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【事件名】国語副教材への作品無断使用事件(教学研究社)
【年月日】平成16年5月28日
 東京地裁 平成14年(ワ)第15570号 出版差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年2月24日)

判決
当事者の表示 別紙のとおり


主文
1 被告は、原告Aに対し、金275万2728円及び別紙1(損害金目録)の同原告欄記載の金員を支払え。
2 被告は、原告Bに対し、金154万6228円及び別紙1(損害金目録)の同原告欄記載の金員を支払え。 
3 被告は、原告Cに対し、金296万8367円及び別紙1(損害金目録)の同原告欄記載の金員を支払え。
4 被告は、原告Dに対し、金22万0507円及び別紙1(損害金目録)の同原告欄記載の金員を支払え。
5 被告は、原告EことFに対し、金242万7861円及び別紙1(損害金目録)の同原告欄記載の金員を支払え。
6 被告は、原告GことHに対し、金219万3436円及び別紙1(損害金目録)の同原告欄記載の金員を支払え。
7 被告は、原告Iに対し、金166万4487円及び別紙1(損害金目録)の同原告欄記載の金員を支払え。
8 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
9 訴訟費用は、これを7分し、その1を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。
10 この判決は、第1ないし7項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙2(教材目録)記載の各教材の印刷、出版、販売又は譲渡をしてはならない。
2(1) 被告は、原告Aに対し、金2621万3856円及びこれに対する別紙3(原告損害金目録)記載の金員を支払え。
(2) 被告は、原告Bに対し、金999万1284円及びこれに対する別紙3(原告損害金目録)記載の金員を支払え。 
(3) 被告は、原告Cに対し、金2028万8132円及びこれに対する別紙3(原告損害金目録)記載の金員を支払え。
(4) 被告は、原告Dに対し、金204万5027円及びこれに対する別紙3(原告損害金目録)記載の金員を支払え。
(5) 被告は、原告EことFに対し、金1786万6741円及びこれに対する別紙3(原告損害金目録)記載の金員を支払え。
(6) 被告は、原告GことHに対し、金1411万8004円及びこれに対する別紙3(原告損害金目録)記載の金員を支払え。
(7) 被告は、原告Iに対し、金898万2468円及びこれに対する別紙3(原告損害金目録)記載の金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 争いのない事実等
(1) 当事者
 原告らは、詩人又は童話作家である。被告は、学習教材等を製作販売する教材出版社である。
(2) 原告らの権利
 原告Aは、別紙4(著作物目録)1−1ないし8記載の各著作物(以下、それぞれを同目録の「著作物番号」欄記載の番号にしたがって、「本件著作物1−1」などという。)の著作者であり、著作権者である。なお、本件著作物1−4ないし7は原告Aが翻訳したものである。
 原告Bは、別紙4(著作物目録)2−1及び2記載の各著作物の著作者であり、著作権者である。
 原告Cは、別紙4(著作物目録)3−1及び2記載の各著作物の著作者であり、著作権者である。
 原告Dは、別紙4(著作物目録)4−1及び2記載の各著作物の著作者であり、著作権者である。
 原告Fは、別紙4(著作物目録)5−1記載の著作物の著作者であり、著作権者である。なお、本件著作物5−1は、同原告が翻訳したものである。
 原告Hは、別紙4(著作物目録)6−1ないし6記載の各著作物の著作者であり、著作権者である。
 原告Iは、別紙4(著作物目録)7−1記載の著作物の著作者であり、著作権者である。
 原告らの上記著作物(以下、これらを併せて「本件各著作物」という。)は、小学校用及び中学校用国語検定教科書に掲載されている。
(3) 被告の行為
 被告は、本件各著作物を複製した別紙2(教材目録)記載の各教材(以下、それぞれを同目録の「教材番号」欄記載の番号にしたがって、「本件教材1−1」などといい、これらを併せて「本件各教材」という。甲16ないし38、44ないし46、64、67ないし69、72ないし78。枝番のあるものは枝番を含む。)を印刷、出版して複製し、全国の一般書店を通じて販売することにより譲渡している。
(4) 本件各教材における本件各著作物の取扱い
 本件各教材の別紙2(教材目録)の「複製箇所(教材)」欄記載の箇所には、同「著作者名」欄記載の各原告の同「著作物名」欄記載の各著作物のうち、同「複製箇所(著作物)」欄記載の箇所が複製されて掲載されている。
 また、別紙5(改変内容一覧表)の「教材名」欄記載の本件各教材においては、同「改変内容」欄記載のとおり本件各著作物の表現が改変され(別紙5の<50>については争いがある。)、同「かなを漢字に変換」欄に○が記されている本件各教材においては、具体的に、別紙6(かな・漢字変換一覧表)の「改変箇所」欄記載の表現が同「改変前」欄から同「改変後」欄記載のとおりに改変されている。
 さらに、別紙7(氏名表示権侵害一覧表)の「教材名」欄記載の本件各教材においては、同「著作者名」欄記載の著作者の表示がない。
2 本件は、本件各著作物の著作者であり著作権者である原告らが、被告が本件各教材を印刷、出版及び譲渡をする行為が、原告らの著作権(複製権及び譲渡権)並びに著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害すると主張して、被告に対し、本件各教材の印刷、出版、販売及び譲渡の差止めを請求するとともに、民法709条に基づく損害賠償を請求する事案である。
3 争点
(1) 著作権侵害の成否
ア 被告が本件各著作物を本件各教材に複製することが、著作権法32条1項にいう引用に当たるか
イ 被告が本件各著作物を本件各教材に複製することが、著作権法36条1項の試験問題としての複製に当たるか
ウ 公正利用(フェア・ユース)の法理の適用の可否
(2) 著作者人格権侵害の成否
ア 被告の行為が、原告ら(原告Dを除く。)の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するか
イ 被告の行為が、原告らの著作者人格権(氏名表示権)を侵害するか
(3) 本件請求が権利濫用に当たるか
(4) 差止めの必要性の有無
(5) 損害賠償請求権の有無
ア 消滅時効の成否
イ 故意又は過失の有無
ウ 損害の発生及び数額
第3 争点に対する当事者の主張
1 争点(1)ア(引用に当たるか)について
[被告の主張]
(1) 著作権法32条1項の「引用」に当たるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用する側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、両著作物の間に、前者が主、後者が従の関係にあることが必要である。
(2) 被告は、本件各教材に本件各著作物を利用するに際し、@ 引用部分を点線枠で囲む、A 引用部分は見開き1頁中、上段に記載し設問は下段に記載する、又はB 引用部分は見開き1頁中、右側に記載し設問は左側に記載するなどの適切な方法により、引用する側の著作物と引用されて利用する側の著作物とを明瞭に区別して認識できるようにしている。したがって、このような掲載態様に照らすと、明瞭区別性の要件を充足する。
(3) 本件各教材は、題材である問題文部分(本件各著作物の一部利用部分)、設問部分及び解答ないし解説部分で構成されている。そして、設問部分及び解答ないし解説部分は、児童生徒の国語能力を育成するため創意工夫された被告独自の著作物であり、当該部分の本件各教材に占める割合は、優に50%を超える。また、本件各教材は、使用する児童生徒の読解力、表現力、語彙力等の国語能力を育成する目的のもとに制作、出版されているものであるが、国語能力を育成するためには、単に引用した本件各著作物を漫然と児童生徒に読ませるだけでは意味がなく、適切な設問を設け、これについて児童生徒に考えさせ、答えさせるという作業を順次繰り返させる必要がある。このような観点からいえば、本件各教材の重要かつ主要部分は、児童生徒の国語能力を育成するために創意工夫された設問にあるといえる。しかも、本件各教材における設問は、単に題材たる問題文の思想・感情の理解を問う問題だけでなく、漢字の読み書きを問う問題、語句の意味を問う問題など題材たる問題文の創作性を度外視しても存立し得るものも多数存在する。
 よって、量的にも質的にも、本件各教材の設問部分及び解答ないし解説部分が主たる部分であり、問題文として利用した本件各著作物の複製部分が従たる部分である。
[原告らの主張]
(1) 明瞭区別性
 明瞭区別性については、引用を含む著作物の表現形式上の体裁により判断されるから、本件各教材については、その表現形式により判断すべきである。
 本件各教材は、本件各著作物を複製した部分と、これに関連する設問部分とからなる。被告は、本件各教材の設問部分は、被告の著作物であると主張するが、本件各著作物の内容は、その設問中にすら利用されているのであって、本件各教材の、特にその設問部分にあっては、いかなる部分に原告の作品が用いられ、いかなる部分が被告のオリジナルの文章であるのかを区別し難い。それどころか、そもそも本件各教材自体が、原告らの作品がなければ成り立ち得ない程度に原告らの作品に全面的に依拠して作成されているのであり、特にその設問部分においては両者混然となっているといわざるを得ない。
 よって、本件各教材における本件各著作物の複製は、引用の要件としての明瞭区別性は充たさないというべきである。
(2) 主従関係
 引用といえるためには、引用して利用する側の著作物(引用著作物)と、引用されて利用される側の著作物(被引用著作物)との間に、前者が主、後者が従の関係があると認められなければならない。しかるに、本件においては、引用著作物である本件各教材のほとんどは上段に本件各著作物、下段に設問を掲載する形式であり、本件各著作物掲載部分が本件各教材に占める単純な面積上の割合は、概ね50%である。また、各設問は、主に小学生向けの教材であるという性質上、解答スペースをふんだんに取ってあり、各設問の文字数ベースで計算すると50%を優に下回り、解答又は解説部分を加えても50%を超えることはない。また、本件各著作物から独立した設問は、本件各教材中で本件各著作物が使用されたのべ53回中11回のみであり、さらにそのような設問は1問だけに組み込まれているのがほとんどである。
 よって、その分量を単純に比較しても、主たる部分が問題の題材として利用されている本件各著作物の複製部分及び設問部分に使用されている本件各著作物の一部であり、従たる部分がこれに依拠して作成された設問部分の一部と解答欄等というべきである。
 被告が主張するように、仮に設問部分の作成に本件各教材の利用者の国語能力の育成のために一定の創意工夫があるとしても、その場合の国語力の育成とは、複製された本件各著作物に表現された思想、感情等の理解に他ならず、被告の設問作成における創意工夫も、直接には利用者に当該著作物の複製部分を読解させること、すなわち、本件各著作物の一部又は全部に表現された内容それ自体をいかに的確に理解させるかという点にあるものであって、当該著作物の創作性を度外視してはあり得ないものであるから、かかる内容面での依存性の高さからしても、主たる部分は本件各著作物の複製部分であり、従たる部分が設問部分であるというべきである。
2 争点(1)イ(試験問題としての複製に当たるか)について
[被告の主張]
(1) 公表された著作物は、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製することができる(著作権法36条1項)。この規定の趣旨は、試験問題(学校であれば学期末や日々の到達度を調べるドリルや小テストなども含まれる。)を作成するには通常、既存の著作物を利用する場合が多いので、試験又は検定目的上必要と認められる限度という制限を付した上での利用を認め、しかも試験において利用する場合には、もとの著作物の通常の利用と競合・衝突するおそれもないため、同条2項において補償金を支払わせることと引き換えに、著作者の許諾なしに複製利用することを認めたものと解すべきである。そうすると、重要なのは、試験又は検定の目的という社会的公共的利用目的の存在と通常の利用と競合しないことであって、法文上からも明らかなとおり、ここでいう試験には必ずしも秘密性が要求されるものではないと解すべきである。
