判例全文 line
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【事件名】日本テレビのHP掲載写真無断放送事件
【年月日】平成16年6月11日
 東京地裁 平成15年(ワ)第11889号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成16年3月8日)

判決
原告 A
訴訟代理人弁護士 長沢美智子
同 三尾美枝子
同 藤田晶子
被告 日本テレビ放送網株式会社
訴訟代理人弁護士 大矢勝美
同 谷田哲哉


主文
1 被告は、原告に対し、100万円及びこれに対する平成13年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙「写真目録」記載の写真を複製し、又は公衆送信してはならない。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを3分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決の第1項及び第2項は、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、4521万円及びこれに対する平成13年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、別紙「写真目録」記載の写真を複製し、又は公衆送信してはならない。
3(1) 被告は、別紙「番組目録」及び別紙「供給ネットワーク局と放送一覧」にに記載の番組において使用した、別紙「写真目録」記載の写真(一部分を修正したものを含む。)を廃棄せよ。
(2) 被告は、上記(1)記載の番組の録画テープを廃棄せよ。
4 被告は、別紙「謝罪放送目録」記載の謝罪放送をせよ。
5 被告は、同社の公式ホームページに、別紙「謝罪広告目録」1記載の謝罪広告を、同目録2記載の条件で掲載せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告作成のインターネットホームページ上の米国デンバー市を紹介したウェブサイトにおいて、原告が撮影した、原告の知人であるデンバー元総領事の写真を掲載していたところ、平成13年当時、社会的に問題となっていた外務省における不祥事に関連する報道の一環として、被告が放送したテレビジョン番組(以下「本件番組」という。)の中で、原告に無断で、上記元総領事の写真が使用されたことについて、原告が、被告に対し、同写真の著作権(著作権法21条〔複製権〕、同法23条〔公衆送信権〕)及び著作者人格権(同法19条〔氏名表示権〕、同法20条〔同一性保持権〕)を侵害されたとして、@4521万円の損害賠償(同法114条3項)、A上記写真の複製・公衆送信の差止め(同法112条1項)、B上記写真及び上記写真が撮影された録画テープの廃棄(同法112条2項)、C被害回復措置としての謝罪放送及び謝罪広告(同法115条)を求めている事案である。
1 当事者間に争いのない事実等(証拠により認定した事実については、末尾に証拠を掲げた。)
(1) 当事者(甲9、弁論の全趣旨)
ア 原告は、米国コロラド州デンバー市において、在米邦人向けの海外日本語新聞社「ロッキーマウンテン時報」(以下「ロッキーマウンテン時報社」という。)を経営し、在米邦人に向けて、日本語新聞や地元誌である「ロッキー時報」を発刊したり、同社のホームページを開設し、在米邦人に生活情報を提供したり、観光客に有用な観光情報等を提供していた。
 その一方で、原告は、昭和40年ころから写真家としても活動しており、昭和45年に日本写真家協会に入会した後、旅行雑誌や山岳雑誌等を中心に作品を寄稿し、自ら発行する年2回発刊の雑誌「コロラド事情」の表紙や見開きカラーページの風景写真などの撮影をしている。
イ 被告は、放送法による一般放送事業、放送番組の企画、製作及び販売等を目的とする株式会社であり、平成13年7月当時、「ニュースプラス1」、「レッツ!」、「ザ・ワイド」等の本件番組を製作、放送していた。
(2) 著作権侵害及び著作者人格権侵害行為等
ア 原告は、知人のデンバー元総領事B(以下「B元領事」という。)の同意を得て、別紙「写真目録」記載の写真(以下「本件著作物」という。)を撮影し、平成13年1月ころから8月末ころまで、ロッキーマウンテン時報社のウェブサイト上に存在する「コロラド事情」が紹介されたウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)において、デンバー市の紹介とともに、当時、デンバー総領事官であったB元領事を紹介をするため、本件著作物を本件ウェブページ上に掲載していたもので、本件著作物の著作者である。
イ 本件著作物は、別紙「写真目録」記載のとおり、日本の国旗とコロラド州旗を背景に、テンガロンハット(いわゆるカウボーイハット)をかぶり、西部独特のジャケットを着たB元領事の上半身の写真である。
ウ(ア) 被告は、別紙「番組目録」の「放送日時」欄記載の各放送日時に、同目録の「番組名」欄記載の各本件番組(以下、これらの番組をまとめていうときは、「本件各番組」という。)において、原告の許諾を得ることなく本件著作物が映った映像を、数秒から十数秒程度の間、公衆送信した。
(イ) 本件各番組における本件著作物の使用状況は、別紙「本件著作物の使用状況」に記載のとおりである(乙2)。
エ(ア) 被告が、単独でテレビジョン番組を放送できるのは、関東全域の1都6県並びに山梨県及び静岡県の一部の放送地域(以下「放送エリア」ともいう。)内に限られており、その他の地域については、各地方の放送事業者(以下「各地方のネットワーク局」という。)が、被告と番組供給契約を締結し(以下「番組供給契約」という。)、同契約に基づき、被告からテレビジョン番組の供給を受け、各地方のネットワーク局と被告間の中継回線(以下「ネットワーク回線」という。)を使用して、各地方のネットワーク局の放送地域内にテレビジョン番組を放送する。すなわち、各地方のネットワーク局の放送エリア内におけるテレビジョン番組の放送は、番組供給契約に基づくネットワークシステムと各地方のネットワーク局による実際の放送があって初めて実現するものである。
 そして、「ネットワークタイム」とよばれる時間帯においては、各地方のネットワーク局は、被告とのネットワーク回線により、被告と同一のテレビジョン番組を同一の時間帯に放送することになる(甲15の1及び2)。
