判例全文 line
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【事件名】シェアソフトの著作権事件(2)
【年月日】平成16年4月23日
 大阪高裁 平成14年(ネ)第3322号 動産引渡等請求、損害賠償請求控訴事件
 (原審・京都地裁平成12年(ワ)第3260号〔甲事件〕、同平成13年(ワ)第1121号〔乙事件〕)
 (当審口頭弁論終結日 平成16年1月30日)

判決
控訴人(1審甲事件被告・1審乙事件原告) B
控訴人(1審甲事件被告・1審乙事件原告) C
上記2名訴訟代理人弁護士 中村康彦
同 木村五郎
同 臼田和雄 
被控訴人(1審甲事件原告・1審乙事件被告) 有限会社エイジ
被控訴人(1審乙事件被告) D
上記2名訴訟代理人弁護士 伊山正和


主文
1 原判決主文第2項を取り消す。
2 被控訴人有限会社エイジの控訴人らに対する金員支払を求める請求をいずれも棄却する。
3 控訴人らのその余の控訴を棄却する。
4 控訴人らの当審における新請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、第1、第2審とも、控訴人らと被控訴人有限会社エイジとの間においては、控訴人らに生じた費用の4分の1を被控訴人有限会社エイジの負担とし、その余は各自の負担とし、控訴人らと被控訴人Dとの間においては、全部控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人らに対し、連帯して1500万円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(後記のとおり控訴人らが当審において追加した新請求を含む。)。
3 被控訴人らは、控訴人らに対し、連帯して1217万4710円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(後記のとおり控訴人らが当審において交換的に変更した後の新請求及び追加した新請求を含む。)。
4 被控訴人有限会社エイジの請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。
 (以下、控訴人Bを「被告B」、控訴人Cを「被告C」、被控訴人有限会社エイジを「原告」、被控訴人Dを「D」、被告B及び被告Cを併せて「被告ら」、原告及びDを併せて「原告ら」という。)
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1) 原告の被告らに対する請求に係る事件(以下「甲事件」という。)
 原告が、被告らに対し、被告らが原告から原告所有に係る別紙物件目録記載の各動産(以下「本件機材等」という。)を搬出して占有しているため、原告が営業を行うことができなくなり、損害を被ったなどと主張して、
@ 所有権に基づき、本件機材等の返還を、
A 民法709条に基づき、連帯して損害賠償1500万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成12年12月30日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を
 求めた事案である。
(2) 被告らの原告らに対する請求に係る事件(以下「乙事件」という。)
 被告らは、原告の代表取締役であるDとともに原告の実質的共同経営者であるところ、Dが原告と共謀して原告の売上金等3829万3641円(原審では4234万9420円と主張)を横領したなどと主張して、
 原告に対しては、
@ 平成12年9月6日に成立したとする後記原告の社員総会(以下「本件総会」という。)における決議(以下「本件総会決議」という。)ないし被告らと原告間の和解契約に基づき、和解金(名目は配当金)1500万円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を、
A 原告らの前記横領によって被告らの原告に対する定款18条に基づく配当金支払請求権が侵害されたと主張し、民法709条に基づき、損害賠償内金1217万4710円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を(このAの請求のうち、後記4イ(イ)eないしhの横領に係る請求は当審において追加した新請求)
 求め、
 Dに対しては、
B 平成12年9月6日に成立したとする後記被告らとD間の和解契約(以下、この和解契約と前記被告らと原告間の和解契約を併せて「本件契約」という。)に基づき、和解金1500万円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を、
C 前記Bの第一次予備的請求として、Dが本件総会決議を反故にして原告の被告らに対する前記和解金の支払を不能にし、被告らに損害を与えたなどと主張し、有限会社法30条の3(被告らの主張に係る商法266条の3は、明白な誤りと認められるので、上記のように改める。以下同じ)に基づき、損害賠償1500万円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を(このCの請求は当審において追加した新請求)
D 前記Bの第二次予備的請求として、債権者代位権に基づき、被告らの原告に対する前記Bの和解金支払請求権を保全するため、原告がDに対して有する横領金返還請求権の代位行使として、1500万円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を(このDの請求は当審において追加した新請求)
E 原告らの前記横領によって被告らの原告に対する定款18条に基づく配当金支払請求権が侵害されたと主張し、民法709条に基づき、損害賠償内金1217万4710円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を(このEの請求は、原審において有限会社法30条の3に基づき請求していたものを、当審において交換的に変更した後の新請求)
F 前記Eの予備的請求として、債権者代位権に基づき、被告らの原告に対する前記Eの配当金支払請求権を保全するため、原告がDに対して有する横領金返還請求権の代位行使として、1217万4710円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を(このFの請求は当審において追加した新請求)
 を求めた事案である
 なお、@の請求とBCDの請求、Aの請求とEFの請求とはそれぞれ連帯関係にあるとして、原告らに対し連帯支払を求めている。
2 前提事実(証拠の摘示のないものは当事者間に争いがないか、弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 当事者等
ア 原告は、平成9年11月7日に設立登記された、ソフトウエア業、コンピュータソフトの開発及び関連機材の製作販売等を行う有限会社であり、Dが40口、被告Cが10口、Dの母F(以下「D母」という。)が10口を出資して(1口5万円)、社員となり、Dが代表取締役、被告Cが取締役、D母が監査役に就任した(甲9)。
イ 被告Cは、平成12年3月29日に原告の取締役を辞任し、その後、被告Bが原告の取締役に就任したが、同年9月23日解任された。
 なお、Dと被告らは、コンピュータ総合学園HBLの同期生である。
