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【事件名】「2ちゃんねる」公衆送信差止事件(2)
【年月日】平成17年3月3日
 東京高裁 平成16年(ネ)第2067号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成15年(ワ)第15526号)
 (平成16年12月24日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(原告) XことX’
控訴人(原告) 株式会社小学館
控訴人ら訴訟代理人弁護士 伊藤真
被控訴人(被告) Y


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人は、「2ちゃんねる」と題するホームページ(アドレス http:-/www.2ch.net)の「過去ログ倉庫」(アドレス http:-/comic.2ch.net/gcomic/kako/1014/10149/1014993777.html)における原判決別紙転載文章目録の発言内容欄記載の各発言を自動公衆送信又は送信可能化してはならない。
(2) 被控訴人は、控訴人XことX’に対し、45万円及びこれに対する平成15年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人は、控訴人株式会社小学館に対し、75万円及びこれに対する平成15年12月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 控訴人らのその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、第1、2審を通じ、3分の2を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。
3 この判決の1(1)ないし(3)は、仮に執行することができる。

事実及び理由
(以下における呼称は、原告を控訴人と表記し直したほか、原判決と同一である。)
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人らは、原判決を取り消すとの判決とともに、次のとおりの判決及び仮執行宣言を求めた。
(1) 主文1(1)と同旨の差止命令。
(2) 被控訴人は、控訴人Xに対し、112万5000円及びこれに対する平成15年12月9日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人は、控訴人小学館に対し、187万5000円及びこれに対する平成15年12月9日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
第2 事案の概要
1 漫画家である控訴人X及び出版社である控訴人小学館は、平成14年5月20日(書籍奥付記載の日。実際の刊行日は4月下旬)に刊行された本件書籍「ファンブック 罪に濡れたふたり〜Kasumi〜」に収録の対談記事について、著作権を共有するところ、被控訴人が運営するインターネット上の電子掲示板「2ちゃんねる」に、上記対談記事が無断で転載されて送信可能化され、自動公衆送信されたことにより、控訴人らの送信可能化権、公衆送信権が侵害されたと主張し、被控訴人に対し、著作権法112条1項に基づき当該対談記事の送信可能化及び自動公衆送信の差止めを求めるとともに、控訴人小学館の削除要請にもかかわらず、被控訴人が転載された当該対談記事の削除を怠ったことで控訴人らに損害が発生したと主張し、被控訴人に対し、民法709条に基づき、損害賠償(訴状送達の日の翌日からの遅延損害金を含む。)を請求したのに対し、原判決は請求を棄却した。
2 当事者の主張を含む事案の概要の詳細は、原判決事実及び理由欄の「第2 事案の概要」に示されているとおりである。
3 控訴人らは、当審において次のとおり述べた。
(1) 本件発言は、その内容及び前後の発言から、著作権を侵害するものであることが明白である。
(2) 被控訴人は、控訴人らからの削除要請等の通知(控訴人小学館の編集長Aからのファクシミリ及び電子メール、さらには控訴人ら代理人弁護士からの内容証明郵便)により、本件発言が本件掲示板上に存在し、他人の権利たる著作権(公衆送信権)が侵害されていることを知っていたか、又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある。
