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【事件名】国語副教材への作品無断使用事件(教材出版6社D)(2)
【年月日】平成16年6月29日
 東京高裁 平成15年(ネ)第2515号、同年(ネ)第3788号、同年(ネ)第3811号 出版差止請求控訴、同附帯控訴事件
 (原審・東京地裁平成11年(ワ)第5265号)
 (口頭弁論終結の日 平成16年3月1日)

判決
控訴人・附帯被控訴人(以下「一審原告」という。) エズラ・ジャック・キーツ財団
同訴訟代理人弁護士 藤原宏高
同 堀籠佳典
同 九石拓也
同 平岡敦
同訴訟復代理人弁護士 澤田行助
被控訴人・附帯控訴人(以下「一審被告」という。) 青葉出版株式会社
被控訴人・附帯控訴人(以下「一審被告」という。) 株式会社教育同人社
被控訴人・附帯控訴人(以下「一審被告」という。) 株式会社日本標準
被控訴人・附帯控訴人(以下「一審被告」という。) 株式会社光文書院
被控訴人・附帯控訴人(以下「一審被告」という。) 株式会社新学社
上記5名訴訟代理人弁護士 岡邦俊
同 前田哲男
同 近藤夏
一審被告株式会社日本標準訴訟代理人弁護士 朝倉正幸
被控訴人・附帯控訴人(以下「一審被告」という。) 株式会社文溪堂
同訴訟代理人弁護士 石田英遠
同 青柳良則


主文
1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は一審原告の負担とし、附帯控訴費用は一審被告らの負担とする。
3 この判決に対する一審原告の上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
(本件控訴事件)
1 一審原告
(1) 原判決中、差止請求以外の請求に係る部分を次のとおり変更する。
(2) 一審被告らは、一審原告に対し、連帯して金3233万6030円及び内金249万3176円に対する昭和56年3月31日から、内金241万0267円に対する昭和57年3月31日から、内金226万2638円に対する昭和58年3月31日から、内金257万5817円に対する昭和59年3月31日から、内金251万4807円に対する昭和60年3月31日から、内金243万7622円に対する昭和61年3月31日から、内金202万4722円に対する昭和62年3月31日から、内金192万8199円に対する昭和63年3月31日から、内金189万2306円に対する平成元年3月31日から、内金121万8158円に対する平成2年3月31日から、内金114万5461円に対する平成3年3月31日から、内金124万5317円に対する平成4年3月31日から、内金120万5818円に対する平成5年3月31日から、内金114万9434円に対する平成6年3月31日から、内金130万5735円に対する平成7年3月31日から、内金112万4017円に対する平成8年3月31日から、内金82万5339円に対する平成9年3月31日から、内金80万6291円に対する平成10年3月31日から、内金96万3048円に対する平成11年3月31日から、内金80万7858円に対する平成12年3月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも、一審被告らの負担とする。
(4) 仮執行の宣言
2 一審被告ら
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は一審原告の負担とする。
(本件附帯控訴事件)
1 一審被告ら
(1) 原判決中、差止請求以外の請求についての一審被告ら敗訴部分を取り消す。
(2) 前項の一審被告ら敗訴部分につき、一審原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも、一審原告の負担とする。
2 一審原告
 本件附帯控訴をいずれも棄却する。
第2 事案の概要等
1 本件は、「ピーターのいす」という童話及び挿し絵の各著作物の著作権者である一審原告において、一審被告らは上記各著作物の全部又は一部を掲載した小学校副教材用の国語テストを印刷、出版、販売したが、これらの行為は、相互に意を通じて、一審原告の上記各著作物に係る複製権、著作者人格権(同一性保持権、氏名表示権)を侵害するものであると主張し、上記各著作物の複製権に基づき、一審被告らによるこれらの各著作物を掲載した上記国語テストの印刷、出版、販売等の差止めを求めるとともに、上記各著作物の複製権、著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき一審被告らが連帯して損害相当額及びこれに対する遅延損害金を支払うよう求め、また、後者の予備的請求として、上記各著作物の無断使用を理由とする不当利得返還請求権に基づき一審被告ら各人に対し損失相当額及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は、一審原告の上記差止請求を認容する(一審被告青葉出版株式会社に対しては一部認容)とともに、一審原告の上記損害賠償請求の一部を認容した。
 一審原告は、原判決の一審原告敗訴部分(差止請求部分を除く。)の一部を不服として本件控訴を提起し、一審被告らも、原判決のうち上記差止請求以外の請求についての一審被告ら敗訴部分を不服として本件附帯控訴を提起した。
2 争いのない事実等(証拠を掲記したもの以外は当事者間に争いがない。)
(1) 一審原告は、アメリカ合衆国の国籍を有した画家であるAにより設立された財団である。
 Aは、「ピーターのいす」という童話(以下「本件著作物1」という。)及び挿し絵(以下「本件著作物2」といい、本件著作物1と合わせて「本件各著作物」という。)を著作し、本件各著作物に対する著作権を有していたが、一審原告が上記著作権を承継した(甲1、弁論の全趣旨)。
(2) 本件各著作物は、日本書籍株式会社発行の小学校1年生用国語科検定教科書下(以下「小学国語教科書1下」という。)に掲載されている。
(3) 一審被告らは、上記教科書に準拠した原判決別紙文書目録1ないし3記載の国語テスト(以下「本件国語テスト」という。)を印刷、出版、販売している。
3 争点
 本件金員請求に関する争点は、以下に列記するとおりである。
(1) 一審被告らが本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法32条1項の規定により認められる「引用」に当たるかどうか
(2) 一審被告らが本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法36条1項に規定する「試験問題」としての複製に当たるかどうか
(3) 著作者人格権侵害の有無(一審被告青葉出版株式会社を除く。)
(4) 一審原告は一審被告株式会社文渓堂に対し本件各著作物の利用を許諾したかどうか。
(5) 一審原告が本件各著作物に係る著作権侵害を主張することが権利濫用に当たるかどうか
(6) 故意又は過失の有無
(7) 共同不法行為の成否
(8) 不当利得返還請求の成否
(9) 消滅時効の成否
(10) 損害の発生及び数額
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)ないし(4)(一審被告らが本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法32条1項の規定により認められる「引用」に当たるかどうか、一審被告らが本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法36条1項に規定する「試験問題」としての複製に当たるかどうか、著作者人格権侵害の有無(一審被告青葉出版株式会社を除く。)、一審原告は一審被告株式会社文渓堂に対し本件各著作物の利用を許諾したかどうか。)について
 次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」4の(1)ないし(4)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決7頁2行目の「各教材」を「各教科(国語では「国語への関心・意欲・態度」「表現の能力」「理解の能力」「言語についての知識・理解・技能」の4つ)」と改め、同8頁3行目の「既に」を削除する。
イ 同12頁7行目の「「試験又は検定」に」を「「試験又は検定の問題として複製すること」に」と改める。
ウ 同13頁2行目の「同条は」を「同条が著作権の制限を認める根拠の1つは、試験における利用は出版等著作物の通常の利用形態と衝突しないことにある、すなわち」と、同12行目から13行目にかけての「「試験又は検定」に該当することはない。」を「同条の「試験又は検定」には該当しない。」と改める。
エ 同13頁16行目の「本件国語テスト」を「平成11年度の本件国語テスト」と改める。
(2) 争点(5)(一審原告が本件各著作物に係る著作権侵害を主張することが権利濫用に当たるかどうか)について
【一審被告らの主張】 
 次の諸事情からすれば、一審原告が一審被告らに対し本件各著作物に係る著作権侵害を主張することは権利濫用に当たり許されないというべきである。
