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【事件名】“NOVAうさぎ”商品化事件
【年月日】平成17年12月8日
 大阪地裁 平成15年(ワ)第10873号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 平成17年9月29日)

判決
原告 サクラインターナショナル株式会社
原告 株式会社アウトバーン
原告ら訴訟代理人弁護士 横松昌典 
被告 株式会社ノヴァ
訴訟代理人弁護士 山田庸男
同 中世古裕之
同 三好吉安


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告サクラインターナショナル株式会社(以下「原告サクラ」という。)に対し、9337万8341円及びこれに対する平成15年9月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は原告株式会社アウトバーン(以下「原告アウトバーン」という。)に対し、8億1897万0526円及びこれに対する平成15年9月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用
第2 事案の概要
 原告サクラは、被告との間で、被告の製作管理するキャラクター(NOVAうさぎ)を同原告が使用してTシャツ等のいわゆるキャラクター商品を製造販売することを許諾する(なお、原告アウトバーンは、原告サクラから同キャラクターの再使用許諾を受けて上記商品の製造販売を行うことが予定されていた。)旨の商品化権許諾契約の締結交渉を行い、主要部分については口頭による合意が成立していたものの契約書に調印するに至っていなかったところ、被告から同契約交渉を破棄する旨通告され、結局、上記契約に基づくキャラクター商品の製造販売を行うことができなかった。
 上記概要の事案において、原告らは、被告に対し、上記商品化権許諾契約が成立したことを前提に、原告サクラは同契約の債務不履行による3年分の逸失利益に相当する損害(向こう3年間にわたり原告アウトバーンから支払を受ける再使用許諾料相当額から被告に支払うべき使用許諾料相当額を控除した額)の、原告アウトバーンは不法行為に基づき、向こう3年間にわたり上記キャラクター商品の製造販売により得べかりし利益相当額の損害の賠償を求めた。そして、仮に同契約が成立していなかったとしても、原告サクラは契約締結上の過失ないし契約交渉当事者間の信義則上の付随義務違反さらに予備的に不法行為に基づき、原告アウトバーンは不法行為に基づき、被告に対し同額の損害賠償を求めた(いずれも附帯請求は、平成15年9月1日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金請求である。)。
1 前提事実(証拠の掲記がないものは、当事者に争いがないか、当事者が明らかに争わない事実又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)
(1) 当事者
ア 原告サクラは、衣料用繊維製品及び衣料用付属品の販売等を目的とする会社である。
イ 原告アウトバーンは、衣料品の販売等を目的とする会社である。
ウ 被告は、語学教室の経営を目的とする会社である。
(2) 商品化権許諾契約の成立と商品の製造販売開始
ア 原告サクラと被告は、被告のテレビCMで人気のキャラクターであり、被告がその商標権(商標登録第4671066号。登録商標は別紙のとおり。乙12)、著作権、キャラクター権等の権利を有する「NOVAうさぎ」(以下「本件キャラクター」という。)の商品化権を被告が原告サクラに対して許諾することにつき、平成15年4月下旬頃から協議を開始した。
イ 被告は、平成15年5月9日、原告サクラに対して商品化権許諾契約書案(乙2の1。以下「乙2の1契約書案」という。)を送付した。そして、原告サクラと被告は、同月中旬頃、本件キャラクターの商品化権許諾契約の契約条件に関して、原告サクラがTシャツ等の商品を製造販売すること、サブライセンシーは原告アウトバーンのみとすること、ロイヤリティーは売上げの5%とすること、ロイヤリティーの年間最低保証使用料を500万円とする旨の口頭による了解がされた。そして、契約期間については、乙2の1契約書案では1年間とされていたが、原告サクラの申入れにより、3年間とすることを了解していた。
ウ 原告サクラは、平成15年5月中旬以降、Tシャツ、トートバッグ(手提げ袋)、キャップ(帽子)、ミニタオルなどの商品のデザインを製作し、原告アウトバーンは、これらの商品を製作した。これらの商品は、同年6月以降、ジーンズショップなどのカジュアル衣料専門店を中心に販売が開始され、そのことは同月16日付け繊研新聞において報じられた。
エ 被告は、平成15年6月17日に乙2の1契約書案を修正した「商品化権許諾契約書」(甲1。以下「甲1契約書案」という。)を送付した後、さらにそれを一部修正した契約書案(乙2の4。以下「乙2の4契約書案」という。)を同月21日に送付したが、契約書への調印をしないまま、同月23日、原告サクラに対し、本件キャラクターの著作権使用料の年間最低保証額500万円及び消費税相当額25万円の請求書を送付し、同月26日、同原告から上記合計525万円の振込送金を受けた。
 原告サクラの従業員は、同年7月10日、被告から送付された上記乙2の4契約書案に修正を加えたもの(甲2。以下「甲2契約書案」という。)を、被告担当者の経営企画室次席A(乙16)に手渡した。
 甲1契約書案の内容(なお、同条項にいう「許諾者」は被告を指し、「被許諾者」は原告サクラを指す。)は以下のとおりであった。(甲1)
 「第3条(契約期間)
 (1) この契約は、両当事者が署名した日に効力を発し、かつ、この契約の第15条によって解除されない限り、3年間効力を有する。
 (2) 被許諾者は、契約終了1ケ月前までに、書面による延長新請求の通知を以って、3年度と同一条件に1年間の契約更新ができる。その後も同様とする。但し、延長は3回を限度とする。
 第4条(対価)
 (1) 被許諾者は、許諾者より本キャラクターの使用を許諾されたことの対価として、附属文書に定める使用料を許諾者に支払う。
 (2) 年間最低保証使用料を金5、000、000円とし、本契約の締結後30日以内に、許諾者の指定する銀行口座に振り込む。この年間最低保証使用料は前号の使用料にも充当されるが、年間使用料が年間最低保証使用料に満たない場合でも返金はしないものとする。
 第5条(報告及び支払)
 (1) 被許諾者は、本契約期間中、製造数量を書面により報告し、その分の使用料を許諾者指定の銀行口座に振込むものとし、振込手数料は被許諾者の負担とする。(後略)
 (2) 許諾者は、被許諾者の営業時間中、随時、被許諾者のこの契約に基づく商品化事業に関する帳簿を閲覧することができる。
 第6条(品質管理)
 (1) 被許諾者は、許諾者の承認するキャラクターの原画及び原稿に基づいて指定商品を製造しなければならない。被許諾者の要望により許諾者又は被許諾者がキャラクターの原画及び原稿を製作する費用は、原則として被許諾者が負担するものとする。(後略)
 (2) 被許諾者は、この契約に基づいて製造する指定商品の見本を、ラベル、包装、容器等とともに被告に提出し、その監修承認を受けなければ、指定商品の製造及び販売を開始してはならない。(後略)
 (3) 被許諾者は、前項に定める承認を受けた後、製造した指定商品の各品番の完成品5着を無償で販売開始前に許諾者に提出しなければならない。」
 「第9条(表示)
 (1) 著作権表示
 被許諾者は、すべての許諾製品に以下の著作権表示を行う。
 コNOVA
 但し、製造する製品の大きさ、性質上などの理由により本体に表示しきれない場合は、事前に協議、承認を経て、パッケージに記載する、短縮、省略する等の措置を取ることができる。
 また、許諾者が希望し、技術的に可能な場合は、許諾者のハウスマークである「NOVA」の文字を許諾者が指定するロゴ体に用いることとする。
 (2) 商品許諾権の表示
 被許諾者は、総ての許諾製品に「当該商品が許諾権者である株式会社ノヴァの許諾を得て作成された商品である。」旨の表示を入れることとする。
 但し、製造する製品の大きさ、性質上などの理由により本体に表示しきれない場合は、事前に協議、承認を経て省略することができる。
 (3) その他の表示
 被許諾者は、製造者としての責任において、不当景品類及び不当表示防止法に基づく表示、リサイクル法に基づく表示、原産国表示等、市場を流通するために必要な表示を当該商品に記載しなければならない。
 (4) 許諾印紙の添付(略)
 第10条(製造及び販売)
 被許諾者は、この契約に基づいて製造する指定商品の販売及び宣伝において、キャラクターの改変により同一性及びグッドウィル(顧客吸引力、営業上の信用)を損なわないよう留意し、許諾者の指示に従わなければならない。」
 「第15条(契約の解除)
 (1) いずれか一方の当事者がこの契約に基づく義務の履行を遅滞したときは、相手方は、その当事者に履行遅滞を通告しなければならない。その当事者がこの通知を受けてから7日以内に履行遅滞を治癒しないときは、相手方はこの契約を解除することができる。
 (2) 被許諾者が商品の製造販売、広告方法において本契約の条項に軽度の違反を行い、許諾者が違反に対する指摘を行った日より30日が経過した後も、違反が改善されない場合、または重大な違反を行った場合は、許諾者はただちに契約を打ち切り、被許諾者に対して、商品製造販売の中止、商品ならびに広告媒体の回収を命じ、損害賠償を請求することができる。(後略)」
