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【事件名】幼児教育書シリーズの改訂版事件(2)
【年月日】平成16年3月31日
 東京高裁 平成16年(ネ)第39号 著作権確認等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成14年(ワ)第23214号)
 (口頭弁論終結日 平成16年2月18日)

判決
控訴人 株式会社スタジオビツク(以下「控訴人会社」という。)
控訴人 A(以下「控訴人」という。)
控訴人ら訴訟代理人弁護士 村松靖夫
被控訴人 株式会社学習研究社
同訴訟代理人弁護士 河合英男


主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人ら
(1) 原判決を取り消す。
(2) 控訴人会社が、別紙書籍目録1、2、9及び10記載の書籍につきいずれも4分の1の割合による著作権を、同目録3ないし8記載の書籍につきいずれも5分の1の割合による著作権を有することを確認する。
(3) 控訴人が、別紙書籍目録3ないし8記載の書籍につきいずれも5分の1の割合による著作権を有することを確認する。
(4) 被控訴人は、別紙書籍目録1ないし10記載の書籍を発行及び頒布してはならない。
(5) 被控訴人は、前項記載の書籍を廃棄せよ。
(6) 被控訴人は、控訴人会社に対し、142万8000円及びこれに対する平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を、控訴人に対し、102万円及びこれに対する平成14年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
(7) 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
(8) 第(6)項につき、仮執行宣言
2 被控訴人
 主文と同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 被控訴人は、別紙書籍一覧表「多湖輝の頭脳開発シリーズ(当初シリーズ)」欄記載の各書籍(以下、まとめて「当初シリーズ」という。)、同表「多湖輝の頭脳開発シリーズ(新シリーズ)」欄記載の各書籍(以下、まとめて「新シリーズ」という。)及び同表「多湖輝の新頭脳開発シリーズ(本件シリーズ)」欄記載の各書籍(以下、まとめて「本件シリーズ」という。)を出版した。
 控訴人らは、(@)本件シリーズのうち、別紙書籍目録1ないし10記載の書籍(以下「本件書籍1」等といい、まとめて「本件各書籍」という。)及び本件各書籍に対応する新シリーズ中の各書籍(以下、まとめて「新シリーズ対応書籍」という。)について、控訴人らが前記第1、1、(2)(3)記載のとおりの割合により著作権を共有するところ、被控訴人による本件各書籍の出版は、本件各書籍についての著作権(複製権)又は新シリーズ対応書籍についての著作権(翻案権)を侵害する旨、また、(A)当初シリーズ及び新シリーズの改訂に際しては、控訴人らの許諾が必要であるにもかかわらず、被控訴人が控訴人らに無断でこれらを改訂して本件各書籍を出版した行為は、不法行為に当たる旨主張して、被控訴人に対し、@本件各書籍についての共有著作権の確認、A著作権(本件各書籍についての複製権又は新シリーズ対応書籍についての翻案権)に基づく本件各書籍の発行及び頒布の差止め並びに廃棄、B上記(@)又は(A)の不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金(控訴人会社につき142万8000円、控訴人につき102万円)及びこれに対する不法行為の後である平成14年11月1日(本件訴状送達日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
 また、控訴人は、被控訴人に対し、新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」の著作権使用料を請求した。
 原判決は、控訴人らの本訴請求をいずれも棄却したのに対し、控訴人らが、その変更を求めて本件控訴を提起した(なお、当審において、控訴人の新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」についての著作権使用料請求部分について、当事者間に和解が成立した。)。
2 争いのない事実等並びに本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における追加的な主張の要点を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1、3の(1)ないし(4)及び「第3 争点に関する当事者の主張」の1ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。
 (ただし、原判決2頁14行目の「表現した。」を「表現した(但し、控訴人らが当初シリーズの共同著作者であるか否かは争いがある。)。」と、同26行目の「原告ら」を「控訴人会社」と、同3頁2行目の「他方、本件シリーズのうち」を「他方、被控訴人は、控訴人らとの間で、本件シリーズのうち」と、同16行目冒頭から末尾までを「(2) 控訴人らは、新シリーズ対応書籍の翻案権を有するか。また、本件各書籍は、新シリーズ対応書籍を翻案したものか。(翻案権侵害の成否)」と、同17行目冒頭から末尾までを「(3) 被控訴人が本件各書籍を出版したことは、(著作権侵害とは別個に)不法行為を構成するか。」と、同6頁20行目の「平成13年」を「平成12年」と、同7頁12行目の「本件書籍1、2、9及び10」を「本件書籍1、2、9及び10(新シリーズ対応書籍中で控訴人が絵を描いていないものに対応する。)」と、同13行目から14行目にかけての「本件書籍3ないし8」を「本件書籍3ないし8(新シリーズ対応書籍中で控訴人が絵を描いたものに対応する。)」と、同26行目から同8頁2行目までを「したがって、仮に、本件シリーズの著作者に控訴人らが含まれないとしても、被控訴人は、控訴人らに対し、本件各書籍について著作権を一部譲渡する旨の黙示の意思表示をし、前記(2)記載のとおりの持分の共有著作権を譲渡したものである。」とそれぞれ改め、同10行目から11行目にかけての「それが重要なのは幼児向けの教育教材に限ったことではなく、」を削除し、同9頁2行目から6行目にかけての「同Aについては、新シリーズを材料として使用する権利を得たものであるが、実際には使用しなかった。