(2) 本件各教材は、まさに試験目的のために本件著作物を利用しているのであり、当該教材の利用は本件著作物の通常の利用と競合することはないから、同法36条によって許容されるというべきである。
[原告らの主張]
(1) 著作権法36条は、いわゆる試験問題としての複製を認めるが、同条がかかる複製を認めたのは、入学試験等の人の学識技能に関する試験又は検定においては、それを公正に実施するために、問題の内容の事前の漏洩を防ぐ必要性があり、その問題としての著作物を利用する場合には、具体的な設問のみならず、いかなる著作物を利用するかということについて漏洩を避ける必要があることが通常であるから、試験、検定の問題としての著作物の複製について、あらかじめ著作権者の許諾を受けることは困難であり、社会的実情にも沿わないこと、及び著作物を上記のような試験、検定の問題として利用したとしても、一般にその利用は著作物の通常の利用と競合しないと考えられるから、その限度で著作権を制限しても不当ではないと認められることにより、試験、検定の目的上必要と認められる限度で、著作物を試験、検定の問題として複製するについては、一律に著作権者の許諾を要しないとするとともに、その複製が、これを行う者の営利の目的による場合には、著作権者に対する補償を要するものとして、利益の均衡を図ることにした趣旨である。
 したがって、同条1項によって著作権者の許諾を要せずに、問題として著作物の複製をすることができる試験又は検定とは、公正な実施のために、試験、検定の問題として利用する著作物とは何であるかということ自体を秘密にする必要性があり、それ故に、当該著作物の複製につき、あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるような試験、検定をいうものであって、そのような困難性がないものについては、複製につき著作権者の許諾を不要とする根拠を欠くものであり、同条1項にいう「試験又は検定」には当たらないものと解される。
(2) 本件各教材は、いずれも市中の一般書店で販売されている家庭用学習教材であり、いかなる著作物が問題中に使用されているかの秘密性が求められる性質のものではない。よって、本件各教材への複製は、著作権法36条1項のいわゆる試験問題としての複製には当たらない。
3 争点(1)ウ(フェア・ユースの法理)について
[被告の主張]
(1) 米国著作権法107条は、フェア・ユース(いわゆる公正利用)の場合には著作権の侵害にはならないという一般条項を設けているが、フェア・ユースの法理は、一般条項を欠くわが国においても法の一般原則として適用されるべきである。何故なら、同法30条以下のいずれかの制限規定に該当しなくても、総合的見地からその利用を容認してもよい場合が存在するからである。
(2) 米国著作権法上、著作物の使用がフェア・ユースとなるか否かの判断基準としては次の4つが挙げられている。
ア 使用が商業性を有するか非営利の教育的な目的であるかという点を含む、使用の目的及び性格(the purpose and character of the use, including whether such use is of a commercial nature or is for nonprofit educational purpose)
イ 著作物の性質(the nature of the copyrighted work)
ウ 全体としての著作物との関係における使用された部分の量及び実質・本質(the amount and substantiality of the portion used in relation to the copyrighted work as a whole)
エ 使用が及ぼす著作物の潜在的市場又は価値への影響(the effect of the use upon the potential market for or value of the copyrighted work)
(3) 以下に順次検討すると、アについては、教育的な目的及び性格からこの要件は充足すると考えられる。本件各教材は、児童生徒の読解力、表現力、語彙力等の国語能力を総合的に育成、向上させるためのものであり、しかも児童生徒の教育は、大学などの高等教育への入口として万人が等しく通過しなければならない一過程であることなどを併せ考えると、初中等義務教育において著作物を題材に補足的に利用することは目的及び性格において公正であるといえる。
 イについては、本件各教材は文部科学省が公示する学習指導要領をベースにした教材であって、学習指導要領に基づいて作られた教科書で取り上げられている著作物を掲載することは、本件各教材の性質からいって避けることができないから、本件各著作物の創作性の存在から直ちにイの要件を充足しないということにはならないと解される。
 ウについては、全体としての著作物との関係において本件各教材部分は量及び質ともに主であって、本件各著作物は従であるからこの要件も充足する。
 エについては、本件各教材が売れることによって本件各著作物が売れなくなるということはあり得ず、本件各教材はあくまで児童の教育目的のために補足的に使用されるものであるから、これによって本件各著作物の潜在的市場または価値に悪影響が及ぶことはあり得ない。
 以上の諸点からいえば、被告の行為はフェア・ユースの法理からいって著作権の侵害にはならないというべきである。
[原告らの主張]
 我が国の著作権法は、30条ないし49条において、著作権が制限される場合及びその要件を具体的かつ詳細に定めており、これら各条項以上にフェア・ユースの法理に相当する一般条項を定めていない。よって、同法は、著作物の公正な利用のために著作権が制限される場合を、上記各条項に定める場合に限定する趣旨と解するべきであり、何ら実定法上の根拠のないままに同法理を適用すべき理由はない。
4 争点(2)ア(同一性保持権侵害の成否)について
[原告らの主張]
(1) 本件における同一性保持権の侵害は、ひらがなの漢字への変更に加え、文章の一部の削除、加筆、変更といった大幅な改変が加えられたものである。本件各著作物は、作家ないし詩人である原告ら著作者の精神活動の所産であり、表記の際の仮名、漢字の選択から、句読点の位置まで一字一句推敲を重ねて作成された文学作品であり、被告によるほしいままの改変が同一性保持権の侵害に当たることは明らかである。
 本件各教材による本件各著作物の同一性保持権侵害の内容は、別紙5(改変内容一覧表)及び同6(かな・漢字変換一覧表)記載のとおりである。
(2) 著作権法20条1項は、著作者の人格が具現化された著作物の完全性を保持することによって、著作者個人の人格権を保護する趣旨であるところ、著作者の名誉・声望等を害すること、又はそのおそれがあることを、同一性保持権侵害の要件として挙げていない。他方、同法113条5項の規定からすれば、同法20条1項においては、著作者の名誉、声望などを害すること、又はそのおそれがあることを要件としないのが立法者の意思に合致する。よって、上記のおそれがあることが同一性保持権侵害の要件とすることを前提とし、かかる要件について論ずる被告の主張は失当である。
 なお、本件各著作物は、著作者である原告らの人格的要素を色濃く反映した文芸作品であり、著作物の完全性を保持することによって著作者の人格権を保護すべき必要性が特に高い類型の著作物である。これらの創作に当たっては、仮名と漢字の選択、句読点や感嘆符、疑問符などの補助符号の位置や選択についても、ストーリー内容や対象読者、文章のリズム、文字のバランスなどを考慮した推敲が重ねられているのであって、文章の一部の削除、加筆、変更はもちろん、ひらがなの漢字への変更、句読点、補助符号の変更などによっても、著作者である原告らの名誉・声望などの人格的利益が害されるおそれは十分に認められる。
 したがって、仮に被告のいうように著作者の名誉・声望などの人格的利益が害されるおそれを考慮するとしても、本件の各改変が著作者である原告らの「意に反する改変」に当たることは明らかである。
(3) 被告は、一部の改変について、作品が教科書に掲載された時点で、著作者の承諾のもとで改変されていたものであるから、「意に反する改変」に当たらないと主張するが、教科書への作品の掲載と本件各教材への掲載とは、全く別個の行為であって、仮に前者の掲載の際に改変を承諾していたからといって、後者の改変が意に反するものではないとはいえない。
 義務教育の目的達成上必要不可欠の書籍である教科書への作品の掲載に際し、必要な改変を行うことを認めたとしても、これにより教科書とは全く別個の被告の発行する本件各教材への掲載にまで同様の改変をすることの承諾をしたことにはならないのは当然というべきである。 
(4) 著作権法20条2項4号にいう「やむを得ないと認められる」改変に該当するというためには、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし、著作物の改変につき、同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同様に強度の必要性が存在することを要すると解される。
 被告は、教育目的の改変であると主張するが、本件が同項1号に定める同法33条1項(同条4項において準用する場合を含む。)又は34条1項の規定により著作物を利用する場合に当たらないことは明らかであるところ、教科書等でもなく、一般書店で販売される家庭用教材であるにすぎない本件各教材につき、同号と同程度の必要性が存在するとは到底いえない。
[被告の主張]
(1) 著作権法20条1項の趣旨は、著作物が改変されることにより、著作者の名誉・声望などの人格的利益が害されることを防止することにあるから、同条第1項の「意に反する改変」に当たるか否かは、当該改変が、社会通念上、名誉・声望などの人格的利益を害するおそれがあるかどうかによって判断すべきである。
 本件の各改変は、単なる表記上の問題にすぎないひらがなの漢字への変更、「?」から「。」への変更及び軽微な文章の一部削除・加筆・変更にすぎず、当該各改変により、社会通念上、原告らの名誉・声望などの人格的利益が害されるおそれがあるとはいえない。
(2) また、別紙5(改変内容一覧表)@ないしI、QないしSに関する改変についていえば、教科書に掲載された時点で既に本件著作物1−5、2−2、1−4が改変されていた箇所であり、これらの改変について著作者らは、原作品の改変を承諾していたのであるから、「その意に反する」改変行為には当たらないというべきである。
(3) 仮に、本件各著作物中のひらがなを漢字に変換した行為が前記改変に当たるとしても、著作権法20条2項4号にいう、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変に当たる。
 本件各教材は、使用する児童生徒の読解力、表現力、語彙力等の国語能力を総合的に育成するという社会的かつ公共的な教育目的を有しているが、このような教育目的からいえば、学習指導要領により各学年ごとに習得すべきとされている漢字については、児童生徒がその年次に確実に習得できるように、問題として漢字の読み書きを出題するのみならず、題材たる本件各著作物についても、ひらがな表記を漢字表記に変換することにより、問題文を読むという過程の中で児童生徒が当該漢字の読みを習得できるようにする必要がある。すなわち、その限度で問題の題材となる著作物についてある程度の改変が必要となる。また、その態様としても、本件教材1−1、2−1、3−1などの小学校1年生を対象とした教材を見れば明らかなとおり、漢字表記に変換できる箇所をすべて変換しているわけではなく、その学年で習得すべき漢字の範囲内で変換しており、上記教育目的達成のために必要最小限の範囲内での改変しか行なっていない。
 したがって、被告が本件各著作物のひらがな表記を漢字表記に変換した行為は、「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」に当たり、原告らの同一性保持権を侵害することにはならない。