ウ D、被告C、K(以下「K」という。)及びP(以下「P」という。)の4名は、原告の設立前、ソフトウェアの発案、製作を目的として、「AGE Entertainment」(以下「AGE E」という。)というグループを結成して活動していた(甲4、乙11の2ないし4)。
(2) 原告の設立及びソフトウェア販売等
ア 「あいこっち」、「ウィナーズサークル」及び「アイコンバトラー」の各名称のソフトウェア(以下、これらを「各ソフト旧版」という。)は、インターネット上でユーザーの好評を博し、新聞紙上等でも紹介され、シェアウェア販売(インターネット上でソフトウェアを公開し、ユーザーが気に入れば代金を送金するという販売方法)での売行きも好調であったところ、一般小売店における各ソフト旧版のパッケージ販売等を目的として原告が設立された(なお、「アイコンバトラー」の著作権がDに、「あいこっち」の新版〔「あいこっち2」〕の著作権が原告にそれぞれ帰属することについては争いがないが、「あいこっち」及び「ウィナーズサークル」の著作権の帰属については、後記のとおり争いがある。)。
イ D及び被告ら並びに原告の従業員により、各ソフト旧版は、改良を重ねられて、新たな著作物として、パッケージ販売されたり、シェアウェア販売され、また、その他の製品の開発も進められた。
ウ 原告が販売したソフトウェアの代金の入金管理方法は、原告の設立当初はD名義の銀行口座(甲12)に入金されていたが、その後は、@Nifty−Serve(以下「ニフティ」という。)が送金代行した分は、上記のD名義の銀行口座に入金されるが、それ以外は、A原告名義の銀行口座(乙11の6)に入金されるか、B現金書留郵便による送金の方法で入金され、Dが原告の入金を管理していた。
 なお、上記のD名義の銀行口座(甲12)は、原告の設立前から、「あいこっち」等の各ソフト旧版のニフティ送金代行による入金受領口座として使用されていたものである(上記のとおり、原告設立後も、同口座が各ソフト旧版及びその後に開発されたソフトウェアのニフティ送金代行分の入金受領口座として利用されていたことになる。)。
(3) 本件紛争の端緒及び本件機材等の搬出
ア Dは、平成12年7月と同年9月にそれぞれ税務調査を受け、その後、Dは、D個人の平成8年分ないし平成10年分の所得税について修正申告を行った(甲8の1ないし5)。
イ 被告らは、前記アの税務調査に関してDの責任を追及した上、平成12年9月24日ころまでに、原告から、原告所有に係る本件機材等を搬出し、現在、本件機材等を占有している。
(4) その後の経緯
 その後、原告は、弁護士を通じて、被告らに対し、平成12年9月26日付け内容証明郵便(同月29日到達)により、被告Bを取締役から解任したこと、本件機材等、定款原本及び契約書類一式等の返還を求めることなどを通知したところ(甲1の1・2の各1・2)、被告らも、一時は、当時の代理人弁護士を通じて、話し合いにより本件を解決する姿勢を示した。しかし、結局、原告らと被告らとの話し合いは不調となり、被告らは上記代理人弁護士を解任した。
3 争点
(1) 本件総会決議ないし本件契約の存否(甲事件の抗弁、乙事件の請求原因)
ア Dの横領の有無(本件総会決議ないし本件契約の存否についての間接事実に当たるほか、乙事件の請求原因にも当たる。)
イ 各ソフト旧版の売上金取得権限の帰属(前記アのDの横領の有無についての間接事実に当たる。)
(2) 原告の損害(甲事件の請求原因)
(3) 被告らの損害等(乙事件の請求原因)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件総会決議ないし本件契約の存否)について
【被告らの主張】
 被告らは、平成12年9月6日に成立した以下の内容の本件総会決議により、本件機材等を搬出し占有する権限を有しており、また、原告らに対して和解金(名目は配当金)として1500万円の支払請求権を有している。仮に、本件総会決議が不成立であるとしても、原告は、同日、被告ら及び原告の従業員であるQ(以下「Q」という。)との間で、本件総会決議と同内容の和解契約を締結した。
 また、Dは、同日、被告ら及びQとの間で、本件総会決議と同内容の和解契約を締結した。
ア 本件総会決議について
(ア) 決議内容
 原告は、平成12年9月6日、Dの発議により、臨時社員総会(本件総会)を開催し、Dは、原告の代表取締役として本件総会に出席して議長を務め、被告ら及びQが参加し、上記4名全員の賛成により以下の決議(本件総会決議)をした。
a 取締役被告Bへの和解金(名目 配当金)の支払決定
(a) 「ウィナーズサークル」の売上金ほか 1300万円
(b) 「あいこっち」、「あいこっち2」、「カチャぴん!」の売上金ほか 1200万円
(c) 現金書留郵便による売上金ほか 500万円
(d) 上記(a)、(b)及び(c)の合計額の半額 1500万円
 (これは、原告がDに横領金1300万円を弁償させて被告らに支払うという意味である。)
b 取締役被告Bへの権利譲渡
(a) 「きゃらっと」に関するすべての権利
(b) その他原告が持っているすべての業務ソフトウェアの権利、業務遂行に必要な機材一式
c 原告は、前記aの和解金の支払決定を平成12年9月6日に行う。
d 原告は、取締役被告Bに対し、前記a(d)の1500万円を定款18条による配当として支払う。
e 原告は、取締役被告Bに対し、前記b(a)及び(b)の権利、機材を定款18条による配当として譲渡し、かつ、引き渡す。
(イ) 議事録等の作成経緯
 原告らは、平成12年9月6日、本件総会決議の直後、被告ら及びQの目の前で、社員総会議事録(乙4の1)、覚書2通(乙4の3、乙37)を作成し、Dが自ら、これらに署名押印した。明細一覧表(乙5)は、被告Cが、同日、Dから原告の印を預かり、その場でDに代わって押印したものである。
(ウ) 原告らの主張について
a 原告らは、本件総会決議の内容は原告の営業譲渡である旨主張するが、本件総会決議の内容は、単なる権利、機材の譲渡にすぎない。原告は現在も営業を継続している。
b 原告らは、D母に対して本件総会の招集通知がされていないことをもって決議不存在事由である旨主張する。しかし、D母は、Dと同居しているので、当然、DがD母に本件総会開催の通知をし、DがD母の代理人として、本件総会に出席し、本件総会決議に賛成したものである。仮に、その通知をしていなかったとしても、それは、原告の代表取締役であり、招集権者であるD自身の責任であり、原告らは、被告らとの関係で、D母に通知しなかったことを問題にすることはできない。
(エ) 本件総会決議が行われた経緯
 被告らは、原告の経営についてDを信用していたところ、Dは、平成12年7月、突然、税務調査を受けた。このときは、横領金の額は3万2000円とわずかであり、Dがこれ以上横領金はないと断言したためDを宥恕した。しかし、その後、同年9月、Dが再度税務調査を受けることになったため、被告らが再度Dに横領金の額を尋ねたところ、Dが1300万円と多額の横領金を自白した。ここに至り、被告らは、もはや事態を放置することができなくなり、同月6日、被告ら及びDの3者間で解決を図るべく、本件総会を開催したものである。その結果、被告Bを被告らの代表格として、原告がDに横領金1300万円を弁償させて被告らに支払うという和解の趣旨で、原告が被告Bに対し、配当金名目で1500万円を支払い、また、ソフトウェアの権利も譲渡する旨の本件総会決議をしたものである。
イ Dの横領等について
(ア) 各ソフト旧版の売上金取得権限等
a 各ソフト旧版の著作権の帰属
(a) 「あいこっち」
