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【事件名】駅前モニュメント事件(岐阜駅)(2)
【年月日】平成16年5月13日
 東京高裁 平成15年(ネ)第5509号 著作権侵害による損害賠償、損害賠償差止等請求控訴事件
  (原審・千葉地裁佐倉支部平成10年(ワ)第382号、平成12年(ワ)第383号、平成13年(ワ)第96号)
 (平成16年2月19日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 A
被控訴人 岐阜県
訴訟代理人弁護士 端元博保
同 伊藤公郎
同 池田智洋
被控訴人 屋外美術株式会社
訴訟代理人弁護士 富永赳夫


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 当審における訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人岐阜県(以下「被控訴人県」という。)は、控訴人に対し、金5000万円及びこれに対する平成10年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人県は、その費用をもって、控訴人のために別紙謝罪広告目録(1)記載の内容の謝罪広告を1回掲載せよ。
(4) 被控訴人屋外美術株式会社(以下「被控訴人会社」という。)は、控訴人に対し、金5000万円、及び、内金5万円に対する平成12年11月17日から、内金4995万円に対する平成14年1月9日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被控訴人会社は、その費用をもって、控訴人のために別紙謝罪広告目録(2)記載の内容の謝罪広告を1回掲載せよ。
(6) 被控訴人県は、別紙図面(一)及び(三)記載の各著作物(以下「本件著作物」という。)を製作展示してはならない。
(7) 被控訴人県は、岐阜県岐阜市(以下省略)の一部の土地上に設置された別紙図面(五)記載のモニュメント(以下「本件モニュメント」という。)を破棄せよ。
(8) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
2 被控訴人ら
 主文と同旨
第2 事案の概要
 本件は、岐阜駅南入口に設置されるべく予定され、後に現実に設置されたモニュメント(記念建造物)を図面上で創作した控訴人が(以下、現実に設置されたものを「本件モニュメント」といい、控訴人により図面上で創作されたものを「本件著作物」という。)、本件著作物に係る著作権(以下「本件著作権」という。)及び著作者人格権(同一性保持権。以下「本件著作者人格権」という。)に基づいて、被控訴人らが、控訴人に無断で、控訴人作成の図面を改変したカラーパース図(カラーの遠近図)及び施工工事図面を作成し、本件著作物を改変して本件モニュメントを建設して、本件著作権及び本件著作者人格権を侵害したとして、被控訴人らそれぞれに対し、損害賠償金(慰謝料)を支払うこと及び謝罪広告をすることを求め、また、被控訴人県に対し、本件著作物を製作展示しないこと及び本件モニュメントを破棄することを求めた事案である。
 被控訴人らは、原審において、本件モニュメントに係る著作権は、本件著作権を含めすべて被控訴人県に帰属すること、控訴人は、被控訴人県による設計変更を承認していたこと、をそれぞれ主張して、控訴人の主張を争った。
 原判決は、被控訴人らの主張を認め、本件モニュメントに係る著作権はすべて被控訴人県に帰属し、控訴人は、被控訴人県による設計変更を承認していたとして、控訴人の請求をすべて棄却した。
 当事者の主張は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する(以下、当裁判所も、「B係長」、「C」の語を、原判決の用法に従って用いる。)。
1 控訴人の当審における主張の要点
 控訴人が本件著作物の著作者であること、本件著作権が控訴人に帰属すること、及び、被控訴人らが、本件著作物を無断で改変して、本件モニュメントを構築したことは、証拠上明らかである。原判決の認定判断は誤りである。
2 被控訴人らの当審における反論の要点
 控訴人の主張はすべて争う。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、控訴人の請求には理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付加し、この認定判断に反する限度で変更するほかは、原判決の「第3 判断」を引用する。
