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| 【事件名】ゲームソフト「ファイアーエムブレム(FE)」事件(2) 【年月日】平成16年11月24日 東京高裁 平成14年(ネ)第6311号 不正競争行為差止等請求控訴事件 (原審・東京地裁平成13年(ワ)第15594号) (平成16年7月26日 口頭弁論終結) 判決 控訴人(原告) 任天堂株式会社(以下「控訴人任天堂」という。) 控訴人(原告) 株式会社インテリジェントシステムズ(以下「控訴人イズ」という。) 控訴人ら訴訟代理人弁護士 青柳ヤ子 同 林いづみ 被控訴人(被告) 株式会社エンターブレイン(以下「被控訴人エンターブレイン」という。) 被控訴人(被告) 有限会社ティルナノーグ(以下「被控訴人ティルナノーグ」という。) 被控訴人(被告) A(以下「被控訴人A」という。) 被控訴人ら訴訟代理人弁護士 宇都宮秀樹 同 小野寺良文 同 早川学 同 末吉亙 主文 1 控訴人イズの控訴をいずれも棄却する。 2 控訴人任天堂の控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人らは、控訴人任天堂に対し、連帯して7646万7720円及びこれに対する平成13年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 控訴人任天堂のその余の請求(当審の追加請求を含む。)をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、(1)控訴人イズと被控訴人らとの間においては、控訴人イズに生じた費用の全部及び被控訴人らに生じた各費用の2分の1を控訴人イズの負担とし、(2)控訴人任天堂と被控訴人らとの間においては、控訴人任天堂に生じた費用の3分の1と被控訴人らに生じた上記費用のうち控訴人イズに負担させた部分を除くその余の部分(2分の1)の3分の1とは、被控訴人らの負担とし、控訴人任天堂及び被控訴人らに生じたその余の費用をいずれも控訴人任天堂の負担とする。 4 この判決は、第2項(1)に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴人らの求めた裁判 1 原判決を取り消す。 2(1) 被控訴人エンターブレイン及び被控訴人ティルナノーグは、プレイステーション版ゲームソフト「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」(発売元 被控訴人株式会社エンターブレイン)を製造、販売、頒布してはならない。 (2) 被控訴人らは、控訴人任天堂に対し、連帯して1億2915万円及びこれに対する平成13年8月8日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被控訴人らは、控訴人イズに対し、連帯して1億2915万円及びこれに対する平成13年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (4) 仮に、控訴人イズが不正競争防止法上の請求主体と認められない場合には、被控訴人らは、控訴人任天堂に対し、連帯して2億5830万円(上記(2)の1億2915万円を含む。)及びこれに対する平成13年8月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人らの負担とする。 4 仮執行の宣言。 第2 事案の概要 1 事案の概要 本件は、控訴人らが、被控訴人らに対し、@被控訴人らが製造、販売等するゲームソフトは、控訴人らが著作権を有するゲームソフトを翻案したものであるか、又は、A被控訴人らによる被控訴人らの上記ゲームソフトの製造、販売等の行為は、控訴人らの周知・著名なゲームシリーズの商品等表示を使用するなどして、他人の商品等と混同を生じさせる不正競争行為である、と主張し、@著作権法に基づき、又は、A不正競争防止法に基づき、損害賠償の支払いを求めるとともに、被控訴人エンターブレイン及び被控訴人ティルナノーグに対し、被控訴人らの上記ゲームソフトの製造、販売、頒布の差止めを求めた事案である。 2 原判決は、@被控訴人らの上記ゲームソフトは控訴人らが著作権を有するゲームソフトの翻案には該当せず、また、A被控訴人らの上記行為は不正競争行為に当たらないとして、控訴人らの請求をいずれも棄却した。そこで、控訴人らは、原判決を不服として、本件控訴を提起した。 3 控訴人らは、当審において、著作権法に基づく請求を主位的請求とし、不正競争防止法に基づく請求を予備的請求とするとともに、控訴人イズが不正競争防止法上の請求主体と認められない場合につき、上記第1の2(4)のとおり、損害賠償請求を追加(増額)した。 控訴人らの主張は、後記第4のとおりであるが、原審における主張と相違する主要な点は、以下のとおりである。 (1) 著作権法に基づく請求について (ア) 控訴人らは、当審では、原審において主張していた「外伝」(ゲームの略称については後出のとおり。他のゲームにつき同じ。)の全体マップ部分の著作物の翻案、「聖戦の系譜」及び「紋章の謎」のゲームソフトにおける登場人物等の影像の著作物の翻案の主張を行わないこととした。したがって、「トラキア」のゲームソフトの翻案のみが当審では問題となる。 (イ) 「トラキア」の著作物の翻案の内容について、控訴人らは、当審において、@被控訴人ゲームの全体が「トラキア」全体の翻案となる、又は、A被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」が「トラキア」全体の翻案となる、又は、B被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」が「トラキア」の「戦闘マップをプレイする場面」の翻案となる、との選択的主張を行った。 (ウ) 控訴人らは、当審において、「トラキア」と被控訴人ゲームのゲームソフトに共通する表現形式として、別紙1記載のとおり主張した。 (2) 不正競争防止法に基づく請求について 控訴人らは、当審において、控訴人ゲーム及び被控訴人ゲームの影像表示を、別紙3のとおり主張した。 4 前提となる事実(争いのない事実) (1) 当事者 控訴人任天堂は、家庭用ビデオゲーム機及びゲームソフトなどの開発、製造、販売等並びにキャラクター商品化業務等を業とする会社であり、控訴人イズは、コンピューターソフトウエアの設計、販売等を業とする会社である。 被控訴人Aは、昭和63年3月31日から平成11年8月15日まで被控訴人イズの従業員(退職時における役職は開発部部長)であった者である。 被控訴人ティルナノーグは、被控訴人Aが、控訴人イズに在職中の平成11年7月27日に設立したもので、コンピュータソフトウェアの設計、販売等を業とする会社であり、設立以来現在に至るまで、被控訴人Aが代表者を務めている。 被控訴人エンターブレインは、株式会社アスキーの子会社で、書籍・雑誌の出版、販売、コンピューター関連のソフトウェアの製造販売等を業とする会社である。 (2) 控訴人らによるゲームソフトの制作、製造、販売 控訴人イズは、以下のアないしオの各ゲームソフト(商品名ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフト。以下、アを「暗黒竜と光の剣」、イを「外伝」、ウを「紋章の謎」、エを「聖戦の系譜」、オを「トラキア」といい、アないしオを総称するときは、「控訴人ゲーム」又は「ファイアーエムブレム・シリーズ」という。)をファミコン又はスーパーファミコン用に制作し、控訴人任天堂は、控訴人イズの使用許諾に基づいて、控訴人ゲームを製造、販売した。 ア ファミリーコンピュータ用ゲームソフト タイトル:「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」 発売年月日:平成2年4月20日 イ ファミリーコンピュータ用ゲームソフト タイトル:「ファイアーエムブレム 外伝」 発売年月日:平成4年3月14日 ウ スーパーファミコン用ゲームソフト タイトル:「ファイアーエムブレム 紋章の謎」 発売年月日:平成6年1月21日 エ スーパーファミコン用ゲームソフト タイトル:「ファイアーエムブレム 聖戦の系譜」 発売年月日:平成8年5月14日 オ スーパーファミコン用ゲームソフト タイトル:「ファイアーエムブレム トラキア776」 発売年月日:平成11年9月1日 (3) 被控訴人らの行為 被控訴人Aは、被控訴人ティルナノーグ代表者として、プレイステーション用ゲームソフト商品(商品名「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」、発売元は被控訴人エンターブレイン。以下「被控訴人ゲーム」という。)の制作行為に主体的に関与し、その関与の下に、被控訴人ティルナノーグと被控訴人エンターブレインは、被控訴人ゲームを共同して制作した。 被控訴人ゲームの旧名称は、「エムブレムサーガ」であり、被控訴人らは、ゲーム雑誌等の雑誌、インターネット公式サイト、テレビコマーシャル、販売促進用ビデオ、ポスターの掲示、テレフォンカードキャンペーン、雑誌付録体験版ソフト、体験版ソフトの特典付き予約キャンペーンなどにおいて、この表示を使用した。 平成13年4月2日ころ、被控訴人らは、被控訴人ゲームの名称を「エムブレムサーガ」から「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」に変更し、同年5月24日以降、被控訴人エンターブレイン及び被控訴人ティルナノーグは、発売元を被控訴人エンターブレインとして被控訴人ゲームを販売している。 被控訴人ゲームの旧名称である「エムブレムサーガ」との表示は、名称変更後もプレイステーションドットコムのホームページで使用されるなど第三者によって使用が続けられている。 (4) 著作権の持分譲渡 控訴人イズは、平成13年4月17日、控訴人任天堂に対し、トラキアにかかる著作権の持分2分の1を譲渡する旨合意した。 (5) 被控訴人ゲームの販売実績等 被控訴人ゲームは、平成13年5月24日の発売開始以来、同年7月8日現在で、34万5430本が販売されており、その希望小売価格は1本当たり6800円であるから、販売総額は、23億4892万4000円である。 第3 本件の争点 1 著作権法に基づく請求(主位的請求) (1) トラキアの著作権の控訴人イズへの帰属 (2) 被控訴人ゲームは、トラキアの翻案に該当するか (3) トラキアへの依拠の有無 (4) 被控訴人らの故意又は過失の有無 (5) 損害額 2 不正競争防止法に基づく請求(予備的請求) (1) 控訴人イズは、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「他人」に該当するか (2) 控訴人ゲームの商品等表示(「ファイアーエムブレム」との表示、「エムブレム」との表示、影像とその変化の態様)は、商品等表示性を有し、周知又は著名か (3) 控訴人ゲームの上記各商品等表示と被控訴人ゲームの「エムブレムサーガ」との表示はそれぞれ類似しているか。 (4) 被控訴人らの行為は混同を生じさせる行為に当たるか (5) 差止請求の要件の充足性 (6) 被控訴人らの故意又は過失の有無 (7) 被控訴人らの行為と損害の因果関係及び損害額 第4 争点についての当事者の主張 第4-1 著作権法に基づく請求(主位的請求)について (控訴人らの主張) 1 著作権の帰属 法人たる控訴人イズは、自らの発意に基づき、その業務に従事する者をしてゲームソフトの著作物であるトラキアを職務上作成させ、自己の著作の名義の下に公表した。したがって、控訴人イズは、著作権法15条1項の「職務上作成する著作物の著作者」との要件を充足している。 被控訴人らは、トラキアは控訴人イズの名義で公表することが予定されていなかったと主張するが、トラキアは控訴人イズの発意に基づき、被控訴人Aを含む控訴人イズの従業員が職務上作成したものであり、将来控訴人イズの名義の下に公表することについて控訴人イズと被控訴人Aを含む従業員との間で了解が存在していたものであるから、「公表」の要件を充足する。 2 被控訴人ゲームはトラキアの翻案に該当するかどうか (1) 侵害著作物及び被侵害著作物(選択的主張) 被控訴人ゲームは、@その全体がトラキア全体を翻案し(選択的主張1)、又は、Aその一部である「戦闘マップをプレイする場面」(範囲については後記(3)(ウ)記載のとおり)がトラキア全体を翻案し(選択的主張2)、又は、Bその一部である「戦闘マップをプレイする場面」がトラキアの一部である「戦闘マップをプレイする場面」を翻案した(選択的主張3)ものである。 (2) 翻案の意義及び判断基準 (ア) 翻案とは「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為」(最一小判平成13年6月28日民集55巻4号837頁、以下「江差追分事件上告審判決」という。)をいう。このように、翻案は、原著作物を利用して創作性を加え、別個の著作物である二次的著作物を創作する行為であるから、二次的著作物と原著作物との間に著作物としての同一性は失われているが、原著作物と二次的著作物の特徴の同一性が維持されている場合に成立する。原著作物の特徴の同一性が失われるに至ったかどうかは、原著作物を知る者が、二次的著作物に接した場合に、原著作物の「表現上の本質的な特徴」を感得できるどうかにより判断される。 (イ) 翻案に該当するかどうかは、まず、原著作物と二次的著作物とを対比し、共通する表現形式と異なる表現形式を把握し、次に、共通する表現形式と異なる表現形式について、それぞれの創作性の存在及び程度を検討し、最後に、両者の相関関係を比較衡量して、全体的・総合的観察を行うことにより判断されるべきである。そして、全体的・総合的観察を行うに当たっては、@異なる表現形式に創作性があっても、共通する表現形式が創作性の高い部分に存在すれば、原著作物の創作的な表現形式の特徴の同一性が肯定されるという点(創作性の質)、A二次的著作物によって利用された表現形式の量が多いほど、原著作物の創作的な表現形式の特徴の同一性が肯定されるという点(創作性の量)、B原著作物の創作的な表現形式やその特徴が、外面的・具体的な表現形式から、より内面的・抽象的な表現形式として把握される部分に認められるに従って、そこから外面に向けて表現する選択の幅をすべて包含し得ることになるから、表現形式の特徴の同一性の範囲が広く認められやすいとの点を考慮すべきである。 (3) トラキアの概要 翻案の判断は、著作物の性質や内容に基づいて行うことが必要であるところ、トラキアの概要は、以下のとおりである。 (ア) 基本ストーリー トラキアは、戦略性の高い戦闘システムと壮大なシナリオを満喫できるシミュレーション・ロールプレイング・ゲーム(以下「SRPG」という。)である。西洋中世をモチーフとして、ペガサスユニット、ドラゴンユニット、魔道士ユニットなども登場するファンタジーな世界を背景とし、架空の大陸における架空の小王国、小公国、小領主国間の戦乱を舞台とする。主人公は、亡国の少年王子である。プレイヤーは、西洋中世風の架空の要塞、山岳地帯、領主館内、峡谷、森林地帯、民家の点在する村、城内、祭壇等を背景とし、章立てで次々と表示されるマップ上で、主人公や自軍ユニットを移動させ、戦闘等を行って仲間を増やし、成長させ、敵側を制圧する。死亡したユニットは原則として生き返らず、主人公の死亡によってゲームオーバーとなる。 (イ) 登場ユニット トラキアには、敵国に祖国を追われ王国再興のために立ち上がる亡国の王子である主人公と、主人公を助けて共に敵を制圧する自軍ユニットと、相手方となる敵軍ユニットが登場する。トラキアでユニットとして登場する人物は全95人であるが、これを分類すると、主人公ユニット、ペガサスユニット、ドラゴンユニット、馬ユニット、踊れるユニット、杖ユニット、魔道士ユニット、斧ユニット、弓ユニット、剣ユニット、アーマーユニット、盗賊ユニットの合計12種に分類される。 (ウ) 全体構成 トラキアにおいては、タイトル画面の後、ゲームの舞台となる架空の大陸全体のマップ(以下「全体マップ」という。)が画面表示される。この全体マップは、セピア色の古地図として表現されており、個々の戦闘マップの所在場所とこれらをつなぐ道等を表現している。全体マップの画面上には、自軍ユニットの移動に関連するストーリーが文字で順次表示され、移動すべきポイントの説明が終わると、画面は戦闘の行われるマップ(以下「戦闘マップ」という。)へと移行する。 戦闘マップは、西洋中世風の要塞、領主館内、山岳地帯、峡谷、民家の点在する村、城内、祭壇等を背景とする複数のマップであり、それぞれが章立てられてタイトルがつけられている。戦闘マップ画面への移行後、プレイヤーは、そのマップの地形等を出撃前スクロールで確認したり、出撃前の自軍ユニットの編成、ユニットの所持するアイテムの編集をしたりする(以下、この場面を「戦闘前の出撃準備場面」という。)。その上で、メニューコマンドで「進撃」を選択すると、戦闘が開始される前に、戦闘前の会話場面が画面表示される。 戦闘前の会話場面が終了すると、自軍ユニットと敵軍ユニットが戦闘を行う場面となり、プレイヤーがカーソルを操作して自軍ユニットを行動させる局面(以下「自軍ターン」という。)と、コンピューターが自動的に敵軍ユニットを行動させる局面(以下「敵軍ターン」という。)がマップクリアまで交互に繰り返される(以下、この場面を「戦闘マップをプレイする場面」という。)。自軍ターンにおいてプレイヤーが自軍ユニットに行わせることができる行動は、@待機、A攻撃、Bその他の行動(後記の共通表現(9)ないし(42))であり、プレイヤーが「攻撃」を選択すると、自軍と敵軍のユニットが1対1で戦う場面が、設定により自動的に、アニメーション切替戦闘場面又はオンマップバトル場面の形式で表示される。この自軍ターンと敵軍ターンの繰返しは、プレイヤーが各戦闘マップに設けられたクリア条件を達成するまで続けられ、クリア条件を達成すると、当該戦闘マップをクリアしたことになる。 1つの戦闘マップをクリアすると、各戦闘マップ用に用意された会話の場面が自動的に影像表示され、次の戦闘マップに直接移行するか、一度全体マップに戻った後に次の戦闘マップに移行する。こうして、プレイヤーは、戦闘マップを順次クリアして、最終の戦闘マップをクリアすると、ゲームクリアとなってエンディング場面に至る。 (4) 被控訴人ゲームの概要 他方、被控訴人ゲームの概要は、基本ストーリー及び全体構成において、トラキアと同一である。また、登場ユニットについても、その登場人数は異なるものの、トラキアと同一の12種類に分類することができ、亡国の王子である主人公と、主人公を助ける自軍ユニットと、相手方となる敵軍ユニットが登場する点も同一である(以下、被控訴人ゲームについても、「全体マップ」「戦闘マップ」「戦闘前の出撃準備場面」「戦闘マップをプレイする場面」「自軍ターン」「敵軍ターン」等の用語を用いるが、その意味及び範囲は、特に断らない限り、上記(3)と同じである。)。 (5) トラキア及び被控訴人ゲームの著作物としての種類及び性質 トラキア及び被控訴人ゲームは、@映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されており(表現方法の要件)、A物に固定されており(存在形式の要件)、B著作物であるから(内容の要件)、著作権法2条3項の「映画の著作物」であり、その「戦闘マップをプレイする場面」も「映画の著作物」に該当する(最一小判平成14年4月25日民集56巻4号808頁、以下「中古ゲームソフト事件上告審判決」という。)。 被控訴人らは、トラキア及び被控訴人ゲームが「映画の著作物」に該当することは争わないものの、通常の映画と異なり、ゲームソフトには表現上の制約があると主張するが、プレイステーション用ゲームソフトである被控訴人ゲームは、容量も豊富であり、ハード機の性能あるいは記録媒体の性能による制約は考えられない。また、控訴人らは、ゲームソフトのインタラクティブ性によりゲームソフトの個々の影像の持つ意味は小さいと主張するが、プレイヤーはあらかじめゲームソフトの制作者によって創作、演出された基本的な場面展開のパターンの範囲内で限られた操作や選択を行うにすぎないのであるから、インタラクティブ性が翻案判断に影響を及ぼすことはない。SRPGのゲームソフトは、機能の実現を目的とするものではなく、無数の表現の選択肢の中から視聴覚的表現を創作していくものであるから、その表現の選択肢の豊富さにおいて古典的な著作物である小説等と何ら変わりがないのである。 (6) トラキアにおける表現上の本質的な特徴 著作物の表現上の本質的な特徴がどこに示されるかは、各著作物の内容や性質により異なるため、著作物の性質に即した判断が必要であるところ、映画の著作物であるトラキアにおいて、表現上の本質的な特徴が現れているのは、「戦闘マップをプレイする場面」の全体構成とその各場面の視聴覚的表現である。 そもそも、ゲームソフトは、プレイヤーの操作に応じて視聴覚的に表現される影像により楽しむものである。ゲームシステムは、プレイヤーを遊ばせるためのゲーム全体の仕組みであり、ゲームソフトに特有のインタラクティブなコントローラ操作によって影像を進行させ、切替え、又は変化を与えるものであるから、ゲームソフトにおいてはインタラクティブなゲームシステムの創作が最も重要である。すなわち、ゲームソフトの根幹はゲームシステムにあるといってよい。 トラキアにおいて、プレイヤーがインタラクティブなコントローラ操作により戦闘をプレイして楽しむ唯一の場面は、「戦闘マップをプレイする場面」である。この場面は、繰り返して映写され、場面の展開、場面の切替え、視点の切替え、照明演出等にも工夫が凝らされ、複雑かつ統一された進行内容の連続影像表現からなっている。したがって、「戦闘マップをプレイする場面」は、著作者の創作、個性が結集している場面であり、それゆえに、この場面における連続影像表現は最も特徴的かつ個性的なものとなっている。 被控訴人らは、ストーリーがトラキアの本質的な場面であると主張するが、ゲームシステムの創作上の重要性に比すると、被控訴人らのいうストーリーの重要性は低い。特に、会話のセリフは、ゲームシステムが制作され、キャラクターが制作されてからゲームシステムやキャラクターの特徴に応じて創作されるものであり、ゲームシステムを変えることなく多種多様なセリフに差し替えることも可能である。このように、ストーリーの重要性は低いため、トラキア及び被控訴人ゲームのプレイヤーは、全体マップ上の文字画面、戦闘前会話の画面の会話場面等をキャンセル機能によりとばしてプレイすることができるが、本質的な部分である「戦闘マップをプレイする場面」にはキャンセル機能は付されていないので、とばすことはできない。 以上のとおり、「戦闘マップをプレイする場面」の全体構成とその各場面の視聴覚的表現こそが、トラキアの著作物としての本質的な特徴部分となるものであり、この点は、被控訴人ゲームについても同様である。 (7) トラキアと被控訴人ゲームの共通する表現形式 トラキア及び被控訴人ゲームは、「人物や背景等が動画として視聴覚的に表現され、その影像に音声、効果音や背景音楽を連動させて視聴覚的効果を生じさせ、視点や場面の切替え、照明演出等が行われ」(前記中古ゲームソフト事件上告審判決)て視聴覚的に表現されるゲームソフトの著作物であるから、トラキアと被控訴人ゲームに共通する表現形式も当然のことながら動画として視聴覚的に表現されたものであり、いずれの表現も一つのまとまりをもった連続影像による視聴覚的表現の総体である。このことを前提として、両ゲームに共通する表現形式を言語をもって説明すると、別紙1「控訴人らの主張する共通表現」記載のとおりである(以下、別紙1記載の(1)ないし(42)を総称するときは「本件共通表現」といい、個別に指すときは「共通表現(1)」のようにいう。)。 (8) 本件共通表現の創作性 原著作物と二次的著作物との間に共通する表現が存在したとしても、それが「思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件等表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分」である場合は、翻案権侵害には当たらないが(前記江差追分事件上告審判決参照)、以下のとおり、本件共通表現の創作性は肯定される。 (ア) 創作性の定義については、著作権法上に規定がないが、著作権法における創作性が認められるためには、審美的な価値、独創性、新規性、進歩性等を有する高度な創作性は必要ないと解すべきである。そして、「文化の発展に寄与する」という著作権法の目的や、過度の独占による弊害回避という観点を考慮すれば、あらゆる種類の著作物にあてはまる基準として、表現する上で他の選択肢がないかあるいは極めて選択肢が限られる場合には創作性は認められないものの、同じ思想、事実等を表現する上で他の選択肢が残されている場合には創作性は認められる、と解すべきである(中山信弘「創作性についての基本的考え方」著作権研究28号2頁等)。 (イ) 創作性の判断においては、共通する表現形式を一つのまとまりとして評価すべきであり、まとまりとして創作性を有する部分を創作性のない部分に細分化して、その表現がアイデアであるとか、創作性がないとすべきではない。本件共通表現は、影像の動的変化と音を一つのまとまりとして連続影像で表現したものであるから、動的に変化する影像やこれに加えられた視点や場面の切替えなどの視聴覚的表現方法を総合して、創作性が評価されなければならない。とりわけ、共通表現(6)ないし(42)は、基本的には「戦闘マップをプレイする場面」上におけるユニットの1回の行動の表現として創作されており、ユニットに当該行動を行わせると、必ず同一の配置と順序構成によって内容表現がなされる。したがって、カーソルを合わせてユニットを選択すれば、あとは創作がなされた配置と順序構成によって、一連の連続影像が場面展開や場面切替えなどを伴って表現され、その行動を終了してはじめて、再びカーソル操作の場面に戻る。このように、本件共通表現は、まとまりのある連続影像表現として、その創作性が評価されるべきである。 (ウ) 前記のとおり、トラキアは映画の著作物であり、その視聴覚的表現は、視点や場面の切替えや照明演出に工夫することにより影像の動的変化や音として表現される。このように影像が動的に変化をしていく各種場面における具体的な表現形式には無数の選択肢があり、またこれらの場面の表現をどのように連続影像としてつなぎ合わせていくかなどについても多様な創作が可能であるから、全体的な表現としての選択の幅は極めて広くなるといってよい。本件共通表現は、かかる影像の動的変化と音による表現にほかならないのであるから、創作性を有するというべきである。そのように解しても、後発者による表現の選択の幅は多様に残されているのであるから、後発者はトラキアの本件共通表現と同一の表現を選択する必然性はなく、後発者によるSRPGの正当な創作を何ら妨げるものではない。 (9) トラキアと被控訴人ゲームの相違する表現形式の存否と評価 トラキアと被控訴人ゲームの相違する表現に関し、被控訴人らは、被控訴人ゲームにおいて新たな制作行為を行ったのであるから、この点を翻案の判断において考慮すべきであると主張する。しかしながら、そもそも、翻案権とは、原著作物を利用して創作性を加え、別個の著作物を創作する権利であるから、単に新たな表現が付加されたからといって翻案該当性が否定されるわけではない。新たな表現が付加されても、原著作物の表現の特徴との同一性が維持されている限り、翻案は成立する。以上を前提として、被控訴人らの主張する両ゲームの相違部分について反論する。 (ア) 被控訴人らは、トラキアと被控訴人ゲームとではストーリーが全く異なると主張する。 しかしながら、トラキアと被控訴人ゲームが、対戦場所(背景となる地形等)、対戦相手(敵軍ユニット)、前置き(キャンセル可能な会話場面のセリフ文字)という外面的表現形式において相違しているとしても、プレイヤーの操作によって繰り広げられるゲームソフトとしての本質的な遊戯内容の視聴覚的表現は全く同一であるから、内面的・抽象的な表現形式としては同一であるということができ、異なる表現形式とは把握されない。 また、被控訴人らはセリフ文字の違いも主張するが、セリフ文字を異にしても、プレイヤーの操作によって繰り広げられるゲームソフトとしての本質的な遊戯内容の視聴覚的表現は全く同一であるから、内面的・抽象的な表現形式としては同一であるということができ、異なる表現形式とは把握されない。しかも、セリフ文字は、キャンセル機能によってキャンセルすれば、画面上に表示自体がなされない上、被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」におけるセリフは全体の21.5%を占めるにすぎず、残りのセリフは選択的主張2及び3に関しては、相違点にもならない。 (イ) 被控訴人らは、武器や兵種の名称のつけ方、マップの名前のつけ方、登場人物の具体的な髪型、ウィンドウの細かい装飾、移動及び攻撃範囲の色合いなどが相違すると主張する。しかし、これらの点についての相違はごくわずかであり、創作的な価値はないものであるから、創作性を比較衡量する上で考慮するに足る表現形式ということはできない。 (ウ) 被控訴人らは、被控訴人ゲームは、マップ数や遭遇戦を設けている点においてトラキアと相違すると主張する。しかしながら、両ゲームソフトの視聴覚的表現の翻案が審理対象であるから、視聴覚著作物の創作性を比較衡量するための異なる表現形式として把握されるのは、創作的な視聴覚著作物でなければならない。しかしながら、被控訴人らが主張する上記相違点は視聴覚著作物としての表現形式の相違ではないから、異なる表現形式としては把握されない。また、被控訴人らはコマンドも相違すると主張するが、被控訴人らの指摘するのは、コマンドの名称やコマンドの内容に関するアイデアの相違にすぎず、ゲームソフトにおける創作的な視聴覚的表現の相違ではない。したがって、この点も、視聴覚的表現の創作性の比較衡量をなすべき異なる表現形式ということはできない。 (エ) 被控訴人らは、トップビューの戦闘マップの背景や、サイドビューの切替戦闘の背景が相違すると主張する。しかしながら、トラキアの「戦闘マップをプレイする場面」の戦闘マップは、西洋中世風の民家の点在する村、海岸の村、山岳地帯、森林地帯、地下の祭壇等を背景とするものであり、サイドビューの切替戦闘の背景は遠景の風景であるところ、本件共通表現は、かかる複数の背景の外面的表現形式をすべて包含する、内面的・抽象的な表現形式としてその創作性が認められるものである。したがって、被控訴人ゲームが戦闘マップの背景等の外面的表現形式を変更したとしても、本件共通表現の同一性の範囲内である。また、SRPGのゲームソフトは静的な背景画ではなく、背景画をバックにしてその前で繰り広げられる場面や視点等の切替えを伴う動的な影像変化にその本質がある視聴覚著作物であるから、静的なバックの風景画の書替えにより創作性が加えられたとはいえない。 (オ) 被控訴人らは、両ゲームは全体マップにおいて相違すると主張する。しかしながら、被控訴人らは、被控訴人ゲームの全体マップにおいて自軍の移動先を選択したり、両軍の編成をすることができると指摘するのみで、創作性ある視聴覚的表現の存在を主張立証しないのであるから、ゲームソフトとしての視聴覚的表現に創作性を加えたとは評価できない。仮に、創作性を有する異なる表現形式と認められたとしても、全体マップは「戦闘マップをプレイする場面」への単なる橋渡しであって、両ゲームの本質的な部分ではないから、翻案の成否に影響を及ぼし得るものではない。また、被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」を侵害物件とする選択的主張2及び3に関しては、「全体マップ」における表現の相違は考慮する必要はない。 (カ) その他、被控訴人らの主張する相違点は、そもそも事実に反し、あるいは創作性のない部分にかかる些末なものであり、創作性があるとしてもその程度は低く、翻案の成否の判断に影響を及ぼし得るものではない。 (10) 全体的・総合的観察 トラキアと被控訴人ゲームに共通する表現形式と異なる表現形式とを比較衡量し、全体的・総合的に評価をすれば、以下のとおりである。 (ア) 本件共通表現の創作性の質 本件共通表現は、トラキアの本質的部分である「戦闘マップをプレイする場面」に係る表現であり、被控訴人ゲーム以外のいかなる公知ゲームにも見られないトラキア独自の視聴覚的表現であるから、創作性が極めて高い特徴的な部分である。 (a) トラキアに登場する全12種の登場ユニット(共通表現(1))は、その重要な構成要素であり、他の公知ゲームに見ることができない創作性の高い特徴的な表現形式である。中でも、ペガサスユニット、ドラゴンユニットは、極めて特徴的な登場ユニットであり、これらのユニットが行動する場面は、すべてにおいて創作性の高い視聴覚的表現となっている。また、トラキアの主人公ユニット、踊れるユニットなどについても、特徴的で創作性が高い。被控訴人ゲームは、これらのユニットの特徴的な視聴覚的表現をすべて共通にして使用している。したがって、「戦闘マップをプレイする場面」における登場ユニットの同一性は、トラキアとしての創作的な表現形式の特徴の同一性を強く感得させる。 (b) 「戦闘マップをプレイする場面」の全体構成とその各場面の表現(共通表現(4))及び「戦闘マップをプレイする場面」の各場面展開によって表現される本質的ストーリー(共通表現(5))は、他の公知ゲームには見られないトラキア独自の創作性の高い特徴的な影像表現である。 すなわち、トラキアの最も本質的で重要な部分は「戦闘マップをプレイする場面」であるところ、そのインタラクティブなゲームシステムを影像の動的変化として創作し、場面の展開、場面の切替え、視点の切替え、照明演出等の手法を加えて影像として表現しているのが、「戦闘マップをプレイする場面」の全体構成とその各場面の表現(共通表現(4))である。したがって、共通表現(4)は、公知ゲームには見られないトラキア独自の創作性の高い特徴的な影像表現である。また、「戦闘マップをプレイする場面」の各場面展開によって表現される本質的ストーリー(共通表現(5))も、プレイヤーに強い感情移入をさせる極めて本質的な特徴部分である。被控訴人ゲームは、共通表現(4)及び(5)の視聴覚的表現を同一とすることにより、トラキアの特徴ある創作的表現をすべて同一にしているのであるから、トラキアの創作的な表現形式の特徴の同一性を強く感得させるものといえる。 (c) 「戦闘マップをプレイする場面」における各場面の表現(共通表現(6)ないし(42))も、他の公知ゲームには見られない創作性の高いものである。 トラキアの自軍の待機及び攻撃、敵軍ターンという共通表現(6)ないし(8)は、「戦闘マップをプレイする場面」に頻回にわたり使用され、その全体構成に沿ってゲームプレイを進行させていく根幹的表現であって、特徴的で創作性が高い。また、トラキアでは、「戦闘マップをプレイする場面」において、登場ユニットが共通表現(9)ないし(42)記載の多彩な行動等を繰り広げるが、これも他の公知ゲームには全く見られないトラキア独自の創作性の高い特徴的な部分である。被控訴人ゲームは、共通表現(6)ないし(42)をそっくりそのまま使用しているのであるから、トラキアの本質的な表現形式の特徴の同一性を強く感得させるものといえる。 (d) トラキアの全体の構成(共通表現(2))及びトラキア独自の基本ストーリー(共通表現(3))も他の公知ゲームには見られない創作性の高い表現であり、被控訴人ゲームがこれらの表現をそっくりそのまま使用していることは、トラキアの創作的な表現形式の特徴の同一性を強く感得させるものといえる。 (e) 以上のとおり、本件共通表現は、いずれも他の公知ゲームには見られないトラキア独自の創作性の高いものである。これに対し、被控訴人らは、本件共通表現はアイデアにすぎない、あるいはありふれているなどと主張するが、これは、本件共通表現のすべてが記憶媒体に固定されているゲーム影像であり、ゲーム影像の動的変化と音によって具体的に表現されていることを正解せず、本件共通表現を説明した言語を拾い出してつなぎ合わせることによって創作性を否定しようとするものであり、審理対象のすりかえにすぎない。 (イ) 被控訴人ゲームが使用した創作性の量 被控訴人ゲームは、トラキアと共通する表現形式を大量に使用しており、利用されたトラキアの創作性の量は膨大である。 被控訴人ゲームによる共通表現(4)の使用は、両ゲームソフトの本質部分である「戦闘マップをプレイする場面」の全体構成とその各場面の表現そのものの使用である。