(4) 原告らは、本件各教材が教科書等ではなく、一般書店で販売される家庭用教材であるから、本件の改変が著作権法20条2項4号の「やむを得ない改変」には当たらないと主張する。しかし、教育指導要領の改正により小学校での学習内容が縮小された今日において、家庭学習の重要性は誰もが認めているところであり、家庭用学習教材であるが故に教育目的上の改変が認められないとすることは不当である。また、本件の改変は、例えば別紙5(改変内容一覧表)のHのように、教育上「くたばれ」という表現を児童生徒に教えることが不適切と考えられる箇所等について改変をしているのであって、教育目的上必要最小限の改変である。
 したがって、本件の改変は、著作権法20条2項4号の「やむを得ない」改変に当たり、同一性保持権の侵害にはならない。
5 争点(2)イ(氏名表示権侵害の成否)について
[原告らの主張]
 著作権法19条3項にいう「著作権の利用の目的及び態様に照らし」とは、著作物の利用の性質から、著作者名表示の必要性がないか、著作者名表示が極めて不適切な場合をいうと解される。本件では、教科書に著作者名が掲載されるからといって、それとは別個の書籍である本件各教材に著作者名表示の必要性がないとはいえない。そもそも、本件各教材は、教科書会社各社の教科書にそれぞれ対応したものではなく、完全な教科書準拠の教材ではないから、被告のいうように教科書に掲載されている作品だから、著作者名は教科書を学習する段階で既に児童生徒の知るところとなっているとはいえない。また、本件各教材には、その一部に著作者名の表示があることからも明らかなように(甲16の2、33の3、37の3)、容易に著作者名を表示することができると考えられるから、著作者名表示が極めて不適切な場合ということもできない。
 よって、被告が本件各教材において原告らの氏名を表示しなかったことは、同項に定める著作者の氏名表示を省略できる場合には当たらない。
[被告の主張]
 著作権法19条3項は、著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができると規定している。本件各教材は、使用する児童生徒の読解力、表現力、語彙力等の国語能力を総合的に育成するために本件各著作物を利用しているのであるから、その利用の目的は教育目的という社会的かつ公共的なものであって、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれはない。
 本件各著作物の利用は、使用する児童生徒の読解力、表現力、語彙力等の国語能力を育成するための試験問題の題材としての使用であり、著作物の通常の利用と競合・衝突することがない点からいえば、利用の態様も著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれはない。そして、本件各著作物が教科書で既に使用され、著作者の氏名は教科書を学習する段階で既に児童生徒の知るところとなっている点からも、著作者が創作者であることを主張する利益が害されるおそれはない。さらに、教科書に掲載された文学作品の図書教材等への使用に際しては、著作者名を同教材に表示しないで省略される扱いが長年行なわれてきた点から、公正な慣行にも反しない。
 以上により、本件各教材に本件各著作物を利用する際に、原告らの氏名を表示しなかったからといって、原告らの氏名表示権を侵害することにはならない。
6 争点(3)(本件請求が権利濫用に当たるか)について
[被告の主張]
(1) 教科書に掲載された文学作品の図書教材への使用については、昭和40年の裁判で、教科書会社と図書教材出版社との間で適法引用であるか否かが争われ、著作権の侵害にならないことが明らかになったが、この判断に不服を持つ教科書会社の一部が国語教科書に掲載された文学作品のテストへの使用につき、著作権侵害の本訴を提起した。しかし、この事件も和解となり、和解調書の中では一定の謝金を支払うことを条件に全く自由に作成してよいことになり、こうした慣行が平成11年まで続いてきた。そして、図書教材出版社はこのような形の契約を毎年更新し、謝金を支払い、これにより教科書に掲載された文学作品の教材への使用についての著作権処理は終わっているものと当然のように考えてきた。
 ところが、平成11年になり、日本ビジュアル著作権協会なる団体が仮処分及び本訴を提起したが、これも却下されたことから、従来の慣行が容認されたと図書教材出版社が考え、それに基づき従来どおりの出版を継続したとしても決して不思議ではない。
 しかるに、その後、日本ビジュアル著作権協会と契約関係にあった原告Aら著作者9名が新たに図書教材出版社を相手に出版差止仮処分の申立て及び本訴を提起し、これらにおいて著作者が勝訴したとはいえ、ここに至るまで長年にわたって図書教材出版社としては、ひたすら長年の慣行を尊重してきただけであり、また著作者といっても、クレームを申し立てているのは原告Aら一部のごく限られた著作者であったことから、図書教材出版社には、そもそも著作権を侵害しているという認識がなかった。
(2) 図書教材出版社としては、これと並行して、児童文学者の多くが参加している社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会並びに両団体に属さないフリーの著者との間で平成11年2月に「小学校国語教科書著作者の会」を設立し、訴外協会は、この会との間で数回にわたる話合いの後、平成11年9月30日、著作物の図書教材等への使用については著者の許諾を受けること、著作者に支払うべき印税率は5%とする内容の協定書を作成し、ルール作りにも尽力してきた。
(3) さらに、@ 児童生徒の国語能力を育成するためには、児童生徒が学校で慣れ親しんだ教科書に取り上げられている著作物を利用した教材を作成することの社会的必要性は大きく、被告が本件各著作物を本件各教材に使用したことは、教育目的という正当な理由が存在すること、A 著作者としては相応のロイヤルティさえ得られればその利用を拒絶すべき理由は見当たらないこと、B 被告は、前記協定に従い、訴外協会を通じて、教科書に掲載された文学作品を教材に使用する場合には、著作者の許諾を得るよう努めてきた。
(4) したがって、こうした過去から現在に至るまでの一連の経緯からすれば、一部の著作者からの差止要求に対しては、相応のロイヤルティを支払うことを条件として利用を許すべきであり、ロイヤルティの受取りをかたくなに拒絶してまで著作物の利用をやめさせようとすることは、著作権の社会公共的性格に反するばかりか、今日に至るまでの文学作品の図書教材への使用についての経緯及び図書教材出版社が並行してルール作りに尽力してきた点に照らし、権利の濫用に当たるといわざるを得ない。
[原告らの主張]
 本件は、著作権者である原告らが、自己の創作した本件各著作物を無断で被告の出版する本件各教材に複製され、原告らの事前の警告にもかかわらず、それを何ら改めることなく侵害行為を継続したことから、出版差止めの本訴請求をするものであり、何ら権利の濫用には当たらない。
7 争点(4)(差止めの必要性の有無)について
[原告らの主張]
 本件各教材は、原告らの本件各著作物に対する著作権を侵害するものであるから、それらの出版等の差止めの必要がある。
[被告の主張]
 被告は、原告らから本件訴訟を提起された後は、著作権を侵害していると指摘された本件各教材の印刷及び出荷を自主的に差し止め、その後、原告らから準備書面等で新たに指摘された教材についても、順次、印刷及び出荷を差し止めた。そして、被告は、平成15年1月、本件各著作物を引用した本件各教材の出版を中止し、これを絶版及び廃棄処分とすることを決定した。かかる廃棄処分は、同月14日から実施し、その後は、取次店から返本が届くたびに当該返本を廃棄処分している。
 また、被告は、原告らに対し、平成15年7月15日、著作権侵害に基づく損害賠償請求の主張立証責任は本来原告らにあるにもかかわらず、任意に本件各教材の印刷時期及び当該印刷時期ごとの印刷部数を開示し、かつこれに関する各資料を提出した。さらに、同日、原告らの要望に従い、原告らが保有していない被告発行の教材計27冊も任意に提出し、原告らの著作権侵害に関する調査に協力した。
 以上のように、被告は原告らに対して極めて協力的であること及び本件各著作物を引用した本件各教材の印刷、出版、販売又は譲渡を中止しており、かかる教材の在庫についても廃棄処分としているので、原告らが主張する出版等の差止めの必要性はない。
8 争点(5)ア(消滅時効の成否)について
[被告の主張]
 原告らは、日本ビジュアル著作権協会に対し、遅くとも平成11年3月ころ、自己の作品の管理を委託し、自己の作品が図書教材出版社発行の各教材に使用されているか否かの調査を依頼した。原告らは、この調査により、図書教材出版社発行の各教材に自己の作品が使用されている事実を知り、同年6月21日、学校用図書教材を発行していた図書教材出版社6社に対し、出版差止仮処分の申立て及び出版禁止請求訴訟をそれぞれ提起した。
 ところで、本件各教材は、古いものでは昭和55年以降全国の一般書店において陳列、販売されている市販教材であり、誰にでも入手可能で、かつその記載内容について容易に調査し得るものである。この点で、一般書店を通さず小中学校に直接販売している直販教材(学校専用教材)や一般の大手書店の専用学参コーナー売場でのみ販売されている教科書準拠教材とは明らかに異なる。原告らが上記調査により学校用教材という内部でしか使用されない教材についても原告らの作品使用の事実を知っていた以上、市販の教材である本件各教材に本件各著作物が使用されていた事実をその当時調査していないはずはないし、本件各教材について作品使用の事実を知らなかったとは到底考えられない。また、日本ビジュアル著作権協会は、著作権の保護・確立に向けて24時間活動しており、教科書に使用されている作品や図書教材についてのデータベースを構築している旨を国語教科書掲載作家各位に対して説明し、同協会への入会を呼びかけており(乙1)、このようなデータベースを構築している同協会に調査を依頼していながら、原告らが市販教材である本件各教材について作品使用の事実を知らなかったはずがない。
 したがって、原告らは、遅くとも平成11年7月18日午前0時の時点で被告が本件各著作物を本件各教材に使用した事実を知っていたというべきであり、原告らが上記事実を知ってから3年が経過したので、被告は原告らに対し、同日午前0時の時点までに発生した損害につき、消滅時効を援用する。
[原告らの主張]
(1) 原告らは、原告ら及びその子弟らの年齢ゆえに、主に小学生向けに作られている本件各教材を実際に手にする機会はなかった。また、今日に至るまで教育用図書における著作権侵害が大きく取り上げられることがなかったため、本件著作権侵害の事実を原告らに示唆する者もいなかった。したがって、原告らは本件各教材の存在自体すら認識していなかったのであり、本件著作権侵害の事実を認識する術は当然になかった。
(2) 原告らは、加盟している日本ビジュアル著作権協会に対し調査を依頼したが、調査を行うといっても、ありとあらゆる学習教材について直ちに調査対象とすることは困難であって、その調査はさしあたり小学校用教材を出版していた図書教材出版社6社(東京地方裁判所平成11年(ワ)第13691号出版差止等請求事件の被告6社)の教材について行われたもので、その時点で本件各教材までは調査できていなかった。原告らが本件著作権侵害の事実を漠然とした形であれ認識するに至ったのは、上記調査が始まった平成14年3月ころであり、原告らが本件各教材の個々の存在を具体的に知ったのは、同年6月4日以降調査結果を報告されてからである。
 したがって、被告の主張する消滅時効の始期は、いくら遡ったとしても平成14年3月ころであり、原告らは、同月29日到達の書面で著作権侵害行為の中止等を求め、同年7月19日には仮処分を申し立て、さらに本訴を提起しているのであるから、消滅時効は完成していない。
9 争点(5)イ(故意又は過失の有無)について
[原告らの主張]
(1) 他人の著作物を複製して出版しようとする以上、その著作権者との間で著作権処理を行うのは著作権法上当然のことであるが(著作権法63条2項)、被告は何らの著作権処理を行っていない。仮に、被告を含む図書教材出版社から教科書会社に対して謝金が支払われたとしても、それは被告と教科書会社間の合意ないし慣行に過ぎず、原告ら著作権者との権利処理とは無関係の問題である。教科書会社には、原告らの著作物の使用を許諾する権限はない上、仮に被告が教科書会社にかかる権限があると誤信していたとしても、それは、被告が教科書会社がかかる権限があるか否かの調査を怠った結果にすぎず、被告の過失そのものである。
