判例全文 line
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【事件名】パチスロ機の著作権譲渡事件
【年月日】平成16年12月27日
 大阪地裁 平成14年(ワ)第1919号 損害賠償請求事件(甲事件)、
 平成14年(ワ)第2526号 損害賠償請求事件(乙事件)、
 平成14年(ワ)第3437号 著作権侵害差止等請求事件(丙事件)、
 平成14年(ワ)第8537号 著作権侵害差止等請求事件(丁事件)、
 平成14年(ワ)第10909号 損害賠償請求事件(戊事件)
 (口頭弁論終結の日 平成16年9月22日)

判決
全事件原告 株式会社SNKプレイモア(変更前商号 株式会社プレイモア)
訴訟代理人弁護士 辰巳和男
同 高橋悦夫
同 西島佳男
同 目方研次
同 駒井慶太
同 芦住敦史
同 妻鹿直人
全事件被告 アルゼ株式会社(以下「被告アルゼ」という。)
丁事件被告 日本アミューズメント放送株式会社(以下「被告日本アミューズメント放送」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 露木琢磨
同 小倉秀夫
同 高橋幸二


主文
1 被告アルゼは、別紙図柄目録C1ないし7記載の図柄を使用したプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」を複製、翻案、公衆送信及び頒布してはならない。
2 被告アルゼは、上記プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」の製品在庫及びマスターROMその他の記憶媒体を破棄せよ。
3 被告アルゼは、家庭用ゲームソフトの画像若しくは包装に別紙標章目録1ないし3記載の標章を付し、同各標章を付した家庭用ゲームソフトを販売し、販売のために展示し、又はそれに関するインターネットに展開するホームページその他の広告に、同各標章を付してはならない。
4 被告らは、別紙図柄目録D1ないし3、4の1・2、5ないし7、8の1ないし3、9の1・2、10の1・2、11の1ないし3記載の各図柄の著作物を使用したプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」を複製、翻案、公衆送信及び頒布してはならない。
5 被告らは、上記プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」の製品在庫及びマスターROMその他の記憶媒体を破棄せよ。
6 被告アルゼは、原告に対し、4150万6726円及び、この内、別紙遅延損害金起算日一覧表(1)の各元本欄記載の金額に対するこれに対応する同表の各起算日欄記載の日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7 被告らは、原告に対し、連帯して、7万4060円及び、この内、別紙遅延損害金起算日一覧表(2)の各元本欄記載の金額に対するこれに対応する同表の各起算日欄記載の日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
9 訴訟費用は、これを50分し、その1を被告アルゼの、その余を原告の負担とする。
10 この判決は、第6項及び第7項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
〔甲事件〕
1 被告アルゼは、原告に対し、1791万0860円及びこれに対する平成14年3月20日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔乙事件〕
2 被告アルゼは、原告に対し、45億7596万1335円及び内24億円に対する平成14年3月27日(訴状送達日の翌日)から、内21億7596万1335円に対する平成16年5月7日(平成16年4月30日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔丙事件〕
3 主文第1項と同旨
4 主文第2項と同旨
5 主文第3項と同旨
6 被告アルゼは、原告に対し、4億9411万7156円及び内3億2998万2000円に対する平成14年4月23日(訴状送達日の翌日)から、内1億0861万8000円に対する平成14年6月7日(平成14年5月29日付け訴の変更申立書送達日の翌日)から、内5551万7156円に対する平成16年5月7日(平成16年4月30日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔丁事件〕
7 主文第4項と同旨
8 主文第5項と同旨
9 被告らは、原告に対し、連帯して、5億7980万円及び内1億5725万1000円に対する平成14年9月11日(訴状送達日の翌日)から、内1億2654万9000円に対する平成14年12月20日(平成14年12月6日付け訴の変更申立書送達日の翌日)から、内2億9600万円に対する平成16年5月7日(平成16年4月30日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔戊事件〕
10 被告アルゼは、原告に対し、30億8935万9955円及び内24億円に対する平成14年11月14日(訴状送達日の翌日)から、内6億8935万9955円に対する平成16年2月14日(平成16年1月28日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔全事件共通〕
11 被告アルゼは、原告に対し、8億7571万4930円及び内8億0664万円に対する平成16年2月14日(平成16年1月28日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から、内6907万4930円に対する平成16年5月7日(平成16年4月30日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、破産者SNKの破産管財人からSNKが有していた後記著作権及び商標権を譲り受けたところ、被告アルゼが製造し、その子会社であるメーシー販売を通じて販売するパチスロ機(甲、乙、戊事件)及び被告アルゼ又は被告両名が販売している家庭用ゲームソフト(丙、丁事件)は、原告の著作権(全事件)及び商標権(甲、丙事件)を侵害するものであるとして、下記1のとおり、著作権及び商標権に基づく差止等と損害賠償を請求した事案である。
 なお、本件については、平成15年9月11日にいったん口頭弁論を終結し、平成16年1月15日に中間判決(以下「本件中間判決」という。)を言い渡した(本判決においても、本件中間判決において用いた略称や書証の記載方法を用いる。また、別紙標章目録1ないし3記載の標章を、「本件各標章」と呼ぶことがある。)。
1 各事件の訴訟物
〔甲事件〕
(1) 被告アルゼが製造し、メーシー販売を通じて販売するパチスロ機「クレイジーレーサーR」に使用されている液晶ソフト(液晶画面演出プログラム)の画像図柄及び筐体腰部パネル図柄は、原告が著作権を有するパチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの画像図柄及び筐体腰部パネル図柄を複製するものであり、原告の著作権を侵害すること、並びに上記パチスロ機「クレイジーレーサーR」及びそのガイドブックに付されて使用されている標章は原告が商標権を有する登録商標に類似し、商標権を侵害することを理由とする損害賠償請求(上記請求1項)
〔乙事件〕
(2) 被告アルゼが製造し、メーシー販売を通じて販売するパチスロ機「爆釣」に使用されている液晶ソフトの画像図柄及び筐体図柄は、原告が著作権を有するパチスロ機「IRE−GUI」の企画のために開発した液晶ソフトの画像図柄及び同「IRE−GUI」の企画のリメイクとして開発されたパチスロ機「爆釣」の筐体図柄を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害することを理由とする損害賠償請求(上記請求2項)
〔丙事件〕
(3) 被告アルゼが販売するプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」に隠し機種等として収納されたゲームで表示されるパチスロ機種「クレイジーレーサーR」に使用されている画像図柄及び画面に表示されるパチスロ機の筐体腰部パネル図柄は、原告が著作権を有するパチスロ機「クレイジーレーサー」の液晶ソフトの画像図柄及び筐体要部パネル図柄を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害するものであることを理由とする上記ソフトウエアの複製、翻案、公衆送信及び頒布の差止め及びその製品在庫等の廃棄請求(上記請求3、4項)
(4) 被告アルゼがプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」を販売するに際し、ガイドブックでの広告、インターネットのゲーム関連サイトでの広告、同被告のホームページでの広告及び同ソフトウエアの画像に使用されている標章は、原告が商標権を有する登録商標に類似し、原告の有する商標権を侵害することを理由とする標章使用行為の差止請求(上記請求5項)
(5) 上記(3)の著作権侵害及び上記(4)の商標権侵害を理由とする損害賠償請求(上記請求6項)
〔丁事件〕
(6) 被告らが販売するプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」に収納されたゲームのパチスロ機種「バクチョウ(爆釣)」に使用されている画像図柄及び筐体図柄は、原告が著作権を有するパチスロ機「IRE−GUI」の企画のために作成された液晶ソフトの画像図柄及びパチスロ機「爆釣」の筐体図柄を複製ないし翻案したものであり、原告の著作権を侵害することを理由とする上記ソフトウエアの複製、翻案、公衆送信及び頒布の差止め及びその製品在庫等の廃棄請求(上記請求7、8項)
(7) 上記(6)の著作権侵害を理由とする損害賠償請求(上記請求9項)
〔戊事件〕
(8) 被告アルゼが製造販売するパチスロ機「IRE−GUI」に使用されている画像図柄及び筐体図柄は、原告が著作権を有する同「IRE−GUI」の液晶ソフトの画像図柄(SNK製作のゲームソフトのキャラクター「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄を含む。)及び筐体図柄を複製ないし翻案するものであり、原告の著作権を侵害することを理由とする損害賠償請求(上記請求10項)
〔全事件共通〕
(9) 本件訴訟を提起、追行するに際し、弁護士にこれを委任したことにより、弁護士費用が生じたことを理由とする損害賠償請求(上記請求11項)
2 前提となる事実(争いのない事実又は証拠によって認定できる事実)
(1) 本件中間判決の〔前提となる事実〕記載のとおりであるから、これを引用する。
(2) 平成13年11月1日以降、被告アルゼは、パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」並びにプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」を、被告らは、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」を、別紙販売数一覧表のとおり販売した(なお、同表の「−」〔マイナス〕の付された数値はその台数分ないし本数分の返品があったことを示す。)(弁論の全趣旨)。
3 争点
(1)ないし(8) 本件中間判決の〔争点〕(1)ないし(8)記載のとおりであるから、これらを引用する。
(9)  差止め等の必要性(丙事件及び丁事件)
(10) 著作権侵害についての故意過失の有無と、生じた損害額の算定方法
(11) 著作権侵害により生じた損害額(弁護士費用相当額を除く)
(12) 商標権侵害により生じた損害の有無及び損害額の算定方法
(13) 商標権侵害により生じた損害額(弁護士費用相当額を除く)
(14) 著作権侵害及び商標権侵害により生じた損害のうち弁護士費用相当額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)ないし(8)について
 本件中間判決の〔争点に関する当事者の主張〕1ないし8記載のとおり(ただし、本件中間判決17頁12行の「口出しをしなかった」の次に「と」を加入する。)であるから、これらを引用する。
 なお、本件中間判決の〔争点に関する当事者の主張〕に記載の被告アルゼの主張のうち、7及び8の各「(平成15年9月8日付け準備書面による新たな主張)」欄記載の主張は、時機に後れた攻撃防御方法として、本件中間判決により却下されている(本件中間判決の〔当裁判所の判断〕8(2)及び9(2))。
2 争点(9)(差止め等の必要性)について
〔原告の主張〕
