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【事件名】請求書発行プログラムのライセンス契約事件
【年月日】平成16年6月18日
 東京地裁 平成14年(ワ)第15938号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成16年2月6日)

判決
原告 アイビックス株式会社
訴訟代理人弁護士 津山齊
訴訟復代理人弁護士 鈴木一
被告 エヌ・ティ・ティ・リース株式会社
訴訟代理人弁護士 大室俊三
被告 エヌ・ティ・ティ・コムウェア・ビリングソリューション株式会社
訴訟代理人弁護士 田淵智久
同 清水真


主文
1 被告エヌ・ティ・ティ・リース株式会社及び被告エヌ・ティ・ティ・コムウェア・ビリングソリューション株式会社は、原告に対し、連帯して1034万1270円及び被告エヌ・ティ・ティ・コムウェア・ビリングソリューション株式会社はこれに対する平成15年12月18日から、被告エヌ・ティ・ティ・リース株式会社はうち509万2386円に対する平成13年8月1日から、うち509万2386円に対する同年9月1日から、うち15万6498円に対する同年10月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その4を原告の、その余を被告らの各負担とする。
4 この判決の第1項は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 原告の請求
(1次的・2次的請求)
 被告らは、原告に対し、連帯して1億2891万2305円及びこれに対する平成13年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3次的請求)
1 被告エヌ・ティ・ティ・リース株式会社は、原告に対し、1億2053万4275円及びこれに対する平成15年9月5日(同被告に対する請求の追加に係る原告準備書面(3)陳述の日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告エヌ・ティ・ティ・コムウェア・ビリングソリューション株式会社は、原告に対し、2197万5815円及びこれに対する平成15年12月18日(請求拡張に係る原告準備書面(11)の同被告に対する送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 原告は、別紙著作物目録1ないし6、8及び9のプログラム(7は欠番)を作成した株式会社である。本件において、原告は、上記各プログラムについて著作権を有するとして、被告エヌ・ティ・ティ・リース株式会社(以下、「被告NTTリース」という。)は財団法人電気通信共済会(以下「訴外財団」という。)に対してのみ再使用許諾を行い得るという条件で、原告から上記各プログラム著作物の使用許諾を受けたにもかかわらず、原告に無断で被告エヌ・ティ・ティ・コムウェア・ビリングソリューション株式会社(以下「被告ビリングソリューション」という。)に使用許諾を行い、被告ビリングソリューションにこれらのプログラムを使用させたとして、次のとおり、1次的請求ないし3次的請求をしている。
@ 1次的請求
 被告らに対して、著作権(貸与権)侵害を理由とする損害賠償として、連帯して1億2891万2305円(及び年5分の遅延損害金)を支払うことを求める。
A 2次的請求
 被告NTTリースに対して使用許諾契約違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償として、被告ビリングソリューションに対して使用許諾契約に対する積極的債権侵害の不法行為に基づく損害賠償として、連帯して1億2891万2305円(及び年5分の遅延損害金)を支払うことを求める(なお、債務不履行に基づく損害賠償請求は、不法行為の要件も充足することから、民法719条1項に基づく共同不法行為として不真正連帯債務の関係に立つものである)。
B 3次的請求
 被告NTTリースに対して不当利得返還請求として1億2053万4275円(及び年5分の遅延損害金)を求めるとともに、被告ビリングソリューションに対して不当利得返還請求権として2197万5815円(及び年6分の遅延損害金)を支払うことを求める。
1 前提となる事実関係(証拠により認定した事実については、末尾に証拠を掲げた。)
(1) 当事者
ア 原告は、電子機器の設計、製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告NTTリースは、著作権及び工業所有権等の知的所有権の取得、賃貸借(リースを含む)、売買などを目的とする株式会社であり、いわゆるエヌ・ティ・ティグループ(以下「NTTグループ」という。)に属している。
ウ 被告ビリングソリューションは、エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社(以下「訴外コムウェア」という。)の100パーセント子会社であり、平成13年4月1日、訴外コムウェアから、同社のビジネスフォーム事業部において行っていた電話料金の請求書発行業務の営業全部について営業譲渡を受けたものである。
 なお、訴外コムウェアは、平成12年11月にエヌ・ティ・ティコミュニケーションウェア株式会社(以下「訴外NTTコミュニケーションウェア」という。)が商号変更した株式会社であるが、同社は日本電信電話株式会社の100パーセント子会社であり、平成9年9月1日に日本電信電話株式会社から、電気通信事業に係るソフトウェアの開発、製作、運用、電話料金の請求書発行業務等の同社のソフトウェア本部において遂行する営業全部について営業譲渡を受けたものである(弁論の全趣旨)。
エ 訴外財団は、電気通信利用者及び電気通信事業関係者の便益を図り、併せてNTT等の業務災害による退職者、永年勤続した退職者及びこれらの者の遺族並びに在職中死亡した役職員の遺族に対してその生活を援助するとともにNTT等の役職員の福利厚生を増進し、もって電気通信事業の健全な発展に寄与することを目的とする財団法人であり、収益事業としてNTT(日本電信電話株式会社のほか、東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の2社を含む。以下同じ。)からの委託により同社の料金請求事務を代行するなどの業務を行っていた。なお、訴外財団は「テルウェル」と通称されている(弁論の全趣旨)。
(2) 原告と被告NTTリースとの契約
 被告NTTリースは、別紙著作物目録1ないし6、8及び9の各プログラム(以下、同目録記載のプログラムを目録記載の番号に従って「本件プログラム1」などといい、これらのプログラムをまとめて「本件各プログラム」という。)について、それぞれ下記の日に、原告との間で、原告から使用権を取得することを内容とする契約(以下、これらの契約をまとめて「本件各使用権設定契約」という。)を締結した(甲1ないし6、8及び9、乙1ないし8。枝番を除く。以下同じ)。
@本件プログラム1 平成8年10月28日
A本件プログラム2 平成10年6月1日
B本件プログラム3 平成11年7月1日
C本件プログラム4 平成11年7月1日
D本件プログラム5 平成9年8月1日
E本件プログラム6 平成10年3月30日
F本件プログラム8 平成10年7月9日
G本件プログラム9 平成10年12月14日
 本件各使用権設定契約は、それぞれ、被告NTTリースが原告に対して「注文書」を交付し、原告が被告NTTリースに対して「注文請書」を提出することで締結されたが、この「注文書」及び「注文請書」(以下「注文書等」という。)には、物件の代金や目的物の引渡場所等定めが置かれているほか、これらの記載に続けて「条件」として以下の12項目が記載されている(乙1ないし8。以下、この1ないし12の条件をそれぞれ「第1項」ないし「第12項」という。)。
 「1 この契約のプログラム・プロダクト使用権(以下「使用権」という。)は、使用者の使用注文に基づき、使用者と使用権取得者間にて締結するリース契約の目的物件として発注されたものであることを確認します。
 2 使用権設定者は、プログラム・プロダクトの品質、性能、規格、仕様、納入条件等については、すべて使用者の使用目的に合致させることを使用権取得者および使用者に保証します。
 3 使用者が、理由の如何にかかわらず使用権取得者とリース契約を締結しなかった場合、もしくは締結しても検収をしなかった(借受証を交付しなかった)場合は、使用権取得者はこの契約を無条件で解除できるものとします。
 4 使用権設定者は、プログラム・プロダクトを直接、使用者に対し、納期打合せのうえ、上記引渡場所で引渡すものとし、使用権は使用者が検査を了し、使用者から使用権取得者に交付された借受証記載の借受日に、使用権取得者が取得するものとします。それ以前に発生した火災、盗難、滅失、損傷などの事故については、使用権設定者の責任とします。
 5 プログラム・プロダクトおよび使用権に関する瑕疵担保、品質保証、期限内保証、保守サービス、著作権、特許権、その他無体財産権の侵害の損害賠償、その他使用権設定者の便益の供与、義務の履行については、使用権設定者が使用者に対し、直接その責任を負います。
 6 リース期間中に発生したプログラム・プロダクトの火災、盗難、滅失、損傷などのために使用者がプログラム・プロダクトの複製を申し出たときは、使用権設定者は複製実費を使用者から申し受けることにより、プログラム・プロダクトを直ちに複製し、使用権設定契約者と使用者との間で了解した受渡方法にて直接、使用者に引渡すこととします。なお、複製ができないプログラム・プロダクトについては、別途、使用権設定者と使用権取得者、および使用者の三者間で協議するものとします。
 7 使用者の使用権の行使、債務不履行、もしくは不法行為により使用権設定者に損害が生じた場合においては、使用権取得者は使用権設定者に対し、一切の責任を負いません。
 8 この契約締結後の課税法規の変更による公課の増額、運賃、その他の諸掛りの増額等はすべて使用権設定者が負担し、契約金額を変更しません。
 9 使用権設定者がこの契約の一つにでも違反したときは、使用権取得者は催告を要しないで直ちに契約の全部または一部を解除することができます。
 10 使用権取得者は、使用者とのリース契約の継続が困難と認めたときは、使用権設定者と協議のうえプログラム・プロダクトの使用者を変更することができるものとします。
 11 天災、地変、争議、暴動、その他不可抗力または使用権取得者もしくは使用者の責めに帰することのできない事由によるこの契約の全部または一部の履行不能、遅滞については使用権取得者はその責に任じません。
 12 使用者と使用権取得者とのリース契約が終了したとき、または契約が解除されたときは、使用権も同時に消滅するものとします。」
(3) 被告NTTリースと訴外財団とのリース契約
 被告NTTリースは、原告との間で上記(2)の使用権設定契約が締結されたころに、本件各プログラムに関し、訴外財団に対してリース契約の形式により使用許諾した(以下、これらの契約をまとめて「本件各リース契約」といい、個別のリース契約を指すときは本件プログラム1に関するものを「本件1リース契約」などという。甲1ないし6、8及び9、乙1ないし8)
(4) 訴外財団から被告ビリングソリューションに対する権利義務の譲渡
 訴外財団、被告ビリングソリューション及び被告NTTリースは、平成13年6月30日、本件各リース契約を含む被告NTTリースと訴外財団間のリース契約に関する訴外財団の契約上の地位を被告ビリングソリューションに譲渡し、被告NTTリースはこれを承諾することを内容とする契約(以下「本件権利義務譲渡契約」という。)を締結した。(乙9、弁論の全趣旨)。
2 争点及び当事者の主張
(1) 本件各プログラムに著作物性が認められるか(争点(1))
(原告の主張)
ア 本件各プログラムの特徴
(ア) 原告の製造、販売する製品は、@ハードウェア、A基盤プログラム、Bアプリケーションプログラム(以下「アプリ」という。)からなる製品である。このうち、基盤プログラムは、原告が約7年間の時間と5億円以上の工数を費やして独自に開発したOSである。
 原告は、ハードウェア及び基盤プログラムをセットにして多数の納入先に有償リースしている。その際、リース契約上のリース物件はハードウェアのみであり、基盤プログラムは、アプリの有償ライセンスを円滑にする関係で、サービスとして敢えて無償で納入先に使用させてきた。
 それとは別に、原告は、各納入先からの依頼に応じ、基盤プログラム上で動作するアプリを独自に開発している。このアプリについては、ハードウェア及び基盤プログラムとは異なり、著作物の有償ライセンスという形式で、納入先に使用させている。すなわち、各納入先は、ハードウェア及びアプリに対してのみ支払い、基盤プログラムは無償で使用することになる。
 原告は、NTTグループ側からの依頼に応じ、約2年間の時間と3億円以上の工数を費やして、アプリとして本件各プログラムである「NTTアプリケーション」を開発した。
(イ) 本件各プログラムは、あるフォーマットで記録されている情報を、別のフォーマットに変換するために利用する、ファイル形式変換ソフトウェアである。
