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【事件名】海賊版フォント搭載PC販売事件
【年月日】平成16年5月13日
 大阪地裁 平成15年(ワ)第2552号 著作権侵害に基づく差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成16年3月5日)

判決
原告 株式会社モリサワ
訴訟代理人弁護士 廣川浩二
同 溝上哲也
被告 株式会社ディー・ディー・テック
被告 A 
被告ら訴訟代理人弁護士 芝原明夫
同 寺尾浩
同 莚井順子
同 渡部孝雄


主文
1 被告株式会社ディー・ディー・テックは、その事務所に設置されたコンピュータの内部記憶装置であるハードディスクに存し、又は同事務所内に保管するフロッピーディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク若しくはハードディスクに存する別紙プログラム目録(2)記載のプログラムを使用してはならない。
2 被告株式会社ディー・ディー・テックは、その事務所に設置されたコンピュータの内部記憶装置であるハードディスクに存し、又は同事務所内に保管するフロッピーディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク若しくはハードディスクに存する別紙プログラム目録(2)記載のプログラムを消去せよ。
3 被告らは、原告に対し、各自8055万5500円及びこれに対する平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 主文第1ないし第3項と同旨
第2 事案の概要
 本件は、パーソナルコンピュータ用フォントのプログラムの著作権を有する原告が、被告株式会社ディー・ディー・テック(以下「被告会社」という。)がそのプログラムを違法に複製して原告の著作権(複製権)を侵害したと主張して、被告会社に対し、その事務所内に存する当該プログラムの複製物の使用差止め及び廃棄と、被った損害の賠償を求め、さらに、被告A(以下「被告A」という。)に対し、被告会社の代表者として自ら上記複製を行っていたなどとして、被告会社と連帯して損害賠償債務を負うと主張して、損害賠償を求めた事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、ソフトウエアの開発及び販売等を業とする株式会社である。
 被告会社は、電子計算機及び周辺機器の販売等を業とする株式会社である。
 被告Aは、被告会社の設立当初から現在まで、その代表取締役であり、自ら被告会社の営業活動をもしている。
(2) 原告は、米国アドビシステムズ社と日本語ポストスクリプトフォント開発に関する契約を締結し、米国アップル社製の「マッキントッシュ」と称されるパーソナルコンピュータ(本件において以下「パーソナルコンピュータ」というのはすべてマッキントッシュの意である。)用の日本語フォントプログラムを開発して、平成元年からこれを販売している。
 原告が作成し、過去に販売し又は現在販売しているフォントプログラムの中には、別紙プログラム目録(1)記載のとおり、31種類のOCFフォントプログラム、26種類のCIDフォントプログラム及び48種類のNewCIDフォントプログラムがある(これらを総称して以下「本件フォントプログラム」という。また、特に断りなく「OCFフォントプログラム」、「CIDフォントプログラム」又は「NewCIDフォントプログラム」というときは、本件フォントプログラムのうちそれぞれ該当するプログラムを指す。)。原告は、本件フォントプログラムの著作権を有しており、これらのうち1種類又は複数種類を格納したフロッピーディスクを入れたパッケージとして、別紙製品目録記載の各製品を販売している。
(3) 被告会社は、パーソナルコンピュータの小売りをしているが、その販売台数は、平成10年11月から平成11年10月までの間で270台、平成11年11月から平成12年10月までの間で346台、平成12年11月から平成13年10月までの間で415台、平成13年11月から平成14年10月までの間で241台であり、これらの全期間(平成10年11月から平成14年10月まで)を通算すると1272台である。
(4) 原告は、被告会社を相手方として、証拠保全としての検証を申し立て、平成14年11月28日に被告会社事務所における検証が実施された(当庁平成14年(モ)第7288号事件)。
 上記検証において、被告会社がその業務に使用しているパーソナルコンピュータのハードディスクの内容を確認したところ、1台のパーソナルコンピュータのハードディスクに、OCFフォントプログラム16書体分及びNewCIDフォントプログラム26書体分の、いずれも原告の許諾を得ていない複製品(複製防止機能が解除されたいわゆる「海賊版」である。以下「海賊版」という。)がインストールされ、他の1台のパーソナルコンピュータのハードディスクに、OCFフォントプログラム23書体分の海賊版がインストールされていた。
2 争点及び当事者の主張
(1) 被告会社は、恒常的に、顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしていたか
〔原告の主張〕
 被告会社は、前記「前提となる事実」(4)のとおり、その業務に使用しているパーソナルコンピュータ2台のハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしている。さらに、被告会社は、その顧客に対してパーソナルコンピュータの販売を行うに際して、本件フォントプログラムを無料でインストールする旨述べて勧誘を行っている。その一例として、被告Aは、営業の肩書の名刺を使用し、自己が代表取締役であることを秘して、「海賊版ですがモリサワフォントもすぐ使えるようにします。」などと述べて、著作権侵害を認識した上で、株式会社B(以下「B」という。)に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに23書体分のOCFフォントプログラムを無断複製した。また、本件フォントプログラムの原告から被告会社への販売本数が、平成10年度(平成10年11月から平成11年10月まで)以降はそれ以前の3分の1程度に著しく減少している。これらの事実からすれば、被告会社が、遅くとも平成10年11月以降は、恒常的に顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしていたことは明らかである。
〔被告らの主張〕
 被告会社が顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに恒常的に本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことはない。
