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【事件名】回転寿司チェーンの「代替ネタ」報道事件
【年月日】平成18年4月11日
 大阪地裁 平成17年(ワ)4267 損害賠償請求事件

判決


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する平成17年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、雑誌「週刊A」に、別紙記載のとおりの謝罪広告を、2分の1頁の大きさで、表題部は20ポイントの活字(ゴシック)、その他の部分は10ポイントの活字で一回掲載せよ。
第2 事案の概要
1 本件事案
 本件は、被告が、被告の出版する週刊誌「週刊A」(以下「週刊A」という。)において、一皿100円で提供されている回転寿司店(以下100円程度の低価格で回転寿司を提供している店を総じて「100円回転寿司店」という。)は全て味や形の似た食材(寿司の食材を以下「ネタ」といい、味や形の似た食材のことを以下「代替ネタ」という。)を使用しているといった内容の見出し及び記事を掲載したことにより、一般人に原告が商品の偽装表示をしているとの誤認をさせ、もって原告の信用を毀損し、原告の営業を妨害したとして、原告が被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求及び信用回復処分として300万円の支払及び週刊Aへの謝罪広告の掲載を求めた事案である。
2 基礎となる事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は、全国で127店舗の回転寿司チェーンを経営し、東京証券取引所2部及び大阪ヘラクレス市場に上場している株式会社である。
 原告の平成15年10月期における売上高は、207億5700万円で、すし・回転すし・宅配すし部門の売上高シェアの約1.9パーセントを占め、同部門第4位であった。また、平成16年度おける年商は279億円であった。
イ 被告は書籍の出版、発行及び販売等を業とする株式会社であり、女性向け週刊誌である週刊Aを発行している。その販売部数は約40万部であり、広告方法は電車における中吊り広告、全国紙及びホームページへの広告掲載がある。
(2) 被告は、平成17年2月15日、週刊A3月1日号を発行し、その発行部数は約38万2200部であった。
 被告は、同号から「深層シリーズだまされていませんか?」との表題で不当表示を追及する記事の掲載を開始し、同号には、その第1回目として回転寿司の不当表示を取り上げる記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。
 なお、その後被告は、本件記事に引き続き連載企画として温泉、牛肉の産地、有機野菜及びブランド商品をテーマとして取り上げ、それぞれ不当表示についての記事記載を行った(乙1の1ないし4)。
(3) 本件記事の記載内容は、別紙本件記事記載内容一覧表のとおりである。
 なお、同表記載5の表については、メニュー上のネタ及び代替ネタについて、それぞれの食感や香り等、本物と代替ネタとの区別の基準となる特徴も記載されている(甲4)。
 被告は、本件記事を掲載するにあたり、原告に対し、メニュー上のネタが代替ネタを使用しているのか否かについて、何らの取材を行うことはなかった。
(4) 原告における販売の実状(甲12、13、弁論の全趣旨)
ア 原告は、鯛、カンパチ、赤貝、アワビについて真正なネタを販売し、本マグロトロについても、本マグロを使用している。
イ また、原告においては、ティラピア、サルボオ貝及びロコ貝を販売しておらず、スギを琉球スギ、カレイを味付けカレイとそれぞれ命名して販売している。
ウ 原告において提供されるエンガワは、カラスガレイのエンガワを使用している。
(5) 原告は、本件記事が原告の名誉を毀損するとして、週刊Aに謝罪広告を掲載することを求める内容証明郵便を発送し、同郵便は平成17年3月16日、被告に到達した。(甲5、6)