ア 図書教材会社と教科書会社との間には、教材に教科書掲載著作物を複製することをめぐって裁判を含む紛争があり、その裁判において、一審被告らを含む図書教材会社20社と教科書会社27社とは、昭和43年12月13日付けで、上記図書教材会社は教科書会社の許諾を要することなく教科書(編集著作物)に準拠して教材用テストを制作、出版することができること、上記図書教材会社は教科書に準拠して教材用テスト等を制作、出版した謝礼として、上記教科書会社に昭和39年度から昭和43年度までの5か年分につき合計3500万円の謝金を支払うこと、昭和44年度以降の教材用テスト等の出版の際の教科書利用の条件は別途協議して定めること等を内容とする和解が成立した。この和解の趣旨に従い、教科書会社の業界団体である教学図書協会と一審被告らを含む図書教材会社の業界団体である日図協(社団法人日本図書教材協会)は、昭和44年度においても、上記和解内容と同趣旨の謝金の支払に関する契約を締結し、これにより一審被告らは、一審被告らが教科書会社に対し上記合意に基づく謝金を支払うことで、教科書掲載作品の利用について当該作品の著作権を含む権利処理が行われるものと考えて、上記契約及びその後更新された同趣旨の契約に基づき、30年余にわたり上記謝金の支払を継続してきたものであり、上記謝金の支払により教科書掲載作品の著作権を含む権利処理が行われたものとするということが業界慣行となり、その慣行が今日まで維持されていた。
イ 日図協は、近年の著作物の利用をめぐる社会状況や著作者の権利意識の変化などを考慮した結果、上記の権利処理方式を改める必要があると判断し、平成10年8月ころから、社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会との間で教科書掲載作品の図書教材への利用に関する協定の締結のための交渉を開始し、その結果、平成11年9月30日に日図協と上記各団体及びこれらに属さないフリーの文学者約250名の連合体である「小学校国語教科書著作者の会」との間で「小学校国語教科書準拠教材における作品使用についての協定」が締結されたこと。
ウ 本件国語テストにおいては、教科書に準拠する必要があり、教科書に掲載されている著作物を出題文として利用する必要があること。
エ 本件国語テストは本件各著作物の通常の利用方法に代替したり、これに競合したりするものではなく、一般書籍の販売に悪影響を及ぼす余地はないこと。
オ 一審原告が一審被告らによる本件各著作物の利用を許諾しない場合、図書教材の内容及びこれを用いる教育現場に重大な影響を及ぼすこと。
【一審原告の主張】
 次に述べるとおり、一審原告は、本件各著作物に係る著作権の効果として著作権侵害を主張しているにすぎないのであり、これを否定することは著作権法を否定することになるに等しい。他方、一審原告の上記著作権の行使を制限し、一審被告らの利益を保護する理由は何ら存在しないのであり、一審被告らの権利濫用の主張には理由がない。
ア 一審被告らは、一審原告の許諾を得ることが可能な状況にありながら、本件各著作物を無断複製して本件国語テストを制作したうえで過去50年間にわたりこれを出版していたものであり、一審原告はこの間本件各著作物の利用に係るロイヤリティを受領していないばかりか、今後も同ロイヤリティ相当額の損害が拡大するばかりである。
イ 一審被告らは、日図協と教学図書協会の間の本件謝金支払契約に基づき、謝金を払っており、この謝金に原著作権料が含まれているものと信じていたかのように主張するが、上記契約に基づく謝金には原著作権料は含まれておらず、一審被告らが仮にそのように誤信したとしても、一審被告らが単に軽信したにすぎず、上記謝金の支払の事実は一審原告の権利行使を制限する理由にならない。なお、一審被告らは、日図協が「小学校国語教科書著作者の会」との間で「小学校国語教科書準拠教材における作品使用についての協定」を締結した旨主張するが、この合意は一審原告を拘束するものではない。
ウ 小学校においては教師が児童の教育を担当しており、自ら副教材を制作すれば足り、教育現場において本件国語テストを用いる必然性はない。
 しかも、一審原告から許諾を取り付けて副教材を出版している出版社も存在するから、教育現場では、このような著作権法を遵守して制作された副教材を用いればよいことである。一審被告らが副教材の販売競争から排除されるとしても、それは、上記のとおり教科書掲載著作物の無断複製を行って副教材を制作し、その出版を行ったが故のことであり、それが教育現場に混乱をもたらすことは想定できない。
エ 一審被告らは上記アのとおり50年にわたり無断複製行為を行ったものであり、かかる行為を継続した一審被告らの利益を保護すべき理由は存在しない。
(3) 争点(6)(故意又は過失の有無)について
 次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」4(7)に記載のとおりであるから、これを引用する。
 原判決16頁24行目末尾の次に改行のうえ、「一審被告らは、過去30年にわたり、国語教科書に掲載された一審原告の本件各著作物を、一審原告の許諾を得ず副教材に複製してきたものであり、著作権侵害であることを知りつつこれを行っていたことは明らかである。仮に一審被告らが上記複製について適法引用等の著作権制限事由があるなどの見解に立って上記の行為に出たものとしても、このように軽信したことについて少なくとも過失がある。」と加え、同25行目の「適法引用」を「適法」と、同17頁9行目の「別紙「争点(7)に関する被告らの主張」」を「原判決別紙争点(6)に関する被告らの主張」と改める。
(4) 争点(7)(共同不法行為の成否)について
【一審原告の主張】
 一審被告らは、いずれも日図協の加盟社であるところ、一審被告らは日図協の指導の下、本件国語テストに本件各著作物を複製するについて、著作権者本人の許諾を得る必要がないとの専断的判断により、相互に意を通じて一連の無断複製行為を行ってきたから、一審被告らは共同して不法行為を行ってきたものである。
 したがって、一審被告らは、上記無断複製行為により一審原告が受けた損害額を連帯して賠償する義務を負う。
【一審被告らの主張】
 本件においては、仮に著作権侵害が成立するとしても、一審被告ら各社ごとに別個の加害行為が存在し、結果もそれぞれに発生しているというべきであり、1つの加害行為及び結果発生に複数の者が加担している場合ではないから、共同不法行為は成立しない。
(5) 争点(8)(不当利得返還請求の成否)について
【一審原告の主張】
 一審被告らは、争点(1)、(2)についての【一審原告の主張】で述べたところから明らかなとおり、法律上の原因がないにもかかわらず、本件各著作物を本件国語テストに複製したうえ、これを販売して収益を上げていたのであり、これにより、一審原告は本件各著作物に係る著作権使用料相当額の損失を被り、他方、一審被告らは上記使用料相当額の利得を受けているのであるから、一審被告らの受けた利得(その額は原判決別紙原告損害計算表1、2に記載のとおり)は一審原告に返還されるべきである。
【一審被告らの主張】
 一審原告の主張は争う。
(6) 争点(9)(消滅時効の成否)について
 原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」4(5)に記載のとおりであるから、次のとおり補正するほか、これを引用する。
ア 原判決14頁25行目の「補償金」を「本件各著作物の教科書掲載に係る補償金」と改める。
イ 同15頁8行目の「本件著作物」を「本件各著作物」と、同11行目から12行目にかけての「本件国語テスト」から13行目末尾までを次のとおり改める。
 「本件国語テストへの本件各著作物の利用に基づく損害賠償請求権については、民法724条の規定による消滅時効が成立している。
 一審被告株式会社文渓堂を除く一審被告らは、平成13年6月22日の原審第16回口頭弁論期日において上記消滅時効を援用し、また、一審被告株式会社文渓堂は平成13年10月26日の原審第19回口頭弁論期日で上記消滅時効を援用した。」
(7) 争点(10)(損害の発生及び数額)について
 次のとおり補正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要等」4(8)に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決17頁12行目冒頭から同22行目末尾までを次のとおり改める。
 「ア 著作権法114条1項に基づく主張(主位的主張)について
 (ア) 著作権法114条1項は、著作権者等が故意又は過失により自己の著作権等を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害行為によって作成された物を譲渡するなどしたときは、その譲渡した物の数量等に、著作権者等がその侵害行為がなければ販売することのできた物の単位数量当たりの利益を乗じた額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる旨規定している。
 同条項は、著作権等の侵害があった場合、侵害者の製品に対応した正規品の販売が阻害されたとみなすことにより、正規品の販売利益を基準として損害額を算定することを可能にしたものであり、同項の趣旨は、侵害品と補完関係にある正規品を権利者が販売する可能性が抽象的にでも存在すれば、正規品の販売利益により損害を算定することを認めるものと解すべきである。
 (イ) 譲渡数量
