判例全文 line
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【事件名】ヌーブラの不正競争事件
【年月日】平成17年9月8日
 大阪地裁 平成16年(ワ)第10351号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成17年7月4日)

判決
原告 ゴールドフラッグ株式会社
訴訟代理人弁護士 松本司
同 緒方雅子
補佐人弁理士 森義明
被告 株式会社ピーチ・ジョン
訴訟代理人弁護士 玉生靖人
同 本井文夫
同 碩省三
同 平田正憲


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告は、別紙イ号物件目録記載の商品を輸入・販売してはならない。
2 被告は、前項の商品を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、3億円及びこれに対する平成16年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、米国企業が製造販売するブラジャーの日本国内における独占的販売権者である原告が、同じくブラジャーを輸入し、販売する被告に対し、@原告のブラジャーの形態は原告の出所を表示する商品表示として周知性を有するところ、被告のブラジャーの形態は原告のブラジャーの形態と類似し、原告の商品と混同を生じさせるおそれがある(不正競争防止法2条1項1号)、A原告のブラジャーの形態は原告の出所を表示する商品表示として著名性を有するところ、被告のブラジャーの形態は原告のブラジャーの形態と類似している(同2号)、B被告のブラジャーの形態は原告のブラジャーの形態を模倣したものである(同3号)と主張して、(ア)同法3条1項に基づき被告のブラジャーの輸入・販売の差止め、(イ)同法3条2項に基づき被告のブラジャーの廃棄、(ウ)同法4条に基づき被告のブラジャーの販売によって平成16年5月1日から同年7月31日までの間に原告が被った3億円の損害の賠償及びこれに対する同年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。
2 前提事実(証拠を掲記しないものは争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められるものである。)
(1) 原告は、平成15年1月30日、米国カリフォルニア州法人の「Bragel International Inc.」(以下「ブラジェル社」という。)との間で、同社の開発、販売に係るブラジャー(商品名:NuBra。以下「原告商品」という。)について、原告を日本国内における独占的販売権者とする旨の契約を締結し(甲2)、以後、同商品の輸入及び販売を開始した。
 原告商品の形態は、別紙「原告商品目録(原告)」添付写真のとおりである。
(2) 被告は、平成16年5月1日以降、「Hello Sticky」という商品名のブラジャー(以下「被告商品」という。)を輸入・販売している。
 被告商品の形態は、別紙イ号物件目録添付写真のとおりである。
3 争点
(1) 不正競争防止法2条1項1号関係
ア 原告商品の形態は周知な商品表示か。
イ 被告商品は原告商品との混同を生じさせるおそれがあるか。
ウ 原告は「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(同法3条)、不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同法4条)に該当し、差止請求、廃棄請求及び損害賠償請求をなし得る地位にあるか。
(2) 不正競争防止法2条1項2号関係
ア 原告商品の形態は著名な商品表示か。
イ 原告は「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(同法3条)、不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同法4条)に該当し、差止請求、廃棄請求及び損害賠償請求をなし得る地位にあるか。
(3) 不正競争防止法2条1項3号関係
ア 原告商品の形態は同種の商品が通常有する形態か。
イ 被告商品の形態は原告商品の形態を模倣したものか。
ウ 原告は「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(同法3条)、不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同法4条)に該当し、差止請求、廃棄請求及び損害賠償請求をなし得る地位にあるか。
(4) 損害額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ア(周知商品表示性)について
【原告の主張】
