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【事件名】インクリボンの商標事件
【年月日】平成16年6月23日
 東京地裁 平成15年(ワ)第29488号 商標権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年4月14日)

判決
原告 ブラザー工業株式会社
訴訟代理人弁護士 佐尾重久
補佐人弁理士 富澤孝
被告 株式会社オーム電機
被告 ダイニック株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士 安藤信彦
同 田代宏樹
補佐人弁理士 桑原史生


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告らは、「brother」(以下「被告標章1」という。)ないしは「ブラザー」(以下「被告標章2」という。また、被告標章1と被告標章2を併せて「被告標章」ということがある。)の標章を付した「インクリボン FKS−77SB−S S−b TYPE−1」及び「インクリボン FKS−50SBG−S S−b TYPE−2」を製造、販売してはならない。
2 被告らは、上記製品を廃棄せよ。
3 被告らは、原告に対し、連帯して金2136万円及びこれに対する平成16年1月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が被告らに対し、被告標章を付してインクリボンを製造、販売する被告らの行為が原告の有する商標権を侵害すると主張して、被告標章を付したインクリボンの製造、販売の差止及び廃棄並びに損害賠償を求めた事案である。
1 争いのない事実等(認定の根拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 原告の商標権
 原告は、次の各商標権(以下順に「本件商標権1」、「本件商標権2」といい、これらを併せて、「本件商標権」ということがある。また、その登録商標を順に「本件商標1」、「本件商標2」といい、これらを併せて「本件商標」ということがある。)を有する。
ア 本件商標権1
 登録番号 第4425377号
 登録年月日 平成12年10月20日
 商品及び役務の区分並びに指定商品または指定役務 第1類ないし第34類(第9類の電気通信機械器具、第16類の印字用インクリボンを含む。)
 登録商標 別紙登録商標目録(1)記載のとおり
イ 本件商標権2
 登録番号 第4425378号
 登録年月日 平成12年10月20日
 商品及び役務の区分並びに指定商品または指定役務 第1類ないし第34類(第9類の電気通信機械器具、第16類の印字用インクリボンを含む。)
 登録商標 別紙登録商標目録(2)記載のとおり
(2) 被告らの行為
ア インクリボンの製造、販売
 被告ダイニック株式会社(以下「被告ダイニック」という。)は、「インクリボン FKS−77SB−S S−b TYPE−1」(以下「被告製品1」という。)及び「インクリボン FKS−50SBG−S S−b TYPE−2」(以下「被告製品2」という。)をそれぞれ製造し、被告株式会社オーム電機(以下「被告オーム」という。)に販売している。
 被告オームは、被告製品を販売している。
イ 被告製品の外箱の表示(変更前及び変更後のもの)
 被告らは、被告製品1及び被告製品2の外箱の表示内容を変更した(以下、変更前の被告製品1を「旧被告製品1」、変更後の被告製品1を「新被告製品1」と、変更前の被告製品2を「旧被告製品2」、変更後の被告製品2を「新被告製品2」という。また、旧被告製品1と旧被告製品2を併せて「旧被告製品」と、新被告製品1と新被告製品2を併せて「新被告製品」ということがある。さらに、これらを併せて「被告製品」ということがある。)。
 被告製品の外箱の外観は、別紙のとおりである(乙1ないし4)。被告製品の外箱の複数箇所に、被告標章1ないしは被告標章2が表示されている。もっとも、被告標章1については「For」の、被告標章2については、「用」の文字とともに表示されているものもある。
2 争点
(1) 被告標章の表示態様は、本件商標の商標的な使用であるとして、本件商標権の侵害を構成するか。
(2) 原告の被った損害の額は幾らか。
