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【事件名】ピーターラビットのロゴ事件(2)
【年月日】平成16年3月15日
 東京高裁 平成15年(ネ)第831号 不正競争行為差止等、不正競争行為差止請求権不存在確認等請求控訴事件
 (原審・東京地裁平成12年(ワ)第14226号、同平成14年(ワ)第4485号)
 (口頭弁論終結日 平成16年1月28日)

判決
控訴人・被控訴人 フレデリック・ウォーン・アンド・カンパニー・リミテッド(以下「1審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 鳥海哲郎
同 菅尋史
同 石毛和夫
同 小泉淑子
同訴訟復代理人弁護士 井上祐子
同補佐人弁理士 小林ゆか
被控訴人・控訴人 株式会社ファミリア(以下「1審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 三山峻司
同 小野昌延
同 室谷和彦
同 西迫文夫

主文
1 1審原告及び1審被告の各控訴をいずれも棄却する。
2 1審原告の当審において拡張された予備的請求を棄却する。
3 控訴費用はこれを2分し、その1を1審被告の負担とし、その余を1審原告の負担とする。

事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
【1審原告の控訴関係】
1 1審原告
(1) 原判決中1審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 1審被告は、1審原告に対し、3750万円及びこれに対する平成12年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)[主位的請求] 1審被告は、1審原告に対し、原判決別紙商標権目録記載(1)ないし(6)の商標権(以下、同目録記載の商標権を「本件商標権(1)」等といい、これらをまとめて「本件商標権」という。)について、平成11年10月19日成立の譲渡契約による移転登録手続をせよ。
 [予備的請求] 1審被告は、1審原告に対し、本件商標権(1)ないし(6)について、昭和62年9月30日付けライセンス契約の終了による原状回復義務に基づく移転登録手続をせよ(当審において拡張された請求)。
(4) 訴訟費用は第1、2審とも1審被告の負担とする。
(5) 上記(2)につき仮執行宣言
2 1審被告
(1) 1審原告の控訴を棄却する。
(2) 1審原告の当審において拡張された予備的請求を棄却する。
(3) 控訴費用は1審原告の負担とする。
【1審被告の控訴関係】
1 1審被告
(1) 原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分にかかる1審原告の請求をいずれも棄却する。
(3) 1審原告は、1審被告に対し、1審被告が原判決別紙物件目録1及び2記載の衣類(以下「本件衣類」という。)の販売及び販売のための展示について、不正競争防止法に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を有しないことを確認する。
(4) 1審原告は、1審被告に対し、不正競争防止法に基づいて本件衣類の廃棄を求める権利を有しないことを確認する。
(5) 訴訟費用は第1、2審とも1審原告の負担とする。
2 1審原告
(1) 1審被告の控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は1審被告の負担とする。
第2 事案の概要
1 1審原告は、1審被告に対し、@原判決別紙原告表示目録記載の表示(以下「1審原告表示(1)」等といい、これらをまとめて「1審原告表示」という。)は、1審原告及び同原告の商品化事業を行っているグループの商品表示又は営業表示として周知著名であるところ、1審被告は、これと同一である原判決別紙被告表示目録記載の表示(以下「1審被告表示(1)」等といい、これらをまとめて「1審被告表示」という。)を使用し又は使用するおそれがある旨主張して、不正競争防止法2条1項1号、2号及び3条1項、2項に基づいて、1審被告表示を付した商品の製造等の差止め、及び1審被告表示を付した1審被告製造に係る商品の廃棄を求めると共に、同法4条に基づき損害金3750万円及びこれに対する不正競争行為後である平成12年7月27日から完済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し、また、A昭和62年4月13日付けの「レター オブ アグリーメント」に基づいて、本件商標権(1)ないし(6)の移転登録手続を求めた(甲事件)。
 一方、1審被告は、1審原告に対し、1審被告が本件衣類を販売及び販売のために展示する行為は不正競争行為に該当しないとして、不正競争防止法に基づく差止請求権、損害賠償請求権及び廃棄請求権がそれぞれ存在しないことの確認を求めた(乙事件)。
 原判決は、甲事件につき、1審被告表示を付した商品の製造等の差止め、及び1審被告表示を付した1審被告製造に係る商品の廃棄、並びに、損害金372万9376円及びこれに対する遅延損害金の支払の限度で、1審原告の請求を認容し、その余の1審原告の請求をいずれも棄却し、また、乙事件につき、1審被告の請求をいずれも棄却した。
 これに対し、1審原告及び1審被告が、それぞれその変更を求めて本件控訴を提起した(なお、1審原告は、当審において、新たに前記予備的請求を追加した。)。
2 争いのない事実等並びに本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり当審における追加的な主張の要点を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要1、3」及び「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。
