判例全文 line
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【事件名】ネット記事の見出し複製事件(2)
【年月日】平成17年10月6日
 知財高裁 平成17年(ネ)第10049号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成14年(ワ)第28035号)
 (平成17年6月9日口頭弁論終結)

判決
控訴人(原告) 株式会社読売新聞東京本社
訴訟代理人弁護士 田中克郎
同 中村勝彦
同 升本喜郎
同 根本浩
同 四宮隆史
被控訴人(被告) 有限会社デジタルアライアンス
訴訟代理人弁護士 柴田眞里
同 高本直彰


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、控訴人に対し、23万7741円及びこれに対する平成16年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
2 控訴人が当審で拡張した請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審を通じ、訴えの提起及び控訴の提起の申立て手数料のうち1万分の5を被控訴人の負担とし、その余の訴訟費用はすべて控訴人の負担とする。
4 この判決は、上記1(1)の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、被控訴人の運営する別紙1「被控訴人ホームページ目録」記載のホームページ(以下「被控訴人ホームページ」という。)上において、別紙2の「著作物目録1」記載の記事見出し(以下「YOL見出し」という。)及び別紙2の「著作物目録2」記載の記事本文(以下「YOL記事」という。)を使用してはならない。
3 被控訴人は、YOL見出しのデータを頒布してはならない。
4 被控訴人は、その所有するパソコンのハードディスク内にYOL見出し及びYOL記事のキャッシュデータを保存してはならない。
5 被控訴人は、控訴人に対し、2480万円及びこれに対する平成16年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。
7 第5項及び第6項につき仮執行宣言。
第2 事案の概要
 本判決においては、原判決と同様の意味において又はこれに準じて、「ヨミウリ・オンライン」、「ライントピックスサービス」、「被控訴人サイト」、「ヤフー」、「ヤフーサイト」、「Yahoo!ニュース」、「登録ユーザ」との略称を用いる。
1 控訴人は、原審において、次のとおりの裁判を求めた。
@ 被告(被控訴人)は、被告(被控訴人)の運営する原判決別紙1被告ホームページ目録記載のホームページ上において、原判決別紙2原告ホームページ目録記載のホームページ上に掲出される記事見出し(YOL見出し)及びこれと類似する記事見出しを複製し、使用してはならない。
A 被告(被控訴人)は、前項記載の記事見出しを掲出した原判決別紙3タグ目録記載のタグを頒布してはならない。
B 被告(被控訴人)は、原告(控訴人)に対し、6825万円及びこれに対する平成15年1月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 控訴人の原審における請求は、主位的主張として、被控訴人が被控訴人ホームページ上にYOL見出しを掲出させるなどして、控訴人が有するYOL見出しについての著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害していることを理由とし、予備的主張として、被控訴人の上記行為が不法行為を構成することを理由として、上記1@ないしBのとおり、YOL見出しの複製等の差止め及び損害賠償(YOL見出しの使用料相当金額6825万円)を求めたものである。
3 原判決は、YOL見出しは著作物であるとは認められず、著作権侵害となるとはいえないとし、さらに、被告(被控訴人)の上記行為は、不法行為を構成しないとして、原告(控訴人)の請求をいずれも棄却した。
4 そこで、控訴人は、控訴の上、前記第1記載のとおり、当審において請求を減縮、拡張、追加した。
 控訴人の当審における請求は、(α)著作権侵害(YOL見出しの複製権侵害及び公衆送信権侵害並びにYOL記事の複製権侵害〔後者は当審で追加〕)を理由とする差止請求(前記第1の2ないし4)及び損害賠償請求(使用許諾料相当額480万円)、(β)不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為〔当審で追加〕を理由とする差止請求(前記第1の2及び3)及び損害賠償請求(同上の480万円)、(γ)不法行為を理由とする差止請求(前記第1の2ないし4)及び損害賠償請求(同上の480万円のほか、無形損害1000万円、弁護士費用1000万円の合計2480万円)をするものである。
 なお、当審における前記第1の2の請求は、原審での上記@のYOL見出しに加え、YOL記事についての差止請求も追加されたものである。当審における前記第1の3の請求と原審における上記Aの請求とは、表現が改められているが、実質は同じ請求である。当審における前記第1の4の請求は、当審で追加されたものである。
 以上に対し、被控訴人は、本件控訴の棄却を求めるとともに、当審で追加された請求を棄却することを求めた。
5 事案の概要及び当事者の主張については、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」の記載(原判決別紙4の「記事見出し対照表」を含む。)を引用した上、さらに、次の「第3 当審における控訴人の主張の要点」及び「第4 当審における被控訴人の主張の要点」を付加する(当審で控訴人が主張を再構成したことなどの事情により、主張の摘示はやや詳細にした。)。
 なお、原審における原告主張中の「タグ」という言葉の用い方は厳密さを欠いており、当審において主張が改められたことに伴い、上記引用に係る原判決の原告の主張部分を次のとおり改める。すなわち、原判決10頁9〜10行に「被告ホームページ上に設けられた「タグ」と称される部分(以下「被告タグ」という。)」とあるのを、「被告ホームページ上に設けられた横長のバー状をした見出しなどの表示部分(以下「LT表示部分」という。)」と改める。また、原判決中の「被告タグ」とある記載で、10頁12行、17行、18行、22〜24行(3個のうちの2番目と3番目のもの)、26行、11頁12行、16〜17行(2個のうちの1番目のもの)、18頁7〜8行(2個のうちの1番目のもの)、20頁6行、13行及び別紙4「記事見出し対照表」の各頁最上段の項目にあるものを「LT表示部分」と改める。さらに、原判決中の「被告タグ」とある記載で、10頁21行、22〜24行(3個のうちの1番目のもの)、11頁1行、16〜17行(2個のうちの2番目のもの)、18頁7〜8行(2個のうちの2番目のもの)、20頁10行、15行及び20行にあるものを「データ」と改める。
第3 当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点及び当審で追加された主張の要点)
1 著作権侵害を理由とする請求について
(1) 報道ビジネスにおける記事見出し及び本文の商品価値
(a) 控訴人が遂行するビジネスは、報道機関として、社会で生起する事件、事象に対して、自らの人的・物的資源を投入し、取材・情報収集活動を行い、このような活動の結果得られた情報を、新聞等の媒体を通じて、一般公衆に対して、迅速かつ正確に提供することを使命とする。
 記事見出し及び本文は、いわば、こうした多大な人的・物的資源等を投入して行う報道機関としての企業の努力の集大成であり、取材・情報収集活動の最終成果物ともいうべきものである。
(b) 新聞社を含めた各報道機関は、情報の即時性、正確性、公共性及び公益性を確保するために、独自のビジネス上のルールともいうべきものを確立し、遵守してきた。
(c) 以上のような報道ビジネスの本質と、報道機関における情報の即時性、正確性、公共性及び公益性の確保の要請は、情報自体がインターネットで一般公衆に提供されたとしても、何ら変わるものではない。
(d) ライントピックスサービスは、インターネット上で公開されたYOL見出しと同一又は酷似した見出しを、情報としての鮮度(ニュースバリュー)を失わない特に商品価値の高い時期に、控訴人に無断で利用するものである。このような被控訴人の行為は、報道機関である控訴人の企業努力の最終成果物として商品価値の高いYOL見出しを、何らの対価も支払わず、かつ、最終成果物に到達するまでの人的・物的資源等の負担を全く負わず、最後の果実のみをかすめ取るもので、報道ビジネスの商慣習を全く無視する行為にほかならない。
 被控訴人の行為が適法なものとして許容されれば、今後、ライントピックスサービスと同様のビジネスが広く展開されるおそれがあり、そうなれば、報道機関そのものの存立基盤が脅かされ、報道ビジネスに与える影響は計り知れない。
(2) YOL見出しの著作権侵害(複製権侵害、公衆送信権侵害)について
(2-1) 被控訴人は、平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間(平成14年12月8日から平成16年9月30日までの間については当審で追加して主張する。)継続して、被控訴人ホームページ上において、YOL見出しを複製した記事見出し(以下、この被控訴人がライントピックスサービスにおいて作成した見出しを「LT見出し」という。そして、LT見出しをクリックすることでYahoo!ニュースに掲載された記事本文にリンクする機能の付いたものを「LTリンク見出し」と、LTリンク見出しのうち特にYOL記事へのリンクボタンの表示として用いられたものを「YOLリンク見出し」ということがある。)を表示した(被控訴人ホームページ上でLT見出しを表示している部分が「LT表示部分」である。)。上記期間中、LT表示部分に表示されたLT見出しは、いずれもYOL見出しと同一性の範囲内にあるから、YOL見出しを複製したものであることは明らかである。
(2-2) 被控訴人は、平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間(平成14年12月8日から平成16年9月30日までの間については当審で追加して主張する。)、継続して、被控訴人ホームページ上において一定の手続により登録を完了したユーザ(「登録ユーザ」)に対して、YOL見出しのデータを含むSWFファイルの再生を制御する機能を有するHTMLタグを公衆送信し、さらに、当該HTMLタグを自己のホームページ上に設置した登録ユーザ(以下「設置ユーザ」という。)に対して、YOL見出しのデータを公衆送信した。YOL見出しのデータが設置ユーザに送信されると、LT表示部分にLT見出しが表示される。上記期間中、LT表示部分に表示されたLT見出しは、いずれもYOL見出しと同一性の範囲内にある。
(2-3) 原判決の認定判断には、YOL見出しの存在意義の誤認、字数制限の過大評価、用語選択に関する誤認、判断基準と結論の齟齬という誤りがある。
(2-4) YOL見出しの著作物性
(a) 表現物の創作性を判断するに当たっては、当該表現物の表現テーマとの相関関係において、当該テーマを表現するために通常よく用いられる表現のみで構成されているか、あるいはそれ以外の何らかの作者の個性的な要素が加えられているかを検討することが不可欠と解される。
(b) YOL見出し一般についていうと、新聞紙面上では、記事見出しと記事本文を同時に閲読することも可能であるが、ヨミウリ・オンラインの場合、インターネットウェブサイトの特殊性から、ユーザは、まずヨミウリ・オンラインのトップページに列挙されているYOL見出し一覧を閲読し、興味をひいた内容の見出しのみをクリックしてYOL記事が掲出されているページを自己のブラウザソフトに表示させ、記事本文を閲読するのであって、このような2段階の行為を踏まえなければならないという意味で、YOL見出しは記事見出しに比べ独立性が高いといえる。よって、YOL見出しは、記事を読むかどうかの判断材料として、記事見出し以上に記事本文へユーザを導く特徴的な部分を有することが必要となる。そこで、YOL見出しを作成する記者(以下「編集記者」ともいう。)は、上記のような読者をひきつける効果を意識しながら細心の注意を払ってYOL見出しを作成している。
 YOL見出しを作成する場合に重視すべき点は、単に事実を表す用語を抜き出して羅列して見出しとして記載するだけではなく、記事の背後にあるニュース自体に対する控訴人の新聞社としてのスタンスや、編集記者のニュース自体に対する主観的評価、又はユーモアやいわゆるエスプリの効いた表現を盛り込ませ、当該YOL見出しを見たユーザに記事本文を読みたいと一見して思わせるような工夫を施すことにある。そして、このような工夫を施すためには、単に記事本文の内容を要約するのでは足りず、いったん記事本文から離れて、記事の背後にあるニュース自体がどのような社会的意義を有するのかを編集記者が自らの観点で評価し直し、記者として読者に何を伝えるべきか、また当該ニュースのどの点をもって読者に対してインパクトを与えていくべきかを、記者の視点、読者の視点の双方から厳しく吟味した上で、使用する用語及び記号並びに表現方法の選択をして、効果的に見出しを構成していく必要がある。
 YOL見出しは、記事の背後にある社会的事象という、幅広い対象を表現の目的にしており、その目的を25字以内という制約のある表現形式の中で、効果的かつ的確に実現しなければならないのであるから、作成するにはまさに卓越したセンス、経験、文章力及び事実の掴取力が必要とされる。