 また、被告は、原告らが事前の警告を行ったにもかかわらず、これを無視し本件各教材の出版販売を継続したばかりか、さらに新たに本件各教材の出版販売に及んだものであり、かかる経緯をみても、被告には原告らの著作権及び著作者人格権を侵害しないようにするとの意識は全くなく、むしろこれらを権利侵害を認識しつつこれを認容して行っていたものとみるのが相当である。
 以上により、被告には原告らの著作権を侵害したことについて故意又は過失がある。
(2) 仮に、被告が社団法人日本図書教材教会(以下「訴外協会」という。)から適法引用であるとの指導を受けていたとしても、いやしくも出版業界にある者として、最終的には自らの判断で著作権処理の必要性の有無を判断すべきであり、かかる事情は被告の責任に何らの影響を及ぼすものではない。また、仮に、訴外協会から謝金の支払により著作権処理は終わっているとの指導を受けていたとしても、謝金がライセンス料の趣旨であるか否かは、原告らに対する一片の問い合わせで確認できるのであるから、その判断は非常に容易であるにもかかわらず、被告は原告らに対して、かかる照会を全く行っていない。また、本件教材10−1におけるように、問題の一部として利用するのではなく、本件各著作物を単独で利用しているものもあり、その場合には明白に適法引用には該当しないのであるから、被告の上記主張は理由がない。
[被告の主張]
(1) 教科書に掲載された文学作品の図書教材への使用については、昭和40年の偽作物発売頒布禁止仮処分命令申請事件において、教科書会社と図書教材出版社との間で、適法引用であるか否かが争われ、この裁判において、著作権の侵害にはならないことが明らかになった。
 よって、被告は、本件各教材への複製が引用に当たり、著作権侵害に当たらないと信じていた。
(2) その後、この裁判の結果に不服の教科書会社の一部が、図書教材出版社に対して本訴を提起したが、この裁判も和解となり、和解調書の中で一定の謝金を支払うことを条件に教科書に掲載された文学作品を自由に使用してよいこととなった(乙5)。被告は、このように図書教材業界内で確立した上記謝金制度に従い、訴外協会を通じて教科書会社に毎年謝金を支払っていた。
 その結果、被告を含む図書教材出版社は、訴外協会を通じて、このような謝金を毎年支払うことにより教科書に掲載された文学作品の教材への使用についての著作権処理は終わっているものと考えてきた(乙6)。訴外協会は、文部科学省所管の社団法人であり、その会長には文部科学省の幹部OBが就任している協会であるところ(乙8)、被告が訴外協会の謝金の支払により著作権処理は終わっているものと認識していたことは、やむを得ないことである。
(3) したがって、被告には著作権侵害についての故意又は過失はない。
10 争点(5)ウ(損害の発生及び数額)について
[原告らの主張]
(1) 著作権侵害による財産的損害
 被告による本件各著作物の無断複製行為により、原告らは、別紙8(原告損害計算表)記載のとおり、「著作権…の行使につき受けるべき金銭の額」(著作権法第114条2項)相当額の財産的損害を被った。
 損害額の算出の方法は、以下のとおりである。
ア 複製時期について
 別紙8(原告損害計算表)の「複製時期」欄記載のとおり、各年ごと、各教材ごとの損害を計算する。
イ 教材価格について
 著作権侵害による財産的損害の算出については、別紙8(原告損害計算表)の「教材価格」欄記載のとおり、被告から明らかにされた本件各教材の本体価格を基準に行うこととする。
ウ 使用料率について
 著作権法は、平成12年法第56号により、損害額算定に関する114条2項につき、従前の「通常受けるべき金銭」の「通常」の文言を削除した。その趣旨は、同改正前においては、既存の使用料規程等が参酌されることが多く、誠実に許諾を受けた者と同額を侵害者が賠償すれば足りるという「侵害し得」の状況が生じていたので、「通常」の文言を削除することにより、かかる問題を回避し、当該事案の具体的事情を考慮した適正な使用料が算出されることを図ったものとされている。かかる法改正の趣旨をふまえれば、著作権法114条2項によって損害額を算出するにあたっては、侵害者による「侵害し得」を許さないために、正規の利用許諾の際に支払われる印税率より高率の印税率によって損害の額を認定する必要があるというべきである。
 原告らが、図書教材出版社からの事前の正規の申し出を受け、自己の作品を教材に利用することを許諾するにあたっては、8%の印税率によって使用料を定めるものとされており、現にかかる基準により教材への作品の利用許諾が行われている。
 本件においては、平成12年法改正の趣旨や原告らが正規の利用許諾を行う際に通常8%の印税率を用いていること等の事情を考慮すれば、著作権法114条2項により損害を算出するにあたっての使用料率として相当な率は、少なくとも15%を下回らないというべきである。
 なお、著作物の学習教材への複製使用を許諾するに当たり、1年分の使用料の額が1使用当たり1万円に満たない場合には、これを1万円とする使用料の最低限度額を定めているので、最低額は1万円となる。
(2) 著作権侵害による精神的損害
 被告による本件各著作物の無断複製行為により、原告らは多大な精神的苦痛を受けた。かかる著作権侵害による原告らの精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料としては、それぞれ著作権侵害による財産的損害の額と同額が相当である。
(3) 著作者人格権侵害による精神的損害
ア 同一性保持権侵害
 本件各教材による本件各著作物の同一性保持権侵害により原告らが被った精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料は、次に挙げる同一性保持権侵害行為の態様ごとに、侵害行為が行われた各教材につき、下記金額を下回らない(別紙5(改変内容一覧表)の「請求額」欄及び別紙9(原告損害集計表)の「同一性保持権侵害慰謝料」欄記載のとおり)。
(ア) かなを漢字に変換したのみの場合は、一教材当たり50万円である。
(イ) 別紙5(改変内容一覧表)の「改変内容」欄記載のとおり、文章の一部を削除、加筆、変更等した場合は(かなを漢字に変換したことも含めて)、一教材当たり100万円である。
イ 氏名表示権侵害
 本件各教材による本件各著作物の氏名表示権侵害により原告らが被った精神的苦痛を慰謝するために必要な額は、侵害行為が行われた一教材当たり10万円を下回らない(別紙7(氏名表示権侵害一覧表)の「請求額」欄及び別紙9(原告損害集計表)の「氏名表示権侵害慰謝料」欄記載のとおり)。
(4) 弁護士費用
 原告らが被った弁護士費用の損害は、原告らの弁護士費用を除く損害の2割相当額を下回らない(別紙9(原告損害集計表)の「弁護士費用」欄記載のとおり)。
(5) 遅延損害金の起算点
 不法行為による損害賠償請求権は、その発生と同時に履行期が到来するものであるから、遅延損害金の起算点は、損害が発生した不法行為時である。
 被告は、本件各教材に原告らの作品を無断で複製することにより原告らの著作権を侵害し、また、かかる複製に当たり、作品の内容を改変し、氏名を表示しないことにより、著作者人格権を侵害している。被告は、本件各著作物を無断で複製した本件各教材の印刷部数を、昭和57年以降の各年ごとに開示しているところ、各年ごとの教材の印刷による著作権侵害行為が、その年の12月31日までに行われたことは明らかである。同様に、本件各著作物の内容を無断で改変し、氏名を表示しない著作者人格権侵害行為については、昭和57年以降で、それら教材が印刷された最も古い年の12月31日までに行われたことは明らかである。それら具体的な侵害の時期は、別紙5(改変内容一覧表)及び同7(氏名表示権侵害一覧表)の各「侵害時期」欄に記載のとおりである。
 以上のとおり、本件において、被告の著作権及び著作者人格権侵害による原告らの損害賠償請求権は、各年ごとの本件各教材への複製分、改変分などにつき、遅くとも当該年の最終日までには発生しており、遅延損害金も同日から起算されるべきである。
(6) 損害のまとめ
 以上の原告らの損害の内容を原告ごとに整理したのが、別紙9(原告損害集計表)であり、著作権及び著作者人格権の侵害行為が行われた年ごとに、著作権侵害による財産的損害の額、著作権侵害・同一性保持権侵害・氏名表示権侵害に対する各慰謝料の額、弁護士費用、年ごとの合計額、それらの合計額を記載した。
 原告らごとの損害額は、次のとおりである。また、これに対する遅延損害金の対象となる損害額及びその起算点については、別紙3(原告損害金目録)記載のとおりである。
 原告A 2621万3856円
 原告B 999万1284円
 原告C 2028万8132円
 原告D 204万5027円
 原告F 1786万6741円
 原告H 1411万8004円
 原告I 898万2468円
[被告の主張]
(1) 著作権侵害による財産的損害について
ア 総ページ数について
 本件各教材の価格は、巻末の解答部分も含めた上での価格であるから、本件各教材の価格を基準とする以上は、総ページ数は、巻末の解答部分も含めたページ数とすべきである。本件各教材の総ページ数は、別紙10(被告損害計算表(2))の「総P」欄記載のとおりである。
イ 複製ページ数について
 原告らは、本件各著作物が本件各教材の1ページ中に少しでも使用されている場合には、複製ページ数を1ページと計算している。
 しかしながら、本件各教材のページの中には、@ すべての部分について本件各著作物が掲載されているものだけでなく、A 本件各著作物とこれに対する設問が掲載されているもの、B 本件各著作物とこれに対する設問の外、原告ら以外の第三者の著作物及びこれに対する設問やイラスト図などが掲載されているものがあり、上記A及びBについては、被告が創作した設問及び第三者の著作物等も当該ページの教材としての価値に寄与していることはいうまでもないから、このような部分についてまで原告らが権利を主張する根拠は全くなく、上記原告らの計算方法は、明らかに不合理である。
 したがって、本件各教材における本件各著作物の複製ページ数の計算に当たっては、被告が創作した設問部分及び原告ら以外の第三者の著作物等が占める割合を除いた、純粋に本件各著作物がページ全体に占める割合(面積割合)によって計算すべきである。本件各教材における複製ページ数は、別紙10(被告損害計算表(2))の「複製P」欄記載のとおりである。
ウ 作品掲載率について
 本件各教材における本件各著作物の使用割合は、前記イの複製ページを前記アの総ページで除した別紙10(被告損害計算表(1))の「使用率」欄記載の割合であり、これは別紙10(被告損害計算表(2))の「作品掲載率」欄記載のとおりである。
エ 部数について
 本件各教材は、一般の家庭用学習教材のため、常に他社教材との競合が生じており、年度によっては、全く売れずに大量の返本が生じることもある。被告にとっては、印刷部数から、かかる返本、サンプル本及び製本過程で生じた破損本などを差し引いた実販売部数こそが売上収入を生み出すものであるから、著作権法114条2項に基づく損害額は、実販売部数(別紙10(被告損害計算表(1))の「部数」欄記載のとおり)によって算出すべきである。
オ 使用料率について
(ア) 本件各教材における本件各著作物の利用についての相当な使用料率は、本件各教材の家庭用学習教材という特徴、本件各著作物の引用の目的程度及び社団法人日本文芸著作権保護同盟と現代国語大学受験参考書類発行者との間で締結された暫定協定における印税率等を勘案すれば、本件各教材の定価の3%を超えることはなく、翻訳物については1.5%を超えることはない。
(イ) 仮に、上記使用料率が認められないとしても、訴外協会らと教科書に掲載された文芸作品の著者らで構成された諸団体との間で締結された協定書における印税率等を勘案すれば、本件における使用料率の上限は、本件各教材の価格の5%を超えることはなく、翻訳物については2.5%を超えることはない。
 なお、現行著作権法における損害額の算定に際して、懲罰的要素を加味してよいとする実定法上の根拠もない。
