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【事件名】オフィスソフト「Webcell」の画面表示事件
【年月日】平成16年6月30日
 東京地裁 平成15年(ワ)第15478号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年4月14日)

判決
原告 株式会社マイクロラボ
同訴訟代理人弁護士 佐藤恭一
同 田中秀幸
被告 国際頭脳産業株式会社
同訴訟代理人弁護士 秦悟志


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙1目録記載のプログラムをフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体に格納し、有線ないし無線通信装置等によって送信し、又は送信可能の状態に置いてはならない。
2 被告は、別紙1目録記載のプログラムを格納したフロッピーディスク、CD−ROM、ハードディスク等の記憶媒体を頒布してはならない。
3 被告は、別紙1目録記載のプログラムの使用許諾をしてはならない。
4 被告は、原告に対し、金3700万円を支払え。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
 原告は被告に対して、別紙1目録記載のプログラム(以下「被告ソフトウェア」という。)の画面表示は、原告の製造したソフトウェアの画面表示と同一又はその表現上の特徴を感得できるものであって、被告ソフトウェアを製造販売する被告の行為は、画面表示について原告が有する著作権を侵害すると主張して、著作権(複製権、翻案権)に基づき、被告ソフトウェアの使用差止及び損害賠償を請求した。
1 前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)
(1) 原告は、平成元年8月1日に設立された、コンピュータソフトウェア開発及び販売並びにコンピュータ周辺機器の販売を目的とする株式会社である。
 被告は、平成6年5月10日に設立された、コンピュータソフトウェアの研究開発、製造、販売を目的とする株式会社である。
(2) 原告は、平成10年、コンピュータソフトウェア「ProLesWeb」(以下「原告ソフトウェア」という。)の製造、販売を開始した(弁論の全趣旨)。
(3) 被告は、平成12年10月6日、原告との間で、原告ソフトウェアに被告の商標である「Webcel」を付して販売することを内容とするOEM契約を締結し、同契約に基づいて、原告から供給を受けたソフトウェア「Webcel1」の販売を開始した。同OEM契約は、平成14年10月5日に終了した。その後、被告は、それ以前から開発に着手していた、被告ソフトウェアの前身となる「Webcel3」を販売し、さらに、同ソフトウェアに改良を加えた被告ソフトウェアを製作し、同年11月19日から被告ソフトウェアの販売を開始した(弁論の全趣旨)。
(4) 原告ソフトウェアは、ユーザーが作成したデータベースをインターネットに公開したり、利用したりすることを目的とするソフトウェアであり、ユーザーの入力作業は、マイクロソフト社のアプリケーション・ソフトウェアである「Excel」(以下「エクセル」という。)を用いて行うものである。被告ソフトウェアも同様の機能を有するソフトウェアである。
(5) 原告ソフトウェアの画面表示は、別紙2ないし5の上段(ProLesWeb)に記載されたとおりである(以下、別紙2から5までを順に「原告本体画面」、「原告レポート等自動作成画面」、「原告ひな型設定画面」、「原告一覧表ひな型自動作成画面」といい、これらを併せて「原告各画面表示」という。)
 被告ソフトウェアの画面表示は、別紙2ないし5の下段(Webcel8)に記載されたとおりである(以下、別紙2から5までを順に「被告本体画面」、「被告レポート等自動作成画面」、「被告ひな型設定画面」、「被告一覧表ひな型自動作成画面」といい、これらを併せて「被告各画面表示」という。)。
2 争点
(1) 被告各画面表示は、それぞれ原告各画面表示の複製物又は翻案物か。
(2) 原告の被った損害額はいくらか。
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点(1)(被告各画面表示は、それぞれ原告各画面表示の複製物又は翻案物か。)について
(原告の主張)
ア 原告各画面表示の著作物性
(ア) 原告本体画面(別紙2)
