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【事件名】商標“本当にあったHな話”侵害事件
【年月日】平成17年12月21日
 東京地裁 平成16年(ワ)第8092号 商標権使用差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成17年10月12日)

判決
原告 株式会社ぶんか社
同訴訟代理人弁護士 酒井正之
同補佐人弁理士 天野広
被告 株式会社竹書房
同訴訟代理人弁護士 大辻正寛
同補佐人弁理士 樋口盛之助


主文
1 被告は、別紙被告標章目録1記載(1)ないし(5)の各標章を付した漫画雑誌を販売してはならない。
2 被告は、別紙被告標章目録3記載(1)ないし(4)の各標章を付した漫画雑誌を販売してはならない。
3 被告は、原告に対し、金337万3321円及び内金228万1321円に対する平成16年4月17日から、内金94万2000円に対する同年8月27日から、内金15万円に対する平成17年10月6日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は、これを5分し、その2を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
6 この判決は、主文第3項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項及び第2項と同旨
2 被告は、別紙被告標章目録2記載の標章を付した漫画雑誌を販売してはならない。
3 被告は、原告に対し、2874万円及びこれに対する平成16年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は、原告に対し、1848万円及び内金1748万円に対する平成16年8月27日から、内金100万円に対する平成17年10月6日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、後記1(2)記載の商標権を有する原告が、別紙被告標章目録1記載(1)ないし(5)の各標章(以下、同目録中の番号に従って「被告標章1(1)」などといい、被告標章1(1)ないし(5)を総称して「被告標章1」という。)、別紙被告標章目録2記載の標章(以下「被告標章2」という。)及び別紙被告標章目録3記載(1)ないし(4)の各標章(以下、同目録中の番号に従って「被告標章3(1)」などといい、被告標章3(1)ないし(4)を総称して「被告標章3」という。)を使用して漫画雑誌を発行している被告に対し、被告の行為が同商標権を侵害するとして、商標法36条1項に基づき、これらの各標章を付した漫画雑誌の販売の差止めを求めるとともに、被告標章1及び被告標章3を使用した漫画雑誌の販売について、民法709条に基づき、商標権侵害による損害(遅延損害金を含む。)の賠償を求めた事案である。
1 前提となる事実(括弧内に証拠を掲示したもの以外は、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
 原告及び被告は、いずれも出版業を営む株式会社である。
(2) 原告の商標権
 原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、本件商標権に係る商標を「本件商標」という。)を有している(甲1、2)。
 登録番号 第4703152号
 登録商標 別紙商標目録記載のとおり
 出願年月日 平成15年3月10日
 登録年月日 平成15年8月22日
 商品及び役務の区分 第16類
 指定商品 雑誌等
(3) 本件商標の使用
 原告は、平成15年2月から、本件商標を漫画雑誌の標題に使用している。
(4) 被告標章1の使用
ア 被告は、平成15年9月から、被告標章1を使用した漫画雑誌(以下「本件雑誌1」という。)を出版し、販売している。
イ 本件雑誌1の発行状況は、次のとおりである。
(ア) 平成15年10月12日号(甲4の1の1・2。以下「本件雑誌1(1)」という。) 同年9月12日発売
(イ) 平成15年12月8日号(甲4の2の1・2。以下「本件雑誌1(2)」という。)  同年11月8日発売
(ウ) 平成16年1月13日号(甲4の3の1・2。以下「本件雑誌1(3)」という。) 平成15年12月13日発売
(エ) 平成16年3月1日号(甲4の4の1・2。以下「本件雑誌1(4)」という。) 同年1月17日発売
(オ) 平成16年4月13日号(甲4の5の1・2。以下「本件雑誌1(5)」という。) 同年3月13日発売
ウ 被告標章1の態様は、本件雑誌1の発刊の都度、字体、色彩の選択、背景等が異なっており、本件雑誌1(1)には被告標章1(1)が、本件雑誌1(2)には被告標章1(2)が、本件雑誌1(3)には被告標章1(3)が、本件雑誌1(4)には被告標章1(4)が、本件雑誌1(5)には被告標章1(5)が、それぞれ使用されている。
(5) 被告標章2の使用
 被告は、平成16年5月から、被告標章2を使用した漫画雑誌(以下「本件雑誌2」という。)を出版し、販売している。
(6) 被告標章3の使用
ア 被告は、平成15年10月から、被告標章3を題号として使用した漫画雑誌(以下「本件雑誌3」という。)を出版し、販売している。
イ 本件雑誌3の発行状況は、次のとおりである。
(ア) 「本当に出会ったHな話」 平成15年10月31日発売
(イ) 「本当に出会ったHな話 列島北上ピンク前線まん開編」(甲9) 平成16年3月26日発売
(ウ) 「本当に出会ったHな話 浴衣美人と秘密のデート編」(甲10) 平成16年7月23日発売
2 争点
(1) 商標の類似性
(2) 商標的使用の有無
(3) 差止請求の可否
(4) 損害の発生の有無及びその額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(商標の類似性)について
(原告の主張)
ア 被告標章1
