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【事件名】教材の表紙イラスト類似事件
【年月日】平成16年6月25日
 東京地裁 平成15年(ワ)第4779号 損害賠償請求事件
 (平成16年3月25日 口頭弁論終結)

判決
原告 F
訴訟代理人弁護士 古田茂
被告 有限会社本間デザイン事務所
訴訟代理人弁護士 井上猛
同 千葉一美
被告 株式会社東京リーガルマインド
訴訟代理人弁護士 外山太士
同 道あゆみ


主文
1 被告株式会社東京リーガルマインドは、別紙書籍目録記載3、4、26ないし60、66、77、80、111及び112の各書籍を、同目録中の上記各書籍に対応するイラスト番号欄のイラストを使用して発行、販売又は頒布してはならない。
2 被告らは、原告に対し、連帯して1025万円及びうち金361万円に対する平成12年12月31日から、うち金330万6000円に対する平成13年12月31日から、うち金220万8000円に対する平成14年12月31日から、うち金112万6000円に対する平成15年4月30日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを4分し、その1を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
5 この判決の第1項及び第2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 原告の請求
1 主文第1項と同じ。
2 被告らは、原告に対し、連帯して1610万2000円及びうち670万円に対する平成12年12月31日から、うち360万円に対する平成13年12月31日から、うち270万円に対する平成14年12月31日から、うち310万2000円に対する平成15年4月30日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告に対し、株式会社玄光社発行に係る「イラストレーション」及び株式会社宣伝会議発行に係る「宣伝会議」に、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を、同目録記載の条件で1回掲載せよ。
第2 事案の概要
1 原告は、別紙原告イラスト目録記載1ないし3のイラスト(以下、それぞれを「原告イラスト1」などといい、これらを「原告各イラスト」と総称する。)につき、著作者として著作権を有する。被告有限会社本間デザイン事務所(以下「被告本間デザイン」という。)は、別紙被告イラスト目録記載1ないし11の各イラスト(以下、それぞれを「被告イラスト1」などといい、これらを「被告各イラスト」と総称する。)を製作し、被告株式会社東京リーガルマインド(以下「被告LEC」という。)は、被告各イラストのいずれかを別紙書籍目録番号欄記載1ないし153の書籍(以下、それぞれを「本件書籍1」などといい、これらを「本件各書籍」と総称する。)の表紙及び表紙カバーに使用して、本件各書籍を発行している。
 本件において、原告は、被告各イラストが、原告各イラストの複製物ないし翻案物であるとして、著作権ないし著作者人格権に基づき、被告LECに対して本件各書籍の一部の出版等の差止めを求めるとともに、被告らに対し、損害賠償金1610万2000円及び遅延損害金の連帯支払並びに謝罪広告の掲載を求めている。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定される事実。証拠により認定した事実については、末尾に証拠を掲げた。)
(1) 原告は、イラストレーターである。
 被告本間デザインは、広告代理業等を目的とする有限会社である(甲4)。
 被告LECは、人間教育に関する情報の企画、出版等を目的とする株式会社である(甲3)。
(2) 原告は、平成8年ころ、原告各イラストを製作し、同イラストは、株式会社ナンバースリー(以下「ナンバースリー」という。)が同年8月29日に発行したイラストのカタログ「デザイナーズディクショナリー5」に掲載された(甲1)。
(3) 被告本間デザインは、平成11年以降に、被告各イラストを製作した。
 被告LECは、別紙計算書のとおり、同年10月ころ以降、平成12年12月31日までに本件各書籍のうち45点(本件書籍8、9、18、31、32、33、35、36、38、61、62、69、71、73、80、82、83、84、85、92ないし95、100ないし102、105、110、111、113、120ないし122、126ないし129、132ないし134、137、139、141、144、150)、平成13年12月31日までに60点(本件書籍1ないし7、10ないし12、19、22ないし24、26ないし30、34、37、39ないし44、63、64、67、70、72、74、75、77、78、87ないし90、96ないし99、103、106、108、109、112、114、115、118、123、130、135、138、142、145、151、152)、平成14年12月31日までに45点(本件書籍13ないし17、20、21、25、45ないし49、51、53ないし58、60、65、66、68、76、79、81、86、91、104、107、116、117、119、124、125、131、136、140、143、146ないし149、153)、平成15年4月末日までに3点(本件書籍50、52、59)の合計153点の書籍につき、被告各イラストのうち別紙書籍目録中の上記各書籍に対応するイラスト番号欄に記載するイラストを表紙又は表紙カバーに使用して、出版、販売・頒布した。
(4) 被告LECは、本件各書籍のうち、本件書籍3、同4、同26ないし60、同66、同77、同80、同111、同112の販売を継続している。
第3 争点
1 著作権侵害の成否
(1) 依拠性の有無(争点1)
(2) 原告各イラストと被告各イラストの類否(争点2)
(3) 被告LECの故意過失の有無(争点3)
2 同一性保持権侵害の有無(争点4)
3 損害の額(争点5)
第4 当事者の主張
1 争点1(依拠性の有無)
(原告)
 ナンバースリーは、イラストカタログ「デザイナーズディクショナリー」を取引先である広告代理店に配布しており、被告本間デザインは、遅くとも平成8年までには、ナンバースリーと取引を開始し、同イラストカタログの配付を受けていた。そして、原告各イラストは、平成8年8月発行のデザイナーズディクショナリー5に掲載されたから、被告本間デザインは、原告各イラストに接する機会があった。
 そして、後記2記載のように、原告各イラストと被告各イラストは極めて類似していることに照らせば、被告本間デザインが、原告各イラストに依拠して被告各イラストを製作したことは明らかである。
 なお、被告本間デザイン代表者であるG(以下「G」という。)は、本件訴訟提起前の平成14年12月11日、原告代理人に対し、被告各イラスト製作に当たって、原告各イラストを参考にした旨述べ、その後の交渉においても、依拠性を認めつつ、類否判断を争っていたものであるが、被告本間デザインは、本件訴訟提起後、一転して依拠性を否認するに至っている(甲43)。被告LECは、甲43は、原告代理人が、Gに直接質問して得た回答をメモしたものであって違法収集証拠である旨主張するが、被告本間デザイン代理人が、打合せの席にわざわざGを同席させており、同人は、その席上において発言していたのであって、被告本間デザイン代理人が、原告代理人がGに対して質問することを拒否していた事実はない。
(被告本間デザイン)
(1) 原告各イラストとの接触機会について
 被告各イラストの製作以前に原告各イラストを見た可能性はあるが、被告各イラストを製作するに当たって原告各イラストを参考にしたことはない。原告各イラストが掲載されているデザイナーズディクショナリー5は、無料で送付されてくる物で、同じような雑誌はほかにも10種類ほど送付されてきており、被告本間デザインにおいて、すべてに目を通しているわけではない。また、Gは、原告イラストを見た記憶はない。
