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【事件名】“天理教”名称の不正競争事件
【年月日】平成16年3月30日
 東京地裁 平成15年(ワ)第23164号 名称使用差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年1月23日)

判決
原告 宗教法人天理教
同訴訟代理人弁護士 今中道信
同 羽成守
同 日野修一
同 鳩谷邦丸
同 別城信太郎
同 大畑道広
被告 宗教法人天理教豊文教会
同訴訟代理人弁護士 岡田弘隆


主文
1 被告は、「天理教豊文教会」その他「天理教」を含む名称を使用してはならない。
2 被告は、長野地方法務局諏訪支局平成15年5月15日受付をもってなされた被告の宗教法人変更登記中「天理教豊文教会」の名称登記の抹消登記手続をせよ。
3 訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求及び答弁
1 原告
 主文同旨
2 被告
(1) (本案前の答弁)本件訴えを却下する。
(2) (本案の答弁)原告の請求をいずれも棄却する。
第2 事案の概要等
1 争いのない事実等
(1) 原告
 原告は、肩書地に本部を置く宗教法人法による宗教法人である。原告は、「親神天理王命の思召す世界一れつ陽気ぐらしを実現する教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成し、教会を包括し、その他この宗教団体の目的を達成するための業務及び事業を行うこと」を目的とする(甲1)。
 原告が包括する教会は、本部及び一般教会であり、一般教会の呼称は、「天理教○○大教会」又は「天理教○○分教会」であり(甲1、3)、その擁する教会は、平成15年2月現在で1万6832箇所を超え、長野市にも教会を有する(甲12)。原告は、我が国有数の信仰集団であり、その名称は著名である。
(2) 被告
 被告は、従前「天理教豊文分教会」との名称で、原告に包括される一般教会たる宗教法人であったが、平成13年7月3日付け通知書をもって、原告に対し、被包括関係を廃止する旨の通知を行った。被告は、長野県知事に対し、上記被包括関係の廃止に係る規則変更認証申請を行い、平成15年4月16日付け15文第21号により、被告の規則の変更が認証された。上記規則変更後の被告の規則(乙3の2)は、被包括関係廃止後の被告の名称について「この教会は、宗教法人法による宗教法人であって『天理教豊文教会』という。」との定めを置いており(第1条)、被告の目的は、「教祖と仰ぐ中山みきの、一れつ陽気づくめ世界を実現するとの立教の本義に基づき、教祖の教えられたみかぐらうた及びおふでさきの教えを広め、儀式行事を行い、信者を教化育成し、並びにこの教会の目的を達成するための業務を行うこと」にある(第4条)。
 被告は、以後「天理教豊文教会」との名称で、その一部に「天理教」を含む名称を使用している。
2 事案の概要
 本件は、原告が、被告において「天理教豊文教会」の名称を使用する行為が不正競争防止法2条1項2号又は1号所定の不正競争行為若しくは原告の宗教上の人格権を侵害する行為に当たると主張して、上記名称の使用の差止め及び上記名称の抹消登記手続を請求する事案である。
3 本件の争点
(1) 本件訴えは、「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)に当たるか(本案前の申立て)
(2) 不正競争防止法に基づく請求(不正競争防止法2条1項2号又は1号)について
ア 不正競争防止法の適用の可否
イ 同法2条1項2号該当性(著名な商品等表示該当性及び名称の類似性の有無)
ウ 同法2条1項1号該当性(周知性及び誤認混同のおそれの有無)
エ 被告が「天理教豊文教会」との名称を使用することの正当性の有無
(3) 宗教上の人格権に基づく請求の可否
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(法律上の争訟性)について
[被告の主張]
 宗教上の性質を有する事項については、国家といえどもこれに関与することはできない。日本国憲法は政教分離の原則を採用し、国家があらゆる宗教から絶縁し、宗教を私事に任せ、もって信教の自由の保障を完全ならしめているからである。
 本件訴えは、@ 「天理教」の名称が単なる原告及び被告の名称にすぎないのか、天理教という宗教の系統に属しているか否か、A 同一の宗教を奉ずる宗教法人と判断すべきか否か、という宗教上の性質を有する事項について裁判所の判断を求めるもので、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないから、訴えの利益がない。
[原告の主張]
 本件は、当事者双方とも宗教法人ではあるが、争点となるのは、専ら天理教とは無関係となった被告が「天理教」の表示を使用することの当否であり、教義にわたる事項につき判断を要する宗教紛争ではないから、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たる。
2 争点(2)ア(不正競争防止法の適用の可否)について
[原告の主張]
(1) 不正競争防止法の目的
