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【事件名】法律解説書の著作権事件
【年月日】平成16年11月12日
 東京地裁 平成16年(ワ)第12686号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成16年10月7日)

判決
原告 A
訴訟代理人弁護士 村田英幸
訴訟復代理人弁護士 佐藤恭子
被告 B
訴訟代理人弁護士 尾関孝彰


主文
1 被告は、原告に対し、25万円及びこれに対する平成16年2月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決の第1項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成16年2月21日(書籍発行日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 本件は、弁理士である原告が、被告が所長を務める特許法律事務所に在職中に執筆した原稿を、同事務所の所長を務める被告が、「創英知的財産研究所」の名称で他の1名と共著として出版した書籍において、原告の氏名を表示せずに掲載するなどしたことから、原告が、被告に対し、被告の行為は、原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権、公表権)を侵害するものであり、また、著作者人格権の侵害が成立しないとしても、被告の行為は一般不法行為に該当するとして、損害賠償を求めている事案である。
2 争いのない事実等(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
ア 原告は、平成14年に弁理士登録した弁理士であり、平成15年12月26日まで、被告が所長を務める創英国際特許法律事務所(東京都中央区(以下略)所在。以下「本件特許事務所」という。)に勤務していた。
イ 被告は、昭和57年に弁理士登録した弁理士であり、本件特許事務所の所長として同事務所を運営し、また、本件特許事務所の業務上の宣伝、広告活動の一環として、「創英知的財産研究所」の名称を使用し、知的財産権に関する書籍の出版・講演等を行っている。
(2) 原稿の執筆
 被告は、「知的財産権入門−制度概要から訴訟まで」と題する書籍(以下「本件書籍」という。)を株式会社法学書院(以下「法学書院」という。)を通じて出版すべく、平成15年5月ころ、原告を含めた本件特許事務所の職員らの間で、本件書籍の原稿の執筆者を募集した。
 原告は、これに応じ、「著作権の登録」について原稿(以下「本件原稿」という。甲2)を執筆した。
(3)ア 原告は、平成15年12月26日限りで本件特許事務所を退職することを決意し、その前日の同月25日、被告にこれを伝えたところ、被告との間で、本件特許事務所に在職中執筆した本件原稿等について、平成15年12月25日、「著作権に関する覚書」(以下「本件覚書」という。甲3)を締結した。
イ 本件覚書には次の記載がある。
 創英国際法律事務所所長弁理士B(=被告。以下「甲」という。)とA(=原告。以下「乙」という。)は、乙が創英国際特許法律事務所(以下「事務所」という。)在職中に作成した著作物(プログラムの著作物を含むがこれに限らない。)の一切に関し、次のとおり覚書を締結する。
 第2条(著作権の帰属)
 乙は、別紙著作物目録記載1及び2の各著作物は、すべて甲の発意に基づき、事務所在職中にその職務として作成したものであり、その著作権及び著作人格権が原始的に甲に帰属することを確認する。
 2 乙は、今後、甲の発意に基づき、事務所在職中にその職務に関連して作成する著作物について、就業規則等に特段の規定のない限り、その著作権及び著作人格権が原始的に甲に帰属することを確認する。
 3 乙が事務所の業務と関係なく作成した著作物について、その著作権を留保しつつ、別紙著作物目録記載1及び2記載の出版物等に掲載を希望するときは、別途、甲・乙間で覚書を作成する。
 第3条(著作権の譲渡) 
 乙は、別紙著作権(ママ)目録3記載の著作物について、甲の発意に基づき、事務所在職中にその職務に関連して作成したものであることを確認する。
 2 乙は甲又は甲の指定する者に対し、別紙著作権(ママ)目録3記載の著作物に関する著作権の全部を譲渡するものとし、前項の事実に鑑み、譲渡の対価は無償とする。
 3 甲は、著作物の末尾その他適切な場所に、乙を執筆担当者、制作スタッフ等として表示することに努めるが、乙は、当該表示をもって自らが著作権者である旨を主張しないことを確約する。
 4 乙は、甲又は甲の指定する第三者が著作権の登録を希望するときは、これに協力する。
 第4条(著作人格権)
 乙は、別紙著作物目録記載3の各著作物について、甲又は甲から本件著作権を承継した者(一般承継と特定承継とを問わない。)若しくは甲から当該著作物を利用する権利を取得した者に対し、著作人格権を行使しない。
ウ 本件覚書に添付された別紙著作物目録の記載内容
 「下記の出版物等において、乙が執筆・作画・撮影・プログラミング等を担当した部分
 1 創英ボイス(季刊・月刊・英文・臨時増刊号その他一切を含む。)
 2 事務所ホームページ(和文・英文その他一切を含む。)
 3(1) 書名 (仮)知的財産権入門
  発行者 法学書院
  初版発行日 未定(入稿済み)
 (2) 書名 (仮)中国知的財産法
  発行者 発明協会
  初版発行日 未定(入稿済み)」
エ 本件覚書に添付された原告作成の書面に記載された内容
 「著作物目録3の各著作物については、事務所退職後であっても、必要に応じて、原稿の修正及び追加等をします。また、これに伴い、退職後に新たに発生する著作権も、在職中に発生したものと見做して頂いて構いません。     
 2003年12月25日 A」
(4) 本件書籍の発行
ア 本件書籍は、平成16年2月20日、法学書院から初版第1刷(乙1)が発行され、同刷の第7章著作権法第7節「著作権に関する登録」(同書222頁ないし227頁。甲4)には、本件原稿が表現を一部校正された上で掲載されていた。
イ その後、本件書籍の初版第2刷(乙2)が、平成16年5月10日に発行されたが、同刷には本件原稿ないしこれを校正した内容の記述は掲載されていない。
(5) 原稿料・印税の受領
 被告は、本件書籍初版第1刷の発行により、法学書院から36万円(発行部数2000部、定価2500円、印税率8パーセント。10パーセント源泉徴収)を受領し、そのうち、8万円を共著者であるCに支払った(乙5、6)。
第3 争点及び争点に関する当事者の主張
1 争点
(1) 争点1−本件原稿の本件書籍への掲載は、原告の著作者人格権を侵害するか(職務著作の成否)あるいは一般不法行為が成立するか
(2) 争点2−本件覚書の効力
(3) 争点3−原告の損害
2 当事者の主張
(1) 争点1(本件原稿の本件書籍への掲載は、原告の著作者人格権を侵害するか〔職務著作の成否〕あるいは一般不法行為が成立するか)について
(原告の主張)
 原告は、本件書籍の「著作権の登録」の箇所につき、原稿(本件原稿。甲2)を執筆した。
