能を併せて有するものであって、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げる機能のみを有するものではない。
(控訴人メディアらの主張)
 M3さくらは、DS本体におけるDSプログラム以外の動画や音楽の再生も可能とする機能を併せて有する。M3さくらは、違法なウェブサイトから非公式ファームウェアをダウンロードすることにより、DS本体でダウンロードしたDSプログラムの実行を可能とするようになるが、上記非公式ファームウェアは、M3さくらの発売から数か月後に無関係の第三者によって開発されたもので、その存在が広く知られていないから、DS本体におけるプログラムの実行を可能とする機能を有しているとはいえない。
 したがって、M3さくらは、DS本体におけるプログラムの実行を営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能以外の機能を併せて有するものであって、当該機能のみを有するものではない。このことは、平成23年法律第62号による法の改正(以下「平成23年改正」という。)がM3さくらを規制する意図で行われたことからも明らかである。
(被控訴人の主張)
 違法コピープログラムの実行もファームウェアやメディアプレーヤーも含む自主制作プログラムの実行も、「検知→可能方式」という技術的制限手段を回避することにより、「検知→可能方式」という技術的制限手段のもとでは実行が制限されていたプログラムの実行を可能にするという意味では全く同一の機能である。
 したがって、本件DS用マジコンは、DS本体におけるプログラムの実行を技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有するものであり、それ以外の機能を併せて有するものではない。
3 控訴人らの不正競争によって被控訴人の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるか(争点2)及び控訴人らが不正競争行為によって被控訴人の営業上の利益を侵害したか(争点3)について
(被控訴人の主張)
 控訴人X1は、シーフォート及びマジカルと共同してシーフォートマジコンを譲渡し、また、譲渡し、輸入し、又は譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入しようとしている。控訴人X1に関する各種の外形的事実を総合すれば、控訴人X1は単なる従業員ではなく、輸入販売に主体的に関与しているものである。
 また、控訴人メディアと控訴人Mediaは共同してメディアマジコンを譲渡し、また、譲渡し、輸入し、又は譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入しようとしている。
 控訴人メディアは、平成20年10月に清算結了の登記をしたが、インターネット上のウェブサイト「Asian.net」や「M3 FLASH」を通じて、M3さくら等を販売しており、営業活動を継続している。そして、控訴人メディアは、控訴人Mediaとの間で商号や目的、役員構成、●(省略)●の営業拠点とその電話番号、ファクシミリ番号を同じくしたり、控訴人Mediaに対して●(省略)●の本店を引き継がせたりしているのであって、かかる行為は両控訴人らの損害賠償債務等の免脱を目的とした会社制度の濫用であり、両控訴人らは、信義則上、被控訴人に対して別人格であることを主張することができない。
 控訴人メディアは、知られた債権者である被控訴人に債権を申し出るべき旨を催告しなかったから、清算手続は完了していない。
(控訴人X1の主張)
 被控訴人の主張は否認する。シーフォート及びマジカルがシーフォートマジコンを輸入・販売したことは認めるが、控訴人X1が個人でシーフォートマジコンを輸入・販売したことはない。控訴人X1は、中国出身の中国人であり、日本語の能力も不十分であるから、マジカルの従業員としてこれらの製品の譲渡等を手伝ったことがあるだけで、マジカルと独立して、自ら主体的に譲渡等したことはない。法人が経営する店舗における商品販売行為の主体は当該法人であって、その手足として販売活動の一端を担ったにすぎない従業員等は販売行為の主体たり得ないというべきである。
 現在は本件DS用マジコンを輸入することができない上、平成23年改正で刑事罰も導入されたから、控訴人X1は、本件DS用マジコンを譲渡などする予定はない。
(控訴人メディアらの主張)
 被控訴人の主張は否認又は争う。控訴人メディアは、R4やDSTTを譲渡していたが、平成20年5月15日に営業を停止した後は譲渡していないし、平成20年5月に解散し、同年6月に発売されたM3さくらを譲渡も輸入もしたことがない。控訴人Mediaは、R4やDSTTを譲渡も輸入もしたことがないし、平成21年10月16日からはM3さくらを譲渡も輸入もしていない。本件DS用マジコンは、現在販売されている「ニンテンドーDS」シリーズでは起動しない上、平成23年改正で刑事罰も導入されたから、控訴人メディア及び控訴人Mediaは、本件DS用マジコンを譲渡などする予定はなく、在庫もない。
 インターネット上のウェブサイト「Asian.net」は、控訴人メディアの清算を受け、控訴人Mediaが引き継いだし、ウェブサイト「M3 FLASH」は、控訴人メディアの清算後の更新はなく、控訴人メディアは、営業活動を継続していない。控訴人メディアと控訴人Mediaは、いずれも小規模な会社であるために類似点が多いだけであって、別人格である。
 また、控訴人メディアや控訴人Mediaは、登記され、年度によっても異なるが9人ないし17人従業員を雇用し、それぞれの本店所在地に会社実体があり、確定申告も行っている会社であって、控訴人X2個人と同一視できるものではあり得ない。控訴人メディアや控訴人Mediaと控訴人X2が同一であるというのであれば、日本の会社制度を否定するものである。
 控訴人メディアは、平成20年10月15日に清算を結了し、同月22日にその旨を登記したから、法人格が消滅し、損害賠償債務を負わない。
4 控訴人X1及び控訴人X2に故意・過失や悪意・重過失があるか(争点4)について
(被控訴人の主張)
 テレビや新聞、雑誌、インターネット等の各種メディアは、DS用マジコンが譲渡され始めた平成17年4月ころから、DS用マジコンがDS本体におけるプログラムの実行を制限する手段の効果を妨げてDSプログラムを含むプログラムの実行を可能とすることを紹介していた。このため、控訴人X1は、マジカルやシーフォートにシーフォートマジコンを輸入・販売させたり、自らシーフォートマジコンを輸入・販売し、また、控訴人X2は、控訴人メディア及び控訴人Mediaにメディアマジコンを輸入・販売させた際に、本件DS用マジコンがDS本体におけるプログラムの実行を制限する手段の効果を妨げてDSプログラムを含むプログラムの実行を可能とし、これにより、被控訴人の営業上の利益が侵害されることを認識していたか、容易にこれを認識することができた。控訴人X1はマジカルに、控訴人X2は、控訴人メディアや控訴人Mediaに、本件DS用マジコンを譲渡させてはならなかった。
 したがって、控訴人X1及び控訴人X2は、いずれも被控訴人の営業上の利益を侵害したことについて故意又は過失があり(法4条、民法709条)、また、取締役又は清算人としてその職務を行うについて悪意又は重大な過失がある(会社法429条1項、653条)。
(控訴人X1の主張)
 DS用マジコンは、平成19年1月から被控訴人がDS用マジコンの販売業者に対して警告書を多数送付し始めた平成20年春ころまで、大手家電販売店を含めて普通に販売されていた。また、平成21年2月27日に東京地方裁判所がDS用マジコンの譲渡等を旧法2条1項10号の不正競争行為に当たるとした判決(平成20年(ワ第20886号、同第35745号)を言い渡した後も、違法性について争いがあったから、控訴人X1には、違法性を認識する可能性すらなかった。このため、控訴人X1は、本件各DS用マジコンを譲渡し又はさせることによって、被控訴人の営業上の利益が侵害されることを認識していなかったし、認識することもできなかった。
 「マジカル上海」のウェブサイトの更新作業はAが行っており、このことは控訴人X1がマジカルの代表者になった後も変わらなかった。マジカルの実質的な代表者はAであり、控訴人X1は名目的な取締役にすぎなかった。
 したがって、控訴人X1は、被控訴人の営業上の利益が侵害されたとしても、これについて故意も過失もなく、また、取締役としてその職務を行うについて悪意も重大な過失もない。
(控訴人メディアらの主張)
 DS用マジコンは、平成20年春ころまで、大手家電販売店を含めて普通に販売されていた。また、平成21年2月27日に東京地方裁判所がDS用マジコンの譲渡等を旧法2条1項10号の不正競争行為に当たるとした判決(平成20年(ワ)第20886号、同第35745号)を言い渡した後も、違法性について争いがあったから、控訴人X2には、違法性を認識する可能性すらなかった。このため、控訴人X2は、本件各DS用マジコンを譲渡させることによって、被控訴人の営業上の利益が侵害されることを認識していなかったし、認識することもできなかった。
 したがって、控訴人X2は、被控訴人の営業上の利益が侵害されたとしても、これについて故意も過失もなく、また、取締役又は清算人としてその職務を行うについて悪意も重大な過失もない。
5 被控訴人が受けた損害の額(争点5)について
(被控訴人の主張)
(1) ダウンロード数による損害額の計算
 被控訴人がDS用マジコンの譲渡によって逸失した利益の額は、被控訴人におけるDSカード1本当たりの利益の額(●(省略)●円又は●(省略)●円)に、平成19年1月以降に代表的な10のウェブサイトからダウンロードされた対応するDSプログラムの数(合計●(省略)●本)をそれぞれ乗じて得た額となり、その額は、別紙逸失利益額一覧表記載のとおり、●(省略)●円となる。
 DS用マジコンは、これまでに、日本国内で約270万台が販売されている。このうち、平成19年1月から平成21年9月までの間に、控訴人X1は、シーフォート及びマジカルと共同して、シーフォートマジコンを計33万3978台、控訴人メディア及び控訴人Mediaは、共同して、メディアマジコンを計6万9695台譲渡した。
 したがって、被控訴人は、逸失利益と8%相当額の弁護士費用として、次の計算式のとおり、控訴人X1によるシーフォートマジコンの譲渡によって●(省略)●円の損害を、控訴人メディア及び控訴人Mediaによるメディアマジコンの譲渡によって●(省略)●円の損害をそれぞれ被った。
 (計算式)
 ●(省略)●円×33万3978台/270万台×1.08=●(省略)●円
 ●(省略)●円× 6万9695台/270万台×1.08=●(省略)●円
(2) 年間タイレシオによる損害額の計算
 仮に被控訴人が前記(1)の損害を被ったと認められないとしても、被控訴人におけるDSカード1本当たりの利益の平均額は、別紙逸失利益額一覧表記載のとおり、●(省略)●円を下らない。
 平成16年12月から平成17年12月までの間はDS本体が570万台、DSカードが1850万本、平成18年1月から同年12月までの間はDS本体が873万台、DSカードが4670万本、それぞれ販売されたから、平成17年におけるDS本体1台当たりのDSカードの年間販売数である年間タイレシオは3.245本((1850 万本×12 月/13 月)÷(570 万台×12 月/13 月))、平成18年における年間タイレシオは3.236本(4670 万本÷(570 万台+873 万台))となり、DS本体1台につき、年間平均約3.24本((3.245 本+3.236 本)÷2)のDSカードを販売したことになる。テレビゲーム市場は製品価格が安価で不況に強い上、平成19年から平成21年までの間に「ニンテンドーDS」シリーズの販売に影響するほどの競合品も現れなかったから、本件DS用マジコンの譲渡がなければ、年間タイレシオは、平成19年から平成21年までの間においても、そのまま維持されたはずである。
 ところが、平成19年1月から平成21年9月までの間に控訴人X1、控訴人メディア及び控訴人Mediaが本件DS用マジコンを譲渡したことにより、●(省略)●%の市場占有率を有する被控訴人は、DS本体1台について販売することができたはずのDSカード約●(省略)●本(3.24 本×33 月/12 月×●(省略)●)を販売することが確定的にできなくなった。実際、年間タイレシオは、平成19年が1.996本、平成20年が1.311本、平成21年が0.947本と激減した。
 したがって、被控訴人は、本件DS用マジコンの販売の開始から平成21年9月までの逸失利益と8%相当額の弁護士費用として、次の計算式のとおり、控訴人X1によるシーフォートマジコンの譲渡によって●(省略)●円の損害を、控訴人メディア及び控訴人Mediaによるメディアマジコンの譲渡によって●(省略)●円の損害をそれぞれ被った。
 (計算式)
 ●(省略)●円×●(省略)●本=●(省略)●円
 ●(省略)●円×33万3978台×1.08=●(省略)●円
 ●(省略)●円× 6万9695台×1.08=●(省略)●円
(3) なお、被控訴人は、ウェブサイトの開設者に対し、アップロードされたDSプログラムを削除要請しているが、すぐに再びアップロードされてしまう上、アップロードをしている者を特定することは不可能であるから、損害の拡大を防ぐべき注意義務の違反はなく、過失相殺がされるべきでない。
(控訴人らの主張)
 被控訴人の主張は否認又は争う。DSプログラムのダウンロードは、パソコンで実行する目的や購入したDSカードの複製物として保存する目的やこれらのDSカードを集約する目的で行われることがあるし、DS用マジコンを購入した後になおDSカードを購入する者は多いから、控訴人X1、控訴人メディア及び控訴人Mediaが本件DS用マジコンを譲渡しなければ、被控訴人がより多くのDSカードを販売することができたということはできない。