 原告本体画面は、データベースのデータとエクセル上の「レポート」(帳票など、データベースのデータを一定の法則に従って、エクセル上に表として作成するもの)を相互に関連させて、簡単なマウスのクリック操作で、データベースのデータをエクセルに書き出すこと、エクセル上の入力や修正を読みとってデータベースのデータに書き込むことを容易にするための表示画面である。
 原告本体画面は、@上段、中段、下段に3つの領域が設定され、上段部分には、エクセル上に作成する「レポート」がツリー状(階層的)に表示され、中段部分に「テーブル」(データベース上のファイルであり、データを一定の法則で区分しまとめたもの)のデータが表示され、下段部分に「データ型」、「セルの位置」、「フィールドサイズ」等の「テーブル」のフィールド属性が表示されていること、A上段左側部分に、データベースを示す黄色の円柱のアイコン、エクセルを示す青色の「X」のアイコン、赤色の「→」等を表示した3つのボタンが配置されていること、B上段左側部分に、「円柱→X」と表示された、データベースのデータをエクセル上の「レポート」に書き出すためのボタンがあり、反対に、「レポート」上でのデータの書込みや書換えをデータベースに反映させるための、「X→円柱」と表示されたボタンがあることにおいて、表現上の特徴があり、創作性がある。
(イ) 原告レポート等自動作成画面(別紙3)
 原告レポート等自動作成画面は、エクセル上で作成したひな型と、データベースのデータとを相互に関連させて、簡単なマウスのクリック操作で、レポート及びテーブルの作成を容易にするための表示画面である。
 原告レポート等自動作成画面は、@画面上部に、「ひな型シートからレポートとテーブルを作成します。」、「レポート名とテーブル名には、ひな型シート名が使われます。」との説明文言の下に、「レポート名」、「テーブル名」を設定する枠が表示されていること、A中段部分に、「入力規則が設定されたセルをテーブルのフィールド(列)として採用します。」の説明文言の下に、テーブルのフィールド名を選択する欄が表示されていること、B下段部分に「ひな型例」と説明が表示されていることにおいて、表現上の特徴があり、創作性がある。
(ウ) 原告ひな型設定画面(別紙4)
 原告ひな型設定画面も、エクセル上で作成したひな型と、データベースのデータとを相互に関連させて、簡単なマウスのクリック操作で、「レポート」、「テーブル」の作成を容易にするための表示画面である。
 原告ひな型設定画面は、@上から順に「対応レポート」及び「ひな型シート」を入力する欄、これらの情報をエクセルから取り込むための「取込」ボタンが配置されていること、A「ひな型のタイプ」を選択する欄、エクセルへの書出しや読込みの指定を選択する欄や書出し行を選択する欄が配置されていること、B中段部分より下には、「対応テーブル」、「テーブル1レコードの読書範囲」を設定する画面、これらの情報をエクセルから取り込むための「取込」ボタン等が配置されていることにおいて、表現上の特徴があり、創作性がある。
(エ) 原告一覧表ひな型自動作成画面(別紙5)
 原告一覧表ひな型自動作成画面は、「テーブル」から一覧表を自動作成し、エクセルの表のセルの位置を指定するための表示画面である。
 原告一覧表ひな型自動作成画面は、@上段部分に「一覧表タイプひな型シートの作成とセル位置の設定」との表題が表示されていること、Aその下に、「作成先」、「書込位置」の設定欄が並列して表示されていること、Bその下に、「テーブルの列」、「Excelの書込列」の欄が表示されていること、Cエクセルに書き込む列と書き込まない列を選り分けることを可能とするために、「テーブルの列」と「Excelの書込列」との間に、緑色の「▽」、「△」が配置されていること、D列の順序を入れ替えることを可能とするために、右側部分に「列順番入替」の文字の上下にオレンジ色の「△」、「▽」が付されていることにおいて、表現上の特徴があり、創作性がある。
イ 原告各画面表示と被告各画面表示との同一性等
(ア) 本体画面(別紙2)
 被告本体画面は、@上段、中段、下段の3つの領域が設定され、上段部分には、エクセル上に作成する「レポート」(被告ソフトウェアでは「サービス」という。)がツリー状に表示され、中段部分には、原告ソフトウェアにおいて下段部分に表示されている「テーブル」のフィールド属性が表示され、下段部分には、「テーブル」のデータが表示され、A上段左側部分に、原告ソフトウェアでは「円柱→X」等とアイコンで表示しているボタンが、「DB→EXCEL」、「EXCEL→DB」と文字で表示されている。
 以上のとおり、被告本体画面と原告本体画面とを対比すると、前者は、後者の特徴的な表現部分において共通するので、前者は、後者の複製物ないし翻案物であるといえる。
(イ) レポート等自動作成画面(別紙3)