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(商標権侵害の有無)について
(原告の主張)
(1) 出所表示機能の有無
 被告標章には、「For」又は「用」の文字がそれぞれ付加されている。確かに、これらの文字が付加されることにより、「原告の製品であるファクシミリに使用するインクリボンである」との趣旨を読み取り得るが、原告が本件商標に「For」又は「用」の文字を付して販売することもあり得る以上、被告標章に「For」又は「用」の文字が付加されているからといって、直ちに、被告製品について、原告が製造、販売しているものではないと理解されるものとはいえず、被告標章が出所表示機能を有しないということはできない。
 また、原告製造に係るファクシミリ装置のインクリボンの需要者は比較的高齢層であり、かつ、一般家庭の主婦など女性も比較的多いという具体的取引事情を加味して、出所表示機能を有しているか否かを判断する必要がある。
 これらの事情に加え、以下の事実に照らすと、被告らによる被告標章の表示態様は、出所表示機能を有する態様である。
ア 旧被告製品の外箱の表示
(ア) 「For」又は「用」の文字が付された被告標章を含め、被告標章が旧被告製品1について9か所、旧被告製品2について8か所表示されており、これらの表示は、外箱の6面のうち、何も記載のない裏蓋の部分を除く5面中の4面にわたっている。さらに、「インクリボン」及び「ブラザー用」との表示は、帯状の緑地に白抜き文字で表示されており、特に需要者及び取引者の注意を喚起する部分となっている。しかも、適用機種として、原告のファクシミリ装置しか表示されていない。
(イ) 一方、被告オームの表示は、1か所で、極めて小さく、かつ英文字で表示されているだけで、一般消費者が、その表示から、被告らの製造に係るものと理解することは困難である。さらに、被告オームの表示は、「ブラザー用」、「For brother」の表示が緑地に表示されていることと対比すれば、需要者の注意を喚起する機能は極めて低い。他に商品の出所を表示するような標章の表示はない。
イ 新被告製品の外箱の表示
 被告標章についての表示は、前記ア(ア)と同様である。
 もっとも、新被告製品においては、2か所に2段で、「OHM ELECTRIC INC.」の表示が追加されている。
 しかし、我が国は、日本語を母国語としており、インクリボンの需要者には前記のとおり英語に親しんでいない世代も多いことから、上記の表示を見て「オーム」の称呼を認識できる需要者はそれほど多くなく、また、被告オームの社名がさほど著名でないことから、上記表示により被告らが新被告製品を製造販売していると理解されることはない。
 また、「ELECTRIC INC.」の表示は、「OHM」の表示及び「ブラザー用」等の表示と比較して、黒色で小さな通常の文字であり、しかも、「INC.」の表示がどのような意味を有するのか認識できない需要者も少なくないと考えられるから、需要者が、「ELECTRIC INC.」の表示を見て、新被告製品の出所表示に関連すると理解するのは困難である。
 したがって、新被告製品の外箱の表示を見た需要者は、被告標章の表示を見て、原告の製造に係る製品であると理解するものといえる。
ウ 誤認混同の発生
 原告は、被告製品についての需要者からの問い合わせを受けていることから、実際に、需要者間において、被告製品と原告の製造する製品との誤認混同が生じていることが明らかである。
(2) 商標権侵害の有無
 被告標章は、本件商標と同一である。
 したがって、被告標章の使用は、本件商標権を侵害する。 
(被告の反論)
 被告製品における表記は、「ブラザー用」ないしは「For brother」であり、これは、原告製造に係るファクシミリに使用するインクリボンであること(適用機種)を明記したものであり、被告製品であるインクリボンが原告の製造に係るものであると理解する余地はない。
 したがって、被告標章は、自他商品を識別するための標識として使用されておらず、被告標章の使用は、本件商標権を侵害しない。
