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【事件名】楽曲の使用料事件(ケーブルテレビ3社)(2)
【年月日】平成17年8月30日
 知財高裁 平成17年(ネ)第10012号 著作権使用差止等、著作権使用料請求控訴事件
 (旧事件名・東京高裁平成16年(ネ)第3428号/原審・東京地裁平成13年(ワ)第20747号、同第20745号)
 (口頭弁論終結日 平成17年7月1日)

判決
控訴人 社団法人日本音楽著作権協会
訴訟代理人弁護士 藤原浩
同 石島美也子
同 市村直也
被控訴人 成田ケーブルテレビ株式会社
被控訴人 銚子テレビ放送株式会社
被控訴人 行田ケーブルテレビ株式会社
3名訴訟代理人弁護士 中田祐児
同 島尾大次


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2(1) 被控訴人成田ケーブルテレビ株式会社は、自己が行う有線テレビジョン放送のうち、別紙1の(1)記載の地上波アナログ放送、同(2)記載のBSアナログ放送及び同(3)記載のBSデジタル放送の各同時再送信を除く有線テレビジョン放送(ラジオ放送の同時再送信その他の音声放送を含む)において、映画、ドラマ、音楽、ニュース、スポーツ、クイズ、バラエティその他すべての番組中に使用されている別添楽曲リスト記載の音楽著作物を使用してはならない。
(2) 被控訴人成田ケーブルテレビ株式会社は、控訴人に対し、749万6993円及び内664万1857円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人の被控訴人成田ケーブルテレビ株式会社に対するその余の請求を棄却する。
3(1) 被控訴人銚子テレビ放送株式会社は、自己が行う有線テレビジョン放送のうち、別紙2の(1)記載の地上波アナログ放送、同(2)記載のBSアナログ放送及び同(3)記載のBSデジタル放送の各同時再送信を除く有線テレビジョン放送(ラジオ放送の同時再送信その他の音声放送を含む)において、映画、ドラマ、音楽、ニュース、スポーツ、クイズ、バラエティその他すべての番組中に使用されている別添楽曲リスト記載の音楽著作物を使用してはならない。
(2) 被控訴人銚子テレビ放送株式会社は、控訴人に対し、86万1887円及び内77万0504円対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 控訴人の被控訴人銚子テレビ放送株式会社に対するその余の請求を棄却する。
4 被控訴人行田ケーブルテレビ株式会社は、控訴人に対し、292万7809円及び内226万9601円に対する平成13年10月12日から、内65万8208円に対する平成14年4月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、控訴人と被控訴人行田ケーブルテレビ株式会社との間においては第1、2審とも被控訴人行田ケーブルテレビ株式会社の負担とする。控訴人と被控訴人成田ケーブルテレビ株式会社及び同銚子テレビ放送株式会社との間においては、第1、2審を通じてこれを10分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人成田ケーブルテレビ株式会社及び同銚子テレビ放送株式会社の負担とする。
6 この判決の第2項(2)、第3項(2)及び第4項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 主文第2項(1)と同旨
3 主文第3項(1)と同旨
4(1) 被控訴人成田ケーブルテレビ株式会社は、控訴人に対し、889万7598円及び内776万4363円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人銚子テレビ放送株式会社は、控訴人に対し、98万9954円及び内87万4770円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 主文第4項と同旨
5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
6 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本件は、控訴人(一審原告)が、被控訴人(一審被告)成田ケーブルテレビ株式会社(以下「被控訴人成田ケーブルテレビ」という。)及び被控訴人(一審被告)銚子テレビ株式会社(以下「被控訴人銚子テレビ」という。)に対しては、控訴人との間で著作物利用許諾契約を締結しないまま、CS放送の同時再送信等に控訴人の管理著作物を使用していると主張して、別添楽曲リスト記載の音楽著作物を有線放送に使用することの差止めを請求するとともに、使用料相当の損害金又は不当利得金の支払を求め、被控訴人(一審被告)行田ケーブルテレビ株式会社(以下「被控訴人行田ケーブルテレビ」という。)に対しては、同被控訴人が控訴人との間に締結された著作物使用許諾契約に基づき、CS放送の同時再送信等に関し、管理著作物の使用料の支払を求めている事案である。
 平成16年5月21日になされた原判決は、被控訴人らによる管理著作物の使用は、控訴人外4団体と被控訴人らとの間に締結された5団体契約による許諾の対象とされていたとして、控訴人の請求をいずれも棄却したので、控訴人はこれを不服として本件控訴を提起したものである。
 本件訴訟の争点は多岐にわたるが、最も大きな争点は、被控訴人らがCS放送の同時再送信を行うことが5団体契約により解決済みであるかどうかである。なお、控訴人は、当審に至り、平成13年度分の請求を追加した。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 控訴人は、著作権管理事業法に基づき音楽著作物についての著作権等管理事業者としての登録を受けた社団法人であり、内・外国の音楽著作物の著作権者からその著作権ないし支分権(演奏権、上映権、公衆送信権等)の移転を受けるなどして、これを管理し(内国著作物についてはその著作権者と著作権信託契約を締結し、外国著作物については我が国の締結した著作権条約に加盟する諸外国の著作権仲介団体との相互管理契約を締結している。)、国内のラジオ、テレビの放送事業者を始めとして、レコード、映画、出版、興業、社交場、有線放送等各種の分野における音楽の利用者に対して、音楽著作物の利用を許諾し利用者から著作物使用料を徴収して、これを内外の著作権者に分配することを主たる目的とする社団法人であり、平成13年10月1日の著作権等管理事業法施行前においては、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(以下「仲介業務法」という。)に基づき著作権に関する仲介業務を行うことの許可を受けた著作権仲介団体であった。JASRACと表現されることもある。
イ 被控訴人成田ケーブルテレビは、有線テレビジョン放送法(以下「有テレ法」という。)による放送事業等を目的として、昭和62年4月3日に設立された株式会社であり、平成元年9月8日、有テレ法3条に基づき、有線テレビジョン放送施設の設置について郵政大臣の許可を受け、平成2年10月28日からサービスを開始し、以後現在に至るまで、有線テレビジョン放送を継続して行う有線放送事業者である。
ウ 被控訴人銚子テレビは、有線による音声、映像放送の再送信及び自主的な番組、広告の送出等を目的として、昭和62年4月20日に設立された株式会社であり、平成元年9月8日、有テレ法3条に基づき、有線テレビジョン放送施設の設置について郵政大臣の許可を受け、平成2年4月24日から加入者向けサービスを開始し、以後現在に至るまで、有線テレビジョン放送を継続して行う有線放送事業者である。
エ 被控訴人行田ケーブルテレビは、有テレ法による放送事業等を目的として、平成元年1月13日に設立された株式会社であり、平成3年2月5日、有テレ法3条に基づき、有線テレビジョン放送施設の設置について郵政大臣の許可を受け、平成4年4月1日からサービスを開始し、以後現在に至るまで、有線テレビジョン放送を継続して行う有線放送事業者である。
(2) 控訴人の使用料規程
 控訴人においては、管理著作物の使用に関し、文化庁長官の認可を受けた著作物使用料規程(甲3、以下「本件使用料規程」という。)を定めていたが(仲介業務法2条)、有線テレビジョン放送に管理著作物を使用する場合の使用料については、同規程「第2章 著作物の使用料率に関する事項」の「第10節 有線放送」の「2 有線テレビジョン放送(CATV)」の項において、下記のとおり定められている。
 記
 「 有線テレビジョン放送に著作物を使用する場合の使用料は、当該有線テレビジョン放送事業者(以下「有線テレビ事業者」という。)の営業収入(受信料収入及び広告料収入(消費税額を含まないもの)をいう。)の1/100とする。
 (有線テレビジョン放送の備考)
 @ 有線テレビ事業者が、無線テレビジョン放送を受けて行なうテレビジョン放送の再送信において著作物を使用する場合の使用料は、日本音楽著作権協会を含む著作権・著作隣接権団体が当該事業者と協議して定める料率によることができる。
 A 有線テレビ事業者が、再送信のほかに有線テレビジョン放送により著作物を使用して自主放送を行なう場合の使用料は、次の算式により算出する。
 (営業収入×自主放送時間/全放送時間)×1/100=使用料
 B 有線テレビ事業者の営業収入が算出できない場合は、当該有線テレビ事業者の受信世帯数、放送時間その他の使用状況を参酌して使用料額を定めることができる。
 C 有線テレビジョン放送法第9条に基づき、他の有線テレビ事業者からその施設の提供を受けて、有線テレビジョン放送により著作物を使用して自主放送を行なう場合の使用料は、施設の提供を行なう有線テレビ事業者が自主放送を行なう場合の使用料に準じて定めることができる。」
(3) 控訴人と被控訴人行田ケーブルテレビとの本件使用許諾契約
 控訴人(代表者・理事長P1)は、平成4年3月31日、被控訴人行田ケーブルテレビ(代表者・代表取締役P2)との間で、管理著作物を有線テレビジョン放送の自主放送及び音声放送(音声自主放送及びラジオ放送の同時再送信をいう。以下同じ)に使用することに関し、下記の使用許諾契約(以下「本件行田使用許諾契約」という。)を締結した(甲31)。本件行田使用許諾契約は、控訴人の定める統一書式(甲4。以下、上記統一書式に基づく契約を「本件使用許諾契約」という。)によるものであり、控訴人は他の有線テレビジョン放送事業者とも本件使用許諾契約と同内容の契約を締結しているが、被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビとの間では、本件使用許諾契約を締結していない。
 記
 「 社団法人日本音楽著作権協会(以下「甲」という。)と行田ケーブルテレビ(株)(以下「乙」という。)との間において、甲の管理に属する音楽著作物(以下「管理著作物」という。)を、乙が行う有線テレビジョン放送の自主放送及び音声放送(音声自主放送及びラジオ放送の同時再送信をいう。以下同じ。)において使用することに関し、以下のとおり契約を締結する。
 (使用許諾)
 第1条 甲は、乙が、別紙(判決注;省略)音楽著作物使用許諾申請書記載の使用条件の範囲内において、管理著作物を有線放送使用することを許諾する。
 2.乙は、前項の許諾に基づく管理著作物を使用する権利を他に譲渡することはできない。
 (使用料の算出)
 第2条 甲は、本契約期間に該当する年度(年度区分は4月から翌年3月までとする。以下同じ。)の前年度における乙の営業収入(受信料収入及び広告料収入(消費税額を含まないもの)をいう。以下同じ。)に基づいて、次の算式により算出して得た金額を本契約期間に該当する年度の使用料とする。