 不正競争防止法は、国民経済の健全な発展のために、不正競争行為を明確に規定し、かつこれを禁止することを通じて、広く競業秩序の確保を目的とする法律にほかならない。ある競業行為が公正な競争行為であるか又は不正な競争行為であるかの判断に際しては、その行為をする者が他の競争関係にある者に比べて不当に競争上有利な地位を占めているか否かが決定的な判断基準となる。  
(2) 不正競争防止法1条の「事業者」及び同法2条1項1号、2号、3条の「営業」の解釈
 不正競争防止法1条にいう「事業者」とは、商業、製造業等あらゆる事業を行う者であり、営利事業に限らず、広く経済収支上の計算に立って行っている者であればよい。事業者間の公正な競争という場合の「事業」については営利事業に限らず、広く経済収支上の計算の上に立って行われるものをいうのであるから、公正な競争を通じて公衆の利益をも保護する不正競争防止法の展開を考えるとき、営利を目的としない事業全般に不正競争防止法の適用を認めるべきである。
 不正競争防止法2条1項1号、2号、3条にいう「営業」は、日常用語の「営業」とも商法上の「営業」とも異なる同法独自の概念であり、単に営利を直接の目的として行われる事業に限らず、事業者間の公正な競争を確保するという法目的に照らして広く解されるところ、事業者間の公正な競争を確保する必要性は、宗教法人の宗教活動についても認められるところであるから、宗教法人の宗教活動も同法の「営業」に含まれると解すべきである。
(3) 宗教法人の宗教活動への不正競争防止法の適用
 宗教法人法においては、「業務」とは、宗教上の本来的活動、すなわち教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成する等の活動及びそれに伴う直接間接の事務をいい、「事業」とは宗教団体の行う公益事業その他の事業を総称するとされ(宗教法人法6条2項)、両者を使い分けている。宗教法人となるためには、宗教団体の永続性が求められ、また、宗教法人は、宗教活動以外の事業実施の有無を問わず、財産目録と収支計算書を作成し、これを事務所に備え付ける等の義務を負うこととされていること(同法25条)等を勘案すると、宗教法人の業務は、すべて広く経済収支の計算の上に立って行われるものに該当する。
 また、宗教法人の業務についても、他の宗教法人との競争は観念し得るのであり、したがって需要者において、誤認混同の事実が認められる場合には、その競争行為が市場から排除されるべきであり、営利性に拘泥することなく、営業についても、事業についても法の目的にしたがってこれを理解すべきことは、他の非営利団体と異なることはない。
(4) [被告の主張](2)に対する反論
 被告は、変更後の規則第1条「名称」において、「この教会は、宗教法人法による宗教法人であって『天理教豊文教会』という。」と定めているのであり(乙3の2)、原告は、被告のかかる名称使用が、宗教上の人格権侵害ないし不正競争防止法違反と主張しているのであるから、本件では「天理教豊文教会」という被告法人の名称を問題とすれば足り、「天理教と称する場合は二義がある」等という反論は成り立たない。
(5) [被告の主張](3)に対する反論
 宗教法人法65条が商業登記法27条を準用していない理由は、宗教法人法が宗教法人の設立・規則変更に所轄庁の認証を要求し、宗教法人の名称について、不正競争防止法や商法に違反したり、他人の人格権を侵害したり、あるいは商業登記法27条に該当する違法なものの出現を未然に防止する仕組みが整えられていること等を背景とするものである。当該法人の名称が各種法令に違反しないことにつき、行政官庁の一定の関与が予定されている法人の場合、むしろ商業登記法27条の準用はされないのが一般的である。したがって、設立及び規則変更に所轄庁の認証が必要な宗教法人について、宗教法人法65条が商業登記法27条を準用していないのは、他の法人法制と比較すればむしろ普通のことであるから、被告の主張はその前提において誤りである。 (6) したがって、本件について不正競争防止法が適用される。
[被告の主張]
(1) 不正競争防止法の立法の趣旨、目的は、同法1条にあるように経済活動における事業者の公正な競争の確保による国民経済の健全な発展に寄与することにある。この「事業者」とは、商業、製造業、電気ガス業、サービス業、農林水産業などの事業を営む者である。この場合の事業は、営利事業に限らず、広く経済収支上の計算の上に立って行われるものであればよいと解されるが、上記の法の目的から「事業者」に該当しない者のあることは明らかであり、宗教と宗教の間の競争は、不正競争の防止という主として商業活動の間の公正な競争の確保を目的とする本法の適用の範囲外である。
 不正競争防止法2条1項1号及び2号で定める「人の業務」には「宗教団体の本来の業務」(宗教法人法1条1項の業務)は含まれない。そして、宗教団体の名称は、宗教団体の本来の業務の最も根幹をなすものであるから、同法は適用されない。
(2) 天理教と称する場合は、@ 宗教名としての天理教、A 宗教法人としての天理教の二義があるが、被告の名称である「天理教豊文教会」の「天理教」は前者の意である。何故なら、後者の意と解したならば、互いに独立した宗教法人たる「天理教」と独立単立法人である「豊文教会」との2宗教法人が、被告の名称の規定の中に併存する結果となり、どちらが真の名称であるか不明となり、名称の規定としては全く意味をなさないからである。そうすると、原告が宗教の名称としての「天理教」という文字の使用を禁止することは、被告に対し天理教という宗教の信仰を禁止することを意味する。