 被告レポート等自動作成画面は、@「モデルシートからサービスとテーブルを作成します。」、「サービスネームとテーブルネームはモデルネームが使われます。」との説明文言の下に、「サービスネーム」と「テーブルネーム」の欄が表示され、A「入力規則が設定されたセルをテーブルのフィールド(列)として採用します。」との説明文言の下に、「テーブルのフィールド名」を選択する欄と、「□固有番号(webcelid)をキーとして自動追加します。」との表示がある。
 被告レポート等自動作成画面と原告レポート等自動作成画面とを対比すると、@前者における「モデルシート」、「サービス」、「サービスネーム」、「テーブルネーム」との表示は、後者における「ひな型シート」、「レポート」、「レポート名」、「テーブル名」の表示を置き替えたにすぎないこと、Aその体裁、表示内容、機能が酷似していること等から、前者は、後者の複製物ないし翻案物であるといえる。
(ウ) ひな型設定画面(別紙4)
 被告ひな型設定画面と原告ひな型設定画面とを対比すると、前者は、後者の各表示部分の位置を入れ替えたり、「対応レポート」を「対応サービス」、「ひな型シート」を「モデルシート」と置き替えたにすぎないこと等から、前者は後者の複製物ないし翻案物であるといえる。
(エ) 一覧表ひな型自動作成画面(別紙5)
 被告一覧表ひな型自動作成画面は、@表題の下に「作成先設定」、「書き込み位置設定」欄が並列して表示され、A「Excelに書き込まない列」、「Excelに書き込み列」が並列して表示され、Bその間に、エクセルに書き込む列と書き込まない列を整理するための、「<」、「≪」、「>」、「≫」の表示がされ、Cその右側には、列の順番を入れ替えることができる「△」、「▽」の表示がされている。
 以上のとおり、被告一覧表ひな型自動作成画面と原告一覧表ひな型自動作成画面とを対比すると、前者は、後者の特徴的な表現部分において共通するので、前者は後者の複製物ないし翻案物である。
ウ 依拠性
 被告各画面表示は、原告各画面表示に依拠して作成されたものであることは、以下の点からも明らかである。
 すなわち、原告ひな型設定画面(別紙4)の最下段には、「注記:□webでは改ページは意味を持たない。」との表示文言がある。この表示のうちの「□」部分は、チェック・ボックスあるいはテキストボックスと呼ばれ、通常は、ユーザーによりチェック印が付されることにより、コンピュータに何らかの実行がされるためのものであるが、原告ソフトウェアでは、そのようなプログラムがないにもかかわらず、チェック・ボックスのみが画面表示上残ったものであり、不具合(バグ)である。これに対して、被告ひな型設定画面の最下段にも、「注記:□webでは改シートは最後のシートのみ表示される。webでは改ページは意味を持たない。」との表示文言が残されている。このように、被告ソフトウェアは、原告ソフトウェアの不具合(バグ)まで模倣していることに照らすと、被告各画面表示が原告各画面表示に依拠して作成されたことは明らかである。
エ 被告の行為
 被告は、故意又は過失により、原告各画面表示を複製ないし翻案して被告各画面表示を作成した。
(被告の反論)
ア 原告各画面表示の著作物性
(ア) ユーザーインターフェースである画面表示には、以下のとおりの理由から、表現上多くの制約があり、開発者の個性が表れる余地はほとんど無い。したがって、原告各画面表示には、創作性がない。
a ソフトウェアの開発においては、あらかじめ用意された部品を使用せざるを得ない。たとえ、開発ツールが異なったとしても、部品は同じものが多い。したがって、作成された画面表示は、個性を発揮する余地は極めて少ない。
b 同じような部品を使用して、画面表示上の特徴を持たせるためには、各部品の配置、用語、説明文言を変える方法があり得るが、ソフトウェアの機能、ユーザーにとっての見やすさ、使いやすさ、理解のしやすさなどの観点から制約がある。
c 本件各画面表示は、エクセルシートの画面上に重ねて表示されるため、小型で単純なものにしてエクセルシートの表示を妨げないという制約があり、選択の幅は限られる。
(イ) 原告本体画面(別紙2)
 原告ソフトウェアは、データベースとエクセルの橋渡しをするためのものであり、原告の指摘する各表示部分は、その目的のため必要不可欠なものであるから、他の選択の余地がなく、創作性がない。
a 「サービス」(Webcelによるデータベースの読み書きに必要な情報の設定をいい、これによってエクセルシートとテーブルとが関連付けられる。)を示すツリー状の表示部分は、@サービスとこれによって関連づけられたテーブルを表示して、ユーザーの作業を可能とするために必要不可欠なものであること、Aウィンドウズが標準で用意しているツリービューであることから、ツリー状の表示を選択した点に創作性はない。