 なお、このように適用機種を表示するのは、多くの機械製品の場合、それに適用されるべき消耗品や補充部品等の形状・性質等は、各メーカーの機械製品ごとに異なるのが一般であるため、その適用機種を表示しなければ販売が不可能であるためである。仮に、このような表示態様が、商標権を侵害すると解するのであれば、機械製品のメーカーが供給する場合(純正品の場合)を除き、それ以外の者が、当該機械製品等に用いられる消耗品や補充部品等を供給することできなくなる結果を招くので、明らかに不合理である。
2 争点(2)(損害の額)について
(原告の主張)
 原告のファクシミリ用インクリボンの卸売販売価格は1本890円であるところ、原告の販売利益は、卸売販売価格の40パーセントを下回ることはない。したがって、原告の利益は、製品1本当たり356円を下らない。
 そして、かつて、国内大手販売会社3社が、被告らと同様に、「ブラザー用」、「For brother」と表示したインクリボンを販売していたが、原告の警告に応じ、その製造販売を中止した際に、原告製品の売上が1割以上増加した。原告は、原告のファクシミリ用インクリボンを月平均5万本販売しているから、被告製品の製造販売により、原告の製品の販売数量は、その1割である月5000本は減少している。
 したがって、原告が被った損失は、1か月当たり178万円(5000本×356円=178万円)を下らない。
 被告らは、遅くとも平成15年1月から旧被告製品を、同年7月から新被告製品を販売している。
 よって、原告は、平成15年1月から同年12月までの12か月分合計2136万円(178万円×12か月=2136万円)の損害を被った。
(被告の認否)
 原告の主張を争う。
第4 当裁判所の判断
1 商標権侵害の有無
(1) 事実認定
 前記争いのない事実等、証拠(乙1ないし4、検甲1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。
ア 旧被告製品1(乙3、検甲1)の外箱の表示等
 旧被告製品1の外箱の形状及び表示態様は、以下のとおりである。
(ア) 長方形の4面とほぼ正方形の2面で構成される直方体の紙製の箱である。
(イ) 長方形の面のうち2面の表示態様は同一であり、以下のとおりである。
a ほぼ中央部が濃い緑色地であり、その中央よりも左側から右端にかけて、白抜き文字で「インクリボン」(文字の縦の長さ約15ミリメートル)、その下に白抜きの枠で囲んで白抜き文字で「普通紙FAX用」(文字の縦の長さ約8ミリメートル)と記載されている。なお、これらの文字は、当該面の他の文字と比較して大きめかつ太めのゴシック体で記載されている。また、前記濃い緑色地部分の左下側には、同じく白抜き文字で「For brother」、「TYPE−1」(いずれも文字の縦の長さ約3ミリメートル)と記載されている。もっとも、これらの文字は、当該面の他の文字と比較して、小さめに記載されている。また、緑色地部分の左側に、下から上に「ink ribbon」(文字の縦の長さ約5ミリメートル)と濃い緑色でゴシックの斜字体で記載されている。
b 前記aの濃い緑色地部分の両側に、「S−b TYPE−1」(Sの文字のみ縦の長さ約10ミリメートル。その余の文字の縦の長さ約5ミリメートル)という製品名や製品のサイズ等が黒色ゴシック体で記載されている。
c 当該面の右下部分には、右上がりで帯状の濃い緑色地に白抜き文字で「ブラザー用」(文字の縦の長さ約5ミリメートル)と記載されている。
(ウ) 長方形の面のうち1面は、取付方法等が記載されている。その表示態様は、以下のとおりである。
a 当該面左上側には、2段組の「対応表」が記載されており、上段左から「メーカー」、「適用機種名」、「純正リボン」(いずれも文字の縦の長さ約3.5ミリメートル)と記載され、これに対応して、下段には、左から「ブラザー」、「FAX−750・・・」(いずれも文字の縦の長さ約2ミリメートル)、「PC−300RF PC−304RF(4本)」(文字の縦の長さ約1.5ミリメートル)と記載されている。
b 当該面右側部分には、製品の取付方法が図を用いて記載されている。なお同図の上、すなわち「取付け方法」と記載された部分の右側には、「ブラザー対応インクリボン」(文字の縦の長さ約2ミリメートル)と記載され、その右側に、前記a記載の純正リボンの製品番号がほぼ同じ縦の長さで記載されている。