 被告会社の従業員が、前記「前提となる事実」(4)のとおり、被告会社が業務に使用しているパーソナルコンピュータ2台のハードディスクに、本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことはあるが、これは顧客からの本件フォントプログラムの海賊版についての相談に応じるため、被告Aに無断でしたことであり、被告会社の顧客へのパーソナルコンピュータの販売とは関わりがない。
 被告会社がBに販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことがあるが、これは、被告Aが同社から執拗に要求され、やむなくこれに応じたものであり、本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べて勧誘したものでもない。
 被告会社がCに販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことがあるが、これは、Cに被告会社を紹介したのが被告会社担当従業員の元同僚であり、同人から依頼されたため、被告会社の担当従業員が好意から行ったものであり、本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べて勧誘したものでもない。
 被告会社がDに販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことがあるが、これは、Dに被告会社を紹介した者から、同人が使用しているパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールしてあるフォントをインストールして欲しいと依頼されたため、被告会社の担当従業員が言われたとおりにしたものであり、本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べて勧誘したものでもない。
 被告会社がEに販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことがあるが、これは、買い換え前にEで使用していたパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールしてあった本件フォントプログラムの海賊版を、新しく買ったパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールして欲しいと依頼されたため、被告会社の担当従業員が言われたとおりにしたものであり、本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べて勧誘したものでもない。
 被告会社がパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたのは、上記の5件だけであり、本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べてパーソナルコンピュータの購入を勧誘したこともないし、恒常的に顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたこともない。
 そもそも、CIDフォントプログラム及びNewCIDフォントプログラムは市場において人気がなく、需要が小さいから、これらの海賊版をインストールする旨述べても顧客に対する有効な勧誘とはならない。OCFフォントプログラムに対する需要はあるが、人気があって需要があるのは「新ゴ」の4書体だけであり、このうち2書体を購入すれば、太さを変えて4書体として使えるため、ほとんどのユーザーは「新ゴ」の2書体しか購入しないのが実情であるし、既に海賊版プログラムもユーザー間に普及し、広く用いられているから、この海賊版をインストールする旨述べても有効な勧誘とはならない。しかも、被告会社の顧客のほとんどは正規品を購入している。このように、本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べても、顧客に対する有効な勧誘にはならないのであるから、このような勧誘をしたこともないし、当然、顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版を恒常的にインストールしたこともない。
 本件フォントプログラムの原告から被告会社への販売本数が、平成10年度以降減少したのは、OCFフォントプログラム(とりわけその海賊版プログラム)がユーザー間に普及し、新たな需要が小さくなったこと並びにCIDフォントプログラム及びNewCIDフォントプログラムの人気がなかったことによるものであって、被告会社が恒常的に顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことによるものではない。
(2) 被告会社によって顧客に販売されたパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールされた本件フォントプログラムの海賊版の数
〔原告の主張〕
ア 被告会社によって顧客に販売されたパーソナルコンピュータのうち、何台のハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版がインストールされたかについて、厳密な立証は事実上不可能であるから、合理的な推計によって認定されるべきである。
 原告から被告会社に対する本件フォントプログラムの販売本数が、平成6年度から平成9年度まで(平成6年3月から平成10年2月まで)は毎年375本から598本の間を推移していたのに対し、平成10年度から平成14年度まで(平成10年3月から平成15年2月まで)は毎年123本から178本の間に止まっており、特に被告会社によるパーソナルコンピュータの販売台数は平成10年度から平成12年度(平成10年11月から平成13年10月まで)にかけて毎年度増加しているにもかかわらず、原告から被告会社に対する本件フォントプログラムの販売本数が増加していないこと、本件フォントプログラムはパーソナルコンピュータを業務用として用い、アドビシステムズ社のソフトウエアを利用するためにはほとんど必須のものであるから、被告会社において購入されるべき本件フォントプログラムの数が減少するはずがないことに照らせば、被告会社によって平成10年11月から平成14年10月までに販売されたパーソナルコンピュータ1272台のうち、少なくとも3分の1に相当する424台のハードディスクには、被告会社によって本件フォントプログラムの海賊版がインストールされたと認定されるべきである。