 本件商標と被告標章1とは、「本当にあったHな話」という部分が共通し、被告標章1は、その後に「てんこ盛り」が加えられているだけである。
 両者は、称呼・観念・外観において類似する。
イ 被告標章2
 本件商標の「本当にあった」と被告標章2の「実際にあった」とは観念同一である。
 本件商標の「Hな話」と被告標章2の「エロ話」とも観念同一である。
 被告標章2の末尾には、「てんこ盛り」が付加されているが、基幹的な部分が観念同一である以上、付加部分があっても全体としての観念類似性があることは否定できない。
ウ 被告標章3
 本件商標と被告標章3とは、称呼・観念・外観において類似する。
 本件商標の「本当にあったHな話」と被告標章3の「本当に出会ったHな話」とは、「あった」と「出会った」とが異なるだけであり、「本当に」の部分と「Hな話」の部分は全く同一で共通しており、全体として称呼が類似している。
 観念的にも、「あった」と「出会った」とは、共通の認識用語であり、両者は類似している。
 外観も、被告標章3においては、「出会った」の部分は他の被告標章3の字と比較して小さな文字で記されており、本件標章と共通の部分、すなわち、「本当に」や「Hな話」の部分の印象が強烈である。
 さらに、「H」の文字の横棒部分にことさら「エッチ」との表現を加えることによって外観上の類似性をより高めている。
 いずれの観点からも、被告標章3は本件商標と類似している。
(被告の主張)
ア 本件商標
 本件商標は、角に小アールを付けたやや横長四角形をなす黒地色の枠内に、「本当にあったH(エッチ)な話」の語を、ゴチック様の白抜き文字によって「本当にあった」部分と「H(エッチ)な話」の部分を2段書きで配置したものである。
 なお、本件商標の商標見本では、「本当にあった」の部分は、「本当」の文字が横書きで大きく表示されているとともに、「にあった」の部分を、前記「本当」の右脇に小さい文字で「に」とその下に「あった」を配した2段表示にされている。また、「H(エッチ)な話」の部分も、「H」と「話」が大きな文字で表示され、かつ、「H」の白抜き文字の横棒の中に、黒で「エッチ」と表示し、「な」は「H」と「話」の間に小さな文字で表示されている。
イ 被告標章1
 被告標章1は、「本当にあったHな話がてんこ盛り!」であり、被告が発行する雑誌「まんが快援隊」の表紙に当該雑誌のキャッチコピー(顧客吸引用の惹句)として使用しているものであるが、本件商標とは全体の構成が異なっているので、両者は外観、称呼、観念のいずれの面においても異なる。
 また、原告が発行し、本件商標を題号とする漫画雑誌(以下「原告雑誌」という。)と、被告標章1をキャッチコピーとする本件雑誌1は、週刊誌タイプの主として成人男子向け漫画雑誌であり、このためその読者層が関心を示す内容の漫画、写真、記事などを掲載することを方針として編集、発行され、主としてコンビニエンスストアなどにおいて販売されている点で、需要者層、取引形態ともほぼ共通している。そして、原告雑誌や本件雑誌1と同趣旨で発行され、コンビニエンスストアなどで販売されている雑誌(実話系コミック誌、以下「本案系雑誌」という。)の分野において、他の出版社からも発行されている本案系雑誌の題号やキャッチコピーなどが掲載されている表紙の造り(視覚的構成)を、原告雑誌及び本件雑誌1も併せて観察すると、各雑誌は、表紙の視覚的構成、つまり、外観上のイメージが近似しているにもかかわらず、需要者は、多数ある本案系雑誌を混同することなく個々に題号を識別して商品(雑誌)の選択をしているという実情がある。
 このような取引の実情からすれば、「本当にあったHな話」部分が共通しているからといって、本件商標と被告標章1が類似しているとはいえない。
ウ 被告標章2
 元来、書籍の題号は、その内容を示すものであって商標ではないが、雑誌は、その題号にかかわりなく様々な内容からなる記事を編集して発行されるものであり、題号がその雑誌の内容を表示するものではないことにより、特許庁では従来から商標登録を認めている。新聞や雑誌は、その題号が自他商品の識別標識として取引に供されているからである。
 一方、新聞や雑誌の題号は、微細な差異しかないものであっても、購買者は題号の微細な差異を優に識別して当該新聞や雑誌を購読することが知られているので、例えば、日刊新聞の題号である「日刊スポーツ」(登録第463221号ほか)と「デイリースポーツ」(登録第1941110号)のように、商標の構成に観念上の共通性があっても互いに非類似商標として登録されている。
 したがって、構成の一部に観念的な共通部分があっても、本件商標と被告標章2は、類似しない。
エ 被告標章3
 本件雑誌3に付された被告標章3は、長方形に着色された緑色の地部に「本当に」と「出会った」の文字を、前者を後者より大きな字で縦2行に表示し、縦書きの「本当に」の右脇から右横方向に当該「本当に」表示の縦幅とほぼ同じ大きさで「Hな話」と横書きしてなるものであるから、縦2行書きの小さな「本当に出会った」の表示と、大書きした横方向の「Hな話」の表示(「Hな話」の縦幅は、この雑誌の縦幅の少なくとも4分の1はある。)は、一見しただけでは「本当に出会ったHな話」と一連に看取できるものではない。また、本件商標と被告標章3とは、標章を構成する言葉自体の違いもあるので、両者が外観上相紛れるおそれはない。
 次に、本件商標における「本当にあった」は、本人の認識、他人の認識のいずれであっても客観的な事実の存在を示す用語であるのに対し、「本当に出会った」は、本人の体験を主観的に示す用語であるから、双方が認識用語であるとしても、意味・内容は全く別異であり、また、「本当にあった」と「本当に出会った」では、呼称上、形式的には「デ」の音の有無の差しかないが、「デ」の音は語頭にある破裂音であるから、強く発音され、「本当にあったHな話」と「本当に出会ったHな話」の称呼に接した需要者は両者の違いを瞬時に識別することができる。
 したがって、本件商標と被告標章3とは、互いに非類似の商標(標章)であることは明白である。
(2) 争点(2)(商標的使用の有無)について