(エ) 長方形の面のうち1面には、「インクリボン交換時のご注意」の表題とともに「・インクリボンの交換方法はお使いの機種により異なります。詳しくはFAX本体の取り扱い説明書をご参照ください。」などの注意事項が記載され、また「使用上のご注意」とともに、その注意事項が記載されている。そして当該面右下に、「OHM ELECTRIC INC.」と被告オームの商号が英語で記載され(文字の縦の長さ約2ミリメートル。ただし、「OHM」の部分の方がわずかに長い。)、その下に住所、お客様相談室の電話番号及びホームページのアドレスが記載されている(いずれも文字の縦の長さ約1ミリメートル)。被告オームの商号は、被告標章の記載された部分と比較して、ほぼ同じ大きさで又はそれらより小さく記載されている。
(オ) 正方形の面のうち1面は蓋部分を構成している。その左上部分には、右上がりで帯状の濃い緑色地に白抜き文字で「ブラザー用」(文字の縦の長さ約4ミリメートル)と記載されている。また、中央部上から順に、「S−b TYPE−1」、「ブラザー用」、「Sタイプインクリボン」、「FKS−77SB−S」、「普通紙FAX用」(濃い緑色地に白抜き文字)、「For brother」と記載され(「S−b TYPE−1」部分のSの文字のみ縦の長さ約8ミリメートル、その余文字の縦の長さはいずれも約3ミリメートル)、さらに製品のサイズ等が記載されている。正方形の面のうち他の面は、底部分で格別の記載はない。
イ 新被告製品1(乙1、検甲2)の外箱の表示等
 新被告製品1の外箱の形状及び前記アで記載した面の表示態様は、旧被告製品1と以下の点を除き同一である。
 すなわち、前記ア(イ)記載の長方形の面のうちの2面の左側部分の製品名等が記載されている部分が濃い緑色地にされ、その上側部分に、2段で「OHM ELECTRIC INC.」と、被告オームの商号が英文字で、「OHM」の部分を白抜きで、その余の部分を黒字で記載されている(「OHM」部分のうちOの文字が縦の長さ約8ミリメートル、その余の文字の縦の長さ約6ミリメートル。「ELECTRIC INC.」部分が文字の縦の長さ2ミリメートル)。被告オームの商号は、被告標章の記載とほぼ同じ大きさで又はそれより大きく記載されている。また、下から上に記載された「ink ribbon」の部分が、白色で縁取りされている。
ウ 旧被告製品2(乙4、検甲3)の外箱の表示等
 旧被告製品2の外箱の形状及び表示態様は、以下のとおりである。
(ア) 長方形の4面とほぼ正方形の2面で構成される直方体の紙製の箱である。
(イ) 長方形の面のうち2面の表示態様は同一であり、以下のとおりである。
a ほぼ中央部が黄緑色地にされ、その中央よりも左側から右端にかけて、白抜き文字で「インクリボン」(文字の縦の長さ約17ミリメートル)、その下に白抜きの枠で囲んで白抜き文字で「普通紙FAX用」(文字の縦の長さ約8ミリメートル)と記載されている。なお、これらの文字は、当該面の他の文字と比較して大きめかつ太めのゴシック体で記載されている。また、前記黄緑色地部分の左下側には、同じく白抜き文字で「For brother」、「TYPE−2」(いずれも文字の縦の長さ約3ミリメートル)と記載されている。もっとも、これらの文字は、当該面の他の文字と比較して、小さめに記載されている。また、黄緑色地部分の左側に、下から上に「ink ribbon」(文字の縦の長さ約5ミリメートル)と濃い緑色でゴシックの斜字体で記載されている。
b 前記aの黄緑色地部分の左側に、赤色地に黄色ゴシック文字で、「3m増量」と記載され、その下に赤色文字で製品のサイズが記載されている。また、前記aの黄緑色地部分右側には、「S−b TYPE−1」という製品名(Sの文字の縦の長さ約10ミリメートル、bの文字の縦の長さ約5ミリメートル。その余の文字の縦の長さは約4ミリメートル)や製品のサイズ等が黒色ゴシック体で記載されている。
c 当該面の右下部分には、右上がりで帯状の黄緑色地に白抜き文字で「新ブラザー用」と記載されている(文字の縦の長さ約5ミリメートル)。
(ウ) 長方形の面のうち1面は、取付方法等が記載されている。その表示態様は、以下のとおりである。
a 当該面左上側には、2段組の「対応表」が記載されており、上段左から「メーカー」、「適用機種名」、「純正リボン」と記載され(いずれも文字の縦の長さ約3.5ミリメートル)、これに対応して、下段には、左から「ブラザー」、「FAX−780CL・・・」(いずれも文字の縦の長さ約2ミリメートル)、「PC−400RF PC−404RF(4本)」(文字の縦の長さ約1.5ミリメートル)と記載されている。