 (3) 本件キャラクター商品のヒットと被告の契約解除通知
ア 本件キャラクターを使用した各商品は、好調な売れ行きを示した。
 原告サクラの製造数量の報告に基づき、被告は、平成15年7月23日、「2003年6月度著作権使用料」として、2億7275万9000円の5%である1363万7950円から、既払の年間最低保証使用料500万円を控除した863万7950円(税別)の請求書を送付し、同年8月21日、同原告から上記863万7950円に消費税43万1897円を加算した906万9847円の振込送金を受けた。
 原告サクラは、同年8月12日、被告に対して同年7月分の製造数量を報告した(上代3846万5700円)。被告は、原告サクラに対して、同年9月1日に7月度の著作権使用料として201万9449円(税込み)の請求書を送付し、同月22日に同額の振込送金を受けた。
 原告サクラは、同年10月3日、被告に対して同年8月分の製造数量を報告した(上代1億2036万6600円)。被告は、原告サクラに対して、同年10月7日、同年8月度の著作権使用料として631万9246円(税込み)を請求した。原告サクラは、8月度の著作権使用料については、同年10月15日付けの内容証明郵便により、原告サクラの被告に対する損害賠償請求額と対当額で相殺する旨の意思表示をした。
イ 平成15年6月から8月にかけて、原告らによる本件キャラクターを使用したTシャツ等の製造販売が継続していたところ、同月25日、Aが原告サクラに対し、電話で原告らが製造販売するTシャツの品質の問題点を指摘し、改善を求めた。これに対し、原告サクラの代表取締役Bは、原告サクラに対する要望書の提出と、トップ会談を持つことを提案した。Aは、要望書の送付及び同年9月1日に被告会社において協議を行う旨回答した。
ウ 平成15年8月29日夜、Aは、電話で原告サクラの取締役Cに対して、今後、同原告との取引はない旨告げた。
2 争点
(1) 被告と原告サクラとの間で契約期間を3年とする包括的商品化権許諾契約(以下、原告ら主張の同契約を「本件許諾契約」という。)が締結されたか否か。
(2) 仮に本件許諾契約が締結されたとした場合、被告がした同契約の解除に正当理由があるか否か。
(3) 仮に本件許諾契約が未だ締結されるに至っていなかったとした場合、原告サクラとの関係で被告が契約締結上の過失又は信義則上の付随義務違反に基づく損害賠償義務を負うか否か。また、仮に同義務を負わないとしても、被告による本件許諾契約の契約締結拒絶が原告サクラに対する不法行為を構成するか否か。
(4) 被告による本件許諾契約の解除あるいは契約締結拒絶が原告アウトバーンに対する不法行為を構成するか否か。
(5) 原告らに生じた損害及び因果関係
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告と原告サクラとの間で本件許諾契約が締結されたか否か。)について
【原告らの主張】
(1) 本件では、最終的に原告サクラと被告との間で、期間を3年とする包括的商品化権許諾契約(本件許諾契約)の契約書の作成・調印には至っていない。
 しかし、被告は、平成15年6月21日、被告法務部の最終確認が済んだ契約書(甲1)の一部を訂正した乙2の4契約書案を原告サクラに送付し、同月23日、同契約書第4条(2)に基づき、原告サクラに対し、「『NOVAうさぎ』年間最低保証使用料」の請求書を送付したところ、原告サクラは、これを支払った。
 さらに、同年7月16日に原告サクラが被告に対してした製造数量の報告は、同契約書第5条(1)に基づくものであるし、被告は、同月23日、「2003年6月度著作権使用料」として上代(販売価格定価)の5%に相当する額から、既払年間最低保証使用料500万円を控除した額の支払を請求し、原告サクラもこれに基づき、著作権使用料を被告に支払ったのであって、これも同契約書第4条(1)に基づくものである。 このように、年間最低保証使用料の支払がされていることによれば、個別的単発的な商品化権許諾の合意がなされたということはなく、原告サクラと被告との間には、遅くとも被告が年間最低保証使用料の請求書を提出した平成15年6月23日までに、甲2契約書案の付加部分を除いた、上記法務部の最終確認を終えた甲1契約書案に被告が訂正を加えた乙2の4契約書案の内容による本件許諾契約が成立している。
  もっとも、原告サクラは、平成15年7月10日に、乙2の4契約書案に修正を加えた甲2契約書案を被告担当者に手渡している。しかし、甲2契約書案に赤字で付加修正した点は、同原告において、字句の修正や不完全な表現を指摘したもののほか、既に原告サクラと被告との間で口頭で合意していた内容で契約書上に付加することを希望する旨提案したものにすぎない。また、原告サクラは、Aに対して、上記赤字の部分を付加することに問題があれば原案どおりで構わないと述べたところ、Aは、特に問題がないと思うとの意見を述べて、そのままこれを持ち帰ったものである。このように、赤字部分は、重大な契約条項の付加ではなく、既に被告が口頭では了承していた内容であって、被告は、同付加部分に対し何ら異議を述べないままであった。また、これらの修正の提案の内容も、例えば、第1条(3)の、複数の被許諾者間で無意味な競合や価値観の不適合がないよう十分な配慮・統合をするといった本件キャラクターのグッドウィルを保持する目的のものであり、不当なものではない。また、ロイヤリティーレイトについても「双方合意のもと」での変更を求める規定にすぎず、不当なものではない。その他の修正意見も、指定商品は合意の上で追加可能であるという当たり前の規定であるし、ライセンサーがライセンシーに著作権侵害についての情報を開示するとの規定も、協力して著作権侵害に対抗するためのものであり、合理的なものであって、何ら不当な要求ではない。したがって、原告サクラが甲2契約書案を被告に渡したことが本件許諾契約の成立を否定する根拠となるものではない。
(2) また、本件許諾契約が成立していたことは、以下の各事実からも裏付けられる。
ア 原告サクラは、平成15年6月16日、被告の事前了解を得て(甲59)、繊維業界紙である繊研新聞に、原告アウトバーンが被告と「ライセンス契約を結び」今月からNOVAうさぎTシャツを発売した、と発表し、これによって本件キャラクターの偽物の販売を牽制したほか、被告に対して偽物業者への対処措置を協議したり、種々の報告をするなど、偽物排除の協力をしている。
 そして、本件キャラクターのアプルーブ用のデザインシートの送付は、平成15年5月17日から開始され、以来、原告サクラと被告との間で頻繁に各商品のデザイン、チラシ等について、承認のやりとりを行ってきた。
 また、原告アウトバーンは、被告に対して商品サンプルを送付しており、被告担当者による販売の承認を得て販売している(甲1契約書案第6条(2)に基づく原告サクラの債務の履行である。)。
 平成15年7月3日頃、本件キャラクターの販売促進用商品(ぬいぐるみなど)の仕入取引に関する覚書に、原告サクラと被告が記名押印したものが交換されている(甲51、52)が、覚書の有効期間の始期は平成15年6月1日にさかのぼって1年間とし、かつ、双方に異議がなければ、自動更新されるとしている。また、実際に同年6月26日頃、販売促進用ぬいぐるみの発注が行われている。
 これは、原告サクラと被告との間で、継続的なライセンス契約である本件許諾契約が成立しており、これに伴う販売促進用商品の取引についても、覚書が交わされていたことを裏付けている。
イ 被告は、契約書第11条に基づき、原告サクラがNOVAうさぎをチラシ広告に掲載して使用する際の広告掲載ガイドラインを定め、平成15年7月2日、原告サクラ用の控えと、原告アウトバーン用の控えの合計2部を送付している(甲53、54、106ないし108)。
 この事実も、原告サクラと被告との間で、継続的なライセンス契約である本件許諾契約が成立しており、これに伴う広告宣伝用のチラシの掲載基準について指定がなされていたことを裏付けている。
ウ 被告が税関長宛に作成した平成15年7月23日付けの輸入同意書(甲56、57)には、被告が「ライセンス契約に基づいて、サクラインターナショナル株式会社に対して、弊社所有のキャラクター『NOVAうさぎ』の商品化を許諾し、その著作権、商標権等の使用を許諾し、株式会社アウトバーンが製造及び販売することを許諾して」いることを明記している。
 このように、原告サクラと被告との間で継続的なライセンス契約である本件許諾契約が成立していたことを、被告自身が公的機関に対して明言し保証していた。
エ Aも、電子メールで「解除理由はCに伝えている」旨述べており、本件許諾契約が成立していたことを認めている。 
【被告の主張】
(1) 本件では、以下の事情に照らして、原告が主張するような平成15年6月頃から3年もの間、被告の有する本件キャラクターの商品化権の許諾につき、原告サクラと被告との間を拘束するような内容の包括的、継続的商品化権許諾契約ないしはそのような内容の合意(本件許諾契約)は、平成15年6月23日あるいは17日の時点において(あるいは本件での取引全体を通じても)、原告サクラと被告との間において締結されなかったのは明らかである。
ア 原告サクラが被告に本件キャラクターの商品化権許諾契約の話をもちかけてきた平成15年4月ころは、被告においても、本件キャラクターを用いたグッズ等の商品化あるいはそのためのライセンスビジネスを開始して間もないころであった。被告は、原告サクラと取引をするのは初めてであったが、交渉開始当初は、原告らの説明及び過去の商品実績の資料に基づいて、原告らが被告の重視する本件キャラクターの価値、グッドウィルを維持しつつ、誠実に契約を履行してくれることを信頼して、包括的継続的契約としての商品化権許諾契約を成立させようとの意図のもとに行動していたのは事実である。