同Bについては、ノウハウや、本件シリーズの著作権のことは、話題にすらならなかったものであり、本件シリーズに対し、原告らの著作権を認めたものではない。」を「同Aについては、新シリーズを材料として使用する権利を得たものであるが、実際には使用しなかったものであり、ノウハウについては話題にもならなかった。同Bについては、本件シリーズの著作権のことは、話題にもならなかった。」と、同25行目の「当初シリーズ及び新シリーズは、」を「前記1〔控訴人らの主張〕(2)ないし(4)記載のとおり、控訴人らは、当初シリーズ及び新シリーズの共有著作権者であるところ、当初シリーズ及び新シリーズは、」と、同10頁18行目の「次の」を「次に」と、同11頁24行目の「新シリーズと本件シリーズを比較すると、」を「前記1〔被控訴人の主張〕(1)イ記載のとおり、そもそも、控訴人らは、新シリーズの共有著作権者ではないところ、新シリーズと本件シリーズを比較すると、」と、同13頁4行目から5行目にかけての「これらの事情から、本件各書籍がこれに対応する新シリーズの各書籍の翻案であるということはできない。」を「したがって、控訴人らが、本件シリーズが新シリーズの翻案であることを裏付ける事情として挙げる点は、いずれも理由がない。」と、同20行目の「不法行為に該当する。」を「著作権侵害とは別個に、不法行為に該当する。」とそれぞれ改める。)
3 当審における控訴人らの追加的な主張の要点(争点(3)(不法行為の成否)について)
(1) 控訴人らと被控訴人との間には、新シリーズの改訂版である本件各書籍の発行について、控訴人らの許諾を必要とする旨の合意が成立したから、本件各書籍を控訴人らの許諾なしに発行することは、不法行為法上の違法性を有する。上記合意の存在は、@被控訴人は、本件シリーズの「ひらがな」及び「かず」の制作発行に当たり、控訴人会社と出版契約を締結して、その許諾を得ていること、A被控訴人は、本件シリーズ中の本件書籍1及び2の制作発行についても、当初は控訴人会社の使用許諾を求めてきたこと、B上記@の出版契約書及びその交渉過程で提示された契約書案は、いずれも本件シリーズの「ひらがな」及び「かず」以外の書籍にもそのまま使用できる体裁になっていること等から明らかである。
 なお、本件各書籍を含む本件シリーズが新シリーズの改訂版に当たることは、本件シリーズの名称が「多湖輝の新頭脳開発シリーズ」というものであり、当初シリーズ及び新シリーズの名称に「新」を付加したのみであること、また、本件シリーズの書籍の裏表紙の一覧表には、本件シリーズと新シリーズの書籍が混在して記載されていることからも明らかである。
(2) また、控訴人らが、「多湖輝の頭脳開発シリーズ」について、原判決第3の3〔控訴人らの主張〕(1)記載のとおりの法的保護を受けるべき財産的利益を有している以上、新シリーズの改訂版である本件各書籍を控訴人らの許諾なしに発行することは、上記利益を侵害するものとして、不法行為法上の違法性を有する。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(共有著作権の有無)について
(1) 共同著作に基づく共有著作権について
 著作権の原始的な帰属主体は著作者である(著作権法17条)ところ、著作者とは、著作物を創作する者をいい(同法2条1項2号)、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(同項1号)。しかるに、控訴人らは、いずれも本件各書籍の制作自体に関与していないことを自認しているから、控訴人らが、本件各書籍の著作者であるということはできず、控訴人らが本件各書籍の著作権を原始的に取得することはあり得ないというべきである。
 これに対し、控訴人らは、「本件各書籍には、控訴人らが当初シリーズ及び新シリーズについて案出した、原判決第3の1〔控訴人らの主張〕(1)アの@ないしD記載のノウハウが用いられているから、控訴人らも本件各書籍の共同著作者として共有著作権を有する。」旨主張する。しかしながら、控訴人ら主張のノウハウは、著作権法2条1項1号にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」ということはできず、著作権法において保護されるものではない。また、本件各書籍が新シリーズを翻案したものでないことは、後記2認定のとおりであるから、控訴人らが、本件各書籍について二次的著作物として著作権を有するに至るものということもできない。したがって、控訴人らの上記主張は理由がない。
(2) 合意に基づく共有著作権について
 控訴人らは、「控訴人らと被控訴人は、平成11年11月、本件シリーズについて控訴人らが著作権を有することを合意したから、同合意に基づき、控訴人らは、本件各書籍の共有著作権を原始的に有する。」旨主張する。
 しかしながら、全証拠を精査しても、上記合意の成立を認めるに足りる的確な証拠はない。また、著作権の原始的な帰属主体は、上記(1)のとおり、著作者である(著作権法17条)から、客観的に著作者としての要件を満たさない者について、著作権が原始的に帰属することはあり得ず、仮に、当事者間において、著作者でない者につき著作権が原始的に帰属する旨の合意が成立したとしても、そのような合意の効力を認めることはできないと解さざるを得ない。したがって、控訴人らの上記主張も理由がない。
(3) 著作権の一部譲渡について
 控訴人らは、予備的に、「被控訴人は、控訴人らに対し、黙示の意思表示により、本件各書籍の著作権を一部譲渡した。」旨主張し、その根拠として、被控訴人が控訴人会社との間において、本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」について出版契約書を取り交わしたことを挙げる。