b フィールド属性の表示部分は、エクセルシートのどのセルがデータベースのどのフィールドに対応し、どのようなデータが入力されるかなどを表示するものであり、エクセルとデータベースを連携させるために当然に必要なものであるから、フィールド属性の表示部分を使用した点に創作性はない。
c テーブルの表示(テーブルビュー)は、ユーザーが作業を行うテーブルを選択するに当たり、テーブル内のデータを簡便に閲覧し、目的のテーブルであるかどうかを判断するために必要なものであるから、テーブル表示を使用した点に創作性はない。
d 「円柱→X」、「X→円柱」は、@ソフトウェアで頻繁に使用する機能にそれぞれ1個のボタンを割り当てたものであること、Aエクセルとデータベース間でデータのやり取りは当然頻繁に行われ、操作性を向上させるため、使用頻度の高い少数の機能にそれぞれ独立のボタンを割り当てるのは、他のソフトウェアでも広く行われていることであるから、上記表示部分に創作性はない。
e 原告本体画面において、データを縦に積み重ねる点には、以下のとおり、創作性がない。すなわち、画面が小さいソフトウェアでは、一般に表示方法は、@縦に積み重ねて表示するか、A複数の頁(画面)に分けて表示するか以外にはあり得ない。ところで、横幅を広く取って表示されるフィールド数を多くしてデータ1件当たりの情報量を増やし、表示できないデータは上下スクロールして見る方法が、ユーザーには使いやすいので、縦に積み重ねて表示するのが一般的であるといえる。
f 原告本体画面において、各ボタンをツリービューの横にスペースを設けて縦に並べる点には、以下のとおり、創作性がない。すなわち、ツリービューに表示するサービス名、テーブル名は短いものが多いため、テーブルビューより、横幅が狭くても足りる。したがって、縦方向のスペースは、b、cのために使用する方が合理的であるといえる。
(ウ) 原告レポート等自動作成画面(別紙3)
 原告レポート等自動作成画面は、エクセルシート上に作成したモデル(入力様式)から、サービスとテーブルを自動作成してよいかどうかの確認をユーザーに求める画面である。ファイルを新規に作成した場合に、それに名前を付けて保存するかどうかをユーザーの判断にゆだねることは、ソフトウェアの種類を問わず、広く行われていることである。また、原告レポート等自動作成画面の上段部分及び中段部分の表示は、エクセルとデータベースを連携させるソフトウェアの性質上当然の表示にすぎない。
 したがって、同画面には、創作的な特徴はない。
(エ) 原告ひな型設定画面(別紙4)
 原告ひな型設定画面は、既存のテーブルからひな型シートにデータを書き出す場合に、ひな型シートに必要な事項を設定する画面である。
 テーブルにあるデータをエクセルシートに出力する場合には、必要な事項をユーザーが確認又は設定することが必要である。そのために、テーブル、レポート、ひな型シートの対応関係、レコードの読書範囲、改ページ、改シートの指定等機能に対応する表示は画面上に設けなければならない。
 したがって、同画面には、創作的な特徴はない。
(オ) 原告一覧表ひな型自動作成画面(別紙5)
 原告ひな型設定画面は、テーブルのデータをエクセルに出力するためにテーブルからひな型シートを自動作成する場合に、作成内容を確認し必要事項を入力する画面である。作成先のエクセルのブック名、シート名、書込位置を指定し、書き出す列(テーブルのフィールド)を選択する。これらを指定しなければ書出しを行うことができないのであるから、当然に、これらを設定する画面が必要になる。また、同画面は、書き込む列と書き込まない列を右と左の表に振り分ける表示があるが、このような方法は、特定の集合から一部を除外する方法としてウィンドウズのアプリケーションで広く行われている一般的な方法である。
 したがって、同画面には、創作的な特徴はない。
イ 原告各画面表示と被告各画面表示との同一性等
(ア) 本体画面(別紙2)
a 被告本体画面では、メニューバーの下に「デザイン」、「テスト」、「運用」の3種のタブを設け、その下2行にテキストボックスと各種機能を表示するアイコン等を配置して、ユーザーの作業段階に応じて必要な機能の選択を容易にしているのに対して、原告本体画面では、そのような配置がない。
b 被告本体画面では、「テーブル」のフィールド属性を示す表示項目が、原告体画面より多く設けられている。
c 被告本体画面では、上段左側部分の3個のボタンの機能の表示方法として文字を使用しているのに対して、原告本体画面では、アイコンを使用している。
