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【事件名】ネット記事の見出し複製事件
【年月日】平成16年3月24日
 東京地裁 平成14年(ワ)第28035号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 平成16年1月28日)

判決
原告 株式会社読売新聞東京本社
訴訟代理人弁護士 竹田稔
同 室町正実
同 永野剛志
同 川田篤
同 千葉克彦
同 清水豊
被告 有限会社デジタルアライアンス
訴訟代理人弁護士 柴田眞里


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、被告の運営する別紙1被告ホームページ目録記載のホームページ上において、別紙2原告ホームページ目録記載のホームページ上に掲出される記事見出し及びこれと類似する記事見出しを複製し、使用してはならない。
2 被告は、前項記載の記事見出しを掲出した別紙3タグ目録記載のタグを頒布してはならない。
3 被告は、原告に対し、金6825万円及びこれに対する平成15年1月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、@(主位的主張)被告は原告の著作物である記事見出しを無断で複製するなどして、原告の著作権を侵害している、A(予備的主張)原告の記事見出しに著作物性が認められないとしても、その無断複製などの行為は不法行為を構成する、と主張して、被告に対し、記事見出しの複製等の差止等及び損害賠償を求めた事案である。
1 争いのない事実等
(1) 当事者
 原告は、日刊新聞の発行等を業とする株式会社であり、その運営する別紙2原告ホームページ目録記載のホームページ「Yomiuri On-Line」(以下「ヨミウリ・オンライン」という。)において、原告のニュース記事本文(以下「YOL記事」という。)及びその記事見出し(以下「YOL見出し」という。)を掲出している。
 被告は、デジタルコンテンツの企画・制作等を業とする有限会社であり、インターネット上で「ライントピックス」と称するサービス(以下「被告ライントピックスサービス」という。)を提供している。
(2) 被告の運営するウェブサイトの概要
 被告は、URLを「http://linetopics.d-a.co.jp/」とするウェブサイト(以下「被告サイト」という。)を開設している。
 被告は、被告サイトにおいて、ヤフー株式会社(以下「ヤフー」という。)の開設するウェブサイト「Yahoo!Japan」(以下「ヤフーサイト」という。)上のニュース記事のウェブページ(以下「Yahoo!ニュース」という。)へのリンクを張り、そのリンクボタンの多くを上記ニュース記事の「見出し」語句と同一の語句を使用している(上記リンクボタンとされた見出しを以下「被告リンク見出し」という。)。
 被告は、被告サイト上の被告リンク見出し及びリンク先のURLを、ヤフーサイト上のニュース記事を参考にして、定期的に更新している。
(3) 被告ライントピックスサービスの手順
 被告ライントピックスサービスは、色やデザインのカスタマイズ機能等の有無などにより、複数のタイプがあるが、最新ニュースのページにリンクした被告リンク見出しをホームページ上に表示する機能を有する点で共通する(乙21、22、24)。その概要は、以下のとおりである。
ア ユーザ登録
 被告ライントピックスサービスの利用を希望する者は、被告サイトにユーザー登録をする(上記登録をした者を以下「ライントピックスサービス登録ユーザ」という。)。
イ ライントピックス設置用HTMLタグに係るデータの送信
 被告は、他のウェブサイト上に被告リンク見出し部分を表示させる制御情報を表すHTMLのタグ(被告の管理するサーバー内の被告リンク見出しに係るSWFファイルの再生を制御するタグ)を作成し、同タグに係るデータを、被告サーバーから、ライントピックスサービス登録ユーザに対し、インターネットを通じて、送信している。以下のとおり、ライントピックスサービス登録ユーザは、上記データをダウンロードし、被告サービスにおいて指定された手順を踏むことにより、そのウェブサイト上に、被告リンク見出しを表示させることができる。
ウ リンク見出しの表示
 ライントピックス設置用のHTMLタグは、ライントピックスサービス登録ユーザのホームページに設置されたライントピックスに、被告の管理するサーバー内のSWFファイルをFLASHムービーにより再生するよう制御するものである。そして、このSWFファイルには、被告リンク見出しのデータ及びそのリンク先のウェブページのURLデータが含まれており、ライントピックスサービス登録ユーザのホームページに設置されたライントピックスには、被告リンク見出しが表示される。また、ライントピックスに表示された被告リンク見出しはリンク先URLにリンクしており、被告リンク見出しをクリックすると、指定されたURLのウェブページが別ウィンドウで開くように設定されている。
エ リンク見出し等の更新
被告は、ヤフーが運営するヤフーサイト上に表示される「Yahoo!ニュース」の最新の記事見出し及びその記事のウェブページのURLを参考にして、ライントピックスサービス登録ユーザのライントピックスに表示されるSWFファイルのデータ、すなわち被告リンク見出し及びそのリンク先ウェブページのURLを定期的に更新している。これにより、ライントピックスサービス登録ユーザのライントピックスに、更新された被告リンク見出しが表示されることになる。また、被告リンク見出しのリンク先ウェブページ(URL)は、「Yahoo!ニュース」の記事のウェブページとなり、被告リンク見出しをクリックすると、リンク先の「Yahoo!ニュース」の記事のウェブページが別ウィンドウで開く。
(4) 被告のウェブサイトでの表示
 被告は、被告サイトにおいて、被告リンク見出しを表示している。この被告リンク見出しも、ライントピックスサービス登録ユーザのホームページにおいて、ライントピックスに表示されるものと同様、「Yahoo!ニュース」の記事のウェブページにリンクしており、被告リンク見出しをクリックすると、リンク先の「Yahoo!ニュース」の記事のウェブページが別ウィンドウで開く。