 YOL見出しでは、記事中の言葉をそのまま用いたとしても、どの言葉を引用するかという選択の工夫に加え、その使い方に創意工夫を凝らさなければならず、修飾語の選択や付加の仕方にも十分に留意する必要がある。また、これに加えて、記事中の言葉をそのまま用いたのでは、十分に果たすべき機能を実現できない場合は、記事本文中に現れない言葉、記号、使い回しをフルに活用することが必要となってくる。
 このように、YOL見出し一般についてみると、多かれ少なかれ、YOL見出しにはすべてにおいて上記のような創意工夫が施されており、そこに作成者の個性が表現されているのであるから、YOL見出し一般に著作物性が認められるべきである。
(c) YOL見出しはそのすべてに著作物性が認められるべきであるが、その中でも特に創作性の高さが顕著な見出しを以下に列挙し、それぞれについて検討を加える。
@ 「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」(平成15年10月16日付けYahoo!ニュース掲載)
 同YOL見出しは、高知医科大の基礎医学系教授が、出版元や編集者の許可を得ずに、医師のマナー本を複製し、学生に販売したことを伝える記事に付されたものである。同YOL見出しによって表現すべきことは、教育的立場にある大学教授が、自己矛盾ともいえる行動をして社会一般の信頼を失った、という事実を伝えることにある。
 同YOL見出しを作成した記者は、事実をただ記載するという方法はあえてとらず、「マナー」という言葉を一つのキーワードとして、「マナー知らず」と「マナー本」という言葉を並列的に記載して、対比させ、全体的に韻を踏んでリズミカルな表現に仕上げることで、当該大学教授の行動の「自己矛盾」を、端的に、より印象的に、インパクトをもって読者に伝えようとしたのである。このような表現方法をとることは、決して、表現テーマとの関係において通常よく用いられる方法とはいえないのであるから、この点に編集記者の個性が遺憾なく発揮されていると評価できる。
 これに対し、時事通信社が運営するニュースサイト、「時事ドットコム」では、同一の話題について、「複製本販売、教授を戒告処分=高知医大」という見出しを付して伝えており、YOL見出しに特徴的な点があることが分かる。
 このように、同YOL見出しは、表現テーマとの相関関係でとらえると、「ありふれた表現」には当たらず、創作性が認められるのであるから、著作物性が肯定されるべきである。
 そして、被控訴人は、同YOL見出しに依拠して、「マナー知らず大学教授、許可を得ずに医師のマナー本を複製し販売」というLT見出しを作成し、LT表示部分に表示させているが、同YOL見出しの創作性の本質的要素は、「マナー知らず」と「マナー本」という言葉を並列的に対比させて記載することにあり、これをデッドコピーした行為は、表現の同一性を損なわない範囲での有形的な再製であるといえ、控訴人の複製権侵害に該当するというべきである。
A 「A・Bさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」(平成15年10月23日付けYahoo!ニュース掲載)
 同YOL見出しは、一時帰国して新潟県妙高高原に滞在中の北朝鮮拉致被害者のAさんとBさんの夫婦が、足湯温泉を訪れ、旅の疲れを癒した、ということを伝える記事に付されたものである。同YOL見出しで表現すべきことは、北朝鮮の拉致被害者がこれまでの苦難を乗り越え、ようやく祖国日本で夫婦で観光ができた、という安堵した心情を伝えることにある。また、これに加えて、一連の拉致事件における緊張状態を思いやるような読者感情に配慮して、拉致被害者の幸せなひとときを伝えることで読者を安心させたい、という意図もある。
 同YOL見出しを作成した記者は、夫婦水入らずの仲睦まじい様子と、足湯をしている様子を同時に連想させるために、「アツアツ」という言葉を用いて、A夫妻のホッとした心情を、端的に、より写実的に、インパクトをもって読者に印象付けようとしている。また、全体的に韻を踏んでリズミカルな表現に仕上げ、印象度を高めている。そして、「アツアツ」という言葉が記事本文中では使われていないことにかんがみると、このような言葉を用いたこと自体がまさに同YOL見出しを作成した記者の個性の表れと評価できる。
 なお、同一の話題について、毎日新聞社が運営するニュースサイト「毎日インタラクティブ」では、「家族並んで足浴を楽しむ Aさん、Bさん」、産経新聞社が運営するニュースサイト「Sankei Web」では、「湯の街の旅情楽しむ AB」、NHKが運営するニュースサイト「NHKニュース」では、「A・Bさん家族と温泉に」、という見出しをそれぞれ付して伝えており、「アツアツ」という言葉は用いていない。このことからも、「アツアツ」という言葉を使用した点に同YOL見出しの特徴的な点があることがわかる。
 よって、同YOL見出しは、表現テーマとの相関関係でとらえると、全く「ありふれた表現」ではなく、創作性が認められるのであるから、著作物性が肯定されるべきである。
 そして、被控訴人は、同YOL見出しに依拠して、「A・Bさん、赤倉温泉でアツアツの足湯温泉 旅の疲れをいやす」というLT見出しを作成し、LT表示部分に表示させているが、YOL見出しの創作性の本質的要素は、「アツアツ」という言葉を使用している点にあるのであるから、これをデッドコピーした行為は、表現の同一性を損なわない範囲での有形的な再製であるといえ、控訴人の複製権侵害に該当するというべきである。
B 「道東サンマ漁、小型漁船こっそり大型化」(平成15年10月9日付けYahoo!ニュース掲載)
 同YOL見出しは、北海道東沖の太平洋上に出漁する道内の小型サンマ漁船60隻の大半が、漁船登録している総トン数よりも大型に違法改造されている疑いが強まり、北海道庁は近く、60隻すべてに対し漁船法に基づく立ち入り検査を行う方針を固めたことを伝えるYOL記事に付されたものである。同YOL見出しで表現すべきことは、北海道では20トン以上30トン未満の漁船にはサケマス漁の許可が下りないため、それより若干小型の11トン型、19トン型の小型漁船が、一度の水揚げ量を多くすることと、サケマス漁を行うことを同時に実現させようともくろんで、悟られないように漁船を若干大型化した、という事実である。
 同YOL見出しを作成した記者は、小型漁船が違法改造をしているという事実のみを記事本文の言葉を用いて表現するようなありふれた表現を避け、記者自身が小型漁船の違法改造行為を極めて悪質なものというより、「ずるいことをして儲けようとした」程度の印象を抱いている、ということを表現するために、記事本文に登場しない「こっそり」という言葉を用いて、「ずるさ」のニュアンスを表現している。また、記事の対象となっている19トン型の漁船を20トン以上に改造しても、客観的に見ても明らかに大型化したとは認められず、「気づかれない程度にわずかに大型化した」という実態も読み取ることができるように、この点を表現するために「こっそり」という言葉を用いたといえる。このように、「こっそり」という言葉を用いることによって、記事そのものではなく、記事の背後にある社会的事象に対する記者自身の印象を伝え、また、ユーモアのある端的な表現を用いることによって読者にインパクトを与え、小型漁船の「ずるさ」を読者に印象付けようとした意図が認められるのであり、この点に、記者の個性が表現されていると評価できる。
 また、「釧根地方ニュースダイジェスト」というウェブサイトでは、同一の話題を、「道東サンマ漁、小型船が違法改造か?」という見出しを付して伝えており、「こっそり」という言葉は用いていない。このことからも、「こっそり」という言葉を使用した点に同YOL見出しの特徴的な点があることが分かる。よって、同YOL見出しは、「ありふれた表現」とはいえず、創作性が認められるのであるから、著作物性が肯定されるべきである。
 そして、被控訴人は、同YOL見出しに依拠して、「北海道東沖サンマ漁、小型漁船をこっそり大型に違法改造」というLT見出しを作成し、LT表示部分に表示させているが、同YOL見出しの創作性の本質的要素は、「こっそり」という言葉を使用している点にあるのであるから、これをデッドコピーした行為は、表現の同一性を損なわない範囲での有形的な再製であるといえ、控訴人の複製権侵害に該当するというべきである。
C 「中央道走行車線に停車→追突など14台衝突、1人死亡」(平成15年10月16日付けYahoo!ニュース掲載)
 同YOL見出しは、中央自動車道上りの走行車線に停車していた乗用車に大型トラック2台が追突、その後方に止まった大型トラックにも別のトラックが次々に追突した、という事件を伝える記事に付されたものである。同YOL見出しによって表現すべきことは、上記追突事故の無惨さ、事故現場のリアルな状況である。
 同YOL見出しを作成した記者は、事件の実態を、的確、かつ、より写実的に表現することによって、読者に事件の実際の場面を瞬時に想像させ、追突事故の無惨さを強く印象付けようと考え、「→」という記号を用いて、「停車」していたところに「追突」して死亡事故に至ったことを印象的に表現したのである。「→」という記号が、通常の新聞記事の見出しでは用いられない記号であることにかんがみると、このような表現は、まさに記者の個性が表れている表現といえる。
 また、Japan News Networkの運営するニュースサイトでは、同一の話題について、「中央高速で14台絡む事故、1人死亡」との見出しを付して伝えており、「→」という記号は用いていない。このことからも、「→」という記号を使用した点に同YOL見出しの特徴的な点があることが分かる。よって、同YOL見出しは、「ありふれた表現」には当たらず、創作性が認められるのであるから、著作物性が肯定されるべきである。
 そして、被控訴人は、同YOL見出しを、そのままデッドコピーしてLT表示部分に表示させ、LT見出しとして使用したのであるから、被控訴人が控訴人の複製権を侵害したことは明らかである。
D 「国の史跡傷だらけ、ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」(平成15年10月30日付けYahoo!ニュース掲載)
 同YOL見出しは、貝塚や城跡など国指定の史跡のうち、少なくとも全国30数か所でずさんな管理が行われていることが、会計検査院の調べで分かったことを伝える記事に付されたものである。同YOL見出しで表現すべきことは、国指定の史跡がいかにずさんな管理をされているか、それがいかに悪質であるかを指摘し、読者に印象付ける点にある。
 同YOL見出しを作成した記者は、「傷だらけ」という言葉を用いて、その悪質性を端的に、印象的に読者に伝えようとしている。実際、「国の史跡」に、「傷だらけ」という言葉が似つかわしくないだけに、読む側にとってはインパクトがあるといえる。「傷だらけ」という言葉が記事本文中では使われていないことにかんがみると、このような言葉を用いたこと自体がまさに同YOL見出しを作成した記者の個性の表れと評価できる。よって、同YOL見出しは、表現テーマとの相関関係でとらえると、「ありふれた表現」ではなく、創作性が認められるのであるから、著作物性が肯定されるべきである。
 そして、被控訴人は、同YOL見出しに依拠して、「ずさんな管理で国の史跡傷だらけ、ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」というLT見出しを作成し、LT表示部分に表示させているが、前述のように、同YOL見出しの創作性の本質的要素は、記事の背後にある社会的事象を「傷だらけ」という言葉で表現している点にあるのであるから、これをデッドコピーした行為は、表現の同一性を損なわない範囲での有形的な再製であるといえ、控訴人の複製権侵害に該当するというべきである。
E 「『日本製インドカレー』は×…EUが原産地ルール提案」(平成15年11月6日付けYahoo!ニュース掲載)
 同YOL見出しは、世界貿易機関(WTO)の新ラウンド(多角的貿易交渉)で、欧州連合(EU)が、世界各地で販売される各種商品の名前に生産地を使う際のルールを厳しくするよう提案したことを伝える記事に付されたものである。同YOL見出しで表現すべき点は、「インドカレー」のように一般的に親しまれている呼称が、インド産でない以上、使用してはならなくなることの影響の大きさを読者に伝えることにある。
 同YOL見出しを作成した記者は、「×」という記号を用いることによって、「インドカレー」という商品名がもはや使えなくなる、という事実を、端的に、インパクトをもって読者に印象づけようとしたのである。「×」という記号が、通常新聞記事の見出しには使われない記号であること、また「×」が記事本文中には一切使われていないことにかんがみると、このような記号を用いたこと自体がまさに同YOL見出しを作成した記者の個性の表れと評価できる。よって、同YOL見出しは、表現テーマとの相関関係でとらえると、「ありふれた表現」ではなく、創作性が認められるのであるから、著作物性が肯定されるべきである。
 そして、被控訴人は、同YOL見出しを、そのままデッドコピーしてLT表示部分に表示させ、LT見出しとして使用したのであるから、被控訴人が控訴人の複製権を侵害したことは明らかである。
(d) 小括
 以上のように、YOL見出しは一般的に創作性のある言語表現として著作物性が肯定されるべきものであるが、YOL見出しを個別的に見ても、創作性の著しく高いものも存在し、少なくともそれらには著作物性が認められるのであるから、これらを複製した被控訴人の行為が、控訴人の複製権侵害に該当することは明らかである。
(2-5) YOL見出しが「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」との主張に対して
