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【事件名】自衛隊オリジナル商品「撃」事件(2)
【年月日】平成17年9月15日
 知財高裁 平成17年(ネ)第10022号 不正競争行為差止等請求控訴事件
 (旧事件番号・東京高裁平成17年(ネ)第352号/原審・東京地裁平成16年(ワ)第3173号)
 (口頭弁論終結日 平成17年7月7日)

判決
控訴人 有限会社シップス
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 井浦謙二
同 山崎理恵子
被控訴人 株式会社防衛ホーム新聞社
代表者代表取締役
訴訟代理人弁護士 副島文雄
補佐人弁理士 松下義勝


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は、全て控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、別紙標章目録1又は2記載の各標章を、饅頭の包装若しくは広告に付し、又は同標章を包装に付した饅頭を製造し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのため展示し、輸出し、輸入してはならない。
(3) 被控訴人は、その占有する前項記載の饅頭の包装又は広告を廃棄せよ。
(4) 被控訴人は、別紙標章目録2記載の標章を、せんべいの包装若しくは広告に付し、又は同標章を包装に付したせんべいを製造し、譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのため展示し、輸出し、輸入してはならない。
(5) 被控訴人は、その占有する前項記載のせんべいの包装又は広告を廃棄せよ。
(6) 被控訴人は、その販売する菓子に別紙標章目録1及び2記載の各標章を使用してはならない。
(7) 被控訴人は、控訴人に対し、金1176万円及び内金1075万2000円に対する平成16年2月27日から、内金100万8000円に対する平成16年8月17日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(9) 仮執行宣言
2 当審における新たな請求(予備的請求)
 仮に、前記1(1)ないし(7)の請求が認められないとしても、
 被控訴人は、控訴人に対し、金571万2000円及びこれに対する平成17年5月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、控訴人が被控訴人に対し、被控訴人による別紙標章目録1又は2記載の各標章で包装した饅頭又はせんべいの販売行為は、不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当し、控訴人の著作権(複製物の譲渡権)を侵害する等と主張して、商品の販売等の差止め等と損害賠償を求めた事案である。
 原判決は、同判決にいう本件標章(別紙標章目録2記載の標章と同一)は、控訴人ではなく被控訴人の商品等表示であり、周知な商品等表示でもなく、著作物と認めることもできない等として、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人は、これを不服として本件控訴を提起した。
 なお、控訴人は、当審において新たな請求を追加し、予備的請求として、継続的取引契約の債務不履行に基づく損害賠償金の支払を求めた。
第3 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次のとおり訂正付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1、「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
 なお、以下においては、原判決にいう「本件標章」・「本件饅頭」・「A商事」・「B」等の略語表示は、当審においてもそのまま用い、原判決中の「原告」を「控訴人」と、「被告」を「被控訴人」と、それぞれ改める。
1 訂正
(1) 原判決2頁23行目の「平成14年」を「平成15年」と改める。
(2) 原判決5頁19行目から20行目にかけての「取締役」を「当時の取締役(現在の代表取締役)」と改める。