(3) 電子掲示板運営者は、他人の著作権を侵害する発言があったことを知った場合には、その削除義務を負い、削除しない場合には損害賠償義務がある。
4 被控訴人は、当審において次のとおり述べた。
(1) 著作権者は、掲示板を運営している者に、出版物を証拠として提示して発言の削除を求めなければならない。本件書籍が被控訴人の下に届いたのは本訴提起後である。著作物の確認をすることなく発言を削除すると、発言者の表現の自由を根拠もなく奪うことになる。
 控訴人ら主張の電子メールに対応して返信メールが発信されたが、これは自動返信によるものであり、被控訴人は個々にその内容を確認して送信しているわけではない。控訴人ら主張のファクシミリ及び内容証明郵便は被控訴人の家族が受領したものであり、被控訴人はその存在を知らなかった。
(2) 本件掲示板の発信者については、IPログから追跡可能であり、発信者への責任追及の道が閉ざされていることはなく、また、発信者への責任追及の途が閉ざされているとしても、それをもって、被控訴人に控訴人ら主張の責任があるとすることはできない。
(3) 編集長Aは委任状の添付がないまま通知をしたものであるが、委任状の添付がないまま、編集長が著作者の権利を代行することはあり得ない。
(4) 控訴人らは、本件各対談をインターネットで配信すると1アクセス当たり少なくとも300円の著作権使用料を徴収できることを裏付けるものとして、週刊誌「サンデー毎日」の配信料を根拠にするが、伝統があって発行部数も多く資料価値も高い「サンデー毎日」の配信料を、1万部程度しか出版されない本件書籍の記事についてのインターネット配信料額を認定する参考とすることはできない。
第3 当裁判所の判断
1 前提事実の要約
 まず、前記引用に係る原判決の「前提となる事実関係」に基づき、本件の前提事実を要約すると、次のとおりである。
(1) 当事者
 控訴人Xは、漫画家であり、「罪に濡れたふたり」と題する一連の漫画本を著作した。控訴人小学館は、出版社であり、漫画「罪に濡れたふたり」が連載されている月刊誌「少女コミックCheese!」や漫画「罪に濡れたふたり」の一連単行本等を出版している。
 被控訴人は、インターネット上に「2ちゃんねる」と称する本件電子掲示板を開設し、運営している。
(2) 本件電子掲示板の特徴
ア 本件電子掲示板は、テーマごとに300種類以上の電子掲示板によって構成され、各掲示板には、話題ごとに多数のスレッドと称する連続した書き込みが存在しており、各スレッドに書き込まれた発言には、書き込み日時順に番号が付けられている。そして、本件電子掲示板の利用者は、各掲示板の各スレッドにおいて発言を書き込んだり、新しくスレッドを作って発言を書き込むことができるようになっている。スレッドの発言数が所定の数に達すると、当該スレッドは「過去ログ倉庫」と称する保管場所に移されるが、所定の方法によって、だれでも「過去ログ倉庫」にあるスレッドを閲覧することが可能となっている。
イ 本件電子掲示板は、何人も、無料で、インターネットを介して自由に閲覧し、書き込みをすることができる。本件電子掲示板の利用者が、発言の書き込みをするには、氏名、メールアドレス、ユーザーID等の記載の必要はない。
ウ 被控訴人は、本件掲示板における発言の削除について「削除ガイドライン」を定めて運用している。同ガイドラインにおいては、発言の削除を希望する者は、本件電子掲示板にある「削除要請板」ないし「削除依頼板」と称する電子掲示板にあるスレッドに、削除要請の旨を書き込む(スレッドがない場合には自ら新たにスレッドを作成して書き込む)という方法によってのみ発言の削除を求めることができるとされている。
エ 実際の削除については、被控訴人以外に「削除人」ないし「削除屋」と呼ばれる特定の利用者が発言の削除を行う権限を与えられている。この「削除人」は、ボランティアであって、「削除ガイドライン」に従って、本件掲示板における発言を削除することができるが、削除すべき義務や、削除をし、又はしなかったことについて責任を負わないものと「削除ガイドライン」において定められている。
(3) 対談記事の著作等