 「あいこっち」は、被告Bが発案し、被告C、D、K及びPの4名のAGE Eのメンバーが共同製作したものであり、著作権は、AGE Eに帰属している。
(b) 「ウィナーズサークル」
 「ウィナーズサークル」は、被告Bが発案し、Dが製作したものであり、被告BとDの共同製作によるものである(乙15)。Dは、被告Bに無断で、「ウィナーズサークル」を自分の作品のように登録していたにすぎない。
b 各ソフト旧版の売上金取得権限
 以下のとおり、原告が各ソフト旧版の売上金を取得する権限を有している。
(a) 被告ら及びDは、原告設立の際、原告設立後は、Dは同人のソフトウェアを、被告らも同被告らのソフトウェアをそれぞれ原告に提供し(具体的には、各ソフト旧版に関し、Dは「アイコンバトラー」を、被告ら、D、P及びKは「あいこっち」を、被告B及びDは「ウィナーズサークル」をそれぞれ原告に提供する。)、その著作権あるいは少なくともその売上金取得権限を原告に帰属させるとの合意(以下「旧版売上金合意」という。)をした。
(b) 一般的に、旧版ソフトウェアの市場性は、新版ソフトウェアの発表により失われるが、原告は、二つを連動させて相互に売上を伸ばす意図の下に、各ソフト旧版の頒布を継続したのである。すなわち、「あいこっち」の最終バージョンは、「1.50c」であるが、それ以前のバージョンである「1.50b」のファイルには、「1997年(平成9年)12月6日」と記載されているのであるから(乙11の1)、原告が設立された平成9年11月7日以降も第一次的な頒布が中止されていないことは明らかである。このことは、Dが、旧版売上金合意に基づき、原告設立後も上記各ソフト旧版について、個人としてではなく、原告として積極的に第一次的な頒布を行っていたことを示すものである。
(c) 仮に、Dが原告設立後も前記各ソフト旧版を個人として販売し続けるとすれば、原告に対する競業であり、被告らがこれを許諾する余地はない。
(イ) Dの横領
 以上のとおり、原告が販売するソフトウエアについては、各ソフト旧版を含め、その売上金はすべて原告が取得すべきものであるところ、Dは、以下のとおり、原告から、総額3829万3641円を横領した。
a 現金書留郵便による入金分の横領 500万円
 Dは、原告から、現金書留郵便で顧客より送金された売上金合計500万円を横領した(乙4の1)。
(a) 原告の平成9年から同11年までの売上帳簿(乙10)によれば、入金はすべて銀行送金で、現金書留郵便(乙3の1ないし10の各1・2、11ないし19)による入金がないことになっている。Dが売上帳簿に現金書留郵便による入金を記載していないということは、Dがその売上金を横領していたことにほかならない。
(b) 現金書留郵便による入金分が売上帳簿に計上されていなかったのは、被告Bの母であるR(以下「B母」という。)の指導によるものではない。B母は、原告が持ってきた領収書等を機械的に整理し、記帳していただけであり、それ以上にDが領収書等以外の売上金をどうしていたかまでも調べる能力はなく、現にそのようなことはしていない。
b D名義の銀行口座への入金分の横領 319万6920円
 原告が設立された平成9年11月7日から同12年8月までの間の売上金で、ニフティが送金代行してD名義の銀行口座(甲12)に入金された売上金合計319万6920円(乙23の1の1番)はすべて原告の収入であり、Dはそれを横領した。
c 定期貯金をするための横領 850万円
(a) Dは、原告の売上金から、平成10年4月3日ころ100万円、同年5月12日ころ150万円、同月14日ころ500万円、平成11年3月30日ころ100万円の合計850万円を横領し、これを原資として定期貯金(甲13の2ないし5)を行った。
(b) 原告設立前の定額貯金(甲13の1)と原告設立後の定期貯金(甲13の2ないし5)との間にDが全く定額貯金及び定期貯金をしていないこと、わずか40日間に合計750万円もの定期貯金がされていることから、原告設立後の定期貯金の原資は、Dが原告の売上金を横領したものであることが推認される。
d 二重経費による横領 89万2500円
 Dは、原告が次のとおり経費を二重に支払ったことにして、合計89万2500円を横領した。
(a) 原告は、平成12年3月9日、コミックジャパンに広告代金47万3130円を振込送金したにもかかわらず(甲27の3、乙28、40の2)、同日、Dと共謀の上、株式会社コスミックジャパン(上記コミックジャパンと同じ会社)に現金47万2500円を支払ったように仮装して出金した。
(b) 原告は、同月29日、ラジオ短波に広告代金42万0630円を振込送金したにもかかわらず(甲27の3、乙28、40の2)、同日、Dと共謀の上、株式会社日本短波放送(上記ラジオ短波と同じ会社)に現金42万円を支払ったように仮装して出金した。
e 貸金名目による横領 536万6600円
 Dは、原告の総勘定元帳の記載上、平成9年度に合計121万円、平成10年度に合計307万6600円、平成11年度に合計108万円をそれぞれ原告に貸し付けたことになっている(乙38ないし40の各2)が、当時、Dには原告からの給与以外に収入がほとんどなかったから、上記の合計536万6600円は原告の売上金を横領したものである。
f 福利厚生費名目による横領 126万8386円
 原告の総勘定元帳に記載されている福利厚生費のうち、平成9年度分18万5633円、平成10年度分57万3885円、平成11年度分50万8868円の合計126万8386円(乙38ないし40の各2)は、実際には福利厚生費として支出されておらず、Dが横領したものである。
g 二重賃金による横領 106万9235円
 原告の平成12年度の総勘定元帳において、「給料、手当」の支払を受けた同一人に対し、日付を多少ずらして同一額が「雑給」として支払われた旨の記載があり(乙41)、Dは、その合計額106万9235円を横領したものである。
h 借入金に関する横領 1300万円
 Dは、原告が平成12年4月4日にT(以下「T」という。)から借り入れた1300万円(乙9の1ないし7)を横領した。
【原告らの主張】
 被告らの主張に係る本件総会決議及び本件契約は存在せず、被告らは、本件機材等を搬出し占有する権限も、原告らに対して和解金1500万円の支払請求権も有していない。仮に、本件契約が存在するとしても、その内容は原告の「営業の全部又は重要なる一部の譲渡」(有限会社法40条1項1号)というのであるから、社員総会の専決事項であり、Dは原告代表取締役として、被告らと上記事項についての契約を締結する権限を有しないから、無効である。
ア 本件総会決議及び本件契約について
(ア) 本件総会決議及び本件契約の不存在
a 被告らが主張する平成12年9月6日の本件総会は、一切開催されておらず、本件総会決議及び本件契約も存在しない。
 Dが、平成12年7月及び同年9月の2度、税務調査を受けたのは、D個人のソフトウェアの売上収入についての申告漏れに関してであり、Dは、その旨の説明を被告らに対して行い、また、修正申告も行っている。しかるに、被告らがDのありもしない横領及び脱税の嫌疑を強硬に主張し、あるいはDの自由を一時拘束し、Dのコンピュータのデータを消去するなどの嫌がらせを行いつつ、原告の営業全部と金員の交付を一方的に要求するという行為をしたものである。
b Dの不正行為に対する責任追及手段というのであれば、それは原告に対する責任と考えるのが自然であるが、被告らの主張に係る本件総会決議の内容は、被告Bが原告の犠牲の上に一人利益を得る内容となっており、責任追及の内容としては不自然である。また、被告らの主張によれば、被告Cは社員総会に出席していたというのであるから、被告Bを被告CやQの代表とする必然性もない。