ア 証拠(甲35ないし44、甲46ないし49、甲50の1、2、甲51、甲177、甲179ないし182)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 被控訴人は、平成11年5月17日、控訴人会社に対し、新シリーズ中の「新ひらがなおけいこ」(2歳ないし5歳)及び「新かずおけいこ」(2歳ないし5歳)を基にした新書籍を出版するための「使用許諾契約書(案)」と題する契約書案を提示したところ、その案文には、上記「新ひらがなおけいこ」及び「新かずおけいこ」のうち控訴人会社が制作編集した部分等を、被控訴人が発行する書籍に複製改変して使用することができ、かつ、上記部分を使用した書籍を自由に改変することができる旨の条項等があった。これに対し、控訴人会社は、同年6月1日ころ、被控訴人に対し、上記契約書案は、上記「新ひらがなおけいこ」及び「新かずおけいこ」が控訴人会社らが創作した著作物であることを明記しないなど、現行の出版契約書に比べ、著作権及び著作者人格権を弱体化しているので、その契約書名を含めてこれには同意することができず、現行の出版契約書により契約を継続することが望ましい旨返答した。
(イ) 被控訴人は、同年7月1日ころ、再度控訴人会社に対し、被控訴人が発行する書籍に上記「新ひらがなおけいこ」及び「新かずおけいこ」のうち控訴人会社が制作編集した部分を使用(改変の上使用することを含む。)することができることなどを内容とする「著作権使用契約書(案)」と題する契約書案を提示した。これに対し、控訴人会社は、同年8月9日ころ、被控訴人に対し、上記契約書案も、前記「使用許諾契約書(案)」と題する契約書案と同様に、現行の出版契約書で認められている著作権及び著作者人格権の保護の規定が明確ではないことなどの観点から、納得できる内容ではないとした上、使用を許諾する対象を「控訴人会社が企画制作し、かつ編集表現した著作物」とするなどの具体的な修正案を提示した。
(ウ) そこで、被控訴人は、同年8月25日ころ及び同年9月21日ころ、控訴人会社に対し、同社の上記修正内容をほぼ全面的に採り入れた内容の「出版契約書」と題する契約書案を提示したことから、当事者間に合意が成立した結果、控訴人会社と被控訴人は、同年11月15日、本件シリーズのうち「ひらがな」(2歳ないし6歳)及び「かず」(2歳ないし6歳)について、上記契約書案と同一内容の「出版契約書」を取り交わした。同契約書においては、控訴人会社が本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」についての共有著作権者であることが明記されると共に、「本契約において原本とは、控訴人会社が企画制作し、かつ編集・表現した著作物で被控訴人が発行している「多湖輝の頭脳開発シリーズ「○歳新ひらがなおけいこ」(又は「○歳新かずおけいこ」)」をいう。」(2条)、「被控訴人は、被控訴人が発行する「多湖輝の新頭脳開発シリーズ「○歳ひらがな」(又は「○歳かず」)」に原本の全部又は一部を使用(改変の上使用することを含む。)することができる。…」(3条)等の規定がある。
(エ) その後、被控訴人は、平成12年9月ころ、控訴人会社に対し、新シリーズ中の「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」についても、上記「ひらがな」及び「かず」について取り交わされた出版契約書と同一内容の使用許諾を求め、控訴人会社の事実上の了解の下に、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍の出版準備作業に着手した上、被控訴人は、同年11月20日ころには、控訴人会社に対し、「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍についての校正紙を送付し、控訴人会社は、これを校正して被控訴人に送付し、また、「入学準備 新かんじ」を基にした新書籍についても同様に校正が行われることになっていた。しかし、控訴人会社と被控訴人との間にトラブルが発生したため、被控訴人は、平成13年2月、控訴人会社に対し、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍を出版することの使用許諾の申込みを撤回する旨通知した。
イ 上記認定事実によれば、控訴人らが指摘するとおり、被控訴人は控訴人会社との間において、平成11年11月15日、本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」について出版契約書を取り交わし、その際、控訴人会社が上記各書籍についての著作権者であることを認めていたものである。しかしながら、本件各書籍と本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」とは、あくまでも別個の書籍であるから、被控訴人が、上記「ひらがな」及び「かず」について控訴人会社が著作権者であることを認めているからといって、本件各書籍について著作権の一部譲渡があったものということはできない。
ウ なお、上記認定事実によれば、被控訴人は控訴人会社に対し、平成12年9月ころ、新シリーズ中の「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」についても、本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」について取り交わされた出版契約書と同一内容の使用許諾を求め、控訴人会社の事実上の承諾の下に、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍の出版準備作業を開始していたことが認められる。しかしながら、被控訴人は、当初は控訴人会社に上記使用許諾を求めたものの、その後、上記許諾申込みを撤回する旨通知しており、また、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」に対応するものと認められる本件シリーズ中の本件書籍1及び2は、後記2認定のとおり、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」の翻案には当たらないものであるから、これらの事情によれば、被控訴人が、本件書籍1及び2について控訴人会社が著作権者であることを認めているということはできない。
エ 他に著作権譲渡の黙示の意思表示があったことをうかがわせる事実はないから、結局、被控訴人が、控訴人らに対し、本件各書籍の著作権を一部譲渡したとの事実を認めることはできない。
(4) 以上のとおり、控訴人らが本件各書籍について共有著作権を有するということはできない。
 よって、本件各書籍についての共有著作権の確認請求、本件各書籍についての複製権に基づく本件各書籍の発行及び頒布の差止請求等並びに上記複製権侵害を理由とする損害賠償請求は、いずれも理由がない。
2 争点(2)(翻案権侵害の成否)について
