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【事件名】高級注文住宅の著作物性事件(2)
【年月日】平成16年9月29日
 大阪高裁 平成15年(ネ)第3575号 著作権侵害差止等請求控訴事件
 (原審・大阪地裁平成14年(ワ)第1989号〔第1事件〕、同第6312号〔第2事件〕)
 (当審口頭弁論終結日 平成16年6月23日)

判決
控訴人(1審両事件原告) 積水ハウス株式会社
同訴訟代理人弁護士 溝上哲也
同 岩原義則
被控訴人(1審両事件被告) 株式会社サンワホーム
同訴訟代理人弁護士 反田一富


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴人の当審における予備的請求を棄却する。
3 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 第1事件に関する原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙イ号物件目録記載の建物を建築し、販売し、又は販売のために展示してはならない。
3 被控訴人は、原判決別紙イ号物件目録記載の建物の玄関側を撮影した写真が掲載された住宅のパンフレットを廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、3518万5000円及びこれに対する平成14年3月7日(訴状送達の日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担する。
(以下、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」といい、その他の略称は、原判決のそれによる。)
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1) 第1事件は、原告が、@原判決記載の原告建物は建築の著作物(著作権法10条1項5号)に該当し、原告は原告建物の著作権者であるところ、原判決記載の被告建物は原告建物を複製又は翻案したものであるとして、被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、被告建物の建築等の差止め及び被告建物の玄関側写真の掲載されたパンフレットの廃棄を請求するとともに、民法709条(著作権侵害による不法行為)に基づき損害賠償を請求し、また、A被告建物は原告建物の商品形態を模倣したものである(不正競争防止法2条1項3号)として、被告に対し、不正競争防止法4条(不正競争行為による不法行為)に基づき損害賠償を請求している事案(@とAは損害賠償請求について選択的関係)である。
 第2事件は、原告が、原判決記載の原告写真は写真の著作物(著作権法10条1項8号)に該当し、原告は原告写真の著作権者であるところ、原判決記載の被告写真は原告写真を複製又は翻案したものであるとして、被告に対し、著作権法112条1項、2項に基づき、被告写真の印刷、複写及び同写真を掲載した印刷物(チラシその他の印刷物)の配布の差止め及び被告写真のデータ等(被告写真、そのデータ、被告写真を使用したチラシその他の印刷物)の廃棄を求めるとともに、民法709条(著作権侵害による不法行為)に基づき損害賠償を請求している事案である。
(2) 原審は、原告の第2事件の請求のうち、差止請求の全部及び損害賠償請求の一部を認容し、第1事件の請求全部及び第2事件のその余の損害賠償請求をいずれも棄却した。
(3) これに対し、原告は、第1事件について本件控訴を提起し、当審において、被告が原告の知的活動の成果にただ乗りして、原告建物の玄関側外観を模倣した被告建物をモデルハウスとして自己の営業活動に利用し、原告と競合する販売地域において顧客を誘引しているのは、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業上の利益を害するものであるとして、民法709条(違法な模倣行為による不法行為)に基づく損害賠償請求を予備的に追加した。
2 争いのない事実等(証拠を掲記した事実以外は争いがない。)
 原判決3頁7行目から5頁17行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
 ただし、原判決4頁22行目の「甲第29号証」を「甲第23、第29号証」と、5頁15行目の「上記」を「前記」とそれぞれ改める。
3 争点
(1) 被告建物の建築、販売及び展示は、原告建物に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか。
ア 原告建物は、建築の著作物(著作権法10条1項5号)に該当するか。
イ 被告建物は、原告建物を複製又は翻案したものか。
(2) 被告建物は、原告建物という商品の形態を模倣したもの(不正競争防止法2条1項3号)といえるか。
(3) 被告建物をモデルハウスとする被告の営業活動は、原告の営業上の利益を侵害する違法な模倣行為(民法709条の不法行為)に該当するか。
(4) 原告の損害
ア 著作権侵害又は不正競争行為による損害
イ 違法な模倣行為による損害
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(被告建物の建築、販売及び展示は、原告建物に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか。)について
(1) 争点(1)ア(原告建物は、建築の著作物(著作権法10条1項5号)に該当するか。)について
【原告の主張】
 原判決6頁14行目から8頁21行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
 ただし、原判決7頁3行目末尾の次に「そして、原告建物のデザインは、切妻大屋根の片側葺き下ろし(A)、勾配破風サッシ(B)、切妻壁面一部のセットバック(C)、袖壁を囲むインナーバルコニー(D)、下屋屋根による軒深さ(E)、外壁と屋根のモノトーン色調のコントラスト(F)をその特徴的部分とするものであり、AないしFの要素とその組合せにより、原告建物は、新たな美的創作性を有する住宅となった。」を加える。
【被告の主張】
 原判決8頁23行目から10頁4行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(2) 争点(1)イ(被告建物は、原告建物を複製又は翻案したものか。)について
【原告の主張】
 次のとおり訂正等するほかは、原判決10頁7行目から11頁18行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