ア 控訴人小学館は本件書籍を編集、発行し、同書籍は平成14年4月24日ころ全国の書店で販売が開始された。
 朗読CD付き200頁の本件書籍は、控訴人X及びその作品である漫画「罪に濡れたふたり」のファンを主要な読者とする書籍であり、漫画、小説及び控訴人Xの対談記事などから構成されている。本件書籍に収められている対談記事として、「『罪に濡れたふたり』誕生秘話」(本件書籍34〜51頁。本件対談記事1)と題する対談記事と「X×Bドラマティック対談」と題する対談記事(本件書籍134〜144頁。本件対談記事2)とがある。
イ 本件対談記事1は、漫画「罪に濡れたふたり」の誕生にまつわるエピソードなどを著者である控訴人Xが、初代編集担当者であったC、本件書籍発行当時の編集担当者であったD及び読者代表のEと対談した内容を記載したものであり、本件対談記事2は、控訴人Xと、声優として著名なBが、恋・仕事・人生について対談した内容を記載したものである。
 C及びDは、控訴人小学館の従業員であり、控訴人小学館の従業員の職務として対談を行ったものである。また、E及びBは、本件各記事中の同人らの発言部分に関して同人らが有する著作権を、それぞれ控訴人小学館に譲渡した。
(4) 本件対談記事の転載
ア 原判決別紙転載文章目録の投稿日欄記載の各発言日に、各発言番号欄記載の本件各発言が、本件電子掲示板の「みんなうんざりだって★X」と題する本件スレッド上に書き込まれたが、これらの発言は直ちに送信可能にされ、各発言後本件スレッドにアクセスした者に対して自動公衆送信された。その後、平成14年8月ころ、発言数が所定の数に達したことから、本件スレッドは「過去ログ」に移された。
イ 本件各発言には、原判決別紙転載文章目録の発言内容欄記載の本件各文章が記載されている。
 すなわち、本件対談記事1につき、@平成14年5月3日からの連続11回にわたる書き込み、A5月5日における連続9回にわたる書き込み、B5月7日における連続10回にわたる書き込み、C5月12日における連続4回にわたる書き込み、本件対談記事2につき、D平成14年5月13日における、連続6回にわたる書き込み、飛んで1回の書き込み、更に飛んで別の連続18回にわたる書き込み、以上である。
ウ 本件各文章は、本件各対談記事を順番に転記したものであり、原判決別紙転載文章目録の「本件書籍の表現との対比」欄記載のとおり、一部の文章に本件各対談記事と異なる表現が見られるものの、転記の際の略記、転記漏れないし転記ミス、あるいは重複記載の範囲にとどまっている。
(5) 削除要請
 控訴人小学館の従業員である「少女コミックCheese!」編集長Aは、平成14年5月9日に被控訴人にあてたファクシミリにより、また、平成14年5月10日には電子メールにより、本件各発言の掲載が著作権侵害であると警告し、本件各発言の速やかな削除を要請した。
上記電子メールに対し、被控訴人は、同月12日に「削除依頼板へおねがいします。」とのみ記載した返信電子メールを編集長Aあて送信した。
 上記返信電子メールに対し、編集長Aは、再度、同月13日に電子メールにより、速やかな対処を求める旨の要請を行った。これに対しても、被控訴人は、「削除依頼板へおねがいします。」とのみ記載した返信の電子メールを編集長Aあてに送信した。
2 被控訴人による著作権侵害について
(1) 自己が提供し発言削除についての最終権限を有する掲示板の運営者は、これに書き込まれた発言が著作権侵害(公衆送信権の侵害)に当たるときには、そのような発言の提供の場を設けた者として、その侵害行為を放置している場合には、その侵害態様、著作権者からの申し入れの態様、さらには発言者の対応いかんによっては、その放置自体が著作権侵害行為と評価すべき場合もあるというべきである。以下、本件の事実関係に即してこれをみてみる。本件発言の前後の発言内容は、甲2及び弁論の全趣旨による認定である。
(2) 前記1(4)イの@の発言の直前の発言(甲2の番号602)には、本件対談記事1の内容を書き込んだ発言者と同じ「492」の名前で、「随分時間が経ってしまいましたが、ファンブックの対談うぷします。結構な量になるので、一気に全部ではなく何回かにわけます。改行は適当な所で。X→X先生、初→初代担当、今→今の担当、読→読者代表」との内容の発言(書き込み)がある。ここで「うぷします」とあるのが、「upする」(書き込む)の意味であることは明らかである。この番号602の発言は、番号492の発言の中に、「ファンブックの対談とかうぷしてほしいという人が多ければうぷしますよ〜。やめてほしい人が多ければしませんので・・。」とあるのを受けたものである。
