判例全文 line
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【事件名】ゲームソフト「DEAD OR ALIVE 2」事件(2)
【年月日】平成16年3月31日
 東京高裁 平成14年(ネ)第4763号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成13年(ワ)第23818号)
 (平成16年2月9日 口頭弁論終結)

判決
控訴人 株式会社ウエストサイド
訴訟代理人弁護士 岡村久道
同 堀寛
同 中道秀樹
同 北岡弘章
同 川内康雄
同 神田孝
同 南石知哉
同 湯原伸一
同 小倉秀夫
被控訴人 テクモ株式会社
訴訟代理人弁護士 谷雅文


主文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 本件は、プレイステーション2(以下「PS2」という。)用ゲームソフト「DEAD OR ALAIVE 2」(以下「本件ゲームソフト」という。)の著作者としての同一性保持権(以下「本件同一性保持権」という。)を有する被控訴人が、本件ゲームソフトに「かすみ」という名で登場するキャラクター(以下「かすみ」という。)のコスチュームについて、裸体を選択できるようにメモリーカード上のパラメータデータを編集できるプログラム(以下「本件編集ツール」という。)をCD-ROMに収録して販売した控訴人の行為は、被控訴人の意に反する本件ゲームソフトの改変を惹起するものであり、本件同一性保持権を侵害すると主張して、控訴人に対し、損害賠償として慰謝料の支払を請求している事案である。
 原審において、被控訴人は、本件同一性保持権及び本件ゲームソフトの翻案権の侵害に基づく損害賠償として慰謝料400万円の支払を請求したところ、原判決は、本件同一性保持権の侵害を肯定し、損害賠償として慰謝料200万円及びこれに対する附帯金員(支払請求の日の翌日である平成13年6月30日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金)を認容し、その余の請求を棄却した。これに対し、控訴人のみが敗訴部分の取消しを求めて控訴し、被控訴人は控訴も附帯控訴もしていないから、翻案権の侵害に基づく請求は、当審における審判の対象ではない。
1 前提となる事実
(1) 被控訴人は、コンピュータゲームを製作、販売することを主な業務内容とする会社であり、控訴人は、ゲームユーティリティなどを収録した雑誌類の販売等を主な業務内容とする会社である。
(2) 被控訴人は、著作権法2条1項1号にいう著作物である本件ゲームソフトの著作者であり、その著作者人格権として本件同一性保持権を有する。
(3) 控訴人は、本件編集ツールを製作し、これをCD-ROMマガジン「お楽しみCD」30号(平成13年2月9日発売)及び同31号(同年4月13日発売)中のCD-ROM(以下「本件CD-ROM」という。)に収録して販売した。
2 控訴人の主張
(1) 本件ゲームソフトには、ゲーム中の対戦画面において「かすみ」の裸体影像(以下、対戦画面における「かすみ」の裸体影像を「本件裸体影像」という。)を表示する機能があらかじめ組み込まれていたのであるから、このような影像をモニター上に表示することは、改変には当たらない。
ア 本件裸体影像は、本件ゲームソフトに収録されたプログラム及びデータに何らの改変を加えずに、本件ゲームソフトを実行することにより、モニター上に表示される。「かすみ」を含む登場キャラクターの戦闘姿をデモンストレーションするオープニングムービーにおいて、半透明のゼリー状のものにくるまって横たわっている裸体の「かすみ」が表示されるが、これらのオープニングムービーを表示することのみを目的として「かすみ」の裸体影像に関するポリゴンデータが作成されているとすれば、顔とともに乳房がクローズアップされた正面からの影像、斜め後ろから「かすみ」の全身裸体を表示した影像、裸体の「かすみ」が戦闘相手に向かって足を大きく蹴り上げる動作をしている影像をそれぞれスムーズに描くのに必要なポリゴンデータを作成する必要はないから、これらのポリゴンデータが作成されていることは、本件裸体影像が表示されるように本件ゲームソフトが開発されたものとみるべきである。また、上記場面は非常に唐突に現れるものであって、ストーリー上必然性がないし、上記オープニングムービー後のストーリー展開にも何らつながりをもたないものである。むしろ、本件裸体影像に関するポリゴンデータを本件ゲームソフトに収納するための大義名分として、オープニングムービー中に、裸体の「かすみ」が半透明のゼリー状のものにくるまって横たわっている場面が挿入されたものとみるのが自然である。ユーザーが、PS2所定のスロットに、本件編集ツールを実行して市販のPS2用メモリーカードのデータを書き換えたメモリーカード(以下「本件メモリーカード」という。)を挿入し、12人のキャラクターの中から「かすみ」を選択すると、画面左下の「C1」ないし「C6」までのアイコン(以下「コスチューム選択アイコン」という。)に加えて、更に「C6」の上に「C2」というアイコン(以下「本件アイコン」という。)が表示される。この場合、本件アイコンを選択すると、本件裸体影像をスムーズに表示できるだけのポリゴンデータが、収録されているファイルからRAMに読み込まれ、本件裸体影像が表示されるようになる。上記の画面左下の「C6」の上に本件アイコンが表示された状態で、本件アイコンにカーソルを合わせると、裸体の「かすみ」の胸から上の影像が画面上左側に表示されるが、この影像はオープニングムービー中には使用されていない。この影像は、本件アイコンを選択すれば、本件裸体影像の「かすみ」を操作できることを知らせるために、被控訴人が殊更に作成し、本件ゲームソフトに収納したものとしか考えられない。ユーザーが、PS2所定のスロットに本件メモリーカードを挿入し、12人のキャラクターの中から「あやね」を選択すると、画面左下の「C1」ないし「C6」までのアイコンに加えて、更に「C6」の上に「C2」というアイコンが表示されるが、この「C2」を選択すると、プログラムが停止する。これは、「あやね」については、「かすみ」とは異なり、「C6」上の「C2」に対応するデータが存在しないからである。