 ウェブサイト上のDSプログラムは無料であるのに対し、DSカードの販売価格は約5000円であるから、ダウンロードされたDSプログラムの数は、DS用マジコンが譲渡されなければ販売することができたDSカードの数よりもずっと多いはずである。
 ダウンロードされたDSプログラムの数を表示したウェブサイトは、その数を過大に表示している上、その本文等が外国語で表記されており、DSカードの表題が日本語のローマ字表記であったり、DSプログラムが日本語のままであったりしても、外国人は支障なくこれを実行するから、海外向けのものである。
(控訴人X1の主張)
(1) DSカードは、新品より安価な中古品も販売されているし、生活必需品ではないのであって、シーフォートらが本件DS用マジコンを譲渡しなければ、被控訴人がより多くのDSカードを販売することができたということはできない。
 マジカルは、本件DS用マジコンをせいぜい2000台譲渡しただけである。被控訴人が主張する譲渡台数は、推測にすぎない上、年末商戦等の販売時期による調整が必要である。各種のインターネットオークションで販売していたのは、Aである。
(2) DSカードを購入するのは、毎月2000円前後の小遣いしかもらっていない10代の子供が多い上、DS本体の利用者は、毎年平均約1.2本しかDSカードを購入しないから、ダウンロードされたDSプログラムの数は、DS用マジコンが譲渡されなければ販売することができたDSカードの数よりもはるかに多いはずである。
(3) 年間タイレシオは、損害賠償を請求する平成19年から平成21年までの実際の本数を用いるべきである。平成19年2月以降はソニーの販売する携帯型ゲーム機「プレイステーション・ポータブル」の普及が進んだから、平成17年や平成18年の年間タイレシオは、DS用マジコンの譲渡がなければ、平成19年から平成21年までの間において、維持されたとはいえない。
(4) 被控訴人は、DSプログラムをアップロードしているウェブサイトの開設者に対して公衆送信の差止請求訴訟を提起するなどして損害の拡大を防ぐべき注意義務を負っていたにもかかわらず、その履行を怠り、損害が拡大したから、大幅な過失相殺がされるべきである。
(5) 被控訴人のDSカード販売機会を喪失させた本数は、購入者の本件DS用マジコンの保有期間に比例すると考えられるから、その総体は積分法によって求められるべきである。
(6) 控訴人X1がマジカルの代表取締役に就任したのは、平成21年8月28日であるから、それ以前に発生した損害については控訴人X1が取締役としての責任を問われる理由はない。
(控訴人メディアらの主張)
(1) DSカードを購入しない者は、DS用マジコンの存在の有無にかかわらず、DSカードを購入しないから、控訴人メディア及び控訴人Mediaが本件DS用マジコンを譲渡しなければ、被控訴人がより多くのDSカードを販売することができたということはできない。
 また、DS用マジコンが譲渡されることにより、DSカードの販売価格が高いためにDS本体を購入しなかった者も、DS本体やDSカードを購入するようになるし、ウェブサイト上にDSプログラムがアップロードされて宣伝効果が生じたり、DSカードを購入する者は、DSプログラムをダウンロードして試用した後でも、なおDSカードを購入したりするから、DSカードの販売数は、増加するか、少なくとも減少はしない。控訴人メディア及び控訴人Mediaが本件DS用マジコンを譲渡したことにより、被控訴人がDSカードを販売する機会を確定的に失ったり、販売することができたはずのDSカードを販売することが確定的にできなくなったりしたとはいえない。
(2) DSプログラムをダウンロードするためのウェブサイトに表示されている数は、実際にDSプログラムをダウンロードするためのリンク先をクリックした数にすぎない。
 控訴人メディアはR4を8991台とDSTTを1万0820台、控訴人MediaはM3さくらを2万8380台、それぞれ譲渡しただけである。
(3) 年間タイレシオは、ゲーム機を購入した年に最も多くのゲームソフトを購入するのが通常であるから、年々減少するのが当然である。むしろDS本体1台当たりのDSカードの累積販売数である累積タイレシオは、年々増加しているから、控訴人メディア及び控訴人Mediaが本件DS用マジコンを譲渡したことにより、販売することができたはずのDSカードを販売することが確定的にできなくなったとはいえない。
 また、平成19年から平成21年までの間も、DSカードは販売されていたから、平成19年から平成21年までの年間タイレシオを控除するべきである。
(4) 法2条1項10号及び7項が、視聴等機器の販売者の利益をも守る趣旨であると理解するのであれば、DSカードの販売減少による損害を請求することはできないというべきである。M3さくらは、公式ファームウェアを利用している限りDSプログラムは実行できないのであるから、M3さくらの販売と、DSカードの販売減少との間には、相当因果関係がない。
6 被控訴人の差止及び損害賠償の請求が権利濫用に該当するか(争点6)について
(控訴人X1の主張)
 被控訴人による差止請求ないし損害賠償請求は、被控訴人による私的独占状態を守る目的に出たものであって、権利の濫用に当たる。すなわち、被控訴人は、DSカードの製造委託事業において、独占的な地位に立ち、1枚当たり●(省略)●円前後という独占利益を享受するとともに、ゲームソフト会社としての被控訴人は、DSプログラムの開発において、新規参入を意図的に排除し、競争を実質的に制限することにより、DSプログラムの市場価格を高値で安定させている。DS本体に技術的制限手段を施すことは、このような私的独占行為の一環として行われているものであって、これを妨げる機能を有する装置の輸入・販売に対して一律に差止請求及び損害賠償請求をすることは、裁判所を通じて私的独占状態を守ろうとするものであって、権利の濫用に当たる。
(控訴人メディアらの主張)
 被控訴人は大手業者には何らの請求もせず、資力や社会的影響力のない弱小販売店にのみ訴訟提起をしており、権利の濫用に当たる。
(被控訴人の主張)
 被控訴人の行為は権利濫用に該当するものではない。
第  当裁判所の判断
1 不正競争への該当性について
 当裁判所は、本件DS用マジコンの輸入・販売は、法2条1項10号及び旧法2条1項10号の不正競争に該当すると判断する。その理由は次のとおりである。
(1) 前提となる事実
 前記第2、3の争いのない事実等に加えて証拠(甲1ないし4、5の1・2、6、37の1・2、38、42、43、45、121ないし123、128、149、乙ハ13ないし16、乙ニ6、15、32、37)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
ア DS本体及びDSカードにおけるセキュリティ動作
(ア) DS本体の動作モード
 ●(省略)●
(イ) 各モードで行われるセキュリティチェック
 ●(省略)●
イ 本件DS用マジコンについて
(ア) 外観や同梱品など
 R4とR4iは、ほぼ同様の外観のパッケージに収められており、パッケージには、R4、R4iのほかにファームウェア等を記録したCD−ROM、MicroSDカードをパソコンと接続可能とするUSBコネクタ、収納ケース、収納ケースに取り付けるストラップが附属している。取扱説明書などは同梱されていない。
 DSTTのパッケージには、DSTTのほかにMicroSDカードをパソコンと接続可能とするUSBコネクタ、収納ケースが附属されているが、取扱説明書などは同梱されていない。
 M3さくらのパッケージには、M3さくらのほかにMicroSDカードをパソコンと接続可能とするUSBコネクタ、ファームウェアを記録したCD−ROM、取扱説明書が同梱されている。
(イ) 本件DS用マジコンの動作
a 本件DS用マジコンの構成
 ●(省略)●
b ローダプログラム等の動作
 本件DS用マジコンには、いずれもASIC(Application Specific Integrated Circuit)と呼ばれる半導体が登載されており、DS本体の電源を入れると、まずASICに記録されているローダプログラムが起動する。
 ローダプログラムは、DS本体とセキュリティに関する通信を行い、所望のプログラムを起動するまでの働きをする。ローダプログラムは、当該起動対象となるプログラムをMicroSDカード内から読み取るように設計されており、MicroSDカードに各種動作をするプログラム(ファームウェアを含む。)を記録することで、これを実行することができる。
 ●(省略)●
(ウ) ファームウェアについて
 M3さくらに同梱されているCD−ROMに記録されているファームウェアや「正式ファーム」を利用した場合、ダウンロードしたDSプログラムは実行することができない。もっとも、M3さくらには、別途「Xファーム」あるいは「裏ファーム」と呼ばれるファームウェアがあり、これをダウンロードした上で、M3さくらに挿入するMicroSDカードの所定のフォルダに保存すれば、M3さくらを利用してダウンロードしたDSプログラムを実行できるようになる。
 本件DS用マジコンには、動画や音楽の再生を行う機能や、他のゲーム機のエミュレータ機能、ゲームのパラメータを改変する機能などが備えられているものがある。
 ファームウェアには、多くのバージョンがあり、対応するDSプログラムの種類などにおいて差異がある。
ウ DSプログラムのダウンロードについて
 インターネット上のウェブサイトには何者かによって正規のDSカードから抽出されたと思われるゲーム等のデータが多数アップロードされている。これらのデータでは、正規のDSカードに記録されているデータの内、●(省略)●に対応する部分が欠落している。したがって、ダウンロードしたデータのみでは、DSプログラムを実行することはできない。
エ 平成11年改正の経緯、平成23年改正の経緯
(ア) 合同会議報告書
 平成9年10月、産業構造審議会に、知的財産政策部会と情報産業部会の合同会議(以下「合同会議」という。)が設置され、平成11年2月、審議経過をまとめた合同会議報告書が発表された。この報告書についての報道発表資料(甲123)には、次のとおりの記載がある。
 「A.情報技術の進展に伴うビジネス環境の変化
 ・・・
 2.新たな課題の発生
 ・・・
 コンテンツの提供に当たっては、コンテンツの視聴、コピーへの対価の徴収を確保するために、情報技術を用いたコピーやアクセス(音や映像の視聴、プログラムの動作をいう。)を管理する技術が施されているが、これらを無効化する行為が広がりつつある。
 例えば、家庭用ゲームソフトウェアでは、正当に購入されたゲームソフトが一般のCD−Rに複製された場合、その複製物をゲーム機に装着しても使用できないように仕組まれているが、このような仕組みを働かなくするチップが広く販売されている。また、コンテンツが暗号化されている複数の有料衛星放送においても、正当な対価を支払わずに視聴を可能にする復号化装置がインターネット上で販売されている。
 結果として、コピーやアクセスを管理する技術自体の進歩が求められるが、この 研究開発や実用化には多大のコスト負担が必要となる。管理技術と不正利用の鼬ごっこを放置したのでは、コンテンツ流通の発展の障害ともなりかねないため、この課題を早急に解決する必要がある。」
 「C.コンテンツの管理技術の無効化に関する法的規制の在り方について
 1.管理技術を巡る現状について
 ・・・
(2) コピー管理技術及びアクセス管理技術について
 レコード販売等の従来型のものも含めてコンテンツを対価を得て提供する事業(以下「コンテンツ提供業」)の存立基盤を確保するためには、
(a) その管理外でコピーが大量に売買・頒布されるようなことがないこと
(b) その提供するコンテンツのアクセスに対する対価徴収が確保されていること
 が必要不可欠である。・・・」
 「2.対応に当たっての基本的考え方
(1) 無効化機器等販売の問題
 近時コンテンツに施されるコピー管理技術やアクセス管理技術を無効化する機器やプログラムが販売されるという事態が発生している。このような事態を看過すれば、コンテンツ提供の際の取引秩序が損なわれ、事業の存立基盤が失われかねない。
(2) 技術開発の「鼬ごっこ」
 このような事態に対処するため、コンテンツ提供業者等は、コピー管理技術やアクセス管理技術の高度化に努めている。しかし、いったん既存の無効化機器等に耐える新しい管理技術が開発されても、程なくこの新しい技術の無効化機器等が発生する、いわゆる「鼬ごっこ」が生じている。
 ・・・
(3) 技術開発への悪影響
 しかし一方で、こうした規制が強すぎる場合には、管理技術の開発努力の減退という悪影響が生ずるとの懸念もある。例えば、仮にパーソナルコンピュータ等汎用機の販売や管理技術の強度テスト機器の提供が規制されることになれば、コンテンツ提供業の基盤を守るための規制が、逆に、コンテンツを楽しむ家庭内の情報処理機器等の普及や、管理技術の技術進歩を阻害してしまうおそれが強い。
 ・・・
(5) 結論
 以上の論点を踏まえ、コピー管理技術及びアクセス管理技術を巡る法規制の在り方については、次のように対応する必要がある。
 ○ 将来の成長産業として有望なコンテンツ提供業の発展のために、コピー管理技術及びアクセス管理技術の無効化機器やプログラムの蔓延を抑制するための法的ルールを設ける。
 ○ このため、こうした管理技術の無効化機能を有する機器等の提供を不正競争防止法上の「不正競争行為」として規定する。
 ○ 規制の導入に当たっては、コンテンツ取引の契約の実効性を補完するとの目的を踏まえ、管理技術の開発に悪影響を与えず、また、コンテンツ流通の提供形態の多様性を確保するため、必要最小限の規制内容にとどめるよう配慮する。」
(イ) 平成11年改正の際の報道発表
 平成11年改正の改正法を国会に提出した際の報道発表資料には、次のとおりの記載がある(甲128)。