 被告アルゼは、本件中間判決後も、引き続き、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」を、インターネットに展開する自社のホームページを介して販売している。また上記各ソフトウエアは、本件中間判決後も、全国の小売店店頭で販売されており、被告らにおいてこれを回収していない。
 その他、被告アルゼが、原告の有する著作権を侵害することを知りながら上記各ソフトを発売したという経過や、本件中間判決後に、終局判決に対して控訴する旨を公言するという態度に照らしても、被告らにおいて、上記各ソフトウエアの製造販売等を継続する意思があることは明らかである。
 したがって、本件において原告が求めている差止め及び廃棄の請求は、その必要性があることは明らかである。
〔被告らの主張〕
 (被告らは認否主張をしない。)
3 争点(10)(著作権侵害についての故意過失の有無と、生じた損害額の算定方法)について
〔原告の主張〕
(1) 故意過失について
 本件中間判決において認定された事情に照らせば、被告らが製造販売するパチスロ機及びソフトウエアは、本件各著作物等に依拠して複製・翻案されていることが明らかであり、被告らは、このように本件各著作物等の存在を認識し、また、被告らの侵害製品は、本件各著作物等の表現形式を素材として使用して作出されたものであることについての事実認識があったことからみて、被告らには著作権侵害について故意があったというべきである。
 仮に、被告らに故意が認められなくとも、被告らには、このように依拠の認識がある以上、本件中間判決において認定された事情に照らせば、被告らが原告の利用許諾を得ていないことが明白であるから、少なくとも、被告らには著作権侵害について過失があることは明らかである。
 なお、被告らは、同一グループに属する関連会社であるから、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」の販売についても、意思を共同することは明らかである。
(2) 損害額の算定方法について
 本件での被告らによる著作権侵害により原告が被った損害額の算定においては、以下の理由により、著作権法114条1項又は同条2項が選択的に適用されるべきである。なお、仮にこれが認められない場合には、同条3項に基づき、裁判所が認める相当な使用料率による損害賠償額が認定されるべきである。
ア 著作権法114条1項について
(ア) 本件での被告らによる著作権侵害は、本件各著作物の丸ごとの複製(いわゆるデッド・コピー)である。しかも、本件各著作物は、いずれもパチスロ機用に創作されたものであり、現に、原告は、これをパチスロ機に使用する予定で、開発に取りかかっている。したがって、権利者の利用態様と侵害者の利用態様は完全に一致するものであり、市場において完全に競合する関係にある。
 また、プレイステーション2用ゲームソフトである「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」についても、原告もパチスロ機として販売した液晶ソフトを、ゲームソフトに改変して販売する計画をしていることから、市場における競合品といえる。
 したがって、被告らによる著作権侵害行為により原告に生じた損害については、著作権法114条1項を適用すべき場合であることは明らかである。
(イ) 著作権法114条1項の適用のためには、権利者に実施の能力があることが要件とされる。
 この実施の能力については、侵害行為が行なわれた当時、侵害品の数量に対応する製品を権利者において供給することが実際に可能な状態にあった必要はなく、権利者の潜在的能力を含めて柔軟にこれを認めるべきである。すなわち、同項は、権利者の損害を「市場機会の喪失」と捉えるものであるから、代替製品の需要が継続してあり、いったん、侵害者製品に需要が食われてしまうと、その後、権利者が著作物の使用品を販売できなくなる関係にあるような市場では、侵害当時に権利者が著作物の使用品を販売可能な状態に置いている必要は全くない。
 そして、同項にいう、「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、侵害者の製品と代替可能性のある製品で、権利者において販売する予定があるものを指し、そこでは、製品の種類として代替可能性があれば足り、少しでも、侵害者の製品の需要が権利者の製品に向かいさえすれば、この要件を満足すると解すべきであって、著作権を侵害された著作物の使用品である必要がないことは、その文言からも明らかである。
 ところで、原告は、平成13年8月、遊技機器及び電子遊技機器の開発、製造、販売等を目的として設立した会社であるところ、同年9月ころから、パチスロ機の開発を計画し始め、平成13年10月30日には、SNKの有していた全ての知的財産権の一括譲渡を受け、これを利用してパチスロ機の開発を進めた。
 そして、原告は、平成14年には、ゲームソフト「ザ・キング・オブ・ファイターズ」をモチーフにしたパチスロ機の開発を行い、同年12月9日に、保通協の型式試験に適合した。平成15年初めから、パチスロ機「クレイジーレーサー」用ソフトを活用して、「クレイジーレーサー」用のキャラクターを翻案して用いたパチスロ機の開発を計画し、タイトルを「クレージレーサーズ」又は「クレージレーサー2」として企画開発に着手し始め、同年7月ころには、「マッドG」とタイトルを変更したが、開発・制作を継続し、パチスロ機として完成するに至った。
 また、平成14年6月ころから、ゲームソフト「メタルスラッグ」をパチスロ機用液晶ソフトに移植したパチスロ機「メタルスラッグ」の企画草案を作成し、同年9月ころに開発を開始し、平成15年4月ころには、液晶ソフト、筐体デザイン、主制御プログラム等すべて完成段階に至り、同年7月ころに実機として完成して、保通協に型式試験の申請をし、平成15年12月10日には、保通協の型式試験に適合した。原告は、平成16年1月からは、東京、大阪で展示会を開催し、スポーツ紙4紙の一面全面を使って広告を出し、代行店を通じ多数のパチンコホールから受注を得るに至っており、銀行等から融資を得て、パチスロ機の製造をする工場の態勢も整えた。今後更に、受注が増加しつつあるので、工場のラインを増設して増産の態勢を整えつつある。「メタルスラッグ」の初期ロットは1万台であり、平成16年2月から販売を開始しているが、既に全台出荷済みであり、今後も大幅な受注増が予想される状況にある。
 工場設備については、原告は、設立当時には、パチスロ機の生産設備を持たなかったが、その後、直ちに生産設備の準備にかかり、平成13年末には、工場設備の全国防犯協会連合会への許可申請の手続に着手し、平成14年4月までには、工場用地を確保し、工場等の生産設備を整え、平成15年7月には同連合会の許可を受けている。
 そして、原告は、現在では、月間4万台までのパチスロ機を販売する製造及び販売能力を備えている。このように、原告が、遅くとも平成15年7月には、工場での生産設備をも完全に整えていたことは明白である。
 また、原告は、この時期には既に全国規模で代理店体制を整えており、販売体制も整えていた。
 この時期は、被告アルゼがパチスロ機「クレイジーレーサーR」を販売した平成13年11月ないし12月、同「爆釣」を販売した平成13年から平成14年初めからみても、1年半ほど後にすぎず、また、被告アルゼがパチスロ機「IRE−GUI」を販売した平成14年8月から12月からすると、わずか8か月ほど後にすぎない。
 このように、被告アルゼが販売したパチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」のいずれについても、原告において、被告アルゼが販売した台数の販売を十分に実施する能力があることは明らかである。
 また、原告は、平成13年10月30日、SNKが有していた知的財産権の一切の譲渡を受けた直後から、譲渡を受けたゲームソフトの権利を活用してゲームソフトの開発を行い、原告の平成14年から平成16年2月4日現在までのゲームソフトの販売本数は、累計49万7657本に上っている。プレイステーション用ソフト、プレイステーション2用ソフトに関しても、既に株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントと契約(サードパーティ契約)を締結し、販売実績を上げている。プレイステーション用ソフト、プレイステーション2用ソフトの製造に関しては、どのソフトメーカーも、同社に製造を委託しなければならない契約になっており、製造能力にどのメーカーも差異は生じない。また、販売に関しても、SNKは、多大なゲームソフトの販売実績のある会社であったから、その知的財産権の一切の譲渡を受けたことにより、多数のSNKの取引先との許諾契約、販売契約を原告自身が締結し直しており、販売ルートも確保され、十分な販売能力がある。
 なお、パチスロ機業界においては、企画し開発を終えたパチスロ機の販売開始時期が、企画・開発から、1年ないし2年後となることは、よくあることである。したがって、著作権法114条1項の権利者の実施能力には、潜在的実施能力も含めて考えるべきであり、上記のようなパチスロ機の市場における商品の性格を考慮すれば、長期的な期間での潜在的な能力は当然含めて考えるべきである。
 また、同項にいう、「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、上述のとおり、侵害者の製品と代替可能性のある製品であれば足りるのであって、侵害者の製品と同一のものである必要はないのであるから、侵害者の製品にどのような特許発明が用いられているか、これらの特許発明を権利者において実施することができたか否かは関わりがない。
(ウ) 以上のとおりであるから、本件において著作権法114条1項が適用されるための要件は満たされている。
イ 著作権法114条2項について
(ア) 被告らの侵害行為は、丸ごとの複製という悪質な態様のものであるから、「侵害抑止のサンクション」という観点から、著作権法114条2項を選択的に適用し、制裁的に侵害者の利益を吐き出させるべきである。
 なお、現行の著作権法114条2項は、従来、同条1項として規定されていたところであるが、現行の同条1項が新設されるに伴って、2項に移されたものである。ここで、現行の同条1項は、権利者の損害額の立証負担の軽減を意図して設けられたものであるところ、このような1項の新設後、2項のみが、旧態依然として、権利者が侵害行為の当時著作物の使用品を販売していなければ、権利者の販売の減少と侵害行為との間に因果関係がないとして適用を否定されるべき理由はない。
 すなわち、権利者が著作物の使用品を販売する予定があったが、侵害行為により販売できなくなった場合や、将来販売する予定があるなどの場合も、著作権法114条2項を適用すべきである。
(イ) 同項の適用の可否に関しては、相当因果関係があるかどうかが問題の基本である。しかし、「加害者の侵害行為と相当因果関係に立つ損害かどうか」、すなわち、「侵害者の行為によって権利者の販売量が減少し、あるいは、増えるべき販売量が増加しなかった」という関係にあるかどうかは、著作物の性質、当該著作物の流通する市場の実情に応じて事案ごとに判断されるべきものである。本件では、本件各著作物は、経時的に価値を失う性質のものではなく、原告は、明確にこれらの著作物を使用したパチスロ機を含め、代替可能性のあるパチスロ機の製造販売を予定し、被告アルゼと原告は、市場で競合する関係にあるのであるから、「侵害者の行為によって権利者の販売量が減少し、あるいは、増えるべき販売量が増加しなかった」関係にあることは明白である。
〔被告らの主張〕
(1) 著作権法114条1項の適用について
ア 原告は、被告アルゼによる侵害は、本件各著作物の丸ごとの複製であると主張するが、被告アルゼの製品は、それ以外の多様な要素が組み合わされて製品となっているものであるから、いわゆるデッドコピーではない。
イ 著作権法114条1項が適用されるには、「侵害の行為がなければ権利者が販売することができた物」すなわち侵害者製品と代替性のある権利者製品が存在することが必要である。侵害者製品と代替性のある権利者製品は、侵害行為時に、販売可能な状態に置かれている必要がある。権利者製品が販売可能な状態に置かれていない時に侵害行為が行われても「権利者の販売部数の減少」をもたらす可能性は皆無だからである。したがって、「実施の能力」は、基本的には、侵害期間中にどの程度実施が可能であったのかという観点から考えるべきである。また、このような権利者製品は、当該著作物の複製物又は翻案物であることが必要となる。
ウ 原告は、平成16年2月8日に、パチスロ機「メタルスラッグ」を製造・販売するまでの間、そもそも何らのパチスロ機をも製造・販売していない。また、仮に被告アルゼがパチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」又は「IRE−GUI」を製造・販売していなかったとしても、主基盤に関する各種権利及び液晶にて表示される動画映像に関する著作権は被告アルゼに帰属していたのであり、上記各パチスロ機には、被告アルゼが特許権を有する発明が実施されている。また、上記各パチスロ機について保通協による製造・販売許可は被告アルゼの完全子会社であるメーシー販売が有しており、原告は別途この許可を取得することはあり得ない。これらの事情を考慮すれば、原告が上記各パチスロ機と同様の商品を製造・販売することは不可能であった。したがって、パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」に関しては、著作権法114条1項の適用がないことは明らかである。