 本来、包括的継続的契約を細部まで検討して締結した上で、実際の個別取引を開始するべきであったのであるが、本件では、夏場向け商戦に間に合わせるため期間がないとの原告らの強い意向で、デザインシートのみの承認(アプルーブ)で、見本品でのアプルーブが省略され、また、包括的継続的契約については、内容が確定しないまま個別取引の方が先行してしまったものである。
 被告としては、それでも当初は原告らを信頼していたから、個別取引はもちろん、包括的継続的基本契約も被告のキャラクタービジネスを原告らに理解してもらった内容で成立させたい、成立できるであろうとの推測を持っていた。
イ そして、本件キャラクターを用いた商品化(Tシャツの製造販売)こそ平成15年6月半ば頃には開始されたが、商品化権許諾契約の締結については、企業間取引において、契約書による契約の締結が基本的かつ最重要事項であるにもかかわらず、本件許諾契約について、原告サクラと被告との間で何度か契約書案の交換がなされたものの、正式な契約書調印はおろか、その具体的内容についての実質的な確定すらもなされておらず、特に平成15年7月10日に原告サクラから被告に示された甲2契約書案の追加条項は、@ロイヤリティーレイトの変更の可能性、A他のライセンシーと被許諾者間との競合制限、B著作権侵害の可能性の告知義務等というものであって、それまでなかった重要な契約内容を付加するものであり、到底被告が無条件で応諾できるものではなかった。また、本件キャラクターの商品化権許諾契約の成立に向けての根幹となるような点に関して、被告にとって不利ないし過大な要求を強いる(少なくともその可能性の高い)こととなる条項が原告サクラによって一方的に付加されており、被告としてこれを承諾できるという内容のものではなかった。
 また、原告サクラは、平成15年6月下旬以降、デザインシートに対する被告のアプルーブのみで、本来予定されていたサンプル商品でのアプルーブを省略して、半ば押し切る形で本件キャラクターでのTシャツの販売をスタートさせた。しかも、上記Tシャツは、商品としての品質に少なからぬ欠陥があり、本件キャラクターの有するグッドウィルの保持に問題があった。
ウ 被告は、Tシャツなどの販売につき、実際に著作権使用料を受領したが、これも、季節商品のため、多額の売上げを逃さないよう、原告らが商品化・販売を急ぎ、個別取引が先行したため、その分については原告らによる本件キャラクター使用の対価を受け取らなければならず、やむを得ずロイヤリティーとの名目で請求することとなったものである。最初に最低保証料という形式で請求し、実際には6月分の本件キャラクター使用の対価が最低保証料の形式を取った500万円を上回ったので、差額精算して請求したものである。これらロイヤリティーの請求・受領は、将来、包括的継続的な商品化権許諾契約が成立するであろうという希望的観測の下で行われたものであり、当該個別取引における対価としての意味合いを超えるものではなかったのである。
エ これらの諸点を併せ考慮すれば、原告サクラと被告との間で(あるいは、少なくとも被告の側において)、原告らが主張するような、長期の間にわたり原告サクラと被告との間の取引(本件キャラクターの商品化の許諾)を了解するだけの、成熟した信頼関係が構築されていたと見ることはできず、結局、そのような長期間にわたって取引関係を拘束することを了解するための成熟した信頼関係を構築するための準備段階にあったにすぎなかったのである。
オ そして、本件で提示された契約案の内容並びに当事者間の取引状況及び契約締結交渉の結果と、そこから推測される当事者の合理的意思に最も自然に解釈すると、かかる準備段階である平成15年6月から同年8月までの間にされた取引は、結局、原告サクラによる個々の本件キャラクターを付した商品の販売行為に付随して、@被告の許諾のもとで原告サクラが本件キャラクターのTシャツ等の商品を製造販売できる、Aサブライセンシーは原告アウトバーンのみとする、Bロイヤリティーは売上げの5%とすることを基本的な内容とし、具体的な販売手続としては、C商品見本について監修承認を受ける、D被告の著作権及び商品化許諾の表示をする、Eキャラクターの同一性とグッドウィルを保持する、F商品の製造数量を報告する等の個別的単発的な合意が、原告サクラと被告との間で成立していたにすぎないというべきである。
(2) 原告らが上記【原告らの主張】(2)で主張するような、@販売促進用商品の取引覚書の草案(ただし、被告が押印したものは存在しない。)、A広告掲載ガイドライン、B輸入同意書に関する事実関係が存在することは認めるが、これらの各事実は、いずれも個別的単発的な商品化許諾取引においても、必然的に要求されるような行為である。なお、輸入同意書についてはその時点で税関に届いたものについて発行しているにすぎない。また、CAの記述は、担当者の素人的表現であって、要は取引が続けられなくなるということを伝えたかったにすぎず、明確に本件許諾契約が成立していることを意識しての記載ではない。
 原告サクラと被告との間には、僅か3か月間にすぎない間、個別的な取引の積み重ねという事実行為があるだけで、しかも契約条項の確定について大きな見解の相違があった状況の下では、上記のような原告らの指摘する行為をもってしても、3年間もの間、当事者間に拘束を認めるような成熟した包括的継続的な契約である本件許諾契約が締結されたことを推認することができないのは明らかである。
2 争点(2)(仮に本件許諾契約が締結されたとした場合、被告がした同契約の解除に正当理由があるか否か。)について
【被告の主張】
(1) やむを得ない事由による解除
 仮に原告サクラと被告との間において、本件キャラクターの商品化に関する包括的継続的な商品化権許諾契約(本件許諾契約)が締結されたとしても、本件では、被告に「やむを得ない事由」、すなわち、本件許諾契約を継続することが社会通念に照らして無理ないし不当であると認められる事由があるから、被告のした本件許諾契約解除の意思表示(Aが平成15年8月29日にBに対して電子メールでなした、本件キャラクターの商品化について今後の取引はない旨の通告が、その意思表示に当たる。)には正当な事由があることは明らかである。
ア 本件においては、取引及び契約締結交渉経過において、原告サクラに債務不履行及び極めて不誠実な言動が見られた。
(ア) 商品サンプルに対する承認(アプルーブ)
 原告サクラは、被告からデザインシートでの承認(アプルーブ)を得るのみならず、製造する商品の見本を、ラベル、包装、容器等とともに被告に提出し、その監修承認を受けなければ、商品の製造及び販売を開始してはならないとされていた。
 ところが、原告サクラは、これを無視して、商品サンプルに対する被告の監修承認を受けないまま本件キャラクターの商品となるTシャツを製造販売した。原告サクラは、被告に対して、完成品ができてから、完成品を提出したにすぎない。
(イ) ロイヤリティーの計算根拠・証明の開示
 ロイヤリティーの支払に関して、被告は、随時、原告サクラの商品化事業に関する帳簿を閲覧することができるとされていた。
 ところが、被告が、原告サクラに対して、ロイヤリティー計算の基礎となる販売数量と金額の根拠となる証明書類を開示するよう求めたが、これに一切応じようとしなかった。
(ウ) 商品の品質
 原告サクラは、被告の承認するキャラクターの原画及び原稿に基づいて商品を製造しなければならないとされ、すべての商品に著作権表示を行い、市場を流通させるために必要な表示(原産国表示等、不当景品類及び不当表示防止法に基づく表示)を行い、また、被告から製造販売を許諾された証紙を紙タグを添付して表示し、さらに、商品の販売及び宣伝において、キャラクターの改変により同一性及びグッドウィルを損なわないようにしなければならないとされている。しかし、それにもかかわらず、原告サクラは、商品品質上看過し得ない問題点が多数ある本件キャラクターのTシャツを販売し、社会的に著名で高い評価を得ていた本件キャラクター(著作物)及び被告の商標を汚染した(ポリューション)。
(エ) 不誠実な言動
 しかも、被告は、商品の品質について、平成15年7月10日時点で原告サクラに対して改善の申入れをしたにもかかわらず、これに一切対応しようとせず、さらに、同年8月25日頃に、AがBに対してこの点についての疑問を投げかけると、Bは明らかに客観的事実に反する説明をした。ちなみに、Bは、原告サクラの商品に中国製も存在するにもかかわらず、「USA製だから。」などと説明し(なお、原告サクラは、本件訴状においてすら上記中国製商品を「メイドインUSA」等と強弁している。)、さらには、B自身が「NOVAの方がセンスが悪いのだから我々が直してやる」等と発言し、本件キャラクターの商品化を通じて共に発展していこうとする取引当事者の態度とは到底受け取れない姿勢を示した。
イ 被告の語学教育学校としての規模や、本件キャラクター自体も、原告サクラとの取引が持ち上がる平成15年4月ころには既に一般消費者やマスコミ・デザイン等の関係業界等から高い評価を得た著名なキャラクター及び商標となっていたこと、Tシャツ等の商品の販売に関する限り、被告は当時経験が皆無である一方で、原告サクラはメーカーとして相当数の実績・経験と情報を有していたのであるから、本件キャラクターの商品化に当たっては、原告サクラは、許諾者(ライセンサー)である被告の指示や見解を最大限に尊重して商標や著作物、キャラクター等を使用、利用しつつ商品化すべく、慎重かつ誠実に商品の製造販売活動を行い、かつ、被告と交渉すべき地位にあった。