(イ) 被告は、別紙「供給ネットワーク局と放送一覧」の@ないしK欄の「放送ネットワーク局」欄に記載の地方のネットワーク各局(以下、同欄記載の各局を特に「本件各地方ネットワーク局」という。)と番組供給契約を締結し、同契約に基づき、本件各地方ネットワーク局と被告間のテレビ放送ネットワーク回線を使用することにより、本件各地方ネットワーク局と共同して、本件著作物が数秒間から十数秒間程度映った映像を、別紙「供給ネットワーク局と放送一覧」の「供給及び放送の日時」欄に記載の各日時に、同別紙の「番組名」欄に記載の各番組において、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内に公衆送信(放送)した。
 なお、上記の公衆送信(放送)は、いずれも上記(ア)に記載のネットワークタイムの時間帯における公衆送信であったため、同別紙の@ないしK欄の各番組は、別紙「番組目録」@ないしKに記載の番組と同一の内容で同一時間帯に放送されたものである。
(3) 本件訴えの経緯等
ア 原告は、本件著作物が本件各番組において使用されていることが判明した後、平成14年4月、被告に対して謝罪を求めたところ、被告は、別紙「番組目録」のFないしKの番組における本件著作物の無断使用(合計6回分)を認め、写真の使用につき1回当たり通常は2万円を支払うことになっているが、無断で使用した経緯にかんがみ、その倍額の24万円(=2万円×6回分×2)を支払う旨回答した(甲2)。
イ その後、原告と被告との交渉は決裂し、原告は、平成15年5月28日、本件提起前に被告と交渉した際に判明した別紙「番組目録」のFないしKの番組における本件著作物の無断使用(合計6回分)について、著作権及び著作者人格権侵害に基づく損害賠償、本件著作物の複製物の差止め及び謝罪放送を求める訴えを提起し、また、本件訴訟係属中に新たに判明した、別紙「番組目録」の@ないしEの番組における本件著作物の無断使用(合計6回分)及び本件各地方ネットワーク局の放送における本件著作物の無断使用について、平成16年2月4日、損害賠償、差止め及び謝罪広告を求める訴えを追加した。
2 本件の争点
(1) 争点1−被告が、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内に、本件著作物が使用された本件各番組を原告に許諾を得ずに公衆送信する行為は、原告の著作権(公衆送信権)の侵害と認められるか、また、侵害と認められたとして、その侵害の回数はどのように算定されるか
(2) 争点2−原告の損害額
(3) 争点3−謝罪放送、謝罪広告、差止め請求の必要性
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告が、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内に、本件著作物が使用された本件各番組を原告に許諾を得ずに公衆送信する行為は、原告の著作権(公衆送信権)の侵害と認められるか、また、侵害と認められたとして、その侵害の回数はどのように算定されるか)について
(原告の主張)
(1)ア 被告は、番組供給契約に基づき、本件各地方ネットワーク局に各番組のデータを供給し、本件各地方ネットワーク局がネットワーク回線により、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内に、被告の製作する番組を公衆送信することができるものであるから、本件著作権侵害を構成する放送番組を公衆に送信することは、被告が用意し、本件各地方ネットワーク局に送信することによってのみ可能となる。
 したがって、被告と本件各地方ネットワーク局は、共同して、本件著作権侵害行為たる公衆送信行為を行う関係に立ち、本件各地方ネットワーク局の公衆送信行為は、被告及び本件各地方ネットワーク局の共同行為とみることができる。
イ 本件各地方ネットワーク局は、被告から送信された番組を加工することなく、自動的に公衆送信しているのであるから、一連の流れをみれば、被告は、本件著作物を構成する放送番組を管理、支配していると評価され、本件各地方ネットワーク局の著作権侵害行為においては、被告が主体的役割を果たしているといえる。
ウ 以上のような被告及び本件各地方ネットワーク局の番組供給契約関係を前提とすると、被告は、自己の放送エリア内において自ら放送したことにより原告に生じた損害を賠償すべき義務を負うのみならず、加えて、本件著作物の侵害について十分認識しながら、故意に、番組供給契約により本件各地方ネットワーク局に当該番組をデータ送信して供給し、本件各地方ネットワーク局に本件著作物を放送させることにより、原告の権利侵害を惹起したものであるから、これによって原告に生じた損害を賠償すべき責任をも負うというべきである。
(2)ア 本件著作物についての侵害行為の回数は、いわゆるキー局となる被告自身の公衆送信の回数である12回と、本件各地方ネットワーク局における公衆送信の回数305回を合わせた合計317回とみるべきである。
イ 被告は、本件各地方ネットワーク局の放送エリアごとに平面的に分断して別個の公衆送信とみることは実態に沿わない旨主張するが、被告の放送エリア内における放送と各地方のネットワーク局の放送エリア内における放送は、それぞれの放送の対象、受け手として想定する公衆は異なっているから、各別の公衆送信行為とみるべきである。公衆送信行為の回数は客観的な行為によって決められるもので、当事者の主観的意図とは無関係である。キー局となる被告と本件各地方ネットワーク局の間には、番組供給契約に基づく対価関係があり、キー局がネット局に対する配信の実質的な対価を得ていることが容易に推認され、かつ、本件各地方ネットワーク局は、キー局から配信を受けた番組を公衆送信することにより当該各放送の実質的な対価を別途得ていることを考慮すれば、各ネット局の放送は、キー局の放送とは別個の公衆送信行為と解すべきである。
(3) なお、東京地方裁判所平成13年(ワ)第3851号同15年12月19日判決(以下「東京地判平15・12・19」という。)は、音楽著作物のTV放送・配信を含む事案であり、他人の音楽著作権を侵害した楽曲を収録したCDアルバムを製作・販売した者に対し、同アルバムをテレビ局のキー局及び系列局が番組中において放送したことについて、著作権者の複製権及び公衆送信権などの侵害であるとして責任を認めたものであるが、放送による損害額の算定については、1曲1回当たりの放送による著作物使用料の最低額にキー局及びその系列局において放送された回数の合計を乗じて算出しているから、テレビ放送による本件著作権侵害の事例においても、系列局の放送による侵害行為との関係を理解する際に参考とすべきである。
