判例全文 line
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【事件名】TV番組挿入曲の二次使用事件
【年月日】平成17年12月22日
 東京地裁 平成16年(ワ)第17750号 損害賠償等請求事件
 (平成17年11月15日 口頭弁論終結)

判決
原告 A’ことA 
訴訟代理人弁護士 寒河江孝允
同 矢野敏樹
被告 静岡放送株式会社
訴訟代理人弁護士 岡崎洋
同 大橋正春
同 前田俊房
同 渡邊賢作
同 村尾治亮
同 新間祐一郎


主文
1 原告が、別紙楽曲目録記載の各楽曲につき、著作権を有することを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 原告の請求
1 主文第1項と同旨
2 被告は、原告に対し、金5億円及びこれに対する平成16年8月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、別紙放送状況調査報告書記載のテレビ番組において使用された各楽曲を作曲し、編曲し、かつ、これを実演した原告が、被告は、ローカル番組放送一回分を前提として各楽曲を各番組内において使用するという原告との許諾契約に反し、各楽曲を使用したテレビ番組について、数次にわたる再放送(ローカル番組)、全国放送、他局への放送権の許諾ないし譲渡を行ったとして、被告に対し、著作権侵害に基づく損害賠償請求又は上記使用許諾契約の債務不履行に基づく損害賠償請求及び実演家の著作隣接権侵害に基づく損害賠償請求並びに上記作曲、編曲された楽曲の一部について原告が著作権を有することの確認を求めている事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定し得る事実。証拠により認定した事実については、該当箇所末尾に証拠を掲げた。)
(1) 当事者
ア 原告は、A”電子音楽研究室を開設し、A’という名前で音楽活動を行っている音楽家である。原告は、かつて、ウィーンの大学における演奏の模様がテレビ放送されたこともあるなどの業績を残している。
イ 被告は、放送番組の制作等を業とする株式会社である。
(2) 各楽曲の作曲等
ア 被告は、昭和56年ころ、原告に対し、被告が制作するテレビ番組に使用する背景音楽及び効果音(以下、総称して「背景音楽等」という。)を作曲・編曲し、かつこれを実演すること(以下、これらを総称して、「制作」ということがある。)を申し込み、原告はこれを了承した(同契約の内容については、後記のとおり争いがある。以下、背景音楽等の制作に関する契約を、「本件契約」という。)。
イ 原告は、昭和56年から平成14年3月までの間、本件契約に基づいて、背景音楽等を自ら制作し、録音したテープ等を被告に提供し、被告は、提供された各楽曲の一部をテレビ番組において使用した(以下、原告が本件契約に基づいて上記期間内に制作した楽曲等を総称して、「本件楽曲等」という。また、原告が本件楽曲等を録音し、被告に交付したテープ等の録音・保存媒体を総称して、「本件テープ等」という。)。被告は、原告から受領した本件テープ等を原告に返却しておらず、一部については既に廃棄している。
ウ 被告が、原告に対し、本件契約に基づいて支払った対価の額は、合計約6259万円(源泉徴収後)である。
(3) 被告による再放送など
 被告は、本件楽曲等を使用したテレビ番組の一部について、ローカル番組(被告のみにおいて静岡県内に対してする番組放送)として再放送し、あるいはこれを全国放送(被告の系列のテレビ放送局を通じる等により日本全国に対してする番組放送)、さらには、放送権の許諾ないし期間を定めた放送権の譲渡(以下、これらを総称して、「本件再放送等」という。)をするなどした。
2 争点
(1) 著作権、著作隣接権侵害の成否(争点1)
ア 本件契約の内容(争点1−1)
イ 原告のJASRACへの著作権の信託(争点1−2)
ウ 著作権法94条2項の報酬請求権の成否(争点1−3)
エ 被告による再放送等(争点1−4)
(2) 本件楽曲等の著作権の確認の利益(争点2)
(3) 原告の損害(争点3)
(4) 消滅時効の成否(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(著作権、著作隣接権侵害の成否)について
(1) 争点1−1(本件契約の内容)について
(原告の主張)
ア 本件契約締結の経緯及び内容について
a) 原告は、昭和56年7月ころ、被告から、「被告が自主制作し、静岡県内で放送するテレビ番組のための楽曲を作曲・編曲してほしい」との依頼を受けた。被告担当者は、当時、原告を取材したテレビ番組の制作に携わった経験があり、原告の音楽的才能に注目していた。
b) 被告は、当初、原告に対し、昭和56年10月から放送予定の「ふるさと三国志」シリーズのすべての番組について、それぞれ放送に間に合うように作曲等するように依頼した。原告が受け取る対価は、シリーズ26話合計で60万円と定められた。
c) 「ふるさと三国志」シリーズは、視聴者に好評で、全部で39話制作された。原告は、番組一話につき、平均して20曲程度の背景音楽等を被告に提供し、同番組のすべてに原告が制作した音楽が使用された。被告は、原告に対して、同番組放送中、およそ1か月ごとに4万円から7万円を支払い、最終的には合計122万5000円を支払った。
d) 原告が「ふるさと三国志」シリーズ放送用に提供した背景音楽等が好評だったため、被告は、その後、平成14年3月ころまで、20年以上、原告に対し、被告が制作するテレビ番組への背景音楽等の提供を依頼し、原告は、被告からの依頼に応じて、テレビ番組に使用する音楽を提供し続けた。原告が提供した本件楽曲等は、別紙放送状況調査報告書記載のテレビ番組及びスポットと呼ばれる短時間のテレビ番組(以下、これらのテレビ番組を総称して、「本件各番組」という。)に使用された。原告は、被告担当者からは、「ローカル番組放送用に楽曲を提供する」という説明しか受けていない。原告は、被告の依頼により、テレビ番組放送時に使用する背景音楽等を制作してローカル番組放送一回に対する使用を許諾し、被告はこれに対し対価を支払うという内容の合意が成立したのである(本件契約)。原告は、テレビ番組のために作曲するのは初めてであり、被告からそれ以上の説明を受けておらず、契約書すら作成されなかった。
e) 原告は、被告に対し、20年以上にわたり、6万曲以上の本件楽曲等を提供し、被告がテレビ番組に使用することを許諾した。しかし、これらの本件楽曲等の使用許諾は、あくまで静岡県内におけるいわゆるローカル番組の放送一回分に使用することを前提とした許諾であった。実際、被告が支払った対価は、本件楽曲等の使用料としてローカル番組放送一回分のみを前提として算定されており、原告はその程度の金額しか受領していない(甲2参照)。被告が、原告に対し、「ローカル番組放送一回分の音楽使用」の枠を超える合意(全国放送や二次的利用に対する許諾等)を求めてきたこともない。また、スポットについても、現在まで被告のテレビ番組において原告の本件楽曲等が使用されているものの、原告は、何らの追加支払もなしに、20年以上にわたり自分の本件楽曲等が使用されることについての説明を全く受けていない。原告は、スポットについては、被告から1回につき6曲程度の提供を依頼され、それらの放送許諾の対価として金3万円程度の支払を受けたにすぎない。原告がスポットに関して受領したのは、せいぜい1年間の使用を前提とした金額にすぎないのであるから、それを超えた反復使用は、許諾の範囲を超えたものというほかない。
f) 本件契約において、本件楽曲等の著作権買い取りが合意されたことはない。著作権買い取りの合意は、原告の著作権者としての地位に重大な影響を及ぼすものであるから、契約書や意思確認のための書面が作成されるのが当然であるにもかかわらず、被告が主張する「買い取り」を裏付ける証拠は何もない。なお、著作権買い取りが事実であれば、被告から原告に対し、追加支払は一切されないはずである。しかし、被告は、平成2年8月ころ、テレビ番組「家康人間学」シリーズの放送権を財団法人放送番組センターに総額1560万円で譲渡した際、原告に対し、「著作権料として」金50万円を支払った。被告がこのような追加支払をしたのは、本件契約に基づく原告に対する支払はローカル番組放送一回分の対価であり、その使用を超える場合には、原告との間で精算が必要であると被告が認識していたからにほかならない。