(2) 被告各イラストの作成経緯
 被告は、次のアないしエのような手順により、被告各イラストを独自に製作した。
ア ミーティング
 平成11年7月初め、被告LECから被告本間デザインに対し、「出る順シリーズ」のカバーデザインコンペ参加の打診があったことから、被告本間デザインの代表者Gと社員であるH(以下「H」という。)及びI(以下「I」という。)の3人で、他社の本との差別化、読者に期待を持たせること、理解しやすさをイメージさせること、シリーズとして一貫性を持たせ得ることをコンセプトにすることとし、次の5つの案(以下(ア)案などという。)について、提案者各自がデザインを考えてくることにした。
(ア) 科目からイメージされるシーンをイラストで表現する案(H提案)
(イ) 科目からイメージされるアイテムを写真として表現する案(I提案)
(ウ) 科目を文字で識別する案(G提案)
(エ) 科目をカラーと文字で識別する案(G提案)
(オ) 被告LECを象徴するキャラクターを製作し、応援をイメージさせる案(G提案)
イ デザインの創作
 Gは、(オ)案に基づき、博士、大樹、剛力、スーパーマンを造形したものをデッサンした。さらに、Gは、スーパーマンを造形したものに、帽子をかぶせたり、マントを着せたり、スーツを着せたりといくつかのバージョンを考えた。考えたデザインの中で、スーパーマンを造形したものが好ましいと考えたが、マントや帽子、スーツなどは存在感が出すぎてしまうため、マントや帽子をつけない単純な人型にすることにした。
 また、Gは、科目をアイテムとして表現することを考えていた。
 そこで、Gは、スーパーマンを造形したものに腕を組ませてアイテムを足下に置く、スーパーマンを造形したものがアイテムを両手で抱きかかえる、アイテムを頭上に掲げるなどのいくつかのバージョンを考えたが、いずれも採用に至らなかった。
 Gは、アイテムを片手で持つポーズは、アイテムを軽々と持ち上げ、「お任せください」というイメージを有していて優れていると考え、表紙の左上に科目を表す文字を入れることを考えて、アイテムを左の片手で持つポーズに決定した。
 Gは、以上のような経緯で、人形が左手で家を持ち上げているデザイン(被告イラスト1に近いもの)を創作した。
ウ サンプルの製作
 各自が創作したデザインを検討した結果、(ア)案、(エ)案及び(オ)案のデザインについてサンプルを作成することになった。Gは、(オ)案のサンプルとして、前記イのデザインに基づき、紙粘土を使って人形を作った。仕上げに、文字表示とのバランス、人形のサイズ、カラーリングを決定し、被告イラスト1に近いイラスト(なお、丙9によれば、後に、被告LEC従業員からの要望を容れて微調整を行うなどしており、この段階では、被告イラスト1とは若干異なるものであったと認められるが、以下、この段階のイラストをも「被告イラスト1」という。)を製作した。
エ 被告イラスト2ないし11の製作経緯
 被告本間デザインは、その後、被告イラスト1において使用した人形の左手上の立体物を取り替えて写真撮影することで、被告イラスト2ないし11を製作した。被告本間デザインは、各科目ごとのアイテムの希望を被告LECに確認しながら、作業を行った。
(被告LEC)
 原告は、Gが、平成14年12月11日の面会の際に、依拠性を認める発言をした旨主張し、証拠として甲43を提出する。しかし、原告代理人弁護士からGに対し、原告各イラストを参考にしたかどうかを質問した際、Gが返答する前に被告LECの代理人であったJ弁護士が遮ったのであって、Gは依拠性を認める発言をしていない。甲43(原告代理人作成のメモ)は、原告代理人弁護士が、弁護士法43条に違反して、J弁護士の了承を得ることなくGに直接質問することによって得られた証拠であるから、違法収集証拠として証拠から排除されるべきである。
2 争点2(原告各イラストと被告各イラストの類否)
(原告)
(1) 原告各イラストの特徴
 原告各イラストは、いずれも、次のような特徴を有する(以下「特徴A」などという。)
A いわゆる立体イラストであり、立体物を写真撮影することにより、イラストにした写真の著作物である。
 かかる特徴は、親しみやすさ、素材の立体感・質感による自然な温かみを表現するための工夫である。
B 両足を開き、肌色一色で構成された人体と、その左手上に、仕事や勉学、スポーツなどを象徴する物を鮮やかな色で表現して組み合せたものである。
 かかる特徴は、「手で物を考えるイメージ」「考えていることが手から生み出されるイメージ」「地に足がついた実直なイメージ」を表現するための工夫である。
C 上記人体は、次のような特徴を有する。
@ 肌色一色で表現され、顔などの書き込みが一切ない。
 かかる特徴は、顔による個性を消し、全身で個性を発揮させるための工夫である。
A 細部が一切省略され、頭は丸い球体、腕は先に行くほど太く、脚はまっすぐ先に行くほど太い。
 かかる特徴は、全身で個性を発揮させるための工夫である。
B 上記人体は、肩を実際の人体のバランスより細目にし、身体の上半身から下半身にかけて徐々に太くなり、全体として丸みを帯びたA型になっている。
C 頭の直径が体高の約9分の1、腕の長さが体高の約3分の2、股下が体高の約2分の1の割合になっている。
D 人体は、右腕を下に伸ばし、腰を曲げ、左腕を腰の高さまで上げてその上に物を持つというポーズをとっている。
D 上記人体の左手の上の物は、次のような特徴を有する。
@ 体高の半分ないし3分の2程度の大きさの鮮やかに着色された物が載っている。
 かかる特徴は、無地の人体と相まって、手の上の物に目がいくようにするための工夫である。
A 特に、原告イラスト1の人体の左手上の物は、3つの家であり、うち2つの家は白壁に青い四角形の窓が4つ配置された三角屋根の家であり、かつその屋根は、赤色と緑色である。
E 上記人体及び物について、向かって左手にライティングを配置し、右側に影を作って立体感を強調する方法で撮影している。
(2) 被告各イラストと原告各イラストの対比
 原告各イラストと被告各イラストは、人体の素材が木彫か粘土かという点、腰のひねり方及び右腕が曲がっている点が異なるだけで、人体の形状、頭、手足のバランス、手足の長さの比率、色などがほぼ同一である。
 特に、被告イラスト1は、人体の左手上の物が、2つの家であり、配置は異なるものの、家の形状及び配色は、原告イラスト1のそれとほぼ同様である。
 また、被告各イラストは原告各イラストと全く同一のキャラクターを使用している。もちろん、著作権法は、キャラクターを保護するものではないが、表現の創作性は、個性として認識されるところ、その個性を最も端的に感じさせるキャラクターが同一であることは、著作物の類否判断において重要な考慮要素とされるべきである。
 被告本間デザインは、上記特徴C@ないしCについて、人体を簡略化したデザインはありふれている旨主張するが、人体を簡略化するというアイディアを採用したとしても、実際にどのように人体を表現するかは固有のものであって、具体的な表現によって見る者に異なった印象を与えるのが通常である。被告本間デザインが、原告各イラストの簡略化された人体のデザインがありふれていることを立証するために提出した乙3でさえ、原告各イラストと表現が大きく異なった簡略化された人体のデザインが掲載されており、かえって、簡略化された人体のデザインの表現方法には無限の可能性があることを物語っている。
 また、被告らは、上記特徴CDについて、燈籠鬼のポーズと同一である旨主張するが、燈籠鬼は、頭が大きく、肩が広く、右腕をつっぱるように伸ばし、左手というよりは左肩で物を持つポーズであり、顔の方向はやや横を向いているというものであって、原告各イラストと同一のポーズではない。
(被告本間デザイン)
 原告イラスト1と被告イラスト1は、創作的特徴が異なるという点で基本的に相違しており、一見した外観においても、人体の材質感、バランス、イメージなどが全く異なる。