エ 原告は、SNK破産管財人からSNKが有していた特許権、商標権、著作権等の譲渡を受けた当初、パチスロ機を開発・生産した実績を有しておらず、当然、パチスロ機生産のための設備もなければノウハウもなかった。パチスロ機というのは、SNKが有していた業務用ゲーム機の生産設備を流用して生産体制を組めるようなものではそもそもない。まして、原告には、SNKが保有していたようなパチスロ機のための生産設備すらない。原告は、本件パチスロ機と同様のパチスロ機を製造・販売することが法的にも、物理的にもできなかったのである。
 しかも、被告アルゼのように既にパチスロ機の開発について豊富なノウハウを有する企業ですら、パチスロ機の新規開発に約2年(既存の筐体を利用する場合で約6か月)、それから保通協に型式申請し、合格し、公安委員会に検定申請をするまでに3か月から3か月半はかかる。公安委員会への登録完了後、実際にパチスロ機を生産し、店舗に納入するまでには更に1か月弱はかかる。したがって、何人が各キャラクター画及び筐体部分のパネルについて著作権の譲渡を受けてからこれを利用したパチスロ機の開発に着手したとしても、平成14月9月以前にこれを店舗に納入するということはあり得ない。
 加えて、原告は、独自にパチスロ機を開発・生産しても、これを全国のパチンコ店等に販売する能力がなかった。パチスロ機は、一般消費者がこれを購入するということが通常考えられない特殊な商品である。原告には、パチスロ機の製造販売に関するノウハウはもちろん、全国のパチンコ・パチスロ店に、自社のパチスロ機を導入してもらうだけの信用もなかった。したがって、このころは、原告には、被告アルゼのパチスロ機である「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」と競合する製品というべきパチスロ機を生産販売する能力は皆無であった。
 以上のように、原告には、パチスロ機の開発について当初何のノウハウもなく、パチスロ機の開発技術者もおらず、魅力的な機種を開発するのに必要な既存の基本特許も使えず、パチスロ機の生産ラインも確保できていなかった。したがって、原告には、被告アルゼによる上記各パチスロ機の販売当時、自ら実施をする能力は存在しなかったというべきであり、これらについて、著作権法114条1項の適用がないことは明らかである。
オ 原告は、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」と代替性のある製品を何ら製造・販売していない。「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」は、被告アルゼのグループ企業のブランドで製造・販売されているパチスロ機を忠実に再現したものであり、その購買層は、被告アルゼブランドのパチスロの熱心なファンたちである。これに対し、原告は、対戦型格闘ゲームである「ザ・キング・オブ・ファイター」シリーズ及び2Dアクションゲームである「メタルスラッグ3」を製造販売していたが、これらのゲームソフトは、「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」とは明らかにジャンル及び購買層を異にしており、これらとは明らかに代替性がない。したがって、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」についても、著作権法114条1項の適用がないことは明らかである。
(2) 著作権法114条2項の適用について
ア 著作権法114条2項が適用されるためには、少なくとも自ら、侵害品と競合関係に立つ権利者製品の製造・販売行為を行っている必要があり、ここでいう「権利者製品」とは、被侵害権利の実施品、著作物においては、その複製品または翻案品であることが必要である。
イ 上記(1)の〔被告らの主張〕のとおり、原告は、平成16年2月8日にパチスロ機「メタルスラッグ」を製造・販売するまでの間、パチスロ機を製造・販売しておらず、その能力もなかった。
 また、仮に被告アルゼがパチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」を製造・販売していなかったとしても、原告が上記各パチスロ機と同様の商品を製造・販売することは不可能であった。
 したがって、パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」に関しては、著作権法114条2項の適用がないことは明らかである。
ウ 原告は、被告アルゼが著作権を侵害したと中間判決が指摘する著作物を複製または翻案した利用したゲームソフトを製造・販売していない。
 また、原告は、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」と市場において競合する製品を何ら製造・販売していない。
 したがって、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」についても、著作権法114条2項の適用がないことは明らかである。
4 争点(11)(著作権侵害により生じた損害額)について
〔原告の主張〕
(1) 損害額算出における返品の扱いについて
 侵害品の販売後に返品があったとしても、いったん販売行為がされた以上、侵害行為が存在するのであるから、返品は損害額の算出にあたっては考慮すべきではない。
 したがって、損害額の算出にあたって基礎とすべき販売数量は、パチスロ機「爆釣」は2万3164台(うち「爆釣LN」が898台)、同「IRE−GUI」は1万1729台、プレイステーション2用ソフトウェア「パチスロ アルゼ王国6」は17万0444本、同「パチスロ アルゼ王国7」は11万本とすべきである。
(2) 著作権法114条1項による算定について
ア 著作権法114条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」とは、侵害行為がなければ権利者において追加的に販売することができたはずの数量の権利者製品の販売額から、当該数量の権利者製品を追加して販売するために追加的に必要であったはずの費用を控除した額を、当該数量で除して、権利者製品の単位数量当たりの額としたもの、すなわち、製品販売額から変動経費を控除した上で単位数量当たりの額として算出した、いわゆる限界利益を指すというべきである。
イ パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」と代替可能性のある原告製品であるパチスロ機「メタルスラッグ」の販売単価は、1台39万8000円である。
 これから控除すべき経費は、1台当たり、製造原価13万1259円、宣伝広告費1346円、日電特許許諾料準備金2000円であり、これを控除した、上記原告製品の単位数量当たりの利益の額は、26万3395円である。
 液晶付パチスロ機にあっては、液晶画像図柄、筐体図柄の需要者に与える印象、面白さ、ゲーム性が需要客動員に寄与する度合いは絶大であり、パチスロ機ソフト全般の開発工数に占める液晶画像図柄、筐体図柄の開発工数の占める割合(約75パーセント)からして、利益額中の本件各著作物の寄与する割合は、75パーセントを下らず、パチスロ機「IRE−GUI」においては、被告アルゼは故意に侵害をしたことから、寄与割合はその全部(100パーセント)とされるべきである。
ウ プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」と代替可能性のある原告製品であるプレイステーション2用ソフトウエアの平均販売単価は、1本3939円である。
 これから控除すべき経費は、1本当たり、平均製造原価1040円であり、これを控除した、上記原告製品の単位数量当たりの利益の額は、2899円である。
 プレイステーション2用ソフトウェア「パチスロ アルゼ王国6」に収納された「クレイジーレーサーR」は、本件各著作物を丸ごと複製したものであり、また、「隠し機種」として巧妙に使用されていること、プレイステーション2用ソフトウェア「パチスロ アルゼ王国7」に収納された「爆釣」は、本件各著作物を丸ごと複製したものであり、また、被告らが故意に侵害をしたことから、いずれについても、利益額中の原告が著作権を有する著作物の寄与する割合は、その全部(100パーセント)とされるべきである。
 なお、「パチスロ アルゼ王国6」について、利益額中の本件各著作物の寄与率と、後述する本件商標の寄与率が、合計して100パーセントを超える場合は、自動的に合計100パーセントまで推定が覆滅すると考えるべきである。
エ なお、同項ただし書にいう、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が販売することができないとする事情がある場合とは、市場において侵害品と権利者製品が補完関係にあるということを前提としても、なお、権利者が市場機会を喪失したと評価できないような事情がある場合、すなわち、侵害品がその性質上限定された期間内においてのみ需要され、当該期間内に費消され、権利者が自己の製品を販売することができた期間が限定される場合に限られると解すべきところ、本件では、そのような事情は存在しない。
 仮に、市場占有率や、他の競合品の存在などをも「販売することができないとする事情」として考慮すべきであるとしても、本件のような、パチスロ機及びパチスロシミュレーションソフトの市場では、市場占有率、競合品の存在などを「販売することができないとする事情」として考慮するのは相当ではなく、結論として、このような事情は存在しない。
(3) 著作権法114条2項による算定について
ア 著作権法114条2項にいう利益の額とは、上記(2)アで同条1項について主張したところと同様、製品販売額から変動経費を控除した上で単位数量当たりの額として算出した、いわゆる限界利益を指すというべきである。
イ パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」並びにプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」について、その販売額及び控除すべき経費並びにこれらから計算される利益の額は、別紙原告主張利益額一覧表のとおりである。
ウ 上記利益額中の本件各著作物の寄与する割合は、上記(2)イウで主張したとおり、パチスロ機「クレイジーレーサーR」及び「爆釣」についてはいずれも75パーセント、パチスロ機「IRE−GUI」並びにプレイステーション2用ソフトウェア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」についてはいずれも100パーセントである。
 なお、「パチスロ アルゼ王国6」について、利益額中の本件各著作物の寄与率と、後述する本件商標の寄与率が、合計して100パーセントを超える場合は、自動的に合計100パーセントまで推定が覆滅すると考えるべきである。
(4) 著作権法114条3項による算定について
 著作権法114条3項によって原告の損害を算定するにあたっては、以下のような事情が考慮されるべきである。
ア 著作権法114条3項は、侵害行為が行われた場合に、法の趣旨を貫徹するために、市場機会の利用可能性の侵奪をもって損害と観念し、市場機会の著作権者にとっての利用価値を損害賠償とする趣旨であるから、侵害者である被告らが得た利益を考慮すべきである。
 本件でも、原告は、本件各著作物等を利用し自らパチスロ機を製作する計画を立てており、被告アルゼの侵害行為により自らの利用機会を妨げられたという関係にあるから、被告アルゼが得た利益の相当割合が損害額とされるべきである。
イ SNKの逸失利益回復対策(案)では、パチスロソフトにつき売上数量ベースで1台あたり2万円のロイヤリティを支払う計画となっていた。被告アルゼの経営企画室が受け付けたSNKの事前協議申請書でも、同様に、開発委託費(販売台数比例部分)名義の実質使用料(ロイヤリティ)が1台あたり2万円となっている。
 原告の商標権及び原告が著作権を有する液晶画像図柄及び筐体図柄は、SNKが開発したパチスロソフトの本質をなすものであり、結局、原告がSNKから譲り受けた本件商標権及び本件著作権(液晶画像図柄及び筐体図柄の)の価値こそが上記のロイヤリティの価格を決定しているものに他ならない。
 この1台あたり2万のロイヤリティは、被告アルゼの通常のパチスロ機の販売価格36万円からすると、約6パーセントの使用料率となる。
 しかしながら、上記事前協議の時点では、SNKが被告アルゼの資本参加を受けて子会社として支援を受けている立場にあったことから、開発費や著作権等の使用料も、一般の適正な使用料率からすると相当低く抑えられたものと考えられる。したがって、そこで、適正な実施料率(使用料率)は、本来上記約6パーセントよりも相当高額のもの、すなわちその2倍以上の約12パーセントが適切な使用料というべきである。