 しかし、原告サクラの本件での被告との取引経過及び契約締結交渉経過と、原告サクラの代表者であるBの言動からすれば、相手方である被告において、本件許諾契約の存続を期待し得ない状況が生じたことは明白であり、その契約関係を継続させることは社会通念に照らして無理ないし不当であったと解される。よって、被告が、本件キャラクターの商品化に関する原告サクラと被告との間の本件許諾契約を解除することにつき「やむを得ない事由」があったものと認められる。
 以上の点からして、被告の本件許諾契約を解除する旨の意思表示には「やむを得ない事由」によるものとして正当な理由のあることが明らかである。
(2) 債務不履行による解除
 仮に、本件許諾契約が締結されたとすれば、その契約内容は、その契約締結交渉経過から見る限り、乙2の4契約書案及び甲2契約書案に準拠することになる。
 これを前提とすると、本件の取引や契約締結交渉経過において、原告サクラには上記(1)アの(ア)ないし(ウ)の債務不履行が認められるところ、同原告は、本件キャラクターの商品化に関する本件許諾契約上、ライセンシーである原告サクラに課せられるべき基本的かつ最重要な義務にすべて違反していることは明白である。
 しかも、上記(1)アの(エ)のとおり、Aが原告サクラとしての義務を履行するように申し入れたにもかかわらず、原告サクラは、改善に着手しないばかりか、誠実な対応も見せなかった。
 以上から、本件許諾契約上、原告サクラの債務不履行は明らかであって、これに基づく解除の意思表示は正当な理由に基づくものと認められる。
(3) 信頼関係破壊による解除
 本件許諾契約について、前記(1)及び(2)で主張した原告サクラの不誠実及び本件許諾契約におけるライセンシーとしての基本的な立場を全く理解しない対応や、同契約上の基本的かつ最重要な原告サクラの義務の不履行は、そのまま、原告サクラと被告との間に認定される本件許諾契約における、当事者間の信頼関係を破壊する事由ともなり得る。
 また、品質面で大きな問題のある本件キャラクターの商品であるTシャツの販売は、著名な本件キャラクター(著作物)と商標を確実に汚染し(ポリューション)、本件キャラクターの顧客誘因力や被告自体の営業上の信用が低下するところとなった。原告サクラによる本件キャラクター及びその商標に対する上記汚染行為もまた、本件許諾契約関係に対する信頼関係の破壊行為であり、かかる事由に基づく解除は、正当な理由に基づくものと認められる。
【原告らの主張】
(1) やむを得ない事由による解除
ア デザインシートによる承認(アプルーブ)を得て商品の製造を行い、販売前に順次、商品のサンプルを送付し、被告の承認を得て販売を実施することは、被告と原告サクラの合意に基づくものであるし、被告から異議も出されていなかったのであって、原告サクラに何ら債務不履行はない。
イ 本件キャラクターを付したTシャツにつき、その品質上の問題点を被告が指摘したなどという事実はない。被告は、平成15年8月25日「要望書」により要望内容を原告サクラに伝えると約束し、9月1日の会談を予定しておきながら、結局要望書を提出せず、上記会談も自ら一方的に破棄したものであって、被告が原告サクラにその改善の申入れをしたなどという事実は全く認められない。
ウ キャラクター商品のグッドウィルを保持するために独占的商品化権を設定することは通常よく行われていることである。また他社商品の価格と統一性を求めることも同じ理由からであり、これらを不当な要求であることのように主張すること自体理由のないものである。その他、甲第2号証の赤字部分の修正意見が不当なものではないことは、既に主張したとおりである。
エ 原告らは実績・経験と情報を有しているからこそ、偽物排除に当初から積極的に協力し、グッドウィルを保持し、本件キャラクターに係る商品が短命に終わることのないよう、誠実かつ積極的にさまざまな提案を行ってきた。
 製造・販売済みの商品について、原告ら側には何ら債務不履行はない。
 一方、今後、原告らが製造・販売する商品について、被告が「改善」を要望するのであれば、要望事項を要望書にまとめて協議を行い、売上増やキャラクターのグッドウィルの維持・発展のために有益であれば、改善して行けばよいのである。しかし、被告は「要望書」も提出せず、平成15年9月1日の会談も行わないままこれらを反故にし、突然一方的に解除を通知するという、極めて不誠実な対応をしてきた。被告の解除の意思表示に「やむを得ない事由」や「正当な理由」など存在しない。被告による契約解除通知以降、原告らが再三、解除の理由や根拠の明示を求めたのに対し被告がこれを全く明らかにしてこなかったのも、被告が主張する解除理由が後から考え出されたものであることを物語っている。
(2) 債務不履行による解除
 被告の主張はすべて争う。被告は、デザインや商品の形状・性質について、各サンプル受領時には、何ら指摘も異議も出さず販売を承認し、その販売の結果のロイヤリティーまで受領している。それにもかかわらず、契約解除後や訴訟後にそのような「指摘」をいくら行って解除の理由にしようとしても、全く無意味というほかない。
 なお、原告らの製造・販売したTシャツなどの商品は、イオン株式会社や株式会社イトーヨーカ堂の品質基準に合格するなど品質に問題のないものである。
(3) 信頼関係破壊による解除
 被告の主張はすべて争う。
3 争点(3)(仮に本件許諾契約が未だ締結されるに至っていなかったとした場合、原告サクラとの関係で被告が契約締結上の過失又は信義則上の付随義務違反に基づく損害賠償義務を負うか否か。また、仮に同義務を負わないとしても、被告による本件許諾契約の契約締結拒絶が原告サクラに対する不法行為を構成するか否か。)について。
【原告らの主張】
(1) 仮に、本件許諾契約に係る契約書に調印が未了であったとしても、同契約が締結されたことを裏付ける前記1主張の各事実は、そのまま、同契約が締結されたに等しい契約締結交渉の熟度を示すものであり、このような段階に至って被告が正当な理由なく本件許諾契約の締結を拒絶することは許されないというべきである。
(2) 被告は、サンプルに不良部分があったことを問題にしているが、本件許諾契約の締結拒絶前にサンプルの品質について意見があったのであれば、サンプル受領後商品販売前に直ちにその旨を指摘すべきであるし(直ちに指摘しなければ当該サンプルに問題点がなかったと解釈されてもやむを得ない。)、仮に、被告において後日気になる点があるというのであれば、問題点を原告らに指摘して、説明や意見を求めて協議すればよいのである。しかし、前記のとおり、被告は「要望書」の送付もせず、したがって、原告らの説明や反論の機会すら与えないまま、突然解除(締結拒絶)を通告し、爆発的な売れ行きを続けていた本件キャラクター商品の販売による利益を原告らが得られないようにしたのであって、被告に契約締結上の過失責任あるいは信義則上の付随義務違反による責任、予備的に不法行為責任が生じることは明らかである。
【被告の主張】
(1) 継続的包括的な契約関係の成否に関して被告が主張してきた諸般の事実関係にかんがみれば、契約締結交渉における「熟度」という観点から見ても、原告らが主張するような向こう3年間もの間の履行利益・逸失利益を認めなければならないほどの「成熟」した段階にあったなどということは到底できない。
(2) なお、原告らは、本件許諾契約の契約交渉の成熟度として契約成立と同視し得る程度に達していることの根拠として、前記1における主張を引用して@契約締結事実の公表、A偽物排除の協力、B被告法務部の最終確認との電子メール文書、C年間最低使用保証料の請求、Dロイヤリティーの請求、Eデザインアプルーブの存在、Fサンプルの送付・承認、G販売促進用商品の取引、Hチラシ広告ガイドラインの策定、I税関宛「輸入同意書」の記載、J被告担当者が契約成立を前提として「解除」との文言を使用していること、K契約書の状況を指摘する。
 しかし、@及びAについては、原告らが勝手に自己の商売上のアピールとして行ったにすぎない行為であるし、Bについては、前記のとおり、その後平成15年7月になって原告らから重大な契約条項の付加がなされているし、C及びDについては、既に被告が主張しているとおり、原告らが強引に商品販売を先行させたため、被告としてはやむなく(後には契約が成立するであろうと考えて)、キャラクター使用の対価を「使用(保証)料」ないし「ロイヤリティー」との名目で請求したにすぎず、「最低使用保証料」にしても、実際には平成15年6月分のキャラクター使用の対価がこれを上回っている。E及びFについても、前記のとおり原告らから被告に送られたのは完成品であって、結局見本品でのアプルーブは、原告らの意図的な強い意向で省略させられたものである。GないしIについては、前記のとおり、個別的単発的な商品化許諾取引においても必然的に要求されるものにすぎず、また、Hについては、その時点で税関に届いたものについて発行しているにすぎない。Jは、担当者の素人的表現であって、要は「取引が続けられない」ということを伝えたかったにすぎず、明確に本件許諾契約が成立していることを意識しての記載ではない。Kについては、前記のとおり、ロイヤリティーレイトの変更の可能性、他のライセンシーとの競争関係、著作権侵害についての告知義務等であって、契約当事者である被告が、これをそのまま何の躊躇もなく受け入れることは到底できないような重大事項の付加である。
 したがって、原告らが指摘するような諸点をもってしても、本件許諾契約に係る契約交渉段階が、原告らの主張するような逸失利益(履行利益)の賠償を許容するほどの、契約成立と同視し得る「成熟」した段階にあったと見ることができないのは明らかである。