 したがって、原告は本件原稿について著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権、公表権)を有する。
ア 氏名表示権の侵害
 被告は、本件原稿を記載した本件書籍初版第1刷を法学書院から発行する際に、原告の氏名を本件書籍中に表示しなかった。
 被告の上記行為は、原告の氏名表示権を侵害するものである(甲5)。
イ 同一性保持権の侵害
 被告は、平成16年2月20日、原告の意に反して、原告の執筆した本件原稿の表現形式上の本質的な特徴を維持しつつ、その外面的な表現形式に改変を加え、改変を加えた本件原稿を本件書籍に掲載し、法学書院から本件書籍初版第1刷を出版した(甲2)。
 被告の上記行為は、原告の同一性保持権を侵害するものである。
ウ 公表権の侵害
 被告は、平成16年2月20日、本件原稿がまだ公表されていないにもかかわらず、本件書籍に掲載し、法学書院から本件書籍初版第1刷を出版した(甲4)。
 被告の上記行為は、原告の公表権を侵害するものである。
エ 被告の一般不法行為
 仮に、著作者人格権の侵害が成立していないとしても、被告の一連の行為は、原告に無償で本件原稿を執筆させた上、本件書籍に本件原稿を掲載して、法学書院から発行させ、原告が本件特許事務所を退職したことを奇貨として、故意に原告の氏名を表示しなかったのであるから、一般不法行為が成立する。
(被告の主張−職務著作の成立)
ア(ア) 本件原稿は、@法人等の業務に従事する者である原告が、A被告の発意に基づき、B実質的に本件特許事務所の職務として作成したものであり、B被告を示す創英知的財産研究所名義で公表されることが予定されていたものであるから、本件原稿の著作者は、著作権法15条1項(職務著作)の規定により被告であり、本件原稿の著作者人格権は被告に帰属する。
(イ) 被告の一連の行為が一般不法行為に該当する旨の原告の主張は争う。
イ 以下、本件原稿が、職務著作(著作権法15条1項)の要件を充足することについて、述べる。
(ア) 「法人等の業務に従事する者」であること
 本件特許事務所における仕事は、すべて事務所として受託し、報酬・手数料は本件特許事務所の代表者である被告名義の銀行口座に振り込まれている。本件特許事務所の弁理士が個人的に仕事をすることはなく、専ら事務所が受託した仕事を分担する。そして、本件特許事務所の弁理士の給与は、前年度12月の査定で決定された年俸基準に従い、月ごとの給与及び夏季及び冬季の賞与が支給されており、委任報酬ではなく給与所得として所得税の源泉徴収がされている。
 原告は、本件特許事務所に入所した当初は資格を持たずに特許実務を扱う者であったが(本件特許事務所では、「特許技術者」と呼ばれていた。)、本件特許事務所に在職中、弁理士資格を得て、弁理士資格を得た後は、特定の勤務時間に出勤する義務や休暇の届出義務がなくなった点を除き、特許技術者として稼働していた時期と比べ、本件特許事務所における仕事内容を含む勤務形態について変化はなかった。すなわち、原告の仕事は専ら本件特許事務所から割り振られた仕事の遂行であり、上司である弁理士及び特許技術者の監督下にあった。
 以上のとおり、原告と被告の間の委任契約は実質的には雇用契約であり、原告の労務提供は、被告の指揮監督下にあった。したがって、原告は「法人等(被告)の業務に従事する者」であった。
(イ) 「発意に基づき」
 本件書籍は、被告と、被告の10年来の知人であるC(科学ジャーナリスト)との間で、知的財産権に関する知識を広く一般に広めることを目的として企画された。特許・実用新案・意匠・商標の四法に限らず、不正競争防止法や著作権法、更に知的財産権侵害訴訟も含めて解説する書籍とすることや、出版社を法学書院とすることは、被告とC氏が企画段階で合意していた。被告は、この合意に基づき、本件特許事務所において執筆チームのメンバーを人選したものであり、本件書籍が被告の「発意に基づき」作成されたものであることは明らかである。
(ウ) 「職務上作成する」
 本件書籍の執筆チームは、慣例により、所内WEBを使用して被告が所内公募することにより編成することにしたところ、本件特許事務所の弁理士6名、弁護士1名及び特許技術者1名(この者は後に弁理士試験に合格して弁理士になった。)が応募してきた。被告は、常日頃から本件特許事務所の内部で、書籍出版の主たる目的が本件特許事務所の宣伝・広告であることを明らかにしており、原告を含む応募者全員がこのことを了知しているとの認識の下で、執筆チームのメンバーを任命した。
 本件書籍の執筆に際しては、原告を含めた執筆者による「執筆者会議」が、本件特許事務所のオフィス内で、複数回開催されており、5月30日の第1回会議は原告を含めて計8名の執筆者らが、6月5日の会議では原告を含めて計9名の執筆者らが、8月19日の会議では原告を含めて計9名の執筆者らが、それぞれ参加し、本件書籍の執筆の章立て、執筆内容、執筆者の選定などを議論している。加えて、被告は、上記3回のいずれの執筆会議においても、会議の冒頭から終了まで出席していたもので、被告が最も多く発言し、必要な指揮監督をしたのは当然である。
 また、被告は、慣例により、勤務時間(事務スタッフの拘束時間)外に書籍を執筆するように指導していたが、これは「職務上作成する」ことと矛盾するものではない。本件特許事務所では、弁理士(約40名)及び特許技術者(約40名)から構成される実務グループと、事務・システム管理に専念する事務スタッフ(約50名)から構成される事務グループに分類されているところ、事務グループの仕事は、勤務時間帯を厳密に遵守することが要求されている。これに対して、実務スタッフは、勤務時間の長さではなく主として仕事の成果で業績が判断される上、勤務中でも業務を遂行する上で必要な技術・法律上の知識を得るための勉強が必要であったり、クライアントの知財担当者や発明者と面会又は連絡する必要があったりするため、実務グループでは、勤務時間(事務スタッフの拘束時間)中であっても、中核業務(特許明細書及び中間処理における応答書面の起案)を中断することが頻繁にある。また、通常、実務スタッフが17時30分までの勤務時間内にすべての業務を終了させることは不可能であり、実務スタッフの平日残業や休日出勤は常態化しているため、実務スタッフの給与額はかかる実態を考慮して決められている。
 被告は、時間の自由がきく実務スタッフであっても勤務時間(事務スタッフの拘束時間)中は事務グループとの連携が必要な中核業務に専念するよう努めるのが望ましいと考え、また、勤務時間(事務スタッフの拘束時間)中に実務スタッフによる非中核業務が行われているのを事務スタッフが見るのは事務スタッフの士気低下につながるおそれがあること等を考慮し、本件書籍の執筆を勤務時間(事務スタッフの拘束時間)外に行うように原告ら執筆担当者に指導したものである。したがって、被告は、通常の実務スタッフの執務時間のうち、事務スタッフの拘束時間外に書籍執筆の業務をするように時間配分することを意図しただけであり、執筆担当者が職務と関係なく個人的に本件書籍を執筆することを命令したものではない。
 本件書籍が当初から本件特許事務所の刊行物として出版されるものであったこと、原告は、上記のとおり所内の執筆担当者から構成される執筆者会議で決定された方針に従って執筆したことから、本件原稿は、原告が余暇を利用して個人的に執筆したものではなく、被告の業務として作成されたことは明らかである。