g) 一般的にみても、テレビ局にとって、テレビ番組は、視聴者やスポンサーに番組を提供することが第一義とされており、通例、第一次利用としての番組一回分の放送を最優先に制作され、音楽家や実演家等の関係者との間でも、放送一回分を前提に契約が締結されるのが通常である。有識者により構成される過去の放送番組の二次利用の促進に関する検討会による平成16年6月報告書にも、「当初の放送時に支払われる報酬が当初予定の放送に限定されるのは、放送番組は、視聴者や、スポンサーにすぐれた番組を提供すること、すなわち当初予定した放送(一次利用)の実施を最優先にして制作するという性格を有する映像作品だからだと考えられる」とされている。原告が本件再放送等を前提として本件契約を締結したとの被告の主張は、テレビ放送業界における一般的感覚にも反するものである。再放送等の番組の二次的利用に際しては、放送局と著作者・実演家との間で、改めて報酬金額等につき契約が締結されるのが原則であり、著作者・実演家と放送局との間において、二次的利用を前提に、その都度支払われる報酬等についてあらかじめ合意がされていない限り、二次的利用は著作者・実演家の権利を侵害するものとして違法となるのである。
イ 被告の主張に対する反論
 被告は、各種状況的事実を並べ、本件楽曲等については「買い取り」の合意があったと主張する。しかし、前記のとおり、著作権譲渡等、著作者の法律上の地位に重大な影響を与える事項については、書面による明確な合意が必要であると解すべきである。被告は、大手の放送局として法務部を完備し、顧問弁護士を置いていながら、明確な書面による権利譲渡の合意もせず、本件再放送等の詳細について、原告に対する説明を全く怠ってきたのである。このような事実関係のもとでは、到底、原告から被告に対し「一切の権利」が譲渡されたと認めることはできない。
a) 被告は、原告は毎週のように被告に来社していたにもかかわらず、同時期に被告が行った本件再放送等について全く知らなかったのは不自然であるし、本件再放送等については新聞のテレビ欄にも掲載されていたのであるから知らなかったはずはないなどと主張する。
 しかし、原告は、約22年間にわたり、本件再放送等を知りつつ放置していたわけではない。原告は、本件各番組が本件再放送等されている事実を全く知らなかったのである。原告は、新聞を購読してはいたものの、芸術家によく見られるように世間の動きに疎いところがあり、例えば、娯楽のために外出するとか、新聞を読んだりテレビを見たりするよりも、作曲・演奏及びそれらの指導に一日中没頭していたのである。日刊新聞のテレビ欄に再放送の事実が記載がされていたとしても、原告はそれらを見ていないのである。被告は、原告に対し、本件再放送等の事実を報告すべきなのに、これをしなかったのである。
b) 被告は、「買い取り」の合意を裏付ける事実として、債権差押命令事件(静岡地方裁判所平成10年(ル)第730号。以下、「本件差押事件」という。)を指摘し、@差押命令が被告に到達した平成10年10月31日時点で、被告の原告に対する一切の債務が存在しないことが確認された、A原告は、何度も行われた話合いの中で、本件再放送等の代金が未払であるなどと発言しなかった、と主張する。
 確かに、原告は、平成10年ころ、債権者Bより、当時原告が開設していた音楽教室の運営資金400万円を、無利息・無期限で借り入れ、数か月後、Bから急に上記借入金の全額返済を求められたため、地元の金融機関から借入れをし、その中からBに対する債務を全額返済した。その際に、原告が被告関係者と協議をしたことはある。しかし、原告がBに対し、本件楽曲等の著作権について「買い取りである」と説明したことはない。原告と被告は、当時、放送番組制作に向けて利害が一致しており、被告としても原告をかばいたいと考えていたこともあり、差押債権者であるBに対する回答も、できる限り差押が功を奏さないように配慮されたものと推測される。また、原告は、本件再放送等の事実を被告から知らされていなかったのであるから、当時、これらについて全く認識がなく、原告が被告に対して追加報酬について発言しなかったのは当然である。したがって、被告が指摘する各事情は、本件楽曲等の著作権について、買い取りの合意を推認させるものではない。
c) 被告は、全国放送についても、放送される番組には全国放送であることを示すスーパー等が挿入されるし、制作現場においては全国放送番組の場合には士気も高まるものであるから、原告も全国放送だとわかっていたはずであるなどと主張する。
 しかし、全国放送であることを示す「JNN共同制作」等のスーパーは、オンエア直前に初めて挿入されるものである。原告が音楽を制作する過程で目にするのは、いわゆる「JNN共同制作」という文字もナレーションも入っておらず、単に画面上に時間経過を示すタイムコードが入っているだけの映像である。原告は、これを見ながら、映像に合致した音楽を制作するのであるから、制作時点において全国放送であることを知ることは不可能である。そして、前記のとおり原告は多忙であったし、放送番組を録画したり、実際のテレビ放送をチェックしたことはほとんどないから、実際に番組を視聴して、全国放送であると気付くこともない。また、原告は、あくまで被告から背景音楽等の提供を依頼された部外者であるから、全国放送における被告制作部門内部の雰囲気などは知るはずがない。被告から一方的に提示された報酬金額も、単に番組の時間の長短により定められており、全国放送だから高額に設定されたということもない。
d) 被告は、原告が被告に対して申し立てた調停事件(静岡簡易裁判所平成15年(ノ)第126号音楽著作権使用料請求調停事件。以下「本件調停事件」という。)において、原告は、本訴における主張と矛盾した主張をし、その主張は変遷していると主張する。
 しかし、原告は、調停段階から一貫して、本件楽曲等については「音楽著作権の買い取りではない」と主張しているのであるから、原告の主張は何ら変遷しておらず、非難されるいわれはない。
(被告の主張)
ア 本件契約締結の経緯及び内容について
a) 被告は、昭和40年代後半ころ、被告のラジオ番組の伴奏を原告に依頼したことから、原告との取引を開始した。
b) 被告のテレビ番組「ふるさと三国志」シリーズの制作担当者は、昭和56年ころ、原告に対し、背景音楽等の制作を依頼した。被告は、それ以前には、背景音楽等は既存の音源を利用しており、全国放送番組については東京の音効業者に制作を依頼し、その他の番組については被告の社員が選曲・音入れ作業を行っていた。被告制作担当者も、当初、原告に対して、従来行っていた「選曲・音入れ」を依頼したが、原告から、「自分で作った方が良いものもできるし、早い」との申出があったため、原告の制作した本件楽曲等を使用することになったのである。したがって、原告と被告の間には、既存の音源を選曲して背景音楽等を制作することと新たに制作することとの間に、特別の違いがあるという認識はなく、対価についても、被告と東京の音効業者との契約と同水準・同内容の契約、すなわち、対象となった番組の利用に伴う使用については、追加の対価を支払うことなく被告が自由に使用できるということが当然の前提とされた。もっとも、対価の額は、当初は発注した担当ディレクターと原告との間で個別に決められていたが、その後次第に一定の基準ができるようになった。
c) 本件契約において、本件楽曲等については「買い取り」の合意、すなわち著作権自体を被告が買い取るか、あるいは少なくとも対象となった番組の利用に伴う使用については、追加の対価を支払うことなく被告が自由に使用できるとの合意があったものである(以下、上記条件を、「買い取り」あるいは「買い取りの合意」ともいう。)。したがって、本件再放送等に伴い、原告に対し何らの追加的支払がされていないのは、本件契約に基づくものである。
 そもそも、被告から原告に対する背景音楽等の制作・提供の委託の申入れは、被告が従来全国放送番組の背景音楽等について制作委託していた場合と同様、既存の音源を利用した「選曲・音入れ」を前提にしたものであり、「買い取り」が当然の前提であった。原告からの申出により、選曲・音入れではなく、原告の作曲した本件楽曲等の制作・提供を前提とする契約となったものの、本件楽曲等は、被告のテレビ番組の映像を構成する各シーンのうち背景音楽等が必要であると考えられるものについて、その映像のイメージにあった音楽や効果音を番組毎に制作したもので、シーンごとの音楽は数秒から長くても2分程度のものであるにすぎず、被告としては本件再放送等により追加支払の必要性が生じることは全く考えていない。もちろん、「買い取り」が条件であることは原告としても当然に理解し,了解していたものである。