 (ただし、原判決3頁6行目の「1901年」を「1902年」と、同6行目から7行目にかけての「1903年にはピーターラビットの人形について英国特許を取得して」を「ポターが1903年にピーターラビットの人形につき英国特許を取得したのを契機として、その後」とそれぞれ改め、同4頁1行目の「32、」を削除し、同20行目の「(以下「本件合意」という)」を「(以下、同書面による合意を「本件合意」という。)」と、同5頁5行目から6行目にかけての「(以下「原告表示」という。)」を「(以下、「1審原告表示(1)」等といい、これらをまとめて「1審原告表示」という。)」と、同7頁8行目の「本件商標(1)ないし(6)」を「本件商標権(1)ないし(6)に係る登録商標」と、同8頁5行目及び9頁10行目の「同法」を「平成5年改正法(平成5年法律第47号)」とそれぞれ改め、同8頁7行目の「被告は、」の次に、「平成5年改正法が施行された」を、同9頁9行目末尾の次に、「また、前記(1)と同様に、1審原告の不正競争防止法違反の主張に対して、1審被告が本件商標権(1)(2)の時効取得を主張することは、権利の濫用である。」をそれぞれ加え、同15頁13行目から14行目にかけての「織りネームの上部には「Peter Rabbit」の欧文字と共に下部には「familiar」の欧文字が」を「織りネームには、上部の「Peter Rabbit」の欧文字と共に下部の「familiar」の欧文字が」と改める。)
3 当審における1審原告の追加的な主張の要点
(1) 本件合意に基づく本件商標権(1)ないし(6)の移転登録義務について
ア 本件合意において本件商標権の移転登録義務発生のための条件とされた「ファミリアが、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合」との文言は、1審原告の一方的な解除・解約による第2ライセンス契約解消の場合を除外するに止まり、「1審被告がライセンス契約の定めに基づき、ライセンス契約に従った商品の製造を中止した場合」をも当然含むものと解すべきである。原判決のように、「1審被告が、自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合」を意味すると解すべきではない。
(ア) 原判決の解釈では、当事者の合理的意思に反する不合理な結果が生じる。
 すなわち、上記解釈では、上記移転登録義務発生のための条件が、「単に債務者の意思のみに係る」ものとなり、条件付法律行為である本件合意自体が無効となってしまうはずであり(民法134条)、有効な法律行為を行おうとした当事者の合理的意思に反する結果を招くことになる。
 また、上記解釈によれば、第2ライセンス契約が終了して1審被告が「ピーターラビット」商品の製造販売を行う権利を失い、その結果本件商標権に係る商標を使用することができなくなった場合でも、商標登録のみは1審被告に残るという無意味なねじれ状態が発生する。
 さらに、1審被告が本件商標権を保有しているのは、1審原告と第2ライセンス契約を締結し、その承諾を得たためであるから、第2ライセンス契約終了後は、1審被告が本件商標権の登録名義人である理由がなくなるにもかかわらず、上記解釈によれば、1審被告が登録名義人のままであるという不合理な結果を招くことになる。
(イ) 原判決の解釈は、本件合意締結当時の交渉経過にも合致しない。
 すなわち、上記交渉経過によれば、本件合意は、本件商標権が1審被告名義で登録されていること自体を1審原告が非難するものでないことを確認し、新しいライセンス契約が一方的に1審原告の意思により解約された場合の本件商標権の取扱いに関する1審被告の心配を払拭するためのものにすぎず、第2ライセンス契約が期間満了により終了した場合に本件商標権の移転登録義務が発生しないことまで定めるものではない。
 仮に、本件合意が、1審被告が「ピーターラビット」商品の製造を続ける意思を主観的に有している限り、本件商標権の移転登録義務が発生しないという趣旨のものならば、本件商標権の移転登録義務に関する定めを削除すれば足りたはずである。
イ 本件は、本件合意の定める「ファミリアが、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合」に当たる。
 すなわち、1審原告が、第2ライセンス契約の期間満了の半年以上前の平成11年3月から、第2ライセンス契約改訂の交渉を持ちかけたにもかかわらず、1審被告は、当初何らの反応も示さず、同年7月終わりにようやく交渉に入った後も、不誠実な交渉態度をとり続けた。本来の期間満了日である同年9月末日を迎え、1審原告が、交渉のため契約期間を同年10月19日まで延長することを提案した後も、1審被告は、相変わらず身勝手な態度をとり続け、期間満了を迎えた。その後も、1審原告が、なおトップ会談の機会を設け、譲歩案を提示したにもかかわらず、1審被告は、妥協を拒絶した。このような交渉経過に照らせば、1審被告は、その意思によりライセンス商品の製造を行わないことを決めたものというべきである。
(2) 第2ライセンス契約終了に基づく本件商標権(1)ないし(6)の移転登録義務(当審において拡張された予備的請求)について
 ライセンス契約に基づいてライセンシーが登録を認められた商標権については、上記契約終了に基づく原状回復請求としての上記商標権の移転登録請求が認められることは当然であるところ、1審原告・1審被告間の第2ライセンス契約は、平成11年10月19日に終了したから、1審被告は、同契約に基づき1審被告名義で登録された本件商標権(1)ないし(6)について、1審原告に対する移転登録義務を負う。
 なお、上記(1)ア(ア)記載のとおり、仮に、本件合意が原判決の認定する趣旨のものであるとすれば、本件合意自体が無効となる(民法134条)から、本件合意の存在により、上記移転登録義務が消滅するとはいえない。
(3) 損害額について
 1審被告の主張及びこれに合致する乙71によれば、1審被告におけるピーターラビット商品の出荷高総額は、平成11年までは30億円台半ばで安定的に推移してきたのに、平成12年には、突然1億8600万円余りと割合にして約95%、金額にして約33億円も減少したことになり、極めて不自然である。1審被告は、資本金が6000万円程度の規模の会社であるところ、平成6年から11年まで毎年損失を計上する状態にあったから、仮に、1年間に33億円も売上が減少すれば、現在まで経営を続けられるはずがない。乙71は、1審被告従業員の陳述書にすぎず、客観性がなく、その内容は信用できない。
 なお、1審被告は、1審被告表示を使用した製品を、ポター著作の図柄を使用した正規ライセンス商品と混在させて陳列することにより、正規にライセンスを受けた原告グループの製品であるかのように装い、その顧客吸引力を利用して販売していたから、1審被告が、第2ライセンス契約終了後、その製品に上記図柄を使用しなくなったからといって、上記のような大幅な出荷高の減少の原因になるとは考えられない。
 また、1審原告が、平成12年2月から、1審被告に対し、「Peter Rabbit」のブランド名で子供服の製造販売を行うことは不正競争行為に当たる旨の警告を行ったことは事実であるが、これに対し、1審被告は、不正競争行為を否定すると共に、従前と同様の販売態様を継続していたから、上記警告も、上記のような大幅な出荷高の減少の原因になるとは考えられない。
4 当審における1審被告の追加的な主張の要点
