判例全文 line
line
【事件名】化粧品「アザレ」の商標事件C
【年月日】平成16年3月11日
 東京地裁 平成13年(ワ)第21187号 不正競争行為差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 平成16年2月10日)

判決
原告 株式会社アザレインターナショナル
原告訴訟代理人弁護士 野邊寛太郎
同 村岡みち代
同 楠眞佐雄
同 本郷誠
同 田中正和
原告補助参加人 B
原告補助参加人 C
上記原告補助参加人ら訴訟代理人弁護士 川島清嘉
同 川島志保
同 関本和臣
同 中田祐児
同 島尾大次
被告 アザレ東京株式会社
被告 アザレアゼット株式会社
被告 アザレウイング有限会社
被告 アザレ武蔵野株式会社
被告 G
被告 アザレプロダクツ株式会社
被告 共和化粧品工業株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士 濱崎憲史
同 濱崎千恵子


主文
1 被告アザレ東京株式会社、同アザレアゼット株式会社、同アザレウイング有限会社及び同アザレ武蔵野株式会社は、別紙表示目録1ないし3記載の各表示を付した化粧品、石けん類又は香料類を販売してはならない。
2 被告アザレプロダクツ株式会社及び同共和化粧品工業株式会社は、別紙表示目録1ないし3記載の各表示を付した化粧品、石けん類又は香料類を製造、出荷又は販売してはならない。
3 被告アザレ東京株式会社、同アザレアゼット株式会社、同アザレウイング有限会社、同アザレ武蔵野株式会社及び同アザレプロダクツ株式会社は、別紙表示目録1ないし3記載の各表示を付した化粧品、石けん類及び香料類を廃棄せよ。
4 被告アザレ東京株式会社は、東京法務局渋谷出張所平成14年9月5日受付をもってした同被告の設立登記中、「アザレ東京株式会社」なる商号の抹消登記手続をせよ。
5 被告アザレアゼット株式会社は、東京法務局港出張所昭和60年4月11日受付をもってした同被告の設立登記中、「アザレアゼット株式会社」なる商号の抹消登記手続をせよ。
6 被告アザレウイング有限会社は、東京法務局中野出張所昭和61年5月22日受付をもってした同被告の設立登記中、「アザレウイング有限会社」なる商号の抹消登記手続をせよ。
7 被告アザレ武蔵野株式会社は、東京法務局立川出張所昭和57年10月8日受付をもってした同被告の設立登記中、「アザレ武蔵野株式会社」なる商号の抹消登記手続をせよ。
8 被告アザレプロダクツ株式会社は、大阪法務局八尾出張所昭和60年7月1日受付をもってした同被告の設立登記中、「アザレプロダクツ株式会社」なる商号の抹消登記手続をせよ。
9 被告アザレプロダクツ株式会社及び同共和化粧品工業株式会社は、原告に対し、連帯して18億3737万5392円及びこれに対する平成13年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 被告アザレ東京株式会社、同アザレアゼット株式会社、同アザレウイング有限会社、同アザレ武蔵野株式会社は、原告に対し、連帯して、4億2900万円及びこれに対する平成13年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
11 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
12 訴訟費用については、原告と被告Gとの間に生じたものは原告の負担とし、原告とその余の被告らとの間に生じたものはこれらの被告らの連帯負担とする。

事実及び理由
第1 原告の請求
1 主文第1項と同じ。
2 被告G、同アザレプロダクツ株式会社及び同共和化粧品工業株式会社は、別紙表示目録1ないし3記載の各表示を付した化粧品、石けん類又は香料類を製造、出荷又は販売してはならない。
3 被告アザレ東京株式会社、同アザレアゼット株式会社、同アザレウイング有限会社、同アザレ武蔵野株式会社、同G、同アザレプロダクツ株式会社及び同共和化粧品工業株式会社は、別紙表示目録1ないし3記載の各表示を付した化粧品、石けん類及び香料類を廃棄せよ。
4 主文第4項ないし第8項と同じ。
5 被告G、同アザレプロダクツ株式会社及び同共和化粧品工業株式会社は、原告に対し、連帯して18億6121万7534円及びこれに対する平成13年10月20日(被告ら全員に訴状が送達された日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 主文第10項と同じ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、別紙表示目録1ないし3記載の各表示(以下、それぞれを「本件表示1」などといい、これらを併せて「本件各表示」という。)は、自己の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものであると主張して、不正競争防止法2条1項1号、3条及び4条に基づき、被告らに対し、本件各表示を付した化粧品等の製造、販売等の差止め及び製品の廃棄、並びに「アザレ」を含む被告らの商号の抹消登記手続を求めるとともに損害賠償を求めている事案である。
1 前提となる事実関係(当事者間に争いがない事実等。証拠により認定した事実については、末尾に証拠を掲げた。)
(1) 当事者
ア アザレインターナショナルは、昭和52年10月ころに、個人企業として創業され、本件各表示を付した化粧品、石けん類及び香料類(以下これらを総称して「アザレ化粧品」という。)の販売を開始した。その後、昭和53年3月に有限会社アザレインターナショナルが設立され、昭和57年1月20日には組織変更により株式会社である原告が設立された。
 現在の原告代表者であるA(以下「A」という。)は、有限会社アザレインターナショナルの時代及び原告設立後の期間を通じて代表者の地位にあった。
イ 被告アザレ東京株式会社(以下「被告アザレ東京」という。)は平成14年9月5日に、同アザレアゼット株式会社(以下「被告アザレアゼット」という。)は昭和60年4月11日に、同アザレウイング有限会社(以下「被告アザレウイング」という。)は昭和61年5月22日に、同アザレ武蔵野株式会社(以下「被告アザレ武蔵野」という。)は昭和57年10月8日に、それぞれ設立登記をした会社である。
ウ 被告G(以下「被告G」という。)と亡I(以下「I」という。)は、平成5年4月20日に婚姻届をした夫婦であったが、平成9年11月4日、Iは死亡した。原告補助参加人B(以下「補助参加人B」という。)及び同C(以下「補助参加人C」という。)は、Iと先妻Jとの間の子である(以下、両名を「補助参加人ら」という。)。
エ 被告アザレプロダクツ株式会社(以下「被告アザレプロダクツ」という。)は、昭和60年7月1日に設立された各種化粧品の製造販売等を目的とする株式会社であり、被告共和化粧品工業株式会社(以下「被告共和化粧品」という。)は、昭和34年2月25日に設立された各種化粧品の製造販売等を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 被告アザレ東京は、平成12年4月1日ころから、被告アザレプロダクツ製造に係る「アザレ」の表示を付した化粧品、石けん類又は香料類(以下「被告製品」という。)を仕入れ、被告アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野に販売し、同被告らはそれぞれ傘下の販売員を通じて被告製品を消費者に販売している(甲29、30、78、134ないし136、弁論の全趣旨)。
2 争点及び当事者の主張
(1) 本件各表示は原告の商品等表示として、需要者の間に広く認識されているか
(原告及び補助参加人らの主張)
ア アザレ化粧品の創業と本件各表示の考案
(ア) Iは、昭和37年ころポーラ化粧品を退職して、A、Aの夫であったK、L、Mらと「ヴァロー化粧品」を創業した。ところが、IとMとの間で「ヴァロー化粧品」の経営方針をめぐって対立が生じたり、「ヴァロー」に別の商標権者がいることが判明し、事業の継続が困難となったため、AとIは、昭和45年ころ、「ヴァロー化粧品」の製造販売をやめて、有限会社ジュポンファーイースト(以下「ジュポン社」という。)を設立し、「ジュポン化粧品」の販売を行うようになった。
 ジュポン社では、スキンケアとメイクアップが同時にできて手軽に使え、化粧品公害の心配のない、画期的な水溶性のファンデーションの開発に成功し、これを「エレガンスカラー」と名付けて発売した。ジュポン社は、当初永田美研工業にOEMで「エレガンスカラー」の生産を依頼したが、同社が商品の横流しをしたため、被告共和化粧品と製造請負契約を締結し、同様に同被告に「エレガンスカラー」をOEMで製造させるようになった。この「エレガンスカラー」はよく売れ、ジュポン社の顧客層は、茨城県から熊本県までの広い範囲に広がっていった。
 ところが、「ジュポン」商標の指定商品に化粧品が入っていなかったことや、米国の大手化学メーカー「デュポン」と商標の称呼が類似している等の問題があったため、事業を継続することが困難となり、昭和50年ころ、上記両名は、化粧品販売事業からいったん撤退することになった。
(イ) しかしながら、N(以下「N」という。)などジュポン社時代の販売店の熱心な勧誘があったため、A及びIは、再度化粧品の製造販売事業に乗り出すこととしたが、過去に商標で大きな失敗をしていたことから、二度とそのようなことが生じないようにするため、創業に当たっては、消費者に受け容れられ、後々問題が起きないような商標の考案に重きを置いた。そして、3文字の語感がよいことや、「ア」という文字で始まると縁起がよいと考えて、イスラエルの地名の「ナザレ」から「アザレ」、「AZARE」という表示を考案し、本件各表示と同一の商標をIを商標権者として商標登録した(以下本件各表示と同一の登録商標を「本件各商標」といい、その商標権を「本件各商標権」という。)。そして、A及びIはアザレ化粧品の販売を開始した。