 加えて、SNKが上記のような事前協議の交渉を行っていた時期は、被告パチスロ機の発売開始前で1万台程度の販売を予定していた段階での交渉であった。しかしその後、特に原告が著作権を有するパチスロ機「IRE−GUI」の液晶画像図柄、筐体図柄に関しては、これを一部翻案して利用した被告パチスロ機「爆釣」が2万3000台以上売れ、これをゲームソフトに移植した「パチスロ アルゼ王国7」が20万本売れ、さらに被告パチスロ機「IRE−GUI」自体は、1万1000台以上が売れたことを考慮すると、原告の著作物たる液晶画像図柄、筐体図柄の利用価値は非常に大きなものであったのであるから、侵害者である被告アルゼの利益額を参酌したより高額の対価をもって、賠償額とすべきである。
ウ 実施料率は、権利者が自ら実施している場合は(又は将来の実施計画がある場合は)、高額の方向への考慮要素となるとされている。また、権利者が競業者にライセンスをしない政策をとっている場合も同様である。
 本件において、原告は、本件各著作物等を利用して自らパチスロ機開発を行う計画をしており、原告は、自らパチスロ機の開発を行い発売しているパチスロ機メーカーであるから、パチスロソフトに関して、他のパチスロ機メーカーにライセンス契約をする政策はとっていない。当時SNKはまだソフト開発会社にすぎなかったが、現在、原告は、被告アルゼと競業関係にあるパチスロ機メーカーである。したがって、この意味でも通常より高額の使用料率が認定されるべきである。
エ 一方的に侵害をした者にライセンスをするとした場合の実施料は、事前に誠実にライセンス契約をした者に比べ、実務的には必ず高くなると考えられる。
 一般の侵害者ですらそうであり、これに加えて、被告アルゼの態度は、訴訟提起後に、新たな侵害行為を行うなど、通常以上に悪質であることを考慮すると、上記の適正な料率へ修正した使用料率よりさらに2倍以上の高額とされるべきであり、結局、以上の具体的事情を考慮すると原告が「著作権の行使により受けるべき金銭の額」は、被告らの総売上額の24パーセント以上が相当である。
〔被告らの主張〕
(1) 損害額算出における返品数の扱いについて
 返品された数量は、損害算定にあたって控除すべきである。
(2) 著作権法114条1項による算定について
ア 著作権法114条1項にいう「利益」とは、売上高から製造原価または仕入れ原価を差し引いた粗利益ではなく、そこから更に販売費、一般管理費等の諸経費を差し引いた純利益をいうと解すべきである。
イ 原告が同項の利益額として主張する数額は否認ないし争う。原告が代替性のある製品として主張する製品には代替性がない。
ウ パチスロ機において、液晶画面や筐体パネル等で用いられているキャラクター図柄の利益への寄与は低い。パチスロ機においては、客の関心は、大当たりの際の最大出球数や、大当たりの出しやすさ等にあり、そのため、パチスロ機の評価は、まず「出球」に左右されるからである。
 また、パチスロ機のシミュレーションゲームにおける販売への寄与度は、シミュレートされるパチスロ機の人気に負うところが2割程度であり、シミュレーションソフトとしての完成度に負うところが8割程度である。また、公式にはアナウンスされていない「隠し機種」については、当該機種が隠し機種として収録されているということが知られている度合いに応じて更に変動するというべきである。そして、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」は、いずれも数機種のパチスロ機をシミュレートするものであり、「クレイジーレーサーR」及び「爆釣」は、それぞれそのうちの1機種にすぎない。
 これらの事情に照らせば、パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」について、その利益額に対する本件各著作物の寄与割合は、(パチスロ機「クレイジーレーサーR」における本件各標章の寄与を加えても、)0.1パーセントを上回らず、また、上記各ソフトウエアの利益額に対する、本件各著作物の寄与割合は、「パチスロ アルゼ王国6」について(本件各標章の寄与を加えても)0.0009パーセント、「パチスロ アルゼ王国7」について0.0052パーセント程度である。
エ 同項ただし書は、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除すべきとする。
 この、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が販売することができないとする事情としては、侵害者の製品の方が低廉であるという事情、侵害者の売上げの中に当該知的財産権の実施・利用部分に起因するというより侵害者の製品の別の特徴に基づくところがあるとか、侵害者の広告等の販売努力によるところが大きいという事情、他の競合製品(侵害者の非侵害製品を含むが、権利者の製品を含まない。)があるという事情等がある。
(ア) パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」について、下記のとおり、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が販売することができないとする事情が存在する。
@ パチスロ機の場合、パチンコ・パチスロ機が新規導入する機種の一部は、特定のメーカーの機種を当該メーカーの推奨するままに導入されるものである。被告アルゼの場合、パチスロ機メーカーとして最大手企業であるから、この枠が大きい。
A 被告アルゼは、パチスロ機メーカーとしては業界最大手であり、高いブランド力を有しており、かつ、直営の販売部隊及び販売代行店を含めて全国規模の巨大な販売組織を有していた。これに対し、原告は、パチスロ機に関して何の実績もない、いわゆる新規参入企業であり、その開発、製造するパチスロ機については何らのブランド力もなく、また、販売網も未整備の状態であった。
 したがって、被告アルゼが上記各パチスロ機を販売していなかったとしても、原告が販売することができたパチスロ機の台数は、極めて少数にとどまっていたはずである。
B パチスロ機の市場は、パチンコ・パチスロ店における定期的な買換需要を主たるターゲットとしており、各パチンコ店などにおける実機の「入替時期」に納入できなければ全く意味のない商品である。したがって、原告において、上記各パチスロ機の代替品となるようなパチスロ機を開発し製造販売することができる可能性が仮にあったとしても、被告アルゼが上記各パチスロ機を販売していた時点ではそのようなパチスロ機を実際に製造・販売していなかったから、被告アルゼが上記各パチスロ機を販売していなかったとしても、原告が代替品を販売できたわけではない。
C パチスロ機の市場は競争が厳しい。被告アルゼが上記各パチスロ機を販売しなかったとしても、その需要の大部分は、競合他社が製造・販売するパチスロ機に向かうことは想像するに難くない。
D 原告は、パチスロ機を製造・販売するためには、被告アルゼが有する特許や、日電協でプールしている特許等を回避してパチスロ機を開発しなければならない。すると、パチスロ愛好家から高く評価されている数々のシステムが使えないということになる。
 上記各パチスロ機が製造・販売されなかった場合に原告が製造・販売することができたパチスロ機というのは、そのように面白味に欠けるものであったのであるから、上記各パチスロ機の実際の販売台数よりも相当少ない台数しか販売できなかったであろうことは明らかである。
(イ) プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」について、下記のとおり、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が販売することができないとする事情が存在する。
@ 被告アルゼは、パチスロ機メーカー最大手として、パチスロファンから多大なる信用を勝ち取っていた。また、被告アルゼやそのグループ企業が開発したパチスロ機のシミュレーションソフトを「アルゼ王国」シリーズとして製造・販売することは、以前から行われており、上記各ソフトウエアには人気シリーズものとして、ファンからの信頼を勝ち取っていた。これに対し、原告は、パチスロ機メーカーとしては何の実績も信頼も勝ち取っておらず、パチスロ機のシミュレーションソフトを出した実績もない。
A 仮に、原告が販売していた格闘系ゲームソフトを権利者がその侵害の行為がなければ販売することができた物と解した場合、これらと上記各ソフトウエアとの間には、プレイステーション2用のゲームソフトであるという共通点しかないから、プレイステーション2用のゲームソフト市場における原告の市場支配率を超える部分は、権利者が販売することができないとする事情がある。
(3) 著作権法114条2項による算定について
ア 著作権法114条2項にいう「利益」とは、上記(2)アで主張したところと同様、純利益をいうと解すべきである。
イ パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」並びにプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」について、その販売額及び控除すべき経費並びにこれらから計算される利益の額は、別紙被告ら主張利益額一覧表のとおりである。
 上記(2)ウで主張したように、上記各パチスロ機の利益額に対する本件各著作物の寄与割合は、(パチスロ機「クレイジーレーサーR」における本件各標章の寄与を加えても、)0.1パーセントを上回らず、また、上記各ソフトウエアの利益額に対する、本件各著作物の寄与割合は、「パチスロ アルゼ王国6」について(本件各標章の寄与を加えても)0.0009パーセント、「パチスロ アルゼ王国7」について0.0052パーセント程度である。
ウ 液晶画面に用いられているキャラクター図柄等についての著作権をSNKから譲り受けたに過ぎない原告が、上記各パチスロ機を自ら製造・販売することは法的に許されなかったのであるし、また、仮に製造したとしても、被告アルゼと同様の知名度、実績、販売網、広告宣伝力を有しない原告が、被告アルゼによる実際の販売台数と同程度の台数を販売できた可能性はない。また、原告は、上記各パチスロ機が販売されていた当時、上記各パチスロ機の競合商品たるパチスロ機を製造・販売する能力はなかったし、現に販売していなかった。したがって、被告アルゼが上記各パチスロ機を販売していなかったとしても、原告が、被告アルゼが上記パチスロ機を販売したのと同程度の台数のパチスロ機を同時期に販売できた可能性はない。
 また、原告は、上記各ソフトウエアが販売されていた当時、その競合商品たるパチスロシミュレーションソフトを製造・販売する能力はなかったし、現に販売していなかった。したがって、被告アルゼが上記各ソフトウエアを販売していなかったとしても、原告が、被告アルゼが上記各ソフトウエアを販売したのと同程度の本数のパチスロシミュレーションソフトを同時期に販売できた可能性はない。
 以上によれば、著作権法第114条2項による推定は覆滅されるべきである。
(4) 著作権法114条3項による算定について
 パチスロ機にキャラクターの図柄や名称等を使用する場合に支払うライセンス料は、いわゆる著名キャラクターであっても、1台あたり1000円から1500円程度である。それ故、本件各著作物の各キャラクター図柄や筐体パネル図柄のような、オリジナルの著名ではないキャラクターの場合には、そもそも顧客吸引力がないため、ライセンス料は極めて低廉にならざるを得ないのが業界の取引上の常識である。
 また、パチスロ機「IRE−GUI」には、既存のキャラクターである、「テリー・ボガード」及び「不知火舞」が使われているとはいえ、プレミアムキャラクターとして、限らせた条件下に短時間しか使用されておらず、これら既存キャラクター2体が使用されていたからといって、ライセンス料が通常の著名キャラクターの使用料相当に跳ね上がることはあり得ない。
 したがって、キャラクター図柄等の使用許諾料は、1台あたり数十円程度である。
5 争点(12)(商標権侵害により生じた損害の有無及び損害額の算定方法)について
(1) 商標権侵害により原告に損害が生じていないといえるか
〔被告アルゼの主張〕
 商標権侵害の場合において、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができるものと解される。すなわち、商標権は、商標の出所識別機能を通じて商標権者の業務上の信用を保護するとともに、商品の流通秩序を維持することにより一般需要者の保護を図ることにその本質があり、特許権や実用新案権等のようにそれ自体が財産的価値を有するものではないから、登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、得べかりし利益としての実施料相当額の損害も生じていないというべきであり、最高裁判所平成9年3月11日判決(民集51巻3号1055頁)もこれと同趣旨を判示する。