 @ 有線テレビジョン放送の自主放送に管理著作物を使用する場合
 本契約期間に該当する年度の前年度における営業収入×自主放送時間/全放送時間×1/100+消費税相当額=使用料
 A 音声放送に管理著作物を使用する場合
 本契約期間に該当する年度の前年度における音声放送に係る営業収入×1/100+消費税相当額=使用料
 2.乙において本契約期間に該当する年度の前年度における営業収入がない場合は、甲は乙と協議のうえ使用料を定めることができる。
 (営業収入及び放送時間の報告義務)
 第3条 乙は、本契約期間に該当する年度の前年度における1年間の次に掲げる営業収入及び放送時間を甲所定の報告書に記入し、証憑書類を添付して当該年度終了後3ヶ月以内に甲に提出するものとする。
 @ 有線テレビジョン放送の自主放送及び音声放送に係る営業収入
 A 有線テレビジョン放送の自主放送時間及び全放送時間並びに音声放送の放送時間
 (営業収入及び使用状況等の調査)
 第4条 甲は、乙の本契約期間に該当する年度の前年度における営業収入及び管理著作物の使用状況等を確認するために、乙の営業時間中に乙の事務所において関係書類を閲覧し、調査することができる。ただし、日時については、甲は乙にたいして1週間前までに通知する。
 (使用曲目の報告義務)
 第5条 乙は、各四半期(4月から6月まで、7月から9月まで、10月から12月まで、翌年1月から3月まで)ごとに、乙が有線テレビジョン放送及び音声自主放送において甲があらかじめ指定する1週間に使用した管理著作物について、甲所定の報告書に記入して甲の指定する期日までに原告に提出する。
 (使用条件の変更)
 第6条 乙は、音楽著作物使用許諾申請書記載の使用条件を変更する場合は、その都度遅滞なく書面をもって甲に通知し、甲の承認を受けるものとする。
 (著作者人格権の遵守)
 第7条 乙は、管理著作物を使用する場合、著作者に無断で著作物の題名を変更し、又は著作物に改ざんその他の変更を加えるなどして著作者人格権を侵害してはならない。
 (契約の解除)
 第8条 甲は、乙がこの契約の全部または一部を履行しないときは、10日以内の期限を定めてその履行を請求し、その期限内になお履行されないときは、甲はこの契約を解除することができる。
 (信義則)
 第9条 甲乙双方は、この契約に定める各条項を誠実に履行しなければならない。
 2.甲乙双方は、本契約に定めのない事項又は契約条項の解釈に疑義が生じたときは、誠意をもって協議し、その解決にあたるものとする。
 (契約期間)
 第10条 本契約の有効期間は、平成4年4月1日から平成5年3月31日までの1年間とする。
 (契約の更新)
 第11条 本契約の契約期間満了時に当事者のいずれからも本契約について特に異議を述べないときは、契約期間満了時の契約内容と同一の条件をもって契約を更新したものとする。
 (管轄裁判所)
 第12条 甲乙双方の合意により、本契約に関する紛争事件についての管轄裁判所を東京地方裁判所とする。
 (契約の変更)
 第13条 本契約に関する修正又は変更は、文書によらなければその効力がないものとする。」
(4) 被控訴人らによる管理著作物の使用状況
ア 有線放送事業者が加入視聴者に送信している番組には下記のようなものがあり、そのほとんどの番組において何らかの形で音楽が使用されている。控訴人の許諾を得ることなく、管理著作物を有線放送において使用することは、管理著作物の著作権者が有する公衆送信権を侵害するものとなるため、有線放送事業を行う以上、管理著作物についての権利処理手続が必要となる。
 記
 @地上波テレビ放送の同時再送信
 ABS(放送衛星)テレビ放送の同時再送信
 B地上波ラジオ放送・BSラジオ放送の同時再送信
 CCS(通信衛星)放送のチャンネル(委託放送事業者)の同時再送信
 D自主制作番組の送信
 E番組供給事業者等からテープなどに固定された個別番組を購入し送信
 F音楽を使用しない文字放送その他の番組の送信
イ 被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビが有線放送している番組は、別表1−@「被告成田・銚子の有線放送の内容とJASRACから放送事業者への放送許諾の有無」記載のとおりであり、被控訴人行田ケーブルテレビが有線放送している番組は、別表1−A「被告行田の有線放送の内容とJASRACから放送事業者への放送許諾の有無」記載のとおりである。したがって、被控訴人らにおいては、少なくとも上記アの@ないしDに該当する各種番組を有線放送していることになる。
ウ 上記@ないしDの番組のうち、@ないしBについては、一般新聞のテレビ・ラジオ番組欄等にその内容が掲載されており、ほとんどの番組において音楽の著作物が使用されている。そして、CS放送のチャンネルについても、以下に例を挙げて説明するとおり、控訴人の管理著作物が使用されているものである。なお、以下に挙げるチャンネルは、いずれも、被控訴人らが、CS放送を受信して、そのうち当該チャンネルについて、これをそのまま同時再送信しているものである。
(ア) スペースシャワーTV
 委託放送事業者である株式会社スペースシャワーネットワークが供給している音楽専門チャンネルで、日本のロック・ポップスを中心に、様々なジャンルの音楽が24時間放送されている。例えば、平成12年4月から平成13年3月までの間に、控訴人の管理楽曲である「桜の時」が37回使用されたことが、株式会社スペースシャワーネットワークから控訴人に対して報告されている。
(イ) 衛星劇場
 委託放送事業者である株式会社衛星劇場が供給している映画専門チャンネルで、日本映画を中心に、あらゆるジャンルの映画が、1か月100タイトルのプログラムで放送されている。例えば、平成12年5月19日に放送された映画「釣りバカ日誌スペシャル」には、控訴人の管理楽曲である背景音楽「釣りバカ日誌スペシャルBGM」が収録されている。
エ 以上のとおり、被控訴人らは、その有線放送に管理著作物を使用しているものであるが、被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビは、それぞれ、有線放送のサービス開始以来現在に至るまで、控訴人との間で、管理著作物の使用許諾契約を締結することなく、有線放送に管理著作物を使用し、控訴人の管理著作物の公衆送信権を侵害している。また、被控訴人行田ケーブルテレビは、平成8年以降、本件行田使用許諾契約に定められた使用料の支払をしないまま管理著作物を有線放送に使用している。
(5) 損害の発生
 そうすると控訴人は、被控訴人らの前記各行為により、金銭的には少なくとも下記請求額の損害を受けていることになる。
 記
ア 被控訴人成田ケーブルテレビに対する請求額
 別表2−@記載のとおり、各年度の使用料相当額の合計624万1857円と既経過遅延損害金又は法定利息(不当利得の場合。以下同じ。)85万5136円及び弁護士費用148万9787円の総合計858万6780円と、前記使用料相当額と弁護士費用の合計773万1644円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金又は法定利息。
イ 被控訴人銚子テレビに対する請求額
 別表2−A記載のとおり、各年度の使用料相当額の合計72万0504円と既経過遅延損害金又は法定利息9万1383円及び弁護士費用17万4511円の総合計98万6398円と、前記使用料相当額と弁護士費用の合計89万5015円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金又は法定利息。
ウ 被控訴人行田ケーブルテレビに対する請求額
 別表2−B記載のとおり、各年度の使用料合計292万7809円と、平成8年ないし平成12年の使用料合計226万9601円に対する平成13年10月12日(訴状送達の日の翌日)から及び平成13年の使用料65万8208円に対する平成14年4月1日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金。
(6) まとめ
 よって、控訴人(一審原告)が被控訴人(一審被告)らに対し、
ア 一審においては、損害賠償等としては平成12年度までの使用料相当額又は使用料等の請求であり、具体的には、
(ア) 被控訴人成田ケーブルテレビに対しては、
a 主文第2項(1)掲記の差止めと、
b 原判決添付別表2−B記載のとおり、平成3年から平成12年までの使用料相当額合計626万9123円と既経過遅延損害金113万3235円及び弁護士費用149万5240円の総合計889万7598円と、前記使用料相当額と弁護士費用の合計776万4363円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金又は法定利息の支払を、
(イ) 被控訴人銚子テレビに対しては、
a 主文第3項(1)掲記の差止めと、
b 原判決添付別表3−B記載のとおり、平成3年から平成12年までの使用料相当額合計70万3633円と既経過遅延損害金11万5184円及び弁護士費用17万1137円の総合計98万9954円と、前記使用料相当額と弁護士費用の合計87万4770円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金又は法定利息の支払を、
(ウ) 被控訴人行田ケーブルテレビに対しては、
 原判決添付別表1−@記載のとおり、平成8年から平成12年までの使用料合計226万9601円及びこれに対する平成13年10月12日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を、
 求めていた。
イ その後、当審に至って控訴人は、平成13年までの使用料相当額等の支払を含めた請求の拡張と減縮を含む訴えの変更を行い、その結果、控訴人は、
(ア) 被控訴人成田ケーブルテレビに対しては、
a 主文第2項(1)掲記の差止めと、
b 別表2−@記載の各年度の使用料相当額の合計624万1857円(損害賠償金又は不当利得金)と既経過遅延損害金又は法定利息85万5136円及び弁護士費用148万9787円の総合計858万6780円を超える889万7598円と、前記使用料相当額と弁護士費用の合計773万1644円を超える776万4363円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金又は法定利息の支払を、
(イ) 被控訴人銚子テレビに対しては、
a 主文第3項(1)掲記の差止めと、
b 別表2−A記載の各年度の使用料相当額の合計72万0504円(損害賠償金又は不当利得金)と既経過遅延損害金又は法定利息9万1383円及び弁護士費用17万4511円の総合計98万6398円を超える98万9954円と、前記使用料相当額と弁護士費用の合計89万5015円の範囲内である87万4770円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金又は法定利息の支払を、
(ウ) 被控訴人行田ケーブルテレビに対しては、
 別表2−B記載の各年度の使用料合計292万7809円と、平成8年ないし平成12年の使用料合計226万9601円に対する平成13年10月12日から及び平成13年の使用料65万8208円に対する平成14年4月1日から各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を、
 それぞれ求める。
2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)ないし(3)の事実は認め、(4)、(5) は争う。
(2) 損害額に関する認否の補足
ア 仮に、本件において使用料ないし使用料相当額を支払うべき義務が被控訴人らにあるとしても、その額は、被控訴人成田ケーブルテレビについては原判決別表4の合計欄、被控訴人行田ケーブルテレビについては同5の合計欄、被控訴人銚子テレビについては同6の合計欄に記載された額が限度とされるべきである。