(ウ) このように、本件各表示の考案と原告の設立、そして、原告による本件各表示を使用したアザレ化粧品の製造販売は、密接不可分の関係にあり、本件各表示は、アザレ化粧品の出所が原告であることを明らかにする目的で考案され、原告以外の者が使用することを想定していないものである。
イ 本件各表示の使用
(ア) 原告の前身である個人経営のアザレインターナショナルは、昭和52年10月15日、「アザレグレイスカラー」を被告共和化粧品にOEM製造させて販売し始めた。この化粧品はA及びIがジュポン社の時代に開発し、被告共和化粧品にOEM製造させていた「エレガンスカラー」と同様の水溶性ファンデーションであり、被告共和化粧品との製造契約の内容もジュポン社の時代とほとんど同じ内容であった。その後においても、新製品の商品企画は原告が立てていたもので、被告共和化粧品は原告の指示に従って製品化を行っていたにすぎない。
(イ) そして、原告が販売するアザレ化粧品は、他社の化粧品と区別するために、すべての製品について自然派化粧品を標榜し、原告の広告宣伝活動の結果、本件各表示は、原告の製造販売するアザレ化粧品が自然派化粧品であることの品質を保証する役割を果たしてきた。
(ウ) 商品等表示を「使用する」とは、単に表示を付した商品の製造又は販売に関与しているというだけでは足らず、当該商品の出所が表示の使用者自身にあることが対外的に表示されている状態で商標を使用することが必要であるところ、そのような意味において本件各表示を使用していたのは原告以外にない。被告共和化粧品が製造及び梱包の場面で本件各表示を使用しているとしても、法的評価においては、原告による表示使用の概念に包含されてしまい、独自の使用とはいえないものである。
ウ 商標使用料の負担
(ア) 原告とIの間では、本件各表示は原告のみが使用するという約束がされていた。そして原告は、昭和54年1月ころから、Iに商標使用料を支払うようになり、その後同人が節税を目的として有限会社ワンダフル(以下「ワンダフル」という。)を設立し、本件各表示を含むアザレ化粧品関係の商標を無償貸与したので、昭和57年3月ころからは同社に本件各表示を含む商標使用の対価として商標使用料を支払うようになった。
(イ) 原告とワンダフルとの間には本件各商標を含む商標の使用許諾契約が締結されており、そのなかで、原告は、ワンダフルに対して、小売定価の2パーセントを商標使用料として支払う旨を約している。原告は、各本舗に小売定価の25パーセントでアザレ化粧品を販売しているので、ワンダフルに支払っている商標使用料は、原告の売上高の8パーセントにもなり、その額は、昭和57年から平成11年までの18年間で64億円もの巨額に及んでいる(別紙「売上高・営業利益・商標使用料比較一覧表」参照)。
(ウ) そして、原告以外にワンダフルあるいはIに対して商標使用料を支払ったものはおらず、また、原告以外に本件各表示の使用許諾を受けた者もいないのであって、原告とI及びワンダフルとの関係は、本件各表示に関する独占的通常使用契約関係であると解される。
エ 原告による周知性の獲得等
(ア) 原告は、アザレ化粧品の広告宣伝及び販売促進のため、毎年莫大な費用を投じている。その額は、別紙「売上高・広告宣伝費・販売促進費比較一覧表」記載のとおりである。具体的には、広告宣伝としては、全国紙への新聞広告や雑誌等への広告の掲載を行っていたほか、販売促進としては、各本舗に対して販売奨励金を支払ったり、販売促進用の品物を本舗、販社、販売員に無料交付したりしていた。
 このように、原告は、新聞や雑誌を通じて、アザレ化粧品そのもの、及びこれが自然派化粧品としての特徴を有していることなどを、直接需要者である消費者に広告宣伝し、また、傘下の本舗、販売店、販売員には大量の販売促進品を交付し、もしくは、販売奨励金を支払ったりして、アザレ化粧品の知名度を高めていったものであり、このような広告宣伝、販売促進活動は原告以外には行っていない。各本舗がパンフレットを作成したり、講習会を行っていた事実があったとしても、原告から支払われる販売奨励金によって、自ら顧客に対する販促活動を行っていたものに過ぎない。
(イ) さらに、原告は、次のとおり、商品販売後の品質管理、顧客のクレーム処理、横流し対策など、アザレ化粧品の信用を守るための活動を行い、新たな製品開発も行っていた。
@ 原告は、アザレ化粧品の発売後、これに問題が生じていないかどうか、顧客に受け入れられているかどうか、本舗、販売店、販売員を通じて入ってくる情報を分析し、株主定例会などにおいて意見交換して、改善すべき点があれば、被告アザレプロダクツ(実態は被告共和化粧品)に指示して改善させていた。
A 原告は、PL法相談室を設置して、本舗等を通じて寄せられる顧客のクレームに対処していたほか、製造物責任に関する損害賠償責任保険にも自己の名義で加入していた。
B 原告は、株式会社コスメティックトーキョーがアザレ化粧品の製造番号等を削り取って不正に安売り販売をしていることについて、薬事法違反で刑事告発したり、同社に横流ししていた静岡本舗に対して出荷停止措置を講じるなど対面販売のシステムの維持に努めてきた。
C 原告は、福岡研究所に薬剤師を雇用し、新たな製品開発を行ってきた。
(ウ) 以上の結果、原告は、被告アザレプロダクツがアザレ化粧品の製造を始めた昭和61年2月ころまでに、全国に本舗網を広げ、アザレ化粧品の主力製品をその時点でほとんど商品化するに至っていたのである。
 そして、原告が株式会社に組織変更された昭和57年の売上高は6億7628万0760円であったが、毎年この売上高が急速に大きくなり、平成11年の売上高は62億8325万7218円にも及んでいる。これは原告の本舗に対する売上高であるから、末端の消費者に対する売上高はこれの4倍にあたる約250億円にもなっていた。
 このような急速な売上高の増加は、アザレ化粧品の自然派化粧品であるという特徴が消費者に受け入れられたことと、原告による莫大な費用を投じての広告宣伝活動及び販売促進活動の成果なのである。また、そのことによって、アザレ化粧品が原告の製造販売する化粧品であり、本件各表示はアザレ化粧品の出所を明らかにし、品質を保証するものであることが、全国的に周知されていった。
オ まとめ
 以上を総合すると、原告は、ジュポン社時代に開発した商品をOEMメーカーである被告共和化粧品工業に製造させ、ジュポン社時代に培った取引先を対象として、アザレ化粧品の販売を始めたものであること、本件各表示はアザレ化粧品が原告の製造販売する化粧品であり、かつ、これが自然派化粧品であることを明らかにする目的で、創業以来24年以上もの長きにわたり原告のみが専用し、同表示使用の対価として64億円にのぼる莫大な商標使用料を支払ってきたものであること、原告は創業以来莫大な費用を投じてアザレ化粧品の広告宣伝及び販売促進を行い、その結果、アザレ化粧品が全国的な知名度を獲得したものであること、販売後の品質管理、クレーム対策、横流し対策などを行い、アザレ化粧品の信用を守るとともに、新たな商品の開発を行ってきたのは原告のみであること、被告アザレプロダクツや同共和化粧品はアザレ化粧品を下請け製造してきたにすぎないことが認められるというべきである。
 不正競争防止法2条1項1号の主体として保護されるべき者は、当該商品等表示を使用して自らの計算において商品を製造販売していると評価される者、若しくは当該商品を開発、製造、販売するに当たり、費用や労力を投下するなどしてリスクを負担した者と解されるところ、上記の各事情に照らすと、本件各表示に関してそのような立場にあるのは原告のみであるから、原告は本件各表示の商品等表示主体であり、かつ、本件各表示は、原告の商品等表示として周知になっていたものというべきである。
(被告らの主張)
 原告及び補助参加人らの主張は否認する。
ア 本件各表示は、「アザレグループ」すなわち、原告及び被告ら全員(被告共和化粧品を除く。)の商品等表示として周知であるから(被告アザレプロダクツは被告共和化粧品から周知性を承継したものである。)、原告のみが本件各表示に関する商品等表示主体であり、かつそれが周知であるとする原告及び補助参加人らの主張は誤りである。原告は、少なくとも被告らに対する関係では、他人の商品等表示であることを主張することはできないと解すべきである。
イ 原告と被告らとの関係
(ア) 「アザレグループ」は、化粧品業界のなかでも、次のとおり、極めて特徴的なグループ形態をとっている。
@商標権者I(相続人被告G)
A商標管理及び組織拡大を担当するワンダフル
B「製造」権を専有してきた被告アザレプロダクツ
C「販売」の総代理店としての原告
D現実に市場における販売を担当する本舗以下の販売代理店組織
 通常は、@ないしCが一体の法人として「本社」を形成しているのが一般的な企業形態であるが、「アザレグループ」は、このように分社化されるという際立って特徴的なグループ構成と役割分担が行われていた。原告及び補助参加人らの主張は、一般の企業と同一視して、A、B及びCに分割された役割分担を、すべてCの原告の権限であると主張するものであるが、全く実態に反する主張である。@、Aと共に、Bも別人格を有する法人として設立され、単なる下請以上の地位を有し、それぞれIの許諾を得て社名、印刷物等に本件各表示を使用し、アザレ化粧品の「製造」あるいは「販売」に携わってきた。
 いいかえると、原告だけでなく被告らは、顧客吸引力等を保護発展させるという共通の目的の下に結束してきたグループ構成員である。したがって、本件各表示についても、原告のみならず「アザレグループ」を構成する全員に商品等表示主体性を認めるべきである。
(イ) 言い換えれば、すべては商標権者Iの意思のもとで、同人の指示に従って築かれてきた「グループ」間の契約関係として本件当事者の関係を捉えるべきなのである。原告及び補助参加人らは、IとAが共同してアザレ化粧品事業を創業、推進してきたかのような主張をするが、事実と異なる。化粧品事業を行っていたのはI1人であり、AはIの愛人として秘書的な役割を行っていたに過ぎない。