(エ) 「自己の著作の名義の下に公表する」
 本件書籍は「創英知的財産研究所」の名義で出版しているが、これは被告の周知の変名である。すなわち、本件特許事務所の前身は、昭和61年(1986年)2月に開設され、その後、何回か名称が変更され、平成11年(1999年)4月に現在の「創英国際特許法律事務所」となったものであるが、昭和63年(1988年)1月に「創英」の名称を使い始めてから16年にわたり、被告は、一貫して「創英」の名前で事業を継続してきた。このように、被告が「創英」に関する名称を長年にわたって使い続けた結果、現在では特許業界において「創英」及び「弁理士B」の名称は著名となっており、弁理士B(被告)が本件特許事務所の運営者であることは周知の事実となっている。そして、被告は、「創英」という周知名称に「知的財産研究所」という言葉を付して、本件特許事務所が、研究活動の活発な事務所であることをアピールしようとしたものであり、平成13年(2001年)1月から「創英知的財産研究所」の名称を使用し、本件書籍を含む単行本やCD−ROM、定期刊行物を出版するほか、被告が講演会や講習会を開く際にも使用しているものである。
 したがって、本件書籍においても、著者を「創英知的財産研究所」とすることは被告の氏名表示権を行使する意図のあらわれであり、「自己の著作の名義の下に公表」したものである。
(被告の職務著作の主張に対する原告の反論)
ア 法人等の職務の遂行として著作物を作成したものかどうかを判断するには、法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して判断すべきものである(最高裁平成13年(受)第216号同15年4月11日第二小法廷判決・判例時報1822号133頁(以下「RGBアドベンチャー事件上告審判決」という。)参照)。
イ(ア) 原告の職務内容
 原告は弁理士であり、弁理士法の規定(4条等参照)上、書籍の執筆は弁理士の業務として含まれていないから、原告の業務に本件原稿の執筆が含まれないことは当然である。書籍の執筆が弁理士の業務とは直接の関連のない、全く別の業務であるからこそ、被告は、本件特許事務所内で公募することにより、つまり、職務外で執筆を行ってもよいと考える者が自発的に参加するという形で執筆チームを編成したのであり、これに応じた者も、原稿の執筆を勤務時間外に(職務外活動として)行うことに同意したのである。
 また、原告は、本件特許事務所在職中、特許実務の担当者であったから、本件特許事務所在職中から現在に至るまで、著作権に関わる実務を一切経験していないのであって、著作権に関する本件原稿の執筆が原告の職務に直接関連しないということはこの点からも明らかである。
(イ) 業務態様
 被告は、本件原稿の執筆を勤務時間外に行うように指導していた。このことは、本件原稿の執筆が職務に当たらないことを端的に示すものである。被告は、事務スタッフのみに勤務時間が適用されるものであるかのように述べているが、弁理士についても勤務時間は定められているのであり、原告はこれまでに、勤務時間が弁理士には適用されないという説明を受けたことはない。
(ウ) 本件原稿の執筆に対する対価の不存在
 原告は、被告から大卒初任給として最低レベルのものにすぎない給与額(事実上の手取額17万3928円)しか受け取っておらず、これに本件原稿執筆の対価が含まれているとは解されない。
 また、原告は、退職前に追加報酬を被告から支払われたが、追加報酬は、本件書籍に掲載する原稿を執筆したか否かに関わりなく、在籍年数や役職等の形式的な事情に応じて一律に定められたもので、本件原稿執筆の対価ではない。
 なお、原告が、本件書籍の著作権譲渡の対価を無償とする条項(本件覚書3条2項)が存する本件覚書を締結したのは、本件書籍に執筆担当者として原告の氏名が表示され、それによって、原告が著作権について詳しい弁理士であるとの名望を得るためであった。
(エ) 指揮監督の不存在
 本件原稿を含む本件書籍執筆の章立て、執筆内容、執筆者の選定などの創作行為は、原告が策定し、進行状況などを管理していたものである。また、本件原稿の内容、表現等について、被告から一切指示を受けていない。
 そして、本件原稿の執筆は、業務時間外に原告の自宅において、原告所有のパソコンを用いて行ったものであるから、被告がこれについて指揮監督したことはない。
 被告は、本件書籍の出版に至るまで、3回の執筆会議の席上で発言し、指揮、監督していたと主張するが、その具体的内容は明らかでなく、指揮監督があったとは認められない。
(オ) 本件覚書の記載
 本件覚書2条1項においては、本件覚書添付の著作物目録1及び2の著作物は、原告が「職務として」作成したものであり、原始的に「著作権及び著作者人格権」が被告に帰属することを定めているのに、本件覚書3条1項では、本件覚書添付の著作物目録3の著作物(本件書籍)は、原告が「職務に関連して」作成したものであると定めている。また、著作権及び著作者人格権が、目録1及び2記載の著作物と同様、被告に原始的に帰属するものであるならば、目録3記載の著作物についてだけ、同条2項による譲渡の規定や4条の著作者人格権の規定を設ける必要はなかった。
 このように、本件覚書の記載からみても、本件原稿が、職務上作成されたものであるとはいえない。
(カ) 使用者が自己の著作の名義の下に公表するものに当たらないこと
 本件書籍は「創英知的財産研究所」名義で出版されたものであり、被告名義で出版されたものではない。
 被告は、変名でもよい旨主張するが、変名では法人等が著作者となることが合理的であるという著作権法15条1項の趣旨が妥当しない。
 仮に変名で足りるとしても、「創英知的財産研究所」の名称が被告の変名であるということが周知であるとは認められない。
 したがって、「使用者が自己の著作の名義の下に公表するもの」という要件を満たさない。
ウ まとめ
 以上のとおり、本件原稿の執筆は、被告の職務上作成されたものといえず、職務著作の要件を充足しない。
(被告の主張−職務著作に関する上記原告の主張に対する再反論)
ア 「法人等の業務に従事する者」について、原告は、RGBアドベンチャー事件上告審判決(乙4)を引用し、この判例に基づき原告が「法人等の業務に従事する者」に当たらないことを主張しているが、この判例は本件と全く異なる事案を対象とするものであり、本件における「法人等の業務に従事する者」の判断の参考となるものではない。RGBアドベンチャー事件では、観光ビザ及び就労ビザで来日した中国人デザイナーと、同人作成のキャラクター図面を採用したアニメーション製作スタジオとの間の雇用関係の存否が問題となったものである。
イ 本件原稿執筆の対価(手当)の支払について
(ア) 原告が、本件特許事務所の勤務弁理士として平成15年(2003年)6月初日から8月末日までの期間に本件原稿の執筆に協力したことは、同年12月25日に原告に支給された追加年俸(特別賞与)に反映されていた。原告の場合、本来なら前年(2002年)末に翌年(2003年)分の年俸を確定する契約を締結しているのであるから、このような追加年俸を被告が原告らに支払う契約上の義務は全く存在しなかった。ところが、被告は、本件書籍の執筆に協力した点等を考慮し、原告に対して追加年俸を支払い、これを原告は報酬の一部として受け取ったものである。
