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【事件名】インクリボンの商標事件(2)
【年月日】平成17年1月13日
 東京高裁 平成16年(ネ)第3751号 商標権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成15年(ワ)第29488号)
 (平成16年11月10日 口頭弁論終結)

判決
控訴人(原告) ブラザー工業株式会社
訴訟代理人弁護士 佐尾重久
同弁理士 富澤孝
被控訴人(被告) 株式会社オーム電機
被控訴人(被告) ダイニック株式会社
被控訴人ら訴訟代理人弁護士 安藤信彦
同 田代宏樹
同補佐人弁理士 繻エ史生


主文
 本件控訴をいずれも棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、「ブラザー」ないしは「brother」標章を付した「インクリボン FKS−77SB−S S−b TYPE−1」及び「インクリボン FKS−50SBG−S S−b TYPE−2」を製造、販売してはならない。
3 被控訴人らは、上記製品を廃棄せよ。
4 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、2136万円及びこれに対する平成16年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
6 仮執行宣言
第2 事案の概要
 本判決においては、原判決と同様の意味において、「被告標章」、「本件商標権」、「被告製品」、「被告製品1」、「被告製品2」、「旧被告製品」、「新被告製品」などの略称を用いる。
1 本件は、控訴人(原告)が被控訴人(被告)らに対し、被控訴人ダイニック株式会社(被控訴人ダイニック)が被告標章を付してインクリボン(被告製品1、2)を製造しこれらを被控訴人オーム電機(被控訴人オーム。単に「被控訴人会社」ないし「被告会社」ということがある。)に販売する各行為、及び被控訴人オームがこれら製品を販売する行為が、控訴人の有する本件商標権を侵害すると主張して、被告標章を付したインクリボン(被告製品1、2)の製造、販売の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めた事案である。
 原判決は、被告(被控訴人)らによる被告標章の使用は、本件商標権の侵害には当たらないとして、原告(控訴人)の上記請求をいずれも棄却した。
 そこで、控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
 本件の事案の概要及び当事者の主張は、控訴人の主張として次の2の「当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点)」を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから、これらを引用する。
2 当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点)
@ 原判決は、14頁において、被告標章は商標として使用されていないと判断し、14ないし16頁において、アないしオの5項目の理由を挙げるが(以下、このアないしオの項目に対応して、「理由ア」などという。)、以下に述べるとおり、理由ア、イ、エ及びオの判断は誤りであり、原判決の上記結論は誤っている。
(a) 原判決は、理由アにおいて、「被告製品の外箱に被告製品の普通名称「インクリボン」や用途「普通紙FAX用」の表示が、いずれも消費者の目を引く白抜きで、その他の文字よりも大きく記載されている。」と判示している。
 しかし、普通名称や用途は、商品自体の説明にすぎず、自他商品識別機能や出所表示機能、品質保証機能などを全く有せず、商標として評価すべきではないのであって、全く不必要な判断である。
(b) 原判決は、理由イにおいて、被告標章を判断するに際し、上記用途等を示す記載と比較している。
 しかし、比較すべき対象は、被控訴人(被告)らの出所表示であって、用途等の表示ではないことは明らかであり、誤っている。さらに、判断する主体を中学生としている点でも誤っている(なお、理由エでは、判断主体について全く触れていない。)。
(c) 原判決は、理由エにおいて、英語表記の名称及び住所について判示している。
