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【事件名】コンピュータープログラム侵害事件(2)
【年月日】平成16年6月23日
 東京高裁 平成15年(ネ)第5898号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・さいたま地裁平成10年(ワ)第1886号)
 (平成16年4月21日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 ウイン通商株式会社
被控訴人 ジャルインフォテック株式会社
訴訟代理人弁護士 畠山保雄
同 松井秀樹
同 大庭浩一郎


主文
 本件控訴を棄却する。
 当審における控訴人の追加請求のうち、原判決(別紙1)物件目録1記載の商品のローカライザー、VOR、CDIを液晶に一体表示する構想が同目録4及び5記載の商品と同等であることの確認を求める部分に係る訴えを却下する。
 当審における控訴人のその余の追加請求を棄却する。
 控訴費用(当審における追加請求につき生じたものを含む。)は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決中、700万円及びこれに対する平成11年9月9日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払請求を棄却した部分を取り消す。
(2) 被控訴人は、控訴人に対し、700万円及びこれに対する平成11年9月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(3) 仮執行の宣言
2 当審における控訴人の請求の追加
(1) 被控訴人、その社員、役員は、原判決(別紙1)目録1及び2記載の商品を販売する場合は、控訴人を通さなくてはならない。
(2) 被控訴人、その社員、役員は、原判決(別紙1)物件目録3ないし5記載の商品の類似商品又は仕様を変えた商品を開発、製造及び販売をしてはならない。
(3) 被控訴人、その社員、役員は、原判決(別紙1)物件目録4及び5記載の商品のローカライザー、VOR、OBS、CDIをマイコンを使用して一体表示する構想並びに技術情報を使用又は開示してはならない。
(4) 被控訴人は、原判決(別紙1)物件目録1及び2記載の商品の製造又は販売を第三者に許可してはならない。
(5) 被控訴人は、原判決(別紙1)物件目録1及び2記載の商品の金型を第三者に売却し、又は使用させてはならない。
(6) 被控訴人、その社員、役員は、スポーツマンズマーケット社と直接又は間接を問わず、取引をする場合は、控訴人を通さなくてはならない。
(7) 原判決(別紙1)物件目録1記載の商品のローカライザー、VOR、CDIを液晶に一体表示する構想は、同目録4及び5記載の商品と同等であることを確認する。
(8) 仮執行の宣言
第2 事案の概要
1 控訴人は、原審において、控訴人から本件各商品(原判決(別紙1)物件目録3ないし7の商品)の開発、製作等を請け負った被控訴人が被控訴人各商品(同目録1及び2の商品)を開発、製造、販売したことにつき、(1) 被控訴人が控訴人と被控訴人との間の約定に違反した、(2) 被控訴人が控訴人のコンピュータープログラムに係るプログラム著作物の著作権を侵害した、(3) 被控訴人が控訴人の営業秘密を侵害したと主張して、被控訴人に対し、本件各商品に係る損害金119億2723万1126円の一部である3億円及びこれに対する平成11年9月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
 原判決は、控訴人の請求を全て棄却したので、これに対し、控訴人が、700万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で、原判決を不服として控訴をしたものである。控訴人は、当審において、上記金員(金額等は全く同じ)の支払請求につき、不法行為に基づく損害賠償請求を追加するとともに、上記第1の2(1)ないし(7)記載の差止め等の請求を追加した。
 なお、控訴人は、控訴人がした文書提出命令の申立て(さいたま地方裁判所平成11年(モ)第2567号、平成15年(モ)第827号)について、原審が却下したことに対し不服を申し立て、また、控訴人がした受命裁判官の措置等に対する異議について、原審が却下したことに対し不服を申し立て、さらに、当審において、文書提出命令の申立て(当庁平成16年(ウ)第555号)をした。
2 当事者の主張は、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する(なお、控訴人は、当審において追加した請求の原因として、従前の主張を援用した。)。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の請求は、当審で追加したもの(ただし、第1の2(7)記載の請求を除く。)を含めて理由がないと判断する。その理由は、2において、当審における控訴人の主張等に対する判断を付加するほかは、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の主張等に対する判断
(1) 当審における控訴人の主張について
ア 控訴人は、被控訴人が、甲15、76、64、71及び85に係る各契約に違反して、直接又は間接を問わず、マーケット社からのいかなる引合いも控訴人に連絡し、控訴人を通して取引をしなければならないのに、被控訴人各商品を直接マーケット社に販売した旨主張する。