 人体を極限まで簡略化して抽象化すると、Aの字型になるのであるから、特徴C@ないしCはありふれたデザインであり、腰を捻り、左手に物を持つポーズは、燈籠鬼型のポーズとして知られているから特徴CDはありふれたポーズである。特徴DAについては、左手上のアイテムは、科目を象徴するものであるから、家など同じようなデザインになるのは避けられない。
 このように、原告の主張する特徴C及びDは独創性に乏しいありふれたものであるから、かかる部分が共通していたとしても、これをもって被告各イラストが原告各イラストに類似しているということはできない。
 イラスト全体が与えるイメージの点から見ても、原告イラストは、右手を伸ばして拳を作り、物を身体の中心で支えるというもので、実直、重い物を一生懸命支えているというイメージを与えるのに対し、被告イラストは、右手を腰に当て、物を片手で軽々持つというポーズであり、楽々と問題を解決していくイメージを与えるものである。このように、原告イラストと被告イラストは異なる。
(被告LEC)
(1) 特徴Aについては、いわゆる立体イラストが共通して有する特徴である。本件では、原告各イラストの立体物が木彫であるのに対し、被告各イラストの立体物は紙粘土であるという違いがある。上記相違によって、原告各イラストは木の材質を生かして温かみを出しているが、被告各イラストは紙粘土によって滑らかで伸びやかなイメージとなっており、異なったイメージを生じさせている。
 特徴C@ないしCについては、人体を極限まで簡略化して抽象化すると、Aの字型になるのであるから、特徴Eはありふれたデザインであり、特徴CDについては、燈籠鬼型のポーズとして知られたありふれたポーズであって、いずれも独創性に乏しい。原告は、燈籠鬼と原告各イラストとの細かな違いについて主張するが、このような細かい差異をもって、原告各イラストの創作性を主張することは、原告各イラストと細部で相違する被告各イラストが原告の著作権を侵害する旨の主張と矛盾する。
 このように、原告各イラストの人体や人体のポーズは、ありふれたものであって、独創性に乏しいから、原告は独占権を主張することはできない。
(2) 上記のような相違点・共通点を有する被告各イラストが、原告各イラストの翻案の範囲内にあるか否かについては、翻案の範囲を広く考えるとその範囲の作品については、原告の承諾無く作成、使用することができなくなるのであるから、翻案の範囲は安易に拡大されるべきではない。原告各イラストより優れたイラストであっても、翻案の範囲内にあるとされてしまうと、そのようなイラストを作成、使用することができないことになるのであるから、そのような結論が支持できる範囲において翻案の範囲を決定すべきである。
 本件においては、被告LECは、仮に原告各イラストの存在を知っていたとしても、そのまま本件各書籍のデザインに使用するのではなく、原告に対し、より軽いイメージに改良するよう希望したはずであるが、このような改良についても、原告から承諾が得られなければなし得ないとする結論が妥当とは考え難い。したがって、被告各イラストは、原告各イラストの翻案には当たらないというべきである。
3 争点3(被告LECの故意・過失の有無)
(原告)  
 被告LECは、本件各書籍の発行が、原告の著作権及び著作者人格権を侵害することを知り又は過失により知らないで本件各書籍を販売していた。
 たしかに、原告各イラストに依拠して被告各イラストを製作したのは被告本間デザインであって被告LECではない。しかし、自らの編著、出版業務の一部を第三者に一任したからといって、編著、出版に伴う注意義務が軽減されたり免除されたりするものではない。むしろ、本来的に自らの業務に属する本件各書籍の編著及び出版の一部を第三者に分担させることによって、当該第三者によって他人の権利が侵害され得るリスクを生じさせ、かつ、自らが編著及び出版業務を行う場合以上に当該リスクを回避することが難しい状態にするのであるから、自らが編著、出版業務を行う場合以上に高度の注意義務を負うというべきである。
 したがって、被告LECは、少なくとも、被告本間デザインが被告各イラストを他人の著作権を侵害して製作したものではないか調査する注意義務を負っているというべきである。具体的には、創作活動をなす場合には、第三者の著作物を含む様々な資料を参考にしながら新たなイメージを生み出していくのが一般的であり、そのような過程で当該第三者の表現を模倣してしまうこともままあることであるから、被告LECは、被告本間デザインに対して本件各書籍のカバーデザインを委託するにあたっては、少なくとも、同被告がいかなる資料を参考にして創作をなしたかを具体的に確認し、同被告が第三者の著作権を侵害している可能性がないかどうかを確認すべき義務を負っているというべきである。
 しかるに、被告LECが、著作権侵害を回避するために何らかの調査を行った事実は認められない。被告LECは、コンペの際に、被告本間デザインを含む数社に、「レンタルポジは不可、著作権フリーかオリジナルのものを使用すること」を要望した旨主張するが、この点についての証拠はない。仮に、上記主張が事実であったとしても、「レンタルポジは不可」とは、レンタルポジを使用した場合には重版、改訂のたびに権利者から許諾を得て使用料を支払う必要があることから、かかるコストを回避するための要望であって、著作権侵害を回避する趣旨ではない。また、「著作権フリー」を許容していたということは、第三者の著作物に依拠すること自体は許容していたものであって、いかなる著作物を参考にしたか確認する義務が免除されるものではない。そもそも、イラストの製作を委託するに当たって、上記のような条件を付したところで、その結果製作されたイラストが第三者の著作権を侵害していることは十分にあり得るのであって実際に製作されたイラストを見て、これが第三者の著作権を侵害していないかどうかを確認しなければ十分な注意義務を果たしたとはいえない。
 被告LECは、自らはイラストの著作物に関しては素人であるから、被告本間デザインが著作権を侵害しているおそれがあるという特段の事情を認識していない限り、被告イラストが他人の著作権を侵害しているか否か調査する義務はなく、本件ではこのような特段の事情がなかったと主張する。
 しかし、編著・出版業務を第三者に委託したことをもって注意義務が軽減されたり免除されたりするものではないことは前記のとおりである。さらに、被告LECは、これまで、出版物のカバーデザインなどに数多くのイラストを使用して、書籍を編著して出版してきた会社であり、司法試験等の予備校を経営するなど法律には明るい上、自ら著作権侵害訴訟を追行したこともあるのであって、著作権については通常人よりも高度の判断能力を持つというべきであるし、イラスト業界についても十分な知識を有していたはずである。特に本件においては、原告イラスト1及び2は、平成9年から平成14年にわたり、合計15回(原告イラスト1が5回、原告イラスト2が10回)、東海大学のPR誌、大学生協のチラシ、NTTデータ通信のパンフレット、トヨタ自動車のポスター、パンフレット、角川書店のポスター、車内吊広告、装丁帯、カード等に使用されているのであるから、被告LECは、上記各パンフレット等により、原告イラスト1及び2の存在を知っていたか、少なくともその存在を知り得たはずであり、被告本間デザインが著作権を侵害しているおそれがあるという特段の事情を認識していたか、容易に認識し得たといえる。
 少なくとも、原告が、被告LECに対して、平成14年9月6日付内容証明郵便をもって本件各書籍のカバーデザインが原告各イラストの著作権及び著作者人格権を侵害している旨及びその販売・配付の中止を求めた以降については、著作権侵害の事実を知り、本件各書籍の販売の中止及びその回収を求めるべきであったにもかかわらず、何らの措置を講じることなく、本件各書籍の販売を継続していたのであるから、遅くとも平成14年9月9日以降は、被告ECに故意があったことは明らかである。
(被告LEC)