c 被告らは、当初、原告に対し、代理人弁護士を通じて、本件機材等の搬出については、被告らが原告から本件機材等を買い受ける形をとって譲り受けたものであると主張していたが(甲2)、その後、上記代理人弁護士を解任し、社員総会議事録なる書類を援用して、本件機材等は本件総会決議に基づいて取得したものであると主張を変遷させるに至っている。このことは、本件総会決議が後付け的な理由であることを推測させる。
d 被告らは、本件総会決議について、社員総会議事録(乙4の1)及び関係書類(乙4の2・3、乙5、37)を提出しているが、これらにおけるD個人の署名はいずれも偽造されたものであり、原告印については被告らがほしいままに押印したものであって、上記書類はいずれも真正に成立したものではない。なお、上記議事録には、Qが原告の「社員」として記名押印しているが、Qは、商法上、原告の使用人である。本件総会が正規の手続を踏んで開催されたのであれば、このような誤りが犯されるはずはない。したがって、上記議事録等の書類の存在をもって本件総会決議が存在することを推認することはできない。
(イ) 本件総会招集手続の瑕疵
 仮に、本件総会決議が存在したとしても、その決議内容は、原告の「営業の全部又は重要なる一部の譲渡」(有限会社法40条1項1号)に係るものである。営業譲渡については、社員総会招集通知に記載することを要するところ(同条1項、2項)、原告の監査役であり社員であるD母に対しては、社員総会通知自体がされていないし、Dとの関係でも通知がされていない。これは著しい手続違背であり、決議不存在事由となる。
イ Dの横領等について
 Dが原告の売上金等を横領したことはない。すなわち、ソフトウェアの売上収入のうち、原告に帰属させる分について、Dがこれを自己の計算として取得していたことはない。
 なお、税務調査で問題となり、被告らがDの横領であると主張している売上収入については、原告設立前の売上収入であり、原告の売上収入と区別する必要性自体、存在しなかった。
(ア) 各ソフト旧版の売上金取得権限等について
a 各ソフト旧版の著作権の帰属
(a) 「あいこっち」
@ 「あいこっち」の著作権は、Dに専属的に帰属している。すなわち、「あいこっち」は、AGE EのメンバーであるD、K、P及び被告Cとの会話の中から誕生したものであるが、Dの創意と発案に基づく、Dの創作的表現に係るものであって、他の3名が担当した部分は、Dの指揮ないし指示の下に、Dの発案を具体化させたものにすぎず、Dと別に「あいこっち」についての独立の著作権を生じさせるものではない。
A ホームページ上に、AGE Eが「あいこっち」の著作権を有している旨の記載があるが(乙11の1ないし3)、前記の「あいこっち」の開発過程からすれば、団体としてのAGE Eの名称というよりも、D個人の別名としてAGE Eの名称を使用したとみるべきである。
B 仮に、「あいこっち」の著作権が被告Cを含む他の3名とDに共有的に帰属していたとしても、Dは、Kに100万円、被告C及びPに各50万円を支払ったことにより、「あいこっち」の著作権を取得した。
(b) 「ウィナーズサークル」
@ 「ウィナーズサークル」は、Dの発案、製作(プログラミング)に係るものであって、著作権はDに帰属する。
A Dは、「ウィナーズサークル」の製作に際して、競馬に関する知識についての相談という形で、被告Bに助言を得たことはあるが、被告Bがそれ以上に「ウィナーズサークル」のソフトウェア著作物としての発案、製作に関与したという事実はない。
B 被告らは、「ウィナーズサークル」は被告Bの発案によるものと主張するが、これは事実に反するし、仮にそうであったとしても、被告Bの関与は、プログラミングと直結しない助言的なものにすぎず、単なるアイディアのみでは著作権は発生しない。なお、本件紛争が発生するまで、「ウィナーズサークル」の著作権の帰属について、被告Bから異議が唱えられたことはない。
b 各ソフト旧版の売上金取得権限
(a) 前記のとおり、Dが各ソフト旧版についての著作権を有するところ、原告設立後も被告らの主張に係る旧版売上金合意はされていない。
(b) 旧版ソフトウェアの市場性は、新版ソフトウェアが発表、公開されるに至れば、特段の事情がないかぎり、新版ソフトウェアの流通に伴って自然に失われるのであって、旧版ソフトウェアの販売と新版ソフトウェアの販売との間には、競業関係は基本的に生ぜず、旧版売上金合意をする必然性がない。
 D自身、原告設立後には、各ソフト旧版をベースにした新版ソフトウェアを開発、頒布していたことから、遅くとも原告設立までには、各ソフト旧版の第一次的な頒布を中止していた。もっとも、各ソフト旧版は、いずれもインターネット等でデータとして無体物の形態で配布されるいわゆる「オンラインソフトウェア」であって、いったんデータとして流通した以上は、その取得者によって次々と複製されたデータの形をとって転載されるに至り、第一次的な頒布元である著作権者の全く把握できない範囲で第二次的、第三次的な頒布がされることを本来的な属性とする商品であり、著作権者自身は頒布を停止した後も、第二次的、第三次的な頒布先の存在ゆえに、その対価が支払われてくることもあるという特殊な性格を有している。このようなオンラインソフトウェア一般の属性から、第一次的な頒布を中止した後もしばらくは、各ソフト旧版の第二次的、第三次的な流通先からDあてに入金がされてくることがあったにすぎない。
 Dは、上記のとおり、原告設立後は、各ソフト旧版の積極的な頒布、改良を中止し、既に流通しているものについての不具合の修正というサポートのみを行っていたにすぎない。原告設立後の日付で公開されている「あいこっち」の「1.50c」の存在については、原告設立前に公開された「1.50」に対して、既に流通しているものについての不具合の修正という趣旨から修正を施したものにすぎず、別個独立の著作物を公開したのではないのであって、既存ソフトウェアのユーザーに対する個人的な立場からのアフターサービスと位置づけられるものである。
c 原告の売上収入とDの売上収入の区別
(a) Dは、各ソフト旧版の「ユーザー登録制度」(料金を支払ったユーザーとそうでないユーザーを区別するため、ソフトウェアに一定の機能制限等を加え、料金を支払ったユーザーからの連絡を受けて、機能制限を解除する文字列を連絡するという仕組み)を利用して、ユーザーから連絡がある都度、それを自分のコンピュータにデータとして保存して、各ソフト旧版の売上収入を原告の売上収入と区別して管理していた。したがって、Dが原告の計算に属すべき売上収入を自ら取得するようなことはなかった。
(b) Dによる各ソフト旧版の販売においては顧客名簿が存在しないが、これは上記販売がいわゆるシェアウェアオンライン送金代行システムによって個人取引的に行われていたものであり、上記システムによる取引では顧客名簿が完備されていないことによる。すなわち、シェアウェアオンライン送金代行システムでは、定期的に売上総額が入金されるのみで、購入者の氏名等は報告されないことが一般的である。
(イ) 被告らの主張に係るDの横領について
a 現金書留郵便による入金分の横領について
 原告の売上収入のうち、現金書留郵便による入金分が原告の売上帳簿に計上されていなかったのは、原告の会計をみていたB母の指導によるものであり、これに対応する現金は、原告事務所の金庫に保管されていた。
b D名義の銀行口座への入金分の横領について