 「コンテンツ提供事業の存立を危うくする、管理技術を無効化する迂回機器・プログラムの取引を防止し、公正な競争を維持するため、
(a) 使用・コピーの管理技術を無効化する機器・プログラムの販売等の行為を、不正競争防止法第2条の「不正競争」として位置付け、
(b) これに対する差止請求、損害賠償請求を、
(c) コンテンツ提供事業に関与する者(コンテンツ発送者、機器メーカー等)に認める。」
(ウ) 国会審議
 平成11年改正の国会審議の際には、次のとおりの質疑応答があった(甲38、乙ハ13ないし16)。
 「○C委員・・・不正競争防止法の一部を改正する法律案につきまして、数点質問をさせていただきたいと思います。
 ・・・今回の不正競争防止法改正の背景となっている不正な装置やプログラムの提供の実態について、具体的な事例で御説明をいただきたいと思います。
 ○D政府委員お答え申し上げます。
 具体的な例を挙げてみろということでございました。三つばかり例を挙げさせていただきたいと思います。
 一つは、家庭用のゲーム機でございます。これは、ゲームのソフトをコンパクトディスクの形で販売しておるわけでございますけれども、このコンパクトディスク自体はパソコンなどで複製をつくることが可能なわけでございます。ただ、ゲームメーカーの方では、販売をする正規の製品につきまして、パソコンで複製することのできない特殊な信号をつけておるわけです。ゲーム機は、これを探知しましてゲーム機が動くというようなことになっておるわけでございます。
 他方、こういう信号を検知するゲーム機の機能というのを妨害するようなチップが、雑誌等の広告あるいはインターネットなどで売られておりまして、そうなりますと、コピーされたコンパクトディスクによりましてゲームを勝手にやることができるというようなことになるわけでございます。・・・
 したがいまして、ただいまこういう三つの事例を挙げさせていただきましたけれども、これを今度、不正競争防止法によりまして、不正競争ということに位置づけまして、差しとめ請求なり損害賠償なりができるようにさせていただく、そういうことによりましてデジタルコンテンツ提供業の健全な発展を図ろうということでございます。
 ・・・ゲームソフトをただで見られるような、無断でやれるような装置、これをMODチップと言っておりますけれども、これは年間六十万個程度売られているのではないかというふうな推計をしております。」
 「○E委員 ・・・ここで言うコンテンツ提供事業というのはどういう企業やビジネスが含まれているのか、お尋ねをしたいと思います。
 ○D政府委員 今先生のお話がございましたように、私ども、今度の不正競争防止法の一部改正は、まさにコンテンツ提供事業の健全な発展のための基盤整備ということでお願いをしているわけでございます。
 コンテンツ提供事業、どんなものがあるかということでございますけれども、音楽のCDとか映画などのビデオとか、あるいはDVDなんかもございます。それから、家庭用のゲームソフトといったものを販売したり、あるいはレンタルといったようなこともあるかもしれませんが、そういうビジネスとか、あるいは有料テレビ放送のように契約者だけに情報を提供するというビジネスといったようなものでございます。対価を得て音楽や映像といったコンテンツを提供する事業というのを、我々はコンテンツ提供事業というふうに言っております。・・・」
(エ) 立法担当者解説
 平成11年改正の立法担当者らによる「改正解説」(甲37の1・2、122)には次のとおりの記載がある。
 「第1章 法改正が検討された背景
 情報関連技術の発展とともに、コンテンツの作成、流通等に係る形態や手法が多様化し、コストの削減も進展する中で、様々なメディアを通じて音楽や映像等のコンテンツを提供する事業(以下「コンテンツ提供事業」という)が展開しつつある。
 しかし、コンテンツ提供事業の存在基盤を揺るがす事態として、コンテンツの不正利用行為や不正利用を助長する商売が横行しており、早急な対応が求められていた。
 1 情報関連産業の発展と新たな法的ルールの必要
 ・・・
 2 コピー管理技術とアクセス管理技術
 (1) 技術的制限手段の必要性
 情報関連技術の著しい進展に伴い、消費者の多様な利便性の需要に応える様々なビジネスが展開していく中で、特に、DVDの商品化やインターネットの普及等に象徴されるように高密度で大容量のデジタル・データを従来より安価に提供することが可能となってきたことから、アナログ・デジタルを問わず多様なメデイアを通じてコンテンツ提供事業が急成長している。
 一方、レコード販売等の従来型のものも含めてコンテンツ提供事業の存立基盤を確保するためには、
 @その管理外でコピーが大量に売買・頒布されるようなことがないこと
 Aその提供するコンテンツのアクセスに対する対価徴収が確保されることが必要不可欠である。
 また、コンテンツ提供事業においては、音楽、映像等を多数のユーザーに提供できるように加工する者、音楽、映像等を視聴するための機器・ソフトを製造する者等の様々な事業者(コンテンツ提供事業に関与するこれらの事業者をまとめて以下「コンテンツ提供事業者」という)が連携している。コンテンツ提供事業の利益の源泉は、消費者のニーズに合った音楽、映像等を収集・販売することであり、優良な音楽、映像等を収集できることが当該事業を運営する上で極めて重要である。
 したがって、コンテンツ提供事業者は、優良な音楽、映像等を収集するために、音楽、映像等を創作する者からその音楽、映像等を流通させるための手法・システムとして選ばれるよう努力し、他のコンテンツ提供システムと激しく競争を展開している。さらに、この競争は、音楽、映像等の収集の対価などの取引条件をめぐって行われる他、いかに音楽、映像等の保護が図られるかという側面においても行われることとなる。このため、コンテンツ提供事業者は、無断コピーや無断アクセスを防止する技術を用いて、有体媒体に記録されたコンテンツやネットワーク上で伝送されるコンテンツに、対価が支払われなければコピーを作成できない、あるいは視聴等できないように、コピー管理技術やアクセス管理技術(以下併せて「技術的制限手段」という)を施すようになっており、そのために資金・労力を投入している。」(190〜192頁)
 「第2章 技術的制限手段及びプログラムに関する定義(第2条第5項、第6項)」
 「1 基本的な考え方
 1 技術的制限手段の整理
 A.音楽、映像等の視聴又は記録を制限する手段としては、一定の対価を支払う者に限りその視聴を物理的に可能とする方法(例:映画館での入場料徴収)も考えられるが、現状においては電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚により認識し得ない方法)が用いられるのが通常である。
 B.音楽、映像等を提供する事業者が電磁的方法を用いて施している技術的制限手段については、日夜高度かつ多様な技術開発が進められているところであるが、現在及び近未来において商用化可能な技術の基本的な仕組みについて、その手段の使用の仕方の面から整理すると、概ね以下の2通りに整理することが可能である。
 @音楽、映像等を視聴(プログラムについては、実行)又は記録を一律に禁止するために、その音楽、映像等とともに記録媒体に記録された信号に視聴又は記録に用いら(れ)る機器が反応する方式。
 具体的には、
 ○音楽、映像等が記録部分に伝送されることを止める(SCMS、CGMS)
 ○真正なデータを伝送せず、雑音を入れる(不完全な複製を作る;マクロビジョン)
 ○無許諾記録物が視聴のための機器にセットされても、機器が動かない(ゲーム)などがあげられる。
 A特定の者に限り、音楽、映像等の視聴又は記録を可能とするために、その音楽、映像等を一定のルールで変換する方式、又はその音楽、映像等とともに記録媒体に記録された信号に視聴又は記録に用いられる機器が反応する方式。
 具体的には、有料衛星放送のスクランブルなどが挙げられる。
 C.したがって、今回の改正においては、上記2通りの使用態様に即して、技術的制限手段が規定されている。」(247〜248頁)
 「2 技術的制限手段の具体例と無効化行為の現状」
 「4 ゲーム系商品
  (1) ゲームマシンは、日本の3社、ソニー・コンピュータエンタテイメント(SCE)、セガ・エンタープライゼズ、任天堂が世界市場で大きなシェアを占めているが、任天堂は独自形状のROMカートリッジ、ソニーとセガはCD−ROMをメディアに採用している。
  (2) この世界では、@違法コピーした海賊版ソフトの販売、Aソフトをコピーするためのコピーマシンの販売、Bソフトに組み込まれているコピープロテクトを回避するためのコピープロテクト解除部品の販売、Cコピープロテクト解除部品を組み込んだ改造ゲームマシンの販売などが行われているが、特に日本では、Bのコピープロテクトを解除するSS−KEY(セガ用)、MODチップ(ソニー用)といった部品の販売が急増している。・・・」(196頁)
(オ) MODチップ
 平成11年改正当時に具体例として挙げられているMODチップとは、ソニー製の家庭用ゲーム機であるプレイステーション等に対応する無効化機器である。
 当時、プレイステーション等に対応するゲームソフトは、パソコンでは複製できない特殊な信号を付して、コンパクトディスクに格納されており、ゲーム機は、この特殊な信号を探知してゲームのプログラムを実行するという技術的手段を用いていた。その結果、パソコン等でゲームソフトを複製しても、複製されたコンパクトディスクは特殊な信号を欠いているため、ゲーム機で実行することができなかった。
 MODチップをゲーム機に装着することにより、この特殊な信号を欠くためにゲーム機で実行できないはずのパソコン等で複製したプレイステーション等用のゲームソフトだけでなく、自主制作ソフト等も、プレイステーション等で実行することができた。(甲42、43、甲121)
(カ) 文化審議会著作権分科会での議論
 平成22年9月7日、文化審議会著作権分科会において、内閣官房知的財産戦略推進事務局が行った説明の中には、次のとおりの文言があった。(乙ニ15)
 「1.回避機器規制−対象機器の拡大(「のみ要件」)について−
 ・・・
 【実態(例)】
 ・マジコン等のアクセスコントロール回避機器等の使用実態は、インターネットから入手できる違法複製ソフトの起動であるが、音楽や映像の再生、自作ソフトの起動といった回避機能以外の「別の用途」を名目上付して販売しているケースが多い。また、販売時点では機器その物には回避機能はないが、購入後にインターネット上で一般的に流通しているファームウェアをダウンロードすることで初めて回避機器として利用が可能になるケース等もある。」
(キ) 小委員会報告書
 平成23年2月の産業構造審議会知的財産政策部会技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会の報告書(乙ニ32)には次のとおりの記載がある。
 「U 「のみ要件」の見直しなど技術的制限手段回避装置等の提供行為に係る民事規定の適正化について
 1. 問題の所在
 ・・・
 (2) 現状
 不正競争防止法第2条第1項第10号及び第11号については、平成11年の同法改正によって導入されたものであるが、現在、インターネット等の情報技術の進展とともにコンテンツ侵害の類型が多様化している中、技術的制限手段回避装置等についても、平成11年当時には存在しなかった態様のものの流通が相当数認められ、コンテンツ提供事業者の被害を一層深刻なものにしている。
 具体的には、技術的制限手段を回避する機能の他に、追加的に他の機能が付されているために「のみ」要件を欠くと称する装置等が氾濫しており、コンテンツ事業に甚大な被害を与えていると指摘されている。例えば、使用実態に鑑みれば、その中核を成す機能はインターネット上から入手できる違法複製ソフトの起動であると認められるものの、当該機能以外にも、音楽・映像の再生や自作ソフトの起動といった別の機能を有していると称する装置等(例えば、マジコン等)が挙げられる。当該装置等については、その回避機能により技術的制限手段を回避した上で、音楽・映像の再生や自作ソフトの起動がなされている以上、回避機能「のみ」を有するとの指摘に対して、実質的に技術的制限手段を回避する以外に用いられないものであっても、客観的に違法ソフトの起動以外の他の機能を有するという点において、「のみ」要件を満たさないのではないかとの指摘もなされている。」(5頁)
(ク) 平成23年改正の要綱
 平成23年改正の要綱(乙ニ37)には、次のとおりの記載があった。
 「不正競争の定義に、技術的制限手段の効果を妨げることにより映像の視聴等を可能とする機能を有する装置等であって当該機能以外の機能を併せて有するものを、技術的制限手段の効果を妨げることにより映像の視聴等を可能とする用途に供するために譲渡する行為等を追加すること。」
(ケ) 平成23年改正に際しての国会審議
 平成23年改正の国会審議の際には、平成23年改正がプラットフォームの囲い込みを保護するものではない旨の答弁がされた。
(2) 法2条7項にいう技術的制限手段の意義
ア 控訴人らは、法2条7項の技術的制限手段には、ある信号が存在して初めてあるプログラムの実行や映像や音の視聴が可能になる「検知→可能方式」は含まれない旨を主張し、このことを前提にその主張を展開するので、まずこの点について検討する。当裁判所は、次のとおり、法2条7項の技術的制限手段に「検知→可能方式」は含まれると判断する。
イ まず、法文の文言から検討する。