《原判決の訂正等》
ア 10頁7行目冒頭から同14行目末尾までを、次のとおり改める。
 「ア 原告建物の玄関側外観は、@玄関に向かって右側に大屋根を大きく葺き下ろし(A:切妻大屋根の片側葺き下ろし)、A下屋屋根に接して2階のサッシ窓を設けるとともに、B地面近くから屋根の付近までの勾配破風サッシ(地面近くから切妻面の屋根端部に沿って外観上一体に見える窓サッシ)を配してアクセントを加え(B:勾配破風サッシ)、C反対側には、面積の少ない上屋屋根と反対側から中央部を越えて軒の深い面積の広い下屋屋根を葺き(E:下屋屋根による軒深さ)、D切妻壁面の一部分をアルコーブ状(屋内側)にくぼませてセットバックさせ(C:切妻壁面一部のセットバック)、下屋屋根と一体感を持たせた中央に袖壁(建物から外部へ突き出して設けられる壁)を設置したインナーバルコニー(下階外壁面の内側に取り込まれた上階のバルコニー構造)を配し(D:袖壁を囲むインナーバルコニー)、E下屋屋根の軒下にはテラスを配し、F濃灰色の瓦と白色の壁でモノトーンのコントラストを醸し出している(F:外壁と屋根のモノトーン色調のコントラスト)、といった独創的・個性的な特徴を有している。
 被告建物の玄関側外観も、これらの特徴をすべて有している。」
イ 11頁8行目の「、I左側面の形態表現、」を削る。
【被告の主張】
 原判決11頁20行目から同25行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
 ただし、原判決11頁24行目の「異なる。」の次に、「そして、被告建物は、2階正面左側の切妻屋根の位置が右側の大屋根の頂点の位置よりも低いのに対し、原告建物では逆に高くなっている。また、建物1階から2階にかけての勾配破風サッシが、原告建物では建物右寄りに位置しているが、被告建物では建物右側の中央寄りに位置し、1階右側にもう1か所長方形の窓が設けられている。原告建物の玄関は、正面中心より左側に配置されているため、不安定な印象を与えるのに対して、被告建物の玄関は、建物中心付近に位置しているため、上記勾配破風サッシとともに安定感を与える外観となっている。更に、原告建物の下屋屋根の軒下にはテラス(床面にタイルを張り、そこに椅子、テーブル、鉢植えの植物を配置することができるスペース)が配されているが、被告建物の下屋屋根の軒下には雨落ちと窓との間の狭いスペースしかなく、テラスは存在しない。」を加える。
2 争点(2)(被告建物は、原告建物という商品の形態を模倣したもの(不正競争防止法2条1項3号)といえるか。)について
【原告の主張】
 次のとおり訂正等するほかは、原判決12頁3行目から13頁14行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
《原判決の訂正等》
(1) 12頁12行目末尾の次に、「そして、原告建物は、ある一定のイメージないしコンセプト(モデルとなった住宅の商品形態と実際に建築される各顧客の建物との同一性が保証される範囲である玄関側における形態の共通性、すなわち商品の形態)を顧客(消費者)に提示するモデルハウスであり、そのため、原告建物が提示するイメージないしコンセプトを実現しようとする顧客は、そのイメージないしコンセプトを、商品形態を具備する玄関側から把握するから、購入しようとする者にとってみれば、イメージないしコンセプトを具現化しない背面や両側面、全体的な構成等は、当該商品の形態としては無意味である。」を加える。
(2) 12頁18行目冒頭から13頁2行目末尾までを、次のとおり改める。
 「(2) 『商品の形態の模倣』について
ア 原告建物の玄関側の外観(以下『原告商品形態』ともいう。)は、@玄関に向かって右側に大屋根を大きく葺き下ろし(A:切妻大屋根の片側葺き下ろし)、A下屋屋根に接して2階のサッシ窓を設けるとともに、B地面近くから屋根の付近までの勾配破風サッシ(地面近くから切妻面の屋根端部に沿って外観上一体に見える窓サッシ)を配してアクセントを加え(B:勾配破風サッシ)、C反対側には、面積の少ない上屋屋根と反対側から中央部を越えて軒の深い面積の広い下屋屋根を葺き(E:下屋屋根による軒深さ)、D切妻壁面の一部分をアルコーブ状(屋内側)にくぼませてセットバックさせ(C:切妻壁面一部のセットバック)、下屋屋根と一体感を持たせた中央に袖壁(建物から外部へ突き出して設けられる壁)を設置したインナーバルコニー(下階外壁面の内側に取り込まれた上階のバルコニー構造)を配し(D:袖壁を囲むインナーバルコニー)、E下屋屋根の軒下にはテラスを配し、F濃灰色の瓦と白色の壁でモノトーンのコントラストを醸し出している点(F:外壁と屋根のモノトーン色調のコントラスト)にその主な特徴がある。これらの特徴は、従来にない独創的なものであり、構造上避けられないものではない。
 被告建物の玄関側の外観(以下『被告商品形態』ともいう。)は、これらの特徴をすべて有している。」
(3) 13頁4行目の「上記」を「前記」と、同5行目の「I」を「H」と、同10行目冒頭の「(3)」を「ウ」と、同14行目冒頭の「(4)」を「エ」とそれぞれ改める。
【被告の主張】
 次のとおり訂正等するほかは、原判決13頁16行目から14頁24行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
《原判決の訂正等》
(1) 13頁16行目冒頭から同17行目末尾までを、次のとおり改める。
 「(1) 『商品の形態』について
 不正競争防止法2条1項3号における『商品の形態』とは、商品の形状、模様、色彩、光沢等外観上認識し得るものをいい、商品の機能や性能を実現するための構造は、それが外観に現れない内部構造にとどまる限り『商品の形態』とはいえない。したがって、建物における『商品の形態』とは、建物の外観全体と建物の内部(通常目に付かない部分である基礎や壁の内部、天井裏を除く。)ということになる。
(2) 『商品の形態の模倣』について
ア 原告が、原告商品形態として主張する特徴は、いずれも従来から存在するものであり、原告のみがその使用を独占できるものではない。」
(2) 13頁18行目の「上記【原告の主張】(2)アの@ないしE」を「前記【原告の主張】(2)アの@ないしF」と改め、14頁3行目の「更に」の前に「F外壁と屋根のモノトーン調のコントラストは、従来から存在する『黒色の日本瓦と白壁の組合せ』がこれに該当する。」を加え、同10行目冒頭の「(2)」を「イ」と改める。
(3) 14頁13行目冒頭から同15行目末尾までを、次のとおり改める。