 Dがシェアウェアとして公開した各ソフト旧版の売上収入の入金方法としてニフティ送金代行サービスが選択され、D名義の銀行口座(甲12)をあて先として振込が行われていた。原告がニフティの送金代行システムを初めて利用したソフトウェアである「あいこっち2」(「あいこっち」の新版)の売上収入が最初に入金されたのは平成10年8月であり、それまでの入金はすべてD個人に帰属するものである。その振込額は1016万6849円に及んでいる。
c 定期貯金をするための横領について
 Dは、原告設立後にD名で合計850万円の定期貯金をしている(甲13の2ないし5)が、これは「あいこっち」など各ソフト旧版を販売して得た収入を原資とするものである。
d 二重経費による横領、貸金名目による横領、福利厚生費名目による横領及び二重賃金による横領について
 いずれも否認する。原告の総勘定元帳については、B母が原告から原資料の交付を受けて記帳を代行していたものであり、総勘定元帳の記載は理由のある資金移動の裏付けがある原資料があったから記帳されたものか、あるいはB母がほしいままに記帳した以外にはない。
e 借入金に関する横領について
 原告は、Tから金員を借り入れたことはない。被告らが提出したTからの借入に関する原告名義の借用書(乙9の1)、原告ら名義の委任状2通(乙9の5・6)、D名義の領収証(乙9の7)はいずれも偽造である。
(2) 争点(2)(原告の損害)について
【原告の主張】
 原告の平成12年4月から同年8月までの売上については、原告の預金通帳によって裏付けられるところ(甲27の3ないし6)、月平均で約480万円程度の売上が存在した。しかるに、被告らが原告から本件機材等を持ち出し原告の営業を継承したなどと吹聴したことにより、原告の営業に支障を来し、売上がほとんどなくなった。被告らの本件機材等の搬出行為による原告の損害は1500万円を下らない。
【被告らの主張】
 争う。原告は、設立以来赤字であり、平成12年4月から同年8月までの収支をみても、294万4964円もの大きな赤字となっており(甲41)、利益が存しない。また、この期間の大口の売上のうち、株式会社ジャイブメディアとの契約は同年8月限りで、同年9月以降の入金はもともとなく、株式会社エンパワーメントとの契約も一度同年5月にあり、入金も同年6月にあったきりで、その後は契約も入金もないから、同年9月以降の売上は本件とは関係なく激減することが必至であった。加えて、原告の平成12年4月から同年8月までの間の売上については、被告らの寄与もあったところ、現在は被告らの寄与がないのであるから、売上の減少は当然である。
(3) 争点(3)(被告らの損害等)について
【被告らの主張】
ア 和解金等1500万円について
(ア) 前記(1)のとおり、被告らは、原告らに対し、本件総会決議あるいは本件契約に基づき、和解金1500万円の支払請求権を有している。
(イ)a Dは、原告が平成12年9月6日に本件総会決議をしたにもかかわらず、原告の代表取締役でありながら、本件総会決議をその2週間後に反故にし、さらに、前記の横領金総額3829万3641円の責任を免れるため、同年11月28日、1審甲事件を提起して原告の本件総会決議に基づく支払を不能にし、被告らに前記和解金1500万円と同額の損害を与えた。したがって、被告らは、Dに対し、有限会社法30条の3に基づき、1500万円の損害賠償請求権も有している。
b また、被告らは、債権者代位権に基づき、被告らの原告に対する前記(ア)の和解金支払請求権を保全するため、原告がDに対して有する横領金3829万3641円の返還請求権のうち1500万円を代位行使する権限も有している。
(ウ) よって、被告らは、原告らに対し、前記(ア)の本件総会決議あるいは本件契約に基づき、和解金1500万円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、Dに対し、第一次予備的に、前記(イ)aの有限会社法30条の3に基づく損害賠償として、第二次予備的に、前記(イ)bの原告のDに対する横領金返還請求権の代位行使として、1500万円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 損害賠償金等1217万4710円について
(ア)a 被告らは、原告設立時に、被告Bにおいて同被告が著作権を有するソフトウェアの権利を、被告Cにおいて50万円を出資しており、原告の実質的共同経営者として、原告に対し、原告の定款18条に基づく配当金支払請求権を有している。
b 被告らは、前記の原告らの共謀による横領(Dが自白した1300万円を含め総額3829万3641円)により、前記aの配当金支払請求権を侵害された。
c 被告らの損害額は、前記横領金総額3829万3641円のうち、少なくとも1217万4710円(被告らが原審で主張した横領金総額4234万9420円から、Dが横領を自白した1300万円及び本件総会決議の際に被告Bへの配分の計算上、売上に計上した500万円を差し引いた2434万9420円の2分の1に相当する金額)を下回らない金額であり、被告らは、民法709条に基づき、原告らに対し、1217万4710円の損害賠償請求権を有している。
(イ) また、被告らは、債権者代位権に基づき、被告らの原告に対する前記(ア)の配当金支払請求権を保全するため、原告がDに対して有する横領金3829万3641円の返還請求権のうち1217万4710円を代位行使する権限も有している。
(ウ) よって、被告らは、原告らに対し、前記(ア)の民法709条に基づく損害賠償として、1217万4710円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め、Dに対し、予備的に、前記(イ)の原告のDに対する横領金返還請求権の代位行使として、1217万4710円及びこれに対する平成14年7月18日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
【原告らの主張】
 いずれも争う。     
第3 甲事件に対する当裁判所の判断
1 争点(1)(本件総会決議ないし本件契約の存否)について
(1) 被告らは、本件総会決議あるいは本件契約が成立した旨主張し、これを裏付ける書証として社員総会議事録(乙4の1)及びその内容を確認する趣旨の原告名義の各覚書(乙4の3、乙37)を提出し、被告らも、上記主張に沿う供述をし、被告ら作成の陳述書(乙2、18、46)、被告C作成の陳述書(乙25)及びQ作成の陳述書(乙27)にも同旨の記載がある。そして、上記の議事録及び覚書の各文書中の原告名下の印影が原告の印章によることは争いがない。
 他方、原告らは、本件総会決議及び本件契約の存在を否認し、上記の議事録等の成立についても否認し、押印は、被告らが無断で原告の印章を使用して行ったものであり、覚書(乙37)のD名の署名は偽造されたものであると主張し、Dも、上記主張に沿う供述をし、D作成の陳述書(甲32)にも同旨の記載がある。
 そこで、以下、本件総会決議及び本件契約の存否について検討する。
(2) 社員総会議事録(乙4の1)及び各覚書(乙4の3、乙37)の成立の真否等について
ア 被告らは、覚書(乙37)は平成12年9月6日に被告らの面前でDが署名押印して作成した文書であり、社員総会議事録(乙4の1)及びもう一通の覚書(乙4の3)も、その時に被告らの面前でDが押印した旨主張し、被告らの供述、被告ら作成の陳述書(乙18、46)、被告C作成の陳述書(乙25)及びQ作成の陳述書(乙27)にもこの主張に沿う部分がある。