(1) 原告商品は、別紙「原告商品目録(原告)」記載のとおりであって、通常のブラジャーが有しない次の新規な形態を有している。
@ 使用者の左右乳房上に独立して置かれる2個のカップよりなり
A 肩ひも(ショルダーストラップ)、横ベルト等身体に装着する部材がなく
B 各カップの内側には粘着層を備えている。
 被告は、原告商品の形態が「通常有する形態」であると主張するが、原告商品が従来のブラジャーとは全く形態の異なるブラジャーであって「通常有する形態」でないことは争点(3)アに関する原告の主張のとおりであるから、被告の主張は誤りである。
(2) 原告商品は、平成14年10月から米国及び台湾で販売されるや大好評を得た商品であるが、平成15年2月1日に日本国内で販売が開始された際にも大ヒットした商品である。
 このことは、全国のデパートや下着店で話題の商品として売り場の最前列に陳列され、テレビの情報番組でも「今大ブームの商品」として取り上げられ、また女性誌のみならず「AERA」「日経トレンディ」などの雑誌、新聞等でも頻繁に紹介されたことからも裏付けられる。初めてテレビで紹介されたのは平成15年3月6日であるが、これらマスコミでの紹介が商品の大ヒットより少し遅れることを考慮すれば、原告商品が著名ないし周知になった時期は、遅くとも平成15年3月であるといえる。
【被告の主張】
 原告の主張する上記@ないしBの形態は、争点(3)アに関する被告の主張のとおり、「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」なるタイプのブラジャーとして、原告商品が日本国内において発売されるよりも前からそのような商品群として現に存在しており、日本国内市場においても販売されるなどしてその存在が認識されていたものであって、「従来存在しなかったブラジャーの形態」などでは決してないし、そもそもかかる形態は、「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」なるタイプのブラジャーが通常有する形態であるから、そのような形態をもって原告商品の出所表示機能を獲得したなどとは到底認められない。
2 争点(1)イ(混同のおそれ)について
【原告の主張】
 被告商品の形態は、原告商品の形態と酷似しており、被告が主張する原告商品とイ号物件の形態の相違は些細なものに過ぎず、原告商品の形態それ自体が他の商品に比して独自の顕著性を有していることに鑑みれば、需要者が類似形態の被告商品に接した場合、当該商品が同じ出所の商品であると誤認混同する可能性がある上、現実の混同も生じている。
【被告の主張】
 原告商品と被告商品とはその形態を異にするのみならず、その商品名も全く異なるし、商品の包装箱の表示においても、原告商品の包装箱には商品を装用した状態の写真が載せられているのに対し、被告商品の包装箱にはそのような写真を全く載せていないなど、明らかに異なっている。また、原告商品や被告商品を購入する一般消費者(女性、とりわけ若い女性)が、原告商品と被告商品とを誤認混同することなど絶対にあり得ない。被告は、女性下着業界において、原告商品や被告商品のようなブラジャーの購入層である若い女性から圧倒的な支持を受けている企業体であるほか、一般消費者が被告商品を購入する方法も、大半が、被告の発行したカタログに掲載されている被告商品を通信販売の方法により購入するというものであって、被告商品を購入した一般消費者が、実は原告商品であると誤認混同していたなどということは、およそ考えられない。
3 争点(1)ウ(請求主体性)について
【原告の主張】
 原告は、原告商品について日本国内における独占的販売権を有する者であるから、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(不正競争防止法3条)、不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同法4条)に該当する。
【被告の主張】
 原告商品の日本における独占販売権者というにすぎない原告は、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(不正競争防止法3条)、不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同法4条)に該当しない。
4 争点(2)ア(著名商品表示性)について
 争点(1)アに関する当事者の主張に同じ
5 争点(2)イ(請求主体性)について
 争点(1)ウに関する当事者の主張に同じ
6 争点(3)ア(通常有する形態)について
【被告の主張】
 原告商品のような、肩ひもや横ベルト等の身体に装着する部材がなく、独立した2個のカップを直接乳房に貼り付ける形で装用するというタイプのブラジャー(ストラップレス・バックレス・ブラジャー)は、原告商品が日本国内において販売されるよりも前から、そのような商品群として現に存在しており、日本国内市場においても販売されていた。