 本件においては、侵害者が本件各著作物を複製した数量を譲渡数量として損害を算定するのが相当である。」
イ 同18頁6行目の「著作権法114条2項」を「著作権法114条3項(平成15年法律第85号による改正前の著作権法114条2項(以下「旧著作権法114条2項」という。)に相当)」と改め、同19行目末尾の次に改行のうえ次のとおり加える。
 「著作権法は、平成12年法律第56号により、旧著作権法114条2項(現行114条3項に相当)につき、従前の「通常受けるべき金銭」の「通常」の文言を削除している。その趣旨は、同改正前の同項所定の「通常受けるべき金銭」を算出するに当たって、既存の使用料規程等が参酌されることが多く、誠実に許諾を受けた者と同額を侵害者が賠償すれば足りるという「侵害し得」の状況が生じていたため、「通常」の文言を削除することにより、かかる問題を回避し、当該事案の具体的事情を考慮した適正な使用料が算出されることを図ったものとされている。かかる法改正の趣旨を踏まえれば、著作権法114条3項によって損害を算出するに当たっては、侵害者による「侵害し得」を許さないために、正規の使用許諾の際に支払われる使用料率(印税率)より高率の使用料率によって損害の額を認定する必要があるというべきである。
 上述の法改正の趣旨や一審原告が正規の使用許諾を行う際に通常8%の使用料率を用いていること等の事情を考慮すれば、本件においては本来、著作権法114条3項により損害の額を算出するに当たっての使用料率は、少なくとも15%を超える率によるのが相当というべきである。」
ウ 同19頁10行目及び22行目の各「被告」を「一審被告ら」と改める。
エ 同19頁15行目冒頭から同20行目末尾までを削除する。
オ 同19頁21行目の順記号「オ」を「エ」と、同22行目から23行目にかけての「本件における弁護士費用は」を「本件の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は」と、同24行目の順記号「カ」を「オ」と改め、同20頁6行目の次に改行のうえ次のとおり加える。
 「なお、一審被告らが平成15年3月31日に一審原告に対し、原判決認容に係る損害金額及びこれに対する同日までの年5分の割合による遅延損害金を支払ったことは認める。」
カ 同20頁16行目冒頭から同21頁1行目末尾までを次のとおり改める。
 「著作権法114条1項は、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力の限度において、侵害者がその侵害行為によって作成された物を譲渡した場合に、その譲渡数量を著作権者等がその侵害がなければ販売することのできた物の数量とみることができるとしたものであるところ、一審原告は財団であって、本件国語テストと同種の商品を自ら制作販売する能力を有しない。また、同項にいう「その侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、侵害者の制作した物と代替可能性のある物で、著作権者等が販売する予定のあるものを指すところ、単行本には設問が掲載されているわけではないし、児童や教師が保有する教科書には本件国語テストよりもはるかに多い分量の本件各著作物が掲載されていることからすると、単行本は本件国語テストと代替性があるとはいえないし、単行本は、一審原告から出版権等の設定を受けた出版社が販売している商品であって、一審原告が販売している物ではない。したがって、本件に同項を適用することはできない。」
キ 同21頁18行目から19行目にかけての「その接する前により」を「これに接する前から」と、同22頁18行目の「同法114条2項」を「同改正前の著作権法114条2項」と改め、同19行目から20行目にかけての「これは、」の次に「従前の規定による損害賠償額の算定においては、」を加え、同23頁9行目から10行目にかけての「剰余部数を、販売価格に乗じる部数に算入して印税相当額の発生を認めることはできないから」を「剰余部数について印税相当額の損害の発生を認めることはできないから」と、同10行目及び13行目の各「著作権法114条2項」を「著作権法114条3項」と改める。
ク 同23頁22行目冒頭から同26行目末尾までを削除し、同24頁1行目の順記号「オ」を「エ」と改め、同24頁4行目末尾の次に改行のうえ次のとおり加える。
 「なお、一審被告らは、一審被告らに損害賠償金支払義務がある場合に備えて、平成15年3月31日、一審原告に対し原判決で支払を命じられた損害金額及びこれに対する同日までの年5分の割合による遅延損害金を支払ったから、上記損害金支払義務に関して、上記支払日の翌日以降は履行遅滞の責任を負わない。」
(8)ア 原判決の別紙の表題中、「(別紙)争点(7)に関する被告らの主張」を「(別紙)争点(6)に関する被告らの主張」と改める。
イ 同別紙原告損害計算表1中の「特許法第102条1項、著作権法第114条2項」を「著作権法第114条1項、同条3項」と、同別紙原告損害計算表2中の「著作権法第114条2項」を「著作権法114条1項、同条3項」と改める。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)ないし(4)(一審被告らが本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法32条1項の規定により認められる「引用」に当たるかどうか、一審被告らが本件各著作物を本件国語テストに掲載することが、著作権法36条1項に規定する「試験問題」としての複製に当たるかどうか、著作者人格権侵害の有無(一審被告青葉出版株式会社を除く。)、一審原告は一審被告株式会社文渓堂に対し本件各著作物の利用を許諾したかどうか)に関する当裁判所の判断は、次のとおり補正、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1ないし5に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決24頁20行目の「別紙対比目録記載1の本件国語テスト」を「一審被告株式会社文溪堂販売の本件国語テスト(日本書籍株式会社発行の小学国語教科書1下準拠)」と、同22行目の「別紙対比目録2記載の本件国語テスト」を「一審被告青葉出版株式会社販売の本件国語テスト(日本書籍株式会社発行の小学国語教科書1下準拠)」と、同24行目の「別紙対比目録5記載の国語テスト」を「一審被告株式会社新学社販売の本件国語テスト(日本書籍株式会社発行の小学国語教科書1下準拠)」と、同25頁5行目の「別紙対比目録記載1、4の本件国語テスト」を「一審被告株式会社文溪堂、同株式会社教育同人社販売の本件国語テスト(いずれも日本書籍株式会社発行の小学国語教科書1下準拠)」と改める。
(2) 同27頁22行目の「小学校において」から同末行の「性格を有するものである。そして、その」までを次のとおり改める。
 「学校教育法施行規則12条の3は、校長は、その学校に在学する児童等の指導要録(学校教育法施行令第31条に規定する児童等の学習及び健康の状況を記録した書類の原本をいう。)を作成しなければならない旨定めているところ、文部科学省(旧文部省)は、学習指導要領の改訂の都度、指導要録の改訂を行っている。指導要録は、児童の学籍並びに指導の過程及びその結果の要約を記録し、指導及び外部に対する証明等に役立たせるための原簿としての性格を有するものであり、その内容は「学籍に関する記録」と「指導に関する記録」の2様式により構成され、その中で「指導に関する記録」は、(1)各教科の学習の記録(@観点別学習状況、A評定、B所見)、(2)特別活動の記録等により構成されている。上記(1)の各教科の学習の記録の@観点別学習状況では各教科ごとに3ないし4の観点を定め、児童の学習状況について、観点別に評価をし、その結果を記入することになっている。そして、一審被告らの制作する本件国語テストは、各児童について上記の観点ごとの評価ができる構造が採用されている。
 例えば、現行の指導要録(平成3年3月20日文初小第124号の各都道府県教育委員会宛て文部省初等中等局長通知による改訂後のもの)との関係についてみれば、同指導要録の」
(3)ア 原判決29頁22行目から23行目にかけての「乙30の4ないし7、10、乙33の9、12ないし14、17、20、25、27」を「乙30の4ないし7、9ないし11、乙33の9ないし15、20、22、24、25、27、29、33」と改める。
イ 同30頁12行目の「同条の「試験」は」を「同条は、同条に規定する「試験」として」と、同31頁1行目の「テストも、」を「テストやにも、」と、同3行目から4行目にかけての「本件国語テストを作成する被告らを指すものとは認められない。」を「一審被告らの制作する本件国語テストがこれに含まれるとは認められない。」と改める
(4)ア 原判決31頁14行目の「丙5の2」を「丙5の1ないし4」と改める。
イ 同32頁21行目から22行目にかけての「5年間付与する。」の次に「作品名:A作ピーターのいす 本文2ページ及び4つのイラスト抜粋」を加える。