したがって、被控訴人ゲームが「戦闘マップをプレイする場面」全体をそっくりそのまま使用した結果、共通表現(1)ないし(42)という大量の表現が被控訴人ゲームに使用されているのである。また、被控訴人ゲームが使用する共通表現(6)ないし(8)は、「戦闘マップをプレイする場面」で、頻回にわたり大量に使用される表現である。このように、被控訴人ゲームは、本件共通表現を大量に使用したものであり、被控訴人ゲームに接した者はトラキアの創作的な表現形式の特徴の同一性を強く感得するといえる。 (ウ) 相違部分の存在と評価 トラキアと被控訴人ゲームにおける異なる表現形式は、前記のとおり、存在せず、仮に存在してもゲームソフトの視聴覚的表現形式としての創作的価値は低い。 (エ) 全体的・総合的評価 以上のとおり、両ゲームソフトの本質的特徴部分である「戦闘マップをプレイする場面」における共通表現(1)ないし(42)は、ゲームソフト全体における視聴覚的表現としての創作的な価値が極めて高い。また,被控訴人ゲームは、共通表現(1)ないし(42)を大量に使用することにより、トラキアの創作性を大量に使用している。他方、被控訴人ゲームには異なる表現形式と把握できるだけの創作的な視聴覚的表現は存在せず、存在しても被控訴人ゲーム全体における視聴覚的表現としての創作的価値は極めて低い。 したがって、両ゲームソフトを全体的・総合的に評価すれば、両ゲームソフトの本質的特徴部分である「戦闘マップをプレイする場面」における、創作性が質的にも量的にも圧倒的かつ本質的に高い共通表現(1)ないし(42)の存在によって、被控訴人ゲームにはトラキアの創作的な表現上の本質的な特徴の同一性が肯定される。 (オ) 表現を類似させる必然性 さらに、正当な知的財産権保護の見地に照らし、被控訴人ゲームの表現をトラキアに酷似させる必然性があったのかという点を考慮しても、翻案該当性は肯定される。前記のとおり、被控訴人らによる被控訴人ゲームの制作に当たっては、表現の選択肢が無数に存在したにもかかわらず、被控訴人ゲームとトラキアとは、ゲームソフトとしての全体の構成、基本ストーリー、全12種の登場ユニット、「戦闘マップをプレイする場面」の全体構成及びその各場面の表現(その配置及び順序構成を含む。)がそっくりそのまま同一であり、酷似しているといってよい。両ゲームの表現をこれほど類似させる必然性は何ら存在しなかったのであって、このような被控訴人らの明白な模倣行為を翻案権侵害と認定したとしても、後発者によるSRPGのゲーム制作を一切阻害しないのである。 なお、被控訴人らは、トラキアと被控訴人ゲームは、いずれも被控訴人Aによって創作されたものであるから、その作風が共通することは当然であるなどと主張するが、被控訴人Aは、影像表現については控訴人イズのファイアーエムブレム・シリーズの制作スタッフに丸投げしていたのであるから、そもそもファイアーエムブレム・シリーズの影像表現には被控訴人Aの作風が現れる余地がない。被控訴人ゲームがトラキアに酷似するのは、トラキアの本質的な特徴部分である「戦闘マップをプレイする場面」の全体構成とその各場面の影像表現(共通表現(4))を、被控訴人らがそっくりそのまますべて模倣しているからであり、被控訴人Aの作風とは関係がない。 (11) 翻案該当性(結論) 以上のとおり、被控訴人ゲームをプレイした者は、トラキアの表現上の本質的な特徴を感得するというべきであり、被控訴人ゲームはトラキアを翻案したものである。 3 トラキアへの依拠の有無 被控訴人ゲームは、被控訴人Aが控訴人イズに在職していた平成11年から企画制作が開始され、被控訴人Aが企画監督を行い、被控訴人ティルナノーグ及び被控訴人エンターブレイン(被控訴人ゲーム制作の当初は分社化前の株式会社アスキー)によって共同制作された。被控訴人Aは、被控訴人ゲームの制作の直前に発売されたトラキアの開発の長たる立場にいたものであり、トラキアの内容を熟知していた。したがって、被控訴人A及び同人が代表取締役となっている被控訴人ティルナノーグは依拠の要件を充足する。 また、被控訴人エンターブレインは、トラキアのゲーム内容を紹介した雑誌「週刊ファミ通」及び「ファミ通+64」などの発行者であり、トラキアの攻略本の発行者であり、かつ被控訴人エンターブレインの代表者であるB(以下「B」という。)は「週刊ファミ通」「ファミ通+64」及びトラキア攻略本の発行人兼編集人である。したがって、Bはトラキアの内容を熟知していたものであり、被控訴人エンターブレインも依拠の要件を充足する。 被控訴人らは、被控訴人Aの依拠は、いわゆる「無意識の依拠」であって、依拠の要件を充足しないと主張するが、「無意識の依拠」とは、「かつて見聞し、創作者の意識の中に沈殿していた既存の著作物が、創作活動の過程で無意識のうちに湧出した結果、既存の著作物と実質的に同一の表現の作品が作成された場合、もはや既存の著作物を知って作成されたとはいえない」(西田美昭「複製権の侵害の基本的考え方」裁判実務大系27・知的財産関係訴訟法130頁)という問題である。被控訴人Aは、トラキアの制作と同時並行的に被控訴人ゲームを制作したのであるから、トラキアを知って被控訴人ゲームを作成したことは明らかであり、「無意識の依拠」というよりむしろ意図的な依拠である。 4 被控訴人らの故意又は過失 上記のとおり、被控訴人ティルナノーグの代表者でもある被控訴人A及び被控訴人エンターブレインの代表者であるBは、トラキアの内容を熟知した上で、これに依拠して被控訴人ゲームを翻案したものであるから、被控訴人らには、翻案について故意又は過失がある。 5 損害 (1) 使用料相当額損害 2億3489万円 被控訴人ゲームは、平成13年5月24日に発売が開始されて以来、同年7月8日時点で34万5430本が販売されており、同ゲームの希望小売価格は1本当たり6800円である。被控訴人らの著作権法違反及び不正競争防止法違反行為に対して控訴人らが受け取るべき使用料相当額は、売上高の10%を下回らないので、使用料相当額の合計は、被控訴人ゲームの販売本数である34万5430本に販売単価の6800円を乗じた売上高(23億4892万4000円)に、使用料率である10%を乗じた2億3489万円(1万円未満切捨て。各控訴人につきその2分の1の1億1744万5000円)となる。 (2) 弁護士費用相当損害 2341万円 控訴人らは、被控訴人らの行為によって本訴の提起を余儀なくされた。本訴の性質、内容等に照らせば、本訴の提起、追行のために控訴人らが要した弁護士費用のうち相当因果関係のある損害額は、2341万円(各控訴人につきその2分の1の1170万5000円)を下回らない。 6 まとめ よって、被控訴人らの行為は、控訴人らが著作権を有するトラキアの翻案に該当するので、控訴人任天堂及び控訴人イズは、被控訴人エンターブレイン及び被控訴人ティルナノーグに対し、被控訴人ゲームの製造、販売、頒布の差止めを求めるとともに、被控訴人らに対して、著作権侵害による損害賠償として、控訴人らのそれぞれに対し上記損害1億2915万円(1億1744万5000円と1170万5000円の合計)及びこれに対する平成13年8月8日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。 (被控訴人らの主張) 1 著作権の帰属 トラキアは、控訴人イズの業務に従事していた被控訴人Aが作成した著作物であるが、控訴人イズが自己の著作の名義の下に公表したものではない。したがって、控訴人イズはトラキアの著作権者ではない。 控訴人イズは、ゲームの開発会社であって、ゲームの販売会社ではなく、控訴人任天堂の工場内に本社のある、いわば控訴人任天堂の専属的な下請会社にすぎない。このような控訴人イズの開発会社(非販売会社)としての性格及び控訴人任天堂との明確な力関係の下では、関係当事者は、開発当初から、トラキアを控訴人任天堂名義で公表する旨合意していたと認めるのが自然であり、控訴人イズの名義で公表することが合意されていたことを裏付ける証拠は全く存在しない。実際上、ファイアーエムブレム・シリーズ第1作から第4作までは控訴人任天堂の名義下に公表されたのである。ある著作物が、会社(控訴人イズ)でも従業員(被控訴人A)でもない第三者(控訴人任天堂)の名義で公表することが予定されていた場合、その著作権は従業員に帰属し、会社に帰属しないのであるから、トラキアの著作権は控訴人イズには帰属しない。 2 被控訴人ゲームはトラキアの翻案に該当するかどうか (1) 翻案の意義及び判断基準 翻案の意義は、江差追分事件上告審判決の判示するとおりであるところ、翻案該当性の判断手法としては、最初に、同一性を有する部分と同一性を有しない部分を識別した上で、同一性を有する部分について、思想、感情若しくはアイデア、事実もしくは事件等表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないか否かを検討し、最後に、全体的、総合的な観察を含めて、表現上の本質的な特徴を直接感得できるか否かを判断すべきである。 (2) トラキアの著作物としての種類及び性質 翻案の意義を上記のとおり解すると、具体的に何をもって表現上の本質的な特徴ととらえるかが重要となり、この点については、著作物の種類や特性に応じて、事案ごとに、著作物としての創作性や表現の特徴を判断することになる。控訴人らは、トラキア及び被控訴人ゲームが映画の著作物に該当することを争うものではないが、SRPGには、以下のとおり、通常の映画や小説等の著作物には見られない際立った特徴があり、翻案該当性の判断においてはこれらの特徴を考慮すべきである。 (ア) ゲームソフトの構成要素 SRPGとは、シミュレーション・ゲーム(以下「SLG」という。)とロールプレイング・ゲーム(以下「RPG」という。)とを融合させたジャンルのゲームソフトである。このうち、SLGとは、戦争、経営、恋愛、育成等の分野において、現実に存在するものや空想上の対象物をゲームのルールに従って操作して、事件等をゲーム上で再現するタイプのゲームソフトであり、RPGとは、ストーリー性があり、キャラクターを成長させながらプレイヤーが物語に参加してゲームの結末を目指すタイプのゲームソフトである。SRPGは、他のゲームソフトと同様、@ストーリー(前提となる世界観や舞台設定を含むシナリオ)、Aゲームシステム、Bゲームの場面(各場面の影像表現を含む。)、Cキャラクター、D音楽、を主たる要素とする複合的な著作物である。SRPGのゲームソフトの翻案該当性の判断においては、SRPGのゲームソフトを構成する個々の構成要素それぞれについて、その著作権法上の保護の必要性や重要性を考慮しつつ、比較を行うことが必要かつ適切であるが、後記のとおり、各構成要素の中でもストーリーこそがSRPGの翻案該当性において最も重視されるべき要素である。 (イ) インタラクティブ性 ゲームソフトは、言語の著作物や映画著作物と異なり、プレイヤーが影像を見てプレイをし、それによりゲームの展開が変化するというインタラクティブ性を有する。このため、ゲームソフトの影像表現は、プレイヤーのプレイ(操作)内容により、ある程度変化する。SRPGにおいて、プレイヤーが、個々の操作を行う回数は数えられない程多く、このプレイヤーの操作に応じて影像表現も数限りなく変化するので、SRPGのゲームソフト全体をプレイする時間からすれば、個々の影像表現が画面上に表示される時間は極めて短い。また、あるプレイをすれば出現する個々の影像表現であっても、別のプレイをすれば、この影像に接することができないという事態は、いくらでも生じ得る。このように、SRPGにおいては、個々の影像の持つ意味は小さく、個々の影像がSRPGのゲームソフト全体の表現上の本質的な特徴とはいえない。 (ウ) 他の公知ゲームへの依拠 一般に、ゲームソフトの制作に当たっては、ボードゲーム時代から存在したゲームのルールやコマンドについてのアイデア、既存の同種あるいは類似のゲームソフトにおけるゲームシステムや影像の表現手法等のアイデアが参考にされることが多い。とりわけ、SRPGは、SLG(ボードゲームとしてのSLGとコンピューターゲームとしてのSLG)とRPG(ボードゲームとしてのRPGとコンピューターゲームとしてのRPG)が融合して成立したゲームであって、その起源となっているゲームの種類が多いから、制作に当たって参考とされ得るゲームの範囲も広い。SRPGのゲームソフトの翻案該当性の判断においては、このようなSRPGのゲームソフトの成立ちやこれに起因するSRPGのゲームソフトの一般的な制作手法を考慮すべきである。具体的には、侵害著作物とされるSRPGと被侵害物件とされるSRPGにおいて共通する部分が表現といえるものであったとしても、それが他のボードゲームやSRPGを含む他のゲームソフトで採用されてきたゲームシステムや表現手法等のアイデアに基づく表現である場合には、そのアイデアの創作性が低く、保護されるべき範囲は狭くなる。 (エ) 表現上の制約 (a) SRPGのゲームソフトは、前記のとおり、プレイヤーにプレイさせることを目的として制作されるから、その影像表現にはユーザーインターフェースとしての機能が必要となる。とりわけ戦闘マップと全体マップのゲームソフトの影像表現は、プレイヤーの便宜(具体的には、@プレイヤーによる操作の容易性の確保、A一覧表示等によるプレイヤーの見た目のわかりやすさの確保、Bプレイヤーの使い慣れた操作方法の踏襲等)を、最優先に考えることが通常である。したがって、SRPGの画面は、必然的にある特定の表現手法や具体的な表現を採用せざるを得ず、あるいは、わずかな選択肢の中から表現手法や具体的な表現を選択せざるを得ない場合が多い。 (b) ゲームソフトには、機械性能や制作コスト上の制約も存在する。すなわち、ゲームソフトは、ハード機と、カートリッジやCDーROMなどの記録媒体の記憶容量、色数、ドット数等の機械性能に制限がある。また、ハード機や記録媒体の機械性能の向上によって、機械性能上の制約がなくなり、あるいは小さくなった場合でも、制作コストを抑えるために制作費用や制作期間のさほどかからない単純、簡易な表現手法を採用せざるを得ないことも多い。 (c) このような、ユーザーインターフェース機能の必要性や、機械性能上の制約等により、SRPGのゲームソフトの表現は、必然的に繰返しの表現手法や流用の制作手法が多用されざるを得ない。実際のところ、多くのSRPGでは、全体マップと戦闘マップの繰返し、自軍ターンと敵軍ターンの繰返し、ユニットを動かす際の同じ操作の繰返し、敵を倒してはさらに強い敵を倒すことの繰返し、音楽の繰返し、切替戦闘アニメーション場面のクラスチェンジ場面への流用、店舗システムの闘技場システムへの流用等、全編にわたって、繰返しや流用の手法が多用されている。したがって、共通して登場する表現があるとしても、その出現回数の多さや出現頻度の高さは、SRPGの表現上の本質的な特徴を把握する上で重視すべき事項とはいえない。 (オ) ゲームバランス それぞれのゲームソフトには、各ゲームソフトに固有のものとして、ゲーム性あるいはゲームバランスと呼ばれるものが最終的に備わることとなる。ゲームバランスはゲームソフトに固有の概念であり、ゲームバランスの良いゲームソフトが、面白いゲームソフトであり、ゲームバランスの悪いゲームソフトが、面白くないゲームソフトである。ゲームデザイナーは、各ゲームソフトにふさわしいゲーム性と絶妙のゲームバランスの実現を目指して、ゲーム制作の最終段階においてバランス調整に精魂を込めるのであって、このバランス調整の作業こそ、ゲームデザイナーの個性が最も発揮される重要な作業の一つである。したがって、SRPGのゲームソフトの翻案該当性の判断においては、ゲームバランスについても十分に考慮する必要がある。 (3) トラキアにおける表現上の本質的な特徴 トラキアにおける前記(2)(ア)@ないしDの各構成要素の持つ意味及び重要性について検討すると、以下のとおりである。 (ア) ストーリー SRPGを構成する各要素の中で最も重要なのは、以下の理由から、ストーリーであるというべきである。 第1に、そもそも、SRPGのゲームソフトを映画の著作物と理解する以上、通常の映画の著作物と同様に、ストーリーが最も重視されるべき要素となることは自明である。とりわけ、SRPGはSLGとRPGを融合させたジャンルのゲームソフトであることは前記のとおりであるところ、RPGは、まさにプレイヤーがストーリーを楽しむタイプのゲームであり、ストーリーが中核的な要素となるゲームである。とすれば、SRPGにおいてストーリーが重要な要素となることは当然である。 第2に、ゲームのストーリーは、SRPGの各場面における個々の影像表現と異なり、画面上に表示されるセリフやナレーションという形式で、ゲーム全体にわたり明確に表現され続ける。このことは、トラキアのストーリーが表現されているナレーションとセリフは、合計14万3700文字(単行本約1冊分)にも達することからも明らかである。 第3に、ゲームの登場人物、音楽、場面設定等は、ストーリーに合わせて採用され、各戦闘マップごとに設定されているクリア条件も、ストーリーと関連して設定される。すなわち、ゲームのストーリーは、ゲームソフトの他の構成要素を内容面において規律し、ゲーム全体の特徴を基礎付けているのである。 第4に、ゲームのストーリーは、SRPGのゲームソフトの各場面における影像表現と異なり、ハード機の機能上の制約や制作コスト面での制約を受けることなく、ゲームデザイナーが自由にその思想や感情を表現できる幅が広く、ゲームデザイナーの個性を直截に反映することが可能である。 第5に、以上の当然の帰結として、SRPGのプレイヤーは、実際にゲームのストーリーを重視し、これを楽しんでいる。かかる現実を承知しているからこそ、SRPGの販売に際してストーリーに重点を置いた宣伝広告活動が実施され、ゲームソフトの取扱説明書等においてもプレイヤーに対してストーリーを十分に説明しているのである。 以上によれば、ゲームソフトの構成要素のうち、ストーリーこそが最も重要であり、ストーリーが相違するのであれば、映画の著作物としてのSRPGの翻案該当性は否定されるべきである。 これに対して、控訴人らは、トラキア及び被控訴人ゲームのセリフやナレーション部分はキャンセル可能なので、ストーリーは本質的な特徴とはなり得ないと主張する。しかしながら、セリフ部分やナレーション部分をキャンセルできる機能は、同一ゲームを複数回プレイするプレイヤーの便宜のために設定された機能にすぎず、SRPGのゲームを初めてプレイする通常のプレイヤーが、セリフ部分とナレーション部分をすべてキャンセルしながらプレイするとは考えがたい。