 原告及び補助参加人らは、原告すなわち「アザレインターナショナル」をグループの中心に置くところからスタートしているが、そこに根本的な誤りの出発点がある。本件では、原告がグループの中心であったか否かという点自体が中心的な争点なのである。Iが原告の株式の過半数を有し、同社の代表取締役であったのであれば、原告及び補助参加人らの主張も理解できるが、Iは原告の株式も4分の1しか持たず、代表取締役にも就任しなかった。そして自らは商標権を保有することによってグループを支配してきたのである。すなわち、ワンダフルを設立して、ワンダフルに無償使用権を与え、ワンダフルから原告に再使用を許諾するという方法をとって、ワンダフルを介して原告を支配してきたのである、Iが自分を化体する存在としてのワンダフルを原告や被告らの上位に置いて「グループ」の構成を考えていたことは、商標権を個人に残し、ワンダフルに無償貸与するという方法をとったことによって明らかである。
(ウ) ワンダフルとの関係について
 ワンダフルは、Iとその家族のために用意された法人である。原告とワンダフルとの商標使用許諾契約は、原告が商標権者の指示に従うことを前提に締結されているものであり、商標権者であり、ファミリー企業であるワンダフルの意思決定権者であったIの意思を無視し、対立するようになった場合には使用許諾契約は解除されるというのが商標権者及びワンダフルの意思であったというべきである。
(エ) 被告アザレプロダクツ及び被告共和化粧品との関係について
 被告アザレプロダクツは、「アザレグループ」の関係においては、被告共和化粧品の権利をそのまま引き継いだものであるが、その代表者H(以下「H」という。)は、@有限会社アザレインターナショナル設立以前からアザレ化粧品の立ち上げについてIと協力し、A本舗の開拓にも同行し、契約が成功すれば「立会人」として契約書に記名捺印し、B製造能力に問題があっても共和化粧品が「製造元」として下請けメーカーに作らせることができる等の、明らかに「単なる下請けメーカー、OEMメーカー」といわれる立場を越えて、Iと利害を共有してきた。
 このような事情に照らせば、被告共和化粧品及び被告アザレプロダクツは、アザレ化粧品については単なるOEMメーカーではなく「独占的製造権」を与えられていたことが明らかである。
 原告及び補助参加人らは、被告アザレプロダクツが製造したアザレ化粧品の全量を注文者である原告に納品していることをもって、被告アザレプロダクツが単なるOEMメーカーであると主張する。しかしながら、Iが創業し、原告を販売会社として設立し、被告アザレプロダクツを製造会社として設立し、原告から被告アザレプロダクツにのみ注文させ、被告アザレプロダクツは製造したアザレ化粧品を原告以外に販売してはならないという本件の事情の下において、単なるグループの一員にすぎない原告が、「全量の納品を受けている」という一事を根拠に、グループ中の原告のみが商品表示の主体であり被告アザレプロダクツは単なるOEMメーカーであると主張するのは、あまりにも強引な議論というべきである。
 さらに、原告及び補助参加人らは、被告アザレプロダクツが工場設備、営業設備について所有権を有していないことを理由にペーパーカンパニーであるなどと主張するが、否認する。被告アザレプロダクツは、HがIから「そろそろ専用工場を作って欲しい」と要請され、Hがこれに応じたことから設立された会社である。被告アザレプロダクツの本社及び工場は被告共和化粧品の本社及び工場とは全く別の、数百メートル離れているところに独立して位置しており、従業員も存在する。必要な設備が賃貸物件、リース物件であっても十分に製造はできるのである。被告アザレプロダクツの工場が被告共和化粧品の所有名義になっているのは、初期段階での投資リスクを回避するために、被告共和化粧品の資力で工場を建設し、それを被告アザレプロダクツが借りて使用しているのであって、決して珍しい形態ではない。あらゆる業界で日常的にみられる経営形態のひとつであり、「所有権がなければペーパーカンパニーである」という原告及び補助参加人らの決めつけこそ非常識というべきである。ちなみに、被告アザレプロダクツは、現在は建物の着工を中止しているが、自己所有の工場を新築する予定で土地を購入し、資産も所有している。
(オ) 本舗との関係について
 被告共和化粧品及び被告アザレプロダクツの場合と同様、各本舗を開拓・面接し、本舗として採用したのも、本舗と原告の契約内容を決定したのも、すべてI本人であって、本舗候補者と面接する際は、「被告共和化粧品の社長」としてのHを同行し、契約書に立会人としての記名捺印も求められた。そこにはAの意思は一切は入っていない。本舗の販売活動が自動的にA個人の利益となるように組織化したのは、ワンダフルがIの家族のために用意された法人であるのと同様、IのAに対する配慮であって、原告はIがAの生活を考えて設立した法人であり、原告もIの意思の下に組織化された他のグループ構成員と同様の立場であったことは明らかである。
ウ 本件各表示は「アザレグループ」の商品等表示であること
(ア) 以上の事実から明らかなとおり、本件各表示は、Iをリーダーとする「アザレグループ」全体を表示するものであり、自他識別機能もアザレ化粧品と他の化粧品を識別するものであって、原告と全国の各本舗や被告アザレプロダクツを識別する表示としては機能していなかった。
 原告及び補助参加人らの主張は、アザレ化粧品のブランドがAとIによって形作られたものであること、被告共和化粧品及び被告アザレプロダクツが単なる下請業者に過ぎないという誤った前提に立って主張されているものである。上述のとおり、原告の経営は、I存命中はすべてIに委ねられており、Aの意思が入り込む余地はなかったのであるし、Iの販売に関するセンスを吸収し、実際に「植物性」ないし「自然派化粧品」を作り出してきたのはHである。
(イ) また、誰を商品等表示の主体とするかは、基本的には商標権者であったIの意思に従って決定されるべきである。そして、Iとの間で使用許諾契約書等の文書は作成されていなくとも、口頭の合意に基づき、被告共和化粧品及び被告アザレプロダクツが製造を独占し、「製造元」の表示を行い、商品説明等の文書を作成してきたこと、アザレ化粧品は本舗を通じてしか販売されず、本舗の仕入れ価格についても、一般の訪問販売企業が上代(小売価格)の約40%であるのにアザレ化粧品の場合は25%と、本舗にとって格段に有利であった反面、パンフレット、カレンダー、紙芝居等の作成、販売員の教育等は、原告ではなく、すべて本舗により行われ、本舗が都道府県単位の「総代理店」として販売権を独占し、自己エリア内で自己の費用と責任で販売を行ってきたことは、長年の歴史からみて争いようのない事実である。
 Iは、被告らにこのようにそれぞれ役割を分担させ、各自が自らの費用と責任で各自の役割を実行することを求め、その範囲内での本件各表示の使用を認めてきたのである。これが「グループ」ではなくて何であろうか。
 Iが被告アザレプロダクツを製造元とし、原告を発売元、本舗を小売業者(現実にはその下に販社・営業所を作って卸売り形態としているが、これは本舗に所属する歩合制の販売員であり、本舗が小売活動の中心となっている。)という役割分担を定めた以上、その役割に従って、別法人である被告アザレプロダクツと原告との間に製造委託契約が成立し、原告と各本舗との間で販売代理店契約が成立するのは当然である。原告と被告ら間では、このようなIの定めた役割分担に従って、グループ内の契約関係が発生しただけのことであって、本件各表示の表示が原告単独のものとする理由は全くない。
(ウ) さらに、被告アザレプロダクツは、アザレ化粧品の各商品に「製造元」として表示されることにより、本件各表示を自己の商品表示として使用していた事実も存在する。原告及び補助参加人らは、「製造元」の表示には薬事法上の意義しかないと主張するが、化粧品業界においては、むしろ「製造元」が大手のメーカーとして商品表示の主体とみられるべき場合が多いのであって、原告及び補助参加人らの批判は当たらない。
エ 周知性の獲得について
 「アザレグループ」の販売方法の特徴は、各都道府県単位で一本舗制を敷き、各都道府県を「専売地域」として各本舗に独占販売権を与えるかわりに、宣伝費等の営業活動に要する費用も各本舗の自己負担とし、各本舗により各専売地域に限定した販売が行われてきたということである。
 原告及び補助参加人らは、莫大な宣伝費や販促費の支出を強調するが、これはIの晩年に近付いて、アザレ化粧品が急成長をとげ、原告にも大きな利益が入るようになってからのことである。「周知性の獲得」とは、原告がこのような費用を負担できるようになるまでの過程であって、「宣伝」や「販促品の交付」は、アドバイザーに「自分達は有名化粧品を販売している」というプライドを持ってもらうために行われるものであり、訪問販売の場合、それによって売上が上がることはない。そもそも、原告の従業員はわずか3名にすぎなかったのであり、このことからも、原告は「発売元として表示される役割」を与えられただけで、現実に販売活動を行うような実体を備えるものでなかったことが明らかである。原告による宣伝等には別の目的があった。即ち、Aは、コスモという別会社を作り、すべての宣伝、販促品の注文はコスモを通して行った。そして、原告は宣伝費、販促費として支払われる金額のうち最低3割を何もせず、コスモの利益としてプールしていったのである。
 このように、アザレ化粧品の周知性獲得には、初期の段階は、IとHが全国を回ることにより、次には販売指定店となった本舗の販売活動が加わることによって、売上が増え利益が増え、ある程度の周知性を獲得してから原告名での宣伝、販促品の提供が始まったのであって、周知性獲得は、メーカーとしてのHの信用と本舗の「直接販売」による販売活動のたまものであったというべきである。
 原告及び補助参加人らは、被告アザレプロダクツの設立以前にアザレ化粧品が原告の商品であり、本件各表示が原告の商品表示であることの周知性が確立していたとして、「アザレグループ」が商品表示の主体となり得ることはないと主張する。しかしながら、「アザレグループ」の分裂前においては、双方とも一つのグループとしてお互いに商号その他に本件各表示を使用してきたのであって、その際には本件各表示の使用が問題となることはなかった。本件は、グループ「分裂」後の問題として、一方のグループである「原告」が他方のグループの被告らに差止めを求め得る合理的な根拠を有するか否かという問題である。「分裂」後、従来と全く異なる内容の商品に「アザレ」の名前だけ付けて販売する原告の行為こそ許されないというべきである。