 また、東京地方裁判所平成14年(ワ)第4237号同15年1月29日判決は、インターネット上で電子ファイル交換サービスとサーバー提供している者について、そのサービス利用者が、同提供者のサーバーに接続すれば、サービス提供者の著作権者に対する著作権侵害となり、公衆送信権を侵害することを認めた事案であるが、同判示では、被告の行為が、原告の有する著作権を侵害するか否かについて、@被告行為の内容・性質、A被告の管理・支配の程度、B当該行為による被告の利益の状況等を総合斟酌して判断すべきとしており、この判示も、本件の著作権侵害行為の回数を算定するに当たり参考とすべきである。 
(被告の主張)
(1) 被告と本件各地方ネットワーク局との間の番組供給契約を根拠として、契約当事者ではない原告に対し、被告の損害賠償責任が生じるとする原告の主張には理由がない。すなわち、番組供給契約関係の存否は、被告による本件著作権侵害の事実の認識の有無とは別の問題であり、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内における放送は、番組供給契約に基づいて、ネットワーク回線を用い、自動的に送信されるものであるから、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内における放送について、被告に故意はなく、被告が本件各地方ネットワーク局の公衆送信行為を行わせたということはできない。
(2) 原告が引用する東京地判平15・12・19における損害賠償請求事件は、著作権侵害行為当時の社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)の使用料規程に準じて音楽著作権の使用料相当額を算定した事例であるから、写真著作物の無断使用が問題になっている本件について、東京地判平15・12・19の判断を当てはめることはできない。
2 争点2(原告の損害額)について
(原告の主張)
ア 著作権侵害による損害
(ア) 甲3(料金表)によれば、本件著作物の使用料相当額は、テレビコマーシャルにおいて、ネット(全国の地方ネットワーク局)で使用された場合の使用料である1回10万円がよるべき基準となる。
 しかし、本件著作物は、B元領事との私的交流に基づいて、原告が撮影したものであり、仮に、被告から、本件著作物の使用許諾を求められても、原告がこれを許諾することはあり得なかった。実際、被告以外のテレビ局から本件著作物の申し込みがあったが、原告は、これを拒否している。したがって、原告の被った損害については、通常の円満な取引関係による通常使用料を基準とすることはできず、上記のような特殊な事情がある場合には、著作物を1回使用するに当たり通常使用料の10倍の額をもって損害額とするのが業界の慣行である。
(イ) ところで、被告は、原告が本件訴えを提起する前に本件著作物の無断使用の回数を聞いた際には、原告に対し、被告自身の放送エリア内における公衆送信行為は6回であるとの回答していた(前記「当事者間に争いのない事実等」に記載のとおり。)にもかかわらず、本件訴訟手続中にさらに6回の無断使用行為があったことを認め、結局、合計12回に及ぶ侵害行為があったことが判明した。さらに、本件各地方ネットワーク局との間の番組供給契約に基づき、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内において、本件著作物の映像を公衆送信した回数は合計305回に及ぶことも判明した。
 そこで、原告は、当初から判明していた被告自身の侵害行為6回分については、通常使用料相当額の10倍をもって損害額とする業界の慣行を基礎として、損害額を計算し、後に判明した被告自身の侵害行為6回及び、被告と本件各地方ネットワーク局との共同行為による侵害行為305回については、無断使用の場合には10倍を乗じた額とするとの業界の慣行は事情として述べるに留め、通常使用料相当額で算定することとした。
 そうすると、次の計算式のとおり、原告の被った損害額の合計は、3710万円を下らない。
a 当初から判明していた被告自身の放送エリア内における公衆送信行為合計6回について
 〔計算式〕10万円×6回×10=600万円
b 後に判明した被告自身の放送エリア内における公衆送信行為合計6回及び本件各地方ネットワーク局の放送エリア内における公衆送信行為合計305回
 〔計算式〕(6回+305回)×10万円=3110万円
(ウ) 被告は、本件著作物の使用許諾相当額は、1回あたり2万円である旨主張するが、一般に、写真の使用許諾料は、写真家、写真の被写体の内容、使用媒体などにより差異があり、被告が提出する写真料金表は、いわゆるストック物といわれる「ストック・フォト」の場合の料金表である。ここにいう「ストック・フォト」とは、広告物やイメージ写真などによく使われる写真であって、花などの静物写真、風景写真、子犬など、使い回しが可能なフォトライブラリーなどから借りる写真のことをいう。これに対し、政治、芸能、スポーツ、事件等を扱ったいわゆるスクープ物の写真の場合には、1回の使用料は、1枚10万円、あるいは30万円以上ということもある。スクープ物の場合、写真の希少価値と当事者間の交渉によって値段が決まり、千載一遇のチャンスで撮ったもので、2度と撮影不可能な写真であり、ストック物の値段とは全く異なる。したがって、写真の使用をライセンス許諾する場合の使用許諾料というものは、撮影した写真家及び写真の内容と契約交渉によって様々なケースがあり、一律に料金表で値段が決まるわけではない。
 本件著作物は、当時、話題の人であった元総領事がテンガロンハットをかぶってくつろいだ表情を浮かべている写真であるから、いわゆるスクープ物の写真である。したがって、本件写真の使用許諾料相当額が1回10万円であるという原告の主張は、仮に形としての料金表がないとしても、写真家業界の実態からして根拠のあるものである。
 したがって、被告が主張する1回2万円(侵害の場合には倍額の4万円)という金額は根拠がない。
(エ) また、本件における著作権侵害による損害額については、次に挙げる諸事情も斟酌して算定すべきである。
a 著作権法114条3項にいう「著作権の行使につき受けるべき金銭の額」の算定に当たっては、侵害に係る著作物の内容及びその著作物の使用が、番組の視聴率等に寄与する程度が考慮されるべきである。