d) 被告は、原告に対し、制作に際して全国放送用の番組については事前に説明を行っている。もっとも、被告は、本件再放送等のすべてについて、原告に対し、特別の報告・説明を行ってはいない。被告は、「買い取りの合意」に基づいて対価を支払っていた以上、原告に対し、追加の対価を支払うことなく本件楽曲等を自由に使用することができるのであるから、本件再放送等の際、原告に対し、特別の報告・説明をする必要はない。なお、被告が原告に対し本件再放送等の時点でその旨の告知を事実上行ったこともあった。したがって、原告が本件再放送等の事実を知らなかったはずはない。
e) 被告は、平成2年8月ころ、以前制作したテレビ番組「家康人間学」(30分・26本シリーズ)の国内における放送権を財団法人放送番組センターに総額1560万円で期間を定めて譲渡した。その際、被告の社内において、売却価格がかなりの額となったことから、原告に対する「大入り袋」的な追加支払をすべきかについて議論された。本件契約は、「買い取り」である以上、追加支払は不要であるとの意見もあったものの、原告とは長い付き合いでもあるし、これからも良好な関係を保ちたいという趣旨から、原告に対し52万円(税引後)の支払がされることとなったのである。これは、原告が主張するような「著作権料」として支払ったものではない。なお、被告は、その後も本件各番組の一部について、放送権を同センターに譲渡しているものの、原告に対する追加支払は行っていない。
f) 被告から原告に対する本件楽曲等の制作発注は、平成10年から11年にかけて、徐々に減少した。原告において、納品日に間に合わない、酒臭い息をして来社するなどの不都合が見られたことから、担当ディレクターの中で原告への発注をやめ、他に発注する者が次第に増加するようになったからである。同一人物により制作された背景音楽等は音のイメージがどうしても似通ったものとなることから、マンネリを打破するという意向もあった。そのような状況において、平成15年2月ころ、原告から被告に対し、追加の報酬を求める文書が突然送付され、交渉などの経過を経て、本訴に至ったものである。
イ 買い取り合意を推認させる事情について
 本件契約においては、買い取りが当然の前提とされており、格別契約書が作成されていない。しかし、以下の各事情からすると、原告自身、本件契約が買い取りを前提としていたことを認めていたことが明らかである。
a) 本件差押事件において、被告は、顧問弁護士から、被告の原告に対する債務が存在するか否かについて調査すべきである旨の助言を得たことから、直ちに原告に対する債務の調査を行い、原告からも事情聴取も行った上で、その時点で、原告に対する債務は一切存在しないことを確認した。そこで、被告は、平成10年11月10日、静岡地方裁判所に対し、原告に対する債務が存在しない旨回答したため、Bは、債権不存在を理由に債権差押の申立てを取り下げた。その後、静岡県弁護士会から、平成11年1月27日、被告に対し、原告の被告に対する音楽制作に関する債権の存否(将来発生する可能性の有無を含む)について、いわゆる弁護士照会がされた。被告は、再度原告に対する対価支払債務の調査を行うとともに、原告と、原告に対する対価支払債務及び将来発生する対価支払債務の支払方法並びに原告のBに対する債務の弁済方法について協議をした。その結果、被告は、Bに対し、@平成10年11月10日以降発生した被告の原告に対する債務(手取り55万円)を被告からBに支払う、A被告が将来原告に依頼する業務の対価は、その2分の1を被告が原告に支払い、その残額を被告からBに支払うという提案をすることになった。被告顧問弁護士は、Bの代理人弁護士と交渉を行い、上記提案を前提として和解が成立したのである。被告は、上記和解に従って、原告に支払うべき対価の2分の1をBに支払っていた。原告は、平成11年4月ころ、県の中小企業に対する融資制度を利用してBに残額を返済し、これにより、上記紛争が解決した。
 原告は、本件差押事件があったころ、本件各番組の一部が、被告により、再放送、全国放送されていたことを知っていた。しかし、本件差押事件から、それに続く弁護士照会と債務返済のための協議、交渉あるいはそれに基づく支払及び残額返済のころまでの期間、原告と被告担当者との間で、原告の被告に対する債権額、それによるBに対する返済方法等について何度も話合いが行われたにもかかわらず、原告は、本件再放送等による代金が未払であるなどというような発言は一切しなかったのである。また、原告は、平成10年10月31日の時点で原告の被告に対する債権はないこと、平成11年1月27日の時点では、新たな番組制作代金として発生した55万の債権しか有していないことについて、何ら異論を述べず当然の前提として、上記対応策を協議していたのである。
b) 本訴における原告の主張は、本件契約における使用許諾は、いわゆるローカル番組放送一回分に使用することにすぎないというものである。しかし、本件調停事件の申立書やそれ以前の原告の主張は、被告から原告に支払われた対価は「番組制作に立会った労働力の対価」で、初回放送分、再放送分等について音楽著作権使用料を請求するというものであり(乙25)、本訴における原告の主張と矛盾する。
c) 被告は、昭和56年ころから約22年間にもわたり、原告から継続して本件楽曲等の提供を受け、本件各番組においてこれを使用し、本件再放送等を行ったのであり、これに対し、原告からは一切追加支払の請求はなかった。平成15年2月27日、原告から被告社員であるCあてに、「過去の番組での音楽著作権のご請求」として、3億6224万5000円の支払を求める書面が突然送付されてきたのである。本件契約の始期は、昭和56年であり、原告が被告に対し、追加支払の請求をしたのは、平成15年2月であって、仮に本件再放送等について原告が何らかの請求権を有するのであれば、原告は22年近くもこの請求権を放置してきたことになる。この間、原告は、本件各番組の音楽制作に関連して毎月頻繁に被告社屋に出入りしていたのであるから、被告による本件各番組の本件再放送等の事実も当然に認識していたはずである。しかも、原告が講読していたと思われる静岡新聞(いわゆる地方紙)等には、毎日、テレビ番組予定表が掲載されており、同欄には、再放送は、一目でそれが再放送であることがわかるように再放送マークがついているのである。また、再放送番組でも、テレビ番組予定表の下欄おいて番組紹介がされているものも多い。このような状況に照らせば、原告が、「ふるさと三国志」シリーズそのほか多数の番組が再放送された昭和57年から平成15年ころまでの間、本件再放送等について全く知らなかったということは、到底想定し難いものである。
d) 一般に、地方局においては、ローカル番組の制作よりも全国放送番組を制作する方が、「全国だから頑張ろう」という掛け声のもと、制作現場がより活性化するものであり、被告社屋に頻繁に出入りしていた原告がこのような制作現場の雰囲気を知らなかったはずがないのであるから、原告は、本件各番組の一部が全国放送された事実を当然知っていたというべきである。実際、原告自身も「全国だから頑張ります」と自ら発言していたこともあったのである。さらに、当初から全国放送されることを前提とした番組では、台本、企画書等にその旨が記載されており、また、放送される番組には「JNN共同制作」などの全国放送であることを示すスーパー等が挿入されるのであるから、原告は、制作過程におけるディレクターの説明のほかに、台本、企画書等によって当該番組が全国放送されるものであることは当然に理解していたはずである。
e) 原告は、平成2年8月ころには、「家康人間学」シリーズの財団法人放送番組センターへの譲渡に関連して、被告から、「大入り袋」的な金員の支払を受けており、また、平成10年には、本件差押事件に関連して、原告・被告間の対価支払条件が問題となるなど、原告が被告に対し追加請求が可能か否かについて検討する機会は十分存在したものである。にもかかわらず、原告が平成15年まで追加請求をしなかったのは、原告自身が原告・被告間の契約が「買い取り」条件であることを認識していたからにほかならない。
(2) 争点1−2(JASRACへの著作権の信託)について
(被告の予備的主張)
 原告は、平成8年3月1日から平成13年2月27日まで、JASRAC会員であり、その作曲にかかる楽曲はすべてJASRACに信託譲渡されていた。したがって、この間は、原告の楽曲はJASRACと被告との間の包括利用契約の対象となっており、被告による原告の本件楽曲等の利用は、すべて適法なものである。
(原告の反論)
 原告は、平成8年3月1日からJASRACの準会員になり、平成12年4月1日に信託会員となったものの、平成13年2月末日には期間が満了し、同日以降はJASRACの会員ではない。また、原告が、JASRACに入会し、著作権信託契約を締結した楽曲は、16曲のみにすぎず、上記16曲中には、本件楽曲等の一部も含まれていたものの、本件楽曲等の全部が信託されていないことは明らかである。なお、原告がJASRACに入会した際、被告の編成局テレビ編成部長であったD(現被告常務取締役)が、原告の作品の公表証明をしている。
