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【事件名】ケーブルテレビの再送信使用料事件(銚子テレビ放送/成田ケーブルテレビ/行田ケーブルテレビ)(2)
【年月日】平成17年8月30日
 知財高裁 平成17年(ネ)第10009号 著作権使用料請求控訴事件(A事件)
  (旧事件番号・東京高裁平成16年(ネ)第3408号
  /原審・東京地裁平成13年(ワ)第8592号、同14年(ワ)第4002号、同15年(ワ)第28981号)、
 平成17年(ネ)第10010号 著作物使用料請求控訴事件(B事件)
 (旧事件番号・東京高裁平成16年(ネ)第3409号
 /原審・東京地裁平成13年(ワ)第10769号、同14年(ワ)第4003号、同15年(ワ)第28982号)、
 平成17年(ネ)第10011号 著作権使用料請求控訴事件(C事件)
 (旧事件番号・東京高裁平成16年(ネ)第3427号
 /原審・東京地裁平成13年(ワ)第8593号、同14年(ワ)第4006号、同15年(ワ)第28983号)、
 平成17年(ネ)第10077号 附帯控訴事件
 (口頭弁論終結日 平成17年7月1日)

判決
ABC事件被控訴人・附帯控訴人 協同組合日本脚本家連盟(以下「原告日脚連」等という。)
ABC事件被控訴人・附帯控訴人 協同組合日本シナリオ作家協会(以下「原告シナリオ作家協会」等という。)
ABC事件被控訴人・附帯控訴人 社団法人日本音楽著作権協会(以下「原告音楽著作権協会」等という。)
ABC事件控訴人 社団法人日本芸能実演家団体協議会(以下「原告芸団協」等という。)
ABC事件被控訴人・附帯控訴人 社団法人日本文芸家協会(以下「参加人文芸家協会」等という。)
上記5名訴訟代理人弁護士 田倉栄美
原告音楽著作権協会・同芸団協訴訟代理人弁護士 藤原浩
同 石島美也子
同 市村直也
原審東京地裁平成14年(ワ)第4002号・同第4003号・同第4006号事件脱退原告 社団法人日本文芸著作権保護同盟(以下「脱退原告保護同盟」等という。)
A事件控訴人兼被控訴人・附帯被控訴人 成田ケーブルテレビ株式会社(以下「被告成田ケーブルテレビ」等という。)
B事件控訴人兼被控訴人・附帯被控訴人 銚子テレビ放送株式会社(以下「被告銚子テレビ」等という。)
C事件控訴人兼被控訴人・附帯被控訴人 行田ケーブルテレビ株式会社(以下「被告行田ケーブルテレビ」等という。)
3名訴訟代理人弁護士 中田祐児
同 島尾大次


主文
1 A事件控訴人成田ケーブルテレビ株式会社、B事件控訴人銚子テレビ放送株式会社及びC事件控訴人行田ケーブル株式会社の各控訴をいずれも棄却する。
2 ABC事件控訴人社団法人日本芸能実演家団体協議会の各控訴及び同協議会の当審における新たな請求並びに附帯控訴人協同組合日本脚本家連盟、同協同組合日本シナリオ作家協会、同社団法人日本音楽著作権協会及び同社団法人日本文芸家協会の各附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 被告成田ケーブルテレビは、原告日脚連、原告シナリオ作家協会、原告音楽著作権協会、原告芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、168万1962円及びこれに対する平成13年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告成田ケーブルテレビは、原告日脚連、原告シナリオ作家協会、原告芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、21万8032円及びこれに対する平成13年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告銚子テレビは、原告日脚連、原告シナリオ作家協会、原告音楽著作権協会、原告芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、10万8680円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告銚子テレビは、原告日脚連、原告シナリオ作家協会、原告芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、7899円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告行田ケーブルテレビは、原告日脚連、原告シナリオ作家協会、原告音楽著作権協会、原告芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、118万6206円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告行田ケーブルテレビは、原告日脚連、原告シナリオ作家協会、原告芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、11万8621円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被告成田ケーブルテレビ、同銚子テレビ及び同行田ケーブルテレビの負担とする。
4 この判決の第2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 控訴及び附帯控訴の趣旨
1 A事件
(1) 原告芸団協(東京地裁平成16年(ワネ)第1406号)
ア 原判決中、原告芸団協敗訴部分を取り消す。
イ 被告成田ケーブルテレビは、原告芸団協に対し、97万0444円及びこれに対する平成13年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 被告成田ケーブルテレビは、原告芸団協に対し、14万1523円及びこれに対する平成13年5月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告成田ケーブルテレビ(東京地裁平成16年(ワネ)第1425号)
ア 原判決中、被告成田ケーブルテレビ敗訴部分を取り消す。
イ 原告日脚連、同シナリオ作家協会、同音楽著作権協会、参加人文芸家協会の被告成田ケーブルテレビに対する請求をいずれも棄却する。
2 B事件
(1) 原告芸団協(東京地裁平成16年(ワネ)第1408号)
ア 原判決中、原告芸団協敗訴部分を取り消す。
イ 被告銚子テレビは、原告芸団協に対し、12万0401円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 被告銚子テレビは、原告芸団協に対し、1万0945円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告銚子テレビ(東京地裁平成16年(ワネ)第1424号)
ア 原判決中、被告銚子テレビ敗訴部分を取り消す。
イ 原告日脚連、同シナリオ作家協会、同音楽著作権協会、参加人文芸家協会の被告銚子テレビに対する請求をいずれも棄却する。
3 C事件
(1) 原告芸団協(東京地裁平成16年(ワネ)第1407号)
ア 原判決中、原告芸団協敗訴部分を取り消す。
イ 被告行田ケーブルテレビは、原告芸団協に対し、47万1744円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 被告行田ケーブルテレビは、原告芸団協に対し、5万8968円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済み年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告行田ケーブルテレビ(東京地裁平成16年(ワネ)第1423号)
ア 原判決中、被告行田ケーブルテレビ敗訴部分を取り消す。
イ 原告日脚連、同シナリオ作家協会、同音楽著作権協会、参加人文芸家協会の被告行田ケーブルテレビに対する請求をいずれも棄却する。
4 附帯控訴及び原告芸団協の当審における新たな請求
 主文2の(1)ないし(6)と同旨
 なお、原告芸団協の当審における新たな請求は、同原告の原審における請求(前記1(1)イ・ウ、2(1)イ・ウ、3(1)イ・ウ)を超える部分である。
第2 事案の概要
 本件は、著作権等管理団体である原告日脚連、同シナリオ作家協会、同音楽著作権協会(JASRAC)、同芸団協及び参加人文芸家協会が、有線放送事業者である被告成田ケーブルテレビ、同銚子テレビ及び同行田ケーブルテレビに対し、同時再送信における著作物使用に対する使用許諾契約(テレビに関する「A契約」とラジオに関する「B契約」)に基づき、契約に定められた平成7年度から11年度までの使用料又は補償金と遅延損害金の支払を求めた事案である。
 本件訴訟においては、著作権等管理団体である原告らが、同時再送信を行う有線放送事業者である被告らに対し、著作権又は著作隣接権を行使できるかどうかを前提として、既に締結されていた前記使用許諾契約が錯誤による無効又は詐欺により取消し得べきものか等が主たる争点となり、そのほか消滅時効の成否等も争点となった。
 平成16年5月21日になされた原判決は、著作権法92条2項1号によれば、有線放送の方法によりなされる実演の放送に実演家の権利は及ばないから、本件各契約のうち原告芸団協に関する部分は錯誤により無効であるとし、消滅時効の成立も一部認めたが、その余は原告ら(原告日脚連、同シナリオ作家協会、同音楽著作権協会及び参加人文芸家協会。以下「原告日脚連ら4団体」という。)の請求が理由があるとしたため、被告全員及び原告芸団協がこれを不服として控訴を提起したものである。
 なお、原告らは、当審に至り、附帯控訴の提起と請求の拡張により被告らへの請求を整理し、不可分債権としての権利行使として、前記年度の使用料又は補償金とこれに対する遅延損害金の請求に改めた。
第3 当事者の主張
1 請求原因
(1) 当事者
ア 原告日脚連(その前身は、協同組合日本放送作家組合である。以下、両者を区別することなく「原告日脚連」という。)、同シナリオ作家協会、同音楽著作権協会及び参加人文芸家協会は、著作権管理事業法に基づき文化庁長官の登録を受けた著作権等管理団体であり、著作物の管理等を行っている団体である(なお、原告日脚連、同シナリオ作家協会及び同音楽著作権協会は、平成13年10月1日の著作権等管理事業法施行前においては、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(以下「仲介業務法」という。)に基づき著作権に関する仲介業務をなすことの許可を受けた著作権仲介団体であった。)。
 原告芸団協は、著作権法95条、95条の3、104条の3に基づき、文化庁長官により「実演を業とする者の相当数を構成員とする団体」として指定を受けた団体である。
イ 脱退原告保護同盟は、平成13年10月1日の著作権等管理事業法施行前においては、仲介業務法に基づき著作権に関する仲介業務を行うことの許可を受けた仲介業務団体であり、著作権等管理事業法施行後においては、同法に基づき文化庁長官の登録を受けた著作権管理団体であった。平成15年10月1日、参加人文芸家協会は、脱退原告保護同盟から著作権管理業務と共に後記本件A契約及び本件B契約(以下、両契約を併せて「本件各契約」という。)に基づき被告らに対して有する債権を承継した(これに伴い、脱退原告保護同盟は、原審において本件訴訟から脱退)。
ウ 被告成田ケーブルテレビは、有線テレビジョン放送法(以下「有テレ法」という。)による放送事業等を目的として、昭和62年4月3日に設立された株式会社であり、平成元年9月8日、有テレ法3条に基づき、有線テレビジョン放送施設の設置について郵政大臣の許可を受け、平成2年10月28日からサービスを開始し、以後現在に至るまで、有線テレビジョン放送を継続して行う有線放送事業者である。
 被告銚子テレビは、有線による音声、映像放送の再送信及び自主的な番組、広告の送出等を目的として、昭和62年4月20日に設立された株式会社であり、平成元年9月8日、有テレ法3条に基づき、有線テレビジョン放送施設の設置について郵政大臣の許可を受け、平成2年4月24日からサービスを開始し、以後現在に至るまで、有線テレビジョン放送を継続して行う有線放送事業者である。
 被告行田ケーブルテレビは、有テレ法による放送事業等を目的として、平成元年1月13日に設立された株式会社であり、平成3年2月5日、有テレ法3条に基づき、有線テレビジョン放送施設の設置について郵政大臣の許可を受け、平成4年4月1日からサービスを開始し、以後現在に至るまで、有線テレビジョン放送を継続して行う有線放送事業者である。
(2) 使用許諾契約の締結
ア 本件A契約
 原告日脚連、同音楽著作権協会、同シナリオ作家協会、同芸団協及び脱退原告保護同盟(以下、上記5団体を併せて「原告ら5団体」という。)は、平成3年6月12日に被告成田ケーブルテレビとの間で、平成3年7月16日に被告銚子テレビとの間で、平成4年7月6日に被告行田ケーブルテレビとの間で、有線テレビジョン放送に関し、下記の内容の契約を締結した(ABC事件各甲1、以下「本件A契約」という。)。
 記
 「 社団法人日本音楽著作権協会、協同組合日本脚本家連盟、協同組合日本シナリオ作家協会、社団法人日本文芸著作権保護同盟(以下「甲ら」という。)と、社団法人日本芸能実演家団体協議会(以下「乙」という。)は、○○○(判決注;「○○○」の部分は、A事件甲1では「成田ケーブルテレビ株式会社」、B事件甲1では「銚子テレビ放送株式会社」、C事件甲1では「行田ケーブルテレビ(株)」と記載されている。)(以下「丙」という。)との間に、有線テレビジョン放送に関し、以下のとおり契約を締結する。
 第1条(使用許諾)