 被告は、上記内容証明郵便を受けて、平成17年3月22日、原告に対し、本件記事が特定の回転寿司店を対象とした記事ではないことを理由として原告の要求を拒絶する旨の内容証明郵便を発送した(甲7)。
3 争点
(1) 本件記事による、原告の信用毀損の有無。
ア 原告の主張
(ア) 社会的評価の低下について
 本件記事の内容は、本件記事記載内容一覧表のとおりであるが、本件記事によれば、読者は、一般的に高級なネタはその原価から考えれば、100円均一で提供できるものではなく、100円回転寿司店は、メニューに表示された商品を提供しておらず、代替ネタを使用しているのにもかかわらずメニューにおいてこれを表示しないという不当表示を行っているという認識を抱く。本件記事は、一般消費者に代替ネタを利用しているのではないかという不安ないし疑念を抱かせ、これによって100円回転寿司に対する消費者のイメージが低下することになる。このように商品イメージが低下するならば集客力が低下し、原告に重大な損害を与える。
 特に、本件記事についての車内吊り広告、新聞等一般紙への広告及び週刊Aの表紙に記載されたタイトルは、断定的かつ衝撃的な内容である。そして、女性週刊誌においては、消費者はこれらのタイトルによってのみ、その記載内容を認識する者も多いことからすれば、これらのタイトルによって、原告の信用が毀損された。
(イ) 信用毀損の対象者の特定について
@ 本件記事は100円寿司を提供する店舗すべてが代替ネタを使用しているような断定的な内容である。本件記事には、100円回転寿司店の中にもメニューに記載されたとおりのネタを提供している店があることについて言及された部分は存在せず、本件記事を読んだ読者が、原告がメニューに記載されたとおりのネタを提供していることを推知することは不可能である。
A とりわけ、原告は、2(1)ア記載のとおり、平成14年度の「すし・回転すし・宅配すし部門」における売上高が第4位であった企業であり、100円均一の回転すし店の中では屈指の企業である。かかる原告の立場からすれば、本件記事が原告を対象としたものでなくとも、本件記事の読者をして、原告を想起させる。本件記事を読んだ読者は、原告もまた、メニューに不当表示をしている企業であると誤認する可能性が高く、本件記事は原告の信用を毀損する。
イ 被告の主張
(ア) 社会的な評価の低下について
@ 本件記事は、代替ネタを使用すること自体を否定しているのではなく、メニュー上の表示と提供されているネタに齟齬がある点を問題視したものである。したがって、回転寿司店が代替ネタを使用していることを摘示したとしても、そのことで回転寿司店の社会的評価は低下しない。
A 100円回転寿司店においては、代替ネタが使用されていることは社会に広く知られている。したがって、代替ネタを使用しているからといって、それが江戸前の立ち寿司の店であれば格別、回転寿司店の社会的評価を低下させるわけではない。
B 本件記事は、「回転寿司の高級ネタの中には味や形のよく似た他の魚や貝が代替ネタとして用いられることがある」、「代替ネタそれ自体が問題というわけではないが、これを正直に表示しないことは消費者に正しい情報を提供しないという意味でやはり問題がある」、「消費者は、回転寿司の善し悪しの判断を自分自身で行う必要がある」との事実を摘示するものであり、これらの記載内容からすれば、本件記事は原告の名誉ないし信用を毀損するものではない。
(イ) 信用毀損の対象者の特定について
@ 本件記事は、「回転寿司の高級ネタの中には味や形のよく似た他の魚や貝が代替ネタとして用いられることがある」との事実を摘示したものであり、「100円寿司を提供する店舗すべてが代替ネタを使用している」と述べているわけではない。本件記事にはそのような記述は一切なく、むしろ冒頭記事には、「例えば全品一皿105円均一のように、安さを最大のウリにする店の中には、人気のある高級ネタの代わりに、味や形の似た安い魚や貝などを代替ネタとして使う場合も確かにありますね」と述べており、すべての100円回転寿司店が代替ネタを使っているわけではないことを明示している。
A 本件記事は、回転寿司業界全体を取り上げた記事であり、100円回転寿司店という特定の業種に限定して記事を構成したものではない。また、全国には5000店を超える回転寿司店があるのであり、本件記事から原告を想起することはありえない。