(3) 争点1−3(著作権法94条2項の報酬請求権の成否)について
(被告の予備的主張)
 原告は、被告に対し、その実演を自ら録音し、その録音物(本件テープ等)を被告に提供したものであるから、その録音物に録音されている実演については実演家の放送権は適用されない(著作権法92条2項2号イ)。同法94条2項の報酬請求権は、実演家が実演の放送を許諾した場合に、放送事業者が放送のために固定を行った場合(同法93条1項)に作成された録音物等による放送において生じるのであり、録音権を有する者の許諾を得て録音されている実演については適用の余地はない。
 なお、背景音楽等を利用したテレビ番組の制作過程及び原告による本件楽曲等の提供方法、番組制作状況からすると、提供された背景音楽等がテレビ番組の各シーンにシンクロ(録音)されて使用されることは、当然の前提となっていたのであるから、前記「買い取り」の合意の内容として同番組への録音が含まれることは、原告、被告間で合意されていた。したがって、原告が主張する実演家への報酬支払義務が生じることはあり得ない。
(原告の反論)
ア 原告は、被告に対し、自ら実演して録音した本件楽曲等について、ローカル番組放送での1回の「放送」を許諾したにすぎないのである(著作権法92条1項)。そして、著作権法上、「放送」の許諾には「録音」の許諾は含まれない(著作権法103条、63条4項参照。強行規定。)。なぜなら、実演家が「放送」を認めたことで「録音」も認めたことになると、実演家の権利が著しく害されてしまうからである。もっとも、音源等の固定ができず、放送事業に支障を来さないために、放送事業者には、実演家から「放送」の許諾を得た実演を、「放送のために録音」することが特に認められている(著作権法93条1項。なお法102条1項、44条による一時固定も認められている。)。したがって、放送事業者は、放送のために固定した録音物を用いて放送することが可能となる。
イ もっとも、当該規定に基づく録音により再放送や他局への番組提供による放送等を行うときには、放送事業者は、実演家に対し、「相当な報酬」を支払わなければならない(著作権法94条1項、2項)。この報酬支払により、実演家の権利との調整が図られているのである。
 そして、他局への提供による放送の場合でも、実演家への支払は、実演を最初に放送用に録音した放送事業者がいわば「源泉支払方式」で実演家に対し支払うものとされている。例えば、日本放送協会(NHK)は、実演家たる音楽家に、番組放送の都度、報酬を支払っているし、テレビ俳優については、「『放送』の許諾には『録画』の許諾は含まれない」との取扱に基づき、テレビドラマ等が再放送される都度、放送事業者から実演家たる俳優に報酬が支払われていることは、周知の事実である。
 前記のとおり、「放送」と「録音」の許諾は、実演家の権利保護の観点から法律上厳格に区別されており、契約に別段の定めがない限り、実演家が「放送」を認めたからといって「録音」も認めたことにはならない。そして、本件において契約による別段の定めがないことは明らかである。被告の主張は、実演家による「放送」の許諾と「録音」の許諾を混同しているものというほかない。
 なお、著作権法92条2項2号イは、実演家が提供した記録媒体をそのまま用いて番組を放送することを前提とする規定であり、被告は、本件テープ等に記録された本件楽曲等について、業務用ビデオ編集機を用いて画面に合わせて楽曲を挿入する作業を行っているのであるから、このような複製行為自体は、著作権法上許容されるとしても、被告が放送用に作成した複製物は、原告が提供した録音物の増製物(著作権法2条1項13号)ということになり、当該増製物に対しては、原告の有する実演家としての権利が働くことになる。
 この点について、被告は、提供された背景音楽等が放送番組の各シーンにシンクロ(録音)されて使用されることは、当然の前提となっていたのであるから、買い取りの合意の内容として番組への録音が含まれることは、原告・被告間で明らかに合意されていたと主張する。しかし、原告と被告の間では、放送(ローカル番組放送一回分)の合意があったのみである。放送の許諾があったことをもって、録音の許諾があったものとすることは、著作者の保護に欠けることになり、著作権法103条、63条4項の趣旨にも反するものであり、被告の主張は失当である。
(4) 争点1−4(被告による再放送等)について
(原告の主張)
アa) 被告は、少なくとも別紙放送状況調査報告書のとおり、本件各番組の一部について、ローカル放送において数次にわたり再放送し、また、全国放送したのみならず、他局等に譲渡するなどした(本件再放送等)。
b) スポットについて
 本件楽曲等に含まれるスポットとは、5秒から15秒程度の短いテレビスポット等の放送時に用いられている楽曲である。スポット音楽は、被告において頻繁に使用されており、そのうち、原告が被告に提供したスポットは少なくとも20種類に及ぶものである。現在、確認することができるスポットは以下のとおりである。
@ 番組宣伝用(番組予告編)の音楽(5秒ないし15秒)
A 「SBSスペシャル」放送時の「アイキャッチ」用音楽(5秒)
B 「テレビ夕刊」タイトル音楽等
C 平成8年ころから平成14年3月ころまで、午後8時55分ころから同58分ころまで放送された天気予報の挿入曲
D 平成8年ころから平成9年ころまで放送された報道番組「ドン・ドン土曜日」のコマーシャル放映前に流れる曲(ジングルと呼ばれる短い曲)
E 平成5年ころから平成8年ころまで毎週土曜日に放送された報道番組「土曜望遠鏡」の画面転換時に放送される音楽
F 平成2年4月ころから平成5年ころまで、毎週土曜日午後5時から6時まで放映された報道番組「土曜メッセ」の画面転換時に使用される音楽
G 平成10年ころから平成14年3月ころまで、毎週月曜日から金曜日の午後12時59分から午後1時までの間に流れる放送音楽(その後、昼の番組が続けて放送される。)
H 現在、毎週月曜日から金曜日まで、午後4時54分55秒から55分00秒までの5秒間、番組「時代劇アワー」のタイトルを放送している際に使用される曲
イ 被告が原告に無断で本件再放送等を繰り返したことは、本件契約による使用許諾の範囲を超えたものであり、本件楽曲等の著作権侵害行為に当たると同時に、本件契約の債務不履行にも該当することは明らかである。
ウ 原告は、本件テープ等に録音した本件楽曲等のすべてを、自ら演奏し、録音したものであるから、原告は、そのすべてについて実演家権を有している。したがって、原告は、本件再放送等について、被告に対し、本件楽曲等の実演家権の侵害に基づいて、報酬相当額の支払を求める権利を有する。
(被告の主張)
 被告が、別紙「放送状況調査報告書」記載事実に対する認否記載のとおり、本件再放送等をしたことがあることは認める。なお、スポットについては、原告の主張自体が不明確であり、認否することができない。本件契約においては、被告は原告から本件楽曲等の著作権を買い取っているか、少なくとも本件各番組において使用する限りは、本件再放送等について、包括的許諾を得ており、一切対価の支払が不要であるというべきであるから、本件再放送等の事実について、詳細に調査する必要はない。
2 争点2(本件楽曲等の著作権の確認の利益について)
(原告の主張)
(1) 原告は、本件楽曲等のすべてを作曲した。本件楽曲等に創作性が認められることは明らかである。そして、本件契約において、現に本件楽曲等の著作権を被告に譲渡する旨の合意はされていない。したがって、本件楽曲等の著作権は、いずれも原告が有するものである。
(2) 被告は、本件楽曲等はすべて被告が原告から買い取ったものであるから、被告が著作権を有する旨主張する。
 したがって、原告と被告間の本件楽曲等に関する権利関係の紛争を解決するためには、本件楽曲等に含まれる別紙楽曲目録記載の各楽曲(以下「本件対象各楽曲」という。)の著作権がいずれも原告に帰属することを確認する必要がある。
(被告の主張)
 本件契約において、本件楽曲等の著作権は、いずれも原告から被告に譲渡されたものというべきである。したがって、本件対象各楽曲の著作権は、いずれも被告が有するものである。
3 争点3(原告の損害)について
(原告の主張)
(1) 著作権侵害又は本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求について