 原告は、本件商標を一度も使用していない。したがって、本件商標には、原告の信用と結合した顧客吸引力は全く存在しない。
 被告アルゼがパチスロ機「クレイジーレーサー」及び「クレイジーレーサーR」を発売する以前に本件商標又はこれに類似する商標が付された商品は存在しておらず、「クレイジーレーサー」及び「クレイジーレーサーR」の顧客吸引力は、パチスロ機メーカー最大手である被告アルゼがその名称を使用したパチスロ機を製造・販売することによって初めて生じたものであって、被告アルゼの信用と結合したものである。したがって、被告アルゼがパチスロ機「クレイジーレーサーR」及び「パチスロ アルゼ王国6」において別紙標章目録1ないし3記載の標章(以下「本件各標章」という。)を使用したとしても、原告には実施料相当額の損害も発生していないというべきである。
〔原告の主張〕
 商標権が侵害された場合において、それにもかかわらず、使用料相当額の損害すら発生していないと認めるためには、@ 少なくとも侵害行為地において当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、A 他に主として使用する標章がある一方、登録商標に類似する標章の使用が副次的にすぎない等、類似標章の使用が第三者の商品の売上に全く寄与していないことが明らかである、という2要件がいずれも充足される必要があるというべきである。
 この点、本件各標章は、パチスロ機「クレイジーレーサーR」においては、当該パチスロ機の主たる、唯一のタイトル名として使用されており、その売上に寄与した度合いは顕著である。また、プレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」においては、被告アルゼが自ら開設したホームページに広告として使用されており、売上に大きく貢献していることは明らかであるしさらに、隠しムービー(リアルムービー)として使用しており、ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」に収納されたゲームのタイトルを示すものとして重要な役割を果たしている。
 したがって、被告アルゼによる本件商標権の侵害により、原告に損害が生じたことは明らかである。
(2) 損害額の算定方法
〔原告の主張〕
 上記(1)のとおり、本件各標章は、被告アルゼの各侵害品の売上に寄与していること、被告アルゼが、侵害品を先に販売し市場の混乱を招いたからこそ、原告は、本件商標の使用を断念せざるを得なかったこと、パチスロ機「クレイジーレーサーR」への本件各標章の使用による本件商標の顧客吸引力の獲得を被告アルゼに得させるべきではないこと、第三者への許諾による使用も商標の使用と評価されること等の事情に照らせば、本件各標章のパチスロ機「クレイジーレーサーR」への使用並びにプレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」への使用による本件商標権の侵害により原告に生じた損害の算定にあたっては、商標法38条1項又は2項が選択的に適用されるべきである。
 なお、仮にこれが認められない場合には、同条3項に基づき、裁判所が認める相当な実施料率による損害賠償額が認定されるべきである。
〔被告アルゼの主張〕
ア 商標法38条1項の適用について
(ア) 商標法38条1項を適用するためには、侵害行為時に、侵害者商品と代替性のある権利者商品が販売可能に置かれている必要があり、かつ、権利者商品は当該商標が付されたものである必要がある。そして、同項所定の「商標権者がその侵害行為がなければ販売することができた」か否かについては、商標権者が侵害商標を付した商品と同一の商品を販売しているか否か、販売している場合、その販売の態様はどのようなものであったか、当該商標と商品の出所たる企業の営業上の信用等とどの程度結びついていたか等を総合的に勘案して判断すべきである。
(イ) 原告は、本件商標を付したパチスロ機を生産・発売していない。また、原告が本件商標に関して商標権の譲渡を受けた平成13年10月末の段階では既に、メーシー販売がその製造・販売するパチスロ機の名称として「クレイジーレーサー」及び「クレイジーレーサーR」を登録済であり、原告が「クレージレーサー」またはこれに類似する商標を用いたパチスロ機を製造・販売できる可能性はなかった。
 「クレイジーレーサー」及び「クレイジーレーサーR」との商標は、被告アルゼの子会社であるメーシー販売ブランドのパチスロ機の商品名として知られており、メーシー販売またはその親会社である被告アルゼの営業上の信用等と強く結びついているとはいえるが、原告の営業上の信用とは全く結びついていなかった。
 以上の点を総合的に勘案して判断すれば、パチスロ機「クレイジーレーサーR」についていえば、被告アルゼが「メーシー販売」の名義の下「クレイジーレーサーR」を販売しなければ、原告が本件商標を付した自己の商品を販売することができたという関係は成り立たないことは明らかである。
(ウ) プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」についていえば、原告は本件商標を用いたパチスロシミュレーションソフトを製造・販売していたとの事実はない。また、原告は、「パチスロ アルゼ王国6」でシミュレートされている他のパチスロ機については何らの権利を有しておらず、「クレイジーレーサーR」についても幾つかのキャラクター画と筐体パネル図の著作権しか有していない原告が、「パチスロ アルゼ王国6」と同一の性能や効能を有するパチスロシミュレーションソフトを生産・販売することは、被告アルゼが「パチスロ アルゼ王国6」を販売しようとしまいと不可能であった。
 しかも、「パチスロ アルゼ王国6」において本件各標章は隠しムービー中に表示されるにすぎない。なお、被告アルゼが、インターネット上の被告アルゼのホームページに、「隠し機種『クレイジーレーサーR』出現!!」と表示したのは平成14年3月14日ころであるから、それ以前の「パチスロ アルゼ王国6」の販売については、上記ホームページ上での本件各標章の表示と明らかに因果関係を有しない。そして、「パチスロ アルゼ王国6」の販売の100パーセント近くは平成13年12月になされている。
 以上の点を総合的に勘案して判断すれば、被告アルゼが「パチスロ アルゼ王国6」の隠しムービー中に本件各標章を表示しなければ原告が本件商標を使用した自己の商品を販売することができたという関係は明らかに成り立たない。
(エ) 以上のとおりであるから、本件において、商標法38条1項が適用される余地がないことは明らかである。
イ 商標法38条2項の適用について
 商標法38条2項が適用されるためには、権利者が侵害品と競合関係に立つ商品を製造・販売している必要がある。しかし、上記のとおり、原告が本件商標を付したパチスロ機やプレイステーション2用ソフトウエアを製造・販売したことはない。したがって、本件において、同項が適用される余地がないことも明らかである。
ウ なお、原告は、被告アルゼによる本件各標章の使用によって、原告が自ら本件商標を使用する機会を妨げられたと述べるが、被告アルゼは、原告が本件商標権を譲り受ける以前に、既にメーシー販売名義で製造・販売されたパチスロ機の名称として、「クレイジーレーサー」ないし「クレイジーレーサーR」という標章を用いていたのであり、原告の主張は明らかに失当である。
6 争点(13)(商標権侵害により生じた損害額)について
〔原告の主張〕
(1) 損害額算出における返品数の扱いについては、前記4〔原告の主張〕(1)と同様である。
(2) 商標法38条1項による算定について
ア 商標法38条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」とは、前記4〔原告の主張〕(2)アで著作権法114条1項について主張したところと同様、製品販売額から変動経費を控除した上で単位数量当たりの額として算出した、いわゆる限界利益を指すというべきである。
イ パチスロ機「クレイジーレーサーR」と代替可能性のある原告製品であるパチスロ機「メタルスラッグ」の単位数量当たりの利益の額は、前記4〔原告の主張〕(2)イで主張したとおり、26万3395円である。
 本件商標は、パチスロ機のストーリー性ある演出を担う液晶画像図柄、筐体図柄に共通して標章として使用され、パチスロ機のタイトルを表わす標章として使用されることを予定されたものである。したがって、本件商標の液晶付パチスロ機の利益獲得に寄与する度合いは顕著であるから、利益額中の本件商標の寄与する割合は、10パーセントを下らない。
ウ プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」と代替可能性のある原告製品であるプレイステーション2用ソフトウエアの上記原告製品の単位数量当たりの利益の額は、前記4〔原告の主張〕(2)ウで主張したとおり、2899円である。
 本件商標は、パチスロ機のストーリー性ある演出を担う液晶画像図柄、筐体図柄に共通して標章として使用され、パチスロ機のタイトルを表わす標章として使用されることを予定されたものであり、とりもなおさず、パチスロシミュレーションソフトにあってもゲームソフトのタイトルを表わす名称ともなることを予定されたものである。したがって、本件商標のパチスロシミュレーションソフトの利益獲得に寄与する度合いは顕著であるから、利益額中の本件商標の寄与する割合は、20パーセントを下らない。
 なお、同ソフトウエアについて、前述した利益額中の本件各著作物の寄与率と、本件商標の寄与率が、合計して100パーセントを超える場合は、自動的に合計100パーセントまで推定が覆滅すると考えるべきである。
エ 前記4〔原告の主張〕(2)エで主張したところと同様、同項ただし書にいう、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が販売することができないとする事情は存在しない。
(3)  商標法38条2項による算定について
ア 商標法38条2項にいう利益の額とは、前記4〔原告の主張〕(3)アで著作権法114条2項について主張したところと同様、製品販売額から変動経費を控除した上で単位数量当たりの額として算出した、いわゆる限界利益を指すというべきであり、被告アルゼが得た利益の額は、別紙原告主張利益額一覧表のとおりである。
イ 上記利益額中の本件商標の寄与する割合は、上記(2)イウで主張したとおり、パチスロ機「クレイジーレーサーR」については10パーセント、プレイステーション2用ソフトウェア「パチスロ アルゼ王国6」については20パーセントである。
 なお、同ソフトウエアについて、前述した利益額中の本件各著作物の寄与率と、本件商標の寄与率が、合計して100パーセントを超える場合は、自動的に合計100パーセントまで推定が覆滅すると考えるべきである。
(4) 商標法38条3項による算定について
 著作権法38条3項によって原告の損害を算定するにあたっては、前記4の〔原告の主張〕(4)で主張したところと同様の事情が考慮されるべきである。
〔被告アルゼの主張〕
(1) 損害額算出における返品数の扱いについて
 返品された数量は、損害算定にあたって控除すべきである。
(2) 商標法38条1項による算定について
ア 商標法38条1項にいう「利益」の額とは、前記4〔被告らの主張〕(2)アで著作権法114条1項について主張したところと同様、純利益をいうと解すべきであり、原告が同項の利益額として主張する数額は否認ないし争う。原告が代替性のある製品として主張する製品には代替性がない。
イ 前記4〔被告らの主張〕(2)ウで主張したとおり、パチスロ機においては、客の関心は、大当たりの際の最大出球数や、大当たりの出しやすさ等にあり、そのため、パチスロ機の評価は、まず「出球」に左右され、まして、「クレージレーサー」という本件商標のもつ出所識別機能には、何ら寄与するところはない。その他、前記4〔被告らの主張〕(2)ウで主張したに照らせば、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の利益額に対する本件各標章の寄与割合は、本件各著作物の寄与を加えても、0.1パーセントを上回らず、また、プレイステーション2用ソフトウェア「パチスロ アルゼ王国6」の利益額に対する本件商標の寄与割合は、本件各著作物の寄与を加えても、0.0009パーセント程度である。
ウ パチスロ機「クレイジーレーサーR」及びプレイステーション2用ソフトウェア「パチスロ アルゼ王国6」について、同項ただし書にいう、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が販売することができないとする事情があることは、前記4〔被告らの主張〕(2)エで主張したところと同様である。
(3) 商標法38条2項による算定について
ア 商標法38条2項にいう「利益」の額とは、前記4〔被告らの主張〕(3)アで著作権法114条2項について主張したところと同様、純利益をいうと解すべきであり、被告アルゼが得た利益の額は、別紙被告ら主張利益額一覧表のとおりである。