 フォーマットとは、コンピュータで扱う情報を保存する際の形式を意味するところ、その形式は、使用するOSの種類やバージョンによって千差万別である。そのため、通常は、あるOSにおいて利用するフォーマットで記録された情報を、フォーマットの異なるOSにおいて利用することはできない。本件各プログラムは、フォーマットの異なるOSにおいても情報を利用できるよう、フォーマットを変換するためのプログラムである。
 フォーマットの変換においては、変換前のフォーマットと、変換後のフォーマットとの組合せの数だけ、変換のバリエーションが存在し得る。しかし本件各プログラムは、変換の対象となる情報を入出力する部分(いわゆるインターフェース部分)をカスタマイズしさえすれば、あらゆるフォーマット間の変換に対応することができるものである。
 そうして、世の中には様々な種類のOSが普及しており、その規格が標準化されていない以上、情報のやりとりを円滑にするためには、本件各プログラムのようなフォーマット変換ソフトが必要かつ有益なのである。したがって、本件各プログラムは無償ライセンスされている基盤プログラムと一体となって機能し、フォーマット変換を必要とするあらゆる者の需要に応えるもので、汎用性も有する。
イ 創作性を有することについて 
 フォーマットはOSの種類ごとに異なるところ、個々のOSのソースプログラムが開示されていれば、当該OSに対応したフォーマットを知ることは困難ではないが、ソースプログラムが開示されていないOSの場合には、当該OSにおけるフォーマットを知るためには、気の遠くなるような膨大な作業が要求される。
 原告は、あるフォーマットで記録された情報を変換装置に入力した場合に、それがどのような形式で出力されるかという地道な試験を繰り返してデータを蓄積し、その蓄積を基にして本件各プログラムを開発したのである。このような試行錯誤も含めて、原告が本件各プログラムを開発するには、7年以上の期間と、約5億円以上の費用がかかってる。
ウ 以上より、本件各プログラムは創作性を有するものであり、その著作権者は原告である。原告が本件各プログラムのソースコードを保有していることは、その証左であるし、被告らも、本件著作物の著作物性及び原告が著作権者であることを認めたからこそ、原告から有償にて使用許諾を受けたのである。
(被告らの主張)
 著作物性に関する原告の主張は争う。
 本件各プログラムは、電子データを光磁気ディスク又はフロッピーディスク内のデータに変換し、そのディスクにラベルを貼り、送付状を作成するという作業のためのごくありふれた内容のプログラムにすぎない。したがって開発のために原告が主張するような試行錯誤を要するものではないし、創作性を有するものともいえない。したがって本件各プログラムは著作権法にいう「著作物」に該当しないというべきである。
(2) 被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの使用は、本件各使用権設定契約による原告の許諾の範囲内であったか。
(原告の主張)
ア 原告と被告NTTリースとの間の本件各使用権設定契約によって設定された本件各プログラムに関する使用権は、被告NTTリースが訴外財団に対してリース(サブライセンス)することを唯一の利用目的として設定されたものである。
 そもそも、著作物のライセンス契約とは、著作権者にのみ認められた著作物に対する排他的かつ独占的支配を特定の法主体に対してのみ例外的に解除することを意味する。本件各使用権設定契約においては、訴外財団が唯一の使用者であることが、排他的かつ独占的支配の部分的解除の本質であった。このことは、本件各使用権設定契約の第1項の規定からも明らかである。
 しかるに、訴外財団は、本件権利義務譲渡契約により本件著作物の使用権を原告に無断で被告ビリングソリューションに承継させ、被告NTTリースは何らの権限なくこれを許諾した。これが本件各使用権設定契約に基づく使用許諾の範囲を超えることは明らかである。
イ また、本件における訴外財団から被告ビリングソリューションへの使用者の変更は、単に形式的に使用者が変更になったというのみならず、使用態様の大幅な変更を伴うものであり、この点からも許諾の範囲を超えることは明らかである。
 すなわち、そもそもビリング業務(請求書作製・発送業務)は営利を目的として活動する企業にとって不可欠な業務であり、ビリング業務を専門的に扱う被告ビリングソリューションの取引相手は極めて広範囲に及んでいる。現実に、訴外財団が手がけていた請求書発行事務はNTTのものだけであったのに対し、被告ビリングソリューションは、NTT以外にも多数の企業の請求書発行事務を手がけている。そのため被告ビリングソリューションが本件各プログラムの使用者となることによって、本件各プログラムがNTT以外の企業の請求書発行事務にも使用される蓋然性が極めて高くなる。このような両者の扱うビリング業務の範囲の違いは、使用態様にも当然変更をもたらすものである。
 また、本件各プログラムは、インターフェース部分のわずかなカスタマイズによって多様な組合せのフォーマット変換を可能とする極めて汎用性の高いプログラムであり、ビリング業務においても高度の有用性が認められる。
 これらの点を勘案すれば、訴外財団から被告ビリングソリューションへの本件各プログラムの使用者の変更は、本件各プログラムの使用態様に大幅な変更をもたらすものであり、本件各使用権設定契約による許諾の範囲を超えることは、この点からも明らかというべきである。
(被告らの主張)
ア 訴外財団から被告ビリングソリューションへの承継は、本件各使用権設定契約にいう「使用者の変更」に当たらない。
(ア) 本件各プロクラムは、専らNTTの請求書発行事務の用に供するために製作されたものである。
 原告は、当初はNTTソフトウェア本部からの依頼により本件プログラム1の製作に関する注文を受けてこれを開発し、その後製作したプログラム2以降のプログラムについては、同本部が分離独立した訴外コムウェアらの注文を受けて開発した。これらのプログラムは、各地のNTTの料金センタ内に設置されたハードウェアにインストールされ、NTT料金請求書発行事務のため使用されていた。NTTの料金請求書発行事務は、従来から訴外財団が受託していたが(委託者は、当初はNTTソフトウエア本部、後には訴外コムウェア、さらには被告ビリングソリューション)、訴外財団は、これを東北通信ビジネス株式会社などの協力会社(以下、単に「協力会社」という。)に再委託し、自らは各料金センタに2名程度の要員を配して協力会社の業務の管理等にあたっていた。そのため、本件各プログラムがインストールされたハードウェアを現実に作動させていたのは、これらの協力会社であった。
(イ) そして、原告は上記のような本件各プログラムの使用実態を熟知していた。
 原告は、本件各プログラムの開発に当たって、NTTの料金請求書発行事務を訴外財団に対して委託していたNTTソフトウェア本部、後には訴外コムウェア、さらに被告ビリングソリューション等と協議しながらこれを行っていた。原告に対するプログラムの発注者も形式的には訴外財団(あるいは被告NTTリース)であるが、実質的には、訴外財団に対してNTTの料金請求書発行事務を委託していたNTTソフトウェア本部などだった。そのため、原告が作成した開発費の見積書の提出先も、訴外財団と財団に発注するNTTソフトウェア本部等とを区別していなかったし、代金の交渉なども訴外コムウェアとの間で行っていた。
 また、原告は、本件各プログラムについて、訴外財団との間でメンテナンス契約を締結しており、メンテナンスのため随時料金センタを訪れて保守に当たっていたのであり、上記(ア)の使用実態を熟知していた。原告自身、プログラム開発状況の報告を被告ビリングソリューションの前身である訴外コムウェアに対して行っていた。
 上記のとおり、原告は、NTTの料金請求書発行事務に携わるNTT関連企業を特段区別することなく、プログラム等の開発のための打合せをNTTソフトウェア本部及び訴外コムウェア等と行い、訴外コムウェアとの間で価格を決定し、NTT及び訴外コムウェアを宛先として見積書を提示している。また、保守対応や故障対応などシステム運用における具体的な対応においても、これらNTT関連企業を特に区別することなく対応しているのである。すなわち、原告自身が、本件各プログラムの運用に関わる者が訴外財団に限られないことを認めていたのである。
 こうした原告の現実の行動に照らし、原告は、NTT関連企業等と一連の取引をしているという認識であったことは明らかである。 
(ウ) 本件各使用権設定契約は、上記(ア)(イ)の使用実態を前提に締結されたものである。しかも、本件各ソフトウェアは、従前と同じNTT料金センタ内で、同様の目的で使用され、何らの複製も伴わずに、同一のハードウェア上で使用され続けていたのである。しかも現実に作業に当たっていたのは、訴外財団から転籍してきた被告ビリングソリューションの従業員及び従来と同じ協力企業の従業員である。
 当事者の認識及び現実の使用実態に変更がないことに照らせば、本件各プログラムの使用者を訴外財団から被告ビリングソリューションに変更することは、実質的な使用者の変更に当たらないというべきである。
イ 原告は、NTT関連会社・協力会社が本件各プログラムを使用することを黙示的に許諾していた。
(ア) 本件各プログラムは、NTTの料金請求書の発行業務という外形的にはNTTの業務の一工程で使用されるものであり、NTT作成の開発仕様に基づき訴外コムウェアが発注主管となって原告に発注された。この点は、NTT、訴外財団、訴外コムウェアの担当者のほか、原告代表者も参加して行われた平成10年9月2日の打合せにおいて確認されたものである。本来、本件各プログラムの使用者が訴外財団に限定されるのであれば、使用権限を持つ余地のない訴外コムウェアが発注主管となることは不自然である。それにもかかわらず。訴外財団ではなく、訴外コムウェアが発注主管となることが原告代表者も含めて了承されたことは、本件各プログラムが訴外コムウェアの統括の下で使用されることを、関係者一同が共通して認識していたことを示すものである。
(イ) 原告に対する発注は形式的には訴外財団によりなされていたが、上記のように訴外コムウェアが発注主管となるとの合意があったことから、発注金額の交渉なども原告と訴外コムウェアとの間でなされていた。リース契約にあっては、対象物の価格決定は、ユーザとサプライヤとの間で協議し決定されるところ、本件にあってこれらに関する原告との協議を行っていたのは、当初はNTTであり、訴外コムウェア設立後は同社である。
 乙39ないし41をみると、原告自身が本件各プログラムの納入に関する交渉の相手方を訴外コムウェアあるいはNTTとみていたことは、明らかである。
(ウ) また、本件各プログラムの保守等に関する契約は、訴外財団と原告との間で締結されていたが、この契約に基づく原告に対する作業の指示や保守契約の見直しのための原告との交渉は、訴外コムウェアが行っていた。
 乙42号証は、原告と訴外財団との間の保守契約に関し、原告が問題点と解決策を提示して契約の見直しを求めた書面であるが、その宛先は訴外財団ではなく訴外コムウェアである。しかも、書面の宛先が訴外コムウェアだというだけでなく、ここには「指示自体は内容が分かっているコムウェア殿からくる」との記載もある。この記載からして、原告に対する作業の指示が訴外コムウェアによりなされていること、また、本件各プログラムの内容を分かっているのが訴外コムウェアであるとの認識を原告が持っていることが明らかとなる。しかも「現在は、運用を管理されている大阪(A氏)の個軍奮闘の訴えを聞き、ibixで緊急出動している状況」との記載さえある。ここにある「大阪(A氏)」とは、乙41号証の送信先に「NTTコムウェア(A様)」とあることからも明らかなように、コムウェアのことである。すなわち、本件各プログラムの運用を管理しているのが訴外コムウェアであることを原告は熟知しており、そのことについて特段の異議を述べておらず了解していることを示しているのである。
 平成11年6月21日にも、原告は「F転の高速化並びに二重化についてのご提案」なる書面を作成して本件各プログラムの改良方を提案しているが、その宛先も、訴外財団ではなく訴外コムウェアである。
 原告は、本件各プログラムの保守・改良に関し、訴外コムウェアと協議していたのであり、このことからも本件各プログラムの運用管理を訴外コムウェアが行うことを原告が了解していたことは明らかである。
(エ) さらに、被告NTTリースが、原告に対して支払った費用の性格からも、原告が使用者を限定する意思を有していなかったものと理解される。
 原告がNTTに対して提出した本件プログラム1に関する見積書(乙37)には、使用の期間、使用数、使用者の氏名などは一切記載されておらず、原告自身、この見積書に記載された金額が使用の対価であるとの認識を有していなかったことは明らかである。
 原告が、訴外NTTコミュニケーションウェアに対して提出した本件プログラム6に関する見積書(乙38の1)においても、月額使用料や使用期間は定められていないし、同様に、原告が、訴外財団に対して提出した本件プログラム3に関する見積書(乙40の1ないし4)においても、同見積書に記載された金額が、プログラム開発のための請負金額であることは明らかである。