 YOL見出しは前記のように記事の背後にある社会的事象を、25字以内という制約の中で、端的に印象的に表現することが求められているものであり、誰が書いても同じ表現にならざるを得ないという性質のものではない。少なくとも、前記の個別に検討したYOL見出しについては、同様の見出しを作成した他の新聞社は見当たらないのであるから、訃報記事や人事異動記事のようなものとは一線を画して理解されなければならない。よって、YOL見出しがすべて「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」に該当するというのは、誤りである。
(2-6) YOL見出しに著作物性を認めた場合の不当性に対して
 仮に類似の記事見出しが存在したとしても、著作権(複製権)侵害が成立するためには、表現の「同一性」又は「実質的類似性」の要件のみならず、「依拠」の要件が必要であるところ、ほとんどの場合は依拠の要件を欠き、著作権侵害は問題にならないはずである。よって、YOL見出しに著作物性を認めたとしても、同一事件に関する記事見出しを控訴人に独占させる結果にはならず、不当な結論とはならない。
(3) YOL記事の複製権侵害について
(a) YOL記事は、インターネットウェブサイト上のニュース記事という特殊性はあるものの、内容と性質において、新聞紙面上の新聞記事と何ら異なるものではないから、新聞記事と同様に著作物であることは明らかである。
(b) 被控訴人は、平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間継続して、Yahoo!ニュース上に掲載されたYOL記事を自己の営業の直接の対象にして、これらから経済的な利益を得る目的で、被控訴人が使用するパソコンのブラウザソフトに表示させることによって閲覧し、同時にYOL記事のキャッシュデータを被控訴人パソコンのハードディスクに保存することによって、YOL記事を有形的に再製した。
 また、被控訴人は、平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間継続して、被控訴人ホームページ上のLT表示部分に表示されたLT見出しをクリックすれば、即座に、当該LT見出し(すなわちYOL見出し)に対応するYahoo!ニュース上に掲載されたYOL記事を閲読することが可能なシステムを構築し、YOL記事を有形的に再製した場合と実質的に見て同様の効果を生じさせた。
(c) 被控訴人は、控訴人のYOL記事の著作権侵害に関する主張が時機に後れた攻撃防御方法であると主張する。
 しかし、控訴人が一貫して問題としているのは、ライントピックスサービスに基づく被控訴人の行為であって、全く別個の行為について著作権侵害を問題にするものではない。よって、YOL記事の著作権侵害の有無についても、原審で提出された証拠類を基礎として、十分に審理可能であるから、訴訟の完結が遅延するおそれはない。
(4) 「侵害のおそれ」の存在について
 将来にわたって控訴人が作成するYOL見出し及びYOL記事に著作物性が認められるところ、被控訴人の上記行為が今後も継続されることによって、将来にわたって頻繁にYOL見出し及びYOL記事の著作権侵害が発生することは明らかである。よって、著作権法112条1項にいう「侵害するおそれ」が存在する。
(5) 著作権侵害による損害について
 被控訴人は、少なくとも平成14年10月8日から平成16年9月30日に至るまで、控訴人に無断で、YOL見出しを模倣して作成したLT見出しを、Yahoo!ニュースに掲載されたYOL記事へのリンクボタンとして(LTリンク見出しとして)設置ユーザの各ホームページに設置されたLT表示部分及び被控訴人ウェブサイトに表示した。
 YOL見出しの使用につき、控訴人から正当に許諾を受けているホットリンクの例にかんがみると、控訴人からYOL見出しの使用につき正当に許諾を受ける場合の対価が月額10万円を下らないのであるから(甲18)、控訴人が、被控訴人の上記無断利用行為によって被った損害は、少なくとも月額20万円×24か月=合計480万円を下らない(著作権法114条3項)。
(6) よって、控訴人は、被控訴人に対し、前記第1の2ないし4に記載の各行為の差止めを求めるとともに、著作権侵害による損害賠償として480万円及びこれに対する平成16年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2 不正競争防止法違反を理由とする請求について
(1) 不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為該当性
 被控訴人は、被控訴人ホームページ上のLT表示部分においてYOL見出しを模倣したLT見出しを表示するとともに、登録ユーザに対しLT表示部分を頒布している。このような被控訴人の行為は、被控訴人が、YOL見出しという控訴人の「商品」を模倣したLT見出しを被控訴人ホームページ上において譲渡若しくは貸し渡しのために展示し、さらに登録ユーザのリクエストに応じて当該ユーザらに対し譲渡する行為であって、不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に該当する。
(a) YOL見出しの「商品」該当性
 今日のように、経済的価値の多様化に伴い、取引の対象となる商品も多様化している実態等にかんがみれば、不正競争防止法2条1項3号にいう「商品」とは、有体物に限られず、無体物であっても、その経済的な価値が社会的に承認され、独立して取引の対象とされている場合には、「商品」に該当するものと考えるべきである。
 YOL見出しは、無体物ではあるが、一行ニュースとしての機能を有するものとして、まさにその経済的な価値が社会的に承認され、独立して取引の対象とされているものであって、上記「商品」に該当することは明らかである。
(b) その他の要件への該当性
 YOL見出しが上記のとおり「商品」に該当する以上、被控訴人の本件行為は、不正競争防止法2条1項3号の「不正競争行為」に該当する。
 被控訴人は、平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間継続して、被控訴人ホームページ上のLT見出しにおいて、YOL見出しをほぼそのままデッドコピーしているが、これは、まさにYOL見出しという「商品」の「形態模倣」行為である。そして、被控訴人が、上記期間中継続して、LT見出しを登録ユーザらのリクエストに応じて送信する行為は、模倣商品の譲渡というべき行為である。また、被控訴人が、上記期間中、継続して、YOL見出しが模倣されたLT見出しが被控訴人ホームページ上のLT表示部分内に表示する行為は模倣した商品を譲渡のために展示する行為に該当する。
(c) 以上から、被控訴人の行為は、不正競争防止法2条1項3号に規定する不正競争行為に該当する。
(2) 営業上の利益の侵害(不正競争防止法3条、4条)
 控訴人は、被控訴人の行為により、YOL見出しを使用許諾する機会を喪失し、使用許諾によって得べかりし利益を喪失するなど営業上の利益を侵害されている。
(3) 損害
 被控訴人によるYOL見出しの無断使用により、控訴人は、YOL見出しにつき、本来得ることができたはずの使用許諾料を逸失している。よって、控訴人には、少なくとも被控訴人がYOL見出しを無断で使用していたことが明らかな平成14年10月8日から平成16年9月30日に至るまで、合計24か月分の使用許諾料相当額の損害が生じており、これが合計480万円に上ることは前記と同様である(不正競争防止法5条3項)。
(4) 結論
 よって、控訴人は、被控訴人に対し、前記第1の2及び3に記載の各行為の差し止めを求めるとともに、不正競争防止法違反に基づく損害賠償として480万円及びこれに対する平成16年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
3 不法行為を理由とする請求について
(1) 不法行為への該当性
(a) 前記のとおり、被控訴人は、平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間継続して、被控訴人ホームページ上において、YOL見出しを複製した記事見出し(LT見出し)を表示した。また、この間、被控訴人は、登録ユーザに対して、YOL見出しのデータを含むSWFファイルの再生を制御する機能を有するHTMLタグを公衆送信し、さらに、当該HTMLタグを自己のホームページ上に設置した登録ユーザ(設置ユーザ)に対して、YOL見出しのデータを公衆送信し、設置ユーザのLT表示部分にLT見出しが表示されるようにした。
(b) 被控訴人は、YOL見出しを、その鮮度が高く最も商品価値の高い段階に、これを無断で書き写すことによって、まさに一行「ニュース」として多数のユーザの閲覧に供しているのであるから、LTリンク見出しは単なるリンクボタンなどではなく、その実態はインターネット上でのニュース配信事業にほかならない。客観的に見ても、被控訴人のライントピックスサービスは、ニュース配信事業にほかならないのであって、被控訴人は、YOL見出しの顧客誘引力を利用したニュース配信事業を行うことによって、広告料収入を得ているのである。したがって、被控訴人のライントピックスサービスが、YOLというインターネット上でのニュース配信事業を行っている控訴人の事業と競合関係にあることは明らかである。
 また、誤った報道や、不当な態様での報道が、社会に及ぼす影響は計り知れず、これにより控訴人が負うこととなる責任の重大さもまた甚大なものとなるから、控訴人は、多大なコストをかけて自社の記事本文や記事見出しの用いられ方をコントロールしている。このような控訴人の権利は、法的にも十分保護に値するのであり、被控訴人が、控訴人に無断でYOL見出しを使用してライントピックスサービスを提供していること自体、控訴人の上記権利を侵害している。
(c) 一般的に、ニュース報道において即時性が重要な意義を有することは、自明であるが、特に1分1秒を争うニュース速報においては、その鮮度が極めて高い価値を有している。被控訴人のライントピックスサービスは、特に、YOL見出しがYOLに掲載され、まだその鮮度が商品価値を失っていない間に、これをデッドコピーし、直ちにユーザの閲覧に供しているものであり、その記載内容のみならず、その鮮度にも「ただ乗り」している点において極めて違法性が高い。
 被控訴人のライントピックスサービスは、出所も明らかにしないままに、他社の報道をデッドコピーして配信するもので、正確性を誰も担保し得ないような報道を助長する一方で、自ら人的・物的資源等を投じて取材・報道活動を行っている控訴人の事業を阻害している点においても、一層違法性の高いものである。
(d) 被控訴人がYOL見出しの商品価値に「ただ乗り」し、控訴人の事業を不当に妨害している点が問題である。YOL見出しのような記事見出しは、読者は文面を一読するだけで直ちにその内容を知ることができてしまう反面、一度知ればそれで十分であり、再度同じ記事見出しにアクセスしようとするインセンティブはない。LT表示部分にLTリンク見出しが流れても、LTリンク見出しをクリックして記事本文のサイトにアクセスするユーザは、ごくわずかしかおらず、ほとんどは、流れるLTリンク見出しのみを閲覧することで満足している。ライントピックスサービスは、LTリンク見出しの配信行為のみをもって、ニュース配信の機能を果たし、サービスとして完結している。よって、ヤフーへのアクセスが自由かつ無償とされていることや、控訴人がヤフーにYOL見出し等の使用を許諾していることは、ライントピックスサービスの適法性を裏付けるものではない。控訴人がヤフーに対して使用許諾しているのは、あくまでも、一般ユーザの私的利用目的での閲覧の用に供する限度においてであって、ヤフーもまた一般ユーザに対し、コンテンツ提供者たる控訴人の上記許諾の範囲を超えた利用を禁止しているのであるから、ライントピックスサービスのように、事業として、大量のユーザに対し、LTリンク見出しを配信する行為は、控訴人及びヤフーの許諾の範囲外であることは明らかである。
(2) 損害
 被控訴人のライントピックス事業は、控訴人に無断でYOL見出しを模倣し、その価値に「ただ乗り」するものであって、控訴人事業を不当に妨害するものであり、これにより、控訴人には、少なくとも以下の損害が生じている。
(a) 被控訴人によるYOL見出しの無断使用により、控訴人は、YOL見出しにつき、本来得ることができたはずの使用許諾料を逸失している。よって、控訴人には、少なくとも被控訴人がYOL見出しを無断で使用していたことが明らかである、平成14年10月8日から平成16年9月30日に至るまで、合計24か月分の使用許諾料相当額の損害が生じており、これが合計480万円に上ることは前記と同様である。
(b) 被控訴人が、YOL見出しを模倣して作成したLTリンク見出しを無償で不特定多数の設置ユーザの元において掲出させることによって、ホットリンク、イーヘッドライン、ヤフーといった、控訴人から有料でYOL記事へのリンク機能を有するYOL見出しの使用許諾を受けている各社に対し、あたかもYOLリンク見出しには財産的価値がなく、又は対価を支払って使用許諾を受けるような性質のものではないとの誤った印象を与えており、結果として、有償でYOLリンク見出しの使用を許諾している取引先各社の控訴人に対する社会的信用及び信頼が毀損されている。