 宗教上の性質を有する事項については、国家といえどもこれに関与することはできないという意味において、不正競争防止法の適用は認められない。被包括関係廃止の事案は、宗教上の性質を有する事項についての判断を要するから、被告の名称について不正競争防止法は適用されない。
(3) 株式会社や有限会社の商号については、同一の市町村内では同一ないし類似商号の使用禁止という制度があるが(商法19条、商業登記法27条)、宗教法人は商人ではないので、商号についての同法の適用はなく、したがって宗教法人には同様の制度は存在しない。宗教法人法65条、非訟事件手続法124条に商業登記法の準用規定があるが、そこでも商業登記法27条は準用されていない。反面、商人以外の法人に商業登記法27条を準用する場合は個別に規定を置いている。例えば、中小企業等組合法による組合には同法103条で、信用金庫法による信用金庫には同法85条で、保険業法による相互会社には同法施行令1条で個別規定を置いている。しかし、宗教法人法にはこうした個別規定はない。それは、元来歴史的に宗教団体には名称を同一にしたり類似にしたりしてきた歴史があり、こうした歴史的背景から、信教の自由と宗教団体組織の自由との観点から、名称については、同一ないし類似していても、自由な競争に委ねることが同一ないし類似による規制を加えるよりも信教の自由の原則にそうものとの判断が広く認められているからである。
3 争点(2)イ(不正競争防止法2条1項2号該当性)について
[原告の主張]
 被告の使用する「天理教豊文教会」という名称は、従前の「天理教豊文分教会」から「分」の一文字を削除するのみのものであり、名称の冒頭に「天理教」、末尾に「教会」との文言を置き、上記天理教の一般教会と同じ特徴を備えたものとなっており、原告の名称である「天理教」と類似する。
[被告の主張]
 争う。被告の名称である「天理教豊文教会」の「天理教」は、宗教の名称として用いたものであり、天理教という宗教の系統に属する豊文教会であるという意である。原告が「天理教」という場合の「天理教」は、宗教法人としての天理教である。天理教の一般教会と称しているのは、包括宗教法人である天理教に包括されている教会の意であって、識別不能の名称とはいえない。宗教法人の違いは、名称及びその教え・教義とその具体化である宗教的実践を含んで判断されるのであるから、単に名称が同一だからといって、同一と判断されるものではない。「天理教豊文教会」と「天理教」の一般教会とは、明確に識別可能である名称である。
4 争点(2)ウ(不正競争防止法2条1項1号該当性)について
[原告の主張]
(1) 周知性
 原告は、奈良県天理市に本部を置き、その擁する教会数は平成15年2月現在で1万6832箇所、海外の教会も含めると1万7000箇所を超える我が国有数の信仰集団である。「天理教」という表示は、遅くとも明治41年から現在に至るまで継続して使用され、同宗教の信者においてのみならず、老若男女を問わず国内外で広範囲の者の間で認識されている。周知性の要件は、差止請求では遅くとも事実審の口頭弁論終結時において求められるが、被告の表示である「天理教豊文教会」の使用が開始された、被包括関係廃止の時点において周知であったことは明らかである。
(2) 誤認混同のおそれの有無
 被告の使用する表示が「天理教豊文教会」であり、原告の使用する表示が「天理教」である場合、被告表示に接する者は、被告は原告と組織的、財政的その他何らかの関係があると誤認混同するおそれがあるものと認められる。「天理教豊文教会」の表示からは、「天理教」に包括される教会であると誤認混同するおそれが極めて高いと考えられるし、また、その表示が使用されると当該表示の使用を許諾されているとの誤認混同も生じる。さらに、原告においては、日本各地に一般教会として、大教会と分教会が置かれているが、現在長野県諏訪地区に置かれている他の分教会との誤認混同も生じる。したがって、被告により「天理教豊文教会」の表示が使用される場合、誤認混同のおそれがあるものと認められる。
[被告の主張]
 争う。
5 争点(2)エ(被告の名称使用の正当性)について
[被告の主張]
(1) 被告は、宗教法人として、これまで「天理教」の名称を使用して活動してきたものであるが、被包括関係を廃止したとしても、天理教の名称を引き続き使用して活動することが、宗教活動の継続と法人の宗教団体としての一貫性の確保等のために不可欠のものである。すなわち、名称の使用は、基本的には被告の信教の自由の範囲内の行為である。現実に、被包括関係廃止後も名称ないし名称の一部が同一であるという宗教法人は多く存在する。
(2) 被告は、被包括関係の廃止に係る規則変更認証申請を行い、長野県知事は、平成15年4月16日付け15文第21号により、被告の規則変更を認証した。変更後の規則第1条は、被包括関係廃止後の被告の名称について「この教会は、宗教法人法による宗教法人であって『天理教豊文教会』という。」との定めを置いている。原告は、上記長野県知事の認証につき審査請求をしたが、文部科学大臣は、同年10月1日の宗教法人審議会の答申を受けて、同月8日、審査請求を棄却する旨の決定をした。上記棄却決定において、「同一の宗教を奉ずる宗教法人の間で被包括関係の廃止があった場合に、一方の宗教法人がその宗教を表示し又は標榜する名称を含む法人名に改めたとしても、そのことをもって直ちに他の宗教法人の人格権若しくはその営業上の利益を侵害し又は侵害するおそれがあると解することはできない。」と判断されている。