イ 原判決が認定したのは、「ストーリーモード」において、戦闘相手を倒すということの繰り返しでは、「かすみ」のコスチューム数データ(以下「本件パラメータデータ」という。)が7にはならないということだけであって、その他の方法によっても本件パラメータデータが7になることはないということは何ら証明されていないから、「ストーリーモード」において、本件裸体影像でプレイすることを可能とするように、本件ゲームソフトがプログラムされていないことは、証明されていない。本件ゲームソフトは、本件パラメータデータを7にし、それに伴いチェックサムデータを変更しただけで、「ストーリーモード」において「かすみ」を裸体コスチュームによりプレイすることを可能とするようなプログラムである。そうすると、何らかの方法により、本件パラメータデータを7とすることによって、「ストーリーモード」において、本件裸体影像でプレイすることを可能となるように、積極的にプログラムされていたと推認するのが常識的である。
ウ 被控訴人は、本件ゲームソフト中のコスチュームリミットテーブル、「ストーリーモード」のエンディング処理プログラム及びチェックサムプログラムによって、「かすみ」の選択可能なコスチュームが6であること及び被控訴人が本件パラメータデータを7として管理されている裸体影像を対戦画面で使用することを全く想定していなかったことが明らかであると主張する。
 しかしながら、甲69は、戦闘相手を倒すことによって選択可能なコスチュームを増加させることができるのは「ストーリーモード」の場合に限られているということを示しているにすぎず、他の方法によっては選択可能なコスチュームを増加させることはできないことを何ら示していない。例えば、業務用「DEAD OR ALIVE 2」には、「かすみ」及び「あかね」について、選択可能なコスチュームが増加する「裏技」があり、被控訴人は、このような「裏技」を忍ばせておくことに関しては、実績がある。
 また、チェックサムとは、「データを送受信する際の誤り検出方法の一つ。送信前にデータを分割し、それぞれのブロック内のデータを数値とみなして合計を取ったもの。求めたチェックサムはデータと一緒に送信する。受信側では送られてきたデータ列から同様にチェックサムを計算し、送信側から送られてきたチェックサムと一致するかどうかを検査する。両者が異なれば、通信系路上でデータに誤りが生じていることになるので、再送などの誤り訂正手続をとる」(NTTコムウェアのワーズオンライン)ことであり、コンピュータゲーム等において、ユーザーが記憶装置にパラメータデータを書き込む際にも使用され、この場合、ユーザーが記憶装置に記録したパラメータデータを数値とみなして合計をとることになる。したがって、コスチュームリミットテーブルの数値を1から2に変更したり、2から3に変更したり、・・・6から7に変更したりする際には、これに合わせてチェックサムデータをも変更する必要が生ずるから、コスチュームリミットテーブルの数値を6から7に変更するに当たってチェックサムデータを変更しなければならないからといって、本件ゲームソフトにおいて、コスチュームリミットテーブルの数値の上限が6と定められていたことを意味せず、本件裸体影像でプレイされることを防止するために組み込まれたものではない。PS2用メモリーカードに記録されたパラメータデータは、「メモリージャグラーUSB」などのメモリーカード編集用汎用ツールを用いれば、コンピュータを使用して、容易に編集することができ、そのような汎用ツール等によってコスチュームリミットテーブルの数値を7とし、これに合わせてチェックサムデータを算出した場合に、本件ゲームソフトは、その数値を排除せずに、そのままメインプログラムのパラメータデータとして受け付ける仕組みになっている。したがって、本件ゲームソフトについて、「かすみ」を本件パラメータデータを7としてプレイしたときに画面上に展開するゲーム展開が、改変禁止の限界範囲を超えるとは客観的に明らかではないというべきである。
エ 同一性保持権の侵害行為は、「他人の著作物における表現形式上の本質的な特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいい、他人の著作物を素材として利用しても、その表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は、原著作物の同一性保持権を侵害しない」(最高裁平成10年7月17日第二小法廷判決・判例タイムズ984号83頁、以下「平成10年最判」という。)から、原著作物の創作性が残存していないような表現は、そもそも同一性保持権の侵害とはならない。本件においては、本件裸体影像は、被控訴人が創作した6種類のコスチューム影像における「表現形式上の本質的特徴」のいずれも維持していない。したがって、本件メモリーカードを使用して本件裸体影像を表示することは、本件ゲームソフト中の「かすみ」のコスチューム影像を改変するものということはできず、本件同一性保持権の侵害に当たらない。しかも、この「かすみ」の裸体自体は、被控訴人が創作し、その影像データを本件ゲームソフトに収録したものであり、控訴人が「かすみ」の他のコスチュームに手を加えて本件裸体影像を表示させたという事実はない。
(2) 本件裸体影像をモニター上に表示させるために必要な行為は、すべて各ユーザーが行っているから、改変行為の主体は各ユーザーであると考えるのが素直である。そして、現実に利用行為を行っているわけではない者を規範的に利用行為の主体と認定するためには、@その者の管理、支配の下に、現実の行為者が当該利用行為を行っていること(管理、支配性の要件)、Aその者が、現実の行為者により利用行為がされることにより利益を得ることを目的としていること(図利性の要件)が具備されていることが必要である(最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁〔以下「昭和63年最判」という。〕参照)ところ、@本件CD-ROMを購入したユーザーは、控訴人の管理、支配の全く及ばない自宅等に持ち帰り、控訴人の意思にかかわりなく、ユーザー自身の自由意思により、本件CD-ROMに収録された本件編集ツールを用いて本件メモリーカードを作成し、それを用いてコスチュームを選択し、本件ゲームソフトにおける対戦画面の実行を行うのであって、ユーザーが上記行為をすることについて、控訴人がユーザーを管理、支配しているとはいえず、A控訴人が本件CD-ROMを販売する目的は、本件編集ツールを用いて本件メモリーカードを作成し、コスチュームを選択して対戦画面を実行するという「改変」行為をユーザーにさせることにより利益を得ることにあったとはいえないから、控訴人が本件CD-ROMを販売した行為は、上記各要件をいずれも具備しない。