(3) 原判決6頁6行目の「本件標章が」の次に「控訴人の商品等表示として」を加える。
2 当審における当事者双方の主張
(1) 控訴人
ア 本件標章の示す商品主体
 原判決は、@本件饅頭の製造販売については、A商事のBが被控訴人に対して提案したものであったが、Bの提案内容は、被控訴人のオリジナル饅頭を製造販売するものであったこと、A饅頭本体の絵柄や包装紙のデザイン、「撃」という商品名は被控訴人が発案したものであること、B本件饅頭は、被控訴人が注文した数量しか製造されず、その販売も全て被控訴人を通じて行われたこと、C売り場用ポスターに販売元として被控訴人が記載されていること、上記事情から、本件標章(別紙標章目録2記載の標章と同一)が被控訴人の商品であることを示す商品等表示であると認定している。しかしながら、以下のとおり、原判決の上記認定は誤りであり、本件標章は、控訴人の商品等表示である。
(ア) 前記@の点については、「オリジナル饅頭」とは、饅頭本体に直接絵柄を印刷した地域限定販売の饅頭の総称で、A商事が企画した商品名にすぎないから、被控訴人の「オリジナル饅頭」であっても、被控訴人の「独創的な」、「原作」饅頭になるわけでないことは明らかであり、仮にB(控訴人代表者)が被控訴人による「オリジナル饅頭」の製造販売を提案したとしても、それをもって本件饅頭が被控訴人の商品となることはない。
(イ) 前記Aの点については、本件饅頭は、控訴人代表者のBが企画し、本件標章も控訴人代表者Bが考案したものである。また、控訴人は、被控訴人が負担すべき製版代も負担しており、このことからも、本件標章及び絵柄等のデザインは控訴人が決定すべき立場にあったことがうかがわれる。
 仮に採用されたのが被控訴人の発案であるとしても、控訴人と被控訴人が協議の上で決定したことは明らかである。また、そもそも商品のネーミングや絵柄、包装紙のデザインを被控訴人が決定したとしても、このことから直ちに本件饅頭が被控訴人の商品となるものではない。なぜなら、本件饅頭の核心部分は、あくまでも饅頭本体への天然色素による絵柄の直接印刷、地域限定販売の2点であって、「撃」というネーミングや包装紙のデザインは二次的なものに留まるから、ネーミングや包装紙のデザインを決定した者の商品になることはない。そもそも商品名は、必ずしも販売元が決定するとは限らず、コピーライターに委託することもあれば、公募することすらある。
(ウ) 前記Bの点については、被控訴人が注文した数量しか製造しない点は、自衛隊施設内の販売店と直接やり取りをして需要動向を把握しているのは被控訴人であるから、被控訴人の判断を尊重して製造量を調整することは、経済的合理性にかなう行為であって当然のことであり、本件饅頭が控訴人、被控訴人のいずれの商品であるかによって扱いを変えることではない。
 また、本件饅頭の販売が全て被控訴人を通じて行われたことも、被控訴人が独占販売権を希望し、控訴人がこれを付与したのであるから当然のことである。
(エ) 前記Cの点については、本件饅頭の売り場用ポスターファイルには、販売元として被控訴人名が記載されているが、このことから直ちに本件饅頭が被控訴人の商品であると断定することはできない。
 広告物上、単なる販売窓口となる会社が販売元として表示されている例が多数存在し(甲77ないし82)、そもそも、上記売り場用ポスターは、控訴人が自発的に対価をかけて用意したものである。仮に、本件饅頭が被控訴人の商品であるならば、控訴人が自発的に対価をかけて売り場用ポスターを用意することはないはずである。
 一方で、本件饅頭の包装紙には、販売者欄に控訴人名又はA商事の明記がある反面、被控訴人名の記載はどこにもない。被控訴人は、包装紙の販売者欄に控訴人名が表示されたのは、被控訴人に無断でなされたものであると非難するが、当初販売者欄にA商事と明記されていたことは被控訴人は承知していたはずであること、控訴人は、A商事から控訴人への販売者欄の変更について、被控訴人に了解を求めていないが、両者は実質的に同一であって、変更により被控訴人の利益を害することはないことからすれば、被控訴人の了解の欠如によって、販売元の地位が左右されることはなく、責任票の上記記載は本件標章が控訴人の商品等表示であることの根拠となるものである。