d 原告は、被告画面には、原告画面と同じ機能が表示されると指摘する。しかし、機能の同一性は、被告ソフトウェアが原告ソフトウェアと同種の機能を有する同種ソフトウェアであることに由来するものであり、画面の同一性の根拠にはならない。
(イ) レポート等自動作成画面(別紙3)
 原告レポート等自動作成画面には、下部にエクセルシートと説明が表示されているのに対して、被告レポート等自動作成画面にはない。
(ウ) ひな型設定画面(別紙4)
a 被告ひな型設定画面には「レコード定義コピーモード」があるのに対して、原告ひな型設定画面にはない。
b 被告ひな型設定画面には、「ひな型のタイプ」を「不定」または「固定」のいずれかから選択するボタンがないのに対して、原告ひな型設定画面の上部には、このような選択ボタンが設けられている。
c 被告ひな型設定画面には、ユーザーが上から下に流れるように操作できるように、画面を横割りにして各部に設定項目を分類して割り当てられているのに対して、原告ひな型設定画面には、縦割りと横割りが混在している。
(エ) 一覧表ひな型自動作成画面(別紙5)
 被告一覧表ひな型自動作成画面では、全部の列を一度に選択できる「≪」、「≫」の記号が使用されているのに対して、原告一覧表ひな型自動作成画面では、このような記号は使用されていない。
ウ 依拠性
 原告は、被告ひな型設定画面の最下段に注記と表示され、その右側にエディット・ボックスやテキストボックスと呼ばれる「□」が表示されていることをもって、被告各画面表示は、原告各画面表示に依拠して作成されたものと主張する。
 しかし、被告は、「□」の記号を「◎」などの記号と同じ趣旨で用いたものであり、注記があることをユーザーに認識してもらうために表示したものであって、バグではない。したがって、被告各画面表示が原告各画面表示の模倣であることの根拠にはならない。
エ 被告の行為
 被告において、故意又は過失により、原告各画面表示を複製ないし翻案して被告各画面表示を作成したとの原告の主張は否認する。
(2) 争点(2)(原告の被った損害額)について
(原告の主張)
ア 被告は、平成12年10月6日から平成14年10月6日までの間に、原告が被告とのOEM契約により供給したソフトウェアに「Webcel1」の名称を付して販売した。
 被告が、平成14年6月1日から同年10月6日までの128日間に、上記OEM契約に基づいて原告に対して支払うべき対価(実質上のロイヤリティ)は、合計327万1180円であり、これを128日で除すると、1日平均は2万5556円、月平均は76万6682円となる。被告は、上記期間内に少なくとも月平均76万6682円(@)の利益を得ていたものといえる。
イ 被告によれば、平成14年10月以降、受注が月率1.4倍となり、現在もなおこのような状況が続いているということであり、これを前提に、平成14年10月の被告ソフトウェアの受注本数を1として、平成15年6月までの受注本数を計算すると、合計49.153632(A)となる。
ウ 被告は、被告ソフトウェアを販売することにより、少なくとも@にAを乗じた3768万5204円の利益を得たことになる。したがって、著作権法114条2項により、原告は、少なくとも金3768万5204円の損害を受けたものと推定される。
(被告の反論)
ア 被告が、Webcel1の販売で1か月平均少なくとも76万6682円の利益を得ていたことは否認する。
イ 被告が原告に支払ったOEM契約に基づいた金額には、サポートの対価が含まれているので、同金額を基礎にして、被告ソフトウェアを販売したことによる利益を算定することは相当でない。
ウ 原告の主張を前提にしても、以下の点を考慮すれば、原告が主張する4つの画面表示が利益に対してなした貢献はゼロと同視し得る。
(ア) 原告が著作権侵害を主張するのは4つの被告各画面表示のみである。したがって、画面表示を使用したことによる利益は、被告が被告ソフトウェアを販売したことにより得た利益のうちのわずかなものである。
(イ) 一般に、ソフトウェアの中核を示すのはプログラムの部分である。被告ソフトウェアは、エクセル中心に操作するよう設計されており、webcel8の画面表示の果たす役割は、わずかなものである。
(ウ) 原告と被告とのOEM契約終了時(平成14年10月5日)には、Webcel1は商品価値を失っていた。すなわち、Webcel1は、開発時以降にヴァージョンアップされたエクセル2002を起動出来ない状況であったが、これは、エクセルとデータベースを連携させるソフトウェアにとって致命的であり、エクセル2002の発売から既に1年4か月を経過した平成14年10月5日には、商品価値を失っていた。