 本件各番組が放送された平成13年7月当時は、裏金プール問題、領事による裏金の私的流用等の外務省の不祥事が発覚した時期であり、外務省関連の報道はワイドショー等における格好の話題であった。そして、デンバー総領事であったB元領事の公費流用、あるいは、公邸修繕費の水増請求疑惑事件(以下「デンバー事件」という。)においては、B元総領事の顔写真の映像がなければ、本件各番組において、デンバー事件のストーリーやB元領事に対する被告の論調を効果的に見せることができなかったということができる。いいかえれば、被告が、本件著作物を入手できなければデンバー事件の報道自体が成立しなかったとさえ、いうことができる。テンガロンハットをかぶり、くつろいだ表情で写っているB元領事の映像が、テレビの視聴者に与えるインパクトは、たとえ映像としては数秒間に過ぎなくても、一連の番組報道には不可欠の要素であったというべきである。
b また、テレビ放送番組は、出版社等の活字媒体とは異なり、表現素材として映像の占める割合が高く、視覚的印象第一のメディアであり、キー局となる被告のみならず、全国ネット及び地方のローカルネット各局で、著作物を無断使用された場合、発行部数十数万部の大手出版社の出版物と比べれば、番組視聴者の数は1回につき、数百万人から1千万人単位で存在することもあり得るから、テレビ放送は、他のメディアと比較にならないほど大きな社会的影響力を持つものである。
c さらに、被告は、自社のホームページ上において、著作権が自社に帰属する著作物について、第三者がこれを侵害する行為に対し警告を発している上、日本の代表的なマスメディアとして、放送倫理、報道責任を十分に自覚すべき立場にあるのに、本件著作物については、全く無造作に無断使用しているものであることを考慮すると、著作権侵害の態様としては極めて違法性が高いといえる。
d 被告は、本件ウェブページ上に掲載した原告作成に係るB元領事に対するインタビューにおけるコメントの中の「B 私自身絵画に興味があり、」という部分を、画面いっぱいに拡大してスライドさせて字面を追う放送を行い、これを「(B元領事が)公金を横領し絵画を購入した」という報道部分と結びつけるなど、本件著作物は、被告に都合よく一部分が強調されて使用されている。
 したがって、被告は、単に本件著作物にとどまらず、本件ウェブページ全体を侵害しているともいえる。
e 被告が放映した番組によれば、本件ウェブページを撮影したのは、平成13年7月10日の放送の1週間前である日本時間同月3日であるから、被告が、原告に対し、本件著作物の使用許諾を要請しようとすれば、その機会と十分な時間があったはずである。
 しかし、被告は、原告に対し、何ら使用許諾の要請を行わず、本件各番組において、本件著作物を写した映像を放送したものである。
 この点、被告は、本件著作物の著作権者はB元領事本人と認識していたもので、原告の著作物であるとは認識していなかったと主張するが、実際には、B元領事に対しても許諾を求めていないのであるから、被告の主張が措信できないことは明らかである。
イ 著作者人格権の侵害等による精神的損害
(ア) 前記「当事者間に争いのない事実等」に記載のとおり、被告は、本件著作物を使用した番組を初めて放送した、平成13年7月10日放送の「ニュース プラス1」及び「きょうの出来事」において、本件ウェブページ全体の映像を映した上、そのナレーションにおいて、「B氏のホームページ」と述べて、同番組を見た視聴者に対し、本件著作物の出所を明示しているかのように報道し、事実と異なる出所表示をしたもので、このような場合、放送法5条により、訂正放送を請求することも可能であるところ、原告は米国に在住していたため、被告の侵害行為を知ったのは、本件各番組が放送されてから3か月経過した後であり、訂正放送の請求をすることはできなかった。
 したがって、本件のように虚偽の放送をされた者の権利侵害による賠償額の算定については、放送法4条の趣旨にかんがみて、その額を算定すべきである。
(イ) また、前記「当事者間に争いのない事実等」に記載のとおり、原告は、別紙「番組目録」のF、H、J欄記載の番組の放送において、本件ウェブページ上の数センチメートル角にすぎない本件著作物を、テレビ画面に一杯に写し、顔周辺には楕円形の額縁のような黒い影を入れており、いかにも「被告人」といったダークなイメージを与える加工を施した上で放送したものである(なお、この時期は、B元領事の懲戒免職決定後であったので、B元領事の刑事告訴も世間の関心事にあった時期であった。)。
 したがって、著作者人格権たる同一性保持権(著作権法20条1項)の侵害行為による賠償額の算定には、勝手に加工を施した上記事情を斟酌すべきである。
(ウ) さらに、本件著作物は、B元総領事が、テンガロンハットをかぶったもので、原告とB元総領事の私的な交流を前提として初めて撮影された写真であって、他では入手困難な写真である。原告は、私的交流を通じて知り得たデンバー元総領事の人柄を、デンバー在住の邦人に伝えることを目的の1つとして、本件ウェブページ上に掲載したものであり、本件ウェブページには、「コ 禁無断転載」の警告があるにもかかわらず、被告は、原告に無断で使用したものである。
 そして、日本のマスコミが、一連の外務省不祥事の報道の中で面白おかしく、デンバー事件を報道したことにより、原告は知人の顔写真をマスコミに売った者であるとの風評が米国邦人社会内で広がり、原告の信用が著しく低下したもので、原告が被った精神的損害は言い尽くせない。
(エ) 以上のような事情にかんがみるならば、被告の著作者人格権侵害行為及び不法行為に基づく精神的損害は少なくとも400万円を下らないものというべきである。
ウ 弁護士費用 
 本件については、次のとおり、原告が被った損害額の10%に当たる合計411万円を弁護士費用として請求するのが相当である。
(ア) 訴状における請求について 100万円
 〔計算式〕(600万円(公衆送信権侵害・上記ア(イ)a)+400万円(著作者人格権侵害・上記イ))×0.1=100万円      
(イ) 訴え変更申立書による請求について 311万円
 〔計算式〕3110万円(公衆送信権侵害・上記ア(イ)b)×0.1=311万円
エ まとめ
 以上のとおり、被告の行為によって生じた原告の損害額は、合計4521万円になる。
 〔計算式〕600万円(上記ア(イ)a)+3110万円(上記ア(イ)b)+400万円(上記イ)+411万円(上記ウ)=4521万円
 そこで、原告は、被告に対し、損害賠償として上記合計額4521万円及びこれに対する最後の侵害行為の日である平成13年7月31日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