カ 以上により、仮に、本件各教材に本件各著作物を引用したことが著作権侵害となるとしても、かかる本件著作権侵害による財産的損害の算出は、次のようになされるべきである。
 実販売部数×教材価格×作品掲載率(面積割合)×使用料率3%(翻訳物は1.5%)
 かかる算出方法によると、本件著作権侵害による財産的損害額は、別紙10(被告損害計算表(1))に記載のとおりとなる。また、仮に、印刷部数を基準とした場合でも、その損害額は、別紙10(被告損害計算表(2))に記載のとおりとなる。
(2) 著作権侵害による慰謝料について
 原告らは、本件各著作物の無断複製行為により多大な精神的苦痛を受けたとして、かかる著作権侵害を理由に慰謝料の請求をしているが、著作者人格権侵害による慰謝料ですべてがカバーされているから、これを超えて、またこれに加えて、著作財産権侵害による慰謝料を請求する余地はない。
第4 当裁判所の判断
1 本件各教材における本件各著作物の複製態様について
 前記争いのない事実及び証拠(甲16ないし38、44ないし46、64、67ないし69、71ないし78。枝番のあるものは特に断らない限り枝番を含む。以下同じ。)に弁論の全趣旨を総合すると、本件各教材における本件各著作物の複製態様について、次の事実が認められる。
(1) 「10分間トレーニング 国語○年」(本件教材1−1ないし5。甲16ないし19、67)
ア 本件教材1−1ないし4は、毎日の家庭学習のために制作された国語の家庭用学習教材であり、特定の教科書ではなく、どの教科書でも使用できるようになっている。本件教材1−5は、短い時間で基礎学力を固めるために制作された国語の家庭用学習教材であり、特定の教科書ではなく、どの教科書でも使用できるようになっており、「教科書対応表」が付いている。
 本件教材1−1ないし5は、49ないし58の単元に分かれ、各単元がドリル形式となっている。本件教材1−1ないし5の巻末には、解答が付いており、解答及び冒頭の扉ページを含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材1−1において、本件著作物1−1を複製した箇所は、上記単元に入らない冒頭の扉ページであり、「こえを出してよんでみましょう。」として、本件著作物1−1が複製されている。
 上記以外の本件教材1−1ないし5においては、本件各著作物は、「文をよむ」又は「物語を読む」という単元の設問のもとになる文章として複製されている。上記各単元は、見開き2ページから成り、本件各著作物を1ページないし1ページ半程度掲載し、その文章を読んで、あとにある5問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(2) 「10分間トレーニング 長文○年」(本件教材2−1ないし4。甲20ないし22、68)
ア 本件教材2−1ないし3は、毎日の家庭学習のために制作された国語の家庭用学習教材であり、特定の教科書ではなく、どの教科書でも使用できるようになっている。本件教材2−4は、短い時間で基礎学力を固めるために制作された国語の家庭用学習教材である。
 本件教材2−1及び2は、58ないし60の単元に分かれ、本件教材2−3及び4は、30ないし31の単元に分かれ、各単元がドリル形式となっている。本件教材2−1ないし4の巻末には、解答が付いており、解答を含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材2−1及び2においては、本件各著作物は、「気もちをよみとる」、「力だめしテスト」又は「まとめテスト」という単元の設問のもとになる文章として複製されている。上記各単元は、1ページから成り、本件各著作物を半ページ程度罫線によって四角で囲まれた中に掲載し、その文章を読んで、あとにある3ないし4問の設問に答える形式となっている。
 本件教材2−3及び4においては、本件各著作物は、「気持ちを読みとる」、「まとめテスト」又は「総合テスト」という単元の設問のもとになる文章として複製されている。上記各単元は、2ページから構成され、本件各著作物を1ページ程度罫線によって四角で囲まれた中に掲載し、その文章を読んで、あとにある6ないし7問の設問に答える形式となっている。
 設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(3) 「毎日の復習 国語と漢字 ○年」(本件教材3−1ないし4。甲23ないし26)
ア 本件教材3−1ないし4は、国語ドリルと漢字ドリルを合体して、短い時間で基礎学力が身に付くよう、教科書の大切なことがらを問題にして、学校の復習用に制作された家庭用学習教材である。
 本件教材2−1ないし4は、31の単元に分かれ、各単元がドリル形式となっている。国語ドリルのうしろに解答が付いており、解答を含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材3−1ないし4においては、本件各著作物は、「物語」又は「むかしばなし」と題する単元の設問のもとになる文章として複製されている。各単元は、見開き2ページから成り、本件各著作物を見開き1ページの全面に掲載し、その文章を読んで、次のページにある4ないし8問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(4) 「100回テスト 国語○年」(本件教材4−1ないし4。甲27ないし30)
ア 本件教材4−1ないし4は、基礎を固め、応用力を伸ばすために制作された国語の家庭用学習教材である。
 本件教材4−1ないし4は、35の単元に分かれ、各単元がドリル形式となっている。別冊に解答が付いており、解答を含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材4−1ないし4においては、本件各著作物は、「しんだんテスト」と題する単元の設問のもとになる文章として複製されている。上記単元は、見開き2ページで構成され、2ページが上下に区切られ、上段に本件各著作物を掲載し、その文章を読んで、下段にある8ないし12問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(5) 「全科まとめて ○年」(本件教材5−1ないし3。甲31ないし33)
ア 本件教材5−1ないし3は、国語のほか、算数、理科及び社会(又は生活科)の各教科書のポイントを確認し、単元が終わった後の確かめ用、学期の復習用、学年の復習総仕上げ用として制作された家庭用学習教材である。
 本件教材5−1ないし3の国語に関する部分は、28の単元に分かれ、各単元がドリル形式となっている。巻末に解答が付いており、解答を含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材5−1ないし3においては、本件各著作物は、「文しょうをよむ」、「詩を味わう」、「実力テスト」、「物語を読む」又は「詩を読む」と題する単元の設問のもとになる文章として複製されている。上記各単元は、1ページで構成され、当該ページが上下2段に分かれ、そのうち1段の半分程度に本件各著作物を掲載し、その文章を読んで、同段の後にある3ないし6問の設問に答える形式となり、または、上下2段のうちの上段全部と下段の半分程度に本件各著作物を掲載し、その文章を読んで、下段の後にある4問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(6) 「学力考査 標準テストの国語 ○年」(本件教材6−1ないし3。甲34ないし36)
ア 本件教材6−1ないし3は、教科書のポイントを確認し、基礎学力を身につけ、単元のまとめ用として制作された国語の家庭用学習教材であり、特定の教科書ではなく、どの教科書でも使用できるようになっている。
 本件教材6−1ないし3は、39の単元に分かれ、各単元がドリル形式となっている。別冊に解答・解説が付いており、解答・解説を含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材6−1ないし3においては、本件各著作物は、「気もちを考えながら」、「むかし話を読む」、「ものがたりを読む」、「感想文を書く」、「人物の気持ちを考えながら」又は「人物の気持ちを想像しながら」と題する単元の設問のもとになる文章として、複製されている。上記各単元は、見開き2ページで構成され、上下2段に分かれており、点線によって四角で囲まれた中に、半ページ程度本件各著作物を掲載し、その文章を読んで、あとにある2ないし6問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(7) 「中学入試完成 国語○年」(本件教材7−1及び2。甲37、38)
ア 本件教材7−1及び2は、難関中学突破用の国語の家庭用学習教材である。
 本件教材7−1及び2は、学習項目に分かれ、それぞれに練習問題や実力テストが含まれている問題集形式となっている。別冊に解答が付いており、解答を含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材7−1及び2においては、本件各著作物は、「物語を読む」という学習項目や、「練習問題」ないし「実力テスト」において、設問のもとになる文章として、複製されている。上記学習項目等は、上下2段に分かれ、本件各著作物が2ないし6ページにわたって掲載され、その文章を読んでそのあとにある6ないし11問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(8) 「小学○年の国語と算数 1学期の復習」(本件教材8−1ないし3。甲44ないし46)
ア 本件教材8−1ないし3は、1学期に教科書で学習した内容を夏休みに復習するための国語と算数の家庭用学習教材であり、学習指導要領に従って改訂されてきたものである。
 本件教材8−1ないし3の国語の部分は、14ないし15項目に分かれ、各項目がドリル形式となっている。答えは国語の末尾に付いており、答えを含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材8−1ないし3においては、本件各著作物は、「おはなしをよむ」、「お話」又は「物語」と題する項目の設問のもとになる文章として、複製されている。上記各項目は、1ページないし見開き2ページで構成され、それが上下2段に区切られ、上段に本件各著作物が点線で囲まれた中に掲載され、その文章を読んで、下段にある5ないし8問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(9) 「段階別新問題集 4年 国語」(本件教材9−1。甲64)
ア 本件教材9−1は、基礎、応用及び発展という段階を追ってワンランク上の力を目指すための国語の家庭用学習教材であり、教科書対照表が付いている。
 本件教材9−1は、18項目に分かれ、各項目がドリル形式となっている。別冊に解答が付いており、表紙の裏の教材部分を含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材9−1においては、本件各著作物は、「物語文の読み方」又は「総合問題」と題する項目の設問のもとになる文章として、複製されている。上記各項目は、1ないし2ページで構成され、上下2段に区切られている。各項目において、本件各著作物が掲載され、その文章を読んであとにある4ないし5問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(10) 「力の5000題」(本件教材10−1。甲69)
ア 本件教材10−1は、難関・有名中学を目指すための国語の家庭用学習教材である。
 巻末に解答が付いているほか、表紙の裏面や扉のページにも教材の一部を成す本件著作物1−8等が掲載されるなどしており、これらを含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材10−1には、本件著作物1−8が、表紙の裏面に見開き1ページにわたって掲載され、その背景には写真が掲載されている。