 これらの原告が請求し、受領した金員の性格からしても、原告は、適正な利潤も含め開発費全額を既に受領していることは明らかである。してみれば、これを使用者に引き渡した後には、複製することなく当該ソフトウェアを当初インストールされたハードウェア上で使用する限り、NTTの料金請求書発行事務に携わるNTT、訴外コムウェアあるいは訴外財団のいずれが使用するのかについて特段の関心を有しておらず、原告において使用者を限定する意思を有していなかったことが明らかである。
(オ) 上記のような各事実からすれば、原告が本件各プログラムの使用者を訴外財団にのみ限っていたものではなく、訴外コムウェア等、NTTの料金請求書発行業務という本件各プログラムの使用目的に携わるNTTの関連団体あるいは協力会社の使用も黙示的に許諾していたというべきである。
ウ そもそも、プログラム・プロダクトのファイナンスリース契約である本件各リース契約において、ユーザである使用者の変更につき原告の個別の承諾は不要である。
(ア) 一般に、ファイナンスリース契約では、ユーザがサプライヤとの間で合意した条件に従ってリース会社がサプライヤからリースの目的物を取得し、これをユーザに使用させ、リース会社は、負担した取得価格に期間中の金利等を加えた額のリース料をユーザから分割で受領し、これにより投下した資金を回収することになる。
 法形式的には、リース会社とサプライヤとの間の契約は売買(一般の動産のリースの場合)であり、リース会社とユーザとの間の契約は賃貸借に類似した面を持つ無名契約ということになるが、実質的にとらえれば、リース会社のユーザに対する金融であり、リースの目的物は、ユーザに対する債権の担保の実質を有している。すなわち、ユーザが倒産等によりリース料の支払いができなくなった場合、リース会社は、リースの目的物を処分しあるいは新たなユーザにリースすることができることは、ファイナンスリースにとって極めて重要な要請なのである。
(イ) ファイナンスリースにおける以上の仕組みは、コンピュータプログラムを目的とするプログラム・プロダクトリース契約の場合でも基本的には同様であるのであって、動産を目的物とする一般のファイナンスリースの場合、リース会社は動産所有権をユーザに代わって取得するのに対し、コンピュータプログラムを目的とするファイナンスリースにあっては、リース会社はコンピュータプログラムの「使用権」を取得する。この点で両者は異なるが、いずれもその実質が金融にあることは同一である。すなわち、プログラム・プロダクトに関するリースであっても、経済的にはユーザに対する金融であり、リース会社(使用権取得者)が取得した権利は担保の性質を有し、ユーザの倒産等の場合には、リース目的物を利用して(換価あるいは他の者へリースを承継させる)、投下資金の回収を図ることが予定されているのである。
 そのため、プログラム・プロダクトリース契約のためサプライヤ(使用権設定者)と締結する使用権設定契約においても、一般に、使用者とのリース契約の継続が困難となったときには、使用者の変更ができることを、サプライヤたる使用権設定者は、あらかじめ承諾しあるいは承諾することが義務づけられているのである。
(ウ) リースの目的物であるプログラムが、リース契約のユーザ(プログラムの使用者)のために作成された汎用性のないものである場合、当該ソフトウェアは、そのリース取引以外では使用されないため、使用権設定者(サプライヤ=リース目的物の提供者)は、当該プログラムの開発費をリース会社に対する使用権設定の対価として一括して受領することになる。したがって、サプライヤは、当該ソフトウェアの提供による利益を既に得ているのであり、リース契約の中途でリース契約上の使用者が変更されても通常何らの不利益も被らない。
 また、汎用性のあるプログラムの場合であっても、サプライヤは当該プログラムのリース期間中の使用料相当額は既に全額リース会社から一括して受領しているのであり、プログラムが複製され複数のユーザに使用させるといったものでない限り、リース契約上の使用者が変更されても何らの損害も生じない。
(エ) この点、本件各リース契約も、@リース期間中ユーザからの契約解除ができないこと(本件各リース契約第2条)、A目的物の引渡しがユーザとサプライヤとの間でなされリース会社たる被告NTTリースは書面(借受書)を受け取ることにより確認するだけとなっていること(同第5条)、B借受書交付後は物件の瑕疵等についてリース会社は責任を負わないこと(同第5条3項)のほか、Cリース会社たる被告NTTリースがサプライヤたる原告に支払った使用権取得の対価に金利等を加えた額を前提にリース料が定められ、リース契約が解除となったときには残存リース料全額に相当する額が損害金として約定されていること(同第18条)などからして、ファイナンスリースであることは明らかである。
 ファイナンスリースの場合、リース契約の継続が困難となるような場合には、リース物件を他に転売あるいはリースして投下した資金の回収を図れるようにする必要がある。一般の動産のリースの場合であれば、リース会社は動産所有権を取得しているため特段の条項を必要としないが、コンピュータプログラムの場合には、取得するのがプログラム著作物の「使用権」とされていることから、使用権設定者たるサプライヤとの調整条項が必要となる。そのため、設けられた規定が本件各使用許諾契約の第10項である。
 上記第10項は「使用権取得者は、使用者とのリース契約の継続が困難と認めたときは、使用権設定者と協議のうえプログラム・プロダクトの使用者を変更することができるものとします」と定めている。この条項の趣旨は、他のリース会社と同様、従前の使用者とのリース契約の継続が困難となった場合には、リース会社において使用者を変更することができることを定めたものであり、その際原告の個別の承諾を要しないことは、この条項に承諾を要することが記載されていないことからも明白である。確かに、同条は、使用者の変更に当たっては使用権設定者と協議を行う旨を定めているが、これは、使用権設定者は使用者に対し直接瑕疵担保責任・品質保証等の責を負うものとされている(第5項)ことから、使用権設定者の不知の間に使用者が変更されることによる混乱を避け、あるいは複製をするなど濫用的な使用者の変更の場合に対処する機会を与えるための手続規定であり、原告に何らの損害も生じさせる余地のない使用者の変更の場合に、協議を経ない限り使用者の変更ができないことまでをも意味するものではない。本件においては、原告は、被告NTTリースから本件各プログラムのリース期間中の使用権設定の対価は、全額受領済みであり、同一のリース契約についてユーザが変更されても原告には特段の損害が生じる余地はない。
(オ) 上記イにおいて述べたとおり、訴外財団から被告ビリングソリューションへの使用者の承継は、上記本件各使用権設定契約第10項に定める使用者の変更に当たらないものであるが、仮に、使用者の変更に当たるとしても、以上述べてきた事情からすれば、原告との協議が必須であるとはいえないというべきである。      
(原告の再反論)
ア 訴外財団から被告ビリングソリューションへの承継は、本件各使用権設定契約にいう「使用者の変更」に当たらないとの主張について
(ア) 被告らは、本件各プログラムの使用者を訴外財団から被告ビリングソリューションに変更したことは実質的な使用者の変更には当たらないと主張する。
 しかし、訴外財団と被告ビリングソリューションとが法人格を異にしているという点については、被告らも認めている。そうして、法人格を異にする主体が新たに使用者となっているにもかかわらず、使用者の実質的な変更には当たらないとの主張をすることは、使用権の承継者及び被承継者間において実質的に法人格が融合しているとの主張をするに等しい。しかし、そのような主張・立証は何らなされていない。
 また、仮に、訴外財団から被告ビリングソリューションへの使用者の変更が実質的な変更に当たらないのであれば、わざわざ、本件権利義務譲渡契約を締結する必要はなかったはずである。本件権利義務譲渡契約においては、被告NTTリースとの間における訴外財団のリース契約上の地位を、被告ビリングソリューションに対して譲渡し、訴外財団は当該リース契約関係から脱退することが明記されている。このような契約の存在に照らすならば、被告らにおいて、本件各プログラムの使用者の実質的な変更を行うとの認識を有していたことは明らかである。
イ 原告は、NTT関連会社・協力会社が本件各プログラムを使用することを黙示的に許諾していたとの主張について
(ア) まず、被告らは、訴外財団が協力会社に対して請求書発行事務を再委託していたことを原告は熟知しており、そのことから、原告が本件各プログラムの使用者を訴外財団に限定しないことを黙認していたことは明らかであると主張する。
 しかし、本件各使用権設定契約においては、協力会社に対する再委託のことはまったく定められていない。また、訴外財団が履行補助者として協力会社に作業をさせていたとしても、それが契約の本旨に反するものでなければ、そもそも原告が容喙できることではない。そうである以上、原告において訴外財団が履行補助者たる協力会社に業務を再委託していた事実を認識していたとしても、そのことから当然に原告が本件各プログラムの使用を訴外財団以外の主体に対して許諾していたということにはならない。
(イ) また、被告らは、@原告が本件各プログラムの使用についてNTTや訴外コムウェアと協議をしていたことや、A原告がNTT及び訴外コムウェアに対し見積書を送ったことをもって本件各プログラムの実質上の注文者はNTTであったと主張する。
 しかし、上記@について、本件各プログラムの製作者かつライセンサーである原告が、ライセンシーたる訴外財団に請求書発行事務を委託していたNTTまたは訴外コムウェアと本件各プログラムの仕様等について協議することは不可欠なことであった。なぜなら、直接の契約者たる訴外財団の依頼の趣旨に合致したプログラムを提供するためには、訴外財団がその客先であるNTTなどから受けた委託内容について正確に把握する必要があった。そのためには、NTTなどと直接協議をすることが最も確実な方法であり、そのような協議をなすことは必要不可欠だったのである。このように、直接の契約当事者の依頼に応ずるために直接契約関係にない主体と協議することは、日常的に行われていることであり、何ら不自然なことではない。
 また、Aについても、本件各プログラムの導入に伴う支出は、NTTが実質的な費用負担者である可能性もある。そのような可能性を考慮し、NTTや訴外コムウェアに対して直接見積書を送り、支出総額について前もって知らせておくことは、本件各プログラムの導入による請求書発行事務のスキームを実現する上で至極自然かつ合理的なことというべきである。
(ウ) また、被告らは、原告が見積書に記載し、被告NTTリースが原告に対して支払った費用は本件各プログラムの開発費全額に相当するものであり、原告にはそもそも使用者を限定する意図はなかった旨の主張をする。しかしながら、現に原告が本件各プログラムのソースコードを保有していることからも明らかなとおり、被告NTTリースが原告に対して支払った費用が開発費の全額であることは、およそ経験則上有り得ない。
(3) 被告らによる著作権侵害(貸与権侵害、複製権侵害、譲渡権侵害)が成立するか。
(原告の主張)
ア 貸与権侵害
(ア) 被告NTTリースは、原告から貸与を禁止されているにもかかわらず、本件各プログラムの複製物を、公衆にリース(貸与)した。すなわち、被告NTTリースは、被告ビリングソリューションに使用許諾したものである。被告ビリングソリューションは、訴外財団とは独立した法人であり、不特定人である。また、被告ビリングソリューションに使用許諾した以上、NTTグループ内で被告ビリングソリューション以外の多数人にも貸与しているものと窺われる。要するに、被告ビリングソリューションへの貸与は、氷山の一角であって、その背後には多数人への使用許諾が存するものと考えられる。被告NTTリースのこのような貸与行為は、原告の貸与権(著作権法26条の3)を侵害するものである。
(イ) 被告らは、被告NTTリースによる被告ビリングソリューションへのリースは「公衆」への本件各プログラムの複製物の貸与に当たらないと主張する。しかしながら、被告NTTリースが、被告ビリングソリューション以外の者にも本件各プログラムの複製物を貸与していたことは、被告NTTリースが東北通信ビジネス株式会社(以下「東北通信」という。)及びテルウェル西日本株式会社(以下「テルウェル西日本」という。)とも本件各プログラムに関するリース契約の解除合意をしていることから明らかである。被告ビリングソリューションに対する本件各プログラムの複製物の貸与行為は、不特定の公衆に対する貸与の徴表にほかならない。のみならず、被告NTTリースは、被告ビリングソリューションから解約前のリース料のほかに、中途解約損害金として9855万8460円を受け取っている(損害金は、リース契約に関する社会通念上、概ね将来のリース料相当額である。)。被告NTTリースは、不特定の者を対象とする営利行為の一環として、本件各プログラムを使用させていたのであり、それが「公衆」に対する貸与そのものであることは明らかである。