(1) 翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいい、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから、既存の著作物に依拠して創作された著作物が、思想、感情若しくはアイデア、事実、事件若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
(2) 控訴人らが新シリーズについての共有著作権を有するか否かについてはそもそも争いがあるが、この点はさておき、まず、本件各書籍と新シリーズ対応書籍との表現上の本質的な特徴の同一性について検討する。
 控訴人らは、本件各書籍と新シリーズ対応書籍が、各分野ごとに年齢別に作成された独創的なプログラムに則った構成において類似性を有する旨主張するところ、個々の書籍についての判断は、以下のとおりである。
ア 本件書籍1について
 本件書籍1と新シリーズ「入学準備 新かんじ」の構成が、原判決第3の2〔控訴人らの主張〕(1)ア記載の点において類似するとしても、これらの点は、思想又はアイデアにすぎず、表現とはいえない。すなわち、シールを用いて作業する点はアイデアにすぎず、表現とはいえない。また、漢字の読み書きの学習方法や、その学習に先立ってまず漢字に親しみを持たせるという点は、漢字の学習を目的とする幼児用教育教材に関する思想又はアイデアというべきものであって、表現には当たらない。なお、本件書籍1と新シリーズ「入学準備 新かんじ」を比較すると、「木」、「山」及び「川」の字を学習する頁、身体の部分、自然及び学校に関連する漢字を学習する頁並びにカレンダーの頁など、対応する頁における絵の具体的表現そのものは、大きく異なっており、前者に接する者が後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない(甲55ないし68、乙1の1ないし8、検甲1、13)。
イ 本件書籍2について
 本件書籍2と新シリーズ「入学準備 新かずととけい」の構成が、原判決第3の2〔控訴人らの主張〕(1)イ記載の点において類似するとしても、これらの点は、思想又はアイデアにすぎず、表現とはいえない。すなわち、時計の仕組み及び数と時計の関係についての学習方法や時計について理解させるための設問をどのような順序で設けるかという点は、数や時計の学習を目的とする幼児用教育教材の構成に関する思想又はアイデアにすぎず、表現には当たらない。なお、本件書籍2と新シリーズ「入学準備 新かずととけい」を比較すると、対応する頁における時計の絵やイラストなどの具体的表現そのものは、大きく異なっており、前者に接する者が後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない(甲69ないし102、乙2の1ないし21、検甲2、14)。
ウ 本件書籍3ないし7について
 本件書籍3ないし7と新シリーズ「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)の構成が、原判決第3の2〔控訴人らの主張〕(1)ウ記載の点において類似するとしても、これらの点は、思想又はアイデアにすぎず、表現とはいえない。すなわち、迷路遊びによって、鉛筆の使い方を身につけたり、目と手の協応作業の訓練をし、洞察力、集中力を養うという点は、本件書籍3ないし7を構成する目的そのものであり、幼児用教育教材の構成に関する思想又はアイデアにすぎず、表現には当たらない。なお、本件書籍3ないし7と新シリーズ「新めいろおけいこ」(2歳ないし6歳)を比較すると、類似する絵は存在せず、前者に接する者が後者の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない(検甲3ないし7、15ないし19)。
エ 本件書籍8ないし10について
 本件書籍8ないし10と新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)の構成が、原判決第3の2〔控訴人らの主張〕(1)エ記載の点において類似するとしても、これらの点は、思想又はアイデアにすぎず、表現とはいえない。すなわち、各年齢ごとにどのようなはさみの使い方等を訓練させるかという点は、幼児用教育教材に関する思想又はアイデアにすぎず、表現には当たらない。
 また、控訴人らは、本件書籍8ないし10については、さらに別紙きりえこうさく対照表「控訴人らの主張」欄記載のとおり主張する。個々の箇所についての判断は、同表「当裁判所の判断」欄記載のとおりであり、いずれの箇所についても、本件書籍8ないし10に接する者が新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)等の書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。すなわち、控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアにすぎず、表現それ自体とはいえないから、これらの点が類似していても、翻案とはいえない。また、控訴人らの指摘する箇所のほとんどは、絵の素材が異なるため具体的表現も全く異なっている。さらに、絵の素材が同一のものについても、素材自体は表現とはいえず、また、その具体的表現は異なっている。さらに、名称や文章の類似をいう点については、同じことがらを説明するためのありふれた短い表現であって、表現上の創作性がない。加えて、本件書籍8ないし10は、色彩も鮮やかで裏のページにも絵や模様があるなど、新シリーズ「新きりえこうさく」(3歳ないし5歳)等とは絵の色彩や配置等が異なる(甲103ないし163、乙3ないし5(枝番号を含む。)、検甲8ないし10、20ないし22、29、30)。
(3) 以上のとおり、控訴人らが主張する本件各書籍と新シリーズ対応書籍との類似点は、思想、アイデア若しくは素材など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分における類似をいうものにすぎないから、仮に、これらの点が類似していても、翻案には当たらない。そして、本件各書籍(検甲1ないし10)の表現と新シリーズ対応書籍(検甲13ないし22)の表現は、表現上の本質的特徴の同一性を有するとはいえず、本件各書籍に接する者が新シリーズ対応書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる箇所は見当たらない。