ア 著作権侵害について
(ア) 一般に、写真1枚をテレビ放送に使用する場合の使用料は、1回当たり1万円から3万円程度が通常であり、被告は、テレビ放送業界において最も平均的な2万円を標準としている。
 そして、被告は、本件各地方ネットワーク局と共同して、合計12回の公衆送信を行ったものであるから、原告が主張するように、当該公衆送信を各エリアごとに平面的に分断して別個の公衆送信とみることは実態に沿わず、かつ、全国ネットワーク放送を1回の放送として写真使用料を算定する実務とも合致しない。
 したがって、本件著作物の使用許諾料相当損害金としては、全国ネットワーク放送1回当たり2万円とし、合計24万円(2万円×12回分)前後が相当である。
(イ) あるいは、テレビ放送業界において、1枚の写真を短期間に多数回使用する場合、適宜の割引がされるのが通常であり、乙1(料金表)において、1クールの連続使用時、及び初回使用から6か月内の再使用、再々使用については、割引価格が適用されている。
 本件著作物を使用した本件各番組の放送は、平成13年7月10日から同月31日の間に行われており、1クール(13週間)以内に収まっている。このような被告の使用状況から損害額を算定すると、上記料金表の「テレビCF(1クール)ネット」の欄に記載された10万円から、エージェントの手数料を控除した残額8万円前後程度となるというべきである。
 この点、原告が算定の基礎としている10万円は、「テレビCF(1クール)」と明記されているとおり、テレビコマーシャルにおいて1クール(13週間)にわたって放送する場合の包括的使用料であって、1回当たりの料金ではなく、また、原告は、写真の無断使用について、10倍賠償の業界慣行があるとも主張しているが、東京地方裁判所平成8年(ワ)第8477号同11年3月26日判決においても、そのような主張は明確に否定されている。
(ウ)a 原告は、本件著作物がなければ、報道自体が成立しなかった旨主張するが、乙2(ビデオカウンター表示0:02:54)のビデオ映像から明らかなとおり、被告は、本件各番組放送当時、デンバー事件についてインタビューに答えるB元領事を撮影した映像を入手し、これも本件各番組においても使用していたものであるから、原告の主張には無理がある。
b また、原告は、テレビ放送による著作物の無断使用は、出版物と比べると、社会的影響力が大きい旨も主張するが、大手出版社の出版物は、紙媒体に固定されて日本全国の書店に流通し、その購入者のみならず、図書館、銀行、病院の待合室等において広く公衆の閲覧に供されるほか、古書店において2次流通し、長期にわたり広く読者の目に触れる機会があるから、必ずしもテレビ放送による著作権侵害の方が、出版物による侵害の場合よりも影響が大きいとはいえない。そして、被告が、本件各番組において、本件著作物を使用したのは、それぞれ数秒ないし十数秒にとどまること、被告以外の他の放送局においても本件著作物が使用されていたこと、テレビ放送において、静止画が視聴者に与えるインパクトは、動画と比較して一般的に相当小さいこと等からして、本件著作物が写った映像の使用は、番組の視聴率に影響を与えるようなものではなく、損害額に影響しない。
 被告は、B元領事を揶揄して番組の視聴率を上げるために、本件著作物を使用したものでもない。
c さらに、本件ウェブページに記載されたコメントの引用については、B元領事が、外務省の公金を横領して絵画を購入したとされる事件の報道に必要な限度において使用したものである。
d また、原告は、1週間という期間があれば、原告に対し、本件著作物の使用許諾を求めることができたとも主張するが、被告スタッフらは、B元領事が本件著作物の著作者と誤認していたものである。
イ 著作者人格権の侵害等の精神的損害について
(ア) 被告の行為により、原告が有する氏名表示権及び同一性保持権が侵害されたことは認めるが、原告が受けた信用毀損・経済的損失等の程度は、原告が請求する額に匹敵するほど大きくないというべきである。
(イ) 被告は、アメリカにおいて、本件著作物を使用したテレビ報道を行っていないし、日本国内で放送された本件各番組において、本件著作物を見た「アメリカ在住の邦人社会」は存在しないか、あるいは、仮に存在したとしても極めて少数と考えられる。そして、被告は、事実誤認により、本件著作物は、B元領事のウェブサイトに掲載されていると報道していたのであって、原告の氏名もしくはロッキー時報社の名称について全く触れていない上、原告から被告に対し、本件についての問い合わせがあったのは、本件各番組が放送された平成13年7月から約9か月も経過した平成14年4月になってからのことである。したがって、「知人の顔写真を日本のマスコミに売ったとの風評がアメリカ邦人社会内で立った。」旨の原告の主張は、その事実の存在自体そもそも疑問である。
(ウ) なお、被告が、楕円形の額縁のような黒い影を入れたのは、輪郭をはっきりさせるためであって、被告人といったダークなイメージを与えるものではない。
ウ 弁護士費用について
 被告は、著作権者の権利を広く認める立場から、原告の主張に対して、著作権法上の抗弁を申し立てることなく、事前交渉の段階から99万円を上限とする金員の支払を申し出ており、その一方で、原告の主張する損害の総額は当初から問題があった。
 したがって、このような場合は、被告の行為と弁護士費用との間に相当因果関係は認められず、被告が賠償すべき損害額に弁護士費用を加算する理由はない。
3 争点3(謝罪放送、謝罪広告、差止め請求の要否)について
(原告の主張)
(1) 被告が、本件各番組における本件著作物の使用について、原告の氏名を表示せず、事実に反する出所表示をしたことにより、著作者としての原告の名誉、声望が著しく損なわれたから、著作権法115条に基づく名誉回復の措置として、被告は、別紙「謝罪放送目録」記載のとおり謝罪放送し、また、別紙「謝罪広告目録」記載の謝罪広告を掲載すべきである。
(2) さらに、同法112条2項に基づき、被告は、本件著作物を複製した写真あるいは本件各番組において使用された録画テープをすべて廃棄すべきである。
(被告の主張)
(1) 本件著作物の使用態様、本件各番組の放送から既に約2年が経過していること、被告が、原告に対し、既に書面にて謝罪を行い、損害賠償の支払を申し出ていることなどにかんがみれば、謝罪放送あるいは、謝罪広告の必要性があるとは考えられない。