 「 原告建物と被告建物との玄関側外観のみを比較してみても、玄関の位置、その形状、また、玄関周りの形状が異なり、大屋根下の窓の個数、位置、形状も異なる上、2階ベランダ部分の形状が異なる。そして、被告建物は、2階正面左側の切妻屋根の位置が右側の大屋根の頂点の位置よりも低いのに対し、原告建物では逆に高くなっている。また、建物1階から2階にかけての勾配破風サッシが、原告建物では建物右寄りに位置しているが、被告建物では建物右側の中央寄りに位置し、1階右側にもう1か所長方形の窓が設けられている。原告建物の玄関は、正面中心より左側に配置されているため、不安定な印象を与えるのに対して、被告建物の玄関は、建物中心付近に位置しているため、上記勾配破風サッシとともに安定感を与える外観となっている。更に、原告建物の下屋屋根の軒下にはテラス(床面にタイルを張り、そこに椅子、テーブル、鉢植えの植物を配置することができるスペース)が配されているが、被告建物の下屋屋根の軒下には雨落ちと窓との間の狭い空間しかなく、テラスは存在しない。」
(4) 14頁16行目冒頭の「(3)」を「ウ」と改める。
3 争点(3)(被告建物をモデルハウスとする被告の営業活動は、原告の営業上の利益を侵害する違法な模倣行為(民法709条の不法行為)に該当するか。)について
【原告の主張】
(1) 原告建物は、平成10年4月25日に販売が開始され、その後、各種の新聞等で新商品として紹介され、富山県高岡市所在のジュートピア高岡展示場(甲第7号証の1、2)をはじめとする全国の展示場にモデルハウスが建築されたほか、同年10月には通商産業省選定の平成10年度グッドデザイン賞を受賞して、その玄関側の外観をはじめとする形態は、被告の認識するところとなった。ところが、被告は、平成11年8月以降、前記のとおり、SBC長野中央ハウジングパーク、SBSマイホームセンター静清展示場、NST燕三条総合住宅展示場及び福島テレビハウジングプラザ福島の4展示場(そのうちは、SBC長野中央ハウジングパーク及びNST燕三条総合住宅展示場の2か所は、原告と同じ展示場である。)に、原告建物の玄関側外観を模倣した被告建物を相次いで建築、展示した上、被告建物の玄関側を撮影した写真を掲載したパンフレット、チラシ、新聞広告及びホームページを作成して大々的に広告し、原告と販売地域を競合する地域において顧客を誘引する営業活動を行い、原告の営業活動上の利益を侵害している。
(2) 被告が故意に前記違法な模倣行為を行ったことは、以下のことから明らかである。
ア 被告が原告建物の販売開始前において展示、販売していた住宅と被告建物のデザインの傾向が大きく異なること(甲第30号証の1、2)。
イ 被告が原告建物の了知後1年以上経過してから、デザイン的に大きな飛躍がある原告建物の玄関側外観の特徴的部分をほとんど取り入れた被告建物を建築するようになったこと。
ウ 専門家であるZの鑑定書(甲第31号証の1)において明らかにされた原告建物と被告建物との数値上の符合の程度、すなわち、原告建物と被告建物が、@右側の片流れ大屋根の傾斜角度、A右側の片流れ大屋根と左側の切妻屋根との組合せ及び配置の角度、B右側の片流れ大屋根と左側の切妻屋根と左側の上屋屋根との三者の組合せ及び配置の数値上の対比、C左側の下屋屋根とBの三者との四者の組合せ及び配置の数値上の対比、D左側の下屋屋根に一体化して組み込まれ設置されたインナーバルコニーとCの四者との五者の組合せ及び配置の数値上の対比、E左側の下屋屋根と一体感を持たせた袖壁によって二つに分割配置された壁とDの五者との七者の組合せ及び配置の数値上の対比、F大屋根と片流れ大屋根及び左側の上屋屋根にかかわる水平的モジュールによる骨格構造、G下屋屋根とバルコニーの袖壁にかかわる垂直的・水平的モジュールによる骨格構造、H全体的な骨格構造の各ポイントにおいてほぼ一致していること。
エ 原告建物のデザインの特徴的部分(A:切妻大屋根の片側葺き下ろし、B:勾配破風サッシ、C:切妻壁面一部のセットバック、D:袖壁を囲むインナーバルコニー、E:下屋屋根による軒深さ、F:外壁と屋根のモノトーン色調のコントラスト)をすべて具備しているのは被告建物だけであり、被告建物ほどにそっくりに近い模倣が被告以外の他社には全くなかったこと。
オ 被告が別の原告商品である「エム・グラヴィス ベルザ」のイメージを盗用した本件チラシ(原告写真を複製又は翻案した被告写真を掲載したチラシ)を作成、配布し、本件新聞広告(原告写真を複製又は翻案した被告写真を掲載した新聞広告)を掲載するという違法な模倣行為(第2事件)を繰り返していること。
(3) 原告には、研究開発部門として、技術部、設計部及び施工開発部の3部門が存在し、原告建物が開発された48期(平成10年2月1日から平成11年1月31日まで)には、戸建住宅分野において「JX」、「UX」、「NEO」、「TX」、アパートの分野において「バリュージュ」、3階建て市場向けに「RS」、シャーウッド事業において「エム・アルバーノ」の合計7種類の商品が販売されているところ(甲第41号証の2)、原告は、原告建物が発売される前年から、研究開発費として47期(平成9年2月1日から平成10年1月31日まで)においては78億0700万円(甲第41号証の1)、48期においては80億4500万円(甲第41号証の2)とコンスタントに莫大な金額を掛けているから、単純計算でも原告建物である「JX」の設計に関する開発費は、80億4500万円×1/3(「設計部」分)×1/7(「JX」分)=3億8309万5238円を下っていない。原告は、被告の前記模倣行為により、上記の時間と費用を掛けて企画開発した原告の知的活動の成果にただ乗りされた。
(4) したがって、仮に被告の前記模倣行為が著作権侵害や不正競争行為(不正競争防止法2条1項3号の商品形態の模倣)に該当しない場合でも、当該行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害した行為(違法な模倣行為による不法行為)と評価されるべきであるから、被告は、原告に対し、民法709条に基づく損害賠償義務を負担する。
【被告の主張】
(1) 原告建物と被告建物は、建物全体を観察して両者の特徴が全く同一であるとも、商品の形態が酷似しているともいえないから、両者の間には実質的同一性も印象の同一性も存在せず、被告建物は原告建物を模倣したものとはいえない。
(2) 住宅メーカーは、各社ともその製品の開発研究に多大の費用を掛けているが、各社間の競争があることは当然であり、和風建築、洋風建築、和洋折衷建築の各ジャンルにおいて、競業他社が外観が多少近似した建物を開発し販売することも十分予想可能のはずである。かかる事態に対して不法行為責任を追及することになれば、かえって設計者を萎縮させ競争を害する結果になる。また、そもそも、「建築の著作物」に該当しない原告建物について、その開発費の支出を「法的保護に値する利益」として、別途損害賠償の対象とするのは矛盾する。