 しかし、その英語表記について判断する主体は誰かについては全く述べられていない。前記理由イで中学生を基準にするなら、ここでも中学生でも理解できるか否かで判断すべきである。もし、裁判官を基準に判断するのであれば、他方で理由イのように中学生を基準とすることは許されない。本件は、一般消費者向けの商品であるから、判断基準は、一般消費者でなければならず、被告製品の英語表記による表示が、一部の消費者は被控訴人会社(被告会社)であることを認識できても、多くの消費者は認識できない。
 また、本件では、自他商品識別機能、出所表示機能を有する商標権侵害が争点なのであるから、上記被控訴人会社(被告会社)の表示と理由イの被告標章とを対比した上で、全体を相対的に判断しなければならないところ、原判決は、その対比を行っていない。
(d) 原判決は、理由オにおいて、適合機種表示について判示している。
 原判決は、適合機種を表示すること自体が適法であるか否かの判断をすることなく、それが適法であることを当然の前提としている。仮に、適合機種表示が商標権侵害にならないとの解釈が可能であるとしても、表示の方法いかんによっては、商標権侵害となる場合がある。それにもかかわらず、原判決は、「被告標章の表示は、ごく通常の表記態様であると解される。」と判断しているが、その判断について証拠は一切引用されていない。すなわち、証拠に基づかない判断である。
A 被告製品の「brother」ないし「ブラザー」の表示は、適合機種を記載することの目的を超えていて、控訴人の商標権侵害となる。
(a) 適合機種表示の実例について
 甲6、10(枝番号のものも含む。以下同じ。)は、控訴人会社製ファクシミリに使用するためのインクリボンで、他社の製造・販売又は販売に係るものの外箱の写真である。甲7は、パナソニック製ファクシミリに使用するためのインクリボンで、パナソニック以外の会社の販売に係るものの外箱の写真である。甲8、9は、キャノン製又はエプソン製のファクシミリに使用するためのインクリボンで、両社以外の会社の販売に係るものの外箱の写真である。
 仮に、適合機種表示をする場合に他社の商標を使用することが適法であるとしても、(@)甲8、9、10のように、当該商品の出所表示が明確にされること、(A)適合機種表示のために他社の商標を使用するについても、社会通念上消費者が適合機種を理解するために必要な限度の範囲内の表示であること、(B)当該商標権者の製品でないことが理解できる表示をすること、(C)他社商標を使用することについて当該商標権者に対する配慮をすることなどの要件が必要であろう。
 甲6に写された製品のように、適合機種表示に必要な限度を超えて、一番目に付く位置に、控訴人の登録商標の字体をそのまま盗用して使用するような表示が、「用」と記載されているがゆえに、商標権侵害にならないとはいえないことは明白であろう。なお、控訴人は、甲6、10の製品について、控訴人の商標権及び特許権侵害であると主張して、製造・販売又は販売の中止を求めたところ、上記各会社は、直ちに中止した。
(b) 被告製品における控訴人の表示について
 仮に、被告製品において、製造者又は販売者の記載が一切なく、被告標章しか表示されていないとすれば、「For」や「用」との文字が付されていたとしても、「brother」や「ブラザー」の表示から、一般消費者は、控訴人が製造者、販売者であると理解する。同様に、製造者又は販売者らしい記載があるが、それが誰であるのか特定できないというのであれば、記載がないのと同意義であるから、やはり控訴人が製造者、販売者であると理解される。
 原判決は、被告製品における「OHM ELECTRIC INC.」の表示が、「被告製品の製造者又は販売者を示すものと認識し得る表示」と判示しているが、「被控訴人会社(被告会社)を示すものと認識し得る」とは判示していない。この判示の趣旨が、「製造者又は販売者」と判断されればよく、それが誰であるか理解できなくても問題ではないというものであれば、それ自体が誤りである。一方、上記判示の趣旨が、「被控訴人会社(被告会社)を示すものと認識し得る」と判断したのであるとすれば、上記表示をもって被控訴人を表示していると理解することは極めて困難であるから、原判決の判断は、誤りである。
 すなわち、上記「OHM」の記載を見て、日本語に翻訳すると「オーム」であり、被控訴人会社の名称であると理解できる一般消費者は、ほとんどいない。また、上記「ELECTRIC」という英語が電気という意味であるということは、中学生はともかく、高校生ならかなりの者が理解できるであろう。しかし、仮に、理解できたとしても、「INC.」が何を意味しているかを理解できる人は限られている。仮に、略語であると理解したとしても、いかなる単語の略語であるのかまで理解している人は限られている。「OHM ELECTRIC INC.」の表示を被控訴人会社である「株式会社オーム電機」を表示していると理解することは、極めて困難である。