SRPGのゲームソフトの翻案該当性を判断するに際しては、通常のプレイヤーが通常のプレイをした場合を前提として検討する必要があり、セリフ部分とナレーション部分をキャンセルしたことを前提として検討することは、およそ無意味かつ不当である。 (イ) ゲームシステム ゲームシステムについては、一義的に確定した定義が存するわけではないが、SRPGについていえば、概ね、基本システム、ユニット、パラメータ、アイテム、コマンド、戦闘マップなどが、その具体的な内容をなすものである。ゲームシステムがゲームソフトの構成要素であることは、SRPGに限らず、あらゆるジャンルのゲームソフトの取扱説明書や攻略本等においてゲームシステムに関する記載がされていることからして明らかである。ゲームシステムは、ゲームソフトを構成する要素ではあるが、その大半がゲームのルールというべきものであり、ゲームソフト制作に際してのアイデアにすぎない。もとより、あるゲームシステムに基づき画面上に具体的に表現されたゲーム影像、音声、音楽等は、著作権法上の保護の対象となるが、この場合も、単なるルールにすぎないかどうかを慎重に検討すべきであり、具体的な表現方法について選択肢がほとんどないような場合には創作性が否定されるべきである。 ただし、SRPGのゲームソフトの翻案該当性を判断するに際して、異なるゲームシステムが採用されていることをもって、翻案該当性を否定する一つの事情として取り扱うことは許されるというべきである。ゲームシステムは、著作権法の保護対象である表現そのものではないが、SRPGのゲームソフトの構成要素であることは間違いなく、SRPGのゲームソフトのプレイヤーがSRPGをプレイすれば、そのプレイを通じて、ゲームシステムの内容を認識することになる。ゲームシステムやゲームバランスなどの相違による影響も含め、プレイ終了後にプレイヤーが2つのSRPGのゲームソフトに抱いた印象がそれぞれ異なれば、一方のSRPGのゲームソフトが他方のゲームソフトの翻案に当たることはあり得ない。 (ウ) ゲームの場面(各場面における影像表現を含む。) ゲームの場面と各場面における影像表現(デザイン)もSRPGのゲームソフトを構成する要素の1つである。SRPGにおける場面の種類としては、例えば、@オープニングの場面(タイトル表示の画面を含む。)、A全体マップの場面、B戦闘マップの場面、C切替戦闘アニメーションの場面、D会話、イベントなどの場面(クラスチェンジの場面を含む。、Eエンディングの場面等が存在する。 SRPGのゲームソフトにおいて、これらの場面の中から、どのような種類の場面を採用し(例えば、全体マップの場面を採用するのか否か)、どのような順序で各場面を展開させるかは、ストーリーやゲームシステムと密接不可分に関連する事項であり、ゲーム制作上のアイデアというべきものである。 これに対して、SRPGのゲームソフトの各場面の画面上において、動画又は静止画をもって表示される具体的な影像表現(デザイン)は、著作権法上の保護の対象となる表現である。しかしながら、SRPGの各場面における影像表現は、通常の映画の著作物と比較すると、ゲームソフトに内在する多くの制約のために、作成者の思想や感情が創作的に表現される範囲が限定される。とりわけ、トラキアは、デザインに定評のある他のゲームソフト(例えば、スクエア社の「ファイナルファンタジー」)と異なり、デザインにはさほど重点が置かれておらず、プレイヤーの間においても、そのデザインに対する評価は低い。したがって、トラキアの表現上の本質的な特徴が、デザインに現れることはないというべきである。 (エ) キャラクター キャラクターもSRPGのゲームソフトの構成要素の1つである。SRPGは、キャラクターに感情移入をしつつ、そのキャラクターを成長させることが、プレイする楽しみの源泉であるから、登場するキャラクターが異なることは、SRPGのゲームソフトの翻案該当性の判断において重視されるべき事項である。ただし、翻案該当性の判断に当たっては、第1に、キャラクターの容姿、容貌、髪型、服装、装飾品等の外形的部分のみならず、その人物設定の相違も考慮すべきであり、第2に、キャラクターの外形的部分の背後にある表現手法やアイデアの創作性、キャラクター自体の創作性の高低についても考慮する必要がある。キャラクターの外形的部分の背後にある表現手法やアイデア、キャラクター自体の創作性が低い場合には、キャラクターの外形的部分に係る表現の保護範囲も狭くなる。 (オ) 音楽 ゲームにおける音楽は、プレイヤーがプレイをしている最中、同じ旋律が繰り返し奏でられることが多いため、通常の映画音楽と比較しても、プレイヤーの耳に残りやすく、各ゲームソフト固有の印象を与える重要な要素となっている。しかも、ゲームにおける音楽は、画面表示によって伝えられる各種の情報や状況を聴覚に訴える方法で補充する効果も有しているから、ゲームバランスに影響を与える一要素でもある。 (4) 「戦闘マップをプレイする場面」がトラキアの本質的部分であるとの控訴人らの主張に対して 控訴人らは、「戦闘マップをプレイする場面」の視聴覚表現がトラキア及び被控訴人ゲームの本質をなす部分であると主張する。 (ア) しかしながら、「戦闘マップをプレイする場面」においても、上記各要素はすべて存在するのであるから、同場面が他の場面と比較して特に特徴的であるとはいえない。ストーリーについても、「戦闘マップをプレイする場面」においてセリフなどによって表現され、戦闘マップをクリアすることがストーリーを進めることになるのであるから、ストーリーと「戦闘マップをプレイする場面」は密接不可分な関係にあるといってよい。また、SRPGのゲームソフト一般においては、「戦闘マップをプレイする場面」以外の場面でもプレイすることが可能であり、被控訴人ゲームにおいても、全体マップにおけるプレイが重要な役割を担っているのであるから、この点においても「戦闘マップをプレイする場面」が特徴的であるとはいえない。 以上のとおり、「戦闘マップをプレイする場面」がトラキアのゲームソフトの本質的な部分ということはできない。 (イ) また、控訴人らは被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」のみを侵害物件とする旨の選択的主張を行い、その場合には全体マップをプレイする場面を考慮することが許されないと主張するが、翻案該当性の判断は被控訴人ゲームに接した者がトラキア全体あるいはトラキアの「戦闘マップをプレイする場面」の表現上の本質的な特徴を直接感得できるか否かによって判断されるのであるから、被控訴人ゲームの戦闘マップ以外の場面の存在及びその内容が考慮されることは当然であり、控訴人らの主張は失当である。 (5) トラキアと被控訴人ゲームとの共通する表現 (ア) 控訴人らは、12種類のユニットが登場する点において、トラキアと被控訴人ゲームは共通する旨主張する。しかしながら、トラキアの攻略本、雑誌記事等には、トラキアに登場するユニットが12種類に分類されるとの記載はなく、この分類は、控訴人らが独自に編み出したものである。任天堂公式ガイドブックにおけるユニットの分類は、控訴人らの主張とは全く異なっており、その職業(兵種)という唯一の基準にきちんと着目して、@騎士系、A戦士系、B魔道師系、Cシーフ系、D踊り子系と分類されている。したがって、12種類のユニットなるものは、そもそもトラキアと被控訴人ゲームに共通するものではなく、まして、トラキアの表現上の本質的な特徴を構成しているものではない。 (イ) 控訴人らは、「本質的ストーリー」「基本ストーリー」なる用語を使用しているが、「ストーリー」とは、一般的には、「物語。小説・脚本等の筋。」(岩波国語辞典第5版)を意味する言葉であり、控訴人らの「本質的ストーリー」「基本ストーリー」との用語は、「ストーリー」という言葉の通常の意味とは異なる、独自の定義である。 (6) 本件共通表現の創作性 (ア) 控訴人らは、創造性の有無を判断するに当たり、まとまりのある表現を細分化して判断すべきではないと主張する。被控訴人らとしても、例えば、言語の著作物について、単語レベルまで細分化して翻案該当性を判断すべきではないということに異論はない。なぜなら、言語の著作物である小説に通常の接し方で接する場合は、通常は、最低でも1つの文章あるいは1つの段落程度のまとまりを一気に読み通すことが通常の読み方であるからである。 しかしながら、SRPGの場合、画面上に表示される影像表現は、プレイヤーの一つ一つのプレイによって変化するから、本件共通表現に記載されたとおりの順序で画面上に表示されることはまれである。しかも、プレイヤーが一度選択したプレイをキャンセルする場合もあるから、その影像表現は、常に順序よく変化していくとは限らず、しばしば逆転する。したがって、本件共通表現が連続的な表現の最小単位というのは誤りであり、ゲームソフトの影像表現を分析的に検討する場合における有意な最小単位は、プレイヤーの1回のプレイに応じて変化する一つ一つの影像表現であると理解するのが相当である。 (イ) 本件共通表現に関する創作性の有無及び程度についての詳細は別紙2「トラキアと被控訴人ゲームの構成要素ごとの相違部分及び共通部分に関する被控訴人らの主張」記載のとおりであるが、「戦闘マップをプレイする場面」の表現については、SRPG、RPG、SLGなどの同種ゲームに通常見受けられるありふれた表現が多く採用されている結果、通常の映画の著作物と比較すれば、アイデアと考えられる範囲が広く、創作者の個性が創作的に表現される範囲は著作物の表層に現れた部分に限定される。したがって、本件共通表現は、いずれもアイデアなど表現それ自体ではないか、表現上の創作性を有しないものであり、仮に、創作性の要件を緩やかに解釈して創作性を認めるとしても、その創作性の低さに照らせば、著作物としての保護範囲は狭いというべきである。 (7) トラキアと被控訴人ゲームの相違する表現形式の存否と評価 著作物の「本質的な特徴」の感得性の存否を判断するに際しては、侵害されたと主張されている著作物には存在せず、侵害したと主張されている著作物のみに存在する付加的要素の有無や、両者の質的、量的な相違に着目する必要がある。 トラキアと被控訴人ゲームの相違部分の詳細は、別紙2記載のとおりであるが、例えば、被控訴人ゲームでは、トラキアと共通するエピソードは一切存在しないことはもとより、テーマとストーリーが新たに創作され、@リュナンとホームズの2人の主人公がそれぞれの部隊を率いる2部隊制となり、Aそれに伴ってプレイヤーが大がかりな編成(ユニットやアイテムの入替えなど)をすることが可能になっている。また、被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」に関しても、戦闘マップ、戦闘背景画面、イベント背景画面、キャラクター、ゲーム音楽をすべて新たに制作し、被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」全体の分量も極めて多くなっている。この結果、被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」にはトラキアの「戦闘マップをプレイする場面」には全く存在しない多種多様な表現が大幅に付加されている。 したがって、トラキアと被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」を、全体的・総合的に観察すれば、被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」に接した者が、トラキアの「戦闘マップをプレイする場面」の表現上の本質的特徴を直接感得することは不可能である。 (8) 全体的・総合的観察 (ア) 控訴人らは、ゲームソフト全体とゲームソフト全体、あるいは「戦闘マップをプレイする場面」と「戦闘マップをプレイする場面」との類否判断をするに際して、個別的観察を行うことなく、全体的観察のみを行うべきである旨主張するが、SRPGのゲームソフト全体あるいは「戦闘マップをプレイする場面」は、複合的著作物であるから、@ストーリー、Aゲームシステム、Bゲームの場面、Cキャラクター、D音楽という主たる構成要素に着目し、各構成要素同士を比較することが必要不可欠である。このような構成要素毎の比較をすることなく、直ちに全体的観察のみを行うことなどおよそ不可能であり、全体的観察のみではゲームソフト全体の類否判断としては不十分である。 そこで、ゲームソフトの各構成要素ごとに、トラキアと被控訴人ゲームの共通する部分及び相違する部分を取り上げ、その創作性の有無、程度を比較すると、別紙2記載のとおりである。 前記のとおり、被控訴人ゲームとトラキアのゲームソフトを構成する各構成要素のうち、ストーリーこそがトラキアの最も特徴的な要素というべきであるから、SRPGのゲームソフトの翻案該当性の判断に際し、両ゲームソフトのストーリーが全く異なっていることは最大限重視されなければならない。また、その他の構成要素についても、別紙2記載のとおり、トラキアと被控訴人ゲームには、具体的表現における大きな相違点が多数存在する。 他方、トラキアと被控訴人ゲームに共通する部分は、その大半が、ゲームシステム、ルール、表現手法等の表現それ自体ではないアイデアにすぎず、アイデアとしてもありふれている。また、両ゲームに共通する表現といえる部分についても、他のゲームソフトにおいても採用されているありふれた表現ばかりであって、到底、トラキアを特徴付けるような表現ではない。 さらに、トラキアと被控訴人ゲームのゲームバランスに着目すれば、両ゲームには、それぞれ固有かつ独自のゲームバランスが形成されており、各種ゲーム雑誌における被控訴人ゲームに対するプレイヤーの評価や感想を見ても、被控訴人ゲームのプレイヤーが、被控訴人ゲーム固有のゲームバランスを感得していることが窺われる。被控訴人Aは、トラキアと被控訴人ゲームの各ゲームソフトの制作に際し、多大なエネルギーを投入して、長時間にわたりバランス調整を自ら行ったのであって、その結果完成した各ゲームソフトが、それぞれ固有のゲームバランスを備えているのは当然である。したがって、被控訴人ゲームをプレイしたプレイヤーが、被控訴人ゲームとは異なる独自のゲームバランスを備えたトラキアの表現上の本質的な特徴を直接感得することもあり得ない。 (イ) なお、控訴人らは、トラキアと被控訴人ゲームに共通する部分について「質」と「量」の両面から評価をすることによって、翻案該当性を判断すべきであると主張するところ、被控訴人らとしても、創作性の「質」及び「量」の両面を考慮することについては異論がない。しかし、本件共通表現は、他のSRPGなどのゲームソフトにしばしば見受けられる表現手法や表現であって、何らトラキアに特徴的なものではなく、創作性が高いものではない。また、控訴人らは、被控訴人ゲームにおいて本件共通表現が大量に使用されていると主張するが、SRPGやSLGのゲームソフトにおいては、プレイヤーの操作上の便宜や制作コストの観点から、同じゲームシステムに基づく類似した場面が頻繁に繰返し登場することは当然であり、大戦略型のSLGシステムを採用したことに起因する本件共通表現が登場する回数の多さをもって、翻案該当性を肯定するのは誤りである。 (ウ) また、控訴人らは、翻案該当性の判断として「表現をそこまで類似させる必然性があるのか」との点も考慮すべきであると主張する。しかしながら、本件においては、トラキアと被控訴人ゲームのゲームデザイナーが同一人物である以上、ゲームソフトの表現にある程度似通った印象を与える部分が生じることは当然というべきである。むしろ、翻案該当性が問題になっている著作物の制作者が同一人物である場合には、作風、世界観その他の共通性が存在することは必然であり、このような事情は翻案該当性を緩和する方向に考慮すべきである。ゲームシステムのオリジナルな発案者でもない控訴人らが、著作権法に基づき、その独占を求めることは、わが国のコンピューターゲーム文化の発展を阻害し、その未来を閉ざすに至るものである。 (9) 翻案該当性(結論) 以上のとおり、被控訴人ゲームをプレイした者が、トラキアの表現上の本質的な特徴を直接感得することはあり得ず、被控訴人ゲームはトラキアの翻案に当たらない。 3 トラキアへの依拠の有無 著作物の創作行為は、創作者の思想又は感情を、その個々の著作物の創作時において具象化して創作的な表現形式として結実させるものであり、また、各著作物は、創作者の精神的活動による創作者人格の発露としてそれ自体が創作者固有の個性を備えるに至るものであるから、同一創作者による複数の著作物の創作行為は、それぞれが相互に独立した新たな著作物を創造するものである。すなわち、ある著作物と別の著作物の制作者が同一である場合には、制作者は、制作時ごとに、独自に個々の制作行為を行うのであって、自己のものとはいえ既存の著作物に依拠して制作するわけではない。制作者が同一である場合には、同一制作者の著作物の創作行為について、当該制作者の創作した従前の著作物に対する依拠が観念できるとしても、その場合の依拠は、無意識の依拠にすぎない。したがって、本件のように制作者が同一人物である場合には、当該人物の創作行為は、当該人物が従前創作した著作物に対する依拠が否定され、著作権侵害を構成しない。 4 被控訴人の故意又は過失 被控訴人らの故意又は過失についての控訴人らの主張は争う。 5 損害 損害額に関し、被控訴人らは、使用料相当額が売上高の10%を下回らないと主張するが、これは何ら証拠に基づかない不当な請求というほかない。 6 まとめ 以上によれば、被控訴人らの行為はトラキアの著作物の翻案には該当しないのであるから、控訴人らの差止請求及び損害賠償請求はいずれも理由がない。 第4-2 不正競争防止法に基づく請求(予備的請求)について (控訴人ら) 1 商品等表示 本件において、控訴人らが控訴人ゲームの商品等表示として主張するのは、@控訴人ゲームのゲームタイトルである「ファイアーエムブレム」との表示、A控訴人ゲームの略称ないし愛称である「エムブレム」との表示、B別紙3「控訴人らの主張する商品等表示としての影像及びその変化の態様」中の「本件影像商品表示目録」に記載された影像表示及びその変化の態様である(以下、これらの商品等表示を総称するときは「控訴人商品等表示」という。)。