 また、本件CD-ROMには、多数のソフトやデータ集が収録されており、本件編集ツールに限定しても、それを実行すると、「かすみ」以外のキャラクターについては、コスチューム数データを最大限可能なコスチューム数に編集するようになっているから、「かすみ」の影像の改変のみを目的とするものではない。
(3) 本件編集ツールを用いて本件裸体影像をモニター上に表示させるユーザーは、一般に自ら本件裸体影像を楽しむために改変を行うのであって、通常、自らのモニターに本件裸体影像が表示されている状態を公衆に見せるということはない。したがって、ユーザーが本件編集ツールを用いて本件裸体影像をモニター上に表示させたとしても、私的領域内にとどまる改変は、同一性保持権の侵害には当たらないから、本件同一性保持権は侵害されないというべきである。個人的又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的する翻訳、編曲、変形又は翻案が、これらの行為に著作物の改変が必然的に伴うことから、著作者の同意なくして行えないとするならば、著作権法43条1号は無意味な規定ということになるが、同法50条は、同法43条1号を無意味にする規定と解すべきではなく、一定の場合に著作権を制限するという法の目的に合致するように、同一性保持権が構成されなければならない。私的使用目的の改変等について翻案権を制限するという同法43条1号の目的に合致するためには、改変された著作物が公衆に提供又は提示されない限り、同一性保持権の侵害は成立しないというべきである。また、同法20条1項にいう「意に反して」とは、当該改変を著作者の意に反しているとすることが社会的にも承認される場合に限定され、改変が著作者の意に反しないものと客観的に評価される場合には、著作者の同意がなくても同一性保持権の侵害には当たらないというべきであり、著作物を通してそん度される著作者の名誉や自尊心が、その評価と判断の基準となる。本件編集ツールを使用してパラメータデータを編集するユーザーは、当然に、自らを改変者と自認しているのであり、それらの改変を著作者である被控訴人自身が加えたものとは認識していないのであるから、著作者の名誉や自尊心が損なわれるとはいえない。したがって、本件編集ツールを使用してパラメーターデータを編集し、本件裸体影像でプレイするユーザーの行為は、被控訴人の本件同一性保持権を侵害しない。
(4) 損害について
 被控訴人の損害の主張は争う。本件CD-ROMには、本件編集ツール以外にも多数のソフトやデータ集などが収録されていたのであり、本件編集ツールに興味がないが他のソフトやデータ集に興味があったために本件CD-ROMを購入したユーザーも多数存在したものと考えられる。また、本件編集ツールは、本件ゲームソフトを所持しているユーザー以外は使用できないところ、本件CD-ROMの購入者が必ず本件ゲームソフトを所持しているとは限らない。さらに、本件編集ツールは、これを使ってパラメータデータの編集を行えば、「かすみ」を含むすべてのキャラクターについて、何度も戦闘を繰り返さなくても、すべてのコスチュームを選択できるようにすることができることから、本件裸体影像でプレイしたい者以外のユーザーにとっても、魅力のある商品である。これらの点を考慮するならば、本件CD-ROMを入手したユーザーが、本件編集ツールを使用して、メモリーカードに記録されたパラメータデータを編集し、本件裸体影像を表示させたものと断定することはできない。
3 被控訴人の主張
(1) 本件ゲームソフトのゲーム中の対戦画面において、本件裸体影像をモニター上に表示することは、本件ゲームソフトの改変に当たる。
ア 本件ゲームソフトにおいて、「かすみ」は、初期段階では2種類のコスチュームを選択することができる設定となっており、「ストーリーモード」においてゲームをクリアするごとに使用するコスチュームが増えていき、最終的には6種類のコスチュームが使用可能となる。これに対し、ユーザーが本件メモリーカードを使用すると、元来「かすみ」のコスチュームとして使用することが予定されていない裸体影像が、コスチュームの一つとして選択可能となり、それを選択すると、「かすみ」がゲーム中の対戦画面において本件裸体影像で動作するようになる。したがって、このような行為は、本件ゲームソフト中の「かすみ」の対戦画面において、コスチュームを着用して表示されている影像又は「かすみ」がオープニング影像において裸体で表示される影像を改変する行為である。各キャラクターを製作する際には、まず、コスチュームを着けていない状態の各キャラクターの体の基本線を決めるポリゴンデータである「素体」を製作し、「素体」を基本にして、各キャラクターについてコスチュームのポリゴンデータを上書きし、各コスチュームを着けたキャラクターのポリゴンデータが製作される。「かすみ」の場合は、この「素体」のポリゴンデータを利用して、オープニングムービーを製作したものである。また、画面左下の「C6」の上に本件アイコンが表示された状態で、本件アイコンにカーソルを合わせると、裸体の「かすみ」の胸から上の影像が画面上左側に表示されるのは、コスチューム選択アイコンにカーソルを合わせると、対応するポリゴンデータを読み込むためである。このように、「かすみ」については、本件裸体影像がポリゴンデータの形式で本件ゲームソフト中に収録されているが、控訴人が主張するように本件裸体影像を対戦画面で使用することを予定して製作したものではない。対戦画面において、コスチュームを着けた「かすみ」は、まばたきをするが、本件メモリーカードを使用して表示された本件裸体影像の「かすみ」は、まばたきをしない。これは、オープニングムービーにおいて、裸体の「かすみ」は、顔のアップシーンがないので、まばたきをするモーションデータがないためである。
イ 本件ゲームソフトでは、「かすみ」の選択可能なコスチュームは6種類であり、本件裸体影像は、コスチュームではなく、オープニングムービーで引用されることだけが予定されているのである。この点に関する被控訴人の意図は、本件ゲームソフト中のコスチュームリミットテーブル及び「ストーリーモード」のエンディング処理プログラムから明らかである。本件ゲームソフトにおいて、コスチューム数の増加処理は、甲69(被控訴人作成のソースプログラム抜粋「エンディング実行中の処理」)記載のとおりである。甲69に「if(CmnPlayMode==MAIN_ARCADE)」(2頁「コスチューム追加処理部」の項)とあるのは、「ユーザが選択しているプレイモードが『ストーリーモード』の場合には」という意味である。ちなみに、本件ゲームソフトは、業務用「DEAD OR ALIVE 2」をPS2用に移植したものであるところから、従来からの「MAIN_ARCADE」モードを「ストーリーモード」としているのである。そして、本件ゲームでは、「ストーリーモード」の場合のみ、コスチューム数の増加処理が行われるのであり、各キャラクターのコスチューム数を規定しているコスチュームリミットテーブル(甲63)を超えた数値にまで増加されることはなく、「かすみ」については、コスチューム数は最大で6であって、コスチューム数として7を記録することはない。控訴人は、本件ゲームソフトにおいて、いわゆる「裏技」によって本件裸体画像をコスチュームとして選択できるかのような主張をしているが、そのような事実はない。業務用「DEAD OR ALIVE 2」には、「かすみ」及び「あかね」について、選択可能なコスチュームが増加する「裏技」が存在することは認めるが、これは被控訴人において意図的に組み込んだものである。