 すなわち、原告商品が日本国内で販売されるより前に市場で販売されていた商品としては、アメリカのBrazabra Corporationの「MAGICUPS」(検乙1)及び「Swivelift」(検乙2)、「STAYKUPS」(検乙3)、カナダのCoconut Grove Intimate 社の「The Clearly Natural」(検乙7)、アメリカのFashion Forms 社が取り扱っている「Extreme Plunge」(検乙8)がある。
 また、「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」なるタイプのブラジャーに関しては、原告商品が日本国内で発売される以前から、既に日本の公開特許公報(乙5ないし7)やアメリカの特許公報(乙21)において公開されていた。
 そして、このような「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」タイプのブラジャーであれば、カップ部分で乳房を包み込むとともに乳房の形を整えてサポートするというブラジャー本来の機能を果たすためには、必然的に、独立した2個のカップに何らかの粘着層を設けたうえで当該2個のカップを何らの装着具なしに直接乳房に貼り付けるという形態とならざるを得ない。さらに、カップ部分の形態についても、乳房を包み込む形で装着する以上、必然的に、乳房の形に沿った形状(いわゆるカップ状)とならざるを得ないのである。
 したがって、原告が原告商品の形態の特徴として指摘する3点は、いずれも、「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」なるタイプのブラジャーという原告商品と「同種の商品」が、当該商品の機能及び効用を実現するために必然的または当然に選択される形態、すなわち「通常有する形態」である(なお、原告の主張する「各カップの内側には粘着層を備えている」との点は、単に当該商品の機能面を述べているものにすぎず、商品の形態を基礎付ける要素ではないから、原告商品の形態としてこの点を挙げるのは不適切である。)。
【原告の主張】
(1) 被告が指摘する商品がいずれも原告商品が販売される前に販売されていたことは認めるが、それらのうち、「MAGICUPS」は、専用シールで肌に張り付けるカップに過ぎず、ブラジャーのカテゴリーに入る商品ではない。しかも、各カップの内側のシール部分(粘着層)はカップの一部だけであり、各カップも原告商品とは明らかに異なる形態である。また、「Swivelift」及び「STAYKUPS」も、各カップの内側のシール部分は一部に過ぎず、カップの形態も原告商品の形態と異なっている。しかも、被告が指摘する商品は、いずれも日本国内において需要者にはほとんど又は全く認知されていない。
 また被告は、公開特許公報等の存在を指摘するが、不正競争防止法2条1項3号に規定するのは「商品形態」であるから、販売されずに特許出願及び公開されたアイデアだけの商品があったとしても、その商品の形態が同号にいうところの「通常有する形態」になるものではなく、あくまで販売された商品の「形態」である必要がある。
 以上より、被告がいう「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」なるブラジャーの形態がブラジャーの一般的な形態であるとはいえないし、ましてカップ内側の全面に粘着層を備えている原告商品の形態が一般的な形態であるとはいえない。
(2) 被告は、原告商品の形態が、機能・効用のため回避できない商品形態であると主張する。しかし、肩ひもや横ベルト等の部品を用いず、各カップの内側に粘着層を設けた形態は、ブラジャーという商品の機能・効用のため回避できない商品形態ではないことは、肩ひもや横ベルトを用いる粘着層のないブラジャーが存在することより明白である。原告商品は、肩ひもや横ベルト等の部品を何ら用いることなく乳房に直接カップを粘着させるという従来のブラジャーとは全く形態の異なるブラジャーであって、「通常有する形態」に該当しない。
7 争点(3)イ(模倣性)について
【原告の主張】
(1) 被告商品は、原告商品と同じく、争点(1)アに関する原告の主張の@ないしBの形態を有している。被告が原告商品の形態と被告商品の形態の差異として主張する点は、いずれも些細な相違であり、商品の形態として観察した場合、同一と評価できるほど酷似している。
(2) また、原告商品は、ストラップ及び横ベルトがなく、また何ら部品を使用することなく乳房に直接粘着させる、従来には存在しなかった構造のブラジャーであり、原告が日本国内で販売を開始するや、女性の間で大変な好評を博し、インターネットやテレビ、雑誌等でも頻繁に紹介され、特に若い女性の間では知らない者がいないほどの商品となり、ブラジャーの世界で革命的とも言える現象を引き起こした。
 このような事情に鑑みれば、被告商品は原告商品の形態を模倣したものである。