(1) 第2ライセンス契約終了に基づく本件商標権(1)ないし(6)の移転登録義務(当審において拡張された予備的請求)について
 第2ライセンス契約終了に基づく原状回復義務としての本件商標権(1)ないし(6)の移転登録請求については、本件合意により、1審被告は、上記移転登録義務を負わない。
 また、仮に、1審被告が、上記移転登録義務を負うとしても、本件合意の内容によれば、相当の対価の支払との同時履行となるべきであるから、相当の対価の支払がされるまで、本件商標権(1)ないし(6)の移転登録手続を拒絶する。
(2) 不正競争防止法2条1項1号所定の誤認混同のおそれについて
 本件では、1審被告の同被告表示を付した商品と1審原告等の同原告表示を付した商品との間で現実に誤認混同を生じた具体的な例は一つもなく、具体的な取引の実情に基づけば、上記誤認混同のおそれは全くないというべきである。
 特に、本件衣類においては、「ピーターラビット」の表示は襟の表示のみであり、襟及びタグには有名なファミリアの表示があり、打ち消し表示として機能するものであるから、明らかに上記誤認混同のおそれはない。なお、1審被告は、さらに、「当該商品は1審原告のライセンス製品ではない」旨の打ち消し表示を付加するつもりである。
(3) 本件商標権(1)ないし(6)に基づく適用除外について
ア 1審被告は、本件合意に基づき、本件商標権(1)ないし(6)を適法に保有しているから、その登録商標の使用は、意図的に混同を生じさせるような例外的事情がある場合を除き、不正競争行為とはいえない。そして、本件ではそのような例外的事情はない。したがって、1審被告の登録商標の使用は、不正競争行為には当たらない。
 すなわち、原判決も認定するとおり、本件は、1審被告が、自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合に当たるとは認められないのであるから、将来、1審原告及び1審被告間で、本件商標権(1)ないし(6)を1審原告に移転する合意が改めて成立するまでは、1審被告は、上記商標権に係る登録商標を使用し続けることができる。したがって、同使用行為は、原則として、不正競争行為に当たらない。
 そして、本件では、1審被告において意図的に混同を生じさせるような例外的事情は全くない。特に、本件衣類においては、上記(2)のとおり、「ピーターラビット」の表示は襟の表示のみであり、襟及びタグには有名なファミリアの表示があるものであるから、このことは明らかである。
イ 本件商標権(1)は、もと伊藤万株式会社(以下「伊藤万」という。)が保有していたものであるところ、1審被告が自ら同社と交渉した上、同社から代金1010万円で譲り受けたものである。当時、1審原告は、「ピーターラビット」商標には無関心であり、上記譲受けにも関与していない。
 伊藤万は、本件商標権(1)について、ライセンスを行い、有力なライセンシーが実際にその登録商標を使用していたから、同商標は、不使用商標ではなかった。したがって、1審被告が本件商標権(1)を取得していなければ、1審原告及び1審被告とも商標権侵害に問われたはずである。1審被告は、そのような事態を避け、自らの商品の信用を守るために、本件商標権(1)を譲り受けたものである。(なお、伊藤万の出願時ないし1審被告の譲受け時において、1審原告表示が原告グループの商品表示又は営業表示として周知であったとは到底いうことができない。)
 本件商標権(1)は、その指定商品が被服等であり、本件商標権のうちで最も重要なものであるところ、本件商標権(1)の上記取得経緯から見ても、本件商標権を実質的に所有してきたのは1審被告であることが明らかである。
ウ 本件商標権を実質的に所有してきたのが1審被告であることは、乙92ないし94からも明らかである。
 乙92は、1審原告代理人から1審被告宛ての通信文であり、ここでは、1審原告は、本件商標権の実質的な所有者が1審被告であることを認めている。
 また、乙93は、1審被告が1審原告に対し、平成3年9月30日、おもちゃ等を指定商品とする登録第1424712号商標の商標権を代金400万円で譲渡した際の経緯が明らかになる資料である。この資料によると、上記譲渡価格が、名目的な金額ではなく、上記商標権の実質的な対価に基づいて定められたものであることが明らかである。
 さらに、乙94は、1審原告は、当初、出版業のみに関心があり、商品化事業には関心がなかったから、ライセンシーの営業を保護するための商標登録などするつもりがなかったこと、及び長らく1審被告のみが唯一のライセンシーであり、契約品目も多数であったことから、「ピーターラビット」という名称が日本で有名になったのは1審被告の営業活動によるものであることを示している。
第3 当裁判所の判断
1 甲事件請求及び乙事件請求について
 当裁判所も、1審原告の1審被告に対する甲事件請求は、原判決が認容した限度で理由があり、その余は理由がなく、また、1審被告の1審原告に対する乙事件請求は、理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第4 争点に対する当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決の補正等
ア 原判決16頁10行目の「1901年」を「1902年」と、同13行目から14行目にかけての「1903年にピーターラビットの人形について英国特許を取得して」を「ポターが1903年にピーターラビットの人形につき英国特許を取得したのを契機として、その後」とそれぞれ改める。
イ 同17頁4行目の「標準商品化契約書」を「標準商品化権契約書」と、同11行目の「三分間クッキング」を「三分クッキング」と、同12行目の「ことを初め」を「ことのほか」とそれぞれ改め、同20行目の「及び看板」を削除する。
ウ 同18頁1行目の「日本図書普及協会」を「日本図書普及株式会社」と改める。
エ 同19頁22行目末尾の次に、「たとえば、日経産業消費研究所が平成11年1月に行った調査では、ピーターラビットの認知度は83%と高く、既にピーターラビット商品を所有している世帯の割合は、48%に上るなどの結果が出ている。」を加え、同24行目の「同一」を「同一又は実質上同一」と改め、同25行目の「原告表示(1)(3)(4)は、」の次に、「遅くとも、本件の損害賠償請求の対象期間より前である平成11年までには、」を加える。
オ 同20頁10行目の「原告表示」を「1審原告表示(1)(3)(4)」と、同14行目の「同一であり」を「同一又は実質上同一であり」と、同18行目及び19行目の「原告表示」を「1審原告表示(1)(3)(4)」と、同19行目の「同一又は」を「同一又は実質上同一であるか若しくは」と改める。