(ウ) また、本件において、貸与権侵害の要件を検討するに際しては、プログラム著作物の特殊性も考慮すべきである。
 そもそも、プログラム著作物の要保護性は、コーディングの表現それ自体よりも、それを「使用」して演算処理等をすることに重点が置かれるという点で、他の著作物とは異なる特殊性がある。プログラム著作物については、そのような使用を法的に保護することが著作権者の保護に資するのであるが、そのような規定が必ずしも十分には整備されていない現状においては、貸与権など既存の規定を合理的に解釈して、著作権者の権利を厚く保護すべきである。特に貸しレコードなどと比較して、単価が著しく高い本件各プログラムのごとき著作物については、「公衆」概念は、著作権者を手厚く保護する方向へ厳格に解釈されてしかるべきである。同法において「特定かつ少数の者」を明示的に排除していない以上、本件のような高額なプログラム著作物については、特定かつ少数の者に対する貸与であっても貸与権侵害を構成すると解すべきである。
 というのも、プログラム著作物の無断使用に対して著作権者が取り得る手段として、個別の使用許諾条項による債権的な保護しかあり得ないというのでは、プログラム著作物の著作権者の保護としては、著作権法の各規定は画餅に帰することになってしまう。なぜなら、あらかじめ無断使用する可能性のある者と、個別に使用許諾契約を締結することは不可能であるし、また、万が一無断使用される場合に備えて使用料(以下「ロイヤルティ」ともいう。)を高額に設定することも市場原理から不可能だからである。
(エ) 被告ビリングソリューションは、平成13年7月1日の本件権利義務譲渡契約の締結以前から本件各プログラムを無断使用していた可能性が極めて高い。また、それを粉飾することに加担した疑い(本件権利義務譲渡契約書の作成、多額の対価の支払い等)も強く持たれるところである。これらの事実から、被告ビリングソリューションは、原告と使用許諾契約を結ばずに本件各プログラムを使用することが、原告の著作権侵害になることを認識していたといわざるを得ない。
 したがって、被告NTTリースによる貸与権侵害行為については、被告ビリングソリューションも共同不法行為責任を負う。
イ 譲渡権侵害
 本件各リース契約には譲渡の要素も含まれているところ、被告NTTリースは、原告から著作物の譲渡を禁止されていたにもかかわらず、公衆に対して譲渡した。上記アにおいて主張したとおり、被告ビリングソリューションは公衆の一と解すべきであるし、同被告へのリースは本件各プログラムの複製物を同被告を含む多数人に譲渡したことの徴表となるものである。
 したがって、被告NTTリースによる被告ビリングソリューションに対するリースによる使用許諾は、原告の譲渡権(著作権法26条の2)を侵害するものであり、両被告は、原告に対して共同不法行為責任を負うものである。
ウ 複製権侵害
 原告が訴外財団の管理するハードウェアにインストールした本件各プログラム(あるいはハードウェアにプレインストールして提供した本件各プログラム)の複製物が単数であった以上、被告ビリングソリューションを含む公衆に提供するに当たっては、その複製行為が不可欠であったと考えられる。被告ビリングソリューションが原告に無断で本件各プログラムを使用した事実が明らかである以上、本件各プログラムの複製がなされたと考えるのが経験則上合理的かつ自然である。被告らは、原告から複製を禁止されていたにもかかわらず、このような複製行為に及んだものである。このような複製行為は、原告の複製権(著作権法21条)を侵害するものであり、両被告は、原告に対して共同不法行為責任を負うものである。
(被告らの主張)
 原告の著作権侵害の主張はいずれも否認する。以下に述べるとおり、被告らの行為が原告の著作権を侵害することはない。
ア 貸与権侵害について
(ア) 著作権法26条の3は、映画の著作物以外の著作物に関し、複製物の貸与により公衆に提供する権利を著作者が専有することを定めるものである。こここでいう「公衆」については、著作権法2条5項は、「この法律にいう『公衆』には、特定かつ多数の者を含むものとする」と定め、不特定人のほか特定多数人を含むことを定めている。
 本来の「公衆」概念については、「不特定かつ多数の者」と解する説と「不特定の者」であれば足りると解する説があるが、複製物の所有者は、適法に取得した複製物を自由に譲渡できることに照らすと、不特定であっても少数の者に対する貸与についてまで制限する必要は乏しいということができるから、「不特定かつ少数者」は「公衆」には入らないと解すべきである。しかし、上記いずれの説に立つにせよ、「特定かつ少数の者」がここにいう「公衆」に入らないことは明らかである。原告は、本件各プログラムのように単価が高いものについては、公衆概念を柔軟に認めるべきである旨主張するが、単価の高低と公衆概念とは何の関係もない上、本件各プログラムの内容である媒体変換プログラムは、データ置換作業の繰り返しを行うにすぎないものであって、高等なプログラミングテクニックを必要としない簡易言語の集合体であって、原告が主張するような開発期間及び開発費用を要するものではなく、原告主張は大袈裟である。
(イ) 本件において、被告NTTリースは、原告の許諾を得て従来本件各プログラムを訴外財団にリースしていたが、ユーザたる地位を被告ビリングソリューションが訴外財団から承継することを承諾し、以降被告ビリングソリューションにリースすることとなった。これにより、リース料の支払義務は被告ビリングソリューションに移ったが、承継に関しては、三者間で何らの金銭の支払いもない。
 また、本件各プログラムは、訴外財団が訴外コムウェアから受託していたNTTの料金請求書発行事務のために使用するものであり、原告がインストール作業を行った、NTTリース所有の特定のハードウェア内においてのみ使用されるものであった。
 さらに、被告ビリングソリューションは、NTTから請求書発行業務を請け負い、訴外財団に発注していた訴外コムウェアの請求書発行業務の担当部署が分社独立したものである。すなわち、被告ビリングソリューションの設立後は、同社が訴外財団に対する発注元の地位に立っていた。
 以上の事実から明らかなように、被告ビリングソリューション(及びその前身である訴外コムウェア)は、訴外財団が本件各プログラムを使用して行っていたNTTの請求書発行業務の発注先であって、本件各プログラムの発注及び使用に深く関わっていたものであり、また同被告は、被告NTTリースと同じくNTTグループの企業であり、被告NTTリースと訴外財団とのリース契約にも関与していた。そして、被告ビリングソリューションは、訴外財団について、主務官庁から特殊法人改革に伴う行政指導が行われ、同財団において収益事業を営むことが困難となったことから同財団の業務を承継したものである。
 結局、本件において、訴外財団の地位を承継した被告ビリングソリューションは、本件各プログラムを使用して訴外財団が行っていたNTTの請求書発行事務の訴外財団に対する業務委託者であり、当該業務自体を同財団から承継することとなったものである。訴外財団の本件各リース契約上の地位は、このような特別な関係にあることから被告ビリングソリューションが承継することとなったものであり、不特定の者のうちの一社ではないことはもちろん、これが反復されることもおよそ予定されているものではないのである。
(ウ) また、原告は、被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの使用は、氷山の一角であり多数人への使用許諾が存するなどと主張している。しかし、訴外財団の本件各リース契約上の地位を承継した者は、被告ビリングソリューションのほか、東北通信及びテルウェル西日本の合計3社だけであることは証拠上明らかである。氷山の一角だとの原告の主張は、証拠に基づかない強弁ないし憶測に過ぎない。
 東北通信が承継したのは、本件プログラム2をインストールされた16台のハードウェアのうちの1台分のみであるところ、同社は、もともと訴外財団から仙台料金センタの業務の再委託を受けこのハードウェアを使用してNTTの請求書発行事務を行っていた会社である。またテルウェル西日本が承継したのは、本件プログラム2がインストールされていた16台のハードウェアのうち3台にインストールされていた分である(ただし、契約上承継した3台分の本件プログラム2のうち2台分については、実際には承継時点でインストールされていた2台のハードウェアとともに廃棄されており、現実に承継したのは1台分だけである。しかも、現実に承継したハードウェアについても既に使用されていないものであった。)ところ、同社は、主務官庁の指導により訴外財団が収益事業を営むことが困難となったことから、同財団の収益事業を承継するため同財団から分離して設立された株式会社である。すなわち、これら2社とも、被告ビリングソリューションと同様、不特定の第三者のうちの1社でなく、予め決められた承継先であったのである。もちろん、これら2社以外への転リースをおよそ予定していなかった点でも同様である。すなわち、これら2社へのリース契約上の地位の譲渡が公衆への貸与に当たらないことは、被告ビリングソリューションの場合と同様である。
 なお、さらに付言すれば、貸与権は、著作物の複製物の貸与に関するものであるから、公衆性の要件としての「不特定」あるいは「多数」への貸与か否かは、複製物ごとに考えるべきである。本件において、被告ビリングソリューション、東北通信、コムウェア西日本の3社が訴外財団のリース契約上の地位を承継したが、各社が承継した本件各プログラムの複製物すなわちこれらがインストールされたハードウェアは、それぞれ別個であり、当該ハードウェアを基準とすれば、貸与されたのは、それぞれ訴外財団の業務を承継させる必要上あらかじめ決められた1社に対してのみであり、およそ「不特定」ないし「多数」の概念にあたらないことは明らかである。
イ 複製権・譲渡権侵害について
 原告は、被告NTTリースにおいて、訴外財団及び被告ビリングソリューションとの間でリース契約上の訴外財団の地位を被告ビリングソリューションに承継させる契約を締結し、被告ビリングソリューションがユーザとして本件各プログラムを使用するのを許諾し、被告ビリングソリューションにおいて本件各プログラムをユーザとして使用した行為が、本件各プログラムに関する原告の複製権・譲渡権を侵害する旨主張する。しかしながら、被告らは、本件各プログラムについて、何らの複製も行っておらず、また、「原作品」についても「複製物」についても譲渡の事実はない。
(被告ビリングソリューションの主張)
ア 仮に、被告NTTリースについて貸与権侵害行為があるとしても、被告ビリングソリューションについて、共同不法行為は成立しない。
 すなわち、共同不法行為の成立には、まず、各行為者の行為が独立して不法行為の要件を充足しなければならない。しかし、著作権法が、複製物を公衆に貸与する行為について著作権侵害行為とする一方、借りる行為を著作権侵害行為としていない以上、単に貸与権侵害行為に基づいて著作物の複製物を借りただけでは、不法行為の要件である権利侵害行為には該当しないので、独立して不法行為の要件を充足するとはいえない。したがって、貸与者に貸与権侵害の不法行為が成立する場合でも、複製物を借りる行為については、原則として貸与者との共同不法行為とはならず、共同不法行為が成立する場合があるとしても、積極的債権侵害の場合と同様に、せいぜい貸与者の行為が著作権侵害行為となることを知りながら、これに積極的に関与した場合に限られる。
 常識的に考えても、貸与権は「公衆」に対する貸与を対象とするものであって、「公衆」の側で、貸与者の権原や貸与者が他に誰に貸与しているかなどについていちいち注意していなければならないとは考えられない。
 他方、被告ビリングソリューションは、同被告から訴外財団への業務委託を解消し、委託していた業務を自ら行うことになったことに伴い、同財団が被告NTTリースとのリース契約に基づいて使用していた本件各プログラムについて、被告NTTリースの承諾を受けてリース契約を承継したに過ぎず、その使用実態に何ら変更はない上、承継に当たって、原告と被告NTTリース間の契約内容については何ら知らず、被告NTTリースが当然権原を有するから承諾するものと信じていた。被告NTTリースが本件各プログラムの複製物を貸与する以上、適法な権原に基づいて貸与すべきは当然のことであり、本件各リース契約においても、被告NTTリースが使用権設定者から非独占的使用権を取得して、これに基づいてプログラムを貸与すべき旨が定められているのである(本件各リース契約第1条)。
 したがって、被告ビリングソリューションとしては、被告NTTリースが契約上の義務を遵守した上で本件各プログラムの複製物を被告ビリングソリューションに対して貸与するであろうと信頼するのは当然であって、貸与権侵害をうかがわせる特段の事情がない限り、あえて権原がないことを疑うべき注意義務を負うものではない。したがって、被告ビリングソリューションには、被告NTTリースの著作権侵害行為について故意がないことはもちろん、過失もないから、被告ビリングソリューションが共同不法行為責任を負うことはあり得ない。