イ さらに、被告会社によって顧客に販売されたパーソナルコンピュータのハードディスクに、合計何本の本件フォントプログラムの海賊版がインストールされたかについても、厳密な立証は事実上不可能であるから、これも合理的な推計によって認定されるべきである。
 被告会社が販売してハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことが明らかになっているB、C、D及びEについて、それぞれのハードディスクにインストールされた本件フォントプログラムの海賊版の本数は、少なくとも23書体であった。この事実に照らせば、被告会社によって販売されたパーソナルコンピュータのハードディスクで、本件フォントプログラムの海賊版がインストールされたものについては、1台当たり平均して23書体分がインストールされたものと認定されるべきである。
ウ 上記ア、イを総合すれば、被告会社は、その販売したパーソナルコンピュータのうち424台のハードディスクに、1台当たり平均して23書体分の本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたものと認定すべきことになるから、これによって計算すると、被告会社は、合計9752書体分の本件フォントプログラムの海賊版を、その販売したパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールしたものと認定されるべきである。
〔被告らの主張〕
 被告会社が顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたのは、上記(1)の被告らの主張のとおり4件(B、C、D及びE)だけであり、このうちCに販売したパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールした本件フォントプログラムの海賊版の書体数は、23書体分に止まる。
(3) 使用差止請求及び消去請求の必要性
〔原告の主張〕
ア 前記(1)の原告の主張のとおり、被告会社は、その業務に使用しているパーソナルコンピュータ2台のハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールし、その顧客に対してパーソナルコンピュータの販売を行うに際して、本件フォントプログラムを無料でインストールする旨述べて勧誘を行っている。
イ 確かに、前記「前提となる事実」(4)の証拠保全においては、被告会社事務所内において、その業務に使用しているパーソナルコンピュータ2台のハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版がインストールされている事実しか確認されなかったが、上記証拠保全においては、被告会社事務所内に保管されているフロッピーディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク及びハードディスクの記録内容は時間的制約から検証されなかったものである。
 前記アの事実に鑑みれば、本件フォントプログラムの海賊版が複写されているフロッピーディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク又はハードディスクが被告会社事務所内に存在する蓋然性は高い。
〔被告会社の主張〕
 前記(1)の被告らの主張のとおり、被告会社は、その業務に使用しているパーソナルコンピュータ2台のハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版65書体分をインストールしていたが、これらは既に削除しており、その顧客に対して本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べてパーソナルコンピュータの購入を勧誘したこともない。
 被告会社従業員が本件フォントプログラムの海賊版が複写されたCD−ROMを所持していたことはあるが、被告会社はこれを廃棄させている。
(4) 被告Aが被告会社と連帯して責任を負うか
〔原告の主張〕
ア 被告Aは、被告会社の代表者として、被告会社の業務に使用しているパーソナルコンピュータ及び被告会社がその顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールし、あるいは被告会社従業員にインストールさせていたのであって、これらの行為は被告らの共同不法行為であり、被告Aは被告会社と連帯して責任を負う。
イ 仮に上記アの主張が認められないとしても、被告Aは、被告会社の代表取締役であり、被告会社の従業員数名は、被告Aと同じ部屋で被告会社の業務に従事していたのであるから、被告Aとしては、被告代表取締役としての職務上、被告会社がその業務に使用し、若しくはその顧客に販売するパーソナルコンピュータに本件フォントプログラムの海賊版がインストールされていないことを確認し、又は、被告会社の従業員をして、これらのパーソナルコンピュータに本件フォントプログラムの海賊版をインストールさせず、また、本件フォントプログラムの海賊版のインストールを前提とするパーソナルコンピュータの販売や勧誘をさせないように注意し、指導すべき義務があったのにこれを怠り、かえって、自ら本件フォントプログラムの海賊版のインストールないしこれを前提とするパーソナルコンピュータの販売や勧誘を行い、若しくは被告会社従業員に命じてこれを行わせ、又は被告会社従業員がこれらを行うのを明確に知り得る立場にありながらこれを漫然と放置していた。
 このように、被告Aには、故意又は少なくとも重過失があったのであるから、被告会社従業員が、被告会社が業務上使用し又は販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことで原告に生じた損害について、不法行為ないし商法266条の3に基づく株式会社の取締役の第三者に対する損害賠償責任を負う。
〔被告Aの主張〕
 原告の主張は否認ないし争う。
 前記(1)の被告らの主張のとおり、被告Aが本件フォントプログラムの海賊版のインストールに関与したのは、Bの件だけである。その余は被告会社の従業員が被告Aに無断で行ったことであり、被告Aはこのことを知らなかった。被告Aが被告会社がその業務に使用しているパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版がインストールされているのを知ったのも、Bから本件フォントプログラムの海賊版をインストールするよう要求されたことをきっかけに知ったのが初めてである。前述のC、D及びEの件に至っては、被告Aは本件訴訟になって調査した結果初めてこれを知った。
 被告Aは、被告会社従業員に対し、いかなるプログラムも無断複製して販売しないよう常々言うなどして、被告会社の業務について、本件フォントプログラムを含め違法な海賊版プログラムを扱わないよう注意義務を尽くしており、原告主張の責任を負う理由はない。