 甲らは丙に対し、第2条に掲げる使用料(消費税を含まない。以下同じ)を支払うことを条件として、甲らがコントロールを及ぼしうる範囲に属する著作物を使用して制作された放送番組を、ケーブルによって変更を加えないで同時再送信することを許諾する。
 2 乙は、丙が第2条に掲げる補償金(消費税を含まない。以下同じ)を支払うことを条件として、乙の会員の実演によって制作された放送番組を、丙がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する。
 第2条(使用料、補償金の支払い)
 前条の使用料と補償金の合計金額は、丙が当該年度に受領すべき利用料総額に、各々次の料率を乗じて算出した額とする。
 A 区域内再送信は、1波について 0.015%
 B 区域外再送信は、1波について 0.09%
 但し、丙が支払う使用料と補償金の合計額は、受領すべき利用料総額の0.35%を限度とする。
 2 使用料及び補償金に課される消費税は、別途添付の上、丙から甲ら及び乙に支払う。
 第3条(利用料収入の報告)
 丙は、当該年度の利用料収入を甲ら及び乙に報告するものとし、当該年度終了後2か月以内に有線テレビジョン放送施行規則第36条の規定による業務運営状況報告書の写しにより、甲ら及び乙の代表者である協同組合日本脚本家連盟(以下「甲ら及び乙の代表者」という。)に報告する。
 第4条(使用料、補償金の支払い)
 丙は、甲ら及び乙に対し、第2条の使用料、補償金を当該年度終了後2か月以内に、甲ら及び乙の代表者の事務所に持参または送金して支払う。
 第5条(契約の解除)
 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は1か月間の通知催告の上、本契約を解除することができる。
 第6条(差止め請求と損害賠償請求)
 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は、丙に対し当該違反行為の停止と損害賠償を請求することができる。
 第7条(管轄裁判所の合意)
 甲ら乙及び丙は、本契約に関し紛争が生じたときの管轄裁判所を東京地方裁判所と定めることに合意する。
 第8条(契約期間)
 本契約の有効期間は、○○○(判決注;「○○○」の部分は、A事件甲1では「平成2年10月1日から平成3年3月31日」、B事件甲1では「平成2年4月24日から平成3年3月31日」、C事件甲1では「平成4年4月1日から平成5年3月31日」と記載されている。)までとする。
 本契約の期間満了の日の1か月前までに、甲ら乙または丙から本契約の廃棄、変更について特別の意思表示が文書によってなされなかった場合は、期間満了の日の翌日から起算しさらに1か年間その効力を有する。以降の満期のときもまた同様とする。」
イ 本件B契約
 原告日脚連、原告シナリオ作家協会、脱退原告保護同盟(以下、上記3団体を併せて「原告日脚連ら3団体」という。)及び原告芸団協は、平成3年6月12日に被告成田ケーブルテレビとの間で、平成3年7月16日に被告銚子テレビとの間で、平成4年7月6日に被告行田ケーブルテレビとの間で、有線ラジオ放送に関し、下記の内容の契約を締結した(ABC事件各甲2、以下「本件B契約」といい、本件A契約と併せて「本件各契約」という。)。
 記
 「協同組合日本脚本家連盟、協同組合日本シナリオ作家協会、社団法人日本文芸著作権保護同盟(以下「甲ら」という。)と、社団法人日本芸能実演家団体協議会(以下「乙」という。)は、○○○(判決注;「○○○」の部分は、A事件甲2では「成田ケーブルテレビ株式会社」、B事件甲2では「銚子テレビ放送株式会社」、C事件甲2では「行田ケーブルテレビ(株)」と記載されている。)(以下「丙」という。)との間に、有線ラジオ放送に関し、以下のとおり契約を締結する。
 第1条(使用許諾)
 甲らは丙に対し、第2条に掲げる使用料(消費税を含まない。以下同じ)を支払うことを条件として、甲らがコントロールを及ぼし得る範囲に属する著作物を使用して制作されたラジオ放送番組を、ケーブルによって変更を加えないで同時再送信することを許諾する。
 2 乙は、丙が第2条に掲げる補償金(消費税を含まない。以下同じ)を支払うことを条件として、乙の会員の実演によって制作されたラジオ放送番組を、丙がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する。
 第2条(使用料、補償金の支払い)
 前条の使用料と補償金の合計金額は、丙が当該年度に受領すべき利用料総額に、各々次の料率を乗じて算出した額とする。
 @ 区域内再送信は、1波について 0.015%×10/100
 A 区域外再送信は、1波について 0.09%×10/100
 但し、丙が支払う使用料と補償金の合計額は、受領すべき利用料総額の0.35%×10/100を限度とする。
 2 使用料及び補償金に課される消費税は、別途添付の上、丙から甲ら及び乙に支払う。
 第3条(利用料収入の報告)
 丙は、当該年度の利用料収入を甲ら及び乙に報告するものとし、当該年度終了後2か月以内に有線テレビジョン放送施行規則36条の規定による業務運営状況報告書の写しにより、甲ら及び乙の代表者である協同組合日本脚本家連盟(以下「甲ら及び乙の代表者」という。)に報告する。
 第4条(使用料、補償金の支払い)
 丙は、甲ら及び乙に対し、第2条の使用料、補償金を当該年度終了後2か月以内に、甲ら及び乙の代表者の事務所に持参または送金して支払う。
 第5条(契約の解除)
 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は1か月間の通知催告の上、本契約を解除することができる。
 第6条(差止め請求と損害賠償請求)
 丙が、本契約の規定に違反したときは、甲ら及び乙の代表者は、丙に対し、当該違反行為の停止と損害賠償を請求することができる。
 第7条(管轄裁判所の合意)
 甲ら乙及び丙は、本契約に関し紛争が生じたときの管轄裁判所を東京地方裁判所と定めることに合意する。
 第8条(契約期間)
 本契約の有効期間は、○○○(判決注;「○○○」の部分は、A事件甲2では「平成2年10月1日から平成3年3月31日」、B事件甲2では「平成2年4月24日から平成3年3月31日」、C事件甲2では「平成4年4月1日から平成5年3月31日」と記載されている。)までとする。
 本契約の期間満了の日の1か月前までに、甲ら乙又は丙から本契約の廃棄、変更について特別の意思表示が文書によってなされなかった場合は、期間満了の日の翌日から起算しさらに1か年間その効力を有する。以降の満期のときもまた同様とする。」
(3) 使用料・補償金
 本件各契約に基づく使用料及び補償金(以下「本件使用料等」という。)は、別紙使用料計算表(平成7年度ないし11年度)のとおり、被告成田ケーブルテレビのA契約分が168万1962円、B契約分が21万8032円、被告銚子テレビのA契約分が10万8680円、B契約分が7899円、被告行田ケーブルテレビのA契約分が118万6206円、B契約分が11万8621円である。
(4) まとめ
 よって、
ア 被告成田ケーブルテレビは、
(ア) 原告日脚連、同シナリオ作家協会、同音楽著作権協会、同芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、A契約に基づき前記各年度の使用料又は補償金(原告芸団協のみ補償金)合計168万1962円及びこれに対する平成13年5月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を、
(イ) 原告日脚連、同シナリオ作家協会、同芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、B契約に基づく前記各年度の使用料又は補償金(原告芸団協のみ補償金)合計21万8032円及びこれに対する平成13年5月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を、
イ 被告銚子テレビは、
(ア) 原告日脚連、同シナリオ作家協会、同音楽著作権協会、同芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、A契約に基づき前記各年度の使用料又は補償金(原告芸団協のみ補償金)合計10万8680円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を、
(イ) 原告日脚連、同シナリオ作家協会、同芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、B契約に基づく前記各年度の使用料又は補償金(原告芸団協のみ補償金)合計7899円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を、
ウ 被告行田ケーブルテレビは、
(ア) 原告日脚連、同シナリオ作家協会、同音楽著作権協会、同芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、A契約に基づき前記各年度の使用料又は補償金(原告芸団協のみ補償金)合計118万6206円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を、
(イ) 原告日脚連、同シナリオ作家協会、同芸団協及び参加人文芸家協会に対し、それぞれ不可分的に、B契約に基づく前記各年度の使用料又は補償金(原告芸団協のみ補償金)合計11万8621円及びこれに対する平成13年5月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を、
 それぞれ支払う義務がある。
 そこで、控訴審である当審においては、被告らの各控訴を棄却するとともに、附帯控訴及び当審における新たな請求に基づき、前記請求と結論を異にする原判決を変更し、前記請求を認容する判決をすることを求める。
2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)、(2)の各事実は認めるが、(3)は争う。
3 被告成田ケーブルテレビ、同銚子テレビ及び同行田ケーブルテレビの主張
(1) 原告芸団協の当事者適格欠如
 原告芸団協は、著作隣接権者に代わって被告らに対して著作隣接権を行使できず、本件訴訟の当事者適格を有さないから、その訴えは却下されなければならない。
 本件で争われているのは、小説、脚本、楽曲を伴う場合における歌詞及び楽曲(以上、著作物)に関する著作権、並びに、実演に関する著作隣接権についての各権利行使である。権利行使行為は、本来、権利者本人でなければ行えないが、原告らが本件権利行使行為を行っているのは、権利者本人との関係で著作権、著作隣接権の管理、処分を委ねられたことを理由とするものと考えられる。すなわち、原告らは、権利者本人との間でなされた「財産権ノ移転其ノ他ノ処分ヲ為シ他人ヲシテ一定ノ目的ニ従ヒ財産ノ管理又ハ処分ヲ為サシムル」行為、すなわち、信託法上の「信託」(同法1条)に基づき、本件の権利行使行為を行っている。原告らによる本件の権利行使行為は、本来、信託法、信託業法によって禁止されているところ、原告芸団協を除く原告日脚連ら4団体の権利行使行為が許されるのは、仲介業務法に基づく行為だからである。すなわち、著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律(以下「仲介業務法」という。)は、著作物の利用に関する契約について代理・媒介(1条1項)、信託(同条2項)を業としてなす行為を著作権に関する「仲介業務」と定義し、仲介業務をなすには文化庁長官の許可を得なければならないと定めた(2条)。したがって、小説、脚本、楽曲を伴う場合における歌詞及び楽曲については、文化庁長官の許可を得た場合に限り、「信託」が許されることになる(なお、文化庁長官の許可を得ていなければ、そもそも信託業法によって「信託」が許されない。)。原告芸団協を除く原告日脚連ら4団体は、仲介業務法2条に基づく文化庁長官の許可を得て仲介業務を営んでいるから、「信託」も仲介業務の一種として行うことができる(同法1条2項)。しかし、原告芸団協は、民法上の社団法人であり、その正会員(民法上の社員)は、演劇、音楽、舞踊、演芸など各分野の69団体(平成17年2月現在)から成る。このように、原告芸団協は、仲介業務法1条3項が定める著作物でないのはもちろん、そもそも、同法が仲介業務の対象とする著作物ですらない著作隣接権に関する団体にすぎず、かつ、著作隣接権者個人ではなく著作隣接権者が加盟する団体を社員として設立された社団法人にすぎないから、仲介業務法に基づく仲介人ではなく、前述した原告ら日脚連外3と異なり、仲介業務法に基づいて本件の権利行使行為を正当化することはできない。
(2) 詐欺による取消し・錯誤無効等
ア 映画の著作物であるテレビ番組の同時再送信に関し、原告らは、次に述べるように、そもそも著作権、著作隣接権の主張をなし得る立場にないのであって、これがなし得るという誤った前提で締結された本件A契約は詐欺により取り消し得べきものであるし、あるいはそうでなくとも錯誤により無効である。
 テレビ番組は、「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」、かつ、生放送番組を除き、ビデオテープ等の「物に固定されている著作物」であるから、著作権法にいう「映画の著作物」に該当する。そして、著作権法においては、映画の著作物について、著作権者は「その映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」と定められるとともに、「その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物」の著作者が、映画の著作物の著作者に当たらないことを明確にしている(著作権法16条)。著作権法16条は、映画の著作物の著作者から「その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除く」と定めているが、この趣旨は、映画の著作物に関しては、小説、脚本、音楽などの著作者を著作権法28条の原著作者と認めないと法が定めたものと理解することができる。