(5) 「Yahoo!ニュース」の記事見出しの内容
 原告とヤフーは、平成13年8月20日、原告がヤフーに対し、ヨミウリ・オンラインの主要なニュースを有償で使用許諾することなどを内容とする契約を締結した(甲13)。この契約に基づき、「Yahoo!ニュース」には、YOL見出しと同一の記事見出しが表示されており、同記事見出しをリンクボタンとして、ヨミウリ・オンラインのYOL記事のウェブページにリンクし、YOL記事と同一の記事が表示される。なお、「Yahoo!ニュース」には、原告のYOL見出し以外に、他の報道機関の記事見出しも表示されており、それらの記事見出しも、提供先の各報道機関のニュースサイトにおける記事本文のウェブページをリンク先としたリンクボタンとされている。
2 争点
(1) (主位的主張)
 被告サイト上に被告リンク見出しを掲出させる等の被告の行為は、原告がYOL見出しについて有する著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するか。
(2) (予備的主張)
 被告サイト上に被告リンク見出しを掲出させる等の被告の行為は、原告に対する不法行為を構成するか。
(3) 損害額はいくらか。
第3 争点に関する当事者の主張
1 著作権侵害の成否について
(原告の主張)
(1) YOL見出しの著作物性
ア YOL見出しは、以下のとおり、著作物性が認められる。すなわち、
(ア) YOL見出しは、@YOL記事の内容が理解できるように創意工夫され、見出しとして盛り込む事項の選択、展開の仕方、表現の方法等に創作性があること、A読者が一目して原告の作成意図を理解できるような表現がされ、原告の編集方針・見解が端的に表現されていること、B他社の記事見出しとは異なった表現方法が用いられ、ニュースとしても完結していること等の理由から、著作物性が認められる。
(イ) YOL記事は、通常の新聞記事と同様、原告の従業員である新聞記者等による取材や担当者による編集を経て創作される著作物である。そして、YOL見出しは、経験豊富な記者が、配属された原告の編集局において、記事の内容や記事の素材となった事案を十分に検討し、原告の編集方針に基づき読者に最も伝えたい部分を創作・表現したものであるから、YOL記事と一体的なものとして、著作物性が認められる。
イ YOL見出しは、他社の見出しとは異なる個性的な表現がされ、創作性があることについて、過去の具体的なYOL見出しを例に挙げて説明する。
(ア) 中学生が飛び降り自殺した事件に関する記事見出し(平成14年10月15日)
 ヨミウリ・オンライン
  [いじめ苦?都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺]
 毎日インタラクティブ
  [自殺:東京学芸大竹早中学の3年男子が いじめ原因か]
 毎日インタラクティブでは「学芸大竹早中」を主意としているが、ヨミウリ・オンラインにある「マンション」「飛び降り」がなく、ニュース自体の悲惨さを伝える点において、YOL見出しの創意性が認められる。
(イ) 喫煙に関する世界保健機関の調査結果に関する記事見出し(同年10月16日)
 ヨミウリ・オンライン
  [「喫煙死」1時間に560人]
 毎日インタラクティブ
  [たばこ輸入:日本、世界最大の年間835億本 男性喫煙率1位]
 WHOによる喫煙に関する調査の発表を受けた記事であり、ヨミウリ・オンラインは一目で喫煙の危険性を訴えている一方、毎日インタラクティブは統計数字の記述にとどまる。
(ウ) マナー本の海賊版を書いた医大教授が処分を受けたという事件に関する記事見出し(同年10月16日)
 ヨミウリ・オンライン
  [マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売]
 時事ドットコム
  [複製本販売、教授を戒告処分=高知医大]
 時事ドットコムでは、医学関係の書物の複製という誤解を与えることもあり、特に医学専門書の海賊版はしばしば問題になっているため、この表現ではニュースの特異性を伝えるという点において十分ではない。これに対し、YOL見出しはマナー本を書いた教授の自己矛盾という特異性を顕著に伝える点で、創作性がある。
(エ) ホームレスの男性が銃撃された事件に関する記事見出し(同年10月21日)
 ヨミウリ・オンライン
  [ホームレスがアベックと口論?銃撃で重傷]
 朝日コム
  [路上生活者の男性、2人組男女に撃たれ重傷 東京・品川]
 毎日インタラクティブ
  [殺人未遂:ホームレスの男性撃たれ重傷 東京・大崎]
 産経ウェブ
  [大崎ニューシティで男性撃たれ重傷]
 他の報道媒体は「口論」という事件のきっかけについての記述がなく、また、誰が撃ったのかもわからない見出しや、被害者がホームレスであることもわからない見出しもある。YOL見出しは、品川とか大崎という地名は、「口論」・「男女」より重要度は低いと判断したもので、さらには口論という些細なきっかけにより、銃撃という極めて重大な犯罪が行われたことを的確に表現しているので、創作性がある。
(オ) 公務員の男性を拉致して現金を奪った男女3人が逮捕された事件に関する記事見出し(同年10月22日)
 ヨミウリ・オンライン
  [男女3人でトンネルに「弱そうな」男性拉致]
 朝日コム
  [男性を監禁、カードで現金引き出す 容疑の男女3人逮捕]
 毎日インタラクティブ
  [監禁強盗:公務員を拉致し、現金奪った男女3人逮捕 警視庁]
 時事ドットコム
  [男性をトンネルに監禁、金奪う=路上で拉致、男女3人逮捕−警視庁]
 YOL見出しは、「弱そうな」人を狙ったという供述をポイントとしており、この要素を入れることによって、加害者の卑劣さを浮き彫りにさせる表現が用いられており、創作性がある。他の報道媒体の見出しは、このような特異性が示されておらず、いつでもどこでもあるような事件という印象を与える。
(カ) スポーツ飲料を盗んだ7人組が逮捕された事件に関する記事見出し(同年10月23日)
 ヨミウリ・オンライン
  [スポーツ飲料、トラックごと盗む…被害1億円7人逮捕]
 時事ドットコム
  [積荷の食品狙いトラックごと盗む=7人組を逮捕−埼玉県警]