イ 有線放送では、契約世帯数が毎月変動するため、利用料収入については、期間中の利用者の増減が反映されるように、次の算式により計算すべきである。
 (算式T)当年度の契約世帯数×月額利用料×12か月
 なお、算式Tにおける「当年度の契約世帯数」は次の算式による。
 (算式U)期初の契約世帯数+{(期末の契約世帯数−期初の契約世帯数)÷2}
ウ 本件使用許諾契約において使用料算定の基礎となる「営業収入」については、自営電柱代及び番組費が控除されるべきである。
3 被控訴人らの抗弁
(1) 5団体契約による使用許諾
ア 控訴人を含む協同組合日本脚本家連盟(以下「日脚連」という。)・協同組合日本シナリオ作家協会・社団法人日本文芸著作権保護同盟・社団法人日本芸能実演家団体協議会の5団体(以下、単に「5団体」という。)は、平成3年6月12日に被控訴人成田ケーブルテレビとの間で(甲15)、平成3年7月16日に被控訴人銚子テレビとの間で(甲16)、平成4年7月6日に被控訴人行田ケーブルテレビとの間で(甲32)、それぞれ有線テレビジョン放送に関し、下記の内容の契約を締結した(以下「5団体契約」という。)。同契約においては、被控訴人らの行うCS放送の同時再送信も含めて合意されたものである。
 記
 「 社団法人日本音楽著作権協会、協同組合日本脚本家連盟、協同組合日本シナリオ作家協会、社団法人日本文芸著作権保護同盟(以下「甲ら」という。)と、社団法人日本芸能実演家団体協議会(以下「乙」という。)は、○○○(判決注;被控訴人のいずれか)(以下「丙」という。)との間に、有線テレビジョン放送に関し、以下のとおり契約を締結する。
 第1条(使用許諾)
 甲らは丙に対し、第2条に掲げる使用料(消費税を含まない。以下同じ)を支払うことを条件として、甲らがコントロールを及ぼしうる範囲に属する著作物を使用して制作された放送番組を、ケーブルによって変更を加えないで同時再送信することを許諾する。
 2 乙は、丙が第2条に掲げる補償金(消費税を含まない。以下同じ)を支払うことを条件として、乙の会員の実演によって制作された放送番組を、丙がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する。
 第2条(使用料、補償金の支払い)
 前条の使用料と補償金の合計金額は、丙が当該年度に受領すべき利用料総額に、各々次の料率を乗じて算出した額とする。
 A 区域内再送信は、1波について 0.015%
 B 区域外再送信は、1波について 0.09%
 但し、丙が支払う使用料と補償金の合計額は、受領すべき利用料総額の0.35%を限度とする。
 2 使用料及び補償金に課される消費税は、別途添付の上、丙から甲ら及び乙に支払う。
 第3条(利用料収入の報告)
 丙は、当該年度の利用料収入を甲ら及び乙に報告するものとし、当該年度終了後2か月以内に有線テレビジョン放送施行規則第36条の規定による業務運営状況報告書の写しにより、甲ら及び乙の代表者である協同組合日本脚本家連盟(以下「甲ら及び乙の代表者」という。)に報告する。
 第4条(使用料、補償金の支払い)
 丙は、甲ら及び乙に対し、第2条の使用料、補償金を当該年度終了後2か月以内に、甲ら及び乙の代表者の事務所に持参または送金して支払う。
 第5条(契約の解除)
 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は1か月間の通知催告の上、本契約を解除することができる。
 第6条(差止め請求と損害賠償請求)
 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は、丙に対し当該違反行為の停止と損害賠償を請求することができる。
 第7条(管轄裁判所の合意)
 甲ら乙及び丙は、本契約に関し紛争が生じたときの管轄裁判所を東京地方裁判所と定めることに合意する。
 第8条(契約期間)
 本契約の有効期間は、平成2年10月1日から平成3年3月31日までとする(判決注;被控訴人成田ケーブルテレビの場合。同銚子テレビの場合は「平成2年4月24日から平成3年3月31日」と、同行田ケーブルテレビの場合は「平成4年4月1日から平成5年3月31日」とされている。)。
 本契約の期間満了の日の1か月前までに、甲ら乙または丙から本契約の廃棄、変更について特別の意思表示が文書によってなされなかった場合は、期間満了の日の翌日から起算しさらに1か年間その効力を有する。以降の満期のときもまた同様とする。」
(2) 映画の著作物であることによる著作権行使の制限
 被控訴人らが有線放送する番組は、映画の著作物であるから、控訴人は著作権の主張をすることはできない。
ア テレビ番組は、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」、かつ、生放送番組を除き、ビデオテープ等の「物に固定されている著作物」であるから、著作権法にいう「映画の著作物」に該当する。そして、著作権法においては、映画の著作物について、著作権者は「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」と定められるとともに、「その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物」の著作者が、映画の著作物の著作者に当たらないことを明確にしている(著作権法16条)。そして、著作権法29条においては、「映画の著作物・・・の著作権は、その著作者が映画制作者に対し当該映画の著作物の制作に参加することを約束しているときは、当該映画制作者に帰属する」と定めている結果、映画の著作物については、他の著作物と異なり、著作権は映画制作者に帰属し、著作者は著作人格権のみを行使することになった。このように、著作権法は、「映画の著作物」という概念を認め(著作権法2条3項など)、一般的な著作物とは異なった扱いをしているが、このような著作権法上の特別な扱いは、映画の著作物の特殊な性格、すなわち、その制作に多数の関係者が関与し、しかも、莫大な費用がかかることから、投下資本の回収を容易にし、映画制作の意欲をかき立てる目的で、その権利関係を明確、単純化するためである。ところが、映画の著作物に使われた音楽その他の著作物の著作者が当該映画の著作物について何らかの権利を留保し、映画の著作物の著作権とは別に、自らの権利を主張することができるということになれば、著作権法がわざわざ映画の著作物という概念を認め、映画の著作者を「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」(16条)と法定し、著作権が映画制作者に帰属すると定めた意味が全く失われてしまう。
イ 最高裁平成13年10月25日第一小法廷判決・裁判集民事203号285頁(以下「最高裁キャンディ事件判決」という。)は、二次的著作物に関し、二次的著作物の著作者は、原著作物の著作者の合意によらなければその権利を行使できないと解されることを明らかにしたものであり、二次的著作物について共有著作物に関する著作権65条の規定を事実上、類推適用又は準用して、二次的著作物の著作者と原著作者との合意によらなければ権利を行使できないことを明らかにしたものと評価し得る。この最高裁キャンディ事件判決の趣旨は、映画の著作物における音楽関係の著作者についても及ぼすことが可能であり、これを映画の著作物と音楽の関係について当てはめたとき、権利行使の方法は次のとおりとなる。@まず、音楽を原著作物とし、これを映画的に翻案、複製して放送事業者が映画の著作物を制作した場合、二次的著作物である映画の著作物については、音楽家と放送事業者の二者の合意により行使しなければならない。A次に、音楽と脚本の両方を原著作物とし、これらを映画的に翻案、複製して放送事業者が映画の著作物を制作した場合、二次的著作物である映画の著作物については、音楽家と脚本家の放送事業者の3者の合意により行使しなければならない。@の場合、放送事業者は、映画の著作物を利用しようとする場合、音楽家との合意による必要があり、Aの場合にはさらに脚本家との合意による必要があるから、結局、放送事業者を介して、音楽家と脚本家と放送事業者の3者の合意によらなければ、二次的著作物である映画の著作物は利用できなくなる。Bまた、たとえば漫画家の漫画を原著作物とし、これを翻案して脚本、音楽が制作され、更にこの脚本、音楽を映画的に翻案、複製して放送事業者が映画の著作物を制作した場合、三次的著作物である映画の著作物については、漫画家(原著作者)、音楽家(二次的著作物の著作者)、脚本家(同)、放送事業者(三次的著作物の著作者)全員の合意により行使しなければならない。他方で、音楽、脚本は、漫画の二次的著作物に当たる以上、それぞれ漫画家と音楽家、漫画家と脚本家の合意によらなければ権利行使できない。
 以上のとおり、最高裁キャンディ事件判決の趣旨に照らすならば、映画の著作物たるテレビ番組について、控訴人は、他の権利者との合意によらなければ著作権を行使することができず、そもそも被控訴人らに対して著作権の主張をなし得る立場にないから、被控訴人らは、放送番組を有線放送するに対して、控訴人から許諾を得る必要はない。
(3) 履行補助行為であることによる制限
 同時再送信の本質は、有テレ法及び同法施行規則、著作権法の規定から、有線放送事業者による放送事業者の「放送」の履行補助行為にすぎない。同時再送信による著作物の使用は、有線放送事業者が、放送事業者の放送を内容を変更せず、かつ、放送と同時に有線放送するものであるから、有線放送事業者が、放送事業者とは別に、著作物を使用しているとはいえないものである。したがって、同時再送信は、放送事業者の著作物使用の範囲に包含されるので、著作物の新たな利用とはいえない。そうであるからこそ、有線テレビジョン放送法および同法施行規則は、「同時再送信」と「自主放送」を区別し、「同時再送信」については有線放送事業者に番組編集の権利義務を認めず、また、著作権法は「同時再送信」について著作隣接権を認めていないのである。控訴人は、放送事業者から音楽著作物の使用料を既に受領しているのである(使用料規程〔甲3〕50頁〜55頁)から、控訴人に対し、「放送」と「同時再送信」の2回にわたる権利行使を認めることは、実質的に音楽著作物の使用料の「二重取り」になって許されない。
(4) 仲介業務法違反
ア 仲介業務法及び同法施行規則においては、著作物使用料規程において定めるべき事項が厳格に定められ、一定の手続を経た後に文化庁長官の認可を受けるべきこととされていた。仲介業務法にこのような定めが置かれたのは、控訴人が、我が国において音楽著作権に関し、仲介業務を行うことの許可を受けた唯一の仲介団体であったことからも明らかなように、国の政策として特定の団体の著作権に関する仲介業務を独占させていたため、仲介団体に使用料規程を自由に作成させたのでは、仲介団体にとって一方的に有利で、利用者にとって不利な使用料規程が作成されるおそれがあり、このようなことを防止するために、文化庁長官に契約内容及び使用料率のチェックをさせ、その内容の合理性を確保し、使用者の利益を保護するためである。したがって、認可を受けていない使用料規程に基づいて請求を行うことは、仲介業務法に違反することになる。
 ところで、本件使用料規程(〔甲3〕、69頁)においては、その備考の規定から明らかなとおり、「有線テレビ事業者が、無線テレビジョン放送を受けて行なうテレビジョン放送の再送信において著作物を使用する場合の使用料」は、備考@に基づき締結された5団体契約の使用料率に従って計算され、「再送信を除いた自主放送」の場合にのみ備考Aの使用料率によることが明らかであり、そのようなものとして文化庁長官の認可を受けているのである。そして、本件使用料規程においては、地上波であれ衛星波であれ、電波を受信すると同時に有線放送する場合を「同時再送信」といい、有線放送事業者が自ら番組を制作してこれを放送する場合、及び第三者が制作した「録音物又は録音物による番組の放送」を「自主放送」と定めていることは明らかである。したがって、控訴人の本訴請求は、仲介業務法に反し、文化庁長官の認可を受けた使用料規程に反する請求を行うものであり、認められない。