ウ 同33頁3行目の「原告からの」を「原告がユニからの」と改め、同33頁5行目の「記載があるが」から同9行目末尾までを次のとおり改める。「記載がある。この記載と前記(1)認定の事実を併せれば、一審原告は、平成10年3月、ペンギン社に対し本件各著作物の独占的、排他的な出版権を付与する契約を締結しており、ペンギン社はその出版に係る本件各著作物等を他の会社が再出版することの許諾権限を有するが、その出版に係る本件各著作物等の一部の複製を許諾する権限までは有していたとは認められない。これを覆しペンギン社がそのような権限を有していたと認めるに足りる的確な証拠はない。
 そうすると、一審被告株式会社文渓堂とペンギン社の上記の本著作物に関する使用許諾契約は、同一審被告が本件各著作物を本件国語テストのような形態で複製することまでを許諾する趣旨を含むものではないというほかない。」
2 争点(5)(一審原告が本件各著作物に係る著作権侵害を主張することが権利濫用に当たるかどうか)について
 一審被告らは、本件に関しては、前記第2の4(2)の【一審被告らの主張】アないしオ記載の事情があり、これらの事情からすると、一審原告が一審被告らに対し本件各著作物に係る著作権侵害を主張することは権利濫用に当たり許されないというべきである旨主張する。
 しかしながら、一審被告らは、本件各著作物を一審原告の承諾を得ることなく本件国語テストに掲載してきたものであり、これが一審原告の本件各著作物に係る著作権を侵害するものであることは既に説示したとおりであり、したがって、一審原告は一審被告らに対し著作権侵害を主張して損害賠償等の請求をすることができるものであり、これが権利濫用になることは原則としてないというべきである。
 一審被告らが上記アでいう業界慣行の存在や上記イでいう「小学校国語教科書準拠教材における作品使用についての協定」の締結は、一審原告と何ら関係のない事柄であり、一審原告を拘束するものでもないから、それらの事情は、不法行為の成否に関し、一審被告らの過失の有無を判断する考慮事情ではあっても、一審原告が本件各著作物に係る著作権侵害を主張することが権利濫用に当たるとする事情とはなり得ないし、また、上記ウ、エの事情も、本件各著作物の本件国語テストへの掲載が適法な引用に当たるか否かを判断する事情の1つ、あるいは損害額の算定に当たり考慮すべき事情であるとはいえても、一審原告が上記著作権侵害を主張することが権利濫用に当たるとする理由にはなり得ない。
 次に、上記ウにあるとおり、一審被告らが本件国語テストを制作するについては教科書に掲載されている本件各著作物を利用する必要があることは首肯できるが、それは一審被告らの業務上の都合であるにすぎず、一審原告が上記著作権侵害を主張することを権利濫用とする根拠とはなり得ない。
 また、上記オの点についていえば、各小学校において、国語教科書のうち本件各著作物が掲載された単元については本件各著作物の複製をしないで制作された国語テストを利用するなどの方策を適宜採用することもできるものと考えられるから、本件国語テストにおいて教科書に掲載されている著作物を必ず出題文として利用する必要があるとは考えられず、したがってまた、一審原告が一審被告らによる本件各著作物の利用を許諾しないことが教育現場に重大な影響を及ぼすということはできない。
 以上のとおり、一審原告において本件各著作物に係る著作権侵害を主張することが権利濫用に当たるとする一審被告らの主張には理由がない。
3 争点(6)(故意又は過失の有無)について
(1) 一審原告は、一審被告らの過失がないとの主張及びそれに関する証拠(乙44ないし50)の提出が時機に後れた攻撃防御方法の提出であり却下されるべき旨主張するが、その理由がないことは原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」8(1)に記載のとおりであるからこれを引用する。
(2) 一審被告らは、過去30年にわたり、国語教科書に掲載された一審原告の本件各著作物を、一審原告の直接の承諾を得ることなく副教材に複製してきたことは、当事者間に争いがない。
 他人の著作物を利用するに当たっては、それが著作権法その他の法令により著作権が制限され、著作者の承諾を得ない利用が許される場合に該当し、著作権を侵害することがないか否かについて十分に調査する義務を負うというべきであり、そのような調査義務を尽くさず安易に著作者の承諾を得なくても著作権侵害が生じないと信じたものとしても、著作権侵害につき過失責任を免れないというべきである。
(3) 一審被告らは、昭和43年12月ころより、一審被告らを含む図書教材会社が教科書会社に対し謝金を支払うことにより教科書掲載作品の著作権を含む権利処理が行われたものとすることが業界慣行となり、その慣行が今日まで維持されていたなどとし、上記著作権侵害につき、一審被告らに過失がない旨主張する。
 証拠(乙3、乙4の1、乙9、乙10の1ないし3、乙45の6ないし9、乙64)と弁論の全趣旨によれば、図書教材会社と教科書会社との間には、教材に教科書掲載著作物を複製することをめぐって裁判を含む紛争があり、その裁判において、一審被告らを含む図書教材会社20社は、昭和43年12月13日付けで、教科書会社27社との間で、上記図書教材会社は教科書会社の許諾を要することなく教科書(編集著作物)に準拠して教材用テスト等を製作、出版することができること、上記図書教材会社は教材用テスト等を出版するに当たり、教材用テスト等の制作への協力に対する謝礼として、上記教科書会社に昭和39年度から昭和43年度までの5か年分につき合計3500万円の謝金を支払うこと、昭和44年度以降の教材用テスト等の出版の際の教科書利用の条件は別途協議して定めること等を内容とする和解が成立したこと、この和解の趣旨に従い、教科書出版の業界団体である教学図書協会と一審被告らを含む教材図書出版の業界団体である日図協(社団法人日本図書教材協会)は、昭和44年度においても、上記和解内容と同内容の謝礼金支払に関する基本契約を締結し、この契約は更新されてきたこと、一審被告らは、この契約に基づき、教学図書協会に対し、教科書掲載作品の利用について30年余にわたり上記謝金の支払を継続してきたこと、日図協は、平成10年8月ころから、社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会との間で教科書掲載作品の図書教材への利用に関する協定を締結する交渉を開始し、その結果、平成11年9月30日に日図協と上記各団体とこれらに属さないフリーの文学者約250名の連合体である「小学校国語教科書著作者の会」との間で「小学校国語教科書準拠教材における作品使用についての協定」を締結したことが認められる。
 上記認定の経過に照らせば、一審被告らを含む図書教材会社は教科書掲載作品を原著作者の承諾を得ずに利用することがその著作権を侵害するとの認識を欠いていたものと認められ、一審被告らが加盟する日図協が「小学校国語教科書著作者の会」との間で上記協定を締結したのは、教科書掲載作品の原著作者側から教科書掲載の本件各著作物に係る著作権の侵害を指摘されるなどした(甲60、弁論の全趣旨)ことから、上記のような教科書掲載作品の利用が不適切であることを認識した結果であることを示すものと認められる。
 しかしながら、証拠(甲48の1、2、甲77の1ないし7)によれば、上記謝金は、図書教材会社が教科書会社の編集著作権を侵害することなく、適法な範囲でこれを利用することを前提にその利用についての教科書会社の協力に対する謝礼の意味で支払われるものであり、原著作者に対する著作権料は含まれておらず、したがって、それが原著作者である一審原告に分配されていた事実はないことが認められる。そして、上記謝金の支払に関する和解の調書及び上記基本契約に係る契約書(乙4の1、乙45の6、8、9)には上記謝金に原著作者に対する著作権料が含まれる旨の記載はないし、また、証拠(甲87、乙3、乙4の1ないし3、乙45の1ないし9、乙46の1ないし3、乙47)によれば、上記謝金の支払に関する交渉過程において、教科書掲載作品の原著作者が関わった事実はなく、上記契約ないし上記謝金の支払が原著作権の利用関係に係る問題も含めて解決するものであるかどうかについて協議されたことはうかがわれないし、一審被告らが上記謝金の支払により教科書掲載作品の著作権を含む権利処理が行われたものと考えていたとしても、そのように誤信したことには過失があるといわざるを得ない。
(4) 上記(3)の主張に加えて、一審被告らは本件国語テストへの本件各著作物の複製が適法な引用に当たると信じていたと主張する。確かに、証拠(乙45の4)によると、東京地方裁判所は、昭和40年7月23日、教科書会社7社を債権者、日本教育図書出版株式会社を債務者とする仮処分申請について、同申請を却下する決定を行ったこと、同申請の被保全権利は、@各債権者の有する編集著作権又は編集著作物の出版権、A教科書の編集者自身の著作した部分の著作権又はその部分の出版権であること、同決定は、上記@の点に関し、債務者の出版する教科書に準拠した学習書の販売等は債権者の編集著作権又は編集著作物の出版権を侵害しないこと、上記Aの点に関し、教科書の編集者自身の著作した部分が特定されていないから、この点で既に失当であるとの判断を示したが、その理由中において、債務者発行の「本件各出版物(教科書に準拠した学習書)には…本件各教科書中の語句および文章が引用され、また、教科書中の図画に類似した図画が掲載されていることが認められる。しかしながら、それらの引用ないし図画の掲載は、いずれも、前述の如き学習書としての性質上必要と認められる正当な範囲内でなされているものということができる。たとえば、…債務者発行の学習書…では…の各文章が引用されている。しかしながら、これらの断片的な語句および文章の引用を見るだけでは…(教科書掲載作品の)全文をしのぶに由ないのみならず、その要旨を知ることさえできない。これらは、専ら、教科書の学習に資するため必要な範囲で、その一部を引用したにすぎないものと認めることができる。」と説示していること、以上の事実が認められる。