 仮に、映画の著作物について著作権法28条の適用が認められても、原著作者の有する権利は、著作者人格権にとどまる。まず、著作権法29条1項、2項が適用される場合、映画の著作物の著作者(監督ら)は、映画の著作物の著作権を原始的に有さず、少なくとも、放送権を有さない。したがって、監督らは、映画の著作物の放送を差し止めたり、使用料を請求したりすることはできない。ところで、著作権法28条によって原著作者の有する権利は、「当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利」であるから、原告らが映画の著作物について原著作物の著作者であったとしても、その行使できる権利は、著作者である監督らが有する権利にとどまり、監督らが原始的に有さない権利にまでは及ばないから、被告らに対して、映画の著作物の放送を差し止めたり、使用料を請求することはできない。要するに、原著作物の著作者は、二次的著作物の著作者が有する以上の権利を行使できないし、このように解して初めて、映画の著作物に関しその著作権の帰属を定めた著作権法29条と28条を整合的に理解することができる。
 また、音楽の著作物はテレビ番組の原著作物にはなり得ない。原告らが著作権等を主張する番組表(甲4)の番組欄には、各番組のBGM、主題歌などが列挙されている。音楽に依拠し、かつ、音楽の主要な部分を含み音楽が表現している思想、感情の主要な部分と同一の思想、感情を表現するものとして、映画の著作物が制作されることは通常あり得ないから、これらの音楽はいずれも映画の著作物について原著作物とは認められない。それゆえ、音楽の著作物が被告らの有線放送するテレビ番組の原著作物であるとの原告音楽著作権協会の主張は失当である。
 次に、原告らが引用する脚本はテレビ番組の原著作物にはなり得ない。原告らの引用する番組表の脚本欄には、あらゆる番組について脚本が存在するかのように記載されている。しかし、ニュース、ワイドショー、トーク、歌番組のように性質上、脚本としての文芸性(著作権法2条1項1号)が認められず、単なる進行予定を記載したにすぎないものについてまで、原著作物ということはできない。また、多くの脚本は、映画の著作物の制作のために、これに付随して作成されているから、当該脚本が独自の著作物として保護されるのは格別、当該映画の著作物との関係では、映画の著作物がその脚本に依拠して作成されたとはいえない。さらに、前記番組表には、原作の存在するものも相当数あり、原作の存在するものについては、原作とテレビ番組の間で原著作物、二次的著作物の成否が考えられるべきであり、脚本とテレビ番組との間にその関係が成立する余地はない。すなわち、著作権法28条によると、原著作物の著作者は、二次的著作物の著作者が有するのと同一の権利を専有するとされており、また、原著作物と二次的著作物の関係が成立するためには、前記のとおり「依拠性」と「思想、感情の同一性」の2要件が必要とされるが、このような関係は原作とテレビ番組との間に成立する。そして、原作が存在する場合には、脚本は原作を映画化(テレビ番組化)するための手段にすぎず、独立に原著作物にはなり得ない。ところで、本件の場合、原作の多くは「無所属」であるから、原告らは原著作物、二次的著作物の関係が成立することを理由に、使用料を請求することは許されない。原作ないし脚本とテレビ番組との間に、常に原著作物と二次的著作物の関係が成立するわけではなく、原告らは、原作ないし脚本とテレビ番組との間に、原著作物と二次的著作物の関係が成立することを理由に使用許諾をして使用料を請求するのであれば、上記番組表の原作ないし脚本と実際に放送(同時再送信)されているテレビ番組との間で、テレビ番組が原作ないし脚本に依拠して制作され、テレビ番組に原著作物の表現している思想、感情の主要な部分と同一の思想、感情が表現されていることを立証しなければならないが、本件においてこのような立証は全くなされていない。
イ 有線放送事業者による放送の同時再送信は、有線放送事業者による放送の履行補助行為であって、著作物の新たな利用には当たらないし、また、原告ら5団体も同時再送信を前提に放送事業者に許諾しているから、放送の同時再送信は原告らが放送事業者に対して許諾した著作物の使用の範囲に含まれている。したがって、被告らは、原告ら5団体から改めて許諾を得る必要はなく、原告ら5団体からの被告らに対する使用許諾を内容とする本件各契約は、契約の要素に錯誤があるものであって無効であるし、仮にそうでなくとも、原告らの請求は、著作権法に違反するものであって認められない。
 有テレ法施行規則2条1号は、「「同時再送信」とは、放送事業者のテレビジョン放送又はテレビジョン多重放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで同時にこれを再送信する有線テレビジョン放送をいう」と定めている。このように、同時再送信とは、放送事業者が放送するテレビ番組の電波について、有線放送事業者が、放送事業者の同意を得た上で(有テレ法13条2項)、受信すると同時に有線で再送信する行為である。したがって、現実に同時再送信の対象となる番組は、当該地域で一般に無線送信されている番組である。また、一般視聴者は、有線放送を導入するに際し、自分の家のテレビをこれまでの無線アンテナに代えて有線ケーブルに接続する。このように、一般視聴者は、無線アンテナの代替物として有線ケーブルを利用し、かつ、一般の放送について、有線放送と意識することなく同時再送信の形で視聴するのであって、無線放送と有線放送とを二重に視聴するわけではない。次に、有テレ法施行規則2条3号は、「「自主放送」とは、同時再送信以外の有線テレビジョン放送をいう」と定義している。この定義から明らかなとおり、有線放送は、同時再送信と自主放送の2種類から成り、同時再送信ではないものは、すべて自主放送に該当する。また、有テレ法17条は、「放送法第3条、第3条の2第1項及び第4項、第3条の3から第4条まで、第51条並びに第52条の規定は、有線テレビジョン放送(放送事業者のテレビジョン放送又はテレビジョン多重放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで同時にこれを再送信する有線テレビジョン放送を除く。)について準用する」と定める。ここで、準用の対象となる放送法の条項は、いずれも放送番組の編集に関する権利義務を定めた諸規定であり、放送が重大な社会的意義を有し、公益に深く影響することにかんがみて、放送番組の編集について放送事業者の権利を保障し、かつ、適切に編集権を行使すべき義務を課したものである。他方、有線放送も、その伝達手段が無線ではなく有線であるという点を除き、その重大な社会的意義、公益への影響は放送と変わるところがなく、有テレ法は、放送番組の編集に関する権利義務を定めた放送法の諸規定を、有線放送について準用したのである。しかし、「放送事業者のテレビジョン放送又はテレビジョン多重放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで同時にこれを再送信する有線テレビジョン放送」、すなわち、「同時再送信」については、内容、放送時間帯その他全ての面において有線放送事業者の編集権が及ぶ余地がなく、有テレ法17条は、括弧書きで同時再送信については放送法の準用を除外したのである。このように、有テレ法は、有線放送事業者の編集権が及ぶかどうかという観点から有線放送を2種類、すなわち、有線放送事業者の編集権が一切及ばない同時再送信と編集権が及ぶ自主放送に区分したのである。以上によれば、同時再送信の本質は、有線放送事業者の編集の権利義務が及ばないことであるのが明らかである。このように、有テレ法は、有線放送事業者の編集の権利義務が及ばないことにかんがみて、同時再送信を有線放送事業者における本来の意味での有線放送(自主放送)として扱わず、あくまで、放送事業者の放送の単なる再送信として位置付けている。かかる有テレ法の扱いによれば、同時再送信は、放送事業者の編集の権利義務に基づく1個の公衆送信であるというほかない。
 上記したところによれば、同時再送信が有線放送事業者による放送の履行補助行為であることが明らかであり、履行補助者の行為は独自の権利行使と認めることはできないから、著作物の新たな使用には当たらず、放送事業者の同意によって行うことができるというべきである。
 同時再送信が1個の公衆送信である以上、原告らが、放送と無線放送という2個の公衆送信に区分して二重に使用料を請求することはできない。番組を最終的に視聴し消費するのは公衆であり、正に公衆こそが番組の著作権の利用者であるところ、有線放送事業者は、最終の利用者の公衆に著作権を利用させるための流通に関与したにすぎない。それゆえ、著作権者は、番組について公衆送信権(著作権法23条)を有するが、放送事業者に対し、番組の公衆送信を許諾した時点でその権利行使は終了し、その後の同時再送信は著作権の別個かつ新たな利用とはいえないから、重ねて著作権者の公衆送信権が及ばない。この点、著作権法2条1項7号の2は、「公衆送信」を「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信・・・を行うことをいう」と定めている。そして、「公衆送信」は、「放送」(2条1項8号)、「有線放送」(2条1項9号の2)、「自動公衆送信」(2条1項9号の4)の上位概念として、これらを包含するとされている。すなわち、著作権法は、公衆に対して著作物を送信する行為に着目して、これを著作物の利用と解し、著作権者に権利行使の機会を付与したものである。このように、著作権法上の公衆送信は、公衆に対する送信であることが要件であり、かつ、公衆とは正に最終的な視聴者を意味するから、最終的な視聴者が1回視聴する限りにおいて1個の公衆送信とみなされる。この意味で、放送も有線放送も1個の公衆送信の概念に包含され、同時再送信についても、最終的な視聴者による視聴は1回であるから、1個の公衆送信と解するほかなく、2個の公衆送信(放送と有線放送)が重複していると観念することはできない。そして、同時再送信は、有線放送事業者の編集の権利義務が及ばず、放送事業者の編集の権利義務に基づく公衆送信である以上、その公衆送信の主体は放送事業者であり、原告らが公衆送信権を行使するのは放送事業者に対してである。同時再送信は、放送事業者の編集の権利義務に基づく公衆送信であり、かつ、有線放送事業者の関与は単に放送事業者からの信号を機械的にそのまま公衆に向けて送信するにすぎず、何らの編集の権利義務も及ばないのであるから、放送事業者の公衆送信と解される。
 また、原告らは、放送事業者に対し、番組の放送を許諾しており、その際に受領する著作権料及び隣接権料は、その局のエリア(ネット放送する場合はそのネット局のエリア内も含む)すべての視聴者が視聴する対価として支払われている。したがって、放送事業者は、その業務区域内において、適法に、番組を公衆送信できる。この公衆送信には放送と有線放送との両方が包摂されることは上記のとおりであり、逆にいえば、原告らは、放送事業者の業務区域内の視聴者が、公衆送信(放送、有線放送)により、当該番組を視聴することを許諾しているというべきである。視聴者が、無線送信ではなく同時再送信によって放送を視聴したとしても、放送事業者の業務区域内において、予定された視聴者が視聴するにすぎないので、もとの許諾に当たって想定された範囲の著作物の使用にとどまり、新たな著作物の使用を生じさせるわけではない。このように、同時再送信は、原告らが許諾した放送事業者の公衆送信の範囲内における視聴手段の一つにすぎず、著作物の新たな使用には当たらず、当初の許諾の範囲内に含まれる。
 以上に述べたところによれば、被告らの同時再送信は、共同アンテナで放送を送受信するのと全く法的性質を同じくするものであり、原告らの放送事業者に対する許諾の範囲内に含まれ、著作物の新たな使用には該当しない。
 仮に、原告らが同時再送信について放送と有線放送との二重の公衆送信権を有していたとしても、使用料を二重に利得するのは、民法703条に反して不当利得を構成し、かつ、権利濫用に当たることは明らかである。