 なお、本件各書籍と新シリーズ対応書籍それぞれの表紙裏に記載されている「この本のねらいと構成」(甲164ないし175、検甲1ないし10、13ないし22)は、まさに書籍として表現するにあたっての思想又はアイデアを記したものにすぎないから、仮に、この内容が類似していても、翻案には当たらない。また、年齢別、分野別としたこと、1枚ずつ外して使えるものとしたこと、シールを利用したこと及びボードをつけたこと等控訴人ら主張のノウハウは、本件シリーズや新シリーズを制作するにあたってのアイデアにすぎず、表現それ自体ではないから、この点が類似していても、翻案には当たらない。
(4) 控訴人らは、本件シリーズと新シリーズの名称が類似していること、本件シリーズの発行と同時に新シリーズの発行が停止されたこと、本件シリーズに掲載された書籍一覧表には、新シリーズの書籍が混在して記載されていること及び控訴人会社と被控訴人との交渉経過等を翻案の根拠として主張する。しかしながら、翻案に該当するためには、本件各書籍と新シリーズ対応書籍における表現上の本質的な特徴の同一性が存在することが必要であって、表現上の本質的な特徴の同一性に関係しない、シリーズの名称や当事者間の交渉経過等の上記事情は、翻案に当たるか否かの判断に何ら影響を与えないものであるから、控訴人らの上記主張は理由がない。
(5) したがって、控訴人らが新シリーズについて共有著作権(翻案権)を有するか否かにかかわらず、本件各書籍が新シリーズ対応書籍の翻案に当たるということはできない。
 よって、新シリーズ対応書籍の翻案権に基づく本件各書籍の発行及び頒布の差止請求等並びに上記翻案権侵害を理由とする損害賠償請求は、いずれも理由がない。
 (なお、別紙「きりえこうさく対照表」記載の当初シリーズ中の「4歳 切り絵あそび」「5歳 切り絵あそび」についても、新シリーズ対応書籍についての上記判断と同様である。)
3 争点(3)(不法行為の成否)について
(1) 控訴人らは、「控訴人らと被控訴人との間には、新シリーズの改訂版である本件各書籍の発行については控訴人らの許諾を必要とする旨の合意が成立したから、被控訴人が本件各書籍を控訴人らの許諾なく発行したことは、不法行為を構成する。」旨主張し、上記合意成立の根拠として、本件シリーズの「ひらがな」及び「かず」の制作発行について、控訴人会社と被控訴人との間で出版契約が締結されていること等、両者間の交渉経過を挙げる。
 前記1(3)ア認定の事実によれば、控訴人ら指摘のとおり、@被控訴人は、平成11年11月15日、控訴人会社との間において、本件シリーズ中の「ひらがな」及び「かず」について出版契約書を取り交わしたこと、A被控訴人は、平成12年9月ころ、新シリーズ中の「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」についても、上記「ひらがな」及び「かず」について取り交わされた出版契約書と同一内容の使用許諾を求め、控訴人会社の事実上の了解の下に、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」を基にした新書籍の出版準備作業を開始したことが認められる。しかしながら、前記1(3)イ、ウ説示のとおり、@については、被控訴人が、上記「ひらがな」及び「かず」の制作発行について、控訴人会社の使用許諾を求めて出版契約書を取り交わしたからといって、これとは別個の書籍である本件各書籍の発行についてまで控訴人らの使用許諾を必要とする旨の合意が成立したということはできないし、Aについても、前記1(3)ア及び2認定のとおり、被控訴人は、平成13年2月には、控訴人会社に対し、上記許諾申込みを撤回する旨通知したこと、また、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」に対応する本件シリーズ中の本件書籍1及び2は、上記「入学準備 新かんじ」及び「入学準備 新かずととけい」の翻案には当たらないものであることが認められるから、これらの事情によれば、本件書籍1及び2の制作発行について控訴人会社の使用許諾が必要であるとの合意が成立したということはできず、まして、本件各書籍全体の制作発行について控訴人らの使用許諾が必要であるとの合意が成立したということはできない(なお、控訴人らは、上記合意成立の根拠として、上記「ひらがな」及び「かず」について取り交わされた出版契約書が本件各書籍にもそのまま使用できる体裁であることも挙げるが、本件各書籍について出版契約書が作成されていない以上、出版契約書の体裁が他の書籍にも流用できるからといって、出版契約書が取り交わされた「ひらがな」及び「かず」の場合と本件各書籍の場合を同視できないのは当然である。)。
 もっとも、新シリーズについて控訴人らと被控訴人との間で締結された出版契約書には、「本著作物の改訂版または増補版の出版及び電子出版利用については、甲乙別途協議により決定する。(9条)」(甲12、16、20ないし22、26ないし30、34)又は「本著作物の改訂増補についてその必要が生じたときは、甲乙協議する。(8条)」(甲13ないし15、17ないし19、23ないし25、31ないし33)との条項があるから、新シリーズの改訂版や増補版の発行に際しての協議義務が定められていることが認められる。しかしながら、前記2認定のとおり、本件各書籍に接する者が新シリーズ対応書籍の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないため、本件各書籍は新シリーズ対応書籍を翻案したものとはいえないのであるから、そのような本件各書籍が新シリーズの改訂版や増補版に当たるということもできない。したがって、上記条項に基づき本件各書籍の発行に控訴人らの許諾が必要であるということもできない。
 控訴人らは、新シリーズと本件シリーズの名称が類似していること、本件シリーズに掲載された書籍一覧表には、新シリーズの書籍が混在して記載されていることを挙げて、本件各書籍が新シリーズ対応書籍の改訂版に当たる旨主張する。しかしながら、改訂、増補という語の語義に照らせば、既存の著作物の改訂版、増補版というためには、少なくとも既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができることを要すると解すべきであるところ、控訴人ら主張のような事情は、本件各書籍や新シリーズ対応書籍の表現内容(表現上の本質的な特徴等)とは関係がないものであるから、そのような事情があるからといって、本件各書籍が新シリーズ対応書籍の改訂版や増補版に当たるということはできない。