 上記(2)イで主張したように、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の利益額に対する本件商標の寄与割合は、本件各著作物の寄与を加えても、0.1パーセントを上回らず、また、プレイステーション2用ソフトウェア「パチスロ アルゼ王国6」の利益額に対する本件商標の寄与割合は、本件各著作物の寄与を加えても、0.0009パーセント程度である。
イ 前記4〔被告らの主張〕(3)ウで主張した事情に照らせば、商標法38条2項による推定も覆滅されるべきである。
(4) 商標法38条3項による算定について
 前記4〔被告らの主張〕(4)で主張したところと同様である。
7 争点(14)(著作権侵害及び商標権侵害により生じた損害のうち弁護士費用相当額)について
〔原告の主張〕
 原告は、被告アルゼが原告の著作権侵害及び商標権侵害行為を重ねたことにより、本件の訴訟提起を余儀なくされた。
 したがって、被告アルゼの著作権侵害行為及び商標権侵害行為と相当因果関係にある損害としての弁護士費用は、本件の各損害額合計額の1割である、8億7571万4930円が相当である。
〔被告らの主張〕
 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 事実経過について
 本件中間判決の〔当裁判所の判断〕1記載のとおり(ただし、本件中間判決40頁15行の「乙28」とあるのを「乙第28号証」と訂正する。)であるから、これを引用する。
2 争点(1)ないし(8)について
 本件中間判決の〔当裁判所の判断〕2ないし9(ただし、8(2)及び9(2)を除く。)記載のとおり(ただし、本件中間判決49頁4行、54頁3行、6行、10行の各「本件著作物」とあるのをいずれも「本件各著作物」と訂正する。)であるから、これらを引用する。
3 争点(9)(差止め等の必要性)について
 被告アルゼが、本件中間判決後も、引き続き、プレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」を、インターネットに展開する自社のホームページを介して販売しており、上記各ソフトウエアは、本件中間判決後も、全国の小売店店頭で販売されており、また、被告らにおいてこれを回収していないという原告の主張に対し、被告らは認否主張をせず、争うことを明らかにしないから、これらの事実を認めたものとみなす。
 上記争いのないものとみなされる事実によれば、被告アルゼにおいて、主文第1項に掲げる方法により原告の有する著作権の侵害行為を継続し、また、被告らにおいて、主文第4項に掲げる方法により原告の有する著作権の侵害行為を継続していると認められるから、これらの行為を差し止める必要があるといえる。また、主文第2項及び第5項に掲げる廃棄の措置は、上記侵害行為の停止のため、必要なものということができる。
 また、上記争いのないものとみなされる事実によれば、被告アルゼにおいて、主文第3項に掲げる方法により原告の有する商標権の侵害行為を継続し、また将来これを行うおそれがあるものと認められるから、これらの行為を差し止める必要があるといえる。
 以上のとおり、原告が請求する差止め及び廃棄の必要性は、いずれもこれを認めることができる。
4 争点(10)(著作権侵害についての故意過失の有無と、生じた損害額の算定方法)について
(1) 故意過失の有無について
ア 被告アルゼについて
 本件中間判決の〔当裁判所の判断〕5(1)記載のとおり、SNKは、被告アルゼに対し、一貫して著作権使用許諾料を含めたパチスロ機開発委託費の支払を期待し、その取り決めをするように求め、被告アルゼも、遅くとも平成13年4月には、その取り決めをしていないことを問題として認識するようになっていたことを推認することができ、しかも、その後、本件訴訟に至るまで、被告アルゼ自身がパチスロ機「クレイジーレーサー」等のパチスロ機に使用されている図柄の著作権について、SNKから譲渡を受けたり、利用許諾を受けているとの認識をしていたことを窺わせる事情は認められないのであるから、被告アルゼにおいて、被告らの行為が他者の著作権を侵害することを認識ないし予見することは可能であり、また、認識ないし予見すべきであるのにこれを怠ったものというべきである。したがって、本件における著作権の侵害行為について、被告アルゼには少なくとも過失があったことを認めることができる。
イ 被告日本アミューズメント放送について
 原告が、被告日本アミューズメント放送に故意又は過失があったとする根拠として主張する事実は、@ 同被告は、本件各著作物等の存在を認識し、また、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」は、本件各著作物等の表現形式を素材として使用して作出されたものであることについての事実認識があった、A 被告らは、同一グループに属する関連会社であるから、同ソフトウエアの販売についても、意思を共同する、というものである。
 しかしながら、著作権侵害行為について過失があるというためには、侵害者において、その行為が他者の著作権を侵害することを認識・予見することが可能であり、かつ、認識・予見すべきであるのにこれをしなかったことが必要であると解すべきであり、これを認めるためには、侵害者において、少なくとも、当該著作物について、他に権利者が存在することを認識・予見することが可能であり、かつ、認識・予見すべきであるのにこれをしなかったことが必要であるというべきである。
 ところが、原告が主張する上記@及びAの事実によっては、被告日本アミューズメント放送が、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」に使用されている著作物について、被告アルゼ以外に権利者が存在することを認識・予見すべきであるのにこれをしなかったとまで認めることはできず、他にこれを認めるに足りる主張も証拠もない。
 また、被告日本アミューズメント放送が、被告アルゼの子会社であるからといって(本件中間判決〔前提となる事実〕)、それだけで被告アルゼと過失を共同するものではないことはいうまでもない。
 したがって、被告日本アミューズメント放送には、丁事件の訴状が送達されるまでの侵害行為については、故意又は過失があったものと認めることはできない。
 もっとも、被告日本アミューズメント放送は、丁事件の訴状が送達されたことにより、上記ソフトウエアの販売行為が、原告の著作権を侵害する可能性があることを知ったと明らかに認めることができるから、同被告に丁事件の訴状が送達された平成14年9月10日より後の侵害行為については、同被告に過失があったものと認めることができる。
(2) 損害の算定方法について
 当裁判所は、本件における著作権侵害により原告に生じた損害額の算定においては、著作権法114条1項及び2項はいずれも適用することができず、原告の予備的主張に基づき、同条3項により算定を行うべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。
ア 著作権法114条1項について
(ア) 著作権法114条1項は、侵害品の譲渡等数量に、著作権者等が「その侵害の行為がなければ販売することができた物」の単位数量当たりの利益額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物にかかる販売等を行う能力に応じた額を超えない限度において、損害額とすることができる旨規定する。
 したがって、同項を適用する前提としては、著作権者等において、「その侵害の行為がなければ販売することができた物」を販売する能力を有していることが必要である。
 ここで、「その侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、少なくとも、侵害品と代替性のある、すなわち侵害品と競合する、権利者の製品であることを要する。なぜならば、同項は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を、(侵害者が特定の事情を立証しない限り)侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えて把握しようとするものと解されるところ、そこでは市場における侵害品と権利者製品の競合の実態が前提となるからである。
 また、権利者において、「その侵害の行為がなければ販売することができた」というためには、その侵害行為が行われた時点において、権利者がその製品を市場に供給する能力を有していることが必要であり、供給する能力を獲得する予定を有していたというだけでは足りないと解すべきである。この点につき、原告は、同項は、権利者の損害を「市場機会の喪失」と捉えるものであるから、代替製品の需要が継続してあり、いったん、侵害品に需要が食われてしまうと、その後、権利者が著作物の使用品を販売できなくなる関係にあるような市場では、侵害当時に権利者が著作物の使用品を販売可能な状態に置いている必要はなく、権利者の潜在的能力を含めて柔軟にその能力を認めるべきであるとか、パチスロ機業界においては、企画し開発を終えたパチスロ機の販売開始時期が、企画・開発から、1年ないし2年後となることは、よくあることであるから、同項の権利者の実施能力には、潜在的実施能力も含めて考えるべきであるなどと主張する。しかしながら、上記のとおり、同項が、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を、侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えて把握しようとするものと解される以上、現に市場において侵害品と権利者製品が競合して存在するか、少なくとも権利者が市場にその製品を提供する準備ができていなければ、侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えることは不可能である。すなわち、商品には需要者にとって購入が必要な時期があり、また、著作物には流行があるのであって、例えば、何らかの著作物を使用した物品(キャラクターを付したランドセルや耐久消費財、その時点の流行テレビドラマ中の著作物を使用したアクセサリーなど)について、侵害品を購入した需要者を想定してみると、仮に購入時点で侵害品も権利者製品も存在しなかった場合には、その時点で市場に供給されている侵害品と代替性のある製品を購入するということが考えられるのであって、この購入をせずに将来供給される計画のある権利者製品の発売を待ち、既に購入が必要な時期を徒過したランドセルや耐久消費財や、流行遅れとなったアクセサリーなどを購入するとは考え難いところである。したがって、権利者において、「その侵害の行為がなければ販売することができた」というためには、その侵害行為の時点において、侵害品と代替性のある製品を販売しているか、少なくともその準備ができていることを必要とすると解すべきであり、原告の上記主張は採用することができない。
 なお、被告らは、原告にはパチスロ開発・製造会社としての信用がなかった等と主張し、著作権法114条1項の適用のためには、権利者に製品を市場に供給する能力があるだけでは足りず、実際に権利者の製品が市場に供給された際にこれに対する需要が生じることまでも必要である旨主張するようであるが、このような事情は、同項ただし書きにいう、「譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情」として考慮するべきものと解すべきであるから、この点についての被告らの主張も採用することができない。
(イ) 以上を前提として本件について検討するに、原告の主張を前提としても、原告が、ゲームソフト「ザ・キング・オブ・ファイターズ」を元としたパチスロ機の開発を行い、この保通協の型式試験に適合したのは平成14年12月9日であり、ゲームソフト「メタルスラッグ」を元としたパチスロ機「メタルスラッグ」の開発を行い、この保通協の型式試験に適合したのは平成15年12月10日であって、現に原告が販売しているのはこの後者であり、また、原告がパチスロ機の生産工場の用地を確保したのは平成14年4月であり、工場の生産設備を整えて、全国防犯協会連合会の許可を受けたのは平成15年7月であるというのである。
 一方、被告アルゼがパチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」を販売したのは、平成14年12月までであったのであるから、原告の上記主張を前提としても、被告アルゼが上記各パチスロ機を販売していた期間において、原告が、代替性のある製品として、パチスロ機を販売していたとも、その準備ができていたとも認めることはできない。
 したがって、被告アルゼによる上記各パチスロ機の販売期間において、原告が「その侵害の行為がなければ販売することができた物」を販売する能力を有していたと認めることはできないから、著作権法114条1項を適用して、被告アルゼによる上記各パチスロ機の販売行為により原告に生じた損害を算定することはできないというべきである。