イ これに対し、鑑定人Uは、乙37、乙9の1(被告らが、前記第2の4(1)イ(イ)hの原告がTから1300万円を借り入れた際の原告のTあての借用書であると主張する文書。ただし、鑑定時には原本が使用できず、写しを比較検討の対象とした。)、乙9の5・6(いずれも被告らが上記のTからの借入の際に原告が作成した委任状であると主張する文書。ただし、上記と同様に写しを比較検討の対象とした。)及び乙9の7(被告らが上記のTからの借入の際に原告が作成した領収書の写しであると主張する文書。ただし、上記と同様に写しを比較検討の対象とした。以下、これらの文書を併せて「被鑑定文書」ともいう。)の「D」の署名とDの自署による文書であることに争いがない甲6(D作成の陳述書)、甲32(同)、乙21の1ないし4(いずれもD作成の訴訟委任状。なお、乙21の4については、鑑定時には原本が使用できず、写しを比較検討の対象とした。)及び乙43(原告の社員総会議事録。以下、これらの文書を併せて「対照文書」という。)の「D」の署名との比較検討を行った結果、被鑑定文書の署名と対照文書の署名とは、いずれも同一人の筆跡とみるのは困難であると認められると鑑定した(以下、この鑑定を「U鑑定」という。)。
 U鑑定は、被鑑定文書及び対照文書について、拡大鏡等で拡大し、その筆致、書字技量の程度、作為性の有無その他全般的な事項について調査し、さらに、顕微鏡等を使用して、文字の形態、字画構成、字画形態、筆順、筆脈、配字、誤字、筆圧及び筆勢の強弱等について比較検査を行い、また、運筆上の個癖等についても精査した上で、筆跡の類似点と差異点を指摘し、これらを総合して筆跡の判定を行っている。そして、U鑑定は、上記の検討の結果、被鑑定文書の筆跡と対照文書の筆跡は、類似点も多いが差異点も割合に多く、類似点と差異点にはいずれも強い特徴があるとした上、被鑑定文書の筆跡はいずれも文字画線に蛇行又は震えなどがあり、特に、乙37及び乙9の6にはなぞり書きがあり、乙9の5には脱画があり、いずれも運筆の円滑性や文字均整に欠けており筆勢も乏しいのに対し、対照文書は、乙21の4がファックス資料でドットの影響が出ているが、他の筆跡は運筆が円滑で渋滞はなく伸びのある筆跡で文字均整もとれて筆勢に富み、被鑑定文書の筆跡と筆致に差異があり、書字技量にもかなりの差があるとみられるとし、上記各文書の作成時期をみても、平成12年から同14年にかけての作成で、おおむね同時期であり、特に乙9の1・5と乙43の作成日は2日しか違わないにもかかわらず、上記のような筆致や書字技量の差異があり、被鑑定文書の筆跡と対照文書の筆跡は差異性が強く、同一人の筆跡とみるのは困難であるとして、上記の判断を行っている。
 上記のとおり、U鑑定は、その鑑定方法に不相当な点はない上、被鑑定文書と対照文書とを比較検討すれば、指摘する筆致や書字技量の差異が看取できるところであり、その判断の過程及び結論には不合理な点はなく、十分に信用できるものである。これに対し、被告らが提出した乙45(V作成の鑑定書)は、乙37の署名と乙43の署名が同一人の筆跡と思料するとの判断が記載されているが、U鑑定の指摘する筆致や書字技量についての検討が十分とはいえないから、採用することはできず、他にU鑑定の信用性を左右するに足りる証拠はない。
 そして、U鑑定によれば、乙37を含む被鑑定文書の筆跡はいずれもDの自署によるものとは認められず、乙37については、原告名下の印影が原告の印章によるものであることに争いがないものの、前記アの被告らの乙37についての主張内容に照らし、真正に成立したものとは認められない。また、乙4の1・3についても、原告名下の印影が原告の印章によるものであることに争いがないものの、同じ時に作成されたとされる乙37の成立の真正が認められないことに照らし、いずれも真正に成立したものとは認められず、前記の被告らの供述、被告ら作成の陳述書(乙18、46)、被告C作成の陳述(乙25)及びQ作成の陳述書(乙27)はいずれも採用することができない。
(3) 被告らの主張の変遷等について
 前提事実、証拠(甲1の1・2の各1・2、甲2、甲3の1・2、甲7、甲19の1・2、甲25、32、甲35の1・2、D本人)及び弁論の全趣旨によれば、平成12年9月20日になされたDと被告らの会話において、被告らは、Dに対し、本件機材等の売却代金の領収書を書くように迫ったこと、被告らが本件機材等を搬出した後、Dは、原告代理人らに依頼し、被告らに対して本件機材等の返還及び損害賠償を求める旨の内容証明郵便を出したこと、被告らの当時の代理人弁護士から、上記の内容証明郵便に対し、同月29日付けの内容証明郵便で、「今回の事件の発端は、Dに対する税務調査の結果、原告の売上金をDが横領していたことが判明したことによるもので、被告らが別会社を設立して原告の営業を承継することを認める代償として、Dに対する個人責任の追及を宥恕することとし、パソコン機材一式については、Dが希望する価格で被告らが有償取得する形式をとり、その対価はDの着服金の一部を充当し、Dが任意の金額を原告に入金するとの合意をし、被告らは、その合意に基づいて本件機材等を搬出したものである」との内容の通知を受けたこと、その後、原告及び被告らは、双方の代理人を通じて話し合いによる解決を検討することとなったこと、しかるに、被告Bは、同年10月16日付けの内容証明郵便で、原告に対し、本件機材等の譲渡は原告の社員総会決議によるものであって、本件機材等などは被告Bの所有であるとし、また、上記社員総会で決議された配当金を支払うことを要求したことが認められる。
 本件総会に関する社員総会議事録(乙4の1)及び各覚書(乙4の3、乙37)が真正に成立したものと認められないことは前記(2)のとおりであるが、加えて、上記の認定事実に照らせば、被告らは、平成12年9月20日の会話において、Dに対し、本件機材等の売却代金の領収書を書くように迫り、さらに、その後の本件訴訟前の交渉段階において、被告らによる本件機材等の搬出行為について、Dが被告らに対し本件機材等を売却するという形式をとったものである旨の主張を行っていたところ、一転して、本件総会が開催され、本件総会決議がなされ、あるいは本件契約が締結された旨の主張を行うに至ったものであり、被告らの主張、言動が大きく変遷していることは明らかであって、これらの点を併せ考慮すると、本件総会が開催され、本件総会決議がなされ、あるいは本件契約が締結されたことを認めることは一層困難である。
(4) 被告らの主張に係るDの横領の有無等について
 前記(2)、(3)のとおり、本件総会が開催され、本件総会決議がなされ、あるいは本件契約が締結されたことを認めるのは困難であるが、被告らは、本件総会決議あるいは本件契約の動機、原因として、Dの横領を主張し、また、乙事件の請求原因としても、Dの横領を主張するので、ここで、被告らの主張に係るDの横領の有無についても検討する。
ア 各ソフト旧版の売上金取得権限の帰属等について
(ア) 各ソフト旧版の著作権の帰属について
a 各ソフト旧版のうち、「アイコンバトラー」の著作権がD個人に帰属することについては当事者間に争いがないので、「あいこっち」及び「ウィナーズサークル」の著作権が誰に帰属するかが争点となる(なお、「あいこっち2」の著作権が原告に帰属することについても当事者間に争いがない。)。
b 「あいこっち」について
(a) プログラムの著作物の作製に複数の者が関与している場合において、関与者が共同著作者となるためには、当該プログラムの作製に創作的に寄与していることを要し、補助的に参画しているにすぎない者は共同著作者にはなり得ないというべきである。