(5) 損害
〔原告の主張〕
ア 逸失利益 7655万5500円
 被告会社が本件フォントプログラムの海賊版を複製したことにより、原告はその書体数と同数の正規品を販売することができたはずであるのに、その販売をすることができず、その結果、販売することができれば得られたはずの利益を失った。
 本件フォントプログラムの実際の販売価格は、平均して1書体当たり1万3650円以上であり、製造原価は、1書体当たり3117円であるから、被告会社の上記行為による原告の逸失利益は、1書体当たり1万0500円を下らない。
 そして、被告会社によって顧客に販売されたパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールされた本件フォントプログラムの海賊版の数は、上記(2)の原告の主張のとおり9752書体分である。
 したがって、被告による本件フォントプログラムの海賊版の複製により、原告は1億0239万6000円(10,500×9,752)の損害を被った。
 本件では、このうち7655万5500円を請求する。
イ 弁護士費用 400万円
ウ 合計 8055万5500円
〔被告らの主張〕
 原告の主張は否認ないし争う。
ア 前記(1)の被告らの主張のとおり、CIDフォントプログラム及びNewCIDフォントプログラムは市場において人気がなく、需要が小さい。OCFフォントプログラムに対する需要はあるが、人気があって需要があるのは「新ゴ」の4書体だけであり、このうち2書体を購入すれば、太さを変えて4書体として使えるため、ほとんどのユーザーは「新ゴ」の2書体しか購入しないのが実情である。
 そして、被告会社の顧客のほとんどは正規品を購入しているし、既に海賊版プログラムもユーザー間に普及しており、広く用いられているのが現状である。
 さらに、フォントプログラムとしては、原告のものを用いなくても他社のものを用いることもできる。
 このような状況に照らせば、仮に被告会社が本件フォントプログラムの海賊版を複製しても、原告がその書体数と同数の正規品を販売することができたという関係は存在しないから、原告に逸失利益は存在しない。
イ 被告会社が顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたのは、上記(1)の被告らの主張のとおり4件(B、C、D及びE)だけである。しかも、このうちBの件は、原告がBに依頼して、同社から被告会社に対して執拗に本件フォントプログラムの海賊版のインストールを求めたことによるものであるから、この件において原告に損害は発生していない。
ウ NewCIDフォントプログラムの1書体分の定価は2万円であるが、卸値が1万円であり、原価はその約4割であるから、原告が販売によって得るべき1書体当たりの利益は約6000円である。
 OCFフォントプログラムの1書体分の定価は2万2000円であるが、卸値が1万1000円であり、原価はその約4割であるから、原告が販売によって得るべき1書体当たりの利益は約6600円である。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被告会社は、恒常的に、顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしていたか)について
(1) 前記「前提となる事実」と後掲各証拠によれば、以下の各事実を認めることができる。
ア Bは、原告からの依頼を受け、被告会社が顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしていることを確認するため、平成14年8月、同社からパーソナルコンピュータを購入した。被告会社とBとの商談は同年7月ころ行われたが、被告会社の担当者は被告Aであり、Bの代表取締役からすぐに使える環境にしてもらえるかと問われたのに対し、自ら進んでOCFフォントプログラムの海賊版をインストールする旨を述べて商談をまとめた。被告会社がBに納入したパーソナルコンピュータのハードディスクには、OCFフォントプログラムの海賊版が23書体分インストールされていた(甲第3、第8号証、第20号証の1・2、第31号証)。
イ Cは、平成12年9月、被告会社からパーソナルコンピュータを購入した。被告会社がCに納入したパーソナルコンピュータのハードディスクには、OCFフォントプログラムの海賊版がビットマップ書体として23書体分インストールされていた(甲第29、第30号証)。
ウ Dは、平成13年5月、被告会社からパーソナルコンピュータを購入した。Dがパーソナルコンピュータを被告会社から購入することにしたのは、見積もりを依頼してからの対応が速かったことと、ソフトやフォントを無料で付けてくれると言われたことが理由であった。被告会社がDに納入したパーソナルコンピュータのハードディスクには、OCFフォントプログラムの海賊版が23書体分インストールされていた(甲第27、第28号証)。
エ Eは、平成13年8月及び平成14年2月、被告会社からパーソナルコンピュータを4台購入した。Eが被告会社からパーソナルコンピュータを購入した理由の一つには、ソフトやフォントを無料で入れてやると言われたことがあった。被告会社がEに納入したすべてのパーソナルコンピュータのハードディスクには、それぞれOCFフォントプログラムの海賊版が23書体分インストールされていた(甲第32号証、第33号証の1ないし5)。
オ 平成14年11月28日時点において、被告会社が事務所において業務に使用しているパーソナルコンピュータのハードディスクには、1台にOCFフォントプログラムの海賊版16書体分及びNewCIDフォントプログラムの海賊版26書体分が、もう1台にはOCFフォントプログラムの海賊版23書体分がインストールされていた。上記のうち、NewCIDフォントプログラムの海賊版がインストールされていたパーソナルコンピュータのハードディスク内には、フォルダ表示画面に、「モリサワNewCIDフォントのノンプロテクト版です。」、「フォントのアウトライン及びAcrobat4によるエンペットに対応」、「ただし現在の(K)バージョン(9/14)共存で問題あり(CIDが優先する。)」、「ちょっぴり頑張り中.....情報を乞う!!」と記されたフォルダがあった(検証)。
(2)ア 上記(1)アについて、被告らは、Bから本件フォントプログラムの海賊版をインストールすることを執拗に要求されたため、やむなくこれに応じたものであると主張し、被告Aの陳述書である乙第13号証にもこれに沿う記述がある。