オ 以上のとおり、被告共和化粧品を除くいずれの法人被告も、「アザレグループ」の分裂前から、Iの許諾を得て社名、印刷物等に「アザレ」の商標を使用し、アザレ化粧品の製造、あるいは販売に携わっていた。そして、グループ分裂に際して商標権者の被告Gのグループを選択し、社名印刷物等に「アザレ」の商標を使用してきたのである。
 なお、被告アザレ東京は、本件分裂後に設立された会社であるが、その代表者のD(以下「D」という。)は、上記のとおりIから、アザレ化粧品の販売会社である被告アザレ武蔵野にアザレ化粧品関係の商標を使用することを認められていたのであり、元の東京本舗であった「アザレコーポレーション」が独立する気配が生じてから、他の販社である被告アザレアゼット、被告アザレウイングの2社と共に新本舗として被告アザレ東京の前身となるアザレ東京有限会社を設立したのである。したがって、Dは生前のIより、「アザレ」の商標を社名に使用する包括的な使用許諾を得ていたというべきである。また、被告アザレ東京は元東京本舗の「アザレコーポレーション」時代からのアザレ化粧品に関する営業活動をそのまま継続しているのであり。周知性、営業主体性を承継しているというべきである。
(原告及び補助参加人らの再反論)
 被告らの主張は失当である。以下に述べるとおり、被告アザレプロダクツはペーパーカンパニーに過ぎず、本件各表示が同被告の製造・販売する商品を表示するために使用されたことはないので、同被告や「アザレグループ」が本件各表示につき商品表示の主体になることはない。
ア 被告アザレプロダクツ及び同共和化粧品は「アザレ化粧品」をOEMで製造しているものにすぎず、商品表示の主体にはなり得ない。
(ア) 被告共和化粧品はOEMの専業メーカーである。
 被告共和化粧品は、創業以来、化粧品のOEM製造を専業に行ってきた会社である。自社のブランドで化粧品を製造して販売したことはない。現に、被告共和化粧品は、現在も40社程から化粧品のOEM生産を請け負っている。このように、被告共和化粧品は、化粧品のOEM製造の専業メーカーなのである。
 そして、中身を製造し、供給を受けた瓶に充填して、外箱で包装するというのがOEM製造の一般的な形態であるが、このような場合、その商品の所有者はブランドを表示した注文主であることは、H自身認めているところである。
(イ) 原告と被告共和化粧品との間の製造契約はOEM契約である。
 被告共和化粧品は、ジュポン社のときと同様に、原告との間でアザレ化粧品の製造契約を締結した。
 ジュポン社と被告共和化粧品の間の製造契約書及び原告と被告共和化粧品との間の製造契約書は、@いずれもジュポン社ないし原告の供給する瓶に被告共和化粧品が中身を製造して充填し、これを外箱で包装して、Aジュポン社ないし原告の指示する顧客に送付すること、B被告共和化粧品は、ジュポン社ないし原告の指示によらないで化粧品の製造を行ってはならず、顧客との直接取引は厳禁すること、など基本的な内容において同一であった。
 この点、H自身、原告と被告共和化粧品との間との製造契約がOEM契約であることを認めている。
(ウ) 注文者の計算において、下請け製造業者が注文者の指示どおりに製品を製造し、その全部を注文者に納入して、自分自身では独自に販売しないという「OEMによる製造」は、注文者の1機関として、注文者の商品を製造しているのであって、製造業者が自分の商品を製造しているものではないというべきである。これまでの判例や学説も同様に解している。
 したがって、OEMによって製造された商品は注文者のものであり、その商品に付された表示は、その商品が注文者のものであることを示す商品表示であって、その商品の出所が製造者自身にあるとはいえない。
 本件の場合にも、被告共和化粧品はOEMでアザレ化粧品を製造していることはH自身が認めており、また、同アザレプロダクツは、後に述べるように、原告に帰属する本件各表示の信用を守るために設立されたペーパーカンパニーであって、化粧品製造の実態がないことからして、同被告らは本件商品表示の主体であるとはいえない。
(エ) 被告らは、アザレ化粧品の各商品に「製造元」として被告アザレプロダクツの表示がなされていることから、被告アザレプロダクツも本件各表示を商品表示として使用していると主張するが、これは、薬事法が化粧品につき製造元の表示を義務付けているためであって、このような表示があるからといって、被告アザレプロダクツが本件各表示を商品表示として使用しているということはできない。
イ 本件各表示が被告アザレプロダクツを含む複数の者(アザレグループ)を表示する商品表示であるとするのは誤りである。
(ア) 商品表示の主体としての「アザレグループ」は存在していない。
 被告アザレプロダクツは、ペーパーカンパニーに過ぎず、実際にアザレ化粧品の製造を行っていた事実はない。被告共和化粧品は、アザレ化粧品をOEMで製造していたものである。
 また、原告と本舗との間の販売契約は、本舗は決められたテリトリー内において、原告から供給される化粧品のみを販売し、他社の化粧品はもちろんのこと、化粧品以外の商品すら販売できないという極めて拘束力の強い専属的販売店契約というべきものであって、本舗は、周知商品等表示の付された商品の流通に関与しただけのものであるか、仮に本件各表示の商品表示としての信用が本舗に帰属しているとしても、それは原告の商品を販売する行為を通じてのことであって、本舗が原告の信用を離れて独自の信用を有するものとはいえない。
 したがって、本件商品表示に対する信用が、被告アザレプロダクツ、同共和化粧品や本舗にまで帰属しているとは到底認められない。
 原告は、本件各商標についてIとの間で独占的通常使用契約を締結し、本件各表示を使用したアザレ化粧品を被告共和化粧品に製造させ、これを本舗に販売させてきたのである。すなわち、アザレ化粧品は原告の商品であり、本件各表示はこれが原告の商品であることを表示するために考案されて専用されてきたものであるから、本件各表示についての商品表示の主体は原告であり、「アザレグループ」は商品表示の主体ではない。
(イ) 被告アザレプロダクツの設立以前にアザレ化粧品が原告の商品であり、本件各表示が原告の商品表示であることの周知性は確立していた。
 原告は、昭和52年10月に個人創業され、被告アザレプロダクツが設立された昭和60年までの間、8年間にわたり、被告共和化粧品に「アザレ化粧品」を製造させ、本舗を通じて消費者に販売していたのである。そして、原告は、ジュポン社の時代の自然派化粧品という製品理念、「エレガンスカラー」という商品、得意先など、「ジュポン化粧品」の実績をもとにして化粧品事業を始めたものである。
 原告は、昭和52年に「グレイスカラー」を発売したのを皮切りに、相次いで新製品を発売し、かつ、本舗網の拡充を行ったのであり、その結果、アザレ化粧品は急速に売上を伸ばした。
 そして、昭和60年の時点で、既に26種類のアザレ化粧品が売り出されて、原告の主力製品はほとんど商品化されていたばかりか、本舗網も北海道から沖縄まで全国的に形成されていた。その結果、卸売価格として15億3462万0200円、小売価格として約60億円にも及ぶアザレ化粧品が市場で販売され、販売個数は150万個から200万個にも達していたのであるが、この昭和60年という年に、アザレ化粧品を製造していたのは、前述のとおり、被告共和化粧品であって、同アザレプロダクツではなかったのである。
 周知性が確立されたかどうかを判断するに当たっては、当該商品や役務の種類、取引実態、取引慣行、宣伝活動の態様及び商品等表示の内容等によって総合的に判断されるべきものであるが、「ジュポン化粧品」を原点とする「アザレ化粧品」が発売されて8年も経過し、被告アザレプロダクツが設立された昭和60年の時点では、上記のとおりのアザレ化粧品が市場で販売され、原告の広告宣伝費が3億4319万8780円、販売促進費が7055万9087円にも及んでいたのであるから、この時点においてアザレ化粧品が原告の商品であり、本件各表示が原告の商品表示であることについての全国的な周知性は既に確立されていたというべきである。
 したがって、被告アザレプロダクツの設立以前にアザレ化粧品が原告の製品であり、本件各表示が原告の商品表示であることの周知性は確立していたというべきであるから、本件各表示が被告アザレプロダクツを含む「アザレグループ」の商標として周知であるということはあり得ない。
(ウ) 被告アザレプロダクツはペーパーカンパニーに過ぎず、本件各表示は同被告の商品を表示するものとはいえない。
 被告アザレプロダクツは、同共和化粧品が数多くの会社の化粧品をOEMメーカーとして製造していることから、アザレ化粧品と他の化粧品を区別し、それによって、本件各表示の信用を守るために設立されたものである。それゆえ、被告アザレプロダクツは、対外的に原告の専用工場で製造されているという外形さえ示すことができればよく、実際にアザレ化粧品を製造する必要はなかったのである。
 そうであるからこそ、被告アザレプロダクツは、製造設備を全く所有しておらず、従業員が一人もいなかったのであり、被告アザレプロダクツの決算書上、売上原価は「製造原価」ではなく、(被告共和化粧品からの)「仕入高」として記載され、製造原価報告書も添付されていないのである。被告アザレプロダクツがアザレ化粧品の製造を行っている実態があれば、当然貸借対照表に計上されるはずの、「製品」、「仕掛品」、「原材料」なども同社の決算書には記載がない。さらに損益計算書では、原告に対する売上高と被告共和化粧品からの仕入高が全く同額で、仕入割戻高が被告アザレプロダクツの利益になるという極めて変則的な決算を行っている。