(イ) また、原告が本件書籍の執筆に協力したことは、平成15年12月における平成16年(2004年)分の年棒査定にも充分に反映されていた。被告は、各人の年俸査定を行う基礎資料として、各人の業務について「自己申告」を求め、査定の対象となる項目を周知する一方(乙8、9、10)、申告不要なものとして、英会話練習、研修会参加、弁理士会や会派の活動に加えて、あらかじめ「業務外活動扱いとした外部活動(経費を自己支出し報酬を自己収入とする執筆や講師活動等の外部活動)」は年俸試算の基礎とはならない旨を告知していた。そして、査定項目の中には、「創英知的財産研究所活動」も具体的に列記されており、創英知的財産研究所の書籍出版活動等が本件特許事務所の営業活動の一環であること、そのような活動が勤務弁理士の業務の一部であること、そのような活動が原告ら勤務弁理士の年俸査定の対象となっていたことは明らかである。
 このようにして、被告が「本件書籍の執筆に対する貢献」をも加味した査定を行った結果、原告の年俸は2004年も急増することが予定されていた。すなわち、駆け出し時代の2002年は原告がいうとおり月額21.3万円(12か月とすると年俸255.6万円)であったが、2003年には勤務弁理士として年俸450万円で契約(追加年俸を入れると478.6万円)し、2003年12月には、2004年の年俸として約22%アップの550万円が提示されていた。
(ウ) まとめ
 上記のとおり、原告が本件書籍の執筆に協力したことは、契約年俸を超える追加年俸によって間接的に報われており、かつ、平成16年(2004年)分の年棒査定に直接に反映されていた。
ウ 原告の業務範囲について
 原告は、弁理士法第4条等の規定を挙げて本件書籍の執筆が原告の業務範囲外であると主張するが、これは弁理士という国家資格者がその資格に基づいてなし得る業務内容を規定しただけであって、弁理士たる働き手が事務所という職場において従事する業務範囲を規定したものではない。
 本件特許事務所の場合は、勤務弁理士のなすべき業務の範囲は、年俸査定の項目を掲げた「査定項目書」(乙9)に整理されており、上述のとおり、「創英知的財産研究所活動」が業務として具体的に列記されている。本件特許事務所の勤務弁理士であった原告の業務範囲には、弁理士法第4条等に規定のない外国特許出願等と同様に、創英知的財産研究所活動が含まれていたのは明白である。
エ 本件特許事務所(被告)による指揮監督について
 原告は、執筆中に本件原稿の内容について細かな指示がなされなかったことを問題にするが、本件原稿の執筆活動のように知的専門的作業を被雇用者に任せるときに、雇用者の指示が概括的になるのは当然である。執筆中に逐次原稿執筆の進展状況を精査しなかったことをもって、被告が指揮監督権を放棄したとみなすことはできない。
 本件書籍中、原告が執筆した箇所は、特許法、実用新案法及び著作権法の章のうちの一部のみであり、各執筆分量も執筆者会議で決められたものであり、原告は全く自由に原稿を執筆したわけではなく、執筆者会議を介した本件特許事務所の概括的指示の枠内で執筆を行ったにすぎない。本件原稿(甲2)の冒頭で、「既に述べたように、」という下りから始まっていることは、原告が著作権法の章の他の執筆担当者2名の原稿と整合性を持たせるように書かなければならないと認識していたことを示しているものである。
 このように、本件書籍の執筆者らに対する被告の指揮監督は、必要かつ適切な範囲でされていた。
オ 使用者の著作名義での公表について
 そもそも、著作権法15条の「使用者の著作名義での公表」という要件は、著作物の責任者が執筆者でなく使用者等であることを対内的・対外的に明らかにすることを要求したものである。本件では、対内的にも対外的にも、執筆担当者ではなく、被告が本件書籍の責任者であることを認識することができる体裁で著作者の名義が記載されており、本件書籍の信頼・批判が、最終的には被告に帰属することになるのは、所内で共通の認識とされていたことである。
 上述のとおり、被告は、創英知的財産研究所の名義で本書を出版することを、執筆者募集の当初から明らかにしていたのであるから、本件書籍の出版の結果生じる社会的信頼あるいは批判の帰属主体が被告であったことは、原告も認識していたはずである。
(2) 争点2(本件覚書の効力)について
(被告の主張)
ア 本件覚書(乙3)中の2条1項、2項及び3条1項は、対象著作物が職務著作に該当すること、すなわち被告が著作権及び著作者人格権を有することを確認したものである。
 本件覚書3条2項、4項及び4条は、執筆者が職務著作ではないと主張している場合、あるいは、そのおそれがある場合に備えて、職務著作の事実があるにもかかわらず後日の紛争を迅速に処理する目的で、予備的に、著作権の譲渡及び著作者人格権の不行使の合意をしたものであり、また、本件覚書3条3項は、著作権法の職務著作規定及び本件覚書4条により執筆者に氏名表示権を行使する権限がないにもかかわらず、執筆部分の分量及び重要度、執筆者の貢献度、本件特許事務所としての業務上の宣伝効果等を考慮しつつ、執筆者の努力に配慮し、被告が氏名を表示する努力をすることを確認したものであるにすぎない。
 原告は、本件特許事務所を円満に退社しなかったにもかかわらず、通常の年棒に加え、退職時に被告が任意に給付した追加報酬を得ているのであって、原告が本件覚書の締結により、本件原稿につき、著作権を譲渡すると共に著作者人格権の行使を放棄することに合意したのは不合理な行為ではない。
イ(ア) また、本件覚書は、次のような経緯を経て締結されたものであるから、本件覚書が有効に成立していることは明らかである。原告は、本件覚書の締結により、著作者人格権を行使できなくなることを認識した上、自らの意思によりこれに同意したものである。
(イ) 原告が、本件特許事務所を退職する意思を明らかにしたのは、退職日(平成15年の最終就業日たる仕事納めの日)の前日である平成15年12月25日の昼前であった。原告は、被告に対して「明日で退職します」と告げたので、急遽、退職のための手続きを本件特許事務所の弁理士D(以下「D弁理士」という。)が担当した。本件覚書と、これに添付の目録をD弁理士が原告に手渡したのは、同日夕方頃である。
 その際、D弁理士は、原告に対し、著作権に関する「覚書の内容を確認し、明日までに署名捺印して提出してほしい。」と話したが、原告は、「著作権は自分にある。著作者人格権があるのでゲラのチェックも自分が行う。私の許可なしで加筆訂正してはいけない。」と言い出した。D弁理士は、「ゲラのチェックは短時間の仕事なので、在職者が担当するのが合理的である」旨を原告に伝えたが、原告は著作者人格権に基づく同一性保持権行使の性格を帯びた発言に終始したため、D弁理士は、「所長と話をして納得できたら、覚書に署名捺印して提出してほしい。」旨を原告に伝えて自席に戻った。