 さらに、被控訴人は、どのような者が、いかなる内容のホームページにおいて、いかなる体裁でLT表示部分を設置するのかを全く問題にすることなく、ユーザからの要望があれば誰にでもライントピックスサービスを無償で提供している。このため、Yahoo!ニュース上のYOL記事にリンクしているLTリンク見出しが、「霊界ニュース」などとして流され、あたかも「霊界ニュース」に控訴人がYOL見出しを配信しているかのような外観が作出されることによって、控訴人の社会的信用や、報道機関としての公平性、中立性に関する評価が著しく毀損されている。
 このように、控訴人は、被控訴人のライントピックス事業により、無形的損害を被っているが、その損害は金銭に換算すると、1000万円を下らない。
(c) 控訴人は、被控訴人に対し、YOL見出しの無断使用の停止を求めたにもかかわらずこれを拒否されたため、弁護士に委任して本訴を提起することを余儀なくされた。したがって、弁護士費用として、少なくとも1000万円は、被控訴人のライントピックス事業に伴い発生した損害として、被控訴人の負担とするのが相当である。
(d) 控訴人は、被控訴人の不法行為により、合計2480万円の損害を被っている。
(3) よって、控訴人は、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として2480万円及びこれに対する平成16年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めるとともに、不法行為に基づく差止請求として前記第1の2ないし4に記載の各行為の差止めを求める。
第4 当審における被控訴人の主張の要点
1 著作権侵害を理由とする請求に対して
(1) YOL見出しの著作権侵害(複製権侵害、公衆送信権侵害)に対して
(1-1) YOL見出し全般についての著作物性の有無
(a) ありふれた表現であり著作物性が否定される。
 本訴において、控訴人は、計365個のYOL見出しを掲げて著作物性がある旨主張しているが、すべてについて著作物性は認められない。
 YOL見出しは、著作権法による保護に値しない創作性のない「ありふれた表現」であり、「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」として著作物性が否定されるべきである。
 世の中のすべての事象から素材を選び、そこに作者の思いの丈を一定の約束事の下に表現する俳句が著作物性を一般的に肯定されるのとは趣を異にする。
(b) 題号であり著作物性が否定される。
 YOL見出しは、YOL記事との関係では、記事の表題であり、題号に当たるが、そもそも、題号について著作物性は否定されるべきである。
 また、題号に特徴のあるものが存在するとしても、人目を引くためのアイデアの発現と考えるべきであり、表現の創作性そのものとは無関係と考えるべきである。
(1-2) YOL見出しの個別的な著作物性の有無
@ 「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」について
 「大学教授、マナー本の海賊版作り販売」の部分は事実関係そのものの記載であり、「マナー知らず」という部分は、マナーという語句を掛け合わせた語呂合わせであるが、記事見出しにおいて駄洒落や語呂合わせが行われることは一般に使われる手法として衆知のものとなっており、編集記者でなくとも標準的な成人日本人程度の日本語力がある者であれば、記事内容と日本語の語呂などにより思いつくレベルのものである。したがって、ありふれた表現といえ、創作性は認められない。
 また、本件記事見出しのごとく字数が極めて少なく、時事報道という性格上表現の幅が狭いことを考えると、表現の同一性は厳格に解すべきであり、本件YOL見出しと被控訴人リンク見出し程度の類似性では、複製権侵害は否定されるべきである。
A 「A・Bさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」について
 「A・Bさんが赤倉温泉で足湯体験」というのは事実関係そのものの記載にすぎない。また、「アツアツ」の部分は、「お湯が熱い」「2人の仲が熱い」ということを掛けた形容詞であるが、この種の掛け合わせは一般に使われる手法であり、編集記者でなくとも標準的な成人日本人程度の日本語力がある者であれば、記事内容と日本語の語呂などにより思いつくレベルのものである。したがって、ありふれた表現といえ、創作性は認められない。
 また、本件YOL見出しと被控訴人リンク見出し程度の類似性では、複製権侵害は否定されるべきであることは@と同様である。
B 「道東サンマ漁、小型漁船こっそり大型化」について
 見出しのうち、「道東サンマ漁、小型漁船…大型化」というのは事実関係そのものの記載にすぎない。そして、「こっそり」というのは記事本文で「無断で違法改造されていること」の言い換えであるが、この程度の言い換えは一般人であっても充分思いつく範囲である。
 「こっそり」という形容詞を客観的に見ると「無断で内密に」という記事内容を表すにすぎず、「こっそり大型化」という表現自体を観察しても、「ずるさ」などの意味は読み取れず、「無断で内密に大型化した」こと以上に作者の「意図」が表れているとはいえない。表現の創作性は、表現者の意図ではなく、完成された表現自体を客観的に観察して判断されるべきであるから、当該記事見出しに創作性を認めることはできない。
 また、本件YOL見出しと被控訴人リンク見出し程度の類似性では、複製権侵害は否定されるべきであることは@と同様である。
C 「中央道走行車線に停車→追突など14台衝突、1人死亡」について
 記事見出しのうち、「→」以外の部分はすべて事実関係そのものを表した表現にすぎない。そこで、「→」が問題となるが、現代における日本語表記、特に記号が多く用いられるパソコンソフトを使用しての日本語表記や携帯電話のメールにおける表記などにおいて、物事の流れを示すものとして「→」は一般によく使われる表現であり、ありふれているから創作性は認められない。また、控訴人は、他のYOL見出しにおいても、物事の流れを示す場合に「→」を使用しているが(甲1の21)、これはかぎ括弧等の使い方と同様、流れを表したり「〜し」という表現の代わりに「→」を使用するという作成方法ないしはアイデアそのものであって、表現の創作性とはいえない。しかも、時事報道の見出し中に、「→」が使用されていることは、少なくともインターネット記事の世界ではありふれており、創作性は認められない。
D 「国の史跡傷だらけ、ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」について
 見出しのうち、「国の史跡」「ゴミ捨て場やミニゴルフ場」「検査院」というのは、いずれも記事本文中の単語を並べたものであり、「…」はヨミウリ・オンラインにおいて、場所や部署を表現する際に一般に使用されているものであり、創作性とは無縁の部分である。
 「傷だらけ」という表現自体は、記事本文中にはないが、史跡が原状変更されていることを表す形容詞であり、上記見出しの記事本文の「土地や遺構に傷を付ける」との点から「傷だらけ」という表現は充分想起され得るものであり、ありふれた表現といえ、創作性を認めることはできない。
 また、本件YOL見出しと被控訴人リンク見出し程度の類似性では、複製権侵害は否定されるべきであることは@と同様である。
E 「『日本製インドカレー』は×…EUが原産地ルール提案」について
 当該見出しは、「日本製インドカレー」というのは駄目である、という原産地ルール提案をEUが行ったという事実そのものが記載されたものである。
 そして、「×」の記号は、新聞記事であってもスポーツ新聞などを中心に使われることもあるし、少なくとも、現代における日本語表記、特に記号が多く用いられるパソコンソフトを使用しての日本語表記や携帯電話のメールにおける表記などにおいて、「よくないこと」「駄目であること」を表すものとしては一般によく使われる表現で、インターネット記事の世界ではありふれているものであり、しかも、「よくないこと」「駄目であること」を表す代わりに「×」を使用するというアイデアそのものの発現であって、表現の創作性とはいえないものである。
(1-3) YOL見出しに著作物性を認めた場合の不当性
 YOL見出しに著作物性を認めることについては、国民の基本的人権たる表現の自由の観点から極めて大きな弊害があり、容認できないものである。
 一般市民は、控訴人のようなマスコミに接することにより世の中での事象を知るのであるから、一般市民の時事報道に関する表現はほとんどマスコミに依拠せざるを得ない。このような状況の下で、「記事見出し」に著作物性を肯定し、各マスコミにその著作権を肯定したならば、マスコミ以外の一般市民は表現方法を失うことになる。結局、一部のマスコミだけが表現や情報を独占する不当な事態を招く。
 インターネットの普及により、一般市民が見出し的に事実を表現する場面は確実に増加している。マスコミに著作権を認めれば、一般市民はマスコミ側の権利主張を恐れ、結果として表現の萎縮効果を生じることになりかねない。
(1-4) 控訴人の包括的承諾
 控訴人は、ニュース記事に対するリンクを自由とするYahoo!ニュースに対し、それを承知の上でニュース記事を提供しているのであるから、「リンク見出し」を表示して行うリンクについては、包括的に承諾したということができる。
(1-5) リンク行為と複製権侵害
 そもそも、リンクは、リンク先を指し示すものであり、単なる参照にすぎない。したがって、リンクを張る場合に、リンク先のページの名称を記載する通常の方法でリンクを張った場合には、そもそも著作権侵害の問題は生じないと解すべきである。
(2) YOL記事の複製権侵害に対して
(2-1) YOL記事自体の著作権侵害をいう控訴人の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
 控訴人は、本訴において、平成14年12月25日の訴訟提起以降、著作権法上の保護を求める対象として、「YOL見出し」であると明言し、訴訟はそれを前提に進行してきた。YOL記事自体の著作権侵害の主張は、原審段階で容易に提出可能なものであった。
 著作権に基づく訴訟においては、まず対象となる著作物を確定した上で、著作物性があるか、誰が著作権者であるか等の要件について攻撃防御が繰り広げられるのである。そして、追加主張された計365個のYOL記事本文は、そもそも、訃報や株価に関する記事など、記事本文についても創作性を有しないものが相当数含まれているが、すべての記事が時事の報道記事であるために、個々の記事について、創作性の有無を慎重に検討する必要がある。また、YOL記事には、控訴人作成にかかるもののほかに、訴外株式会社読売新聞大阪本社及び訴外株式会社読売新聞西部本社が作成したと思われるものが相当数混在しているので、すべての記事本文について、著作権の主体を個別に判断しなければならない。したがって、当該追加主張により、訴訟の完結を遅延させることは明らかである。
(2-2) Yahoo!ニュースの記事ページを閲覧し、そのキャッシュデータがパソコンのハードディスクに保存されるからといって、記事の複製権侵害を構成するということはできない。
(a) 「キャッシュ」はウェブページ閲覧の速度を上げるなど、閲覧の便宜を図るためブラウザソフト全般に技術的、システム的に構築されたものであり、ユーザが無意識のうちに、経路上のシステムによって、必然的に形成されるものであって、キャッシュデータ自体、ウェブページ閲覧の目的以外には使用されない。そして、当該ウェブページが閲覧されなくなれば、比較的短期間のうちに、ユーザの意識しないところで機械的に消去される。このようなキャッシュデータの蓄積から消去に至るまでの過程は、ユーザが一度も意識することなく、閲覧という目的のためだけにブラウザソフトが機械的に行うものであり、著作権法上の「複製」概念とは全く異なるものであって、「複製」には当たらないと解すべきである。
(b) 仮に、端末パソコンにおけるキャッシュデータのハードディスク内保存が、「複製」に該当すると解されるとしても、当該複製は、私的使用のための複製に該当し、許容されるべきである。
(c) 著作物をインターネット上で公開する場合、権利者は、これを黙示的、包括的に承諾しており、控訴人も同様の承諾をしているというべきである。
(d) 以上のように、ブラウザソフトによるキャッシュデータの保存行為について、「複製」に当たることを否定し、又は私的使用行為や黙示の包括的承諾があると理解することは、誰もがキャッシュデータの保存機能を有するブラウザソフトを用いてウェブページを閲覧している現状にも合致するものである。
(2-3) リンク行為をするウェブページでは、リンク先ページの所在を示しているにすぎず、リンク先ページの有形的な再製行為は一切行っていないから、被控訴人がYahoo!ニュース上のYOL記事へリンクする行為は、複製権侵害には当たらないと解すべきである。
(3) 著作権侵害による損害に対して
 本件においては、控訴人の損害がホットリンクに対する使用許諾料の2倍であるとの事情はない。むしろ、控訴人が、ホットリンクに対し、65個のYOL見出しを月額10万円で利用することを許諾していることと比較すると、1日当たり7個のYOL見出しを表示しているライントピックスサービスについては、月額当たり1万0769円を上回る損害はあり得ないと解すべきである。
(4) 差止請求に対して
 控訴人の差止請求は、民訴法135条の定める将来の給付の訴えの要件を満たさない。
 仮に、ごく一部のYOL見出しに著作物性が認められた場合でも、今後、YOL見出しが著作物性を備える蓋然性は低いから、差止請求は否定されるべきである。
2 不正競争防止法違反を理由とする請求に対して
(1) 不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為該当性について