 したがって、控訴人らの上記主張も理由がない。
(2) また、控訴人らは、「被控訴人が本件各書籍を控訴人らの許諾なく発行したことは、当初シリーズ及び新シリーズを通じての企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の総体という法的保護を受けるべき財産的価値を侵害するものとして、著作権侵害とは別個に、不法行為を構成する。」旨主張する。
 しかしながら、本件において控訴人らの主張する「企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の総体」なる概念は、極めてあいまいなものであり、その内容が不明確であるといわざるを得ない。また、控訴人らの主張するノウハウ等は、当初シリーズ等に特有のものではなく、当初シリーズの刊行前から、被控訴人発行の他の書籍や公文数学研究センター発行の書籍にも既に使用されていたものである(乙7の1ないし3、乙8ないし10の各1、2、乙11、12の各1ないし5、乙13の1ないし7、弁論の全趣旨)から、民法上も保護に値する法律上の利益として控訴人らに帰属するものであるとはいえない。これらの事情に加えて、被控訴人による本件各書籍の発行が著作権侵害に該当しないものであることは、前記1、2認定のとおりであるところ、物の無体物としての面の利用に関しては、著作権法等の知的財産権関係の各法律が、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にすることにより、その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにしており、そのような上記各法律の趣旨、目的も併せ考慮すれば、控訴人らの主張する「企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の総体」が、著作権法上保護されないものでありながら、なお不法行為法上保護に値する利益であるということは到底できない。
 したがって、控訴人らの上記主張は理由がない。
(3) よって、控訴人らの不法行為を理由とする損害賠償請求は、理由がない。
4 結論
 以上によれば、控訴人らの被控訴人に対する本訴請求をいずれも棄却すべきものとした原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第3民事部
 裁判長裁判官 北山元章
 裁判官 清水節
 裁判官 沖中康人


書籍目録
名称 多湖輝の新頭脳開発シリーズ
発行所 株式会社学習研究社
1 5〜6歳 かんじ
2 5〜6歳 とけい
3 2歳 めいろ
4 3歳 めいろ
5 4歳 めいろ
6 5歳 めいろ
7 6歳 めいろ
8 3歳 きりえこうさく
9 4歳 きりえこうさく
10 5歳 きりえこうさく

書籍一覧表
多湖輝の頭脳開発シリーズ
(当初シリーズ)
多湖輝の頭脳開発シリーズ
(新シリーズ)
多湖輝の新頭脳開発シリーズ
(本件シリーズ)
入学準備 かんじ1 入学準備 新かんじ 5〜6歳 かんじ
入学準備 かんじ2    
入学準備 かずととけい 入学準備 新かずととけい 5〜6歳 とけい
2歳 めいろあそび 2歳 新めいろおけいこ 2歳 めいろ
3歳 めいろあそび 3歳 新めいろおけいこ 3歳 めいろ
4歳 めいろあそび 4歳 新めいろおけいこ 4歳 めいろ
5歳 めいろあそび 5歳 新めいろおけいこ 5歳 めいろ
  6歳 新めいろおけいこ 6歳 めいろ
3歳 切り絵あそび 3歳 新きりえこうさく 3歳 きりえこうさく
4歳 切り絵あそび 4歳 新きりえこうさく 4歳 きりえこうさく
5歳 切り絵あそび 5歳 新きりえこうさく 5歳 きりえこうさく
  2歳 新ひらがなおけいこ 2歳 ひらがな
3歳 ひらがなおけいこ 3歳 新ひらがなおけいこ 3歳 ひらがな
4歳 ひらがなおけいこ 4歳 新ひらがなおけいこ 4歳 ひらがな
5歳 ひらがなおけいこ 5歳 新ひらがなおけいこ 5歳 ひらがな
    6歳 ひらがな
  2歳 新かずおけいこ 2歳 かず
3歳 かずおけいこ 3歳 新かずおけいこ 3歳 かず
4歳 かずおけいこ 4歳 新かずおけいこ 4歳 かず
5歳 かずおけいこ 5歳 新かずおけいこ 5歳 かず
    6歳 かず

きりえこうさく対照表
3歳
本件シリーズの本件書籍8(検甲8)
新シリーズ「3歳 新きりえこうさく」
(検甲20)(一部異なる)
控訴人らの主張 当裁判所の判断
1,2頁 しんかんせん
 (甲103、104)
5,6頁 しんかんせん
 (甲105、106)
@車種を変えただけでテーマは同一
A窓に動物を描く
B切った部分を貼り合わせて一編成の列車とする「できあがり」は「つくりかた」と全く同一
控訴人ら主張のテーマや作り方は、思想又はアイデアにすぎず、表現それ自体ではない。絵の素材が新幹線で共通しているものの、絵の素材は、表現それ自体ではない。新幹線の最前部と最後部の形状、車両の数、窓から覗く動物の顔など、具体的表現が異なる。本件シリーズでは、裏のページにも絵があり、色彩も鮮やかである点も、新シリーズと異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の2、3の各1、2)
6頁 かわりえ
 (甲107)
11頁 ぞうときょうりゅう
 (甲108)
蛇腹型に折ることによって見る角度により異なる絵になるようにする発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。(乙3の4の1、2)
7頁 ゴリラくん
 (甲109)
14頁 かわりえ
 (甲110)
2枚の絵を重ね合せ、上側の絵を中央で切断して、左右の絵を別々にめくると、異なる絵となるという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の5の1、2)
8頁 えあわせあそび
 (甲111)
12頁 どんなかお
 (甲112)
長方形を4分割してそれぞれに動物の笑顔、泣き顔等を描いた上、4面をそれぞれ折って、四角い箱を作り、それぞれの面に上記の動物の顔がくるようにする、という発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材が異なるし、動物の顔の表情、手の表現の有無など具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の6の1、2)