 しかしながら、B代表取締役と被告Aとの商談を録音したMD(ミニディスク)である甲第20号証の1によれば、被告Aが進んでOCFフォントプログラムの海賊版をインストールすることを申し出たことが認められ、被告らが主張するようにBから執拗に要求された形跡はうかがわれない。また、甲第20号証の1に録音されている会話は、その内容から明らかに日を変えて2回にわたって行われたと認められるものであるが、乙第13号証の記述は1日の商談で被告らが主張するすべての会話がされたものとなっており、上記明らかに認められる事実と矛盾するものであるから、乙第13号証の記述を採用することはできない。
 なお、被告らは、上記甲第20号証の1は、確かにB代表取締役と被告Aとの商談を録音したものであるが、商談の現場でBの従業員がカセットテープレコーダーを操作し、録音を進めたり停止したりを繰り返して、原告の都合の良いように録音をしたものであり、時々録音されている大きな音はその機械操作音であると主張する。しかし、甲第20号証の1には、原告が平成14年7月25日に録音したと主張する部分と、同月31日に録音したと主張する部分が存在するところ、前者には確かに被告らが主張するように所々に大きな音が録音されているものの、その音質や当該大きな音の背景に会話の声が録音されていること、また当該大きな音の前後で会話が自然に続いていることに照らせば、これらの大きな音は商談が行われた部屋かその近くで全く別個に生じた音が録音されたものと認めるべきであるし、会話に不自然な断絶があるなどの事情はなく、むしろ自然に流れた会話が録音されていると認められるから、被告らが主張するような方法により録音されたとは認め難い。また、後者には商談の背後に別の音楽が継続して録音されているところ、この事実に照らせば被告らが主張するような方法により録音されたとは認められない(なお、被告らが主張するような方法で録音した後に、別の音楽を合成して録音することは勿論可能であるが、それよりは商談の様子を中断なく録音した後に商談部分も編集する方が容易であるから、結局被告らが主張するような方法によって録音されたとは認め難いというべきである。)。そして、後者の商談においても会話に不自然な断絶があるなどの事情はなく、録音された会話は自然なものと認められるから、結局、甲第20号証の1には被告らが主張するような編集等の作為は加えられていないと認めるべきである。
 上記のとおりであるから、この点についての被告らの主張は採用することができず、他に上記(1)アの認定を左右するに足りる証拠はない。
イ 被告らは、上記(1)ウについて、Dに被告会社を紹介した者から、同人が使用しているパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールしてあるフォントをインストールして欲しいと依頼されたため、被告会社の担当従業員が言われたとおりにしたものであり、本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べて勧誘したものではないと主張し、また上記(1)エについて、買い換え前にEで使用していたパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールしてあった本件フォントプログラムの海賊版を、新しく買ったパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールして欲しいと依頼されたため、被告会社の担当従業員が言われたとおりにしたものであり、本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べて勧誘したものではないと主張するが、いずれもこれらを裏付ける証拠はなく、かえって、D及びEの各代表者の陳述書である甲第27号証、第32号証によれば、被告会社がフォントを無料でインストールする旨を述べて勧誘していたことが認められるところであるから、これらの点についての被告らの主張は採用することができない。
(3) 上記(1)で認定した各事実によれば、被告会社が、少なくとも平成12年ころ以降、顧客に対して、恒常的に、本件フォントプログラムの海賊版をハードディスクにインストールする旨述べてパーソナルコンピュータの購入を勧誘し、販売したパーソナルコンピュータのハードディスクにOCFフォントプログラムの海賊版をインストールしていたことを推認することができる。
 そして、原告から被告会社への本件フォントプログラムの販売本数が、平成6年度から平成9年度(年度は同年3月から翌年2月まで。以下同じ。)までは書体ライセンス数では平成6年度375本、平成7年度485本、平成8年度598本、平成9年度437本という推移であり、ATM版(画面表示用)書体本数では平成6年度377本、平成7年度492本、平成8年度613本、平成9年度437本と推移していたのに対し、平成10年度から平成14年度までは書体ライセンス数では平成10年度178本、平成11年度175本、平成12年度138本、平成13年度123本、平成14年度147本と、ATM版書体本数では平成10年度178本、平成11年度152本、平成12年度95本、平成13年度111本、平成14年度128本と推移しており(甲第15号証、第42号証の1、第44号証の1・2)、平成10年3月以降の販売本数が同年2月までに比べて数分の1と半分以下に極端に減少していることに照らせば、被告会社が、恒常的に本件フォントプログラムの海賊版をパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールして販売することを開始したのは平成9年3月から平成10年2月までの間であったと推認することができる。
(4)ア 被告らは、被告会社が顧客に販売したパーソナルコンピュータに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしていないことを裏付ける証拠として、その旨を記載した顧客の証明書である乙第10号証の1ないし101及び第17号証の1ないし70を提出する。
 しかしながら、上記の171枚のうち、作成者である顧客の住所及び氏名ないし社名の双方が記されたものは乙第10号証の1ないし7及び第17号証の1ないし3の合計10枚にすぎず、他は作成者の住所(一部は氏名も)が塗りつぶされている。これら作成者の住所が塗りつぶされている書証は、これらが真正に成立したものであると認めるには足りないから、これらを証拠とすることができず、少なくともこれらによる証明力は皆無であるといわざるを得ない。
 そして、平成10年11月から平成14年10月までに被告会社が販売したパーソナルコンピュータが1272台に上ることに鑑みると、乙第10号証の1ないし7及び第17号証の1ないし3の合計10枚の証明書によっては、仮にその記載内容が事実であるとしても、上記(3)で認定した事実を覆すには足りない。
イ 上記(1)オについて、被告らは、顧客からの本件フォントプログラムの海賊版についての相談に応じるため、被告Aに無断でしたことであり、被告会社の顧客へのパーソナルコンピュータの販売とは関わりがないと主張する。