(a) 不正競争防止法2条1項3号は「商品の形態」を保護の対象としているところ、商品の「形態」とは、実際に市場に出された商品が有する形状、模様、色彩、光沢等及びこれらの結合したものを包括的に示すものであるから、同号における「商品」は有体物に限られ、無体物は保護されないと解すべきである。
 本件において、控訴人が保護の対象として主張するYOL見出しは、無体物であることが明らかであり、同号による保護の対象外である。
(b) 本件で控訴人が保護を求めているのは、「商品の形態」ではない。
(2) 損害論について
 著作権侵害を理由とする請求について主張したところ(前記1(3))と同じである。
3 不法行為を理由とする請求に対して
(1) 不法行為への該当性
 従来の裁判例によっても、著作権法違反や不正競争防止法違反とならない行為が民法上の不法行為を構成するというためには、先行者が作成した商品その他を、後発者が完全に模倣して作成し、先行者の顧客を奪うといった結果が生じたということが必要であり、本件はこのような事案とは全く異なるものである。
(a) YOL見出しは利用自由な情報である。
 YOL見出しは、創作性の認められない時事に関する情報であり、既にインターネットを通じて無料で公開されているものである。いかに重要な情報であろうと、いったん公共に伝達された以上、その事実自体は全ての人の共有する情報となるのであり、その情報を発信したマスコミであってもこれを独占することはできない。
 そうであれば、被控訴人が、ライントピックスサービスにおいてリンクボタンとして使用している(うちの一部の)YOL見出しは、控訴人自身がインターネット上で無償で公開した情報であるから、いずれも誰もが利用可能な情報にすぎない。個々のインターネットユーザが自らヤフーのページの記事見出しを一日数個ずつ表示して記事にリンクをする行為は、記事見出しの著作物性が認められない以上、何ら問題のない行為である。被控訴人の行為は、このような個々のユーザの日々のリンク更新を代行しているだけであって、何ら違法性のあるものではない。
(b) 被控訴人は不正に自らの利益を図る目的を有しない。
 被控訴人は、インターネットのリンクという特質を発揮して草の根的に情報を共有していくことが望ましいとの思いの下、ライントピックスサービスを開始しているのであり、自らの利益を図る目的を有してはいない。広告料収入にしても、最低限の維持費をまかなうためにわずかな額を得ているだけであって、維持作業の負担等を考慮すると、むしろ持ち出しといえるぐらいである。
(c) 被控訴人には控訴人に損害を与える目的がない。
 被控訴人は、Yahoo!ニュースの情報記事の中から、被控訴人担当者の基準で興味の持てる情報を選び出し、情報提供元を意識することなくリンク見出しの更新を行っているのであり、控訴人に損害を与える目的は全くない。
 しかも、被控訴人は、サービス開始に当たり、リンク先をフリーとするYahoo!ニュース掲載の情報記事とし、ヤフーに対してもリンク方法を照会した上で、情報記事のタイトルである記事見出しを表示してのリンクを行った。このことからも、被控訴人が何者にも損害を与える目的を有しなかったことは明らかである。
(d) 控訴人には損害がない。
 仮に、ライントピックスサービスが存在しなかったとしても、個々のユーザがYahoo!ニュースのYOL見出しにリンクを張る行為は、控訴人の許可を得ることも対価を払うことも必要のない自由な行為である。そして、ライントピックスサービスがなかったとしても、控訴人自身がYOL記事とYahoo!ニュースを併存させている以上、YOL記事へのページビューが増加するという関係もないのであるから、被控訴人の行為により控訴人には何ら損害が生じていないといえる。
(e) 控訴人と被控訴人は競業関係にない。
 控訴人と被控訴人は、同業者として競業関係にないことはもちろん、控訴人は被控訴人がユーザに提供しているライントピックスと同様のウェブページに貼り付けて使用するツールを販売・提供していないのであるから、両者には競業関係がない。また、被控訴人がリンクを張り、利用したと主張されているYOL見出しは、著作物性を備えない情報であるYOL見出しのわずか約4%にすぎず、控訴人の広告事業との間でも競合関係にあるということはできない。
(f) 控訴人のビジネスが先行したという事実がない。
 インターネットユーザがウェブページ上でニュース記事へのリンクを行えるライントピックスのようなシステムは、被控訴人が考案したものであって、本件では、他者が先行したビジネスにフリーライドするという関係がなく、そもそも不法行為は成立しない。
(g) 被控訴人の行為は、フリーライドではなく独自のサービスを提供するものである。
 ライントピックスサービスは、そのシンプルかつ優れたデザイン性、ユーザの好みや開設するウェブページの雰囲気・色遣いに合わせた設置ができるよう、カスタマイズ機能を有しているなどの優れた機能性、ウェブページ上の好きな場所に設置もできるなどの利便性、自分のホームページの宣伝に役立つエクスチェンジ機能を有しているアクセスアップ効果など、被控訴人が独自のアイデアで作り上げたオリジナリティあふれるサービスであって、そのような優れたサービスであるからこそ多数のユーザの支持を受けて設置者数を増やしているのである。したがって、ニュース記事のブランド力に頼ったフリーライドの行為とはいえないし、過去に不法行為が認められた裁判例とも全く異なる事案である。 
(h) 被控訴人の行為は控訴人の信用毀損とならない。
 ライントピックスサービスは、単にYahoo!ニュースの記事に対するリンクを張っているものにすぎないから、ライントピックスサービスの利用者いかんによって、控訴人の信用が毀損されるなどということはない。
(i) 控訴人の包括的承諾がある。
 前述したように、控訴人は、ニュース記事に対するリンクを自由とするYahoo!ニュースに対し、それを承知の上でニュース記事を提供しているのであるから、「リンク見出し」を表示して行うリンクについては、包括的に承諾したということができる。よって、不法行為は成立しない。
(j) 単なるリンク行為として違法性がない。
 そもそも、リンクは、リンク先を指し示すものであり、単なる参照にすぎない。したがって、リンクを張る場合に、リンク先のページの名称を記載する通常の方法でリンクを張った場合には、そもそも違法性の問題は生じないと解すべきである。ニュース記事の場合でいえば、「記事見出し」はリンク先のニュース記事の名称に当たるから、これを表示してリンクボタンとすることは、何ら不法行為法上の違法に当たらない。
(k) 小括
 被控訴人は、ライントピックスサービス開始前から、一般市民の手による草の根情報共有ということをインターネットの世界の理想としてきたが、近時、急速にリンクとコメントを通じて相互コミュニケーションが可能なブログ(ウェブログ)や、見出し配信を行うRSS(RDF Site Summary)といった技術、ソフトが広がり、RSSにより見出しを無料配信する既存報道機関も次々と現れている。
 控訴人は、インターネットを介してYOL見出しだけを一つの「商品」として活用する「新聞社としての将来を掛けた控訴人の新たな事業」などと述べるが、時代の流れは、むしろ被控訴人の主張のごとく、「見出し」をインターネットユーザ全体が共有する方向に向かっているのであって、控訴人の本件のような主張が無意味と化す日も近い。
 また、控訴人は、ライントピックスサービスが違法でないとすれば、ニュース記事の配信を有料とせざるを得ないが、それでは国民の知る権利に答えられないなどと述べるが、国民の知る権利とニュース記事の有料配信とは全く矛盾しない。
 インターネットは、情報が網の目のように張り巡らされた世界であり、すべてのページはつながっている。ライントピックス上にYOLリンク見出しが流れている場合、これをクリックすれば控訴人を情報提供元とするYahoo!ニュースの記事本文につながり、それは結局控訴人のヨミウリ・オンラインにもつながっている。そして、ライントピックスのユーザの多くがいわゆる一般市民やエンドユーザであることからすれば、被控訴人もまた一般市民の知る権利の一翼を担っているとさえいえる。控訴人のように国民の知る権利を盾に取り、インターネットの有用性と特質を自らのエゴでねじ曲げるような事態が決して許されてはならない。
 以上からすれば、被控訴人の行為が違法でなく、何ら不法行為に該当しないことは明らかである。
(2) 不法行為に基づく差止請求について
 相手方の不法行為を理由に物の製造、販売及び頒布を差し止める請求は、特別にこれを認める法律上の規定の存しない限り、不法行為により侵害された権利が排他性のある支配的権利である場合にのみ許されるのであって、不法行為による被侵害利益が、取引社会において法的に保護されるべき営業活動にとどまるときは、相手方の不法行為を理由に物の製造、販売及び頒布を差し止める請求をすることはできないと解される。
 特に、YOL見出しに著作物性がなく、しかも、将来においても著作物性を備える蓋然性がなく、差止請求の要件を欠くものであって、排他性の認められなかった言語の表現物に関する営業利益について、不法行為に基づく差止請求が認められないのは当然である。
(3) 損害論について
(a) 著作権侵害を理由とする請求について主張したところ(前記1(3))と同じである。
(b) 控訴人が無形的損害として主張する「甚大な無形的損害」が何を指すのか意味不明であるし、算定根拠も全く不明確であり、到底認められない。
(c) 控訴人の求める損害賠償請求額と比較して、1000万円の弁護士費用はあまりにも過大である。また、被控訴人は、本件訴訟以前の段階において、控訴人からYOL見出しの無断使用停止を求められた事実はないから、被控訴人の拒否により弁護士に委任して本訴を提起したとの主張事実自体が誤りである。
第5 当裁判所の判断
1 著作権侵害を理由とする請求に関する主張のうち、YOL見出しの著作権侵害(複製権侵害、公衆送信権侵害)をいう主張について
(1) 控訴人は、被控訴人によるYOL見出しの著作権侵害行為があった期間につき、平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間を主張するものであるところ、平成14年12月8日から平成16年9月30日までの間については当審で追加されたものである。
 そして、原判決別紙4「記事見出し対照表」に記載のとおり、平成14年10月8日から同年12月7日までの期間における365個のYOL見出しについては、具体的に主張立証されているものの、上記追加された期間のものについては、具体的なYOL見出しについての主張立証はなく、YOL見出し一般に著作物性があるとする主張に含まれているものと解される。
(2) 一般に、ニュース報道における記事見出しは、報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか、使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して、表現の選択の幅は広いとはいい難く、創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。
 しかし、ニュース報道における記事見出しであるからといって、直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく、その表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないではないのであって、結局は、各記事見出しの表現を個別具体的に検討して、創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。
 そして、甲1(各枝番号のものを含む)によれば、上記365個のYOL見出しは、いずれも事件、事故等の社会的出来事、あるいは政治的・経済的出来事等を報道するニュース記事に付されたインターネットウェブサイト上の記事見出しであり、後記のような若干の特殊性はあるものの、以上説示の点は、本件YOL見出しにも基本的に当てはまるものである。
 そこで、まず、原審以来争われている平成14年10月8日から同年12月7日までの期間における365個のYOL見出しの著作物性の有無について、個別具体的に検討していくこととする。
(2-1) 当裁判所も、控訴人が主張する具体的なYOL見出しについては、いずれも創作性を認めることができないものと判断する。その理由は、次の(2-2)、(2-3)の説示を付加するほか、原判決22頁3行から27頁21行までのとおりであるから、これを引用する。
(2-2) 控訴人が当審で個別具体的に取り上げて著作物性があることを主張した6個のYOL見出しの創作性について、判断する(原判決が具体的に判断を示している@、Aについては、判断を付加するものである。)。
@ 「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」(平成15年10月16日付けYahoo!ニュース掲載)とのYOL見出しについて(甲1の35の1、2)
 上記YOL見出しの創作性については、原判決が検討し、創作性を否定しているところ、その認定判断(上記引用に係る部分のうち23頁23行〜24頁14行)は、相当として是認し得るものである。
 控訴人は、事実をただ記載するのではなく、「マナー」という言葉をキーワードとして、「マナー知らず」と「マナー本」という言葉を並記して対比させ、リズミカルな表現にすることで、当該大学教授の行動を端的、かつ、印象的に読者に伝えようとしたものであるとして、この点に編集記者の個性が発揮されていると主張する。