 しかしながら、本件国語テストにおける本件各著作物掲載の態様は、前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1に認定のとおり、本件各著作物の一部をそのまま掲載したものであって、「その要旨を知ることさえできない。」というようなものではなく、上記仮処分で問題となった学習書とは態様を異にしているから、この決定があるからといって、一審被告らにおいて教科書掲載作品の本件国語テストへの複製が適法な引用に当たると信じていたとしても、そのことに相当の理由があるとはいえない。
 また、一審被告らは、教科書掲載作品の一部をテスト等に利用することは「適法引用」であり、上記の利用については原著作者の許諾を要しないという見解は、裁判所、検察庁、監督行政庁、教科書会社と図書教材会社との間の教科書掲載著作物の利用をめぐる裁判の当事者双方の各訴訟代理人であった著作権法の権威者たちが、明示的・黙示的に支持してきたものであるとも主張する。
 しかしながら、教科書掲載作品を本件国語テストのような態様で利用することが「適法引用」に当たり著作者の許諾を要しないという見解を、裁判所、検察庁、監督行政庁、上記裁判の相手方訴訟代理人が支持してきたとの事実を認めるに足りる証拠はない。なお、乙45の1(日図協発行の「築く」)には、教科書会社が自習書出版会社を相手方として昭和25年に提起された裁判に関して、「教材会社のつくるテストやワークは、教科書を素材としてはいても、直接教科書の著作権や出版権を侵害したり、あるいは侵害する疑いをもつに至らないというのが裁判所の見解である」との記載があるが、裁判所が上記のような見解を一般的に公にしたとの証拠はなく、それは一定の裁判紛争への裁判所の対応から日図協関係者が推測したに過ぎないものである。さらに、乙47(昭和56年11月30日付け朝日新聞)には、教学図書協会と日図協との間の謝金の支払に関する前記契約に関連して、文部省著作権課が「業界の公正妥当な慣行がつくられているなら、それはそれでよいと思う。」と述べた旨が記載されているに過ぎず、これらの証拠をもって、裁判所や監督行政庁が、教科書掲載作品を本件国語テストのような態様で利用することが「適法引用」に当たり著作者の許諾を要しないという見解を支持したとすることは到底できない。
 また、一審被告らを含む図書教材会社側に立って、教科書会社側との裁判を含む紛争の処理に当たってきた訴訟代理人が、上記の「適法引用」の見解を採りこれを相手方に主張したとしても、その者が当該紛争処理に関してその依頼者側に有利な法律構成をし、これを相手方当事者に主張することは職務上の義務としてなされたものというべきであるから、これを客観的な法律学上の見解と同視することはできず、このことをもって、一審被告らが教科書掲載作品の本件国語テストへの利用が「適法引用」に当たると信じたことに相当の理由があるとすることはできない。
 さらに、弁論の全趣旨によると、著作者の側から、長年にわたって、本件国語テストにおける本件各著作物の無断利用について権利主張がされてこなかったことが認められるが、権利主張がないからといって違法行為をしてもよいことにならないことは明らかである。
(5) 以上述べたところからすると、一審被告らには、本件各著作物を本件国語テストに掲載して、一審原告の本件各著作物に係る著作権(複製権)を侵害したことについて過失があるものというべきである。
4 争点(7)(共同不法行為の成否)について
 証拠(甲85ないし87、乙64)と弁論の全趣旨によると、日図協は、これまで本件国語テストの出版に関して「適法引用」に当たる、又は教科書会社への謝金の支払により原著作権者に関する権利処理は済んでいるとの立場から、原著作権者への権利処理は不要との立場をとっていたこと、一審被告らは日図協の加盟社であること、現在一審被告株式会社日本標準以外の一審被告らの代表者は同協会の理事であること、過去にも一審被告らの関係者が同協会の役員であったことが認められる。これらの事実からすると、一審被告らが、これまで一審原告に対して本件各著作物の使用許諾を得るなどの権利処理を行ってこなかったことは、日図協の上記方針を参考に業務活動を行っていた結果であるに過ぎないと認められ、それを超えて、日図協において、本件各著者物を上記の権利処理を行うことなく本件国語テストに掲載するとの統一的な意志決定を行い、相互にその遵守義務を課し、このような態勢の下でその加盟会社である一審被告らがこれに従った行為をしていたという事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
 そうすると、一審被告ら各会社の本件各著作物の無断利用行為は、それぞれ別個に一審原告に対する著作権侵害となるものであるところ、一審被告らが共同して上記権利処理を経ないまま本件国語テストの出版販売行為を行い、本件各著作物に対する著作権を侵害したとまで認めることはできないから、本件において共同不法行為が成立するということはできない。
5 争点(9)(消滅時効の成否)について
(1) 民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解され、このうち同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうものと解される。
(2) 一審被告らは、一審原告は遅くとも本件各著作物を掲載した教科書の使用が小学校において各学期に開始され、それに伴って各学期分の本件国語テストの利用が開始された時点で損害及び加害者を知ったものといえる旨主張する。
 しかしながら、証拠(甲18の1ないし13、乙2、乙13、乙16)と弁論の全趣旨によると、本件国語テストは小学校のテスト教材として使用されるもので、一審被告らは直接又は販売代理店を通じて小学校に納入しており、一般書店等の店頭では販売していないことが認められるのであって、著作物が教科書に掲載されるとその教科書に対応した本件国語テストにも出題文として引用されることが公知であったとまではいえない。したがって、一審原告が教科書会社から通知を受けて本件各著作物の教科書への掲載に係る補償金を受領しており、本件国語テストが教科書に準拠するものとして日本全国の小学校に広く利用されてきたとしても、一審原告が本件各著作物が本件国語テストに掲載されていることを知っていたということにはならないというべきである。
 しかして、証拠(甲60)と弁論の全趣旨によれば、一審原告は、肩書地を本拠地とする財団であり、日本には支局等の事務所は置いていないこと、一審原告が本件各著作物が本件国語テストに掲載されていることを知ったのは、日本ビジュアル著作権協会理事長Bがニューヨーク市内のホテルで一審原告の弁護士に本件国語テストの一部を見せた平成10年9月15日以降であると認められる。この認定を覆し、一審原告がそれ以前において、本件各著作物が本件国語テストに掲載されていたことを知り、その著作権が侵害され、損害が発生したことを現実に認識していたと認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、一審被告らの不法行為による賠償請求権の消滅時効の主張には理由がない。
6 争点(10)(損害の発生及び数額)について
(1) 主位的主張(著作権法114条1項による損害の主張)について
 著作権法114条1項は、著作権者等が故意又は過失により自己の著作権等を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害行為によって作成された物を譲渡するなどしたときは、その譲渡した物の数量等に、著作権者等がその侵害行為がなければ販売することのできた物の単位数量当たりの利益を乗じた額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる旨規定している。
 しかしながら、上記規定は、侵害者と同様に当該物に係る販売その他の行為を行う能力を有する限度において、侵害者の譲渡数量を著作権者等の販売することができた数量と同視することができるとしたものであるところ、証拠(甲21の1、2、甲60)と弁論の全趣旨によると、一審原告は、単なる財産を管理する団体であって、自ら本件各著作物を制作販売するための設備、技術を有せず、その制作販売を行うことが可能な状況にはないと認められる。
 のみならず、同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、侵害者の制作した物と代替性のある物でなければならないところ、証拠(甲1、甲17)と弁論の全趣旨によれば、一審原告の主張に係る単行本は本件各著作物が省略を伴うことなく全部登載され、一般の書店等で販売されるものであると認められるのに対し、前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1及び3(1)に認定したとおり、本件国語テストは、本件各著作物の一部と設問で構成されるものであり、一審被告らは一般の書店を介さず直接又は販売代理店を通じて各小学校に納入しているものであって、上記単行本と本件国語テストは本件各著作物の利用の目的、態様を異にし、販売のルートにも大きな違いがあり、上記単行本は本件各著作物の掲載された本件国語テストに代替し得るものではあり得ないから、一審原告主張に係る単行本が同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当するとはいえない。