 原告は、同月26日の昼頃、本件原稿について、被告と話をし、被告は、原告に対し、「覚書は出さなくても良いよ。シュレッダーにかけちゃいなさい。君自身の判断で、普通の社会人だったらどうするかを考えて、それで署名捺印する気持ちになったら、その時はDさんに提出しなさい。」、「覚書を出すか否かは君(原告)の自由である。」と述べた。そして、原告は、いったん本件覚書を持ち帰った後、その翌日、署名・捺印した本件覚書を持参してD弁理士に提出した。
(ウ) なお、本件書籍に本件原稿が掲載されたのは次の経過による。
 被告は、原告の退職前、原告と本件原稿について話し合っていた際、既に本件書籍に原告が執筆した原稿を使わないことを内心で決意していた。これは、原告が本件特許事務所を退職する意思を告げた後、業務の引継ぎや退職手続を心配する周囲を省みず、著作権法に基づく法的な権利がある旨の主張を始めたことや、原告の約1年半にわたる本件特許事務所での行動や言動も考慮した上で判断したものである。そのため、被告は、D弁理士に対し、原告の関与した原稿は使用しないように厳命し、他の執筆担当者によって、原告が担当していた箇所について再執筆が行われたが、その際、著作権法の項目において原告に割り当てられていた箇所を看過し、本件原稿が残存したまま、本件書籍初版第1刷が発行されたものである。
(原告の主張)
ア 原告は、被告との間で、平成15年12月25日、本件覚書を締結したが、その内容は、本件原稿の著作権を無償で被告に譲渡するかわりに、被告は、執筆担当者として原告の氏名を書籍に表示する、というものであった。ところが、被告は、平成16年2月20日、原告の執筆した本件原稿を本件書籍に掲載して出版したにもかかわらず、原告が本件特許事務所を平成15年12月末に退職したことから、故意に、原告の名前を本件書籍中に掲載しなかった。
 本件覚書は、本件原稿の著作権を無償で譲渡する代わりに原告の氏名を表示をするという内容の契約であるから、氏名の表示がなされなければ要素の錯誤にあたり、無効な契約である。
 なお、原告は、被告に対し、平成16年4月7日付けの通知書をもって上記覚書を解除する旨意思表示をし、同通知書は同月8日に被告に到達した(甲6の1、2)。
イ 著作者人格権不行使特約の効力について
(ア) 本件覚書の4条は、包括的な著作者人格権の不行使を定めた特約である。しかし、著作権法59条によれば、著作者人格権は著作者の一身に専属し、財産権たる著作権を処分した後も著作者の下に残るにもかかわらず、包括的な著作者人格権不行使特約を完全に有効なものと認めると、実質的には著作者人格権の放棄を認めるのに等しいことになりかねない。
 したがって、包括的な著作者人格権不行使特約の効力は、一定の場合に限ってこれを認めるべきである。
(イ) 一般に、著作権譲渡契約等において、著作者人格権の不行使特約を設ける趣旨は、著作者人格権の一身専属性に鑑み、正当に著作権を譲り受けた者を著作者による権利濫用から保護する点にある。
 したがって、著作者の著作者人格権の行使が権利濫用といえるような限定的な場合においてのみ、著作者人格権不行使特約を有効とすべきである。
a 本件覚書締結の経緯
 原告が被告に本件特許事務所を退職する旨を表明した平成15年12月25日当時、本件書籍については、法学書院への原稿納品が完了し、当該出版社による校正段階にあり、原告を含む執筆者らは、出版社からの校正結果を待って、適宜修正・加筆等を行うという状況にあった。
 原告は、自己の名の下に公にされるものである以上、意に反した修正等が施されるという事態を避けたかったため、退職手続きを取ってもらっていたD弁理士に対し、「辞めた後でも、原稿の修正の必要があれば、自分でやりたい」旨の発言をするとともに、その旨を記載した書面(乙3・4頁目)を作成し、D弁理士に渡した。
 ところが、D弁理士は、「辞めた人にやってもらうわけにはいかない」などとして原告の要求を受け入れる様子がなかったため、原告は、「それならば原稿を引き揚げる」と強く述べた。これに対し、D弁理士が、「そんなことをしたら損害賠償を請求する」、「原稿引き揚げたら、出版が遅れたり、できなかったりして、損害が生じるでしょう」などと発言をしたため、原告はやむなく本件覚書に署名捺印し、D弁理士に渡した。
 原告とD弁理士との間で上記やり取りがあった翌日、原告は、被告を訪れ、著作権法上の問題を指摘したが、被告は、原告の上記発言の直後に、「法律なんて関係ねぇんだよ。突然辞めておいて、同一性保持権がどうだのふざけんじゃねぇ」と怒鳴った。原告は「僕の名誉はどうなるのか」などと抗議したが、被告が、「創英の名前を借りて売名行為する気か」と発言したため、原告は、この発言には甚だ腹が立ち、「ふざけるな。自分の名誉を守って何が悪い」と声を荒らげ、被告の下から立ち去ったのである。
 なお、被告は本件覚書の締結前に、原告が本件覚書をいったん持ち帰ったと主張するが、実際の提出日は、本件覚書に記載のとおり平成15年12月25日であった。
b 原告による権利濫用の不存在
 上記aの事実関係の下において、原告に著作者人格権の濫用がないことは明らかである。また、原告は、執筆者として自己の氏名が執筆者として本件書籍に表示されるからこそ本件原稿を執筆したのであり、本件覚書の締結により、本件書籍における自己の氏名の不表示を認めたわけではない。むしろ、今まで被告が出版してきた知的財産権に関する出版物には、すべて執筆担当者として、被告主宰の本件特許事務所の構成員が執筆し、執筆担当者としてその氏名が表示されており、本件書籍においても、原告以外の執筆担当者は、その内容、頁数にかかわらず、全員が執筆担当者としてその氏名を表示されている。
 このように被告は、本件書籍の執筆者中他の執筆者の氏名についてはすべて表示したにもかかわらず、原告の氏名のみを表示しないで本件書籍を出版したものであるから、著作者人格権の行使が権利濫用とはいえない。
 本件原稿の改変についても、原告は、本件覚書とは別に、「著作物目録3の各著作物については、事務所退職後であっても、必要に応じて、原稿の修正及び追加等をします。」と記載した書面を被告に提出し、改変の要請については、自ら改変を行い、他者の手による改変は認めないという意思を表示しているのであるから、原告の同一性保持権の行使が権利の濫用に当たるということはあり得ない。
c まとめ
 以上のとおり、本件において、原告の著作者人格権の行使が権利濫用と認められる事情は存しないから、著作者人格権不行使特約は無効というべきである。
(ウ) 自己決定権に基づく基準
 また、著作者人格権不行使特約により、著作者の著作者人格権の行使を制限することが認められる根拠は、著作者自身の自己決定権に求められるともいえる。そして、著作者人格権不行使特約の締結が、著作者の自己決定権の行使と認められるためには、著作者が、氏名表示権については当該著作者名の表示ないし不表示に対して、同一性保持権については改変に対して、明確かつ具体的な同意を与えていることが必要である。
 したがって、上記のような基準に基づき、本件覚書において、包括的に規定された著作者人格権不行使特約の効力を解釈すれば、著作者名の表示ないし不表示又は改変の内容を具体的に特定できない限り、包括的な著作者人格権不行使特約が締結されているという事情は、著作権法19条3項又は同法20条2項4号の適用を判断する際の一要素として考慮されるにすぎない(甲21参照)。