(3) 包括被包括関係は、包括法人と被包括法人の間の契約関係であるところ、宗教法人法26条は、この間の契約の解除権を認めたものであり、この解除権の内容として当然に被包括法人には自己の名称を継続して使用する権利が認められていると解される。
 包括被包括関係において、包括法人が被包括法人の名称に「天理教」の名称を冠することを認めていたものであり、被包括関係を廃止することは包括被包括関係の中に既に予測されている事態であるから、「天理教」の名称を継続して使用することを容認していたものと解される。
[原告の主張]
 宗教法人法の規定する「包括する」という文言については、宗教法人法2条1号の宗教団体と共通の教義の下で、かつ、これと一体的な宗教活動を行う教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体がある場合に、後者は前者を包括する、前者の団体は後者に包括される、といい、また、前者の団体は後者の団体と被包括関係にあると解されている。こうした被包括関係に係る一般的な理解からすれば、被包括関係の廃止とは、それ自体は、包括法人と被包括法人が共通の教義の下で、かつ、これと一体的な宗教活動を行うという関係を解消する意味しか持たない。被包括関係の廃止に係る宗教法人法の規定は、被包括関係廃止後の被包括法人の名称継続使用について、何らかの権利を付与するものではない。したがって、名称規制とは直接関係のない、宗教法人法26条や被包括関係の廃止自体から、名称継続使用に係る一定の権利の発生を導くことはできないというべきである。
6 争点(3)(宗教上の人格権に基づく請求の可否)について
[原告の主張]
(1) 宗教団体の名称権と信教の自由との関係
 憲法20条1項の保障する信教の自由に宗教的結社の自由が含まれるところ、ある宗教団体が多年にわたって特定の名称を使用し、その名称が直ちに当該宗教団体を指すものとして社会一般に広く認識されている場合に、新しい宗教団体がその名称と同一又は類似の名称を使用し宗教活動を行うことは、宗教活動の相手方となった一般人に自己がいかなる宗教団体から宗教活動を受けているのかについて誤認混同を生じさせ、従前からの宗教団体の宗教活動の妨害となることが明らかであるのみならず、信仰の本質上、従前からの宗教団体の信者にも耐え難い精神的苦痛を与える。宗教団体の名称権はこうした特質を持つものであって、憲法20条1項の趣旨からしても、強い法的保護に値する権利である。
 もっとも、宗教団体の名称については、@ 歴史的にみて同一又は類似の名称を採択使用している宗教団体の存する例も少なからずあるのが実態であり、また、A 名称自体がその宗教の教義上の主張、立場と密接な関連性を有し、これを象徴的に表象する役割を担っていることも少なくないから、従前からの宗教団体の名称使用を保護するために新しい宗教団体に対しその名称決定の自由を制限することが、宗教団体の宗教活動に対する不当な制限とならないように留意する必要がある。
 このため、新たな宗教団体の名称使用行為の違法性については、新たな宗教団体の当該名称使用行為の態様、名称を使用した目的、従前からの宗教団体が被る損害、差止めを認めることにより新たな宗教団体が被る不利益等を全体的に考察して判断すべきである。
(2) 名称使用行為の態様について
ア 名称使用行為の態様
(ア) 「天理教」という名称については、天理教の一般教会等原告と共通の教義の下でこれと一体的な宗教活動を行う団体か、原告やその関係者が名称使用を許諾する団体以外の者が使用している例は、過去に天理教から分派した宗教団体や近時原告から離脱した宗教団体を含めても存在しない(甲5)。したがって、「天理教」の名称は、原告及びその包括下にある多数の教会の呼称として定着した名称であることは明らかであり、この名称は法律上の保護に値する。
(イ) 原告においては、天理教教会本部を除く全ての教会(一般教会)の名称は、国内にあるものについては「天理教○○大教会」又は「天理教○○分教会」と呼称する例とされており(一般教会規程第1条)、国内のすべての天理教の一般教会(1万7000箇所以上)の名称は、いずれも冒頭に「天理教」、末尾に「教会」との文言を置く特徴を有している。そして、被告の使用する「天理教豊文教会」という名称は、従前の「天理教豊文分教会」から「分」の一文字を削除するのみのものであり、名称の冒頭に「天理教」、末尾に「教会」との文言を置き、上記天理教の一般教会と同じ特徴を備えたものとなっている。以上の事情を併せ考慮すると、一般人はもとより、天理教関係者であっても「天理教豊文教会」と天理教の一般教会とを識別することは不可能である。
イ 名称使用行為の相当性
 「天理教」の名称は著名性を有し、原告と共通の教義の下でこれと一体的な宗教活動を行う団体か、原告やその関係者が名称使用を許諾する団体以外の者が「天理教」の名称を使用した例はないところ、本件規則変更において、被告は上記「天理教」の教義を否定するとともに信仰対象自体を変更したものである。天理教豊文分教会を含む原告の分教会は、@ 天理教の真柱より祀ることを許された「天理王命目標」を祀り、A 「天理教教会本部が編述し、真柱が裁定した天理教教典」に依拠して天理教の教義を広めるから、「天理教」の名称使用が許されたものである。したがって、天理教の分教会が当該法人の目的を変更し、当該法人の目的から「天理王命目標」を祀ることや「天理教教典」に依拠して天理教の教義を広めることを削除した場合、当該法人は自己の名称中に「天理教」の文言を用いる根拠を失うこととなる。しかるに、被告は、上記規則変更において、法人の目的を「教祖と仰ぐ中山みきの、一れつ陽気づくめ世界を実現するとの立教の本義に基づき、教祖の教えられたみかぐらうた及びおふでさきの教えをひろめ、儀式行事を行い、信者を教化育成し、並にこの教会の目的を達成するための業務を行う」(第3条)と改め、上記「天理王命目標」、「天理教教典」に係る記載を全く削除している。したがって、法人目的の変更を行い、信仰の対象自体を変更した被包括関係廃止後の被告は、自己の名称中に「天理教」の文言を使用する相当性を失ったものである。 