(2) 真実性の抗弁
ア 被告の主張
(ア) 本件記事は、回転寿司業界において、メニューに表示されているネタと実際に使用されているネタが異なることを指摘するものである。
 外食産業において、その提供する食材について正確な情報を消費者に提供することは、社会に対して利害関係を有する事項である。したがって、本件記事は、商品の正確な表示という公の関心に関わる事実を記載したものであり、その記載には公共性及び公益を図る目的があるといえる。
(イ) 原告は、本件記事中の高級ネタのうち、マダイ、カンパチ、赤貝、アワビはそのものを提供しているが、エンガワについてはヒラメではなくカラスガレイを使用していると述べている。一般にすしネタとしてエンガワとの表示がなされれば、消費者はヒラメのエンガワを想起する。原告は、メニューにエンガワと表記した寿司について、ヒラメのエンガワではなく、カラスガレイのエンガワを使用しているのであり、代替ネタを使用しているといえる。それにもかかわらず、原告は、カラスガレイのエンガワを単にエンガワとして販売している。したがって、本件記事は、原告についても真実を記載したものであるといえる。
イ 原告の主張
 被告は、本件記事には公共性及び公益目的があり、その記載内容に真実性があると主張して、本件記事が違法性を有しないと主張するが、エンガワは魚のひれの基部にある骨・肉を表すものであり、エンガワが必ずしもヒラメのエンガワを指すものではない。すなわち、原告がカラスガレイのエンガワをエンガワとして提供しているとしても、不当表示には該当しない。
(3) 本件記事が違法性を有するとして、原告に生じた損害額
ア 原告の主張
 本件記事の記載内容によって、原告が被った損害は300万円と算定するのが相当である。
イ 被告の主張
 争う。
(4) 本件記事が違法性を有するとして、被告による謝罪広告掲載の要否
ア 原告の主張
 経済活動を主たる活動目的とする企業においては、その信用を毀損されることは、名誉を毀損されることと類似するものである。そして、本件においては、原告が提供する商品について代替ネタを使用しているという誤解が与えられかねない本件記事が週刊Aに掲載されたことによって、多くの読者が誤解を抱きうる状態にあり、この状態が依然として除去されていない。とするならば、原告に生じている損害は、金銭賠償によっては償いきれないものであり、謝罪広告によって広く事実関係を週刊Aの読者に認識させることの方が原告の被害回復に有用である。したがって、民法709条、同法723条の類推適用によって、本件においても謝罪広告の掲載が認められるべきである。
イ 被告の主張
 争う。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(本件記事による原告の信用毀損の有無)について
(1) 判断基準
 原告は、本件記事によって、原告の信用が毀損されて、営業を妨害されたと主張する。
 そこでまず、原告の信用毀損における判断基準が、一般の名誉毀損と異なるというべきかどうかについてみるに、民法710条、723条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すというべきところ、原告の信用もまた、原告の名誉の中に包含されると解される。
 したがって、ある記事が、その対象となった者の信用を毀損するか否かについても、他の名誉毀損の場合と同様に、一般読者の普通の注意と読み方を基準として、原告の有する社会的な評価を低下させるかどうかによって判断すべきである。
(2) 本件記事による社会的評価の低下の有無
 本件記事が、回転寿司店又は100円回転寿司店の社会的評価の低下をもたらすような内容であるかにつき、まず検討を加える。
ア 前記基礎となる事実によれば、
@ 本件記事の表紙には、「”不当表示”追及!「回転寿司」の”ネタの秘密”をバラす!「一皿100円均一?ありえません!!」」とされていること