9頁 ふーふーころころ
 (甲113)
8頁 ころころおいかけっこ
 (甲114)
長方形に小動物から順次大きな動物が追いかける絵を描き、それを円筒状に貼りあわせて回転させるという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の7の1、2)
11頁 はなび@
12頁 はなびA
 (甲115、116)
19頁 さんかくにきりましょう
20頁 はなび
 (甲117、118)
様々な色の小片に切り分け、それを台紙に貼り付けて花火にするという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。台紙の形や色、小片の形など、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の8、9の各1、2)
16頁 めがね
 (甲119)(当初シリーズ4歳)
5頁 めがね
 (甲120)
短冊形に切った紙を丸めて一端をのり付けして円筒を作り、2つの円筒を貼りあわせ、更につるをつけてめがねとするという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の配置のほか、鼻の有無、つるの形などが異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の10の1、2)
17頁 プリンセスセット@
 (甲121)
13頁 おうかん
 (甲122)
@冠部分に、頭に巻く帯部分を貼りあわせて作るという発想・作り方が同一
A全体に淡色を基準としており、その印象は同一である。
控訴人らの主張@の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。同Aの色彩についても、桃色を中心とするか、黄色を中心とするかで異なっている。絵の配置のほか、冠の形や絵も異なり、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の11の1、2)
19頁 ぱたぱたどり
 (甲123)
30頁 ぱたぱたどり
 (甲124)
@鳥を作り、尾の部分を持って振ると羽が動くという発想・作り方が同一
A「ぱたぱたどり」という名称自体が同一である。
控訴人らの主張@の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。同Aの「ぱたぱたどり」という名称は同一であるが、このような短い言葉には、表現上の創作性がない。絵の配置のほか、鳥の色も形も異なり、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の12の1、2)
25頁 どうぶつぴょん
 (甲125)
29頁 ぴょんぴょんうさぎとぴょんぴょんかえる
 (甲126)
長方形の紙片を適宜折って胴と手足を作り、兎と蛙の顔を貼り付けるものであって、作り方、遊び方、動物とも全て同一である。 控訴人ら主張の作り方や遊び方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材が兎と蛙であって同一ではあるが、素材は表現それ自体ではない。絵の配置のほか、兎の耳の形、尾や手足の色、顔の形、蛙の顔や足の形等が異なり、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の13の1、2)
28頁 パトカー
 (甲127)(新シリーズ4歳)
8頁 パトロールカー
 (甲128)
四角い箱形の台の上に小さい四角に折った屋根を乗せてパトカーを作るという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の配置のほか、赤色灯、警察官の顔、助手席の有無等が異なり、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙3の14の1、2)

4歳
本件シリーズの本件書籍9(検甲9)
新シリーズ「4歳 新きりえこうさく」(検甲21)(一部異なる)
控訴人らの主張 当裁判所の判断
2頁 わなげ@
3頁 わなげA
  (甲129、130)
11頁 おっとせいのわなげ@
12頁 おっとせいのわなげA
 (甲131、132)
@ジグザグに切った紙片によって輪を作るという形態が同一
Aオットセイをペンギンに変えているものの、鋭角の口先の動物を輪投の台とする発想が同一
控訴人らの主張@の形態は、ジグザグの傾斜や貼り合わせる紙の枚数、絵柄、色が異なるため、具体的表現は全く異なる。同Aの発想はアイデアであって、表現それ自体ではない。輪投げの台の絵の素材が異なり、その具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙4の2、3の各1、2)
4頁 サンタクロース
 (甲133)(当初シリーズ4歳)
18頁 あひる
 (甲134)(当初シリーズ5歳)
18頁 シーソーうま
 (甲135)
円を中心線で2つに折って半円を作り、シーソー状に揺らして遊ぶ作品を作る発想が同一 控訴人ら主張の発想はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙4の4の1、2、乙4の5)
7頁 かわりえ@
かわりえA
 (甲136、137)
3頁 かわりえ@
4頁 かわりえA
 (甲138、139)
数枚の短冊形に切った絵の端部をもう一枚の台紙に貼り、一枚ずつめくると絵の内容が変わるという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙4の6、7の各1、2)
23頁 とびでるはな (甲140)
25頁 びっくりからす (甲141)
動物の顔を山折りと谷折りで3つに折り、中心に鼻やくちばしを糊付けして顔の絵を開閉するとそれに応じて鼻やくちばしが動くという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の配置が異なるほか、絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙4の8の1、2)
28頁 えあわせパズル
 (甲142)
35頁 りんごどうぶつパズル
 (甲143)
表側の絵については、三角形や四角形などの4つの小片に切り離し、それをもとの形に組み合わせて遊び、裏側の絵については、切り離した正方形を除いて組み合わせを考えることにより1つの絵を完成させるという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙4の9の1、2)