 前記@の一連発言の直後には、本件発言者とは別の者と思われる「花と名無しさん」と名乗る者が、「対談ウプおつかれさま。非常におもしろかった!!」と発言し(番号615)、本件対談記事1を書き込んだ「492」と称する者がそれに続いて、「二重カキコスマソ。ファンブックの対談、まだまだあります。連続書き込みやりすぎるとアクセス規制うけるんで時間たったら続きうぷします。」と書き込んでいる(番号616)。
 Aの一連発言の2つ前の発言(番号623)には、「>492ほんっとありがとう。しかも忠実に・・・。」との書き込み部分があり、Aの発言の冒頭(番号625)に「対談うぷ続きです。ファンブックで脱字?と思われる箇所がいくつかあったのですが、そのままうぷします。」との導入の下、対談の書き込みが続いている。
 Aの一連発言の後には、「いやいや、>492。ほんとにありがとう。これ書き写すだけで大変だろうに・・・。」と、「花と名無しさん」と名乗る者による書き込みがある(番号636)。
 なお、前記Dの書き込み名義は「花と名無しさん」となっている。これが、上記の「花と名無しさん」と同一人か、あるいは「492」を名乗る者と同一人かは明らかではない。
(3) 本件各発言は、「みんなうんざりだって★X」と題する本件スレッドにおけるものであり、その最初の発言には、「「罪に濡れたふたり」Cheeseにて只今、連載中! みんなでうんざり語りましょう。・・・」とあり、前記(2)に摘示した発言内容からすると、本件各発言は、これを一読するだけで、「ファンブック」すなわち本件書籍の対談記事を、著作権者の許諾なくほぼそのまま転載したものであることが、極めて容易に理解されるのであり、本件掲示板を開設し運営している被控訴人にとっても、本件各発言が、その内容自体によって、公刊された書籍のかなりの頁部分をそのまま転載したものであり、デッドコピーとして著作権侵害になるものであることを容易に理解し得たものといわざるを得ない。
 そして、編集長Aが、会社名、肩書、そして電話番号ファックス番号を明記した上、出版社として著名な控訴人小学館の代理人又は使者として、被控訴人に対し、ファクシミリで著作権侵害通知をし、ファクシミリでしたのと同一内容の通知を電子メールでもしており(通知内容には、小学館刊行の「ファンブック 罪に濡れたふたり〜Kasumi〜」の18頁にわたる座談会頁の全文が公開されていることの指摘がある。甲3、4)、被控訴人としては、本件各発言につき、著作権者から著作権侵害であることの通知を受けている。さらに、控訴人ら代理人弁護士伊藤真は、内容証明郵便により、本件各対談記事が著作権侵害に該当するとの警告書を、被控訴人が当時住民登録していた東京都北区のマンションあてに差し出し、これは平成14年7月17日被控訴人方に配達されている(甲7、8及び弁論の全趣旨)。
(4) インターネット上においてだれもが匿名で書き込みが可能な掲示板を開設し運営する者は、著作権侵害となるような書き込みをしないよう、適切な注意事項を適宜な方法で案内するなどの事前の対策を講じるだけでなく、著作権侵害となる書き込みがあった際には、これに対し適切な是正措置を速やかに取る態勢で臨むべき義務がある。掲示板運営者は、少なくとも、著作権者等から著作権侵害の事実の指摘を受けた場合には、可能ならば発言者に対してその点に関する照会をし、更には、著作権侵害であることが極めて明白なときには当該発言を直ちに削除するなど、速やかにこれに対処すべきものである。
 本件においては、上記の著作権侵害は、本件各発言の記載自体から極めて容易に認識し得た態様のものであり、本件掲示板に本件対談記事がそのままデジタル情報として書き込まれ、この書き込みが継続していたのであるから、その情報は劣化を伴うことなくそのまま不特定多数の者のパソコン等に取り込まれたり、印刷されたりすることが可能な状況が生じていたものであって、明白で、かつ、深刻な態様の著作権侵害であるというべきである。被控訴人としては、編集長Aからの通知を受けた際には、直ちに本件著作権侵害行為に当たる発言が本件掲示板上で書き込まれていることを認識することができ、発言者に照会するまでもなく速やかにこれを削除すべきであったというべきである。にもかかわらず、被控訴人は、上記通知に対し、発言者に対する照会すらせず、何らの是正措置を取らなかったのであるから、故意又は過失により著作権侵害に加担していたものといわざるを得ない。