(b) 前提事実及び証拠(甲16、17、32、乙11の1ないし3、D本人)によれば、以下の事実が認められる。
@ Dは、平成9年初めころ、Kに対し、「あいこっち」の基本的なアイデアを話し、これを基に、Dの指揮の下に、AGE Eのメンバーであった被告C、P及びKに手伝ってもらって「あいこっち」を作製した。具体的には、製作総指揮及びグラフィックに関する部分はDが担当し、ゲームバランスに関する部分はKが担当し、被告C及びPはその他の細部を担当した。
 なお、被告Bは、「あいこっち」の製作に一切関与していない。
A Dは、これまで、K及びPから、「あいこっち」について権利があると主張されたことはなく、被告Cからも、本件の紛争が発生するまでは権利を主張されたことはなかった。
B Dは、平成9年11月ないし12月ころ、被告C、P及びKが「あいこっち」の製作に関与したことから、それまでの収益を上記3名に分配し、これによって、Dが専属的に「あいこっち」に関する著作権を有することを確認した。
(c) 前記(b)の認定事実によれば、「あいこっち」の製作にあたり、Dが基本的なアイデアを出した上、製作についても主導的な役割を果たしているのであって、D以外の3名は、補助的に参画したにすぎないものと認められる。したがって、「あいこっち」の著作権はDに専属的に帰属するというべきである。
 もっとも、証拠(甲16、乙11の2)によれば、Kについては、「あいこっち」のプログラムの作製に創作的に寄与したと認める余地が全くないわけではない。しかし、仮に、そうであったとしても、前記(b)Bのとおり、Dが他の3名に対して収益を分配することによって、Dと他の3名間で、「あいこっち」の著作権をDに専属的に帰属させることを合意したものと認められる。
 なお、ホームページ上における「あいこっち」の著作権に関する表示が「AGE Entertainment」となっているが(乙11の1ないし3)、これは、Dが著作権の帰属主体について厳密に検討しないまま、外見上の理由から、このように記載したものであると認められ(D本人)、また、「あいこっち」と異なり、後記の「ウィナーズサークル」の著作権の表示が「D」となっているが(乙30の8)、これは、そもそも「ウィナーズサークル」にはD以外のAGE Eのメンバーが何ら関与していないことによる差異にすぎず、これらの表示が著作権帰属についての上記認定を左右するものではない。
c 「ウィナーズサークル」について
(a) 前提事実及び証拠(甲32、D本人)によれば、Dは、被告Bから、競馬についての助言を得て、「ウィナーズサークル」を発案、製作(プログラミング)したが、上記助言以外に、「ウィナーズサークル」をコンピュータプログラム化するに際して、被告Bから具体的な協力を得ていないこと、Dが「ウィナーズサークル」を自分で開発したものとして発表していたことについて、本件事件発生まで、被告Bから苦情を申し入れられたことや売上の分配を要求されたことはなかったことが認められる。
(b) 前記(a)の認定事実によれば、「ウィナーズサークル」のコンピュータプログラム化を行ったのはDであり、被告Bは、Dに対して競馬の知識を教示したにすぎず、具体的なコンピュータプログラム化に対する助言を行ったり、製作過程の全部又は一部を分担したりしたということはない。そうすると、被告Bは、「ウィナーズサークル」の開発に関し著作権の帰属を基礎づけるような関与は行っておらず、「ウィナーズサークル」の著作権は、Dに専属的に帰属するというべきである。
 仮に、「ウィナーズサークル」が被告Bの発案によるものであったとしても、アイデア自体は著作権法によって保護されるものではないから、これが被告Bの著作権の帰属を基礎づけるものではない。
(イ) 各ソフト旧版の売上金取得権限の帰属について
a 前記(ア)で認定判断したとおり、各ソフト旧版の著作権はD個人に帰属していることから、Dが各ソフト旧版の売上収入を取得する権限を有しているといえる。したがって、原告が各ソフト旧版の売上収入を取得する権限を有するといえるためには、Dと原告との間でその旨の合意が成立することが必要である。
b 被告らは、この点に関し、旧版売上金合意の成立を主張し、被告らの供述、被告ら(乙46)、被告C(乙25)及び被告B(乙26)作成の各陳述書にも上記主張に沿う部分があり、証拠(乙29の1ないし8、乙30の1ないし13)によれば、原告のホームページにおいて、各ソフト旧版が「あいこっち2」などとともに公開されており、シェアウェア販売が可能であり、「あいこっち」については、「あいこっち2」等と同様に、著作権に関する表示が「AGE Entertainment」となっていることが認められる。
 しかし、旧版売上金合意の成立を直接裏付ける客観的な証拠は存在せず、上記の被告らの供述及び陳述書(乙46、25、26)の記載も具体性に乏しい。そして、前提事実、証拠(甲32、乙11の1、乙29の1・6、D、被告C各本人)及び弁論の全趣旨によれば、もともと原告は、各ソフト旧版をパッケージ化して販売すること等を目的として設立された会社であること、原告設立後、Dは、「ウィナーズサークル」及び「あいこっち」の新版(「ウィナーズサークル98」及び「あいこっち2」)を作製し、原告名で公開しているところ、ソフトウェア新版は、ソフトウェア旧版で実施できることはすべて実施できる上に、ソフトウェア旧版になかった新しい機能をも有するものであって、ソフトウェア新版が発売されれば、ソフトウェア旧版は、自然と市場性を失うことになり、ソフトウェア旧版の販売とソフトウェア新版の販売は、実質的には競業関係となるとはいえないこと、「あいこっち」の最終バージョン以前のバージョンである「1.50b」のファイルに「1997.12.06」との記載があるが、これは、原告設立前に公開され既に流通していた「1.50」についての不具合を修正したものにすぎず、既存ソフトウェアのユーザーに対するアフターサービスとして位置づけられるもので、別個独立の著作物を公開したものではなく、Dは、原告設立後、積極的に各ソフト旧版を販売していたとはいえないこと、前記の原告のホームページは、もともと原告設立前からのAGE Eのホームページであって、原告設立以前から、各ソフト旧版がシェアウェア販売されており、著作権に関する「AGE Entertainment」の表示も既になされていたことが認められ、また、上記の表示が「あいこっち」の著作権の帰属を左右しないことは前記(ア)bのとおりである。
 これらによれば、原告設立に当たり、Dと被告らとの間において旧版売上金合意をする必要性は積極的には認められないのであって、旧版売上金合意の成立を否定するDの供述を併せ考慮すれば、被告らの上記供述及び陳述書(乙46、25、26)の記載は採用することができず、他に旧版売上金合意の成立を認めるに足りる証拠はない。
c したがって、各ソフト旧版の売上収入を取得する権限は、原告設立後もDが有していたというべきである。
イ 被告らの主張に係るDの横領の有無について
(ア) 原告の売上収入の入金管理方法
 前提事実、証拠(甲12、32、甲35の1・2、乙13の1ないし3、乙23の1・2、D本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められ、この認定に反する被告らの供述、被告ら(乙46)、被告C(乙25)及び被告B(乙26)作成の各陳述書、B母作成の陳述書(乙20、47、48)は前掲各証拠に照らし採用することができない。