 法2条7項は、「この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法・・・により・・・プログラムの実行・・・を制限する手段であって、視聴等機器・・・が特定の反応をする信号を・・・プログラムとともに記録媒体に記録・・・する方式によるものをいう。」と定義されている。同項の文言によれば、前者のプログラムと後者のプログラムは同一のプログラムであることは要求されていないものと解される。すなわち、法2条では、同一の条項中に複数の同一文言が現れ、これらが同一の対象を指す場合には、「当該」あるいは「その」との文言を付して限定しており(例えば、同条1項1号の「その商品等表示」、3号の「当該商品」、5号の「その営業秘密」、15号の「当該商標」等)、このような規定方法は7項と同時に立法された1項10号、11号でも踏襲されている(10号の「当該装置」、「当該プログラム」、「当該機能」、「当該技術的制限手段」、11号の「当該特定の者」)。また、法の他の条文(例えば、法5条、7条ないし13条、18条、19条、21条ないし23条、25条、26条、30条等)でも同様とされている。このように、法(不正競争防止法)においては、同一の条項中に複数の同一文言が現れ、これらが同一の対象を指す場合には、「当該」あるいは「その」との文言を付してこれを明示する形式を比較的厳格に遵守していることからすれば、前記の法2条7項の文言中の2つのプログラムは、同一のプログラムであることは要求されていないと解するのが合理的である。
 このような解釈を前提とするならば、実行が制限される前者のプログラムが、技術的制限手段とともに記録媒体に記録される後者のプログラムよりも広義である場合も、法2条7項所定の「技術的制限手段」に該当することとなることから、承認を受けたプログラムを除きプログラム一般(前者のプログラム)の実行を制限するために、技術的制限手段を特定のプログラム(後者のプログラム)とともに記録媒体に記録するような形態(「検知→可能方式」)も、法2条7項所定の「技術的制限手段」に含まれるとの結論が導かれることになる。
ウ そこで、上記の解釈が、法2条7項の制定過程に照らして、合理的であるか否かを検討する。
(ア) 法2条7項及び1項10号(及び11号)の制定に際しては、合同会議の報告書が公表され、コンテンツの提供に当たってコピーやアクセスを管理する技術が施されているところ、これを無効化する行為が広がりつつあり、これを放置したのでは、コンテンツ流通の発展の障害ともなりかねないとの認識のもとに、コピー管理技術及びアクセス管理技術の無効化機器や無効化を行うプログラムの蔓延を抑制するための法的ルールとして、こうした管理技術の無効化機能を有する機器等の提供を不正競争防止法上の「不正競争行為」として規定することが提言された(前記(1)エ(ア))。これを受けて、平成11年改正の改正法が国会提出された際の報道発表資料では、差止請求や損害賠償請求を、「コンテンツ提供事業に関与する者(コンテンツ発送者、機器メーカー等)に認める。」旨の記載があった(同(イ))。国会審議の際にも「コンテンツ提供事業」は「対価を得て音楽や映像といったコンテンツを提供する事業」を意味するとされていた(同(ウ)。平成11年改正が成立後に、立法担当者らによって執筆された「改正解説」でも、「コンテンツ提供事業においては、音楽、映像等を多数のユーザーに提供できるように加工する者、音楽、映像等を視聴するための機器・ソフトを製造する者等の様々な事業者・・・が連携している」とした上で、これらのコンテンツ提供事業者の存立基盤を確保することが必要であった旨の指摘をしていた(同(エ))。
 このように、平成11年改正は、コンテンツ提供事業者の利益を保護することを目的としていたこと、そして、保護の対象となるコンテンツ提供事業者として、コンテンツの制作者のみならず、「機器メーカー」や「機器を製造する者」を含めてコンテンツ提供事業に関与する者を幅広く含むものと理解されていたと認められる。加えて、技術的制限手段の実例として、「○無許諾記録物が視聴のための機器にセットされても、機器が動かない(ゲーム)」ことも掲げられていた。前記イのとおり、「検知→可能方式」をも技術的制限手段に含まれると解釈した場合には、機器メーカーや機器を製造する者において当該機器で利用可能なプログラムや映像、音を選択することをも許容することにつながるところ、平成11年改正が「機器メーカー」や「機器を製造する者」も保護対象として想定したことに照らせば、前記イの解釈は、平成11年改正の趣旨に沿ったものであることになる。
(イ) さらに、平成11年改正に当たっては、規制するべき対象としてMODチップが実例として挙げられていた。すなわち、合同会議の報告書では、新たな課題の例として、「正当に購入されたゲームソフトが一般のCD−Rに複製された場合、その複製物をゲーム機に装着しても使用できないように仕組まれているが、このような仕組みを働かなくするチップ」が問題とされ(前記(1)エ(ア))、国会審議でも、改正の背景となっている具体例として「ゲームメーカーの方では、販売をする正規の製品につきまして、パソコンで複製することのできない特殊な信号をつけておるわけです。・・・こういう信号を検知するゲーム機の機能というのを妨害するようなチップが、雑誌等の広告あるいはインターネットなどで売られておりまして」、「ゲームソフトをただで見られるような、無断でやれるような装置、これをMODチップと言っております」等と答弁されている(同(ウ)。立法担当者らによる改正解説でも、技術的制限手段の実例として、「○無許諾記録物が視聴のための機器にセットされても、機器が動かない(ゲーム)」を掲げ、「MODチップ(ソニー用)といった部品の販売が急増している。」としていた(同(エ))。
 MODチップは、特殊な信号を欠くためにゲーム機で実行できないはずのパソコン等で複製したゲームソフトを、実行可能にする機能を有するものであり(同(オ))、「検知→可能方式」を妨げるものである。かかるMODチップが規制対象として想定されていたことからすると、平成11年改正は「検知→可能方式」をも技術的制限手段に含まれる趣旨であると解するのがその意図に沿うと解され、前記イの解釈を支持するものである。
エ 以上について、控訴人らは、前記イの法2条7項の2つのプログラムが同一のプログラムであると解されるべきと主張する。しかし、かかる控訴人らの解釈は、法文の文言上も支持されないし、平成11年改正の立法過程で、自主制作ソフト等の実行を可能とすることに意義を認めるなどして、「検知→可能方式」のものを規制の対象から外すことを意図したことを窺がわせる証拠は見いだせないことからも、採用の限りではない。
 また、控訴人らは、平成23年改正の際の国会審議で、プラットフォームの囲い込みを保護するものではないとの答弁がされたことを指摘するが、当該答弁は「のみ」要件を削除する平成23年改正に関するものである上に、その趣旨が「検知→可能方式」を技術的制限手段から除外する趣旨であるとまでは理解できない。さらに、平成23年改正に際しては、「「のみ」要件を欠くと称する装置等が氾濫しており」と指摘され(前記(1)エ(キ))、その趣旨は、「不正競争の定義に・・・追加する」(同(ク))ことにあるとされていたが、これにしても、「検知→可能方式」が旧法の技術的制限手段に該当しないことを意味とするものとは解されず、むしろ、「検知→可能方式」が旧法の技術的制限手段に該当することを前提に、その他の機能を有することを仮装することで規制を免れようとする行為を防止することを目指したと解されるから、控訴人らの主張を基礎付けるものとは言い難い。また、控訴人X1は、かかる解釈は憲法21条に違反するとも主張するが、独自の見解に基づく主張であり、採用の限りではない。
オ 以上よりすると、法2条7項の「技術的制限手段」とは、「検知→可能方式」をも含むものと解釈するのが合理的である。
カ 法2条7項のその余の要件について本件に即してその意義を見ると、「制限する手段」とは、プログラムの実行に対して何らかの制限をするためのシステムを指すもの、「特定の反応」とは、プログラムの実行を制限することにつながる何らかの定められたルールに従った反応をいうとそれぞれ解される。
(3) 本件DS用マジコンが、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げることによりプログラムの実行を可能とする機能を有するか(争点1−1)について
 前記(2)のとおりの技術的制限手段の解釈を前提に、当裁判所は、@本件DS用マジコンは、技術的制限手段の効果を妨げることによりプログラムの実行を可能とする機能を有し、A当該技術的制限手段は、営業上用いられていると判断する。
ア 技術的制限手段の効果を妨げることによりプログラムの実行を可能とする機能を有するか
(ア) まず、DS本体及びDSカードで実施されている手段が法2条7項の技術的制限手段に該当するかについて検討する。
 ●(省略)●
 これがDSプログラムとともにDSカードに記録されているのであるから、技術的制限手段に該当する。
(イ) 次に、本件DS用マジコンが技術的制限手段の効果を妨げる機能を有するかについて検討する。
 ●(省略)●
(ウ) 以上よりすると、本件DS用マジコンに登載されたローダプログラムは、法2条1項10号にいう「技術的制限手段・・・により制限されている・・・プログラムの実行・・・を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする・・・機能を有するプログラム」に該当する。そして、本件DS用マジコンは、これを「記憶した機器」に該当することになる。
(エ) 以上に関連して、控訴人X1は、「検知→可能方式」が技術的制限手段に含まれないとの解釈を前提に、縷々主張するが、技術的制限手段から「検知→可能方式」を除外するべき理由がないことは前記のとおりである。また、控訴人メディアらも、「検知→可能方式」が技術的制限手段に含まれないとの解釈を前提に、縷々主張するが、いずれも採用の限りではない。また、控訴人メディアらは、特定信号1ないし4については、DSプログラムの起動自体には直接かかわっていないとして、DS本体とDSカードとの間の通信を確立させるプロトコルにすぎない旨の主張もするが、前記(ア)のとおり、DS本体及びDSカードで実施されている手段が行われることで、プログラムの実行が制限されているのであるから、特定信号1ないし4が技術的制限手段に該当しないとの控訴人メディアらの上記主張は、採用の限りではない。
イ 技術的制限手段が営業上用いられているか
 DS本体やDSカードにおいて用いられている技術的制限手段は、正規のDSカードのみによって利用が可能とすることで、DSカードを購入させるために用いられているのであるから、営業上用いられているといえる。
 これについて、控訴人X1は、当該技術的制限手段は独占禁止法19条で禁止する不公正な取引方法に該当する行為を行うために用いられているから、適法な営業に当たらない旨の主張をしている。しかし、被控訴人がライセンスを締結した者にのみDS本体で利用可能なソフトウエアの製造を許すことは、ソフトウエアの品質を管理する上でも意義を有すると考えられること(乙ニ59)、被控訴人以外にも各社が互換性のないゲーム機をそれぞれ開発して販売していることを考慮するときには、被控訴人の行為が独占禁止法19条に違反する行為であると認めるには足らず、控訴人X1の主張は採用の限りではない。
(4) 本件DS用マジコンが、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げる機能以外の機能を併せて有するか(法2条1項10号)(争点1−2)及び本件DS用マジコンが、営業上用いられている技術的制限手段の効果を妨げる機能のみを有するか(旧法2条1項10号)(争点1−3)について
 前記(3)のとおり、本件DS用マジコンに登載されたローダプログラムは、法2条1項10号にいう「技術的制限手段・・・により制限されている・・・プログラムの実行・・・を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする・・・機能を有するプログラム」に該当するところ、ローダプログラムが、それ以外の機能を有することを窺がわせる証拠はない。
 そして、平成11年改正の趣旨及び立法経緯に照らすと、旧法2条1項10号の「のみ」とは、必要最小限の規制という観点から、規制の対象となる機器等を、技術的制限手段を妨げることを専らその機能とするものとして提供されている物に限定し、他の目的で供されている装置等が偶然かかる機能を有する場合を除外している趣旨と理解できるものであるから、本件DS用マジコンに登載されたローダプログラムは、技術的制限手段の効果を妨げる機能のみを有するものである。
 以上に関して、控訴人X1は、本件DS用マジコンは、自主制作されたプログラムの実行も可能とする機能を有するとする。ローダプログラムによって技術的制限手段の効果が妨げられ、その結果として、自主制作されたプログラムも含めて多種多様なプログラムが実行可能となるのではあるが、これはローダプログラムが技術的制限手段を無効化する機能を有することの結果というにすぎず、ローダプログラムが技術的制限手段を無効化する機能以外の機能を有するというべきものではない。また、控訴人メディアらは、M3さくらは動画や音楽の再生を可能とする機能を有する、M3さくらでは、無関係の第三者が作成した非公式ファームウェアを利用しない限り、ダウンロードしたDSプログラムは実行できないなどと主張する。しかし、動画や音楽の再生を可能にするメディアプレーヤーも、同様に、M3さくらに登載されたローダプログラムが技術的制限手段の効果を妨げる機能を有する結果、DS本体で実行できるものであるから、メディアプレーヤーを実行できるとしても、ローダプログラムが技術的制限手段の効果を妨げる機能以外の機能を有すると認めることはできない。また、公式であると非公式であるとを問わず、M3さくらのファームウェアが実行できること自体も、同様にM3さくらに登載されたローダプログラムが技術的制限手段を回避する機能を有する結果にすぎない。そうすると、M3さくらのローダプログラムは技術的制限手段の効果を妨げる機能のみを有するものであって(旧法2条1項10号)、それ以外の機能を併せて有するものではない(法2条1項10号)。
(5) 小括
 以上によれば、本件DS用マジコンを輸入・販売等する行為は、法2条1項10号、旧法2条1項10号に該当する行為であると認められる。