(エ) 被告がWebcel1の後継版である被告ソフトウェアの販売を継続できたのは、被告が、上記(ウ)の問題を解消して開発したからである。したがって、被告ソフトウェアを販売したことによる利益は、専ら、被告が独自に開発したプログラムによってもたらされたものである。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(被告各画面表示は、それぞれ原告各画面表示の複製物又は翻案物か。)について
 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定されている(著作権法2条1項1号)。著作権法上の保護の対象となる著作物は、思想又は感情が創作的に表現されたものであることが必要であるが、創作的に表現されたというためには、厳密な意味で、独創性の発揮されたものであることが求められるものではなく、制作者の何らかの個性が表現されたものであれば足りるというべきである。この点は、プログラム等を用いて、コンピュータのディスプレイ上に表示された画面が、著作権法上の保護の対象となる著作物といえるか否かを判断するに当たっても、何ら変わることはない。しかし、コンピュータのディスプレイ上に表示される画面については、@所定の目的を達成するために、機能的で使いやすい作業手順は、相互に似通ったものとなり、その選択肢が限られること、ユーザーの利用を容易にするための各画面の構成要素も相互に類似するものとなり、その選択肢が限られること、A各表示画面を構成する部品(例えば、ボタン、プルダウンメニュー、ダイアログ等)も、既に一般に使用されて、ありふれたものとなっていることが多いこと、B特に、既存のアプリケーションソフトウェア等を利用するような場合には、設計上の制約を受けざるを得ないことなどの理由から、表示画面の創作性の有無を判断するに当たっては、これらの諸事情を勘案して、判断する必要がある。
 そこで、以上の観点から、原告各画面表示の著作物性について判断する。
(1) 原告本体画面(別紙2)
ア 原告本体画面の表示内容等
 争いがない事実及び各証拠(個別に示した。以下同じ。)によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 原告ソフトウェアは、マイクロソフト社のアプリケーション・ソフトウェアであるエクセルを用いて作業を行うものであり、エクセルのシート上で作成したひな型から「レポート」や「テーブル」を作成し、エクセルのひな型を使用してデータベースのデータの追加、修正、削除を行ったり、データベースのデータをエクセルのひな型に書き出したりすることを可能とするものである(甲4)。
(イ) 原告本体画面は、原告ソフトウェアを起動させた際に最初に表示される画面であり(甲4、5頁)、データベースのデータとエクセル上で作成されたレポートなどとの関連性が一覧できるようにされている(甲4、5〜9頁)。原告本体画面は、別紙2のとおり、@上段、中段、下段に3つの領域が設定され、上段右側部分には、レポート及びデータベースのテーブルの名称がツリー状(階層的)に表示され、A上段左側部分には、ソートのボタン、データベースのデータをレポートに書き出すためのボタン、レポート上でのデータの書込みや書換えをデータベースに反映させるためのボタンが、それぞれ、黄色の円柱や青色の「X」のアイコンなどを用いて表示され、B中段部分には、レポート作成に用いられるテーブルのデータが表示され、下段部分には、テーブルのデータをどのようにエクセル上に表示するかに関する「データ型」、「セルの位置」、「フィールドサイズ」等のテーブルのフィールド(項目)の属性が表示されている。
イ 創作性の有無についての判断
 上記認定事実により、創作性の有無について判断する。
(ア) 原告本体画面の上段右側には、帳票などのレポート名及びデータベースのテーブル名がツリー状に表示されるが、ウィンドウズ等のコンピュータの画面において、デバイス、フォルダ、ファイル等をその名称によってツリー状に表示することは標準的に行われている表示方法であるから、原告ソフトウェアにおいて作成するレポートやレコードの名称をツリー状に表示することに表現の創作性は認められない。
(イ) 原告本体画面の上段左側には、データベースのデータをエクセルのひな型に書き出すためのボタン、エクセルのひな型をデータベースに読み込むためのボタンなどが表示されているが、頻繁に用いられる機能に独立のボタンを割り当てることは通常行われることであり、アイコンの形状及び配列についても特徴はなく、表現の創作性は認められない。