ウ また、本件ゲームソフトのチェックサムプログラムの働きは、おおよそ以下のとおりである。本件ゲームソフトの場合、セーブデータは、各キャラクターの選択可能なコスチュームのほか、ユーザーが選択したキャラクターでのプレイ時間、勝敗等であるが、これらのデータは、セーブデータとしてメモリーカードに保存される。チェックサムプログラムは、このセーブデータを、4バイトごとに分割し、初めの4バイトに次の4バイトを加え(ただし、単純な加算ではなく、排他的論理和を算出するというやや複雑な計算式を用いる。)、順次、次の4バイトにつき同様の処理を行う。そして、最後に最終的な計算結果を、当該セーブデータの末尾に書き加える。次に、ユーザーがゲームを再開しようとする場合、チェックサムプログラムは、以上のように作成されたセーブデータが記録されたメモリーカードにアクセスし、当該セーブデータにつき、上記計算を再度行い、その計算結果と当該セーブデータの末尾に記録されている計算結果とを照合する。これが一致していればゲームが再開され、不一致の場合はエラーとなり、ゲームを開始することができなくなる。例えば、メモリーカードがデータの書き込み中に引き抜かれる等の異常な動作が行われた等により、メモリーカードに異常な数値が書き込まれる事態に対して、このチェックサムプログラムはエラーとなるように作成されている。チェックサムプログラムが上記のような働きをする結果、メモリーカードの「かすみ」の選択可能なコスチュームを指示するアドレスに7というデータが収録された場合、その場合の4バイトごとに分割されたセーブデータの計算結果と、メモリーカード中のセーブデータ末尾に記録されている計算結果が不一致となり、エラーとなる。このため、控訴人は、被控訴人が作成したチェックサムプログラムを解析し、7というデータを収録した場合でもエラーにならないよう、セーブデータに変更を加える必要があったのである。本件ゲームソフトのチェックサムプログラムは、上記機能を営むものであるから、このプログラム自体が直接的に「かすみ」の裸体影像データでプレイすることを禁止することを目的として作成されたものでないとしても、これと本件ゲームソフト内のエンディング処理プログラム及びコスチュームリミットテーブルの制限によって、「かすみ」の使用可能なコスチュームが6であること及び被控訴人が7というデータで管理されている裸体影像を対戦画面で使用することを全く想定していなかったことが明らかである。
エ 控訴人は、改変された影像は、被控訴人が創作した6種類のコスチュームの表現形式上の本質的特徴を維持していない旨主張するが、同主張は、改変されたのはコスチュームの部分だけであるという前提に立つもの、すなわち、本件裸体影像は、コスチュームを着けていないから、被控訴人が創作的に表現した6種類のコスチュームの表現形式上の本質的特徴を何ら維持していないというものと理解される。しかしながら、本件において改変されたのは、コスチュームを着けたように表示された「かすみ」の影像であり、控訴人の改変行為によって表示された改変後の影像が裸体の「かすみ」であることは、女性キャラクターの書き分けにおいて最も重要な表現形式となる部分である顔の部分が、「かすみ」の顔の影像そのものであることから全く明らかであり、更に言えば、その他のボディラインも、「かすみ」固有のデータで構成されているから、この点も表現形式上の本質的特徴を示している。このことは、控訴人が、改変ツールによって改変される影像が「かすみ」の影像であることを、「ヌードのカスミでゲームする!」とのうたい文句で宣伝していることからも明らかであり、控訴人自身、改変後の影像が、裸体の「かすみ」であることを十分に認識しているものである。したがって、改変後の影像は、被控訴人が創作的に表現した6種類のコスチュームを着けた形で表現されている「かすみ」の影像との表現形式上の本質的特徴を維持しているというべきである。
(2) 控訴人による本件編集ツールを収録した本件CD-ROMの販売行為は、本件同一性保持権を直接侵害する行為である。本件編集ツールは、本件ゲームソフトの「かすみ」の影像を裸体影像に改変するものであり、ユーザーによる侵害を誘発するものである。改変の具体的方法は、控訴人が製作した本件編集ツールによって規定されており、ユーザーの下での改変は、控訴人の指示のとおりに行われるものである。ユーザーは、控訴人が製作した本件編集ツールがどのように動作するのか等という仕組みや、それが本件ゲームソフトにどのように作用しているか等を理解する必要はなく、控訴人の指示に従って機器を操作するだけで、控訴人の意図する結果を作出することになる。控訴人は、本件編集ツールを収録した本件CD-ROMの販売により利益を上げているが、この利益は控訴人のみに帰属し、被控訴人はこれに一切関与していない。したがって、このような場合、改変行為を行っている者はユーザーではなく、控訴人自身であるというべきである。本件編集ツールは、本件ゲームソフトを改変する機能を有しており、その目的のために控訴人によって製作されたものであって、ユーザーも、その目的でこれを購入するものである以上、控訴人による本件CD-ROMの販売行為は、これを購入したユーザーによって被控訴人の著作物に対する被控訴人の意に反する改変を惹起する結果となり、被控訴人による本件編集ツールの提供と改変の結果との間には因果関係がある。なお、控訴人は、本件編集ツールを製作販売するに際して、少なくとも1度は、裸体影像を用いて「かすみ」を動作させているから、この行為は本件同一性保持権を侵害する。仮に、上記のようにいうことができないとしても、ユーザーが本件編集ツールにより本件ゲームソフトの「かすみ」の影像を裸体影像に改変することは、本件同一性保持権を侵害し、控訴人はその幇助者である。