a 「あいこっち」など各ソフト旧版の売上収入の入金方法として、ニフティ送金代行サービスが利用され、D個人をあて先として振込が行われていたが、D名義の銀行口座への振込額は、「あいこっち」の新版であり、原告名で公開された「あいこっち2」の売上が初めて入金された平成10年8月より前の同年7月末の時点で既に1016万6849円に及んでいた。
b 原告設立後、Dが作製した各ソフト旧版と原告名で公開されたソフトウェア新版とが、別々のソフトとして同時に公開され、それぞれの売上が入金された時期があったが、各ソフトウェアに対して支払をしたユーザーは、各ソフトウェアの機能制限を解除するための暗号文をDないし原告から取得するため、ニフティの送金代行サービスで必ず連絡をするというシステム(ユーザー登録制度)になっていたので、Dは、上記システムを利用して、各ソフト旧版とソフトウェア新版の売上を区別してエクセルソフトによって入金を管理していた。しかるに、被告らは、平成12年9月20日ころ、Dが使用していたパソコンから上記データを含んだ各種データを消去した。
c Dは、原告の経理や税務の処理を依頼していたB母から、「経理上浮いた金は別に保管して、緊急の際に使用する。問題がなかったら、社員旅行などに使用すればよい」との趣旨の指導を受けていたことから、原告の売上のうち現金書留郵便による入金分については、原告の売上帳簿に計上せず、原告事務所の金庫に保管していた。
(イ) 被告らの主張に係るDの横領の有無について
 各ソフト旧版の売上金取得権限についての前記アの認定判断及び前記(ア)の認定事実を前提として、被告らの主張に係るDの横領の有無について検討する。
a 現金書留郵便による入金分の横領について
 前記のとおり、原告の売上のうち、現金書留郵便による入金分は、B母の指導により、原告の売上帳簿に記載されなかったが、原告の入金として原告事務所の金庫に保管されていたものであるから、Dがこれを横領したとは直ちに認めることはできない。
b D名義の銀行口座への入金分の横領について
 前記のとおり、原告の売上とD個人の売上は区別して入金管理がされていたから、D名義の銀行口座への入金分をDが横領したとは直ちに認めることはできない。
c 定期貯金をするための横領について
 前記のとおり、平成10年7月までに、各ソフト旧版の売上収入として、D名義の銀行口座に1000万円を超える入金があったから、Dが原告の金員を横領して被告らの主張する定期貯金をしたとは直ちに認めることはできない。
d 二重経費による横領、貸金名目による横領、福利厚生費名目による横領及び二重賃金による横領について
 被告らは、原告の総勘定元帳の記載に依拠して、Dがこれらの横領を行った旨主張するものであるが、そもそも平成9年度ないし平成11年度の原告の総勘定元帳は、B母が原告から原資料の交付を受けて記帳を代行していたものである上、Dには前記のとおり相当額の収入があり、仮に総勘定元帳の記載に不備があったとしても、Dが上記の各横領を行ったとは直ちに認めることができない。
e 借入金に関する横領について
 被告らは、Tからの借入に関する証拠として原告名義の借用書(乙9の1)、原告ら名義の委任状2通(乙9の5・6)、D名義の領収証(乙9の7)を提出し、これらの文書の「D」の署名は被告らの面前でDが自ら行ったと主張する。しかし、U鑑定によると、これらの文書の「D」の署名の筆跡がDの自署によるものとは認められないことは前記のとおりであり、被告らのDによる自署であるとの上記主張に照らすと、これらの文書はいずれも真正に成立したものとは認められず、他に被告らの主張するTからの借入を認めるに足りる証拠はない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告らの主張に係る借入金に関する横領は認めることができない。
(ウ) 以上のとおりであるから、Dが被告らの主張に係る横領を行ったと認めることはできない。  
(5) 前記(2)ないし(4)によれば、本件総会決議及び本件契約が成立したとは認めることができない。
2 争点(2)(原告の損害)について
 前提事実及び証拠(甲6、27の1ないし7、甲32、D本人)によれば、被告らによる本件機材等の搬出が生じる前の平成12年4月から同年8月までの5か月間については、原告の売上は月平均約400万円程度はあったことが認められる。
 しかし、他方、証拠(甲26の6・7、乙38ないし40の各1・2、乙41、46)及び弁論の全趣旨によると、本件機材等の搬出が行われた後の原告の売上は減少しているものの、原告の売上はもともと月ごとに大きなばらつきがある上、本件機材等の搬出があった平成12年度(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)の総売上は、平成11年度(平成11年4月1日から平成12年3月31日まで)の総売上と比較して顕著な減少はないこと、本件機材等の搬出により一時的に原告の業務に支障が生じたとしても、原告は資金的に余裕があり、代替機材の確保も十分考えられ、また、もともと売上の一部は外注によっており、外注方式の活用による対処も十分に考えられたこと、上記の平成12年4月から同年8月までの売上の大きな部分を占める株式会社ジャイブメディアとの取引は、同年8月で終了し、同年9月以降の入金がもともとなく、同じく売上の大きな部分を占める株式会社エンパワーメントとの取引も、同年9月以降は不確定であったこと、原告の売上は、もともとD、被告ら及びQの4名の稼働によるものであり、本件機材等の搬出がなかったとしても、被告ら及びQが原告を退社した場合には、これに伴い、原告の売上が減少することは当然に想定されることが認められる。上記の認定事実に、被告らが本件機材等の搬出以外の違法な行為を行って原告の売上に減少を来したことを認めるに足りる的確な証拠がないことを併せ考慮すると、本件全証拠によっても、原告の主張する被告らによる本件機材等の搬出などによって原告の売上が減少したとは直ちに認めることができない。
3 以上によると、原告の被告らに対する請求は、本件機材等の引渡を求める限度で理由があり、その余はいずれも理由がない。 
第4 乙事件に対する当裁判所の判断
 前記第3の1のとおり、本件総会決議及び本件契約の成立はいずれも認められず、また、被告らの主張に係るDの横領も認められないから、被告らの原告らに対する請求は、当審における新請求を含めて、いずれも理由がない。
第5 その他、原審及び当審における原告ら及び被告ら提出の各準備書面記載の主張に照らして、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、当審の認定判断を覆すほどのものはない。
第6 結論
 以上によると、原告の被告らに対する請求(甲事件)のうち、本件機材等の引渡請求は理由があるから認容すべきであるが、その余(金員支払を求める請求)はいずれも理由がないから棄却すべきであり、被告らの原告らに対する請求(乙事件)は、当審における新請求を含めて、いずれも理由がないから棄却すべきである。したがって、これと一部異なる原判決主文第2項を取り消し、原告の被告らに対する金員支払を求める請求を棄却し、被告らのその余の控訴及び当審における新請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第8民事部
 裁判長裁判官 竹原俊一
 裁判官 小野洋一
 裁判官 黒野功久は、転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官 竹原俊一
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