(なお、以下、別紙3中の上記目録を「控訴人ゲーム影像表示目録」、同目録に記載された影像表示及びその変化の態様を総称して「控訴人ゲーム影像表示」といい、同目録1ないし3に記載された影像表示を個別に指す場合には、それぞれ「控訴人ゲーム戦闘場面影像表示」「控訴人ゲーム主人公影像表示」「控訴人ペガサスナイト影像表示」という。) 本件において、控訴人らが、被控訴人ゲームの商品等表示として主張するのは、@「エムブレムサーガ」との表示、A上記別紙3中の「イ号物件影像表示目録」に記載された影像である。(以下、被控訴人ゲームについても控訴人ゲームにならって略称する。)。 2 控訴人イズの「他人」該当性 控訴人イズは、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「他人」に該当するから、不正競争防止法に基づく請求主体として認められるべきである。 (1) 不正競争防止法2条1項1号、2号が、商品主体又は営業主体の混同を生じさせる行為を不正競争行為と規定した趣旨は、他人の商品又は営業との誤認混同を生ぜしめる行為を防止することにある。したがって、このような行為によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者が、この不正競争行為から保護されるべき「他人」、すなわち商品主体又は営業主体であると解すべきである。 これに対し、被控訴人らは、不正競争防止法2条1項1号、2号の請求主体を当該製品の製造、販売等の業務に主体的に関与する事業主体に限られると主張するが、同各号にいう「他人」には、製造販売業者に限らず、使用許諾を受けて主体的に関与する者も含まれる(最三小判昭和59年5月29日民集38巻7号920頁(以下「アメリカンプロフットボール事件上告審判決」という。)参照)。控訴人イズのように、商品の製造販売実施権を第三者に独占的に付与した者にとって、当該商品の製造販売を自ら行わないことは、契約上、むしろ当然というべきであるから、被控訴人らの主張する基準は不正競争防止法上の請求主体の範囲を不当に限定するものである。 (2) 控訴人イズが、被控訴人らの不正競争行為によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者に該当することは、以下の事実から明らかである。 (ア) 控訴人イズは、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトの開発を、昭和63年10月ころから開始し、それ以来、現在に至るまで継続している。 (イ) 控訴人イズは、控訴人ゲームの製造販売権を控訴人任天堂に独占的に使用許諾し、もって、控訴人ゲームの売上げの中から控訴人ゲームの開発に要する控訴人イズの経費及び利益を製造販売許諾の対価(ロイヤルティ)として取得している。 (ウ) 控訴人イズは、「ファイアーエムブレム」(商標登録第3174176号)及びその略称の「エムブレム」(商標登録第4510013号)について単独で商標登録を取得し維持管理している。 (エ) 控訴人イズは、控訴人ゲームに対する需要者の信頼を維持するべく、ゲームソフトの品質を保証している。 (オ) 控訴人イズは、控訴人ゲームに関する商品化事業の窓口業務を控訴人任天堂に委託し、控訴人ゲームの商品化許諾契約により得た許諾料を控訴人任天堂と分配して取得している。また、控訴人イズは、控訴人ゲームの商品化権の使用許諾契約を通じ、あるいは商品化業務の遂行により、その品質管理・監修を行っている。 (カ) 控訴人イズは、業として、控訴人ゲームの制作及び使用許諾を通じた製造、販売、商品化事業の展開を10年以上もの長期にわたって継続し、控訴人ゲーム表示の出所表示機能、品質保証機能、顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的の下に、控訴人任天堂と共に緊密な営業活動を行ってきた。 (3) 被控訴人らは、不正競争防止法に基づく請求主体となるためには、需要者・取引者から見て、当該商品の製造者若しくは販売元又は当該営業の主宰者として認識されることが必要であるなどと主張する。しかしながら、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「他人性」の認定で問題となるのは、冒用者の冒用の認識であって、需要者の認識ではない。本件においては、被控訴人らの冒用の認識は十分に認められる。 さらに、「他人性」を特定のための要件と理解した場合でも、特定性の問題はあくまで需要者からみて、ある特定の商品や営業をその他の者の商品や営業から識別するものとして当該商品等表示が知られているかどうかの問題である。したがって、特定性を充足するためには、それ以上に識別された商品や営業の主体の名称までもが周知である必要はない。本件についていえば、控訴人ゲームの商品等表示が控訴人ゲームをその他のゲームソフト商品から識別するものとして知られていればそれだけで特定性を充足するものであり、それ以上に、控訴人ゲームの主体として控訴人任天堂と控訴人イズが含まれていることまで知られている必要はない。 (4) 以上のとおり、控訴人イズも不正競争防止法に基づく請求主体と解すべきであるが、仮に、控訴人イズが請求主体と認められない場合には、控訴人任天堂は、上記第1の2(4)のとおり、追加(増額)請求を行う。 3 周知又は著名な商品等表示 3-1 「ファイアーエムブレム」との表示の周知性又は著名性 控訴人ゲームのゲームタイトルである「ファイアーエムブレム」との表示は、需要者の間で周知又は著名である。 (1) 「ファイアーエムブレム」表示のうち、火を意味する「ファイア」又は「FIRE」も、紋章を意味する「エムブレム」又は「EMBLEM」も、商品としてのゲームソフトとは何ら関連性のない文字表示であるから、これらを組み合わせてカタカナ表記した「ファイアーエムブレム」との表示は、控訴人ゲームについて自他商品識別力を有する。 (2) 控訴人ゲームの周知性又は著名性の判断の基礎となる需要者の範囲は、SRPGの需要者と解すべきである。この点、被控訴人らは、本件における需要者の範囲は、家庭用テレビゲーム機向けゲームソフトのユーザー全体か、あるいはSLG、RPG、SRPGの3つのジャンルのゲームソフトを合計した層ととらえるべきであると主張する。しかしながら、不正競争防止法における「需要者」の意義は、類似表示使用者の商品又は営業の需要者のことであると解されるところ、被控訴人らは、被控訴人ゲームをSRPG分野に属するゲームソフトと表示し、広告宣伝及び販売をしたものであるから、本件における需要者はSRPGのユーザーにほかならない。 (3) 「ファイアーエムブレム」表示がSRPGの需要者の間で周知又は著名であることは、以下の(ア)ないし(エ)から明らかである。 (ア) ファイアーエムブレム・シリーズについては、ゲーム雑誌による宣伝広告、ゲーム内容の紹介記事の掲載、テレビコマーシャルによる宣伝広告活動が多数なされた。これらの宣伝広告等を掲載したゲーム雑誌の発行部数は、それぞれ1回当たり数十万部にのぼる。また、テレビコマーシャルについては、その放映地域は全国にわたっており、東京地区、大阪地区だけでも、30秒コマーシャルの延べ放映本数は、1070本に及ぶ。控訴人ゲームに関するこうした雑誌、テレビにおける宣伝広告活動のため、控訴人任天堂は、平成8年5月末現在で、総額14億1339万円を支出した。 (イ) ファイアーエムブレム・シリーズの販売本数をみると、暗黒竜と光の剣が32万9087本、外伝が32万4699本、紋章の謎が77万6338本、聖戦の系譜が49万8216本、トラキアが10万6108本、合計203万4448本という売れ行きを示している。ファイアーエムブレム・シリーズは、SRPG分野に属し、その需要者は、RPGのユーザーの10分の1である。こうした点に鑑みると、控訴人ゲームの販売本数は周知性又は著名性を獲得するのに十分な数の販売本数というべきである。 (ウ) ファイアーエムブレム・シリーズは、ゲーム雑誌において、売上げランキング又は読者人気ランキングなどで上位にランクされた。例えば、暗黒竜と光の剣は、「ファミコン必勝本」平成2年5月18日号において発売前の読者の期待ランキングが第2位となっており、また、外伝は、「ファミリーコンピュータMagazine」平成4年4月17日号、「ファミコン通信」平成4年4月10日号及び「マル勝スーパーファミコン」平成4年4月24日号において、売上げランキングが第1位となっている。紋章の謎、聖戦の系譜、トラキアについても、同様に、ゲーム雑誌における売上げランキングが第1位にランクされている。さらに、ファイアーエムブレム・シリーズ第1作である暗黒竜と光の剣は、ファミコン発売開始の20年後の平成15年の時点においても、すべてのファミコンソフトの中で、元祖SRPGとして又はSLGとして第1位と評価されている。 (エ) ファイアーエムブレム・シリーズについては、攻略本、コミック、小説、ゲームブック、4コマ漫画、イラスト集、楽譜、CD、LD、オリジナルビデオ、トレーディングカードなど多種類にわたる商品化事業が行われている。 (4) 以上のとおり、「ファイアーエムブレム」との表示は、需要者の間で周知又は著名である。 3-2 「エムブレム」との表示の周知性又は著名性 「ファイアーエムブレム」の愛称ないし略称である「エムブレム」との表示は、需要者の間で周知又は著名な商品等表示である。 (1) 「エムブレム」表示は、需要者間で自然発生的に周知となった愛称ないし略称である。このように、需要者の間で、愛称、略称等として広く認識されるに至った表示についても商品等表示性は認められ、商品等表示主体・営業表示主体自らが当該愛称ないし略称を使用していない場合であっても、周知性は肯定されている(最一小判平成5年12月16日判時1480号146頁(アメックス事件))。 (2) 「エムブレム」は、周知又は著名なファイアーエムブレム・シリーズにおいて、ゲームタイトルの一部としてのみならず、シリーズを象徴するモチーフとして、第1作から第5作まで10年余りにわたって継続的に使用されている。これにより、「エムブレム」表示はファイアーエムブレム・シリーズを象徴し、他との識別力を有する称呼、観念、外観を獲得した。 また、英語の「EMBLEM」のカタカナ表記は「エンブレム」であり、「エムブレム」との表記は、旧仮名遣い表記を用いる点で現代においては特徴的な表示である。さらに、現在に至るまで、「ン」ではなく「ム」を用いる「エムブレム」をゲームタイトルに含むゲームソフトは、被控訴人ゲーム以外には控訴人ゲームしか存在しない。このような事実からも、「エムブレム」が自他商品識別力を有することは明らかである。 (3) 「エムブレム」との表示は、以下のとおり、ファイアーエムブレム・シリーズを示すものとしてSRPGの需要者の間で頻繁かつ広汎に使用され、周知又は著名となっている。 (ア) ファイアーエムブレム・シリーズは、多数のゲーム雑誌、攻略本等において「エムブレム」と略称して掲載又は紹介され、また、数え切れないほどのインターネットサイトで「エムブレム」と略称されて取り上げられている。 (イ) 控訴人ゲームのファンは、「エムブレマー」と呼ばれ、控訴人イズのホームページにあったファイアーエムブレム・シリーズのファン用のページの名称は「EMBLER'S ROOM(エムブラーズルーム)」であった。 (ウ) 控訴人ゲームを指すものとしての「エムブレム」のカタカナの使用例においては必ず「ム」を用いる「エムブレム」の表記がなされており、需要者が、単なる「エンブレム」と区別して「エムブレム」を控訴人ゲームを意味する特殊な名称として記載していたことを示している。 (4) 被控訴人らは、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトには、「エムブレム」だけではなく、「FE」という略称も存在したから、「エムブレム」表示は商品等表示性、周知・著名性ともに得ていないと主張する。しかしながら、SRPGの需要者にとっては、略称「エムブレム」又は略称「FE」のいずれに接しても、正式名称「ファイアーエムブレム」を想起し得るものであるから、「エムブレム」の他に「FE]という略称が併存したとしても、「エムブレム」の周知性又は著名性を否定する理由にはならない。 また、被控訴人らは、「エムブレム」表示が単独で使用される回数を問題にする。しかしながら、「エムブレム」のように需要者の間で自然発生的に使用されるに至った愛称ないし略称の周知性は、需要者による使用例において判断するべきである。被控訴人らが正式名称と併記されていると主張する例はもっぱらゲーム雑誌の表紙の記載であるが、雑誌の表紙における「エムブレム」の単独使用の回数の多寡にかかわらず、インターネットなどにおいて需要者は「エムブレム」を単独で広く多用している事実が認められるのであるから、単独使用の多寡は周知性又は著名性の判断に影響を与えるものではない。 (5) したがって、「エムブレム」との表示も、周知又は著名な控訴人ゲームの商品表示である。 3-3 控訴人ゲーム影像表示の周知性又は著名性 控訴人ゲーム影像表示目録記載のゲーム影像及びその変化の態様は、需要者の間で周知又は著名な商品等表示である。 (1) 「他人の商品等表示」にかかる不正競争防止法2条1項1号かっこ書きは条文の文言上も限定列挙ではないから、商品ないし営業を示すものとして需要者の間に広く認識されているものは同号にいう「商品等表示」に該当する。したがって、ゲームの各種影像とゲームの進行に応じたその変化の態様も、自他商品識別機能を備えるに至った場合には、商品等表示性が認められ不正競争防止法による保護の対象となる(東京地判昭和57年9月27日無体集14巻3号593頁(「スペースインベーダーゲーム事件判決」という。)、京都地決昭和57年7月5日(甲219、ドンキーコング事件仮処分決定)参照)。被控訴人らは、上記スペースインベーダー事件判決に言及して、ゲーム影像及びその変化の態様は、本来的には商品等表示ではないから、これが商品等表示となり得るのは極めて例外的な場合のみであると主張する。しかしながら、上記のとおり、商品等表示の種類には限定はないのであるから、ゲーム影像表示について被控訴人らが主張するような厳格な立証が必要であると解すべき根拠はない。 (2) 大多数の需要者は、ゲームソフト購入前に、ゲーム雑誌、テレビコマーシャル、チラシ、販売店の店頭の販売促進ビデオ、ポスター、ゲームショーでの展示、体験版、ゲームソフトパッケージなどで、ゲームソフトの特徴的なゲーム影像を見た上で、購入の意思決定を行う。特に、シリーズ作品の場合、需要者は上記のような宣伝媒体のゲーム影像を見て、従前のシリーズ作品と特徴が変わらないことや新たに追加された点を確認して購入の意思決定をなす。このように、宣伝媒体に表示されたゲーム影像及びその変化の態様は需要者に対する商品等表示そのものであるということができる。 (3) このように商品等表示性を有する控訴人ゲーム影像表示は、トラキア発売時である平成11年9月時点において、又は、遅くとも被控訴人ゲームの発売のための広告宣伝当時には、SRPGの需要者の間で、周知又は著名であった。 (ア) ファイアーエムブレム・シリーズの第1作である暗黒竜と光の剣は元祖SRPGとしてその独創性が高く評価され、ファミコン発売開始の20年後の平成15年時点においても、ファミコンソフトの中でSLGの第1位と評価されている。また、控訴人ゲームの販売数量はシリーズ第5作までで全体で約200万本を超えるものであり、控訴人ゲームは、名実ともにSRPGの元祖、筆頭たるべき周知性又は著名性を有する。 (イ) 控訴人ゲームは、平成2年に第1作を発売して以来、控訴人ゲーム影像表示目録記載の西洋中世の世界観のもと、各ゲームソフトの全編にわたって同主人公影像表示で表示された少年王子を中心とする個性あるユニットが、控訴人ゲーム戦闘場面影像表示で表示された戦闘場面を繰り返すことにより、マップをクリアしてゲームクリアを目指すという基本的な形態を保持し、同ペガサスナイト影像表示はその特徴的なゲーム影像であった。そして、このような控訴人ゲーム影像表示は、平成2年以来、今日まで、チラシ広告、テレビコマーシャル、ゲーム雑誌等の広告宣伝活動や商品パッケージ自体に広く用いられてきた。 (ウ) 控訴人ゲーム影像表示は、原判決及び被控訴人らが引用した公知ゲームのいずれとも明らかに異なる独自の独創性を有するものであり、控訴人ゲーム戦闘場面影像表示、同主人公影像表示、同ペガサスナイト影像表示を併せて使用するゲームソフトは、被控訴人ゲーム以外には存在しない。 (4) 被控訴人らは、控訴人ゲームに関するゲーム雑誌の記事には、控訴人らが控訴人ゲーム影像表示目録において特定した影像表示とは異なるゲーム影像の方が多く掲載されていると主張する。しかしながら、ゲーム雑誌においては、需要者に新作ゲームの情報提供を行うことにより宣伝広告をするものであるから、前号の雑誌においてすでに掲載した同じゲーム影像や同じ情報を次号において繰り返し再度掲載することはまずない。控訴人ゲーム影像表示目録で特定したゲーム影像の掲載回数が控訴人ゲームに関する記事の掲載回数より少ないのは、このようなゲーム雑誌による情報提供の特性に基づくものであるから、控訴人ゲーム影像表示の周知性に影響を与えるものではない。 (5) 以上のとおり、控訴人ゲーム影像表示目録記載のゲーム影像及びその変化の態様は、需要者の間で周知又は著名な商品等表示である。 4 控訴人ゲームと被控訴人ゲームの商品等表示の類似性 4-1 控訴人ゲームの「ファイアーエムブレム」表示及び「エムブレム」表示と被控訴人ゲームの「エムブレムサーガ」表示との類似性 控訴人ゲームの「ファイアーエムブレム」表示と被控訴人ゲームの「エムブレムサーガ」表示、控訴人ゲームの「エムブレム」表示と被控訴人ゲームの「エムブレムサーガ」表示は、いずれも類似している。 (1) 「ファイアーエムブレム」表示のうち、自他商品識別力の中心となる要部は「エムブレム」である。すなわち、「エムブレム」は、ファイアーエムブレム・シリーズを指すものとしてSRPG分野の需要者間に広く呼び慣わされてきた略称であり、「ファイアーエムブレム」を「ファイアー」と略称することはない。また、「エムブレム」は、「エンブレム」ではなく「エムブレム」という旧仮名遣い表記による、現代においては造語的印象をもつ特徴的表記であり、「エムブレム」の語を含むゲームタイトルは、ファイアーエムブレム・シリーズ以外には被控訴人ゲームしか存在しないのに対し、「ファイアー」をタイトルに含むゲームは、「ファイアーボール」「スーパーファイアープロレスリング」など多数存在する。