イ また、仲介業務法上、仲介業務を行うためには、文化庁長官の「許可」が必要とされているが(同法2条)、この「許可」は、電気、ガスなどの供給事業、鉄道、バスなどの運送事業と同じく、著作権の仲介業務という公益性の高い事業を独占させるために行われる「特許」なのであり、その代わりに著作権の使用料については独占の弊害が生じないよう、使用料規程を定めるよう求め、しかもこれを文化庁長官の「認可」にかからしめているのである。このような「認可」の行政法的意味からしても、仲介業務団体が、使用料規程に基づかないで著作物の使用料を請求したり、同規程を自分に都合のよいように解釈して使用料を請求することは許されない。また、認可された使用料規程に反する著作物の使用契約は無効である。
(5) 独占禁止法違反
 控訴人は、仲介業務法の下で、我が国における唯一の音楽著作物の管理団体であったものである。そのような独占的地位にあった控訴人の定める使用料規程は、文化庁長官の認可を受けることによって、その内容の適法性、合理性が担保されていたものである。しかるに、控訴人は、控訴人が主張する内容のCS放送の同時再送信の使用料算定方式については、上記のとおり文化庁長官の認可を受けておらず、その内容についてチェックを受けていないことから、極めて不合理な内容になっている。独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)19条の規定を受けて定められた不公正な取引方法に関する公正取引委員会告示(昭和57年公正取引委員会告示第15号。以下「一般指定」という。)においては、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商習慣に照らして不当に「相手方に不利益になるように取引条件を設定し、又は変更すること」を不公正な取引方法として規制の対象としている(一般指定14条3号、4号)。仲介業務法の下において、控訴人が我が国における唯一の音楽著作権管理団体であるにもかかわらず、文化庁長官の認可を経ていない、しかも、その内容が極めて不合理な使用料の算定方式に基づいて被控訴人行田ケーブルテレビを始めとする有線放送事業者に使用契約を締結させることは、優越的地位に基づく不利な取引条件の設定であり、上記一般指定及び独占禁止法に違反するものであり、その限りにおいて無効と解すべきである。
(6) 消滅時効
ア 被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビ
 不法行為に基づく損害賠償請求については、本件訴訟提起(平成13年10月1日)より3年以上前の分は、消滅時効が成立している。なお、控訴人は、不当利得に基づく請求を主張するが、不法行為債権が時効消滅した後も不当利得返還請求権の行使ができるとする控訴人の主張が認められるならば、不法行為訴訟における損害賠償請求権を短期3年間の消滅時効に服させることによって法的関係の早期安定を図った民法724条の趣旨が没却されるのであって、控訴人の不当利得返還請求は理由がないというべきである。
 被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビは、平成13年11月6日の原審口頭弁論期日において上記消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
イ 被控訴人行田ケーブルテレビ
 被控訴人行田ケーブルテレビと控訴人の間の平成4年3月31日付け本件使用許諾契約(甲31)は、商人間の商行為であるから、控訴人の同被控訴人に対する使用料請求は5年間に商事時効にかかる。同被控訴人に対する訴訟は、平成13年10月1日に提起されているので、平成8年10月1日以前の使用料請求権は時効消滅している。
 被控訴人行田ケーブルテレビは、平成14年9月12日の原審弁論準備手続期日において上記消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
4 被控訴人らの抗弁に対する控訴人の認否と反論
(1) 被控訴人らの抗弁(1)(5団体契約による使用許諾)に対し
ア CS放送の同時再送信の使用
 控訴人を含む5団体と被控訴人らが5団体契約を締結していることは認める。
 しかしながら、昭和48年の5団体契約に関する合意において、将来出現するあらゆる放送の同時再送信をすべて対象として5団体契約を合意したという事実はない。CS放送の同時再送信については、CATV事業者との関係で権利者団体が共同で一元的権利処理をする仕組みが合意されたことはなく、音楽著作権については、控訴人と本件使用許諾契約を締結することによって処理する仕組みができている。本件使用許諾契約に基づく平成5年度以降の使用料は、CS放送の同時再送信の放送時間を「自主放送時間」として計算し算出されており、これまで300社以上のCATV事業者がこのルールに則って毎年使用料を支払い権利処理を行ってきたという実績がある(甲58参照)。
イ CS放送の同時再送信以外の使用
 被控訴人らが行っている有線テレビジョン放送は、@テレビの同時再送信(地上波・BS)、Aテレビの自主放送(自主制作・番組購入・CS再送信)、B音声放送(ラジオの同時再送信・音声自主放送)に分類される。このうち、音楽著作物について、5団体契約により権利処理ができるのは@のみであり、A、Bについては、まとめて本件使用許諾契約により権利処理することになっており、本訴請求の対象はA、Bである。A、Bについての権利処理は、CATV連盟発行のガイドブック(甲17、以下「甲17ガイドブック」という。)の78頁〜83頁に、本件使用許諾契約によってまとめて行うことができることが解説されている。そして、本件使用許諾契約は、ブランケットルールであって、利用者の便宜のためにあらかじめ包括的に使用許諾をし、実際に使用される著作物の量や内容は問わない方式のものであるが、この点についても、同66頁、82頁等に説明されているとおりである。したがって、そもそも、少なくとも本件使用許諾契約を締結している被控訴人行田ケーブルテレビについては、実際にA、Bを行っている以上、その番組に管理著作物が使用されているかどうかを問わず、契約に基づき算出される使用料は発生する。なお、Aのテレビ自主放送は、CS放送の同時再送信を除いても、自主制作番組やパッケージ購入番組、CS通信による供給番組が存在し得る。また、本件使用許諾契約を締結していない被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビが支払うべき使用料相当損害金又は不当利得返還金の額は、基本的には契約を締結した場合に支払うべき使用料相当額であるから、管理著作物1件ごとの使用実績が損害金等の算出に反映するものではない。
 そして、被控訴人らは、CS放送の同時再送信以外の有線テレビジョン放送(5団体契約対象外)においても、管理著作物を使用している。上記のとおり、管理著作物の実際の使用実績を問わないブランケットルールが確立しているが、被控訴人らは、実際にA、Bにおいて、管理著作物を使用している。Aのうち、自主制作番組について、被控訴人らのいわゆるコミュニティチャンネルの番組内容から管理著作物が使用されていることは明らかである。自主制作番組の有線テレビジョン放送を行うに当たり、音楽著作権の処理が避けられないことについては、CATV連盟のハンドブックで繰り返し説明されており(甲80、17)、音楽である以上「著作権フリー」の音楽かどうかを問わず包括許諾を得ておくのが本件使用許諾契約であって、使用料計算式から除外されるのは、全く音楽を一切使用しないチャンネルだけであることも解説されている(甲80の36頁、甲17の82頁)。被控訴人らが行うチャンネルで音楽を使用しないチャンネルとして使用料計算から除外されるのは、「読売文字ニュース」のみである。Bのラジオ放送の同時再送信については、被控訴人らはいずれも、開局当初から現在に至るまで行っている。内容は、東京FM、NHKFM、J−WAVEなどのFMラジオ放送の同時再送信である。FMラジオ放送は一日中音楽を中心とした番組を放送しており、控訴人が著作権仲介業務法に基づく許可を受けた唯一の音楽著作権仲介団体であったことを踏まえれば、控訴人の管理著作物が使用されていることを否定すべき理由はない。したがって、CS放送の同時再送信以外にも、5団体契約の対象外の有線テレビジョン放送において、被控訴人らが管理著作物を使用していることは明らかである。
(2) 被控訴人らの抗弁(2)(映画の著作物であることによる著作権行使の制限)に対し
ア 被控訴人らは、テレビ番組はすべて「映画の著作物」に該当するとして、テレビ番組の構成要素である音楽の著作物の著作権者が公衆送信禁止権や使用料等請求権を行使することはできないとするが、著作権法の解釈を誤るものである。テレビ番組が、ビデオテープ等に固定されている場合に、それが著作権法2条3項にいう「映画の著作物」に該当する場合もあるが、すべての番組が「映画の著作物」に該当するわけではない。また、そもそも被控訴人らの有線放送において送信されている番組は、放送事業者が放送するテレビ番組に限られているわけでなく、自主制作番組や、番組供給事業者から購入する番組も含まれている。
 また、「映画の著作物」においても、使用された音楽の著作者は、二次的著作物である映画の著作物の原著作物の著作者として(著作権法11条)、あるいは映画の著作物において利用されている著作物の著作者として、それぞれ映画の著作物の利用について別途権利を留保している。すなわち、これらの著作物は、映画の著作物とは分離して権利処理が必要な独立の著作物として位置付けられているのである。また、著作権法29条2項は、同法16条で定められた映画の著作物の著作者が有する著作権を、映画著作者としての地位に立つ放送事業者に帰属させることを定めたものであって、小説、脚本、音楽等映画の原作品又は映画に収録されている作品の著作権者が有する権利に関する規定ではないから、これらの作品の著作権は、契約によって放送事業者に譲渡されない限り、当該著作権者に留保されていることはいうまでもない。
イ 被控訴人らが引用する最高裁キャンディ事件判決は、著作権法28条により、二次的著作物を利用しようとする者は原著作物の著作者及び二次的著作物の著作者双方の許諾を得なければならないだけでなく、二次的著作物の著作者自身がその二次的著作物を利用する場合にも、原著作物の著作者から許諾を得る必要があることを判示したものにすぎず、その点の判断に特に目新しい点があるわけではない。被控訴人らは、著作権者の公衆送信権(有線放送権)、放送事業者の著作隣接権としての有線放送権その他自らの有線放送を行うに当たって必要な権利処理を、各権利者と個別に行う必要があるのであって、関係する権利者側が被控訴人ら利用者のために使用の許諾についての合意をする必要はなく、各権利者はそれぞれ権利行使すれば足りるのである。したがって、控訴人が単独で権利行使できないという被控訴人らの主張は、上記最高裁判決の趣旨を誤解するものである。
(3) 被控訴人らの抗弁(3)(履行補助行為であることによる制限)に対し