 被告による本件楽曲等の著作権侵害行為又は本件契約の債務不履行により、原告は、ローカル番組としての再放送、全国放送、番組転売、テレビスポットでの長期間の音楽使用の際に被告から支払を受けるべき音楽使用許諾料に相当する金額の損害を被った。
 本件再放送等による原告の損害は、被告が本件再放送等により得た利益等を考慮すると、別紙放送状況調査報告書「リピート使用及びキー局不足分詳細合計」表の「音楽著作権侵害額合計」欄の「1.ローカル30分」、「2.ローカル60分」、「3.ローカル15分」、「5.スポット」、「4.キー局60分不足分」、「6.キー局推測不足分」(全国放送)、「7.他局転売分」の各欄記載のとおりであり、その合計は10億3797万7536円となる。
ア 30分番組ローカルでの再放送による損害 合計金3751万0736円
イ 60分番組ローカルでの再放送による損害 合計金1318万6800円
ウ 15分番組ローカルでの再放送による損害 合計金1808万円
エ スポット番組ローカル放送による損害 合計金2920万円
オ 全国放送による損害 合計金4億9000万円
 なお、本件契約における使用許諾条件が、ローカル番組における放送を前提とする以上、全国放送においては、初回放送分から損害を算定すべきである。
カ 他局への番組転売による損害 合計金4億5000万円
(2) 著作隣接権侵害に基づく損害賠償について
 原告は、本件楽曲等の実演家として、被告による著作隣接権侵害に基づく損害賠償請求として、被告に対し、報酬相当額の支払を求める権利を有する。
 本件再放送等による原告の報酬相当損害額は、被告が本件再放送等により得た利益等を考慮すると、別紙放送状況調査報告書「リピート使用及びキー局不足分詳細合計」表の「実演家権侵害額合計」欄の「1.ローカル30分」、「2.ローカル60分」、「3.ローカル15分」、「5.スポット」、「4.キー局60分不足分」、「6.キー局推測不足分」(全国放送)、「7.他局転売分」の各欄記載のとおりであり、その合計は9億2848万円となる。
ア 30分番組ローカルでの再放送による報酬 合計金6752万円
イ 60分番組ローカルでの再放送による報酬 合計金1980万円
ウ 15分番組ローカルでの再放送による報酬 合計金2712万円
エ スポット番組ローカル放送による報酬   合計金3504万円
オ 全国放送による報酬 合計金4億7900万円
 なお、本件契約における使用許諾条件が、ローカル番組における放送を前提とする以上、全国放送においては、初回放送分から損害を算定すべきである。
カ 他局への番組転売による報酬 合計金3億円
(被告の主張)
 争う
4 争点4(消滅時効の成否)について
(被告の主張)
(1) 5年の消滅時効の完成(債務不履行に基づく損害賠償請求に対して)
 仮に、被告が本件契約の債務不履行に基づく損害賠償義務を負うとしても、被告は予備的に5年間の消滅時効(民法166条1項、商法522条)を援用する。すなわち、本件調停事件は、平成16年3月10日、第3回調停期日において調停不成立により終了した。本件訴訟は、平成16年8月20日に提起されたものであり、調停不成立による終了から1か月以上経過しているので、民法151条が準用される余地はない。
 したがって、原告の債務不履行に基づく損害賠償請求のうち、本件訴訟提起の前6か月以内に行われた請求書に記載された損害については、同請求書による催告が被告に到達した日である平成16年5月31日までに再放送等が行われた日から5年が経過しているテレビ番組放送に関するものについては、消滅時効が完成している。
(2) 3年の消滅時効の完成(不法行為に基づく損害賠償請求に対して)
 同様に、原告の不法行為に基づく損害賠償請求のうち、本件訴訟提起の前6か月以内に行われた請求書に記載された損害については、同請求書による催告が被告に到達した日である平成16年5月31日までに再放送等が行われた日から3年が経過しているテレビ番組放送については、消滅時効が完成している。
(3) 被告は、平成16年10月5日の本件第1回口頭弁論期日において、上記各消滅時効を援用した。
 なお、原告は、本件再放送等の事実を当初から知っていた。本件において、被告による消滅時効の援用を権利濫用とすべき事実は存しない。
(原告の主張)
(1) 5年の消滅時効について
 放送事業者である被告と一個人にすぎない原告との間には、圧倒的な情報収集力の差がある上、原告は、本件再放送等の事実を全く知らされていなかったのであるから、原告は、本件訴訟を提起するまで、被告に対し損害賠償を請求しようにもすることができない状況にあった。したがって、原告は、消滅時効の起算点である権利を行使し得る状況になかったことは明らかである。よって、本件においては、被告が5年の消滅時効を援用することは、少なくとも信義誠実の原則に反し、権利の濫用として許されないというべきである。
(2) 3年の消滅時効について
 原告は、本件再放送等を被告から全く知らされていなかったため、本訴提起に当たり、請求を特定するために県立図書館に保管されている日刊新聞のマイクロフィルムを精査するなどの調査を余儀なくされた。原告は、これらの調査を通じて、初めて本件再放送等の事実を知ったのである。不法行為の消滅時効の起算点は「損害及び加害者を知った時」から3年である(民法724条)。そして、「知った時」とは、被害者において、加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度において知ったことを意味するのであるから、本件においては、その起算点は、被告によるテレビ番組の無断放送等の各時点ではなく、原告が事実関係を調査し、被告による音楽著作権の侵害の事実と損害の発生を正確に知った時点である本訴提起日の平成16年8月20日であるというべきである。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(著作権、著作隣接権侵害の成否)について
(1) 争点1−1(本件契約の内容)について
 当裁判所は、本件契約においては、本件各番組の本件再放送等に伴う本件楽曲等の使用について、原告から被告に対し包括的許諾があったものであり、その許諾の対価が既に支払済みであるものと認める。その理由は次のとおりである。
ア 本件契約締結の経緯、本件楽曲等の内容、演奏時間、使用目的、制作過程及び使用状況等について
 前記前提となる事実及び証拠(甲5、7〔枝番の記載は省略する。以下同じ。〕、9〜13、17〜22、乙28)並びに弁論の全趣旨によると、次の各事実が認められる。 
a) 本件契約締結の経緯
 被告の社員Eは、昭和56年、制作担当プロデューサーとして「ふるさと三国志」シリーズの番組を制作するに当たり、被告のライブラリーにある音源を使用しての背景音楽等の選曲音入れ作業を原告に依頼した。原告は、被告のライブラリーにある音源を使って選曲音入れ作業をするよりも、自ら作曲・編曲した方がよいものができる旨提案し、Eもこの提案を受け入れたため、被告は、原告に同番組の背景音楽等の制作を依頼することになった。
b) 本件楽曲等の内容、演奏時間、使用目的
 本件楽曲等は、本件各番組において、番組の映像を構成する各シーンのうち、背景音楽等が必要な映像について、当該映像のイメージに合わせて制作された音楽や効果音であり、本件各番組と一体となって使用されるものである。原告は、本件楽曲等を本件各番組毎に作曲、編曲し、これを実演し、本件テープ等に録音して被告に提供していた。本件楽曲等の総数は、正確なところは不明であるものの、少なくとも数万曲に及ぶものと推測される(原告は約6万曲と主張する。)。もっとも、本件楽曲等のうち、証拠として提出されているものの曲の長さは、次のとおりであり、いわゆるテーマ曲を除けば、大半が30秒以下の曲であって、中には10秒以下の効果音的なものも多い。
@ テレビ番組「そこが知りたい 第1話」のために制作された45曲
i) 10秒以下の曲 13曲
ii) 11秒以上30秒以下の曲 24曲
iii) 31秒以上1分以下の曲 6曲
iv) 1分1秒以上2分以下の曲 2曲
A テレビ番組「昭和の向こうに明日が見える」のために制作された21曲
i) 30秒以下の曲 10曲
ii) 31秒以上1分以下の曲 11曲
B テレビ番組「ふるさと伊豆半島誌 第4話」のために制作された24曲
i) 30秒以下の曲 4曲
ii) 31秒以上1分以下の曲 14曲
iii) 1分1秒以上1分30秒以下の曲 6曲
C 番組テーマ曲又は挿入曲として制作された4曲
i) 「ふるさと三国志」テーマ 1分54秒
ii) ハンセン病主題歌テーマ 2分10秒
iii) 今福祉は 挿入曲 4分26秒
iv) 静寂のシンフォニー南アルプス 挿入曲 3分40秒
D その他(10曲)
i) 30秒以下の曲 6曲