カ 同21頁4行目の「原告主張」を「1審被告主張」と、同11行目の「甲4ないし6の各1、2、」を「甲2、甲4の1、2、甲5の1、甲6の1、2、」と、同12行目の「甲44ないし57」を「甲44、45、甲47ないし57」と、同14行目の「乙69の1、2」を「乙69の1、2、乙71」と、同16行目の「5月から」を「4月ころから」とそれぞれ改める。
キ 同22頁14行目の「留保する」を「留保される」と改め、同18行目末尾の次に、「上記出願は、既に1審被告と第1ライセンス契約の締結交渉中であった1審原告の承諾を得て行われた。」を加える。
ク 同25頁16行目末尾の次に、「ライセンシーは、最初に1審原告の書面による承諾を取得しない限り、上記の侵害又は模造に関連するいかなる訴訟も提起しないものとする。」を加え、同18行目の「Property」を「本件財産」と、同23行目の「原告」を「1審被告」とそれぞれ改め、同26行目の「登録を得ていた」の次に「(商標登録第1424712号)」を加える。
ケ 同26頁2行目の「同商標権を譲渡し、」の次に「平成4年5月25日、」を加え、同7行目の「譲り受けた。」を「譲り受け、平成9年5月26日、その旨の登録手続を経由した。」と改める。
コ 同27頁4行目冒頭から同32頁5行目末尾までを次のとおり改める。
 「(2) 本件商標権に基づく適用除外について
 ア 以上の認定事実によれば、@第1ライセンス契約は、ピーターラビットに関する原告商品化事業に含まれるものであるところ(争いのない事実)、本件商標権(2)ないし(10)に係る商標は、いずれも、「ピーターラビット」と「PETERRABBIT」を二段書きにしたもの又はピーターラビットのイラストレーションであること、A1審被告による本件商標権(2)ないし(10)についての商標登録の出願は、第1ライセンス契約が締結されるより前にされているが、出願時には、すでに第1ライセンス契約の締結交渉が開始されており、上記出願は、交渉の相手方であった1審原告の承諾を得て行われたこと、B1審被告は、第1ライセンス契約において、ライセンス許諾物品につき、商標登録をすると共に、商標を表示する義務を負担していると解されること、C第1ライセンス契約では、財産(「ピーターラビットのおはなし」等に出てくるポターのイラストレーション)に関連するすべての権利が、契約によって1審被告に許諾されたものを除いて、1審原告に留保されていること、D第1ライセンス契約におけるロイヤルティ料率は、本件商標権の指定商品とそれ以外の商品とを区別することなく、同一であったこと、E本件商標権(7)ないし(10)に係る商標であるピーターラビットのイラストレーションについては、1審原告が著作権を有していること、F第1ライセンス契約も含まれる原告商品化事業において、原告表示(1)(3)(4)は、ポターが著作したピーターラビットの図柄と共に使用されてきたこと、以上の事実が認められる。
 これらの事実によれば、本件商標権(2)ないし(10)は、1審被告が、1審原告との間で第1ライセンス契約を締結するに当たり、1審原告の承諾の下に、これらを出願して登録を得たものと認められ、1審被告が、1審原告との間の第1ライセンス契約とは関係なく独自に取得保持しているものとは認められない。
 1審原告と1審被告は、その後、第2ライセンス契約及び本件合意を締結したが、その段階においても、少なくとも上記@DEFの点は同様であること、また、本件合意においては、1審原告と1審被告は、本件商標権があくまで1審原告の承諾を得て1審被告名義で登録されたものである旨の合意をしていることが認められるから、これらの事実に第1ライセンス契約の終了を受けて第2ライセンス契約が締結されたことを総合すれば、第2ライセンス契約の下においても、1審被告が本件商標権(2)ないし(10)を保有しているのは、1審原告と第2ライセンス契約及び本件合意を締結し、その承諾を得たことを前提とするものと認められ、1審被告が、1審原告との間の第2ライセンス契約等とは関係なく独自に取得保持しているものとは認められない。
 イ また、上記(1)の認定事実によれば、本件商標権(1)は、昭和47年4月11日に伊藤万によって出願され、昭和50年に登録されたが、これらの出願、登録は、1審原告の承諾を得ることなく行われたものであるところ、1審被告は、本件商標権(1)を伊藤万から1010万円で譲り受け、昭和61年(1986年)1月27日移転登録がされたものである。そして、これについても、上記ア@BCDFの点は、本件商標権(2)ないし(10)と同様であること、また、本件合意の成立に当たり、1審原告と1審被告は、本件商標権があくまで1審原告の承諾を得て1審被告名義で登録されたものである旨の合意をしているが、その際本件商標権(1)は特に除外されておらず、本件商標権(1)も本件合意の対象となっていること、以上の事実によれば、本件商標権(1)についても、本件商標権(2)ないし(10)と同様に、1審被告が本件商標権(1)を保有しているのは、1審原告と第1及び第2ライセンス契約並びに本件合意を締結し、少なくともその事後的な承諾を得たことを前提とするものと認められ、1審被告が、1審原告との間の第1及び第2ライセンス契約等とは関係なく独自に取得保持しているものとは認められない。
 ウ そうすると、第2ライセンス契約が既に終了している段階において、1審原告からの不正競争防止法に基づく請求に対し、1審被告が本件商標権(1)ないし(6)を保有していることを抗弁として主張することは、権利の濫用として許されないというべきである。
 エ これに対し、1審被告は、「1審原告は、もともと商標権の取得について関心がなかったから、本件商標権(1)ないし(6)は、実質的にも1審被告に帰属するものであり、上記権利濫用には該当せず、抗弁として機能する。」旨主張する。なるほど、1審被告が指摘するとおり、前記(1)ア認定の第1ライセンス契約では、1審被告が取得する商標登録について、「1審原告も福音館も、上記登録が交付されるかどうかについて保証せず、また、当該登録の拒絶はいかなる方法でも本契約に基づくライセンシーの義務に影響を及ぼさない。」とされており、また、1審原告が、本件商標権(2)ないし(10)の登録維持について費用を支出したとは認められない。しかしながら、前記(1)アの認定事実によれば、第1ライセンス契約では、1審原告は、1審被告に対して、ライセンシーの費用負担による商標登録出願義務、商標表示義務を課していると解されるから、上記「」内の条項は、それを前提にして、商標が登録されるかどうかが契約締結の時点では不確定であることから、それが第1ライセンス契約の効力に影響を及ぼさないことを注意的に規定したにすぎないものと認められ、また、登録維持費用を1審原告が支出しないことも、上記義務を1審被告が負担することによれば当然であるといえる。したがって、1審原告は、我が国において、本件商標権の取得について関心がなかったということはできず、上記ア、イ認定のとおり、1審被告は、1審原告との間の第1及び第2ライセンス契約等とは関係なく、本件商標権を独自に取得したものとはいえないから、1審原告の上記主張は理由がない。