 しかしながら、上記のような対句的な表現は一般に用いられる表現であって、上記YOL見出しは、ありふれた表現の域を出ないのであり、著作物として保護されるような創作性があるとは到底いうことができない。なお、同じ話題について、時事通信社が「マナー」という表現をしなかったからといって、直ちに、上記YOL見出しの表現が創作性を有するものと断ずることはできない。
 控訴人の主張は、採用することができない。
A 「A・Bさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」(平成15年10月23日付けYahoo!ニュース掲載)とのYOL見出しについて(甲1の71の1、2)
 上記YOL見出しの創作性についても、原判決が検討し、創作性を否定しているところ、その認定判断(上記引用に係る部分のうち26頁24行〜27頁17行)は、相当として是認し得るものである。
 控訴人は、夫婦の仲睦まじい様子と、足湯の様子を同時に連想させるために、記事本文中にはない「アツアツ」という言葉を用いて、A夫妻の心情を端的に、かつ、写実的に、読者に印象付け、また、リズミカルな表現に仕上げて印象度を高めているなどとして、作成した記者の個性が表れていると主張する。
 しかしながら、上記YOL見出しの「A・Bさん、赤倉温泉で足湯体験」という部分は、客観的な事実関係をそのまま記載したもので、表現上、特段の工夫もみられない上、「アツアツ」との表現も普通に用いられる極めて凡俗な表現にすぎない。そして、「アツアツ」という一つの言葉から、仲睦まじい様子と湯に足を浸している様子の双方が連想されるとしても、そのような表現も通常用いられるありふれたものであるといわざるを得ない。YOL見出しを書いた記者に控訴人主張のような意図ないし狙いがあったとしても、見出しの表現として表れたものが上記のように判断される以上、上記YOL見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。なお、同じ話題について、毎日新聞社、産経新聞社、NHKが「アツアツ」という言葉を使用しなかったのは、その言葉を選択しなかっただけのことであり、上記YOL見出しの表現が創作性を有すると評価すべき根拠とはならない。
B 「道東サンマ漁、小型漁船こっそり大型化」(平成15年10月9日付けYahoo!ニュース掲載)とのYOL見出しについて(甲1の9の1、2)
 上記YOL見出しに対応するYOL記事は、甲1の9の2に記載されたとおりであり、北海道東沖の太平洋上に出漁する道内の小型サンマ漁船60隻の大半が、漁船登録している総トン数よりも大型に違法改造されている疑いが強まり、北海道庁は近く、60隻すべてに対し漁船法に基づく立ち入り検査を行う方針を固めたなどという事実を報じるものである。
 上記YOL見出しの「道東サンマ漁、小型漁船大型化」という部分は、客観的な事実関係をそのまま記載したもので、表現上、特段の工夫もみられない上、「こっそり」との表現も普通に用いられる表現にすぎない。「こっそり」との表現がYOL記事本文中にないとしても、公的機関に届けずに(登録変更せずに)改造したことのニュアンスを一言で表そうとしたものでそれなりの工夫の跡はうかがえるが、通常想起される程度のものにすぎない。
 控訴人は、前掲のとおり、記事本文に登場しない「こっそり」という言葉を用いて、「ずるさ」のニュアンスを表現し、また、「気づかれない程度にわずかに大型化した」という点をも表現しているのであり、記事の背後にある社会的事象に対する記者自身の印象を伝え、また、ユーモアのある端的な表現を用いることによって読者にインパクトを与え、小型漁船の「ずるさ」を読者に印象付けようとした意図が認められるので、この点に、記者の個性が表現されていると評価できるなどと主張する。
 しかし、記者が上記の印象を抱き、それを記事見出しを通じて読者に伝えようと意図したものであるとしても、そのこと自体は、アイデアの域を出ないものであって、見出しの表現として表れたものが「こっそり」というもので、上記のように判断される以上、上記YOL見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。なお、同じ話題について、釧根地方ニュースダイジェストが「こっそり」という言葉を使用しなかったからといって、直ちに、上記YOL見出しの表現が創作性を有するものと判断すべきことにはならない。
C 「中央道走行車線に停車→追突など14台衝突、1人死亡」(平成15年10月16日付けYahoo!ニュース掲載)とのYOL見出しについて(甲1の27の1、2)
 上記YOL見出しに対応するYOL記事は、甲1の27の2に記載されたとおりであり、中央自動車道の走行車線に停車していた乗用車に大型トラック2台が追突し、その後方に止まった大型トラックにも別のトラックが次々に追突するなど計14台が関係する多重衝突事故となり、1人が死亡、8人がけがをしたなどという事実を報じるものである。
 上記YOL見出しの「中央道走行車線に停車」、「追突など14台衝突、1人死亡」という部分は、客観的な事実関係をそのまま羅列して記載したもので、表現上、特段の工夫もみられない。そして、見出し前半部分と後半部分との間に「→」と矢印の記号が用いられているが、インターネットウェブサイト上の記事見出しにおいては、上記YOL見出しの以前から、記事見出しの中に「=」、「−」、「…」などの各種記号を用いてする表現は、広く多用されているものと認められ(甲1の1の2、同2の2、3の2、5の2など多数の実例がある。なお、控訴人の記事見出しではあるが、甲1の21の2でも「→」が使用されている。)、「→」という記号を用いたことも、上記各種記号を用いることの域を出ないのであって(控訴人のメディア戦略局編集部の担当者も「→」、「−」、「…」の記号を同列に認識している(甲15)。)、特段の創作性が認められるわけではない。
 控訴人は、記者が読者に事件の実際の場面を瞬時に想像させ、追突事故の無惨さを強く印象付けようと考えたというが、仮にそうであるとしても、そのこと自体は、アイデアの範囲内のものにすぎず、また、「→」という記号を用いて印象的に表現したとも主張するが、必ずしも首肯し得るものではない。
 よって、上記YOL見出しを分析的にみても、全体としてみても、著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。なお、同じ話題について、Japan News Networkが「→」の記号を使用しなかったからといって、直ちに、上記YOL見出しの表現が創作性を有するものと判断すべきことにはならない。
D 「国の史跡傷だらけ、ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」(平成15年10月30日付けYahoo!ニュース掲載)(甲1の117の1、2)
 上記YOL見出しに対応するYOL記事は、甲1の117の2に記載されたとおりであり、貝塚や城跡など国指定の史跡のうち、少なくとも全国30数か所でずさんな管理が行われ、ゴミ捨て場やミニゴルフ場になっていたり、フェンスや児童遊具が設置されていたケースもあったことが、会計検査院の調べで分かったことなどの事実を報じるものである。
 上記YOL見出しの「国の史跡」、「ゴミ捨て場やミニゴルフ場…検査院」という部分は、記事中に存在する名詞を羅列しただけのもので、表現上、特段の工夫もみられない。また、「傷だらけ」との表現も、それ自体が一般的に用いられる表現である上、上記記事が伝えようとする事実からそれほどの困難もなく想起し得るものであって、格別の創作性を見いだすことはできない。
 控訴人は、記者が、「傷だらけ」という言葉を用いて、その悪質性を端的に、印象的に読者に伝えようとしており、「国の史跡」に「傷だらけ」という言葉が似つかわしくないだけに、読む側にとってはインパクトがあり、「傷だらけ」という言葉が記事本文中では使われていないことにかんがみると、記者の個性の表れと評価できると主張する。
 しかし、記者の上記意図はアイデアの域を出ないものであり、「国の史跡」に対して「傷だらけ」との言葉を用いることも、格別に創作性のある表現であるとまでいうことはできず、記事が伝えようとする事実からそれほどの困難もなく想起し得るものであることも上記のとおりである。よって、上記YOL見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。
E 「『日本製インドカレー』は×…EUが原産地ルール提案」(平成15年11月6日付けYahoo!ニュース掲載)(甲1の146の1、2)
 上記YOL見出しに対応するYOL記事は、甲1の146の2に記載されたとおりであり、世界貿易機関(WTO)の新ラウンド(多角的貿易交渉)で、欧州連合(EU)が、世界各地で販売される各種商品の名前に生産地を使う際のルールを厳しくするよう提案したこと、これが実現すれば、インドで実際に作ったカレーでなければインドカレーといった商品名を付けられなくなることなどの事実を報じるものである。
 上記YOL見出しの「日本製インドカレー」、「EUが原産地ルール提案」という部分は、客観的な事実関係をそのまま羅列して記載したもので、表現上、特段の工夫もみられない。そして、「『日本製インドカレー』は×」というように「×」という記号が用いられているが、一般に「ダメ」であることを表すのに「×」の記号を用いることは極めてありふれている上、インターネットウェブサイト上の記事見出しにおいては、種々の記号を用いてする表現は、広く多用されているものと認められることは既に判示したとおりであり、「×」という記号を用いたことも、上記各種記号を用いることの域を出ないものというべきである。したがって、この点において上記YOL見出しに特段の創作性が認められるわけではない。
 控訴人は、記者が、「×」という記号を用いることによって、「インドカレー」という商品名がもはや使えなくなるという事実を、端的に、インパクトをもって読者に印象付けようとしたのであり、「×」という記号が通常新聞記事の見出しには使われない記号であり、記事本文中には一切使われていないことにかんがみると、記者の個性の表れと評価できるなどと主張する。
 しかし、記者の上記意図はアイデアの域を出ないものであり、「×」の使用についての控訴人の主張を考慮しても、上記YOL見出しにおける「×」に関する前判示の点に照らせば、同見出しの表現が著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。
(2-3) 平成14年10月8日から同年12月7日までの365個のYOL見出しのうち、控訴人が具体的に主張しこれに検討を加えた上記各YOL見出しを除く、その余のYOL見出しについてみても、いずれも著作物として保護されるための創作性を有するとはいえない。
 前判示のとおり、上記365個のYOL見出しは、その性質上、表現の選択の幅は広いとはいい難く、創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところである上、個別にみても、例えば、控訴人が著作権侵害があったとして主張するYOL見出しには、「Cさん母娘ら4人を拉致被害者と認定」(甲1の2の2)、「ノーベル物理学賞にD・東大名誉教授ら3人」(同5の2)、「拉致の5人、15日帰国へ」(同10の2)、「ノーベル化学賞にE氏…43歳会社員」(同11の2)、「北朝鮮、米に核開発認める」(同38の2)、「NY円、4か月ぶりに1ドル125円台」(同43の2)、「東海村の原子炉が地震で自動停止」(同54の2)、「内閣支持率横ばい…読売調査」(同99の2)、「拉致解明専門チーム設置へ」(同106の2)、「雇用保険料率1.6%に引き上げへ」(同136の2)、「東証大幅続落、終値8690円77銭」(同167の2)、「イラク、安保理決議を受諾」(同204の2)、「査察先遣隊バグダッド入り」(同233の2)、「Fさまご逝去、47歳」(同260の2)、「G氏きょうにも辞任表明」(同325の2)、「来年度予算、83兆円前後で調整」(同345の2)、「H・前幹事長、代表選に出馬を表明」(同365の2)などというものも含まれているが、いずれも事実関係を客観的にありふれた表現で構成したものであり、見出しに対応するYOL記事本文との関係をも考慮しつつ検討するとしても、これらのYOL見出しの表現に創作性があるとは到底いえない。
 その余のYOL見出しについて精査しても、その表現が著作物として保護されるための創作性を有するとは認められない。
 なお、控訴人が行ったアンケートの結果(甲44ないし46〔枝番号を含む〕)は、YOL見出しの著作物性に関する以上の認定判断を覆し得るものではない。
(3) 控訴人は、当審において、平成14年12月8日から平成16年9月30日までのYOL見出しの著作権侵害についても追加して主張する。
(3-1) 検討するに、著作権侵害に基づく差止請求や損害賠償請求をするためには、請求する側において、侵害された著作物を特定した上、著作物として保護されるための創作性の要件を具備することを主張立証することが必要であり、特に、本件では、被控訴人が上記期間におけるYOL見出しの著作物性を否認しているのであるから、控訴人としては、上記期間における個々のYOL見出しについて、YOL見出しの表現を具体的に特定し、それに創作性があることを主張立証すべきである。
 しかし、控訴人は、上記期間のYOL見出しについては、どのような表現、内容のものであったのかさえ明らかにせず、上記主張立証をしていない。したがって、上記期間におけるYOL見出しの著作権侵害をいう控訴人の主張は、主張自体失当であるというべきである(著作権侵害を裏付ける事実を認めるに足りる証拠もない。)。