2 差止請求・廃棄請求及び損害賠償請求について
(1) 前提となる事実
ア 控訴人X1について
 証拠(甲46ないし51、54、56、57及び58の各1及び2、59、60、61の1及び2、62ないし65、66及び67の各1及び2、68、69、70の1ないし3、71、72、73及び74の各1及び2、75、76及び77の各1及び2、79、80の1及び2、81ないし83、84の1ないし3、85、86の1及び2、87の1ないし3、88、90、91、92の1及び2、93の1ないし3、94の1ないし5、95の1及び2、140、141、142の1及び2、144の3、145、146の1ないし3、172、177、209、210及び211の各2、212の1ないし6、213の1ないし4、214、215、216の1及び2、217ないし219の各2、220、221の1ないし9、222の1ないし3、223の1ないし12、224の1ないし3、225ないし228、251、254、269、270、乙ハ22、ニ50、51)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(ア) 控訴人X1は、昭和24年台湾で出生し、昭和55年にFと婚姻して、昭和57年に日本に帰化しX1と改名した(従前の氏名「●(省略)●」)。Aは、控訴人X1の長男であり、昭和56年に出生した。
 控訴人X1は、平成14年7月12日、自らの名前の一部をとって、各種物品に関する輸出入及び販売等を事業目的とする有限会社キヒ商事(後のシーフォート)を設立し、同社の唯一の役員である取締役に就任した。控訴人X1は、後に、有限会社キヒ商事の取締役を辞任し、控訴人X1の次男が取締役に就任した。
 平成15年、控訴人X1は、Fと一旦離婚し、「●(省略)●」と称するようになった。
(イ) Aは、遅くとも平成18年9月には「マジカル上海」という商号でインターネットを利用したゲーム用の機器や部品の通信販売を開始し、同年10月には宅配便業者との間で宅配便の決済契約を締結した。
(ウ) 平成18年12月ころにR4が発売され、Aは、中国からR4を輸入し、同月26日、「マジカル上海」という名称で開設したウェブサイト上で販売したところ、約2時間で完売した。以後、R4を製造する工場の操業停止等により一時的な品薄になることはあったものの、Aは、おおむね順調に、中国からR4を1度に100台以上輸入するなどして、ウェブサイト「マジカル上海」上で販売することを繰り返した。
(エ) Aは、平成20年2月13日、本店所在地を自己及び控訴人X1の本籍地兼住所地であり、シーフォートの本店所在地でもある●(省略)●として、マジカルを設立し、マジカルに自己の営業を譲渡して、ウェブサイト「マジカル上海」を引き続き使用させた。
(オ) マジカルは、遅くとも平成20年5月2日には、平成19年12月ころに発売されたDSTTの販売も開始したが、売れすぎて対応しきれないほどであった。
 被控訴人とDSカードの販売業者らは、平成20年5月ころから、マジカルを含むDS用マジコンの販売業者らに対し、DS用マジコンの販売等が不正競争に当たるとして、販売の中止等を求める警告書を発送していた。マジカルは、同年7月ころから、ウェブサイト「マジカル上海」のトップページではDS用マジコンの販売を終了した旨表示する一方で、「隠し扉」という会員制のページではR4やDSTTの販売を継続した。
(カ) 被控訴人は、平成20年7月29日、DSカードの販売業者54社と共に、東京地方裁判所に対し、DS用マジコンの販売業者5社によるDS用マジコンの譲渡の差止め等を求める訴えを提起し、その旨発表した。
(キ) 控訴人X1は、平成20年8月11日、有限会社キヒ商事の商号を「有限会社シーフォートジャパン」に変更するとともに、本店所在地を当時の控訴人X1の住所地に変更し、自らが唯一の取締役に復帰した。
 マジカルは、同月ころから、インターネット上のフリーマーケットサイト「ムスビー」やオークションサイト「Yahoo!オークション」で、出品者名を「進化チーム」等と表示してR4やDSTTを多数販売するようになり、同年11月には宅配便業者数社との間において宅配便の決済契約を締結したり、同年12月23日には東京都豊島区東池袋のサンシャインシティで即売会を実施したりした。
(ク) マジカルは、平成21年1月から、ウェブサイト「マジカル上海」やゲーム雑誌の広告上で、近くDS用マジコンの販売を終了する旨表明していたところ、同年2月27日、東京地方裁判所がDS用マジコンの譲渡の差止め等を命じる判決を言い渡したので、ウェブサイト「マジカル上海」から「隠し扉」を削除した。
 しかし、マジカルは、このころから、ウェブサイト「マジカル上海」に「(株)マジカルカンパニーとは一切関係ございません。」と記載したり、販売主をシーフォートの商号をもじった「株式会社シーホースジャパン」や「株式会社シーフォードジャパン」と表示し、販売責任者を控訴人X1の旧姓名を使用した「●(省略)●」と表示したりして、R4やDSTTを販売した。
(ケ) マジカルは、平成21年3月4日から、ウェブサイト「マジカル上海」やゲーム雑誌で、同月18日に●(省略)●で店舗「マジカル上海」を開設する旨告知していたところ、遅くとも同月15日には、開店準備中の店舗前で、R4やDSTTのほか、新たに発売されたR4iの販売を開始するとともに、同月18日からは、予定どおりに開店した店舗で、R4やDSTT、R4iの販売を継続した。
(コ) DS用マジコンの販売業者らは、東京地方裁判所がDS用マジコンの譲渡の差止め等を命じる判決を言い渡した平成21年2月末からしばらくの間、DS用マジコンの販売を自粛していたが、同年4月ころには、販売を再開し始めた。被控訴人とDSカードの販売業者らは、同月以降、シーフォートらやAを含むDS用マジコンの販売業者らに対し、販売の中止等を求める警告書を再び発送した。しかし、控訴人X1は、送付を受けた警告書の受け取りを拒絶した。
 控訴人X1は、平成21年5月中旬ころから、代表者を「●(省略)●」と表示した上で中国にウェブサイト「マジ.COM」を開設し、マジカルは、顧客に対し上記ウェブサイトを利用するよう促し、顧客に対して、R4やDSTT、R4iを販売するようになった。マジカルは、同年6月中旬ころからは、店舗の看板に「大人の事情により閉店致しました。」と記載した紙を掲示しながら、店舗前でR4やDSTT、R4iの販売をしたり、同年7月17日には、店舗名を「マジカル上海ターボ」に変更して店舗での販売を再開したりした。
 Aは、同年8月28日、マジカルの取締役を辞任し、同日、控訴人X1がマジカルの唯一の(代表)取締役に就任した。
(サ) 被控訴人は、平成21年11月10日、東京地方裁判所に本件訴えを提起し、その旨発表した。控訴人X1は、自らの個人印を押して、答弁書を提出した。
 マジカルは、以後、会員向けのメールマガジンやウェブサイト「マジカル上海」上で、送信者や販売業者を実在しない「株式会社メダパニ」と表示した上、被控訴人が閲覧していることを前提に、上記メールマガジンに、「法務 部様 もうどうせ○。○えられてるなら隠し扉作っちゃいました」と記載し、「隠し扉」を復活させてR4やDSTT、R4iを販売したり、「法務 部様 おはようございます。マジカル上海です。ここのところ頻繁にくるN社からの警告文。○ジコン売るな…「売るな売るなといわれてはもう店に出せる商品がないじゃないですか!!!」←逆ギレこんな状態ですのでマジカル上海は太く短くを運営方針とし、いつ販売禁止になるかもしれない商品を、激安価格でさっさと皆様にご提供させていただきたい所存にございます。」と記載して被控訴人を挑発したりした。また、マジカルは、平成21年11月中旬ころからは、店舗「マジカル上海」の近くに別の店舗「裏マジカル上海」を開設してR4やDSTT、R4iを販売した。
(シ) マジカルは、平成22年5月10日には、本店所在地を控訴人X1の住所地であり、シーフォートの本店所在地である●(省略)●に変更して、少なくとも平成23年11月までは、R4やDSTT、R4iの販売を継続した。
 同年3月22日の佐川フィナンシャル株式会社に対する宅配便の決済契約の変更申出書には、控訴人X1が担当者として表示されている。
(ス) 被控訴人がAを被告として提起した民事訴訟は、被告欠席のまま平成24年3月9日、被控訴人の全面勝訴判決が言い渡され、後に確定した。
 平成25年7月9日、原審判決が言い渡され、マジカルについては後に確定した。同年9月30日、マジカルは解散し、控訴人X1は同社の代表清算人に就任した。控訴人X1は、自らの個人印を押印して、マジカルの解散を承認しかつ自らを代表清算人に選任する内容のマジカルの臨時株主総会議事録を作成した。また、控訴人X1は、自らの個人印を押印して、マジカルの解散及び代表清算人就任の登記申請を委任する内容の司法書士への委任状を作成した。
 控訴人X1は、被控訴人に対して、債権申出の催告をしなかった。控訴人X1は、自らの個人印を押印して、マジカルの清算事務及び決算報告書や臨時株主総会議事録を作成した。マジカルについては、平成26年1月8日付けで、平成25年12月31日に清算が結了した旨の登記がされた。
イ 控訴人メディアらについて
 証拠(甲5の2、6、7、31の2、52、54、97、98、99及び102の各1及び2、103ないし106、108ないし110、111の1ないし7、112、114、116、117、118の1及び2、119、124、125、126の2、127、130、131、133ないし138、177、180ないし182、183の1ないし3、186、187、197及び198の各1ないし3、199の1ないし5、202及び203の各2、204の1及び2、205の1ないし3、229の1ないし3、236、237、238の1ないし4、239の1及び2、240、247、249、250、乙ニ29、40、41の1ないし3、鑑定の結果)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(ア) 控訴人X2は、昭和51年に台湾で出生し、平成10年に日本に帰化した。Gは控訴人X2の妻であった者である。
 控訴人メディアは、控訴人X2を代表取締役、Gを取締役の一人として平成15年4月に設立された。控訴メディアは、コンピュータ部品の卸売や通信販売を主な事業とし、●(省略)●の本店事務所を拠点としながら、平成17年に「M3 FLASH」や「Asian.net」という名称で開設したウェブサイト上で、中国のM3Adapter社が開発したDS用マジコン「M3−Perfect」やその後継機である「M3 DS Simply」を輸入して販売していた。
 控訴人メディアは、これらのDS用マジコンをDS本体における動画や音楽等に関する特定のプログラムの実行を可能にするマルチメディアプレイヤーであるとうたって販売していたが、これらのDS用マジコンはDSプログラムの実行をも可能にするものであって、このことは広く知られていた。
(イ) 控訴人メディアは、平成18年4月、宅配便業者数社との間で宅配便の決済契約を締結した上で、遅くとも平成19年2月7日には、中国からR4を輸入し、DS用マジコンの販売業者に卸売りをしたり、ウェブサイト「Asian.net」上で通信販売をしたりしていた。
 控訴人X2は、平成19年5月には、DS用マジコン等の主要な仕入れ先に対して、自らの個人のメールアドレスから注文をするなどした。
(ウ) 控訴人X2は、平成19年に控訴人メディアに税関の調査が入ったことから、
同年8月12日に控訴人メディアの本店所在地を自己の住所地である●(省略)●に変更するとともに、同月17日に控訴人メディアの取締役であるBが代表者を務める休眠法人であった「有限会社大豊システム」の商号や目的、本店所在地、役員構成を本店変更前の控訴人メディアのそれらと同じものに変更させ、同年9月26日に商号を控訴人Mediaの現商号に変更させて、同年10月以降、控訴人メディアの事業を控訴人Mediaに順次譲渡していった。
(エ) M3Adapter社は、平成19年10月中旬、DS用マジコン「M3 DS Simply」の後継機である「M3 DS REAL」を発売し、控訴人メディア又は控訴人Mediaも、同月18日、販売を開始した。
 DS用マジコン「M3 DS REAL」は、インターネット上のウェブサイトから「公式ファームウェア」と呼ばれるプログラムをダウンロードしても、DSプログラム以外の動画や音楽等に関する特定のプログラムの実行を可能にするだけであり、控訴人メディア又は控訴人Mediaもその旨をうたって販売していたが、ウェブサイトから「非公式ファームウェア」と呼ばれるプログラムをダウンロードすれば、DSプログラムの実行をも可能にするものであった。そして、上記非公式ファームウェアは、ウェブサイトやゲーム雑誌で紹介され、その存在が広く知られていた。
(オ) 控訴人Mediaは、遅くとも平成19年12月28日には、DSTTの販売を開始した。
(カ) 控訴人X2は、平成20年2月に控訴人メディアが追徴課税を受けたことから、同月25日に取引口座を控訴人メディアのものから控訴人Mediaのものに変更するなどして、控訴人メディアから控訴人Mediaへの事業譲渡をほぼ完了させ、同年1月に控訴人Mediaの本店所在地を●(省略)●に変更してはいたものの、●(省略)●の旧本店を拠点として使用し続けるとともに、その電話番号やファクシミリ番号も継続して使用し続けた。
(キ) 控訴人X2は、DS用マジコン「M3 DS REAL」によってDS本体が実行するプログラムの画面が見にくく、操作性も悪かったので、M3Adapter社に対してこれらの問題点を改良した新製品の開発を依頼していたところ、平成20年2月ころ、新製品がおおむね完成した。
 そこで、控訴人Mediaは、新製品を「M3さくら」と命名し、平成20年2