ii) 31秒以上1分以下の曲 2曲
iii) 1分1秒以上1分30秒以下の曲 2曲
 このように、本件楽曲等の使用目的は、テーマ曲として使用された楽曲もあるものの、その大半はテレビ番組の映像の背景に流されたり、いわゆるスポットと呼ばれる短時間の番組の背景に使用されたり、場面と場面が切り替わる際に流される効果音として使用されたものであった。
c) 本件楽曲等の制作過程
 本件楽曲等の制作は、その後も、本件各番組毎に、被告の担当ディレクターから原告に対して個別に発注されることにより開始された。各ディレクターや番組によって多少異なることがあったものの、本件楽曲等の制作過程は、通常、@担当ディレクターからの連絡により原告が被告に来社し、編集室において台本を見るなどしながらナレーションの入っていない映像のみの番組(通称画パケ。映像及びタイムコードのみ記録されているもの)を見ながら、担当ディレクターから番組の概要、背景音楽等が必要な場面、時間について説明を受けた上で、原告が場面の内容、場面が切り替わるタイミングなどを記憶し、メモする、A原告が、自宅に画パケが録画されているビデオを持ち帰り、映像の内容と照らし合わせながら本件楽曲等を制作し、これを本件テープ等に録音する、Bディレクターによっては、VHSに録画した画パケを持参して原告の作業する場に赴き、原告の作業に立ち会うこともあり、この場合、ディレクターの指示により再制作されることもある、C原告が被告に本件テープ等を持参し、提供された音楽を被告において画パケにシンクロさせて、実際の番組放送に使用される完全パッケージが制作される、というものであった。このように、原告は1回のテレビ番組における本件楽曲等の制作のために、最低2回は被告に来社していたことになる。
d) 本件楽曲等の使用状況について
 本件楽曲等のすべてが番組において使用されたわけではなく、原告が提供した本件楽曲等の中から、番組担当ディレクターが選択したものが使用されていた。また、本件楽曲等のうち、スポットと呼ばれる短時間の番組のために制作された背景音楽等は、繰り返し使用されていた。
e) 被告が支払った対価の額について
 被告が原告に対して支払った対価の額は、合計約6259万円(源泉徴収後の金額)である。原告と被告の間には、本件楽曲等の制作の対価の額については、1か月毎に、被告が原告に対して各月合計の対価を振り込むことにより支払がされていた。もっとも、原告は、支払われた対価が低額であるなどと被告に不服を述べることはなかった。対価の額は、番組一本当たりにおいて背景音楽等が必要なシーンの数及びその長さなどを考慮して定められていた。各月において、原告が本件楽曲等の制作に関与した番組数などが異なるため、被告の原告に対する各月の支払額は様々であるものの、番組一本に対する対価の最低額は、3万3333円(源泉徴収前)、最高額は33万3333円(源泉徴収前)、月毎の合計最低額は3万3333円(源泉徴収前)、最高額は76万6665円(源泉徴収前)であった。
イ 本件再放送等に対する原告の対応について
a) 本件各番組は、被告により、多数回にわたり本件再放送等がされていた。すなわち、被告は、遅くとも昭和57年7月4日に「ふるさと三国志第1話」を再放送したことにより、本件再放送等を開始したものであり、「街道の路地裏シリーズ」及び「ふるさと三国志」シリーズなどの特に人気のある番組については、四次にもわたり本件再放送がされていた(争いがない)。
 新聞には、テレビの番組予定表が掲載されており、同予定表においては、再放送番組について、再放送であることを示すマークが表示されている。また、地元紙である静岡新聞は、被告の系列会社(甲4、乙5参照)であるため、同新聞の番組予定表の下欄においては、被告のテレビ番組が多数紹介されており、本件各番組の再放送分についても多数が紹介されてきた。その一例を示すと、例えば、昭和57年に再放送された「ふるさと三国志」シリーズは、全39話中31話が番組紹介欄において紹介され、特に、昭和57年9月5日からは、昭和58年3月6日まで26週連続で、タイトルに大きなフォントを用い、紙面を3段程度使用するなどの目立つ態様において紹介されている。また、平成2年10月7日から再放送された「家康人間学」シリーズも、全26話中23話が番組紹介欄に番組名を目立つようにゴシック体で表示するなどして紹介されている(乙27)。
b) 被告において、全国放送番組を製作する場合には、担当ディレクターが原告に本件楽曲等の制作を依頼する際に、その旨の説明をすることが多く、また、台本にも全国放送であることが記載されていることが多い。また、テレビ番組が全国放送されるときには、当該番組に全国放送である旨の画面表示が付されるのが通常である。また、「ふるさと三国志」シリーズなど、被告が製作した番組が好評であるため本件再放送等される場合には、製作担当部門においてそのことが話題にのぼることは当然のことである(乙28、弁論の全趣旨)。
c) 原告は、前記のとおり、本件楽曲等の制作のために、一つのテレビ番組毎に、少なくとも2回は被告に来社している。例えば、原告は、昭和62年には、被告のテレビ番組「ふるさと伊豆半島誌」シリーズ及び「家康人間学」シリーズのための背景音楽等を制作しており、放送回数は前者が、1月4回、2月4回、3月5回、後者は、4月4回、5月5回、6月4回、7月4回、8月5回、9月4回、10月4回、11月5回、12月4回であるから(別紙「放送状況調査報告書」記載事実に対する認否のとおり、争いがない。)、それらの番組について原告は被告社屋において少なくとも月4、5回は映像VTRを見てシーンの時間とイメージについてディレクターと打合せを行い、月4、5回は本件テープ等を持参してディレクターと打合せを行っていたことになる。このように、原告は、昭和62年当時においては、月に8ないし10回、被告社屋を訪問しているのである。そして、昭和62年においては、同年の1月から4月まで「ふるさと湖畔誌」シリーズの再放送が、また、引き続いて4月から12月には週1回の割合で「ふるさと三国志」シリーズの再放送が、同年の1月から3月までの間及び10月から12月までの間は週1回の割合で「3才っ子」シリーズの再放送が行われている(前同様に争いがない。)。再放送等された番組は好評であるため再放送等されるものもあり、原告が毎週数回被告に来社し、担当ディレクターと打ち合わせを重ねていたにもかかわらず、同時期に被告が行った本件再放送等について全く話題にも上らず、原告が知らなかったというのは余りにも不自然である。
d) 原告は、昭和56年ころから被告に対して本件楽曲等の制作、提供を開始し、その後、平成15年2月26日ころ、被告の社員Cあての書簡において、「暫定的 過去の番組での音楽著作権のご請求」として、合計3億6224万5000円の支払を求めるまで、既払いの対価以外の不足額を請求したことはなかった(乙14、乙28)。
e) 上記認定事実によると、原告は、本件各番組の多くが、20年以上にもわたり再三再放送され、テレビ放映されているのみならず、本件各番組の再放送の事実は、新聞の番組予定表やその番組紹介コーナーなどの記載からも容易に知り得るものであり、また、原告は、20年以上にもわたり、本件楽曲等の制作に際して、被告社内に出入りし、台本を見ながら、担当ディレクターと打ち合わせをしているのであるから、担当ディレクターとの会話等から本件各番組の一部が再放送されたことや全国放送されたことを当然に知っていたものと認められる。
ウ 本件差押事件の経緯等について
a) 静岡地方裁判所裁判官は、平成10年10月29日、債権者をB、債務者を原告、第三債務者を被告とし、「債務者(原告)が第三債務者(被告)に対して有する音楽制作著作権契約に基づく音楽制作代金請求債権(364万6810円)」を差押債権とする債権差押命令を発令し、同差押命令は、同月31日、被告に送達された(乙2)。原告は、平成10年11月6日、同決定の送達を受け、被告に対し、「……良き知識を教えて下さい。」などと付記して同決定をFAX送信し、その対応策について相談した。被告は、社員であるDが担当者となり、顧問弁護士であるF弁護士に対応を相談した。F弁護士は、Dに対し、現時点において原告に対する未払の対価が存在するか否かを調査し、存在する場合には支払を停止するように指示した。Dは、社内における調査及び原告に対する聞き取り調査を行い、当時、原告に対する未払の対価は存在しないことを確認し、平成10年11月11日ころ、差押債権は存在しない旨の陳述書を静岡地方裁判所に提出した。Bは、これにより、債権不存在を理由として本件差押事件を取り下げた。(乙2、3)