(3) したがって、本件において、原告の法的保護に値する利益が侵害されたとはいえない。
4 争点(4)(原告の損害)について
(1) 争点(4)ア(著作権侵害又は不正競争行為による損害)について
【原告の主張】
 次のとおり訂正等するほかは、原判決15頁3行目から16頁8行目までの記載のとおりであるから、これを引用する。
《原判決の訂正等》
ア 15頁3行目の「上記第2、1、(3)、ア」を「前記第2、1の争いのない事実等(3)ア」と改める。
イ 16頁6行目の「金員」の次に「(著作権法114条2項又は不正競争防止法5条2項に基づく使用料相当損害金)」を加える。
ウ 16頁8行目冒頭から同末尾までを、次のとおり改める。
 「エ また、原告は、本件著作権の侵害又は不正競争行為を受けて、本件訴訟手続を遂行することを余儀なくされたため、原告訴訟代理人らに本件訴訟を委任したが、その弁護士費用のうち、被告の本件著作権の侵害又は不正競争行為と相当因果関係にある損害は、少なくとも200万円は下らない。」
【被告の主張】
 原判決16頁10行目から同21行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(2) 争点(4)イ(違法な模倣行為による損害)について
【原告の主張】
 原告は、被告の前記違法な模倣行為(民法709条の不法行為)により、原告建物の設計に関する開発費用の回収ができなくなり、少なくとも前記(1)【原告の主張】ウと同額の損害を被り、また、本件訴訟手続を遂行することを余儀なくされたため、少なくとも前記(1)【原告の主張】エと同額の弁護士費用相当の損害を被った(損害額の合計は、3318万5000円+200万円=3518万5000円である。)。
【被告の主張】
ア 一般人にとって、住宅建築請負契約は、その性質上又その金額からして一生一度ともいうべき契約であり、契約締結には極めて慎重になるのが通常であって、モデルハウスの「正面の外観」のみによって契約締結が左右されることは通常あり得ない。むしろ、顧客は、建築金額、建物の内装、仕様、構造、仕上げ、完成後の保証、メンテナンス、建築会社の信用といった多様な要素を考慮の上、契約締結に至る。かかる実情の中で、模倣したモデルハウスの建築、展示によって、損害を受けたというには、その因果関係が不明確である。
イ 原告は、原告建物の設計に関する開発費用が侵害された旨主張する。しかし、原告は、引き続き原告建物と同一のデザインの建物を建築することも、販売することも可能であるから、原告建物の設計費用が原告の損害になることはない。
ウ 結局、原告がいかなる損害を受けたのかについて不明であり、損害額の推定がない民法709条に基づく本件損害賠償請求において、その立証もない。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告建物の建築、販売及び展示は、原告建物に関する原告の著作権を侵害する行為に該当するか。)ア(原告建物は、建築の著作物(著作権法10条1項5号)に該当するか。)について
 当裁判所も、原告建物は著作権法上の「建築の著作物」に該当しないと判断する。その理由は、次のとおり訂正等するほかは、原判決23頁2行目から34頁14行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
《原判決の訂正等》
(1) 23頁2行目冒頭から同8行目末尾までを、次のとおりに改める。
 「ア 前記第2、1の争いのない事実等と証拠(甲第1号証の1ないし3、第2号証の1ないし4、第3ないし第6号証、第7号証の1、2、第8号証、第25、第26号証、第31、第32号証の各1、第34号証の1、2、第47号証、第50号証の1ないし4、、第63、第64号証の各1、2、第70号証、第73号証、乙第1号証の1ないし6、第2号証の1ないし4、第3号証の1、2、第4、第5号証、第8ないし第13号証、第14号証の1、2、第19号証の1ないし17、第20号証の1ないし5、第21号証の1ないし13、第24号証)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。」
(2) 24頁14行目冒頭から25頁11行目末尾までを、次のとおり改める。
 「(ウ) 原告建物の構成及び外観は、次のようなものである。
 原告建物は、片流れ大屋根と切妻屋根を組み合わせ、2階にはインナーバルコニー(1階外壁面の内側に取り込まれたバルコニー構造)を、1階には軒下テラスを配し、濃灰色の陶器瓦と自然石の小端積みをデザインモチーフにした白色のダインコンクリート壁によってモノトーンのコントラストを醸し出している(F:外壁と屋根のモノトーン色調のコントラスト)、和風建築の2階建て個人住宅である。
 原告建物を正面側(玄関側)から見ると、右側に大きく葺き下ろす片流れ大屋根(A:切妻大屋根の片側葺き下ろし)、左側に葺き下ろす切妻屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根に90度交差する形で正面に葺き下ろす2階の上屋屋根、1階の下屋屋根が配されている。2階の上屋屋根は、原告建物正面左側に建物横幅の約3分の1程度、1階の下屋屋根は、原告建物正面左端から建物横幅の約4分の3程度に至っている(E:下屋屋根による軒深さ)。原告建物正面右側には、2階に台形状の窓が1か所、1階に長方形の窓が1か所あり、地面近くから大屋根付近まで勾配破風サッシ(濃灰色)に囲まれることにより(B:勾配破風サッシ)、一体となっているように見える。原告建物1階正面中央やや右寄り部分は、左右に比べて前方に突出しており、その部分とその上の2階に窓が1か所ずつあり、2階にある窓の方が1階にある窓よりも幅が若干狭く、高さも半分程度である。原告建物2階正面左側は、右側や中央よりも後退しており(C:切妻壁面一部のセットバック)、2階には中央に袖壁(建物から外部へ突き出して設けられる壁)のあるインナーバルコニー(D:袖壁を囲むインナーバルコニ−)が、1階には下屋屋根の広い軒下にテラス(床面にタイルを張り、そこに椅子、テーブル、鉢植えの植物を配置することができるようなスペース)がそれぞれ配置されている。また、1階下屋屋根の左端軒下には、壁が配されている。原告建物正面左側は、1階の中央寄りに扉が褐色で片開きの玄関、左寄りには高さのある大きな窓が1か所配置されており、2階には袖壁を挟んで、1階よりも小さな窓が2か所配置されている。」
(3) 25頁23行目末尾の次に、「すなわち、原告建物の左側面は、水平方向に大きく開いた上屋屋根の切妻面と、上屋屋根と相似形に水平方向に大きく開いた(建物正面に大きく突き出た)下屋屋根の切妻面を組み合わせたものである。」を加える。