 本件教材10−1には、本件著作物6−6は、「練習問題」の設問のもとになる文章として複製されている。「練習問題」は、見開き2ページで構成され、上から約3分の2の位置で上下2段に分かれている。その下段に問題の研究と解き方が記載され、上段に本件著作物6−6が1ページと3分の1程度掲載され、そのあとに、4問の問題が設けられている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された上記著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(11) 「10分間トレーニング読解 小学3年」(本件教材12−1。甲72)
ア 本件教材12−1は、短い時間で基礎学力を伸ばす教科書学習用の国語の家庭用学習教材である。なお、本件教材12−1は、本件教材2−3の旧版である。
 本件教材12−1は、30の単元に分かれ、各単元がドリル形式となっている。巻末には答えが付いており、答えを含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材12−1においては、本件著作物3−2は、「気もちを読みとる」と題する単元の設問のもとになる文章として複製されている。上記単元は、見開き2ページで構成され、本件著作物3−2がその1ページに枠で囲って掲載され、その文章を読んで、次のページにある7問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(12) 「小学○年のふくしゅう(復習)」(旧版)(本件教材13−1ないし3。甲73ないし75)
ア 本件教材13−1ないし3は、基礎学力を定着させるために復習を目的として制作された国語と算数の家庭用学習教材である。なお、本件教材13−1ないし3は、本件教材14−1ないし3の旧版である。
 本件教材13−1ないし3の国語の部分は、16ないし17項目に分かれ、各項目がドリル形式となっている。巻末に解答が付いており、解答を含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材13−1ないし3においては、本件各著作物は、「おはなしをよむ」又は「ものがたりを読む」と題する項目の設問のもとになる文章として複製されている。上記各項目は、1ページ又は見開き2ページで構成され、上下2段に区切られている。上記各項目において、本件各著作物は見開き1ページの上段に点線によって四角に囲まれた中に掲載され、文章を読んで下段にある4ないし6問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
(13) 「小学○年の復習」(本件教材14−1ないし3。甲76ないし78)
ア 本件教材14−1ないし3は、教科書で学習した基礎をおさらいするため制作された国語と算数の家庭用学習教材である。
 本件教材14−1ないし3の国語の部分は、17ないし19項目に分かれ、各項目がドリル形式となっている。巻末に解答が付いており、解答を含む総ページ数は、別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおりである。
イ 本件教材14−1ないし3においては、本件各著作物は、「おはなしをよむ」又は「物語を読む」と題する各項目の設問のもとになる文章として複製されている。上記各項目は、1ないし2ページで構成され、上下2段に区切られている。上記各項目において、本件各著作物は、上段に点線によって四角に囲まれた中に掲載され、その文章を読んで、下段にある4ないし5問の設問に答える形式となっている。設問は、本件各著作物を読んだ上、記述式又は選択式で答えるものであり、これらは番号等によって特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
 以上によれば、別紙2(教材目録)の「著作物名」欄記載の本件各著作物は、同「教材名」欄記載のとおり、本件各教材に複製されている。そして、それぞれの複製されたページ数ないしページにおける面積は、被告が自認する別紙10(被告損害計算表(2))の「複製P」欄を下回らないことが認められ、これを本件各教材ごとにまとめると、別紙2(教材目録)の「複製頁」欄記載のとおりとなる。さらに、これを原告らごと、年度ごとに整理すると、別紙11(損害計算表)の「著作物名」欄記載の本件各著作物が、同「教材名」欄記載の本件各教材につき「複製P」欄記載のとおり複製されていることとなる。
2 争点(1)ア(引用に当たるか)について
(1) 公表された著作物を引用して利用することができるのは、その引用が公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)。この規定の趣旨に照らすと、ここでいう「引用」とは、報道、批評、研究その他の目的で、自己の著作物中に、他人の著作物の原則として一部を採録するものであって、引用する著作物の表現上、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるとともに、両著作物間に、引用する側の著作物が「主」であり、引用される側の著作物が「従」である関係が存する場合をいうものと解すべきである(最高裁昭和51年(オ)第923号同55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号244頁参照)。
(2) 本件教材1−1において本件著作物1−1を複製した箇所及び本件教材10−1において本件著作物1−8を複製した箇所については、前記1(1)及び(10)認定の掲載態様であるから、その引用が公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われたものということはできず、著作権法32条1項所定の引用に当たらないことは明らかである。
(3) また、その余の箇所についても、前記1認定の掲載態様に照らすと、本件各著作物は、設問部分と明瞭に区別して認識することはできるものの、引用される側の著作物である本件各著作物が「従」であり、引用する側の著作物である本件各教材が「主」であるという関係が存するということはできないから、本件各教材における本件各著作物の複製が、著作権法32条1項所定の引用に当たるということはできない。
 被告は、この点について、本件各教材の重要かつ主要部分は、児童生徒の国語能力を育成するために創意工夫された設問にあり、量的にも質的にも、設問部分及び解答ないし解説部分が主たる部分であり、本件各著作物の複製部分が従たる部分である旨主張する。
 なるほど、被告において、設問部分の作成、すなわち問題の設定や問題数の選択、解答の形式の選択やその配列等について、本件各教材の利用者の国語能力の育成のために一定の創意工夫をしたことは否定できないが、その場合の国語能力の育成とは、複製された本件各著作物に表現された思想、感情等の理解にほかならない。また、被告の設問部分の作成における創意工夫も、直接には利用者である児童に本件各著作物の収録部分を読解させること、すなわち、本件各著作物に表現された内容をいかに正確に読みとらせ、それをいかに的確に理解させるかという点に主眼があり、本件各著作物の創作性を度外視してはあり得ないものであるから、かかる内容面からしても、主たる部分は本件各著作物の複製部分であり、従たる部分が設問部分であるというべきである。なお、分量的に設問部分の方が本件各著作物よりも多い場合があったとしても、設問部分に解答欄としての余白が設けられていることや、設問部分にも本件各著作物が使用されていることがあることにも照らし、そのことから直ちに設問部分が主であるということはできない。よって、被告の上記主張は採用できない。
(4) 以上のとおり、本件各著作物を本件各教材に複製することが、著作権法32条1項所定の「引用」に当たるということはできない。
3 争点(1)イ(試験問題としての複製に当たるか)について
(1) 公表された著作物は、入学試験その他人の学識技能に関する試験又は検定の目的上必要と認められる限度において、当該試験又は検定の問題として複製することができ(著作権法36条1項)、また、営利を目的として前記複製を行う者は、通常の使用料の額に相当する額の補償金を著作権者に支払わなければならない(同条2項)。これらの規定は、入学試験等の人の学識技能に関する試験又は検定にあっては、それを公正に実施するために、問題の内容等の事前の漏洩を防ぐ必要性があるため、あらかじめ著作権者の許諾を受けることは困難であること、そして、著作物を上記のような試験又は検定の問題として利用したとしても、一般にその利用は著作物の通常の利用と競合しないと考えられることから、試験又は検定の目的上必要と認められる限度で、かつ、著作物を試験又は検定の問題として複製するについては、一律に著作権者の許諾を要しないものとするとともに、その複製がこれを行う者の営利の目的による場合には、著作権者に対する補償を要するものとして、利益の均衡を図る趣旨であると解される。
 そうすると、試験又は検定の公正な実施のために、その問題としていかなる著作物を利用するかということ自体を秘密にする必要性があり、そのために当該著作物の複製についてあらかじめ著作権者から許諾を受けることが困難である試験又は検定の問題でない限り、著作権法36条1項所定の「試験又は検定の問題」ということはできないと解される。
(2) 前記争いのない事実に証拠(甲16ないし38、44ないし46、64、67ないし69、72ないし78)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件各教材は、いずれも一般書店で販売されている家庭用学習教材であることが認められる。
 そうすると、本件各教材は、試験又は検定の公正な実施のために、問題の内容等の事前の漏洩を防ぐ必要性があるとは認められず、あらかじめ著作権者の許諾を受けることが困難であるということはできない。
 したがって、被告が本件各著作物を本件各教材に複製することが、著作権法36条1項所定の「試験又は検定の問題」としての複製に当たるとはいえない。
4 争点(1)ウ(フェア・ユースの法理)について
 仮に、我が国においてフェア・ユースの法理を適用ないし類推適用すべき場合があるとしても、本件各教材が一般書店で販売されている家庭用学習教材であり、復習用のドリルないし中学受験用問題集であることに照らせば、被告主張の要件のうち少なくとも使用の目的及び性格という要件を欠き、本件は、フェア・ユースの法理を適用ないし類推適用すべき場合に当たらない。
5 争点(2)ア(同一性保持権侵害の成否)について
(1) 前記争いのない事実のとおり、別紙5(改変内容一覧表)の「教材名」欄記載の本件各教材においては、同「改変内容」欄記載のとおり本件各著作物の表現が改変され(別紙5の<50>を除く。)、同「かなを漢字に変換」欄に○が記されている本件各教材においては、具体的に、別紙6(かな・漢字変換一覧表)の「改変箇所」欄記載の表現が同「改変前」欄から同「改変後」欄記載のとおりに改変されている。なお、別紙5(改変内容一覧表)の<50>の改変については、これを認めるに足りない(甲66、67)。
(2) 被告は、上記各改変は、単なる表記上の問題にすぎないひらがなの漢字への変更、「?」から「。」への変更及び軽微な文章の一部削除・加筆・変更にすぎず、当該各改変により、社会通念上、原告らの名誉・声望などの人格的利益が害されるおそれがあるとはいえないから、「意に反する改変」には当たらないと主張する。
 しかしながら、著作権法20条1項の同一性保持権は、著作者の人格的利益を保護する趣旨の規定であるところ、別紙5(改変内容一覧表)の「著作物名」欄記載の本件各著作物は、いずれも児童文学作品であり、著作者である原告らの人格的要素が反映された文芸作品ということができ、よって、かな・漢字の表記方法や感嘆符の付け方等も含め著作物の完全性の保持を要する著作物であるというべきである。そうすると、上記各改変は、いずれも上記原告らの人格的利益を害するおそれのある改変ということができるから、被告の上記主張は理由がない。
(3) 被告は、別紙5(改変内容一覧表)@ないしI、QないしSに関する改変について、本件各著作物が教科書に掲載された時点で、原告らの承諾の下で改変されていたものであるから、「意に反する」改変に当たらないと主張する。
 しかしながら、教科用図書に本件各著作物を掲載するに当たり、学校教育の目的上やむを得ないと認められる用字又は用語の変更その他の改変は、著作権法20条2項1号により、同一性保持権の保護が適用されないのに対し、本件各教材は、家庭用学習教材であって、これと同一に論じることができないことは、明らかである。そして、教科用図書への掲載に際して改変することと、家庭用学習教材において改変することとは、全く別個の行為であって、仮に前者の掲載の際に原告らが改変を承諾した事実があったとしても、後者の改変を承諾したことにはならない。