 YOL見出しは、「食品」に比較して、「スポーツ飲料」という語を用い、具体性とアピール度が高く、「積荷」と「ごと」というような意味の重複を避け、簡潔な表現を用いている点で、創作性がある。
(キ) 拉致事件に関連する記事見出し(同年10月23日)
 ヨミウリ・オンライン
  [E・Fさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験]
 読売新聞夕刊
  [『温泉気持ちいい』EさんFさん]
 毎日インタラクティブ
  [拉致被害者:家族並んで足浴を楽しむ Eさん、Fさん]
 産経ウェブ
  [湯の町の旅情楽しむ EさんFさん]
 NHKオンライン
 [E・Fさん家族と温泉に]
 YOL見出しは、湯の「熱い」と2人の仲睦まじい「熱さ」をかけて「アツアツ」としてあり、読者に対する印象度を上げ、情景を彷彿させる創意工夫による的確な表現が用いられているので、創作性がある。
ウ 小括
 以上のとおり、YOL見出しは、ヨミウリ・オンラインのニュース記事全体(YOL見出し及びYOL記事)の中で、記事の対象となった社会的事象のエッセンスを的確に読者(インターネット・ユーザー)に知らせるために、創意工夫された表現が用いられているのであって、ヨミウリ・オンラインのニュース記事全体における中核的なものであるから、創作性が肯定される。
(2) 被告の著作権侵害行為
ア 被告のホームページ上でのYOL見出しの複製使用
 被告は、原告の著作物であるYOL見出しを、被告が運営する別紙目録記載のホームページ(以下「被告ホームページ」という。)において複製して使用している。その態様は、被告ホームページ上に設けられた「タグ」と称される表示部分(以下「被告タグ」という。)にYOL見出しをあたかも電光掲示板のように表示し、この表示の間に広告記事を表示するという方法である。そして、被告ホームページの読者が被告タグに表示されたYOL見出しをクリックすると、原告の配信先であるヤフーの「Yahoo!ニュース」における記事(これは、YOL記事と同一内容であり、原告の許諾を受けた配信先が掲出している記事である。)が表示される。すなわち、リンクが張られるという態様で使用されている。なお、平成14年10月8日から同年12月7日までの間に被告タグに表示された被告リンク見出しは、別紙4記事見出し対照表「被告タグ表示」欄記載のとおりであり、これに対応するYOL見出しは同対照表「原告の記事見出し」欄記載のとおりである。両者は、同一又は類似する。
イ 被告タグの配布によるYOL見出しの複製使用
 被告は、被告タグを第三者に頒布しており、その頒布を受けた第三者が被告タグを自己のホームページ上に設置すると、被告ホームページ上の被告タグと同様に、YOL見出しが表示される。
ウ 著作権侵害(複製権侵害及び公衆送信権侵害)
 上記ア及びイのとおり、被告タグにおける被告リンク見出しの掲出行為は、YOL見出しについて原告が有する複製権を侵害する。また、被告タグを第三者に頒布する行為は、YOL見出しについて原告が有する公衆送信権を侵害する。
(3) 将来の著作権侵害
 原告は、1874年(明治7年)に創刊され、以来継続して発行されている日本最大の日刊新聞の発行者である。原告は、一定の編集方針の下に、前記(1)のとおりYOL記事及びYOL見出しを制作している。このことからすれば、YOL見出しは、今後も同様の編集方針に基づいて継続して作成・頒布される蓋然性が極めて高く、原告が将来制作するYOL見出しも、これまでと同様の著作物性を有し、原告はこれらに関する著作権を取得する。
 他方、被告は、少なくとも別紙4記事見出し対照表記載のとおり、継続的に、被告タグに、被告リンク見出しを掲出し、YOL見出しについて有する原告の著作権を侵害している。
 したがって、被告は、将来原告のYOL記事及びYOL見出しが掲出(配信先での掲出を含む。)されるごとに、これに依拠してこれまでと同様にYOL見出しと同一又は類似する被告リンク見出しを被告タグに掲出し、かつ、被告タグの頒布を行って原告の著作権侵害を行う蓋然性が極めて高い。
(4) 差止めの必要性
 前記(2)の被告の著作権侵害の態様に照らせば、原告には将来発行することになるYOL見出しも含め、本訴請求1項及び2項記載の差止めを求める必要性がある。
(被告の反論)
(1) YOL見出しの著作物性
ア 別紙4記事見出し対照表「原告の記事見出し」欄記載の記事見出しについては、いずれも創作性がなく、著作物とは認められない。すなわち、著作物といえるためには、「思想または感情を創作的に表現したもの」であることが必要であるが、上記記事見出しはいずれも一定の客観的事実関係を前提にして、記事に付けられる短いタイトルないし表題であり、短いものは約10文字であり、最も長いものでも25文字程度にすぎず、その多くは20文字前後であり、内容的にも、「いつ、誰が、どうした」といった事実そのものの記述にすぎない。このような事実のみを記述した20字前後の短文は、正に「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法10条2項)に該当するものであるから、創作性が認められないことは明白である。
 仮に、例えば上記記事見出しの中にある「A議員が全面無罪を主張」や「日本信販社長が引責辞任発表」などの記事見出しが著作物であるとされた場合には、YOL見出しを見て「A議員が全面無罪を主張した事実」や「日本信販社長が引責辞任を発表した事実」を知った者は、もはや「A議員が全面無罪を主張」、「日本信販社長が引責辞任を発表」との表現あるいはこれに類似の表現を原告の許諾なく利用できないことになるが、それでは事実の報道そのものの独占を許すことになり、憲法上の人権たる表現の自由(憲法21条)が著しく害される。
イ 原告が、YOL見出しのうちで、例を挙げて説明したものは、以下のとおり、いずれも著作物性がない。
 記事見出しは、報道記事の内容を元に作成するのであるから、異なる記事に付された見出しが異なるからといって、創作性があることの根拠にはならない。具体的に検討してみても、原告の挙げるYOL見出しは創作的表現とはいえない。
(ア) 中学生が飛び降り自殺した事件に関する記事見出しについて
a YOL見出しは、「いじめ苦?都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺」であり、この見出しに対応するヨミウリ・オンラインの記事本文(「Yahoo!ニュース」の記事)は次のとおりである。