イ なお、原告は、被告ビリングソリューションが、訴外財団から被告ビリングソリューションに対する権利義務譲渡の際に、多額の対価を支払ったことをもって、被告ビリングソリューションに故意又は過失があったことの根拠としているが、失当である。正確な事実関係としては、権利義務譲渡に伴い、リース料債務を承継し、その直後に解約したことにより解約損害金を支払ったというものであるが、むしろ、このような事実は、被告ビリングソリューションに故意がなかったことを推認させる事実というべきである。
 すなわち、被告ビリングソリューションとして、近い将来不要になるプログラムについて、他人の権利を侵害することになることを知りながら多額の対価の負担をするような不合理なことをするはずがないし、プログラムの使用が違法になるなどとは思いもよらないのが当然である。もともと本件各プログラムを含む媒体変換装置に関する本件各リース契約を被告ビリングソリューションが承継したのは、これらを使用することに主眼があったわけではない。被告ビリングソリューションとしては、自己の業務受託のために、当該媒体変換装置の使用を訴外財団に対して要請した経緯があったために、中途で媒体変換装置を変えたことによって訴外財団に損失が生じないよう、あえてすぐに不要になることが分かっていた媒体変換装置に関する本件各リース契約を承継したのである。したがって、仮にリース契約上の地位の譲渡により、原告の貸与権侵害になるということであれば、原告に対して無償による承諾を求め、原告が応じない場合には新しい媒体変換装置への転換が完全に終了するまで約2か月待ってから、財団を通さない直接委託に切り替えることにより、本件各プログラムのリース契約上の地位を承継しない等の方策をとっていたものと思われる。
(4) 被告らの行為につき債務不履行ないし一般不法行為が成立するか
(原告の主張)
ア 被告NTTリースによる債務不履行と被告ビリングソリューションによる積極的債権侵害
(ア) 前記(2)の原告の主張において述べたとおり、被告NTTリースが本件各リース契約により、被告ビリングソリューションに対して本件各プログラムの使用を許諾した行為は、本件各使用権設定契約における原告の許諾の範囲を超えるものであり、被告NTTリースの上記行為は、本件各使用権設定契約に違反するものである。したがって、被告NTTリースは、この債務不履行によって原告に生じた損害について賠償しなければならない。
(イ) 被告ビリングソリューションは、原告にロイヤルティを支払うことなく本件各プログラムの使用利益を享受している。そして、被告ビリングソリューションによる使用利益の享受は、被告NTTリースによる契約違反行為と共同して行われたものであり、被告ビリングソリューションには、積極的債権侵害による不法行為が成立する。
 この点、本件権利義務譲渡契約に係る契約書(乙9)には、別表として原リース契約(すなわち使用権設定契約)の一覧表が添付されており、被告ビリングソリューションは容易に知り得た。のみならず、三者契約に関して被告ビリングソリューションは訴外財団に対して高価な対価を支払っている以上、当該権利義務の承継に関する法的な問題(原告の承諾の必要性)についても当然に調査をしているはずである。これらの点に照らせば、被告ビリングソリューションが、被告NTTリースが権限なく貸与したことを知らなかったとしても、知らなかったことに過失があったというべきである。
 この被告ビリングソリューションによる積極的債権侵害の不法行為は、上記NTTリースによる債務不履行と共同不法行為類似の不真正連帯の関係に立つものと解される。
イ 契約終了後の無断ライセンスによる不法行為
 さらにいえば、訴外財団は本件権利義務譲渡契約により、本件各プログラムを使用する権利を永久的に放棄した。この放棄によって、本件各使用権設定契約により被告NTTリースに対して使用権を設定した本質的な目的(訴外財団のみによる使用)が失われた以上、本件各使用権設定契約は当事者の何らの意思表示なくして当然に終了したものとも解される。
 すなわち、本件使用権設定契約の第10項より明らかなように、本件使用権設定契約においては、原告の事前の承諾なく本件各プログラムの使用者を変更することは許されていない(少なくとも原告に対抗することはできない。)。すなわち、訴外財団が使用を放棄しても、原告から事前の許諾を受けなければ、被告NTTリースは、訴外財団以外の第三者に本件各プログラムの使用権をリースすることができない。そして被告NTTリースは単なるリース会社である以上、自ら使用権を行使することもできない。したがって、訴外財団が使用を放棄した後も本件各使用権設定契約を存続させることは、誰も使用できない権利を存続させることにほかならない。このように、訴外財団が本件各プログラムの使用を放棄した後は、本件各使用権設定契約を存続させる実益がなく、当然に終了したものと解されるのである。
 以上のように、本件各使用権設定契約が、訴外財団において本件各プログラムの使用を放棄したことにより終了しているものとすれば、被告NTTリースが被告ビリングソリューションに対して行った本件各プログラムの使用許諾は、複製物を事実上支配していることを奇貨として全くの無権限でなされた、無断ライセンスにほかならない。
 だとすれば、被告らの行為は、原告が著作権を有する著作物である本件各プログラムを原告に無断で使用する行為であり、少なくとも一般不法行為を構成するものというべきところ、かかる被告らの共同不法行為により、上記ア記載の損害額と同額の損害が原告に発生したものである。
(被告らの主張)
 原告の主張は否認し、かつ争う。被告NTTリースの行為が債務不履行に該当することもないし、一般不法行為に該当することもない。
 そもそも、原告は、一方において債務不履行を主張しつつ、他方において本件権利義務譲渡契約によって本件各使用権設定契約は当然に消滅した旨の主張もしているのであり、原告の主張は矛盾している。
 以上の点をおくとしても、本件各使用権設定契約が、本件権利義務譲渡契約の締結により終了したとの原告の主張に理由がないことは明らかである。原告の主張は、訴外財団が本件各プログラムの使用権を放棄したことにより、原告と被告NTTリースとの間の本件使用権設定契約は本質的な目的が失われて当然に終了したというものである。すなわち、原告の主張は、訴外財団が使用権を放棄する意思であったことを前提とするものである。しかし、訴外財団の意思が使用権の放棄ではなく使用権を維持したままこれを被告ビリングソリューションに移転させる意思であったことは同契約の契約書の文言から明らかである。この意思を「放棄」と解することは、あまりにも牽強付会といわざるを得ない。
(被告ビリングソリューションの主張)
 原告は、被告ビリングソリューションに対して、被告NTTリースの債務不履行についての積極的債権侵害を主張する。しかし、そもそも、被告NTTリースと原告との間の本件使用権設定契約が本件のような使用者の変更まで許していないとは解されないことは、上記のとおりであるが、仮に、被告NTTリースに債務不履行があるとしても、被告ビリングソリューションについて積極的債権侵害による不法行為は成立しようがない。すなわち、積極的債権侵害による不法行為の成立には故意が必要であるが、本件で、被告ビリングソリューションに故意が認められないことは明らかである。
(5) 原告の損害
(原告の主張)
ア 被告ビリングソリューションの使用期間中の使用料相当額
 被告ビリングソリューションは、上記(2)の原告の主張記載のとおり、原告の許諾を得ないまま、本件各プログラムを使用した。この被告ビリングソリューションの使用行為により、原告は使用料相当額の損害を被った。この使用料相当額は2197万5815円である。
イ 中途解約損害金
 被告ビリングソリューションは、本件権利義務譲渡契約において、被告NTTリースに対し中途解約損害金として9855万8460円を支払った。このような解約損害金は、被告NTTリースが原告に無断で本件各プログラムを被告ビリングソリューションに使用させたことを機縁として得られたものであり、本来原告が得べかりし本件各プログラムの価値にほかならない。
 すなわち、被告NTTリースは、本来訴外財団から得られるはずの中途解約損害金の請求を実質的に放棄しており、本来は中途解約損害金相当額を取得することはできないはずである。それにもかかわらず、被告NTTリースは被告ビリングソリューションに対して本件各プログラムの無断ライセンスをしたことによって、当該中途解約損害金相当額を取得している。このような利得は原告の著作権を侵害しなければ得られなかったものである。
 そうして、原告は本件各プログラムが市場において流通することによって具体化する潜在的価値を有しているところ、被告NTTリースが無断ライセンスによって得た中途解約損害金はこのような本件各プログラムの潜在的価値が具体化したものにほかならないというべきである。本来著作権者の利益は著作物に対する排他的・独占的な支配が保持されてはじめて保護が全うされるところ、潜在的価値とは著作権者のそのような排他的・独占的な支配が及ぶ範囲内で生じた価値を指すものである。
 この点、著作権法114条2項は侵害者の得た利益を著作権者の被った損害額として推定している。このような推定は、法律によって特別に付与された政策的なものではなく、事実上の推定を確認したものというべきである。したがって、著作権法による推定を待つまでもなく、被告NTTリースの得た利益は、原告の損害と認められるのである。
 また、実質的に考えても、訴外財団に対する中途解約損害金の請求を放棄した被告NTTリースが、原告の著作権を侵害することによって当該中途解約損害金相当額を回復するというのは、実質的公平の観点に照らしても容認しがたい。
 したがって、被告ビリングソリューションが、被告NTTリースに対して支払った中途解約損害金相当額9855万8460円は、NTTリースによる上述の不法行為あるいは債務不履行による損害というべきである。
(被告らの主張)
 原告の主張は否認し、かつ争う。原告の損害はない。
ア 被告NTTリースが訴外財団との間で締結した本件各リース契約は、被告NTTリースが原告から使用権の設定を受けるために支払った全額をそれぞれのリース期間中に回収することを前提とする契約であり、いわゆるファイナンスリース契約である。
 ところで、いわゆるファイナンスリース契約は、その実質はユーザに対して金融上の便宜を付与するものであるから、当該リース契約においては、リース料債務は契約の成立と同時にその全額について発生し、リース料の支払いが毎月一定額によることと約定されていても、それはユーザに対して期限の利益を与えるものに過ぎず、各月のリース物件の使用と各月のリース料債務とは対価関係に立つものではない(最高裁判所平成3年(オ)第155号同7年4月14日第2小法廷判決・民集49巻4号1063頁)。
 すなわち、本件において、被告NTTリースが被告ビリングソリューションから受領したリース料は、被告ビリングソリューションが本件各プログラムを使用したこと、逆にいえば、被告NTTリースがこれを使用させたことの対価ではなく、既に訴外財団が負担していたリース料債務を3者の合意で承継したことによるものである。
 この理は、中途解約損害金については、一層当てはまるものであり、リース契約を解除したことにより、被告ビリングソリューションが承継して負担していた残存リース料相当額(これは被告NTTリースの与信額の残額である。)についての期限が到来したことによるものであって、使用の対価などではない。
 したがって、被告NTTリースが被告ビリングソリューションから受領したリース料及び解約損害金は、著作権法114条2項にいう著作権侵害により得ている利益ではないのであり、これをもって原告の被った損害と推定することはおよそできないというべきである。
イ 本件各プログラムは、NTTないしは訴外コムウェアの仕様に基づいて、もっぱらNTTの料金請求事務のためにのみ使用されることが予定されていたものであって、市場において流通することが全く想定されていない性質のものである。そのため、原告は、本件各プログラムの製作費全額を被告NTTリースとの取引で回収する必要があり、現に被告NTTリースは製作費全額を支払った。少なくとも、原告は、訴外財団に引き渡された本件各プログラムの複製物の個数分に関するリース期間中の使用料については原告は取得済みである。同一の複製物を、同一の目的のため、同一のハードウェア上で、訴外財団の業務を引き継いだ被告ビリングソリューション等が使用したからといって、原告に損害の発生を想定する余地はない。
ウ 仮に、被告ビリングソリューション等による使用期間中のロイヤルティ相当額が原告の損害となるとしても、被告ビリングソリューション等が現実に使用した(ないしは使用できる状態にしていた)ソフトウェア分のリース料に限られることは当然である。
 被告ビリングソリューション等は、平成13年7月1日付けで、本件各プログラムに関するリース契約上の地位を承継したが、このときまでに被告NTTリースと訴外財団との間でリース契約の一部解除がなされており、被告ビリングソリューションらが承継したのは残部についてのみである。しかも、テルウェル西日本が承継した3式の本件プログラム2のうち2式については、承継日の当時既に廃棄されており、また、被告ビリングソリューションへの承継の対象となったプログラムに関しても、その多くは承継したリース契約の解除前に廃棄しており、実際にはリース契約の解除以前に使用中止しており、使用できる状態にもなかったのである。