 被控訴人は、一人で数百にものぼる多数の電子掲示板を運営管理し、日々、刻々とこれに膨大な量の書き込みが行われるため、すべての書き込みに目を通すことは到底不可能であるから、個々の著作権侵害の事実を把握することはできない、と法廷で繰り返し強調していたが、仮に被控訴人の主張することが事実であったとしても、著作権者等から著作権侵害の事実の通知があったのに対して何らの措置も取らなかったことを踏まえないままにこのように主張するのは、自らの事業の管理態勢の不備をいう意味での過失、場合によっては侵害状態を維持容認するという意味での故意を認めるに等しく、過失責任や故意責任を免れる事由には到底なり得ない主張であるといわざるを得ない。
 以上のとおりであるから、被控訴人は、著作権法112条にいう「著作者、著作権者、出版権者・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者」に該当し、著作権者である控訴人らが被った損害を賠償する不法行為責任があるものというべきである。なお、著作権者が発言者に対して著作権侵害に係る発言の削除の要請をするのが容易であるならば、掲示板の運営者が著作権侵害をしていると目すべきでないこともあり得ようが、本件掲示板においては、発言者の実名、メールアドレスなどの発信者情報を得ることはできず、本件各発言の削除要請が容易であるとは到底いうことができない。
 この点に関連し、被控訴人は、本件掲示板の発信者は、IPログから追跡可能であると主張する。被控訴人の主張は、IPアドレスの記録によって発信者が特定できるとの趣旨と理解できるが、IPアドレスによって特定されるのは当該発言がいずれのプロバイダーから発信されたかにとどまり、発言者までの特定は当該プロバイダーが厳格に管理している個人情報を得て初めて可能になるものであることは、公知の事実である。被控訴人の上記主張をもってしても、被控訴人の著作権侵害による責任についての上記判断を左右することができない。
 また、被控訴人は、本件掲示板の運営者として、削除依頼は削除依頼掲示に記載すべきものとするガイドライン(甲9)を設定しており、これ以外の方法による削除要請を受理しなくともよいかのごとく主張するが、これは、被控訴人が一方的に取り決めた通告方法にすぎず、本件掲示板に何ら特別な関係を持たない控訴人らに法的な効力を及ぼすことはできない。被控訴人は、少なくとも、著作権者と称する者から通知があった場合には、その通知者が連絡を取れる実在の者であることが明らかに分かり、かつ、当該発言を読んで明らかに著作権侵害の可能性が高いと判断されるときには、発言者にその旨を通知して対応策を問い合わせる必要がある。なお、被控訴人は、ファクシミリや電子メールを読んでおらず、内容証明郵便も家族が受領して自らは見ていないと主張するが、信用することができない。仮に、被控訴人が上記のとおり一人による事業で管理態勢が不十分であるため、自己に対する電子メールや内容証明郵便も読むことができないのが事実であるとしても、これによって、不法行為責任等の判断において被控訴人が有利に評価されることはあり得ない。
 さらにまた、被控訴人は、著作権が侵害された本件書籍の送付を受けていないこと(弁論の全趣旨)から、著作権侵害の確認をすることができなかったと主張するが、上記のとおり、本件各発言の内容のみから、本件書籍が実際に刊行されたこと及びその内容がどのようなものであるかを容易に知ることができたのであるから、 被控訴人が本件書籍の提示を受けていないとしても、著作権侵害の責めを免れるものではない。
(5) したがって、被控訴人は本件各発言を本件掲示板上において公衆送信可能状態に存続させあるいは存続可能な状態にさせたままにしている者として、著作権侵害の不法行為責任を免れない。
3 差止めの必要性
 前記のとおり本件各発言は自動公衆送信されていたものである。現在のところは、本件掲示板に掲載されておらず、一般人に対し自動送信される状態にないが(弁論の全趣旨)、これは、被控訴人が本件各発言の公開を保留しているにすぎず(原審被控訴人準備書面1)、将来送信可能化される可能性のあることは明らかであるから、本件各発言の自動公衆送信又は送信可能化について控訴人らが請求する差止請求は理由がある。