A 本文の冒頭にはおいては、「深層シリーズだまされていませんか?」と表示し、その「巻頭言」として「食の安全が叫ばれて久しい。食卓を預かる女性としてはコストとともに、その原産地などに気を配るのは当然だ。だからこそ、判断の材料となるあらゆる情報は、消費者に開示されるべきなのだ。小誌は今号から5回にわたり”不当表示”を追及するシリーズを掲載する。第1回は回転寿司。安さと手軽さで5000億円市場に急成長した業界の、表と裏……。」と述べていること
B 本文見出しとして、「市中にはびこる代替ネタにご用心!」「一皿100円均一?本物ならばありえません!!」とされていること
C 本文において、「”自分が食べているかもしれないもの”については、知っておくのが当然。典型的な代替ネタを、下の表にまとめたので、本物か代替ネタか、確認してみて!」とした上で、マダイ、カンパチ、ヒラメ、赤貝、アワビについて「メニュー上のネタ」と「代替ネタの正体」とが対比された表がイラスト付きで掲げられ、それにはそれぞれの食感や香り等、本物と代替ネタとの区別の基準となる特徴も記載されていること
 以上の事実が認められる。
 本件記事は、普通の読者の注意と読み方を基準とするならば、いわゆる高級なすしネタについては、100円程度の料金では、外食産業の食材として供しうるものではなく、100円回転寿司店においては、代替ネタを使用していることがあるが、それにもかかわらず、高級なすしネタと偽って表示しているとの印象を受けるものということができる。
イ これに対して、被告は、本件記事は代替ネタを使用すること自体を否定しているのではなく、メニュー上の表示と提供されているネタに齟齬がある点を問題視したものであるから、回転寿司店が代替ネタを使用していることを摘示したとしても、そのことで回転寿司店の社会的評価は低下しないとする。しかし、メニュー上の表示と提供されているネタとの齟齬があると印象を与えることはそのこと自体が、不当な表示を行っている印象を与え、社会的評価の低下をもたらすものであることは否めない。
ウ 次に被告は、100円回転寿司店においては、代替ネタが使用されていることは社会に広く知られているので、代替ネタを使用しているからといって、回転寿司店の社会的評価を低下させるわけではないとする。なるほど100円回転寿司店において代替ネタが使用されていることはある程度知られているとはいえるが、一般的な知識として広汎に流布された事実であるとは到底認めることはできない。そもそも被告は、「深層シリーズだまされていませんか?」の特集企画の第1号として、本件代替ネタ問題を取り上げ、週刊Aの読者に対して、メニュー表示とは異なる代替ネタの使用があることを警告し、これを前提として回転寿司店の使い方についてのアドバイスを付け加えているのであるが、代替ネタの使用が社会一般に広く知られているならば、被告は、ほとんど社会的に意義がない題材を特集したことになる。被告の上記主張は、本件記事に価値があると判断した被告の態度にも矛盾し、採用できるものではない。
エ さらに被告は、本件記事の内容が、回転寿司店において代替ネタが使用されることがあること、代替ネタを使用していることを表示しないことは、消費者に対する情報提供の観点から問題があること、消費者は、回転寿司店の善し悪しを自己の判断において行うべきであることの事実を摘示するものであるから、原告の信用を毀損しないとする。
 証拠(甲4)によれば、
@ 本件記事には、回転寿司が格段に安くて明朗会計であるのが最大の魅力だったとした上で、監修者の「高価な高級ネタの代わりに味や形の似た別種の魚介を”代替ネタ”として使う知恵が生まれました。つまり騙す目的ではなく、もともとは安さ実現のための工夫なのです」との発言が記載されていること、
A 本文Q&A形式の記述において、「「代替ネタ=味が落ちる」というイメージがある!」との質問に対しては「味は確かに同じではないが、「違う=まずい」ではない」としていること、
B 監修者の「私は、安全性が保証できるのならば、代替ネタ自体に問題はないと思う。」「消費者もブランドにとらわれて”タイだからおいしい””ティラピアだからダメ”などとは考えないほうがいい。」等の発言も記されていること、