(4) 25頁24行目冒頭から26頁6行目末尾までを、次のとおり改める。
 「(エ) 和風建築として人気のある数寄屋風住宅には、水平構造、切妻屋根(寄棟、方形造り、入母屋造りなどとの組合せや、複数の切妻屋根の中心をずらした組合せなどの場合もある。)、緩い屋根勾配、広く深い軒や庇といった建築技法が一般に用いられる(乙第8、第9号証)。
 原告建物の販売開始(平成10年4月25日)前に、片流れ大屋根とこれに交差する切妻屋根(切妻大屋根の片側葺き下ろし)、緩い屋根勾配、水平構造、広く深い軒による陰影(横幅のある下屋屋根、下屋屋根の作る水平線の強調と広い軒の陰影)、2階部分のインナーバルコニー、テラス、外壁と屋根のモノトーン色調のコントラストといった要素を有する和風の一般住宅が、モデルハウスや個人住宅として存在した(甲第63号証の1、2、第73号証、乙第8ないし第10号証、第24号証)が、原告が主張する原告建物のデザインの特徴的部分(A:切妻大屋根の片側葺き下ろし、B:勾配破風サッシ、C:切妻壁面一部のセットバック、D:袖壁を囲むインナーバルコニ−、E:下屋屋根による軒深さ、F:外壁と屋根のモノトーン色調のコントラスト)のうち、B、C、Dを具備するものは見当たらず、したがって、AないしFをすべて具備するものも見当たらない(甲第63号証の1、2)。もっとも、1973年(昭和48年)に発表された日本ホームズの「ナチュラルデザイン」大屋根片側葺き下ろし妻入り住宅には、正面中央付近に1階下屋屋根から2階切妻面の屋根端部に沿って外観上一体に見える2階窓と、その右側に地面から2階切妻面の屋根端部に沿って外観上一体に見える1階扉と2階窓が設けられており(乙第24号証・3頁図2)、上記Bの勾配破風サッシと似たような印象がある。」
(5) 26頁19行目から同20行目にかけての「甲第50号証の3」を「甲第26号証、第50号証の3」と改める。
(6) 27頁7行目冒頭から28頁24行目末尾までを、次のとおり改める。
 「イ(ア) 著作権法は、同法にいう著作物を『思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。』と定義し(同法2条1項1号)、著作物の例示中に『建築の著作物』を挙げている(同法10条1項5号)。
 ところで、建築は、絵画、版画、彫刻などと同様に造形活動の一種であるが、絵画、版画、彫刻などが専ら美的鑑賞を目的に制作される物品であるのに対し、建築により地上に構築される建築構造物(建築物)は、物品ではない上、美的鑑賞の目的というよりも、むしろ、住居、宿泊所、営業所、学舎、官公署等として現実に使用することを目的として製作されるものである。そこで、同法は、『建築の著作物』を『絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物』(同法10条1項4号)とは別に、独立の著作物類型として保護することにしたものと解される。ちなみに、同法20条2項2号は、建築物の所有者の経済的利用権と著作者の権利を調整する観点から、一定の範囲で著作者の権利(同一性保持権)を制限し、建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変を許容している。
(イ) 一方、著作権法は、著作物の例示中に『絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物』を挙げた(同法10条1項4号)上で、『美術の著作物』には『美術工芸品』を含む旨を規定している(同法2条2項)から、『美術の著作物』は純粋美術(絵画や彫刻のように、専ら鑑賞目的で創作される美的創作物)に限定されないことは明らかであるものの、一品制作的な美術工芸品を除く、その他の応用美術(実用目的の物品に応用される美的創作物)が『美術の著作物』に該当するかどうかは、同法の条文上必ずしも明らかではない。
 ところで、応用美術は、@純粋美術作品が実用品に応用された場合(例えば、絵画を屏風に仕立て、彫刻を実用品の模様に利用するなど)、A純粋美術の技法を実用目的のある物品に適用しながら、実用性よりも美の追求に重点を置いた一品制作的な場合、B純粋美術の感覚又は技法を機械生産又は大量生産に応用した場合に分類することができる。このことに、本来、応用美術を含む工業的に大量生産される実用品の意匠は、産業の発展に寄与することを目的とする意匠法の保護対象となるべきものであること(同法1条)、これに対し、著作権法は文化の発展に寄与することを目的とするものであり(同法1条)、現行著作権法の制定過程においても、意匠法によって保護される応用美術について、著作権法の保護対象にもするとの意見は採用されなかったこと、一品制作的な美術工芸品を越えて、応用美術全般に著作権法による保護が及ぶとすると、両法の保護の程度の差異(意匠法による保護は、公的公示手段である設定登録が必要である上、保護期間(存続期間)が設定登録の日から15年であるのに対し、著作権による保護は、設定登録をする必要はなく、保護期間(存続期間)が著作物の創作の時から著作者の死後50年を経過するまで、法人名義の著作物は公表後50年を経過するまで等とされている。)から、意匠法の存在意義が失われることにもなりかねないこと等を合わせ考慮すると、原則として、応用美術については、著作権法の保護が及ばないものと解するのが相当である。
 もっとも、応用美術であっても、それが造形者の知的・文化的精神活動の所産であって、通常の創作活動を上回り、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、造形芸術と評価し得るだけの美術性を有するに至っているため、客観的、外形的に見て、社会通念上、純粋美術と同視し得る美的創作性(審美的創作性)を具備していると認められる場合は、『美術の著作物』として著作権法による保護の対象となる場合があるものと解される。
(ウ) 建築物は、地上に構築される建築構造物であり、例えば、建物は、建築されると土地の定着物たる不動産として取り扱われるから、意匠法上の物品とは解されず、その形態(デザイン)は意匠法による保護の対象とはならない。しかも、建築物は、一般的には工業的に大量生産されるものではないが、前記(ア)のとおり種々の実用に供されるという意味で、一品制作的な美術工芸品に類似した側面を有する。また、前記アで認定したとおり、原告建物は、高級注文住宅ではあるが、建築会社がシリーズとして企画し、一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅として建築することを予定している建築物のモデルハウスであり、近時は、原告建物のように量産することが予定されている建築物も存在するから、建築は、物品における応用美術に類似した側面も有する。そうだとすれば、建築物については、前記(イ)で検討したところがおおむね妥当する。したがって、著作権法により『建築の著作物』として保護される建築物は、同法2条1項1号の定める著作物の定義に照らして、知的・文化的精神活動の所産であって、美的な表現における創作性、すなわち造形芸術としての美術性を有するものであることを要し、通常のありふれた建築物は、同法で保護される『建築の著作物』には当たらないというべきある。