【被告の主張】
(1) 原告商品の形態と被告商品の形態は、それぞれ別紙「原告商品目録(被告)」及び「イ号商品目録」記載のとおりであって、カップ部分の外観の印象、外見上の色彩、光沢感及び質量感に大きな相違がある。
 そして、ブラジャーをはじめとする女性下着は、女性の感性にいかに訴えかけるかという点が極めて重要となってくる商品であり、実際に商品を購入する消費者もファッション情報に敏感な女性なのであって、彼女らは、「自分が装用したときにどのような印象となるか」という観点から、各商品の微妙な差異・特色を細部にわたって比較検討した上で、購入する商品を選択しているのであるから、形態の違いを考察するにあたっても、そのような細部における差異・特色の存在こそが極めて重要な意味を持つのである。また、ブラジャーのカップ部分は、それによって乳房を包み込むとともに乳房の形を整えてサポートするという機能を果たすものであるから、その形状は、機能上、ある程度限定されてくることにならざるを得ないのであり、そうであれば必然的に、細部にわたる点において微妙な差異・特色を設けることによって、他の商品との識別を図っていくこととなる。したがって、ブラジャーの形態を比較するにあたり、一見細部にわたるとも思える差異・特色についてこれを捨象してしまって、大まかな比較をしてしまうと、製造者も消費者も細部にわたる微妙な差異・特色によって自他識別を図っているという、ブラジャーというファッション商品が有する本質的部分を見誤ってしまうことになるといわなければならない。
 以上より、被告商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一ではなく、客観的に見て「模倣」とはいえない。
(2) また、被告は、原告商品には、次のような欠点があると考えていた。すなわち、実際にブラジャーを装用する女性の視点から見ると、原告商品には、@カップ自体の重量が重く、しかも、カップ部分の乳房に貼り付ける面に伸縮性がないため、着用者ごとに微妙に異なる胸の形に完全にフィットさせることができず、単に乳房に貼り付けるといった装用方法となることによって、装用中も身体の動きに沿わず、カップ自体に重みがあることと相俟って、装用中にカップがずれてくるなど、装用感に違和感がある、また、Aカップ部分がゲル状で軟らかすぎるため、洋服を着用した際に、バストラインのシルエットに張りがなく、またバスト位置を上のほうで保持することができないので、シルエットが全体として老けた印象となるほか、装用中もノーブラであるような不安感がある、さらに、B人間の本物の乳房に近い、脂肪層を思わせるような外観が却って生々しくグロテスクであり、ブヨブヨの触感も気味が悪い、といったものである。
 このため被告は、数社からストラップレス・バックレス・ブラジャーの取引申入れがあった際にも、原告商品に内在する上記のような欠点が何ら解消されておらず、外観上の印象も原告商品と似たり寄ったりであったため、かかる申入れを全て断ってきたが、被告商品については、上記で述べた原告商品の持つ欠点が解消されていたことから、日本国内において販売することを決定したのである。
 また被告は、女性下着の業界において確固とした地位を確立しているのであって、他社の商品にただ乗りする形で利益を上げようと目論むような会社ではなく、また、そのような必要も全くない。
 これらからすると、被告は、主観的にも「模倣」したとはいえない。
8 争点(3)ウ(請求主体性)について
【原告の主張】
(1) 原告は、原告商品について日本国内における独占的販売権を有する者であるから、「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者」(不正競争防止法3条)、不正競争によって営業上の利益を侵害された「他人」(同法4条)に該当する。
(2) 被告は、原告が独占販売権者にすぎないことをもって、不正競争行為の差止請求及び損害賠償請求の主体たり得ないと主張するが、その解釈では、他人が市場において商品化するために資金、労力を投下した成果を保護しようとした不正競争防止法2条1項3号の趣旨を全うできない。市場先行者の上記利益を保護しようとすれば、独占販売権者も保護の主体に含めることが必要である。独占販売権者もまた、先行者の商品形態の独占について強い利害関係を有するからである。
【被告の主張】
 不正競争防止法2条1項3号所定の不正競争行為につき差止めないし損害賠償を請求することができる者は、形態模倣の対象とされた商品を、自ら開発・商品化して市場に置いた者に限られるというべきである。しかるところ、原告は、原告商品を自ら開発したものではなく、共同開発をしたものでもなく、また、原告商品の開発に資金や労力を投下したものでもなく、本件において、単にブラジェル社との間で独占販売契約を締結したというにすぎないから、不正競争行為の差止請求及び損害賠償請求の主体となる余地はない。
9 争点(4)(損害額)について