(c) 被告製品の商標権侵害について
 「For」や「用」の文字が記載されているからといって、直ちに、控訴人が製造したものではないとの理解には直結しない。仮に、適合機種表示をする場合に他社の商標を使用しても商標的使用ではなく商標権侵害とはならないとの前提に立つとしても、適合機種表示ならどのような表示でもよいというものではなく、前記の(@)ないし(C)のような要件を満たす必要があるというべきである。
 適合機種表示として、前掲甲7ないし9のような限度であれば、許されると解される余地はあろう。しかし、被告製品においては、カラー印刷された2面、すなわち、最も消費者の目を引く箇所に4箇所と、表蓋に2箇所も、「brother」ないし「ブラザー」の表示がある。適合機種表示としては、全く不要で、必要な限度を超えている。
 被告製品の「brother」ないし「ブラザー」の表示は、甲6のものと比べれば小さい。また、字体も甲6のように、控訴人の登録商標の字体そのものを盗用しているのではない。しかし、上記のように、通常の販売形態で消費者が確認可能な目立つ場所に6箇所も「brother」ないし「ブラザー」と記載しているもので、適合機種表示としては全く不要のものであるから、いかに「For」や「用」が記載されていても、自他商品識別機能、出所表示機能を有していることは明らかである。
 しかも、被告製品においては、控訴人の商標を使用しているとの配慮は何一つされていない。
 被告製品を販売するのであれば、甲8、9、10のように、被控訴人会社の表示を消費者が見て目立つ場所に行うのが通常である。しかし、被告製品では、代わりに、「For brother」ないし「ブラザー用」と記載して、あえて強調して表示している。適合機種表示を目的としたものではなく、控訴人の著名商標の顧客吸引力に便乗して使用することを目的としていることは明らかである。
 被控訴人会社の表示は、旧被告製品においては1箇所、新被告製品においては3箇所に、「OHM ELECTRIC INC.」の表示があるだけである。特に、旧被告製品については、棚に陳列されている通常の販売形態で被控訴人会社を確認できる表示は一切付されていない。そして、前記のとおり、上記表示が被控訴人会社である「株式会社オーム電機」を表示していると理解することは、極めて困難である。したがって、通常の消費者であれば、「OHM ELECTRIC INC.」の表示から被控訴人会社であることを理解しないし、仮に理解したとしても、適合機種表示の目的を超えてされた「brother」ないし「ブラザー」の表示を見れば、被控訴人会社が控訴人から許諾を受けて製造・販売しているとしか理解しないであろう。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被控訴人らによる被告標章の使用は、本件商標権の侵害には当たらないから、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これらを棄却すべきものと判断するが、その理由は、下記の2以下に付加するほかは、原判決が「第4 当裁判所の判断」(別紙を含む)として説示するとおりである。なお、原判決14頁3行目に「商品を特定する機能ないし出所を表示する機能」とあるのを「自他商品識別機能ないし出所表示機能」と訂正する(原判決16頁4〜5行目参照)。また、原判決14頁9行目に「その他の文字とよりも」とあるのを「その他の文字よりも」と、15頁12行目に「被告旧製品」とあるのを「旧被告製品」と、同頁15行目に「被告新製品」とあるのを「新被告製品」と、それぞれ訂正する。
2 当審における控訴人の主張の要点@について
(a) 原判決の理由アの説示は、商標権侵害の対象とされている行為が商標として使用する行為であるといえるか否かを判断するに際しては、当該標章が、これが付された製品の表示において、どの程度目を引く態様で使用されているかについても考慮すべきであり、そのためには、当該製品に付された表示のうち、自他商品識別機能や出所表示機能と直接関係する部分のみならず、製品の普通名称や用途等の記載部分の表示態様も検討対象となり得る、との考えの下になされたものであると解される。そして、原判決は、理由アで被告製品における製品の普通名称や用途等の記載部分の表示態様を認定した上で、理由イ以下において、被告標章等の表示態様等について検討している。原判決の理由アの説示は、相当であって、控訴人が(a)においてする主張は、採用することができない。