 よって、前記認定の改変は、「意に反する」改変であるといわざるを得ず、被告の上記主張は理由がない。
(4) 被告は、ひらがなを漢字に変換した行為は、著作権法20条2項4号に当たる旨主張する。
 著作権法20条2項4号は、同一性保持権による著作者の人格的利益の保護を例外的に制限する規定であり、かつ、同じく改変が許される例外的場合として同項1号ないし3号の規定が存することからすると、同項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには、著作物の性質、利用の目的及び態様に照らし、当該著作物の改変につき、同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同程度の必要性が存在することを要するものと解される。
 別紙6(かな・漢字変換一覧表)の「教材名」欄記載の本件各教材は、学年別に編集され、又は中学受験用に制作された教材であって、当該学年で習得した漢字を使用するという一定の必要性は認められるものの、教科用図書とは異なるものであるから、同項1号で定める場合に当たらないことは明らかである。また、上記改変について、同項1号ないし3号で定める場合と同程度の必要性が存在するとまではいえないし、その他被告主張の事情をもってしても、前記認定の人格的要素が反映された文芸作品という本件各著作物の性質に照らし、本件各教材の発行に当たり上記各著作物に改変を加えるにつき、上記のような必要性が存在するということはできない。
 したがって、著作権法20条2項4号が定める「やむを得ないと認められる改変」に該当するということはできず、被告の上記主張は理由がない。
(5) 以上のとおり、原告Dを除く原告らは、本件各著作物について有する同一性保持権を侵害されたものである。 
6 争点(2)イ(氏名表示権侵害の成否)について
(1) 前記争いのない事実のとおり、別紙7(氏名表示権侵害一覧表)の「教材名」欄記載の本件各教材において、原告らの氏名が表示されていないものと認められる。よって、原告らは、同「著作物名」欄記載の本件各著作物について有する氏名表示権を侵害されたものである。
(2) 被告は、本件各教材は、著作権法19条3項により著作者名の表示を省略することができる場合に該当すると主張する。
 しかしながら、同項にいう「著作物の利用の目的及び態様に照らし」とは、著作物の利用の性質から著作者名表示の必要性がないか著作者名の表示が極めて不適切な場合を指すと解される。教科用図書に本件各著作物の著作者名が掲載されるからといって、それとは別個の書籍である本件各教材に著作者名表示の必要性がないということはできない。また、本件各教材には、その一部に著作者名の表示があることからも明らかなように(甲16の2、33の3、37の3)、容易に著作者名を表示することができるから、著作者名表示が極めて不適切な場合ということもできない。
 したがって、本件各教材が著作権法19条3項所定の著作者名の表示を省略できる場合に該当するとは認められない。
(3) 以上のとおり、原告らは、本件各著作物について有する氏名表示権を侵害されたものである。
7 争点(3)(本件請求が権利濫用に当たるか)について
 被告は、被告には従前そもそも著作権を侵害しているという認識がなく、その後権利者から許諾を得るよう努めてきたという経緯に照らせば、著作者としては、相応のロイヤルティの支払を受ければその利用を拒絶すべき理由は見当たらないなどとして、原告らの本件訴えは、権利の濫用に当たる旨主張する。
 しかしながら、被告が主張する事情は、いずれも主に被告側の一方的な事情である上、原告らに許諾の自由があることに照らし、これらの事情があるからといって、本件請求が権利の濫用であるということはできない。
 また、弁論の全趣旨によれば、本件各著作物の著作者であり著作権者である原告らの側から、遅くとも昭和57年以降平成14年6月ころに至るまで、本件各教材について何らの権利主張もされなかったことが認められるが、後記認定のとおり、原告らが被告の本件著作権侵害行為を知ったのが平成14年であることに照らせば、権利主張をしなかったことをもって、原告らの請求が権利濫用に当たるということもできない。
 以上のとおり、被告の権利濫用の主張は採用することができない。
8 争点(4)(差止めの必要性の有無)について
(1) 証拠(甲22、72ないし78)及び弁論の全趣旨によれば、本件教材12−1は、本件教材2−3の旧版であり、昭和61年から平成3年まで出版されていたものであって、その後は出版されていないものであること、本件教材13−1ないし3は、本件教材14−1ないし3の旧版であり、平成3年まで出版されていたものであって、その後は出版されていないことが認められる。そうすると、本件教材12−1及び13−1ないし3の印刷、出版等により原告らの著作権又は著作者人格権が侵害されるおそれがあるとはいえない。
 よって、本件教材12−1及び13−1ないし3の印刷、出版等の差止めを求める部分については、差止めの必要性がない。
(2) 証拠(乙2、4)に弁論の全趣旨を総合すれば、本件訴訟に先立つ仮処分決定において、被告に対し、本件各著作物を掲載した教材の出版等の差止めが命じられたため、本件各教材の印刷を中止し、その販売を中止したこと、被告は、平成15年1月、取次店の仕入れ担当者及び注文品出荷窓口担当者に対し、著作権問題に伴う「出荷止め書籍一覧(著作権)」と題する書面を送付し、本件教材1−1ないし5、2−1ないし4、3−1ないし4、6−1ないし3、7−1及び2、9−1、10−1を絶版にしたことを告知し、被告の2003年小学用注文書には上記の本件各教材が掲載されていないこと、被告が取次店に送付した上記「出荷止め書籍一覧(著作権)」と題する書面には、本件教材5−1ないし3、8−1ないし3、14−1ないし3を改訂中であることが記載され、改訂後の上記各教材には、本件各著作物が掲載されていないこと、被告はそれ以後引用文を用いたすべての国語教材の出版を中止し、今後も出版しないつもりであること、被告は、平成15年1月以降、残存していた本件各教材を廃棄し、その後も返品された本件各教材を廃棄していること、以上の事実が認められる。
 訴訟提起後著作権及び著作者人格権の侵害行為を中止したことの一事をもって差止めの必要性が消滅することはないが、著作権及び著作者人格権を侵害する本件各教材を絶版とし、又は侵害部分を掲載しない改訂版を新たに出版している本件においては、現時点(本件口頭弁論終結時)において、被告が本件各教材を印刷、出版するなどして複製し、販売するなどして譲渡していることを認めるに足りず、今後も上記行為を行うおそれがあるとはいえない。よって、被告が現時点において原告らの著作権又は著作者人格権を侵害し、侵害するおそれがあるとはいえない。
9 争点(5)ア(消滅時効の成否)について
(1) 民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解され(最高裁昭和45年(オ)第628号同48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)、このうち同条にいう被害者が損害を知った時とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうものと解される(最高裁平成8年(オ)第2607号同14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号218頁参照)。
(2) 証拠(甲102)及び弁論の全趣旨によれば、本件各教材についての日本ビジュアル著作権協会の調査により原告らが被告による著作権侵害の事実を発見したのは、平成14年6月4日ころであると認められる。
 被告は、本件各教材は、昭和55年以降全国の一般書店において陳列、販売されている市販教材であり、誰にでも入手可能で、かつその記載内容について容易に調査し得るものである旨主張し、証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、本件各教材は全国の一般書店において陳列され販売されていたこと、書店によっては、本件各教材を児童文学書の横や文庫本、コミック本又は雑誌の横などに陳列、販売されている場合があることが認められる。
 しかしながら、本件各教材が全国の一般書店において陳列、販売されているからといって、この事実をもって直ちに原告らが本件各教材の内容を現実に認識したものと認めることはできない。その他上記事実を覆すに足りる証拠はない。よって、原告らは、平成14年6月4日以前には、被告が原告らの著作権又は著作者人格権を侵害し、原告らに損害が発生したことを現実に認識していたということはできない。
(3) 以上により、民法724条の消滅時効が完成している旨の被告の主張は、採用することができない。
10 争点(5)イ(故意又は過失の有無)について
(1) 被告は、本件各教材において本件各著作物を複製したり改変したりするに当たり、原告らに許諾を得ていない。
 被告は、本件各教材への複製が引用に当たり、著作権侵害に当たらないと信じていた旨主張し、証拠(乙5)によれば、東京地方裁判所は、昭和40年7月23日、教科書会社を債権者、日本教育図書出版株式会社を債務者とし、編集著作権又は編集著作物の出版権及び教科書の編集者自身の著作した部分の著作権又はその部分の出版権を被保全権利とする仮処分申請について、同申請を却下する決定を行ったことが認められる。そして、同決定は、@ 債務者の出版物は債権者の編集著作権又は編集著作物の出版権を侵害しないこと、A 教科書の編集者自身の著作した部分が特定されていないから、この点で既に失当であることを述べた上で、「…債務者発行の学習書…では…の各文章が引用されている。しかしながら、これらの断片的な語句および文章の引用を見るだけでは…(教科書掲載作品の)全文をしのぶに由ないのみならず、その要旨を知ることさえできない。これらは、専ら、教科書の学習に資するため必要な範囲で、その一部を引用したものにすぎないものと認めることができる。」と判示したものであった(乙5)。
 しかしながら、本件各教材における掲載の態様は、前記1認定のとおり本件各著作物の一部をそのまま掲載したものであって、「その要旨を知ることさえできない。」という上記仮処分における掲載態様とは異なるものである。そして、本件各教材における本件各著作物の複製が引用に当たらないことは前記2判示のとおりであり、上記決定があるからといって、被告の著作権侵害等につき過失がないということはできない。
(2) また、被告は、謝金の支払により著作権処理が終わっているものと認識していた旨主張し、証拠(乙5、6)及び弁論の全趣旨によれば、教科書会社と図書教材出版社との間で成立した和解調書の中で、一定の謝金を支払うことを条件に教科書に掲載された文学作品を使用できるとの条項が存すること、被告は、訴外協会を通じて、教科書会社に対して、本件各教材を発行することについての謝金を支払っていたことが認められる。
 しかしながら、上記和解は、あくまで教科書会社と図書教材出版社との間で成立したものであり、教科書掲載作品の著作者に対する関係は何ら和解の対象とはなっていないこと、上記謝金には、教科書掲載作品の著作者に対する使用料は含まれておらず、謝金の一部でも上記著作者に支払われた事実はないこと(乙5、6)、本件全証拠に照らしても、謝金支払に関する交渉経過等において上記著作者に対する使用料が含まれているかどうかが協議の対象となった事実を認めるに足りないこと、また、被告が、上記著作者に謝金の一部が支払われているかどうかを確認するのは容易なことであったにもかかわらず、被告が著作者らに対し何らかの確認をしたことを認めるに足りる証拠はないことからすれば、仮に、被告がこの謝金に上記著作者に対する使用料が含まれていると信じていたとしても、上記著作権侵害につき過失があるものといわざるを得ない。
(3) 以上述べたところからすると、被告には、本件各著作物を本件各教材に掲載するなどして、原告らの本件各著作物に対する複製権及び譲渡権を侵害したことについて過失があるものというべきである。