 したがって、本件においては、著作権法114条1項を適用することはできないというべきである。
(2) 予備的主張(著作権法114条3項による損害の主張)について
ア 著作権法114条3項は、著作権者等は、故意又は過失によりその著作権等を侵害した者に対し、その著作権等の行使につき受けるべき金銭に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる旨規定している。
 そこで、本件各著作物に係る著作権の行使につき一審原告が受けるべき金銭に相当する額がいくらかを検討するに、本件国語テストが、国語教科書の各単元に対応して1回分が制作され(それ以外に、各学期のまとめテストがある。)、各学期に6ないし8回、これを用いたテストが実施されるものであり、各回ごとに児童数に余部1、2部を加えた部数がまとめられ、学期の始めに、その学期で実施される分が一審被告ら又は販売会社から直接に各学校に納入されるものであること、本件国語テストにおいては、本件各著作物が、見開きぺージ上段のほぼ全面に罫線によって四角に囲まれた中に挿し絵又は写真とともに掲載され、これらの掲載行数は、20行以上あり、また、見開きページ下段のほぼ全面に、上段に掲載された本件各著作物に対応した4個ないし7個の選択式又は記述式の問題が設けられていること、それは、児童の学習の進捗状況に応じた適宜の段階で、教師が、各児童ごとにその学力の到達度を把握するため、学校教育法21条2項に規定する「教科用図書以外の図書その他の教材で、有益適切なもの」として利用されるものであることは、前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1及び3(1)、(3)に認定のとおりである。
 このような本件国語テストへの本件各著作物の掲載による著作権の侵害に関して、一審原告が著作権の行使につき受けるべき金銭に相当する額(以下「使用料相当額」という。)は、本件各著作物を掲載した本件国語テストの部数にその1部当たりの価格相当額を乗じた額を基礎とし、これに一審原告の本件各著作物が本件国語テスト各1部に占める割合(以下「使用率」という。)及び上記1部当たりの価格に占める上記本件各著作物の掲載に係る使用料相当額の割合(以下「使用料率」という。)を乗じて算定されるべきであり、上記各算定の基礎となる本件国語テストの部数等の数値を求める際には、本件国語テストへの本件各著作物の利用の目的、態様、販売方法等が考慮に入れられなければならない。
 この見地に立って、以下、上記算定の基礎となる本件国語テストの部数等の各数値について検討する。
イ 部数等について
(ア) 一審原告は、本件各著作物の著作権のうち複製権の侵害を理由に損害賠償を求めているのであり、使用料相当額を算定するに当たっては、本件各著作物が掲載された本件国語テストの印刷部数を基礎とすることが相当である。
 一審被告らは、上記印刷部数には、@見本品、A教師用、破損・損傷等及び転入生等のための予備、B製造過程において生じる剰余部数が含まれているとし、これらは対価を得て販売するものではないから、使用料相当額の算定に当たっては、印刷部数ではなく、本件各著作物が掲載された本件国語テストが実際に各小学校において採用され、その購入の対象となった部数(採択部数)を基礎とすべき旨主張するが、上記@ないしB記載の本件国語テストも、本件各著作物を複製したものであることには変わりがなく、本件各著作物に係る著作権の侵害が生じているというべきであるから、上記のとおり解するのが相当であり、一審被告らの主張は採用することができない。
(イ) 証拠(甲63ないし68、甲71ないし74)と弁論の全趣旨によると、一審被告株式会社日本標準は昭和63年度から平成11年度まで、同株式会社新学社及び同株式会社文溪堂は平成元年度から平成11年度まで、一審被告青葉出版株式会社、同株式会社教育同人社及び同株式会社光文書院は平成2年度から平成11年度までの間に、それぞれ原判決別紙損害計算表1、2の印刷部数欄記載の部数(一審被告株式会社新学社関係では実販売数に返品数等を加算したものを印刷部数と認定した。)の本件各著作物が掲載された本件国語テストを印刷し、出版、販売したこと、それらの年度における採択部数は、原判決別紙損害計算表1、2の採択部数欄記載のとおりであること、一審被告青葉出版株式会社は昭和63年度と平成元年度に、一審被告株式会社光文書院は平成元年度に、それぞれ本件各著作物が掲載された本件国語テストを印刷、出版、販売したところ、その採択部数は、原判決別紙損害計算表1、2記載の採択部数欄記載の部数であること、以上の事実が認められる。しかし、一審被告青葉出版株式会社の昭和63年度と平成元年度、一審被告株式会社光文書院の平成元年度については、本件各著作物を掲載した本件国語テストを印刷した部数が何部であるかを認めるに足りる証拠はない。
 一審原告は、上記の採択部数のみが明らかな年度について、上記採択部数の1.2倍を印刷部数と認定すべきである(一審被告らは、本件国語テスト等の副教材については、採択部数の概ね2割増の部数を印刷している。)と主張する。しかし、上記の印刷部数と採択部数の両方が明らかな年度についてみるに、原判決別紙損害計算表1に記載のとおり、各年度毎に比べた場合には、印刷部数が採択部数を上回る場合でも、その上回る部分の割合が一定であるとはいえないうえ、印刷部数が採択部数を下回る場合やほぼ同数である場合もあるから、一審原告の主張を直ちに採用することはできず、上記の採択部数のみが明らかな年度については、一審原告が立証責任を負担していることに照らし、採択部数によるのが相当である。
(ウ) 一審被告らが、昭和55年度以降上記(イ)認定の年度前において、本件各著作物を掲載した本件国語テストを印刷したこと、その印刷部数、小学校におけるその採択部数を直接認めるに足りる証拠はない。
 しかしながら、弁論の全趣旨によると、本件各著作物は、昭和55年度以降に日本書籍株式会社発行の小学国語教科書1下に掲載されていること、一審被告らは昭和55年度以降前記(イ)認定の年度より前の時期においても、各小学校用教科書に準拠した本件国語テストを制作していたことが認められ、これらの事実及び上記のとおり一審原告の本件各著作物は上記(イ)認定の各年度において本件国語テストに掲載されていたことからすれば、一審被告らは、昭和55年度以降上記(イ)認定の各年度より前の時期においても、本件各著作物を掲載した本件国語テストを印刷、出版、販売していたものと推認することができる。
 そして、その印刷部数については、上記(イ)の印刷部数が明らかな年度における本件各著作物を掲載した本件国語テストの印刷部数のうち部数が最も少ない年度の印刷部数による(平成10年度以降に2種類又は3種類の本件国語テストを印刷している場合は、その合算部数による。ただし、最も少ない年度の印刷部数が採択部数より少ない場合は採択部数による。)のが相当である。
 一審原告は、昭和55年度以降上記(イ)認定の各年度より前までの時期の印刷部数については、@昭和55年度から昭和63年度までの各年度の学年毎、教科書会社毎の教科書発行部数(各年度、各学年の児童数に各教科書会社の発行する教科書部数の全児童数に対するシェアを乗じて算出したもの)を算出し、A平成3年度の学年毎、教科書会社毎の教科書発行部数に対する一審被告ら各自の制作に係る本件国語テストの採択部数の割合(教材比率)を算出し、B@の学年毎、教科書会社毎の教科書発行部数にAの教材比率を乗じて採択部数とし、それを1.2倍した数値をもって印刷部数とすべきである(一審被告らは、本件国語テスト等の副教材については、採択部数の概ね2割増の部数を印刷している。)と主張する。しかしながら、証拠(乙54)と弁論の全趣旨によると、一審被告らの間における上記教材比率は各年度において異なっているものと認められ、ましてや、上記教材比率が各年度において一定であるとする合理的根拠はないから、教科書発行部数と上記教材比率により本件各著作物を掲載した本件国語テストの印刷部数を推認することはできない。
 一審原告は、本件国語テストが利用される小学校の入学者数は、昭和58年度をピークに減少に転じ、平成11年度には昭和55年度の約58.5%まで減少しているところ、一審原告主張の上記部数の計算方法を採用しなければ、本件国語テストの利用部数に大きな影響を与える児童数の減少という要素が考慮されず、妥当でない旨主張するが、一審原告主張の上記部数の計算方法が採用できないことは既に説示したとおりであり、一審原告が使用料相当額(損害額)の立証責任を負うべきことを考えれば、昭和55年度以降上記(イ)認定の年度より前の時期における本件各著作物を掲載した本件国語テストの各年度の印刷部数等は、間違いのないところで数値を把握するという意味で、上記のとおり推認するほかないというべきである。