(b) 前判示の点に照らせば、理由アで認定の用途等を示す記載と被告標章とを対比して検討することに何ら問題はない。なお、原判決は、理由エにおいて、被告標章と被控訴人会社(被告会社)の表示との対比をしているのであって、この点に関する控訴人の(b)における主張は、失当である。
 控訴人は、また、(b)の主張において、原判決が判断主体を中学生としていると主張するが、原判決を正解しないもので、失当である。原判決は、「For」という語が、中学で学習する基本的な英単語であると判示しているだけであり、これに続けて、「被告製品の一般需要者は…」と判示しているとおり、判断主体を「被告製品の一般需要者」としていることは明らかである。もとより、原判決の判断主体についての判断は、正当として是認し得るものである。
(c) 控訴人は、原判決が、理由エにおいて、英語表記についての判断主体を述べていないと主張するが、上記(b)の点を含む原判決の説示全体の趣旨に照らせば、原判決は、一貫して、「被告製品の一般需要者」における判断として判示しているものと解される。したがって、控訴人の主張(c)における判断主体、判断基準に関する主張は、失当である(なお、被告製品における英語表記による表示がどのように認識されるかの点は、後に検討する。)。
 控訴人は、(c)において、原判決は、被控訴人会社(被告会社)の表示と被告標章とを対比していないと主張するが、前記のとおり、原判決は、理由エにおいて、被告標章と被控訴人会社(被告会社)の表示との対比をしているのであって、原告の主張は、失当である。
(d) 原判決の説示全体に照らせば、原判決も、理由オにおいて、適合機種表示であれば、直ちに商標としての使用行為ではない、という趣旨を判示するものではなく、判示した種々の事情を総合的に勘案して判断したものであることが明らかである。控訴人の主張(d)のうち、この点を非難するかのような主張は、採用することができない。
 控訴人は、(d)において、原判決の「被告標章の表示は、ごく通常の表記態様であると解される。」との判断が証拠に基づかない判断であると主張する。しかし、事実の認定は証拠に基づく必要があることはいうまでもないが、認定された事実に基づいて推認したり、判断する場合には、それ自体に証拠を要するものではないこともいうまでもない(控訴人自身、上記判示が「判断」であると主張する。)。原判決は、理由オの前に被告標章の表示態様等について、証拠に基づく認定をしているのであり、これらの認定事実に基づいて、上記のように判断したものであり、この点についての控訴人の非難は、当たらない。
3 当審における控訴人の主張の要点Aについて
(1) 被告製品における被控訴人会社の表示について検討する。
 被控訴人会社の表示態様等については、原判決認定のとおりである(原判決9頁6〜16行目、10頁1〜11行目、11頁23行目〜12頁7行目、12頁18行目〜13頁3行目)。
 この認定によれば、被告製品(乙1〜4)のすべてにおいて、「OHM ELECTRIC INC.」の表示とともに、その下に郵便番号と住所が記載され、さらにその下に「お客様相談室」の表示とともに、電話番号が記載され、インターネットのホームページアドレスも記載されている。
 検討するに、被告製品の一般需要者が「OHM ELECTRIC INC.」との表示に接した場合、直ちに、被控訴人「株式会社オーム電機」を意味するものと認識するかについては疑問の余地がある(被告製品の取引者としての業者の間では、上記表示が被控訴人会社を示すことは知られているものと認められるので(乙5、弁論の全趣旨)、以下、一般需要者を中心に判断する。)。しかし、上記のように、「OHM ELECTRIC INC.」との表示とともに、郵便番号と住所、「お客様相談室」との表示、電話番号、ホームページアドレスが一体として記載されている事実からすれば、被告製品の一般需要者は、少なくとも、被告製品についての問い合わせや不都合があった場合のクレームを述べる先として、「OHM ELECTRIC INC.」を認識し、ひいては、「OHM ELECTRIC INC.」が被告製品の製造者又は販売者であると推察するものと認められる。
 原判決の「被告オームに関する以上の表示は、被告製品の製造者又は販売者を示すものと認識し得る表示といえる。」との判示は、上記と同旨をいうものと解され、相当として是認し得るものである。