 オ また、1審被告は、「本件合意においては、1審被告が本件商標権を有すること、本件商標権に関しては、1審被告の方からライセンス契約の解消を望まない限り、1審原告に返還する義務はないこと、本件商標権は、第2ライセンス契約の対象ではないことをそれぞれ確認しているから、本件商標権(1)ないし(6)は、実質的にも1審被告に帰属するものであり、同様に上記抗弁として機能する。」旨主張する。
 前記(1)で認定したとおり、本件合意には、1審被告が本件商標権の所有者であること、本件商標権が第2ライセンス契約の対象ではないこと、1審被告が、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合、1審被告は相互に合意する合理的な条項及び条件に従って本件商標権を1審原告に移転することが明記されている。これに、上記ア、イで認定した1審被告が本件商標権を取得するに至った経緯を総合すると、本件合意の趣旨は次のとおりであると認められ、後記3(1)認定の本件合意に至る経緯にも、この認定を左右するような特段の事情は認められない。
 すなわち、本件合意のうち、「1審被告が本件商標権を保有する」旨の定めは、1審被告が本件商標登録を出願して登録され、本件商標権を保有していることを定めるものと認められるが、上記ア、イで認定した1審被告が本件商標権を取得するに至った経緯からすると、1審被告が、1審原告とは関係ない独立した立場で本件商標権を保有していることまで定めているとは認められない。また、「本件商標権は、第2ライセンス契約の対象ではない」旨の定めは、1審被告が本件商標権を保有しているので、他の著作権などの権利のように、その権利自体をライセンスの対象としているものではないことを定めるものと認められるが、上記ア、イで認定した1審被告が本件商標権を取得するに至った経緯からすると、1審被告が、第1及び第2ライセンス契約等とは無関係に、独立した立場で本件商標権を保有していることまで定めているとは認められない。さらに、「1審被告が、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合、1審被告は相互に合意する合理的な条項及び条件に従って本件商標権を1審原告に移転する」旨の定めは、1審被告が、一定の場合に、本件商標権を1審原告に移転することを定めたことが認められるが、上記ア、イで認定した1審被告が本件商標権を取得するに至った経緯からすると、1審被告が、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合以外に、第2ライセンス契約が終了しても、1審原告に対して本件商標権(1)ないし(6)を上記抗弁として主張することができることまで定めたものとは認められない(「1審被告が、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合」がどのような意味を有するかについては、後記3認定のとおりであるが、以上述べたところは、上記文言の解釈いかんにかかわらないというべきである。)。
 したがって、1審被告の上記主張も理由がない。」
サ 同32頁8行目の「原告表示と同一又は」を「1審原告表示(1)(3)(4)と同一又は実質上同一であるか若しくは」と、同11行目の「23、32、」を「23、」と、同11行目から12行目にかけての「甲35ないし41の各1、2」を「甲36ないし41の各1、2」と、同12行目の「92」を「92、乙71」とそれぞれ改める。
シ 同33頁1行目の「ライセンス契約」を「第1及び第2ライセンス契約」と、同3行目の「ライセンス契約」を「第2ライセンス契約」と、同4行目の「本件商標権」を「本件商標権(1)(2)」と、同5行目の「主張することは許されないもの」を「主張することは権利の濫用として許されない」と、同13行目の「84、」を「84、90、」と、同21行目の「商標権」を「本件商標権」とそれぞれ改める。
ス 同34頁1行目、4行目及び23行目の各「商標権」を「本件商標権」と、同19行目の「本件商標」を「本件商標権」とそれぞれ改める。
セ 同35頁2行目及び7行目の「商標権」を「本件商標権」と、同14行目冒頭から同20行目末尾までを「イ(ア) 1審原告は、第2ライセンス契約の更新時期(平成11年9月30日)が近づいてきたことから、上記契約に基づき同日より3か月以上前である同年6月上旬、1審被告に対し、第2ライセンス契約を同年9月30日限り終了させた上、契約内容を見直し、新たな契約書の作成に向けて協議したい旨通知した。(イ) そして、1審原告は1審被告との間で上記契約内容の交渉を開始し、当初、@1審被告に対し独占的権利を付与するライセンス製品の対象を子供用被服に限定し、その余のライセンス製品については非独占的権利とすること、A契約が期間満了等の事由により終了した場合には、本件商標権を1審原告に譲渡すること、B期間は2年間とすること等の条件を提示した。
 これに対し、1審被告としては、ライセンス製品全部につき従前どおり独占的権利の付与を希望するとともに、本件商標権の契約終了後の帰属問題は本件合意に基づいて処理されるべきであるとの基本的な立場を堅持していたことから、上記交渉は容易には進展しなかった。(ウ) そこで、1審原告と1審被告とは、第2ライセンス契約の終了時期を延長した上、上記交渉を継続したが合意には達せず、1審原告は1審被告に対し、第2ライセンス契約を更新しない旨通知し、同年10月19日限り上記契約は終了した。(エ) しかるに、同年11月上旬にも1審原告と1審被告との間のトップ会談がイギリスにおいて開催され、1審被告は1審原告に対し、@独占的権利の対象であるライセンス製品を子供用アパレル、子供用下着等9点にすること、A契約終了後の本件商標権の譲渡の問題は、本件合意に基づいて処理すること、B期間は3年間とすること等の条件を提案したところ、1審原告は、@上記ライセンス製品を子供用アパレル等5点にすること、A契約が期間満了等の事由により終了した場合には、本件商標権を1審原告に譲渡すること、B期間は3年間とすることの譲歩案を提示したが、結局、合意には至らなかった。」と、同21行目の「ライセンス契約」を「第1ライセンス契約」と、同25行目の「(1)ア(エ)」を「(1)ア(イ)」と、同26行目の「ドラフト案」を「1審被告第2ドラフト案」とそれぞれ改める。