(オ) 控訴人は、「オリジナル饅頭」を複数バージョン販売しているが(「日本武道館まんじゅう」、「東京都庁おまんじゅう」、「豊島園まんじゅう」、「芸術座饅頭」等)、これらの「オリジナル饅頭」の販売に際しては販売代理の形式により、全て控訴人の商品として販売しており、それで何らの不都合も生じていない。また、本件饅頭の特色は控訴人が企画したものであり、控訴人が被控訴人に提案したものである。にもかかわらず、本件饅頭のみを被控訴人の商品として販売する理由はなく、控訴人と被控訴人間の本件取引は販売代理店契約である。原判決は、契約締結の過程で、甲17の売買基本契約書(代理店用)への署名に被控訴人が同意しなかったことをもって、本件取引は販売委託ではなく、製造委託であると認定している。しかし、契約書が調印されていないのは、価格について合意ができていなかったからにすぎない。
イ 本件標章の周知性
 原判決には、本件標章の周知性の認定判断につき、要旨次のとおりの違法がある。
(ア) 原判決は、「本件饅頭の販売数は約11か月という販売期間を考慮すると、かなり少ないものである」と認定しているが、何らの比較もすることなく、絶対値をもって、かなり少ないと認定している点で理由不備の違法がある。
(イ) 原判決は、本件饅頭がテレビ番組「トリビアの泉」で紹介され、それ以前よりも販売数が増加しているが、増加は特定の売店に偏っており、本件饅頭の取扱店が全体として販売数を増加させたとはいい難いと判示しているが、注文に比べて商品に限りがある場合、従前から実績のある売店に優先的に出荷することになるから、販売数が増加した取扱店に偏りが生じるのは当然であり、偏りが生じていることだけから、全体として販売数を増加させたとはいい難いと判断するのは早計であって、商品の流通機構を無視したものである。
(ウ) 原判決は、控訴人が提出した「アンケート結果については、調査対象、方法等が統計的見地から適正なものであることを認めるに足りる証拠がないから、採用できない」と認定するが、到底容認できない。
 控訴人は、平成16年4月18日、同年11月20日・21日、平成17年4月17日を含めて、4回にわたり自衛隊関係者を対象としてアンケートを実施してきたが、そのアンケート調査結果(甲88等)からみても、本件標章が自衛隊員に周知であることは明らかである。
(エ) 原判決は、本件饅頭が、防衛庁及び自衛隊の関連施設約400か所のうち、20数店舗でしか販売されていないことを理由に、本件標章は、一般消費者はもとより、自衛隊関係者の間においても周知であったとは認められないと判示しているが、上記約400か所の施設全てに、本件饅頭を販売するに適した売店があるわけではなく、本件饅頭の販売に適した具体的な売店数を不問にしたまま、実際の取扱店20数店舗がごく一部にすぎないと決めつけるのは、情緒的反応であって、論理的な検証に耐えられるものではない。
ウ 当審における予備的請求
 仮に控訴人の不正競争防止法に基づく各請求が認められないとしても、以下のとおり、控訴人は、被控訴人に対し、継続的取引契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権を有する。
(ア) 控訴人と被控訴人間の継続的取引契約の成立
 平成15年2月までに、本件饅頭の名称(「撃」)と饅頭本体の絵柄、包装紙のデザインが完成し、被控訴人は、同年2月10日から、控訴人に対して本件饅頭の発注を始め、同年2月から自衛隊内の売店で本件饅頭の販売が開始された。
 そうすると、控訴人と被控訴人の間では、書面による契約書は取り交わされていないものの、本件饅頭に関する継続的取引契約が平成15年2月までに成立したことになる。
(イ) 被控訴人の背信行為
 継続的取引関係にある当事者は、契約の目的を達成するため互いに協力する義務を負っている。
 ところが、被控訴人は、本件饅頭がテレビ番組(「トリビアの泉」)で紹介され、予想を大きく上回る反響を得たことから、本件饅頭のネーミング(「撃」)に似せたネーミング(「撃2」)を使用し、饅頭を包む個々の包装紙に絵柄を印刷してあたかも消費者には、本件饅頭のように饅頭本体の表面に絵柄が印刷されているように見せかけた商品を製造し、販売地域を自衛隊の施設内の売店に限定して被控訴人が独自に販売することを思いつき、控訴人との契約関係が継続していた平成15年11月ころから、需要者が本件饅頭の姉妹品であると混同するような別紙標章目録1又は2記載の各標章で包装した饅頭の製造販売を開始した。