ウ 被告が「天理教」の名称を使用する目的
 信仰対象自体を変更し、「陽気づくめ○○教会」と同一の目的を掲げるに至った被告には、自らの名称の一部に「天理教」の文言を用いて社会的に天理教の一般教会との識別不能の名称を選択する合理的な理由はない。被告の上記名称選択の目的が、あえて天理教の一般教会と識別不能の名称を選択し、原告の長年にわたる社会的活動の成果を利用する点にあることは明らかである。  
エ 原告の被る損害
 一般に、宗教の信者にとっては、宗教法人の包括被包括関係や規則に定められている教義よりも、自らの信仰する宗教団体の名称の方が重要な関心事である場合が少なくない。天理教の一教会である「天理教豊文分教会」の信者の多くにとっても、教会の名称自体が例えば「陽気づくめ○○教会」と変更されるならばともかく、従来の教会の名称から「分」を削除しただけの「天理教豊文教会」が、「天理教」とは異なる信仰対象、教義を異にするに至ったという事態は容易に理解し得るものではない。当該信者に「天理教豊文教会」への参拝等が「天理教」の一教会での宗教活動であるとの誤認混同が生じる蓋然性が極めて高く、「天理教豊文分教会」の信者以外の一般の天理教関係者や第三者にとって、上記誤認混同が生じることは当然である。被告の「天理教」を称する宗教活動が放置される結果、「天理王命目標」を祀り、「原典及びこれに基づいて天理教教会本部が編述し、真柱が裁定した天理教教典」に依拠して天理教の教義を広める原告及びその被包括法人の活動が妨害されるおそれが高い。このような天理教の活動が妨害されることは、これを知るに至った天理教の信者にも耐え難い精神的苦痛を与える。
オ 差止めにより被告が被る不利益
 被告が、原告との被包括関係廃止後、その名称を「天理教」という文言を用いないものに改めることに特段の不利益がないことは明らかである。原告から離脱した宗教法人で、当該法人規則に離脱後の被告と同一の目的を掲げるものは、例外なく法人の名称に「天理教」の文言を用いず、「陽気づくめ○○教会」との名称を付しており、かかる目的変更を行った被告に「天理教」の名称を使用することを認めないとしても、特段の不利益が生じるとは考えられない。
 以上により、被告が本件被包括関係廃止後も「天理教豊文教会」という、その名称の一部に原告の名称を用いることは原告の人格権に対する重大な侵害となる。
[被告の主張]
 前記5[被告の主張]と同じ。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(法律上の争訟性)について
(1) 裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」とは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものを指すものである(最高裁昭和39年(行ツ)第61号同41年2月8日第三小法廷判決・民集20巻2号196頁)。
 本件請求は、原告が被告の「天理教豊文教会」なる名称の使用差止め等を求めるものであり、その訴訟物は、原告の被告に対する不正競争防止法又は宗教上の人格権に基づく差止請求権の存否であり、具体的権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争の形式をとっていることは明らかである。そして、その存否については、法令の適用により終局的に解決することができるものである。
(2) 被告は、本件訴えは、宗教的な性質を有する事項について裁判所の判断を求めるもので、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないと主張する。
 宗教法人は宗教活動を目的とする団体であり、宗教活動は憲法上国の干渉からの自由を保障されているものであるから、かかる団体の内部関係に関する事項については原則として当該団体の自治権を尊重すべく、本来その自治によって決定すべき事項、ことに宗教上の教義にわたる事項のごときものについては、国の機関である裁判所がこれに立ち入って実体的な審理、判断を施すべきものではないが、このような宗教活動上の自由ないし自治に対する介入にわたらない限り、審理判断することができるというべきである(最高裁昭和52年(オ)第177号同55年4月10日第一小法廷判決・裁判集民事129号439頁参照)。被告の変更後の規則(乙3の2)によれば、名称について「この教会は、宗教法人法による宗教法人であって『天理教豊文教会』という。」と定めているところ(第1条)、本件においては、この「天理教豊文教会」という名称の使用が原告の「天理教」の名称と同一又は類似であって、不正競争行為又は原告の宗教上の人格権を侵害する行為に当たるか否かが問題となっているのであり、天理教という宗教の教義の解釈が問題となるわけではない。また、原告と被告間の被包括関係が廃止されていることに争いのない本件においては、その前提問題として宗教上の教義の解釈にわたる事項について判断する必要性はない。