 さらに、仮に、被告製品の一般需要者が、「OHM ELECTRIC INC.」が被控訴人「株式会社オーム電機」を意味するものと直ちに認識するのが困難であるとしても、少なくとも、上記のように被告製品の製造者又は販売者であると認識される「OHM ELECTRIC INC.」と、「brother」及び「ブラザー」によって認識される控訴人とは、別の主体であると認識し得ることは、それぞれの表示が全く異なることなどからしても、容易に推認することができる。
 そして、本件では、「brother」又は「ブラザー」という被告標章が商標として使用されているか否かが問題であるから、上記のように認められる以上、製造者又は販売者らしい記載からそれが誰であるか特定できないとしても、直ちに、被告製品の一般需要者が、被告標章から、控訴人が製造者又は販売者であると理解するとはいえない。
(2) 被告製品の商標権侵害について、検討を進める。
 証拠(甲6〜10(枝番号を含む))及び弁論の全趣旨によれば、ファクシミリに使用されるインクリボンにつき、ファクシミリのメーカー以外の業者が製造、販売する実例が見られ、その場合には、「対応機種」との表示に続いて当該メーカーの名称が記載されたり、「○○」部分にメーカーの名称を入れて「○○用」と記載されたり、「適用機種」・「メーカー名」との表示に続いて当該メーカーの名称が記載されたり、「○○」部分にメーカーの名称を入れて「FOR USE ON ○○」と記載されたりして、このような表示によって適合機種が示される実情にあることが認められる(このような態様の表示が直ちにメーカーの商標権侵害となるものとは考えにくいが、その具体的な表示のいかんによっては商標権侵害となり得ないわけではないであろう。なお、控訴人の主張では、甲6と10のものは控訴人の抗議により使用されなくなったとのことである。)。被告製品では、原判決認定のとおり(乙1〜4)、「For brother」又は「(新)ブラザー用」と記載されているものであり、上記の流れに属するものと認められる。
 これらの事情に照らして本件をみるに、本件「brother」又は「ブラザー」との表示に接した被告製品の一般需要者は、控訴人が被告製品の製造者又は販売者であるとは速断せず、むしろ、「For brother」又は「(新)ブラザー用」との態様で表示されていることから、これらの表示が適合機種表示であって、被告製品はファクシミリのメーカー以外の業者により製造、販売されるものであると認識する可能性の方が高いものと判断される。これに、前判示のように、「OHM ELECTRIC INC.」及び「お客様相談室」の表示などから、被告製品の一般需要者は、「OHM ELECTRIC INC.」が被告製品の製造者又は販売者であって、控訴人とは別の主体であると認識するものと認められることをも考慮すると、被告標章が自他商品識別機能や出所表示機能を発揮しているとは認められない。
 以上のことに加え、「brother」又は「ブラザー」の表示がされた被告製品上の位置、その表示の大きさ、個数、字体などの事情、「OHM ELECTRIC INC.」などに見られる被控訴人会社の表示がされた位置、その表示の大きさ、個数などの事情、その他、控訴人の主張を斟酌して、被告製品、被告標章などに係る諸事情を総合勘案しても、被告標章は、被告製品の自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用されているとはいえないとした原判決の認定判断は、是認し得るものであり、これを非難する控訴人の主張は、採用することができない。なお、控訴人は、甲6〜10(枝番号を含む)により、被控訴人ら以外の他社のインクリボンに関する適合機種表示の実例を引き合いに出して、種々主張するが、これらの主張に照らして検討しても、上記認定判断を左右するところはない。
(3) よって、控訴人が主張の要点Aとして主張するところは、採用することができない。
4 結論
 以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないので、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所知的財産第4部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官 田中昌利
 裁判官 佐藤達文
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