【原告の主張】
 被告は、平成16年5月1日から同年7月31日までの間に、被告商品の販売により、少なくとも3億円の利益を得ている(売上7億8000万円、利益率38.4%)から、これが原告の被った損害額と推定される。
【被告の主張】
 争う。
第4 争点に対する当裁判所の判断
1 不正競争防止法2条1項3号の主張について
(1) 争点(3)ア(通常有する形態)について
ア 検甲1号証によれば、原告商品の形態は次のとおりであると認められる。
(ア) 基本的形態
a 独立した左右2個のカップから成るブラジャーである。
b 肩ひも、横ベルト等の身体に装着する部材がない。
c 2個のカップの相対する部分に両カップを連結するフロントホックが設けられている。
d 左右2個のカップは、前面視(別紙「原告商品目録(原告)」添付写真の第2図及び第3図)でいずれも略半円形をしている。
(イ) 具体的形態
a 全体に肉厚で、ブヨブヨしていて、すぐに形が崩れる軟らかい質感を有している。
b カップは、表面及び裏面とも全体に肌色のシリコンを薄いビニールで包んだような半透明上の膜で覆われ、周辺部ほど肌色が薄くなり、表面には細かな皺が寄る。
c カップの裏面は、粘着層に由来する光沢がある。
イ 原告商品が市場で販売されるより前に、次のブラジャーが市場で販売されていたことは、当事者間に争いがない。
(ア) 商品名「MAGICUPS」(検乙1)
(イ) 商品名「Swivelift」(検乙2)
(ウ) 商品名「STAYKUPS」(検乙3)
(エ) 商品名「The Clearly Natural」(検乙7)
(オ) 商品名「Extreme Plunge」(検乙8)
ウ 原告商品の基本的形態とこれら従来商品の基本的形態とを比較検討すると次のとおりである。
(ア) 「MAGICUPS」は、原告商品の基本的形態のうちのa及びbを備えている点で共通するが、同cを備えておらず、同dについてはカップの形状が異なる上、カップの周縁部にカップ裏面を身体とテープで接着させるための平坦部が設けられている点で異なる。
(イ) 「Swivelift」も「MAGICUPS」と同様である。
(ウ) 「STAYKUPS」は、原告商品の基本的形態のうちのa、b及びcを備えているが、同dについてはカップの形状が異なる上、カップの周縁部にカップ裏面を身体とテープで接着させるための平坦部が設けられている点で異なる。
(エ) 「The Clearly Natural」は、そもそも左右のカップが一体となっていて、原告商品の基本的形態のうちのa、cを具備しない。また、肩ひもは具備しないが、カップ横から脇にかけて伸ばされた部分を具備しており、この部分の裏面を身体とテープで接着させる構造になっていることから同bと異なる。なおカップ自体の形状は同dと共通している。
(オ) 「Extreme Plunge」も、「The Clearly Natural」と同様である。
エ このように、原告商品の基本的形態の各構成要素はいずれも従来商品の中に見られるものであるが、従来商品は、いずれも原告商品の基本的形態の構成要素の一部を具備するにとどまり、原告商品の基本的形態の構成要素の全てを具備したものは存しない。したがって、原告商品の形態上の特徴は、まず、その基本的形態において、従来商品では一部ずつ採用されていた個々の構成要素を1個の商品形態の中に併せて採用した点にあるといえる。
 しかし同時に、原告商品の前記具体的形態も、カップ表面が布地様で、レースや柄模様で装飾的な形態を追求する一般的なブラジャー(前掲の各検乙号証のブラジャーは、いずれもカップ表面が布地様であるし、乙1の各号、乙12の2ないし7及び9に見られるブラジャーは装飾を凝らしている。)とは対極に位置し、被告が主張するように人間のコラーゲン質を想起させるようなブヨブヨした生々しい質感を有する点で例を見ないものであり、やはり原告商品の形態の大きな特徴をなすものであるというべきである。
 なおこの点について原告は、カップ裏面に粘着層を備えていることを原告商品の形態上の特徴であると主張する。確かに、原告商品がその基本的形態において、肩ひも及び横ベルトを備えないのみならず、周縁部に平坦部を設けないカップ形状を採用することができたのは、原告商品を身体表面に装着させる手段としてカップ裏面に粘着層を備えたことによるところが大きいと認められる。しかし、不正競争防止法2条1項3号にいう「商品の形態」とは、商品の外観の態様をいい、商品の外観として視覚的に感得されるものであることを要するところ、カップの裏面に粘着層を備えていることは、原告商品の物理的又は技術的な構造を成すものではあるが、粘着層の有無自体は看者によって視覚的に感得されるものではないから、それ自体を原告商品の形態の一要素として把握することはできない。もっとも、粘着層の存在が商品の視覚的外観に何らかの形で発現している場合には、その発現した態様を商品形態の一要素として把握し得ることは当然であり、原告商品の場合には、粘着層に由来する光沢があること(前記認定に係る原告商品の具体的形態c)として把握することができる。