 これらの事実を総合すれば、被告アザレプロダクツは、アザレ化粧品が専用工場で製造されているとの外観・外形を示すことだけを目的に設立されたペーパーカンパニーであって、実際は、同被告の設立後も、被告共和化粧品がすべてのアザレ化粧品を製造していたものであり、被告アザレプロダクツがアザレ化粧品を製造していた事実のないことは明らかである。
(エ) 被告共和化粧品がアザレ化粧品の製造方法の確立に貢献したのは下請製造業者として当然の行為である。
 H自身認めるように、@OEM製造業者にとって、OEM生産の受注に当たっては、その処方を発注先がきちんと決めて、これでやってくれといって依頼が来ることはほとんどなく、およそのイメージを示されてそれに合うように製品を開発してゆくのが9割を占めており、A被告共和化粧品の研究室や試験室は、注文者の依頼に合うような化粧品を開発するための役割を果たしているのである。したがって、被告共和化粧品が、原告から発注を受けたアザレ化粧品について、これを商品として開発することや、大量生産する方法を確立することなどは、OEM製造業者として当然のことをしたまでであり、このようなことをもって、被告アザレプロダクツがアザレ化粧品の周知性獲得に当たって寄与をしてきたと判断することはできない。
(オ) 被告アザレプロダクツが販売網の整備に当たって相応の寄与をしたことはない。
 アザレ化粧品の創業時から平成2年ころまでの販売指定店契約書には、被告共和化粧品又は被告アザレプロダクツが立会人として署名しているが、同契約書には、被告共和化粧品若しくは同アザレプロダクツだけではなく、O弁護士もしくはP弁護士が立会人となっている。このことから分かるように、上記契約書に被告共和化粧品や同アザレプロダクツが立会人として署名しているのは、同被告らと販売店の双方に原告以外からの商品の購入は許されないことを知らしめ、もし、同被告らが直接販売店に商品を販売するような事態になれば、O弁護士らがしかるべき法的手段を講ずることを認識せしめて、永田美研工業の場合のような、製造業者と本舗との直接取引を防止しようとすることにその目的があったのである。
 したがって、被告共和化粧品や同アザレプロダクツが、販売指定店契約書に立会人となっていることをもって、販売網の整備に当たって相応の寄与をしたということはできない。
(カ) 消費者は「アザレグループ」をもってアザレ化粧品の出所とは認識していない。
 アザレ化粧品の紹介記事をみても、そこに表示されているのは「アザレ」あるいは「AZARE」という表示であり、社名が紹介されている場合も、常に「アザレインターナショナル」なのであって、被告共和化粧品や被告アザレプロダクツの表示は一切ない。そればかりか、原告は雑誌や新聞紙上で継続的に広告宣伝を行ってきたが、常に原告の名前のみで行っている。
 このように雑誌や新聞において、被告共和化粧品や同アザレプロダクツの名前は一切出されていないのであるから、消費者は、同被告ら、もしくは、被告アザレプロダクツを含めた「アザレグループ」をもってアザレ化粧品の出所であるとは認識していない。
(キ) このように、アザレ化粧品は、昭和52年に創業して以来、被告アザレプロダクツが設立された昭和60年まで8年間にもわたり、被告共和化粧品がOEM製造しており、この間に本件各表示が原告の商品表示であることの周知性が確立されており、また、自分の商品としてアザレ化粧品の製造を行っていない被告アザレプロダクツに、本件各表示の信用が一部であるにせよ帰属するはずもなく、さらに一度も被告アザレプロダクツないし「アザレグループ」の商品であると宣伝されたこともなく、女性誌などで取り上げられたことはないので、「アザレグループ」が本件各表示に関する商品表示の主体であるということはできない。
ウ 以上のとおり、被告アザレプロダクツあるいは同被告を含む「アザレグループ」が本件各表示に関する商品表示主体ということはできないところ、アザレ化粧品を製造している被告共和化粧品は、原告と被告アザレプロダクツとの契約に基づいて本件各表示を使用して化粧品を製造しているものにすぎない。この関係は、親会社から許諾を受けて商号を使用したり、家元の承諾の下に流派の名称を名乗っている場合、あるいは、フランチャイザーやライセンサーの許諾を受けて商号や営業表示を使用している場合と同じである。このような場合に許諾や承諾がなくなれば、商号を使用することができなくなるのは明らかであるから、本件においても、原告とのアザレ化粧品製造契約が解除された場合には、被告共和化粧品及び被告アザレプロダクツは本件各表示を使用することは許されない立場にあるものというべきである。
エ 仮に、I存命中において「アザレグループ」なるものが商品表示主体とみられる余地があったとしても、原告こそが「アザレグループ」の中核企業であり、被告アザレプロダクツや同共和化粧品は「アザレグループ」から離脱した以上、本件商品表示を使用することは許されないというべきである。
(2) Iから被告Gを除く被告らに対して本件各商標の使用許諾があったか
(被告らの主張)
 被告Gを除く被告らは、以下に述べるとおり商標権者であったIから本件各商標の使用許諾を得たものである。
ア 事実経過
(ア) 昭和50年ころ、Iはいったん化粧品業界から身を引き、福岡に引きこもったが、その才能を惜しんだHがたびたび福岡を訪れ、「自分が化粧品を作るので販売して欲しい」と要請を続けた結果、Iは、再び「アザレ」の商標登録を行い、化粧品事業に再登板することとなったものである。
 したがって、「製造」をHが担当し、「販売」をIが行うとの基本的な役割分担の下に、昭和52年からアザレ化粧品が発売された。
(イ) 「製造」は、当初、Hの経営する被告共和化粧品で始まったが、Iの要請で専業メーカーを設立することとなり、100%Hの自己負担で被告アザレプロダクツを設立し、今日に至っている。
 「販売」について、Iは、当初個人で発売を開始し、その後間もなく原告の前身となる有限会社アザレインターナショナルを設立し、更に原告を設立し、販売主体となる法人を変えていった。
イ Iによる商標使用の許諾
(ア) 以上の事実経過から明らかなとおり、アザレ化粧品関係の商標についてはすべてIが商標権者となり、アザレ化粧品の製造分野においては、昭和52年ころHの専権事項として、IからHに対して同商標についての基本的な使用許諾が与えられていたものである。
 一方販売の分野においては、当初、Iが自己使用していたものであるが、有限会社アザレインターナショナル、原告の設立に伴い、その都度、Iから各法人に対し、「販売」分野における使用許諾が与えられた。ただし、昭和57年1月ころ、アザレ化粧品関係の商標管理会社としてワンダフルを設立することとなり、以下のような契約関係が採用された。
@Iがワンダフルに対しアザレ化粧品関係の商標の商標使用権の無償貸与を行う。
Aワンダフルがアザレ化粧品関係の商標使用権を原告に転貸することをIは承諾する。
Bワンダフルと原告の間において、販売の分野での商標使用許諾契約を締結し、使用料は年間2000万円とする。
 以上の基本的な使用許諾契約に基づき、新たに登録されたアザレ関係商標についても、その都度同様の使用許諾がされ、本件各商標についても、すべて原告に対して使用許諾がされたものである。
(イ) 被告らそれぞれに対する具体的な許諾については、以下のとおり行われた。
a 被告アザレ東京及び同アザレ武蔵野について
 被告アザレ東京及び同アザレ武蔵野の代表者Dは、被告アザレ武蔵野設立の前である昭和57年9月ころ、アザレ化粧品販売代理店の募集に応じ、商標権を有していたIより、次のとおりアザレ化粧品関係の商標に関する口頭もしくは黙示の使用許諾を得た。
@Dは、アザレ化粧品の販売会社を設立し、当該会社の商号に「アザレ」の表示を使用することができる。
A@において設立された販売会社は、アザレ化粧品販売のために必要とする限り、パンフレット等にアザレ化粧品関係の商標を使用することができる。
 Dは、これに基づき、昭和57年10月8日に被告アザレ武蔵野を、平成12年7月24日に被告アザレ東京の前身であるアザレ東京有限会社を設立し、いずれの会社もその設立と同時に上記@及びAに記載された権利を取得した。
b 被告アザレアゼットについて
 被告アザレアゼットの代表者であるE(以下「E」という。)は、昭和61年4月ころ、Iから上記aの@及びA記載と同内容の商標使用に関する口頭もしくは黙示の許諾を得た。
 昭和60年4月11日、Eは被告アザレアゼットを設立し、同社は設立と同時に上記aの@及びA記載の権利を取得した。
c 被告アザレウイングについて
 被告アザレウイングの代表者であるF(以下「F」という。)は、昭和61年5月ころ、Iから上記aの@及びA記載と同内容の商標使用に関する口頭もしくは黙示の許諾を得た。
 昭和60年5月22日、Fは被告アザレウイングを設立し、同社は設立と同時に上記aの@及びA記載の権利を取得した。
d 被告アザレプロダクツについて
 上記(ア)記載のとおり、Hは、昭和52年ころ、Iからアザレ化粧品の製造分野における商標の使用許諾を受け、被告共和化粧品において、アザレ化粧品の製造を行っていたものである。その後、昭和60年6月ころ、HはIから「アザレ化粧品専用の工場を法人として設立して欲しい」との申し入れを受けて専用工場を設立することとし、それに伴い次のとおり、口頭もしくは黙示の商標使用許諾を得た。
@専用工場を設立して、その法人の商号に「アザレ」の表示を使用すること。
Aアザレ化粧品を製造するのに必要な範囲で、あるいは製造に付帯する業務としてンフレット等にアザレ化粧品関係の商標を使用すること。
 Hは、昭和60年7月1日、被告アザレプロダクツを設立し、同社は設立と同時に上記@及びAの権利を取得した(被告アザレプロダクツ設立後は、被告共和化粧品はアザレ化粧品の製造をしていない。)。
ウ 被告G以外の被告らに対するIによる商標使用許諾は、アザレ化粧品が存続する限り、アザレ化粧品のために(被告ら自身のためだけではなく)必要であって、被告らによるアザレの商標の使用は必要不可欠である。したがって、被告らがアザレ化粧品の製造又は販売に携わっている限り、特段の事情がない限り使用許諾は効力を有するという前提でIは使用許諾をしたというべきであり、Iの死亡は使用許諾契約の終了原因とならず、Iの死亡後も使用許諾は継続している。