(3) よって、被告が原告サクラとの取引を打ち切っても、それは何ら契約締結上の過失責任等あるいは不法行為を構成するものではない。
4 争点(4)(被告による本件許諾契約の解除あるいは契約締結拒絶が原告アウトバーンに対する不法行為を構成するか否か。)について   
【原告らの主張】
(1) 原告アウトバーンは、甲第1号証の第1条(4)にあるとおり、本件許諾契約成立と同時に、同契約において本件キャラクター商品を製造・販売することを許諾された唯一のサブライセンシーとして指名され、同商品の商品化権を再使用許諾されている。
 したがって、被告が原告サクラとの契約を不当に解除し、同原告に対する商品化(権)の許諾を一方的に停止して、製造・販売の中止を求める場合、被告サクラに対しては債務不履行であると同時に、原告アウトバーンに対してはサブライセンシーとしての製造・販売の権利を侵害することになる。被告は、そのことを十分認識していたか、少なくとも予見することが可能であった。
(2) 被告は、原告サクラとの契約を不当に解除し、同時に乙第11号証の電子メールにあるとおり、原告アウトバーンによる製造・販売の中止を求めたことから、原告アウトバーンが本件許諾契約に基づき指名された唯一のサブライセンシーとして(再)許諾により製造・販売する権利を侵害し、その得べかりし利益を奪ったものである。
【被告の主張】
 本件キャラクターについての、Tシャツ等の商品化に関する取引について、原告アウトバーンが原告サクラインターナショナルからの委託を受けて、同商品を製造する業者として承認されていたことは認めるが、被告が原告サクラの契約を不当に解除したとの点、原告アウトバーンに対してサブライセンシーとしての製造・販売の権利を侵害したとの点、そのことを被告が認識していたか少なくとも予見することが可能であったとの点は、いずれも否認する。
 原告サクラと被告との間には、包括的継続的商品化権許諾契約である本件許諾契約が成立していたものではなく、よって、原告アウトバーンのサブライセンシーとしての地位も確立されたものではなかった。よって、被告が原告サクラとの取引関係を終了させても、原告アウトバーンのサブライセンシーとしての製造・販売上の何らかの法的利益を侵害したとはいえない。
 また、仮に、原告サクラと被告との間に本件許諾契約関係が成立していたとしても、被告の本件許諾契約の解除は正当なものであるから、原告アウトバーンとの関係においても不法行為上の違法行為とはならない。
5 争点(5)(原告らに生じた損害及び因果関係)について
【原告らの主張】
(1) 原告サクラ
 原告サクラは、原告アウトバーンとの間で、製造商品の上代価格(小売定価)の7%に消費税額を加算した額の再使用許諾料の支払を受けることで合意していた。
 原告サクラが被告に支払うライセンス料は同じく上代価格(小売価格)の5%に消費税額を加算した金額であった(甲第1号証の契約書第4条(1))。
 したがってその差の2%相当額に消費税額を加算した額が原告サクラの得べかりし利益となる。
 平成15年6月から8月までの3か月間の製造商品の上代価格は次のとおりである。
ア 平成15年6月 2億7275万9000円
イ 平成15年7月 3846万5700円
ウ 平成15年8月 1億2036万6600円
 合計 4億3159万1300円
 上記3か月間の各上代価格の2%に消費税額を加算した額の合計は906万3417円である。
 原告サクラと被告との契約期間は、契約書第3条(1)のとおり3年間であり、同第3条(2)のとおり1年ずつ合計3回の更新を請求する権利があったので、少くとも3年間に相当する分は同原告の得べかりし利益であり、被告の予見可能性も認められる。
 したがって原告サクラの得べかりし利益は、
 906万3417円×33÷3=9969万7587円となる。
 そして、原告サクラは、平成15年10月15日、同年8月分のライセンス料601万8330円(1億2036万6600円×5%=601万8330円)に消費税額を加算した631万9246円については、上記損害賠償金の一部として対当額で相殺する旨の意思表示を行い、同意思表示は同年10月16日被告に到達したから、原告サクラが被告に対して請求し得る損害賠償の額は、9337万8341円となる。
 なお、仮に形式的に契約が成立未了だとしても、本件での契約の交渉・締結段階は、いわゆる契約締結交渉の「熟度」ないし「成熟度」が高い段階に達しており、いずれにしても上記のような履行利益(逸失利益)の賠償を認めるべき事案である。
(2) 原告アウトバーン
 原告アウトバーンの各月の数量、販売金額、上代金額、粗利額、ライセンス料、物流等経費、純利益は次のとおりである。
ア 平成15年6月
(ア) 数量 9万6808
(イ) 販売金額 1億4337万0505円
(ウ) 粗利額 7216万8792円
(エ) 上代金額 2億7275万9000円
(オ) ライセンス料 2004万7786円(エ×7%×1.05)
(カ) 物流等経費 860万2230円
(キ) 純利益 4351万8776円
イ 平成15年7月
(ア) 数量 1万3801
(イ) 販売金額 2127万7209円
(ウ) 粗利額 1192万6104円
(エ) 上代金額 3846万5700円
(オ) ライセンス料 282万7228円(エ×7%×1.05)
(カ) 物流等経費 127万6632円
(キ) 純利益 782万2244円
ウ 平成15年8月
(ア) 数量 13万9775
(イ) 販売金額 6130万5773円
(ウ) 粗利額 3563万6137円
(エ) 上代金額 1億2036万6600円
(オ) ライセンス料 884万6945円(エ×7%×1.05)
(カ) 物流等経費 367万8346円
(キ) 純利益 2311万0846円
エ ア〜ウの3か月合計
(ア) 数量 25万0384
(イ) 販売金額 2億2595万3487円
(ウ) 粗利額 1億1973万1033円
(エ) 上代金額 4億3159万1300円
(オ) ライセンス料 3172万1959円
(カ) 物流等経費 1355万7208円
(キ) 純利益 7445万1866円
 前記のとおり、原告サクラと被告との契約期間は3年であり、少なくとも3年間は原告サクラが本件キャラクターを使用する権利を有しており、原告アウトバーンは甲第1号証の契約書第1条(4)に基づき、その再使用許諾を受けていたから、同様に、少くとも3年間に相当する分は同原告の得べかりし利益であり、被告の予見可能性も認められる。
 したがって、原告アウトバーンの得べかりし利益は
 7445万1866円×33÷3=8億1897万0526円となる。
 そして、本件においては、甲第1号証の契約書第3条(1)のとおり契約期間は3年間で、かつ同第3条(2)のとおり、原告サクラにはその請求により1年ずつ合計3回本件許諾契約の更新を請求する権利が認められていた。
 この条項について、被告は法務部の了承を得て承諾している。
 したがって原告らの上記3年間の得べかりし利益については、少くとも被告が予見し得た損害であり、被告は原告サクラに対しては債務不履行責任として、原告アウトバーンに対しては不法行為責任として、それぞれ賠償する責任を負う。
【被告の主張】
 争う。なお、契約締結上の過失は、契約交渉の間、十分な配慮を相手方に対しなさなかった義務違反が問題とされるのである。それゆえ、この義務違反の効果としての損害賠償も信頼利益に限られるものである。
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記前提事実、証拠(各項末尾に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告は、平成15年1月頃から、被告の有するイメージキャラクターである本件キャラクターを用いた各種商品の商品化について、複数の企業から申し出を受けていたところ、被告の経営企画室次席Aが担当者としてこれに対応していた。(乙16、弁論の全趣旨)
(2) 原告サクラは、平成15年4月下旬頃、被告に対して、本件キャラクターを用いたTシャツ等のアパレル関連商品を製造・販売させてほしいとの申入れをした。Aは、原告サクラと被告はこれまでに取引実績がないことから、同原告の会社概要やパンフレットの送付を同原告に依頼し、送付された原告らの会社概要を見て、原告サクラから製造を手がけると聞いていた原告アウトバーンが、高品質でブランドイメージの高いTシャツ等を製造できる企業であるとの印象を持った。
 その後、原告サクラ代表者のBは、同月29日、Aに対して商品化の条件を電子メールで提案したが、その内容は、原告サクラの独占的な商品化権の取得、サブライセンスは可(ただし、サブライセンス先は原告アウトバーンのみ。)、ロイヤリティー(使用料)は、上代の2.5%、契約期間は1年(ただし、更新オプション付きとする。)、最低年間保証料は250万円(契約時に前払い)、初年度計画上代ベースは1億円というものであった。また、その電子メールには、「弊社の役割は、デザイン企画とブランドイメージコントロールです。A様もおっしゃてましたとうり、今が夏物販売の最終段階であると同時に、秋冬に向けての企画/サンプルアップのうえ展示会を開くのにぎりぎりのタイミングとなっております(原文のママ)。」との記述があった。(甲50、58、乙1の1及び2、16)
(3) Aは、平成15年5月7日、B及び原告サクラの取締役で本件キャラクターの商品化権許諾契約の交渉担当者であるCと被告本社で商談をした。Aは、正式に原告サクラと商品化権許諾契約を締結するか否かは未定であるが、契約するとしても独占的な契約とはしないという方針を告げたところ、Bらは、改めて独占的な商品化権の取得を希望する旨の申入れをした。Aは、同月9日、原告サクラに対し、電子メールで、使用料については5%とすることを申し入れるとともに、同日、被告作成の乙2の1契約書案を送付した。(甲9)