(3) 私的領域における改変行為が翻案権の侵害にならないことは、著作権法43条1号の規定するところであるが、同一性保持権においては、同法50条は、明らかにそのような解釈を禁じている。また、上記改変は、およそ有意な点がなく、著しく低俗であって、著作者である被控訴人の製作意図を甚だしくゆがめるものというほかはないものであるから、ユーザーによる私的領域内での改変であったとしても、それが直ちに違法でないとすることはできないというべきである。したがって、控訴人の行為がユーザーに対する幇助であるとしても、これが違法であることは明らかである。更に言えば、本件においては、実質的な違法の原因は、ユーザーというよりは、本件編集ツールの提供者である控訴人であるというべきであり、そのような立場にある控訴人が、ユーザーを盾にして自らの無責を主張するなどということは許されない。
(4) 損害
 被控訴人は、「お楽しみCD」30号及び同31号を、少なくとも各1万部製作し、全国490店舗の販売店に販売した。控訴人の行った改変行為は著しく低俗かつ破廉恥な内容である上、控訴人の販売した上記各「お楽しみCD」の総数も看過し得ない数量である。したがって、これにより被った被控訴人の慰謝料は200万円を下らない。
第3 当裁判所の判断
1 本件ゲームソフトの改変について
(1) 上記第2の1の前提となる事実と証拠(甲1−1、2、甲2、4〜6、63、64、69〜72、73−1〜6、甲74〜77、乙2、3、5、検甲1〜3、検乙1)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
ア 被控訴人が著作者として本件同一性保持権を有する本件ゲームソフトは、ゲームを行う主人公(プレイヤー)が、「ストーリーモード」、「チームバトルモード」、「タイムアタックモード」、「スパーリングモード」、「サバイバルモード」、「バーサスモード」、「タッグバトルモード」及び「オプションモード」の8ゲームモードから一つを選択し、「かすみ」、「レイファン」、「ゲン・フー」、「ティナ・アームストロング」、「ザック」、「ハヤブサ」、「あやね」、「ジャン・リー」、「エレナ」、「バース・アームストロング」、「レオン」及び「アイン」の12人のキャラクターの中から一人のキャラクターを選択し、さらに、複数のコスチューム(「かすみ」については、「C1」は忍装束(青)、「C2」は忍装束(白)、「C3」は忍装束(赤)、「C4」は忍装束(黒)、「C5」は制服、「C6」は制服(冬服)である。)から一つを選択した上でプレイするが、「ストーリーモード」においては、戦闘に勝利すると場面が変わり、次の対戦相手と戦闘するというストーリーを内容とする。ユーザーが、メモリーカードをPS2所定のスロットに挿入した状態で本件ゲームソフトを起動させると、登場キャラクターの戦闘姿をデモンストレーションするオープニングムービーがモニター上に表示されるが、その中で、ゼリー状のカプセルに包まれた裸体の「かすみ」が登場する。これは本件ゲームソフトのストーリー中に「偽かすみ」がクローン技術によって作られたとの設定があり、そのストーリーの中で「かすみ」が捕らえられているシーンを表示したものである。ユーザーが、コントローラを操作し、「ストーリーモード」を選択し、「CHARACTER SELECT」と題する画面を表示させると、画面下中央部分に上記12人のキャラクターの顔を表示したアイコンが表示される。ユーザーがコントローラを操作し、この中から一人のキャラクターのアイコンにカーソルを合わせて選択すると、画面左下部分に、「C1」、「C2」等の文字を角がやや丸い横長の長方形で囲んだコスチューム選択アイコンが縦に並んで表示される。コスチューム選択アイコンは、当該キャラクターのコスチューム数データの数だけ表示され、ユーザーがこの中から一つのコスチュームのアイコンにカーソルを合わせると、画面上左側に当該コスチュームが表示され、そのアイコンをユーザーが選択すると、対戦画面において当該キャラクターが着用するコスチュームが決定される。ユーザーが上記12人のキャラクターから「かすみ」を選択した場合、初期段階では、画面左下に下から順に「C1」、「C2」と表示された二つのコスチューム選択アイコンが示す上記2種類のコスチューム(「C1」は忍装束(青)、「C2」は忍装束(白))から選択することができ、対戦相手との戦闘に勝利してゲームをクリアするごとに選択可能なコスチュームが増え、最終的には、6種類のコスチュームを選択することができるようになる。上記6種類のコスチューム中に裸体影像は含まれていないのに、「かすみ」の裸体影像は、ポリゴンデータとして本件ゲームソフトに収録されているが、その理由は、被控訴人が各キャラクターの影像のポリゴンデータを製作するに当たっては、まず、コスチュームを着けていない状態の各キャラクターの体の基本線を決めるポリゴンデータである「素体」を製作した上、「素体」を基本に各コスチュームを着けたキャラクターのポリゴンデータを製作したものであるところ、その際、オープニングムービーの上記シーンにおいて使用するポリゴンデータとして、「かすみ」の「素体」のポリゴンデータを利用したためである。上記「かすみ」の裸体影像は、対戦画面で使用することを予定して製作したものではないため、対戦画面で使用することを予定して製作されたコスチュームを着けた「かすみ」とは異なり、まばたきをするモーションデータがなく、まばたきをしない。
イ 本件ゲームソフトにおいて、ユーザーがセーブコマンドを選択した際に、メモリーカードに記録されているパラメータデータの13EOAないし13E15のアドレスにその時点で各キャラクターが選択可能なコスチュームを記録している。「かすみ」の場合、13E0Fのアドレス(以下「アドレス13E0F」という。)に、ゲームの進行具合に応じて、2ないし6のいずれかのデータが記録され、アドレス13E0Fに2というデータが収録されたときは、ユーザーは2種類のコスチュームを選択でき、6というデータが収録されたときは、6種類のコスチュームを選択できる。本件ゲームソフトにおいて、通常にプレイした場合、アドレス13E0Fに7というデータが収録されることはなく、仮に、7というデータが収録された場合は、チェックサムプログラムによりチェックサム値の異常が検出され、エラーとなる。また、コスチュームリミットテーブル上の「かすみ」の選択可能なコスチュームの最大値は6である。