(ウ) また、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」について検討するに、これらは、いずれもパチスロ機の動作を家庭用ゲーム機であるプレイステーション2上でシミュレートするゲームソフトであるところ、原告において、被告らによる上記各ソフトウエアの販売期間に、プレイステーション2用のパチスロ機シミュレーションソフトを販売し、あるいはその準備ができていたことについては、主張も立証もない。
 したがって、被告らがプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」を販売していた期間において、原告が、代替性のある製品である、プレイステーション2用のパチスロ機のシミュレーションソフトを販売していたとも、その準備ができていたとも認めることはできない。
 原告は、プレイステーション用ソフトウエア及びプレイステーション2用ゲームソフト一般についての製造販売能力があることを主張する。しかしながら、パチスロ機のシミュレーションソフトと、それ以外の、格闘ゲーム等のゲームソフトとで、その購買層が同一ないし重複するとは直ちにいうことができず、またこれを認めるだけの証拠もないから、プレイステーション用ゲームソフト及びプレイステーション2用ゲームソフト一般が、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」と代替性を有すると認めることはできない。
 したがって、被告らによる上記各ソフトウエアの販売期間において、原告が「その侵害の行為がなければ販売することができた物」を販売する能力を有していたと認めることはできないから、著作権法114条1項を適用して、被告らによる上記各ソフトウエアの販売行為により原告に生じた損害を算定することはできないというべきである。
イ 著作権法114条2項について
(ア) 著作権法114条2項は、侵害者が侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額は、著作権者等が受けた損害の額と推定する旨規定する。同項は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害につき、侵害者が受けた利益額が立証されればこれを損害額と推定することにより、権利者の主張立証責任の軽減を図ることをその趣旨とするものと解される。
 したがって、侵害行為の当時、権利者が自ら製品の販売を行っておらず、その準備もできていない場合には、権利者において将来製品の販売をする予定があったとしても、同項を適用することはできないと解すべきである。
 ここで、同項の適用の前提となる権利者により販売が行われているべき製品としては、同条1項と同様に、少なくとも、侵害品と代替性のある、すなわち侵害品と競合する、権利者の製品であることを要すると解すべきである。なぜならば、同条2項は、同条1項と同様、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を把握しようとするものと解されるところ、そこでは市場における侵害品と権利者製品の競合の実態が前提となるからである。
 この点につき、原告は、現行の著作権法114条2項が、従来、同条1項として規定されていたところに、現行の同条1項が新設されるに伴って、2項に移されたものであるという経過に照らして、権利者が著作物の使用品を販売する予定があったが、侵害行為により販売できなくなった場合や、将来販売する予定があるなどの場合も、著作権法114条2項を適用すべきであるとか、「侵害者の行為によって権利者の販売量が減少し、あるいは、増えるべき販売量が増加しなかった」という関係にあるかどうかは、著作物の性質、当該著作物の流通する市場の実情に応じて事案ごとに判断されるべきであり、経時的に価値を失う性質のものではない著作物について、これらを使用した製品を含め、代替可能性のある製品の製造販売を権利者が予定し、侵害者と権利者が、市場で競合する関係にあるときには、侵害者の行為によって権利者の販売量が減少し、あるいは、増えるべき販売量が増加しなかった関係にあるといえるから、同項を適用すべきなどと主張する。しかし、上記のとおり、同項が、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害についての権利者の主張立証責任を軽減しようとするものと解される以上、市場において現に侵害品と権利者製品が競合しているか、少なくとも権利者が市場にその製品を提供する準備ができていなければ、権利者が市場における販売の機会を喪失するとは考え難い。したがって、同項の適用のためには、権利者が将来製品を販売する予定があるだけでは足りず、侵害行為の時点において、権利者において、侵害品と代替性のある製品を販売しているか、少なくともその準備ができていることを必要とすると解すべきであり、原告の上記主張は採用することができない。
 また、原告は、「侵害抑止のサンクション」という観点から、著作権法114条2項を適用し、制裁的に侵害者の利益を吐き出させるべきであると主張する。しかしながら、我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止を目的とするものではなく、したがって、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであるというべきであるから、原告の上記主張は採用の限りでない(最高裁判所平成9年7月11日判決・民集51巻6号2573頁参照)。
(イ) 以上を前提として本件について検討するに、被告アルゼによるパチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」の販売期間において、原告が、これらと代替性のある製品として、パチスロ機を販売していたとも、その準備ができていたとも認められないこと、また、被告らによるプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」の販売期間において、原告が、これらと代替性のある製品として、プレイステーション2用のパチスロ機のシミュレーションソフトを販売していたとも、その準備ができていたとも認められないことは、前記ア(イ)(ウ)のとおりである。
 したがって、著作権法114条2項を適用して、被告らによる上記各パチスロ機及び各ソフトウエアの販売行為により原告に生じた損害を算定することはできないというべきである。
5 争点(11)(著作権侵害により生じた損害額)について
(1) 前記4のとおり、本件においては、被告らによる著作権侵害行為により原告に生じた損害については、著作権法114条3項に基づいて算定すべきであるから、これにより算定される損害の額について検討をする。
 同項は、権利者は、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を、損害の額として賠償を請求することができる旨定める。したがって、同項による損害額の算定にあたっては、訴訟当事者間の具体的事情を考慮した妥当な使用料相当額を算定し、これを損害額とするべきである。
 原告は、同項は、侵害行為が行われた場合に、法の趣旨を貫徹するために、市場機会の利用可能性の侵奪をもって損害と観念し、市場機会の著作権者にとっての利用価値を損害賠償とする趣旨であると主張するが、同項の文言に照らして採用することができない。
 また、原告は、被告らの態度が悪質であることから、同項の使用料率として、適正な料率へ修正した使用料率よりさらに2倍以上の高額とされるべきであると主張するが、我が国の不法行為に基づく損害賠償制度が、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止を目的とするものではないことは、前記4(2)イ(ア)で述べたとおりであるから、この主張も採用することができない。
(2) そこで、まず、パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」について、本件各著作物等の妥当な使用料相当額について検討する。
 上記各パチスロ機にかかる諸事情を検討するに、本件中間判決の〔当裁判所の判断〕1及び3記載のとおり、上記各パチスロ機の開発態様は、SNKが企画及びサブ基盤部分と筐体等の開発を、被告アルゼが主基盤部分の開発、全体の統括・調整及び発行済み株式の全部を保有していた子会社であるメーシー販売を通じた販売を、それぞれ分担する態様の、被告アルゼとSNKによる共同開発であったというべきであり、本件各著作物も、これに使用するために作成されたものであること、平成12年12月ころ、SNKが、被告アルゼに提出した「SNK業態変更に伴う逸失利益回復対策(案)」と題する書面では、パチスロ機の開発費として各2000万円、売上に対するロイヤリティーとして1台当たり2万円を見込んでいたこと、平成13年1月末頃、SNKが、被告アルゼに締結を求めた開発委託基本契約及び開発委託個別契約の案では、開発の過程で取得した著作権等は両者の共有とし、被告アルゼがSNKに対し、基本開発委託費を1機種当たり2000万円、販売ロイヤリティーを1台当たり2万円としていたことが認められる。
 そして、上記の販売ロイヤリティーは、画像図柄や筐体図柄等、本件各著作物等の使用料も含むものではあるが、これに尽きるものではなく、企画やサブ基盤全体の開発を考慮した利益の配分としての性質を有すると解され、その金額の設定にも、パチスロ機の開発過程で取得した著作権はSNKと被告アルゼの共有とする前提があったというべきである。のみならず、そもそも、上記の販売ロイヤリティーの金額は、SNKが発案したもので、被告アルゼと合意に至ったものではない。
 他方、上記各パチスロ機1台の販売単価は、両当事者いずれの主張によっても、30万円ないし35万円程度である(ただし、パチスロ機「クレイジーレーサーR」については、被告アルゼは、約11万円であると主張する。)。
 以上のとおりの事情に加え、上記各パチスロ機における本件各著作物等の使用態様等、本件に現れた各種事情に照らせば、本件において、被告アルゼが原告に支払うべき著作物使用料相当額としては、販売した上記各パチスロ機1台当たり1000円とするのが相当である。
 なお、パチスロ機「IRE−GUI」においては、本件各著作物の他、原告が著作権を有する「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄を翻案したものも用いられているが、本件に現れたその使用態様及び頻度に照らせば、上記パチスロ機について、原告に支払うべき著作物使用料相当額を異にするべきものとは解されない。
(3) 次に、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」について、本件各著作物の妥当な使用料相当額について検討する。
 上記各ソフトウエアにかかる諸事情を検討するに、上記(2)で検討したところに加え、上記各ソフトウエア1本の販売単価は、「パチスロ アルゼ王国6」が3422円、「パチスロ アルゼ王国7」が3425円であること(当事者間に争いがない。)、「パチスロ アルゼ王国7」は、4機種のパチスロ機のシミュレーションソフトの集合体であり、「クレイジーレーサーR」はそのうちの1機種にすぎないこと、「パチスロ アルゼ王国7」は、5機種のパチスロ機のシミュレーションソフトの集合体であり、「爆釣」はそのうちの1機種にすぎないこと(いずれも当事者間に争いがない。)、さらに、上記各ソフトウエアにおける本件各著作物の使用態様等、本件に現れた各種事情に照らせば、本件において、被告らが原告に支払うべき著作物使用料相当額としては、販売した上記各ソフトウエア1本当たり10円とするのが相当である。
(4) 前記〔前提となる事実〕記載のとおり、平成13年11月1日以降、被告アルゼが販売した、パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE−GUI」並びにプレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」の台数ないし本数、並びに、被告らが販売した、プレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」の本数は、いずれも、別紙販売数一覧表のとおりである。
 ここで、同表の「−」〔マイナス〕の付された数値はその台数ないし本数の返品があったことを示すものであるところ、原告は、いったん売上があった以上、侵害行為があったのであるから、返品の事実は、損害たる使用料相当額の算定にあたって考慮すべきではないと主張する。しかしながら、使用数に応じて著作物使用料を定める場合に、販売数に応じて使用料を算定する方式による際には、この販売数は実質的な販売数をもって計算するべきと解され、返品分がこれに含まれると解するのは相当ではないから、本件における使用料相当額の算出にあたっても、上記の返品数は販売数から控除すべきである。そして、この控除にあたっては、個々の返品がどの販売に対応するものか明らかではない以上、返品があった月から遡って近い販売数から順に控除するのが合理的である。