 しかし、上記(1)オのとおり、インストールされていたNewCIDフォントプログラムの海賊版に実用上の問題があり、その解消に向けて被告会社の他の従業員ないし役員に情報提供が呼びかけられていること及び被告会社の事務所には被告Aの他5名程度の従業員が勤務していることにすぎない(被告らが自認している。)ことに照らせば、被告会社の事務所で業務に用いられるパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしていたのは、被告会社が顧客に販売するパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールする準備のためであり、被告Aもこれを知っていたと推認するのが相当であって、この点についての被告らの主張は採用することができない。
ウ 被告らは、CIDフォントプログラム及びNewCIDフォントプログラムは人気がなく、これらの海賊版をインストールする旨述べても顧客に対する有効な勧誘にはならないと主張する。
 しかしながら、上記(3)のとおり、被告らが勧誘に用い、顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールしたのはOCFフォントプログラムの海賊版であると認められるのであるから、被告らの上記主張は上記(3)の認定を左右するものではない。
エ 被告らは、OCFフォントプログラムのうち、人気があるのは「新ゴ」の4書体だけであり、このうち2書体を購入すれば、太さを変えて4書体として使えるため、ほとんどのユーザーは「新ゴ」の2書体しか購入しないのが実情であるし、既に海賊版プログラムもユーザー間に普及し、広く用いられていると主張する。
 しかし、仮に被告らの主張のとおりであるとしても、OCFフォントプログラムを無料でインストールするということ自体が勧誘の手段となり得ることには変わりがないというべきであるから、これも上記(3)の認定を左右しない。
オ 被告らは、被告会社の顧客のほとんどは正規品を購入していると主張し、これを裏付ける証拠として乙第7号証(被告会社顧客の本件フォントプログラム購入の有無一覧表)を提出する。
 しかしながら、乙第7号証は被告会社において作成した表にすぎず、十分な客観的な裏付けを欠く(この裏付けに乙第10号証の8ないし101及び第17号証の4ないし70を用いることができないのは上記アで述べたとおりである。)ものであるから、これによって上記被告ら主張の事実を認めることはできず、他に被告ら主張の上記事実を認めるに足りる証拠はない。
カ 被告らは、本件フォントプログラムの原告から被告会社への販売本数が、平成10年度以降減少したのは、OCFフォントプログラム(とりわけその海賊版プログラム)がユーザー間に普及し、新たな需要が小さくなったこと並びに本件フォントプログラムのうちCIDフォントプログラム及びNewCIDフォントプログラムの人気がなかったことによると主張する。
 そこで検討するに、原告のOCFフォントプログラムの全体の販売本数は、平成9年度は書体ライセンス数にして20万1603本、ATM版書体本数にして21万5040本であったのに対し、平成10年度は書体ライセンス数にして13万4507本、ATM版書体本数にして14万2708本であり(甲第41号証の1、第43号証の1・2)、確かに減少しているものの、その割合は書体ライセンス数にして約33パーセント、ATM版書体本数にして約34パーセントであった。これに対し、原告の被告会社に対するOCFフォントプログラムの販売本数は、平成9年度は書体ライセンス及びATM版書体本数にしていずれも388本であったのに対し、平成10年度は書体ライセンス数及びATM版書体本数にしていずれも164本であり(甲第15号証、第42号証の1、第44号証の1・2)、その減少率は約58パーセントであって、OCFフォントプログラム全体の販売本数の減少率に比べていずれも20パーセント以上高い。そして、被告らが主張する、OCFフォントプログラム(とりわけその海賊版プログラム)がユーザー間に普及し、新たな需要が小さくなったという事情のみによっては、他に被告会社への販売本数の減少をもたらした個別的要素があり得ること(ただし、被告らからは何ら主張されていない。)を考慮しても、上記のとおり被告会社へのOCFフォントプログラムの販売本数の減少がOCFフォントプログラムの全体の販売本数の減少に比べて20パーセント以上大きいことを説明することはできないというべきである。
 また、原告のNewCIDフォントプログラム全体の販売本数は、販売が開始された平成11年度から平成14年度までの合計で105万8702本(甲第41号証の1、第43号証の1・2)であり、平成5年度から平成11年度まで販売されたOCFフォントプログラム全体の販売本数(書体ライセンス数にして77万4757本、ATM版書体本数にして83万6725本。甲第41号証の1、第43号証の1・2)に比べ、いずれも上回っている。これに対し、原告の被告会社に対するNewCIDフォントプログラムの販売本数は、平成11年度から平成14年度までの合計で494本であり(甲第15号証、第42号証の1、第44号証の1・2)、平成5年度から平成11年度までの被告会社に対するOCFフォントプログラムの販売本数(書体ライセンス数にして2083本、ATM版書体本数にして2118本。甲第15号証、第42号証の1、第44号証の1・2)に比べ、その約23パーセントにすぎない。このように原告の被告会社に対するNewCIDフォントプログラムの販売本数が著しく少ないことは、NewCIDフォントに人気がなかったという理由によっては説明することはできず、むしろ被告会社において販売するパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版を恒常的にインストールしていたと推認することによってよく説明することができるものというべきである。
 以上のとおりであるから、この点についての被告らの主張も採用することができない。
キ 以上のとおり、上記(3)の認定に反する被告らの主張はいずれも採用することができず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
2 争点(2)(被告会社によって顧客に販売されたパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールされた本件フォントプログラムの海賊版の数)について