ウ 本件編集ツールは、メモリーカードに記録されたアドレス13E0Fの本件パラメータデータを7にするとともに、これに合わせてチェックサムデータを変更する(以下、これらの処理を「本件編集」という。)ものである。本件編集ツールは、本件CD-ROMに、多数のソフトやデータ集などと共に収録され、ユーザーは、コンピュータで本件CD-ROMを起動し、メニュー画面から「ヌードのカスミでゲームする PS2版DEAD OR ALIVE2」を選択し、画面の表示に従って操作すると、本件編集ツールの使用法(以下「ツール使用法」という。)が表示され、ツール使用法に従って、本件CD-ROMに「doa2edit.lzh」のファイル名で収録されている本件編集ツールをユーザーのコンピュータにインストールした上、インストールした本件編集ツールを実行し、さらに、ツール使用法に従って操作すると、パソコンからPS2用メモリーアダプターを介して接続されたメモリーカードに本件編集がされたデータが転送され、本件メモリーカードが作成される。
エ ユーザーが、PS2所定のスロットに本件メモリーカードを挿入し、「ストーリーモード」を選択し、12人のキャラクターの中から「かすみ」を選択すると、画面左下の「C1」ないし「C6」のコスチューム選択アイコンに加えて、「C6」のコスチューム選択アイコン上に更に本件アイコン(「C2」)が表示される。ユーザーが本件アイコンにカーソルを合わせると、画面上左側に「かすみ」の裸体の静止影像が表示され、本件アイコンを選択すると、「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘するできるようになる。本件アイコンを選択すると裸体の「かすみ」の胸から上の影像が画面上左側に表示されるのは、コスチューム選択アイコンにカーソルを合わせると、対応するポリゴンデータを読み込むためである。
オ 本件ゲームソフトは、業務用「DEAD OR ALIVE 2」をPS2用に移植したものであるが、当初の企画では、各キャラクターのコスチュームを各10種類まで使用可能なように製作することを企図し、キャラクターのコスチューム選択画面に表示されるコスチューム選択アイコンの影像データも「C1」ないし「C10」までを製作し、収録することができるようにしていた。しかし、当初製作されたコスチュームは最大で5種類までであったため、コスチューム選択アイコンの影像も「C1」ないし「C5」が製作され、「C6」以降は製作されていなかったが、将来6種類以上のコスチュームが製作された際に、これを無理なく速やかに本件ゲームソフトに収録し、使用できる状態にするため、及び動作確認をする便宜のため、とりあえず、6番目には初めに戻って「C1」を、7番目には「C2」を、8番目には「C3」を表示するように割り当てていた。その後、「かすみ」と「あやね」については6番目のコスチュームが実際に製作され、これに合わせて「C6」というコスチューム選択アイコンの影像データも製作され、6番目のコスチュームと対応させた上で、本件ゲームソフトに収録された。「かすみ」も「あやね」も、7番目のコスチュームは製作されなかったが、将来の7番目以降のコスチュームデータに対応するコスチューム選択アイコンの「C2」ないし「C5」という設定自体は上記のままになっている。
(2) 控訴人は、本件ゲームソフトには、ゲーム中の対戦画面において本件裸体影像を表示する機能があらかじめ組み込まれていたと主張し、その理由として、@オープニングムービーを表示するために必要のない「かすみ」の裸体影像のポリゴンデータが作成されていること、Aオープニングムービーの場面はストーリー上必然性がないこと、B本件アイコンを選択すると裸体の「かすみ」の胸から上の影像が画面上左側に表示されるのに対し、「あやね」については、「かすみ」とは異なり、本件アイコンを選択するとプログラムが停止するが、これは、「あやね」については、「かすみ」とは異なり、「C6」上の「C2」に対応するデータが存在しないからであることを挙げる。
 そこで、まず、上記@の点について検討すると、オープニングムービーは、「かすみ」の「素体」のポリゴンデータを利用して製作したものであり、「かすみ」の裸体影像は、対戦画面で使用することを予定して製作したものではないため、対戦画面で使用することを予定して製作されたコスチュームを着けた「かすみ」とは異なり、まばたきをするモーションデータがなく、まばたきしないことは上記(1)アのとおりであり、「かすみ」の裸体影像のポリゴンデータがオープニングムービーを表示するために必ずしも必要ないとしても、「素体」のポリゴンデータとしては必要であり、これを利用してオープニングムービーを作成したにすぎないのであるから、「かすみ」の裸体影像のポリゴンデータが作成されたことは、控訴人の上記主張を裏付けるものということはできない。また、上記Aの点についても、オープニングムービー中に登場するゼリー状のカプセルに包まれた裸体の「かすみ」は、本件ゲームソフトのストーリー中に「偽かすみ」がクローン技術によって作られたとの設定があり、そのストーリーの中で「かすみ」が捕らえられているシーンを表示したものであることは、上記(1)アのとおりであるから、オープニングムービーの場面に特に不自然な点はないというべきである。さらに、上記Bの点について、本件アイコンが表示される理由は、上記(1)オのとおりであり、本件アイコンを選択すると裸体の「かすみ」の胸から上の影像が画面上左側に表示される理由が、コスチューム選択アイコンにカーソルを合わせると、対応するポリゴンデータを読み込むためであることは、同(1)エのとおりであり、「あやね」について、「かすみ」とは異なり、本件アイコンを選択するとプログラムが停止する理由が、「C6」上の「C2」に対応するデータが存在しないからであることは、控訴人の主張するとおりであるが、「かすみ」のみ「C6」上の「C2」に対応するデータ、すなわち、裸体影像のポリゴンデータが作成されたことは、上記(1)アのとおりである。したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。
(3) また、控訴人は、「ストーリーモード」において、戦闘相手を倒す以外の方法によっても本件パラメータデータが7になることはないということは何ら証明されていないと主張する。しかしながら、本件ゲームソフトにおいて、通常にプレイした場合、アドレス13E0Fに7というデータが収録されることはなく、仮に、7というデータが収録された場合は、チェックサムプログラムによりチェックサム値の異常が検出され、エラーとなり、また、コスチュームリミットテーブル上の「かすみ」の選択可能なコスチュームの最大値は6であることは、上記のとおりである。