(原告の主張)
 被告標章1及び2は、本件雑誌1及び2の題号である。これらの雑誌の表紙の「快援隊」の標章も、題号と言ってよいかもしれないが、そのことは、被告標章1及び2の題号性を喪失させるものではない。
 すなわち、被告標章1及び2は、本件雑誌1及び2の左上部に、内容を示すその他の文字等とは区別して大きく目立つように表示されており、その大きさは「まんが快援隊」の部分の大きさとほとんど同一であることからすれば、両者はいずれも雑誌の題号と言ってよい。
 なお、被告は、被告標章1及び2をキャッチコピーとして使用していると主張するが、キャッチコピーであっても、それが自他商品の識別の意図を示す態様であれば、商標の使用に該当する。
 本件雑誌1及び2の表紙に記載されたその他の言葉が、本件雑誌1及び2中に掲載された漫画作品の標題や内容を示すことが一目瞭然であるのに対し、被告標章1及び2は、装丁におけるその配置や表現自体から、特定内容の表示ではなく、本件雑誌1及び2の自他識別の表示であることは明瞭である。
(被告の主張)
 被告は、被告標章1及び2を本件雑誌1及び2の表紙構成の一部に使用しているが、それはキャッチコピー(顧客吸引用惹句)として使用しているものであって、商標としての使用に当たらない。
 本件雑誌1及び2の表紙には、題号の「まんが快援隊」のほかに、複数のイラスト図や写真などとともに、被告標章1及び2をはじめとして、様々な表現形態のキャッチコピーや特集記事案内、主要目次などが表示されている。このような表示態様からすると、どれがその雑誌の題号であるかを判別することは一見困難であるように思われる。
 しかし、本案系雑誌では、「題号」の傍らに、「定価」、「発行日」、「号数」等の表示がされるのが通例であり、本案系雑誌の需要者、取引者は、表紙に示された雑誌の「題号」を他の表示と明確に識別して各雑誌を峻別している実情にある。また、題号は必ず裏表紙(背表紙)にも表示されているから、表紙における題号とそれ以外の表示は、裏表紙(背表紙)の表示を見れば判別できる。そうすると、需要者、取引者の通常有する注意力をもってすれば、本件雑誌1及び2の題号が「まんが快援隊」であって、被告標章1及び2が「キャッチコピー」であることは容易かつ直ちに判別できる。
 したがって、被告標章1及び2は、本件雑誌に商標として使用されているものではない。
(3) 争点(3)(差止請求の可否)について
(原告の主張)
 被告は、本件雑誌1ないし3を廃刊扱いとし、今後も再刊行する予定はない、と主張するが、廃刊扱いとしたのは、被告標章1ないし3と類似した標章を使用した雑誌「まんが特冊快援隊」にすぎない。
 被告は、平成17年9月、「本当にあった!!Hな実話満載」との表示のある月刊誌を発行し始めた。これは、形を変えて本件雑誌1ないし3と軌を一にする雑誌の販売を開始したものである。
 この挙動からすれば、再刊行の予定はない、との被告の主張は、信用することができない。
(被告の主張)
 被告は、本件雑誌1ないし3のいずれについても、発行を停止し、廃刊扱いをしており、今後も再刊行する予定は全くない。
 したがって、被告には、現在、本件商標権に基づく差止めの対象となる雑誌は全くないから、差止請求には理由がない。
(4) 争点(4)(損害の発生の有無及びその額)について
(原告の主張)
ア 本件雑誌1
(ア) 被告は、本件雑誌1を次のとおり販売した。
 本件雑誌1(1) 10万5000部
 本件雑誌1(2) 8万9000部
 本件雑誌1(3) 8万部
 本件雑誌1(4) 5万5000部
 本件雑誌1(5) 3万6000部
 本件雑誌1の定価は1部380円であるから、上記36万5000部の販売高は、1億3870万円である。
 また、本件雑誌1の販売による平均利益率は、次のとおり、2割を下回ることはない。
 定価に対する取次価格の割合=0.65
 想定される返本率=0.55
 管理費(人件費とランニングコスト)=0.2
 利益率=1×0.65×(1−0.55)×(1−0.2)=0.234
 したがって、被告が本件雑誌1の販売によって得た利益は2774万円を下回ることはない。被告が得たこの利益は、商標法38条2項により、原告が受けた損害の額と推定される。
(イ) 被告は、2回にわたる原告からの書面による通知や原告補佐人弁理士からの口頭での要請にもかかわらず、速やかに本件商標権の侵害行為を中止しなかった。このため、原告は、本件訴訟の提起を余儀なくされた。
 本件のような専門訴訟の提起の場合、弁護士費用は100万円を下回ることはない。
(ウ) したがって、本件雑誌1の販売により原告が受けた損害の額は、2874万円である。
(エ) なお、被告が開示した本件雑誌1の販売実績及び利益金額は、次のとおりである。
a 本件雑誌1(1)
 実売部数 5万5039部
 粗利益 128万0408円
 広告収入 499万6000円
 合計 627万6408円
b 本件雑誌1(2)
 実売部数 4万4206部
 粗利益 15万5620円
 広告収入 530万円
 合計 545万5620円
c 本件雑誌1(3)
 実売部数 3万7247部
 粗利益 マイナス33万0825円(損失)
 広告収入 460万4000円
 合計 427万3175円
d 本件雑誌1(4)
 実売部数 3万2423部
 粗利益 マイナス84万5814円(損失)
 広告収入 408万円
 合計 323万4186円
e 本件雑誌1(5)
 実売部数 1万7944部
 粗利益 マイナス279万0180円(損失)
 広告収入 336万4006円
 合計 57万3826円
f 合計
 粗利益 マイナス253万0791円(損失)
 広告収入 2234万4006円
 合計 1981万3215円
 このように、被告が開示した金額によっても、被告は、本件雑誌1の販売により、少なくとも1981万3215円の利益を得たことになる。
イ 本件雑誌3
(ア) 被告は、本件雑誌3を次のとおり販売した。
 「本当に出会ったHな話」(平成15年10月31日発売) 8万部