 複製物ないし翻案物が、他人の著作権を侵害している場合に、当該複製物ないし翻案物を自ら製作することなく、もっぱら使用している者について、当該著作権侵害に関する故意・過失があったというためには、上記使用者の業務の特性、専門性や、当該複製物ないし翻案物について著作権侵害を主張する者が現われることを予見することが可能であったかという二つの要素を考慮すべきであり、当該著作物の業界について専門性を有しない者については、当該複製物ないし翻案物の製作者が他人の著作権を侵害していることを窺わせる事情がない限りは、当該複製物ないし翻案物の使用者に故意過失があるということはできない。
 これを本件についてみると、被告LECは、教材の内容や講義等の著作物については格別、イラスト等の著作物を日常的に取り扱う者ではない。また、被告LECは、被告本間デザインらコンペ参加5社に対し、オリジナルであることを条件としてイラストを製作させ、被告本間デザインからは、紙粘土で人形等を作成する経緯等の報告を受けていた。被告本間デザインは、イラストに関しては専門家であったから、被告各イラストについて著作権侵害を主張する者が現われることを予見できるような事情はおよそ存在しなかった。
 したがって、被告LECには、被告本間デザインの著作物が他人の著作権を侵害しているか否かにつき独自に調査しなければならない義務はなかった。
 また、デザインについて専門的知識を有しない被告LECには、著作権侵害の有無についての調査手段がなく、事実上不可能である。被告LECによる調査としては、被告各イラストの製作者である被告本間デザインに著作権侵害の有無を確認することくらいであるが、被告本間デザインが著作権侵害をしている旨の回答をすることは到底考えられないから、結局、被告LECが可能な調査を尽くしていても著作権侵害を回避できた可能性は低い。原告から内容証明郵便による通知を受けた後については、被告LECは、被告本間デザインに著作権侵害の有無を確認し、同被告から著作権侵害の事実はないし、他の専門家もそのように述べている旨の回答を得たことから、本件各書籍の販売を続行したものであって、原告の著作権を侵害することについて故意・過失はない。
4 争点4(同一性保持権侵害について)
(原告)
 被告各イラストは、原告各イラストを、原告の意に反して粗雑に改変するものであるから、被告本間デザインないし被告LECが被告各イラストを製作し、使用する行為は、原告の同一性保持権を侵害する行為である。
(被告LEC)
  同一性保持権を侵害する旨の原告の主張は争う。
5 争点5(損害について)
(1) 著作権侵害に基づく損害(著作権法114条3項)
(原告)
ア 原告とナンバースリーとの間で、原告各イラストの貸出料について、次のとおり取り決めがなされており、被告本間デザインが、原告各イラストをナンバースリーから正規の手続を経て借りた場合には、原告は、同額の使用料の支払を受け得たはずであるから、上記計算式に基づいて計算した額が、被告らの著作権侵害行為により原告が被った損害の額である。なお、当該取り決めは、イラストの貸出一般についていえることであり、かつ、原告は、ナンバースリー等の貸出業者を介することなく直接イラストの貸し出しを行う場合にも同様の条件で貸し出している。
(ア) 雑誌、書籍、ブックカバーとして使用する場合の使用料は6万円
(イ) 最終使用先が複数ある場合には1社毎に、複数号ある場合には1号毎に印刷物が複数種ある場合には1種毎に印刷物につき版を重ねる場合には1回毎に使用料が発生する。
イ 本件において、被告LECは、本件各書籍において、被告各イラストのいずれかを、のべ153回使用した。
 したがって、1回当たりの使用料6万円を掛け合わせると、被告各イラストの使用により原告が受けるべき利益の額は、918万円(6万円×153回)となる。
 そこで、上記金額に、「前提となる事実関係」欄(前記第2、2(3))記載のとおり、平成12年12月31日まで、同13年12月31日まで、平成14年12月31日まで、同15年4月30日までの本件各書籍の出版に対応して、それぞれの内金につき上記対応日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金を付加して請求する。
ウ 2回目以降の使用については貸出料相当額を減額すべき旨の被告LECの主張について 
 通常の取引においては、2回目以降の使用については使用料を減額することがあるが、このような減額は、正常な取引においてお得意様として今後の取引に期待してなされるものであって、不正使用の場合にはそのような期待がない。むしろ、かえって、その回収に多大なコストと時間、精神的負担を要することになるのであって正常な取引と同視して不正使用が多数回であったからといって損害額が減額されるべきではない。複数回使用について割引を規定している貸出業者の規定においても不正使用に対しては非常に厳しい違約罰を課している。
 また、被告LECは、イラスト貸出業者に支払うべき金額(使用料の50%)は著作物を流通におくコストであるとして、著作権の行使により受けるべき金銭の額から控除すべきである旨主張する。しかし、原告は、イラスト貸出業者を介してイラストを貸し出す場合も、自らイラストを貸し出す場合もほぼ同一の条件で貸し出しを行っており、市場価格としては、イラスト貸出業者に対して支払うべき額を控除する前の額を前提に算出されるべきである。
(被告LEC)
 原告の主張する損害額は、複製権侵害による損害であって、本件は、翻案権侵害が問題となっている事案であるから、複製権の侵害の場合と損害が同額であるということはできない。
 また、著作権法114条3項は、著作権の行使につき受けるべき金銭の額を損害金として請求できる旨規定するが、著作物を流通におくためのコストは上記著作権の行使につき受けるべき金銭の額から控除されなければならない。そして、甲35によれば、著作権者は、イラストカタログ会社に対し、使用料の50%を支払わなければならないのであるから、上記著作物を流通におくためのコストは、使用料額の50%であるというべきであるから、同額を損害金額から控除すべきである。
 さらに、原告の主張する許諾料は、少数アイテムの使用の際の通常の許諾料であって、本件各書籍のように大量に使用する場合には、通常の許諾料は大幅に割り引かれる。
 例えば、被告LECの過去の取引においては、1回目の使用料が1万円、2回目以降何度使用しても使用料として1万円という例があった(丙16の1ないし4)。2回目の使用料がその他の付随的な業務報酬込みで1回目の80%という例もあった(丙17)。1回目が4万円、2回目はその50%、3回目以降32.5%(1万5000円)という例があった(丙18の1、2)。甲48においても、2次使用は1次使用の70%、3次使用以降は50%とされており、甲47においては、2回目は80%、3回目は60%、4回目以降は50%とされている。以上に加え、本件では、100機会以上使用していることを考えると、使用料としては、2回目が80%、3回目以降は30%平均とするのが相当である。
(2) 同一性保持権侵害による損害
(原告)
 被告各イラストは、原告各イラストを粗雑に改変するものであり、被告各イラストを原告の製作に係るイラストと誤信した者に対しては、原告のイラストが粗雑なイラストであるとの印象を抱かせるものであり、また、被告各イラストを見た者が、その後に原告各イラストを見た場合には、原告が被告各イラストを模倣したと錯覚することになる。
 とりわけ、被告LECによる書籍の販売は、書籍153点にのぼり、その販売形態も大規模な販売展開をしているのであって、原告は、被告らの行為により、原告各イラストのオリジナリティーを奪われ、作品として抹殺されたに等しい。これにより、原告は、原告各イラストの著作者としての地位及び名誉を奪われ、原告は、多大な精神的苦痛を被った。
 さらに、被告LECは、原告による警告後も、原告に対する損害賠償よりも、本件各書籍を販売することによる収益の方が大きいことを見越して販売を続けたことにより、原告の精神的苦痛はさらに著しいものとなった。
 以上のような原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、400万円を下らない。
 そこで、上記金額に、平成12年12月31日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金を付加して請求する。