 控訴人は、業務用「DEAD OR ALIVE 2」には、「かすみ」及び「あかね」について、選択可能なコスチュームが増加する「裏技」があり、被控訴人は、このような「裏技」を忍ばせておくことに関しては、実績があると主張し、業務用「DEAD OR ALIVE 2」に控訴人主張のような「裏技」が存在することは、被控訴人の認めるところであるが、被控訴人執行役員管理部部長A作成の陳述書(甲74)によれば、本件ゲームソフトには、ゲーム中の対戦画面において本件裸体影像を表示する「裏技」は存在しないことが認められる。
 さらに、控訴人は、コスチュームリミットテーブルの数値を6から7に変更するに当たってチェックサムデータを変更しなければならないからといって、本件ゲームソフトにおいて、コスチュームリミットテーブルの数値の上限が6と定められていたことを意味せず、本件裸体影像でプレイされることを防止するために組み込まれたものではなく、また、本件パラメータデータは、「メモリージャグラーUSB」などのメモリーカード編集用汎用ツールを用いて容易に編集することができ、その場合に、本件ゲームソフトは、その数値を排除せずに、そのままメインプログラムのパラメータデータとして受け付ける仕組みになっているから、本件ゲームソフトについて、「かすみ」をコスチューム番号7でプレイしたときに画面上に展開するゲーム展開が改変禁止の限界範囲を超えるとは客観的に明らかではないとも主張する。しかしながら、本件ゲームソフトの「ストーリーモード」においては、各キャラクターの対戦成績に対応してコスチューム数が増加し、「かすみ」においては、初期段階では2種類のコスチューム(「C1」は忍装束(青)、「C2」は忍装束(白))から選択することができるにすぎないが、対戦相手との戦闘に勝利してゲームをクリアするごとに選択可能なコスチュームが増え、ユーザーがセーブコマンドを選択した際にメモリーカードに記録されているパラメータデータのアドレス13E0Fに、ゲームの進行具合に応じて、2ないし6のいずれかのデータが記録され、アドレス13E0Fに2というデータが収録されたときは、ユーザーは2種類のコスチュームを選択でき、6というデータが収録されたときは、6種類のコスチュームを選択でき、通常にプレイした場合、アドレス13E0Fに7というデータが収録されることはないことは、上記のとおりである。チェックサムとは、控訴人の主張するとおり、「データを送受信する際の誤り検出方法の一つ。送信前にデータを分割し、それぞれのブロック内のデータを数値とみなして合計を取ったもの。求めたチェックサムはデータと一緒に送信する。受信側では送られてきたデータ列から同様にチェックサムを計算し、送信側から送られてきたチェックサムと一致するかどうかを検査する。両者が異なれば、通信系路上でデータに誤りが生じていることになるので、再送などの誤り訂正手続をとる」(NTTコムウェアのワーズオンライン)ことであり、本件ゲームソフトのチェックサムプログラムは、直接的に「かすみ」の裸体影像データでプレイすることを禁止することを目的として作成されたものではないが、チェックサムプログラムが上記のような働きをする結果、セーブデータに変更を加えない限り、「かすみ」のコスチューム数を記録しているアドレス13E0Fに7というデータが収録された場合は、チェックサムプログラムによりチェックサム値の異常が検出され、エラーとなるのであるから、本件ゲームソフトにおいて、「かすみ」のコスチューム数を記録しているアドレス13E0Fに7というデータを収録し、これをPS2に読み込んでプレイすること、すなわち、「ストーリーモード」の対戦画面において「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘することは、本件ゲームソフトの対戦画面の影像ないしゲーム展開が、本来予定された範囲を超えたものと認められる。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(4) 控訴人は、改変行為の主体は各ユーザーであり、@本件CD-ROMを購入したユーザーは、控訴人の管理、支配の全く及ばない自宅等に持ち帰り、控訴人の意思にかかわりなくユーザー自身の自由意思をもって本件CD-ROMに収録された本件編集ツールを用いて本件メモリーカードを作成し、それを用いてコスチュームを選択し、本件ゲームソフトにおける対戦画面の実行を行うのであって、ユーザーが上記行為をすることについて控訴人がユーザーを管理、支配しているとはいえず、A控訴人が本件CD-ROMを販売する目的は、本件編集ツールを用いて本件メモリーカードを作成し、コスチュームを選択して対戦画面を実行するという「改変」行為をユーザーにさせることにより利益を得ることにあったとはいえないから、控訴人が本件CD-ROMを販売した行為は、昭和63年最判のいう各要件を具備せず、また、本件CD-ROMは、「かすみ」の影像の改変のみを目的とするものではないと主張する。しかしながら、昭和63年最判は、スナック等の経営者が、カラオケ装置と音楽著作物である楽曲の録音されたカラオケテープと備え置き、客に歌唱を勧め、客の選択した曲目のカラオケテープの再生による伴奏により他の客の面前で歌唱させるなどし、もって店の雰囲気作りをし、客の来集を図って利益を上げることを意図しているときは、右経営者は、当該音楽著作物の著作権者の許諾を得ない限り、客による歌唱につき、その歌唱の主体として演奏権侵害による不法行為責任を免れないとしたものであり、音楽の著作物に係る著作権である演奏権侵害に関する事案であって、著作者人格権である同一性保持権の侵害に関する本件とは事案を異にし、適切でない。また、本件編集ツールは、ツール使用法に従って操作すると、パソコンからPS2用メモリーアダプターを介して接続されたメモリーカードに本件編集がされたデータが転送され、本件メモリーカードが作成されるものであることは上記のとおりである。そして、本件CD-ROMには、本件編集ツール以外の多数のソフトやデータ集なども収録されていることが認められるが、本件編集ツール自体には、本件編集による本件メモリーの作成以外の目的があるとは認められない。
2 本件同一性保持権の侵害について