(ウ) 原告本体画面の中段には、データベースのデータが表形式で表示され、下段には、中段に表示されたデータの項目に対応するように各項目の属性が表示されるが、複数の項目からなるデータを表形式で表示することは普通に行われることであって、表現上の工夫は認められない。また、各項目の属性を表示する点も、原告ソフトウェアがエクセルのひな型のセルとデータベースのデータの項目とを対応させてデータの追加、修正、削除、書出しを行うものであることからすれば、これらの機能を実現する上で必要となる情報を表示しているにすぎず、表示する情報の選択、表示方法等もありふれたものといえる。本体画面中段、下段の表示には、表現の創作性は認められない。
(エ) 原告本体画面の上記(ア)ないし(ウ)の各表示部分の配置についても、画面の縦横の比率などに由来する制約があって選択の余地は限られており、配置において、創作性があると認めることはできない。また、原告本体画面の全体の外観(色彩及び各表示部分の相互の配置を含む。)も、創作的な特徴を有するとは認められない。
(オ) 以上のとおり、原告本体画面の上段のレポートがツリー状に表示される部分、中段のテーブルのデータが表示される部分、下段のテーブルのデータのフィールド属性が表示される部分、上段左側のボタンが表示される部分は、いずれも創作的な表現であるとは認められない。
(2) 原告レポート等自動作成画面(別紙3)
ア 原告レポート等自動作成画面の表示内容等
 争いがない事実及び各証拠によれば、以下の事実が認められる。
 原告ソフトウェアは、エクセル上のひな型から対応するレポートとテーブルを作成してデータベースのデータの追加、修正等を行うものである。
 原告レポート等自動作成画面は、エクセル上に作成したひな型(レポートの書式)に対応するレポートとテーブルを作成する際の名称等を設定するための画面である(甲4、8頁)。
 同画面は、別紙3のとおり、@画面上部に「ひな型シートからレポートとテーブルを作成します。」、「レポート名とテーブル名には、ひな型シート名が使われます。」との説明文言が、Aその下に、「レポート名」、「テーブル名」を表示する枠が設けられて、画面中央に、「入力規則が設定されたセルをテーブルのフィールド(列)として採用します。」の説明文言が、Bその下に、テーブルのフィールド名を選択する欄が設けられて、画面下部に、説明を付したひな型の例が、それぞれ表示されている。
イ 創作性の有無についての判断
 上記認定事実により、創作性の有無について判断する。
(ア) 前記のとおり、原告レポート等自動作成画面上部の「ひな型シートからレポートとテーブルを作成します。」との説明文言は、原告ソフトウェアにおけるエクセルのひな型からレポート及びテーブルを作成するという手順を、ごく普通に表現したものといえる。また、その他の説明文言も、原告ソフトウェアの機能ないし操作手順を普通に表現したものといえる。また、レポート名及びテーブル名を表示する枠も、レポート及びテーブルの名称の表示方法としてはありふれたものである。したがって、上記説明文言等は、原告ソフトウェアの機能ないし操作手順を普通に表現したものであるから、創作的な表現とは認められない。 また、原告レポート等自動作成画面の全体の外観(色彩及び各表示部分の相互の配置を含む。)も、創作的な特徴を有するとは認められない。
(イ) 以上のとおり、原告レポート等自動作成画面は、創作的な表現であるとは認められない。
(3) 原告ひな型設定画面(別紙4)
ア 原告ひな型設定画面の表示
 争いがない事実及び各証拠によれば、以下の事実が認められる。
 原告ソフトウェアは、エクセルのひな型とレポート及びデータベースのテーブルを対応させ、テーブルのデータをエクセルのひな型に書き出すことを可能とするものである。
 原告ひな型設定画面は、既存のテーブルのデータを用いて、レポートとひな型を作成する際に、レポートとひな型に反映させるデータ項目を選択等をするためのものである(甲4、17頁、22頁)。
 同画面は、別紙4のとおり、上から順に、「対応レポート」、「ひな型シート」の名称を表示する欄、「取込」ボタン、「ひな型のタイプ」を選択する欄、エクセルへの書出しや読込みの指定を選択する欄と書出し行を選択する欄、「対応テーブル」を表示する欄、「テーブル1レコードの読書範囲」を設定する画面、「取込」ボタン等、「中止」又は「選択」のボタンが、それぞれ配置されている。
イ 創作性の有無についての判断
 上記認定事実により、創作性の有無について判断する。