 乙2の1契約書案では、契約期間については、「この契約は、両当事者が署名した日に効力を発し、かつ、この契約の第14条によって解除されない限り、1年間効力を有する。」(第3条)と記載されていた。また、対価については、「附属文書に定める使用料」を「許諾者の発行する『許諾印紙』を購入することで」支払うものとし、年間最低保証使用料の金額欄は空欄としていたが、これを「本契約の締結後30日以内に…銀行口座に振り込む。この年間最低保証使用料は前号の使用料にも充当されるが、年間使用料が年間最低保証使用料に満たない場合でも返金はしないものとする。」(第4条)と記載とされていた。(甲9、乙2の1、16、弁論の全趣旨)
(4) 被告の担当者Aは、平成15年5月16日、電子メールで原告サクラに対し、「社長との会議が先ほど終わり、御社にT−シャツ等アパレル関連の商品を製作して頂こうということになりました。アパレル関連の独占契約については、首を縦に振りませんでした。理由は、どのメーカーとも独占契約をしていないし、ミニマム2250万円(3年)は独占契約には少ないとのことです。ただ、当社の社長も、同カテゴリー内でライセンシーを増やせば、ライセンシーが商売をやりにくくなると考えており、やみくもにライセンシーを増やすようなことはしないと言っております。今回、アパレル関連でライセンス契約を結ぶことになったのは、御社と子供服メーカーもう一社のみです。社長が上記のような考えをしているので、契約上は独占でなくても、私のところで何とでもコントロールできるのではないかと思います。」と連絡した。これに対して原告サクラのCも、同日中に、電子メールで、契約条件を3年とし、年間最低保証使用料を各年500万円とする件は社長に報告した旨返信した。(甲60、乙3の3)
(5) また、原告サクラのCは、平成15年5月16日昼頃、Aに対して、同月19日発売の繊研新聞(繊維業界の業界新聞)に原告アウトバーンが本件キャラクターを付したTシャツを販売することを、本件キャラクターを載せて発表したい、本日取材日なので至急返事をするようにと依頼するとともに、新聞の発表で今後の偽物業者に対する牽制となり、また、原告アウトバーンの商品が正規であることを、各販売店バイヤーに認識してもらうためにも必要である、との電子メールを送信した。この外にも、原告サクラは、被告に対して、しばしば、本件キャラクターの使用を許諾された者ではない業者が非正規の本件キャラクター商品を製造していること等に対する対応を検討するよう提案していた。(甲59、61、63、69、72、73、)
(6) 原告サクラは、平成15年5月17日又は同月18日以降、同月14日にAから電子メールで送信されていた本件キャラクターの画像をもとに、Tシャツ、トートバック(手提げ袋)、キャップ(帽子)、ミニタオルなどの商品のデザインシートを製作して被告に送付し、Aら被告の担当者が、承認のための手続を準備したが、原告サクラの予定よりも承認が遅れたため、同月21日には、Cが「デザインアプルーブについて生産期間に余裕が全くありません、したがって至急許可の方をお願い致します」と電子メールで連絡をし、その翌日以降、被告による承認がなされた。(甲49、50、62、68、乙3の1及び2、4の1ないし4、5の1及び2、16)
(7) 原告アウトバーンが製造したNOVAうさぎのメンズ・レディス・キッズの各Tシャツや帽子・バッグなどの雑貨は、平成15年6月以降、ジーンズショップなどのカジュアル衣料専門店を中心に販売が開始され、そのことは、同月16日付け繊研新聞にも報じられた。その記事の中には「アウトバーン(D社長)は、語学スクール最大手のNOVA(ノヴァ)とライセンス契約を結び」、「顧客対象は中・高校生。取り扱いアイテムはメンズ、レディス、キッズのカジュアルウェアと、帽子やバッグなどの雑貨。今夏物ではTシャツ(小売価格2900円)とトートバック(同)が中心。」、「夏物受注はすでに半袖Tシャツで10万枚に達しており、『ビッグヒットの兆しあり』(D社長)という。」などの記述がなされていた。(甲3)
(8) 原告サクラは、平成15年6月上旬頃、乙2の1契約書案に、訂正案を記入した契約書案(乙2の2。以下「乙2の2契約書案」という。)を被告に送付した。
 その訂正案の内容は、乙2の1契約書案の第1条(3)に原告アウトバーンへの再許諾条項を付加し、生産地域を全世界とすること(第2条)、契約期間を3年とすること(第3条)などであった。ただ、契約期間の条項については、「2003、5、16〜2004、6、30」とするとの書き込みもあった。(乙2の2)
(9) Aは、平成15年6月17日、原告サクラに対して、被告法務部の最終確認がなされた契約書の修正案(甲1。甲1契約書案)を送付した。
 甲1契約書案の内容は、前記前提事実の(2)エのとおりであり、契約期間を3年とすること、原告アウトバーンに対する再使用許諾ができることなどが明記されたものであった。Aは、同月21日、甲1契約書案の証紙を購入するという文言と振込先を訂正した修正案(乙2の4)を送付した。また、Aは、同日、電子メールで原告サクラに対し、翌週、最低保証使用料の請求書を送付する旨連絡し、同月23日、被告名で原告サクラに対し、年間最低保証使用料500万円及び消費税25万円の支払を求める請求書を送付した。原告サクラは、被告に対して、請求どおり、上記合計525万円を振り込み送金した。(甲1、4の1及び2、10、11、乙2の4、16)。
(10) 本件キャラクターを使用した各商品は、発売後相当好調な売れ行きを示し、平成15年6月中のTシャツ等の製造数量は、原告サクラの報告によれば、9万6808枚、上代2億7275万9000円に達した。被告の担当者Aは、平成15年7月2日、原告サクラにAの署名・捺印のある「<NOVAうさぎ>チラシ広告掲載ガイドライン」を送付した。なお、同ガイドラインの原案は、原告サクラが作成した。さらに、被告は、同月3日、本件キャラクターを扱う取引先に送付した「NOVAうさぎ」グッズの取引に関する覚書の作成を原告サクラにも申し入れた。その内容は、原告らの販売促進用商品として、被告が取り扱うぬいぐるみ等を原告らが購入する場合の仕入商品の定価及び仕入価格等に関する取決めであった。なお、この覚書の有効期間は、平成15年6月1日から平成16年5月31日までとし、有効期間満了の1か月前までに両者に異議がなければさらに1年間同一条件で延長する、との条項があった。(甲49、51ないし54、140、弁論の全趣旨)
(11) 原告サクラは、平成15年7月頃、被告が同原告以外に本件キャラクターの商品化を許諾している会社の商品に関して、両社が競合する商品については、同じ価格設定であっても、他社が付属商品を付けることのないようにすることや、取り扱う商品が競合しないよう他社の商品のサイズを限定させることなどを要求するようになった。また、契約書の作成も未了であったため、Aは、同月10日に原告サクラの事務所を訪問し、B及びCとの間で、契約書の作成及び他社との競合に関する条件について協議することとなった。
 そして、その場で、BはAに対し、契約書案(甲1)にさらに赤字で付加修正を加えたものを提出した(甲2。甲2契約書案)。
 その付加修正内容は、第4条(対価)について「尚、ロイヤリティーレイトは、累計売上が一定額(累計売上上代5億円を目安とする)に達した場合、双方の合意のもと改変されるものとする。」という点を付加し、第13条(第三者による権利侵害)については、「許諾者は被許諾者が著作権の侵害に付いての知り得ていない全ての情報を被許諾者に開示しなくてはいけない。」という部分を付加したり、第1条(使用許諾)では、「ただし、許諾者は、複数の被許諾者間で、無意味な競合・価値観の不適合等なきよう十分の配慮をし全体の統合をするものとする。」等の部分を付加するというものであった。(甲2、18ないし20、49、50、乙16)
(12) その後も、原告サクラと被告との間では、新しいコマーシャルに登場する本件キャラクターの画像を送信し、原告サクラがデザインの承認を依頼し、被告がこれを承認するなどのやりとりが引き続き行われていた。被告は、平成15年7月26日、同月23日付けの「輸入同意書」に押印して原告サクラに送付した。なお、その輸入同意書には、原告アウトバーンの発注に基づき本件キャラクターの製品を中国において製造し、輸入業者を通じて日本国内に仕入れられることを、被告は承認している、と記載されていた。
 原告サクラは、月次販売数量及び金額の連絡を行い、被告は、これに基づいて、同原告に対し、平成15年7月23日付けで、6月度の著作権使用料名目で、1363万7950円から受領済みの年間最低保証使用料500万円を控除した863万7950円に消費税額を加算した906万9847円を請求した。(甲5の1及び2、56、57)
(13) ところが、原告サクラの従業員が、平成15年8月22日に送付した本件キャラクターのホームウェアの承認に関して、同月25日にAに電話で確認したところ、Aは、原告らの製造・販売するTシャツの品質が悪い、襟のネームを切り取っている点や、ボディカラーが白っぽい、素材が薄くてしわが生じるなど、品質が良くない、まるで偽物のようだ、という意見が出ていると伝えた。そこで、Bが電話を代わり、襟のネームを切り取った跡があるのは、メイドインUSAのボディを使用しているためであり、ボディに問題はないと説明したが、Aは、今後、被告の意向に従わないのであれば、取引はないと告げた。Bは、Aに対し、被告側の要望事項を書面で提出してもらい、それをもって原告サクラが原告アウトバーンと協議し、書面で回答した上で、被告会社とのトップ間の会談を持つことを提案した。Aは、書面で要望事項を提出することは了承し、同年9月1日に、被告側の対応者はともかく、被告本社で原告サクラと話をする旨回答した。(甲49、50、126、127、乙16)