(3) したがって、被告の上記主張は理由がなく、本件訴えは「法律上の争訟」に当たるというべきである。
2 争点(2)ア(不正競争防止法の適用の可否)について
(1) 不正競争防止法にいう「事業者」及び「営業」について
ア 不正競争防止法は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止等に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするものである(同法1条)。したがって、同法1条にいう「事業」及び同法3条にいう「営業」とは、広く経済上その収支計算の上に立って行われる事業一般をいい、その種類、対象の如何を問わないものと解すべきである。すなわち、ここでいう「事業」ないし「営業」は、利潤を得る目的の営利事業が中心となるものの、利潤獲得を図らないまでも収支相償を目的とした事業を反復継続して行っている事業であれば、不正競争行為からの保護の必要性が認められるのであるから、広く経済上その収支計算の上に立って行われるべき事業を含むと解するのが相当である。
イ 宗教法人法は、「宗教団体が、礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維持運用し、その他その目的達成のための業務及び事業を運営することに資するため、宗教団体に法律上の能力を与えること」を目的として制定され(同法1条1項)、同法により法人となった宗教団体を宗教法人と称している(同法4条2項)。同法においては、「業務」と「事業」を使い分けており、「業務」とは、宗教上の本来的活動、すなわち教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成する等の活動及びそれに伴う直接間接の事務をいい、「事業」とは宗教団体の行う公益事業その他の事業を総称するとされている(同法6条2項)。また、宗教法人は、宗教活動以外の事業実施の有無を問わず、財産目録と収支計算書を作成し、これを事務所に備え付ける等の義務を負うこととされている(同法25条)。
 そうすると、宗教法人の業務及び事業は、いずれも広く経済上その収支計算の上に立って行われるものということができる。
ウ よって、宗教法人の業務ないし事業についても、不正競争防止法を適用することができ、宗教法人であることの一事をもって同法が適用されないということはできない。
(2) 被告の主張について
ア これに対し、被告は、宗教と宗教の間の競争は、不正競争の防止という主として商業活動の間の公正な競争の確保を目的とする不正競争防止法の適用の範囲外であり、宗教団体の名称は、宗教団体の本来の業務の最も根幹をなすものであるから、同法は適用されないと主張する。
 しかし、不正競争防止法の適用が商業活動の間の競争に限られるわけではないことは前記のとおりであり、仮に同法が宗教間の競争に適用されないとすると、宗教法人が同一又は類似の名称を使用することによって他の宗教法人の営業上の利益を侵害するような場合であっても、それを阻止する手段が法律上ないことになり、公正な競争を確保する同法の目的を遂げることができず、不当な結果となりかねない。また、被告は、現在は公益事業その他の事業を行っていないとしても、規則の変更により容易に事業を行うことが可能であり、その場合に原被告間に事業上の競争が生じることとなる。
 他方、この場合に不正競争防止法を適用しても、被告は原告の名称に類似しない名称に変更しさえすれば、宗教活動を行うことができるものであり、実際に、原告から離脱した宗教法人で、その規則に被告と同一の目的を掲げるものについて「陽気づくめ○○教会」の名称を使用しているものがあることが認められる(弁論の全趣旨)。したがって、不正競争防止法の適用が宗教団体の本来の業務の根幹をゆるがすものとはいえない。
イ また、被告は、本件のような被包括関係廃止の事案の場合は、宗教的な性質を有する事項についての判断を要するから、不正競争防止法は適用されないと主張する。
 しかし、原被告間の被包括関係の廃止という事実に争いがない以上、本件が宗教的な性質を有する事項を含むとはいえない。よって、被包括関係廃止の事案には不正競争防止法は適用されないとの被告の主張は、採用することができない。
ウ さらに、被告は、宗教法人法は、歴史的背景から、名称については、同一ないし類似の場合に規制を加えるよりも、自由な競争に委ねることが信教の自由の原則にそうから、類似商号の禁止を定める商法のような規定がなく、不正競争防止法が適用されない旨主張する。
 しかしながら、宗教法人法に類似商号の禁止を定める商法のような規定がないことをもって、直ちに不正競争防止法が適用されないことにはならない。
3 争点(2)イ(不正競争防止法2条1項2号該当性)について
(1) 著名な商品等表示該当性について
ア 不正競争防止法2条1項2号は、著名な商品等表示を保護する規定であり、ここにいう商品等表示とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいうところ(同項1号)、同号にいう「営業」も、広く経済上その収支計算の上に立って行われるべき事業を含むと解するのが相当である。
イ 宗教法人「天理教」規則(甲1)によれば、次の規定が置かれていることが認められる。