(被告ら)
 争う。
(3) 弁護士費用
(原告)
 原告は、被告らの著作権侵害行為及び同一性保持権侵害行為により訴訟提起を余儀なくされたところ、被告らの不法行為と因果関係にある弁護士費用の額は、第二東京弁護士会の報酬規定の定める弁護士費用の額である292万2000円を下らない。
 そこで、上記金額に、平成15年4月30日から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金を付加して請求する。
 被告LECは、本件が訴訟に至ったのは、原告が訴訟前の交渉において不合理な対応をしたからであると主張する。しかし、かかる主張は事実に反する。訴訟前の交渉経緯は次のとおりであった。
 原告は、平成14年9月6日付け及び同月27日付けの各内容証明郵便で、被告LECに対し、本件各書籍の販売停止を求めたが、同被告は販売を停止することなく、同年12月11日に至って、ようやく被告らとの交渉が実現した。被告らは、同日の交渉において、原告に対し、同月24日の週の初めころには解決案を提示する旨述べたが、このころになっても解決案は提示されず、単に使用回数がのべ140回にとどまるのでこれを前提に和解案の見直しを求めるだけであった。原告は、原告が把握している不正使用と被告LECの申告する使用回数を突き合わせて確認するため、イラストを使用した書籍の明細開示を求めたが、被告LECはこれに応じなかった。そこで、原告は、やむを得ず、被告LECの提示した使用回数を前提として損害額を算定し直し、本件各書籍の販売についても被告らの要望を容れて一定期間の販売を認めるなど、大幅に譲歩した案を提示した(甲32の2)。しかし、被告らは、上記原告の案に対し、これを拒否する旨回答しただけで、結局、被告らから具体的な解決案が提示されることはなかった。原告としては、内容証明郵便を送付してから約5か月を経過しているにもかかわらず、具体的な解決案を提示することなく本件各書籍の販売を継続していることから、被告らは、本件を話合いによって解決する意思はないものと判断せざるを得ず、やむなく本件訴訟提起に至ったものである。
(被告本間デザイン)
 損害額については争う。
(被告LEC)
 原告は、弁護士費用をも請求しているが、本件が訴訟に至ったのは、原告が訴訟前の交渉において、2920万円という巨額の和解金を請求し、これに固執するという不合理な交渉対応にあったから、かかる経緯に鑑みて、弁護士費用の損害賠償請求は認められるべきではない。
第5 当裁判所の判断
1 著作権侵害の成否
 本件において、原告各イラストと被告各イラストの類否等を判断するに当たり、まず、原告イラスト1と被告イラスト1について検討する。 
(1) 原告イラスト1と被告イラスト1について
ア 争点1(依拠性の有無)
(ア) 証拠(乙3、丙9、12)及び弁論の全趣旨によれば、被告イラスト1の作成経緯について、被告本間デザイン主張のような事実が認められる(なお、丙12には、被告各イラストの中で最初に完成したのが被告イラスト3であった旨が記載されているが、弁論の全趣旨(第4回弁論準備手続において陳述された平成15年8月25日付準備書面(2))によれば、Gがコンペのために最初に製作したのは被告イラスト1であったと認められ、その後、実際に販売する書籍の表紙として最初に完成したものが被告イラスト3であったと推認される。)。
 他方、証拠(甲1、5の1、8の1、20の1)によれば、次のような事実が認められる。
a 原告イラスト1の形状について
 原告イラスト1は、次のような特徴を有する。
 全体として、立体の木彫製の人形が、左手で立体の家を肩の高さに持ち上げている状態のものを写真で撮影したもので、人形は、肌色一色で目、鼻、口等の書き込み等細部を省略してデフォルメされ、うっすら木目が見えており、胴体部分、脚及び腕が下に行くほど太くなるA型の体型で、頭が小さな球状で、脚及び腕が人形の背丈の約2分の1ほどの長さで、手足は頭より大きいひしゃげた球状をしている。上半身を中心線から右側にやや下を向くように傾け、右腕は自然に下方に下がっており、左腕は肘を曲げて手のひらを真上に向けて肩の高さで物を持ち上げるポーズをしており、脚は、左脚を腰から地面に向けてまっすぐ伸ばしてこれを軸足にして右脚を開くような姿勢をしている。左手の上に三角屋根と格子状の青色の窓が施され、鮮やかなパステルカラーで着色された家が複数配置され、手のひらのすぐ上に配置された2つの家の屋根の稜線部分に支えられるように別の家が載っている。左斜め上にライティングを施し、人体及び人体の左手の上の家の右側部分に影を作るように撮影されている。
b 被告イラスト1の形状について
 被告が最初に作成した被告イラスト1は、次のようなイラストである。
 全体として、一見しただけでは素材が不明な人形が、左手で立体の家を肩の高さに持ち上げている状態のものを写真で撮影したもので、人形は、肌色一色で目、鼻、口等の書き込み等細部を省略してデフォルメされ、胴体部分、脚及び腕が下に行くほど太くなるA型の体型で、頭が小さな球状で、脚及び腕が人形の背丈の約2分の1ほどの長さで、手足は頭より大きいひしゃげた球状をしている。上半身を中心線から右側にやや上を向くように傾け、右腕は肘を曲げて腰にあて、左腕は肘を曲げて手のひらを真上に向けて肩の高さで物を持ち上げるポーズをしており、脚は、両脚を開くような姿勢をしている。左手の上に三角屋根と格子状の青色の窓が施され、鮮やかなパステルカラーで着色された家が複数配置され、手のひらのすぐ上に配置された1つの家の屋根の稜線部分に支えられるように別の家が載っている。左斜め上にライティングを施し、人体及び人体の左手の上の家の右側部分に影を作るように撮影されている。
(イ) 原告イラスト1と被告イラスト1の対比
 上記によれば、原告イラスト1と被告イラスト1は、次のような点で共通する。すなわち、全体として、立体の人形が、左手で立体の家を肩の高さに持ち上げている状態のものを写真で撮影したものである点、人形は、肌色一色で目、鼻、口の書き込み等細部を省略してデフォルメされ、胴体部分、脚及び腕が下に行くほど太いA型の体型をしており、頭が小さな球状で、脚及び腕が人形の背丈の約2分の1ほどの長さで、手足は頭より大きいひしゃげた球状をしていること、上半身が中心線から右側に傾き、左腕の肘部分を曲げて手のひらを真上に向けて肩の高さで物を持ち上げるポーズをしていること、左手の上に三角屋根と格子状の青色の窓が施された複数の家が配置され、手のひらのすぐ上に配置された家の屋根の稜線部分に支えられるように別の家が載っていること、左斜め上にライティングを施し、人体及び人体の左手の上の家の右側部分に影を作るように撮影されていること等の点において共通である。
 他方、原告イラスト1と被告イラスト1とは、次のような点で相違する。すなわち、原告イラスト1は、人形が木彫製で木目がうっすら見えており、人形の上半身がやや下を向くように傾き、右腕は自然に下方に下がっており左脚を腰から地面に向けてまっすぐ伸ばしてこれを軸足にして右脚を開くような姿勢をしており、左手の上に配置された家が3つであるのに対して、被告イラスト1は、人形が一見しただけでは素材が不明であり、人形の上半身がやや上を向くように傾いており、右腕は肘を曲げて腰にあて、両脚を開くような姿勢をしており、左手の上に配置された家が2つである等の相違点がある。
(ウ) 上記の認定事実に前記「前提となる事実」(前記第2、2)記載の事実を総合すれば、Gは、原告イラスト1に依拠して被告イラスト1を製作したものというべきである。
 すなわち、原告イラスト1と被告イラスト1は、人形が木彫製であるか否か、上半身の傾き方や脚の開き方、右腕の格好、左手上の家の数等の点で相違が見られるものの、A型の体型にデフォルメされた人形が左手で肩の高さに家を持ち上げている全体的な構図のみならず、人形の手のひらの上の家が複数であり、手のひらのすぐ上に配置された家の屋根の稜線部分に支えられるように別の家が載っているという構図や、人形を肌色一色にした上、手のひらの上の家を三角屋根にし、窓を青色の格子状にし、鮮やかなパステルカラーで着色するなどの具体的な表現方法を含む多くの点で共通しており、このような一致は偶然によるものとは考え難い。また、乙3から認められる被告イラスト1の作成経緯は、Gが原告イラスト1に依拠して被告イラスト1を作成したとする認定と矛盾するものではない。  