 「東京都板橋区内のマンションで今月11日夜、東京学芸大付属竹早中学校(文京区)に通う3年の男子生徒(15)が飛び降り自殺していたことが分かった。男子生徒は両親に、学校でいじめに遭っていることを打ち明けていたといい、警視庁板橋署は、男子生徒がいじめを苦に自殺したとみている。
 調べによると、男子生徒は同日午後9時ごろ、板橋区内のマンション下の通路に倒れているところを発見された。14階の非常階段踊り場に男子生徒の手提げカバンが残されていたが、遺書はなかった。男子生徒はこの日、学校へ行くと言い残して自宅を出たまま、登校していなかった。」(甲1の26の2)
b そもそも、「都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺」というのは、東京都内のマンションで中学3年生の男子が飛び降り自殺をしたとの事実そのものにほかならず、記事本文中から事実を拾い上げたものである。そして、「いじめ苦?」という部分についても、「いじめを苦に自殺したと見ている」という自殺原因についての記載があり、報道記事において、「○○か」や「○○?」などの表現は、「いじめ原因か」(毎日インタラクティブ)、「いじめ苦?」(ヨミウリ・オンライン)とされているように、事実が確定できない場合のありふれた表現、常套文句であるから創作性は認められない。
(イ) 喫煙に関する記事見出しについて
a YOL見出しは、〔「喫煙死」1時間に560人〕であり、対応する記事本文は次のとおりである。
 「世界保健機関(WHO)は15日、世界で年間490万人が喫煙が原因で死亡しているとの推計を発表した。世界で1時間に560人、1日で1万3400人がたばこを原因とする肺ガンや結核などのため死んでいる計算になる。」(甲1の34の2、本文以下略)
b YOL見出しは、「喫煙が原因で死亡」という表現を「喫煙死」と縮め、「1時間に560人」との本文中と同じ表現をしたものであるが、日本語においては、語句を縮めて表現するというのはよく使われる手法であり、創作性のある表現とはいえない。また、「1時間に560人」というのは、WHO発表の記事本文の冒頭部分(Tobacco kills 560 people every hour or 13,400 people per day or 4.9million people per annum 日本語訳:喫煙が原因で1時間に560人、1日に1万3400人、年間490万人が死亡している。)をそのまま日本語にしただけである(乙26)。この表現自体は時間と人数が示されているだけであり、創作性は認められない。
(ウ) マナー本の海賊版を書いた医大教授に関する記事見出しについて
a YOL見出しは「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」であり、対応する記事本文は次のとおりである。
 「高知医科大(高知県南国市)の基礎医学系教授(63)が、出版元や編集者の許可を得ずに医師のマナー本を複製し、学生に販売したとして、同医科大は16日、この教授を戒告処分にした。」(甲1の35の2、本文以下略)
b YOL見出しのうち、「大学教授、マナー本の海賊版作り販売」の部分は事実関係そのものの記載である。また、「マナー知らず」という部分は、マナーという語句を掛け合わせた語呂合わせであるが、記事見出しにおいて、このような語呂合わせは一般に使われる手法であり、創作性がある表現とはいえない。
(エ) ホームレスの男性が銃撃された事件に関する記事見出しについて
a YOL見出しは「ホームレスがアベックと口論?銃撃で重傷」であり、対応する記事本文は次のとおりである。
 「22日午前3時ごろ、東京都品川区大崎1の店舗兼ホテルの2階テラスにあるベンチで、ホームレスの男性(43)が右肩を短銃で撃たれ、座り込んでいるのを巡回中の警備員が見つけた。銃弾は貫通しており、男性は重傷。現場には薬きょうと弾丸1発が落ちていた。
 目撃者などの話によると、同日午前3時前、現場近くの路上で男女がどなり合う声が聞こえた。男性は男女2人組と言い争いになった末に撃たれたと見られる。」(甲1の63の2、以下本文略)
b 「ホームレスが銃撃で重傷を負った」というのは事実そのものの記載であり、事件や事故があった場合にその原因を記載するのは特別なことではない。また、前記のとおり、報道記事において、「○○か」「○○?」などという表現は、事実が確定できない場合のありふれた表現、常套文句であり、創作性は認められない。
(オ) 公務員の男性を拉致して現金を奪った男女3人が逮捕された事件に関する記事見出しについて
a YOL見出しは〔男女3人でトンネルに「弱そうな」男性拉致〕であり、対応する記事本文は次のとおりである。
 「東京都新宿区の路上で今年7月、横浜市の公務員男性(28)が連れ去られ、現金などが奪われ、山梨県内のトンネルで解放される事件があり、警視庁捜査一課と四谷署は22日までに、山梨県石和町、職業不詳B容疑者(30)とアルバイト店員の女(19)ら男女3人を強盗傷害と逮捕監禁などの疑いで逮捕した。調べに対し3人は、「弱そうに見えたので襲った」などと供述。余罪をほのめかしており、同課で追及している。」(甲1の62の2、以下本文略)
b 男女3人でトンネルに男性を拉致した事件があったということは、事実そのものである。また、「弱そうな」というのは逮捕された被疑者の「弱そうに見えた」との供述を受けたものであり、思想や感情は示されておらず、創作性は認められない。
(カ) スポーツ飲料を盗んだ7人組が逮捕された事件に関する記事見出しについて
a YOL見出しは「スポーツ飲料、トラックごと盗む…被害1億円7人逮捕」であり、対応する記事本文は次のとおりである。
 「スポーツドリンクなどを積んだ大型トラックを車両ごと盗んだとして、埼玉県警捜査3課と春日部署などの合同捜査班は23日までに、同県岩槻市徳力、不動産手伝いC被告(27)(窃盗罪で公判中)ら6人を窃盗容疑で逮捕、1人を同容疑で指名手配した。また、同県川口市西青木、会社役員D容疑者(65)を盗品等有償譲り受け容疑で逮捕した。」(甲1の73の2、以下本文略)