 「本当に出会ったHな話 列島北上ピンク前線まん開編」(平成16年3月26日発売) 8万部
 「本当に出会ったHな話 浴衣美人と秘密のデート編」(平成16年7月23日発売) 7万部
 本件雑誌3の定価は1部380円であるから、上記23万部の販売高は、8740万円である。
 また、本件雑誌3の販売による平均利益率は、上記アのとおり、2割を下回ることはない。
 したがって、被告が本件雑誌3の販売によって得た利益は1748万円を下回ることはない。被告が得たこの利益は、商標法38条2項により、原告が受けた損害の額と推定される。
(イ) 本件雑誌3の販売による本件商標権の侵害と相当因果関係のある弁護士費用は、100万円を下回ることはない。
(ウ) なお、被告が開示した本件雑誌3の販売実績及び利益金額は、次のとおりである。
a 「本当に出会ったHな話」
 実売部数 4万4548部
 粗利益 375万円
b 「本当に出会ったHな話 列島北上ピンク前線まん開編」
 実売部数 3万8175部
 粗利益 322万円
c 「本当に出会ったHな話 浴衣美人と秘密のデート編」
 実売部数 3万5127部
 粗利益 245万円
d 合計
 粗利益 942万円
 このように、被告が開示した金額によっても、被告は、本件雑誌3の販売により、少なくとも942万円の利益を得たことになる。
ウ 被告標章1及び3の寄与率
 本件商標は、出所識別性・顧客吸引力の高いものであり、需要者が原告雑誌に替えて本件雑誌1及び3を購入する理由・動機は、雑誌の標題によるものである。その理由は、次のとおりである。
 第1に、原告雑誌も本件雑誌1及び3も、価格は同一(380円)であり、内容もほとんど同一であり、作家もほとんど重なっている。
 被告は、原告雑誌と競争するに当たり、価格面、内容面、企画面、装丁面で特段の工夫や企業努力をこらしているわけではない。
 したがって、需要者が雑誌を選択するに当たり、その要因となるのは、雑誌の標題のみである。
 第2に、原告雑誌も本件雑誌1及び3も、そのほとんど(80ないし90パーセント)が一般の書店ではなくコンビニエンスストアで販売されており、そこでは、雑誌の内容がよく比較検討されて選択されるのではなく、標題により素早く購入されるという特性がある。
 書店とは異なり、立ち読みに対する寛容性のない環境であり、また、購入者の気恥ずかしさ等もあり、雑誌の選択は極めて短時間内に行われ、標題の識別力のみによって購入の動機付けが行われるのが実態である。
 第3に、本案系雑誌の競合雑誌標題としては、次のようなものがあり、原告の本件商標と酷似しているのは本件雑誌1及び3だけである。
 「もっとすごい本当のH話コレクション」(バウハウス)
 「これが本当!人妻のH話」(バウハウス)
 「もっとすごい出会いのH話」(バウハウス)
 「@浮気妻のH話」(バウハウス)
 「バカH」(マイウェイ出版)
 「突撃!おいしい体験」(リイド社)
 「MAZI!」(ミリオン出版)
 このような競合雑誌の中で、原告雑誌の標題は、強烈に印象に残る識別力を有するものであり、本件雑誌1及び3を原告雑誌と誤認して選択する可能性は極めて大きい。
 さらに、類似した標題の競合雑誌が一時登場したことがあったが、原告からの平成15年11月の警告後、速やかにその販売を止めており、本件商標の商標としての識別力は、原告の商標管理政策のもとに、極めて強いものとなっている。
 これらの3つの理由により、本件商標の識別力は強いものとなっており、原告雑誌と本件雑誌1及び3との取り違えは、類似した標題によるものであり、他の要因によるということはできない。
 したがって、被告が得た利益のすべてを本件商標権の侵害による損害と判断すべきである。
(被告の主張)
ア 被告標章1及び3の寄与率
 主としてコンビニエンスストアで販売される原告雑誌や本件雑誌1及び3のような本案系雑誌の購買者による選択は、その表紙に表示された雑誌の題号のほか、@表紙の写真やイラストなど、A内容の概略を案内するための見出し的表示、Bルポ記事などの執筆者名、C掲載漫画などのタイトルや作家の氏名(ペンネーム)、D特集記事などを示すキャッチコピー、Eグラビア頁に出ている女優などの氏名、職業など、F裏表紙の広告内容など、G版元(出版社)の名称、H定価など、当該雑誌の表紙及び裏表紙に記載された様々な内容の全体にわたると考えられる。そして、雑誌名(題号商標)が周知ないし周知著名であってその誌名が一般の購読者層に定着しており、特定題号の雑誌名を言えば、その雑誌の内容や編集指針などほぼ一定のイメージが確立されている雑誌に比べたとき、本件雑誌1及び3が到底そのような雑誌と同様の環境にあるとはいえない。そうすると、本件雑誌1及び3にキャッチコピーとして使用された被告標章1及び3が利益に寄与している割合は、せいぜい6パーセントである。
イ 本件雑誌1の広告収入に関して
 本件雑誌1への広告掲載の営業は、広告営業担当社員が、被告が発行する誌名「特冊新鮮組」の増刊号への広告掲載を、当該雑誌の発行前に広告主となる企業等に営業をかけ、広告主は、その雑誌の表紙の内容などが判明していない状況で広告の掲載に応じる、というものである。
 すなわち、本件雑誌1に掲載される広告は、広告主が経験的に広告効果が高いと思っている被告が出版する漫画雑誌「特冊新鮮組」の増刊号に掲載されることや、営業担当社員の営業活動によって得られるものであって、広告収入は、被告標章1の使用とは関係がない。
 したがって、被告が発行する漫画雑誌に広告が掲載されるというイメージ効果と、専ら担当社員の営業活動とに基づく、本件雑誌1の広告収入を、被告が得た利益の計算に取り入れることはできない。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(商標の類似性)について
(1) 本件商標と被告標章1との類否
ア 外観
(ア) 本件商標