 放送事業者は、自己の著作隣接権である有線放送権に基づき、有線放送事業者が放送の同時再送信による有線放送を行うことを許諾し、有線放送事業者は、自己の有線放送事業の一部として放送の同時再送信の方法により有線放送を行っているのであって、放送事業者が自己の放送事業を実施するために有線放送事業者を使用しているという関係にはない。放送と有線放送とは、著作物の利用態様が全く異なるのであって、有線放送する番組について放送により供給を受けて、これを再送信する方法で有線放送する場合であっても、著作物を有線放送により利用していることには変わりがない。被控訴人ら有線放送事業者は、有線放送の受信世帯と加入契約をし、受信料の支払を受けて、放送の同時再送信を含む有線放送番組を提供しているのであって、放送事業者から全く独立して自己の事業として有線放送事業を行っている。放送事業者が行う放送と有線放送事業者が行う有線放送とは全く別個の行為であるところ、著作権法は、権利者が各利用行為ごとに権利行使することを基本的な構造としており(63条1項、2項)、控訴人が放送事業者に対して放送のみの許諾をし、有線放送事業者に対して有線放送の許諾をすることは、同法が正に予定している権利行使の方法というべきである。
 したがって、同時再送信が放送の履行補助行為であるということはできない。
(4) 被控訴人らの抗弁(4)(仲介業務法違反)に対し
 有テレ法施行規則4条2項にいう「著作物の種類」は音楽著作物であり、「その利用方法」は「有線放送」である。同時再送信も自主放送も「有線放送」であり、いずれの方法で有線放送が行われるかによって各別に使用料を定めることを求めているわけではない。使用料規程においては、本則の使用料を定めるとともに、複数の権利者団体が共同で利用者側と協議して一元的権利処理の方法を合意した場合には例外的に特別の料率を可能とするように備考Aを定めているのであって、この特別な料率は原則的な使用料より低い金額となることが想定されている。現に5団体契約は、使用料規程の定める原則的使用料より低い使用料となるように計算式が定められている。どのような場合に特別に低い料率が適用されるのかは、あくまで権利者団体とCATV連盟とが合意した有線テレビジョン放送の範囲によって決まるのであって、控訴人が勝手に決めているわけではない。CS放送の同時再送信については、一元的権利処理の方法を合意していないから、認可された使用料規程の本則が適用されるということであり、控訴人の主張は、何ら仲介業務法の趣旨に反するところはない。
(5) 被控訴人らの抗弁(5)(独占禁止法違反)に対し
 控訴人が、法に基づき文化庁長官の認可を受けた使用料規程の使用料の定め方について、利用の許諾を求める者は、その内容の当不当を主張する権利を有しないのであって、ましてや許諾を受けずに無断で著作物を利用し、著作権侵害に基づく損害賠償請求を受ける者が、使用料相当損害金の算定に当たって、基となる使用料規程の定めが不当であるなどと主張することは許されないというべきである。
(6) 被控訴人らの抗弁(6)(消滅時効)に対し
 被控訴人らの消滅時効の主張は争う。
ア 被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビの主張について
 仮に、不法行為に基づく損害賠償請求権の一部が時効消滅しているとしても、控訴人は悪意である被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビに対し同額の不当利得返還請求権を有しているものであり(民法704条)、不法行為に基づく損害賠償請求権が時効消滅した分については、対応期間につき不当利得として請求し得るものである。
イ 被控訴人行田ケーブルテレビの主張について
 本件行田使用許諾契約では、当年度の使用料は、前年度の営業収入を基準として年額で算出するものと定められ(第2条1項)、また、その支払時期に関する定めは特に設けられていない。このような場合、使用収益の対価という著作物使用料の性質上、後払いの原則により(民法614条)、当年度使用料の履行期は、当該年度の末日となる。したがって、被控訴人行田ケーブルテレビの平成8年度分の使用料の履行期は平成9年3月31日であり、その請求権についての消滅時効の起算点も同日であるから、本訴提起までに5年を経過しておらず、時効は完成していない。なお、控訴人とCATV連盟は、本件使用許諾契約に基づく使用料の算出方法について、平成7年以降、各年度ごとに有線テレビジョン放送事業者に有利な特約の合意をし、確認書の締結をしており、控訴人は、使用料の額をこれに基づいて算出し、平成8年度の使用料については、平成9年3月31日付けで確認書を締結しているため、控訴人は、実際上も、各事業者(連盟加入・非加入を問わず)に対して、同年4月1日以降に請求を行っている。
5 5団体契約による使用許諾に対する控訴人の反論(4(1))への被控訴人らの再反論
ア 本件使用許諾契約の前文から、同契約の使用許諾の対象は、「有線テレビジョン放送の自主放送」であり、被控訴人らが行うCS放送の同時再送信は、放送を受信すると同時に有線で再送信するものであり、自ら番組を制作するのではなく、また、録音物に固定されたものを放送するものでもないから、これが同契約の「自主放送」に当たらないことは明らかである。
 そして、5団体契約及び本件使用許諾契約は、有線放送を「同時再送信」と「自主放送」に分けて、前者を5団体契約の対象とし、後者を本件使用許諾契約の対象としたものであり、CS放送の同時再送信は、5団体契約の対象となっているから、控訴人が、被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビに対して管理著作物についての著作権侵害を理由として管理著作物の使用の差止め及び損害賠償・不当利得返還を請求し、被控訴人行田ケーブルテレビに対して本件使用許諾契約に基づく使用料の支払を請求することは許されない。
イ また、仮に、CS放送を「自主放送」に含めると、控訴人は使用料を二重取りすることになって不合理である。5団体契約も、本件使用許諾契約も、被控訴人らの営業収入に一定の利用料率を乗じて使用料を算出しているが、その計算の対象となっている営業収入は同じものであり、かつ、この営業収入の中には、CS放送の再送信から得られる収入も含まれている。控訴人は、5団体契約の一員として、CS放送の再送信に対応する収入を含む営業収入に使用料率を乗じて算出された使用料の支払を受けた上、さらに、同じ営業収入に控訴人単独契約の使用料率を乗じて算出された使用料の支払を受けてきたのであるが、これは、CS放送を「自主放送」に含めた結果生じた使用料の二重取りであり、認められない。
 さらに、控訴人がCS放送を「自主放送」に含めることによって、5団体契約よりも多い使用料を受け取ってきたことも不合理である。本件訴訟において控訴人から請求されている使用料と、別件訴訟において5団体から請求されている使用料を対比すると、控訴人の使用料が5団体契約の使用料よりも多くなっている。5団体契約の使用料の計算対象となる営業収入と、控訴人のCS放送についての使用料計算の対象となる営業収入とは同じものであり、ここにはCS放送の再送信によって得られる収入も含まれていることから、二重取りに当たることが明らかであり、さらに、5団体契約の使用料には、音楽のほか、小説、脚本、シナリオ、実演に関するものが全放送時間につき含まれているのに対し、控訴人の使用料には音楽しか含まれておらず、しかも、CS放送の放送時間(「自主放送」時間に対応し、全放送時間の半分以下である。)にしか対応していないのに、控訴人の使用料が5団体契約の使用料より多いということは全く不合理である。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(当事者)、(2)(控訴人の使用料規程)及び(3)(控訴人と被控訴人行田ケーブルテレビとの本件使用許諾契約)の各事実は、当事者間に争いがない。
2 被控訴人らによる管理著作物の使用状況(請求原因(4))について
(1) 証拠(甲7〜甲11、甲31、甲35、甲36、甲45〜甲56、甲83、甲102の1〜4、乙34〜乙36、乙60)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 一般に、有線放送事業者が加入視聴者に送信している番組には、@地上波テレビ放送の同時再送信、ABS(放送衛星)テレビ放送の同時再送信、B地上波ラジオ放送・BSラジオ放送の同時再送信、CCS(通信衛星)放送のチャンネル(委託放送事業者)の同時再送信、D自主制作番組の送信、E番組供給事業者等からテープなどに固定された個別番組を購入しての送信、及びF音楽を使用しない文字放送その他の番組の送信、以上のものがある。
イ 被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビが有線放送している番組は、別表1−@「被告成田・銚子の有線放送の内容とJASRACから放送事業者への放送許諾の有無」記載のとおりであり、被控訴人行田ケーブルテレビが有線放送している番組は、別表1−A「被告行田の有線放送の内容とJASRACから放送事業者への放送許諾の有無」記載のとおりである。
ウ 上記アCのCS放送のチャンネルの同時再送信においては、CNN(被控訴人成田ケーブルテレビの29チャンネル、被控訴人銚子テレビの20チャンネル、被控訴人行田ケーブルテレビの32チャンネル)、スペースシャワーTV(被控訴人成田ケーブルテレビの34チャンネル、被控訴人銚子テレビの31チャンネル、被控訴人行田ケーブルテレビの37チャンネル)、衛星劇場(被控訴人成田ケーブルテレビの25チャンネル、被控訴人銚子テレビの40チャンネル、被控訴人行田ケーブルテレビの24チャンネル)等、多数のチャンネルが送信されている。上記スペースシャワーTVは、委託放送事業者である株式会社スペースシャワーネットワークが供給している音楽専門チャンネルで、日本のロック・ポップスを中心に、様々なジャンルの音楽を24時間放送しており、例えば、平成12年4月から平成13年3月までの間に、控訴人の管理著作物である「桜の時」(楽曲リスト45頁2737番)が37回使用されている。また、上記衛星劇場は、委託放送事業者である株式会社衛星劇場が供給している映画専門チャンネルで、日本映画を中心に、あらゆるジャンルの映画を、1か月100タイトルのプログラムで放送しており、例えば、平成12年5月19日に放送された映画「釣りバカ日誌スペシャル」には、控訴人の管理著作物である背景音楽「釣りバカ日誌スペシャルBGM」が収録されている。
エ 被控訴人らは、いずれもFM東京、NHKFMなどのラジオ放送の同時再送信を行っているが、これらのFMラジオ放送において、控訴人の管理著作物が多数使用されている。
(2) 以上の認定事実によれば、被控訴人らが行う有線テレビジョン放送のCS放送のチャンネルの同時再送信及びラジオ放送の同時再送信において、いずれも控訴人の管理著作物が使用されていることは明らかである。
3 被控訴人らの抗弁(1)(5団体契約による使用許諾)について
(1) 控訴人を含む5団体と被控訴人らが5団体契約を締結していることは当事者間に争いがない。
 被控訴人らは、5団体契約及び本件使用許諾契約は、有線放送を「同時再送信」と「自主放送」に分けて、前者を5団体契約の対象とし、後者を本件使用許諾契約の対象としたものであり、CS放送の同時再送信は、5団体契約の対象となっているから、控訴人が、被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビに対して管理著作物についての著作権侵害を理由として管理著作物の使用の差止め及び損害賠償・不当利得返還を請求し、被控訴人行田ケーブルテレビに対して本件使用許諾契約に基づく使用料の支払を請求することは許されないと主張するので、以下検討する。