b 「スポーツ飲料トラックごと盗む」も「被害1億円7人逮捕」もすべて事実関係そのものであり、創作性は認められない。
(キ) 拉致事件に関連する記事見出しについて
a YOL見出しは「E・Fさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」であり、対応する記事本文は次のとおりである。
 「一時帰国して新潟県・妙高高原に滞在中の北朝鮮拉致被害者、Eさん(45)とFさん(46)の夫婦は23日午前、足だけを湯に浸す赤倉温泉の「足湯公園」を訪れ、高原の秋を満喫しながら旅の疲れをいやした。スーツ姿の2人は、靴下を脱ぎ、ズボンをたくし上げて、足首のあたりまで湯につかり、敷き詰められた小石を踏みしめて、「気持ちいい」と声を上げていた。午後には、Eさんが、幼いころから家族でたびたび遊んだ「池の平温泉スキー場」などを巡る」(甲1の71の2)
b 「E・Fさんが赤倉温泉で足湯体験」というのは事実関係そのものの記載にすぎない。また、「アツアツの」の部分は「お湯が熱い」「二人の仲が熱い」ということを掛けた形容詞であり、多少工夫をしている表現ではあるが、これも通常ありがちな掛け合わせにすぎず、その形容詞の一言をもって見出し自体に著作物性を認めるほどの創作的表現と評価することはできない。
イ YOL記事とYOL見出しの関係
 YOL記事に著作物性が認められる場合があるとしても、著作物と認められるのは記事本文であり、記事のタイトルであるYOL見出しではない。YOL見出しは著作物のタイトルであり、題号にすぎない。記事本文と見出しは、明確に区別がつき、一体ではなく、また、記事本文は見出しがなくとも著作物として存立し得る関係にある。したがって、両者が一体として著作物となるという見解は失当である。
(2) 将来の著作権侵害について 
 YOL見出しの著作権侵害に関する原告の主張のうち、将来の行為に係る部分は、侵害の対象となる著作物が具体的に特定されていないから、著作権侵害の主張としては、主張自体失当である。
2 不法行為の成否について
(原告の主張)
(1) 法的利益としての原告の営業
 原告は、1874年(明治7年)に創刊され、以来継続して発行されている日本最大の日刊新聞の発行者であり、「讀賣新聞」をはじめとして新聞、雑誌等を日本全国に販売し、営業活動を展開しており、我が国において、最も著名な新聞社である。
 YOL見出しは、多大の労力を要する取材に基づいて作成される記事とともに、記事の内容と記事の対象事象を、最速かつ正確に読者に訴えるという重要な情報であり、財産的価値を有し、かつ、経済・社会的価値を有するものであるが、原告は、上記営業活動の一環として、原告が運営するヨミウリ・オンラインにおいて、YOL記事及びYOL見出しを掲出し、かつ、第三者の広告を掲出して広告料収入を得ている。また、原告は、ヤフーほかに対し、YOL見出しをそれのみで、あるいは記事本文とともに使用許諾し、許諾料を得ている。
 このような原告のYOL見出しを使用した営業活動は、法的に保護されるべきものである。
(2) 被告の営業侵害行為
 被告は、原告に何らの対価を支払わずに、第三者が無償で閲覧可能な被告ホームページの被告タグにおいてYOL見出しを複製して使用し、さらに、被告タグを無償で第三者に配布している。
 東京地裁平成13年5月25日判決(判例時報1774号132頁)は、他人のデータベースを複製し販売した行為について、「民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。そして、人が費用や労力をかけて情報を収集し整理することで、データベースを作成し、そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において、そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを、その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして不法行為を構成する」と判示し、被告の不法行為責任を認めている。本件は、同判決の事案と異なり著作物性の認められる記事見出しに関するものであるが、上記事案における「データベースを複製し作成したデータベースを販売する行為」を「インターネット上に掲出されたYOL見出しを複製して配信する行為」に置き換えればそのまま本件に当てはまる。すなわち、被告の上記行為は、著しく不公正な手段を用いて原告の正当な営業活動を妨げ、原告の営業活動上の利益を侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。
(3) 差止請求の必要性
 被告は、自己の営業のために継続的にYOL見出しを複製し、公衆送信しているが、このようなYOL見出しにただ乗り(フリーライド)する行為は、インターネットにおける原告の営業に極めて多大な損失を与えるものであり、今後も被告による継続的な複製行為等が行われると、原告の損害額は巨額なものとなり、被告の支払能力を遥かに超えるものとなることは明らかである。したがって、被告の前記不法行為に対しては、単に損害賠償のみをもってしては、原告の営業の侵害に対する法的救済としては不十分であり、その救済手段として事前の差止請求が認められるべきである。
 不法行為法上の法的利益の侵害に対しても、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差し止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量した結果、侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが著しく困難になると認められるときは侵害行為の差し止めを許容すべきことは、最高裁判所平成14年9月24日判決(平成13年(オ)第852号石に泳ぐ魚事件)に照らしても明らかである。
(被告の反論)
(1) YOL見出しがそれ自体財産的価値を有する情報であることは否認する。原告は、YOL見出しを無料で世界中に配信・公表しており、情報は世間に公表された段階で、それを伝え聞いたすべての人が共有する情報に変わるのであるから、YOL見出しに著作物性が認められない以上、公表した情報であるYOL見出しをその後も原告が独占できる根拠はない。
