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【事件名】「ルドルフ・バレンチノ」商標権事件C(3)
【年月日】平成17年7月11日
 最高裁(二小) 平成15年(行ヒ)第353号 審決取消請求事件
 (原審・東京高裁平成14年(行ケ)第370号)

判決


主文
 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

理由
 上告代理人遠藤隆、同野竹夏江の上告受理申立て理由第二について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 上告人は、「RUDOLPH VALENTINO」の欧文字を横書きして成り、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」とする登録第2357409号の登録商標(昭和53年7月31日商標登録出願、平成3年11月29日商標権の設定の登録。以下、この商標を「本件商標」といい、その商標登録を「本件商標登録」という。)の商標権者である。
(2) 被上告人は、平成8年11月28日、本件商標登録を無効にすることについて審判を請求した(以下、この請求を「本件審判請求」という。)。被上告人が同日提出した審判請求書(以下「本件請求書」という。)には、請求の理由として、本件商標登録は、商標法(平成3年法律第65号による改正前のもの)4条1項15号(以下、単に「15号」という。)の規定に違反してされたものであるから、同法46条1項の規定により無効とされるべきものである、詳細な理由は追って補充する旨が記載されていた。本件審判請求がされたのは、本件商標登録につき商標法(平成8年法律第68号による改正前のもの)47条(以下、単に「47条」という。)所定の除斥期間が満了する直前であった。
 本件審判請求は、特許庁において、平成8年審判第20103号事件として審理された。この事件を担当した審判長は、被上告人に対し、平成9年1月24日に発送した「手続補正指令書(方式)」により、発送の日から30日以内に、請求の理由を記載した書面を提出することを命じた。
 被上告人は、同年2月18日、請求の理由として、被上告人が婦人服、紳士服等の被服に使用する「VALENTINO GARAVANI」及び「VALENTINO」の各商標が本件商標の商標登録出願の日より前に著名となっていたから、上告人が本件商標をその指定商品に使用した場合には、被上告人の業務に係る商品であると誤解され、商品の出所に混同を生じさせるおそれがある旨を記載した書面を提出した。
 上告人は、除斥期間経過前に提出した審判請求書に請求の理由として適用条文しか記載されていない場合には、その経過後に請求の具体的な理由を記載した書面を提出しても除斥期間経過前に審判請求をしたことにはならないから、本件審判請求は不適法なものとして却下されるべきであるなどと主張した。
(3) 本件審判請求につき、平成14年6月14日、本件商標登録を無効にすべき旨の審決(以下「本件審決」という。)がされた。除斥期間に関する上告人の上記主張については、本件請求書に無効理由として該当する条文が明記されており、かつ、補正を命じられた期間内に具体的な理由を記載した書面が提出されたことを理由に、本件審判請求が除斥期間を徒過した不適法なものとなることはないと判断された。
2 本件は、上告人が、本件審決には47条の規定の解釈適用の誤りがあるなどと主張して、その取消しを求める訴訟である。
3 原審は、本件請求書には、本件商標登録が15号の規定に違反する旨の記載があるのみで、具体的な無効理由を構成する事実の主張は記載されていないが、被上告人がその業務に係る商品に使用している「VALENTINO」、「バレンチノ」等の表示が我が国のファッション関連分野における取引者、需要者にとって周知であること、本件請求書に記載された請求人(被上告人)の名称中に「バレンチノ」の語が含まれていることなどの事情に照らせば、本件請求書には、本件商標は被上告人の上記表示との関係で混同を生ずるおそれがある商標である旨の無効理由の記載があるものと同視することができるから、本件審判請求は除斥期間を徒過した不適法なものではないと判断した。
4 47条は、15号違反を理由とする商標登録の無効の審判は商標権の設定の登録の日から5年の除斥期間内に請求しなければならない旨を規定する。その趣旨は、15号の規定に違反する商標登録は無効とされるべきものであるが、商標登録の無効の審判が請求されることなく除斥期間が経過したときは、商標登録がされたことにより生じた既存の継続的な状態を保護するために、商標登録の有効性を争い得ないものとしたことにあると解される。このような規定の趣旨からすると、そのような商標は、本来は商標登録を受けられなかったものであるから、その有効性を早期に確定させて商標権者を保護すべき強い要請があるわけではないのであって、除斥期間内に商標登録の無効の審判が請求され、審判請求書に当該商標登録が15号の規定に違反する旨の記載がありさえすれば、既存の継続的な状態は覆されたとみることができる。
 そうすると、15号違反を理由とする商標登録の無効の審判請求が除斥期間を遵守したものであるというためには、除斥期間内に提出された審判請求書に、請求の理由として、当該商標登録が15号の規定に違反するものである旨の主張の記載がされていることをもって足り、15号の規定に該当すべき具体的な事実関係等に関する主張が記載されていることまでは要しないと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、本件審判請求が除斥期間を徒過したものでないことは明らかであって、本件審決に47条の解釈適用の誤りはない。本件審判請求が不適法なものではないとした原審の前記判断は、結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
 裁判長裁判官 中川了滋
 裁判官 福田博
 裁判官 滝井繁男
 裁判官 津野修
 裁判官 今井功
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