イ 争点2(類否について)
(ア) 証拠(甲1、5の1ないし3、8の1、20の1)及び弁論の全趣旨によれば、原告イラスト1及び被告イラスト1の形状は、前記ア(ア)記載の事実のとおりであり、原告イラスト1と被告イラスト1の共通点、相違点は、前記ア(イ)記載のとおりであるから、これを前提として、被告イラスト1と原告イラスト1の類否を判断する。
(イ) 原告イラスト1と被告イラスト1の共通点のうち、立体の人形を左斜め上にライティングを施して撮影する表現方法、人形を、頭や手足を球状ないしひしゃげた球状にしてデフォルメする表現方法、人形に物を持たせる表現方法等は、美術の著作物としてありふれた表現方法であって、かかる点が共通していることのみをもって被告イラスト1が原告イラスト1に類似しているということはできない。しかしながら、人形を肌色一色で表現した上、人形の体型をA型にして手足を大きくすることで全体的なバランスを保ち、手のひらの上に載せた物が見る人の目をひくように強調するため、左手の手のひらを肩の高さまで持ち上げた上、手のひらの上に載せられた物を人形の半身程度の大きさに表現するという表現方法は、原告の思想又は感情の創作的表現というべきであり、原告イラスト1の特徴的な部分であるということができる。
 そして、被告イラスト1は、このような原告イラスト1の創作的な特徴部分を感得することができるものであるから、原告イラスト1に類似するものというべきである。したがって、被告イラストにおいて、人形の材質、上半身の傾き方、右腕の格好、脚の開き方、左手の上の家の数等の具体的表現において、独自の表現を加えている点を考慮してもなお、被告イラスト1は原告イラスト1の翻案物に該当すると認めるのが相当である。
 この点について、被告らは、原告イラスト1の人形は、人体のデフォルメとしてありふれており、ポーズも燈籠鬼のポーズとして一般的なものであると主張するが、被告ら提出の証拠(乙2の1ないし6、4ないし6、丙2ないし8)には、人体をデフォルメするというアイディアが共通するイラストが掲載されているにすぎず、原告イラスト1と同様の表現は見当たらない。また、燈籠鬼(乙1)と原告イラスト1とでは、上半身を中心線から右側にやや下を向くように傾け、右腕を下方に下げ、左腕を肘を曲げて手のひらを真上に向けて肩の高さで物を持ち上げるポーズをしており、左脚を腰から地面に向けてまっすぐ伸ばしてこれを軸足にして右脚を開くような姿勢をしているという人物の基本的な姿勢自体は、共通する点があるものの、それ以外の表現方法において異なっているものであり、被告らの主張は当たらない。
(2) 原告イラスト1ないし3と被告イラスト2ないし11について
ア 争点1(依拠性について)
 前記(1)記載の認定事実に前記「前提となる事実」(前記第2、2)記載の事実を総合すれば、Gは、原告イラスト1に依拠して被告イラスト2ないし11を製作したものというべきである。
 すなわち、前記(1)記載のとおり、Gは、原告イラスト1に依拠して被告イラスト1の人形を作成し、この人形の左手の上の立体物を取り替えた上で写真撮影することによって被告イラスト2ないし11を製作しているものであり、被告イラスト2ないし11において、全体の構成上その中心にあって表現上の中核部分を占める人形が原告イラスト1に依拠して製作されたものである以上、被告イラスト2ないし11は、原告イラスト1に依拠して製作されたものというべきである。
イ 争点2(類否について)
(ア) 証拠(甲1、5の1ないし3、8の1ないし11、20の1ないし3)によれば、次のような事実が認められる。
a 原告イラスト1の形状について
 原告イラスト1の形状については、前記(1)アa記載のとおりである。
b 被告イラスト2の形状について
 被告イラスト2の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、紙を重ねた上に円弧を描くように曲がった赤鉛筆が載ったものであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
c 被告イラスト3の形状について
 被告イラスト3の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、入口及び窓を青色の格子状に表したビルであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
d 被告イラスト4の形状について
 被告イラスト4の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、薄い緑色に着色した日本列島であるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
e 被告イラスト5の形状について
 被告イラスト5の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、タンカー様の船舶であるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
f 被告イラスト6の形状について
 被告イラスト6の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、高層ビルを中心とした都市の一部であるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
g 被告イラスト7の形状について
 被告イラスト7の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、赤いハート及びこれに近接して飛ぶ2羽の白鳩であるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
h 被告イラスト8の形状について
 被告イラスト8の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、目及び口を付けた大きな緑色のハート及び小さな赤いハートであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
i 被告イラスト9の形状について
 被告イラスト9の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、青色に着色したスーツケースであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
j 被告イラスト10の形状について
 被告イラスト10の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、モニター画面を青色に着色した白色デスクトップ型パソコンであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
k 被告イラスト11の形状について
 被告イラスト11の形状は、左手の手のひら上に載せた物が、「合格のLEC」等と記載された赤色の角を丸めた板状のパネルであるという点を除いて、被告イラスト1(前記(1)アb記載)と同一である。
(イ) 原告イラスト1と被告イラスト2ないし11の対比
 上記(ア)における認定によれば、被告イラスト2ないし11は、左手の手のひら上に載せた物がそれぞれ異なる点を除き、いずれも、被告イラスト1と同一の形状である。
 上記によれば、被告イラスト2ないし11においては、いずれも全体の構成上その中心にある人形が表現上の中核部分を占めるものと認められる。