(1) 本件ゲームソフトは、ユーザーが、「ストーリーモード」を選択してプレイした場合、各キャラクターの対戦成績に対応してコスチューム数が増加し、「かすみ」においては、初期段階では2種類のコスチューム(「C1」は忍装束(青)、「C2」は忍装束(白))から選択することができるにすぎないが、対戦相手との戦闘に勝利してゲームをクリアするごとに選択可能なコスチュームが増え、最終的には、6種類のコスチューム(「C1」は忍装束(青)、「C2」は忍装束(白)、「C3」は忍装束(赤)、「C4」は忍装束(黒)、「C5」は制服、「C6」は制服(冬服))を選択することができるようになるという設定となっているものであることは上記1の(1)アのとおりである。ユーザーが、通常にプレイした場合、対戦画面において「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘することはないのに対し、本件メモリーカードを使用すると、「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘することができるようになるものであり、これは、本件ゲームソフトの対戦画面の影像ないしゲーム展開が、本来予定された範囲を超えたものである。したがって、本件メモリーカードの使用は、本件ゲームソフトを改変し、本件同一性保持権を侵害するものというべきであるところ、本件編集ツールは、本件編集による本件メモリーの作成のみを目的とするものであるから、専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とするものと認めることができ、これを収録した本件CD-ROMを販売し、他人の使用を意図して流通においた控訴人は、他人の使用による本件同一性保持権の侵害を惹起したものとして、被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負うものというべきである(最高裁平成13年2月13日第三小法廷判決・民集55巻1号87頁参照)。
(2) 控訴人は、平成10年最判を引用し、本件編集ツールにより改変された本件裸体影像は、被控訴人が創作した6種類のコスチュームの表現形式上の本質的特徴を維持していないから、本件裸体影像を表示することは、本件ゲームソフト中の「かすみ」のコスチューム影像を改変するものということはできず、本件同一性保持権の侵害に当たらない旨主張する。しかしながら、本件裸体影像を表示することは、本件ゲームソフト中の「かすみ」のコスチューム影像、すなわち、「C1」の忍装束(青)、「C2」の忍装束(白)、「C3」の忍装束(赤)、「C4」の忍装束(黒)、「C5」の制服及び「C6」の制服(冬服)を改変するものではないが、被控訴人が主張している改変は、上記コスチュームを着けた形で表現している「かすみ」の影像であって、当該コスチューム部分のみにとどまるものではなく、本件編集ツールにより改変された本件裸体影像が裸体の「かすみ」であることは、控訴人自身、本件CD-ROM(甲71、甲64〔甲71の一部を出力して印刷したもの〕)、CD-ROMマガジン「お楽しみCD」30号のパンフレット(甲3)及びその広告(甲1−1、1−2)中において、「ヌードのカスミでゲームする!」、「[PSメモリーカード変更]裸霞、全コスチューム使用可能」と表示していることからも明らかである。したがって、本件裸体影像は、被控訴人が創作的に表現した6種類のコスチュームを着けた形で表現されている「かすみ」の影像との表現形式上の本質的特徴を維持しているというべきである。
(3) 控訴人は、本件編集ツールを用いて本件裸体影像をモニター上に表示させるユーザーは、一般に自ら本件裸体影像を楽しむために改変を行うのであって、自らのモニターに本件裸体影像が表示されている状態を公衆に見せるということは通常ないから、ユーザーが本件編集ツールを用いて本件裸体影像をモニター上に表示させたとしても、私的領域内にとどまる改変であり、本件同一性保持権は侵害されないというべきであると主張する。しかしながら、ユーザーによる本件メモリーカードの使用が私的領域内にとどまるとしても、控訴人の行為は、上記のとおり、他人の使用による本件同一性保持権の侵害を惹起したものというべきであるから、控訴人の上記主張は採用することができない。さらに、控訴人は、著作権法20条1項にいう「意に反して」とは、当該改変を著作者の意に反しているとすることが社会的にも承認される場合に限定され、改変が著作者の意に反しないものと客観的に評価される場合には、著作者の同意がなくても同一性保持権の侵害には当たらないというべきであり、本件ゲームソフトの改変は、著作者の名誉や自尊心が損なわれるとはいえないから、被控訴人の本件同一性保持権を侵害しないとも主張するが、同項にいう「意に反して」の趣旨を、控訴人主張のように限定して解釈するとしても、本件事実関係の下においては、本件ゲームソフトの改変について、著作者である被控訴人の同意を要しないものということはできないところ、被控訴人の同意があったことについて主張・立証はないから、控訴人の上記主張も採用することができない。
3 損害について
 本件ゲームソフトの改変は、上記のとおり、本件CD-ROMに収録した本件編集ツールを使用して、「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘することができるようにするものである。本件CD-ROMを収めたCD-ROMマガジン「お楽しみCD」30号(平成13年2月9日発売)及び同31号(同年4月13日発売)の各販売総数は証拠上明らかではないが、証拠(甲1−1、甲61、62)によれば、控訴人は、上記「お楽しみCD」30号及び同31号(定価各2980円)を、それぞれ、全国490店舗のソフト販売店等に対し、各数十枚程度を販売し、インターネットショップ上でも販売したことが認められる。控訴人は、本件CD-ROMには、本件編集ツール以外にも多数のソフトやデータ集などが収録されていたこと等を考慮するならば、本件CD-ROMを入手したユーザーが、本件編集ツールを使用して、メモリーカードに記録されたパラメータデータを編集し、本件裸体影像を表示させたものと断定することはできないと主張する。確かに、本件CD-ROMには、本件編集ツール以外の多数のソフトやデータ集なども収録され、その購入者全員が本件編集ツールを使用して本件ゲームソフトの改変を行ったものとまでは認められないが、これらの点を考慮しても、改変の内容及び上記販売数等の本件に現れた諸般の事情に照らすと、本件同一性保持権の侵害に基づく損害賠償としての慰謝料の額は、原判決の認定した200万円を下らないものと認めるのが相当である。
4 結論
 以上のとおり、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第13民事部
 裁判長裁判官 篠原勝美
 裁判官 岡本岳
 裁判官 早田尚貴
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