 これは、商慣習にもとるのみならず、前記継続的取引関係にある当事者に課せられた義務に違反する背信行為に当たるから、被控訴人は、控訴人に対し、債務不履行責任を負うことになる。
(ウ) 損害
 被控訴人は、別紙標章目録1又は2記載の各標章で包装した饅頭を少なくとも3万4000個以上販売し、その結果、本件饅頭の販売は少なくとも3万4000個以上減少している。
 本件饅頭販売による控訴人の利益は1個当たり金168円であるから、控訴人の損害は、金571万2000円を下らない。
(エ) まとめ
 したがって控訴人は、不正競争防止法に基づく各請求の予備的請求として、継続的取引契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、被控訴人に対し、金571万2000円及びこれに対する平成17年5月19日(訴えの変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(2) 被控訴人
ア 控訴人の主張ア及びイは、いずれも争う。
イ 当審における予備的請求に対し
 被控訴人と控訴人との間では、原判決で認定された本件饅頭の製造委託契約が存在しただけで、それ以外の契約関係は存在しない。また、被控訴人は、控訴人側が本件饅頭の供給を中止したことから、やむなく製造委託先を変更し、被控訴人の商品であることを示し、かつ、本件饅頭と区別できるよう別紙標章目録1記載の標章を使用するに至ったのであって、被控訴人に控訴人主張の背信行為はなく、控訴人に損害が発生した事実もない。
第4 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は、当審において追加した予備的請求を含め、理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり訂正付加するほか、原判決「第4 当裁判所の判断」を引用する。
2 訂正
(1) 原判決9頁3行目の「19」を「17ないし19」と改め、同行の「70」の後に「、84、85」を加え、4行目の「25」の次に「、28」を加える。
(2) 原判決9頁16行目の「代表者」を「前代表者」と、20行目の「書類等」を「書類(乙3)等」とそれぞれ改め、23行目の「印刷する」の次に「販売地域限定の」を加える。
(3) 原判決10頁9行目の「中央に」の前に「菓子箱の包装紙の」を加え、12行目から13行目にかけての「取締役」を「当時の取締役(現在の代表取締役)」と改め、14行目の「天然色素が」の次に「野菜から抽出できるものに」を、15行目の「配色や」の次に「線の太さ等の」をそれぞれ加え、22行目から23行目にかけての「上記絵柄及びデザインを」を「嶋本から上記デザイン案のメールを」と改める。
(4) 原判決11頁2行目及び5行目の各「注文書」を「注文書案」と改め、3行目の「包装紙案の」の前に「菓子箱の」を加え、6行目の「本件饅頭の」の次に「菓子箱の」を加え、16行目の「平成14年」を「平成15年」と改める。
(5) 原判決12頁4行目、9行目及び13行目の各「B(A商事の肩書付きで)は」を「Bは、「鰍`商事 B」の名で」と改める。
(6) 原判決12頁5行目から6行目にかけての「上記契約書等」を「上記売買基本契約書等」と改め、15行目の「そのポスター」の次に「(乙14の2)」を、同行の「本件饅頭の」の次に「菓子箱の」をそれぞれ加え、18行目の「(乙14)」を「(乙14の1、2)」と、22行目の「第4巻」を「第W巻」と、それぞれ改める。
(7) 原判決12頁25行目から末行にかけての「商標登録出願をした。(乙17)」を「商標登録出願をし、その後、平成16年10月22日、商標登録(商標登録第4811852号)を受けた(乙28)。これに対し控訴人は、平成17年1月17日付けで商標登録異議の申立てをした(甲84の1、2)。」と改める。
(8) 原判決13頁13行目の14行目にかけての「被告のオリジナル饅頭を」を「饅頭本体に野菜等の天然色素を使用して文字や絵柄を印刷する販売地域限定のオリジナル饅頭を被控訴人の商品として」と改める。
(9) 原判決14頁11行目の「契約書案(甲17)を」を「売買基本契約書(代理店用)(甲17)及び本件饅頭の売買取引に関する覚書(代理店用)(甲18)の案を」と改める。