(2) 被告の提供するライントピックスでは、被告リンク見出しをリンクボタンとして「Yahoo!ニュース」の記事のウェブページにリンクを張っているが、リンクボタンはリンク先を指し示すものであり、単なる参照にすぎないのであるから、リンクを張る場合にリンク先のウェブページの名称を記載する通常の方法でリンクを張った場合には、そもそも違法性の問題は生じないと解すべきである。そして、ニュース記事の場合でいえば、記事見出しはリンク先のニュース記事の名称に当たるから、これを表示してリンクボタンとすることは違法行為に当たらないというべきである。
3 損害の額
(原告の主張)
(1) 被告タグにYOL見出しをあたかも電光掲示板のように表示し、この表示の間に広告記事を表示するという被告の行為は、対価を支払うことなく、YOL見出しを使って電光掲示板に利用している行為と評価される。ところで、YOL見出しを電光掲示板に使用させるに当たり、原告が通常受けるべき金銭(使用料)は、端末1機当たり月額1万5000円であり、また、被告は、被告タグを1万3000件配布していると自称している。
 原告は、電光掲示板に使用するため、通常1日当たり40個のYOL見出しを提供しているところ、被告が被告タグに表示しているYOL見出しの数は1日当たり少なくとも7個を下らない。被告は少なくとも平成14年10月8日から12月7日までの2か月間、YOL見出しを表示した被告タグを配布しているから、被告の上記著作権侵害行為に基づく損害金は、次のとおり、少なくとも金6825万円を下らない。
(計算式)
 原告の損害=電光掲示板の端末1機当たりの月額使用料×被告による原告の記事見出しの使用率×期間×被告タグの配布先数
 =15、000円×7/40×2か月×13、000件
 =6、825万円
(被告の認否)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 はじめに
 原告は、主位的主張において、被告の下記各行為を著作権侵害であると主張する。すなわち、@被告は、他のウェブサイト上に被告リンク見出し(原告が配信しているヤフーの運営に係るヤフーサイトのニュース記事見出しと、ほぼ同一のものである。)を表示させる制御情報を表すHTMLのタグを作成し、同タグに係るデータを、ライントピックスサービス登録ユーザに、被告サーバーから、インターネットを通じて送信し、ライントピックスサービス登録ユーザは、上記データをダウンロードし、被告サービスにおいて指定された手順を踏むことにより、そのウェブサイト上に、被告リンク見出しを掲出させることができるというサービスを提供しているが、被告の上記タグに係るデータの送信行為、A被告は、被告サイトにおいても、上記被告リンク見出しを掲出しているが、被告の記事見出しの掲出行為、のいずれもが著作権侵害行為であると主張する。
 そこで、原告が著作権侵害の保護の対象として保護を求めている「YOL見出し」が、そもそも著作物であるといえるか否かについて、まず検討することとする。
2 YOL見出しの著作物性の有無について
(1) 著作権法による保護の対象となる著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(法2条1項1号)。「思想又は感情を表現した」とは、事実をそのまま記述したようなものはこれに当たらないが、事実を基礎とした場合であっても、筆者の事実に対する評価、意見等を、創作的に表現しているものであれば足りる。そして、「創作的に表現したもの」というためには、筆者の何らかの個性が発揮されていれば足りるのであって、厳密な意味で、独創性が発揮されたものであることまでは必要ない。他方、言語から構成される作品において、ごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が現れていないものとして、創作的な表現であると解することはできない。
(2) 上記の観点から、YOL見出しの著作物性の有無について判断する。
ア 原告は、YOL見出しは、YOL記事の内容が理解できるように創意工夫されたものであり、事項の選択、展開の仕方、表現の方法等に創作性がある旨主張する。そこで、まず、原告において挙げた具体例に基づいて、YOL見出しに著作物性があるか否かを検討することとする。
(ア) 中学生が飛び降り自殺した事件に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである(甲1の26の1、2)。
 YOL見出し
  「いじめ苦?都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺」
 YOL記事
  「東京都板橋区内のマンションで今月11日夜、東京学芸大付属竹早中学校(文京区)に通う3年の男子生徒(15)が飛び降り自殺していたことが分かった。男子生徒は両親に、学校でいじめに遭っていることを打ち明けていたといい、警視庁板橋署は、男子生徒がいじめを苦に自殺したとみている。調べによると、男子生徒は同日午後9時ごろ、板橋区内のマンション下の通路に倒れているところを発見された。14階の非常階段踊り場に男子生徒の手提げカバンが残されていたが、遺書はなかった。男子生徒はこの日、学校へ行くと言い残して自宅を出たまま、登校していなかった。」
b YOL見出しの「都内のマンションで中3男子が飛び降り自殺」の部分は、東京都内のマンションで中学3年生の男子が飛び降り自殺をしたとの事実を、ごく普通の表現方法で記述したものである。また、「いじめ苦?」の部分は、YOL記事中の「警視庁板橋署は、男子生徒がいじめを苦に自殺したとみている。」と記述された部分を前提として、自殺原因が「いじめ苦」であるか否か断定できないことを示すため「?」を付記したものであって、慣用的な用法であるといえる。上記YOL見出しは、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(イ) 喫煙に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである(甲1の34の1、2)。
 YOL見出し
  「「喫煙死」1時間に560人」
 YOL記事