したがって、「エムブレム」との部分が他のゲームソフトとの識別力を有する要部であることは明らかである。この点、被控訴人らは、「エムブレム」は一般に周知の外来語であるから要部とはなりがたいと主張するが、かかる被控訴人らの論理は、国語辞典に掲載された用語は一般に周知であるから要部になり得ないと主張しているにすぎず、失当である。 他方、被控訴人ゲームの「エムブレムサーガ」との表示のうち、「サーガ」は、通常、「伝説」や「物語」を意味するものとして、ゲームや小説の末尾部分に付されるものであって、ゲームの名称の一部としてはありふれており、「サーガ」のつくゲームは「リグロードサーガ」「ファーランドサーガ」「ラスタンサーガU」など多数存在する。また、「サーガ」は、「エムブレム」と異なり、造語的な印象を与えない。これに対し、「エムブレム」をゲームタイトルに含むゲームは、被控訴人ゲーム以外では、ファイアーエムブレム・シリーズしか存在せず、「エムブレム」が造語的印象をもつ特徴的表記であることは上記のとおりである。したがって、「エムブレムサーガ」表示においても、「エムブレム」の部分が自他商品識別力を有する要部である。この点、被控訴人らは「サーガ」は英語に堪能な者でなければ何の観念も生じないなどと主張しているが、「サーガ」は広辞苑等の最も普及している国語辞典において掲載されており、需要者も「サーガ」を「物語」を意味する一般用語と理解しているのであって、被控訴人らの主張は失当である。 そうすると、「ファイアーエムブレム」又は「エムブレム」表示と「エムブレムサーガ」表示の要部は、いずれも「エムブレム」ということになり、その外観、称呼、観念において同一である。 (2) また、商品等表示及び営業表示の類似性については、現実の使用状況を斟酌して、商品の出所又は営業主体につき混同を惹起するおそれがあるか否かによって判断される(最二小判昭和58年10年7日民集37巻8号1082頁(以下「ウーマンパワー事件判決」という。))。本件では、「エムブレム」表示は、ファイアーエムブレム・シリーズのタイトルに使用されているのみならず、その意味するところの紋章はファイアーエムブレム・シリーズを象徴する重要なモチーフとして第1作から第5作に至るまで継続的に使用されてきた。このような状況の下、被控訴人は、「エムブレム」を含むタイトルを付し、しかも、控訴人ゲーム同様、紋章を重要なモチーフとして使用するSRPGである被控訴人ゲームを制作し、その販売のための広告宣伝を開始したものである。かかる取引の実情に照らすと、被控訴人ゲームに接した需要者は、被控訴人ゲームを「ファイアーエムブレム」と同一又は関連する出所からのシリーズ作品と誤認・混同するおそれがある。 (3) 以上のとおりであるから、「ファイアーエムブレム」表示と「エムブレムサーガ」表示、「エムブレム」表示と「エムブレムサーガ」表示は、いずれも類似しているということができる。 4-2 控訴人ゲーム影像表示と被控訴人ゲーム影像表示との類似性 控訴人ゲーム影像表示と被控訴人ゲーム影像表示は、類似している。 (1) 控訴人ゲーム影像表示と被控訴人ゲーム影像表示は、控訴人ゲーム影像表示目録及び被控訴人ゲーム影像表示目録に文章で詳細に記載した特徴点のすべてにわたって一致している。すなわち、控訴人ゲーム影像表示及び被控訴人ゲーム影像表示の戦闘場面影像表示、主人公影像表示、ペガサスナイト影像表示は、単に「トップビューから1対1のサイドビューに切りかわる」「髪の色が青い」「ペガサスに乗ることのできる三姉妹が登場する」という、大まかなレベルの点だけが共通するのではなく、それ以外にも、同各目録本文に文章で詳細に列挙した具体的な特徴点のすべてにわたって一致している。これは、同各目録に添付された「別紙3@対比」ないし「別紙3B対比」から一見して明らかである。 (2) 需要者は、購入前にゲーム影像を見て内容を知ってから購入するものであり、販売者は、発売前に、あらかじめ、取引者又は需要者の注意を引きつけるゲーム影像を、雑誌広告やテレビコマーシャル、販売促進ビデオなどで表示することにより、購買意欲を喚起する。したがって、控訴人ゲーム影像表示と被控訴人ゲーム影像表示との共通する特徴点は、取引者又は需要者の注意を引きつける要部に他ならない。 (3) 類似性判断は、その商品・役務にかかわる、ある特定の商品等表示だけで判断すべきではなく、当該商品にかかわるすべての商品等表示を全体として観察して判断するべきものである。本件における前記のとおりの取引の実情に照らすと、遅くとも、被控訴人ゲーム発売のための広告宣伝を開始した当時、「エムブレムサーガ」との名称に接したSRPG需要者は、ファイアーエムブレム・シリーズを想起し得る状態にあったということができる。そうしたところ、被控訴人らは、控訴人ゲームの周知性にただ乗りすべく、被控訴人ゲームの宣伝広告において、被控訴人ゲーム影像表示を控訴人ゲーム影像表示と同様の態様で使用し、需要者に対してもこのような態様で使用していることを積極的に宣伝広告してきたものである。したがって、需要者としては、控訴人ゲーム影像表示と被控訴人ゲーム影像表示を全体として類似していると受け取るおそれが極めて高かったということができる。 5 混同を生じさせる行為 被控訴人らの行為は不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」に該当する。 (1) 上記のとおり、被控訴人らは、需要者の間で周知な控訴人ゲームの商品等表示に酷似する商品等表示を被控訴人ゲームにおいて使用している。このように酷似している商品等表示を使用すれば、特段の事情がない限り、少なくともSRPGの需要者は、被控訴人ゲームの出所が控訴人らであるかのように、あるいは被控訴人ゲームを制作・販売する者が控訴人らから正当な許諾を受けているなどの特別な法律関係があるかのように誤認・混同するおそれがあることは当然である。したがって、本件において、混同のおそれが否定されるためには、混同の懸念を払拭するに足りる市場の状況や、混同を具体的に抑止する打消し行為等が必要である。しかるに、被控訴人らは一切、かかる打消し行為等を行っていない。したがって、被控訴人らの行為が「混同を生じさせる行為」に該当することは明らかである。 (2) 加えて、本件においては被控訴人らによる積極的な混同惹起行為が認められる。 すなわち、被控訴人らは、控訴人ゲームの商品等表示に類似する商品等表示を被控訴人ゲームにおいて使用し、ファイアーエムブレム・シリーズとの関連性を強調する宣伝広告をゲーム雑誌、ポスター、ホームページ、テレビコマーシャル、体験版等の各種宣伝媒体において共同して実行した。例えば、「週刊ファミ通」平成12年1月21日号(甲20、被控訴人エンターブレインの前身である株式会社アスキーが発行したもので、同雑誌の当時の編集長は被控訴人エンターブレインの代表者であるBである。)の被控訴人ゲームの紹介宣伝記事においては、被控訴人ゲームとファイアーエムブレム・シリーズの制作者が同一であることが強調されるとともに、被控訴人A自らが、被控訴人ゲームはファイアーエムブレム・シリーズ5作品と世界観を共通にし、同シリーズに続く4つ目の大陸を舞台とするゲームであることや、同シリーズに登場した人気キャラクターが被控訴人ゲームでも登場することなどをアピールしている。 また、被控訴人らは、平成13年3月8日の被控訴人ゲーム発売予約開始の前に、ファイアーエムブレム・シリーズ第1作から第3作までに登場した人気キャラクターであるペガサス三姉妹が被控訴人ゲームに登場することを告知し、その他にも被控訴人ゲームの宣伝広告において、ファイアーエムブレム・シリーズの人気キャラクターと酷似するキャラクターを繰り返し用いて需要者の購買意欲を喚起している。 このような被控訴人らの積極的な混同惹起行為により、需要者における混同のおそれは一層強まったものである。 (3) さらに、本件では、被控訴人らの積極的な混同惹起行為の結果、需要者の間で混同が現実に生じている。例えば、インターネットのホームページ上の記載、ゲーム雑誌上への投稿、雑誌記事等に見られるように、一般需要者の間には、被控訴人ゲームがファイアーエムブレム・シリーズに連なるゲームソフトであるとの混同が生じ、一般需要者以上に知識を有するはずの販売店や被控訴人ゲームの評論記事においても同様の混同が見られる。 (4) これに対し、被控訴人らは、需要者は、被控訴人ゲームを「新作」「オリジナル作品」「事実上の続編」などであると認識していたのであるから、ファイアーエムブレム・シリーズの続編とは認識していなかったと主張する。しかしながら、仮にそのような認識があったとしても、需要者における混同発生事実を否定する根拠とはならない。 また、被控訴人らは、被控訴人Aの移籍によって需要者の間に事実上の混乱が生じたとしても、それは有名な服飾デザイナーが移籍する場合と同様であって「混同」と評価すべきではないと主張する。しかしながら、被控訴人Aは需要者の一部に知られていたにすぎず、むしろ被控訴人ゲームの知名度を上げるために、被控訴人らは、ファイアーエムブレム・シリーズと被控訴人Aの関係を関連付ける宣伝広告活動を行ったものであり、服飾における有名デザイナーの移籍とは事案を全く異にする。 むしろ、被控訴人Aは、控訴人イズを退職する際、控訴人イズが開発した未完成作である「トゥルーエムブレム」の開発データを持ち出して被控訴人ゲームで使用するとともに、トラキアの開発資料も持ち出したものであり、被控訴人Aが不正競争の意図を有していたことは明らかである。 (5) 以上のとおり、被控訴人らの行為は不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」に該当する。被控訴人らは、前記のとおり、平成13年4月2日ころ、被控訴人ゲームの発売直前にそのタイトルのみを「ティアリングサーガ ユトナ英雄戦記」と変更したが、その後も現在に至るまで被控訴人ゲームの販売を継続し、被控訴人らの不正競争行為によって需要者間に生じた混同のおそれを具体的に抑止する打消し行為は何ら行っていないのであるから、需要者による混同のおそれは現在も引き続き存在する。 6 被控訴人らの故意又は過失 被控訴人らは、控訴人ゲームの商品等表示と類似する商品等表示を使用して被控訴人ゲームを制作、販売したものであり、このような不正競争行為について、故意又は過失が認められる。 すなわち、被控訴人エンターブレイン及び被控訴人ティルナノーグは、被控訴人ゲームを制作、販売した。被控訴人Aは、被控訴人ティルナノーグの代表者としてこれを遂行するとともに、個人としても被控訴人ゲームの制作に主体的に関与した。被控訴人Aは、周知の控訴人ゲームの商品等表示に類似する被控訴人ゲーム商品等表示を使用することにより、需要者の間に控訴人ゲームとの混同が生じるおそれがあることを熟知していた。 また、被控訴人エンターブレイン(分社化前は株式会社アスキー)は、控訴人ゲームのゲーム内容を紹介した雑誌(「週刊ファミ通」及び「ファミ通+64」)やトラキアの攻略本の発行者であり、控訴人らから「トラキアデラックスパック」の商品化使用許諾を受けていた。被控訴人エンターブレインの代表者であるBは上記雑誌及び書籍の発行人兼編集人であり、控訴人ゲームのファンとして知られているのであるから、Bもまた、控訴人ゲームの商品等表示に類似する被控訴人ゲームの商品等表示を使用することにより、需要者の間に控訴人ゲームとの混同が生じるおそれがあることを熟知していたというべきである。 さらに、被控訴人らは、控訴人ゲームの商品等表示に類似する被控訴人ゲームの商品等表示を用いて盛んに広告宣伝活動を行い、控訴人らから不正競争防止法違反の警告を受けても予約販売の受注を継続し、予約受注締切後に初めて一般消費者に被控訴人ゲームのタイトルの変更を告知するなどの行為に及んだ。このような被控訴人らの不正競争行為は悪質というほかなく、被控訴人らには故意又は過失があるというべきである。 7 損害 上記第4-1の5記載のとおり。 8 まとめ 以上のとおり、被控訴人らの行為は、不正競争防止法2条1項1号、2号所定の各要件を充足するので、控訴人らは、被控訴人エンターブレイン及び被控訴人ティルナノーグに対し、同法3条に基づいて被控訴人ゲームの製造、販売、頒布の差止めを求めるとともに、不正競争行為による損害賠償として、被控訴人らが控訴人らのそれぞれに対し上記損害1億2915万円(1億1744万5000円と1170万5000円の合計)及びこれに対する平成13年8月8日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求め、仮に、控訴人イズが不正競争防止法上の請求主体と認められない場合には、被控訴人らが控訴人任天堂に対し2億5830万円(上記の1億2915万円を含む。)及びこれに対する平成13年8月8日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。 (被控訴人ら) 1 商品等表示 控訴人らが本件における商品等表示として前記のとおり主張していることは争わない。 2 控訴人イズの「他人」該当性 控訴人イズは、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「他人」には該当しないから、同法に基づく請求主体ということはできない。 (1) 不正競争防止法2条1項1号、2号の規定は、商品等表示についていえば、他人の商品との混同を生じさせる行為等を防止することによって、商品等表示に化体された商品主体の信用の冒用、毀損を防止し、もって、公正な競業秩序の維持、形成を図ろうとするものである。したがって、これらの規定によって保護されるべき者は、商品に関する信用の保持者たる主体、すなわち当該商品の製造、販売等の業務に主体的に関与する事業主体に限られると解すべきである。これを具体的にいえば、原則として、当該表示を付した商品について、その品質等を管理し、販売価格や販売数量を自ら決定する者が、これに該当するものと解すべきである。 (2) 本件では、控訴人イズは、控訴人任天堂に対し、控訴人ゲームの著作権及び商標権に関する使用許諾をしたほかは、全く何もしていない。すなわち、控訴人ゲームを製造、販売するとともに、その販売価格及び製造・販売数量の決定をしているのは、控訴人任天堂であって、控訴人イズではない。また、在庫リスク(売れ残りリスク)及び債権回収リスク(貸倒れリスク)の負担をしているのも控訴人任天堂であり、控訴人イズはこれらのリスクを一切負っていないばかりか、控訴人任天堂からロイヤリティとして最低保証を得ている。さらに、控訴人ゲームが仕様に合致しているか否かを判断し決定する者も、控訴人任天堂であり、控訴人ゲームに関する商品化事業についても、主体的に関与してきた事業主体は、控訴人任天堂であって、控訴人イズではない。控訴人イズは、商品化事業に関して実際の作業を行ったことを示す証拠として、わずか数点の証拠(甲389ないし392)しか提出できていないが、これでは不正競争防止法上の請求主体であると認めるには足りない。 (3) 控訴人イズが不正競争防止法2条1項1号、2号の「他人」に当たらないことは、控訴人ゲームの需要者・取引者の認識からも基礎付けることができる。すなわち、同規定の趣旨は、商品等表示についてその顧客吸引力を利用するただ乗りを防止するとともに、その出所表示機能及び品質表示機能が稀釈化により害されることを防止するところにある。したがって、これらの規定によって保護されるべき者は、商品等表示に化体された信用・名声を自らの信用・名声とする者、すなわち、商品等表示により、需要者・取引者から見て、当該商品の製造者若しくは販売元又は当該営業の主宰者として認識される者、あるいは、当該商品等表示に関して形成されているグループに属すると認識される者に限られると解すべきである。 本件では、控訴人イズの名称は、控訴人ゲームの流通段階において、需要者・取引者の目にほとんど触れていない。すなわち、ファイアーエムブレム・シリーズ第1作から第4作については、商品のパッケージ、雑誌等における宣伝広告、雑誌等の記事いずれにも、控訴人任天堂の名称のみが記載され、控訴人イズの名称は記載されていない。また、ファイアーエムブレム・シリーズ第5作のトラキアについても、雑誌記事やパッケージなどにおいて、控訴人イズの名称は著作権表示として控訴人任天堂と並んで小さく記載されているにすぎず、逆に控訴人任天堂の名称は、著作権表示とは別に、単独で、大書されている。さらに、控訴人ゲームの商品化事業についても、控訴人イズの名称が何らかの形で表示されている証拠は、控訴人イズと控訴人任天堂との間の契約書関係の証拠を除けば、わずか数点(甲389ないし392)にすぎない。 これらの事実によれば、控訴人ゲームのゲームソフトの需要者・取引者は、控訴人ゲームの商品等表示を控訴人任天堂の表示であると認識し、控訴人イズの商品等表示とは認識していなかったことは明らかで、同商品等表示に関して、控訴人イズも関係する何らかのグループが形成されていると認識していたとも考えられない。 (4) 以上のとおり、控訴人イズは、不正競争防止法に基づく請求の主体たる「他人」には該当しない。 3 周知又は著名な商品等表示 3-1 「ファイアーエムブレム」との表示の周知性又は著名性 「ファイアーエムブレム」との表示は、需要者の間で周知又は著名とはいえない。 (1) 本件における「需要者」とは、家庭用ゲーム機向けゲームソフトのユーザー全体と解すべきである。控訴人らは、SRPGというジャンルのゲームソフトのユーザー層に限定すべきであると主張するが、ゲームソフトのジャンル区分そのものが、相対的かつ主観的な、曖昧なものにすぎない。また、ゲームソフトの卸売業者も小売業者も、すべてのジャンルのゲームソフトを取り扱っており、SRPGのジャンルのゲームソフトだけを取り扱い、SRPG以外のジャンルのゲームソフトを取り扱わないなどという卸売業者も小売業者は一切存在しない。さらに、家庭用ゲーム機向けゲームソフトのユーザーも、複数のジャンルのゲームソフトを購入しており、SRPGのゲームソフトだけを購入し、SRPG以外のジャンルのゲームソフトを一切購入しないというユーザーも存在しない。したがって、控訴人ゲームの需要者をSRPGのユーザー層に限定するのは相当でない。 