b) Dは、原告に対し、再三、早期にBに対する債務の全額を弁済するように助言した。これに対し、原告は、平成11年1月末日には何としてでも返済すると説明したため、被告は、原告に対し、合計4本の番組の背景音楽等の制作を依頼した。もっとも、その対価合計55万円(手取り額)については、上記借入債務の全額が返済されるまで、支払が留保されることとされた(乙5)。
c) 静岡県弁護士会は、平成11年1月27日、被告に対し、@被告は、原告に音楽製作を依頼したことがあるか、Aあるとすれば、いつからいつまでか、現在も継続しているか、B原告と被告の間の契約は請負契約か、作品の売買契約か、それとも雇用契約か、C支払条件、D原告に対して今後支払を予定している代金の有無、その時期、金額についてのいわゆる弁護士照会をした(乙4)。
 照会書には、原告は、Bに対し、原告は被告の音楽制作を担当しており、年間数千万円の代金を支払ってもらっているとの説明を受けたため、それが事実であれば、同代金を差し押さえる予定である旨が記載されていた。Dは、平成11年2月2日、原告と話合いをして、第1に、被告が支払を留保している55万円については、被告からBに支払うこと、及び、今後、被告が原告に対して背景音楽等の制作を依頼し、発生した対価については、半額を被告からBに支払うことにより借金の返済をするという和解案をF弁護士を通じて提案する、第2に、弁護士照会については、@原告との取引関係はある、A昭和56年ころから必要に応じて作曲を依頼する関係で、特別な契約関係にはない、B作品の売買契約である、C作品放送月の翌月末日支払である、D今後も原告から作品を買い上げる場合があるので、代金額の2分の1をその都度返済に充てる用意があると回答することとした。
d) F弁護士は、上記和解案を前提として、Bの代理人弁護士と交渉した。なお、被告は、原告とBとの和解が成立しなかった場合には、原告との取引を中止する予定であった。F弁護士は、交渉資料として、Dに対し、平成9年及び平成10年における原告と被告との取引実績の一覧表作成を依頼した。同表(乙9)によると、平成9年においては手取り総額259万円、平成10年においては手取り総額439万円であった。なお、平成10年分の表には、「A氏とSBSとの間の契約書は、本人の意向で取り交わしていない。『製作物』はSBSの買い取りということになっている。再放送等の2次的使用に際しては、A氏に対する新規の支払い義務はSBSには発生しない。」と記載されている。F弁護士とBの代理人弁護士とによる交渉の結果、@平成10年11月10日以降発生した被告の原告に対する債務(手取り55万円)を被告からBに支払う、A被告が将来原告に依頼する業務の対価は、その2分の1を被告が原告に支払い、その残額は被告からBに支払うとの内容の和解が成立した。原告は、その後、平成11年4月13日、県の中小企業に対する融資制度を利用してBに残額310万円を弁済し、これにより同紛争が解決した(乙6〜13)。
e) 上記認定事実によれば、原告は、本件差押事件及びBとの和解において、Dと数回、話合いを行い、Bに対する債務の弁済について対応策を協議した過程において、Dに対し、本件再放送等について、原告が被告に対し、本件楽曲等の著作権に基づく使用料請求権を別途に取得しているなどという主張は一切しておらず、かえって、被告は、原告との協議を経た上で、Bに対し、本件楽曲等については、「作品の売買契約である」旨返答していたものである。
エa) 上記各認定事実によると、本件楽曲等は、数秒から長くても数分程度の短いものであり、テレビ番組の映像のイメージに合わせて挿入される背景音楽等であり、本件各番組と一体となって使用されることが当然の前提となっているものである。また、テレビ番組が、本件各番組のように、ローカル番組として再放送されたり、全国放送されたりすることはよくあることである。さらに、スポット用の背景音楽等については、スポット番組の性質上、反復継続的に使用されることは当然の前提とされているものである。そして、被告は、従前から、このような背景音楽等については、いわゆる「買い取り」の合意をしていたことから、本件契約についても同様に理解していたものであること、及び、原告も、本件各番組について、約22年の長期間にわたり、本件再放送等がなされており、これがテレビで放映されるだけでなく、新聞のテレビ番組予定表やその番組紹介欄にも掲載され続けてきており、本件再放送等の事実を当然に認識し得る状況が続いていたにもかかわらず、約22年間、本件再放送等について追加の対価を請求していなかったことからすれば、原告は、被告に対し、本件契約により、本件楽曲等に関する本件再放送等も含めた利用について、その都度支払を受けた報酬をもって,少なくともこれを包括的に許諾していたものと認めるのが相当である。また、原告は、平成10年の本件差押事件とこれに続く和解交渉等において、原告が被告に対し本件楽曲等の本件再放送等に伴う対価請求権を有しているとの主張を一切しておらず、このような請求権がないことを前提として行動しているものであり、このことも本件楽曲等の利用について包括的許諾があったことを強く推認させるものである。
b) 原告は、@原告は、被告担当者からは、「ローカル番組放送用に楽曲を提供する」という説明しか受けていない、A被告が原告に支払った対価は、本件楽曲等の使用料としてローカル番組放送一回分のみを前提として算定されている、B原告は、スポットについても、せいぜい1年程度の使用を前提とする対価しか受領していない、C著作権買い取りが事実であれば、被告から原告に対し、追加支払は一切されないはずであるにもかかわらず、被告は、平成2年8月ころ、テレビ番組「家康人間学」シリーズを財団法人放送番組センターに総額1560万円で譲渡した際、原告に対し、「著作権料として」金50万円を支払った、Dテレビ番組は、通例、第一次利用としての番組一回分の放送を最優先に制作され、音楽家や実演家等の関係者との間でも、放送一回分を前提に契約が締結されるのが通常である、E原告は、音楽制作に没頭するタイプであり、新聞やテレビ番組を確認することはしていないのであり、また、被告が本件再放送等の事実を一切原告に知らせていなかったため、本件再放送等の事実を全く知らず、約22年にわたり対価請求をすることができなかった、F本件差押事件に関しては、当時、原告と被告は放送番組制作に向けて利害が一致しており、被告としても原告をかばいたいと考えていたこともあり、差押債権者であるBに対する回答も、できる限り差押えが功を奏しないように配慮したものである、G全国放送であることを示す「JNN共同制作」等のスーパーは、オンエア直前に初めて挿入されるものであるから、原告は、制作時点において全国放送であることを知ることができないとして、本件契約においては、本件楽曲等は、「ローカル番組放送一回分」に限り、使用許諾されたにすぎない、と主張する。
 しかし、上記@の原告の主張については、原告と被告との間の本件契約の内容について、明確な契約書がないことは事実であるものの、原告と被告との間において、本件楽曲等の利用について、包括的な使用許諾がなされたとみるべきことは前記認定のとおりである。
 上記A及びBの原告の主張については、本件楽曲等についての適正な包括的使用許諾の対価は、原告の音楽家としての客観的評価、本件楽曲等の内容、演奏時間、使用用途、背景音楽等の重要性等の要素によって総合的に決定されることであり、被告が原告に対し支払った対価の額が、ローカル放送1回限りの使用許諾料であるとか、スポットと呼ばれる短い番組については1年間の使用許諾に相当する料金にすぎないと認めるに足りる証拠もないといわざるを得ない。
 上記Cの原告の主張については、被告は、確かに、平成2年8月ころ、テレビ番組「家康人間学」シリーズを財団法人放送番組センターに総額1560万円で譲渡した際、原告に対し、金50万円を交付している(争いがない)。しかし、同金員の交付の趣旨については、番組譲渡に伴う楽曲の著作権料であるのか、番組を高く譲渡することができたことに対するいわゆる大入り袋的な金銭給付であるかについて争いがあるところであり、被告が原告に対し本件契約による許諾料以外に金銭を支払ったのは、この件限りであって、その後、本件再放送等について、被告から原告に対し何らの支払がなされていないにもかかわらず、原告から被告に対し何らの不服も述べられていないこと、及び、前記のとおり、原告は、平成10年の本件差押事件において、Bから被告に対する債権の差押えを受けるという緊急事態にまで至っているにもかかわらず、その際においてさえ、ほかからの借入れまでしてBに対する債務を弁済していながら、被告に対し、本件再放送等について追加的な対価の支払請求をしていないことからすれば、上記50万円の支払は、本件各番組の譲渡に伴い著作権である原告の権利処理に必要な対価として支払われたものとまでは認められず、単に、被告が上記番組を高額で譲渡することができたことから、同番組の関係者に対し、大入り袋的に支払われたものにすぎないものと認められる。