オ このように原告商品の形態は、その基本的形態及び具体的形態ともに特徴があるから、これが「同種の商品が通常有する形態」であるとはいえない。
 なお被告は、前記従来商品の他に、種々の特許公報に記載されたブラジャーの形態を指摘する。しかし、不正競争防止法2条1項3号は、先行者が資金や労力を投下して開発・商品化した新たな商品の形態について、後行者がこれを模倣して先行者の開発成果にただ乗りするのを防止する趣旨に出るものであるから、「同種の商品が通常有する形態」であるか否かは、実際に商品化されたものに基づいて判断すべきであり、単に特許公報に図面が記載されているだけでは足りないというべきである。
 また、被告は、原告商品の形態は「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」なるタイプのブラジャーにおいて、その機能及び効用を実現するために必然的に選択される形態であると主張する。しかし、被告が「ストラップレス・バックレス・ブラジャー」なるタイプのブラジャーであると主張する前記従来商品の商品形態と原告の商品形態とが、基本的形態及び具体的形態のいずれにおいても相違していることは先に述べたとおりであるから、原告商品の形態が、同種の商品の機能及び効用を実現するために必然的に選択される形態であるとはいえず、この意味で「同種の商品が通常有する形態」であるともいえない。
(2) 争点(3)イ(模倣性)について
ア 検甲2号証によれば、被告商品の形態は、次のとおりであると認められる。
(ア) 基本的形態
a 独立した左右2個のカップから成るブラジャーである。
b 肩ひも、横ベルト等の身体に装着する部材が全くない。
c 2個のカップの相対する部分に両カップを連結するフロントホックが設けられている。
d 左右2個のカップは、前面視(別紙「イ号物件目録」添付写真の第2図及び第3図)でいずれも略半円形をしている。
(イ) 具体的形態
a 全体に張りのある平滑で硬めの質感を有している。
b カップは、肌色で、全体に卓球のラケット面のようなラバー製品を思わせる艶がある。
c カップの裏面は、粘着層に由来する光沢がある。
イ 不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは、当該他人の商品形態に依拠して、これと形態が同一であるか実質的に同一といえるほどに酷似した形態の商品を作り出すことを意味し、商品形態が実質的に同一であるといえるためには、商品の基本的形態のみならず具体的形態においても実質的に同一であることが必要である。
 そこで、先に認定した原告商品の形態と被告商品の形態とを比較すると、両者は、基本的形態とカップの裏面の具体的形態において共通するが、カップの質感や艶といった具体的形態において相違がある。そして、先に争点(3)アについて述べたとおり、原告商品の形態の特徴は、その基本的形態において、従来商品では一部ずつ採用されていた個々の構成要素を1個の商品形態の中に併せて採用した点にあるのみならず、その具体的形態において、カップ表面が布地様で、レースや柄模様で装飾的な形態を追求する一般的なブラジャーとは対極的に、人間のコラーゲン質を想起させるようなブヨブヨした生々しい質感を有する点にもあるところ、被告商品は、その具体的形態に起因して、原告商品のようなブヨブヨした生々しさを感じさせず、ラバー製品のような艶のある硬い質感を感じさせる点で形態的印象を異にしている。
 また、弁論の全趣旨によれば、このような質感の相違は、いずれも材質等を工夫することにより、@原告商品では重量が165gである(乙9の1)のに対して、被告商品では重量を99gと軽量化したこと(乙9の2)や、A実際に装着した際の乳房の形状を補正する機能の点において、原告商品ではカップが軟らかいために形が崩れてしまうのに対し、被告商品ではカップを硬くして形が崩れることなく保持される(乙8の7)ようにしたことに由来するものであると認められる。上記@、Aの相違点は、いずれもブラジャーの機能上重要なものといえるから、上記材質等の工夫により質感の相違をもたらしたことが無用な形態上の改変であるということはできない。
 そうすると、原告商品と被告商品の各具体的形態における前記相違は、その基本的形態が同一であることを考慮しても、この相違が微細な差異にすぎないとはいい難く、両商品の形態が実質的に同一であるとまではいえない。
ウ したがって、原告の不正競争防止法2条1項3号に基づく主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
2 不正競争防止法2条1項1号の主張について
(1) 争点(1)ア(周知商品表示性)について
ア 後掲証拠によれば、平成15年における原告商品の新聞及び雑誌での紹介について、次の事実が認められる。