 B元領事は、既に外務省から懲戒免職処分を受け、水増し請求した公邸修繕費等についても、外務省への弁済を終えて、背任容疑の告発については起訴猶予処分を受けているのであって、B元領事の生活の平穏等を考慮すれば、今の段階で、謝罪放送等を行う必要性があるとの原告の主張は疑問である。
(2) 被告は、本件ウェブページが表示されたモニター画面をテレビカメラで撮影して本件著作物を複製し、テレビ放送に使用したもので、本件著作物を複製した「写真」は作成していない。
 そして、本件各番組以外には、本件著作物をテレビ放送しておらず、今後も本件著作物を複製、または、テレビ放送等により公衆送信する意思はない。
 被告は、本件ウェブページが表示された本件著作物の複製物が収録されているその他の一切のビデオテープについて、本件訴訟においてそれらの証拠調べの必要がなくなった段階で、本件著作物の複製に当たる部分を消去する方針である。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告が、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内に、本件著作物が使用された本件各番組を原告に許諾を得ずに公衆送信する行為は、原告の著作権(公衆送信権)の侵害と認められるか、また、侵害と認められたとして、その侵害の回数はどのように算定されるか)について
(1) 前記「当事者間に争いのない事実等」(第2、1)に記載のとおり、被告と各地方のネットワーク局は、番組供給契約に基づき、ネットワークタイムとよばれる時間帯におけるテレビジョン番組を、同一時間に、同一の内容で、各地方のネットワーク局の放送エリア内で放送する。
 そして、各地方のネットワーク局の放送エリア内における放送は、被告自身が認めているように、被告と各地方のネットワーク局との共同行為により実現するものであり、ネットワークタイムの時間帯におけるテレビジョン番組において、著作権あるいは著作者人格権を侵害する行為がされれば、各地方のネットワーク局の放送エリア内における放送においても、それぞれ著作権及び著作者人格権が侵害されることになる。
 この点につき、被告は、各地方のネットワーク局の放送エリア内における放送は、番組供給契約に基づいて、ネットワーク回線を用い、自動的に送信されるものであるから、各地方のネットワーク局の放送エリア内における放送について、被告に故意はない旨主張する。
 しかし、被告は、放送事業者として、自ら放送する番組において、他のウェブページに掲載された写真等の著作物を使用するに当たり、一般的に、その著作者の著作権及び著作者人格権を侵害することがないよう注意すべき義務を負うものである上、番組供給契約を締結し、ネットワークタイム時に放送するテレビジョン番組については、被告の放送エリア内だけでなく、各地方のネットワーク局の放送エリア内にも同一の内容の番組が放送されることを認識しているのであるから、これらの番組においても、著作権及び著作者人格権を侵害することがないよう注意すべき義務を負うというべきである。
 本件において、被告は、本件ウェブページは、原告の著作物とは認識しておらず、B元領事のものと誤認していた旨主張するのみであり、それ以上に、著作者の著作権及び著作者人格権を侵害するかどうかを考慮したことは本件全証拠によっても認められないから、本件著作物の映像を本件各番組において使用したことにより、被告の放送エリア内だけでなく、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内にも、本件著作物の映像が放送されたことについて、被告には、上記注意義務を怠った過失があるというべきである。
(2) そして、被告は、被告の放送エリア内における被告自身の公衆送信行為のほか、各地方のネットワーク局と共同して、本件各地方ネットワーク局の放送エリア内における公衆送信を行うものであるから、本件においても、本件各地方ネットワーク局の公衆送信行為の数だけ、著作権侵害行為があったとみるべきである。
 この点、被告は、写真の使用料が全国放送1回当たりで計算されることなどを根拠として、被告の放送エリア内における公衆送信行為の回数を被告の著作権侵害行為の回数とみるべきであると主張するが、乙7に添付された各種の使用料の規定は、あくまでも写真の使用料として請求する場合の目安にすぎず、公衆送信行為の数、著作権侵害行為の回数をどのように算定するかとは関係がない。
2 争点2(原告の損害額)について
(1) 前記「当事者間に争いのない事実等」(第2、1)記載の事実に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
ア 乙1(株式会社フォトオフィスプラスワンの「ストックフォト使用料金表」)によると、国内において、いわゆるフォトライブラリーといわれる写真の貸出業務を行っている写真ライブラリー業者が、写真をテレビ放送や映画番組に使用させた場合の使用料は、1998年(平成10年)7月当時、1回当たり3万円と規定されている。また、同じく乙1には、テレビCF(1クール)は、ネット(全国ネット)で10万円、1局5万円、スポット4万円などとも規定されている上、乙7(被告代理人作成の「写真使用料についての報告書」)に添付された別紙2(TBS事業局メディア事業センター作成の「写真使用料金表」)によれば、全国ネットの場合、TBS製作のものは3万円、外部製作のものは1万円とされている。
 そのほか、乙7に添付された別紙3、4、6によれば、全国ネットと地方局のものを分けて規定されているものはないが、いずれも写真1枚をテレビ放送に使用する場合、1回当たり3万円前後と規定されている。
イ また、甲9及び10(いずれも原告本人陳述書)によれば、本件著作物は、原告とB元領事との私的交流に基づいて撮影されたものであったため、仮に、原告において、被告から本件各番組における本件著作物の使用を求められても、原告はその使用を許諾することはなかったものであることが認められる。
ウ 被告は、本件ウェブページが表示されたモニター画面をテレビカメラで撮影して本件著作物を複製し、本件各番組において使用したものである。
(2) 上記(1)の事実及び「当事者間に争いのない事実等」記載の事実を前提として、まず、公衆送信権の侵害による損害額について判断する。
ア 前記「当事者間に争いのない事実等」に記載のとおり、被告は、自己の放送エリア内において合計12回の公衆送信を行い、また、本件各地方ネットワーク局と共同して本件各地方ネットワーク局の放送エリア内において合計305回の公衆送信を行ったものである。