ウ 原告芸団協が著作隣接権を有すると主張する実演家は、同時再送信について、何らの著作隣接権をも有さない。なぜなら、本件実演家は、番組制作者又は放送事業者に対し、自らの実演が放送されること又は自らの実演が放送を前提として録音、録画等されることを許諾しているから、法的に、同時再送信の対象となる番組について有線放送権(著作権法92条1項)を主張できないからである(ワンチャンス主義、同法92条2項1号、2号)。それにもかかわらず、原告芸団協は、原告日脚連ら4団体と共同して、本件実演家が法的に同時再送信について無権利者であること、原告芸団協も法的に本件実演家から実演、実演に関する著作隣接権の信託を受けられないこと、したがって、同原告が被告らの同時再送信行為に対して何らの権利をも主張・行使できないことを熟知しながら、被告らを欺罔して本件契約を締結させた。すなわち、原告日脚連ら4団体は、被告らを勧誘するに際し、原告芸団協と連名で通知書を送付し、「私ども放送に係わる権利者5団体」と名乗った上、「放送番組を有線により再送信する場合は、著作権法第23条 著作者は、その著作物を放送し、有線送信する権利を専有する。 により、著作者の許諾が必要です」と称して、著作隣接権に関するワンチャンス主義の条文(著作権法92条2項)を意図的に記載しなかった(ABC事件乙1)。同様に、原告日脚連ら4団体は、原告芸団協と連名で、「ご存じの通り、著作権者の許諾なしに放送番組を有線により再送信することは、著作権法違反行為となります」との警告をする一方で、原告芸団協が有線放送による同時再送信について著作隣接権を有していないことについて意図的に一切触れなかった(ABC事件乙2)。このように、原告日脚連ら4団体は、原告芸団協と共同で被告らを勧誘するに際し、@著作権と著作隣接権の区別を明示せず、A著作権者と著作隣接権者の区別を明示せず、B原告ら5団体を単純に併記し、いずれが著作権者で、いずれが著作隣接権者であるかを区別せず、C著作権法23条という著作権に関する条項のみを引用し、著作隣接権については一切触れず、D「郵政省の許可を受けている営利法人とは昭和48年度から(ラジオ同時再送信は昭和59年度から)契約し、使用料も支払っていただいております」、「社団法人日本CATV連盟と話し合いの上、決めたものです」といった表現により、原告芸団協も、同時再送信に関し、あたかも原告日脚連ら4団体と同じ権利(補償金請求権)を有していることが公的に認められているかのように印象付けを行い、E仮に契約締結に応じなかった場合には、原告芸団協との関係でも原告日脚連ら4団体と同じく著作権侵害を生じるかのように記載し(原告芸団協には著作権法上、差止め権及び損害賠償請求権がないことを記載していない。)、F根本的に、原告芸団協が同時再送信について何らの権利をも主張・行使できない(何らかの権利を主張・行使することは、信託法、信託業法、弁護士法違反の違法無効な行為である)ことに全く触れないまま、原告芸団協が同時再送信に対する権利者であるかのように意図的に誤信させた。
 したがって、本件各契約は、全体として、詐欺によって取り消し得べきものである。
エ 被告らは、原告らの上記の欺罔行為により錯誤に陥って本件契約を締結したのであり、著作権法上、原告芸団協が同時再送信について著作隣接権を有さず、同時再送信が原告芸団協との関係で違法となる余地がない(損害賠償義務を負わない)ことを知っていれば、本件契約を締結しなかった。また、上記錯誤がなければ、通常人は、無権利者である原告芸団協に補償金を支払うという意思表示をしなかったことが明らかである。このように、被告らの錯誤は、動機の錯誤であるが、法律行為の要素に関するものであり、本件各契約は、原告芸団協に関する部分のみならず、全体として無効である。
オ 本件各契約の使用料等は、不可分債権であり、本件各契約は、不可分債権を目的とする契約であるから、不可分債権者の一人について無効又は取消しがあれば、債権の目的全体について不可分的にその効力が及ぶこととなり、不可分債権者全員について、無効又は取消しの効力が生じるというべきである。
 なお、原告らの後記反論(2)のエ(重過失)は争う。
(3) 判例・信義則違反
ア 最高裁平成13年10月25日第一小法廷判決・裁判集民事203号285頁(以下「最高裁キャンディ事件判決」という。)は、「二次的著作物である本件連載漫画の利用に関し、原著作物の著作者である被上告人は本件連載漫画の著作者である上告人が有するものと同一の種類の権利を専有し、上告人の権利と被上告人の権利とが併存することになるのであるから、上告人の権利は上告人と被上告人の合意によらなければ行使することができないと解される。したがって、被上告人は、上告人が本件連載漫画の主人公キャンディを描いた本件原画を合意によることなく作成し、複製し、又は配布することの差止めを求めることができるというべきである」と判示したが、同判決によれば、原告らは、他の権利者との合意によらなければ、著作物を利用できず、もし、合意によらずに行使すれば、他の権利者から差止めを受けることになる。
 例えば、「名探偵コナン」(ABC事件乙8)の場合、漫画家X(無所属)の漫画が原著作物、脚本家Y(原告日脚連に所属)の脚本がその二次的著作物になり、三次的著作物であるテレビ番組の権利行使については、放送事業者、脚本家及び漫画家の三者の合意が必要であり、二次的著作物である脚本の権利行使については、脚本家及び漫画家の二者の合意が必要である。三次的著作物であるテレビ番組の同時再送信が適法になるのは、漫画家、脚本家及び放送事業者の三者の合意による利用(有線放送事業者に対する許諾)がなされた場合のみであり、三者の合意による利用ではない場合には、その利用は、原著作者等との関係で違法な不法行為になり、差止め及び損害賠償請求の対象となる。ところで、Xは無所属であり、原告ら5団体に属しない(ABC事件甲4の3頁)から、原告らが同時再送信の許諾をしても、それは、Xとの合意によらない権利の行使にすぎないから、Xとの関係では違法というほかない。すなわち、脚本家Yから脚本の管理を委託された原告日脚連は、Xとの合意によらなければ、二次的著作物である脚本について権利行使ができず、かつ、差止めを受けることになる。このように、原告らに使用料等を支払っても同時再送信が適法にならないばかりか、原告ら自身も、被告らとともに漫画家Xの差止めを受けることになる。また、「名探偵コナン」のテレビ番組が、Xの漫画を原著作物、Yの脚本を二次的著作物とする三次的著作物に当たるとすれば、テレビ番組を著作した日本テレビは、X、Yとの合意によらなければ、有線放送事業者に同時再送信を許諾できない。すなわち、原告らが、番組の同時再送信を許諾していないということになれば、日本テレビは有線放送事業者に対して単独で同時再送信を許諾したことになるから、原告ら及び漫画家は、日本テレビに対しても著作権侵害の不法行為を理由に差止め、損害賠償を請求すべきことになる。しかし、本件において、原告らは、日本テレビが被告らに対して同時再送信を許諾することには反対しておらず、また、日本テレビに対して著作権侵害の不法行為を理由に差止め、損害賠償を請求していない。このことは、原告らが、日本テレビに対して同時再送信のための送信を許諾していることを裏付けている。その結果、日本テレビが被告らに対して同時再送信を許諾する行為及び許諾に基づいて放送する行為は、原告らと日本テレビの合意に基づく権利行使になるから、原告らは、被告らに対して、もはや差止めを請求できない。結局、被告らの同時再送信は、原告らの日本テレビに対する許諾の範囲に含まれていることになるというべきである。
イ さらに、原告らは、脚本を二次的著作物とした場合の漫画家など、自らの著作物の原著作者等に対しては、同時再送信について使用料を支払っていないが、自ら原著作者の権利を侵害しながら、被告らに対する権利を主張するのは、権利の濫用、信義則違反として許されない。
(4) 仲介業務法違反による無効
 仲介業務法上、違法な抱き合わせによって使用料を請求する行為は、使用料規程に基づかない違法請求というほかなく、認可された使用料規程に基づく適法な請求とはいえないから、原告日脚連ら4団体の請求は私法上も無効である。
 原告日脚連ら4団体は、原告芸団協が被告らの同時再送信行為に対して何らの権利をも主張、行使できないことを明確に認識していたのであるから、仲介業務法上、当然に、原告芸団協を含めないで、有線放送事業者と契約締結を交渉しなければならなかった。それにもかかわらず、原告日脚連ら4団体は、被告ら及び他のすべての有線放送事業者に対して、原告芸団協を除いた原告日脚連ら4団体だけとの契約締結を認めず、原告芸団協を含む5団体契約を締結しなければ、同時再送信を一切許諾しないとの強硬姿勢を崩さなかった。したがって、原告らの本訴請求は、認可された使用料規程に基づく適法な請求とはいえない。なぜなら、使用料規程における使用料率は、「著作物ノ種類及其利用方法ノ異ナル毎ニ各別ニ定メ」(仲介業務法施行規則4条2項)なければならないところ、その趣旨は、著作物の種類、利用方法ごとに使用料率を明確に定めることによって、著作物の使用者が著作物を適正に使用できる地位を確保しようとするものである。しかし、原告らは、法的に同時再送信行為に対して何らの権利をも主張、行使できず、これを行使することが信託法、信託業法、弁護士法に反して違法無効であるという原告芸団協と共に、法的に違法無効な請求額と「抱き合わせ」にして、自らの使用料を請求している。このような請求は、仲介業務法、同法施行規則が使用料規程を明確に定めさせた趣旨を没却するものであって、認可された使用料規程に基づく適法な請求とはいえない。そして、認可は、私人間の法律行為を補充してその法律効果を完成させる効果を有するものであるから、認可が必要な場合に認可を得ないでなされた法律行為は、私法上も無効である。
(5) 期間満了
 本件各契約は、いずれも有効期間が平成3年3月31日(被告成田ケーブルテレビ、同銚子テレビ)又は平成5年3月31日(被告行田ケーブルテレビ)までであるから、既に契約期間が満了し、失効している(本件各契約第8条)。この点、本件各契約には自動更新条項のごとき記載があるが、本件各契約の本質が使用料等の支払にあること、上記のとおり契約内容自体が不合理であること、被告らが原告らに対して一貫して使用料等を支払っていないこと等に照らせば、被告らが本件各契約を更新する意思がなかったことは明らかである。
 よって、契約終了後の使用料等の請求は失当である。
(6) 消滅時効
 仮に、本件各契約が現在も有効に存続しているものとしても、原告らの請求する使用料等の少なくとも一部は、時効により消滅している。すなわち、被告らは、いずれも株式会社であり、使用料等の支払は営業のためにする行為であるから、使用料請求権は、商事債権として5年の短期消滅時効に服する(商法503条、522条)。ところで、本件各契約においては、使用料等は被告が「当該年度」に受領すべき利用料総額に基づいて計算すること(A契約第2条1項、B契約第2条1項)、その弁済期は「当該年度」終了後2か月以内であること(A契約第4条、B契約第4条)が規定されている。したがって、「当該年度」については、格別の規定がないから、毎年1月1日から12月31日までと解されるところ、本件各訴えの提起より5年以上前に弁済期を迎えた年度分の使用料等は、時効により消滅している。
(7) 本件使用料等について
 仮に、本件において本件各契約に定める使用料相当額を支払うべき義務が被告らにあるとしても、その額は、原判決各別紙2の合計欄に記載する額が限度とされるべきである。
 有線放送では、契約世帯数が毎月変動するため、逐一、利用料収入を算出するのは不可能である。このため上記各別紙2においては、一般の有線放送事業者の例にならい、利用料収入を次の算式に基づいて計算している。
 (算式T)当年度の契約世帯数×月額利用料×12か月
 なお、算式Tにおける「当年度の契約世帯数」は次の算式による。
 (算式U)期初の契約世帯数+{(期末の契約世帯数−期初の契約世帯数)÷2}
 また、上記各別紙2のとおり、被告成田ケーブルテレビについては、電波障害回線利用料収入、コンバータリース料、自営柱電気代、番組購入費、番組表制作費及び番組表通信費が、被告行田ケーブルテレビについては、コンバータリース料、ガイド誌料が、被告銚子テレビについては、コンバータリース料及びチャンネルガイド誌料が控除されるべきである。被告成田ケーブルテレビでは、マンション等との間で電波障害回線利用契約を締結するに際し、契約書を作成、保管している。写真(乙61)は、かかる契約書を編綴したファイル、及びファイルを納めた収納ケース、並びにファイル又は収納ケースを保管しているロッカー等を撮影した写真である。この写真から明らかなとおり、電波障害回線利用契約に関する契約書類は極めて膨大な分量となるため、被告成田ケーブルテレビは、その契約状況を分かりやすく一覧表の形式にまとめたものが「年度別電波障害回線利用料収入明細票」(乙43)であり、その記載は、乙60、61によっても裏付けられる。被告銚子テレビに関するコンバーターリース料は十分な裏付けを有する。乙64添付の「NHK放送受信料について」と題する加入者向け通知書、及び原リース契約書によれば、被告銚子テレビがコンバーターリース料を1台当たり月額500円としていること、及びその数字が合理的な根拠に基づく相当な額であることが裏付けられる。
4 被告らの主張に対する原告らの認否と反論
(1) 原告芸団協の当事者適格について
 当事者適格とは、訴訟物たる特定の権利又は法律関係について、当事者として訴訟追行し、本案判決を求めることができる資格をいう。すなわち、当事者適格は、訴訟物とされた具体的な権利又は法律関係との関係で、誰を当事者として本案判決をすることが紛争の有効・適切な解決になるかを選別するための概念であり、請求の当否について最も強い利害と関心を有する者が誰かという点がその選別基準となる。そして、そして訴訟上の請求は特定の権利義務の主張であるから、給付の訴えにおける適格の有無は、常に原告の給付請求権の存否という本案の判断に吸収されることになり、訴訟物たる給付請求権を自らもつと主張する者には原告となる適格があり、原告によってその義務者と主張される者には被告たる適格があるのである(最高裁第一小法廷昭和61年7月10日判決・判例時報1213号83頁参照)。本件訴訟において、原告芸団協は、被告らに対し、本件各契約に基づく補償金等の請求権を有していると主張して給付の訴えを提起しているのであるから、原告芸団協に当事者適格が認められるのは当然である。
(2) 詐欺による取消し・錯誤無効等について
ア 本件A契約においては、被告らの行う有線テレビジョン放送に関し、被告らが原告らに対して一定の使用料等を支払うべき旨が定められているものである。著作権法23条に明らかなとおり、著作権者は、公衆送信権を専有しているところ、著作者より著作権等の信託等を受けた原告ら5団体は、被告らの行う放送番組の同時再送信について許諾権を有するのは当然である。本件A契約は、かかる許諾権限に基づき原告ら5団体と被告らとの間で締結されたものである。