(3-2) ところで、控訴人は、前掲のとおり、YOL見出しにはすべてにおいて創意工夫が施されており、そこに作成者の個性が表現されているのであるから、YOL見出し一般に著作物性が認められるべきであると主張する。したがって、控訴人は、この点を前提に、上記期間のYOL見出しの著作権侵害を主張するものとも解される。
 しかし、前判示のとおり、ニュース報道における記事見出しは、その表現いかんでは、創作性を肯定し得る余地もないではないのではあるが、一般には、著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられるのであり、結局は、個々の記事見出しの表現を検討して、創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものであって、およそYOL見出し一般に著作物性が認められるべきであるとの控訴人の主張は、直ちに採用し難いというほかない。
 そこで、YOL見出しを個別具体的に検討すると、既に前記(2)で判示したように、控訴人が特に強調したYOL見出し@〜Eを含め、平成14年10月8日から同年12月7日までの365個のYOL見出しのすべてについて、その表現が著作物として保護されるための創作性を有するとは認められない。特に、「Fさまご逝去、47歳」(甲1の260の2)とのYOL見出しは、いわゆる死亡記事として誰が書いても同じような見出しの表現にならざるを得ないものである。このように、控訴人の主張するYOL見出しには、現に上記のような創作性を認め得ない多くの見出しを含むものである。
 そうすると、YOL見出しの性質や作成過程等について控訴人が種々主張するところを考慮しても、控訴人作成のYOL見出しについて一般的に著作物性が認められると断ずることはできない(後に判示するように、控訴人が多大の労力、費用をかけて取材し、記事を作成し、YOL見出しの作成に至っているからといって、そのことゆえに、当然にすべてのYOL見出しに創作性があるというべきことにはならない。)。
 よって、この観点からしても、平成14年12月8日から平成16年9月30日までのYOL見出しの著作権侵害をいう控訴人の主張は、理由がないというべきである。
2 著作権侵害を理由とする請求に関する主張のうち、YOL記事の複製権侵害をいう主張について
(1) 控訴人は、平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間のYOL記事の複製権侵害を主張するものである。
 ところで、著作権侵害に基づく差止請求や損害賠償請求をするためには、請求する側において、侵害された著作物を特定した上、著作物として保護されるための創作性の要件を具備することを主張立証することが必要であることは、前判示のとおりである。なお、被控訴人は、控訴人によるYOL記事の複製権侵害の主張につき、時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を求めるとともに、その主張を争っている。そうである以上、控訴人としては、YOL記事における表現内容を示した上で、創作性を有することを基礎付ける事実を主張立証すべきである。
(2) そこで、YOL記事に関する主張立証をみるに、平成14年10月8日から同年12月7日までの間のYOL記事については、原審において証拠として提出されている(甲1の1〜365の各枝番号2のもの)が、同年12月8日から平成16年9月30日までの間のYOL記事については、その内容を示す証拠は提出されていない。そして、そもそも、控訴人は、証拠が提出されているYOL記事の分を含め、YOL記事における表現が創作性を有することを基礎付ける事実を何ら主張していない(特に、証拠も提出されていない期間のYOL記事は、どのような内容であったかすら、本訴で明らかにされていない。)。
 したがって、控訴人のYOL記事の複製権侵害に基づく請求は、それを根拠付ける要件についての主張を欠くものであって、主張自体失当であるというべきである。 (3) なお、弁論の全趣旨によれば、次の事情が認められる。
 被控訴人は、当審の答弁書(平成16年8月23日付け)において、上記主張が時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を求めた。これに対し、控訴人は、当審第1準備書面(同年10月1日付け)において、原審で提出された証拠類を基礎として十分に審理可能であると反論したものの、YOL記事における表現が創作性を有することを基礎付ける事実については何ら主張せず、上記欠落しているYOL記事を証拠として提出することもしなかった。そこで、被控訴人は、当審第1準備書面(同年12月3日付け)において、著作権に基づく訴訟においては、まず対象となる著作物を確定した上で、著作物性があるか否かなどの要件について攻撃防御が繰り広げられるべきものであるなどとして、再度、時機に後れた攻撃防御方法として却下を求めた。しかし、控訴人は、第2準備書面(平成17年1月17日付け)でも前記の主張をしないままであった。
 そして、当裁判所の訴訟指揮により、最終準備書面として出された控訴人第3準備書面(同年4月6日付け)において、控訴人は、前記の主張をしなかっただけでなく、YOL記事の複製権侵害をいう主張自体を記載しなかった。
 以上に照らせば、控訴人は、本訴で必要とされる主張立証責任について認識した上で、時機に後れた攻撃防御方法の問題もあってか、主張立証をあえてしなかったものと認められる。
3 不正競争防止法違反を理由とする請求について
 不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感であると解するのが相当である(平成17年6月22日成立の平成17年法律第75号「不正競争防止法等の一部を改正する法律」は、上記と同旨の定義規定を設けた。本件に同改正法が適用されるものではないが、上記改正は、従来の判例などにより一般に受け入れられた解釈に基づいて規定を明確化したものと解されるので(産業構造審議会知的財産政策部会不正競争防止小委員会「不正競争防止法の見直しの方向性について」平成17年1月)、改正前の法律の解釈としても相当なものである。)。
 そうすると、仮に、YOL見出しを模倣したとしても、不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」を模倣したことには該当しないものというべきであって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の不正競争防止法違反を理由とする本訴請求は、理由がない。
4 不法行為を理由とする請求について
(1) 被控訴人の運営するウェブサイトの概要、被控訴人ライントピックスサービスの手順、被控訴人ウェブサイトでの表示、「Yahoo!ニュース」の記事見出しの内容等については、既に引用した原判決2頁12行から5頁10行まで(原判決の「争いのない事実等」)のとおりである。
 以上に加え、証拠(甲1〔枝番号を含む〕、12、15ないし18、21、35、37の1の1、55の1・2、56、57、58の1〜3、59、67、68、71、乙22、24、39)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(a) 控訴人は、平成14年10月8日から同年12月7日までの間、原判決別紙4「記事見出し対照表」の「原告の記事見出し」欄に記載のとおりのYOL見出しを作成し、ヨミウリ・オンラインに掲出するとともに、ヤフーに許諾して、ヤフーにより同一のYOL見出し及びこれに対応するYOL記事を「Yahoo!ニュース」に表示させた。
 一方、被控訴人は、上記の期間、Yahoo!ニュースの記事ページを閲覧し、YOL記事を含むYahoo!ニュース記事の中から、重要度、ユーザの関心度が高いと思われるニュースを選択し、LT見出し及びそのリンク先ウェブページのURLを、被控訴人ウェブサイトサーバー内の管理用サイト内にある管理画面の所定位置に手動で入力することにより、被控訴人ホームページ上のLT表示部分に上記手動入力によるLTリンク見出し(Yahoo!ニュースの記事にリンクする機能を有するLT見出し)を表示し、さらに、ライントピックスサービスにより、設置ユーザのホームページ上のLT表示部分にも、同じLTリンク見出しを表示させた。これらのうち、YOL見出し及びこれに対応するYOL記事を閲覧することによって作成、表示されたLTリンク見出しが原判決別紙4「記事見出し対照表」の「被告タグ表示(前記のように本判決により「LT表示部分表示」と訂正された。)」欄に記載のものである。YOL見出しとLTリンク見出しとの対比は、この対照表に記載のとおりであるが、被控訴人は、YOL見出しと全く同一の表現でLTリンク見出しを入力する場合もあれば、YOL見出しと多少異なるLTリンク見出しとすることもあった。ただし、各LTリンク見出しには、被控訴人がそれを作成する際に閲覧したYahoo!ニュースの記事を作成した新聞社等の名は、記載されてはいない。
 なお、原判決別紙4にあるように、LT表示部分に表示されたLTリンク見出しの数は、合計365個であり、期間は61日間であるから、一日平均6.0個である(前掲証拠によれば、365個のLTリンク見出しは実日数46日分の表示個数であることが認められるが、控訴人は、平成14年10月8日から同年12月7日までの61日分の侵害行為として主張しているのであるから、61日間につき365個の限度で証明があったものというべきである。)。
(b) 被控訴人は、平日は1日3回(10時頃、13時頃、18時頃)、土日休日は1日1回のLTリンク見出しの更新を努めて行うようにしていた。
(c) 被控訴人は、ライントピックスサービスにおいて、時事ニュースについては、6個のLTリンク見出し(すべてがYOL見出しに依拠しているわけではない。)と2個の広告をLT表示部分に順に表示されるようにしており、「記事1→記事2→記事3→広告A枠→記事4→記事5→記事6→広告B枠」(ここでいう「記事」とは「LTリンク見出し」のことである。)のように、LTリンク見出しが一周する間に広告が広告A枠と広告B枠にそれぞれ1回ずつ表示されるように設定されている。この広告は、有料であり、被控訴人は、第三者の広告を掲載することによって、広告掲載料を得ている。広告掲載料は、広告A枠と広告B枠に計2回表示される権利を1ポイントとして、2万円で50万ポイント、3万9千円で100万ポイント(ライトプランの場合)といったように、ポイント数に応じて設定されている。
(d) 被控訴人は、平成13年2月ころ、ライントピックスサービスを正式に開始した。その後、平成14年1月ころから前記有料広告を掲載するようになり、平成16年7月までの31か月間に合計160万1382円の広告収入を得た。この間の1か月平均の広告収入は、5万1657円である。
(e) 被控訴人の運営するライントピックスサービスは、平成14年2月時点で、設置登録ユーザ数が約7500サイト、月間アクセス数は1200万アクセスであり、同年6月20日には、設置登録ユーザ数が1万3000サイトを越え、同年12月3日には設置登録ユーザ数が2万サイトを越え、月間アクセス数は3000万アクセスを越えた。
 被控訴人のライントピックスサービスは、実質的にみて、LTリンク見出しを多数の設置ユーザに対して配信しているものといえ、後記の控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることは否定できない。
(f) YOL見出しとLTリンク見出しとの対比は、原判決別紙4に記載のとおりであるが、これを詳しく対比すると、両者が全く同じ表現であるもの(原判決別紙4の「原告の記事見出し」欄に「同左」と記載されたもの)は、365個中の227個に及び、これらについては、被控訴人がYOL見出しをそのまま引き写してLTリンク見出しとしたもので、デッドコピーに当たるものというべきである。その余の見出しについては、YOL見出しとLTリンク見出しとは完全に一致するものではないが、YOL見出しの本質的、核心的部分はそのまま維持した上、やや詳しく言葉を付加したり、体言止めを通常の表現にするなどしたにすぎないものであって、その程度にかなりの差はあるものの、実質的にみてデッドコピーであるといって差し支えない。
(g) ところで、控訴人(読売新聞東京本社)、読売新聞大阪本社、同西部本社は、全国340箇所に本社、支社、支局、通信部等の取材網を張り巡らせ、これらに配属された2300人を超える取材記者を擁し、海外には41箇所に取材拠点を設け、60人を越える取材記者を派遣しており、日々の取材活動により様々な情報を収集し、その得られた情報をもとに記事が作成されている。情報は、これらの全国に配された記者が実際に現場に足を運ぶなどして関係者から話を聞くなどという取材活動によって取得されている。
 ヨミウリ・オンラインに掲載されるYOL記事は、1日160本ないし200本である。これらの掲載記事は、控訴人(東京本社)から出稿されたものが9割、大阪本社、西部本社からの出稿が計1割程度であり、メディア戦略局編集部に集められる。メディア戦略局編集部の編集記者は、これらの記事について、YOL見出しを作成する。YOL見出しの作成は、平日夕刊帯で2〜3人、朝刊帯で3〜4人、宿直体制時間に1人の編集記者が担当しており、1日1人平均30〜40本の記事にYOL見出しを作成している。