(10) 原判決15頁5行目の「包装紙裏面」の次に「(甲1)」を、7行目の「決定案」の次に「(乙10の2)」をそれぞれ加える。
(11) 原判決15頁18行目から17頁6行目までを削除する。
(12) 原判決17頁7行目の「ウ」を「イ」と改め、8行目から9行目までを、「以上のとおり、本件標章は控訴人の商品等表示であるとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の不正競争防止法に基づく各請求は理由がない。」と改める。
3 当審における控訴人の主張に対する判断
(1) 本件標章の示す商品主体に関するもの
ア 控訴人は、本件標章が控訴人の商品等表示であると主張するので、以下、控訴人主張の根拠について順次判断する。
(ア) 控訴人は、「オリジナル饅頭」とは、饅頭本体に直接絵柄を印刷した地域限定販売の饅頭の総称で、A商事が企画した商品名にすぎないから、被控訴人の「オリジナル饅頭」であっても、被控訴人の「独創的な」、「原作」饅頭になるわけでないことは明らかであり、仮にBが被控訴人の「オリジナル饅頭」の製造販売を提案したとしても、それをもって本件饅頭が被控訴人の商品となることはない旨主張する。
 しかしながら、仮に控訴人の主張するように「オリジナル饅頭」とは、饅頭本体に直接絵柄を印刷した地域限定販売の饅頭の総称で、A商事が企画した商品名であるとしても、原判決が判示(第4の1(2)ア(ア))するように、Bの提案内容は、饅頭本体に野菜等の天然色素を使用して文字や絵柄を印刷する販売地域限定のオリジナル饅頭を被控訴人の商品として製造販売するというものであり、被控訴人は、Bの提案を受けて、自社のオリジナル饅頭の販売を決意し、その製造を委託する意思がある旨をBに伝えた上、本件標章を包装紙に付して「撃」という商品名で本件饅頭を販売してきたこと、本件饅頭の絵柄のデザインは、被控訴人において発案したものであること、菓子箱を包む包装紙のデザインについても被控訴人が検討し、表面の中央に被控訴人のウェブページの写真を用いること、外周を迷彩柄とすることは被控訴人の提案に係るものであり、また、「撃」という商品名についても被控訴人が発案したものであることに照らすと、控訴人の上記主張は採用することはできない。
(イ) 控訴人は、本件饅頭は、控訴人代表者Bが企画し、本件標章も控訴人代表者Bが考案したものであり、控訴人は、被控訴人が負担すべき製版代も負担していることからも、本件標章及び絵柄等のデザインは控訴人が決定すべき立場にあったことがうかがわれ、また、仮に採用されたのが被控訴人の発案であるとしても、控訴人と被控訴人とが協議の上で決定したことは明らかであり、そもそも商品のネーミングや絵柄、包装紙のデザインを被控訴人が決定したとしても、このことから直ちに本件饅頭が被控訴人の商品となるものではない旨主張する。
 しかしながら、前記(ア)の認定事実に照らすと、本件標章を控訴人代表者Bが考案したものとは認め難い。また、控訴人が主張するように控訴人と被控訴人が協議の上で本件饅頭の絵柄のデザイン及び菓子箱を包む包装紙のデザインが決定されていったという経緯があるとしても、そのことをもって本件標章が控訴人の商品等表示であることの根拠となるものではない。
 したがって、控訴人の上記主張も採用することができない。
(ウ) 控訴人は、本件饅頭の売り場用ポスターには、販売元として被控訴人名が記載されているが、広告物上、単なる販売窓口となる会社が販売元として表示されている例が多数存在し、そもそも上記売り場用ポスターは、控訴人が自発的に対価をかけて用意したものであり、仮に本件饅頭が被控訴人の商品であるならば、控訴人が自発的に対価をかけて売り場用ポスターを用意することはないはずである旨主張する。
 しかしながら、控訴人が主張するように広告物上、単なる販売窓口となる会社が販売元として表示されている例が多数存在し、また、上記売り場用ポスターは、控訴人が自発的に対価をかけて用意したものであるとしても、控訴人代表者のBが被控訴人に電子メールで送信した本件饅頭の売り場用ポスターには、販売元として被控訴人名が記載されていたこと(原判決第4の1(1)イ(エ))は、控訴人において本件饅頭が被控訴人の商品であることを認めていた根拠の一つとなるものというべきである。