(14) Aは、平成15年8月27日、原告サクラからの問合せの電子メールに対して、要望書は今週中には送る、ライセンス契約書の早期送付の要求に対しては、「今回の件もございましたので、現在法務部で再度内容を確認している最中です。ただ、我々と致しましては、御社との品質に関する意見の相違が解決されない場合、御社とこれから商品化を進めていくことができないと考えております。ですので、今回の件が解決した後に、正式に契約を結びたいと考えております。」と電子メールで回答した。また、Aは、同月28日、原告サクラからの前記ホームウェアのアプルーブの要請に対しても、契約に関する話が解決していない段階では、新商品の監修を進めることはできない、契約の話が解決した後に連絡する旨回答した。(甲127、128、乙15)
(15) Aは、平成15年8月29日、原告サクラに対し、電子メールで「御社との今後のお付き合いについて、経営会議で決定した事項」として、「まことに残念ではありますが、今後、御社とお付き合いを続けていくという判断には至りませんでした。理由は、昼間にCさんにお伝えしたとおりです。つきましては、製造・販売は8月末の中止、店頭での販売は9月末の中止を希望します。」と連絡し、正式に原告サクラとの取引を終了する旨告知した。なお、結局、被告は、原告サクラに対して、改善点に関する要望書を送付しなかった。(乙11、弁論の全趣旨)
(16) Bは、平成15年8月31日以降、Aに対して、取引が継続できない理由について、説明を求める旨の電子メールを度々送信したが、Aはこれに対して、Cに理由は説明してあるなどと答えるばかりで、書面による回答を一切しなかった。(甲129ないし139)
(17) 被告は、平成15年9月1日に7月度の著作権使用料として201万9449円(税込み)を、同年10月7日に8月度の著作権使用料として631万9246円(税込み)を請求した。原告サクラは、6月度及び7月度の著作権使用料を支払ったものの、8月度の著作権使用料については、同年10月15日付けの内容証明郵便により、本件で原告サクラの被告に対する損害賠償請求額と対当額で相殺する旨の意思表示をするとともに、原告らは、同月17日本件訴訟を提起した。(当裁判所に顕著な事実)
2 争点(1)(被告と原告サクラとの間で本件許諾契約が締結されたか否か。)について
(1) 前記認定事実によれば、原告サクラと被告は、電子メール等のやりとりにより、平成15年5月中旬には、被告が、原告サクラに対して本件キャラクターの商品化を許諾すること、指定商品はTシャツ等のアパレル関連の商品とすること(ただし、原告サクラは独占的な商品化権被許諾権者ではない。)、サブライセンシーは原告アウトバーンのみとすること、年間最低保証使用料は500万円で、ロイヤリティーは上代の5%とすること、契約期間は3年とすることといった、商品化権許諾契約の主要な点について口頭で実質的に合意され、それ以降、約3か月弱の間、その実質的合意に沿う形で、現実に本件キャラクター商品が販売され、年間最低保証使用料が授受され、さらに実際販売量に応じたロイヤリティーも授受されたことが認められる。これらの原告サクラ及び被告の行動には、前記のような実質的合意に沿った本件許諾契約が正式にも成立していたのではないかと思わせる側面があることは否定できない。
(2) しかし、その一方で、契約書の条項の内容については、商品化の前後を通じて交渉が重ねられ、同年6月17日に、被告が法務部の最終確認を終えたという甲1契約書案を原告サクラに送付し、同月21日に再度微修正を加えた乙2の4契約書案を送付したが、同年7月10日に、原告サクラから数か所に修正を加えた甲2契約書案が提示され、その後は調印の日程も定まらないまま、結局契約書へは調印されず、被告の通告により取引が終了したことが認められる。
 確かに一般に契約が成立するためには、法律上一定の要式性の履践が契約の効力発生要件とされている場合を除き、契約書の作成等の形式的行為がなければならないというわけではなく、口頭による合意であっても成立し得るものであるし、さらには黙示の意思表示の合致によっても契約の成立が認められる場合もある。また、原告サクラと被告のような企業間の取引であるからといって、契約を締結する際に必ず契約書が作成されるとは限らないものではある。しかし、本件での本件許諾契約締結に向けた当事者の行動を見ると、被告は、原告サクラと被告との間で契約内容の協議が始まった当初から、原告サクラが電子メールによって概略的に契約内容の提案をした(甲58)のに対し、被告は契約書案(乙2の1契約書案)を送付する形で返答をしており、その後も協議の進展を踏まえて契約書案(甲1契約書案とそれを微修正した乙2の4契約書案)を送付しているのであって、甲1契約書案については被告の法務部が関与して最終確認も行っているのであるから、被告としては、契約を正式に締結するに当たっては、社内各部署でチェックを受けた上で契約条項を細部まで確定し、それを契約書として完成して調印すべきものという意思を有していたことは明らかである。そしてまた、原告サクラも、被告から提示された契約書案に対して、修正案(乙2の2契約書案、甲2契約書案)を提出する形で契約条項の詰めに向けた協議を行っているのであって、やはり契約書の作成・調印を前提とし、それに向けた行動をとっていたということができる。
 そして、本件においては、被告が原告サクラに最初に送付した乙2の1契約書案にも、第3条(1)に「この契約は、両当事者が署名した日に効力を発し、かつ、この契約の第14条によって解除されない限り、1年間効力を有する。」と明記され、効力の始期に関する条項の内容は、原告サクラが修正を加えた乙2の3契約書案及び甲2契約書案においても乙2の1契約書案のままとされていたのであるから、被告のみならず原告サクラも、それら契約書案のやりとりによって締結に向けた協議を進めている契約は、署名(調印)した日に正式に締結したことになり、成立するものとされていることを認識していたはずである。
 このように、当事者が、契約書を作成し調印することによって契約を締結することを予定している場合においては、調印に至る過程での当事者間の口頭あるいは文書によるやりとりは、いかに主要部分について実質的に合意がなされ、一部それに則った行動がとられていようと、未だ契約交渉の一環にとどまるのであって、契約の正式な締結には至っていない、と解するのが相当である。
(3) この点について原告サクラは、同原告が平成15年7月10日に被告に提示した甲2契約書案による修正は些細なもので、被告も口頭で了解していたものであるし、修正内容に異議があるのなら被告は修正部分を除いて契約を成立させることもできたし、原告サクラは修正部分に問題があれば原案(乙2の4契約書案)のままで構わないとも述べていたから、原被告間では乙2の4契約書案の内容で契約が成立したと主張する。
 しかし、前記(2)で述べた原告サクラ及び被告の契約書作成に向けた態度からすれば、契約書の作成・調印に至らなかった以上、理由のいかんを問わず、契約はいまだ締結されたものといえず、成立していないというほかはない。
 また、原告サクラが提示した甲2契約書案による乙2の4契約書案からの修正点を見ると、まずロイヤリティーレイトの改訂に関する条項(第4条(1))は、「ロイヤリティーレイトは、累計売上が一定額(累計売上上代5億円を目安とする)に達した場合、双方の合意のもと改変されるものとする。」というものであるが、この条項が挿入された場合には、一定の累計売上額に達した場合には、少なくとも原告サクラの要請に応じて被告がロイヤリティーレイトの改訂について協議する義務を発生させるとともに、ロイヤリティーレイトを引き下げる圧力となる条項であり、平成17年6月中のTシャツ等の売上げだけで既に上代2億7275万円余りに達していたこと(ただし、原告サクラの報告数量として。)からすると、同条項の追加が些細なものであったということはできない。また、第三者による著作権侵害に関するすべての情報を被許諾者に開示しなければならない(第13条(1))という義務も、許諾者がかかる義務を負う根拠が不明確であり、義務及び義務違反の結果も曖昧であるため、許諾者が当然にかような義務を負担することを承諾できるものではなく、やはり同条項の追加が些細なものであったということはできない。そしてこのように、原告サクラが乙2の4契約書案を承諾するとの意思表示もせず、逆に軽視できない変更を含む甲2契約書案を被告に交付しているという事実は、何よりも原告サクラ自身が、契約条項がまだ確定的なものでないとの認識を有していたことを物語るものであり、このことからすると、原告サクラと被告との間では、契約の締結に至っていないことはもとより、契約条項の最終確定にすら至っていなかったというべきである。
(4) そして、以上の検討からすると、原告サクラと被告において、契約書が作成・調印されていないにもかかわらず、実質的合意の後に本件キャラクター商品を実際に販売し、年間最低保証使用料や実際販売量に応じたロイヤリティーを授受するという行動をとったことについては、次のように考えられる。