 新聞紙面上の記事見出しは、通常8字以内とされている(新聞紙面上の見出しには、「トッパン見出し」、「主見出し」、「割り見出し」、「袖見出し」がある。)が、YOL見出しは、全角文字で25字以内(新聞紙面上のトッパン見出し、主見出し、割り見出しを合わせた文字数に相当)となっており、新聞紙面上の1つの記事見出しに比べて、多くの情報量を盛り込めることになっている。なお、前判示のとおり、本訴で問題にされたYOL見出しにおける表現の創作性は、著作物として保護され得るものとまでは認められないのであるが、YOL見出しは、限られた文字数の中で端的かつ正確に情報を伝達するために、相応の苦労・工夫がされた結果、生み出されたものと推認し得るものであり、簡潔な表現により、YOL見出しを読んだだけでも、報道される事件等のニュースの概要について、一応の理解ができるようになっている。
(h) ヨミウリ・オンラインに掲載されたYOL見出し及びYOL記事は、一般読者がインターネット上でアクセスし、無料で閲覧することができることになっており、控訴人がYOL記事等を提供しているヤフー、インフォシークなどのポータルサイト上のニュース欄でも、インターネット上でアクセスし、無料で閲覧することができることになっている。しかし、これらは、ニュース記事等が掲載されたページに広告を併せて掲載することによる広告収入で利益が確保されており、その結果、読者に対しては無料提供している形になっているにすぎず、ニュース記事等を全く無料で開放しているわけではない。そして、控訴人から上記ヤフーなどへのYOL記事等の提供は、有料で行われているほか、YOL見出しは、YOL記事と離れて独自に取引されるようになっている。
 そして、例えば、楽天が運営するニュース配信サービス「インフォシーク・ティッカー」についての調査では、パソコン上でのティッカー立上げ1000回につき、ユーザが見出しをクリックする回数は8回に満たないとの調査結果があり、大半のユーザは、記事見出しを閲覧するだけに終わっている実情がうかがえる。被控訴人のライントピックスサービスにおいて、これと大きく異なる事情は見当たらない。
(2) 不法行為(民法709条)が成立するためには、必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず、法的保護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである。
 インターネットにおいては、大量の情報が高速度で伝達され、これにアクセスする者に対して多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。しかし、価値のある情報は、何らの労力を要することなく当然のようにインターネット上に存在するものでないことはいうまでもないところであって、情報を収集・処理し、これをインターネット上に開示する者がいるからこそ、インターネット上に大量の情報が存在し得るのである。そして、ニュース報道における情報は、控訴人ら報道機関による多大の労力、費用をかけた取材、原稿作成、編集、見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそ、インターネット上の有用な情報となり得るものである。
 そこで、検討するに、前認定の事実、とりわけ、本件YOL見出しは、控訴人の多大の労力、費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること、著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの、相応の苦労・工夫により作成されたものであって、簡潔な表現により、それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること、YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば、YOL見出しは、法的保護に値する利益となり得るものというべきである。一方、前認定の事実によれば、被控訴人は、控訴人に無断で、営利の目的をもって、かつ、反復継続して、しかも、YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に、YOL見出し及びYOL記事に依拠して、特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し、これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず、2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど、実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって、このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。
 そうすると、被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は、社会的に許容される限度を越えたものであって、控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。
(3) 損害についてみるに、控訴人が被控訴人に対し請求し得る損害は、被控訴人が無断でYOL見出しを使用したことによって控訴人に生じた損害である。
(a) 控訴人は、被控訴人によるYOL見出しの無断使用により使用許諾料を逸失したと主張し、YOL見出しに関する使用許諾契約の実例(訴外株式会社ホットリンクとの契約)である月額10万円の許諾料を基礎とし(甲18)、その2倍の金額を請求するものであるところ、なにゆえにその2倍の金額をもって控訴人に生じた損害であるとするのか、これを是認すべき理由は認められず、ほかに控訴人は、控訴人に生じた損害を肯認できるような主張をしない。
 そこで、控訴人主張の契約実例を一応の前提として、この点に関する被控訴人の主張を参酌しながら、検討してみると、次のとおりである。
 上記ホットリンクとの契約においては、65個(乙30の1〜6によれば、これより多い可能性もあるが、被控訴人が自己に不利な65個であることを自認していることなどを考慮し、その限度で認定する。)のYOL見出しが表示されるようにプログラムされていることが認められる(乙24、30の1〜6)。これによれば、実質的には、1日当たり65個のYOL見出しの提供について月額10万円の契約がされているものということができる。そうすると、被控訴人が主張するように、前記のとおり、被控訴人がYOL見出しを無断で使用した個数は、一日当たり7個(前記のとおり1日平均6.0個であるが、被控訴人が自ら一日当たり7個であることを自認した上、これを前提に議論をしていることなどを考慮し、7個とする。)であるから、その割合で計算すると、月額は、1万0769円(10万円÷65×7)となる(もっとも、契約の実態として使用した実数を基礎に支払うべき使用料が約定されることが通例であるとは思われないが、ないとも思われない。)。そして、前判示のとおり、平成14年10月8日から同年12月7日までの間については、被控訴人の具体的行為が主張立証されているものの、それ以降平成16年9月30日までの間については、抽象的な主張にとどまっている。しかし、前掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、その後も前判示同様の違法行為が継続していたものと容易に推認することができる(被控訴人も外形的な行為が継続していたこと自体は積極的に争う趣旨ではない。)。そうすると、控訴人主張の上記契約実例を前提に使用した実数に基づいて計算すると、平成14年10月8日から平成16年9月30日までの23か月24日間の使用料相当損害額は、25万6024円(1万0769円×(23+24/31))であるということになる。
 しかしながら、上記損害額は、控訴人が著作権侵害を理由とする損害賠償請求でも主張している損害額であり、被控訴人の侵害行為によって、控訴人が著作権等の対世的な特定の権利を有することを基礎にするものであり、仮にそうでないとしても、被控訴人のような立場にある者は控訴人の希望する特定の契約条件で契約締結すべきであることを主張することができることを前提にするものであり、上記損害額をもって直ちに控訴人に生じた損害であると速断することはできない。殊に、被控訴人の主張(前記第4、3(1)の(d)及び(e))照らしても、被控訴人がライントピックスサービスを一定期間行っていたからといって、その分、控訴人のYOL見出しにアクセスする数が現実に減少したなどの事情が証拠上認めることができないのであるから、この視点からは、控訴人には実損害が生じているわけではないともいえなくもない。しかしながら、そうであるからといって、他人の形成した情報について、契約締結をして約定の使用料を支払ってこれを営業に使用する者があるのを後目に、契約締結をしないでそれゆえ無償でこれを自己の営業に使用する者を、当該他人に実損害が生じていないものとして、何らの費用負担なくして容認することは、侵害行為を助長する結果になり、社会的な相当性を欠くといわざるを得ない。そうすると、結局のところ、被控訴人が行った侵害行為による控訴人の損害及び損害額については、控訴人と被控訴人が契約締結したならば合意したであろう適正な使用料に相当する金額を控訴人の逸失利益として認定するのが相当である。
 以上のように、控訴人には被控訴人の侵害行為によって損害が生じたことが認められるものの、使用料について適正な市場相場が十分に形成されていない状況の現状では、損害の正確な額を立証することは極めて困難であるといわざるを得ない。そうであってみると、民訴法248条の趣旨に徴し、一応求められた上記損害額を参考に、前記認定の事実及び弁論の全趣旨を勘案し、被控訴人の侵害行為によって控訴人に生じた損害額を求めると、損害額は1か月につき1万円であると認めるのが相当である。
 そうすると、控訴人に生じた損害額は、侵害期間が23か月24日間で、1か月につき1万円であるから、23万7741円(1万円×(23+24/31))であるということができる。
(b) 控訴人は、無形的損害として1000万円を主張するが、本件全証拠によっても、被控訴人の前記行為に起因して、控訴人の社会的信用及び信頼並びに報道機関としての公平性、中立性に関する評価などが毀損されたことを認めるには足りない。よって、控訴人の無形的損害の請求は理由がない。
(c) 弁護士費用については、上記(a)の認定額が控訴人の当初の請求額や減縮後の請求額(いずれも差止請求部分を含む。)に照らし、著しく僅少である上、被控訴人も控訴人の請求額に対応しないまでもある程度の弁護士費用の負担を余儀なくされていることが容易に想像され、しかも、控訴人が当裁判所が判断したような相当額の支払いを求めて適切な事前交渉をしているとは認められない本訴においては、被控訴人に控訴人が要した弁護士費用を負担させるのは相当ではない。
(d) 以上のとおりであるから、認容されるべき損害額は、23万7741円である。
(4) 不法行為に基づく差止請求について検討する。
 一般に不法行為に対する被害者の救済としては、損害賠償請求が予定され、差止請求は想定されていない。本件において、差止請求を認めるべき事情があるかを検討しても、前認定の本件をめぐる事情に照らせば、被控訴人の将来にわたる行為を差し止めなければ、損害賠償では回復し得ないような深刻な事態を招来するものとは認められず、本件全証拠によっても、これを肯認すべき事情を見いだすことはできない。
 よって、控訴人の不法行為に基づく差止請求は理由がないというほかない。
5 結論
 以上によれば、控訴人の請求は、不法行為に基づく損害賠償として23万7741円の限度で理由があり、その余の請求は理由がないので、原判決を上記請求認容の限度で変更し、当審で追加された請求は棄却することとする。
 訴訟費用の負担については、本訴の訴額が差止請求部分と損害賠償請求部分を合算すると、4億円を超えるものであるのに、認容額は損害賠償のごく一部にすぎず、しかも、本訴における主張立証の大半は、著作権に基づく請求について行われ、この点について控訴人は敗訴しているほか、被控訴人は遠隔地からの応訴であること、控訴人が適切な事前交渉の措置を講じなかったこと、和解勧試における状況によれば、被控訴人は相当額の金銭の支払いを検討する用意があるとの意向を示唆していたことなどを考慮すると、訴訟費用の負担のうち、訴えの提起及び控訴の提起の申立て手数料の1万分の5を被控訴人の負担とし、その余の訴訟費用をすべて控訴人の負担とするのが相当である。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官 田中昌利
 裁判官 佐藤達文


別紙1「被控訴人ホームページ目録」
 ドメイン名 D-A.CO.JP
 組織名 有限会社デジタル・アライアンス
 ネームサーバ ns.marute.co.jp
 同 ns2.dcmp.co.jp
 登録年月日 2000年6月5日
 接続年月日 2000年6月14日
 のドメイン名及びそのサブドメイン名に表示されるホームページ

別紙2「著作物目録1」
 控訴人により、平成14年10月8日から口頭弁論終結の日までに作成され又は同日の翌日以降将来にわたり作成されるインターネットWEBサイト「YOMIURI ON-LINE」(http:-/www.yomiuri.co.jp/)掲載のニュース記事見出し

「著作物目録2」
 控訴人により、平成14年10月8日から口頭弁論終結の日までに作成され又は同日の翌日以降将来にわたり作成されるインターネットWEBサイト「YOMIURI ON-LINE」(http:-/www.yomiuri.co.jp/)掲載のニュース記事本文

※ 上記判決につき、平成17年10月7日付け更正決定あり。
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/