 被告らは、放送番組は映画の著作物であるとして、当該映画の著作物の著作権の帰属を問題としているが、この問題と著作者が有する著作権法23条の公衆送信権とは全く異なる問題である。もとより、放送事業者は、「専ら放送事業者が放送のための技術的手段として制作する映画の著作物」について、その著作物を放送する権利及び放送されるその著作物を有線放送し、又は受信装置を用いて公に伝達する権利を有しているが(著作権法29条2項)、これによって著作者の公衆送信権が制限されるというものではない。また、著作権法28条は、「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の権利を専有する」と定めており、「二次的著作物の利用」という関係としても同様である。原告らは、これら著作者らの権利に基づき、被告らの行う放送番組の有線同時再送信について本件各契約を締結したのである。
 被告らは、原告らは映画の著作物たるテレビ番組について原著作者として権利を有さないと主張するが、誤りである。著作権法16条の規定によれば、脚本・音楽等の作者は、映画の著作物の著作者ではないが、映画の著作物の原著作者として、あるいは映画の著作物において利用されている著作物の著作者として、それぞれ当該映画の著作物の利用について別途権利を留保していることは明らかなことである。なお、被告らの主張のうち、当該番組のために作られた脚本は原著作物にならないという主張は、全く根拠のない主張であるし、著作権(脚本)の買取りがされているという趣旨なら、そのような事実はない。
 以上より、原告らは、被告らの行う放送の同時再送信に対して著作権法上の権利を有しているものである。本件A契約においては、これら著作者の著作物あるいは実演家の実演により制作された放送番組を被告らが有線放送で同時再送信することを許諾するについて、その範囲を「甲らがコントロールを及ぼしうる範囲」と定めたものである。被告らが主張するまでもなく、放送番組には様々なものがある。このため、本来であれば、被告らは、放送番組を有線放送で同時再送信するについて、当該番組に関わる原著作者(原作、脚本、音楽)及び実演家の許諾を得ることが必要であるところ、これには実際上多くの労力を要することから、包括的な権利処理を行うべく、本件A契約により権利処理をしているものである。したがって、原告らの権利行使が著作権法に反して許されないということもないし、本件A契約が錯誤無効ということもあり得ない。
イ 被告らは、同時再送信が放送に含まれる一個の公衆送信であると主張する。しかし、著作権法23条は著作者が公衆送信権を専有することを認め、2条1項7号の2は公衆送信を、「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信・・・を行うことをいう」と定義し、同項8号は放送について、「公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう」、同項9号の2は有線放送について、「公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信をいう」と各規定している。このように、著作権法の定める公衆送信権は、放送と有線放送という二つの利用形態を対象としていることは疑いもなく、公衆送信というのは、これら著作物の利用形態をいうものではなく、放送と有線放送という著作物の利用形態により、著作物を公衆に送信するという権利の概念(性質)を述べているにすぎない。したがって、著作者は、その有する公衆送信権に基づいて、著作物の放送を業とする放送事業者の行う放送はもとより、有線放送を業とする有線放送事業者の行う有線放送について、それぞれの著作物の利用につき 許諾権を有するものであり、これは、有線放送事業者が行う放送の同時再送信であっても同様である。このように公衆送信権は、権利の概念(性質)であって、放送と有線放送は著作物の異なる利用形態である。
 被告らは、放送の同時再送信がされたとしても最終的な視聴者による視聴は1回であるから、1個の公衆送信であると主張するが、著作者の権利は、著作物の利用に対する権利(許諾権)であり、その利用形態が異なる以上、それが同時再送信であっても、それぞれについて権利が働くことは当然であって、視聴が1回であるかどうかという問題ではない。有線放送の視聴者は、有線放送事業者との間で有線放送受信に関する契約を締結し、その利用料を支払い、これに基づいて有線放送事業者が同時再送信する放送番組を視聴しているのであって、実態としても、視聴者は有線放送により視聴していることは認識しているのである。
 被告らは、原告ら自身も同時再送信について放送事業者の公衆送信に包摂されるものとして扱い、著作権使用料を徴収しているから、重ねて有線放送事業者に対して著作権使用料を請求するのは、不当な二重請求として許されないと主張するが、被告らがその理由とするところの公衆送信に関する解釈が誤りであることは上記のとおりである。また、原告らの放送事業者に対する許諾は放送に関するものであって、有線放送に関するものではない。
ウ 原判決が、本件各契約のうち原告芸団協に関する部分につき錯誤により無効となるとしたことに対し
 著作権法92条1項は、「実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有する」と規定して実演家の有線放送権を認めた上で、その2項1号において、「放送される実演を有線放送する場合」には前項の規定を適用しないと規定し、実演家の有線放送権を制限している。しかし、これは実演家がその実演について放送の許諾をしてしまえば、その放送の同時再送信がなされた場合に一切の利益を受けることが禁じられてしまうという趣旨の規定ではない。この規定につき、立法担当者は、「放送事業者の権利としては法99条第1項の規定がありまして、放送事業者はその放送を受信してこれを有線放送する権利を専有することとされております。したがって、実演が放送されれば、その放送波の利用の問題は、放送事業者の権利を通じて実演家の権利を実質的にカバーしてもらうことを予定して、法律上は、有線による同時再送信には実演家の権利が及ばないこととしたものであります。実演の放送についての許諾が放送を受信して行う有線放送までもカバーしていると考えたわけでは必ずしもございません」(加戸守行「著作権法遂条講義四訂新版」486頁)と説明し、「放送の有線放送における実演家の利益は本項の規定(原告ら注;有線放送権)による放送事業者の権利を通じて担保されているということができましょう」(同557頁)、「放送事業者側においては、有線放送の許諾に当たって実演家の利益を十分考慮したうえで対処することが望まれます」(同558頁)と述べていた。このように、実演家には、放送の同時再送信に直接の権利は認められていないものの、実演が有線放送で利用されることについては、放送事業者の権利を通じて実演家の利益を図ることが予定されているのである。もちろん、放送の同時再送信について有線放送権が制限されている以上、実演家が放送の同時再送信から自己の利益を確保しようとするときには、その旨を明確に契約に取り決めておく必要があり、このため、実演家から権利委任を受けた原告芸団協は、原告日脚連らと共に、社団法人日本ケーブルテレビ連盟(以下「CATV連盟」という。)及び放送事業者との間で協議・交渉を行い、放送事業者の権利を通じて実演家が放送の同時再送信から正当な利益を確保するための仕組みである本件各団体契約書式(本件A契約及びB契約。以下「本件各団体契約書式」という。)による契約という取決め(包括権利処理のスキーム)を作り上げたのである。このように、放送事業者のCATV事業者に対する同時再送信同意に付した条件に基づいて、原告芸団協が放送の同時再送信に関する補償金を受けるという本件各契約は、正に法の立法趣旨に従って締結された正当な契約であり、補償金を受けることが法律上許されていないなどと非難されるようなものではない。
 次に、本件各契約のどの部分を見ても、本件芸団協契約が実演家の有線放送権の許諾であることをうかがわせる文言は一切存在しない。それどころか、本件各契約は、原告日脚連ら4団体(本件B契約は3団体)を甲、原告芸団協を乙とし、著作権者である原告日脚連らとそうではない原告芸団協とを明確に区分した上、著作権者である原告日脚連らについては、「甲らは丙に対し、第2条に掲げる使用料を支払うことを条件として、甲らがコントロールを及ぼしうる範囲に属する著作物を使用して制作された放送番組を、丙がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することを許諾する」(第1条第1項)と規定しているのに対し、原告芸団協については「乙は、丙が第2条に掲げる補償金を支払うことを条件として、乙の会員の実演によって制作された放送番組を、丙がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する」(第1条第2項)と規定して、本件各契約のうち原告芸団協に係る契約の部分については、著作権や著作隣接権の有線放送権に基づく利用許諾でないことを文言上明確にしている。本件各団体契約書式の内容や条項は、昭和47年2月から昭和48年8月にかけて、原告ら権利者団体が、利用者団体であるCATV連盟設立準備委員会との度重なる交渉の結果、合意に至ったものであるが(甲29の2)、その交渉の当初から、原告芸団協と原告日脚連ら4団体の法的立場の違いは明確に区別されていた。そのため、原告芸団協は、CATV事業者が補償金を支払うことを条件として会員の実演家によって制作された放送番組をケーブルにより変更を加えず同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定するというスタンスで交渉に臨んでいたのであり、昭和47年8月に原告ら権利者団体がCATV連盟設立準備委員会に提案した「著作権使用料」においても、「実演家が放送事業者を通じて請求すべきその補償金を含む」と表示され、有線放送権の許諾でないことは明らかとされていた(甲29の2、3参照)。こうして昭和48年の合意に基づき作成された本件各団体契約書式は、各CATV事業者が複数権利者団体に対して一括して権利処理をすることのできる便宜なものとして、昭和48年から現在まで実質的改定なく使用されてきているものである。したがって、その意味内容は、昭和48年の合意に従って理解されるべきであるところ、当時の合意内容からも補償金の定めは、実演家の有線放送権に基づく許諾の対価でないことが明白である。
 さらに、被告らは、CATV連盟の会員であるところ(甲34)、CATV連盟がその会員であるCATV事業者に対して行っている本件各団体契約書式に関する説明内容をみれば、被告らにおいて、誤解に陥る余地のなかったことが明らかである。CATV連盟が会員の各CATV事業者向けに作成し配布しているCATV事業に関する著作権等の処理の解説書「ケーブルテレビと著作権2000」(ABC事件甲22)には、本件各団体契約書式について、「ケーブルテレビ局が放送の再送信を行うためには、まず有線テレビジョン放送法に基づいて放送事業者から同意を得なければなりません。・・・こうしたことを前提に、同時再送信についての権利処理について説明します。結論からいいますと、有線放送にかかわる部分の権利はすべてケーブルテレビ局で処理することになります。・・・放送事業者は当然のことながら、放送に関しては、すべて権利処理をしていますが、通常は有線放送についての処理は行っていません。したがって、同時再送信であっても、別に権利処理が必要となります。放送事業者としては、有線放送にかかわる部分まで権利処理費を負担する理由もありませんし、実際問題としてできません。そこで、NHK、民放は放送の再送信に同意するにあたって、おおむね次のような基本的な条件をつけています。この条件は各局ともほぼ同じで・・・権利処理問題については「局以外の第三者の権利に関し処理が必要な場合は、有線放送事業者の責任と負担で処理すること」などとなっています。少なくとも以上の条件が満たされなければ、(放送事業者から)再送信の同意が得られないわけですが、現実の問題として、番組で使用された著作物などの多種多様な権利を、ケーブルテレビ局が個別に処理することは不可能です。では、実際はどうなっているかですが、JASRAC、保護同盟、日脚連、シナ協、芸団協の5団体はそのメンバーの有線放送権について、各ケーブルテレビ局と契約を結び包括的な許諾をしています。・・・放送される実演を有線放送することについては、著作権法上、実演家に権利はありません。したがって、5団体に芸団協が加わっているのはおかしいのですが、いわば協力金といったような性格で対価の分配を受けています」(47頁〜48頁)、「ブランケットルールとして最初に成立したのは、テレビ同時再送信処理についてのものでした。これは連盟が未だ法人化されていない昭和40年代に、当時のケーブルテレビ事業者有志が長い年月の苦労の末、権利者団体と折衝してまとめ上げたもので、ケーブル業界にとって著作権処理の記念すべき第一歩となりました。今では権利者団体と契約締結すれば、テレビ再送信に際しての著作権使用許諾とその対価である使用料支払いが簡便に実施できますが、連盟がとりまとめるブランケットルールはケーブル事業者にとって極めて利便性を持っております。・・・なお、実演家の権利(著作隣接権)は、一般的に保護強化される潮流にありますが、ケーブルでの同時再送信においては著作権法第92条2項にあるように、厳密には「放送される実演を有線放送する場合は有線放送権は及ばない」と規定されています。これにも拘らず、実演家の団体である芸団協が権利処理団体に入っているのは、権利者団体との権利処理交渉の妥協の産物でもあります(『テレビ同時再送信契約書』で実演家部分が「使用料」でなく、「補償金」となっているのは、芸団協が通常慣習的に使用している表現ということもありますが、以上のような背景があることも理由になっています。)。・・・放送事業者の再送信同意には著作権法上の許諾という意味も備えております・・・同意書には「放送の再送信に際しての著作権処理はケーブルテレビ事業者が行うこと」などの文面も入っています。これは・・・(個々の権利については)ケーブル事業者自身が処理して下さいよ、という意味です。5団体との同時再送信ブランケットルールはこの部分の処理に当たります」(68頁〜71頁)と記載されている。CATV連盟は本件各団体契約書式に関する昭和48年の合意設立以来、一貫して上記のとおりの説明を傘下の各CATV事業者に対して行ってきているのであって、本件各団体契約書式により契約を締結するCATV事業者においては、実演家の有線放送権が放送の同時再送信について制限されていること、しかしながら、放送事業者の再送信同意(有線放送権に基づく許諾の意味を含む。)において、本件各団体契約書式による契約の締結を条件としていることから、CATV事業者としては、いわば放送事業者の権利を通じて実演家に対する対価の支払が間接的に義務付けられているものと認識している。したがって、本件各団体契約書式による契約を締結するCATV事業者において、錯誤に陥る理由は全く存しないのである。