 これらを整理すると別表「承継後に受領したリース料の総額」のとおりであり、被告ビリングソリューションがリース契約の承継後その解除までの間、使用していた(使用できる状態にあった)個数のソフトウェアに対応するリース料の総額は、887万9250円でしかないのであり、この範囲を超えて原告の損害が生じることはあり得ない。
(被告ビリングソリューションの主張)
 被告ビリングソリューションが、平成13年7月1日の本件権利義務譲渡契約後、実際に使用していたのは、同年8月末日までに過ぎない。したがって、仮に被告ビリングソリューションの使用による利益相当額が原告の損害となるとしても、被告ビリングソリューションの使用による利益が当該期間に対応する範囲を超えて発生することはあり得ない。
 また、本件各プログラムの中には、平成13年7月1日の本件権利義務譲渡契約の時点ではそもそも利用していないものもあった。そのことは、平成13年2月28日ころ、プログラムの抜き取り作業を行った原告も知っていたものである。
(6) 不当利得が成立するか。
(原告の主張)
 仮に著作権侵害の成立が認められないとしても、次に述べるとおり、被告らには不当利得が成立する。
ア 被告NTTリース
 被告NTTリースが原告の著作権を侵害し、また原告との間の本件各使用権設定契約に違反して被告ビリングソリューションから支払いを受けたロイヤルティ(2197万5815円)は、法律上の原因なく取得したものであり、不当利得に該当する。
 そもそも、コンピュータ・プログラムの使用許諾料(ロイヤルティ)は、使用するプログラムの個数のみではなく、使用者の数に応じて通常決定させるところ、訴外財団に対して「のみ」使用させることを条件として決定されたロイヤルティの中には、それ以外の者に使用させる対価は含まれていない。それ故に、被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの利用が、被告NTTリースと訴外財団の間のリース契約の残リースの期間のみであったとしても、被告ビリングソリューションは原告から使用許諾を受けなくてはならず、別個に原告に対しロイヤルティを支払わなければならないのである。
 原告としては、当初から訴外財団以外の者にも再使用させることが分かっていれば、被告NTTリースに対して当然に、より高額のロイヤルティを請求していた。
 このように、原告が、本件各プログラムを使用するためのロイヤルティを被告ビリングソリューションから受けられなかったことは、原告にとっての損失であり、被告NTTリースが被告ビリングソリューションからこれを受け取ったことは、不当利得に該当する。
 また、被告NTTリースが原告の著作権を侵害し、また、原告との間の本件各使用権設定契約に違反して被告ビリングソリューションから支払を受けた9855万8460円は法律上の原因なく取得したものであり、不当利得にも該当する。
 よって、原告は、被告NTTリースに対し、上記合計額を不当利得として請求するものである。
イ 被告ビリングソリューション
 被告ビリングソリューションは、原告にロイヤルティを支払うことなく、本件各プログラムの使用利益を享受している。このような被告ビリングソリューションの利得は、原告に無断でなされたものである以上、法律上の原因なくして得られたものにほかならない。この点、被告ビリングソリューションが、被告NTTリースに対し、ロイヤルティ相当額を支払っていたとしても、そのような支払は、被告ビリングソリューションと被告NTTリースとの間の内部関係に過ぎず、被告ビリングソリューションが法律上の原因なく利得したことに何らの影響を及ぼさない。
 よって、原告は、被告ビリングソリューションに対し、不当利得として上記ロイヤルティ相当額である2197万5815円を請求するものである。
(被告NTTリースの主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
ア 被告NTTリースが被告ビリングソリューションから受領したリース料等は、同被告が承継した本件各リース契約に基づいて支払われたものであり、法律上の原因があることは明らかである。なお、仮にこのリース契約を効力が否定され、それにより被告NTTリースが不当利得の責任を負う可能性があるとしても、それにより被告NTTリースが不当利得の責任を負う可能性があるのは被告ビリングソリューションに対してであり、原告に対して負う余地はない。
 また、そもそも被告NTTリースが受領したリース料は、リース契約に基づくもので、ユーザである被告ビリングソリューションに対する金融の便宜を付与したことに基づくものであって、ユーザの使用収益に対する対価ではなく、ロイヤルティ相当額を利得したと解することはできない。
イ ファイナンスリース契約の性格に照らして合理性は疑わしいが、仮にリース料にも使用の対価の性格があるとすれば、ロイヤルティ相当額とは、被告ビリングソリューション、東北通信及びテルウェル西日本が現実に使用した(ないしは使用できる状態にしていた)ソフトウェア分のリース料に限られることは当然である。
 前記(5)の被告らの主張ウで述べたとおり、被告ビリングソリューション等がリース契約の承継後その解除までの間、使用していた(使用できる状態にあった)個数のソフトウェアに対応するリース料の総額は、887万9250円でしかないのであり、この範囲を超えて原告の損失が生じることはあり得ない。
(被告ビリングソリューションの主張)
 原告の主張は否認ないし争う。
ア 著作物の複製物の違法な利用により著作権者に発生し得る損失は、得べかりし利益の喪失ということであろうが、本件においては、被告ビリングソリューションは、仮に被告NTTリースからリースを受けて本件ソフトウェアを使用することが原告の承諾を得た対価を支払わない限り違法になると知っていれば、本件各プログラムの使用をしなかったはずであって、被告ビリングソリューションとの関係で、原告にはそもそも得べかりし利益など存在しないので、原告には損失は発生していない。
イ 被告ビリングソリューションは、被告NTTリースに対し、使用料相当額をはるかに超える対価を支払っており、被告ビリングソリューションには利得はない。
ウ 本件ソフトウェアの複製物自体は、それが化体されているハードウェアの所有者である被告NTTリースに帰属しているのであって、原告は著作物の複製物の所有権を有するわけではないから、当該複製物の排他的利用権を有しているわけではなく、当該複製物について著作権法により認められた権利を有するにすぎない。そして、著作権法が原告に認めているのは複製物の貸与権であって利用権ではない。したがって、仮に原告に損失が発生したとしても、貸与により発生するものであって、利用により発生するものではないから、少なくとも被告ビリングソリューションが使用による利益を受けたために発生した損失とはいえず、原告から被告ビリングソリューションに対する不当利得返還請求権は発生しない。
エ さらに、本件においては、被告ビリングソリューションは被告NTTリースとのリース契約に基づいて本件各プログラムを使用したのであり、しかも、複製物の所有権自体は、当該複製物が化体しているハードウェアの所有者である被告NTTリースに帰属しているのであるから、使用による利益は法律上の原因に基づくものである。
オ さらに、上記(5)の被告ビリングソリューションの主張の項でも述べたとおり、被告ビリングソリューションが、平成13年7月1日の本件権利義務譲渡契約後、本件各プログラムを実際に使用していたのは、同年8月末日までに過ぎず、さらに、本件各プログラムの中には、本件権利義務譲渡契約の時点ではそもそも利用していなかったものもある。被告ビリングソリューションがプログラムを使用していない期間について被告ビリングソリューションに利得が生じることはあり得ないのであって、原告の請求は過大でもある。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件各プログラムに著作物性が認められるか)について
(1) 前記前提となる事実関係(第2、1)に証拠(甲1ないし6、8及び9、17、18、20、21、25、乙1ないし8)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
ア 本件各プログラムは、NTTにおける料金請求書発行業務において使用されるものであり、あるフォーマットで記録されている情報を、別のフォーマットに変換するために利用する、ファイル形式変換のためのプログラムである。
イ NTTでは、料金請求業務に「料金業務総合システム」(通称「CUSTUM」。以下「カスタム」という。)と「企業料金総合システム」(通称「PRIME」。以下「プライム」という。)の2種類のコンピュータシステムを使用していたが、これらから出力される通話料金の電話番号別等の内訳データをフロッピーディスク等の媒体に記録して提供するサービスを行うようになった。そして平成6年ころ、NTTは、このサービスに使用するための「高速媒体変換装置」を導入することとしたものであるが、本件各プログラムはこの「高速媒体変換装置」に格納されていたプログラムである。
ウ まず、本件プログラム1は、カスタムに対応したもので、磁気テープ(MT)媒体に記録された通常の通話明細情報をフロッピーディスクのフォーマット形式で出力する機能を有するものであり、本件プログラム2は、本件プログラム1をバージョンアップしたものである。
エ 次に、本件プログラム3は、プライムに対応したものであり、同じく磁気テープ媒体に記録された大口の割引明細情報をフロッピーディスクのフォーマット形式に出力する機能を有するものであり、本件プログラム4ないし6、8及び9は、それぞれ本件プログラムをバージョンアップしたものである。
オ 原告は、訴外財団を含むNTTグループの関係者とも協議を行った上、本件各プログラムの仕様を決定し、プログラムを完成させた上、NTT料金センタ内にあるハードウェアにインストールした。ただし、本件各プログラムのソース・コードは原告が保有している。
カ 本件各プログラムの注文書を発行した被告NTTリースは、本件各プログラムのリース期間中の使用権取得の対価として、本件プログラム1につき約2156万円(消費税は除く。以下同じ)、本件プログラム2につき3192万円、本件プログラム3につき約9235万円、本件プログラム4につき756万円、本件プログラム5につき6352万円、本件プログラム6につき約1019万円、本件プログラム8につき2940万円、本件プログラム9につき2860万円とする注文書を作成して、それぞれ原告に対して発注した。
(2) 以上認定の各事実によれば、本件各プログラムが、単なる模倣であるとかありふれた表現であるということができないことは明らかであり、本件各プログラムには創作性が認められるというべきである。したがって、本件各プログラムは著作物性を有するものと認められる。
2 争点(2)(被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの使用は、本件各使用権設定契約による原告の許諾の範囲内であったか)について
(1) 前記前提となる事実関係(第2、1)に証拠(甲1ないし6、8及び9、20、21、25、乙1ないし8、32、37ないし42、45ないし47、丙1ないし6)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
ア 本件各使用権設定契約に係る注文書等においては、冒頭に「使用権設定者が使用者に使用を許諾することにした、下記プログラム・プロダクトの非独占的使用権をリース契約の対象とするため、下記条件にてご注文申し上げますので(以下略)」との記載があり、本件各プログラムの使用者としては、訴外財団のみが記載されている。また、「取引条件」欄の第10項においては、「使用権取得者は、使用者とのリース契約の継続が困難と認めたときは、使用権設定者と協議のうえプログラム・プロダクトの使用者を変更することができるものとします。」との記載があり、被告NTTリースにおいて使用者の変更をするには原告との協議を要するものとされている。
イ 本件各プログラムは、NTTの料金請求書発行業務に必要なものとして、平成6年ころ、NTTソフトウェア本部において導入が検討されるようになったものであるが、同本部(平成9年9月1日に訴外コムウェアが営業を引き継いだ後は、訴外コムウェア)では、原告にプログラムの開発を行わせることとし、原告を含む関係者との間でプログラムの仕様等についての協議を重ねた。このような協議の結果を踏まえ、原告において、順次本件各プログラムを開発したものである。なお、NTTの料金請求書発行業務は、訴外財団がNTT(訴外コムウェア設立後は訴外コムウェア)から委託を受けて行っていたため、プログラムの仕様に関する協議には訴外財団の担当者が同席することもあったし、原告においても、訴外財団が本件各プログラムの現実の使用者となるものと認識していた。