(ア) 原告商品は、我が国においては、平成15年2月ないし3月ころから販売されたが、同年の「女性セブン」6月12日号において、「噂のブラで谷間作ってみました」との見出しの下、3頁にわたって原告商品を紹介する記事が掲載された。そこでは、「どんなにセクシーな服を着ても絶対に見えず、しっかり谷間をメイクする”究極のブラ”として、主婦、OLから銀座のホステスまで、世の女性に話題沸騰中の”ヌーブラ”」と記載され、原告の代表取締役の「現在は月に5万個売れています」との発言が掲載された。(甲3の1)
(イ) 雑誌「Caz」6月23日号において、原告商品は、1頁の中に、他の8種類の商品と共に紹介された。(甲3の2)
(ウ) 雑誌「DIME」7月3日号において、「真夏のオンナは磨き込んだ”背中”が眩い」との見出しの下、他の7種類の商品ないしサービスと共に原告商品が紹介された。(甲3の3)
(エ) 雑誌「bea’s up」7月号において、6個のプレゼント商品の一つとして掲載された。(甲3の4)
(オ) 雑誌「MISS」7月号において、「肌見せNG立ち直りGOODS」として、他の3種類の商品と共に紹介された。(甲3の5)
(カ) 8月12日の毎日新聞夕刊(大阪本社版)1面の「’03夏写 かんさい経済」欄において、原告商品が紹介され、「この夏の大ヒットは、米国生まれの『ヌーブラ』」、「輸入代理店の『ゴールドフラッグ』(東大阪市)は、『3月の輸入開始以来、全国で売り切れ続出』。高島屋大阪店では、7月末までの4カ月で3250個が売れた。今は予約販売。類似品も出回るほどの人気だ。」との記載がある。(甲3の6)
(キ) 雑誌「AERA」8月18−25日号において、「人気爆発 予約もしてくれません ヌーブラどこにもなし」との見出しの下、原告商品の関する1頁の記事が掲載された。そこでは、「あまりの人気にどこでも品切れ。まるっきり手に入らないブラジャーがある。その名は『ヌーブラ』。今年2月の発売以来、10万本以上売れた。」との記載がある。(甲3の7)
(ク) 9月24日の「繊研新聞」において、2003年春夏百貨店レディスバイヤーズ賞の話題賞に原告商品が選ばれて掲載された。(甲3の8)
(ケ) 雑誌「日経トレンディ」10月号において、原告商品が、他の3種類の女性向け商品と共に紹介された。(甲3の9)
(コ) 雑誌「DIME」10月2日号において、原告商品が、他の6種類の女性向け商品と共に紹介された。そこでは、「『ヌーブラ』は、…アメリカでの製造が追いつかず、都内大手百貨店では、約1000人が予約待ちとなる騒ぎとなった。いずれの高級品にも、今はより低価格な類似品が現われている。しかし、それを寄せつけないだけの高機能が支持され、ヒットを続けている。」との記載があり、また平成15年2月を100とした原告商品の月別売上個数比が、3月は200、4月は500、5月ないし8月は2000となることが記載されている。(甲3の10)
(サ) 雑誌「Can Cam」12月号において、原告商品が、他の6種類の女性向け商品と共に紹介された。そこでは、半年で10万枚の大ヒットと記載されている。(甲3の11)
(シ) 雑誌「日経トレンディ」12月号において、原告商品が「Best 30 for 2003」の17位として紹介された。そこでは、「ユニークなブラジャーとしてテレビ番組が報じたところ、あっという間にヒット。8月までに10万本以上が売れた。」「ピーク時には百貨店で購入の予約待ちをする客が1000人に及び、多数の類似品が出回った。」との記載がある。(甲3の12)
(ス) 12月4日の「日経流通新聞」において、原告商品が「2003年ヒット商品番付」の東前頭6枚目に位置付けられて紹介された。(甲3の13)
(セ) 雑誌「TOKYO 1週間」12月23日号において、「流行りモノ グッズ部門」の1位として、原告商品が紹介された。そこでは、「現在までの販売数は21万個。」との記載がある。(甲3の14)
(ソ) 雑誌「日経ビジネス」12月15日号において、「あなたの知らないヒット商品」の4位として原告商品が紹介された。そこでは、「今春登場し、国内では正規輸入品…だけで21万個、並行輸入品や類似商品も合わせると50万個以上が売れたと見られる。」との記載がある。(甲3の15)
(タ) 雑誌「女性セブン」12月18日号において、他の商品と共に原告商品が紹介された。(甲3の16)
イ 検甲第3号証によれば、原告商品は、次のとおりテレビ番組で紹介されたことが認められる。
(ア) 平成15年3月6日放送の「ベストタイム」(TBS)
(イ) 同年4月3日放送の「あさリラ!」(読売テレビ)
(ウ) 同年9月14日放送の「大阪ほんわかテレビ」(読売テレビ)
 また、(エ)同年9月4日放送の「痛快!エブリディ」(関西テレビ)では、話題のシリコンブラジャーが安価だというので購入したところ、品質の悪い商品だったという一般消費者からの苦情が紹介されている。