ソ 同36頁18行目の「本件全証拠によるも」を「前記(1)のイ認定のとおり」と改める。
タ 同37頁6行目及び8行目の「ライセンス契約」を「第2ライセンス契約」と、同20行目から21行目にかけての「1億8646万8800万円」を「1億8646万8800円」とそれぞれ改める。
チ 同38頁18行目の「そして、」を「さらに、乙71には、1審被告従業員の陳述記載のみならず、それを裏付けるコンピューター資料写しが添付されているから、乙71に客観的な裏付けがないと直ちにいうことはできない。そして、」と改める。
ツ 同39頁14行目の「損害賠償請求権を有しないことを」を「損害賠償請求権並びに廃棄請求権を有しないことの」と改め、同23行目の「損害賠償請求権」の次に「並びに廃棄請求権」を加える。
テ 同40頁8行目の「この物件目録の変更は、」から同10行目末尾までを「この物件目録の変更は、新たに物件目録として襟の織りネームの態様のみが異なる物件を追加したにすぎないから、従前の請求との間で請求の基礎に変更がなく、かつ上記変更により著しく訴訟手続を遅滞させることにはならないというべきである。したがって、上記変更が仮に訴えの変更に該当するとしても許されるべきである。」と改める。
ト 同40頁16行目冒頭から同41頁6行目末尾までを次のとおり改める。
 「ア 別紙物件目録1記載の子供服は、同目録記載のとおり、襟部分に「Peter Rabbit<R>/M/familiar」の織りネーム(黄色地に茶色文字)が縫い付けられ、吊り札に「familiar/ONE SMILE FITS ALL」(青色部分に白色の文字)及び「familiar」(白色部分に青色の文字)のタグが付されているものである。
 また、別紙物件目録2記載の子供服は、同目録記載のとおり、襟部分に「Peter Rabbit/familiar」の織りネーム(白地に青色文字)が縫い付けられ、吊り札に「familiar/ONE SMILE FITS ALL」(青色部分に白色の文字)及び「familiar」(白色部分に青色の文字)のタグが付されているものである。
 そうすると、本件衣類に縫い付けられた織りネームにはいずれも、「Peter Rabbit」と表記されているものと認められる。
 イ 前記1において認定判断したとおり、1審原告表示(1)(3)は、1審原告及び原告グループの商品表示として広く知られており、また、本件衣類に縫い付けられた織りネームに付された「Peter Rabbit」の表記は、1審原告表示(1)(3)とは字体及び大文字小文字の違いがあるものの、1審原告表示(1)(3)と極めて類似しているというべきである。」
ナ 同41頁7行目及び8行目の各「原告表示」を「1審原告表示(1)(3)」と改め、同22行目冒頭から同24行目末尾までを次のとおり改める。
 「ウ なお、前記2で述べたとおり、1審原告の不正競争防止法に基づく請求に対して、1審被告が本件商標権(1)の登録商標権者であることを抗弁として主張することは、権利の濫用として許されないと解すべきである。」
(2) 当審における1審原告及び1審被告の主張に対する判断
ア 本件合意に基づく本件商標権(1)ないし(6)の移転登録義務について
(ア) 1審原告は、「本件合意において、本件商標権の移転登録義務が発生する条件を、原判決のように、「1審被告が自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合」と解すべきではない。」旨主張する。
a 具体的には、1審原告は、まず、「原判決の解釈では、当事者の合理的意思に反する不合理な結果が生じる。すなわち、@上記解釈では、移転登録義務発生の条件が、「単に債務者の意思のみに係る」ものとなり、条件付法律行為である本件合意自体が無効となってしまうはずであり(民法134条)、有効な法律行為を行おうとした当事者の合理的意思に反する結果を招く。Aまた、上記解釈によれば、第2ライセンス契約が終了して1審被告が「ピーターラビット」商品の製造販売を行う権利を失い、その結果本件商標権に係る商標を使用することができなくなった場合でも、商標登録のみは1審被告に残るという無意味なねじれ状態が発生する。Bさらに、1審被告が本件商標権を保有するのは、1審原告と第2ライセンス契約を締結し、その承諾を得たためであるから、第2ライセンス契約終了後は、1審被告が本件商標権の登録名義人である理由がなくなるにもかかわらず、上記解釈によれば、1審被告が登録名義人のままであるという不合理な結果を招く。」旨主張する。
 しかしながら、@については、民法134条は、「其条件が単に債務者の意思のみに係るとき」(いわゆる純粋随意条件)について規定するものであるところ、本件合意における本件商標権の移転登録義務発生のための停止条件は、「1審被告が自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合」というものであって、債務者の行為に係る事実を停止条件としているものである(いわゆる単純随意条件)から、上記解釈を前提としても、本件合意には民法134条が適用される余地はないと解すべきである。
 また、ABについては、本件合意の文言及びその締結経過に鑑みれば、1審原告の指摘する点を考慮しても、本件合意に関する前記3の(2)、(3)の認定を何ら左右しないというべきである。元来、本件合意は、「ファミリアが、その意思により、ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合、ファミリアはウォーンとファミリアの間で相互に合意する合理的な条項及び条件に従って前記商標をウォーンに移転しかつ譲渡する。」というものであるから、例えば、第2ライセンス契約終了後に、1審原告と1審被告との間で本件商標権(1)ないし(6)についての具体的な譲渡条件が合意できない場合にも、本件商標権(1)ないし(6)の登録名義のみが1審被告に残るという事態が発生するものである。したがって、本件合意は、そのような結果が生じることを容認しているものと解さざるを得ない。
b 次に、1審原告は、「本件合意締結当時の交渉経過によれば、本件合意は、新しいライセンス契約が一方的に1審原告の意思により解約された場合の本件商標権の取扱いに関する1審被告の心配を払拭するためのものにすぎず、第2ライセンス契約が期間満了により終了した場合に本件商標権の移転登録義務が発生しないことまで定めるものではない。仮に、本件合意が、「ピーターラビット」商品の製造を続ける意思を1審被告が主観的に持っている限り、本件商標権の移転登録義務が発生しないという趣旨のものならば、本件商標権の移転登録義務に関する定めを削除すれば足りたはずである。」旨主張する。