 被控訴人が甲15、76、64及び85に係る各契約に違反したものでないことは、原判決の該当項(27頁10行目から29頁9行目まで)に記載のとおりである。また、証拠(甲71、原審証人Aの証言)によれば、甲71(平成元年3月22日付「ORDER」と題する書面)は、控訴人からテスコム株式会社(被控訴人)に対する本件商品3及びアルカリバッテリーケースの注文書で、末尾にテスコム株式会社(被控訴人)の社判及び社印が押捺されているところ、同書面には、不動文字で商品及びその数量が記載され、手書きで「国内・海外全てをカバーしていますので1台でも国内・外を問わず引合のあるときは、数量や相手先を問わず当方への発注として下さい。」と記載されていること、被控訴人担当者Aは、控訴人からの注文を受けたことを明らかにする趣旨で、上記書面に、手書きで「上記の通り注文をお請けいたしました。」と記載し、その下にテスコム株式会社(被控訴人)の社判及び社印を押捺したことが認められる。以上の事実によると、控訴人と被控訴人との間に、控訴人が主張するような合意が成立したと認めることはできない。そうであれば、被控訴人が甲71に係る契約に違反したということはできない。
 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
イ 控訴人は、被控訴人が、甲17に係る守秘義務契約に違反して、本件商品3の類似品である被控訴人商品1を販売することにより、ローカライザーを除く本件商品3の仕様(デザイン、142.975Mhzまでの周波数の延長、VOR、操作方法、電器仕様等)や営業情報(販売先、販売ルート)を一般人や外注先、新聞社及び他の商社の従業員に漏洩した旨主張する。
 控訴人の上記主張は、被控訴人商品1が本件商品3の類似品であることを前提とするものであるが、被控訴人商品1が本件商品3の類似品であると認めることができないことは、原判決の該当項(26頁6行目から18行目まで)に記載のとおりである。したがって、控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであって、採用することができない。
ウ 控訴人は、被控訴人が、甲56に係る類似品の開発禁止条項に違反して、甲56に係る契約が終了していないのに、平成6年3月10日にはマーケット社向けに本件商品6の類似品である被控訴人商品2の開発に着手した旨主張する。
 被控訴人商品2が本件商品6の類似品であることを認めるに足りる証拠はない上、引用した原判決の理由説示のとおり、甲56に係る契約は平成6年8月ころに終了したところ、被控訴人は、その後の平成8年ころに被控訴人商品2の開発に着手しているのである(25頁18、19行目、19頁11行目)。
 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
エ 控訴人は、控訴人の指示書がない限り金型を廃棄してはならないのに、被控訴人がこれを廃棄した旨主張する。
 控訴人は、上記主張をするとともに、甲188を援用する。甲188は、控訴人からジャルデータ通信株式会社のB専務取締役に宛てた「金型類」と題する書面であって、「1994年3月9日郵送」と記載された上、「金型類は返却をせず引き続き責任を持って保管下さい。さもないと当社は、2億円以上の損害賠償を請求せざるを得なくなります。いずれにせよ今、金型を移動して頂くような状況ではなく、永久というわけではありませんので、当方の指示書のあるまでお預かり下さい。」と記載されていることが認められる。しかし、甲188は、上述したように、控訴人が被控訴人に対し一方的に送付した書面であって、同書から直ちに、被控訴人が、控訴人に対し、控訴人の指示書がない限り金型を廃棄しない旨を約したと認めることはできないし、引用した原判決の理由説示のとおり、被控訴人と控訴人との間の本件商品5ないし7の取引は平成6年には途絶え、その後平成8年ころ被控訴人が控訴人に対して金型の処理方法について問い合わせ、控訴人からの指示がない場合には廃棄処分する旨通知したところ、控訴人からは何らの指示がなかったというのである(29頁14ないし18行目)から、被控訴人が金型を廃棄したことが違法であるということはできない。
 控訴人の上記主張は、採用することができない。
オ 控訴人は、被控訴人商品1が本件商品3及び5のソフトウェアプログラムを使用したものであって、このことは甲157及び199からも明らかである旨主張する。
 甲157は、株式会社浦和技研が作成した「鑑定書」と題する書面で、被控訴人商品1と本件商品5とを比較したものであるところ、これには、「開発者が同じなら(たとえプログラマーが別でも)ソフトプログラムの基本設計に携わっており、又プログラム資料にアクセスしています。CPUが同等品でソフトの互換性があり、同じ回路構成で製品の使用目的が同じで、液晶面への表示方法も同等の為、コンピュータプログラムも真似をしたのは明白です。」と記載されていることが認められ、また、甲199は、株式会社ノーベルエレクトロンが作成した「陳述書」と題する書面で、これには、「JD−200(被控訴人商品1)・・・は、TW300−1(本件商品5)の特徴であるローカライザー、VOR(OBS)、CDI(・・・)を液晶に、デジタル的に一体表示する構想を使用しています。同一の設計思想で、表示方法、基本回路、基本CPU回路は同等と考えます。・・・JD−200(被控訴人商品1)は、TW300−1(本件商品5)の回路図や他の技術資料、技術成果、アイデア、特殊演算式、ソフト等を使用、又は真似をしていると考えられます。」、「JD−200(被控訴人商品1)はATC−720XNU(本件商品3)と同等品です。ローカライザー、CDI以外はバッテリーボックスは互換出来、デザインは類似しており、仕様は同じです。」と記載されていることが認められる。しかし、上記各記載は、いわば結論のみを断定的に述べるのみで、その推論過程や根拠が具体的に格別言及されておらず、書面の記載自体からその信頼性を検討することができず、証拠価値を肯認しえないから、控訴人の主張を裏付けるものということはできない。そして、他に被控訴人商品1が本件商品3及び5のソフトウェアプログラムを使用したものであることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