仮に、ゲームソフトのジャンルごとに需要者を区分して考えたとしても、控訴人ゲームの内容は、SLG的要素とRPG的要素を含むものであり、ゲーム雑誌やゲーム関連の文献等においても、控訴人ゲームは、RPG、SLG、SRPGの少なくとも3つのジャンルに分類されたことがある。また、控訴人任天堂も、ファイアーエムブレム第5作であるトラキアの取扱説明書の冒頭で、ファイアーエムブレムがSLGであることを認めている。さらに、SLG、RPG、SRPGの3つのジャンルのゲームソフトのユーザーの合計数は、家庭用ゲーム機のユーザー全体の中で大きな比率を占める。こうした事情を考慮すれば、少なくとも、控訴人ゲームの需要者は、SLG、RPG、SRPGの3つのジャンルのゲームソフトを合計した層と解すべきである。したがって、需要者をゲームソフトのジャンルによって区分したとしても、控訴人ゲームの需要者は幅広く、その人数も極めて多いということになる。 (2) 控訴人ゲームの需要者の範囲を以上のとおり理解した上で、「ファイアーエムブレム」表示が需要者に周知又は著名かどうかを検討すると、以下の理由からその周知性又は著名性は否定すべきである。 (ア) ゲームソフトの商品等表示の周知性又は著名性の判断において、最も重視されるべき事実は、販売本数(すなわち、現実の需要者をどれだけ確保したのかという事実)というべきである。そもそも、ゲームソフト業界は、ヒット作が毎年のように多数出現するという極めて競争の激しい業界であるから、ゲームソフトのタイトル名が、商品等表示として周知性又は著名性を獲得するに至ることは相当困難な状況にあるが、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトの販売本数は、他のゲームソフトの販売本数と比べて多いとはいえない。 すなわち、ゲームソフトのシリーズ全体の合計販売本数が1000万本を超えるゲームソフトだけでも複数存在する。例えば、「2001 CESAゲーム白書」(乙3)に登場するものだけ見ても、平成12年12月31日(控訴人任天堂に限って平成13年3月31日)時点において、既に、「スーパーマリオ」シリーズ(約3400万本)、「ポケットモンスター」シリーズ(約2200万本)、「ドラゴンクエスト」シリーズ(約2500万本)、「ファイナルファンタジー」シリーズ(第3作から第9作で約1700万本)などが、シリーズ全体で1000万本の発行本数を実現している。また、1つのタイトルの販売本数が100万本以上のゲームソフトだけでも、平成12年12月31日時点(控訴人任天堂については平成13年3月31日時点)で、既に123タイトルも存在した。 しかるに、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトの販売本数は、シリーズ5作の合計販売本数でも203万本、1タイトルの販売本数では、最大でも約77万本(第3作の紋章の謎)、最低では約10万本(第5作のトラキア)の販売本数にとどまっている。しかも、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトの中では最も販売本数の多い第3作の紋章の謎は平成6年に販売されたものであるから、その販売開始から現在に至るまで、既に10年もの長期間が経過している。 (イ) ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトに関する商品化事業は、控訴人ら提出に係る全証拠を見ても、ファイアーエムブレム・シリーズの需要者を対象にしたものにとどまっており、しかも、その事業展開の規模は極めて小さい。ゲームソフトの攻略本については、ゲームソフトのユーザーのみが購入することが明らかであるから、商品化事業の名にすら値せず、攻略本以外の小説、コミック、楽譜等の販売数量は、ほとんどのものがせいぜい数万部にとどまっている。 (ウ) 控訴人らは、控訴人任天堂が、暗黒竜と光の剣、外伝、紋章の謎、聖戦の系譜について総額14億1339万円に及ぶ宣伝広告費を支出したと主張するが、宣伝広告に関する事実の持つ意味は、販売本数の持つ意味と比べれば、はるかに小さい。ゲームソフト業界では、平成9年の1年間だけでも年間約352億円という巨額の宣伝広告費が投入されているのであるから、宣伝広告の分量も、ゲームソフト業界におけるものとしては大量とはいいがたく、そのほとんどの宣伝広告が、ゲームソフトが販売される都度、一時的かつ断続的に行われているにすぎない。テレビコマーシャルについても、控訴人ゲームについて行われたテレビコマーシャルのGRP(Gross Rating Point;延べ視聴率)の値は、他のゲームのGRPと比べて決して高い値ではない。したがって、上記の程度の宣伝広告では周知性又は著名性を獲得したというには不十分である。 (エ) 控訴人らは、控訴人ゲームの各ゲームソフトが、売上げランキング又は人気ランキングなどで上位を獲得したと主張する。しかし、雑誌等においてファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトに対して高く評価された事実が存したとしても、当該事実は、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトの「質」に関するものであって、周知性又は著名性という「量」の問題とは無関係である。 以上の次第であるから、控訴人ら提出に係る全証拠をもってしても、ファイアーエムブレム表示が、商品等表示として周知又は著名であるとは認めがたいというべきである。 3-2 「エムブレム」との表示の周知性又は著名性 「エムブレム」という表示は、そもそも商品等表示性すら獲得しておらず、ましてや、周知性又は著名性を有していたとはいえない。 (1) 一般に、販売元によって名付けられた正式の商品名に比べると、それ以外の名称が商品等表示性を獲得するに至ることは、例外的な珍しい事態である。本件においては、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトのタイトルは、第1作から第5作まで一貫して「ファイアーエムブレム」であり、「エムブレム」ではない。このとおり、「エムブレム」は、ゲームソフトという商品の正式名称ではないから、「エムブレム」との表示が商品等表示性を獲得するに至るのは例外的な事態である。 (2) ある商品について、正式名称以外に使われる略称が複数ある場合、当然のことながら、略称が1つの場合に比べて、それぞれの略称が商品等表示性及び周知・著名性を獲得することが難しくなることも、経験則上明らかである。ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトは、英文表記の「Fire Emblem」の頭文字をとって、「FE」と略称されることも多い。したがって、エムブレムとの表示は、「FE」という略称が別途存在することからしても、商品等表示としての周知性又は著名性を獲得することが難しい。 (3) 仮に、ある商品について、正式名称とは別に、商品等表示として周知性又は著名性を獲得するに至っている略称があるのであれば、その略称は、正式名称とは別に、単独で使用されるはずである。ところが、控訴人ら提出に係る全証拠を見てみても、「エムブレム」表示は、正式名称である「ファイアーエムブレム」表示と併用されているものが大半であり、「エムブレム」表示が、「ファイアーエムブレム」表示とは別に、単独で使用されている例は、ほとんど見当たらない。ゲーム雑誌の記事の中で、「エムブレム」表示が使用されている場合のほとんどすべては当該記事の中の別の場所で「ファイアーエムブレム」という正式名称が使用されている。また、ゲーム雑誌の表紙の中で、「エムブレム」表示が単独で使用された例は、1件も見当たらず、「エムブレム」表示が「ファイアーエムブレム」表示と併用された例も、わずか数件だけである。これに対し、「ドラクエ」「FF」など、周知性又は著名性を獲得しているゲームソフトの略称は、ゲーム雑誌の表紙に単独でも多用されている。 「エムブレム」表示が単独で使用されている証拠は、その大半が、インターネット上のファイアーエムブレム・シリーズに関するサイトでの書込みである。インターネットサイト上の書込みは、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトの購入者が、そのゲームソフトの内容についてやりとりするために行われるものであって、需要者のごく一部の者が見るにすぎないサイトである。このような需要者よりも遙かに範囲の限定された購入者が見るにすぎないサイトにおいて「エムブレム」表示が単独で使用されている例が存するからといって、「エムブレム」表示が商品等表示として需要者の間で周知性又は著名性であったということはできない。 (4) 「エムブレム」表示は、英語の「emblem」のカタカナ表記であるところ、これを、「エムブレム」とするか、「エンブレム」とするかは、単なる表記の問題であり、この種のカタカナ表記ではいずれも採用される可能性があり、「エムブレム」は、顕著性を有するほどに特徴的なカタカナ表記とはいえない。 3-3 控訴人ゲーム影像表示の周知性又は著名性 控訴人ゲーム影像表示目録記載の影像表示とその変化の態様である控訴人ゲーム影像表示は、控訴人ゲームの「商品等表示」とはいえず、仮にそういえるとしても周知又は著名ではない。 (1) そもそも、本来的なゲームソフトの商品等表示はゲームのタイトルであり、ゲームソフトをプレイしたときに画面に表示される影像とその変化の態様は、本来的なゲームソフトの商品等表示ではない。したがって、ゲーム影像が、ゲームソフトの商品等表示性を獲得するのは、ゲーム影像が、他に例を見ない独創的な特徴を有する構成であり、しかも、そのような特徴を備えた表示画面の構成が特定のゲームソフトに特有のものとして、需要者の間に広く認識されるに至った場合に限られるというべきである。 (2) 裁判例を見ても、スペースインベーダーゲーム事件判決は、ゲーム影像が特殊性と新規性を有していること、当該ゲームそのものが大流行したことなどの事実関係を認定した上で、ゲーム影像の商品等表示性を肯定しているにすぎない。ビデオゲーム自体が目新しかったスペースインベーダーゲームの時代であればともかく、ゲームソフトが飽和状態にある現在にあっては、よほどの独創的な特徴を有していない限り、ゲーム影像が商品等表示性を備えることはないというべきである。 (3) 控訴人ゲーム影像表示は、他に例を見ない独創的な特徴を有するものとはいいがたく、同種ゲームソフトとしてはありふれたゲーム影像である。また、控訴人ゲームの影像に対する市場の評価は低く、そのような控訴人ゲーム影像表示が、家庭用ゲーム機向けゲームソフトのユーザーの間で広く認識されているとは考えられない。 (4) 控訴人ら提出に係る全証拠を見ても、控訴人ゲーム影像表示目録で特定されたゲーム影像が掲載されている雑誌記事は少なく、これと異なる影像写真が掲載されている雑誌記事の方が圧倒的に多い。控訴人ゲーム影像表示に類似する影像が掲載されている記事においてすら、画面表示の写真の大きさは、雑誌等に掲載するに際して実際の画面よりも大幅に縮小されている上、控訴人らが主張する影像と全く異なる影像の写真の方が、点数としては、むしろ多く掲載されている。しかも、ゲーム雑誌の記事の中では、ゲームの内容が、ゲームのジャンルやストーリー、ゲームシステムなどにわたって広範に紹介されており、ゲーム影像だけが掲載されている記事など存在しない。ゲーム影像が掲載されている場合も、その大半は、ゲーム影像そのものを紹介する目的ではなく、ゲームシステムやキャラクター、ストーリーなどを紹介することを目的として、その補助的手段として、ゲーム影像が掲載されているにすぎない。したがって、ゲーム雑誌の記事に掲載されている控訴人ゲーム影像表示が読者に対し与える訴求力は非常に小さい。 4 控訴人ゲームと被控訴人ゲームの商品等表示の類似性 4-1 控訴人ゲームの「ファイアーエムブレム」又は「エムブレム」表示と被控訴人ゲームの「エムブレムサーガ」表示との類似性 控訴人ゲームの「ファイアーエムブレム」表示と被控訴人ゲームの「エムブレムサーガ」表示、控訴人ゲームの「エムブレム」表示と被控訴人ゲームの「エムブレムサーガ」表示は、いずれも類似していない。 「要部」とは、商品等表示のうち「特に注目すべき印象的な部分」「取引者・需要者に対して働きかける力の強い部分」等といわれる部分であるから、一般に周知の外来語は要部となりがたい。「ファイアーエムブレム」表示のうち、火や炎を意味する「ファイアー」も、紋章を意味する「エムブレム」も、わが国の英語の普及度に照らせば、一般に周知の外来語にすぎないから、それぞれ単独では要部となりがたく、「ファイアーエムブレム」表示は、その全体が要部になるというべきである。控訴人らは、「エムブレム」が造語的印象を持つ特徴的な表記であるというが、「エムブレム」が「Emblem」のカタカナ表記であって、「エンブレム」と同義であることは明らかである。また、ファイアーエムブレム・シリーズの一部の熱心なファンであっても、「エンブレム」と表記する例も少なくない。 他方、「エムブレムサーガ」表示についていえば、物語を意味する「サーガ」は、わが国の英語の普及度に照らして一般に周知の外来語とは到底いえず、他方、紋章を意味する「エムブレム」は、一般に周知の外来語である。また、家庭用ゲーム機向けゲームソフトの需要者の間では、「サ・ガ」「サーガ」「Saga」の語は、スクエア社の周知著名な特定のシリーズのゲームソフトを意味する語として広く知られていた。すなわち、「ロマンシング サ・ガ3」は130万本、「ロマンシング サ・ガ2」は117万本、「魔界塔士Sa・Ga」は109万本のミリオンセラーであり、「サ・ガ」「サーガ」「Saga」が商品名に使用されたゲームソフトは他にも存在するが、スクエア社のシリーズ以外のものの発行本数は極めて少ないから、これらのゲームソフトによって、スクエア社のシリーズ名称の有する顕著性が失われるものではない。したがって、「エムブレムサーガ」表示は、「エムブレムサーガ」の全体あるいは「サーガ」が要部になるというべきである。 このように、「ファイアーエムブレム」表示と「エムブレムサーガ」表示は、外観と称呼のいずれにおいても、要部を異にしている。しかも、「ファイアーエムブレム」表示と「エムブレムサーガ」表示は、前者が「炎の紋章」を、後者が「紋章の物語」をそれぞれ意味するから、観念においても、全く異なっている(後者は、英語力の堪能でない者には、何の観念も生じない。)。 また、「エムブレム」表示と「エムブレムサーガ」表示の類否についても、「エムブレム」表示が商品等表示性と周知・著名性を備えるに至ったか否かにかかわらず、「エムブレムサーガ」表示の要部は「サーガ」又は「エムブレムサーガ」であることや、上記のとおり、「サーガ」が特定のゲームソフトシリーズに属するゲームソフトを意味するものとして、家庭用ゲーム機向けゲームソフトの需要者の間で広く知られていたことなどに照らすと、「エムブレム」表示と「エムブレムサーガ」表示も類似していないというべきである。 したがって、「ファイアーエムブレム」表示と「エムブレムサーガ」表示、「エムブレム」表示と「エムブレムサーガ」表示は、いずれも、需要者がその外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想などからして、全体的に類似のものと受け取るおそれあるとは認められず、商品等表示として何ら類似するものではない。 4-2 控訴人ゲーム影像表示と被控訴人ゲーム影像表示との類似性 控訴人ゲーム影像表示が商品等表示性と周知性又は著名性の要件を充足しているかどうかにかかわらず、控訴人ゲーム影像表示は被控訴人ゲーム影像表示と類似していない。 控訴人らの主張する控訴人ゲーム影像表示と被控訴人ゲーム影像表示との類似性を判断するに当たっては、これらの商品と同種の商品に通常見受けられる画面表示に当たる部分を除外して判断することが必要である。控訴人ゲーム影像表示目録の記載内容は、その大半が、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトと同種に属するSRPG、SLG、RPGに通常見受けられる画面表示の説明にすぎない。控訴人らは、控訴人及び被控訴人ゲーム影像表示目録に記載された内容が、ファイアーエムブレム・シリーズのゲーム影像の特徴ある点であると主張するが、これらの部分は創作性の高さや独創性の高さが発揮された部分ではなく、要部でない。被控訴人ゲーム影像表示も、ゲームデザイナーである被控訴人Aがデザインを殊更に重視するタイプではないため、独創的なものではない。したがって、これらの部分において控訴人ゲーム影像表示と被控訴人ゲーム影像表示に共通点があったとしても、需要者において、両ゲーム影像を類似と受けとめることはあり得ず、これらのありふれた部分を除外した細部においては、控訴人ゲーム影像表示と被控訴人ゲーム影像表示は類似していない。 5 混同を生じさせる行為 被控訴人らの行為は不正競争防止法2条1項1号にいう「混同を生じさせる行為」に該当しない。 (1) ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトは、ハード機メーカーでもある控訴人任天堂の発売するゲームソフトである。他方、被控訴人ゲームは、ソニーコンピュータエンタテインメントのハード機(プレイステーション)向けのゲームソフトであり、このことは広く宣伝告知されていた。このような取引の実情に照らせば、「エムブレムサーガ」表示の付されたゲームソフトが、「ファイアーエムブレム」表示の付されたゲームソフトと、何らかの意味でも関連があると混同する需要者・取引者は存在しないというべきである。 (2) 被控訴人ゲームの宣伝広告活動においても、ファイアーエムブレム・シリーズと関連付ける意図をもった宣伝広告活動は一切行われなかった。確かに、被控訴人ゲームと控訴人ゲームのゲームデザイナーがいずれも被控訴人Aで共通していたことから、被控訴人ゲームが対外的に公表された初期の段階においては、両ゲームソフトを関連付けようとする傾向が出版社側にあったことは否定できない。しかしながら、控訴人ゲームと被控訴人ゲームを関連付けようとする傾向を排除しようとする被控訴人エンターブレインの適切な努力の結果、出版社側の理解も進み、両ゲームを関連付けるような記事は見当たらなくなった。 (3) 控訴人らは、ゲーム雑誌の記事(例えば、前記「週刊ファミ通」平成12年1月21日号、甲20)を問題にするが、これらの記事は、宣伝広告と異なり、出版社及び編集者、記者の意向が反映されるため、被控訴人ゲームの販売関連を担当していた被控訴人エンターブレインにおいて、その内容を完全にコントロールできるものではなく、もとより、被控訴人Aがインタビューを受けたとしても、その発言が忠実に再現されるものでもない。上記「週刊ファミ通」の記事には、被控訴人ゲームが「新作」「オリジナル作品」であると明記されている上、被控訴人Aがファイアーエムブレム・シリーズのゲームデザイナーであるとの記載も客観的な事実にすぎず、被控訴人ゲームがファイアーエムブレム・シリーズの続編であるなどの虚偽の記載がされているわけでもないのであるから、問題視されるような内容は含まれていない。被控訴人エンターブレインは、その販売活動に際し、何ら混同惹起行為など行っていないのである。 (4) 控訴人らは、インターネットのホームページやゲーム雑誌等における記載についてそれらが混同を生じた例であると指摘するが、ゲーム雑誌に投稿し、あるいはインターネットサイトへの書込みを行うような需要者は、家庭用ゲーム機向けゲームソフトの需要者全体においては、極めて限定された特殊な層の需要者である。誤認混同のおそれの有無は、家庭用ゲーム機向けゲームソフトの平均的な需要者を基準として判定するべきであり、ファイアーエムブレム・シリーズのゲームソフトに過大な思い入れを有するファンや、粗忽な需要者を基準とするべきではない。このような観点からするとき、控訴人らの提出する全証拠は、平均的な需要者以外の者が作成したものが大半であって、その証拠価値はないに等しい。 (5) ゲーム影像(デザイン)は、ゲームデザイナーの個性が色濃く反映される性質のものである。そして、控訴人ゲームも、被控訴人ゲームも、共に被控訴人Aがゲームデザイナーとして制作したゲームソフトであるため、控訴人ゲーム影像と被控訴人ゲーム影像には、被控訴人Aの好みに起因する部分において共通する雰囲気が感じられるところがある。このため、被控訴人Aが控訴人イズから独立して被控訴人ゲームを開発制作するに際し、家庭用ゲーム機向けゲームソフトのユーザーの一部の者の間において、控訴人ゲームと被控訴人ゲームの関係が話題になるなどして、多少の混乱が生じたことは否定できない。しかしながら、このような多少の混乱をもって、不正競争防止法2条1項1号にいう「混同」と評価するべきではない。このような事態は、ゲームデザイナーや服飾デザイナーなど、クリエイター個人の個性や感性に多くを依存する業界においては起こり得ることであり、このような多少の混乱を「混同」と評価すると、デザイナーの移籍独立が不正競争防止法によって過大な制約を受けることになりかねない。 (6) 控訴人イズがファイアーエムブレム第4作である聖戦の系譜の制作完了後に開発しようとした「トゥルーエムブレム」の開発データを被控訴人Aが流用したとの事実はない。控訴人らの主張の中で、そのデータ流用の事実を推認させる可能性のある唯一の具体的な根拠は、「トゥルーエムブレム」の全体マップ案で地名として使用されていた6つの単語が、被控訴人ゲームでも使用されていたという事実であるが、これらの用語は、いずれも、スペイン語の一般名詞にすぎない。また、被控訴人らが証拠として提出したトラキアのセリフ集(乙100の1)は、控訴人らが証拠として提出したDVD(甲383)に収録されているナレーション及びセリフに加えて、あるインターネット上のホームページ中に掲載されていたトラキアのナレーション及びセリフを書き取って作成したものにすぎず、被控訴人Aがトラキア開発中のデータも持ち出したとの事実は存在しない。 (7) 控訴人らの主張するとおり、需要者に現実の混同が生じたのであれば、控訴人ら又は被控訴人らに対し、混同した需要者からのクレームを受けてしかるべきであるが、被控訴人らはそのようなクレームを一切受けていない。また、被控訴人ゲームの販売状況に着目しても、被控訴人ゲームはそのタイトル名の変更にかかわらず、順調にその販売実績を伸ばし続けたのであり、本件においてゲームソフトのタイトルは、その販売に何ら影響を与えなかった。 6 被控訴人らの故意又は過失 控訴人らは、被控訴人らには故意又は過失があったと主張するが、争う。被控訴人Aは、控訴人イズ在職中にトラキアの制作に全力を尽くして、これを完成し、控訴人イズを退職する際も誠実に行動したのであって、不正競争の意図は全く有していなかった。 7 損害 上記第4-1(被控訴人らの主張)5記載のとおり。 8 まとめ 以上によれば、被控訴人らは不正競争防止法2条1項1号、2号に該当する不正競争行為を何ら行っていないのであるから、控訴人らの差止請求及び損害賠償請求はいずれも理由がない。 第5 当裁判所の判断 (以下において掲記する証拠は、特に必要な場合には枝番又は頁数を記載するが、そうでない限り、その記載を省略する。) 第5-1 著作権法に基づく請求について(主位的請求) 1 著作権の帰属 著作権法15条1項は、法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする旨を規定する。本件においては、トラキアが控訴人イズの発意に基づき作成されたこと、被控訴人Aを含む控訴人イズの従業員がトラキアを職務上作成したことは、当事者間に争いがない。 被控訴人らは、トラキアは、控訴人イズが自己の著作名義の下に公表したものではないと主張する。しかしながら、著作権法15条1項は「公表したもの」ではなく、「公表するもの」と規定しているのであるから、当該著作物の作成時において、法人等の名義で公表することを予定しているものであれば、職務著作としてその法人等が著作者となるものと解するのが相当である。 しかるところ、トラキアは、控訴人イズの発意に基づいてその従業員が職務上作成した著作物であり、その著作権の帰属に関して控訴人イズと従業員又は第三者との間に合意が存在したとは証拠上認められず、さらにトラキアの商品パッケージなどには控訴人イズの名前が、控訴人任天堂の名前とともに、「コ」表示されていることが認められる(甲321ないし323)。したがって、トラキアは控訴人イズの著作名義の下に公表することが予定されていたものというべきであり、その著作者は控訴人イズであると認めるのが相当である。 2 被控訴人ゲームはトラキアの翻案に該当するかどうか 控訴人らは、@被控訴人ゲームの全体がトラキア全体の翻案に当たり(選択的主張1)、又は、A被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」がトラキア全体の翻案に当たり(選択的主張2)、又は、B被控訴人ゲームの「戦闘マップをプレイする場面」がトラキアの「戦闘マップをプレイする場面」の翻案に当たる(選択的主張3)、と主張する。 以下、まず、選択的主張1につき、判断する。 (1) 翻案の意義及び判断基準 翻案とは、既存の著作物に依拠しながら、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる場合において、その新たな著作物を創作する行為をいうものであるが、新たな著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎないときは、翻案には当たらないものというべきである(江差追分事件上告審判決参照)。 (2) ゲームソフトとしてのトラキアの内容 トラキアにおける表現上の本質的な特徴の現れた部分がどこかを判断するに当たり、ゲームソフトとしてのトラキアの内容について検討する。証拠(甲35、309、313、373、383、385、388、419、421、423、424、425、426、427、497、498、乙4の2、66の1、85、87の1、99、100の1、102の4、163)及び弁論の全趣旨によれば、トラキアの内容は、以下のとおりであると認めることができる(以下、「ストーリー」という用語は、原則としてゲームソフトの文章表示やセリフによって語られる物語若しくはシナリオをいうが、これを基礎にして影像展開などによる表現を加えたものから把握される物語をいうこともある。また、「ユニット」は「キャラクター」と同義で登場人物をいう。)。 (ア) 概要 トラキアは、西洋中世をモチーフとし、戦略性の高い戦闘システムと壮大なシナリオを満喫できるSRPGである。トラキアの基本的なストーリーは、敵国に祖国を追われた少年王子である主人公が、王国間との戦乱が絶えない架空の大陸において、祖国奪還のために立ち上がり、仲間とともに、ペガサス、ドラゴン、魔道士なども登場する空想上の世界を背景として、敵軍との間に戦闘を繰り広げていく、というものである。プレイヤーは、山岳、海岸、峡谷、森林、民家の点在する村、城内、都市等を背景とし、章立てで次々と表示される戦闘マップにおいて、主人公や自軍ユニットを移動させ、仲間を増やしたり、自軍ユニットを成長させながら、次々と現れる敵軍と戦闘等を行い、戦闘マップを1枚1枚クリアしていく。ゲームは、最後の戦闘マップをクリアするか、主人公の死亡によって終了する。 (イ) 全体の構成 トラキアの全体構成は、大別して、冒頭の場面(タイトル表示を含む全体マップの場面の開始までをいう。)、全体マップの場面(全体マップが表示されている場面をいう。)、戦闘マップの場面(全体マップの場面の終了から戦闘マップクリア後の会話場面の終了までをいう。)、エンディングの場面(最終章の戦闘マップクリア後の会話場面終了後をいう。)からなる。 冒頭の場面は、ゲームをプレイする前提となるストーリーの表示や、ゲームのタイトルの表示等を含む。その後、全体マップに移行し、最初の全体マップの場面においては、主人公が祖国を追われてからのストーリーが文字で表示され、その逃避行の様子が全体マップ上の地点の移動で示されるとともに、主人公の現在地が表示される。この全体マップの場面が終わると、タイトルが付され、章立てで構成される個別の戦闘マップの場面に切り替わり、第1章が開始される。戦闘マップの場面は、プレイヤーが部隊の編成や戦闘マップの確認をする場面(この場面が「戦闘前の出撃準備場面」である。)、戦闘前のユニット間の会話の場面、自軍ユニットと敵軍ユニットが交互に行動してマップクリアに至るまで戦闘等を繰り広げる場面(この場面が「戦闘マップをプレイする場面」である。)を経て、マップクリア後にはユニット間の会話場面が表現される。こうして一つの戦闘マップの場面が終了すると、画面は再び全体マップの場面に切り替わり、表示された大陸の上を自軍が前章の位置から次章の位置に移動した様子が表現されるとともに、次章を開始するに当たってのストーリーが文字で表示される。プレイヤーは、こうして全体マップと各戦闘マップとを交互に繰り返し、最終章の戦闘マップをクリアすると、その後の会話の場面を経て、エンディングの場面を迎えることになる。 (ウ) ストーリー ゲームをプレイする前提となるストーリーは、上記のとおり、冒頭の場面及び最初の全体マップ場面において、文字で表示される。これを要約すると、敵国に滅ぼされた小国レンスターの王子リーフは、騎士フィンらとともに、北トラキアの支配権を手に入れたグランベル帝国などの追手をかわしながら、トラキア地方東部のフィアナという小さな村の女城主エーヴェルの庇護のもとで成長していた、というものである。 その後のストーリーの展開は、順次戦闘マップをプレイする中で、全体マップの場面での文字表示や各戦闘マップにおける登場ユニットの会話等を通じて、表現される。主人公リーフは、「第1章 フィアナの戦士」において、15歳にして祖国奪還のために立ち上がる意思を表明し、その後、主人公とその仲間は、主人公が捕虜になったり、上記エーヴェルが石化されたり、信頼する軍師が戦死するなどの出来事を乗り越えて、レンスター城の奪還を果たし、最終章では、敵軍の居城において敵将を倒して、北トラキアを敵軍から解放することになる。 (エ) ユニット トラキアには、主人公と、主人公を助けて共に敵を制圧する自軍ユニットと、相手方となる敵軍ユニットが登場する。トラキアでユニットとして登場する人物は90名を超え、とりわけ自軍ユニットは、それぞれ名前、容姿、服装が異なり、使用する武器や戦闘能力も異なる上、ユニット相互間には主従関係、親族関係など様々な人間関係が設定されている。プレイヤーは、会話場面やステータス画面等における上半身の静止影像から各ユニットの名前、容姿、服装等を認識し、会話の内容等からその性格や人間関係等を感じ取ることができる。 トラキアの各ユニットは、細かいクラスに分けられ、クラスによって所与の戦闘能力が設定されている。各ユニットが使う武器には、斧、弓、剣、槍、杖、魔力等があるが、ユニットの中には、ペガサス、ドラゴン、馬に乗ったり、重い鎧をつけて高い防御力を持つ者(アーマーユニット)も存在し、さらには「踊る」「盗む」等の特殊な技を持ったり、杖を使って味方のHP(体力)を回復させることのできるユニットなどもいる。また、トラキアの各ユニットは武器以外のアイテムを使用することもできる。このようなアイテムには、「宝箱の鍵」「跳ね橋の鍵」「傷薬」「毒消し」「たいまつ」などがある。 各ユニットは戦闘を行うことなどにより経験値を獲得できるが、経験値が100を超えるごとにレベルアップして、戦闘能力値が上昇する。また、ほとんどのユニットは一定の条件のもとで、上級クラスにクラスチェンジをすることができ、これによってさらに戦闘能力が高まることになる。こうして、プレイヤーは気に入ったユニットを成長させて楽しむことができる。ユニット間の親疎の関係は、特定のユニットが一定距離内にいると命中率や回避率が上がるという支援効果として数値化され、地形の属性によって回避率が一定程度上がることもある。 (オ) 戦闘マップにおける戦闘及びその他のイベント 戦闘マップにおいて、自軍・敵軍ユニットの会話場面等が終わると、画面には自軍の攻撃の順番(自軍ターン)であることを示す表示がなされ、プレイヤーが自軍ユニットを移動させて行動する場面となる。プレイヤーは、トップビューで表現される戦闘マップの地形、自軍・敵軍の配置、各ユニットの戦闘能力、各ユニットの移動又は攻撃可能範囲等を把握し、作戦を立てて、戦闘マップ上にあらかじめ配置されている自軍ユニットを移動可能な範囲内に移動させる。移動可能範囲内であれば、どのユニットをどこに移動するかは基本的にプレイヤーの自由であり、ペガサス、ドラゴン、馬等に乗れるユニットの場合には、これらの乗り物を利用して移動することもできる。当該ユニットを移動させると、プレイヤーは、そのユニットをその場で待機させるか、攻撃可能範囲内の敵兵を攻撃するか、その他の行動をするかを選択することになる。 移動した自軍ユニットを使って敵兵を攻撃する場合には、自軍と敵軍のユニットが1対1で戦うシーンが、設定により自動的に、アニメーション切替戦闘場面又はオンマップバトル場面の形式で表示される。オンマップバトルは、画面が切り替わることなく戦闘マップ上で戦闘シーンが表現されるものであり、アニメーション切換戦闘場面は、サイドビューの画面に切り替わった上で画面全体に戦闘場面が表示されるものである。戦闘場面は、あらかじめ設定されたプログラムに基づいて影像表示されるため、プレイヤーは操作できない。相手の攻撃によってダメージを受けたユニットはHPが減少し、HPがゼロになった場合に死亡するが、戦闘によって必ず一方が死亡するわけではない。死亡したユニットは生き返らず、主人公の死亡などゲーム終了条件が満たされるとゲームオーバーとなる。 戦闘マップにおいて、戦闘以外の行動(イベント)も起こすことができる。例えば、特定の敵軍ユニットに自軍ユニットが「話す」ことにより敵軍ユニットを寝返らせて味方としたり、敵軍を「捕える」ことや「解放」することもできる。また、踊る技を持ったユニットが「踊る」と自軍ユニット一人を再移動させることができ、杖を使えるユニットが特定の杖を「使う」と自軍ユニットのHPを回復することなどができる。さらに、「跳ね橋の鍵」を使って跳ね橋を下ろし、「たいまつ」を使って周囲を明るくするなどして、アイテムを使用する場面もある。アイテムは、民家を「訪ねる」ことや「宝箱」を開けることによって得ることもでき、盗む技を持った自軍ユニットが敵から「ぬすむ」こともある。戦闘マップによっては、アイテムの購入資金を一対一の決闘により稼ぐことのできる「闘技場」、アイテムを販売している「道具屋」や「秘密の店」、武器を購入できる「武器屋」等が配置されている。 こうして、プレイヤーが自軍ユニットの行動を終了すると、今度は敵軍が攻撃する順番(敵軍ターン)となる。敵軍の攻撃は、すべてあらかじめ設定されたプログラムによって自動的に行われる。戦闘場面等の表現は、自軍ターンのときと変わらないが、敵軍が自軍に攻撃を仕掛けてこないこともある。敵軍ターンが終了すると、その旨が表示され、自軍ターンとなる。 こうして、戦闘マップをクリアするための勝利条件を満たしてマップクリアするか、途中でゲームオーバーになるまで、自軍ターンと敵軍ターンが交互に繰り返される。 (カ) 背景画面 戦闘マップは、各章ごとに異なっており、その舞台も山岳、森林、海岸、都市、村、城内など様々であり、マップ上には、民家、城壁、教会、門、闘技場、道具屋、武器屋等の建物が置かれていることもある。また、アニメーション切替戦闘場面の背景には、切替前の戦闘マップとは異なる地形や風景が背景画面として表示される。 (キ) 音楽 トラキアでは、その全編を通じて、背景音楽が流れており、敵軍ターンになったり、アニメーション切替戦闘場面に切り替わった際には、音楽が変わる。 (3) トラキアにおける表現上の本質的な特徴の現れた部分 ゲームソフトとしてのトラキアの表現上の本質的な特徴の現れた部分について、控訴人らは、戦闘マップの場面の一部である「戦闘マップをプレイする場面」の全体構成とその各場面の視聴覚的表現であると主張する。これに対し、被控訴人らは、トラキアは、ストーリー、ゲームシステム、各場面の影像表示、ユニット、音楽を主たる要素とする複合的な著作物であり、中でも最も重要な要素はストーリーであると主張する。そこで、以下、判断する。 (ア) 上記(2)で認定のとおりのゲームソフトとしてのトラキアの内容によれば、トラキアは、著作権法2条3項に規定する「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され・・・ている著作物」であるということができる(この点は当事者間に争いがない。)。また、上記認定によれば、トラキアの全体構成のうち、量的にも大部分を占め、影像が視聴覚的効果を与えつつ変化し、プレイヤー |