 交渉開始当初、被告が原告らを商品化権許諾契約におけるライセンシーとして、高品質の商品を製造販売している企業として信用していたことは、前記認定のとおりであり、将来的には、原告サクラと正式に商品化権許諾契約を締結する強い意思があったことは、被告も認めるところである。このことは、最初に契約書案を送付して間もない平成15年5月14日に、被告が本件キャラクターの画像データを送信している(乙3の1及び2)ことからも優に認められるところである。これらに加え、同月16日には前記のような実質的合意に至っていることからすると、この時点では、被告にとって、原告サクラとの間で実質的合意に沿った包括的商品化権許諾契約を締結することは既定路線であったといえる。そうしてみると、契約書を作成・調印するに至っていないにもかかわらず、被告が画像データの送信などをしたのは、夏物商品である半袖Tシャツ等の製造に着手するには5月では時期的に逼迫していたこと(Bは、平成15年4月29日付けの電子メール〔甲58〕に「今が夏物販売の最終段階である」と記述している。)から、できるだけ早期にデザインの承認を得て商機を逃さないようにするために(実際に、原告サクラは、同年5月17、18日頃には、同月14日にAが送信した画像データに基づいて、デザインの承認申請をしている。)、正式な契約の締結を見越して、販売準備活動を先行させておくとの配慮に基づくものであったものと考えるのが合理的である。そして、平成15年5月中旬以降、順次、被告がデザインの承認を行い、同年6月以降、カジュアル衣料専門店を中心に本件キャラクターを使用した商品が現に販売されるに至っていたという経緯についても、同様に考えられる。
 また、年間最低保証使用料を授受したとの点について見ると、当時、平成15年6月16日付けの業界新聞に、小売価格2900円のTシャツについては既に受注が10万枚に達している、と報道されていて、年間最低保証使用料が請求される前に、少なくとも2億9000万円の上代による売上げが得られることはほぼ確実であったのであり、被告に支払う使用料も1450万円となるとの予想が可能であったという状況にあったことからすると、被告が、正式な契約の締結を見越して、それ以前であっても既に原告らが商品化を行っている以上は何らかの使用料請求が可能なはずであるので、数量報告前に請求が可能な年間最低保証使用料を前倒しで請求しておく、という程度の認識であったと認めるのが相当である。また、原告サクラの認識としても、被告に対して525万円の年間最低保証使用料(税込み。以下同じ。)を支払ったとしても、その後の使用料の支払から525万円を控除すれば足り、Tシャツ以外の商品の販売も考慮すれば、過払いのリスクは全くなかったのであるから、特に「年間最低保証」としての契約上の拘束力に基づいて前記525万円を支払ったとまでは見ることはできない。
 さらに、その後に平成15年6月分と7月分の実際の販売量に基づく使用料の授受がなされたのも、上記と同様の認識に基づくものであったということができる。
 以上よりすれば、平成15年5月16日の実質的合意以後の当事者の行動は、契約の正式締結を見越して、商機を逃さないために前倒しで商品販売を行い、使用料の支払を行ったものといえ、これを法的に見れば、将来、3年間の継続的商品化権許諾契約が成立することを前提として、個別的単発的な商品化権許諾契約が個々の取引ごとに成立していたと認めるのが相当である。
(5) 争点(2)は、本件許諾契約が締結されたことを前提として、被告のした同契約解除の意思表示の効力を問題にするものであるから、同争点に対する判断は要しないことになる。
3 争点(3)(仮に本件許諾契約が未だ締結されるに至っていなかったとした場合、原告サクラとの関係で被告が契約締結上の過失又は信義則上の付随義務違反に基づく損害賠償義務を負うか否か。また、仮に同義務を負わないとしても、被告による本件許諾契約の契約締結拒絶が原告サクラに対する不法行為を構成するか否か。)について
(1) 前示のとおり、原告らの主張する本件許諾契約は、結局締結されるに至らないまま、被告がその締結を拒絶したものであるところ、同行為が、原告サクラとの関係で契約締結上の過失ないし信義則上の付随義務違反に基づく責任を被告に生じさせるか否かが問題となる。前示のとおり、原告サクラと被告間には、本件許諾契約の主要な点について口頭による実質的合意が成立していたものである。しかも、それ以降の約3か月弱の間、その実質的合意に沿う形で、現実に本件キャラクター商品が販売され、年間最低保証使用料が授受され、さらに実際販売量に応じたロイヤリティーも授受されたことが認められるのであり、これらの事実によれば、原告サクラにおいて、本件許諾契約が確実に成立することを信頼し、期待していたことは想像するに難くない。
(2) しかし、仮に被告が本件許諾契約の締結を拒絶したことをとらえ、このことが原告サクラに対する契約締結上の過失ないし信義則上の付随義務違反に基づく、又は不法行為に基づく何らかの責任を被告に生じさせるとしても、このことにより被告が負う損害賠償義務の範囲は、被告による本件許諾契約の締結拒絶行為と相当因果関係のある損害、すなわち、原則として、原告サクラが本件許諾契約が締結されるであろうと信頼し、期待したことに起因する損害に限定されるというべきである。しかし、本件において原告サクラは、上記意味での損害を主張立証せず、本件許諾契約の債務不履行に基づく損害と同様、向こう3年間にわたる得べかりし利益(営業利益ないし再許諾料相当額)相当の損害を求めているところ、債務不履行による損害賠償請求は、いうまでもなく本件許諾契約の成立を前提とするものであって、その場合、被告は同契約の効力発生後3年間にわたり本件キャラクターの使用を許諾すべき契約上の義務を負うのであるから、その不履行に対し、3年分の逸失利益相当の損害賠償を求め得ることは当然であるが、本件許諾契約がいまだ締結されないまま終わった本件においては、被告に上記契約上の使用許諾義務は発生しておらず、かつ、当然には向こう3年間にわたる営業利益等を期待し得る法的地位を取得するものではないというべきである。
(3) もっとも、契約交渉当事者の一方による契約締結拒絶が実質的に債務不履行と同視し得る場合、すなわち、契約締結拒絶当時、当該契約が実質的に締結されたと同視でき、他方当事者が契約成立を前提とした履行を期待し得る法律上正当な利益を有すると認められる場合には、契約成立を前提とした履行利益の賠償を認め得る場合があることは否定できないと解される。本件においては、前示のとおり、上記のような口頭による実質的合意が成立していた上、それ以降の約3か月弱の間、その実質的合意に沿う形で、現実に本件キャラクター商品が販売され、年間最低保証使用料が授受され、さらに実際販売量に応じたロイヤリティーも授受されていたものである。しかし、前示認定説示のとおり、本件許諾契約については、原告サクラと被告との間で契約書案が相互に交わされ、被告が原告サクラに最初に送付した乙2の1契約書案にも、第3条(1)に「この契約は、両当事者が署名した日に効力を発し、かつ、この契約の第14条によって解除されない限り、1年間効力を有する。」と明記され、効力の始期に関する条項の内容は、原告サクラが修正を加えた乙2の3契約書案及び甲2契約書案においても乙2の1契約書案のままとされていたのであるから、被告のみならず原告サクラも、それら契約書案のやりとりによって締結に向けた協議を進めている契約は、署名(調印)した日に正式に締結したことになり、成立するものとされていることを認識していたはずである。そうすると、最終的な契約条項が確定しておらず、調印の日程も決まっていなかった本件において、原告サクラは、いまだ本件許諾契約が実質的に締結されたと同視でき、契約締結を前提とした履行を期待し得る法律上正当な利益を有するに至ったと認めることはできない(実質的合意成立後に、これに沿う形で現実に本件キャラクター商品が販売され、年間最低保証使用料が授受されていた事実等が上記認定を左右しないことは前示のとおりである。)。
(4) したがって、仮に、被告が原告サクラに対し、契約締結上の過失ないし信義則上の付随義務違反に基づく、又は不法行為に基づく何らかの責任を負うとしても、原告サクラの主張する向こう3年間の得べかりし利益相当の損害賠償を求める原告サクラの請求は理由がない。
4 争点(4)(被告による本件許諾契約の解除あるいは契約締結拒絶が原告アウトバーンに対する不法行為を構成するか否か。)について
 原告アウトバーンは、被告による本件許諾契約の解除又は締結拒絶が、同原告に対する不法行為であると主張して、原告サクラと同様、もっぱら向こう3年間の逸失利益に相当する損害賠償を求めている。
 しかしながら、仮に、被告による本件許諾契約の解除(締結拒絶)が、原告アウトバーンに対する不法行為を構成するとしても、前記1の認定のとおり、原告アウトバーンは、あくまでも原告サクラが被告との間で商品化権許諾契約を締結し、商品化を許諾された場合に、再許諾される立場にある者にすぎず、原告サクラが本件許諾契約が締結されたことを前提に向こう3年間の営業上の利益を期待し得る地位にあったとはいえないことにかんがみれば、原告アウトバーンについても、同様に、向こう3年間の営業上の利益を期待し得る地位にあったと認めることはできない。
 したがって、原告アウトバーンの主張する損害は、同原告の主張する被告の不法行為と相当因果関係のある損害とはいえない。よって、不法行為の成否について判断するまでもなく、同原告の上記請求は理由がない。
第5 結論
 以上によれば、原告らの請求は、いずれも、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 高松宏之
 裁判官 西森みゆき
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