  「世界保健機関(WHO)は15日、世界で年間490万人が、喫煙が原因で死亡しているとの推計を発表した。世界で1時間に560人、1日で1万3400人がたばこを原因とする肺ガンや結核などのため死んでいる計算になる。以下略」
b YOL見出しの「喫煙死」の部分は、喫煙が原因で死亡した事実や人数を指す表現であり、このような表現は「過労死」「事故死」などと同様にありふれたものである。YOL見出しの「1時間に560人」の部分は、YOL記事中の「1時間に560人の人が喫煙が原因で死亡している」と推計されるとの事実を記述したものにすぎない。以上のとおり、上記YOL見出しは、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(ウ) マナー本の海賊版を書いた医大教授に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである(甲1の35の1、2)。
 YOL見出し
  「マナー知らず大学教授、マナー本海賊版作り販売」
 YOL記事
  「高知医科大(高知県南国市)の基礎医学系教授(63)が、出版元や編集者の許可を得ずに医師のマナー本を複製し、学生に販売したとして、同医科大は16日、この教授を戒告処分にした。以下略」
b YOL見出しの「大学教授、マナー本の海賊版作り販売」の部分は、YOL記事中の「大学教授がマナー本の海賊版を作って販売した」という事実を、ごく普通の表現方法で記述したものである。また、YOL見出しの「マナー知らず」の部分は、マナーという語句を、語句の先頭に配し、「マナー本・・・」と対句のように用いた表現方法であるが、このような対句的表現は、一般にしばしば使われる方法であって、格別な工夫であると評価することはできない。上記YOL見出しは、全体として、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(エ) ホームレスの男性が銃撃された事件に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである(甲1の63の1、2)。
 YOL見出し
  「ホームレスがアベックと口論?銃撃で重傷」
 YOL記事
  「22日午前3時ごろ、東京都品川区大崎1の店舗兼ホテルの2階テラスにあるベンチで、ホームレスの男性(43)が右肩を短銃で撃たれ、座り込んでいるのを巡回中の警備員が見つけた。銃弾は貫通しており、男性は重傷。現場には薬きょうと弾丸1発が落ちていた。目撃者などの話によると、同日午前3時前、現場近くの路上で男女がどなり合う声が聞こえた。男性は男女2人組と言い争いになった末に撃たれたと見られる。以下略」
b YOL見出しの「ホームレスが・・・銃撃で重傷」の部分は、「ホームレスが銃撃で重傷を負った」との事実を、ごく普通の表現方法で記述したものである。また、「アベックと口論?」の部分は、YOL記事中の「男性は男女2人組と言い争いになった末に撃たれたと見られる。」との部分を前提として、銃撃の原因が「口論」であるか否か断定することを避けるため「?」を付記したものであり、慣用的な用法であるといえる。上記YOL見出しは、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(オ) 公務員の男性を拉致して現金を奪った男女3人が逮捕された事件に関する見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである(甲1の62の1、2)
 YOL見出し
  「男女3人でトンネルに「弱そうな」男性拉致」
 YOL記事
  「東京都新宿区の路上で今年7月、横浜市の公務員男性(28)が連れ去られ、現金などが奪われ、山梨県内のトンネルで解放される事件があり、警視庁捜査一課と四谷署は22日までに、山梨県石和町、職業不詳B容疑者(30)とアルバイト店員の女(19)ら男女3人を強盗傷害と逮捕監禁などの疑いで逮捕した。調べに対し3人は、「弱そうに見えたので襲った」などと供述。余罪をほのめかしており、同課で追及している。」
b YOL見出しの「男女3人でトンネルに・・・男性拉致」の部分は、「男女3人がトンネルに男性を拉致したという事実」を、ごく普通の表現方法で記述したものである。また、YOL見出しの「弱そうな」の部分は、YOL記事中の「調べに対し3人は『弱そうに見えたので襲った』などと供述」との記述から、被疑者が警察で供述した言葉をそのまま使用したものであって、格別な工夫であると評価することはできない。上記YOL見出しは、全体として、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
(カ) スポーツ飲料を盗んだ7人組が逮捕された事件に関する記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである(甲1の73の1、2)。
 YOL見出し
  「スポーツ飲料、トラックごと盗む…被害1億円7人逮捕」
 YOL記事
  「スポーツドリンクなどを積んだ大型トラックを車両ごと盗んだとして、埼玉県警捜査3課と春日部署などの合同捜査班は23日までに、同県岩槻市徳力、不動産業手伝いC被告(27)(窃盗罪で公判中)ら6人を窃盗容疑で逮捕、1人を同容疑で指名手配した。また、同県川口市西青木、会社役員D容疑者(65)を盗品等有償譲り受け容疑で逮捕した。以下略」
b YOL見出しの「スポーツ飲料、トラックごと盗む」の部分も「被害1億円7人逮捕」の部分も、いずれも事実を、ごく普通の表現方法で記述したものである。上記YOL見出しは、全体として、ありふれた表現であるといえるから、創作性を認めることはできない。
(キ) 拉致事件関連の記事見出しについて
a YOL見出し及びYOL記事は、次のとおりである(甲1の71の1、2)。
 YOL見出し
  「E・Fさん、赤倉温泉でアツアツの足湯体験」
 YOL記事
  「一時帰国して新潟県・妙高高原に滞在中の北朝鮮拉致被害者、Eさん(45)とFさん(46)の夫婦は23日午前、足だけを湯に浸す赤倉温泉の「足湯公園」を訪れ、高原の秋を満喫しながら旅の疲れをいやした。スーツ姿の2人は、靴下を脱ぎ、ズボンをたくし上げて、足首のあたりまで湯につかり、敷き詰められた小石を踏みしめて、「気持ちいい」と声を上げていた。午後には、Eさんが、幼いころから家族でたびたび遊んだ「池の平温泉スキー場」などを巡る。」