 他に、昭和55年度以降上記(イ)認定の年度前における本件各著作物を掲載した本件国語テストの印刷部数が上記認定の印刷部数を超えることを認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ 基礎となる価格について
 一審原告は、基礎となる価格について、本件各著作物の単行本の価格によるべきであると主張する。しかし、一審原告が主張しているのは本件各著作物を複製した本件国語テストの出版販売行為に係る使用料相当額であるところ、前記(1)で説示したとおり、一審原告主張に係る単行本と本件各著作物を掲載した本件国語テストとは、その性格が大きく異なり、相互に代替性もないから、使用料相当額の算定に当たって、本件各著作物の単行本の価格によることはできない。
 他方、一審被告らは、本件国語テストの価格は消費税分を控除した本体価格によるべきであると主張するが、消費税相当額も販売価格の一部としてそれに含まれているから、使用料相当額の基礎となる価格として消費税相当額を控除すべき理由はない。
 証拠(甲22の3、乙53)と弁論の全趣旨によると、一審被告株式会社日本標準の本件国語テストの学校納入定価は昭和55年度が140円、平成11年度が270円(Aテスト、Sテスト)であり、その間は段階的に価格が上がっていたものと認められる。この事実に弁論の全趣旨を総合すると、上記価格は、昭和56年度が150円、昭和58年度が160円、昭和59年度が170円、昭和61年度が180円、昭和62年度が190円、平成元年度が200円、平成3年度が220円、平成4年度がAテストとBテスト共に240円、平成5年度が250円、平成8年度が260円、平成9年度が270円、平成10年度と平成12年度がAテストとSテスト共に270円と順次上がっていったものと認めるのが相当である(一審被告株式会社日本標準において本件国語テストの種類が2種類となるのは平成4年度と平成10年度以降である。)。
 また、証拠(甲22の1、2、4ないし6)と弁論の全趣旨によると、その余の一審被告らの平成11年度の本件国語テストの学校納入価格又は学校納入定価は、一審被告青葉出版株式会社が260円、一審被告株式会社教育同人社が270円(Aテスト)、250円(Bテスト)、一審被告株式会社新学社が270円、一審被告株式会社光文書院が260円(6回)、270円(8回)、一審被告株式会社文溪堂が270円(Aテスト)、260円(Bテスト)であると認められる。そして、弁論の全趣旨によると、これらの本件国語テストについても一審被告株式会社日本標準の本件国語テストの場合と同様の推移で価格が上がっていたものと認められる(一審被告株式会社教育同人社及び同株式会社文溪堂において本件国語テストの種類が2種類となるのは平成10年度以降であり、一審被告株式会社光文書院において本件国語テストの種類が2種類となるのは平成11年度以降である。)。
 これらの事実に弁論の全趣旨を総合すると、一審被告株式会社日本標準を除く一審被告らの、昭和55年度以降の学校納入価格又は学校納入定価は、原判決別紙損害計算表1、2の各「学校納入価格」欄記載のとおりであると認めるのが相当である。
エ 使用率について
(ア) 本件各著作物の「複製」がされている部分は、前記アのとおり、本件国語テストの上段の部分に限られるから、使用ページ数は、本件各著作物が掲載されている各ページについて50%とするのが相当である。
 したがって、使用料相当額の算定に当たっては、使用率として、上記のような意味での使用ページ数を本件国語テスト1部の総ページ数で除した原判決別紙損害計算表1、2記載の教材中占有率を用いるのが相当である。
(イ) 一審原告は、本件国語テストにおける使用率は、上記のような面積比率という形式的要素のみによって判断すべきでなく、本件各著作物の複製部分の本件国語テストにおける重要性などの実質的な要素をも考慮し、かつ、一審原告の本件各著作物についての他の使用許諾契約の内容をも参考にして判断されるべきであり、このような観点からすれば、本件国語テストに掲載された本件各著作物が1ページに満たない場合でもこれを1ページとして計算すべきである旨主張する。
 確かに、本件国語テストの設問部分は、本件各著作物の著作物としての創作性を度外視してはあり得ないものであるが、上記アに記載したとおり、本件国語テストは、児童の学習の進捗状況に応じた適宜の段階で、教師が、各児童ごとにその学力の到達度を把握するものとして、学校教育法21条2項に規定する「教科用図書以外の図書その他の教材で、有益適切なもの」として利用されるものであり、証拠(甲3の1、2、甲4ないし6、甲7の1、2、甲8、乙3、乙11の1ないし4、乙12の1ないし3、乙13)及び弁論の全趣旨によれば、上記の目的に沿うよう設問には創意工夫が凝らされていることが認められるのであって、上記設問部分はそれ自体創作性を有し、本件国語テストにおいて欠くべからざる位置を占めていることも否定できない事実である。そして、本件国語テストを制作するには教科書掲載の著作物を利用せざるを得ず、その利用は教科書に準拠した本件国語テストの上記の目的に必要な限りでなされるものであり、その意味で、本件各著作物の教科書への掲載を第一次的利用とすれば、その本件国語テストへの掲載は第二次的利用に過ぎず、また、上記ウに説示したとおり、本件各著作物を掲載した本件国語テストは本件各著作物の単行本に代替し得るものではないのであって、これらの事情をも考慮すれば、実質的にみても、本件国語テストにおける本件各著作物の使用率は上記のとおり認定するのが相当である。
 また、証拠(甲75、76)によると、教材会社と教科書掲載著作物の原著作者ないしその団体との間で締結された使用許諾に関する協定書には、教材会社が教科書掲載著作物を教材に利用する場合、教材会社はその原著作者に対して、著作物が掲載されている部分が1ぺージ未満である場合もこれを1ページとして計算し一定の使用料を支払う旨定められているものが存することが認められるが、しかし、他方、証拠(乙9、乙10の1ないし3、乙35の1、2)によれば、小学校国語教科書著作者の会(社団法人日本児童文学者協会、社団法人日本児童文芸家協会及びこれらの団体に所属しないフリーの文学者の連合体)と一審被告らの加盟する日図協との間で平成11年9月30日に締結された協定や、社団法人日本文藝家協会と日図協との間で平成13年3月27日に締結された協定においては、教材に著作物を掲載する場合の使用料相当額の算定に当たっては、掲載部分が1ページに満たない場合には2分の1等として計算し使用率を決めるものとする約定がされていることが認められる。したがって、一審原告が指摘するような例の存在は、教材会社と児童文学を含めた文芸作品の著作者との間の使用率算定に関する一般的な慣行を示すものではなく、本件国語テストにおける本件各著作物の使用率に関する上記認定を左右するに足りない。
 この点に関する一審原告の主張は採用できない。
オ 使用料率について
(ア)a 証拠(乙63)と弁論の全趣旨によると、一般の文芸作品の単行本 の著作権使用料率(印税率)は通常10%とされていること、児童文学の単行本の著作権使用料率(印税率)は4ないし5%程度が多いことが認められる。しかして、弁論の全趣旨によると、児童文学の単行本の場合には、文章のほか挿し絵が占める部分が多く、読者の中心が児童である関係上、単行本の中で挿し絵が果たす役割も大きいことが認められ、そのことが一般の文芸作品より著作権使用料率が低いことの1つの理由になっていると推認される。
b 証拠(乙3、乙9、乙10の1ないし3、乙16、乙35の1、2、乙41、42、乙57、58、乙59の1ないし3、乙60ないし64)によると、小学校国語教科書著作者の会(社団法人日本児童文学者協会、社団法人日本児童文芸家協会及びこれらの団体に所属しないフリーの文学者の連合体)と一審被告らが加盟する日図協との間で平成11年9月30日「小学校国語教科書準拠教材における作品使用についての協定」が締結され、同協定によれば、一審被告ら教材会社は、平成12年度の教材から、図書教材への教科書掲載著作物の掲載については、原著作者の許諾を得て使用料を支払うこと、著作物の使用料は、ページ割により使用料率を5%として算定するものと定められていること、社団法人日本文藝家協会と日図協との間では平成13年3月27日に「小学校、中学校及び高等学校用図書教材等における文芸著作物使用についての協定」が締結され、同協定には、平成14年度以降に教科書に掲載された文芸著作物を図書教材等に使用する場合の取扱いが定められており、その運用細則によると、作品の使用料は、ページ割により5%とし、作品の翻訳物は2.5%とするとされていること、日図協では、平成14年3月25日に、小学校国語教科書著作者の会と社団法人日本文藝家協会に対して、過去10年分につき、上記各協定と同じ基準で教材への著作物の使用について使用料を補償する旨の申入れをしたこと、小学校国語教科書著作者の会と社団法人日本文藝家協会では、この申入れを受け入れ、個々の原著作者に対して、この申入れに沿った提案をすることを了承したこと、もっとも、社団法人日本文藝家協会については、予測されない事態が生じた場合(訴訟における判決等で示された賠償額と著しい差が生じた場合等)には、誠意をもって協議するとされていること、原著作者の中には、この申入れに沿った解決をすることに異議を唱える者がいたことが認められる。
 また、証拠(乙66)によると、日本文芸著作権保護同盟使用料規程においては、図書教材等に著作物を利用する場合の利用料率は、販売価格の5%に発行部数を乗じた額を上限とすると定められていることが認められる。