C 「回転寿司を賢く楽しむための3か条」として「1 店ごとの特徴、個性を認識せよ!TPOに合わせて回転寿司を使い分けるべし2 サービスも考慮に入れる!疑問点への答え方など、お客への対応で店の姿勢をチェック3 いい、悪いの価値基準は自分で決める。思い込みではなく、自分の舌と感性で、いい店を決めよう」とされていることが認められる。
 これらの事実に鑑みれば、本件記事が全体的にみて回転寿司店において代替ネタを使用していることについて、直ちに否定的評価を下しているものではないといえる。
 しかしながら、100円回転寿司店において、代替ネタを使用していることが社会的な通念となっているとは認め難いことは既に説示したとおりであるところ、外食産業が供する食材については、メニュー等に表示されている食材と同一であると理解されるのが通常であるから、100円回転寿司店における一般の顧客においても、同様に認識・信頼するものと考えられ、そのような外部的信用が保護の対象となる(外部的信用が虚名であった場合の責任の有無は別途判断されることになる。)。これに対して、100円回転寿司店ではメニューどおりの食材が提供されておらず代替ネタを使用しているという印象を与えることは、当該店舗についての社会的な評価を低下させることは明らかである。
 本件記事の論旨は、全体としてみるならば、100円回転寿司店の中には、代替ネタを使用する店が存在するが、消費者の食の安全の見地からは、使用する材料について正確な情報を消費者に提供すべきであり、一方消費者においても、ネタに何を用いているかに拘泥することなく、自己の味覚と価値観において、回転寿司店を選択すべきであることを基調にしているものと認められるが、だからといって、その論評の前提となる事実(即ち代替ネタの使用)の摘示によって社会的な評価が低下しないことにはならない。
(3) 信用毀損の対象者の特定について
ア 原告を特定できるか。
 証拠(甲4)によれば、本件記事の中には、原告の名称は記載されておらず、また代替ネタを使用している業者として原告が特定され、あるいはこれを推知できるような記載はない。もっとも「全国でチェーン展開!大手A寿司」が取り上げられているが、全国に約290のチェーン店があるとも記載されており、店舗数の異なる原告を示すものではない。したがって、本件記事が対象としているのは原告であるとまで特定できない。
 原告は、その売上高が寿司業界で第4位であった企業であり、かつその上位4社については100円回転寿司店の中では屈指の企業であるとして、その業界内地位からすれば、本件記事が原告を対象としたものではなくとも、本件記事の読者をして、原告を想起させると主張する。
 しかし、本件記事が100円回転寿司店だけでなく回転寿司店全体を対象としていることは明らかであるところ、原告の店舗数が127店舗にすぎないことと全国で5000店を超える回転寿司店が存在すること(明らかに争わないものと認める。)とを対比するならば、本件記事を通常の読み方と注意で読んだ一般読者が原告を想定するとは認めることはできない。
 また、100円回転寿司店だけをみても、証拠(甲11)によれば、「すし・回転すし・宅配すし」部門売上高の上位7社はいずれも回転寿司を経営する企業であり、かつ100円均一の業態を採用しており(ただし、うち1社は100円均一以外の業態も併用)、原告はその中で第4位であるが、一方では、被告のシェアは1.8パーセントであるところ、1位から3位までの業者のシェアは4.4パーセント、2.6パーセント、1.9パーセントであることも認められ、この事実に照らせば、被告が100円回転寿司店の業界を代表する地位を占めるものとはいえない。何よりも、本件記事を通覧しても原告に焦点を当てているとの印象を受けるわけではないし、本件記事を読んだ一般読者が、原告を特定した上で、代替ネタを使用していると認識するようなものでもない。
イ 100円回転寿司店すべてを対象にする記事か。
 原告は、本件記事が100円回転寿司店すべてが代替ネタを使用しているような断定的な内容であるから、原告も代替ネタを使用していると報じられたことになると主張する。