エ なお、原告及び補助参加人らは、Iによる被告らに対する商標の使用許諾が対価(商標使用料)を伴わないことについて、「原告は莫大な商標使用料を支払ってきたのに、被告らのみ無償で使用が許諾されることはあり得ない」と異議を述べているが、被告らは、Iの代理店募集に応募して販売員となったIのために必要不可欠な販売員であり、また、Iのためにアザレ化粧品を研究開発してきたメーカーである。アザレ化粧品の売上を増加させ、アザレ化粧品全体を成長させるためにアザレの商標を使用してそれぞれ販売活動を行い、あるいは商品を製造して供給してきたのであって、無償使用すればするほどIに利益をもたらすのであり、無償使用はむしろ当たり前のことである。本件のようなケースで有償使用など有り得ないことであり、原告及び補助参加人らの主張の方こそ訪問販売業界の実情を無視して、商標に関する一般論を展開しているにすぎない。
 原告がワンダフルに莫大な商標使用料名目の金員を支払っていたのは次のような理由による。すなわち、原告は、「アザレグループ」において販売分野を統括していたIに代わってアザレ化粧品を販売し、利益を得るという、いわば「ダミー会社」に過ぎなかったものであるが、Iは、原告を株主として支配できるような株式配分とはしなかったため、別に100%自己出資のワンダフルを設立して商標の管理を行わせ、原告から商標使用料名目で販売利益の分配を行わせることとしたものであって、要するに、原告からワンダフルに支払われてきた商標使用料名目の金員のほとんどは営業協力歩合、端的に言えば原告の実質的なオーナーであるIに対する利益分配であったのである。
(原告及び補助参加人らの主張)
 被告らの主張は否認する。
ア 被告らは、Iが被告Gを除く被告らに対し、アザレ化粧品関係の商標についての永年無償使用の許諾があったと主張するが、被告らのこのような主張を裏付ける客観的な証拠は、何ら存在しない。
 本件各表示を使用したアザレ化粧品の製造及び販売については、商標の使用、化粧品の製造及び化粧品の販売という各分野において、それぞれ次のような契約書ないし合意文書が締結されている。
 すなわち、
@ 商標の使用に関しては、原告とIが代表者であるワンダフルとの間で協約書(甲3号証)が調印され、
A 化粧品の製造に関しては、原告と被告アザレプロダクツとの間で化粧品の委託製造取引契約書(甲1号証の1)が作成され、
B 化粧品の販売に関しては、原告と各本舗(都道府県単位で置かれた販売店)との間で販売契約書(甲2号証)が締結されている。
 このように、本件各表示の使用並びにアザレ化粧品の製造及び販売の各分野に関する業務については、契約当事者間で契約書ないしこれに代わる書面が作成されていて、合意の内容が文書で確認されているのである。
 ところが、被告らが主張する「商標権の永年無償使用」については、このような文書が一切存在しない。
 「商標権の永年無償使用」などというアザレ化粧品の製造及び販売に関して最も重要かつ基本的な事項について、Iと各被告らとの間に合意が成立していたのであれば、その成立を確認するための文書が必ず存在するはずである。このような文書が存在していないのは、商標権の永年無償使用権付与などという事実が存在しないからである。
イ 本件各商標の使用については、商標権者であったIが設立したワンダフルと原告との間で商標使用に関する協定書が存在する。原告は、この協定書に基づき、ワンダフルに対し、別紙「売上高・営業利益・商標使用料比較一覧表」記載のとおり、平成6年から平成10年までの5年間で約28億円、売上高の約8%以上にも達する莫大な金額の商標使用料を支払ってきた。
 Iの遺産に対する福岡国税局の調査によれば、本件各商標の価値は相続税価値評価基準によっても20億7372万7411円と評価されるものであるし、時価は39億0976万円にのぼるとの弁理士の評価もある。
 被告らの主張は、原告が年間6億円もの膨大な額の使用料を支払い、かつ、時価が30億円を超える価値を有するとされている本件各商標について、これを無償かつ永年使用することを許されたというものである。このような主張は荒唐無稽であって、経験則上成立する余地はない。
(3) 被告Gによる商標の自己使用として被告らの行為が許されるか
(被告らの主張)
ア 仮に、Iから被告らに対する商標使用の許諾が認められないとしても、被告Gは、「アザレグループ」の分裂後である平成12年4月ころから、原告に替わって、以下のとおりの契約を締結し、自己の計算で下請業者である被告アザレプロダクツに被告製品を製造させ、商品を仕入れて各本舗に販売し、各本舗が被告Gから仕入れた商品を販売している。
@ 被告アザレアゼット、同アザレウイング、同アザレ武蔵野の各社は、平成12年3月ころ、被告Gとの間で、旧東京本舗アザレコーポレーション傘下の販社としてアザレ化粧品を販売することを目的として、口頭による販売代理店契約を締結した。
A 被告アザレ東京は、平成12年7月24日、その設立と同時に被告Gとの間で販売代理店契約を締結した。この時点で、被告アザレアゼット、同アザレウイング、同アザレ武蔵野の3社は、アザレコーポレーションの傘下から被告アザレ東京の傘下に移籍した。
B 被告アザレプロダクツは、平成12年3月ころ、被告Gとの間で、口頭によるアザレ化粧品の製造委託契約を締結した(被告共和化粧品は製造をしていない。)。
 上記各契約による被告Gと他の被告ら(被告共和化粧品及び被告Gを除く。)の関係は、被告Gの商標自己使用に伴う一機関あるいは代理人として他の被告ら(被告共和化粧品を除く)が本件各商標を使用しているものと評価できるものであり、被告ら(被告共和化粧品及び被告Gを除く。)が本件各表示を付した商品を製造し、販売している行為はいずれも被告Gの自己使用の範囲として許されるものである。
イ 原告及び補助参加人らは、「製造・発売元」として被告Gの表示がないことを問題とする。しかしながら、個人名の表示や「発売元」の表示をすることは商標使用の要件ではない。「発売元G」と表示しないのは、発売元は製造元と違って法律上の表示義務はないし、営業政策上好ましくないからである。また一時期「発売・製造元」として被告アザレプロダクツの表示がされた商品が出回ったことは事実であるが、これは、発売当初の混乱に基づくもので現在は「発売元・アザレ化粧品(福岡市中央区天神)」とする正しい発売元表示がされるようになっている。誤った表示によって商標の使用者が確定されるいわれはないので、この点の原告の主張も失当である。
ウ 原告及び補助参加人らは、被告Gによる本件各商標の自己使用が権利の濫用である旨主張する。
 しかしながら、原告こそ「アザレグループ」から商標権者である被告Gを排除しようと画策してきたのであり、商標権者に無断で、アザレブランド以外の、原告が商標登録した「ピュアコール」ブランドを表示し、アザレブランドの希釈を着々と進めて、「アザレ化粧品」の消滅を目指してきたのである。被告Gは、このような動きを阻止し、「アザレ化粧品」を存続させるために努力してきただけであって、何ら権利の濫用となるものではない。
(原告及び補助参加人らの主張)
ア 被告らの主張は否認する。以下の各事実に照らすならば、被告Gが本件各表示を商標権に基づき自己使用している事実はないことが明らかである。
(ア) 平成12年4月以降に被告アザレプロダクツ(実態は被告共和化粧品)が製造した化粧品には、「製造・発売元」として被告アザレプロダクツの表示がされている。さらに、被告製品を宣伝するために作成されたパンフレットには被告アザレプロダクツの表示はあるが被告Gの表示は一切ない。
(イ) 被告アザレプロダクツは、被告共和化粧品のアザレ化粧品製造部門を分社化したものであり、製造工場等の資産のほとんどを被告共和化粧品が所有し、従業員・役員も兼務で、製造委託契約の内容も、原告と被告共和化粧品の場合とほとんど変わらない。
(ウ) 本件各表示については、Iと原告との間で商標使用契約が締結され、原告がI(昭和57年3月以降はワンダフル)に商標使用料を支払っていた。
(エ) 被告Gと取引をしている本舗は、注文書2部を作り、一部を被告アザレプロダクツに、一部を被告Gに送付し、製品は被告アザレプロダクツから本舗に直接出荷されていた。本舗の中には、注文書の名宛人をワンダフルと誤解している者もいた。
(オ) 平成13年1月の時点では、被告Gの事務所には、アザレ化粧品の販売事業を行っていることの表示がされていなかった。
(カ) 被告アザレプロダクツはワンダフルから2億円を借り受けて新容器の金型等を作成し、被告製品の販売開始後も、容器や外箱等を被告アザレプロダクツの負担で調達し、これらの費用を上乗せして、被告Gに代金を請求していた。
(キ) Iが、昭和52年ころ、被告アザレプロダクツに対し、製造に関する商標の使用を許諾した事実は認められない。
(ク) 被告Gが被告アザレプロダクツに対し、アザレ化粧品の製造や販売について具体的な指示をしている形跡がない。
イ 被告らは、一方において、@Iが、Hに対し、化粧品製造に関する本件各表示の使用許諾をしたと主張し、他方でA被告アザレプロダクツの本件各表示の使用は、被告Gの商標権者としての自己使用の範囲内であると主張しているが、被告アザレプロダクツが化粧品を製造するについて、自らの権限に基づいて本件各表示を使用しているのか、それとも被告Gの手足に過ぎないのかについては、客観的事実はひとつであり、このような択一的な主張が許されるものではない。被告らがこのような矛盾する主張をするのは、本件各表示に関し、補助参加人らから、被告Gを相手方として処分禁止の仮処分が福岡地方裁判所に申し立てられ、平成11年12月10日、これを認める決定が出されたことから、これを潜脱する意図で、被告Gが被告アザレプロダクツに対し、仮処分に違反して商標使用を許諾した実体があるにもかかわらず、それを自己使用と言い繕っているものであり、事実に反することは明らかである。
ウ 被告Gによる商標の自己使用は、権利の濫用として許されない。