 そして、上記(1)アによれば、一般的なフォトライブラリー業界において用いられている基準でも、写真を全国ネットのテレビジョン番組において使用する場合には、各地方のネットワーク局においても同時に公衆送信が行われることを前提にその使用料が規定されていることが認められる。つまり、各使用料規定における1回当たりの使用料には、当該著作物を当該放送事業者(キー局)が放送に使用することの許諾及び当該放送事業者と番組供給契約を締結した放送事業者(ネットワーク局)がキー局と同時に放送に使用することの許諾の対価として定められているものと解される。
 したがって、本件においても、キー局となる被告における公衆送信、及び、本件各地方ネットワーク局におけるそれぞれの公衆送信について使用料を算定する際には、使用料規定における全国ネットの1回当たりの使用料を基準とするのが相当である。
イ そして、上記(1)及び(2)アの事実及び前記「当事者間に争いのない事実等」に記載の本件著作物の使用状況等に加えて、上記(1)記載の写真使用料が主としていわゆるフォトライブラリーの保有する時事性と無関係ないわば素材としての写真を対象として定められたものであるのに対して、本件著作物が、平成13年7月当時のいわゆる外務省不祥事の報道との関係で時事性を有していたものであり、また、原告とB元領事との私的交流に基づいて撮影されたもので商業的利用を想定しないものであったこと等の事情をも併せ考慮すれば、本件各番組において本件著作物を公衆送信した行為については、キー局となる被告が1回公衆送信(放送)し、ネット局たる地方の各ネットワーク局(放送事業者)が同時に公衆送信(放送)するに当たり、5万円をもって、著作権法114条3項所定の損害額と認めるのが相当である。
 そうすると、被告が、本件著作物を撮影した録画ビデオテープを本件各番組において公衆送信(放送)したことについて、原告が受けるべき金額を算定すると、1回当たり5万円に被告自身の公衆送信行為の回数である12回を乗じた額であり、次の計算式のとおり、合計60万円となる。
 〔計算式〕5万円×12回=60万円
 この点につき、原告は、甲18ないし21などを示し、本件著作物は事件などをスクープした、希少価値を有する写真で、いわばスクープ物とよばれる写真と同程度の価値を有するというべきであるから、本件著作物の使用1回当たり10万円、あるいは、30万円以上することもある旨主張する。たしかに、前述のとおり、本件著作物は時事性を有するものであり、また、原告とB元領事との私的交流に基づいて撮影されたものであることは認められるが、他方、本件著作物は本件ウェブサイト上に掲載するために撮影された肖像写真であり、かつ、既に本件ウェブサイト上に掲載されていたものであり(甲1)、また、他のB元領事の肖像写真と代替性を有しないとまではいえず、スクープ物の写真と同等に評価することはできないものであるから、上記の点を考慮しても、損害額としては、上記の金額にとどまるというべきである。
ウ 原告は、一般に写真が無断使用され、かつ、許諾を求められても許諾しなかったような特殊な事情がある場合には、通常の使用料の10倍の価額をもって損害額とするのが業界の慣行である旨主張し、「無断使用の補償金は、‥‥‥通常の使用料金の数倍から10倍が常識である。」などと記載された日本写真家協会ウェブサイト(甲4)や、「無断使用の場合には、通常料金の10倍をペナルティーとして請求・お支払いいただきます。」などと記載された写真貸し出し料金表(甲7)を提出する。
 しかしながら、原告が提出する証拠のみで、一般的に写真が無断使用された場合の許諾料を通常料金の10倍とする旨の業界の慣習が存在するとまでは認めることができないから、原告主張の額をもって著作権法114条3項所定の損害額とすることはできない。
エ その他、原告は、本件著作物の無断使用による損害の算定にあたって斟酌すべきものとして様々な事情を挙げるが、次のとおり、いずれの主張も採用できない。
(ア) 原告は、テレビジョン番組の放送は、出版社等の活字媒体とは異なり、視聴者に与える影響が大きく、出版物による複製権侵害の場合より社会的影響が大きい旨主張する。
 しかし、テレビジョン番組の放送によった場合、その社会的影響が大きいことが否定できないとしても、その影響は一時的なものであって、出版物のように長期間流通するものではないことなどを考慮すると、テレビジョン番組において使用されたという事情が、出版物による場合を上回る影響力があるとは一概にいえないというべきで、原告の主張は採用できない。
(イ) また、原告は、被告が、本件ウェブページ上のコメントを不当に引用していること等も主張するが、仮にウェブページ上のコメントが不当に引用されたとしても、そのこと自体は、本件著作物の公衆送信権侵害の損害額を算定するに当たって考慮すべき事情とはいえない。
(ウ) さらに、原告は、本件ウェブサイトに表示された日付から、被告が本件著作物について、著作者に使用許諾を求めようと思えば、十分な時間と機会があったというべきである旨も主張するが、この点についても、公衆送信権の侵害による損害額を算定するに当たって考慮すべき事情といえない。
(エ) 原告は、本件著作物の映像がなければ、報道自体が成立しなかったなどと主張するが、乙2(ビデオカウンター表示0:02:54)のビデオ映像から明らかなとおり、被告は、本件著作物の映像のみならず、インタビューに答えるB元領事を撮影した映像等も使用し、デンバー事件を報道していたことが認められるから、原告の主張は採用できない。
(オ) なお、上記以外にも、原告は、平成15年12月17日付け第2準備書面(7頁)などで、被告が極めてずさんな取材に基づく報道をしているとして、その一例として、「アメリカ・デンバー総領事公邸」として被告が放映した建物(甲13)はデンバー総領事公邸ではないこと、あるいは、被告において視聴率操作等の問題があったこと、被告のホームページには、被告のウェブページに掲載された事項について無断で使用することを禁ずることが掲げられていること(甲5)などを示し、被告のメディアとしての態勢に問題があり、本件著作権侵害行為も、そうした被告の態勢自体に問題があることから生じたもので違法性が高い旨も主張し、甲11、16、17、21(いずれも枝番号は省略。)を提出する。
 たしかに、テレビ局が、テレビジョン番組の放送に当たって、自らの社会的影響力を自覚し、写真、ナレーション等について、慎重な配慮をすべきことは当然のことであるとしても、原告が指摘する上記事情は、本件の著作権侵害についての損害賠償額を算定するに当たっては関係のない事情というべきであるから、この点における原告の主張も採用できない。