(1) 前記「前提となる事実」(3)のとおり、被告会社が平成10年11月から平成14年10月までに販売したパーソナルコンピュータは合計1272台に上るところ、このように台数自体が極めて多数に上り、販売先である顧客の数も相当に多数に上るという事情に照らせば、被告会社がこのうち何台のパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたか、またその際に何書体分をインストールしたかを厳密に立証することは事実上不可能であるというべきである。
 したがって、被告が本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたハードディスクの台数及び書体数の認定に当たっては、合理的な推計によらざるを得ない。上記台数及び書体数は、被告らの著作権侵害行為によって原告が被った損害額を立証するために必要な事実というべきであるから、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき相当な損害額を認定することができるものである(著作権法114条の5参照)。
(2) そこで検討を進めるに、前記1で認定したとおり、被告会社は恒常的に、本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨告げてパーソナルコンピュータの購入を勧誘し、実際に販売したパーソナルコンピュータにOCFフォントプログラムの海賊版をインストールしており、原告から被告会社への本件フォントプログラムの販売本数も、平成6年度から平成9年度(年度は同年3月から翌年2月まで。以下同じ。)までは書体ライセンス数にして375本から598本の間、ATM版書体本数にして377本から613本の間を推移していたのに対し、平成10年度から平成14年度までは書体ライセンス数にして123本から178本の間、ATM版書体本数にして95本から178本の間を推移するに至ったという事情に鑑みると、被告会社は、その平成10年11月から平成14年10月までに販売したパーソナルコンピュータのうち、少なくとも4分の1の台数のハードディスクにOCFフォントプログラムの海賊版をインストールしたと推定するのが合理的である。
 そして、前記のとおり、この期間内に被告会社が販売したパーソナルコンピュータは1272台であるから、被告会社はこの4分の1に相当する318台にOCFフォントプログラムの海賊版をインストールしたものと認める。
(3) また、前記1で認定したとおり、被告会社がB、C、D及びEに販売したパーソナルコンピュータのハードディスクには、いずれもOCFフォントプログラムの海賊版が、少なくとも23書体インストールされていた。また、前記「前提となる事実」(4)のとおり、被告会社が事務所で業務に使用しているパーソナルコンピュータのうち2台のハードディスクにOCFフォントプログラムの海賊版がインストールされ、そのうち1台には23書体分がインストールされていた。これらの事情に照らせば、被告会社が顧客に販売するパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールするに当たっては、OCFフォントプログラムの海賊版を通常23書体インストールしていたものと推定するのが相当である。
 したがって、被告会社が平成10年11月から平成14年10月までの間に顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールした本件フォントプログラムの海賊版は、OCFフォントプログラムの海賊版が7314書体分(23書体×318台)と認めることができる。
3 争点(3)(使用差止請求及び消去請求の必要性)について
 被告会社がその業務に使用しているパーソナルコンピュータのうち1台のハードディスクにOCFフォントプログラム16書体分及びNewCIDフォントプログラム26書体分の海賊版が、他の1台のハードディスクにOCFフォントプログラム23書体分の海賊版がインストールしていたことは、前記「前提となる事実」(4)のとおりである。
 そして、前記1のとおり、被告会社が顧客に販売するパーソナルコンピュータのハードディスクに恒常的に本件フォントプログラムの海賊版をインストールしていたと認められること、被告会社の業務に使用しているパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしていたのもその準備であると認められることに加え、本件フォントプログラムの海賊版は、その複製防止機能が解除された電子データとしての性質から、容易にフロッピーディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク又はハードディスクといった記憶媒体に複製することができることを考慮すれば、現在も、被告会社の事務所に設置されたコンピュータのハードディスクや、同事務所内に存在するフロッピーディスク、コンパクトディスク、光磁気ディスク又はハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版が複製されて残存している蓋然性はなお高いものと認められる。
 この点につき、被告らは、本件フォントプログラムの海賊版は被告会社のパーソナルコンピュータのハードディスクから消去し、これが記録されたCD−ROMは従業員に廃棄させた旨主張するが、これを裏付ける証拠はなく、本件訴訟における被告らの主張態様からしても採用することができない。
 以上のとおりであるから、本件フォントプログラムの海賊版であることが明らかな別紙プログラム目録(2)に係る使用差止請求及び消去請求はいずれもその必要性を認めることができる。
4 争点(4)(被告Aが被告会社と連帯して責任を負うか)について
 前記1で認定したとおり、被告会社が恒常的に本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べてパーソナルコンピュータの購入の勧誘を行い、実際に販売するパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしており、被告会社の業務に使用しているパーソナルコンピュータのハードディスクにも本件フォントプログラムの海賊版をインストールして、その準備を行っていたと認められること、被告会社は代表取締役である被告Aの他、従業員が5名程度いるにすぎないこと、被告Aも、自ら本件フォントプログラムの海賊版をインストールする旨述べてパーソナルコンピュータの販売や勧誘を行っていたことに照らせば、被告Aは被告会社の代表者として、自ら、又は被告会社従業員をして、被告会社の顧客に販売するパーソナルコンピュータのハードディスクや、被告会社がその業務に使用するパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版のインストールを行っていたと認めることができる。これに反する被告Aの主張は、前記1で判示したところに照らして採用することができない。