(2) 証拠(甲1〜甲6、甲12〜甲29、甲31〜甲83、乙25〜乙30、乙34〜乙36、乙58〜乙63、社団法人衛星放送協会及び社団法人日本ケーブルテレビ連盟に対する調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 現行著作権法が施行された昭和46年ころ、放送は地上波放送に限られていた。他方、有線テレビジョン設備は、昭和30年代に設置され始め、当初は辺地の難視聴対策用の共同受信施設として設置されていたが、昭和40年ころからは、高層ビルの建設により発生した難視聴に対応して、都市部にも有線テレビジョン放送の設備が設置されるようになった。そのころの有線放送の多くは、主に電波障害地域において、難視聴対策としてテレビ放送の同時再送信を行うことを主たる目的としていた。
 有線放送事業者は、昭和40年代後半以降、空いているチャンネルを利用して、地元以外のテレビ局の放送を流したり、地域ニュースや地域密着情報を提供するコミュニティ番組などを自主制作して流すことが多くなり、また、番組制作会社から番組を購入し、これを有線放送することも多くなっていった。
イ 昭和47年6月、有テレ法が成立した(昭和48年7月1日施行)。同年2月、権利者団体(5団体に社団法人レコード協会(以下「レコ協」という。)を加えた6団体(日脚連についてはその前身である放送作家協会)と有線放送事業者の団体である全国有線テレビ組合連合会(以下「連合会」という。)とは、有線放送における著作権等の処理について協議を開始し、同年7月以降、両者の間で著作権等使用料の定め方について協議が重ねられた。なお、連合会は、同年中に公益法人日本有線テレビジョン放送協会設立準備委員会(以下「準備委」という。)を発足させた。
 上記権利者団体のうち、レコ協を除く5団体は、約2年半の協議を経て、昭和48年8月、準備委との間で、テレビ放送の同時再送信についての権利処理方法及び使用料の定め方について合意(その内容は甲63の23頁右欄〜24頁左欄のとおり)に達し、5団体と各有線放送事業者との間で締結する統一的な契約書式(以下「5団体契約書式」という。)を定めた。5団体契約書式は、現在もほぼ同じものが使用されており、その第2条に定める使用料の料率も変更されていない。昭和48年当時においても、テレビジョン放送には地上波放送しか存在せず、衛星を使用した放送は計画自体はあったものの、近い将来に実現する予定ではなく、第2条の使用料率については、地上波局の免許取得に際して決められる放送サービスエリアを判断基準として、区域内再送信と区域外再送信に分けて定められた。
 控訴人は、昭和50年4月1日、本件使用料規程の「第10節有線放送」の「2有線テレビジョン放送(CATV)」の規定について文化庁長官の認可(甲66の3)を受け、現在まで当該部分の内容は変更されていない。
 昭和50年代半ばころから有線放送の内容としてテレビジョン放送の同時再送信以外の番組が急激に増加し、5団体契約の許諾の対象外である有線放送について、権利処理のシステムを作ることが要請されることとなった。控訴人は、昭和55年9月に認可された有線放送事業者の団体である社団法人日本有線テレビジョン放送連盟(その後、「社団法人日本シーエーティーヴィ連盟」、更に「社団法人日本ケーブルテレビ連盟」に名称が変更された。これらを総称して「連盟」という。)との間で、昭和58年に交渉を開始し、昭和59年7月19日、連盟に所属する各有線放送事業者が控訴人との間で締結する管理著作物の使用許諾契約書の統一書式について合意するとともに、その内容に関する覚書(甲24)が交わされた。同覚書及び統一書式は、昭和63年3月31日に改訂され、現在の統一書式(甲4)及び覚書(甲5、以下「甲5覚書」という。)となった。覚書締結時である昭和59年及び改定時であるの昭和63年当時においても、テレビジョン放送には地上波放送しか存在しなかった。なお、有線放送事業者は、連盟に加入すると同時に委任状を提出することとされ、連盟は、この受任に基づき各種権利者団体との交渉権限を有し、連盟と各権利者団体との合意事項が、連盟加入の有線放送事業者にも適用されることとなっている。
ウ 平成元年3月、我が国においてCS(通信衛星)が初めて打ち上げられ、4月からサービスが開始されたが、BS(放送衛星)とは異なり、一般家庭での直接受信はできず、特定の企業や有線放送事業者に対する送信のみが許されていた。有線放送事業者は、それまでは第三者の制作する番組を番組制作会社からビデオテープ等のパッケージで購入していたが、CS経由で配信を受けることができるようになり、多チャンネルの都市型CATVと呼ばれる型の有線放送が発達するようになった。また、平成元年の放送法の改正により、放送設備を所有しなくても放送事業者の免許を取得できる委託放送事業者の制度が整備され、これに伴って、従来、番組の制作や販売を行っていた番組供給事業者が、次第に委託放送事業者の免許を取得するようになった。
 平成4年、一般家庭向けのCSアナログ放送が開始され、平成8年にはCSデジタル放送が開始された。平成4年以降、5団体と連盟とは、有線放送に関する権利処理の在り方を新たに協議することとなった。5団体のうち、控訴人を除く4団体は、5団体契約と同様に、5団体が一括して有線放送事業者と契約を締結する方式により処理する方向での協議を希望していたが、控訴人は、従来と同様、個別の契約により処理する方向での協議を進めることとした。
 控訴人は、連盟と協議を重ねた結果、平成7年9月13日、平成5年度及び平成6年度の使用料について、確認書(甲25)を締結し、CS放送の同時再送信について、上記昭和63年の覚書を前提とし、同覚書の「全放送時間」の算出に当たって「5団体が許諾しているチャンネルの再送信の時間を1チャンネルあたり1日24時間として使用料を算出する」(甲25の1項)こととし、本件使用料規程の有線テレビジョン放送に関する規定改定の協議を行うこととした(同4項)。連盟は、同確認書について、加盟の有線放送事業者に対し、通知文(甲29、以下「甲29通知文」という。)を送付したが、同通知文においては、「今回の使用料については、従来の処理ルールでお支払い下さい。(・・・CS委託放送は自主放送として計算してください。尚、詳しくはJCTA(判決注;連盟)著作権委員会発行の「ケーブルTV著作権ハンドブック」平成3年版をご参照ください。)」(甲29の(注)@)との説明が記載され、連盟作成の「ケーブルTV著作権ハンドブック」平成3年度版(甲80、以下「甲80ハンドブック」という。)には、「ケーブルTV事業者が放送する各種番組などの調達方法を考えてみますと、おおよそ次の通りです。!空中波や衛星放送を再送信する "通信衛星からチャンネル単位で供給を受ける #テープなどの個別番組を購入する $自主制作する」(7頁第2段落)、「4.テレビ自主放送の著作権処理 (1) はじめに ケーブルTV事業の発展過程に於いて、当初は同時再送信サービスだけであったものに加えて、地域情報番組などの自主制作番組の放送を開始するようになりました。・・・(2) ケーブルTV自主放送に際しての音楽著作物の使用料率式 前述の様に、自主制作番組で使用する音楽著作物や購入番組(スペース・ケーブルネットで放送するチャンネルの番組・・・を含む)に使用されている音楽著作物を含めて、その使用料計算式については長年の協議の結果、昭和59年に取り決めがなされ、多チャンネル時代を踏まえて昭和62年に改正がありました」(21頁第1段落〜下第2段落)、「8.実務にあたって (1) TV同時再送信とラジオ(音楽著作物以外)同時再送信 @契約の締結 権利者5団体の窓口である日脚連より、・・・二種類の契約書が送付されます。(資料−1(判決注;5団体統一書式)と資料−3)・・・(2) 音楽著作物(JASRAC) @契約の締結 JASRACより、・・・一種類の契約書が送付されます。この契約書には、TV自主放送、ラジオ同時再送信の音楽著作権部分、ラジオ(音声)自主放送の三種が一本化されて全て含まれています。(資料−6(判決注;本件使用許諾契約)参照) ただし、TV同時再送信の音楽著作権部分(JASRAC部分)の契約は、この契約書に含まれるのでなく、上記(1)の契約書によって契約されることになります」(33頁第1段落〜34頁第4段落)と記載されている。控訴人と連盟は、その後も本件使用料規程改定の協議を継続し、確認書(甲6、甲106)を取り交わしている。
(3) 上記認定事実によれば、5団体と準備委がテレビ放送の同時再送信についての権利処理方法及び使用料についての統一的な契約書式である5団体契約書式を定めた昭和48年8月当時、テレビジョン放送には地上波放送しか存在せず、衛星を使用した放送は近い将来に実現する予定はなく、使用料率は地上波局の免許取得に際して決められる放送サービスエリアを判断基準として区域内再送信と区域外再送信に分けて定められていたものであるから、5団体契約書式が合意された当時において、5団体と準備委がCS放送の同時再送信を5団体契約の対象としていたものと認めることはできない。そして、その後昭和59年に、5団体契約の許諾の対象外である有線放送については、控訴人と連盟との間で管理著作物の使用許諾契約書の統一書式について合意が成立し、覚書(甲24)が締結され、さらに、平成元年3月、我が国においてCS(通信衛星)のサービスが開始されて有線放送事業者は、それまでビデオテープ等のパッケージで購入していた番組をCS経由で配信を受けることができるようになったが、連盟が会員に送付した甲29通知文及び連盟が会員に配布した解説書である甲80ハンドブックには、CS委託放送は自主放送として計算することとされた。平成4年、一般家庭向けのCSアナログ放送が開始され、以降、5団体と連盟とは、有線放送に関する権利処理の在り方を新たに協議することとなったが、控訴人は、上記合意を前提に従来と同様に個別契約により処理する方向での協議を進め、その後も本件使用料規程改定の協議を継続して確認書(甲6、甲106)を取り交わしているのである。昭和48年当時5団体契約の対象とされていなかった控訴人の管理著作物については、昭和59年に控訴人と連盟との間で管理著作物の使用許諾契約書の統一書式(本件使用許諾契約)について合意が成立し、覚書(甲24)が締結されたものである(昭和63年3月31日に改訂され、現在の統一書式(甲4)及び覚書(甲5)となった。)。そして、当時、有線放送事業者は、第三者の制作する番組を番組制作会社からビデオテープ等のパッケージで購入していた(同統一書式の「有線テレビジョン放送の自主放送」(契約書前文)に該当する。)が、これが平成元年からCS経由で配信を受けることができるようになり、さらに、平成4年からは、CS放送されるようになったものである。
(4) 以上のとおり、5団体契約について関係団体間で合意が形成された経緯、当該合意形成から現在に至るまでの関係団体間の交渉の経過にかんがみれば、5団体契約第1条1項が定める使用許諾の範囲にCS放送の同時再送信が含まれているとは認めることはできず、CS放送の同時再送信は、5団体契約の対象外とされていたものと認められる。
(5) また、被控訴人らは、いずれもFM東京、NHKFMなどのラジオ放送の同時再送信を行い、これらのFMラジオ放送において、控訴人の管理著作物が多数使用されていることは上記認定のとおりであるところ、これが5団体契約による使用許諾の対象となっていたものと認めることもできない。
(6) 以上検討したこところによれば、5団体契約の存在を理由として、控訴人の差止請求及び損害賠償・不当利得返還請求ないし使用料請求が許されないということはできない。
 原判決は、CS放送の同時再送信は5団体契約の対象になっていたと認定するが、要は被控訴人らとの間で個別に締結された5団体契約の契約内容に関する事実認定の問題であり、当裁判所は、上記のとおり、CS放送の同時再送信等は5団体契約の対象外と認定するものである。
 そこで、進んで、他の争点について検討を加える。
4 被控訴人らの抗弁(2)(映画の著作物であることによる著作権行使の制限)について
(1) 被控訴人らは、テレビ番組はすべて「映画の著作物」に該当するとして、テレビ番組の構成要素である音楽の著作物の著作権者が公衆送信禁止権や使用料等請求権を行使することはできない旨主張する。