 本件商標は、別紙商標目録記載のとおり、四隅の角に小さな円みを持たせたやや横長の黒地の長方形内に、「本当にあったH(エッチ)な話」の語を、白抜きの太い文字で、上下2段に分けて、上段に「本当にあった」部分を、下段に「H(エッチ)な話」部分を配置したものである。上段の「本当にあった」部分は、左端から大きく横書きで「本当」と表示し、その右側に「本当」の約2分の1の大きさ、太さの文字で「にあった」を上下2段に分けて、上段に「に」を、下段に「あった」を配置することにより表示したものである。下段の「H(エッチ)な話」部分は、左端に「本当」の約1.5倍の大きさの文字で「H」と表示し、「H」の横棒の中に黒字で「エッチ」と表示し、その右側に「な」を「本当」の約0.6倍の大きさ、太さの文字で表示し、その右側に「話」を「本当」の約1.2倍の大きさの文字で表示したものである。いずれの文字も、角張ったものが用いられている。
(イ) 被告標章1
a 被告標章1(1)ないし(3)
 被告標章1(1)ないし(3)は、やや横長の長方形(ただし、左上部分が鋸歯のような形状で上方に盛り上がっている。)内に、「本当にあったHな話がてんこ盛り!」の語を、上下2段に分けて、上段に「本当にあった」部分を、下段に「Hな話がてんこ盛り!」部分を配置したものである。上段の「本当にあった」部分は、左端から大きく横書きで「本当」と表示し、その右側に「本当」の約2分の1の大きさ、太さの文字で「にあった」を上下2段に分けて上段に「に」を、下段に「あった」を配置することにより表示したものである。下段の「Hな話がてんこ盛り!」部分は、左端に「本当」の約1.7倍の大きさの文字で「H」と表示し、その右側に「な話がてんこ盛り!」の語を、上下2段に分けて、上段に「な話が」部分を、下段に「てんこ盛り!」部分を配置したものである。「な話が」部分は、一連の横書きで、「な」及び「が」を「本当」の約0.8倍の大きさ、約2分の1の太さの縦長の文字で表示し、その間に「話」を「本当」とほぼ同じ大きさの文字で表示したものであり、「てんこ盛り!」部分は、一連の横書きで、「本当」の約2分の1の大きさの文字で表示したものである。「H」及び「話」のみ角張った文字が用いられ、その他は角が丸みを帯びた文字が用いられている。
 また、被告標章1(1)及び(3)は黒地に白抜き文字で表示され、被告標章1(2)は白地に薄黒色の文字で表示されている。
 さらに、被告標章1(1)は、いずれの文字も縁取りがされており、被告標章1(2)及び(3)は、「H」及び「話」の文字にのみ縁取りがされている。
b 被告標章1(4)
 被告標章1(4)は、「本当にあったHな話がてんこ盛り」の語を、上下2段に分けて、上段に「本当にあった」部分を、下段に「Hな話がてんこ盛り」部分を配置したものである。上段の「本当にあった」部分は、左端から「本当」と表示し、その右側に「本当」の約0.6倍の大きさの文字で「に」と表示し、その右側に「本当」と同じ大きさの文字で「あった」と表示したものである。下段の「Hな話がてんこ盛り」部分は、左端に「本当」の約1.8倍の大きさのやや左に傾いた文字で「H」と表示し、その右側(ごく一部が重なっている。)に「本当」の約2分の1の大きさの文字で「な」と表示し、その右下(ごく一部が重なっている。)に「本当」の約1.2倍の大きさの文字で「話」と表示し、その右側に「がてんこ盛り」の語を、上下2段に分けて、上段に「てんこ」部分を、下段に「が」、「盛り」部分を配置したものである。「てんこ」部分は、一連の横書きで、「本当」の約0.7倍の大きさの文字で表示したものであり、「が」、「盛り」部分は、左側に「本当」の約2分の1の大きさの文字で「が」と表示し、その右側に「本当」の約0.7倍の大きさの文字で「盛り」と表示したものである。これらの文字は、長方形の枠内に納められているのではなく、文字の形に沿った白地の枠で囲まれている。
c 被告標章1(5)
 被告標章1(5)は、「本当にあったH(えっち)な話がてんこ盛り」の語を、白抜きの文字で、上下2段に分けて、上段に「本当にあった」部分を、下段に「Hな話がてんこ盛り」部分を配置したものである。上段の「本当にあった」部分は、左端から大きく横書きで「本当」と表示し、その右側に「本当」の約2分の1の大きさ、太さの文字で「にあった」を上下2段に分けて上段に「に」を、下段に「あった」を配置することにより表示したものである。下段の「H(えっち)な話がてんこ盛り」部分は、左端に「本当」の約2倍の大きさの文字で「H」と表示し、「H」の横棒の中に黒字で「えっち」と表示し、その右側に「な」を「本当」の約2分の1の大きさ、太さの文字で表示し、その右側に「話」を「本当」の約1.5倍の大きさの文字で表示し、「話」の下に「本当」の約0.4倍の大きさの文字で一連の横書きで「がてんこ盛り」と表示したものである。「H」は角が丸みを帯びた文字が用いられ、その他は角張った文字が用いられている。
(ウ) 本件商標と、被告標章1(1)ないし(3)及び(5)の外観を比較すると、全体を上下2段に分けて、上段に「本当にあった」部分を、下段にその余の部分を表示した点、上段の「本当にあった」部分については、左端から大きく横書きで「本当」と表示し、その右側に「本当」の約2分の1の大きさの文字で「にあった」を上下2段に分けて上段に「に」を、下段に「あった」を配置することにより表示した点、下段の部分については、「H」を全体で最も大きな文字で表示し、その右側に「な」及び「話」を配置し、「な」を「H」及び「話」より小さな文字で表示した点において共通している。また、本件商標と、被告標章1(4)の外観を比較すると、全体を上下2段に分けて、上段に「本当にあった」部分を、下段にその余の部分を表示した点、下段の部分については、「H」を全体で最も大きな文字で表示し、その右側に「な」及び「話」を配置し、「な」を「H」及び「話」より小さな文字で表示した点において共通している。
 本件商標と被告標章1とは、用いられている文字の字体(角の丸み等)や色、縁取りの有無、「てんこ盛り!」という語の有無などの点で、異なる点はあるが、言語及び文字の配置により、「本当にあったHな話」部分が看者の目を引くように表示され、また、当該部分の文字の配置が同一又はほぼ同一であって、「本当」、「H」、「話」の文字が大きく表示され、とりわけ、「H」の部分が最も強調されている点などで共通していることから、取引者・需要者に与える印象を同じくするものである。