 一般住宅の場合でも、その全体構成や屋根、柱、壁、窓、玄関等及びこれらの配置関係等において、実用性や機能性(住み心地、使い勝手や経済性等)のみならず、美的要素(外観や見栄えの良さ)も加味された上で、設計、建築されるのが通常であるが、一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性が認められる場合に、『建築の著作物』性を肯定して著作権法による保護を与えることは、同法2条1項1号の規定に照らして、広きに失し、社会一般における住宅建築の実情にもそぐわないと考えられる。すなわち、同法が建築物を『建築の著作物』として保護する趣旨は、建築物の美的形象を模倣建築による盗用から保護するところにあり、一般住宅のうち通常ありふれたものまでも著作物として保護すると、一般住宅が実用性や機能性を有するものであるが故に、後続する住宅建築、特に近時のように、規格化され、工場内で製造された素材等を現場で組み立てて、量産される建売分譲住宅等の建築が複製権侵害となるおそれがある。
 そうすると、一般住宅が同法10条1項5号の『建築の著作物』であるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合と解するのが相当である。
 原告は、原告建物のような一般住宅は建築されると不動産(建物)として意匠登録をすることができず、意匠法による保護の途が閉ざされている旨主張しているが、不動産について意匠登録を認めるか否かは、専ら立法政策の問題であるから、そのことを理由に、上記の程度に至らないものを、著作権法で保護される『建築の著作物』と認めることはできない。
(エ) 前記アの認定事実によれば、原告建物は、和風建築において人気のある、その意味では日本人に和風建築の美を感じさせるということができる、切妻屋根、陰影を作る深い軒、袖壁、全体的な水平ラインといった要素や、インナーバルコニー、テラス、自然石の小端積み風の壁といった洋風建築の要素を、試行錯誤を経て配置、構成されていると認められるから、実用性や機能性のみならず、美的な面でそれなりの創作性を有する建築物となっていることは否定できない。また、原告建物は、建築会社である原告内において、専門的な知識、経験を有する複数の者が関与して、試行錯誤を経て外観のデザインが決定されたものであり、その意味で、知的活動の成果であることも疑いないところである。
 しかしながら、現代において、和風の一般住宅を建築する場合、上記のような種々の要素が、設計・建築途上での試行錯誤を経て、配置、構成されるであろうことは、容易に想像される。本件のように、高級注文住宅とはいえ、建築会社がシリーズとして企画し、モデルハウスによって顧客を吸引し、一般人向けに多数の同種の設計による一般住宅を建築する場合は、一般の注文建築よりも、工業的に大量生産される実用品との類似性が一層高くなり、当該モデルハウスの建築物の建築において通常なされる程度の美的創作が施されたとしても、『建築の著作物』に該当することにはならないものといわざるを得ない。これに対し、まれに、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を具備していると認められる場合は、『建築の著作物』性が肯定されることになる。
(オ) 前記アの認定事実、前記(ア)ないし(エ)の説示及び後記ウの認定判断によれば、原告建物は、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回っておらず、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を具備しているとはいえないから、著作権法上の『建築の著作物』に該当するということはできない。」
(7) 28頁25行目の「審美性や芸術性」を「建築物としての審美的創作性」と改める。
(8) 31頁5行目冒頭から6行目末尾までを、次のとおり改める。
 「 したがって、グッドデザイン賞の受賞から、原告建物に客観的、外形的に見て、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性が具備されていると認めることはできない。」と改める。
(9) 31頁23行目冒頭から32頁9行目までを、次のとおり改める。
 「 しかし、証拠(甲第63号証の1、2、第73号証、乙第9号証、第24号証)によれば、2階の屋根が交わる部分の下にバルコニーがある例、2階のバルコニーに袖壁(建物の外部に突き出して設けられた壁)がある例、2階の外壁を一部分くぼませて設けたバルコニーがある例、2階に下屋屋根に囲まれたインナーバルコニー(下階外壁面の内側に取り込まれた上階のバルコニー構造)がある例、2階のインナーバルコニーにポーチ柱ないしポーチ壁(屋外部にあって上部の屋根を支える柱ないし壁)がある例、和風住宅にインナーバルコニーがある例は、従前から通常の住宅建築に存在したことが認められ、また、インナーバルコニーの存在が建物の外観において重要な要素を占めている例が認められ、従前の住宅建築においても、インナーバルコニーの大きさ、位置、上屋屋根及び下屋屋根との関係等が、全体のデザインの中で適正に位置付けられるように設計されていたものと推認される。そうであるとすれば、原告建物のインナーバルコニー(建物2階正面左側の切妻壁面を一部分くぼませてセットバックさせ、中央に袖壁を設け、下屋屋根で囲んだインナーバルコニー)と全く同じインナーバルコニーが従前存在しなかったとしても、原告建物のインナーバルコニーは、従前から存在した通常の住宅建築のインナーバルコニーの延長上にあるものと認められ、その存在によって、原告建物にそれが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性があることを根拠付けるものではないというべきである。」
(10) 32頁24行目の「前記ア(エ)掲記の証拠」を「前記ア(エ)の認定事実及び証拠(甲第63号証の1、2、第73号証、乙第9、第10号証、第24号証)」と改め、同末行から33頁1行目の「けらば」の次に「(切妻屋根の妻側の端部)」を加える。