 しかし、著作権法16条本文は、「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする」と規定しているところ、同規定の趣旨は、映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者(いわゆるクラシカル・オーサー)については、映画の著作物の著作者とは別個に映画の著作物について権利行使することができることをいうものと解すべきである。したがって、被控訴人らが同時再送信するテレビ番組の中に映画の著作物に該当するものがあったとしても、当該映画の著作物において翻案され、又は複製された著作物の著作者は、クラシカル・オーサーとして、テレビ番組の著作者とは別に、著作権者としての権利行使を行うことができるというべきであるから、被控訴人らの上記主張は失当というほかない。
(2) 被控訴人らは、最高裁キャンディ事件判決の趣旨に照らすならば、映画の著作物たるテレビ番組について、控訴人は、他の権利者との合意によらなければ著作権を行使することができず、そもそも被控訴人らに対して著作権の主張をなし得る立場にないから、被控訴人らは、放送番組を有線放送するに対して、控訴人から許諾を得る必要はないと主張する。
 しかし、上記判決は、二次的著作物の著作者による当該二次的著作物の複製行為に関し、原著作物の著作者は、当該二次的著作物を合意によることなく利用することの差止めを求めることができる旨を明らかにしたものであり、二次的著作物の原著作物の著作者が単独で第三者に許諾権限を行使することができない旨をいうものではない。したがって、被控訴人らの上記主張も、失当というほかない。
5 被控訴人らの抗弁(3)(履行補助行為であることによる制限)について
 被控訴人らは、同人らは有線放送事業者による放送事業者の「放送」の履行補助行為にすぎないから、著作物の新たな利用とはいえず、控訴人は、「放送」に当たり、放送事業者から音楽著作物の使用料を既に受領しているのである(使用料規程〔甲3〕50頁〜55頁)から、「放送」と「同時再送信」の2回にわたる権利行使を認めることは、実質的に音楽著作物の使用料の「二重取り」になって許されないと主張する。
 しかし、放送及び有線放送は、著作権法2条1項8号、9号の2により別個の公衆送信として位置付けられ、また、送信の主体も異なることに加えて、現実の送信の態様も異なるものであるから、有線放送事業者による放送の同時再送信は、放送事業者による放送とは別の公衆送信であり、これを有線放送事業者による放送の履行補助行為であるということはできない。そして、有線放送事業者による放送の同時再送信は、放送事業者による放送とは別の公衆送信である以上、控訴人が「放送」と「同時再送信」の2回にわたる権利行使をすることが、音楽著作物の使用料の「二重取り」になるという非難は当を得ないものというほかない。
6 被控訴人らの抗弁(4)(仲介業法違反)について
(1) 被控訴人らは、文化庁長官の認可を受けていない使用料規程に基づいて請求を行うことは、仲介業務法に違反することになるというべきところ、本件使用料規程においては、「有線テレビ事業者が、無線テレビジョン放送を受けて行なうテレビジョン放送の再送信において著作物を使用する場合の使用料」は、備考@に基づき締結された5団体契約の使用料率に従って計算され、「再送信を除いた自主放送」の場合にのみ備考Aの使用料率によることとして文化庁長官の認可を受けているのであり、地上波、衛星波とも電波を受信すると同時に有線放送する場合を「同時再送信」と定めているのであるから、控訴人の本訴請求は、仲介業務法に反し文化庁長官の認可を受けた使用料規程に反する請求を行うものである旨主張する。
(2) 証拠(甲3、甲66の1〜3)によれば、本件使用料規程(甲3の69頁〜70頁)は、昭和49年4月30日付け認可申請(甲66の1)及び昭和50年1月31日付け修正申請(甲66の2)に基づき、同年4月1日付けをもって仲介業務法3条1項の規定により文化庁長官により認可(甲66の3)されたものであると認められところ、上記認可申請には、使用料規程の備考@について、「テレビ放送の再送信を行なう場合、テレビ放送番組中に、多種の権利(著作権、著作隣接権)が含まれており、・・・、社団法人日本文芸著作権保護同盟、協同組合日本放送作家組合、日本シナリオ作家協同組合、著作隣接権団体として社団法人日本芸能実演家団体協議会が共同して権利処理を行なう方向にあり、放送の再送信については、本規程にかかわりなく、前記団体が共同して、CATV事業者と協議して定める料率によることになります」、備考Aについて、「CATV事業者がテレビ放送の再送信の他に自主放送を行う場合の当協会の使用料算出の方式を定めたもので、再送信の放送時間数に対して、自主放送の放送時間数の比率を決める場合、月間総放送時間中の割合をもって行なうこととし、算出基準月その他は、CATV事業者と当協会との契約でカバーすることといたします」と記載されている。
 これらの記載によれば、備考@は、控訴人を含む権利者団体が共同してCATV事業者と別途協議して料率を定めた場合には、その例外的に一元的権利処理をすることを合意した範囲においてのみ合意した料率が適用されることを、備考Aは、「再送信のほかに」として原則的使用料が適用される自主放送の使用料算出方式を、それぞれ定めたものである解することができる。
 したがって、文化庁長官の認可は、本件使用料規程が上記の趣旨のものであるとしてされたものと認められところ、5団体契約第1条1項が定める使用許諾の範囲にCS放送の同時再送信が含まれていると認めることができないことは上記のとおりであるから、本件使用許諾契約の対象であるCS放送の同時再送信については、備考Aが適用されることとなり、これと同様の立場に立つ控訴人の本訴請求が、仲介業務法に反し文化庁長官の認可を受けた使用料規程に反するということはできない。
7 被控訴人らの抗弁(5)(独占禁止法違反)について
 被控訴人らは、本件使用料規程は、CS放送の同時再送信の使用料算定方式については文化庁長官の認可を受けておらず、極めて不合理な内容になっており、独占禁止法19条の規定を受けて定められた一般指定14条3号、4号に違反するものであり、無効と解すべきであると主張する。
 しかしながら、本件使用料規程が文化庁長官の認可を受けたものであることは上記6のとおりであり、また、これが独占禁止法19条に違反する不公正な取引であるとは認めることはできない。
8 被控訴人らの抗弁(6)(消滅時効)について
(1) 被控訴人成田ケーブルテレビ及び銚子テレビに対する請求部分
ア 不法行為による損害賠償請求
 控訴人は、平成3年から平成12年度分まで(平成13年3月31日まで)の損害賠償請求については平成13年10月1日に本訴を提起し、平成13年度分(平成13年4月1日から平成14年3月31日まで)の損害賠償請求については平成17年3月22日訴えの変更の申立てをしたことは記録上明らかである。そして、証拠(甲84の1、甲85の1)によれば、控訴人は、被控訴人らの各サービス開始の当初から、被控訴人らが管理著作物を使用していたことを知っていたものと認めることができる。
 そうすると、平成3年から平成12年度分については平成10年9月30日以前につき、平成13年度分については平成13年4月1日から平成14年3月21日までの分の損害賠償請求権は、いずれも時効により消滅したものというべきである。
イ 不当利得返還請求
 被控訴人らは、控訴人の不当利得返還請求について、不法行為債権が時効消滅した後も不当利得返還請求権の行使ができるとする控訴人の主張が認められるならば、不法行為訴訟における損害賠償請求権について法的関係の早期安定を図った民法724条の趣旨が没却されるから、控訴人の請求は理由がないと主張する。
 しかしながら、不法行為に基づく損害賠償請求権と不当利得返還請求権とは実体法上別個の請求権であるから、不法行為に基づく損害賠償請求権が時効消滅したとしても、そのことは不当利得返還請求権の行使を阻害する事由になるということはできない。したがって、被控訴人らの上記主張は採用することができない(なお、被控訴人らは、不当利得返還請求権の時効消滅の主張はしていない。)。
(2) 被控訴人行田ケーブルテレビに対する請求部分
 控訴人は、平成8年から平成12年度まで(平成13年3月31日まで)の使用料について平成13年10月1日に本訴を提起し、平成13年度分(平成13年4月1日から平成14年3月31日まで)の使用料について平成17年3月22日訴えの変更の申立てをしたことは記録上明らかである。ところで、本件使用許諾契約に基づく使用料は、同契約第2条により年度ごとに算出され、支払われるべきものと認められるから、当該年度分の使用料の履行期は、当該年度の末日となる。そうすると、平成8年度分の履行期は当該年度末である平成9年3月31日であり、訴え変更に係る平成13年分の履行期は当該年度末である平成14年3月31日であり、いずれも商事債権の5年の時効期間(商法522条)は経過していないから、同被控訴人の請求についての消滅時効の主張は理由がない。
9 損害額の算定について
(1) 被控訴人らは、請求原因に対する認否イにおいて、有線放送では、契約世帯数が毎月変動するため、利用料収入については、期間中の利用者の増減が反映されるように、(当年度受信契約者数−前年度受信契約者数/2+前年度受信契約者数)×単価3000円×12か月という算式によるべきであると主張する。しかし、本件使用許諾契約の第2条及び第3条において、丙(有線テレビジョン事業者)が提出すべき証憑書類及び計算方法が定められているのであるから、これに反する被控訴人らの上記主張は採用することができない。
(2) また、被控訴人らは、本件使用許諾契約において使用料算定の基礎となる「営業収入」については、自営電柱代及び番組費が控除されるべきであると主張する。しかし、本件使用許諾契約においては、利益ではなく収入を基礎として使用料等を算定すべきものと規定されているのであるから、自営柱電気代及び番組購入費を控除すべきものとは認められない。
(3) 被控訴人成田ケーブルテレビの使用料相当額等
ア 証拠(乙35の11、乙37の1〜10)によれば、平成3年度ないし平成13年度の使用料算定の基礎となる営業収入のうち平成2年度ないし平成12年度の利用料は別表2−@の「受信料収入」欄記載のとおりであると認められる。また、広告料収入については、証拠(乙44の1〜10、乙46の1〜9)によれば、同表の「広告料収入」欄記載のであると認められる。そうすると、平成3年度ないし平成13年度の使用料の基礎となる営業収入の額は、同表の「営業収入」欄記載のとおりである。そして、営業収入からの控除の対象となるコンバータリース料及びペイチャンネル購入費は、証拠(乙50の5〜11、乙52の5〜11)によれば、それぞれ同表の「HTリース料」欄、「ペイ購入費」欄記載のとおりである。
 また、証拠(甲45、甲46の2、甲47、甲56の1、2、乙35)及び確認書(甲6、甲106)の合意によれば、平成8年度ないし平成13年度の使用料算定の基礎となる「自主放送時間」、「全放送時間」は、それぞれ同表の「自主放送時間・CSA」欄、「全放送時間B」欄記載のとおりであると認められる。そうすると、テレビ使用料額(消費税を含む。)の額は、同表の「テレビ使用料相当額」欄記載のとおりである。
 音声放送については、甲5覚書の第2条により、上記10(1)のとおり定められているところ、被控訴人成田ケーブルテレビについては、音声放送の営業収入が区分できないから、上記定額使用料を適用し、これに消費税を加算すると、その額は、同表の「音声使用料相当額」欄記載のとおりである。