a 原告の氏名の不表示について
 原告は、本件書籍出版の際の著作者名の表示については被告名義になることを明確かつ具体的に認めていたものの、自己の氏名が表示されないということについては全く合意していなかった。
b 改変について
 原告は、上記のとおり、わざわざ「著作物目録3の各著作物については、事務所退職後であっても、必要に応じて、原稿の修正及び追加等をします。」と記載した書面を被告に提出しているのであって、改変については、自ら行い、他者による改変は認めないという意思を表示しているのであるから、本件原稿の改変につき、明確かつ具体的な同意はない。
c まとめ
 以上のように、著作者人格権不行使特約の効力が認められる根拠が自己決定権にあるとする基準に従った場合でも、本件著作者人格権不行使特約は無効というべきである。
(3) 争点3(原告の損害)について
(原告の主張)
ア 被告は、原告に本件原稿を執筆させたにもかかわらず、原告の氏名を表示せずに本件書籍初版第1刷に本件原稿を掲載し、また、原告の意に反して本件原稿に改変を加え、本件原稿がまだ公表されていないにもかかわらず、本件書籍に掲載して本件書籍初版第1刷を出版せしめたものであり、これらの被告の行為により、原告は多大な精神的苦痛を被った。
 これを慰謝するに足りる金員は、100万円を下らない。
イ 弁護士費用
 原告は、原告代理人に本件訴訟の追行を委任し、相当額の報酬を支払うことを約した。本件訴訟の難易度等を総合考慮すれば、被告の上記各行為と相当因果関係のある弁護士費用は10万5000円である。
ウ 原告は、上記ア、イの合計額110万5000円につき、本訴において内金100万円及びこれに対する侵害行為の翌日(本件書籍出版の日の翌日)である平成16年2月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する。
(被告の主張)
 原告の主張はすべて争う。
第4 当裁判所の判断
1 本件の事実関係
 前記の「争いのない事実等」(前記第2、2)に後掲の各項目に掲げた各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認めることができる。
(1) 本件原稿の執筆(甲2、弁論の全趣旨)
ア 被告は、科学ジャーナリストC氏と共に知的財産権法の入門書として「知的財産権入門−制度概要から訴訟まで」と題する書籍(本件書籍)を法学書院から出版することを、同社との間で合意し、原告ら本件特許事務所の職員の間で、本件書籍の執筆者を募集した。これに対し、原告を含めた本件特許事務所の弁理士7名(当時弁理士の資格を有していなかった者1名を含む。)及び弁護士1名が応募してきたため、被告は、平成15年5月ころ、原告を含むこれらの者に対して、本件書籍を分担して執筆することを依頼した。
イ 被告及び原告ら執筆担当者は、本件特許事務所内において、執筆者会議を数回開催し、本件書籍の章立て、執筆内容、執筆者の担当などを話し合い、原告は、執筆者会議で決められた分担等に従い、まもなく「著作権の登録」に関する本件原稿(甲2)のほか、特許等に関する複数の原稿を執筆した。
ウ 被告は、原告を含めた執筆担当者らに対して、本件原稿の執筆を、勤務時間外で行うように指示した。そこで、原告は、本件原稿の執筆を、本件特許事務所で定める勤務時間外で行った。
(2) 原告の退職(乙23、弁論の全趣旨)
ア 原告は、本件特許事務所の仕事納めの前日であった平成15年12月25日、突如、被告に対し、本件特許事務所を退職する旨を告げた。
 そのため、被告は、本件特許事務所において総合企画責任者として総務事務を担当していたD弁理士に対し、至急原告の退職手続を遂行するように命じた。
イ D弁理士は、被告の命を受け、原告に対し、原告が本件特許事務所に在職中に作成した本件原稿を含む著作物について、「著作権に関する覚書」と題する書面(本件覚書)を手渡して、これに署名、捺印することを求めた。
 その際、原告は、D弁理士に対し、本件原稿について、法学書院から校正刷が来たら自分で修正したい旨を申し出たが、D弁理士は、修正は短期間にやらなければならないこと、原稿のやりとりに時間がかかることがあれば、法学書院から損害賠償請求されるおそれがあること、原告が本件特許事務所を辞めた後に本件原稿について細かいやりとりをすることは難しいことなどを原告に告げ、本件特許事務所で修正する旨を伝えた。
 原告は、D弁理士に対し、自己の氏名が表示される以上、勝手に本件原稿を修正することは困ると再度告げたが、D弁理士は、これに応じず、本件覚書の提出を求めた。
ウ 原告は、平成15年12月26日、本件覚書に、「著作物目録3の各著作物については、事務所退職後であっても、必要に応じて、原稿の修正及び追加等をします。また、これに伴い、退職後に新たに発生する著作権も、在職中に発生したものと見做していただいて構いません。」と記した書面を付して、D弁理士に提出した。
 また、同日、原告は、本件書籍の発行責任者となる被告に対し、本件書籍に原告の氏名を表示せずに本件原稿を掲載したり、原告の承諾を得ずに本件原稿を校正することは、著作権法上問題が生じることを指摘したが、被告は、その時点で、既に原告の執筆した原稿を本件書籍に掲載することは避けた方がよいと内心で考えていたため、原告の求めに取り合わなかった。結局、原告は、本件原稿の掲載について被告と意見が対立したまま、本件特許事務所を退職した。
(3) 本件書籍初版第1刷の発行(甲4、5、弁論の全趣旨)
ア 被告は、上記(2)ウのとおり、原告の執筆した原稿は本件書籍に掲載しないつもりでいたため、原告が担当した箇所について、D弁理士ら本件特許事務所の弁理士等に再執筆させた。ところが、D弁理士らは、「著作権の登録」に関する本件原稿が、原告の執筆による原稿であったことを看過し、本件原稿のうち別紙「文章等の削除、変更、挿入が行われた箇所」に記載のとおり、文章、文字等の削除、変更及び挿入による校正が行われ、校正された原稿が本件書籍の「第7章 第7節 著作権に関する登録」として掲載され(同書222頁ないし227頁。甲4)、平成16年2月20日、法学書院から本件書籍初版第1刷が発行された。
 なお、本件原稿が、本件書籍中においてどのように校正されたかについては、別紙「本件書籍中における本件原稿」に記載のとおりである。
イ そして、本件書籍11頁(甲5)には、「本書は、科学ジャーナリストのC氏と、創英知的財産研究所に所属する執筆者および協力者の共同作業により完成されました。」と掲げた後、本件書籍の執筆者、協力者の氏名等が列挙されている。執筆者等として記載されたのは、「C、創英知的財産研究所」のほか、原告以外の本件特許事務所の弁理士6名及び弁護士1名であり、各人の名前が五十音順に掲げられるとともに、簡単な経歴も紹介されている。
(4) 原告の本件特許事務所における業務と給与(乙8ないし10、弁論の全趣旨)
ア 原告は、本件特許事務所在職中に弁理士資格を取得し、弁理士として、主に特許権の権利取得等に係る特許事務を担当していた。