4 損害について
(1) 弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。
ア 本件書籍は、控訴人X及びその作品である本件漫画のファンを主要な読者とする書籍であり、本件各対談記事は、その性質上漫画家である控訴人Xの個性が発揮されていること、本件各発言は、本件書籍が発売された平成14年4月下旬からほどない平成14年5月3日から掲載が開始されたもので、本件対談記事を全文転載しているものであること、他方、控訴人小学館は、本件書籍の本件各対談記事、書き下ろしの漫画などが書店で立ち読みされないように、フィルムで包装する態様で本件書籍を出荷していた。
イ 本件書籍は、本体価格940円で、平成14年4月24日に書店で販売が開始されたものであり、その実売は数万部であった。
ウ 本件スレッドには、4か月余りで1000件弱の書き込みがあり、その後も、継続して控訴人Xに関する独立したスレッドが存在していること、したがって、これらスレッドにアクセスした者は本件各発言のある本件スレッドにもアクセスした可能性が高いこと、本件各発言は、本件電子掲示板の中の控訴人Xに係る本件スレッドに掲載されたものであり、控訴人X及び本件漫画のファンの多くが、書き込み(発言)をしないで本件掲示板にアクセスして本件各発言を読んだものである一方で、複数回にわたって本件掲示板にアクセスした場合も存する。
(2) これらの事実に、平成14年5月3日から被控訴人が本件各発言の公開を留保していると主張した平成16年1月19日(原審被控訴人準備書面1の受付日)までの間に、8か月余り経過していること、インターネット情報が一般に拡散しやすく、直接アクセスした者から本件各発言が広まった可能性を否定できないこと、したがって、直接間接に本件各発言に接することができた者はかなりの数に上ると推認されること、他方で、相当多数のアクセスが本件掲示板にあったとしても、300円の著作物使用料が徴収されるのであれば、掲示板閲覧者の中にはこれを支払ってまではアクセスしない者も多いものと推認できること、などを総合勘案し、編集長Aが被控訴人にあてて前記ファクシミリを送信して以降、本件各発言にアクセスがあった件数を3000件と認定した上、週刊誌「サンデー毎日」がファクシミリによるバックナンバー記事提供サービスの情報料を記事1回当たり300円としていること(甲14の1、2)にかんがみ、本件対談記事の著作物使用料を200円と認めた上で、各控訴人が被った損害額を算定するのが相当である。
 なお、本件対談記事1は、控訴人X、控訴人小学館の従業員のCとD、そして読者代表としてEの4名によるものであり、控訴人X以外の著作権については、職務著作あるいは著作権の譲渡により控訴人小学館に帰属していることから(甲10〜12)、本件対談記事1の著作権は4分の1が控訴人Xに、その余の4分の3が控訴人小学館に帰属しているものと認められる。
 また、本件対談記事2は、控訴人XとBの2名によるものであるが、Bは控訴人小学館に著作権を譲渡しているので(甲13)、本件対談記事2の著作権は控訴人Xと控訴人小学館に、それぞれ2分の1の割合で帰属しているものと認められる。
 そうすると、次の計算式により、本件著作権侵害により被った損害額は、控訴人Xについて45万円であり、控訴人小学館について75万円と認めるのが相当である。
 (計算式)
 @ 控訴人X関係
  本件対談記事1について 200円×3000件×1/4= 15万円
  本件対談記事2について 200円×3000件×1/2= 30万円
  合計 45万円
 A 控訴人小学館関係
  本件対談記事1について 200円×3000件×3/4= 45万円
  本件対談記事2について 200円×3000件×1/2= 30万円
  合計 75万円
第4 結論
 よって、主文のとおり原判決を変更する。

東京高等裁判所知的財産第4部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官 塩月秀平
 裁判官 野輝久
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/