 よって検討するに、前記認定のとおり、本件記事の表紙には、「”不当表示”追及!「回転寿司」の”ネタの秘密”をバラす!「一皿100円均一?ありえません!!」」とされ、かつ、本文見出しとしては「市中にはびこる代替ネタにご用心!」「一皿100円均一?本物ならばありえません!!」とされていることが認められる。このような見出し部分を強く取り上げ、その語義と文理を重く考えるならば、100円回転寿司店では、高級なすしネタに関しては表示どおりの食材を使用することはありえず、代替ネタを使用していると述べていることになる。
 しかし、見出しは、要点を簡潔かつ端的に表し記事の内容を一目でわかるようにすることを目的とするが、同時に読者の注意を喚起し、本文を読ませる働きをも有する。なかでも週刊誌における見出しはややもすれば誇張した刺激的表現をとって、買手の購買欲を引き出そうとしていることは、読者においても理解されていることと考えられる。また、上記の見出し部分の「ありえません!!」」又は「本物ならばありえません!!」との記述は、一般の口頭表現を意識したものであると理解できるところ、通常一般人の社会生活においても、その発言を強調したり関心を引くために修辞的に誇張して用いられている表現形態であるといえる。このような点を考えるならば、一般的な読者は、上記の見出し部分だけで、印象を確定させるわけではなく、本文の記載と併せ読んで、その全体から理解しているものというべきである。
 そこで、本件記事本文の記述をみるに、本件記事が回転寿司業界全体を対象としていることは既に述べたとおりであり、100円回転寿司店における代替ネタ使用だけを問題としているものではなく、全体としては回転寿司においては代替ネタを使用する店が多いという印象を読者に与えている。さらに、本文では、すべての100円回転寿司店で代替ネタを使用しているとの趣旨の表現は全くみられない上に、かえって証拠(甲4)によれば、本文記事の監修者の発言として「現在、回転寿司は全国に5000軒ほどあるのですが、例えば”全品1皿105円均一”のように、安さを最大のウリにする店の中には、人気のある高級ネタの代わりに、味や形の似た安い魚や貝などを代替ネタとして使う場合も確かにありますね。」と記載していることが認められ、100円回転寿司店の中には代替ネタを用いることがあることを示しているにとどまる。
 以上の事情を総合するならば、上記の見出し部分を十分考慮に入れたとしても本件記事によってすべての100円回転寿司店が、代替ネタを使用しているとの印象を与えるものではない。
 なお原告の主張するように、本件記事には、100円回転寿司店の中にもメニューに記載されたとおりのネタを提供している店があることについて言及された部分は存在しないが、だからといって、本件記事を読んだ一般的な読者に対して、原告が代替ネタを使用しているとの印象を抱かせるとはいえない。
ウ 業界又は集団に対する信用毀損が成り立つか。
 特定の企業や店舗を示さない場合であっても、回転寿司店とりわけ100円回転寿司店では、一般的にせよ代替ネタを使用していると本件記事によって報じられることによって、原告の業務に影響があることは考えられるが、100円回転寿司店というだけでは漠然としているために信用毀損の対象としては明確性を欠き、また100円回転寿司店を営む店舗や企業が多数に上ることを考えるならば、その業界又は集団に属する構成員に対する信用毀損が生じたとも解されない。
 なお、念のため付言するに、仮にこの点が肯定されるとしても、本件記事は外食産業における食材の表示をとりあげたものであって公共性及び公益を図る目的があると考えられ、また、100円回転寿司店の中には代替ネタを用いている店舗があることは原告も争わないところであるから、本件記事はその限度では真実であると認められる。したがって、本件記事は違法性を欠くことになる。
(4) 以上判示したところによれば、本件記事によって、原告がその信用を毀損され、さらには営業を妨害されたとはいえないといわざるをえない。
2 結論
 よって、その余の点を判断するまでもなく、原告の各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第24民事部
 裁判長裁判官 森宏司
 裁判官 真辺朋子
 裁判官 玉野勝則


(別紙省略)
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