 仮に、放送の同時再送信について、実演家の権利が及ばないことを知らずに誤解していたとしても、その錯誤は要素の錯誤にも当たらないというべきである。
エ 重過失
 被告らは、CATV事業者であり、いわば他人の知的創作物を取り扱うことを自らの事業内容としているプロ集団である。そして、有線テレビジョン放送の許可を受ける以上、著作権及び著作隣接権を十分尊重して適切な措置を講じつつ業務を遂行することが要請されている。このような立場にある被告らにおいては、放送の同時再送信という自らの事業内容そのものの権利処理に関する本件各団体契約書式による契約を締結するに当たり、法律の明文規定、自己が加盟するCATV連盟の説明内容及び契約書に記載された条文の文言内容などを確認すべきであり、また、そのような確認作業は極めて容易であった。しかるに、そのようなCATV事業者として当然に行うべき確認作業を怠った上、一方的に、実演家の有線放送権が放送の同時再送信にも及ぶと誤信して本件各契約を締結したとすれば、このような被告らの誤信には重大な過失があったというべきであり、本件各契約の錯誤無効を主張することは許されない。
(3) 判例・信義則違反について
ア 最高裁キャンディ事件判決の事実関係は、連載漫画の著作者自身が、原著作者の許諾なしに、二次的著作物である長編連載漫画の主人公を描いたリトグラフ用原画の作成等を行ったというもので、同判決はこの差止めを認めたものである。本件における被告らは、もとより著作者(著作権者)でなく、著作権法63条1項の定める「他人」にすぎないのであって、この他人の行う著作物の利用行為に対しては、著作者(著作権者)が許諾権を有しているのは明らかである。
 被告らは、原告らは日本テレビが被告らに対して同時再送信を許諾していることに反対していないと主張するが事実に反する。もとより、放送事業者は(その有する著作権等は除いて)、著作権者に代わって、同時再送信につき有線放送事業者に対し許諾する権利を有しているものではないし、原告日脚連らも放送事業者にそのような権限を与えた事実はない。事実としても、放送事業者は有線放送事業者に対して著作権等をその責任において処理を行うこと等を条件に同時再送信に同意しているにすぎない。放送事業者の有線放送事業者に対する同意書等では「再送信に関し、著作権など第三者の権利の処理を必要とする場合は、その処理は貴方において行うこととなる」とか「再送信に際して生ずる番組に関わる著作権問題は貴殿の責任に於いて処理すること」となっており(ABC事件甲10〜21)、有線放送事業者が原著作者の権利処理を行うことを明示しており、それが放送事業者の意思である。したがって、原告らが、放送事業者に対し、同時再送信の同意に反対していないとか、差止め、損害賠償を請求していないことと、被告らの同時再送信は、原告らの日本テレビに対する許諾の範囲に含まれているということとは、全く関係のないことである。
イ また、被告らは、権利濫用、信義則違反の主張をしているが、その前提としているところの原告らが自ら原著作者の権利を侵害している事実などなく、その他これらの主張を基礎付けるような事情は一切存しない。
(4) 仲介業務法違反による無効について
ア 原告日脚連ら4団体の文化庁長官から認可を受けた使用料規程のうち、本件の有線放送による同時再送信に適用される規定の内容は、原判決別紙1のA欄記載のとおりである。原告日脚連ら4団体は、上記の使用料規程の規定に基づき、使用者(有線放送事業者)である被告ら(その上部団体であるCATV連盟を含む。)との間で著作権等の包括的許諾及びその使用料等につき協議し、被告らと本件各契約を締結しているものである。
イ 被告らは、原告日脚連ら4団体の請求は、文化庁長官の認可を受けていない使用料規程に基づくものである等と主張するが、失当である。原告日脚連ら4団体の使用料規程には、原告音楽著作権協会の使用料規程を除いて、他の著作権団体等との関係を踏まえた形の使用料規程はないが、そうであるからといって放送の有線同時再送信に関する使用料規程が存在しないということにはならないし、また、原告日脚連ら4団体が有線放送事業者である被告らと著作権等の包括的許諾及びその使用料等について協議し、これに基づいて本件各契約のような契約を締結できないとか、これが違法であるということにもならない。原告日脚連ら4団体の使用料規程(「使用者(事業者)と協議の上定める」)は、上記のとおり文化庁長官の認可を受けたものであって、使用料規程は必ずしも計算式をもってのみ定められるものではないし、原告日脚連ら4団体は、当該使用料規程に基づき、すべての有線放送事業者と画一的に同内容の契約を締結し、使用料等を徴収しているものであって、これによって使用者の利益が害されるといったこともない。
(5) 期間満了について
 本件各契約には、いずれも自動更新の規定(第8条)が存するところ、原告らは、本件訴訟前に被告らから口頭・文書を問わず本件各契約の解除の意思表示を受けていない。
(6) 消滅時効について
ア 使用料算定の基準となる「当該年度」とは、毎年4月1日から翌年3月31日までである。本件使用料等の算出の前提としては、本件各契約第3条に定められているとおり、被告らが、当該年度の自身の利用料収入を原告らに報告する必要がある。具体的には、被告らから利用料収入の報告(有テレ法施行規則36条の規定による業務運営状況報告書の写しの添付)を受け、原告らは被告らに対し、使用料等を請求し、被告らは当該年度終了(毎年3月31日)後2か月以内に原告らに支払をするのである。ところが、被告らは、本件で原告らが請求している年度分に関して、原告らに利用料収入の報告をしていない。このため、原告らの請求が遅れたものである。
 このように、自己の契約上の義務を履行しないにもかかわらず、消滅時効を援用することは信義則上許されない。
イ 本件各契約に基づく使用料等については、当初は原告日脚連が原告となって、被告らに対し、原告らの使用料等を請求していたものであり(平成13年4月26日)、この時点において使用料等の消滅時効は中断していたと解すべきである。
 本件各契約に基づく使用料等の債権は、いわゆる意思表示による不可分債権に該当するものと解される。なぜなら、本件各団体契約書式に関する交渉経緯の記録によれば明らかなように、使用料等の額の定め方は一貫して合計額の算定方法について話し合われており、同書式の第2条は、あくまで合計額の算出方法について定めている。そして、第2条に基づく計算に必要となる収入の報告は、代表者である原告日脚連に報告することとされ(第3条)、原告日脚連が計算して請求した金額をCATV事業者は一括して原告日脚連に持参又は送金して支払うことを合意している(第4条)のであるから、契約当事者の意思としては、CATV事業者が権利者団体の代表者に全額を一括して支払わない限り、契約上の義務を履行したことにはならないこと及び各団体が6分の1ないし4分の1を請求することが予定されているわけではないことを認識していることが、契約の文言上も明らかである。
 したがって、原告日脚連が原告となってそのまま使用料全額を請求しても許されるものであり、そうである以上、不可分債権の債権者である原告日脚連の請求による時効中断の効果は、他の債権者のために生ずることは明らかである。
(7) 使用料等
 業務運営状況報告書に記載された利用料収入の中に、@電波障害施設利用料収入、Aペイチャンネル収入、Bホームターミナル利用料収入及びC番組ガイド誌購読料収入のような収入が含まれている場合には、これらが同時再送信にかかわる収入(基本利用料、受信料)でないことから、原告らは、被告らがその金額を証明する帳簿書類等を提出した場合には、当該金額を控除した金額を基とした使用料、補償金を計算する扱いとしている。しかし、原判決が控除を認めた費目のうち、@被告成田ケーブルテレビに関する電波障害回線利用料収入及びA被告銚子テレビに関するコンバーターリース料は、それを裏付ける客観的な証拠が被告らから全く提出されていないから、被告らの利用料収入の算定においてこれらの費目を控除することは許されない。
第4 当裁判所の判断
1 請求原因(1)(当事者)及び(2)(使用許諾契約の締結)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
2 原告芸団協の当事者適格(被告らの主張(1))
 被告らは、原告芸団協は、著作隣接権者に代わって被告らに対して著作隣接権を行使できず、本件訴訟の当事者適格を有さないから、その訴えは却下されなければならないと主張する。
 しかし、原告芸団協の本件訴えは、被告らに対し本件各契約に基づく補償金等の支払を求めるものであり、現在の給付の訴えであるところ、現在の給付の訴えにおける原告適格は訴訟物たる給付請求権を自ら有すると主張する者にあると解されるから、原告芸団協に原告適格があることは明らかであり(本件訴訟の訴訟物は、前述のように、原告芸団協が被告らと契約したA契約及びB契約に基づく補償金等の請求権であり、被告らは同各契約の存在を争わない。)、被告らの主張(1)は採用できない。
3 詐欺又は錯誤の有無(被告らの主張(2))
(1) 被告らは、本件各契約は、全体として、詐欺又は錯誤により締結されたと主張し、その理由として、@映画の著作物であるテレビ番組の同時再送信に関し、原告らは著作権、著作隣接権の主張をなし得る立場にない、A有線放送事業者による放送の同時再送信は、有線放送事業者による放送の履行補助行為であって、著作物の新たな利用には当たらない、また、原告ら5団体も同時再送信を前提に放送事業者に許諾しているから、放送の同時再送信は原告らが放送事業者に対して許諾した著作物の使用の範囲に含まれ、被告らは、原告ら5団体から改めて許諾を得る必要はない、B原告芸団協が著作隣接権を有すると主張する実演家は、同時再送信について、何らの著作隣接権をも有さない(ワンチャンス主義、著作権法92条2項1号、2号)にもかかわらず、原告芸団協は、原告日脚連ら4団体と共同して、本件実演家が法的に同時再送信について無権利者であること、同原告も法的に本件実演家から実演、実演に関する著作隣接権の信託を受けられないこと、同原告が被告らの同時再送信行為に対して何らの権利をも主張・行使できないことを熟知しながら、被告らを欺罔して本件各契約を締結させた、などと主張する。そこで、以下において順次検討する。
(2) 原告らは著作権、著作隣接権の主張をなし得ないか
 被告らは、著作権法16条の趣旨は、映画の著作物に関しては、小説、脚本、音楽などの著作者を著作権法28条の原著作者と認めないとしたものと解すべきであり、映画の著作物であるテレビ番組の同時再送信に関し、原告らは、そもそも著作権、著作隣接権の主張をなし得る立場にないと主張する。
 しかし、著作権法16条本文は、「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする」と規定しているところ、同規定の趣旨は、映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者(いわゆるクラシカル・オーサー)については、映画の著作物の著作者とは別個に映画の著作物について権利行使することができることをいうものと解すべきである。したがって、被告らが同時再送信するテレビ番組の中に映画の著作物に該当するものがあったとしても、当該映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者は、クラシカル・オーサーとして、テレビ番組の著作者とは別に、テレビ番組について権利行使を行うことができるというべきであるから、被告らの上記主張は誤りというほかない。被告らは、仮に、映画の著作物について著作権法28条の適用が認められても、原著作者の有する権利は、著作者人格権にとどまるとも主張するが、原著作者がクラシカル・オーサーとして権利行使できることは上記のとおりであり、理由がない。
 また、被告らは、音楽の著作物や脚本は、テレビ番組の原著作物とはなり得ないとも主張する。しかし、テレビ番組において、音楽の著作物や脚本が使用され、これらが「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文学、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)に該当する場合、テレビ番組の原著作物とならない理由はない。
 したがって、被告らの上記主張は、いずれも採用できない。
(3) 被告らは著作物の使用に関し原告らの許諾を得る必要はないか