 また、原告イラスト1においても、同様に全体の構成上その中心にある人形が表現上の中核部分を占めるものと認められるところ、両者を比較すると、既に原告イラスト1と被告イラスト1との対比について述べたのと同様の理由により(前記(1)イ(イ)参照)、類似するものと認められる。
 そうすると、被告イラスト2ないし11は、いずれも全体の構成上その中心にあり表現上の中核部分をなす人形部分が類似するものであるから、原告イラスト1に類似するものであり、原告イラスト1の翻案物に該当すると認めるのが相当である。
(3) 争点3(被告LECの故意過失の有無)
ア 上記(1)(2)において認定したところによれば、被告本間デザインは、原告イラスト1に依拠して、その翻案物である被告各デザインを製作したものであるから、原告デサイン1の著作権及び著作者人格権の侵害につき故意又は過失のあることは明らかであるが、被告LECは、故意過失を争うので、この点につき検討するに、証拠(甲7、10ないし13、18、乙3、丙9、12、13。枝番号は省略、以下同じ。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告各イラストは、平成9年から被告イラスト1が製作された平成11年までの間に、次のとおりポスター、パンフレット等に使用された。
 平成9年には、原告イラスト1が藤和不動産のパンフレットに、原告イラスト2が東海大学のPR誌に使用された。平成10年には、原告イラスト2があゆみ出版の書籍「受験勉強のしかた」の表紙カバー、大学生協のチラシ、NTTデータ通信のパンフレットに使用された。平成11年には、原告イラスト1がトヨタ自動車のポスター及びパンフレットに、原告イラスト2が角川書店のポスター、車内吊りポスター、装丁帯、カードに使用された。
(イ) 被告LECは、平成11年7月ころ、本件各書籍のシリーズのカバーデザインのコンペに際し、被告LECの従業員の知人であったGに参加を持ちかけ、Gは、被告イラスト1を製作し、被告本間デザインは、これを同コンペに出品した。被告LECは、これを本件各書籍のシリーズのカバーデザインとして採用し、被告各イラストを使用して本件各書籍を販売等した。
 被告LECは、被告本間デザインを含むコンペ参加者に対し、イラストあるいは写真は、著作権フリーかオリジナルのものを使用するように述べた。
 Gは、被告イラスト1の製作過程において、被告LECに対し、著作権に留意して製作する旨述べるなど、作成経過を報告することがあった。
 被告LECは、被告本間デザインから被告イラスト1の提出を受けた後、被告本間デザインに対し、手の上のモチーフを軽々と持ち上げているようにしてほしい、堂々と胸をはっているようなイメージがよいなどと要望を述べ、被告本間デザインは、被告LECの要望を容れて被告イラスト1を修正して完成させた。さらに、被告LECは、被告イラスト2ないし11の左手の上の立体物のデザインについて「ビルに『○○商事』という看板を付けてほしい」、「トランクの色をパステル調にし、軽い感じにしてほしい。ステッカーがベタベタ貼ってあるようにできたら望ましい」等の要望を述べることがあった。
 被告LECの出版事業部担当者Kは、被告本間デザインの従業員が人形を紙粘土で作成していることから、平面のデザインとは異なり、他人のデザインを簡単にコピーしてくるとは考えがたく、Gを信頼していたこともあって、被告各イラストは、被告本間デザインが独自に製作したものと信じた。
(ウ) 原告各イラストは、被告イラストが製作された後も、平成13年に、原告イラスト1が日経ホーム出版の雑誌に、平成14年に、原告イラスト2が皇學館の学校案内に使用された。
(エ) 原告は、平成14年9月9日配達の内容証明郵便で、被告LECに対し、被告LECが原告各イラストを模倣改変したイラストを使用しているとして、同イラストを使用した印刷物の販売・配付の中止及び問題のイラストをデザインした者の名称及び住所を明らかにするよう求めた。被告LECは、原告に対し、問題のイラストは被告本間デザインに委託して製作させたものであることを明らかにしたものの、被告各イラストを使用した書籍の販売中止には応じなかった。
 原告は、同月30日配達の内容証明郵便で、被告本間デザインに対し、問題のイラストを使用しないよう警告し、同日配達の内容証明郵便で、被告LECに対し、問題のイラストを使用した書籍の販売の中止を再度求めた。被告LECは、原告からの2度目の警告を受け、Gに問い合わせたが、Gが問題ない旨を回答するとともに、グラフィックデザイナーであるLも自らと同意見である(具体的には「被告の作品が原告の作品を模作したものか否かについて否定的な立場をとらざるを得ない」旨述べている。)と述べたことから、被告各イラストを使用した書籍の販売を中止しないことにした。
 原告は、被告らに対し、同年12月2日付内容証明郵便で3度目の警告をしたが、結局、被告LECは被告各イラストを使用した書籍の販売を中止することはなかった。
イ 上記アにおける認定事実によれば、被告LECは、被告各イラスト製作当時、被告各イラストが原告各イラストの著作権ないし著作者人格権を侵害するものであることを具体的に認識していたとは認められない。
 しかしながら、被告LECは、書籍の編集、出版等を業としている株式会社であり、その編集、出版する書籍が他人の著作権や著作者人格権を侵害することのないよう注意を払う義務を負うものである。すなわち、書籍の編集、出版等に携わる者としては、自らが編集ないし出版等を行う著作物について、当該著作物が自らが著作した物であるか、あるいは既に著作権の保護期間の満了したことが明らかな歴史的著作物であるような場合を除き、第三者の著作権ないし著作者人格権を侵害する物に該当しないことを確認する義務を負うものというべきである。
 本件において、原告各イラストが、受験用参考書の表紙カバーや大学生協ないし企業のポスター等に使用されていたこと、被告LECは、コンペを実施して被告本間デザインの提案するイラストを採用するか否か決定する立場にあったものであり、被告本間デザインに対し、イラストの製作について参考にした資料の提出を求める等必要な調査を行い得る立場にあったことに照らせば、被告LECにおいて注意義務を尽くせば、被告イラスト1と原告各イラストとの類似性について認識し得たものというべきである。
 ところが、被告LECは、被告各イラスト製作について、被告本間デザインに対し、コンペ出品の条件としてレンタルポジは不可、著作権フリーのものは可、との条件を告げたに留まり、被告各イラストを書籍に使用するにあたって、第三者の著作権や著作者人格権を侵害することのないように注意を払ったことを窺わせる事実は一切認められない。
 この点、被告LECは、美術の著作権について素人なのであるから、専門家である被告本間デザインに製作を委託した以上、被告LECには特段の事情がない限り、自らその編著、出版する書籍に使用するイラストが他人の著作権や著作者人格権を侵害することのないよう注意を払う義務を負うものではないし、そのような注意を払うことは不可能である旨主張する。しかしながら、書籍の編著、出版には、言語の著作物だけでなく、美術の著作物をも使用するのが通常であり、書籍の編著、出版を業とする被告LECが、美術の著作物について著作権等を侵害することのないよう注意を払う義務を負わないということはできない。特に、本件においては、前記のとおり、被告LECは、コンペを実施して被告本間デザインの提案するイラストを採用するか否か決定する立場にあったものであり、実際、被告本間デザインに対し、デザインの要望を述べるなどしているのであって、被告本間デザインに対し、イラストの製作について参考にした資料の提出を求める等必要な調査を行い得る立場にあったというべきである。
2 同一性保持権侵害の有無(争点4)
 前記1(1)ア(ア)(イ)、同イ(ア)(イ)、前記1(2)ア、同イ(ア)(イ)記載の認定事実を前提にすると、被告本間デザインによる被告各イラストの製作は、原告の意に反して原告イラスト1の改変をなす行為であり、同一性保持権の侵害に当たる。
 また、被告LECが、原告イラスト1に変更等の改変を加えた被告各イラストを使用して書籍を販売する行為も、また、同一性保持権を侵害する行為にあたる。