 したがって、本件商標と被告標章1の外観は、類似するというべきである。
イ 称呼
 本件商標からは「ほんとうにあったえっちなはなし」の称呼が、被告標章1からは「ほんとうにあったえっちなはなしがてんこもり」の称呼が生じる。
 本件商標と被告標章1の称呼を比較すると、本件商標から生じる称呼の全部は、被告標章1から生じる称呼に含まれており、両者は、被告標章1の末尾に「がてんこもり」が付加されている点において相違するにすぎないから、本件商標と被告標章1とは、称呼が類似するというべきである。
ウ 観念
 「Hな」とは、「性に関する言動が露骨な」、「性的にいやらしい」という意味を有する語であり、「てんこ盛り」とは、「食器に食物(特に飯)をうず高く盛ること」、「山盛り」という意味を有する語であることが明らかである。
 したがって、本件商標からは、「本当にあった性的にいやらしい話」といった観念を生じ、被告標章1からは、「本当にあった性的にいやらしい話が非常に多くある」といった観念を生じる。
 本件商標と被告標章1の観念を比較すると、被告標章1から生じる観念は、本件商標から生じる観念を含み、それに量の観念が付加されているにすぎないから、本件商標と被告標章1とは、観念が類似するというべきである。
エ 取引の実情
 そうすると、本件商標と被告標章1とは、外観、称呼、観念が類似するものと認められるところ、被告は、取引の実情により出所の誤認混同が生じないと主張するので、以下検討する。
 証拠(甲3の1・2、甲4の1の1・2、甲4の2の1・2、甲4の3の1・2、甲4の4の1・2、甲4の5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、原告雑誌及び本件雑誌1は、いずれも成人男性向け漫画雑誌であり、成人男性を需要者とするという実情があるものと認められるが、成人男性であれば、「がてんこ盛り」というわずかな付加的記載の有無によって、本件商標と被告標章1とを識別し、両者を混同することがないものと認めるべき合理的理由はないから、被告の上記主張を採用することはできない。
 また、被告は、原告雑誌や本件雑誌1と同趣旨で発行されている本案系雑誌は、いずれも表紙の視覚的構成が近似しており、需要者は混同することなく題号を識別して商品の選択をしているという実情があると主張する。
 しかし、表紙の視覚的構成が近似する雑誌がある中で、需要者が混同することなく題号を識別して商品の選択をしていると認めるに足りる証拠はなく、これは客観的根拠を欠く被告の憶測にすぎない上、原告雑誌や本件雑誌1の需要者が通常人よりも高い注意力を有して当該雑誌を選択しているとも認められないから、被告の主張を採用する余地はない。
オ まとめ
 以上のとおり、本件商標と被告標章1とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似しており、また、取引の実情を考慮しても、出所の誤認混同を生じるおそれを少なくする事情があるとはいえない。したがって、被告標章1は、本件商標に類似するものと認められる。
(2) 本件商標と被告標章2との類否
ア 外観
 本件商標の外観は、上記(1)ア(ア)のとおりである。被告標章2は、「実際にあったエロ話がてんこ盛り!」と等大、等間隔で一連に横書きしたものである。
 本件商標と被告標章2の外観を比較すると、両者は、言語、字体及び文字の配置により、取引者・需要者に与える印象を異にし、外観が異なるというべきである。
イ 称呼
 本件商標からは「ほんとうにあったえっちなはなし」の称呼が、被告標章2からは「じっさいにあったえろばなしがてんこもり」の称呼が生じる。
 本件商標と被告標章2の称呼を比較すると、両者は、「にあった」の部分において共通し、「はなし」と「ばなし」が類似するにすぎないから、本件商標と被告標章2とは、称呼が相違するというべきである。
ウ 観念
 本件商標からは「本当にあった性的にいやらしい話」といった観念を生じる。また、「エロ」とは、「好色的」、「扇情的」という意味を有する語であるから、被告標章2からは、「実際にあった好色的な話が非常に多くある」といった観念を生じる。
 本件商標と被告標章2の観念を比較すると、「本当にあった」と「実際にあった」とはほぼ同一の観念であり、「性的にいやらしい」と「好色的な」とは類似の観念であり、それに加えて、被告標章2には「がてんこ盛り!」という量の観念が付加されているにすぎないから、本件商標と被告標章2とは、観念が類似するというべきである。
エ 取引の実情
 被告標章2は、本件雑誌2の表紙上、同雑誌の題号「まんが快援隊」の上部に、題号の文字の約5分の1程度の大きさの文字で表示されているものにすぎず(乙12)、看者が表紙から受ける印象及び注目度において、被告標章2の占める割合は、題号やその他の表紙上の表示に比較して、極めて小さいものである。
オ まとめ
 以上のとおり、本件商標と被告標章2とは、観念が類似するものの、前記外観及び称呼において相違しており、取引の実情を併せ考慮すると、同一又は類似の商品に使用されたとしても、原告商標と被告標章2との間で出所の誤認混同を生じるおそれは認められない。したがって、被告標章2は本件商標に類似するものとは認められない。
(3) 本件商標と被告標章3との類否
ア 外観
 本件商標の外観は、上記(1)ア(ア)のとおりである。
 被告標章3(1)及び(3)は、「H」と「話」を同じ大きさの大きな文字で横に並べて表示し、「H」の横棒の中にやや右上がりで「エッチ」と表示し、「H」と「話」の中間にハート形の図の中に入った「な」を「H」の約3分の1の大きさ、太さの文字で表示し、「H」の左側に縦長の長方形の枠をやや左側に傾けて配置し、その枠の中に「本当に出会った」の語を縦書きで左右2段に分けて、右段に「本当に」部分を、左段に「出会った」部分を配置し、「本当に」部分は「H」の約3分の1の大きさ、太さの文字で、「出会った」部分は「H」の約6分の1の大きさの文字で表示したものである。各文字は角が丸みを帯びており、「H」及び「話」は、いずれも、縁取りがされている。