1 原判決16頁に記載された証拠によれば、次の事実が認められる。
(1) 被控訴人県は、平成3年ころから、JR岐阜駅南口前広場にモニュメント(記念建造物)を建設する計画を進めていた。被控訴人県は、平成8年ころ、JR東海が提案した基本デザインの中から、全体の形状が三角形で、白川郷の合掌造りをイメージさせる形状を選択して、同モニュメントの基本デザインを確定した。被控訴人県は、その上で、平成9年9月9日、同モニュメントのデザイン及び設計業務について、指名競争入札を行い、その結果、被控訴人会社がこの業務を請け負うことが決定され、被控訴人県と被控訴人会社は、平成9年10月7日、同モニュメントのデザイン及び設計について委託業務契約を締結した。同契約によれば、被控訴人会社は、被控訴人県から、同デザイン及び設計業務を515万円で請け負うこと、同業務の成果物が著作権法上保護される著作物に当たる場合は、当該著作物に係る被控訴人会社の著作権を、被控訴人県に対し、当該著作物の引渡時に無償で譲渡することを合意した。
(2) 控訴人は、千葉県在住の芸術家で、石刻画と命名した絵画技法を用い、絵画や彫刻を多数発表してきていた。控訴人は、岐阜県で生まれており、平成9年10月3日、岐阜新聞の記事で、上記モニュメント建設計画を知り、同月6日に、岐阜県庁を訪れ、B係長と面談した。控訴人は、B係長に対し、自分は岐阜県出身の彫刻家であって郷土の役に立ちたいので、アドバイザー(助言者)的な立場で上記モニュメントの建設を手伝いたいこと、報酬を要求するつもりはないことなどを申し入れた。
(3) 上記モニュメントのデザイン・設計業務については、この時点においては、上記のとおり、既に指名競争入札の手続により被控訴人会社が請け負うことが事実上決まっていたため、被控訴人県が、控訴人に対し、上記モニュメントのデザイン・設計業務を依頼することも、同人と何らかの契約を締結することも、あり得ないことであった。そこで、B係長は、控訴人の希望をかなえるため、同人を被控訴人会社のアドバイザー的な立場で上記モニュメントのデザイン設計を手伝わせることを考え、控訴人を被控訴人会社に紹介した。被控訴人会社は、その社内にデザイナー及び設計士を擁しているため、控訴人をアドバイザーとして迎える必要はなかったものの、被控訴人県のB係長の希望であったため、控訴人をアドバイザーとして受け入れることとした。
(4) 控訴人は、その後、被控訴人会社の担当者に対し、メモ書きや口頭で、上記モニュメントのデザインについての控訴人のアイデアを伝え、被控訴人会社では、担当者のCが、これを図面化したり、これに基づき遠近画法によりパース図を描いたりしていった。控訴人は、被控訴人県と被控訴人会社との間で行われた合計10回の設計協議については、平成9年12月12日の第5回、平成10年1月14日の第7回、同年2月5日の第9回、同年2月18日の第10回についてのみ参加した。被控訴人県は、平成9年12月26日の第6回設計協議までに、当初から決定されていた基本デザインを基にして提案されていた幾つかのデザイン案について検討し、同協議の場において、F案、すなわち、控訴人のアイデアの一部である、三角形状の主塔の下方に練り縄を設置すること及び頭頂部にプリズムを設置することを内容とするアイデアを、被控訴人会社が実際に建設することの可能なものに修正した案を採用することを決定した(ただし、プリズムについては、後日、予算の関係で不採用となった。)。また、控訴人は、第7回協議において、本件モニュメントの主塔の側面にスリットを入れること、キャノピーの側面を織部焼きタイルにすること、シェルターを吊り構造とすること、主塔の裏側にレリーフを入れること、柱を無垢石とすることなどの案を提案し、後日、被控訴人県によって、前三者が採用され、後二者が不採用となった。
(5) 控訴人は、第7回設計協議のころから、被控訴人会社に対し、デザイン料として約180万円の具体的な額の金員を支払うことを要求するようになった。被控訴人会社は、被控訴人県との設計協議がまだ終了していないこと、要求された金額が控訴人により一方的に決められたものであることなどのため当惑したものの、控訴人から執拗に支払を催促されたため、平成10年1月27日、126万円を支払った。被控訴人会社は、平成10年2月10日にも、控訴人からデザイン料の残金を支払うように執拗に要求されたため、63万2499円を支払った。