(11) 33頁11行目の「原告建物」の前に「原告主張の原告建物のデザインの特徴的部分(A:切妻大屋根の片側葺き下ろし、B:勾配破風サッシ、C:切妻壁面一部のセットバック、D:袖壁を囲むインナーバルコニー、E:下屋屋根による軒深さ、F:外壁と屋根のモノトーン色調のコントラスト)を含めて、」を加え、同15行目の「前掲の証拠」を「証拠(甲第63、第64号証の各1、2、乙第1号証の1ないし6、第2号証の1ないし4、第3号証の1、2、第4、第5号証、第8ないし第13号証、第14号証の1、2、第19号証の1ないし17、第20号証の1ないし5、第21号証の1ないし13)」と、同18行目の「美術性、芸術性」を「客観的、外形的に見て、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性」と、同20行目の「美術性、芸術性」を「上記の造形芸術としての美術性」と、同23行目の「立体構成」を「立面構成」とそれぞれ改める。
(12) 34頁1行目の「甲第25号証及び上記記載」を「上記鑑定書の指摘及び原告設計担当者作成の『JX外観デザイン開発チャート』と題する書面(甲第25号証)」と改める。
(13) 34頁7行目冒頭から同11行目末尾までを、次のとおり改める。
 「 しかし、証拠(甲第63号証の1、2、第73号証、乙第9号証、第24号証)によれば、完成した原告建物を既存の通常の住宅建築と比較した場合、客観的、外形的に見て、原告建物にそれらとは異なって、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性が備わっているものとは認められないから、原告建物の設計において上記のような考慮がされているとしても、そのことをもって、原告建物に上記の造形芸術としての美術性が備えられていると認めることはできない。」
2 争点(2)(被告建物は、原告建物という商品の形態を模倣したもの(不正競争防止法2条1項3号)といえるか。)について
 当裁判所も、原告建物と被告建物は、その外観において相違があり、形態が同一ないし実質的に同一であるとはいえないから、被告建物が原告建物を模倣した商品であると認めることはできないと判断する。その理由は、次のとおり訂正等するほかは、原判決34頁17行目から39頁16行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
《原判決の訂正等》
(1) 35頁6行目冒頭から同10行目末尾までを、次のとおり改める。
 「 そして、原告は、原告を含む建築会社16社のホームページを検討したところ、各社とも1商品の1仕様について1棟(モデル)を選定し、全体かつ正面の外観の写真を採用しており、住宅全体の『正面外観』を当該商品の識別子と位置付けているとの結果を得たこと(甲第68号証)、原告を含む建築会社の商品カタログ5冊を検討したところ、商品たる住宅の外観を示す写真には、全体写真と部分写真があるが、全体写真としては必ず正面一方向の写真が用いられており、部分写真は建築会社が特に見せたい部位(要部)を強調するときに補助的に用いられているにすぎないとの結果を得たこと(甲第69号証)を指摘する。
 しかし、建物において玄関側(正面)外観が最も注目されることは否定できないとしても、そのことは、購入しようとする者にとって背面や両側面、全体的な構成等が当該商品の形態として無意味であるということにはならない。このことは、原告建物が居住用一般住宅である建物のモデルハウスであることを考慮しても、同じである。特に、高級注文住宅であれば、これに居住することを前提とする顧客は、住宅会社の提示する商品イメージないしコンセプトを理解した上で、自己の希望する建物の外観全体(したがって、背面や両側面のデザインも含まれる。)、さらに居住性、機能性の観点から建物の内部の間取り、材質、仕上げの巧拙等に対しても格別の関心やこだわりを有するはずであるから、顧客を誘引する要素は、玄関側(正面)外観だけにとどまるわけではない。また、そもそも玄関側(正面)外観によって、建物の背面や両側面の形態が必然的に定まったり、通常有する形態となるものとはいえない。」
(2) 35頁12行目、同16行目の各「上記」をいずれも「前記」と改める。
(3) 35頁19行目冒頭から36頁13行目末尾までを、次のとおり改める。
 「 被告建物の構成及び外観は、次のようなものである。
 被告建物は、片流れ大屋根と切妻屋根を組み合わせ、2階にはインナーバルコニー(1階外壁面の内側に取り込まれたバルコニー構造)を配し、濃灰色の瓦と白色の壁によってモノトーンのコントラストを醸し出している(F:外壁と屋根のモノトーン色調のコントラスト)、和風建築の2階建て個人住宅である。
 被告建物を正面側(玄関側)から見ると、右側に大きく葺き下ろす片流れ大屋根(A:切妻大屋根の片側葺き下ろし)、左側に葺き下ろす切妻屋根、左側に葺き下ろす切妻屋根に90度交差する形で正面に葺き下ろす2階の上屋屋根、1階の下屋屋根が配されている。2階の上屋屋根は、被告建物正面左側に建物横幅の約3分の1程度、1階の下屋屋根は、被告建物正面左端から建物横幅の約3分の2程度に至っている(E:下屋屋根による軒深さ)。被告建物正面右側には、2階に台形状の窓が1か所、1階に長方形の窓が1か所あり、地面近くから大屋根付近まで勾配破風サッシ(濃灰色)に囲まれることにより(B:勾配破風サッシ)、一体となっているように見えるようになっているほか、更に右側1階部分に長方形の窓が1か所配置されている。被告建物1階正面中央(全体のやや右寄り)は、その両側から壁が前方へ突出してその中央部が開口していて、奥に玄関があり、その上の2階に窓がある。2階の窓は1階の玄関より幅広い。また、1階の玄関は、扉が黒色の観音開きになっている。被告建物正面左側は、右側と比べて若干突出しており、1階には袖壁(建物から外部へ突き出して設けられる壁)を挟んで、幅も広く高さも高い窓が2か所配置されているが、1階下屋屋根の軒下には雨落ちと窓との間にスペースはあるものの、床面にタイルを張り、そこに椅子、テーブル、鉢植えの植物を配置することができるスペース(原告主張のテラス)はない。被告建物2階正面左側は、右側や中央よりも後退しており(C:切妻壁面一部のセットバック)、中央に袖壁のあるインナーバルコニーがあり(D:袖壁を囲むインナーバルコニ−)、袖壁を挟んで1階の窓よりも幅も狭く高さも低い窓が2か所配置されている。」
(4) 36頁24行目末尾の次に、「すなわち、被告建物の左側面は、1階の広い間口の下屋屋根に、2階の狭い間口の上屋屋根を組み合わせたものである。」を加える。
(5) 37頁11行目冒頭から38頁17行目末尾までを、次のとおり改める。