(ア) 前記のとおり、原告ひな型設定画面は、データの書出しをする際に、書出し先のひな型の設定を行うための画面である。同画面における、ひな型に対応するレポート及びテーブルの名称を表示する欄は、ひな型とレポート及びテーブルの対応を表示するものであって、上記のデータ書出し機能に当然必要とされる項目を普通に表現したものといえる。また、ひな型のタイプ、エクセルへの書出し等の指定、書出し行の選択、「テーブル1レコードの読書範囲」の設定等、上記書出しを実行する場合の条件を設定するための表示は、原告ソフトウェアに備わった書出し機能に従って決められた条件を、普通に表現したものといえる。また、「取込」ボタン、「中止」又は「選択」ボタンの表示も、必要な機能をボタンに割り当てることは通常行われており、その表示も、ごくありふれたものであって、表現の創作性はない。さらに、原告ひな型設定画面全体の外観(色彩及び各表示の相互の配置を含む。)も、創作的な特徴を有するとは認められない。
(イ) 以上のとおり、原告ひな型設定画面の前記各表示は、いずれも創作的な表現とは認められない。
(4) 原告一覧表ひな型自動作成画面(別紙5)
ア 原告一覧表ひな型自動作成画面の表示
 争いがない事実及び各証拠によれば、以下の事実が認められる。
 原告ソフトウェアは、テーブルのデータをエクセルのひな型に書き出すことを可能とするものである。
 原告一覧表ひな型自動作成画面は、テーブルのデータをエクセルに書き出して一覧表形式のレポートを作成する際に、その準備として作成するひな型の内容を設定するための画面である(甲4、20〜21頁)。
 同画面は、別紙5のとおり、@上部から順に、「一覧表タイプひな型シートの作成とセル位置の設定」との表題、「作成先」、「書込位置」の設定欄、「テーブルの列」、「Excelの書込列」の欄が表示され、A「テーブルの列」と「Excelの書込列」との間には、エクセルに書き込む列と書き込まない列とを選別するための、緑色の「▽」、「△」のボタン、Bその右側部分には「列順番入替」の文字の上下に、列の順番を入れ替えるための、オレンジ色の「△」、「▽」のボタンが、それぞれ配置されている。
イ 創作性の有無についての判断
 上記認定事実により、創作性の有無について判断する。
(ア) 前記のとおり、原告一覧表ひな型自動作成画面は、上記データの書出しにより一覧表形式のレポート(ひな型)を作成する際に、その一覧表形式のひな型の内容等を設定するための画面である。同画面における「一覧表タイプひな型シートの作成とセル位置の設定」との表題は、原告一覧表ひな型自動作成画面において行う作業をそのまま表現したものにすぎず、創作性を認める余地はない。同画面における、作成先及び書込位置の設定欄、「テーブルの列」及び「Excelの書込列」の欄の各表示は、一覧表タイプひな型シートを作成する場合の設定項目をそのまま普通に表現したものであり、創作的な表現とは認められない。同画面における、エクセルに書き込む列と書き込まない列とを選別するための緑色のボタンの表示部分は、選別項目を左右の枠に表示してその間に「→」等のボタンを置き、選別を行うことがウィンドウズ等のコンピュータにおいて慣用的に行われていることからすれば、上記のような選択のための表示方法はありふれたものであるし、ボタンの形状、色も創作的なものとはいえない。同画面における「列順番入替」の文字と列の順番を入れ替えるためのオレンジ色のボタンの表示についても、列の順番入替えを行う場合の慣用的な表示であって、ボタンの形状及び色彩についても、上記と同様に、創作的なものとはいえない。また、以上の各表示を同一の画面上に表示する場合には、その配置は自ずから限られたものとなるのであって、原告一覧表ひな型自動作成画面における配置が創作的なものとはいいがたい。
(イ) 以上のとおり、原告一覧表ひな型自動作成画面の前記各表示及びその配置は、いずれも創作的な表現とは認められない。
(5) 原告各画面表示のその他の特徴
 その他、原告は、原告各画面表示に関して、簡単なマウス操作でデータベースとエクセルとを連携させて情報処理をすることに創作的な特徴があるとも主張する。しかし、このような原告ソフトウェアにおける機能面での特徴が、原告各画面表示における創作性の有無に影響を与えることは、特段の事情のない限り、肯定することはできない。特段の事情の認められない本件において、原告の同主張を採用することはできない。
(6) 小括
 以上のとおり、原告各画面表示は、いずれも創作的な表現と認めることはできない。
2 そうすると、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも認められないので、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 山田真紀


(別紙1) 目録
 コンピュータソフトウェア「Webcel8」

(別紙2以下省略)
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