 そして、前記1(1)ア、同(2)ア、同(3)記載のとおり、被告らにおいて、上記同一性保持権侵害について、少なくとも過失が認められる。
3 損害の額(争点5)
(1) 著作権侵害に基づく損害について
ア 証拠(甲15、33ないし39、44ないし50、丙16ないし18)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 原告各イラストは、ナンバースリーの発行に係るカタログであるデザイナーズディクショナリー5に掲載されているものであるが、同カタログに掲載されたイラストの貸出料としては、一般市販雑誌・書籍・ブックカバーの場合には、作品によって4万円ないし8万円(原告各イラストはいずれも6万円、再版使用料は、2回目70%、3回目60%、4回目以降50%)とされ、イラスト使用者から支払われた前記金額のうち2分の1をナンバースリーが仲介手数料として控除し、残額が著作者に支払われていた。
 ナンバースリー以外の仲介業者の貸出料は、ブックカバーないし書籍の表紙の場合には、作品によって@4万円ないし10万3000円とするもの、A4万円ないし6万円(再版使用料は、2回目80%、3回目60%、4回目以降50%)とするものがあり、いずれも、規約に、無断使用の場合には貸出料の20倍相当の賠償金を支払ってもらう旨が記載されている。
 原告は、貸出業者を介することなく、利用者に直接イラストを貸出すこともあり、自らのホームページには、書籍表紙1版6万円、申告外の使用が認められた場合には損害賠償金として当該使用料の12倍を請求する旨を掲載している。また、原告は、実際に、月刊雑誌表紙につき5万4000円、書籍表紙につき5万円で、イラストを貸し出したことがあった。
 被告LECは、これまで、ブックカバーイラストの料金として1万円、4万円、表紙イラスト買取料金として1万円、イラスト2回目使用料(カット9点の直しを含む)として12万円(15万円の80%)、2万円(70%)、1万5000円(55%)を支払ったことがあった。
イ 前記認定事実によれば、原告が原告各イラストの著作権の行使につき受けるべき金銭の額は1版目が6万円、2版目が4万2000円(70%)、3版目が3万6000円(60%)、4版目以降が3万円(50%)と認めるのが相当である。
 なお、前記のとおり、ナンバースリーを介してイラストの貸出しが行われる場合には、ナンバースリーが利用者から受領する金額のうち2分の1が手数料として控除される扱いであるが、これは著作物使用料の一部をカタログ掲載料ないし仲介手数料としてカタログ業者である(仲介業者でもある)ナンバースリーに支払う扱いと解することができるから、著作権法114条3項所定の使用料相当額としては、利用者の支払う金額というべきである。
 被告LECは、翻案権侵害の場合は、複製権侵害の場合より損害額を減額すべき旨の主張をするが、著作権法114条3項は著作権侵害が複製権侵害であるか翻案権侵害であるかを区別することなく、権利者の著作物の使用料相当額をもって損害額としているのであるから、被告LECの主張は採用できない。
 また、被告LECは、イラスト使用料として1万円ないし2万円程度が支払われている例があることを指摘するが、1版目のイラスト使用料を6万円程度としている例が複数存在しておりナンバースリーや原告の設定料金が特に高額であるとはいえない上、イラスト等の著作物においては、個別の作品や著作者によって使用料金が異なるのが通常であるから、同被告のいうような取引事例があるからといって、原告各イラストの使用料相当額につき前記のように認定することが妨げられるものではない。
 さらに、被告LECは、イラストを流通におくためのコストを控除した額を著作権の行使により受けるべき金銭の額とすべきである旨主張するが採用できない。
ウ そうすると、被告LECは、別紙計算書のとおり、被告各イラストを平成12年12月末日までに合計45点(うち1版目が40点、2版目が5点)、同13年12月末日までに合計60点(うち1版目が44点、2版目が15点、3版目が1点)、同14年12月末日までに合計45点(うち1版目が21点、2版目が14点、3版目が10点)、同15年4月末日までに合計3点(うち2版目が3点)使用したものであるから、原告が原告イラスト1の著作権の行使により受けるべき金銭の額は平成12年12月末日までに261万円(1版目分240万円、2版目分21万円)、同13年12月末日までに330万6000円(1版目分264万円、2版目分63万円、3版目分3万6000円)、同14年12月末日までに220万8000円(1版目分126万円、2版目分58万8000円、3版目分36万円)、同15年4月末日までに12万6000円(2版目分)の合計825万円と認められる。
(2) 同一性保持権侵害に基づく損害について
 証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば、被告LECは、被告本間デザインの作成した被告各イラストを、平成11年から、のべ153点の書籍に使用して、販売したことが認められる。
 上記認定事実に、前記1(1)ア(ア)(イ)、同イ(ア)(イ)、同(2)ア、イ(ア)(イ)記載の認定事実を総合すると、被告らの同一性保持権侵害行為により被った原告の損害については、100万円をもって相当と認める(なお、著作者人格権の侵害による損害は侵害品の販売数の多寡のみによるものではないから、本件事案においては、平成12年12月末日からの遅延損害金を認める。)。
(3) 弁護士費用相当額について
 原告が、本訴の提起、追行を代理人に依頼したことは当裁判所に顕著であるところ、原告の請求の内容、本件事案の性質、訴訟追行の難易度等を考慮すれば、被告らの侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、100万円が相当と認められる(弁護士費用相当額については、原告の請求どおり平成15年4月末日からの遅延損害金を認める。)。
4 本件において、原告は、被告らに対して謝罪広告の掲載を請求しているが、原告各イラストが商業的利用を目的として製作されたものであること、被告各イラストは原告イラスト1に依拠してこれを一部改変したものであるが、その改変の態様は悪質なものとまではいえないこと等、本件にあらわれた諸事情を総合考慮すると、本件においては、被告らの著作者人格権侵害については、上記の損害賠償の支払をもって足りるもので、これに加えて謝罪広告も必要とまでは認められない。
第6 結論
 以上によれば、原告の本訴請求中、別紙書籍目録記載3、4、26ないし60、66、77、80、111及び112の各書籍を、同目録の各書籍に対応するイラスト番号欄に記載する被告各イラストを使用して発行、販売又は頒布することの差止めを求める請求は理由がある。
 金銭請求については、1025万円及びうち金361万円(本件各書籍45点(内訳は別紙計算書記載のとおりである。以下同じ。)の発行等による損害金261万円及び同一性保持権侵害による損害金100万円)に対する平成12年12月31日から、うち金330万6000円(本件各書籍60点の発行等による損害金)に対する平成13年12月31日から、うち金220万8000円(本件各書籍45点の発行等による損害金)に対する平成14年12月31日から、うち金112万6000円(本件各書籍3点の発行等による損害12万6000円及び弁護士費用100万円)に対する平成15年4月30日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
 また、別紙謝罪広告目録記載の謝罪文を同目録記載の条件で同目録記載の新聞に掲載することを求める請求も、理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 吉川泉
 裁判官 青木孝之は、退官のため署名押印することができない。

裁判長裁判官 三村量一
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