 しかしながら、前記3の(1)、(2)認定のとおり、@本件合意は、1審被告の提案を契機に作成されたものであること、A1審原告は、当初、1審被告提案に係る1審被告第2ドラフト案を拒み、対案として、本件商標権を移転する場合を、ライセンス契約の期間が満了した場合、ライセンス契約が解約された場合、1審原告が保有する著作権の保護期間が期間満了により消滅した場合のいずれか最初に発生した場合とする条項を提案していたこと、Bしかし、最終的には、1審原告は、契約の更新を優先させて、当初拒んでいた「In the event that Familiar decides, of it's own will,」の部分を含む1審被告提案に係る1審被告第2ドラフト案を了承し、合意に至ったこと、以上の事実が認められるのであるから、このような交渉経過に本件合意の文言も総合すれば、本件合意は、第2ライセンス契約が期間の満了により終了した場合には本件商標権の移転登録義務は発生しないという趣旨を定めるものであることは、明らかである。このような趣旨を規定するには、1審原告指摘のように、本件商標権の移転登録義務に関する定めを削除する方法も考えられる(現に、1審被告は、そのようなドラフト案も提示している。)が、そのような方法を採用しなかったからといって、上記のような趣旨が規定されたものではないということはできない。
(イ) また、1審原告は、「1審原告は、第2ライセンス契約の期間満了の半年以上前の平成11年3月から、第2ライセンス契約改訂の交渉を持ちかけ、また、上記交渉のため契約期間を同年9月末日から10月19日まで延長することを提案したにもかかわらず、1審被告は、相変わらず身勝手な態度をとり続け、期間満了を迎えた。その後も、1審原告が、なおトップ会談の機会を設け、譲歩案を提示したにもかかわらず、1審被告は、妥協を拒絶した。このような交渉経過に照らせば、1審被告は、その意思によりライセンス商品の製造を行わないことを決めたものというべきである。」旨主張する。
 しかしながら、前記3の(1)イ認定のとおり、本件において、第2ライセンス契約の内容の見直しを求め、かつ、第2ライセンス契約を更新しない旨通知したのは、1審原告である。そして、上記1審原告の行動を受けて開始された1審原告・1審被告間の交渉において、合意の成立に向けて双方が譲歩するなどして努力したが、結局妥協点を見い出し得ないまま交渉は不成立に終わったものであり、この交渉経過につき1審被告の交渉態度のみが一方的に非難されるべき筋合いではないというべきである。
(ウ) したがって、1審原告の上記主張は、その前提を欠き、理由がない。
イ 損害額について
 1審原告は、「1審被告の主張及びこれに合致する乙71によれば、1審被告におけるピーターラビット商品の出荷高総額は、平成11年まで30億円台半ばで安定的に推移してきたのに、平成12年には、突然1億8000万円余りに極度に減少したことになり、極めて不自然であり、乙71の内容は信用できない。1審被告の経営規模及び経営状況から見て、仮に、1年間に33億円も売上が減少すれば、現在まで経営を続けられるはずがない。」などと主張する。
 しかしながら、乙71は、1審被告従業員の陳述記載ではあるものの、その内容を裏付けるコンピューター資料写しが添付されているから、あながち乙71に客観性がないということはできない。これに加えて、前記認定のとおり、1審被告は、第2ライセンス契約終了後は、ポターが著作したピーターラビットの図柄は使用しておらず、1審被告表示(1)ないし(3)のみを使用した商品を製造販売していたから、商品の顧客吸引力は大幅に減少したものと考えられること(1審被告は、上記商品を、他社が1審原告の許諾を得て製造したポターが著作したピーターラビットの図柄が付された商品とともに展示して、販売しており、原告グループの商品と1審被告の商品との出所が同じであるかのような誤解を消費者に与えていたものであるが、そのことを考慮に入れてもなお、上記のようにいわざるを得ない。)、また、1審原告は、平成12年2月から、1審被告に対して、「Peter Rabbit」のブランド名で子供服の製造販売を行うことは不正競争行為に当たる旨の警告を行っていたこと(証拠(甲26、27)によれば、上記警告に対し、1審被告は、不正競争行為を否定していたことが認められるが、そのことを考慮してもなお、上記警告は、1審被告のピーターラビット商品の売上に影響を与えたと考えるのが自然である。)を考慮すれば、乙71の内容が信用できないとまではいうことができない。なお、企業の経営は、単に売上高のみならず、他の様々の経済的要因の影響を受けるものであるから、「1審被告のピーターラビット商品の売上が1年間に33億円も減少すれば、直ちに1審被告が経営を続けることが困難になるはずである。」と断定することはできない。したがって、1審原告の上記主張は理由がない。
ウ 不正競争防止法2条1項1号所定の誤認混同のおそれについて
 1審被告は、「本件では、現実に誤認混同を生じた具体的な例は一つもなく、具体的な取引の実情に基づけば、誤認混同のおそれは全くない。特に、本件衣類においては、「ピーターラビット」の表示は襟の表示のみであり、襟及びタグには有名なファミリアの表示があり、打ち消し表示として機能するものであるから、明らかに誤認混同のおそれがない。なお、1審被告は、さらに、「当該商品は1審原告のライセンス製品ではない」旨の打ち消し表示を付加するつもりである。」旨主張する。
 しかしながら、前記認定のとおり、1審原告表示(1)(3)(4)は、1審原告等の商品表示として広く知られていること、1審被告表示(1)ないし(4)と1審原告表示(1)(3)(4)は同一又は実質的に同一であるか若しくは極めて類似していること、及び1審被告は1審原告からライセンスを受けて営業を行ってきたことによれば、現実の誤認混同例を挙げるまでもなく、1審被告による1審被告表示(1)ないし(4)の使用は、1審被告が原告グループの一員であるとの誤信を生じさせるおそれがあるものであることが明らかである。本件衣類において、「Peter Rabbit」の表示に加えて「ファミリア」の表示がされていても、現に1審被告が1審原告からライセンスを受けて営業を行ってきたことも考慮すると、1審被告が1審原告と同一の主体であるとの誤信は生じないとしても、1審被告が原告グループの一員であるとの誤信を生じさせるおそれがあることに何ら変わりない。さらに、1審被告が、1審被告表示(1)ないし(4)の使用に際して、「当該商品は1審原告のライセンス製品ではない。」旨の表示を付加するとしても、その具体的態様(たとえば、位置、大きさ、表示内容等)を認めるに足りる証拠は一切ない以上、そのことによって誤認混同のおそれがないとは到底いうことができない。したがって、1審被告の上記主張は理由がない。
エ 本件商標権(1)ないし(6)に基づく適用除外について