(5) 以上述べたところにしたがって、原告の損害額を算出すると、別紙認定損害額(著作権)一覧表記載のとおりとなる。
 ただし、このうち、プレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」にかかる損害については、前記4(1)イのとおり、被告日本アミューズメント放送について過失を認めることができる侵害行為は、同被告に丁事件の訴状が送達された平成14年9月10日より後のものに限られるところ、平成14年9月に生じた損害についてこれが同月10日より後の販売行為にかかるものと認めるに足りる証拠はないから、同月までに生じた損害については被告アルゼが単独で、同年10月以降に生じた損害については被告らが連帯して、賠償の責を負うものというべきである。
 また、遅延損害金については、各月に生じた損害についてこれがその月の末日より前の販売行為にかかるものと認めるに足りる証拠はないから、各月の末日をその起算点として認めるべきであり、これと原告の請求を合わせ考慮すると、本件で認容すべき遅延損害金の起算日は、別紙認定遅延損害金起算日(著作権)一覧表記載のとおりとなる。
6 争点(12)(商標権侵害により生じた損害の有無及び損害額の算定方法)について
(1) 商標権侵害により原告に損害が生じていないといえるかについて
 被告アルゼは、商標権侵害の場合において、侵害者は、損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証して、損害賠償の責めを免れることができ、登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、実施料相当額の損害も生じていないというべきであると主張し、最高裁判所平成9年3月11日判決(民集51巻3号1055頁)を援用する。そして、原告は、本件商標を一度も使用していないから、本件商標には、原告の信用と結合した顧客吸引力は全く存在せず、原告には損害が生じていないと主張する。
 そこで検討するに、確かに、被告アルゼが援用する上記判決は、登録商標に類似する標章を第三者がその製造販売する商品につき商標として使用した場合であっても、当該登録商標に顧客吸引力が全く認められず、登録商標に類似する標章を使用することが第三者の商品の売上げに全く寄与していないことが明らかなときは、実施料相当額の損害も生じていないというべきである旨判示する。
 しかし、上記判決は、侵害者が権利者の登録商標に類似する標章を、侵害者の多数存在する店舗のうちの2店舗の壁面やウインドウに表示したという事案において、@ 権利者が登録商標を使用しておらず、登録商標に知名度がなく、業務上の信用及び顧客吸引力もほとんどなく、A 侵害者の名称が既に著名なものとなっており、その使用する、権利者の登録標章とは類似しない標章も著名性を獲得し、業務上の信用及び顧客吸引力を有していたという前提事実の下で、B 侵害者は、権利者の登録商標に類似する標章を、ごくわずかに、副次的に用いたことがあるものの、主には、権利者の登録標章とは類似しない標章を用いていたという事案であり、このような事実関係においては、権利者の登録商標に類似する標章の使用は、侵害者の売上げに何ら寄与していないと判断されたものである。
 これに対し、本件における侵害行為の態様は、本件中間判決の主文2項及び5項に掲げるとおり、本件商標に類似する本件各標章を、商品であるパチスロ機の名称としてその筐体やガイドブックに付し、あるいは、このパチスロ機の家庭用ゲーム機用シミュレーションソフトの映像中に表示し、さらにその広告としてインターネット上のサイトに掲載するというものであって、この使用態様を、わずかであるとか、副次的であると評価することはできないから、本件は上記判決と事案を異にするというべきである。
 そして、本件においては、上記のとおり、本件商標に類似する本件各標章を、パチスロ機の名称として上記の態様で使用しているのである。ところで、商標は、たとえ未使用商標であっても、使用の仕方によっては、語感の良さや外観・観念の好ましさで顧客を引きつける場合もあるから、本件各標章がその商品であるパチスロ機である「クレイジーレーサーR」や、そのシミュレーションソフトを含む「パチスロ アルゼ王国6」の売上げに全く寄与していないことが明らかであると認めることはできない。
 したがって、本件においては、被告アルゼによる商標権侵害により原告に損害が生じていないということはできない。
(2) 損害額の算定方法について
 当裁判所は、本件における商標権侵害により原告に生じた損害額の算定においては、商標法38条1項及び2項はいずれも適用することができず、原告の予備的主張に基づき、同条3項により算定を行うべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。
ア 商標法38条1項は、侵害品の譲渡数量に、権利者が「その侵害の行為がなければ販売することができた商品」の単位数量当たりの利益額を乗じて得た額を、権利者の使用の能力に応じた額を超えない限度において、損害額とすることができる旨規定する。また、同条2項は、侵害者が侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額は、権利者が受けた損害の額と推定する旨規定する。
 これらの規定は、権利者が現に登録商標を自ら使用して利益を受けている場合において、侵害行為があったことにより権利者に生じる逸失利益について、権利者の主張立証責任を軽減することを趣旨とするものと解される。
 したがって、侵害行為の当時、少なくとも、権利者が、登録商標を自ら使用して利益を受けていない場合には、同条1項ないし2項を適用することはできないというべきである。
イ これを前提として本件について検討するに、本件の全主張及び証拠によっても、原告が、現在まで、本件商標を自ら使用したことがあるとは認められず、かえって、原告は、現在まで、本件商標を自ら使用したことがないことを認めているところである。
 したがって、本件において、商標法38条1項又は2項を適用して、原告に生じた損害額を算定することはできないというべきである。
ウ この点につき、原告は、本件各標章は、被告アルゼの各侵害品の売上に寄与していること、被告アルゼが、侵害品を先に販売し市場の混乱を招いたからこそ、原告は、本件商標の使用を断念せざるを得なかったこと、パチスロ機「クレイジーレーサーR」への本件各標章の使用による本件商標の顧客吸引力の獲得を被告アルゼに得させるべきではないこと、第三者への許諾による使用も商標の使用と評価されること等の事情をあげて、商標法38条1項又は2項が選択的に適用されるべきである旨主張する。
 しかしながら、侵害行為により侵害者が利益を上げていたとしても、これが直ちに同条1項又は2項が予定する権利者の損害に結びつくものではないことは上記のとおりである。また、権利者が自ら登録商標の使用をしなかった理由が、既に侵害行為が行われていたからであったとしても、権利者が現に登録商標の使用により利益を受けていないことには変わりはなく、したがって現にこの減少という損害が生じるものと考えることもできない。さらに、登録商標の顧客吸引力の獲得を侵害者に得させるべきではないとしても、これは侵害者に対する侵害行為の差止め等の必要を導くとしても、損害賠償とは直接結びつくものではない。第三者への許諾による使用に関していえば、そもそも、これが妨げられることにより権利者に生じる損害は、減少する使用料相当額であるから、同条1項及び2項ではなく、同条3項を適用すべき場面であることは明らかである。
 以上のとおりであるから、この点に関する原告の主張は採用することができない。
7 争点(13)(商標権侵害により生じた損害額)について
(1) 前記6のとおり、本件においては、被告らによる商標権侵害行為により原告に生じた損害については、商標法38条3項に基づいて算定すべきであるから、これにより算定される損害の額について検討をする。
 同項は、権利者は、登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を、損害の額として賠償を請求することができる旨定める。したがって、同項による損害額の算定にあたっては、訴訟当事者間の具体的事情を考慮した妥当な実施料相当額を算定し、これを損害額とするべきである。
 原告は、前記5(1)で摘示したような、著作権侵害行為により生じた損害を著作権法114条3項により算定するにつき考慮すべきと原告が主張する事情を、商標法38条3項の適用の際にも同様に考慮すべきと主張するが、前記5(1)で述べたところと同様に、採用することができない。
(2) そこで、本件における、本件商標の使用の妥当な実施料相当額について検討を進める。
 一般に登録商標を商品名に使用する場合の実施料については、様々な算定方式が存在するところ、本件においては、パチスロ機「クレイジーレーサーR」に関しても、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」に関しても、類似標章を商品に付す態様と、これを広告に付す態様の行為が併存する。しかし、この広告も、結局は上記パチスロ機ないしソフトウエアを販売する目的のものであるから、本件においては、広告に付す態様での使用に対応するものも含めて、類似標章を付した商品である上記パチスロ機ないしソフトウエアの販売数量に応じて実施料を算定する方式によるのが相当である。
 そこで、上記パチスロ機及びソフトウエアにかかる諸事情を検討するに、前記5(2)(3)で検討したところに加え、「CRAZY RACER(クレイジーレーサー)」という標章は、そもそも、SNKによる商標登録出願以前に、SNKの従業員により、パチスロ機「クレイジーレーサーR」の原型となったパチスロ機「クレイジーレーサー」の企画立案の際に、そのタイトル(ただし、当初は仮題であった。)として考え出されたものであること(本件中間判決〔当裁判所の判断〕1(1)カ)、本件商標について、原告は自ら使用したことがなく、原告の営業努力や信用が、本件商標の顧客吸引力に寄与していたとは認められないこと、パチスロ機「クレイジーレーサーR」における本件各標章の使用態様は、これを機種名とし、需要者に容易に認識される態様で使用しているものであるが、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」における本件各標章の使用態様は、「クレイジーレーサーR」が隠し機種とされているため、商品の外面や包装等、需要者が特段の操作をせずとも認識し得る態様では使用されておらず、上記ソフトウエアを動作させ、一定の操作をしたときに画面上に表示されるものに留まること(ただし、その広告としての使用であるインターネット上の被告アルゼのサイトに掲載した記事中の使用は、需要者に容易に認識される態様である。)、その他、本件に現れた各種事情に照らせば、本件において、被告アルゼが原告に支払うべき実施料相当額としては、販売した上記パチスロ機1台当たり100円、上記ソフトウエア1本当たり1円とするのが相当である。
(3) 前記〔前提となる事実〕記載のとおり、平成13年11月1日以降、被告アルゼが販売した、パチスロ機「クレイジーレーサーR」及びプレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」の台数ないし本数は、いずれも、別紙販売数一覧表のとおりである。
 ここで、同表の「−」〔マイナス〕の付された数値はその台数ないし本数の返品があったことを示すものであるところ、実施料相当額の算出にあたって、この返品数は販売数から控除すべきである。そして、この控除にあたっては、個々の返品がどの販売に対応するものか明らかではない以上、返品があった月から遡って近い販売数から順に控除すべきことは、前記5(4)で述べたところと同様である。
(4) 以上述べたところにしたがって、原告の損害額を算出すると、別紙認定損害額(商標権)一覧表記載のとおりとなる。
 また、遅延損害金については、前記6(5)で述べたところと同様に、本件で認容すべき遅延損害金の起算日は、別紙認定遅延損害金起算日(商標権)一覧表記載のとおりとなる。
8 争点(14)(著作権侵害及び商標権侵害により生じた損害のうち弁護士費用相当額)について
 原告が被った損害額のうち、弁護士費用相当分としては、本件事案の難易、請求額、上記認容額、その他諸般の事情を勘案し、400万円をもって相当と認める。
 また、遅延損害金については、原告の請求に照らし、上記全額に対して平成16年2月14日(平成16年1月28日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)をその起算日とすべきである。
10 結論
 以上のとおりであるから、原告の請求は、主文掲記の限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 山田知司
 裁判官 中平健
 裁判官 守山修生
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