ウ 本件各プログラムは、NTTの料金センタ内のコンピュータにインストールされ、NTTの料金請求書発行業務において用いられていたものであるが、NTTの料金請求書発行業務は、訴外財団がNTT(訴外コムウェアへの営業譲渡後は訴外コムウェア)から一手に委託を受けて行っていたものであり、本件各使用権設定契約当時において、訴外コムウェアを含め訴外財団以外の者がこの業務を行うことは、現実には想定されていなかった。
エ 被告ビリングソリューションは、訴外コムウェアの100パーセント子会社であり、平成13年4月1日に訴外コムウェアから営業譲渡を受けて料金請求書発行業務を行うようになったものであるが、訴外コムウェア自身は、訴外財団に料金センタ内における料金請求書発行に関する事務をすべて委託しており、自ら料金請求書発行に関する実際の事務を行っていたわけではなかった。そして、本件権利義務譲渡契約後、NTT料金センタ内で実際に作業に当たることになったのは、訴外財団から被告ビリングソリューションに転籍した者及び訴外財団の時代から同財団の履行補助者として業務を行っていた協力会社であった。
オ 本件各使用権設定契約において定められた本件各プログラムのリース期間中の使用権取得の対価は、本件プログラム1が2156万2500円(消費税は除く。以下同じ)、本件プログラム2が3192万円、本件プログラム3が9235万4400円、本件プログラム4が756万円、本件プログラム5が6352万円、本件プログラム6が1018万600円、本件プログラム8が2940万円、本件プログラム9が2860万円である。
(2) 上記認定の各事実を総合すれば、本件各使用権設定契約において、原告は、被告NTTリースに対し、使用者すなわち貸与の相手方を訴外財団だけに限定して使用権を設定し、原告の承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じていたものであること、被告NTTリースが原告の承諾を得ないで訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更したことは上記の被告NTTリースに対して契約上設定された使用権の範囲を超えるものであったことが、それぞれ認められる。
(3) 上記の認定に対し、被告らは、本件各使用権設定契約が締結され、本件各プログラムが導入されるに至った経緯及び本件各プログラムの実際の使用状況に照らすならば、訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更することは、本件各使用権設定契約において原告と協議を要するとされている「使用者の変更」には当たらないというべきであるし、仮に、これが原告との協議を要する「使用者の変更」に当たるとしても、原告は黙示的にこれを承諾していたことは明らかである旨を主張する。そこで、被告らの同主張について検討する。
ア まず、訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者が変わったことは本件各使用権設定契約にいう「使用者の変更」に当たらないとの主張について検討するに、前記前提となる事実に記載したとおり、契約書(注文書及び注文請書)上においては「使用者」が明確に訴外財団と指定されているところであって、被告ビリングソリューションへの使用者の変更は例外とするというような扱いをうかがわせるような記載は認められない。また、本件全証拠によっても、原告と被告NTTリースとの間で、本件各使用権設定契約とは別に、被告ビリングソリューションへの使用者の変更については承諾を要しないものとする旨の合意があった事実を認めることもできない。
 なるほど、本件各プログラムはNTTの料金請求書発行業務の処理のために開発されたものであり、NTTの料金請求書発行業務の委託先に変更があったことに伴い、被告NTTリースが原告から提供を受けた本件各プログラムの使用者を変更したものであるが、本件各使用権設定契約当時、訴外財団以外の者がこの業務を行うことは全く想定されておらず、訴外財団は公益法人であって、被告ビリングソリューションは訴外財団とは全く別個の法人であるから、この点からしても、本件各プログラムの使用者の変更が、本件各使用権設定契約における「使用者の変更」に当たらないということはできない。
 上記のとおり、この点についての被告らの主張を採用することはできない。
イ 次に訴外財団から被告ビリングソリューションへの使用者の変更を原告は黙示的に承諾していたとの主張について検討する。
 上記(1)認定の事実及び証拠(乙37ないし42、45ないし47)によれば、本件各プログラムの開発に当たっては、原告はNTTソフトウェア本部や訴外コムウェアを含む関係者との間で打合せを行ったり、これらの者に対して見積書等を発行したこと、本件各プログラムはNTTの料金センタ内に設置されたシステムにインストールされていたが、そこでは訴外財団の作業員のほか訴外財団の履行補助者である協力会社の作業員も作業に当たっていたこと、本件権利義務譲渡契約後においては、訴外財団から被告ビリングソリューションに転籍した従業員及び協力会社の作業員が作業を行うようになったこと、原告は本件各プログラムのメンテナンスのためNTT料金センタを訪れる機会があったこと、原告は本件各プログラムの高性能化に関する提案を訴外コムウェアに対して行ったことという事実を認めることができるが、これらの証拠によって認められる諸事情を総合しても、原告が被告ビリングソリューション(及びその前身の訴外コムウェア)が使用者となることを黙示的に承諾していた事実を認めることはできない。かえって、本権利義務譲渡契約の後である平成13年10月ころになって、被告NTTリースから原告に対して被告ビリングソリューションに業務が移管された事実を通知している事実(甲11、12)が認められるところであって、これらの事実も合わせて考慮するならば、黙示の承諾が存在したと認めることはできない。
(4) 被告らは、さらに、被告NTTリースと訴外財団の間に締結された本件各リース契約は、いわゆるファイナンスリース契約であるところ、ファイナンス・リース契約においては、リース会社が物件取得のために投下した費用の回収を確実なものとするため、必要に応じてサプライヤの個別の承諾なくユーザを変更することができるのは当然のこととされているとし、原告は本件各プログラムがファイナンスリースの対象とされることを知りながら使用権を設定したのであるから、本件各使用権設定契約においては、被告NTTリースが原告の個別の承諾なく使用者を変更できることが当然の前提とされていたと主張する。
 しかしながら、被告NTTリースが訴外財団と締結する契約がファイナンスリース契約であるかどうかという点と、原告が被告NTTリースに対して本件各プログラムにつきどのような条件の使用権を設定したかという点は、必然的に結び付くものではないから、被告らの上記主張は、まずこの点において首肯することができない。そして、原告と被告NTTリースとの間において、リース会社がサプライヤの許諾なく自由にユーザを変更することができることを前提として本件各使用権設定契約が締結されたことを認めるに足りる事情も存在しない。したがって、結局、被告らの上記主張を採用することはできない。
 なお、被告らは、本件各リース契約がファイナンスリース契約であることを強調しているところ、たしかに、本件各リース契約がそのような性質を有する面があることは事実であるけれども、本件において、リース対象物件である本件各プログラムを使用するユーザは、個人情報や通信の秘密にも関わるNTTの通話料金請求書発行業務を行う者であり、かつ現実にユーザとなっていたのは公益法人である訴外財団であって、本件各リース契約が、リース会社である被告NTTリースの投下資本回収の必要性が生じた場合に、同被告において自由にユーザを変更することを想定した契約であったとまでは、認めることができない。また、証拠(乙34ないし36)によれば、他のファイナンスリース業者(三井事業リース株式会社、第一リース株式会社等)においても、プログラムのリースに関しては、リース業者が使用者(リース先)を変更する際には使用権設定者(著作権者)の承諾を要するものとされているのであって、ファイナンスリースにおいて使用者(リース先)の変更が使用権設定者(著作権者)の承諾を要することなく行われるのが一般的な取扱いであったということもできない。
(5) 以上のとおりであるから、被告らの上記主張はいずれも採用することができず、結局、本件各使用権設定契約において、原告は、被告NTTリースに対し、使用者すなわち貸与の相手方を訴外財団だけに限定して使用権を設定し、原告の承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じたものであり、被告NTTリースが原告の承諾を得ることなく訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更したことは、本件各使用権設定契約による原告の許諾の範囲を超えるものであったと認められる。
3 争点(3)(被告らによる著作権侵害(貸与権侵害、複製権侵害、譲渡権侵害)が成立するか)について
(1) 貸与権侵害について
ア 前記前提となる事実関係(第2、1)及び前記2の認定説示に係る事実に加えて、証拠(甲1ないし6、8ないし12、乙1ないし17)及び弁論の全趣旨を総合すれば、@本件各使用権設定契約において、原告は被告NTTリースに対し、本件各プログラムの複製物の被告NTTリースからの貸与の相手方を訴外財団に限定し、原告の承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じる使用権の設定を行ったこと、A訴外財団、被告ビリングソリューション及び被告NTTリースは、平成13年6月30日、本件権利義務譲渡契約を締結し、同年7月以降、被告ビリングソリューションが本件各プログラムの複製物を使用するようになったこと、B訴外財団は、本件プログラム2に関する一部のリース契約上の地位を本件権利義務譲渡契約の対象とはせずに、東北通信及びテルウェル西日本に譲渡したため、平成13年7月以降は東北通信及びテルウェル西日本も本件各プログラムの複製物を使用するようになったこと、C被告NTTリースは、上記A及びBのリース契約上の地位の譲渡について、原告の承諾を得ることのないまま、これらを承認し、平成13年7月以降は被告ビリングソリューション、東北通信及びテルウェル西日本からリース料を徴収していたことが認められる。
イ 以上の各事実を総合すると、被告NTTリースは、訴外財団以外の者に対して原告の承諾を得ないで貸与することを禁止されている本件各プログラムにつき、原告の承諾を得ないまま、被告ビリングソリューション、東北通信及びテルウェル西日本(以下、この3社を総称して「被告ビリングソリューション等」という。)に貸与したものと認められ、原告の本件各プログラムの貸与権(著作権法26条の3)を侵害したものということができる。
 したがって、被告NTTリースが被告ビリングソリューションに本件各プログラムを使用させた行為につき貸与権侵害をいう原告の主張は、理由がある。
ウ 被告らは、この点に関し、著作権法26条の3に定める貸与権は、「公衆」に対する提供を伴うことを要するものであり、訴外財団から被告ビリングソリューション等への貸与先の変更は、「公衆」の要件を満たさないから、貸与権侵害は成立しないと主張する。
 そこで判断するに、著作権法26条の3にいう「公衆」については、同法2条5項において特定かつ多数の者を含むものとされているところ、特定かつ少数の者のみが貸与の相手方になるような場合は、貸与権を侵害するものではないが、少数であっても不特定の者が貸与の相手方となる場合には、同法26条の3にいう「公衆」に対する提供があったものとして、貸与権侵害が成立するというべきである。
 この点、本件のように、プログラムの著作物について、リース業者がリース料を得て当該著作物を貸与する行為は、不特定の者に対する提供行為と解すべきものである。けだし、「特定」というのは、貸与者と被貸与者との間に人的な結合関係が存在することを意味するものと解されるところ、リース会社にとってのリース先(すなわちユーザ)は、専ら営業行為の対象であって、いかなる意味においても人的な結合関係を有する関係と評価することはできないからである(被告ら自身、プログラム・プロダクトに関するファイナンスリース契約は、経済的にはユーザに対する金融であり、場合によっては、リース業者はリース目的物を換価したり他の者にリース契約を承継させるものであることを認めている。前記第2、2(2)被告らの主張参照。)。
 本件においては、被告ビリングソリューション、東北通信及びテルウェル西日本は、いずれもNTTグループの企業であるにしても、リース業者である被告NTTリースとの関係では単なるリース先(ユーザ)であるから、被告NTTリースが被告ビリングソリューション等に対して本件各プログラムを貸与した行為は、公衆に対する提供に当たり、原告の貸与権を侵害するものというべきである。
 仮に、被告らの主張するように、訴外財団と被告ビリングソリューション等との間に両者を同一視できるような密接な関係があったとしても、それは、原告の承諾を得ないでリース先を変更することが本件各使用権設定契約違反とならない特段の事情が存在するという主張としてはともかく(本件においては、そのような特段の事情があるということはできないが)、プログラムの貸与先であるリース先(ユーザ)が貸与者であるリース業者との関係で「公衆」に該当することを否定する事情とは、なり得ないものである。