(ア) Iの死後、H及び被告らは、結託して原告の経営を支配しようと画策していたのであるが、乗っ取りが他の株主の反対によって阻止されると、突然、被告アザレプロダクツが製造契約を打ち切る旨通告してきた。さらに、その後、Hらは、原告製品がすべて被告アザレプロダクツ製の商品に切り替わった旨を記載したパンフレットを作成して、配布するなどした。
(イ) このようなHらの行動は、突然の製造契約の打切りによって原告を混乱させ、また、原告の製造するアザレ化粧品がすべて被告アザレプロダクツ製の商品に切り替わったとの虚偽の事実を宣伝して原告製品を売れなくさせた上、原告との間における長年の取引によって得た製造ノウハウにより、本件各表示を使用して化粧品を製造し、原告がその取引で培った顧客層に被告製品を売り込もうとするものであって、原告の作り上げた「アザレ化粧品」ブランドの乗っ取り以外の何ものでもない。そして、被告Gは、本件各商標の使用を許諾して、乗っ取り行為に積極的に加担しているものである。
(ウ) しかしながら、原告は、昭和52年10月の創業以来本件各表示を自己の商品表示として使用し、その対価として昭和57年から平成11年までの18年間で64億円を下らない莫大な商標使用料を支払ってきた。
 そればかりか、原告は、売上高の3分の1にも及ぶ広告宣伝費や販売促進費を投じて本件各表示をブランドとして育ててきたのである。
 Iは、原告から商標使用料を受領し、あるいはワンダフルに支払われる莫大な商標使用料を実質的に支配していたばかりか、原告から長年にわたり多額の役員報酬や株主配当を受け取ってきたのである。時価評価をすれば、44億円を下らず55億円にも及ぶIの遺産は、すべて原告から支払われた商標使用料、役員報酬、株主配当によって形成されたものである。
 そして、被告Gは、Iからこのような莫大な遺産を相続し、原告の取締役にも就任していたのである。
(エ) そのような被告Gが、Hらと共謀して、本件各表示を使用し、外観が類似し、処方が全く同一の化粧品を製造して、原告の従来の顧客に販売することは、原告が培った「アザレ化粧品」ブランドの乗っ取りであって到底許されない。
 すなわち、被告Gが本件各商標を自己使用することは、権利の濫用に該当する行為である。
(4) 被告らの商品表示が本件各表示と混同を生じさせるものか
(原告の主張)
 原告が製造販売するアザレ化粧品(以下「原告製品」という。)と、被告らが製造販売する被告製品は、いずれも化粧品という点で共通しているばかりか、同一の商品等表示を使用し、その種類及び外観も類似し、自然派化粧品を標榜し、顧客層も同一もしくは類似している(世代や好みが似ている)のであるから、その出所の混同が生じている。また、被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング、同アザレ武蔵野及び同アザレプロダクツが、それぞれ「アザレ東京」、「アザレアゼット」、「アザレウイング」、「アザレ武蔵野」及び「アザレプロダクツ」なる商号を使用することにより、原告の商品又は営業と混同が生じるおそれがあるものである。
(被告らの主張)
 原告の主張は争う。出所の混同が生じるおそれはない。
 原告製品と被告製品は、確かに同じ商標を使用しているが、外観や具体的な表示がすべて異なり愛用者に対する混同は全く生じる余地がない。また、被告アザレプロダクツが製造した製品か、原告が製造を委託している日本コルマーの製品かについては、すべての愛用者が明確に識別している上、販売員のレベルでも、原告グループか、被告Gグループかに明確に分かれている。つまり、原告の顧客あるいは原告製品の愛用者が、本件各表示を見て、間違って被告製品を買うことなど絶対にあり得ない販売システムがとられているのである。
(5) 原告の損害
(原告の主張)
ア 被告G、同アザレプロダクツ及び同共和化粧品工業に対する損害賠償請求
(ア) 請求の根拠
 被告Gは、本件各商標の使用を被告アザレプロダクツに許諾し、同社が被告共和化粧品に再許諾して、同社が本件各表示を使用した化粧品の製造販売を行い、原告の営業上の利益を侵害している。
 また、被告Gは、本件各商標を自己使用し、被告アザレプロダクツに化粧品をOEM製造させ、これを本舗に販売していると主張している。実際に化粧品を製造しているのは、被告共和化粧品である。
 いずれにしても、被告G、同アザレプロダクツ及び同共和化粧品(以下、この3名を「被告Gら」ということがある。)は、共謀して、原告の商品表示である本件各表示と同一の表示を使用して化粧品を製造販売し、原告の営業上の利益を侵害しているので、原告は、被告Gらに対して、不正競争防止法4条に基づき、被った損害の賠償金を連帯して支払うことを請求することができる。
(イ) 原告が被告Gらに対して請求し得る損害額について
 被告Gらによる不正競争行為が始まる以前3年間の原告の営業利益は、次のとおり合計18億8851万0811円である。
 ・第16期(平成9年1月1日から同年12月31日) 3億5086万0391円
 ・第17期(平成10年1月1日から同年12月31日) 5億8472万9473円
 ・第18期(平成11年1月1日から同年12月31日) 9億5292万0947円
 ところが、被告Gらによる不正競争行為が始まって以降、原告の営業利益は激減し、3年間の営業利益の合計は、次のとおり1億0113万5419円となった。
 ・第19期(平成12年1月1日から同年12月31日) 9695万6217円
 ・第20期(平成13年1月1日から同年12月31日) −2621万0492円
 ・第21期(平成14年1月1日から同年12月31日) 3038万9694円
 被告Gらが不正競争行為を始めた平成12年5月1日以降平成15年3月31日までの35か月間に、原告が被った損失を、原告の第16期から第18期の利益に基づいて計算すると、以下の計算式のとおり、17億3772万6075円となる。
 (計算式)
 (1,888,510,811×1/3−101,135,419×1/3)×35/12=1,737,726,075
(ウ) 弁護士費用としては、1億7000万円が相当である。
(エ) よって、原告は、被告Gらに対し、上記損害金の一部請求として、金18億6121万7534円とこれに対する被告全員に対する訴状送達の日の翌日である平成13年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを求める。
イ 被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野に対する損害賠償請求
(ア) 請求の根拠
 被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野(以下、この4名を「被告アザレ東京ら」ということがある。)は、被告Gの行っている化粧品の製造販売が、原告に対する不正競争行為であることを知りながら、これを購入して消費者に対して販売している。このような被告アザレ東京らの行為も、原告に対する不正競争行為であり、被告アザレ東京らは、原告の被った損害について、不正競争防止法4条に基づく損害賠償責任を免れることができない。
 被告アザレ東京らは、東京地区において一つの販売グループを形成して、原告に対する不正競争行為を行っている。すなわち、被告アザレ東京の傘下に、被告アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野を含めた120を下らない営業所があるとのことである。
 そうすると、被告アザレアゼット、被告アザレウイング及び被告アザレ武蔵野の各被告は、被告アザレ東京の傘下の販売グループの一員として、同社と連帯して、原告に対する不正競争行為を継続しており、原告の被った損害を賠償する義務を負担しなければならない。
(イ) 原告が被告アザレ東京らに対して請求し得る損害額について
 被告アザレ東京傘下の営業所は少なくとも120存在し、一営業所あたりの年間売上高は少なくとも1440万円であるから、以下の計算式のとおり、被告アザレ東京を中心とする販売グループの年間売上高は17億2800万円、平成12年5月1日から平成13年11月30日までの19か月間の売上高の累計は27億3600万円となる。
 (計算式)
 14,400,000×120=1,728,000,000
 1,728,000,000×19/12=2,736,000,000
 被告製品の小売販売によって得られる利益は、1割5分から2割程度と推測されるので、上記期間に被告の得た利益は、上記の売上高27億3600万円に1割5分を乗じた4億1040万円となり、同利益の額が原告の損害と推定されるものである。
(ウ) 弁護士費用としては、3900万円が相当である。
(エ) よって、原告は、被告アザレ東京らに対し、損害金の一部請求として、各自4億2900万円及び被告全員に対する訴状送達日の翌日である平成13年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払いを求める。
(被告らの主張)
 原告の主張は、いずれも否認ないし争う。
 特に、原告が損害賠償の根拠として主張する点については、強く争う。繰り返しになるが、アザレ化粧品は、カリスマ的地位にあったIの存在によって成功した事業であるということを否定する関係者はいない。その才能に着目し、Iへ新しい事業への勧誘を熱心に行ったのがHである。アザレ化粧品は、この2人によって、当初から、大きく「2つのグループ」により創業されたものである。
ア 原告は、Aもしくは原告が単独でアザレ化粧品を創業したかのように主張し、被告アザレプロダクツは原告から本件各表示の使用許諾を受けて化粧品の製造を行っていたのだから、製造契約が解除されれば本件各表示を使用することはできないと主張するが、原告はIから、独占的通常使用権の許諾を受けてはおらず、Iはワンダフルに通常使用権を無償貸与しているのである。原告はワンダフルが有する無償の通常使用権をIの許諾のもとに転貸を受けているのであって、原告はワンダフルの本件各表示に関する通常使用権に基づきアザレ化粧品の販売をしているに過ぎない。