月ころからウェブサイト「M3 FLASH」や「Asian.net」、「M3さくら」という名称で開設したウェブサイト上等で同年5月に発売する旨宣伝した。M3さくらも、DS用マジコン「M3 DS REAL」と同様に、公式ファームウェアをダウンロードしても、DSプログラム以外の動画や音楽等に関する特定のプログラムの実行を可能にするだけであり、控訴人Mediaもその旨をうたっていたが、DSプログラムの実行も可能にする非公式ファームウェアの開発が進められ、同年5月16日に発売されたゲーム雑誌には、非公式ファームウェアの開発が進められ、近く特定のウェブサイト上で配布される旨が説明されていた。
(ク) 控訴人X2は、平成20年5月ころ、被控訴人とDSカードの販売業者らがDS用マジコンの販売業者らに対して警告書を発送し始めたことを受け、早ければ同月24日には、公式にもDSプログラムの実行を可能にするR4やDSTTの販売をほぼ終了させ、同月31日には、控訴人メディアを解散し、代表清算人として、清算手続を開始し、同年10月15日に残余財産949万1637円を株主に分配することにより清算を結了したとして、同月22日にその旨の登記をした。控訴人X2は、清算手続において、被控訴人等に対して債権を申し出るべき旨を催告しなかった。
(ケ) 控訴人Mediaは、平成20年5月30日、M3さくらの販売を開始した。また、遅くとも同日には、特定のウェブサイト上でDSプログラムの実行をも可能にする非公式ファームウェアの配布が開始され、以後、ウェブサイトやゲーム雑誌で紹介されて、その存在が広く知られていった。
 平成20年5月31日には、卸先のDS用マジコンの販売業者において、M3さくらの即売会が実施され、好評を博した。
(コ) 控訴人Mediaは、少なくとも平成21年10月までは、M3さくらの販売を継続した。
(サ) 控訴人メディアは、平成19年には9人の給与所得から源泉徴収をし、控訴人Mediaは、平成20年には13人、平成21年には12人、平成22年には17人の給与所得から源泉徴収した。
ウ DS用マジコンに関する一般的認識等について
 証拠(甲3、4、5の1及び2、6、8ないし23、24の1ないし4、25ないし30、31の1及び2、32、33の1及び2、34の1ないし8、35、36、44、126の1及び2、150ないし156、163ないし167、177、180ないし182、201、乙ニ1の1及び2、2ないし5、18ないし22)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(ア) インターネットやゲーム雑誌、テレビ、新聞等は、遅くとも平成19年1月から、DS用マジコンがDS本体での実行を制限されるDSプログラムの実行を可能とする機能を有しており、このため、DS用マジコンを用いれば、DSカードを購入しなくても、「ROMサイト」等と呼ばれるウェブサイトから「コピーゲーム」等と呼ばれるDSプログラムをダウンロードするだけで、DSプログラムを無償で入手することができる上に、DS本体においてゲーム等をすることができるようになること、その結果、被控訴人やDSカードの販売業者は、DSカードの売上げが減り、損害を被っていることを多数紹介し、これらが広く知られていた。
(イ) 平成20年8月ないし9月ころまでは、DS用マジコンは、「Amazon.co.jp」に出品されるなどしていた。同年7月に被控訴人がDS用マジコンの販売業者を提訴したことを受けて、「楽天オークション」や「Amazon.co.jp」はDS用マジコンの出品を禁止したが、「Yahoo!オークション」は、「違法性については、訴訟によって明らかになるところです。」として、直ちには出品を禁止せず、平成21年2月の東京地方裁判所の判決を受けて、出品を禁止するに至った。
(2) 控訴人らの不正競争によって被控訴人の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるか(争点2)、控訴人らが不正競争行為によって被控訴人の営業上の利益を侵害したか(争点3)及び控訴人X1及び控訴人X2に故意・過失や悪意・重過失があるか(争点4)について
 当裁判所は、控訴人らの不正競争によって被控訴人の営業上の利益が侵害されており、これについて控訴人X1及び控訴人X2には少なくとも過失があるから、控訴人らは損害賠償債務を負担し、控訴人X1及び控訴人Mediaに差止めをする必要性も肯定されると判断する。その理由は次のとおりである。
ア 控訴人X1について
(ア) まず、控訴人X1が、個人としての不正競争によって、被控訴人の営業上の利益を侵害したか(争点3)について検討する。
 マジカルは、シーフォートマジコンを輸入・販売していたところ、前記(1)アに認定の事実によれば、@控訴人X1は、Aの実母であること、A平成21年8月、Aに代わって控訴人X1がマジカルの唯一の取締役に就任したこと、B平成20年2月13日にマジカルが設立された際の本店を控訴人X1の住所地に置いたこと、Cウェブサイト「マジカル上海」上の販売責任者の表示に控訴人X1の旧姓を使用したり、控訴人X1が設立したシーフォートの商号をもじった名称を販売主として表示したこと、Dマジカルが被控訴人から警告を受けると、控訴人X1がウェブサイト「マジ.COM」を開設してシーフォートマジコンを販売するようになり、マジカルがこれに顧客を紹介したこと、E控訴人X1はマジカルの運営する店舗で販売を担当したり、被控訴人からの警告書を受領拒絶したこと、控訴人X1は、マジカルの代表清算人となったこと、FDS用マジコンは中国から輸入されているところ、Aは日本語を母語とし、控訴人X1は中国語を母語とするから、輸入元との意思疎通は控訴人X1においてよりよく果たし得ると考えられること、G控訴人X1は、自ら各種物品の輸入販売等を目的とするキヒ商事(後のシーフォート)を設立し、経営するなど、輸入販売の業務に精通していると考えられること、以上の各事実が認められる。これらを総合すると、控訴人X1は、マジカルの経営に深く関与し、一連のシーフォートマジコンの販売も自ら主体的に行っていたというべきである。そうすると、遅くともマジカルがAから営業を譲り受けてシーフォートマジコンの輸入・販売を開始した平成20年2月13日以降は、控訴人X1は、マジカルと共同してシーフォートマジコン(同日から同年5月1日まではR4、同月2日から平成21年3月14日まではR4とDSTT、同月15日から平成23年11月まではR4とDSTT、R4i)を輸入、販売して、被控訴人の営業上の利益を侵害したものと認めるのが相当である。そして、以上の事情に加えて、マジカルに控訴人X1やA以外に多くの従業者がいたとは考え難いことを併せ考えても、控訴人X1がマジカルの唯一の代表取締役に就任した平成21年8月28日以降も、控訴人X1は、自ら主体的にあるいはその指揮監督の下にシーフォートマジコンを輸入、販売したと認めるのが相当である。
 これに対して、控訴人X1は、日本語能力も不十分で、マジカルの従業員としてこれらの製品の譲渡等を手伝ったことはあるものの、マジカルと離れて、自ら主体的に譲渡等したことはない等と主張し、その旨の同人の陳述書(乙ハ32)やAの陳述書(乙ハ33)を提出する。しかし、前記のとおりの事情を総合すると、Aにおいてもシーフォートマジコンの輸入・販売に相当程度関与していたとしても、控訴人X1も自ら主体的に関与していたとの認定を左右するものではない(なお、控訴人X1は、原審においても当審においても、本人尋問の申出やAの証人尋問の申請を行っていない。)。また、控訴人X1は、「マジ.COM」を開設したのはAである、「ムスビー」や「Yahoo!オークション」での販売もA個人が行った旨の主張もするが、Aにおいて開設者を偽装する意図であれば実母である控訴人X1以外の者を利用するなどしたと考えられることや、これらの出店者の名称や送り先がマジカルの住所地であることからすると、前記のとおり認定されるのであって、控訴人X1の主張は採用の限りではない。
(イ) 次に、かかる不正競争について、控訴人X1に故意・過失があるか(争点4)について検討する。
 前記(1)ア及びウに認定のとおり、控訴人X1は、本件DS用マジコンを販売していた会社の代表者を務めていたことや、DS用マジコンを用いれば無償で入手したDSプログラムを実行できることを知っていたと認められることに照らせば、控訴人X1は、マジカルと共同で本件DS用マジコンの輸入・販売を開始した平成20年2月13日の時点で、当該輸入・販売が被控訴人の営業上の利益を侵害していることについて少なくとも過失があったと認められる。そして、同年5月には被控訴人がマジカルを含めてDS用マジコンの販売業者に警告をし、同年7月には東京地方裁判所に民事訴訟を提起したこと、これを受けてマジカル及び控訴人X1は、「マジカル上海」に「隠し扉」という会員制のページを設けてシーフォートマジコンの販売をしたり、「進化チーム」や「株式会社シーホースジャパン」、「株式会社メダパニ」等の偽名を使用し、また、店舗名の変更や別の店舗を開設したりして、販売を継続したこと、メールマガジンには、「いつ販売禁止になるかもしれない商品を、激安価格でさっさと皆様にご提供させていただきたい所存にございます。」などと記載して被控訴人を挑発していたことを考慮すると、控訴人X1は、平成20年5月ないし7月ころ以降は、本件DS用マジコンの輸入・販売が被控訴人の営業上の利益を侵害することについて、認識・認容しているのみならず、積極的な害意をもって、これを継続したと認められる。
 以上に関し、控訴人X1は、DS用マジコンは平成20年春ころまで普通に販売されていたし、違法性について争いがあったから、違法性の認識可能性すらなかったと主張する。しかし、一般に販売がされていたとしても、これが適法なものとして販売されていたものでもなく、控訴人X1において、本件DS用マジコンの輸入・販売が被控訴人の営業上の利益を侵害していることについて過失があったと認められることは左右されない。
 そうすると、前記(ア)のとおり、控訴人X1は、遅くとも平成20年2月13日以降は、マジカルと共同して不正競争によって被控訴人の営業上の利益を侵害し(法4条、民法719条)、控訴人X1がマジカルの代表取締役に就任した平成21年8月28日以降も自ら主体的にあるいはその指揮監督の下に被控訴人の営業上の利益を侵害したのであるから(法4条、会社法350条)、平成20年2月13日以降の期間について、マジカルと連帯して損害賠償債務を負担するというべきである。
(ウ) さらに、控訴人X1の不正競争によって、被控訴人の営業上の利益が侵害されるおそれがあり、差止めの必要性が肯定されるかについて検討する(争点2)。
 マジカルや控訴人X1が現在もシーフォートマジコンを輸入・販売していることは窺えないが、控訴人X1が、被控訴人からの度重なる警告にもかかわらず、積極的な害意を持ち、強固な意志でシーフォートマジコンの販売を継続し、販売主体を偽装するなどしていたこと、控訴人X1は、本件訴訟で本件DS用マジコンが法2条1項10号に該当することや、自らが輸入販売に主体的に関与したことを争っていること、控訴人X1が被控訴人に債権申出の催告をしないままマジカルの清算を結了していることを考慮すると、控訴人X1が、今後、シーフォートマジコンを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入し、これによって被控訴人の営業上の利益が侵害されるおそれがあることは優に認められる。
 以上に関し、控訴人X1は、現在、本件DS用マジコンを輸入することができない上、平成23年改正で刑事罰も導入されたから、本件DS用マジコンを譲渡などする予定はないと主張するが、採用の限りではない。
 そうすると、控訴人X1に対する法3条に基づく差止めの請求も肯定されるべきことになる。
イ 控訴人メディアらについて
(ア) まず、控訴人メディア及び控訴人Mediaが被控訴人の営業上の利益を侵害したか(争点3)について検討する。
 前記(1)イに認定の事実によれば、平成19年2月7日から同年9月までは、控訴人メディアが単独でR4を販売し、同年10月から同年12月27日までは、控訴人メディア又は控訴人MediaがR4を販売し、同月28日から平成20年5月24日までは、控訴人メディア又は控訴人MediaがR4を販売するとともに、控訴人Mediaが単独でDSTTを販売し、同月30日から平成21年10月までは、控訴人Mediaが単独でM3さくらを販売していたことが認められる。
 そして、前記(1)イに認定の事実によれば、控訴人メディアの代表者であった控訴人X2は、税関や被控訴人等からの追及を免れるために、控訴人メディアの本店所在地を変更するとともに、休眠法人であった控訴人Media(有限会社大豊システム)の商号や目的、本店所在地、役員構成を本店変更前の控訴人メディアのそれらと同じものに変更し、控訴人メディアの事業を控訴人Mediaに譲渡して、営業拠点や連絡先を引き継がせた後に、控訴人メディアを解散したことが認められるのであって、控訴人メディアと控訴人Mediaとは、実質が前後で同一であり、控訴人Mediaによる株式会社への移行と控訴人メディアの解散は、両控訴人の債務の免脱を目的としてされた会社制度の濫用であるから、両控訴人が、被控訴人に対し、別異の法人格であると主張することは信義則に反し許されないというべきである(最判昭和48年10月26日・民集27巻9号1240頁参照)。そうすると、被控訴人との関係においては、控訴人メディア及び控訴人Mediaは、一体となって、平成19年2月7日から同年12月27日まではR4を販売し、同月28日から平成20年5月24日まではR4とDSTTを販売し、同月30日から同年6月3日までは、DSTTとM3さくらを販売し、同月4日から平成21年10月まではM3さくらを販売して、被控訴人の営業上の利益を侵害したということができる。
(イ) 次に、控訴人X2が、個人としての不正競争によって被控訴人の営業上の利益を侵害したか(争点3)について検討する。