(ア) 1審被告は、「1審被告は、本件合意に基づき、本件商標権(1)ないし(6)を適法に保有しているから、その登録商標の使用は、意図的に混同を生じさせるような例外的事情がある場合を除き、不正競争行為とはいえない。そして、本件ではそのような例外的事情はない。したがって、1審被告の登録商標の使用は、不正競争行為には当たらない。」旨主張する。
 しかしながら、前記認定のとおり、1審被告が本件商標権(1)ないし(6)を取得するに至った経緯からすると、本件合意は、1審被告が、1審原告とは関係なく独立した立場で本件商標権を保有していることや、本件の場合のように第2ライセンス契約が期間の満了により終了した後において、1審被告が、1審原告の不正競争防止法上の差止請求等に対して本件商標権(1)ないし(6)を保有していることを抗弁として主張することができることまで定めたものとは認められない。したがって、1審被告の上記主張は、独自の見解であり、到底採用することはできない。
(イ) また、1審被告は、「本件商標権(1)は、もと伊藤万が保有していたものであるところ、1審被告が自ら同社と交渉した上、同社から代金1010万円で譲り受けたものである。また、現に伊藤万の有力なライセンシーが上記登録商標を使用していたから、1審被告が本件商標権(1)を取得していなければ、1審原告及び1審被告とも商標権侵害に問われたはずである。本件商標権(1)は、本件商標権のうちで最も重要なものであるところ、本件商標権(1)の上記取得経緯から見ても、本件商標権を実質的に所有してきたのは1審被告であることが明らかであり、1審原告の不正競争防止法に基づく差止請求等に対し、本件商標権は抗弁として機能する。」旨主張する。
 しかしながら、前記2の(2)認定のとおり、本件商標権(1)についても、本件商標権(2)ないし(10)と同様に、1審被告が本件商標権(1)を保有しているのは、1審原告と第1及び第2ライセンス契約並びに本件合意を締結し、少なくともその事後的な承諾を得たことを前提とするものと認められ、1審被告が、1審原告との間の上記第2ライセンス契約等とは関係なく独自に取得保持しているものとは認められない。したがって、1審被告が、1審原告の不正競争防止法に基づく差止請求等に対し、本件商標権(1)を保有していることを抗弁として主張することは権利濫用というべきであるから、「本件商標権を実質的に所有してきたのは1審被告であり、上記抗弁として機能し得る。」ということはできない。
(ウ) さらに、1審被告は、「本件商標権を実質的に所有してきたのが1審被告であることは、乙92ないし94からも明らかである。」旨主張する。
 しかしながら、1審被告が本件商標権を保有しているとしても、1審原告の不正競争防止法上の差止請求等に対し、本件商標権の存在を抗弁として主張することは権利濫用として許されないことは、既に説示したとおりである。しかるに、乙92及び乙93には上記権利濫用の評価をくつがえすに足りる具体的な事実は何ら記載されていない。
 もっとも、乙94は、「マーチャンダイジングライツレポートbR07」(昭和61年・商品化権資料センター発行)収録の河野詮著「変貌するライセンス市場(2)―ピーター・ラビットと福音館書店」と題する資料であり、同資料には、「福音館書店では出版当初、クリアーしていたのは出版権だけで、商品化権と呼ばれる権利については全く関心がなかったようだ。」、「現在まで「ピーター・ラビット」のライセンシーは日本ではファミリア1社しかない。契約当初の1年目に、福音館に支払われた使用料は45万円しかなく、神戸のファミリア本社との交渉のための旅費その他の経費を差し引くと、全くの赤字だったという。ところが2年目の後半から売れ行きが伸び始め、現在ファミリアの「ピーター・ラビット商品」は、英国からの輸入品であるウェッジウッドの陶器なども含め約300品目、年間売り上げ高約20〜25億円にのぼっている。」、「ところが、「ピーター・ラビット商品」の売り上げが伸びてゆくにつれて、ピーター・ラビットのファンが全国的に増えはじめ、それが福音館の本業である絵本の発行部数にはね返りここ10年間でかなりの伸びを示した。」等の記載がある。しかしながら、上記記載のみをもっては、1審原告が当初商品化事業に関心がなかったことを認めるに足りず、むしろ、1審原告は、現に原告商品化事業に関して1審被告と第1ライセンス契約を締結しているのであるから、商品化事業に関心がなかったとは到底いえない。また、1審原告が「ピーターラビット」という名称を日本で有名にしたことにつき多大の貢献をしたとしても、そのことから直ちに上記権利濫用の評価をくつがえすことはできない。
 したがって、1審被告の上記主張は理由がない。
2 当審において拡張された予備的請求(第2ライセンス契約終了に基づく本件商標権(1)ないし(6)の移転登録義務)について
 1審原告は、「1審原告・1審被告間の第2ライセンス契約は、平成11年10月19日に終了したから、1審被告は、同契約の終了による原状回復請求権に基づき1審被告名義で登録された本件商標権(1)ないし(6)について、1審原告に対する移転登録義務を負うものである。なお、仮に、本件合意が原判決の認定する趣旨のものであるとすれば、本件合意自体が無効となる(民法134条)から、本件合意の存在により、上記移転登録義務が消滅するとはいえない。」旨主張する。
 しかしながら、第2ライセンス契約と同日に締結された本件合意は、本件商標権の返還義務に関して、第2ライセンス契約に対する特約と位置づけられるべきところ、前記3認定のとおり、本件合意によれば、本件の場合においては、1審被告は、本件商標権(1)ないし(6)について、1審原告に対する移転登録義務を負担しないものである。また、本件合意に民法134条が適用されないことは、前記1(2)ア(ア)a(20〜21頁)説示のとおりである。したがって、1審原告の上記主張は理由がない。
3 結論
 以上によれば、1審原告の1審被告に対する甲事件請求は、原判決が認容した限度で理由があり、その余は理由がなく、また、1審被告の1審原告に対する乙事件請求は、理由がないから、原判決は相当であって、1審原告及び1審被告の各本件控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却することとする。また、当審において拡張された予備的請求は理由がないから、これを棄却することとする。よって、主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第3民事部
 裁判長裁判官 北山元章
 裁判官 清水節
 裁判官 沖中康人
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