イ 本件特許事務所では、「勤務弁理士および弁護士の年俸額決定時における査定項目および査定基準の概要と考え方について」と題する書面(乙9)が、同事務所に在職中の弁理士等に配布されており、年俸額の査定基準等が同書面に定められていた(以下、同書面に規定された査定項目及び査定基準を単に「査定基準等」という。)。被告は、毎年末、上記査定基準等にしたがって本件特許事務所の勤務弁理士らの翌年の年俸額を決定し、各勤務弁理士らは、その査定前に、自己の業務についての評価を自己申告することになっていた。
 上記査定項目には、@実務に関する査定、A顧客に関する査定、B所員に関する査定、C経営に関する査定の4つの項目があり、上記@については、「業務処理能力面について、‥‥‥発明発掘から出願、中間、無効審判、さらに鑑定に至るまでの能力が優れていれば、外国は特に評価対象としない。‥‥‥」、上記Cについては、「新規顧客の獲得、営業、‥‥‥創英知的財産研究所活動、その他、多様な面に着目する。‥‥‥ともかく、創英のために良いことをした、という点があれば、ここで評価する。」などと記載されていた。
 なお、被告は、本件特許事務所において、準業務活動とされていた英会話練習、研修会参加、弁理士会や会派の活動の他、外部活動(経費を自己支出し報酬を自己収入とする執筆や講師活動等の外部活動)は、年俸試算の基礎とはならないため、自己申告は不要である旨を告知していた。
ウ 原告は、被告との間で、平成15年度は年俸450万円で契約し、原告は、被告から、同年12月25日に支給された追加年俸(特別賞与)を含めて平成15年に合計478万6000円の支給を受けた。
(5) 創英知的財産研究所の名称での活動(甲8、乙14の1、2、弁論の全趣旨)
ア 被告は、本件特許事務所の所長として同事務所を運営しながら、同事務所の研究活動として、平成13年1月から「創英知的財産研究所」の名称を使用し、書籍や定期刊行物の発行、講演会や講習会の主催などを行っていた。
イ 被告は、中国知的財産権関係書籍(本件覚書添付の別紙著作物目録3(2)記載の書籍)の出版に関し、本件特許事務所の弁理士等に対し、平成15年7月16日、次の内容の電子メールを送信し、執筆を依頼している(甲8)。
 「発明協会から、中国知的財産権関係書籍を出版します。‥‥‥
 貴殿らは、
 (氏名省略)特許、実用新案
 (氏名省略)意匠
 (氏名省略)商標、著作権、不正競争
  A(原告)係争/訴訟制度
  の分担執筆者に内定しました。
 ‥‥‥(略)‥‥‥
 著作権は全て創英知的財産研究所に帰属し、原稿料は、全て創英知的財産研究所に入金されますが、貴殿らの名前は、「分担執筆者」等として書籍に記載されます。
 なお、ベース本の分担執筆者等は、「執筆協力者」等として書籍に記載されます。また、執筆は原則として時間外/自宅でやって頂きますが、執筆手当や残業手当等は付きません。」
ウ 従来、被告により「創英知的財産研究所」名義で出版された知的財産権に関する出版物には、被告主宰の本件特許事務所の構成員を含めて、分担執筆担当者の氏名が表示されている。
2 各争点についての判断
(1) 争点1について
 本件原稿が原告の執筆によるものであることは当事者間に争いがないところ、被告は、本件原稿の執筆は職務著作に当たるからその著作者は被告である旨を主張するので、まず、この点について判断する。
 法人その他使用者(以下「法人等」という。)が著作権法15条1項の規定に基づき著作物(プログラムの著作物を除く。)の著作者となるためには、当該著作物が、法人等の業務に従事する者により職務上作成されるものであることを要する。
ア 原告は、被告の経営する本件特許事務所に在職中に弁理士の資格を取得し、被告との契約により、被告から年俸を支給され、本件特許事務所の仕事に従事する者であるから、原告と被告との間に雇用関係が認められる。
イ 次に、個々の著作物が著作権法15条1項にいう「職務上作成する著作物」に該当するかどうかは、法人等の業務の内容、著作物を作成する者が従事する業務の種類・内容、著作物作成行為の行われた時間・場所、著作物作成についての法人等による指揮監督の有無・内容、著作物の種類・内容、著作物の公表態様等の事情を総合勘案して判断するのが相当である。
 これを本件についてみるに、上記1の認定事実によれば、原告は、本件特許事務所在職中に弁理士の資格を取得し、それ以降は、主に特許事務を扱う弁理士として、主として特許、実用新案等の出願手続等の弁理士法4条に掲げる事務に従事していたものであるところ、本件原稿は、被告が「創英知的財産研究所」の名称で科学ジャーナリストであるCと共に出版する知的財産権法の入門書(本件書籍)の一部分をなすものとして作成されたものであり、その執筆者は本件特許事務所の職員の間で任意参加の形式で募集し、これに応じた者から選ばれたものである。そして、各執筆担当者による原稿作成作業については、本件特許事務所の勤務時間外に行うべきことが被告により指示され、本件原稿も、当該指示に従って勤務時間外に作成されたものであり、また、本件原稿の記載内容についても、被告から具体的指示がされたものではない(本件書籍の出版に至るまでの間に、被告及び執筆担当者との間で、数回の執筆者会議が開かれたものではあるが、そこでは、本件書籍全体の章立て、執筆者の分担などを決定したものであり、個別の原稿の具体的記載内容を決定したものではない。)。また、本件書籍においては、その冒頭に、原告を除く執筆担当者の氏名が表示されている。
 上記によれば、本件書籍の出版は本件特許事務所の本来的な業務内容に含まれるものではなく、また、本件書籍のための原稿執筆は本件特許事務所において原告が日常担当する業務に直接含まれるものでもない。そして、本件原稿の執筆の行われた状況やその際における被告の関与態様、本件書籍の体裁、公表態様等に照らしても、本件原稿が、著作権法15条1項にいう「職務上作成する著作物」に該当するとは、到底認められない。
ウ この点に関して、被告は、本件特許事務所の研究活動の一環として、「創英知的財産研究所」の名称で、本件書籍以外にも書籍を出版したり、講演会等の活動を行っており、これらの活動は、本件特許事務所の職務の範囲内のものであること、俸給の中に創英知的財産研究所の活動の対価が含まれていると述べ、査定基準等の査定項目に「創英知的財産研究所」の活動が明示され、創英知的財産研究所の活動は、職員が自らその報酬を受け取ることができる外部での講演活動(乙11参照)等と明確に区別されているなどと主張する。
 しかし、被告の挙げる書証(乙9。「勤務弁理士および弁護士の年俸額決定時における査定項目および査定基準の概要と考え方について」と題する書面)には、「経営に関する査定」の項目において、「新規顧客の獲得、営業、事務の改善や管理、新人獲得、各種のプロジェクト、創英知的財産研究所活動、その他、多様な面に着目する。」と記載されているが、そこでは単に「創英知的財産研究所活動」の語が記載されているだけであって(同3丁)、その具体的内容は全く明らかではないし(かえって、乙10(「年俸契約の更改に当っての査定に対する自己申告書」)における「経営に関する査定に対して」の項目には、「営業、事務管理、新人獲得、プロジェクト、その他、創英の現在の経営、および将来の事務所の発展に協力する姿勢と実績」と記載されているだけであり、「創英知的財産研究所」に関する活動は記載されていない。)、被告が職員個人の外部での活動という、大学における知的財産一般に関する学生向け講義(乙11)と本件書籍の分担執筆行為を何をもって区別するのかも明らかでない。