 被告らは、@有線放送事業者による放送の同時再送信は、有線放送事業者による放送の履行補助行為であって、著作物の新たな利用には当たらないし、A原告ら5団体も同時再送信を前提に放送事業者に許諾しているから、放送の同時再送信は原告らが放送事業者に対して許諾した著作物の使用の範囲に含まれ、被告らは、原告ら5団体から改めて許諾を得る必要はない等と主張する。
ア まず、上記@の点について検討すると、放送及び有線放送は、著作権法2条1項8号、9号の2により各別の公衆送信として位置付けられ、また、送信の主体も異なることに加えて、現実の送信の態様も異なるものであるから、有線放送事業者による放送の同時再送信は、放送事業者による放送とは別の公衆送信であり、これを有線放送事業者による放送の履行補助行為であるということはできない。
 被告らは、有線放送事業者による放送の同時再送信は著作物の新たな利用には当たらない理由として、一般視聴者は、無線アンテナの代替物として有線ケーブルを利用し同時再送信の形で視聴するのであり、無線放送と有線放送を二重に視聴するわけではないこと、有テレ法17条によれば、有テレ法は、同時再送信を有線放送事業者における本来の意味での有線放送(自主放送)として扱っておらず、同時再送信は、放送事業者の編集の権利義務に基づく1個の公衆送信であること、原告らは、放送事業者に対し、番組の放送を許諾しており、同時再送信は、原告らの上記許諾の範囲内に含まれること、等を挙げる。しかし、一般視聴者が無線放送と有線放送を二重に視聴する例が極めて少ないとしても、有線放送事業者による放送の同時再送信が放送事業者による放送とは別の公衆送信であることは上記のとおりである。また、有テレ法は、「有線テレビジョン放送の施設の設置及び業務の運営を適正ならしめることによって、有線テレビジョン放送の受信者の利益を保護するとともに、有線テレビジョン放送の健全な発達を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」(同法1条)法律であり、原告が挙げる同法17条括弧書きが「放送事業者のテレビジョン放送又はテレビジョン多重放送を受信し、そのすべての放送番組に変更を加えないで同時にこれを再送信する有線テレビジョン放送を除く」として、有線テレビジョン放送による同時再送信について放送法3条(放送番組編集の自由)等の準用を除外したのは、上記括弧書きの規定する同時再送信においては、有線テレビジョン放送事業者による編集等が行われないため、編集の自由等に関する放送法の規定を準用する必要がないからであると解され、同法は著作権法に基づく権利行使を規律するものではないから、同法の規定を根拠に有線放送事業者による放送の同時再送信は著作物の新たな利用には当たらないということはできない。さらに、放送事業者に対する放送の許諾の際に、有線放送事業者に対する有線放送の再許諾権限を放送事業者に対して付与していたと認められる特段の事情がある場合を除き、放送事業者に対する放送の許諾によって、有線放送事業者の行う有線放送までを許諾したとものと認めることはできないというべきであるところ、上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
イ 次に、上記Aの点については、原告ら5団体が同時再送信を前提に放送事業者に許諾しているとの事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、有線放送事業者による放送の同時再送信が原告らが放送事業者に対して許諾した著作物の使用の範囲に含まれるということはできない。
ウ したがって、被告らの上記主張は、いずれも採用できない。
(4) 著作隣接権を有しない原告芸団協と締結した本件各契約は有効か
 進んで、原告芸団協が著作隣接権を有すると主張する実演家は、同時再送信について、何らの著作隣接権をも有さない(ワンチャンス主義、著作権法92条2項1号、2号)にもかかわらず、原告芸団協は、原告日脚連ら4団体と共同して、本件実演家が法的に同時再送信について無権利者であること、同原告も法的に本件実演家から実演、実演に関する著作隣接権の信託を受けられないこと、同原告が被告らの同時再送信行為に対して何らの権利をも主張・行使できないことを熟知しながら、被告らを欺罔して本件契約を締結させたとの被告らの主張について検討する。
ア まず、本件各契約の文言は、上記第3の1(2)ア(本件A契約)、イ(本件B契約)のとおりである。具体的には、本件各契約は、原告日脚連ら4団体(B契約は3団体)を甲、原告芸団協を乙とし、原告日脚連らと原告芸団協を区別した上、著作権者である原告日脚連らについては、「甲らは丙に対し、第2条に掲げる使用料を支払うことを条件として、甲らがコントロールを及ぼしうる範囲に属する著作物を使用して制作された放送番組を、丙がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することを許諾する」(第1条第1項)と規定しているのに対し、原告芸団協については「乙は、丙が第2条に掲げる補償金を支払うことを条件として、乙の会員の実演によって制作された放送番組を、丙がケーブルによって変更を加えないで同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する」(第1条2項)と規定し、本件各契約のうち原告芸団協に係る契約の部分については「補償金」、「乙の会員の実演によって制作された放送番組を・・・同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する」との文言を使用し、原告日脚連らについての「使用料」、「著作物を使用して制作された放送番組を・・・同時再送信することを許諾する」との文言と明確に区別していることが明らかである。
イ 次に、本件各契約締結に至る経緯について証拠(ABC事件甲22、甲28の1、2、甲29の1〜3、甲30、甲33の1、2、甲34、甲36)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(ア) 昭和46年1月1日、現行著作権法(昭和45年法律第48号)が施行され、著作権者及び実演家の有線放送権が法律上明定された。そこで、同年9月、放送に関連する権利者団体である原告日脚連(当時の名称は協同組合日本放送作家組合)、原告音楽著作権協会、原告芸団協、原告日本シナリオ作家協会、脱退原告保護同盟(前記のとおり平成15年10月、その著作権業務を参加人文芸家協会に承継させた。)及び社団法人日本レコード協会の6団体で構成される著作権者団体連絡協議会(以下「著団協」という。)は、協議の上、原告日脚連を窓口として、CATV連盟の前身であるCATV連盟設立準備委員会(以下、CATV連盟と併せて、「CATV連盟」という。)との間で権利処理に関する交渉を開始した。
 CATV連盟と権利者代表との上記交渉は、昭和47年2月から、文化庁著作権課の課長及び課長補佐が参加して行われた。同交渉において、CATV連盟側からはCATV事業の公益性が強く主張され、どのような使用料率を設定するか等については交渉は難航したが、放送事業者側からCATV連合会側に対し、番組に含まれる著作権及び実演家からの要求についてはCATV事業者の責任において処理することを再送信同意の条件とする意向が示されたこともあり、最終的に、使用料・補償金の額を当初提示額の半額以下とすることで、昭和48年8月、本件各団体契約書式(上記第3の1(2)ア(本件A契約)、イ(本件B契約)のとおり)による権利処理が合意された。
 上記交渉の過程において、著作権法上、実演家の同時再送信に対する権利が制限されていることを受けて、放送事業者側は、CATV事業者側に対し、同時再送信についての放送事業者の有線放送権の許諾を行うに当たり、同時再送信によって必要となる権利処理は実演家の権利を含めてすべてCATV事業者側において直接行うことを許諾の条件とする意向を示していたことなどから、実演家団体である原告芸団協も加わった上で、同時再送信について直接の権利を有する著作権者である原告日脚連らは放送の同時再送信について使用の許諾を行い、直接の権利を有しない実演家団体である原告芸団協は、CATV事業者から補償金を受け取ることを条件に放送事業者がCATV事業者に対して同時再送信の許諾を行うことについて異議を述べないことを約定することとされた。他方、実演家と同様の著作隣接権者ではあるものの、実演家とは異なり、著作隣接権として放送権・有線放送権が認められていないレコード制作者については、著作権法上、放送事業者の権利を通じて放送の同時再送信に関するレコード制作者の利益を図ることまでは想定されていなかったことから、本件各団体契約書式によって利益を確保する基礎を有しないものとして、本件各団体契約書式の当事者とならないこととされた。
(イ) 被告成田ケーブルテレビは平成元年12月26日に、被告行田ケーブルテレビは平成14年9月18日に、被告銚子テレビは平成9年1月31日に、それぞれCATV連盟に加盟し、現在もその会員である。
 CATV番組供給者協議会が平成元年3月に発行した「CATVと著作権〜番組制作・供給の手引き〜」(甲30)には、本件各団体契約書式の内容を説明した上「実演家は放送される実演を有線放送するときには、権利が働かない建て前になっているとさきに説明したのに、5団体の中に芸団協が入っているのは、いわゆるワンチャンスで放送事業者を通じて権利行使をすべきところを、上記の料金が支払われることによって、芸団協は再送信に対し放送事業者に異議を申し立てない、とCATV局との契約で担保する構造になっているからです」(72頁)と記載されている。
 また、CATV連盟が会員の各CATV事業者向けに作成し配布しているCATV事業に関する著作権等の処理の解説書「ケーブルテレビと著作権2000」(ABC事件甲22、以下「甲22解説書」という。)には、本件団体契約書式について、次のとおりの記載があり、CATV連盟は、本件各団体契約書式に関する昭和48年の上記合意が成立して以来、上記と同様の説明を会員の各CATV事業者に対して行っていた。
@「ケーブルテレビ局が放送の再送信を行うためには、まず有線テレビジョン放送法に基づいて放送事業者から同意を得なければなりません。・・・こうしたことを前提に、同時再送信についての権利処理について説明します。結論からいいますと、有線放送にかかわる部分の権利はすべてケーブルテレビ局で処理することになります。・・・・・放送事業者は当然のことながら、放送に関しては、すべて権利処理をしていますが、通常は有線放送についての処理は行っていません。したがって、同時再送信であっても、別に権利処理が必要となります。放送事業者としては、有線放送にかかわる部分まで権利処理費を負担する理由もありませんし、実際問題としてできません。そこで、NHK、民放は放送の再送信に同意するにあたって、おおむね次のような基本的な条件をつけています。この条件は各局ともほぼ同じで・・・権利処理問題については「局以外の第三者の権利に関し処理が必要な場合は、有線放送事業者の責任と負担で処理すること」などとなっています。少なくとも以上の条件が満たされなければ、再送信の同意が得られないわけですが、現実の問題として、番組で使用された著作物などの多種多様な権利を、ケーブルテレビ局が個別に処理することは不可能です。では、実際はどうなっているかですが、JASRAC、保護同盟、日脚連、シナ協、芸団協の5団体はそのメンバーの有線放送権について、各ケーブルテレビ局と契約を結び包括的な許諾をしています。・・・放送される実演を有線放送することについては、著作権法上、実演家に権利はありません。したがって、5団体に芸団協が加わっているのはおかしいのですが、いわば協力金といったような性格で対価の分配を受けています。」(47頁〜48頁)
A「ブランケットルールとして最初に成立したのは、テレビ同時再送信処理についてのものでした。これは連盟が未だ法人化されていない昭和40年代に、当時のケーブルテレビ事業者有志が長い年月の苦労の末、権利者団体と折衝してまとめ上げたもので、ケーブル業界にとって著作権処理の記念すべき第一歩となりました。今では権利者団体と契約締結すれば、テレビ再送信に際しての著作権使用許諾とその対価である使用料支払いが簡便に実施できますが、連盟がとりまとめるブランケットルールはケーブル事業者にとって極めて利便性を持っております。・・・なお、実演家の権利(著作隣接権)は、一般的に保護強化される潮流にありますが、ケーブルでの同時再送信においては著作権法第92条2項にあるように、厳密には「放送される実演を有線放送する場合は有線放送権は及ばない」と規定されています。これにも拘らず、実演家の団体である芸団協が権利処理団体に入っているのは、権利者団体との権利処理交渉の妥協の産物でもあります(『テレビ同時再送信契約書』で実演家部分が「使用料」でなく、「補償金」となっているのは、芸団協が通常慣習的に使用している表現ということもありますが、以上のような背景があることも理由になっています)」(68頁〜69頁)
B「ケーブル事業で空中波を再送信するにあたっては各放送事業者から再送信同意を得る必要があります。ただし、この行為は有線テレビジョン放送法(第13条2項)に拠るものです。・・・テレビ同時再送信に際して支払う著作権使用料は放送局に配分されるものではありません。しかしながら一方で、放送事業者は有線放送権を持っておりますから(著作権法上99条)、これにより再送信については有テレ法の同意とは別の、著作権法上の許諾権を持っているのは事実です。従って、放送事業者の再送信同意には著作権法上の許諾という意味も備えております。・・・同意書には「放送の再送信に際しての著作権処理はケーブルテレビ事業者が行うこと」などの文面も入っています。これは、放送される番組を再送信することは放送番組に係る放送作家や音楽作曲家などの個々の権利(著作権法第23条1項「公衆送信権」と表現)が「権利の束」となって働くことになりますので、これをケーブル事業者自身が処理して下さいよ、という意味です。5団体との同時再送信ブランケットルールはこの部分の処理に当たります。」(70頁〜71頁)