(エ) また、控訴人は、本件饅頭の包装紙には、販売者欄に控訴人名又はA商事の明記がある反面、被控訴人名の記載はないのみならず、控訴人は、A商事から控訴人への販売者欄の変更について、被控訴人に了解を求めていないが、被控訴人は当初販売者欄にA商事と明記されていたことは承知していたはずであり、控訴人とA商事は実質的に同一であるから、被控訴人の了解の欠如によって、被控訴人の利益を害するものでもないから、責任票の上記記載は本件標章が控訴人の商品等表示であることの根拠となるものである旨主張する。
 しかしながら、原判決が判示(第4の1(2)ア(エ))するとおり、本件饅頭の包装紙裏面の責任票の販売者欄の記載は、本件饅頭が食品であるため、その安全性の確保等の関係で表示されるものであり、被控訴人がA商事又は控訴人に本件饅頭の製造を委託していたことに照らすと、責任票の販売者欄の記載が直ちに商品主体としての販売者を表示しているとはいえないというべきであり、控訴人の上記主張は採用することができない。
(オ) 控訴人は、「オリジナル饅頭」を複数バージョン販売しているが、これらの「オリジナル饅頭」の販売に際しては販売代理の形式により、全て控訴人の商品として販売しており、それで何らの不都合も生じていないし、また、本件饅頭の特色は控訴人が企画したものであり、控訴人が被控訴人に提案したものであるにもかかわらず、本件饅頭のみを被控訴人の商品として販売する理由はなく、甲17の売買基本契約書(代理店用)が調印されていないのは、価格について合意ができていなかったからにすぎず、控訴人と被控訴人間の本件取引につき販売代理店契約が成立していた旨主張する。
 しかしながら、原判決認定の本件の経緯等(第4の1(1))に照らすと、控訴人と被控訴人間の本件取引につき販売代理店契約が成立していたとの控訴人の上記主張は採用することができない。
イ このほか、本件全証拠によっても、本件標章が控訴人の商品等表示であると認めるに足りない。
(2) 控訴人の予備的請求について
 控訴人は、控訴人と被控訴人の間で、平成15年2月までに本件饅頭に関する継続的取引契約が成立したところ、被控訴人は、本件饅頭がテレビ番組(「トリビアの泉」)で紹介され、予想を大きく上回る反響を得たことから、本件饅頭のネーミング(「撃」)に似せたネーミング(「撃2」)を使用し、饅頭を包む個々の包装紙に絵柄を印刷してあたかも消費者には、本件饅頭のように饅頭本体の表面に絵柄が印刷されているように見せかけた商品を製造し、販売地域を自衛隊の施設内の売店に限定して被控訴人が独自に販売することを思いつき、控訴人との契約関係が継続していた平成15年11月ころから、需要者が本件饅頭の姉妹品であると混同するような別紙標章目録1又は2記載の各標章で包装した饅頭の製造販売を開始したことは、前記継続的取引関係にある当事者に課せられた義務に違反する背信行為に当たるから、被控訴人は、控訴人に対し、債務不履行責任を負う旨主張する。
 しかしながら、控訴人の主張する継続的取引契約は、被控訴人が控訴人に本件饅頭を発注し、これを自衛隊の施設内で販売する関係以上に、その主張自体、具体的な内容が明確ではなく、被控訴人が控訴人に対し負担すべき債務の具体的内容も定かではない。そして、原判決が判示(第4の1(2)ア(ア)、(イ))するとおり、被控訴人は、A商事又は控訴人に対し、本件饅頭の製造を委託し、自己の商品として本件饅頭を販売していたものであって、控訴人の販売代理店ではなかったのであるから、被控訴人が別紙標章目録1又は2記載の各標章で包装した饅頭の製造販売を開始したことが控訴人に対する背信行為又は債務不履行に当たるものと認めることはできない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の予備的請求も理由がない。
4 結論
 以上によれば、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴人の当審における新たな請求も理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所 第2部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 大鷹一郎
 裁判官 長谷川浩二
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