 上記のとおり、被告ビリングソリューション等が著作権法著作権法26条の3にいう「公衆」に該当しない旨をいう被告らの主張は、採用できない。
(2) 共同不法行為について
 原告は、被告NTTリースが被告ビリングソリューションに対して本件各プログラムを使用させたことによる上記貸与権侵害については、被告ビリングソリューションによる共同不法行為も成立すると主張する。
 しかし、著作権法上、貸与行為について一定の行為が著作権(貸与権)侵害とされているにもかかわらず、被貸与者の行為について著作権侵害となる行為が規定されていないこと、著作権法113条2項が、プログラム著作物の違法複製物の使用について、違法複製物であることを知って複製物の使用権原を取得した場合に限って著作権侵害を構成するものとしていることに照らせば、プログラム著作物について貸与権侵害行為が行われた場合においても、被貸与者の行為が独自に著作権侵害を構成することはなく、ただ、被貸与者において貸与者が権限なく貸与行為を行っていることを知りながら貸与を受けた場合につき貸与者の行為に意を通じて加功したものとして、共同不法行為者としての責任を負う場合があるにすぎない。
 本件においては、本件全証拠を総合しても、被告ビリングソリューションにおいて、被告NTTリースが本件各プログラムの複製物を貸与する権原を有していないことを知りながら、訴外財団からリース契約上の地位の譲渡を受けたとまでは認められない。したがって、貸与権侵害につき被告ビリングソリューションが共同不法行為者としての責任を負うとする原告の主張は、採用できない。
(3) 譲渡権、複製権侵害について
 原告は、さらに、被告らは、本件各プログラムに関する原告の譲渡権又は複製権を侵害した旨を主張する。しかしながら、本件全証拠によっても、本件各プログラムの原作品又は複製物が譲渡され、あるいは複製された事実を認めることはできない。
 したがって、譲渡権、複製権侵害を理由とする原告の請求は、理由がない。
4 争点(4)(被告らの行為につき債務不履行ないし一般不法行為が成立するか)について
(1) 上記2において認定説示したとおり、本件各使用権設定契約において、原告は、被告NTTリースに対し、使用者すなわち貸与の相手方を訴外財団だけに限定し、原告の承諾を得ないで訴外財団以外の者に貸与することを禁じていたものであり、被告NTTリースが原告の承諾を得ないで訴外財団から被告ビリングソリューションに使用者を変更したことは上記の被告NTTリースに対して契約上設定された使用権の範囲を超えるものであったというべきである。したがって、被告NTTリースが本件権利義務譲渡契約を承認し、被告ビリングソリューションに対して本件各プログラムをリースした行為は、債務不履行にも該当することは明らかである。
 原告は、上記債務不履行は被告ビリングソリューションと共同して行われたものであるとして、被告ビリングソリューションには第三者の債権侵害による不法行為が成立する旨主張する。しかしながら、債権の帰属自体を侵害したり、給付義務を消滅させるような場合を除き、債権者の債権の完全な実現を妨げたことが不法行為となるためには、少なくとも故意が必要であると解されるところ、本件全証拠によっても、被告ビリングソリューションにおいて、被告NTTリースから本件各プログラムのリースを受けた当時、かかるリースが本件各使用権設定契約に違反するものであるとの認識を有していた事実を認めることはできない。したがって、被告ビリングソリューションについて、第三者の債権侵害による不法行為を主張する原告の請求には理由がない。
(2) また、原告は、訴外財団が本件各プログラムの使用を放棄した時点で、本件各使用権設定契約は目的を達することができなくなって当然終了することになるから、その後に行われた、被告NTTリースによる被告ビリングソリューションへのリースは、完全な無権行為として、不法行為とも評価できると主張している。しかしながら、前記前提となる事実関係(第2、1)記載のとおり、本件各使用権設定契約の条件10項では、協議を行った上で使用者を変更することができる旨規定しているところであり、本件各使用権設定契約は訴外財団以外の者が使用者となる事態も想定しているものであるということができるから、訴外財団が本件各プログラムを使用しなくなったことにより本件使用権設定契約が当然に終了することになるとは解されない。原告の上記主張は、採用できない。
5 争点(5)(原告の損害)について
(1) 被告NTTリースの貸与権侵害による損害額
ア 証拠(乙1ないし17、21、23、25、29、30。枝番号は省略。)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
@ 被告NTTリースと訴外財団との間の本件各プログラムに関するリース契約における月額リース料は、本件1リース契約(14ライセンス分)が41万7562円(消費税相当額を含む。以下同じ。)、本件2リース契約(5ライセンス分)が63万3360円、本件3リース契約(1ライセンス分)が191万1000円、本件4リース契約(1ライセンス分)が15万2460円、本件5リース契約(1ライセンス分)が123万8370円、本件6リース契約(1ライセンス分)が33万7575円、本件8リース契約(1ライセンス分)が58万0020円、本件9リース契約(1ライセンス分)が55万9965円であること、
A 遅くとも平成13年7月1日までに、被告ビリングソリューションは、本件1リース契約(2ライセンス分)、本件2リース契約(2ライセンス分)、本件3ないし6リース契約、本件8リース契約及び本件9リース契約(いずれも1ライセンス分)につきリース契約上の訴外財団の地位を承継し、本件各プログラムの使用を開始したこと、
B 被告ビリングソリューションが承継した上記Aの各リース契約に関しては、本件1リース契約及び本件2リース契約が平成13年9月30日に、その余の本件リース契約が同年11月30日に、それぞれ合意解約されたこと、
C 被告ビリングソリューションが承継した上記Aの各リース契約に係る本件各プログラムについては、上記Bの合意解約前の同年8月31日に、本件1リース契約(1ライセンス分)、本件2リース契約(1ライセンス分)及びその余の本件リース契約(各1ライセンス)に係るプログラムがシステムから撤去された。
イ 本件において、原告は被告ビリングソリューションが本件各リース契約を承継した後における同被告のリース料相当額を損害と主張しているところ、原告と訴外財団との間の本件各リース契約におけるリース料(上記ア@)は本件各プログラムの使用権取得価格を前提にして各月の使用料相当額に見合った額が算定されていると認められる(乙1ないし8、弁論の全趣旨)ことからすれば、上記アの事実関係の下においては、被告ビリングソリューションがリース契約を承継した後、同契約が合意解約されるまで(ただし、合意解約前にプログラムが撤去された分(上記アC)については、撤去の日まで)の間の上記リース料額をもって、貸与権侵害による損害額というべきである(著作権法114条3項)。そうすると、この金額は、別紙損害額計算表のとおり、合計1034万1270円となる。
 そして、原告は、被告NTTリースの貸与権侵害に基づく損害につき、平成13年7月1日以降支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めているところ、上記1034万1270円のうち、同年7月中に生じた損害509万2386円については同年8月1日以降、同年8月中に生じた損害509万2386円については同年9月1日以降、同年9月中に生じた15万6498円については同年10月1日以降の遅延損害金の支払いを求める請求は理由がある。
ウ 損害額につき、被告NTTリースは、リース料はリース契約から生じるものであって、リース物件の使用と対価関係に立つものではないから、リース料収入が著作権侵害行為によって得た利益ということはできないと主張するが、上記のとおり、原告と訴外財団との間の本件各リース契約におけるリース料(上記ア@)は本件各プログラムの使用権取得価格を前提にして各月の使用料相当額に見合った額が算定されていると認められるから、本件各プログラムの使用料相当額(著作権法114条3項)の算定に当たって同リース料額を参酌することは妨げられないというべきである。
 他方、原告は、各リース契約承継後、合意解約されるまでの期間に被告ビリングソリューションから被告会社NTTリースに支払われたリース料額合計額と被告ビリングソリューションから被告NTTリースに支払われた本件各リース契約の中途解約金9855万8460円が、被告NTTリースが貸与権侵害により得た利益として、原告の損害と推定される(同法114条2項)と主張する。しかしながら、被告ビリングソリューションが承継したリース契約のプログラムのうち、合意解約前にプログラムが撤去された分(上記アC)については、撤去後も合意解約までの期間リース料が支払われているにしても、その期間についてはプログラムの貸与行為が行われていない以上、当該期間分に対応するリース料については著作権法114条2項の推定が及ばないというべきである。また、中途解約金は、貸与物件の使用収益とは関係なく、リース契約上の中途解約に関する特約条項に基づいて発生するものであって、しかも契約当事者が中途解約するかどうかは貸与権侵害とは直接関係のないことであるから、被告NTTリースによる貸与権侵害行為と相当因果関係の範囲にあるということができない。
(2) 被告NTTリースの本件各使用権設定契約違反による損害
 前記4において説示したとおり、被告NTTリースが本件各リース契約を被告ビリングソリューションに承継させ、同被告に本件各プログラムを使用させた行為は、本件各プログラムの貸与権侵害に該当するとともに、本件各使用権設定契約違反の債務不履行にも該当するものであるが、債務不履行により原告に生じた損害額(原告の逸失利益)は、上記(1)の損害額を上回るものではない。
6 争点(6)(不当利得が成立するか。)について
(1) 被告NTTリースの不当利得について
 被告NTTリースが本件各リース契約を被告ビリングソリューションに承継させ、同被告に本件各プログラムを使用させた行為は、前記4、5において説示したとおり、本件各プログラムの貸与権侵害に該当するとともに、本件各使用権設定契約違反の債務不履行にも該当するものであるが、仮にこの行為に基づき不当利得が成立し得るとしても(請求権競合)、原告の損失額は、前記4、5において認定した損害額と同額というべきであるから、同被告に対する不当利得返還請求権は、前記4、5における損害賠償請求権の額を上回るものではない。
(2) 被告ビリングソリューションの不当利得について
 原告は、被告ビリングソリューションによる本件各プログラムの使用が不当利得に該当すると主張し、使用期間分のロイヤルティ相当額を請求している。
 前記3において説示したとおり、被告NTTリースが本件各リース契約を被告ビリングソリューションに承継させ、同被告に本件各プログラムを使用させた行為は本件各プログラムの貸与権侵害に該当するものであるから、被告ビリングソリューションは法律上の権原なくして本件各プログラムを使用して利益を得たものであり、原告は同被告が本件各プログラムの貸与を受けて使用していた期間につき使用料相当額の損失を被ったものというべきであるから、上記5において認定した損害額(使用料相当額)と同額につき、被告ビリングソリューションは不当利得を得たものというべきである(被告ビリングソリューションが被告NTTリースにリース料を支払ったことは、不当利得の発生を否定する事情とはならない。)。
 原告は、被告ビリングソリューションの不当利得につき、付帯請求として年6分の金員を請求しているが、不当利得返還請求権の遅延損害金については、法定利率を適用すべき理由がないので、年5分の割合によるべきものである。また、被告ビリングソリューションの不当利得返還債務は、被告NTTリースの損害賠償債務(ないし不当利得返還債務)と、不真正連帯の関係に立つものである。
7 結論
 以上によれば、原告の本訴請求については、被告らに対して、連帯して1034万1270円及び被告ビリングソリューションにつき、これに対する平成15年12月18日(請求拡張に係る原告準備書面(11)の同被告に対する送達の日の翌日)から、被告NTTリースにつき、うち509万2386円に対する同年8月1日から、うち509万2386円に対する同年9月1日から、うち15万6498円に対する同年10月1日から、各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する限度において理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 松岡千帆
 裁判官 大須賀寛之は、転任のため、署名押印できない。

裁判長裁判官 三村量一
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