b 当該面ほぼ全面にわたり、製品の取付方法が図を用いて記載されている。
(エ) 長方形の面のうち1面には、「インクリボン交換時のご注意」の表題とともに「・インクリボンの交換方法はお使いの機種により異なります。詳しくはFAX本体の取り扱い説明書をご参照ください。」などの注意事項が記載され、また「使用上のご注意」の表題とともに、その注意事項が記載されている。そして当該面右下に、「OHM ELECTRIC INC.」と被告オームの商号が英語で記載され(文字の縦の長さ約2ミリメートル。ただし、「OHM」の部分の方がわずかに長い。)、その下に住所、お客様相談室の電話番号及びホームページのアドレスが記載されている(いずれも文字の縦の長さ約1ミリメートル)。被告オームの商号は、被告標章の記載された部分と比較して、ほぼ同じ大きさで又はそれらより小さく記載されている。
(オ) 正方形の面のうち1面は蓋部分を構成している。その左上部分には、右上がりで帯状の黄緑色地に白抜き文字で「新ブラザー用」と記載されている(文字の縦の長さ約4ミリメートル)。また、中央部上から順に、「S−b TYPE−2」、「新ブラザー用」、「Sタイプインクリボン」、「FKS−50SBG−S」、「普通紙FAX用」(黄緑色地に白抜き文字)、「For brother」と記載され(「S−b TYPE−1」部分のSの文字のみ縦の長さ約8ミリメートル、その余の文字の縦の長さ約3ミリメートル)、さらに製品のサイズ等が記載されている。正方形の面のうち他の面は、底部分で格別の記載はない。
エ 新被告製品2(乙2、検甲4)の外箱の表示等
 新被告製品2の外箱の形状及び前記ウで記載した面の表示態様は、旧被告製品2と以下の点を除き同一である。
 すなわち、前記ウ(イ)記載の長方形の面のうちの2面の左側部分の「3m増量」などと記載されている部分が黄緑色地にされ、その上側部分に、2段で「OHM ELECTRIC INC.」と、被告オームの商号が英文字で、「OHM」の部分を白抜きで、その余の部分を黒字で記載され、その下に製品名及び製品のサイズが記載されている(「OHM」部分のうちOの文字が縦の長さ約8ミリメートル、その余の文字の縦の長さ約6ミリメートル。「ELECTRIC INC.」部分が縦の長さ2ミリメートル)。被告オームの商号は、被告標章の記載とほぼ同じ大きさで又はそれより大きく記載されている。また、下から上に記載された「ink ribbon」の部分が、白色で縁取りされている。
オ 被告製品の性質等
(ア) 被告製品は、ファクシミリに用いられるインクリボンであって、消耗品である。すなわち、インクリボンにより印字するタイプのファクシミリを購入したユーザーは、インクリボンを使い切った場合、再度の使用ができないため、新しいインクリボンを購入する必要が生ずる。
 一般に、各種機器類において、当該機器類と消耗品との適合関係が限られていることも少なくなく、このような場合には、ユーザーが誤って自己の使用する機器類に適合しない消耗品を購入することがないように、商品の外箱等に適合機種を表示することが通常行われており、ユーザーもその点を十分に認識し、消耗品購入の際の参考としている。
 また、消耗品を製造、販売する者は、機器類を製造、販売する者と常に同一者であるとは限らず、むしろ、一般的には、消耗品を製造、販売する者は、機器類を製造販売する者と異なる場合が多い。
(イ) 被告製品は、原告の製造に係るファクシミリの特定の機種に用いられるインクリボンである。ところで、原告の製造に係るファクシミリに使用することができるインクリボンは、原告製のファクシミリにのみ使用することができ、他社製のファクシミリには使用できない。したがって、原告の製造に係るファクシミリに使用できるインクリボンを販売する者は、消費者が、他社製のファクシミリに使用する目的で当該インクリボンを誤って購入することがないよう注意を喚起する必要がある。そのために、例えば、当該インクリボンの外箱等に、原告の製造するファクシミリに使用するためのインクリボンである旨を表記することが不可欠となる。
(2) 判断
 以上認定した事実を基礎に判断する。
 当裁判所は、被告標章は、商品を特定する機能ないし出所を表示する機能を果たす態様で用いられていないので、商標として使用されていないと判断する。その理由は、以下のとおりである。