b YOL見出しの「E・Fさんが赤倉温泉で・・・足湯体験」の部分は、事実をごく普通の表現方法で記述したものである。また、「アツアツの」の部分は、「お湯が熱い」と「二人の仲が熱い」ということを掛けた修飾語であるが、格別な工夫であると評価することはできない。上記YOL見出しは、全体として、ありふれた表現であるから、創作性を認めることはできない。
 前記ア(ア)ないし(キ)で検討したとおり、原告が創作的表現の具体例として挙げたYOL見出しは、いずれも客観的な事実を記述したものであるか、又はこれにごく短い修飾語等を付加したにすぎないものであって、創作的表現とは認められない。
イ 以上の検討を踏まえた上で、YOL見出し一般について判断する。
 証拠(甲1(枝番号の表記は省略する。)、乙29)及び弁論の全趣旨によれば、@YOL見出しは、その性質上、簡潔な表現により、報道の対象となるニュース記事の内容を読者に伝えるために表記されるものであり、表現の選択の幅は広いとはいえないこと、AYOL見出しは25字という字数の制限の中で作成され、多くは20字未満の字数で構成されており、この点からも選択の幅は広いとはいえないこと、BYOL見出しは、YOL記事中の言葉をそのまま用いたり、これを短縮した表現やごく短い修飾語を付加したものにすぎないことが認められ、これらの事実に照らすならば、YOL見出しは、YOL記事で記載された事実を抜きだして記述したものと解すべきであり、著作権法10条2項所定の「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」(著作権法10条2項)に該当するものと認められる。
 以上を総合すると、原告の挙げる具体的なYOL見出しはいずれも創作的表現とは認められないこと、また、本件全証拠によるもYOL見出しが、YOL記事で記載された事実と離れて格別の工夫が凝らされた表現が用いられていると認めることはできないから、YOL見出しは著作物であるとはいえない。
ウ 原告は、YOL見出しは、YOL記事と一体のものとして、著作物性を肯定すべきであると主張する。
 仮に、原告が、YOL見出しを含むYOL記事全体について、著作権法上の保護を求めるのであれば、YOL見出しを含むYOL記事全体につき、著作物であるか否かを判断すべきであるといえる。そして、この点を肯定できる場合は多いといえよう。しかし、そのような主張を下にした場合、YOL記事全体と被告リンク見出しとの間には、実質的な同一性は認められないので、結局保護は図られないことになる。
 本件においては、原告は、著作権法上の保護を求めている対象につきYOL見出しであると主張する以上、YOL見出しについて、著作物性の有無を判断すべきであるから、著作物性の有無について、YOL記事と一体で判断すべきであるとする原告の主張は採用できない(なお、YOL見出しは、タイトル、表題、インデックス、案内として作成されたもので、その利用目的が異なること、見出し部分と記事部分とは明確に区別がつくこと等の理由から、YOL見出しの著作物性の有無を判断に当たり、YOL記事全体を基準とする原告の主張は、相当であるとはいえない。)
(3) 以上に認定判断したとおり、YOL見出しは著作物であるとは認められないから、被告がライントピックスの被告リンク見出しとしてYOL見出しを掲出させることが原告の著作権侵害となるとの原告の主張は理由がない。
2 不法行為の成否について
 原告は、YOL見出しが著作物と認められないとしても、YOL見出しを複製する等の被告の行為は、不法行為を構成する旨主張する。
 しかし、YOL見出しは、原告自身がインターネット上で無償で公開した情報であり、前記のとおり、著作権法等によって、原告に排他的な権利が認められない以上、第三者がこれらを利用することは、本来自由であるといえる。不正に自らの利益を図る目的により利用した場合あるいは原告に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のない限り、インターネット上に公開された情報を利用することが違法となることはない。そして、本件全証拠によるも、被告の行為が、このような不正な利益を図ったり、損害を加えたりする目的で行われた行為と評価される特段の事情が存在すると認めることはできない。したがって、被告の行為は、不法行為を構成しない。原告のこの点についての主張は理由がない。
3 結語
 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 飯村敏明
 裁判官 榎戸道也
 裁判官 佐野信


(別紙1) 被告ホームページ目録
 ドメイン名 D-A.CO.JP
 組織名 有限会社デジタル・アライアンス
 ネームサーバ ns.marute.co.jp
 同 ns2.dcmp.co.jp
 登録年月日 2000年6月5日
 接続年月日 2000年6月14日
  のドメイン名およびそのサブドメイン名に表示されるホームページ

(別紙2) 原告ホームページ目録
 ドメイン名 yomiuri.co.jp
 組織名 株式会社読売新聞東京本社
 ネームサーバ dns-b.iij.ad.jp
 同 dns-c.iij.ad.jp
 登録年月日 1995年3月29日
 接続年月日 1995年5月19日
  のドメイン名に表示されるホームページ。但し、このうち、サブドメイン名を「osaka.yomiuri.co.jp」、「kyusyu.yomiuri.co.jp」とするホームページ、及び「yomiuri.co.jp/houchi」のディレクトリ、「yomiuri.co.jp/e-japan/」で表記されるディレクトリに九州の県名(沖縄を含む)、中国の県名、四国の県名、三重を除く近畿の県名、福井がアルファベット表記されるディレクトリとするホームページを除く。

(別紙3) タグ目録
 別紙1被告ホームページ目録記載の被告ホームページ上で、「ニュースLINK」「LINE TOPICS」の表示により、商品名「LINE TOPICS」として頒布されるタグ
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/