ウ 上記ア、イに認定したところによれば、本件各契約の契約書では、原告芸団協に支払われる金員は、原告日脚連らに支払われる著作物の使用料とは、「補償金」、「乙の会員の実演によって制作された放送番組を・・・同時再送信することに対し、放送事業者に異議を申し立てないことを約定する」として明確に区別されている上、被告らは、本件各契約を締結するに当たって、CATV連盟と権利者代表との上記交渉の経緯、本件各団体契約書式による契約の内容、著作権法第92条2項に「放送される実演を有線放送する場合」に実演家の有線放送権は及ばないと規定されているにもかかわらず実演家の団体である原告芸団協が契約当事者となっている意味、及び本件各契約のうち原告芸団協に係る契約の部分については、著作物の使用料ではなく、第1条2項の「補償金」を支払うものであることについて、認識していたものと認められる。
 そうすると、原告芸団協に被告ら主張の欺罔行為があったとも、また本件各契約の内容について被告らに錯誤があったとも認めることはできない。
(5) 以上検討したところによれば、被告らの詐欺及び錯誤の主張は、いずれも理由がない。
 原判決は、著作隣接権を有しない原告芸団協と締結した本件各契約は錯誤により無効としたが、失当であり、上記のように改める。
(6) 被告らは、仮に、本件各契約が無効でないとしても、原告らの請求は、著作権法に違反するものであって認められないとも主張する。しかし、著作権法92条2項は、「放送される実演を有線放送する場合」に実演家の有線放送権は及ばない旨規定するが、同規定の趣旨は、実演家ないし実演家の団体である原告芸団協が、契約に基づき、放送の同時再送信についてその利用の対価として「補償金」を受けることを禁止する趣旨であると解することはできないから、本件各契約が著作権法に違反するものということはできない。本件各契約は、実演家・放送事業者・有線放送事業者三者間の権利関係処理の簡便化を図るという意味で一定の合理性を有するものであり、契約自由の原則からして容認できると解される。
 被告らの上記主張は失当である。
4 判例・信義則違反(被告らの主張(3))
(1) 被告らは、最高裁キャンディ事件判決によれば、二次的著作物の原著作者は、当該著作物の著作者を含む他の権利者と共同しなければ権利行使なし得ないと主張する。しかし、上記判決は、二次的著作物の著作者による当該二次的著作物の複製行為に関し、原著作物の著作者は、当該二次的著作物を合意によることなく利用することの差止めを求めることができる旨を明らかにしたものであり、二次的著作物の原著作物の著作者が単独で第三者に許諾権限を行使することができない旨を示したものではない。したがって、被告らの上記主張は失当である。
(2) また、被告らは、原告らは脚本を二次的著作物とした場合の漫画家など、自らの著作物の原著作者等に対しては、同時再送信について使用料を支払っていないが、自ら原著作者の権利を侵害しながら、被告らに対する権利を主張するのは、権利の濫用、信義則違反として許されないとも主張する。しかし、原告らが脚本を二次的著作物とした場合の原著作者等に対して同時再送信について使用料を支払っていないとしても、そのことを理由に、原告らの被告らに対する本件各契約に基づく権利行使が権利の濫用ないし信義則違反になるということはできない。
 被告らの上記主張も採用できない。
5 仲介業務法違反による無効の有無(被告らの主張(4))
(1) 被告らは、使用料規程における使用料率は、「著作物ノ種類及其利用方法ノ異ナル毎ニ各別ニ定メ」(仲介業務法施行規則4条2項)なければならないところ、原告らの本訴請求は、認可された使用料規程に基づく適法な請求とはいえないと主張する。
 しかし、仲介業務法3条は、著作物の利用者を保護する観点から、仲介事業者の恣意的な使用料設定を防止するために、いくら支払えば著作物等を利用することができるかを利用者に明らかにし、その内容の適正さを確保するために、使用料規程について文化庁長官の認可にかからしめることとしたものと解されるところ、同法施行規則4条1項の規定により定められる使用料率の定めは、当該定めに基づき一義的に適正な額の使用料が導かれるものであれば足り、具体的な使用料の額を定めることが困難なものについても一律に具体的な使用料の額や使用料算定方式の定めを要するとまでは解されない。
 そして、証拠(ABC事件甲23の1、24の1、25の1、26の1)及び弁論の全趣旨によれば、原告日脚連ら4団体は、本件各契約締結当時、それぞれ文化庁長官の認可を受けた使用料規程を有していたこと、原告日脚連、同シナリオ作家協会及び脱退原告保護同盟の使用料規程のうち、有線放送事業者の行う放送の同時再送信について適用される規程は、「著作物の性質、利用の目的、態様及びその他の事情に応じて、使用者と協議の上定めるものとする」旨の内容であり、同様に原告音楽著作権協会の規程の内容は「原告音楽著作権協会を含む著作権・著作隣接権団体が有線放送事業者と協議して定める料率によることができる」旨の内容であること、本件各契約においては、テレビジョン放送の同時再送信及びラジオ放送の同時再送信について、それぞれ使用料の算定方式が定められているものであることがそれぞれ認められる。以上の事実によれば、原告日脚連ら4団体は、文化庁長官による認可を受けた使用料規程に基づき、それぞれの規程において、有線放送事業者と協議の上で定めることとされている使用料の額について、本件各契約において有線放送事業者である被告らとの間で定めたものであることが認められる。そうすると、文化庁長官による認可を経て定められた原告日脚連ら4団体の使用料規程の範囲内において、本件各契約が締結されたものということができるから、使用料規程における使用料率が仲介業務法に違反するということはできない。
(2) 被告らは、原告芸団協は法的に同時再送信行為に対して何らの権利をも主張、行使できず、これを行使することが信託法、信託業法、弁護士法に反して違法無効であると主張する。しかし、本件各契約が著作権法に違反するものということはできないことは上記3のとおりである。
 また、原告らは、本件各契約に基づく本件使用料等を請求するものであることは上記2のとおりであり、債権者である原告芸団協が本件各契約に基づく権利を行使することができない理由はないから、他に特段の事情が認められない本件において、これを行使することが信託法、信託業法、弁護士法に反するということもできない。
6 期間満了の有無(被告らの主張(5))
 被告らは、本件各契約は、いずれも有効期間が平成3年3月31日又は平成5年3月31日までであるから、既に契約期間が満了し、失効している(本件各契約第8条)と主張する。
 しかし、本件各契約第8条には、「本契約の期間満了の日の1か月前までに、甲ら乙または丙から本契約の廃棄、変更について特別の意思表示が文書によってなされなかった場合は、期間満了の日の翌日から起算しさらに1か年間その効力を有する。以降の満期のときもまた同様とする」として、契約期間満了の日の1か月前までに、契約当事者から契約の廃棄、変更について特別の意思表示が文書によってなされなかった場合は、期間満了の日の翌日から起算しさらに1年間その効力を有すること、それ以降の満期のときもまた同様であることが定められているところ、原告らが使用料等の請求の対象期間としている平成7年度から平成11年度の間に被告らから本件各契約を解除する旨の意思表示がなされたことを認めるに足りる証拠はない。被告らは、被告らが原告らに対して一貫して使用料等を支払っていないこと等に照らせば、被告らが本件各契約を更新する意思がなかったことは明らかであるとも主張するが、前記契約条項からすると使用料等の不払いの事実のみから本件各契約を解除する旨の意思表示がなされたものと認めることはできない。
 被告らの期間満了の主張も理由がない。
7 消滅時効完成の有無(被告らの主張(6))
 本件各契約においては、被告らは、各年度において定められる使用料等を、当該年度の終了後2か月以内に原告ら5団体の代表である原告日脚連に持参又は送金して支払うべき旨が定められている(第4条)ところ、証拠(ABC事件乙38の1〜6)によれば、各年度は、4月1日に始まり翌年3月31日に終了することが認められる。したがって、本件各契約に基づいて発生する使用料等の支払義務は、各年度末である3月31日から2か月の経過した5月31日の経過をもって履行期が到来するものと認められる。
 本件訴訟の経緯は、原告日脚連が、平成13年4月26日、被告らに対し訴えを提起し、その後、原告シナリオ作家協会、同音楽著作権協会、同芸団協及び脱退原告保護同盟が、平成14年2月26日に、被告らに訴えを提起し、これが併合されたものであることが記録上明らかである。
 そして、本件各契約に基づく使用料等の債権は、前記各第4条の規定により意思表示による不可分債権であると解される。したがって、原告芸団協の本件訴えの提起による請求は、総債権者のために絶対的効力を生じる(民法429条参照)から、平成13年4月26日、原告ら全員のために時効中断の効力を生じたものというべきである。
 そうすると、本件使用料等は被告らも自認するとおり商事債権であるところ、原告らが本訴において請求する使用料等の最も早い履行期は、平成7年分についての平成8年5月31日であり、上記訴え提起までに5年の時効期間を経過しないから、被告らの消滅時効の主張は理由がない。
8 使用料・補償金
(1) 被告らは、業務運営状況報告書添付の損益計算書に計上されている利用料収入では、期間中の利用者の増減が反映されないこととなるので、(当年度受信契約者数−前年度受信契約者数/2+前年度受信契約者数)×単価3000円×12か月という算式による収入を基礎となる収入とすべきと主張する。しかし、本件各契約第2条においては、使用料・補償金の合計金額は、丙が当該年度に受領すべき利用料総額に所定の料率を乗じて算出した額とする旨、第3条においては、丙は、業務運営状況報告書により当該年度の利用料収入の報告を行うべき旨が定められているのであるから、本件各契約においては、期間中の利用者の増減にかかわらず、業務運営状況報告書に記載された利用料収入を基礎とすべきであり、被告らの上記主張は採用することができない。
 また、被告らは、被告成田ケーブルテレビについては、電波障害回線利用料収入、コンバータリース料、自営柱電気代、番組購入費、番組表制作費及び番組表通信費が、被告銚子テレビについては、コンバータリース料及びチャンネルガイド誌料が、被告行田ケーブルテレビについては、コンバータリース料、ガイド誌料が控除されるべきであると主張し、弁論の全趣旨によれば、業務運営状況報告書に記載された利用料収入の中に、@電波障害施設利用料収入、Aペイチャンネル収入、Bホームターミナル利用料収入及びC番組ガイド誌購読料収入のような収入が含まれている場合には、これらが同時再送信にかかわる収入(基本利用料、受信料)でないことから、原告らは、被告らがその金額を証明する帳簿書類等を提出した場合には、当該金額を控除した金額を基とした使用料、補償金を計算する扱いとしていることが認められる。しかし、本件各契約においては、利益ではなく収入を基礎として使用料等を算定すべきものと規定されているのであるから、被告成田ケーブルテレビの自営柱電気代及び番組購入費を控除すべきものとは認められない。また、別紙使用料計算表のとおり、被告成田ケーブルテレビのコンバータリース料、被告行田ケーブルテレビのコンバータリース料及びガイド誌料(同表のD「ガイド誌制作・発送」欄)並びに被告銚子テレビのチャンネルガイド誌料(同表のD「チャンネルガイド」欄)は、当審における原告らの請求額において既に控除済みである。被告成田ケーブルテレビの電波障害回線利用料収入について、同被告は、乙43、60、61を提出する。しかし、乙43は、その体裁から同被告が本件訴訟に提出するために作成した一覧表にすぎないものと認められるところ、当審において提出された乙60、61は、いずれも弁論が終結された当審第6回口頭弁論期日において突然提出されたものであり、乙60は、同被告の従業員が作成した報告書にすぎず、添付の「加入申込書兼契約書」もその真正な成立を認めるに足りる証拠はなく、乙61は、同被告の従業員がファイルを撮影した写真にすぎず、いずれも乙43の記載内容を裏付けるものということはできない。次に、被告銚子テレビのコンバータリース料について、同被告は、乙64を提出する。しかし、乙64も、上記口頭弁論期日において突然提出されたものであり、その体裁も同被告の代表者作成の陳述書であって、客観的な裏付けを有するものということはできない。したがって、他に特段の立証がない本件においては、被告成田ケーブルテレビの電波障害回線利用料収入及び被告銚子テレビのコンバータリース料については、これを控除すべきものと認めることはできない。
(2) 以上検討したところによれば、本件各契約に基づく本件使用料等の額は、別紙使用料計算表のとおりであると認められる。
9 結論
 よって、被告らの本件各控訴は理由がないから棄却し、原告芸団協の本件各控訴及び原告日脚連ら4団体の本件各附帯控訴並びに当審における拡張請求はいずれも理由があるから、上記控訴及び附帯控訴に基づき原判決を変更することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 中野哲弘
 裁判官 岡本岳
 裁判官 上田卓哉
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日本ユニ著作権センター
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