 また、同様に、被告には、前記著作者人格権の侵害についても過失があるといわざるを得ない。
11 争点(5)ウ(損害の発生及び数額)について
(1) 基礎となる価格について
 損害額を算定する基礎となる価格は、本件各教材の本体価格であるところ、証拠(甲16ないし38、44ないし46、64、67ないし69、72ないし78)及び弁論の全趣旨によれば、本件各教材の各販売時期における本体価格は、別紙11(損害計算表)の「教材価格」欄記載の価格であることが認められる。
(2) 部数について
 原告らは、複製権及び譲渡権の侵害による損害賠償を求めているのであるから、使用料相当額を算定するに当たっては、複製(印刷)と譲渡(販売)の多い方、すなわち印刷部数を基礎とすることが相当である。
 被告は、印刷部数から、返本、サンプル本及び製本過程で生じた破損本などを差し引いた実販売部数こそが売上収入を生み出すものであるから、著作権法114条2項に基づく損害額の算出は、実販売部数によって算出すべきであると主張するが、このようなものについても複製が行われていることには変わりがないから、使用料算定の基礎とすることができる。
 証拠(甲79ないし99)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各教材につき、別紙11(損害計算表)の「印刷部数」欄記載のとおりの部数を印刷したものと認められる。よって、損害額算定の基礎となる部数は、別紙11(損害計算表)の「印刷部数」欄記載の部数となる。
(3) 使用率について
 本件各教材において本件各著作物が複製されている部分のページ数ないしその割合がおおむね別紙2(教材目録)の「複製頁」欄及び別紙11(損害計算表)の「複製P」欄記載のとおりであることは、前記1認定のとおりである。
 なお、原告らは、本件各著作物が複製されたページについては、その割合を問わず、わずかであっても1ページとして請求しているが、後記(4)認定のとおり、著作者の団体と、図書教材出版社の団体である訴外協会とのとの間締結した協定等において、教材出版物中に作品が使用されている部分が1ページに満たない場合には、各ページごとの作品使用の割合をもって算定するものとするページ割の約定がされていることにも照らし、原告らの計算方法は、採用することができない。
 したがって、使用率として、上記「複製P」記載の使用ページ数を、前記1認定の本件各教材の解答等を含む総ページ数(別紙11(損害計算表)の「総P」欄記載のとおり)で除することによって得られた別紙11(損害計算表)の「作品掲載率」欄記載の割合を用いることとする。
(4) 使用料率について
 証拠(甲101、乙9ないし13)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 小学校国語教科書著作者の会、社団法人日本児童文学者協会及び社団法人日本児童文芸家協会と青葉出版株式会社外5社及び訴外協会との間で平成11年9月30日に締結された協定書(乙10)では、被告らは、教科書掲載著作物の原著作者に対して、平成12年度の教材から、ページ割により5%の使用料を支払う旨定められている。上記協定の運用細則には、「ページ割とは、教材出版物の全ページ(広告ページなどは除く)のうち、作品使用の部分を算定の対象とする。例えば、現行のテスト教材の例でいうと、概ね1ページの上段全部が作品部分にあたっており、この場合は1/2となる。」旨記載されている。
イ 社団法人日本文藝家協会と訴外協会との間で平成13年3月27日に締結された協定書(乙11)では、平成14年度以降に教科書に掲載された文芸著作物を図書教材等に使用する場合の取扱いが定められている。その運用細則には、(ア) 使用料は、ページ割により5%(翻訳物については2.5%)であること、(イ) 「ページ割」とは、教材出版物の全ページ数(広告ページなど除く)のうち、作品が使用されているページ数の割合をいい、教材出版物中に作品が使用されている部分が1ページに満たない場合には、各ページごとの作品使用の割合をもって算定するものとし、1/2ページ、1/3ページのように分子を1とし、分母を整数とする分数によって定めること、(ウ) 1教材当たりの年間の使用料が2000円に達しない場合は、その使用料を2000円(最低補償)とすること等が定められている。
ウ 訴外協会では、平成14年3月25日に、小学校国語教科書著作者の会及び社団法人日本文藝家協会に対して、過去10年分につき、上記各協定と同じ基準で補償する旨の申入れをした。そして、小学校国語教科書著作者の会及び社団法人日本文藝家協会では、この申入れを受け入れ、このうち訴外協会と社団法人日本文藝家協会との間で、過去分の使用料についても、上記ページ割により5%の使用料を支払うことで合意した(乙12、13)。
エ 他方、原告Fの著作権を管理する日本ビジュアル著作権協会と教材会社との間で締結された著作物使用許諾書では、8%の使用料を支払う旨定められている(甲101)。
オ 大学入試問題を集めた問題集等について社団法人日本文芸著作権保護同盟と出版社との間で締結された暫定協定(乙9)では、使用料率が3ないし4%と定められている。
カ 文芸作品の単行本の印税率は通常10%とされ、原告ら児童文学作家が単行本について受領している印税率は4ないし6%程度の場合が比較的多いものの、児童文学作品の単行本の場合には、文章のほか挿し絵が占める部分も大きい。
 以上認定の事実に、本件で問題となっているのは、将来における使用料ではなく、過去の著作権侵害に対する使用料相当額を算定するための使用料率であること、その他本件に現れた諸事情を総合すると、使用料率は、10%(翻訳物については5%)であると認めるのが相当である。
 よって、本件各教材に係る本件各著作物の使用料率は、別紙11(損害計算表)の「使用料率」記載のとおりである。
(5) 著作権侵害による財産的損害の小括
 以上により、原告らが被告に対して請求することができる額の計算は、「教材価格(本件各教材の本体価格)×印刷部数×作品掲載率(使用ページ/総ページ)×使用料率(10%。翻訳物については5%)」の計算式によるのが相当であり、その額は、別紙11(損害計算表)の「使用料」欄記載のとおりとなる。これを原告ごとに年度別に集計すると、同「小計」欄及び別紙12(損害集計表)の「財産的損害」欄記載のとおりとなる。
 原告らは、著作物の学習教材への複製使用を許諾するに当たり、1年分の使用料の最低限度額を1使用当たり1万円と定めている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。なお、前記(4)イ認定のとおり、社団法人日本文藝家協会と訴外協会との間で平成13年3月27日に締結された協定書の運用細則(乙11)は、最低補償として2000円と定めているが、この最低補償は将来における使用料の支払方法を定めるに当たって約定しているものであって、過去の著作権侵害に対する損害賠償を算定するに当たって同様の算定方法によるべき理由はない。
(6) 著作権侵害による精神的損害について
 原告らは、著作権侵害を理由に慰謝料を請求する。しかしながら、著作権のような財産権の侵害に基づく慰謝料を請求し得るためには、侵害の排除又は財産上の損害の賠償だけでは償い難いほどの大きな精神的苦痛を被ったと認めるべき特段の事情がなければならないものと解されるところ、本件全証拠をもってしても、上記特段の事情が存することを認めるに足りない。よって、上記請求を認めることはできない。
(7) 著作者人格権侵害による慰謝料について
ア 前記5認定のとおり、本件各著作物は、本件各教材に掲載する際に改変され、原告Dを除く原告らの同一性保持権が侵害されたものと認められ、弁論の全趣旨によると、上記原告らは、これにより精神的苦痛を被ったものと認められる。
 そして、前記5認定の改変の態様からすると、改変された箇所は、いずれも文章の意味内容を直接変更するものではない箇所も多いこと、かなを漢字に変換したのは、本件各教材を学習する児童の学年に合わせて、その学習した漢字を習得させる目的もあるものと推認されること、教科書の掲載態様に合わせて改変した箇所もあること、他方、被告は、改変した本件各教材を長年にわたって発行してきたことその他本件に現れた諸事情を考慮すると、同一性保持権侵害行為に対する慰謝料として、1つの著作物に対応する1教材当たりそれぞれ10万円(別紙5(改変内容一覧表)の「認容額」欄記載のとおり)と認めるのが相当である。原告ら主張のとおり、上記慰謝料が本件各教材が初めに発行された年に発生するとして、これを原告ごとに年度別に集計すると、別紙12(損害集計表)の「同一性保持権侵害慰謝料」欄記載のとおりとなる。
イ また、前記6認定のとおり、原告らの氏名表示権が侵害されたものと認められ、弁論の全趣旨によると、原告らは、これにより精神的苦痛を被ったものと認められる。
 そして、前記6認定のとおり、氏名は表示されていないが、上記原告らの氏名は、教科書によって認識することもできること、他方、被告は、改変した本件各教材を長年にわたって発行してきたことその他本件に現れた諸事情を考慮すると、氏名表示権侵害行為に対する慰謝料として、1つの著作物に対応する1教材当たりそれぞれ5万円(別紙7(氏名表示権侵害一覧表)の「認容額」欄記載のとおり)と認めるのが相当である。原告ら主張のとおり、上記慰謝料が本件各教材が初めに発行された年に発生するとして、これを原告ごとに年度別に集計すると、別紙12(損害集計表)の「氏名表示権侵害慰謝料」欄記載のとおりとなる。
(8) 弁護士費用について
 原告らが、本件訴訟の提起、遂行のために訴訟代理人を選任したことは、当裁判所に顕著であるところ、本件訴訟の事案の性質、内容、審理の経過、認容額等の諸事情を考慮すると、被告らの著作権及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用の額としては、上記(5)及び(7)認定の損害額の合計の10%が相当であり、原告らそれぞれの弁護士費用は、別紙12(損害集計表)の「弁護士費用」欄記載のとおりである(1円未満四捨五入)。
(9) 小括
 以上によれば、著作権侵害による財産的損害、著作者人格権侵害による慰謝料及び弁護士費用の原告別、年度別の各損害の合計は、別紙12(損害集計表)の「年合計」欄記載のとおりとなり、各原告の損害の合計額は、次のとおりである。なお、その具体的内訳は、別紙11(損害計算表)、別紙5(改変内容一覧表)及び別紙7(氏名表示権侵害一覧表)記載のとおりである。
 原告A 275万2728円
 原告B 154万6228円
 原告C 296万8367円
 原告D 22万0507円
 原告F 242万7861円
 原告H 219万3436円
 原告I 166万4487円
(10) 遅延損害金の起算日について
 不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金の起算点は不法行為時であるところ(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁、最高裁昭和55年(オ)第1113号同58年9月6日判決・民集37巻7号901頁)、著作権侵害に基づく損害については、本件各教材の各発行年の損害額につき、遅くとも当該年の末日に遅滞に陥り、著作者人格権侵害に基づく損害については、遅くとも原告らが請求するとおり本件各教材が初めて発行された年の末日までに損害が発生し、同日遅滞に陥るものと解される。
12 結論
 以上の次第であるから、原告らの請求は、主文の限度で理由がある。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 上田洋幸及び同宮崎拓也は、転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官 高部眞規子


(別紙)
当事者の表示
原告 A
原告 B
原告 C
原告 D
原告 EことF
原告 GことH
原告 I
原告ら訴訟代理人弁護士 藤原宏高
同 堀籠佳典
同 九石拓也
同復代理人弁護士 平岡敦
被告 株式会社教学研究社
同訴訟代理人弁護士 三山裕三
同 楠見昭夫
同 伊達雄介
同 堀之内幸雄
同 三山峻司
同 室谷和彦
同訴訟復代理人弁護士 西迫文夫

(別紙)1以下略
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