 上記認定の各協定で定められた使用料率は、将来における本件国語テスト等の副教材に著作物を使用する場合の使用料を取り決めたものである。そして、上記アのとおり、本件国語テスト等の副教材は、児童の学習の進捗状況に応じた適宜の段階で、教師が、各児童ごとにその学力の到達度を把握するため、学校教育法21条2項に基づき利用されているものであり、学校教育現場で重要な役割を果たしていること、このような副教材を制作するには教科書掲載の著作物を利用せざるを得ないこと、前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」3(1)アに認定のとおり、本件国語テスト等の副教材の費用は原則として児童の保護者が負担することになっているところ、証拠(乙63)と弁論の全趣旨によれば、上記各協定の内容を決めるに当たっては、上記の諸点を踏まえて、教育上の配慮が加えられたことがうかがわれる。また、日本文芸著作権保護同盟使用料規程における使用料率の上限に関する定めについても、同様の配慮がなされているものと推認される。
c 証拠(甲75、76)によると、教材会社と教科書掲載著作物の原著作者ないしその団体との間で締結された使用許諾に関する協定書には、教材会社は、教科書掲載著作物を教材に利用する場合、その原著作者に対して、著作物が掲載されているぺージを上下段に分けずに1ページと計算して8%の使用料を支払う旨定められているものが存することが認められる。
(イ) 本件で問題となるのは、将来における使用料ではなく、過去の著作権侵害に対する使用料相当額を算定するための使用料率であるところ、このような意味での使用料率は、営利を目的として副教材を出版する教材会社と教科書掲載著作物の原著作者とが、自由に交渉した場合に両者の間に合意が成立すると想定されるものというほかない。しかして、本件国語テスト等の副教材にとって教科書掲載著作物を掲載する必要性は極めて高いこと、その反面、その原著作者としては、本件国語テスト等の副教材に当該著作物が掲載される場合には、省略やその他の改変が加えられることなどから、原著作の創作性を損なう望ましくない事態を生じることが多いと考えられるばかりでなく、上記副教材に掲載される分は見開き1ページの半分程度であり、その見返りとして得られる使用料額が少額にとどまるものと推測されることなど相互の利益関係を比較衡量した上、上記(ア)に認定した教材会社の業界団体と著作者の団体との間の協定や教材会社と各著作者との間の契約等で定められた使用料率を参照すれば、使用料相当額を算定するための基礎となる使用料率は、本件著作物1に関して、文芸作品の単行本の通常の著作権使用料率10%より低く、将来の図書教材への著作物の利用に関して定められた使用料率5パーセントより高い8%とするのが相当である。ただし、一審被告株式会社文溪堂及び一審被告株式会社教育同人社販売の本件国語テスト(日本書籍株式会社発行の小学国語教科書1下準拠)については、前記引用に係る原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」1に認定したとおり、本件著作物1のほかに本件著作物2がそれぞれ2点掲載されている点を考慮し、使用料率を10%とするのが相当である。
 なお、教科書利用における補償金の率が実質3.60%であること(乙38)、大学入試問題を集めた問題集等について社団法人日本文芸著作権保護同盟と出版社との間で締結された協定書では、著作権使用料率(印税率)が3.5%ないし4%であること(乙37の1、2、乙68)が認められるが、教科書への著作物の掲載や大学入試問題への著作物の掲載は著作権法条により著作権が制限されている場合であり、また、大学入試問題を集めた問題集も大学入試問題そのものの第二次的利用であり、それらの著作物の利用形態は、本件国語テストにおけるそれとは相当異なるから、上記使用料率の認定に当たりこれらの使用料率を参照することは相当でない。
 一審原告は、平成12年法律第56号による改正前の著作権法114条2項(現行114条3項に相当)の改正の趣旨や一審原告が正規の使用許諾を行う際に通常8%の使用料率を用いていること等の事情を考慮すれば、本件においては、著作権法114条3項により損害の額を算出するに当たっての使用料率は、少なくとも15%を超える率によるのが相当である旨主張する。しかし、一審原告も自認するとおり、上記改正の趣旨は、当該事案の具体的な事情を考慮した適正な使用料が算出されることを図ったものと解されるのであって、一審原告がその著作物の使用許諾契約において使用料の算定について採用している使用料率を相当程度超えることがその趣旨に沿うことであるかのようにいう一審原告の主張は上記改正の趣旨を正解しないものである。一審原告の主張する使用料率15%の数値は何ら根拠のないものであり、これを採用することはできない。
(ウ) 一審被告らは、平成12年法律第56号による改正前の著作権法114条2項の下では、現実に広く使用されている使用料率と大きく異なる額を認める余地はない旨主張する。
 しかしながら、上記改正前の著作権法114条2項から「通常」の文言が削除された趣旨は、既存の使用料規程等に拘束されることなく、当事者間の具体的な事情を参酌した妥当な損害額の認定を可能にすることにあるし、同規定については経過措置の規定が設けられていないのであるから、本件においては著作権法114条3項(上記改正後の旧著作権法114条2項)を適用することができるというべきであるし、上記(イ)で認定したところによると、同認定の使用料率が現実に広く使用されている使用料率と大きく異なるということもできない。
カ 以上により、一審原告が本件各著作物の著作権侵害を理由に一審被告らに対して請求することができる損害額は、別紙損害計算表1、2記載のとおり、印刷部数×価格(学校納入価格又は学校納入定価)×使用率(教材中占有率)×使用料率(8%又は10%)により算定した額とするのが相当である。
 一審原告は、著作物の学習教材への複製使用を許諾するに当たっては、教材会社との間で、1年分の使用料の額が1著作物当たり1万円に満たない場合には、これを1万円とする使用料の最低限度額を約定しているので、本件においても、1年分の1著作物当たりの使用料の最低額は1万円とすべきである旨主張し、上記認定の教材会社と教科書掲載著作物の原著作者の団体との間で締結された使用許諾に関する協定書には、一審原告主張のとおり、使用料の最低限度額が定められているものがある(甲75)ことが認められるが、これは将来における使用料の支払方法を定めるに当たって約定された1例に過ぎず、それが上記使用許諾の場合における一般的な慣行になっているとまで認めるに足りる証拠はないから、使用料相当額をを算定するに当たって同様の算定方法によるべき理由はない。
(3) 著作権侵害に対する慰謝料について
 一審原告は本件各著作物の著作権侵害を理由に慰謝料の請求をしているが、財産権の侵害に基づく慰謝料を請求し得るためには、侵害の排除又は財産上の損害の賠償だけでは償い難い程の大きな精神的苦痛を被ったと認めるべき特段の事情がなければならないものと解されるところ、証拠(甲88(別件の原告Cの本人尋問調書))の記載などの本件全証拠をもってしても、本件において、上記特段の事情が存するとまでは認められないから、上記慰謝料請求は理由がない。
(4) 弁護士費用について
 一審原告が、本件訴訟の提起、遂行のために訴訟代理人を選任したことは、当裁判所に顕著であるところ、本件訴訟の事案の性質、内容、審理の経過、認容額等の諸事情を考慮すると、一審被告らの著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額としては、損害額の10%が相当である。
(5) 遅延損害金の起算点について
 不法行為に基づく損害賠償債務(弁護士費用を含む)の遅延損害金の起算点は不法行為時であると解される(最高裁第三小法廷昭和37年9月4日判決・民集16巻9号1834頁、同昭和58年9月6日判決・民集37巻7号901頁)ので、本件国語テストの各発行年度ごとに遅延損害金が発生するものと認められ、これに反する一審被告らの主張は採用できない。
(6) 以上によると、一審原告の損害額は原判決「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」9(7)記載のとおりであり、具体的内訳は原判決別紙損害計算表1、2記載のとおりである。
7 結論
 以上によれば、一審原告の本件損害賠償請求は、その余の争点について判断するまでもなく、原判決認容の限度で理由があり(なお、一審被告らが、一審被告らに損害賠償金支払義務がある場合に備えて、平成15年3月31日、一審原告に対し原判決で支払を命じられた損害金額及びこれに対する同日までの年5分の割合による遅延損害金を支払ったことは、当事者間に争いがない。)、その余は理由がないというべきである。
 よって、原判決は相当であり、一審原告の本件控訴及び一審被告らの本件附帯控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所知的財産第1部
 裁判長裁判官 北山元章
 裁判官 青蜉]
 裁判官 沖中康人
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