 上記Dの原告の主張については、テレビ番組は、音楽家や実演家等の関係者との間でも、放送一回分を前提に契約が締結されるのが通常であるかどうかは本件全証拠によっても必ずしも明らかではなく、また、仮にそうであるとしても、本件契約については、前記認定の本件における特殊な事情からすれば、前記のとおり認定すべきであることに変わりはない。
 上記Eの原告の主張については、原告が、本件再放送等の事実を知り得る機会は無数に存在し、原告が本件再放送等の事実を全く知らなかったとは容易に想定することができないことは、前記認定のとおりである。しかも、原告は、長年にわたり、毎週のように本件楽曲等の制作のために被告に来社していたのであるし、その間、被告のディレクターなどと、本件各番組の中には、評判がよいなどの理由により再放送されたり、他局等に放送権の譲渡あるいは許諾等がされていることなどについて、長期間にわたり、話題にも上らなかったということは極めて不自然なことである。また、原告は、音楽教室を主宰し、多種多様な音楽活動を行っていたのであるから(甲14参照)、原告が、本件再放送等について一切知り得ないほど、社会から隔絶した状況で音楽活動に没頭していたと解することはできない。
 上記Fの原告の主張については、そもそも、原告が被告に対し本件再放送等について使用料請求権を有していると認識していたとすれば、被告に対し多額の使用料請求権を有することを主張するのが本筋であり、到底採用し得ない主張である。
 上記Gの原告の主張については、原告は、被告の担当ディレクターから番組の説明を受けながら本件楽曲等の制作を行うことは前記認定のとおりであり、全国放送予定のものはその際にその説明を受けるであろうし、原告がそのことを知らないまま今日に至っているということが考えにくいことは、前述のとおりである。
 原告の上記各主張はいずれも前記認定を左右するものということはできない。
オ 被告は、本件契約は、本件楽曲等の著作権の譲渡を内容とするものであったとも主張する。しかし、著作権の譲渡は著作権者に重要な影響を及ぼすものであるにもかかわらず、本件契約においては、契約書等、譲渡の合意があったことを明確に示す文書が作成されていないこと、被告としては、本件再放送等において追加の対価を支払うことなく自由に本件楽曲等を使用することができれば、本件契約の目的を十分達成することができること、原告が平成7年にJASRACに加入する際、当時、被告の編成局テレビ編成部長であったDは、同年12月13日付けで、本件楽曲等の一部(3曲)について、原告に著作権があることを前提としていると思料される作品公表証明をしていること(甲6)、原告が被告に対し、本訴提起の数年前に、本件楽曲等の一部を原告が制作するCDに使用して良いかを念のため問い合わせたところ、被告が本件各番組とは別個に本件楽曲等を使用することについては承諾していること(乙28)などからすると、本件楽曲等については、本件契約により、被告に対し、被告が本件各番組の背景音楽等あるいはスポットとして使用することについては包括的な許諾がなされたものと認められることは前記のとおりであるものの、著作権譲渡の合意があったとまでは認めることはできない。
カ 結論
 前記認定のとおり、本件契約における本件楽曲等の包括的使用許諾は、被告による本件各番組の利用に伴う使用については、本件再放送等(再放送、全国放送、放送権の許諾ないし譲渡等の一切の利用)について包括的許諾があり、その許諾料はその都度支払われてきたものと認められる。したがって、本件再放送等により、原告の著作権及び実演家としての著作隣接権が侵害されたものとは認めることができない。
 よって、原告の被告に対する本件楽曲等に関する著作権侵害に基づく損害賠償請求又は本件契約の債務不履行に基づく損害賠償請求及び本件楽曲等に関する実演家の著作隣接権侵害に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
(2) 争点2(本件楽曲等の著作権の帰属)について
 原告が、本件対象各楽曲を作曲したことについては、当事者間に争いがない。そして、被告は、本件楽曲等について、いずれも原告からその著作権の譲渡を受けており、被告が著作権を有すると主張し、原告が著作権を有することについて争っているのであるから、原被告間において、本件対象各楽曲について原告に著作権があることを確認する利益がある。
 よって、原告が本件対象各楽曲の著作権を有することの確認を求める請求は、理由がある。
第5 結論
 以上によれば、原告の請求は、本件対象各楽曲の著作権が原告に帰属することの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法64条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 設樂隆一
 裁判官 鈴木千帆
 裁判官 荒井章光


(別紙)楽曲目録
1 被告が製作したテレビ番組「そこが知りたい 第1話」のために作曲・演奏された下記楽曲(甲17として提出されたCD−ROM〔題名「そこが知りたい 第1話」〕に収録されたもの)
 記
 曲名/演奏時間
 M1/20秒
 M2/20秒
 M3/20秒
 M4/20秒
 M5/38秒
 M6/39秒
 M7/20秒
 M8/22秒
 M9/21秒
 M10/48秒
 M11/47秒
 M12/23秒
 M13/21秒
 M14/22秒
 M15/22秒
 M19/13秒
 M25/18秒
 M26/20秒
 M27/17秒
 M31/39秒
 M32/38秒
 M33/13秒
 M34/14秒
 M36/20秒
 M40/20秒
 M41/16秒
 M42/14秒
 M43/14秒
 M44/1分43秒
 M45/1分42秒
2 被告が製作したテレビ番組「昭和の向こうに明日が見える」のために作曲・演奏された下記楽曲(甲18として提出されたCD−ROM〔題名「昭和の向こうに明日が見える 音集」〕に収録されたもの)
 記
 曲名/演奏時間
 M1/30秒
 M2/40秒
 M3/40秒
 M5/32秒
 M6/30秒
 M7/29秒
 M8/24秒
 M9/20秒
 M10/19秒 
 M11/30秒
 M12/31秒
 M13/23秒
 M14/55秒
 M15/29秒
 M16/58秒
 M17/57秒
 M18/51秒
 M19/37秒
 M20/55秒
 M21/54秒
3 被告が製作したテレビ番組「ふるさと伊豆半島誌 第4話」のために作曲・演奏された下記楽曲(甲19として提出されたCD−ROM〔題名「ふるさと伊豆半島誌 第4話」〕に収録されたもの)
 記
 曲名/演奏時間
 M1/42秒
 M2/32秒
 M3/31秒
 M4/31秒
 M5/1分09秒
 M6/1分09秒     
 M7/48秒
 M8/49秒
 M9/44秒
 M10/42秒 
 M11/44秒
 M12/44秒
 M13/14秒
 M14/14秒
 M15/1分20秒     
 M16/1分20秒     
 M17/1分20秒     
 M18/46秒
 M19/1分15秒     
 M20/27秒
 M21/27秒
 M22/40秒
 M23/39秒
 M24/39秒
4 被告が製作したテレビ番組「ふるさと三国志」及び「ハンセン病」のために作曲・演奏された下記楽曲(甲20として提出されたCD−ROM〔題名「甲第5号証音楽用」〕に収録されたもの)
 記
 曲名/演奏時間
 「ふるさと三国志テーマ」 1分54秒
 「ハンセン病主題曲テーマ」 2分10秒 
5 甲21として提出されたCD−ROM(題名「2005.10.25再々録 番組用音楽一部収録抜粋」)に収録されたもの)
 記
 曲名/演奏時間
 M−1/26秒
 M−5/52秒
 M−6/25秒
 M−72/41秒
 M−50/24秒
 M−51/28秒     
 M−57/30秒
 M−64/25秒
 M−65/1分00秒
 M−66/1分21秒
6 被告が製作したテレビ番組「今福祉は」及び「静寂のシンフォニー南アルプス」のために作曲・演奏された下記楽曲(甲22として提出されたDVD〔題名「今福祉は 挿入曲、静寂のシンフォニー南アルプス挿入曲」〕に収録されたもの)
 記
 曲名/演奏時間
 「今福祉は 挿入曲」 4分26秒
 「静寂のシンフォニー南アルプス挿入曲 3分40秒
 以上
line
 
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