(ア) 第48条(財産目録の作成)
 財務を担当する部長は、毎会計年度終了後3月以内に、前年度末現在によって財産目録を作成し、代表役員は、教庁会計監査会の監査を受けなければならない。
(イ) 第49条(予算の編成)
 予算は、毎会計年度開始2月前までに編成し、集会の議決を経なければならない。
(ウ) 第56条(決算書の作成)
 財務を担当する部長は、毎会計年度終了後3月以内に決算書を作成し、代表役員は、教庁会計監査会の監査を受けなければならない。
(エ) 第58条(会計年度)
 この法人の会計年度は、毎年4月1日に始まり、翌年3月31日に終るものとする。
(オ) 第63条(公益事業の助成)
 この法人は、一般教会又は教内の団体で教育、厚生、扶育その他の公益事業を経営するものに対し、援助することができる。
(カ) 第64条(公益事業以外の事業)
1 この法人は、おやさと整備等のため不動産の貸付を行う。
2 前項の事業から生じた収益は、この法人又はこの法人が援助する宗教法人若しくは公益事業のために使用しなければならない。
ウ このように、原告においても、宗教活動以外の事業実施の有無を問わず(上記イ(オ)、(カ))、予算を編成し、当該年度の支出はこの予算に従って行い(同(イ))、支出の結果については、毎会計年度ごとに決算をし(同(ウ)、(エ))、また財産目録を作成することとされているから(同(ア))、原告の業務及び事業も広く経済上収支計算の上に立って行われるものということができる。
 したがって、原告の業務及び事業も、不正競争防止法2条1項2号、1号にいう「営業」に当たると解するのが相当である。
エ 「天理教」なる名称が原告の表示として著名であることは、前記第2の1(1)のとおりであるから、「天理教」は、原告の著名な営業を表示するものに該当する。
(2) 表示の類似性について
ア 被告の使用する「天理教豊文教会」という名称は、被告が原告の被包括法人であった当時の「天理教豊文分教会」から「分」の一文字を削除するのみのものである。被告の名称は、名称の冒頭に「天理教」、末尾に「教会」との語を置いたものである。このうち「教会」は普通名詞であり識別力がなく、その余のうち「天理教」の部分が著名であり、識別力が高く、この部分において共通するのであるから、被告の名称は、原告の名称である「天理教」と類似する。
イ 被告は、被告の名称である天理教豊文教会の「天理教」は、宗教の名称として用いたものであり、天理教という宗教の系統に属する豊文教会であるという意であり、天理教豊文教会と天理教の一般教会とは明確に識別可能であると主張する。
 しかし、上記認定のとおり、宗教活動を含む宗教団体の事業にも不正競争防止法が適用されるのであるから、「天理教」が宗教上の名称として用いられたとしても、それが上記名称の類否に影響を及ぼすものではない。そして、「天理教」の部分が著名であり、識別力が高いことは上記のとおりであるから、その部分を除外して表示の類否判断をすることはできない。また、証拠(甲1、3)によれば、原告の一般教会のうち、分教会の名称は「天理教○○分教会」とされるところ(宗教法人「天理教」規則第34条、一般教会規程第1条)、「天理教豊文教会」の名称は、従前の名称から「分」の文字を削除したのみで、上記原告の分教会の名称と識別困難な名称であり、両者は類似するものというべきである。
(3) したがって、被告が「天理教豊文教会」の名称を使用する行為は、不正競争防止法2条1項2号に当たる。
(4) 営業上の利益の侵害について
 原告の業務及び事業が不正競争防止法3条にいう「営業」に当たることは、前記(1)と同様であるところ、以上によれば、被告が著名な原告の表示である「天理教」と類似する「天理教豊文教会」その他「天理教」を含む名称を使用することにより、原告は、営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあるといわざるを得ない。
 したがって、原告は被告に対し、不正競争防止法3条1項により「天理教豊文教会」その他「天理教」を含む名称の使用の差止めを請求することができ、同条2項により、侵害の停止又は予防に必要な行為として「天理教豊文教会」の名称登記の抹消登記手続を請求することができるというべきである。
4 争点(2)ウ(不正競争防止法2条1項1号該当性)について
(1) 「天理教」なる名称が原告の表示として著名である以上、周知性も認められる。
(2) 混同のおそれ
 被告の使用する名称が「天理教豊文教会」であり、原告の使用する名称が「天理教」であり、「天理教」が周知著名であることに照らせば、被告の名称に接する者は、被告は原告と組織的、財政的その他何らかの関係があると誤認混同するおそれがあるものと認められる。
 原告は、日本各地に一般教会として、大教会と分教会を置き、一般教会規程第1条(甲3)によれば、原告の一般教会の呼称は、大教会を「天理教○○大教会」とし、分教会を「天理教○○分教会」とする旨定められ、現在長野県諏訪地区にも原告の分教会が置かれていることが認められ、しかも、被告が、被包括関係を廃止する前に使用していた「天理教豊文分教会」という名称から「分」を削除したのみの「天理教豊文教会」という名称を、被包括関係を廃止する前と同じ場所で使用していることからすれば、被告の名称からは、原告に包括される一般教会であると誤認混同するおそれがある。