 被告標章3(2)及び(4)は、「本当に出会ったH(エッチ)な話」の語を、上下2段に分けて、上段に「本当に出会った」部分を、下段に「H(エッチ)な話」部分を配置したものである。上段の「本当に出会った」部分は、左右2段に分けて、右段に「本当に」を幅の長い文字で縦書きで表示し、左段に「出会った」を縦書きで表示したものである。下段の「H(エッチ)な話」部分は、「H」と「話」を同じ大きさの大きな文字で縦に並べて表示し、「H」の右の縦棒の中に右上から左下に向かって「エッチ」と表示し、「H」と「話」の中間にハート形の図の中に入った「な」を「H」の約3分の1の大きさの文字で表示したものである。
 本件商標と被告標章3の外観を比較すると、両者は、言語、字体及び文字の配置により、取引者・需要者に与える印象を異にし、外観が異なるというべきである。
イ 称呼
 本件商標からは「ほんとうにあったえっちなはなし」の称呼が、被告標章3からは「ほんとうにであったえっちなはなし」の称呼が生じる。
 本件商標と被告標章3の称呼を比較すると、15文字の音を共通にし、「あった」の前に「で」があるか否かが相違するにすぎないから、本件商標と被告標章3とは、称呼が類似するというべきである。
 被告は、「で」は、語頭にある破裂音であり、その有無は称呼において大きな違いをもたらす旨を主張するが、本件商標と被告標章3とは、前記のとおり、全体の称呼を比較した場合の共通性が大きく、差異はわずかなものにすぎないから、被告の主張を採用することはできない。
ウ 観念
 本件商標と被告標章3の相違点は、「あった」と「出会った」が異なるのみであり、「あった」は「存在した」との意味、「出会った」は「遭遇した」という観念が生じ、後に続く「Hな話」について主観的に述べるものか、主観的な場合に限られないかの違いがあるものの、実際に生じた事実を示すという点での差異はなく、「本当にあったHな話」全体から生じる観念と、「本当に出会ったHな話」全体から生じる観念とでは、大差がない。
 したがって、本件商標と被告標章3の観念は類似する。
エ 取引の実情
 そうすると、本件商標と被告標章3とは、称呼、観念が類似するものと認められるところ、被告は、取引の実情により出所の誤認混同が生じないと主張するので、以下検討する。
 証拠(甲3の1・2、甲9の1・2、甲10の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、原告雑誌及び本件雑誌3は、いずれも成人男性向け漫画雑誌であり、成人男性を需要者とするという実情があるものと認められるが、成人男性であれば、「本当にあったH(エッチ)な話」という本件商標と「本当に出会ったH(エッチ)な話」という被告標章3とのわずかな相違を認識して、両者を混同することがないものと認めるべき合理的理由はない上、原告雑誌や本件雑誌3の需要者が通常人よりも高い注意力を有しているとも到底認められないから、被告の上記主張を採用することはできない。
オ まとめ
 以上のとおり、本件商標と被告標章3とは、外観は類似しないものの、称呼及び観念が類似し、また、取引の実情を考慮しても、出所の誤認混同を生じるおそれを少なくする事情があるとはいえない。したがって、被告標章3は、本件商標に類似するものと認められる。
(4) 以上のとおり、被告標章1及び3は、本件商標に類似するものと認められるが、被告標章2は、本件商標に類似するものとは認められない。
2 争点(2)(商標的使用の有無)について
 本件雑誌1(1)ないし(4)においては、本件雑誌1の題号である「まんが快援隊」は、本件雑誌1の表紙の右上部に記載されているが、いずれも他の文字、写真又は絵の陰に隠れて判読が困難である。これに対し、被告標章1(1)ないし(4)は、本件雑誌1の表紙の左上部に表示され、被告標章1の占める部分の大きさは、題号の占める部分の大きさとほぼ同程度であり、さらに、題号より前面に押し出されて需要者に強い印象を与える構成となっている。また、本件雑誌1(5)においては、被告標章1と本件雑誌1の題号である「まんが快援隊」とが共通の横長の長方形の枠の中に表示され、被告標章1が占める部分の大きさと本件雑誌1の題号が占める大きさとはほぼ同程度となっているから、題号と同等の表示であるとの印象を受ける構成となっている。
 したがって、被告標章1は、出所を表示する機能を果たす態様で用いられているものであり、商標として使用されているものと認められる。
 被告は、題号は必ず裏表紙(背表紙)にも表示されているから、裏表紙(背表紙)の表示を見れば、被告標章1がキャッチコピーであることは容易に判別できる、と主張する。
 しかし、本件雑誌1の需要者が、裏表紙(背表紙)を確認し、題号を判別してから購入するのが通常であるとする合理的根拠は認められず、かえって、被告標章1が毎号ほぼ同じ位置(表紙の左上部)に付されていること、本件雑誌1の裏表紙(背表紙)に表示された題号部分の大きさが被告標章1の大きさに比して非常に小さいことを考慮すれば、本件雑誌1の需要者が、被告標章1も題号と同等のものと認識しているものと推認され、被告の上記主張は採用することができない。
3 争点(3)(差止請求の可否)について
 本件訴訟は、訴え提起の当初においては、被告標章1のみが対象とされて差止請求及び損害賠償請求がなされており、被告は、平成16年6月15日付第1準備書面において、被告標章1の使用を停止した旨を述べたものの、同年7月23日、被告標章3を付した本件雑誌3を販売したことから、原告により、同年8月13日付「請求拡張の申立」において、被告標章3を付した漫画雑誌の販売の差止請求及び本件雑誌3の販売を原因とする損害賠償請求が追加されることとなった。さらに、被告は、平成17年9月、本件商標権の侵害となるか否かが問題となり得る標章を付した漫画雑誌の販売を新たに開始したものと認められる(甲11)。そして、被告は、本件訴訟において、被告標章1及び3が本件商標権を侵害する旨の原告の主張を争っている。