 かえって、原告が退職する際に被告との間で締結した本件覚書(乙3)の記載に照らせば、本件原稿は、被告の業務として執筆されたものではないことを被告は自認しているといえる。
 すなわち、本件覚書においては、本件覚書に添付された別紙著作物目録1(「創英ボイス」−季刊・月刊・英文・臨時増刊号その他一切を含む。)及び同目録2(「事務所ホームページ」−和文・英文その他一切を含む。)の各著作物については、本件覚書2条において、被告の発意に基づいて作成され、原告の職務として作成したものであり、原始的に被告に著作権及び著作者人格権が帰属することを確認しているのに対し、本件原稿が掲載された本件書籍(本件覚書添付の別紙著作物目録3の(1))については、本件覚書3条1項において、「職務に関連して作成したものであること」を確認し、同条2項において、著作権を原告から被告又は被告の指定する者に対し譲渡すること、4項において、著作権の登録について原告が協力することを記載し、原告がその著作権者であることを前提とした形で条項を定めているのである。このような規定の仕方からみても、本件書籍に掲載した本件原稿の執筆活動については、これが本来の原告の業務の範囲内の業務ではないことを、被告自身が認めていたというべきである。
 さらに、本件書籍の原稿の執筆活動が、被告の業務の範囲内のものに当たるのであれば、そもそも、本件書籍には、「創英知的財産研究所」の名称のほかに、執筆担当者の氏名を表示する必要性はないところ、本件書籍の冒頭には、「執筆者」として、「C」、「創英知的財産研究所」のほか、原告を除く執筆担当者の氏名も表示されているのであるから、この点からしても、本件書籍の原稿の執筆活動が、被告の職務の範囲に入らないことを被告において自認していたというべきである(なお、本件書籍において、「創英知的財産研究所」を「創英国際特許法律事務所に併設された組織であり」と説明していること(甲5、乙1。11頁)に照らせば、「創英知的財産研究所」が被告個人の変名である旨をいう被告の主張は容易に採用しがたく、本件書籍について、被告が「自己の著作の名義の下に公表」したといえるかどうかも疑問がある。)。
エ 以上のとおり、本件原稿の執筆活動は、原告の業務とは認められず、本件原稿が「職務上作成された著作物」に該当するということはできない。したがって、職務著作であるとの被告の主張は採用できない。
オ そうすると、本件原稿の著作者は原告であり、著作者人格権は原告に帰属する。
 そして、本件原稿は、本件特許事務所に所属する弁理士らによって、別紙「文章等の削除、変更、挿入が行われた箇所」に記載のとおり、文章等の削除、変更及び挿入による校正が施された後、別紙「本件書籍中における本件原稿」のとおり、本件書籍初版第1刷(乙1)に掲載されたが、執筆者として原告の名前は掲載されていない。
 したがって、原告の氏名を表示しないで本件原稿を本件書籍に掲載したことは、氏名表示権の侵害に当たる。
 しかし、上記校正の内容についてみると、本件原稿について改変されている部分は、いずれも、分担執筆に係る複数の原稿により構成されるという本件書籍の性質上、法律名の略称や仮名遣いを統一した点や、法律解説書という観点から本件原稿において不正確ないし不適切な表現を手直ししたものであって、その校正内容は、本件書籍の性質に照らせば不相当なものとはいえない。改変内容が、上記のようなものであることに加えて、被告において、本件書籍の出版を間近に控えて短時間のうちに校正を行う必要に迫られていたという事情のあることをも併せて考慮すれば、上記改変は、やむをえない改変(著作権法20条2項4号)にとどまるものというべきである。
 また、原告は、本件書籍の出版について、公表権の侵害をも主張するが、そもそも本件原稿は本件書籍に掲載されて出版されることを前提として執筆されたものであって、被告による本件書籍の出版に伴い公表されることは原告においても事前に了解していたものであるから、本件書籍の出版により、原告の公表権が侵害されたとはいえない。
カ まとめ
 以上のとおり、本件原稿の本件書籍への掲載は、原告の有する著作者人格権(氏名表示権)を侵害するものと認められる。
(2) 争点2について
 上記のとおり、本件原稿の本件書籍への掲載は、原告の有する著作者人格権(氏名表示権)を侵害するものというべきであるが、被告は、原告が本件覚書を締結したことにより、原告が著作者人格権を行使することは許されない旨主張するので、この点について判断する。
 本件覚書4条には、本件原稿について、原告は、被告又は被告から著作権を承継した者又は被告から当該著作物を利用する権利を取得した者に対して著作者人格権を行使しない旨が記載されている。しかし、前記1に認定したとおり、従来、被告により「創英知的財産研究所」名義で出版された知的財産権に関する出版物には、被告主宰の本件特許事務所の構成員を含めて、分担執筆担当者の氏名が表示されていたものであり、このような事情があったことから、本件覚書についても、原告は、自己の氏名が本件書籍に表示されることを前提として署名、捺印したものであるから、本件覚書に上記条項(4条)が存在することを理由として、原告が本件原稿について氏名表示権の不行使を約したと認めることはできない(また、前記のとおり、本件書籍には、原告を除く執筆担当者の氏名は「執筆者」として表示されており、結局、氏名を表示されていないのは原告のみであるところ、本件覚書4条により原告がこのような差別的な取扱いをも容認していたと認めることは、到底できない。)。
 そうすると、本件覚書4条の存在を理由として、本件訴訟において原告が本件原稿について著作者人格権(氏名表示権)を行使することができないとする被告の主張は、採用できない。
(3) 争点3について
ア 前記1に記載された認定事実を総合すれば、著作者人格権(氏名表示権)の侵害により原告が被った損害額(慰謝料)としては、20万円をもって相当と認める。
 また、原告が、本訴の提起及び訴訟追行のために弁護士を選任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の内容、審理の経緯その他諸般の事情を考慮すれば、原告に生じた弁護士費用のうち5万円については、被告による著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある損害として被告に負担させるべきものと認めるのが相当である。
イ 上記によれば、被告の著作者人格権侵害行為により原告が被った損害は合計25万円と認められる。
3 結論
 以上によれば、原告の請求は、25万円及びこれに対する著作者人格権侵害の後である平成16年2月21日(本件書籍発行日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
 よって、主文のとおり、判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 鈴木千帆
 裁判官 荒井章光
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