カ 控訴人は、被控訴人が、本件商品3のキーボードの回りの縦線やスピーカーグリルの横線等の特徴をまねた被控訴人各商品を販売し、本件商品3の知名度を利用して控訴人の商品又は営業と混同を生じさせた旨主張する。
 本件商品3のキーボードの回りの縦線やスピーカーグリルの横線等が控訴人の商品又は営業の表示として「需要者の間に広く認識されている」(不正競争防止法2条1号)ことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人の上記主張は、採用することができない。
キ 控訴人は、被控訴人が、被控訴人各商品をマーケット社に販売することをテクノブロードに許可したことにより、被控訴人各商品を通じて本件各商品に係る情報を提供した旨主張する。
 控訴人の上記主張は、被控訴人各商品が本件各商品と同一又は類似するなど、被控訴人各商品自体に本件各商品に係る情報が含まれていることを前提とするものであるが、被控訴人各商品が本件各商品と同一又は類似することを認めるに足りる証拠はなく、その他被控訴人各商品自体に本件各商品に係る情報が含まれていることを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、控訴人の上記主張は、その前提を欠くものであって、採用することはできない。
ク 控訴人は、その他るる主張して原判決の認定判断を非難するが、これらの控訴人の主張を採用することができないことは、主張自体から明らかであるほか、以上に説示(引用した原判決の理由説示を含む。)したところからも明らかである。
(2) 当審における控訴人の追加請求について
ア 不法行為に基づく損害賠償請求について
 控訴人は、不法行為に基づく損害賠償請求の原因として、従前の主張を援用するところ、上記請求が理由のないことは、引用した原判決の理由説示から明らかである。なお、被控訴人は、上記損害賠償請求の追加は、従前の経過その他の事情からすれば民訴法上許されない旨主張するが、控訴人は、その請求原因として従前の主張を援用するだけであって、請求の基礎に変更はない上、追加により著しく訴訟手続を遅滞させることとはならないから、民訴法上許されない請求の追加であるとはいえない。
イ 差止め等の請求について
 差止め等の請求のうち、第1の2(7)に係るものは、事実の確認を求めるものであって、不適法な訴えである。
 控訴人は、第1の2(7)に係る請求を除く差止め等の請求の原因として、従前の主張を援用するところ、上記請求が理由のないことは、上記判示(引用した原判決の理由説示を含む。)から明らかである。
(3) 原判決のした文書提出命令申立て却下決定について
 控訴人は、証拠調べの必要性があると主張するが、証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下した決定に対しては、その必要性があることを理由として不服の申立てをすることはできないと解するのが相当である上、本件記録及び本件訴訟の経緯からすれば、証拠調べの必要性はなかったものと認められる。
 したがって、控訴人の主張は、採用することができない。
(4) 原判決のした受命裁判官の措置等に対する異議却下決定について
 控訴人は、弁論準備手続における受命裁判官の措置が公正な手続に反していると主張するが、本件記録(関連事件の記録を含む。)及び本件訴訟の経緯からしても、受命裁判官の措置に違法をうかがわせるような点は見当たらない。
 したがって、控訴人の主張は、採用することができない。
(5) 控訴人の当審における文書提出命令の申立てについて
 控訴人は、当審において、第2回口頭弁論期日(この期日に弁論を終結した。)の平成16年4月21日に文書提出命令の申立て(平成16年(ウ)第555号)を行った。当裁判所は、第2回口頭弁論期日において、控訴人が提出命令を申し立てた文書の趣旨、立証事項等にかんがみ、もはや当該文書の取調べの必要性は明らかになかったことから、控訴人の同申立てを却下する趣旨も含めて弁論終結をした次第である。
(6) 控訴人の「中間判決の申立て」について
 控訴人は、当審において、度々中間判決をするよう当裁判所に申し入れた経緯があったので、以下、付言しておく。損害賠償を求める訴訟については、一般に、損害賠償責任の有無を判断する段階と、これが認められた場合に、損害を算定する段階とに分けることができ、最近における知的財産権の侵害訴訟では、責任の有無について判断する判決が増える傾向にあるといわれる。本件においても、責任の有無について判断できる主張立証が終了した段階で弁論を終結したものであるが、被控訴人に責任がないとの結論に至ったので、中間判決ではなく、終局判決になったものである。
 控訴人は、本件につき中間判決をするよう強く申し入れるのであるが、以上のような次第であるから、本件については中間判決はあり得ず、終局判決になったのである。
3 結論
 以上のとおり、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であって、控訴人の控訴は理由がないからこれを棄却すべきであり、また、当審における控訴人の追加請求のうち、第1の2(7)に係るものは不適法な訴えであるからこれを却下し、その余は理由がないから、これを棄却すべきである。

東京高等裁判所知的財産第4部
 裁判長裁判官 塚原朋一
 裁判官 塩月秀平
 裁判官 野輝久
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