イ 被控訴人成田ケーブルテレビは、営業収入から電波障害回線利用料及び番組表通信費を控除すべきであると主張する。しかし、本件使用許諾契約の第2条において定められている計算方法によれば、電波障害の原因者から委託を受けて有線テレビ事業者が障害地域に受信施設等を設置した場合であっても、その地域の世帯から受信料を徴収していれば算定の基礎に加算されるから、電波障害回線利用料を控除すべきであるということはできない。また、上記確認書によれば、番組表購読料は控除しないこととされているから、番組表通信費を控除することはできない。
 したがって、被控訴人成田ケーブルテレビの上記主張は採用することができない。
ウ また、被控訴人成田ケーブルテレビは、WOWOWのキックバックを控除すべきであると主張して、乙76及び乙77の1〜7を提出し、上記確認書の合意Eによれば、WOWOWからのキックバックは営業収入に含めないことされている。しかしながら、控訴人は、平成13年10月1日に本訴が提起すると同時に、甲6の確認書を提出し、同確認書には、WOWOWからのキックバックは営業収入に含めないことが記載されている上、「WOWOWからのキックバックについては、書証の提出がないため控除しない」(平成16年2月17日付け準備書面(7)の14頁)と指摘していたものである。それにもかかわらず、被控訴人成田ケーブルテレビは控訴審である当審の弁論が終結された第6回口頭弁論期日において突然上記各書証を提出したものである。しかも、乙76の体裁は同被控訴人代表者作成の陳述書であって、客観的な裏付けを有するものということはできない。また、乙77の1から7は同被控訴人の総勘定元帳(写し)として提出されたものであるが、ほとんどの部分が塗りつぶされている。上記各書証の提出に至る上記訴訟の経緯及びこれらの書証の体裁に照らすと、上記各書証の信用性には疑問があるものというほかなく、これらの証拠によってWOWOWからのキックバックを認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、WOWOWからのキックバックを控除することはできない。
エ 以上によれば、平成3年度ないし平成13年度の使用料相当額は、同表の「使用料相当額計」欄記載のとおりである。
オ 不当利得返還請求との関係
 本件訴訟において、控訴人は、被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビに対し、不法行為による損害賠償と不当利得返還を択一的に請求しているところ、平成10年9月30日以前、及び平成13年4月1日から平成14年3月21日までの間の不法行為に基づく損害賠償請求権が時効により消滅したことは、前記のとおりである。したがって、消滅時効が成立している平成3年分から平成9年分並びに消滅時効が成立した部分が一部存在する平成10年分の平成10年4月1日から同年9月30日までの部分及び平成13年分の平成13年4月1日から平成14年3月21日までの部分については、不当利得返還請求として認容することとし、その額は前記使用料相当額と認める。また、本件訴訟に至る経緯にかんがみれば、同被控訴人らが悪意の受益者であることが認められるから、民法704条の利息分も理由がある。
 以上によれば、被控訴人成田ケーブルテレビに対する請求のうち、不法行為による損害賠償請求を認容する部分は平成10年分の一部、平成11年分、平成12年分及び平成13年分の一部であり、不当利得返還請求を認容する部分は平成3年分から平成9年分、平成10年分の一部及び平成13年分の一部ということになる(後記10で改めて整理する。)。
(4) 被控訴人銚子テレビの使用料相当額等
ア 証拠(乙36の1〜11)によれば、平成3年度ないし平成13年度の使用料算定の基礎となる営業収入のうち平成2年度ないし平成12年度の利用料は別表2−Aの「受信料収入」欄記載のとおりであると認められる。そうすると、平成3年度ないし平成13年度の使用料の基礎となる営業収入の額は、同表の「営業収入@」欄記載のとおりである。
イ 被控訴人銚子テレビは、営業収入からコンバータリース料及びチャンネルガイド費を控除すべきであると主張する。しかしながら、コンバータリース料に関する乙75は上記口頭弁論期日において突然提出されたものであり、その体裁も同被控訴人の代表者作成の陳述書であって、客観的な裏付けを有するものということはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。また、上記確認書の合意によれば、番組表購読料は控除しないこととされているのであるから、チャンネルガイド費を控除することはできない。
ウ 以上によれば、平成3年度ないし平成13年度の使用料相当額は、同表の「使用料相当額計」欄記載のとおりである。
エ なお、不当利得返還請求との関係は、前記(3)オで説示したとおりである。
(5) 被控訴人行田ケーブルテレビに対する使用料額について
ア 証拠(甲6、甲25〜甲29)によれば、控訴人と連盟との間において、「放送時間」に関しては、@地上波放送・BS放送の再送信の放送時間を1週間当たり168時間とみなすこと、A文字放送等音楽を全く使用しないチャンネルは算出対象から除くこと、CS放送チャンネルの1週間当たりの放送時間を各チャンネルごとに確認書(甲6、甲106)記載の表のとおりとみなすこと、「営業収入」に関しては、@ペイチャンネルの番組供給者との間で、ペイチャンネル分の収入を按分する契約があり、番組供給者への支払を区別して報告するときは、事業者が徴収するペイチャンネル分の収入から番組供給者への支払分を控除すること、A事業者が、受信料の中にコンバータリース料を含めている場合で、そのリース料を報告するときは、その額を控除すること、B番組表購読料は控除しないこと、C主として同時再放送のチャンネルで編成される基本受信料と多チャンネルサービスの受信料を区別して設定・報告する場合の算出方法、D使用料は、前年度の営業収入に基づき算出するが、開局年度の使用料は開局年度の営業収入に基づき算出すること、EWOWOWからのキックバックは営業収入に含めないこと、等が合意(以下「確認書の合意」という。)されていることが認められる。
 そして、証拠(乙34の1〜6)によれば、平成8年度ないし平成13年度の使用料算定の基礎となる営業収入のうち平成7年度ないし平成12年度の利用料は別表2−Bの「受信料収入」欄記載のとおりであると認められる。また、広告料収入については、証拠(乙45、乙34の5)によれば、平成12年度において640万6905円であり、平成12年度における上記「受信料収入」1億0599万4000円の6.04%であるから、各年度においても同割合であると推認することができ、その額は同表の「広告料収入」欄記載のであると認められる。そうすると、平成8年度ないし平成13年度の使用料の基礎となる営業収入の額は、同表の「営業収入@」欄記載のとおりである。
 また、証拠(甲55の1、2、乙34の1〜6)及び確認書の合意によれば、平成8年度ないし平成13年度の使用料算定の基礎となる「自主放送時間」、「全放送時間」は、それぞれ同表の「自主放送時間A」欄、「全放送時間B」欄記載のとおりであると認められる。そうすると、テレビ使用料額(消費税を含む。)の額は、同表の「テレビ使用料額」欄記載のとおりである。
 音声放送については、甲5覚書の第2条により、音声放送の営業収入がテレビジョン放送の営業収入から区分できない場合等には、同覚書添付の別表に定める定額使用料(受信契約者数3000世帯まで6000円、同5000世帯まで7000円)が適用されることが定められている。被控訴人行田ケーブルテレビについては、音声放送の営業収入が区分できないから、上記定額使用料を適用し、これに消費税を加算すると、その額は、同表の「音声使用料額」欄記載のとおりである。
イ 被控訴人行田ケーブルテレビは、営業収入からガイド誌代及びコンバータリース料を控除すべきであると主張する。しかしながら、上記確認書のによれば、番組表購読料は控除しないこととされているのであるから、ガイド誌代を控除することはできない。また、コンバータリース料に係る乙73は、弁論が終結された当審第6回口頭弁論期日において突然提出されたものであり、その体裁も同被控訴人代表者作成の陳述書であって、客観的な裏付けを有するものということはできない。
 したがって、被控訴人行田ケーブルテレビの上記主張は採用することができない。
ウ 以上によれば、平成8年度ないし平成13年度の使用料は、同表の「使用料額計」欄記載のとおりである。
(6) 弁護士費用
 本件事案の内容、審理経過、認容額等にかんがみ、被控訴人成田ケーブルテレビ及び同銚子テレビの不法行為により同被控訴人らに負担させるべき弁護士費用の額は、被控訴人成田ケーブルテレビについては40万円(不法行為としての使用料相当認容額と差止請求訴額の合計額を考慮)、同銚子については5万円(前同)とするのが相当である。
10 まとめ
 以上によると、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求は、
(1) 被控訴人成田ケーブルテレビに対しては、
ア 著作権に基づく差止請求と、
イ 別表2−@記載の各年度の使用料相当額合計624万1857円(平成3年分から平成12年分については、平成10年9月30日までは不当利得金として、平成10年10月1日から平成13年3月31日までは損害賠償金として。平成13年分については、平成13年4月1日から平成14年3月21日までは不当利得金として、平成14年3月22日から平成14年3月31日までは損害賠償金として。)と、
ウ 別表2−@記載の既経過遅延損害金85万5136円(ただし、平成3年分から平成12年分の平成10年9月30日までの分と、平成13年分の平成14年3月22日までの分は法定利息として。その余は遅延損害金として。)と、
エ 弁護士費用40万円と、
オ 前記イの使用料相当額合計624万1857円と弁護士費用40万円の総合計664万1857円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(ただし、使用料相当額のうち損害賠償債権の時効消滅部分については法定利息として)と
 を、各求める部分(なお、前記イ・ウ・エの合計額は749万6993円である。)は理由があるが、その余は理由がなく、
(2) 被控訴人銚子テレビに対しては、
ア 著作権に基づく差止請求と、
イ 別表2−A記載の使用料相当額合計72万0504円(内訳は前記(1)イのとおり)と、
ウ 別表2−A記載の既経過遅延損害金9万1383円(ただし、法定利息との関係は前記(1)ウのとおり)と、
エ 弁護士費用5万円と、
オ 前記イの使用料相当額合計72万0504円と弁護士費用5万円の総合計77万0504円に対する平成13年10月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金(ただし、法定利息との関係は前記(1)オのとおり)と
 を、各求める部分(なお、前記イ・ウ・エの合計額は86万1887円である。)は理由があるが、その余は理由がなく、
(3) 被控訴人行田ケーブルテレビに対しては、平成8年度ないし平成13年度の使用料合計292万9601円及びうち平成8年度ないし平成12年度の使用料合計226万9601円に対する訴状送達の日の翌日である平成13年10月12日から、平成13年度分の使用料65万8208円に対する弁済期の翌日である平成14年4月1日から、各支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める全部について理由がある。
11 結論
 よって、これと異なる原判決を変更し、控訴人の本訴請求を、前記10の理由がある限度で認容し、その余は棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 岡本岳
 裁判官 上田卓哉
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