 「b 次に、原告建物と被告建物の玄関側(正面)の外観を比較すると、なるほど、原告が主張するように、@玄関に向かって右側に大屋根を大きく葺き下ろし(A:切妻大屋根の片側葺き下ろし)、A下屋屋根に接して2階のサッシ窓を設けるとともに、B地面近くから屋根の付近までの勾配破風サッシ(地面近くから切妻面の屋根端部に沿って外観上一体に見える窓サッシ)を配してアクセントを加え(B:勾配破風サッシ)、C反対側には、面積の少ない上屋屋根と反対側から中央部を超えて軒の深い面積の広い下屋屋根を葺き(E:下屋屋根による軒深さ)、D切妻壁面の一部分をアルコーブ状(屋内側)にくぼませてセットバックさせ(C:切妻壁面一部のセットバック)、下屋屋根と一体感を持たせた中央に袖壁を設置したインナーバルコニーを配し(D:袖壁を囲むインナーバルコニ−)、E下屋屋根の軒下にはスペースを配し、F濃灰色の瓦と白色の壁でモノトーンのコントラストを醸し出している点(F:外壁と屋根のモノトーン色調のコントラスト)では、原告建物と被告建物は共通しているといえる。
 しかし、他方、原告建物と被告建物のそれぞれの玄関側(正面)の外観は、次のような点で異なっている。
@ 原告建物においては、下屋屋根が建物の左端から建物全体の約4分の3に至るまで続いているのに対し、被告建物は、下屋屋根が建物の左端から建物全体の約3分の2程度までにとどまっている。このため、原告建物の方が被告建物よりも水平基調が強調されている。
A 原告建物においては、正面右側に地面近くから大屋根付近まで破風勾配サッシがあり、また、中央やや右側の1階と2階に1か所ずつ窓があり、しかも、1階の窓よりも2階の窓の方が幅が狭く、中央より左側の1階に玄関が、2階に窓が配置され、1階の玄関よりも2階の窓の方が幅がやや広い、更にその左側の1階と2階に1か所ずつ窓があり、1階の窓よりも2階の窓の方が幅が狭い。そして、原告建物では、2階インナーバルコニー右側外壁の端部と1階玄関左側外壁の端部とが縦に連続している。これに対し、被告建物は、正面右側に地面近くから大屋根付近まで破風サッシがあるほか、その右側1階に更に長方形の窓が配置されており、また、中央やや右側の1階には玄関が、2階には窓が配置され、1階の玄関よりも2階の窓の方が幅が広く、更に左側の1階と2階に2か所ずつ窓があり、1階の窓よりも2階の窓の方が幅が狭い。そして、被告建物では、2階インナーバルコニー右側外壁の端部よりも右寄りに、1階玄関左側外壁の端部がある。このため、原告建物の方が被告建物よりも縦のラインが強調されている。
B 原告建物では、左側1階が中央部より後退しており、その分、下屋屋根の軒が深く、かつ、テラス(床面にタイルを張り、そこに椅子、テーブル、鉢植えの植物を配置することができるようなスペース)が配置されている。これに対し、被告建物では、左側1階が、右側や中央玄関位置よりやや突出しており、下屋屋根の軒がさほど深くなく、雨落ちと窓との間にスペースはあるものの、床面にタイルを張り、そこに椅子、テーブル、鉢植えの植物を配置することができるようなスペースは配置されていない。この結果、原告建物では軒の作る陰影美が認められるが、被告建物ではそのような陰影美を認めることはできない。
C 原告建物は、2階正面左側の切妻屋根の位置が右側の大屋根の頂点の位置よりも高いのに対し、被告建物では逆に低くなっている。この結果、原告建物の方が被告建物よりも、片側大屋根の葺き下ろし感が強調されている。
 このように、原告建物と被告建物の玄関側(正面)外観は、片側大屋根の葺き下ろし具合、下屋屋根のスペース、窓の配置や大きさ、玄関の位置、壁面の出入りの具合、軒の深さ、下屋屋根の軒下のスペースの広さ(床面にタイルを張り、そこに椅子、テーブル、鉢植えの植物を配置することができるようなスペースの有無)等の違いがあり、印象も異なったものとなっている。」
(6) 39頁11行目末尾の次に改行して、次のとおり加える。
 「c もっとも、上記鑑定書(甲第31号証の1)は、原告建物と被告建物の正面の形態の基本的な商品形態及びその骨格構造の同一性又は類似性を指摘する一方で、原告建物においては、正面に大きく突き出た切妻屋根の左側面、水平方向に大きく開いた上屋屋根の切妻面、上屋屋根と相似形に水平方向に大きく開いた下屋屋根の和風の形態表現要素と縦型スリット型窓の洋風の形態表現要素との組合せとから成る建物左側面と、片流れ大屋根・切妻屋根・上屋屋根・下屋屋根の和風の形態表現要素とインナーバルコニー及び深い奥行きの1階ピロティ壁の洋風の形態表現要素との組合せから成る建物正面とが、和洋折衷の『現代和風』の形態表現及び造形として、全体的な整合性をもって構成されているのに対し、被告建物においては、1階の広い間口の下屋屋根に2階の狭い間口の上屋屋根を組み合わせた建物左側面の和風の形態表現と、建物正面の和洋折衷の形態表現とが一体的に結合していないことも指摘している。」
3 争点(3)(被告建物をモデルハウスとする被告の営業活動は、原告の営業上の利益を侵害する違法な模倣行為(民法709条の不法行為)に該当するか。)について
 原告は、被告が原告建物の外観を模倣した被告建物をモデルハウスとして自己の営業活動に利用し、原告と販売地域を競合する地域において顧客を誘引している行為は、民法709条の不法行為を構成すると主張する。
 しかしながら、前記2で判示したとおり、原告建物と被告建物とは、それぞれの玄関側(正面)の外観においても、実質的に同一といえるほどに酷似しているとはいえず、原告建物と被告建物は、その外観において相違があり、形態が同一ないし実質的に同一であるとはいえないから、被告建物が原告建物を模倣した商品であると認めることはできない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の当審における予備的請求は理由がない。
4 その他、原審及び当審において当事者が提出した各準備書面等に記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、当審及び当審の引用する原審の認定判断を覆すに足りるものはない。
5 結論
 以上の次第で、原告の第1事件における請求(@著作権に基づく差止請求及び著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求、A不正競争行為による不法行為に基づく損害賠償請求)はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がない。また、原告の当審における予備的請求(違法な模倣行為による不法行為に基づく損害賠償請求)も理由がない。
 よって、原告の本件控訴及び当審における予備的請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 竹原俊一
 裁判官 小野洋一
 裁判官 長井浩一
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