 前記(1)イに認定の事実によれば、@控訴人メディアの代表取締役は設立時以来一貫して控訴人X2であること、A控訴人X2が控訴人Mediaの代表取締役に就任し、控訴人メディアの本店所在地を控訴人X2の住所地に移転しているなど、前記(ア)のとおりの濫用的な法人格の利用は控訴人X2が主導したと考えられること、B控訴人メディアの取締役の内の1名はその妻であるGであるなど同族会社としての色彩を有し、控訴人X2の控訴人Mediaや控訴人メディアにおける役割は大きかったと考えられること、C控訴人X2がDS用マジコン等の主要な仕入れ先に自らのメールアドレスから注文をしていることが認められ、これらの事実に加えて、控訴人X2においても同人以外の者が、現実にメディアマジコンの輸入・販売を行ったと主張立証するわけではないことを考慮すれば、控訴人Media又は控訴人メディアによる被控訴人の営業上の利益の侵害は、控訴人X2が自らが行いあるいはその指揮監督の下に行われたと見られるのであるから、控訴人X2も、個人として被控訴人の営業上の利益を侵害したと評価できる。
(ウ) さらに、控訴人X2が控訴人メディアや控訴人Mediaの代表取締役として、あるいは控訴人X2個人として、不正競争を行うについて、故意・過失があったか(争点4)について検討する。
 前記(1)イ及びウに認定のとおり、控訴人X2は、本件DS用マジコンを販売していた会社の代表者を務めていたことや、平成17年ころからDS用マジコン「M3−Perfect」や「M3 DS Simply」を輸入して販売していたこと、DS用マジコンを用いさえすれば、無償で入手したDSプログラムを実行できることを知っていたと認められることに照らせば、控訴人X2も、R4の輸入・販売を開始した平成19年2月の時点で、当該輸入・販売が被控訴人の営業上の利益を侵害していることについて、少なくとも過失があったと認められる。そして、同年5月には被控訴人が控訴人メディアを含めてDS用マジコンの販売業者に警告をし、同年7月には東京地方裁判所に民事訴訟を提起したこと、控訴人X2は、被控訴人からの追及を免れるために控訴人メディアを解散したことを考慮すると、控訴人X2も、平成20年5月ないし7月ころ以降は、本件DS用マジコンの輸入・販売が被控訴人の営業上の利益を侵害することについて、認識・認容していたのみならず、積極的な害意をもって、これを継続したと認められる。
 そうすると、控訴人X2は、自らあるいはその指揮命令の下に不正競争によって被控訴人の営業上の利益を侵害し(法4条)、前記(ア)のとおり、控訴人Media及び控訴人メディアは一体となって不正競争により被控訴人の営業上の利益を侵害し(法4条)たのであるから、連帯して(会社法350条)損害賠償債務を負担するというべきである。
 以上に関して、控訴人X2は、控訴人メディアや控訴人Mediaが9人ないし17人の従業員を雇用しており、被控訴人X2と同一視することはできない等と主張する。しかし、会社の取締役がその職務を行うにつき故意・過失により直接第三者に損害を加えた場合は、一般不法行為の規定によって損害を賠償する義務を負うべきと解されるところ(最判昭和44年11月26日・民集23巻11号2150頁参照)、他に従業員がいたとしても、前記のとおり控訴人Media又は控訴人メディアによる被控訴人の営業上の利益の侵害が、控訴人X2自らによってあるいはその指揮監督の下に行われたと見られることを左右しないから、控訴人X2もまた、法4条の規定により損害賠償の責任を負うものである。
 なお、控訴人メディアについては、清算結了の登記がされているが、前記のとおり、控訴人X2は、控訴人メディアに本件DS用マジコンを譲渡させることにより、被控訴人の営業上の利益を侵害して損害を与えたことを認識していたのであるから、被控訴人は、会社法499条1項にいう「知れている債権者」であったところ、控訴人メディアの代表清算人であった控訴人X2は、控訴人メディアの清算手続において、被控訴人に対してその債権を申し出るべき旨を催告することなく、約949万円を残余財産として株主に分配した(甲204の1ないし3、205の1ないし3)。そうすると、控訴人メディアは、清算の目的の範囲内において、なお存続しているものであり(会社法476条)、被控訴人に対する損害賠償債務は消滅しない。
(エ) 次に控訴人メディア及び控訴人Mediaが被控訴人の営業上の利益を侵害するおそれがあり、差止めの必要性が肯定されるかについて検討する(争点2)。
 控訴人Mediaが現在もメディアマジコンを輸入・販売していることは窺えないが、控訴人Mediaが従前販売されていた「M3 DS REAL」の問題点の改良を依頼するなど「M3さくら」の開発に主体的に関与していたこと、控訴人Mediaと控訴人メディアが法人格を濫用的に使い分けていること、控訴人Mediaは本件DS用マジコンが法2項1項10号に該当することを争っていることを考慮すれば、今後、控訴人Mediaが、メディアマジコンを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入し、これによって被控訴人の営業上の利益が侵害されるおそれがあることは優に認められる。
 この点、控訴人Mediaは、本件DS用マジコンは現在販売されている「ニンテンドーDS」シリーズで起動しない上、平成23年改正で刑事罰も導入されたから、本件DS用マジコンを譲渡などする予定はないと主張する。しかし、本件DS用マジコンが現在販売されている「ニンテンドーDS」シリーズで起動しないとしても(乙ニ53)、これまで販売された多数のDS本体では依然として起動可能であるから、本件DS用マジコンに対する需要はあるというべきである。刑事罰が導入されたことも、前記判断を左右しない。
 したがって、控訴人Mediaに対する法3条に基づく差止請求は肯定されるべきことになる。
 なお、控訴人メディアの行為によって被控訴人の営業上の利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあるということはできない(被控訴人は、同趣旨の原判決の判断をあえて争わないとしている。)。
(3) 被控訴人が受けた損害の額(争点5)について
 当裁判所は、被控訴人が控訴人らの不正競争によって受けた損害は、控訴人X1について●(省略)●円、控訴人メディアらについて●(省略)●円であると判断する。
ア DSプログラムのダウンロード数から推計する方法について
 被控訴人が主張する損害をDSプログラムのダウンロード数から推計する方法は、採用することができない(被控訴人は、原判決の同趣旨の判断をあえて争わないとしている。)。
イ 年間タイレシオから推計する方法について
(ア) DSカード1本当たりの利益の額について
 証拠(甲169の1、173、鑑定の結果)によれば、被控訴人におけるDSカード1本当たりの利益の額は、別紙逸失利益額一覧表記載のとおり、12表題が●(省略)●円を下らず、92表題が●(省略)●円を下らないことが認められるから、その平均額は、次の計算式のとおり、●(省略)●円を下らない。
 (計算式)
 (●(省略)●円×12表題+●(省略)●円×92表題)÷(12表題+92表題)=●(省略)●円 (小数点未満切捨て)
(イ) 本件DS用マジコン1台当たりのDSカードが事実上販売できなくなった本数について
a 証拠(甲177、190の1ないし5、195の4及び5、230ないし232、233の1ないし4、乙ニ52)によれば、@国内におけるDS本体1台当たりのDSカードの年間販売数を示す年間タイレシオ(DSカードの年間販売数÷DS本体の累積販売数)と国内におけるDS本体1台当たりのDSカードの累積販売数を示す累積タイレシオ(DSカードの累積販売数÷DS本体の累積販売数)は、別紙DS本体とDSカードのタイレシオ記載のとおりであり、年間タイレシオは、平成16年12月から平成17年12月までが3.246本、平成18年が3.236本とほぼ一定であったのに対し、平成19年が1.997本、平成20年が1.312本、平成21年が0.975本と毎年大きく減少していること、ADS用マジコンを購入した者は以後DSカードを購入せず(後記b)、DS用マジコンの普及率を10パーセントと仮定した場合、DS用マジコンの販売がなければ、平成19年以降の年間タイレシオは、2.188本ないし1.083本、同20パーセントと仮定した場合、2.496本ないし1.219本となると考えられること、Bゲーム業界は、平成18年以降、拡大し続けていて、平成20年後半に始まった不況下においても、単価が他のレジャーに比べて安いこと等から、むしろ売上げが増加していたこと、CDS用マジコンは、平成17年4月ころから販売されていたが、R4がその使いやすさゆえに平成18年12月ころから爆発的に販売されるようになったこと、D被控訴人は、平成19年以降、ゲーム機「Wii」向けのゲームソフトの製作、販売に注力するようになり、DS本体向けのゲームソフトでヒットする作品が出なかった一方で、平成20年にはソニーの販売する携帯型ゲーム機「プレイステーション・ポータブル」向けのゲームソフトで、平成21年には株式会社スクウェア・エニックスの販売するDS本体向けのゲームソフトで、それぞれヒットする作品が出たことが認められる。
 前記認定の事実に、年間タイレシオは漸減していくのが通常であることや、被控訴人の販売するゲーム機「Wii」における年間タイレシオの減少具合を併せ考慮すると、本件DS用マジコンの譲渡がなかったと仮定した場合の平成19年から平成21年までの間の年間タイレシオは、少なくとも平均2本はあったと認めるのが相当である。
 控訴人X1は、年間タイレシオは、損害賠償を請求する平成19年から平成21年までの実際の本数を用いるべきであると主張する。しかし、平成19年から平成21年までの実際の年間タイレシオは、DS用マジコンの譲渡による影響を受けた数値であって、DS用マジコンの譲渡がなかった場合のDSカードの年間販売数を意味しないから、控訴人X1の上記主張は、採用することができない。
b 前記認定の事実によれば、インターネットやゲーム雑誌、テレビ、新聞等は、遅くとも平成19年1月から、DS用マジコンを用いれば、DSカードを購入しなくても、無償で、DS本体においてゲーム等をすることができるようになることを多数紹介し、広く知られていた上、証拠(甲8ないし20、33の1及び2、34の3、150、乙ニ14、16、17)及び弁論の全趣旨によれば、@インターネット上には無料でDSプログラムがダウンロードできるウェブサイト等が多数あり、多数のDSプログラムが掲載されていること、Aこれらのウェブサイトには、時には正規のDSカードの発売以前にDSプログラムが掲載されることすらあること、BDS用マジコンを取得した者は、実際にDSカードを購入しなくなったこと、CDS用マジコンを用いてもDSプログラムを実行するのに支障はなく、むしろ多数のDSプログラムを一枚のMicroSDカードに記録できるなどの利便性があること、これらの事実を総合すれば、DSマジコンを購入した者においては、(少なくとも被控訴人が損害賠償を請求する期間においては)DSカードを購入しないのがむしろ合理的な行動であると認められ、そうすると、DSカードの販売業者は、DS用マジコンが譲渡されると、販売することができたはずのDSカードを販売することが事実上できなくなったものと認められる(なお、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会が平成22年9月に実施したアンケート調査の結果によれば、DS本体とDS用マジコンを保有している者のうち、DS用マジコンの利用によってDSカードを購入する頻度が減ったのは20.5%にとどまっているが(甲192の125頁)、これは、自己に不利益な回答を差し控えたことによるものと推認される。)。
 また、例外的な場合を除いては、DS本体1台について複数のDS用マジコンを所持する理由はないと考えられるから、被控訴人は、本件DS用マジコン1 台の販売によって、対応するDS本体1台分のDSカードを販売することが事実上できなくなったと認めるのが相当である。
c 被控訴人が損害賠償を求める期間の控訴人らによる本件DS用マジコンの販売台数は後記(ウ)のとおりであるところ、同期間の当初に販売した本件DS用マジコンは同期間の末に販売した本件DS用マジコンよりも多くのDSカードについて販売することを事実上できなくしていることになる。この点、控訴人らが本件DS用マジコンを販売した期間中の総ての日について何台の本件DS用マジコンを販売したのかを的確に認定するに足りる資料があるわけではないから、本件DS用マジコン1台について何本のDSカードが事実上販売できなくなったかを推計する限りにおいては、本件DS用マジコンが販売された期間中のいずれの日にも同数の本件DS用マジコンの販売があったと仮定するのが合理的である。また、本件DS用マジコンがDSカードを事実上販売できなくした本数は、販売されてからの期間に比例するとするのが合理的である。
 他方、証拠(甲184)によれば、DSカードの国内販売数における被控訴人の市場占有率は●(省略)●%であると認められる。
d そうすると、控訴人X1のシーフォートマジコンの販売期間は平成20年2月13日から平成21年9月30日までの596日間、控訴人メディアらのメディアマジコンの販売期間は平成19年2月7日から平成21年9月30日までの967日間であるから、各控訴人らについて、本件DS用マジコンの1台の販売によって、本件DS用マジコンが販売された期間中に事実上販売することができなくなった被控訴人のDSカードの平均本数は、次の計算式のとおり、控訴人X1について●(省略)●本、控訴人メディアらについて●(省略)●本であると認められる。
 (計算式)
 控訴人X1:2本×(596日/365日)÷2×●(省略)●%=●(省略)●本控訴人メディアら:2本×(967日/365日)÷2×●(省略)●%=●(省略)●本 (小数点4位で切り捨て)