 このような事実に照らすと、被告が、将来においてもなお、被告標章1及び3を使用し、原告の商標権を侵害するおそれは、依然として存在すると認められる。
4 争点(4)(損害の発生の有無及びその額)について
(1) 本件雑誌1及び3の販売実績
 証拠(乙16、17)によれば、被告が本件雑誌1の販売によって得た利益は1981万3215円であり、被告が本件雑誌3の販売によって得た利益は942万円であることが認められ、この認定に反する証拠はない。
(2) 被告標章1及び3の寄与率
 商標権は、特許権・実用新案権等の他の工業所有権と異なり、何らかの創作的価値を製品自体に付与するものではなく、商標に化体された営業上の信用を意味するものである。一般に、商標権侵害においては、侵害者の利益が当該登録商標の顧客吸引力のみによって達成されていることはむしろ稀であり、侵害者の商品自体の内容や侵害者の営業努力等の事情が相まって利益を上げているというのが、通常である。そして、雑誌の売上げは、一般に、雑誌自体の内容に大きく影響されるものであり、雑誌の内容は、まず、表紙や目次、あるいは個別の記事に掲載された記事の見出し等により判断されるものである。このことは、原告雑誌や本件雑誌1及び3においても変わるところはないのであって、原告雑誌や本件雑誌1及び3が、雑誌自体の内容によらずに購入されるといった取引の実情が存在することを認めるに足りる証拠はない。
 また、証拠(甲3の2)によれば、原告雑誌は月1回発行される雑誌であって、平成16年4月号の原告雑誌が通巻第7号であることが認められるから、原告雑誌の創刊号は平成15年10月号であると推認することができ、原告雑誌が特に販売部数の多い雑誌であることを認めるに足りる証拠はないから、本件商標が、原告雑誌の販売を通じ市場において確固たる信用ないし顧客吸引力を備えたものということはできない。
 そうすると、本件において、被告が本件雑誌1及び3の販売により得た利益についての被告標章1及び3の寄与率は、10%と認めるのが相当である。
(3) 被告標章1の使用による損害
 上記(1)及び(2)によれば、被告が被告標章1を使用したことによって得た利益は、198万1321円(1981万3215円×10%=198万1321円。円未満切り捨て)と認めるのが相当であり、原告は、これらと同額の損害を被ったものと推定される(商標法38条2項)。
 そして、本件の事案の性質、請求の内容、審理の経過その他諸般の事情を総合考慮すると、本件においては、弁護士費用のうち30万円をもって、本件商標権の侵害行為である被告標章1の使用行為と相当因果関係のある損害と認める。
 これらの合計は、228万1321円である。
(4) 被告標章3の使用による損害
 上記(1)及び(2)によれば、被告が被告標章3を使用したことによって得た利益は、94万2000円(942万円×10%=94万2000円)と認めるのが相当であり、原告は、これらと同額の損害を被ったものと推定される(商標法38条2項)。
 そして、本件の事案の性質、請求の内容、審理の経過その他諸般の事情を総合考慮すると、本件においては、弁護士費用のうち15万円をもって、本件商標権の侵害行為である被告標章3の使用行為と相当因果関係のある損害と認める。
 これらの合計は、109万2000円である。
(5) 被告の主張について
 被告は、本件雑誌1の広告収入は、被告が発行する漫画雑誌に広告が掲載されるというイメージ効果と、担当社員の営業活動に基づくものであり、被告標章1の使用とは関係がないから、本件商標権侵害による損害の算定の基礎とすべきではないと主張する。
 しかし、雑誌に掲載される広告についての広告収入は、特段の事情のない限り、雑誌の販売部数によって左右されるのが通常であると解されるから、被告標章1の使用と本件雑誌1の売上げによる収入との間に相当因果関係が認められる以上、被告標章1の使用と本件雑誌1の広告収入との間にも相当因果関係が認められるというべきである。そして、本件雑誌1及び3の場合、その広告収入が当該雑誌の売上げと関わりなく設定されたような特段の事情を認めるに足りる証拠はないから、被告の上記主張は、理由がない。
 また、被告は、本件雑誌1への広告掲載の営業は、その雑誌の表紙の内容などが判明していない状況で広告主が広告の掲載に応じるものであることを理由として、広告収入を損害の算定の基礎とすべきではないと主張する。
 しかし、本件雑誌1の広告収入が、すべて当該雑誌の表紙の内容などが判明していない状況で確定されたものと認めるに足りる証拠はなく、前記のとおり、本件雑誌1の売上げを介して被告標章1の使用と広告収入との間には相当因果関係が認められるから、この点に関する被告の主張も、採用することができない。
(6) 小括
 上記(1)ないし(5)によれば、被告による本件商標権の侵害行為により原告が被った損害は、337万3321円であると認められる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は、被告標章1を付した漫画雑誌及び被告標章3を付した漫画雑誌の販売の差止め並びに337万3321円及び内金228万1321円に対する訴状送達の日の翌日である平成16年4月17日から、内金94万2000円に対する請求拡張の申立(平成16年8月13日付)送達の日の翌日である平成16年8月27日から、内金15万円に対する原告の準備書面?(平成17年9月30日付)送達の日の翌日である平成17年10月6日から、各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるので、その限度でこれを認容することとし、その余は棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 清水節
 裁判官 山田真紀
 裁判官 東崎賢治
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