(6) 控訴人は、平成10年2月18日の第10回設計協議に出席した際に、その時点で、控訴人が提案したデザインの一部が修正された態様で採用され、一部が採用されていなかった本件モニュメントのデザイン及び設計について、これを了承し、また、被控訴人県から、今後は、本件モニュメントのデザイン変更については、設計協議を開催せずに、すべて被控訴人県が決定すると告げられたことについても、これを了承した。被控訴人会社は、平成10年2月末までに、被控訴人県の指示に基づいて、本件モニュメントのデザイン設計を完了し、その設計図面等の成果物を被控訴人県に引き渡した。
(7) 控訴人は、平成10年4月に入り、本件モニュメントの建設工事を請け負った被控訴人会社に対し、本件モニュメントの建設に際し、石加工部分の工事に参画させるように要求し始め、これを続けたものの、結果として、控訴人が同工事に参画することはできなかった。控訴人は、その後、本件著作物の無断改変の主張をするようになり、平成10年10月本訴を提起するに至った。
2 以上の事実からすれば、被控訴人県と被控訴人会社とは、平成9年10月7日に、本件モニュメントのデザイン及び設計に係る委託業務契約を締結しており、控訴人は、そのころ、被控訴人会社との間で、控訴人が本件モニュメントに関して、そのデザインの提案をしたり、助言したりすることを合意したこと、控訴人が本件モニュメントのデザインに関してなした提案ないし助言の一部が採用されたため、控訴人は、被控訴人会社に対し、デザイン料約180万円を要求し、被控訴人会社からその要求金額の支払を受けたこと、控訴人は、第10回設計協議の段階における本件モニュメントのデザイン及び設計について、自己のアイデアが修正された態様で採用された部分も、採用されなかった部分も含め、その全体のデザインを了承し、被控訴人県が、そのデザイン及び設計に従って本件モニュメントを建設することを承諾していたこと、また、同協議以降、被控訴人県が本件モニュメントの設計デザインを設計協議の手続きを経ないで更に変更することをも了承していたこと、が認められる。
 これらの事実と、本件モニュメントは、岐阜駅南口に設置することが当初から予定されており、それ以外の用途が考えられないものであったことをも考慮すれば、控訴人は、本件モニュメント製作に当たり、被控訴人会社との間で、その提供した図面等に描いたモニュメントのデザイン(本件著作物に当たるもの)について、これが美術の著作物に当たり、著作権により保護されるとしても、被控訴人会社に対し、その著作権を譲渡すること(被控訴人会社は、その後、上記委託業務契約に基づき、被控訴人県に対し、すべての著作権を譲渡することになる。)を、少なくとも黙示的には合意した上で、上記モニュメントに関するデザインを提案し、その対価として、被控訴人会社から、控訴人が要求したとおりの金額でその報酬を得た、と認めるのが相当である(仮に、著作権譲渡の合意について明確な合意があったと認めることが困難であるとしても、控訴人は、少なくとも、被控訴人会社が、被控訴人県の委託に基づいて、控訴人のデザインを一部採用した本件モニュメントのデザイン設計業務を行い、被控訴人県がこれに基づいて本件モニュメントを建設することを当初から基本的な前提条件として黙示に了承した上で、上記のとおり本件モニュメントについてのデザインを提案し、その対価を得たことを認めることができることは、明らかである。)。また、上記認定の事実からすれば、控訴人が本件著作物について、本件著作者人格権を有するとしても、控訴人は、被控訴人県が、控訴人のデザインの一部を採用したり、採用しなかったりすること、及び、控訴人のデザインを必要に応じ、修正した態様で採用した上で、本件モニュメントを建設することを当初から了承していた、と認めるのが相当である。
3 以上のとおりであるから、本件著作権及び本件著作者人格権に基づく控訴人の本訴請求は理由がないことが明らかであり、控訴人の本訴請求をすべて棄却した原判決は相当である。そこで、本件控訴を棄却することとして、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条1項、61条を適用して、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所知的財産第3部(旧第6民事部)
 裁判長裁判官 山下和明
 裁判官 設樂隆一
 裁判官 高瀬順久
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