e 控訴人メディアらは、@DSカードを購入しない者は、DS用マジコンが譲渡されなくても、購入しないし、逆にDS用マジコンが譲渡されれば、購入するようになる、ADSカードを購入する者は、DSプログラムをダウンロードして試用した後でも、DSカードを購入する、Bウェブサイト上にDSプログラムがアップロードされれば宣伝効果が生じる、C被控訴人の累積タイレシオは年々増加しているから、本件DS用マジコンの譲渡により、被控訴人が販売することができたはずのDSカードを販売することができなくなったとはいえないと主張する。しかし、控訴人メディアらの主張する@ないしBの事実を的確に認めるに足りる証拠はない(なお、経済産業研究所のHは、DVDの売上げとウェブサイト「YouTube」における再生数の関係について@ないしBと同様の関係が存在する旨を指摘しているが(乙ニ23)、DSカードの売上げとDS用マジコンによるDSプログラムのダウンロード数の関係については妥当しない旨を述べている(甲193)。)。また、Cについて、累積タイレシオは、年ごとのDSカードの販売数を示すものではないから、DS用マジコンの譲渡による影響の有無を直接示すものではない。したがって、控訴人メディアらの上記主張は、採用することができない。
 また、控訴人メディアらは、平成19年から平成21年までの年間タイレシオを控除すべきであると主張する。しかし、以上は、本件DS用マジコン1台の販売によって何本のDSカードが事実上販売できなくなったかを認定し、この本数に控訴人らが譲渡したと認められる本件DS用マジコンの台数を乗ずることで、被控訴人の損害を求めようとするものであるから、実際の年間タイレシオを控除する理由はない(本件DS用マジコンの譲渡がなかった場合の年間タイレシオから実際の年間タイレシオを控除し、これにDS本体の販売台数を乗ずることで、本件DS用マジコン全体による損害を認定しようとするのであれば、実際の年間タイレシオを考慮する意味があると思われるが、そのような方式を採用するわけではない。)。控訴人メディアらの上記主張は、採用することができない。
(ウ) 本件DS用マジコンの譲渡数について
a 控訴人X1について
(a) 証拠(甲93の1ないし3、209、210及び211の各2、252、乙ハ19、鑑定の結果)によれば、次の事実が認められる。
@ 控訴人X1は、マジカルと共同して、平成20年8月11日から同年11月13日までの95日間、フリーマーケットサイト「ムスビー」で、R4を486台、DSTTを228台販売した。
A 控訴人X1は、マジカルと共同して、オークションサイト「Yahoo!オークション」で、DSTTを平成20年8月18日から同年10月14日までの58日間、R4を同年8月21日から同年12月17日までの119日間販売した。
 1日当たりの販売台数は、フリーマーケットサイト「ムスビー」での1日当たりの販売台数と同様であった。
B 控訴人X1は、マジカルと共同して、平成20年12月10日から同月25日までの16日間、ウェブサイト「マジカル上海」上で、R4を1383台、DSTTを1902台販売した。
C 控訴人X1は、マジカルと共同して、平成21年3月15日以降、R4やDSTT、R4iを店舗での販売用とインターネット上での販売用に半分に分けて、同数程度販売した。
 R4iの1日当たりの販売台数は、R4の1日当たりの販売台数と同様であった。
(b) 前記(a)認定の事実によれば、控訴人X1は、マジカルと共同して、次の計算式のとおり、@ウェブサイト「マジカル上海」上で、R4を平成20年2月13日から平成21年9月30日までの596日間にわたり5万1516台、DSTTを平成20年5月2日から平成21年9月30日までの517日間にわたり6万1458台販売し、Aオークションサイト「Yahoo!オークション」で、DSTTを139台、R4を608台販売し、B店舗で、平成21年3月15日から同年9月30日までの200日間、R4を1万7287台、DSTTを2万3775台、R4iを1万7287台販売したと認められる(なお、被控訴人は、店舗での販売総数と開店前からのインターネット上での販売総数が同じであるとしているが(甲209)、採用し難い。)。
 (計算式)
 1383台÷16日×596日=5万1516台(マジカル上海、R4)
 1902台÷16日×517日=6万1458台(マジカル上海、DSTT)
  228台÷95日×58日=139台(Yahoo!、DSTT)
  486台÷95日×119日=608台(Yahoo!、R4)
 1383台÷16日×200日=1万7287台(店舗、R4・R4i)
 1902台÷16日×200日=2万3775台(店舗、DSTT)
 (小数点未満切捨て)
(c) そうすると、控訴人X1は、マジカルと共同して、次の計算式のとおり、平成20年2月13日から平成21年9月30日までにR4を6万9897台、DSTTを8万5600台、R4iを1万7287台、合計17万2784台販売したものである。
 控訴人X1は、年末商戦等の販売時期による調整が必要であると主張する。しかし、前記(1)アのとおり、平成18年12月にはR4が約2時間で完売したり、平成20年5月にはDSTTが対応しきれないほどに売れすぎたり、同年11月にはR4やDSTTの発送業務が間に合わず、宅配便の契約を増やしたりしていたものである。また、証拠(甲35、182、乙ハ19)によれば、DS用マジコンは、入荷して店頭に出すとすぐに売り切れるほどの人気商品であったことが認められるから、販売時期による調整を行うことは相当でない。控訴人X1の上記主張は、採用することができない。
 (計算式)
 R4:5万1516台+486台+608台+1万7287台=6万9897台
 DSTT:6万1458台+228台+139台+2万3775台=8万5600台
 合計:6万9897台+8万5600台+1万7287台=17万2784台
b 控訴人メディア及び控訴人Mediaについて
(a) 証拠(甲234、235の2、乙ニ27ないし29、44、50、51、鑑定の結果)によれば、次の事実が認められる。
@ 控訴人メディア及び控訴人Mediaは、共同して、R4を平成19年4月5日から平成20年3月17日までの348日間にわたり8991台、DSTTを平成19年12月28日から平成20年5月19日までの144日間にわたり1万0820台、M3さくらを平成20年6月1日から平成21年6月18日までの383日間にわたり2万8590台卸販売した。
A 控訴人メディア及び控訴人Mediaは、共同して、R4を平成19年2月7日から同年7月27日までの171日間にわたり650台、DSTTを平成20年2月8日から同年3月13日までと同年6月1日から同月3日までの合計38日間にわたり108台、M3さくらを同月1日から平成21年9月30日までの487日間にわたり9438台通信販売した。
 また、控訴人メディアと控訴人Mediaは、共同して、R4とDSTTを平成20年5月1日から同月24日までの24日間にわたり通信販売した。
(b) 前記(a)認定の事実によれば、控訴人メディア及び控訴人Mediaは、次の計算式のとおり、@R4を平成19年2月7日から平成20年5月24日までの473日間にわたり1万2220台、DSTTを平成19年12月28日から平成20年5月24日までの149日間にわたり1万1195台、M3さくらを同月30日から平成21年6月18日までの385日間にわたり2万8739台卸販売し、AR4を平成19年2月7日から同年7月27日までと平成20年5月1日から同月24日までの合計195日間にわたり741台、DSTTを平成20年2月8日から同年3月13日までと同年5月1日から同月24日まで、同年6月1日から同月3日までの合計62日間にわたり176台、M3さくらを同年5月30日から平成21年9月30日までの489日間にわたり9476台通信販売したと認められる。
 (計算式)
 8991台÷348日×473日=1万2220台(卸、R4)
 1万0820台÷144日×149日=1万1195台(卸、DSTT)
 2万8590台÷383日×385日=2万8739台(卸、M3さくら)
 650台÷171日×195日=741台(通信販売、R4)
 108台÷38日×62日=176台(通信販売、DSTT)
 9438台÷487日×489日=9476台(通信販売、M3さくら)
 (小数点未満切捨て)
(c) そうすると、控訴人メディア及び控訴人Mediaは、次の計算式のとおり、平成19年2月7日から平成20年5月24日までにR4を1万2961台、平成19年12月28日から平成20年6月3日までにDSTTを1万1371台、平成20年5月30日から平成21年9月30日までにM3さくらを3万8215台、合計6万2547台販売したものである。
 (計算式)
 R4:1万2220台+741台=1万2961台
 DSTT:1万1195台+176台=1万1371台
 M3さくら:2万8739台+9476台=3万8215 台
 合計:1万2961台+1万1371台+3万8215台=6万2547 台
(エ) 損害額について
 したがって、被控訴人は、逸失利益と8%相当額の弁護士費用として、次の計算式のとおり、控訴人X1によるシーフォートマジコンの譲渡により平成20年2月13日から平成21年9月30日までの間に●(省略)●円の損害を、控訴人メディア及び控訴人Mediaによるメディアマジコンの譲渡により平成19年2月7日から平成21年9月30日までの間に●(省略)●円の損害をそれぞれ受けた。
 (計算式)
 控訴人X1:●(省略)●円×●(省略)●本=●(省略)●円
         ●(省略)●円×17万2784台×1.08=●(省略)●円
 控訴人メディア及び控訴人Media:
        ●(省略)●円×●(省略)●本=●(省略)●円
        ●(省略)●円×6万2547台×1.08=●(省略)●円
 (小数点未満切捨て)
(オ) 過失相殺について
 証拠(甲53)によれば、被控訴人は、これまで、いわゆる「コピーゲーム」を蔵置している海外のサーバー管理者やそのアドレスを掲示しているいわゆる「ROMサイト」の開設者に対して、繰り返しその削除を要請し、その相当数を削除してもらっているものの、すぐに再びアップロードされていることが認められるから、被控訴人は、損害の拡大を防止する努力をしていると認められ、被控訴人に格別の過失があるとはいえない。
(4) 被控訴人の差止め及び損害賠償の請求が権利の濫用に該当するか(争点6)について
 控訴人X1は、被控訴人による差止め及び損害賠償の請求は、私的独占状態を守る目的に出たものであって、権利の濫用に当たると主張する。しかし、被控訴人がライセンスを締結した者にのみDS本体で利用可能なソフトウエアの製造を許すことは、ソフトウエアの品質を管理する上でも意義を有すると考えられること、被控訴人以外にも各社が互換性のないゲーム機をそれぞれ開発して販売していることからすれば、控訴人X1の主張は採用の限りではない。また、控訴人メディアらも、被控訴人の請求は権利の濫用である旨を主張するが、採用の限りではない。
3 結論
 以上によれば、被控訴人の差止め及び廃棄の請求は、差止めの請求について、控訴人X1に対し別紙物件目録記載1の各DS用マジコン(シーフォートマジコン)の譲渡、輸入等の差止め、控訴人Mediaに対し同目録記載2の各DS用マジコン(メディアマジコン)の譲渡、輸入等の差止めを求める限度で理由があるが、その余は理由がなく、廃棄の請求については、控訴人らが本件DS用マジコンを保有していることを認めるに足りる証拠がないから、理由がないことになる(この点についての被控訴人による不服の申立てもない。)。
 また、被控訴人の控訴人X1に対する損害賠償の請求は、損害金●(省略)●円の一部である5737万5000円及びこれに対する不法行為の後の日であり、マジカルに対する訴状送達の日の翌日である平成21年12月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、被控訴人の控訴人メディアらに対する損害賠償の請求は、損害金●(省略)●円の一部である3825万円及びこれに対する不法行為の後の日であり、控訴人Mediaに対する訴状送達の日の翌日である平成22年4月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で、それぞれ理由があるが、その余は理由がないことになる。
 そうすると、これと結論を同じくする原判決は相当であって、控訴人らによる控訴はいずれも理由がないから棄却されるべきこととなる。よって、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 小田真治
 裁判官 八木貴美子は、差し支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官 飯村敏明


(別紙)物件目録
1(1) R4 Revolution for DS
 (2) DSTT for NDS/NDSL
 (3) R4i Revolution for DS
2(1) R4 Revolution for DS
 (2) DSTT for NDS/NDSL
 (3) M3さくら

(別紙)DS本体とDSカードのタイレシオ
期間(年号は平成) DSカード DS本体 年間タイレシオ 累積タイレシオ
16年12月〜17年12月 1850万本 570万台 3.246本 3.246本
18年1月〜12月 4670万本
(累計6520万本)
873万台
(累計1443万台)
3.236本 4.518本
19年1月〜12月 4325万本
(累計1億0845万本)
723万台
(累計2166万台)
1.997本 5.007本
20年1月〜12月 3367万本
(累計1億4212万本)
401万台
(累計2567万台)
1.312本 5.536本
21年1月〜9月 2057万本
(累計1億6269万本)
245万台
(累計2812万台)
0.975本 5.786本
 (タイレシオは小数点4位以下四捨五入)

逸失利益額一覧表
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