ア 被告製品の外箱の長方形の面のうちの2面の中央部のもっとも目立つ位置には、被告製品の普通名称である「インクリボン」の表示や、被告製品の用途を示す「普通紙FAX用」との表示が、いずれも消費者の目を引く白抜きで、その他の文字とよりも大きく記載されている。また、他の長方形の面においても、被告製品の取付方法が図示されていたり、インクリボン交換時の注意の記載があるなど、被告製品の種類、用途を表す記載がされている。
イ これに対し、被告標章は、前記アの用途等を示す記載と比較して小さく記載されている。また、前記(1)のとおり、取付方法の記載された面に表示された被告標章を除き、被告標章1の前には「For」の文字が付加され、被告標章2の後ろには、「用」との文字がそれぞれ付加されている。そして、「For」は、「〜のために」といった目的を意味する中学で学習する基本的な英単語であり、「用」は、接尾語的に用いられる場合には、何かに使うためのものという意義を有する語である。したがって、被告製品の一般需要者は、被告標章を含む「For brother」、「ブラザー用」、「新ブラザー用」の表示について、被告製品が、原告製造のファクシミリに使用できるインクリボンであることを示すための表記であると理解するものと認められる。
ウ 取付方法の記載された面においては、「対応表」の部分に被告標章2が「用」との文字を付加せずに表示されているほか、被告製品1においては、「取付け方法」との記載の右側に被告標章2を含む「ブラザー対応インクリボン」との表示がされている。
 しかし、上記表の部分の被告標章2は、「対応表」の「メーカー」欄の真下の欄に記載され、その右側には、適用機種名として、いくつかの製品名が記載されていることに前記イに判示したところを併せ考えると、需要者は、この「対応表」における被告標章2の表示につき、端的に、被告製品が使用できるファクシミリが原告製造のファクシミリであることを示すための表記であると理解するものと認められる。
 また、被告製品1の「取付け方法」との記載部分の右側の「ブラザー対応インクリボン」との表示についても、上記と同様に、被告製品が使用できるファクシミリが原告製造に係る機種であることを示す表記であると理解するものと認められる。
エ 前記(1)のとおり、被告旧製品においては、被告標章と同じ又は小さく、英語表記であるものの、被告オームの名称が記載され、住所等が記載されているが、その記載態様からすれば、これらの記載は、被告オームの連絡先を表示したものと認識できる。また、被告新製品においては、上記の記載に加え、被告標章とほぼ同じ大きさで又はそれより大きく被告オームの名称が英語表記で記載されている。被告オームに関する以上の表示は、被告製品の製造者又は販売者を示すものと認識し得る表示といえる。
オ 前記(1)のとおり、当該機器類と消耗品との適合関係が限定されているような場合に、ユーザーが誤って自己の使用する機器類に適合しない消耗品を購入することがないように、商品の外箱等に適合機種を表示することが通常行われており、消費者も、そのようなことを十分に認識し、消耗品購入の際の参考としている。また、被告製品は、原告の製造に係るファクシミリの特定の機種にのみ使用できるインクリボンであって、被告が、インクリボンを販売するに当たっては、消費者が、他社製のファクシミリに使用する目的で当該インクリボンを誤って購入することがないよう注意を喚起することが不可欠であり、そのような目的に照らすならば、被告標章の表示は、ごく通常の表記態様であると解される。
 以上の点を総合すれば、被告が被告製品において前記認定の態様で被告標章を用いた行為は、被告標章を、被告製品の自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で使用する行為、すなわち商標としての使用行為であると解することはできない。
 したがって、被告らによる被告標章の使用は、本件商標権の侵害には当たらない。
2 結論
 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 神谷厚毅


登録商標目録
(1) 登録第4425377号
(2) 登録第4425378号
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