ウ 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告商品の類似品として、次のものが存在したことが認められる。
(ア) 原告商品の形態とよく類似する「Fancy Bra」が、平成15年8月ころの時点で販売されていた。(乙10の各号、乙15の各号)
(イ) 原告商品の形態とよく類似する「Pas Bra」が、平成15年夏ころの時点で販売されていた。(乙17の各号)
(ウ) 被告は、平成15年7月ころ、台湾で販売されている「Skin Bra」という商品の取扱いを打診された。同商品の形態は原告商品とよく類似している。(乙16の各号)
エ 以上の認定事実に基づき判断する。
(ア) 商品の形態も、それが他の同種の商品と識別し得る顕著な特徴を有するものである場合には、商品の出所を表示する商品表示として機能し得るものであり、原告商品には、先に争点(3)アで述べた形態的特徴があるから、その商品形態は、商品表示として機能し得る適格を有するものであるといえる。
 そして、原告商品は、平成15年2月又は3月の日本国内での販売開始後、テレビ番組で紹介され、特に夏物衣料の販売が始まる同年5月ころからヒット商品となり、6月以降は何度も雑誌に取り上げられ、同年8月ころには製造が追いつかず、大手百貨店では予約待ちの状態となったことからすると、原告商品は短期間に集中的に需要者の間に浸透していったものといえる。
 これらからすると、原告商品の形態が原告の周知な商品表示となったとの原告の主張にも首肯し得るところがある。
(イ) しかし他方、原告商品が話題になるに伴い、早くも平成15年6月ころから原告商品と形態がよく似た類似品が販売されるようになり、8月に入ると、このような類似品が出回っていることも新聞で記載されるようになったこと(前記ア(カ))からして、類似品の数も増大したものと推認される。また、同時に並行輸入品も出回るようになり、平成15年末時点では、原告を通した原告商品の売上げが約21万個であるのに対し、類似品と並行輸入品を合わせた売上げが約29万個と(前記ア(ソ))、類似品と並行輸入品の売上量が原告を通じた原告商品の売上量を上回る事態となっている。
 そして、これらの類似品の形態は、前記「Fancy Bra」や「Pas Bra」、そして被告が取扱いの打診を受けた「Skin Bra」の各形態に照らして、原告商品とよく似ており、商品形態のみでは容易に識別することができないものであったと推認される。
 また、並行輸入品については、その流通に原告は介在していないから、これが原告の商品であるとはいえず、この商品形態が原告の出所を表示するものとはいえないところ、並行輸入品の商品形態は、当然ながら原告商品のものと同一である。
 このように、原告商品が日本で販売され、話題になっていったころから、類似品が出回り始め、原告商品の最盛期となった平成15年夏の時点では類似品も増加し、並行輸入品も出回るようになり、同年末の時点ではそれらの売上量の方が原告商品の売上量を上回る状態であったことからすると、原告商品の形態は、原告の出所を示す商品表示としての周知性を獲得するより前に、多数の類似品及び並行輸入品が出回ったことにより、商品形態のみで原告の出所を識別するだけの周知性を獲得するには至らなかったと認めるのが相当である。
 先に認定した雑誌の記事の中には、平成15年10月の時点で、原告商品は、低価格の類似品が出回る中でもそれを寄せ付けないだけの高機能が支持されてヒットを続けているとの記載がある(前記ア(コ))が、この記載は、類似する形態の商品の間でも原告商品は品質面で消費者から支持されているということを示すにとどまり、商品形態自体によって原告の出所が識別されていることを裏付けるものとはいえない。
 また、テレビ番組において、一般消費者から、話題のシリコン製ブラジャーが安価だというので購入したところ品質が悪かったという苦情が寄せられたことがある(前記イ(ウ))が、多数の類似品及び並行輸入品の存在を前提とすれば、このような例があるからといって、原告商品の商品形態が原告の出所を識別するだけの周知性を獲得するに至らなかったという前記認定は左右されない。
(ウ) したがって、原告商品の商品形態が、原告の出所を表示する周知な商品表示であるとは認められない。
オ 以上より、原告の不正競争防止法2条1項1号に基づく主張は、その余について判断するまでもなく理由がない。
3 不正競争防止法2条1項2号に基づく主張について
 先に2で認定、説示したところからすると、原告商品の商品形態が原告の出所を表示する著名な商品表示であるとは到底認められないから、原告の不正競争防止法2条1項2号に基づく主張は、その余について判断するまでもなく理由がない。
4 よって、原告の本件請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 田中俊次
 裁判官 高松宏之
 裁判官 西森みゆき
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