29頁 ぱくぱくあひる
 (甲144)
25頁 びっくりからす
 (甲141)(当初シリーズ4歳)
26頁 びっくりひよこ
 (甲145)
動物の顔を山折りと谷折りで3つに折り、中心に鼻やくちばしを糊付けして顔の絵を開閉するとそれに応じて鼻やくちばしが動くという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の配置が異なるほか、絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙4の10の1、2)
30頁 ぷよぷよあざらし
 (甲146)
14頁 ペンギンのシーソー
 (甲147)
短冊形に切った紙片を半円に曲げて長方形の台紙の底に貼り、シーソーを作るという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の配置が異なるほか、絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙4の11の1、2)

5歳
本件シリーズの本件書籍10(検甲10)
新シリーズ「5歳 新きりえこうさく」(検甲22)
控訴人らの主張 当裁判所の判断
1頁 めいろ
 (甲148)
5頁 めいろ
 (甲149)
@波型に切った紙片を貼りあわせて迷路を造るという作り方が同一
A「あそびかた」の説明文が、第1改訂シリーズにおいては「えんぴつやまるいぼうにまく」「すこしずつもどしてめいろをたどりましょう」であるのに対し、第2改訂シリーズでは「えんぴつなど、まるいぼうにまく。」「すこしずつもどしながら、めいろをたどりましょう」と殆ど同一
控訴人らの主張@の作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の配置や色彩、迷路の形態が異なるため、具体的表現は全く異なる。同Aの説明文は、同じ方法を説明するためのありふれた短い文章であって、表現上の創作性がない。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙5の2の1、2)
2頁 くるくるりゅう
 (甲150)
3頁 うずまき@
 (甲151)
@正方形の紙片に直角の渦巻状の切れ目を入れる作り方が同一
A「つくりかた」の説明文が、第1改訂シリーズにおいては「きりはなしてまんなかにようじであなをあける。」「あなにいとをとおしうらからシールでとめる。」であるのに対し、第2改訂シリーズでは「ふといせんできりはなして、ようじであなをあける。」「あなにいとをとおして、うらからシールでとめる。」と殆ど同一
控訴人らの主張@の作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の配置や素材、色彩が異なるため、具体的表現は全く異なる。同Aの説明文は、同じ方法を説明するためのありふれた短い文章であって、表現上の創作性がない。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙5の3の1、2)
3頁 くるくるロケット
 (甲152)
4頁 うずまきA
 (甲153)
@円に渦巻状の切れ目を入れる作り方が同一
A「つくりかた」の説明文がそれぞれ前記「くるくるりゅう」「うずまき@」と全く同一
B「できあがり」の説明文が、第1改訂シリーズにおいては「すきなかたちのシールをはりましょう」であるのに対して、第2改訂シリーズでは「シールをすきなところにはりましょう」と殆ど同一
控訴人らの主張@の作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。ロケットの部分の有無や色彩及び模様が異なり、具体的表現は全く異なる。同A及びBの説明文は、同じ方法を説明するためのありふれた短い文章であって、表現上の創作性がない。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙5の4の1、2)
4頁 かわりえ@  
5頁 かわりえA
(甲154、155)
8頁 かわりえ@
9頁 かわりえA
 (甲156、157)
2枚の異なる絵の一辺を重ねて貼りあわせ、上側の絵に数本の切れ目を入れて、一部をめくると異なった絵になるという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙5の5、6の各1、2)
6頁 フォトフレーム
 (甲158)
11頁 がく
 (甲159)
波形等に周囲を切った長方形の四角に小さな花を描いた円の半分をのりづけし、そこに写真や絵を挟むという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の配置が異なるほか、周囲の輪郭や絵の素材が異なるため、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙5の7の1、2)
10頁 どうぶつきせかえ
 (甲160)
35頁 どうぶつさがしパズル
 (甲161)
正方形の表裏を9区画に分け、それぞれの区画に様々な動物の顔や肢体を描き、それぞれの区画にそって一部切れ目を入れた上、区画に沿って折り曲げると様々な組み合わせが出来るという発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の素材がほとんど異なるため、具体的表現は全く異なる。パンダの顔は素材として共通するものの、顔の表情や色彩の具体的表現が異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙5の8の1、2)
24頁 くびふりライオン
 (甲162)
27頁 ライオン
 (甲163)
円又は扇型の一部に切り込みを入れ、その部分を重ねて貼りあわせることによって円錐状のライオンの頭を作り、別に作った胴の上に載せて頭が動くようにする発想・作り方が同一 控訴人ら主張の発想や作り方はアイデアであって、表現それ自体ではない。絵の配置が異なるほか、ライオンの頭や尾の形などが異なり、具体的表現は全く異なる。したがって、表現上の本質的な特徴の同一性が維持されているとはいえない。
(乙5の9の1、2)

 
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