 そして、上記の認定事実によれば、被告Aによる、被告会社の代表者として、自ら、又は被告会社従業員をして、被告会社の顧客に販売するパーソナルコンピュータのハードディスクや、被告会社がその業務に使用するパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版のインストールをした行為は、被告らの原告に対する共同不法行為と評価することができる。したがって、被告Aは、上記行為によって原告に生じた損害について、被告会社と連帯して損害賠償責任を負うというべきである。
5 争点(5)(損害)について
(1) 原告は、被告らがパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールしたことにより、原告はその書体数と同数の正規品を販売することができたはずであるのに、その販売をすることができなかったとして、これによる逸失利益の主張をする。
 これに対し、被告らは、CIDフォントプログラム及びNewCIDフォントプログラムは人気がないこと、OCFフォントプログラムについても人気があるのは「新ゴ」の4書体だけであり、このうち2書体を購入すれば、太さを変えて4書体として使えるため、ほとんどのユーザーは「新ゴ」の2書体しか購入していないこと、既に海賊版プログラムもユーザー間に普及しており、広く用いられていること、フォントプログラムとしては、原告のものを用いなくても他社のものを用いることもできることなどを主張して、被告らが本件フォントプログラムの海賊版をインストールしなくても、原告がその書体数と同数の正規品を販売することができたという関係は存在せず、したがって逸失利益も存在しない旨主張する。
 そこで検討するに、確かに、被告らが主張するように、仮に被告らが被告会社の販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版をインストールするというような行為をしなかったとした場合に、当該パーソナルコンピュータの購入者らが原告から正規の本件フォントプログラムを購入したかどうかは、仮定の問題であるから不確実な要素があることは否定できない。しかしながら、本件においては、上記認定事実によれば、被告会社が顧客に販売したパーソナルコンピュータのハードディスクに、原告が著作権を有する本件フォントプログラムの少なくとも一部をそっくり複製したもの、すなわち原告が販売している製品の海賊版をインストールしたものであり、顧客も原告の製品の海賊版であることを認識した上で、被告会社のこのような行動を受け入れてパーソナルコンピュータを購入したものである。このような事実関係の下においては、現実にパーソナルコンピュータのハードディスクに本件フォントプログラムの海賊版がインストールされたという事実の存在を前提として、当該パーソナルコンピュータの購入者において、本来ならば本件フォントプログラムの正規品を購入すべきであったのに、これが購入されなかったことによって、原告は現実に原告の製品の販売機会を失ったものというべきである。したがって、このことによって失われた原告の受けるべき利益をもって、原告に生じた逸失利益の損害であると認めるのが相当である。この点についての被告らの主張は採用することができない。
 そして、被告らのその余の主張は、既に判示したところに照らしていずれも採用することができない。
(2) したがって、原告が被った損害のうち、逸失利益相当分は以下のとおり算定することができる。
ア 本件フォントプログラムの販売価格は、ATM専用版、低解像度版又は高解像度版によって異なり、また単書体のものと数書体をパッケージにしたものとが存在するが、ATM専用版、低解像度版及び高解像度版のうちでは、ATM専用版の単価が最も低いことと、被告らがパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールしたのが複製防止機能が解除された海賊版であることに鑑みれば、損害算定に当たっては、ATM専用版の単書体のものを一応の基準とするのが相当である(甲第10、第11号証)。
 そして、本件フォントプログラムのATM専用版の単書体のものにつき、平成10年3月から平成15年2月までの原告の実際の販売価格は、最低でもOCFフォントプログラムについて1万4300円、NewCIDフォントプログラムについて1万3000円であったと認められる。また、この間の原告におけるポストスクリプトフォント部門の製造原価は、総額で約46億3080万7000円であり、この間に原告が販売したポストスクリプトフォントの書体数は、148万5452本であって、1書体当たりの製造原価を平均すると約3117円となることが認められる(甲第41号証の1、第43号証の1・2、第46号証)。
 以上の事実に照らせば、被告らが本件フォントプログラムの海賊版をパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールすることによって原告に生じる損害となる逸失利益は、1書体当たり1万0500円と認めるのが相当である。
イ この点につき、被告らは、OCFフォントプログラムの卸値は1万1000円であり、NewCIDフォントプログラムの卸値は1万円であると主張するが、違法に本件フォントプログラムの海賊版をパーソナルコンピュータのハードディスクにインストールしていた被告らとの間で、適法な取引関係を前提とした卸値を基準とすべきではないから、この点についての被告らの主張は採用することができない。
 また、被告らは、本件フォントプログラムの製造原価は卸値の約4割であると主張するが、何ら裏付けとなる証拠が存在しないから、被告らのこの主張も採用することができない。
ウ 以上のとおりであるから、原告が被った損害額のうち、逸失利益は、
 1万0500円×7314書体=7679万7000円
 と算定される。
 そして、原告が本件訴訟において請求する損害賠償額のうち、逸失利益相当分は7655万5500円であり、これは上記逸失利益の範囲内である。
(3) 原告が被った損害額のうち、弁護士費用相当分としては、本件事案の難易、請求額、上記認容額、その他諸般の事情を勘案すると、原告が主張する400万円をもって相当と認める。
(4) したがって、原告が本件において被告らに請求することができる損害賠償額は、上記の(2)及び(3)の合計額である8055万5500円である。
6 結論
 以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 小松一雄
 裁判官 守山修生
 裁判官 田中秀幸は、転補のため署名押印できない。

裁判長裁判官 小松一雄


(別紙プログラム目録(1)(2)、別紙製品目録は省略)
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