(3) 次に、氏名表示権及び同一性保持権の侵害による損害額(慰謝料)について判断する。
 前記「当事者間に争いのない事実等」に記載のとおり、被告の公衆送信及び本件各地方ネットワーク局の各公衆送信においては、本件著作物の一部分を著作者として原告の氏名を表示しないで放送されたものであるところ、そのうち、平成13年7月10日放送の「ニュース プラス1」及び「きょうの出来事」においては、本件ウェブページ全体の映像を映した上で、そのナレーションにおいて「B氏のホームページ」と述べて、同番組を見た視聴者に対し、本件著作物の出所を明示しているかのように報道し、本件著作物につき、著作者として原告の氏名を表示しなかったにとどまらず、事実と異なる出所表示をしたものであり、その点において氏名表示権の侵害態様は悪質である。しかしながら、他方、前述(上記(2)イ)のとおり、本件著作物は本件ウェブサイト上に掲載するために撮影された肖像写真であって、被告による放送に先んじて既に本件ウェブサイト上に掲載され、公開されていたものであるところ、本件ウェブサイトにおいて本件著作物には著作者として原告の氏名は表示されていなかったものである。また、番組において本件著作物における顔の部分は改変されておらず、背景を変更したにすぎないものであること(甲12の1)、各番組において本件著作物の映像が放送された時間は、6秒から長いもので16秒に過ぎないこと(別紙「本件著作物の使用状況」に記載のとおり。)などの事情が認められる。
 これらの諸事情を総合すれば、被告の公衆送信及び本件各地方ネットワーク局の各公衆送信における本件著作物の氏名表示権及び同一性保持権の侵害による損害額(慰謝料)としては、10万円をもって相当と認める。
(4) 弁護士費用
ア 原告が、本訴提起及び遂行のために弁護士を選任したことは当裁判所に顕著であり、本件事案の内容、審理の経緯その他諸般の事情を考慮すれば、原告に生じた弁護士費用のうち30万円については、被告の公衆送信権侵害・著作者人格権侵害の不法行為と相当因果関係のある損害として被告に負担されるべきものと認めるのが相当である。
イ この点に関し、被告は、本件訴訟提起前から、被告が著作権侵害について何ら反論を申し立てず、原告に対して謝罪し、金銭支払いを申し出ていた事情があることにかんがみれば、被告の上記侵害行為と弁護士費用との間に相当因果関係はない旨を主張し、甲2(謝罪と金銭賠償を申し出た電子メール)の存在を指摘するが、事前交渉において話合いがつかず、訴訟に至ることは通常あり得る経緯というべきであるから、このような事情が存したからといって、被告の侵害行為と弁護士費用との間に相当因果関係が否定されるものではない。
(5) まとめ
 以上をまとめると、原告が被った被告の著作権侵害による損害は計60万円、著作者人格権侵害による損害は計10万円、弁護士費用は計30万円であり、これらを合計すると100万円が原告が被った損害額となる。
3 争点3(謝罪放送及び謝罪広告、差止め請求の要否)について
(1) 原告は、被告の氏名表示権の侵害行為により、本件著作物の著作者としての原告の名誉、声望が著しく損なわれたため、謝罪放送及び謝罪広告が必要である旨述べる。
 本件において、被告が放送した本件各番組中、本件著作物が掲載された本件ウェブページを「B元領事のホームページ」と真実に反するナレーションにより紹介したことがあることについて、氏名表示権の侵害にあたることは当事者間に争いがないとしても、このことにより謝罪放送あるいは謝罪広告を掲載する必要性を認め得るほど、原告の名誉又は声望が侵害されたとまでは認められない(なお、放送法上、真実と異なる放送を放送事業者が行った場合、訂正放送の制度が認められていること(同法4条)、新聞等の刊行物と異なり、放送については、番組の編成内容は、放送事業者のみで決定することができないことなどをを考慮すれば、そもそも、謝罪放送については、著作権侵害による名誉回復措置として、相当なものとは解されない。)。
(2) また、著作権法112条1項において、著作権者等は、その権利を「侵害する者や侵害するおそれのある者」に対して、「その侵害の停止又は予防を請求することができる」と定められ、同規定は、著作権侵害が発覚した後の事後の損害賠償だけでは適切な法益の保護を図ることが困難であると認められる場合に限り、相手方が善意・無過失であっても、侵害の停止や予防を請求することができることを規定したものであり、さらに、同条1項のみでは著作権あるいは著作者人格権が保護されない場合があることにかんがみて、同条2項において、侵害行為の停止や予防を請求する際に、侵害の行為によって作成された物等の廃棄、その他侵害の停止・予防に必要な措置を講ずることができる旨定められているものである。
 本件についてみると、被告が、本件著作物を撮影したものを録画するなどして複製し、これを公衆送信するおそれは否定できないから、本件著作物を複製し、あるいは公衆送信する行為につき、これを差止めを求める必要性は認められる。
 しかし、本件著作物を複製した写真あるいは本件著作物を撮影して録画した本件各番組において使用された録画テープの廃棄請求については、その必要性を認めるに足りる証拠はない。すなわち、まず、本件各番組における本件著作物の使用は、本件著作物が掲載された本件ウェブページを撮影して録画したものである旨主張しており、本件著作物を写真にして複製したものが存在することについて本件証拠から明らかでない。
 したがって、本件著作物を写真として複製したものについての廃棄請求はその前提を欠くというべきであり、理由がない。
 そして、本件各番組の録画テープについては、公衆送信を禁じられれば、これを廃棄する必要性までは認められないというべきであるから、本件各番組の録画テープについての廃棄請求もまた、理由がない。
4 結論
 以上によれば、原告の本訴請求のうち、損害賠償請求については、100万円及びこれに対する平成13年7月31日(最後の放送の日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、差止め請求については、本件著作物の複製ないし公衆送信の差止めを求める限度で、それぞれ理由があり、その余の請求はいずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 松岡千帆
 裁判官 大須賀寛之は転任のため、署名押印できない。

裁判長裁判官 三村量一
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