(3) したがって、被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号にも当たる。そして、原告が被告の上記行為により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあり、不正競争防止法3条1項及び2項による差止め等を請求できることは、前記3(4)と同様である。
5 争点(2)エ(被告の名称使用の正当性)について
(1) 被告は、「天理教豊文教会」という名称の使用は、被告の信教の自由の範囲内の行為である旨主張する。
 しかしながら、信教の自由は、不正競争行為を正当化する事由とはならない。すなわち、著名ないし周知な「天理教」という表示を使用する宗教団体である原告の営業上の利益を侵害し、又は侵害するおそれがある名称を使用することまでも、被告の信教の自由ないし宗教活動の自由に含まれるとして保障されるものではない。そして、ここでの問題は、いかなる名称によって宗教活動を行うかという名称選択の問題に尽きるところ、被告が原告と被包括関係を廃止した以上、原告と同一の宗教を信仰するものとはいえない。被告は、「天理教豊文教会」という名称が使用できなくても、宗教活動自体ができなくなるわけではなく、「天理教」と類似しない名称を使用して宗教活動を行うことは、保障されているのである。
(2) 被告は、被告が「天理教豊文教会」という名称であるとする規則変更が認証され、これについてされた審査請求が棄却されたことをもって、被告の名称の使用が許されている旨主張する。
ア 証拠(乙1の1、2、3の1及び2)によれば、以下の事実が認められる。
(ア) 被告は、原告との被包括関係の廃止に伴い、規則第1条を、「この教会は、宗教法人法による宗教法人であって『天理教豊文分教会』という。」から「この教会は、宗教法人法による宗教法人であって『天理教豊文教会』という。」に変更することを含む規則変更の認証を申請し(乙3の2)、長野県知事は、これを認証した。
 原告からの審査請求(乙2)に際し、長野県知事が文部科学大臣宛提出した弁明書(乙3の1)には、規則認証の拒否は、申請書類等に明確な法令違反がある場合に限られるところ、被告の規則変更認証申請には、申請書類等に明確な法令違反が認められず、規則認証を拒否する理由がないとした上、「名称使用に伴う『人格権の侵害』及び『不正競争防止法の違反』については、上記の差止請求などの方法により、名称を使用した者と名称使用により人格権及び営業上の利益を侵害されたとする者の当事者間で解決されるべき問題であり、規則変更認証に関わる問題ではない。」として、規則変更認証処分が適法であった旨記載されている。
(イ) 文部科学大臣の裁決書(乙1の1)には、「同一の宗教を奉ずる宗教法人の間で被包括関係の廃止があった場合に、一方の宗教法人がその宗教を表示し又は標榜する名称を含む法人名に改めたとしても、そのことをもって直ちに他の宗教法人の人格権若しくはその営業上の利益を侵害し又は侵害するおそれがあると解することはできない。」との記載がある。
イ 長野県知事の認証は、宗教法人法28条に基づき、被告の規則変更認証申請が同条1項1号に規定する「その変更しようとする事項がこの法律その他の法令の規定に適合していること」の要件及び同項2号に規定する「その手続が26条の規定に従ってなされていること」の要件を満たしているかどうかについて、申請人である被告提出の関係書類に基づいて審査したものである。また、文部科学大臣の裁決は、上記処分の違法性について判断したものであり、上記裁決書の記載が直ちに被告が「天理教豊文教会」の名称を使用することを正当化する根拠にはなり得ない。上記認証及び上記裁決は、人格権侵害又は不正競争行為に該当するか否かについては、別途、原告と被告間の訴訟等において裁判所の判断に委ねる趣旨のものと解することができる。仮に、上記認証及び上記裁決が「天理教豊文教会」という名称を使用することにつき人格権侵害又は不正競争行為に該当しないという趣旨でされたものであるとしても、原告は、これらに拘束されることなく、被告が「天理教豊文教会」の名称で宗教活動を行うことが不正競争防止法2条1項2号、1号に該当すること又は宗教上の人格権侵害を理由として、名称使用差止めを請求することができ、裁判所もこれについて実体判断を行うことができるものというべきである。
(3) 被告は、包括被包括関係についての解除権の内容として当然に被包括法人には自己の名称を継続して使用する権利が認められ、原告がこれを容認していたものである旨主張する。
 しかしながら、被包括関係の廃止とは、包括法人と被包括法人とが共通の教義の下で、かつこれを一体的な宗教活動を行うという関係を解消するという意味にとどまり、これをもって被包括関係廃止後の被包括法人の名称の使用について何らの権利を与えたり、不正競争防止法の規定を排除するといった意味を有するものとは解されない。被告が原告と被包括関係を廃止し、被告の名称の使用が不正競争行為に当たる以上、名称を使用する権利が認められることにはならない。
6 結論
 以上によれば、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がある。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 高部眞規子
 裁判官 上田洋幸
 裁判官 宮崎拓也
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