 したがって、原告は、第三者である被告アザレプロダクツに、本件各表示の使用許諾をする権限は有しないし、被告アザレプロダクツの「製造」に関する権限は、昭和52年にIとの合意により取得したものである。
 本来、原告は、すべて商標権者であるIの指示に従う立場にあったのであり、Iとその相続人よりも上位の位置には有り得ない。
イ 被告アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野は、それぞれ東京本舗に属するグループの一員としてアザレ化粧品のパンフレット等を作成して販売拡大に努めてきたし、被告アザレ東京は、被告アザレアゼット、被告アザレウイング及び同アザレ武蔵野の協力により第2東京本舗として遅れて出発した法人であるが、旧東京本舗グループの獲得した周知性を承継して事業を継続していることはいうまでもない。
ウ 被告らはいずれも、昭和52年以来、商標権者Iから、順次直接本件各商標の使用許諾を得て、Iと自己のために、自己の費用をもって、アザレブランドの周知性を高め、獲得することに努めてきた。被告らによる本件各表示の使用については少なくともIの黙示の承諾がない限り、今日まで使用し続けることはできなかったはずである。そして、被告らは、周知性の獲得に貢献し、グループの一員として自らのブランドとしてその使用をしてきたのであり、それぞれ表示主体の一員と認められるべきである。  
 よって、原告が被告らに対して損害賠償を求め得る根拠はない。
第3 当裁判所の判断
1 判断の前提となる事実関係
 前記前提となる事実関係(前記第2、1)に証拠(甲1ないし7、11、12ないし16、20ないし27、31ないし35、58、60ないし66、71、76、79、90ないし92、96、101、102、107、113、117、乙1、2、4、5、13、30、31、49ないし56、59、65、71(書証の枝番号は省略)、証人Q、原告代表者本人、被告共和化粧品及び被告アザレプロダクツ代表者本人、被告G本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。
(1) アザレ化粧品の販売までの経緯
ア Iは、昭和37年ころ、それまで勤務していたポーラ化粧品をやめて、Aの夫であったK、L、Mと共に「ヴァロー化粧品」を創業した。
 Iは「ヴァロー化粧品」の専務取締役となり、Aも同社に勤務していたが、経営方針をめぐってIと代表者のMとの間に対立が生じたため、Iは福岡に事務所を新設して「ヴァロー化粧品」を販売することとし、そのころ夫のKを交通事故によって亡くしたAもこれに従って福岡に移り、Iの事業に従事した。
イ ところが、「ヴァロー」という商標の使用について問題が生じるなどしたため、昭和45年ころIはジュポン社を設立し、「ルールジュポン」という商標の商標権を取得して、化粧品の製造販売を行うようになった。この会社の代表者はIであったが、Aも常務取締役として、その事業に従事していた。
ウ ジュポン社設立当時、大手化粧品メーカーの化粧品公害が問題となっており、黒皮症をめぐる訴訟も提起されていた状況であったことから、ジュポン社においては、黒皮症を念頭に置き、「肌に負担をかけない」「自然派化粧品」を謳い文句に水溶性ファンデーションを開発し、「エレガンスカラー」と名付けて販売を開始した。ジュポン社は、当初、同商品を含む「ジュポン化粧品」の製造については、永田美研工業に内容物の製造を委託し、ジュポン社においてこれを容器に詰めるなどして製品として完成させて、各地の販売店に販売していた。
エ しかしながら、上記永田美研工業が、ジュポン社の関知しないところで「ジュポン化粧品」と同一仕様の製品を製造して、直接販売店に出荷していたことが判明したため、昭和48年ころ、ジュポン社は永田美研工業との契約を解除し、化粧品の委託製造を専門に行っていた被告共和化粧品との間で、新たに化粧品の製造委託を内容とする契約を締結した。
 上記契約の契約書は「製造請負契約書」と題するもの(甲1の3は同契約書の草稿)であり、概要、次のような条項が置かれていた。
@ ジュポン社は、被告共和化粧品に対し、ジュポンエレガンススペシャル、ジュポンゴールドエレガンス、ジュポンウェディングカラー、ジュポンエレガンスソープ、ジュポンナイトビューティの製造を請け負わせるものとして、それに必要な資材の容器、化粧箱、ダンボール小箱、ダンボール大箱は、ジュポン社が支給し、内容製造原料は被告共和化粧品が負担する。
A 被告共和化粧品がジュポン社より供給を受けた材料はすべてジュポン社の所有であり、被告共和化粧品は、これを処分したり担保に供したりしてはならず、また、その明細書の提出を求められた場合は、被告共和化粧品はこれに直ちに応じなければならない。
B 被告共和化粧品は、ジュポン社より交付を受けた注文書により製造するものとし、納品はジュポン社の指定する場所に発送する。
C 被告共和化粧品は、ジュポン社の取引先、及びジュポン社の営業活動にて該当製品の存在を関知した他者より問合わせや注文があった場合は、直ちにジュポン社に連絡して、ジュポン社の指示に従いジュポン社及びジュポン社の取引先の営業権を擁護し、ジュポン商標や他のブランドの製品を理由の如何を問わずまた直接、間接にても取り引きすることは決してできない。
D 被告共和化粧品は、ジュポン社が製造を委託したジュポンエレガンススペシャル、ジュポンゴールドエレガンス及びジュポンウェディングカラーの3種類の製品と同一様式の水溶性ファンデーションの製造は、ジュポン社以外の業者に対しては請け負えない。
E ジュポン社は、被告共和化粧品以外の業者に対しては、ジュポンエレガンススペシャル、ジュポンゴールドエレガンス、ジュポンウェディングカラー、ジュポンエレガンスソープ、ジュポンナイトビューティと同一様式の製品の製造は委託できない。ただし、ジュポン社の発注数量に対して、被告共和化粧品がその70%の生産数量を3か月連続して達成し得ない場合は、ジュポン社は、他の業者に対して委託できる。
オ 上記の「エレガンスカラー」の販売が好調であったこともあって、ジュポン社の売上は伸びていたが、「ルールジュポン」の商標が、米国の化学メーカーであるデュポン社の名称と類似することが問題となり紛争が生じたこと、「ルールジュポン」商標には化粧品が指定商品とされていなかったことから、昭和50年、Iは「ジュポン化粧品」の事業及び「ルールジュポン」の商標権を取締役のLに譲り、Aとともに福岡に戻った。
(2) アザレ化粧品の創業及び本件各表示の使用の開始
ア しかし、事業から手を引いたIに対しては、Nをはじめとするジュポン社の取引先やHから再び化粧品業界に戻るように強い要請があった。上記要請を受けてIは、ジュポン社の時代に引き続き、「自然派化粧品」の理念のもとに、再び化粧品事業を始めることととした。その際、Iは2度にわたって商標の問題で失敗をした経験から、問題を生じないような商標にしたいと考え、Aが考案した「アザレ」を商標として使うこととした。そして、本件各表示につき商標登録出願をし、I名義で商標権の設定登録を受けた。
イ 昭和52年10月中旬ころ、I及びAは、両名の考案に係る「アザレインターナショナル」の商号の下でアザレ化粧品の販売を開始した。アザレ化粧品の販売が始められた当初は、代表者をAとする個人企業として営業活動が行われたが、その後、昭和53年1月に有限会社アザレインターナショナルが設立され、代表取締役にA、取締役としてRとHが就任した。しかしながら、Hは名目的に取締役に就任したにすぎず、会社の経営に関して発言をするなどのことはなく、実質的な経営はIとAとが行っていた。
 その後、有限会社アザレインターナショナルの業績も次第に上がってきたので、同社はいったん解散した上で、昭和57年1月に資本金1000万円で原告が設立され、販売を行うようになった。設立当時の持ち株比率はIの意向により、A50%、I14%、H10%などとされ、代表取締役にはA、取締役にH及びIが就任した。
ウ I及びAは、昭和52年10月にアザレ化粧品の販売を開始した時から、本件各表示を化粧品に付して使用し、有限会社アザレインターナショナル及び原告も、各設立時から本件各表示を化粧品に付して使用している。
エ アザレ化粧品の製造は、ジュポン時代に引き続いて被告共和化粧品が行い、個人営業の時代の「アザレインターナショナル」と被告共和化粧品の間で製品取引契約が締結され、原告が設立された後の昭和57年1月、改めて、原告と被告共和化粧品との間でアザレ化粧品の製造委託を内容とする契約が締結された。
 上記契約の契約書は「製品取引契約書」と題するもの(甲1の2)であり、概要、次のような条項が置かれていた。
@ 原告は、製品を完成するのに必要な外装用資材を被告共和化粧品に供給し、被告共和化粧品は、製品中身の製造に必要な原料を仕入れ、加工完成して原告の販売機構である各県の販売指定店に原告の指示に基づいて送付し、納品する。
A 原告は、被告共和化粧品に対して、原告の営業活動により設置する販売店全部の住所氏名を通知し、被告共和化粧品はこの名簿により出荷する。
B 被告共和化粧品は、Aにより原告の販売経路や販売方法等の詳細を知る立場を利用して、原告の経営を阻害する行為を行ってはならない。
C 原告が被告共和化粧品に支払うべき製品の代価は、被告共和化粧品の見積書を原告が承認して決定する。
D 被告共和化粧品は、原告の主たる商品であるメイクアップ料を水溶液中に保留した通称水彩カラーと称するアザレグレイスカラーと同一様式の製品を原告以外の第三者より受注してはならない。
E 被告共和化粧品は、原告の販売機構内の指定販売店・販売店・販売員から原告の商品と異なる種類の製品でも受注してはならない。
F 被告共和化粧品の製造品種以外の製品については、原告は、被告共和化粧品を製造元と定め、被告共和化粧品を通じて他業者に下請けを発注する。
G 製品の内容処方や成分については、被告共和化粧品が決定して製造し、原告は被告共和化粧品の製造内容に準じてこれを販売する。
H 被告共和化粧品が原告より供給を受けた資材はすべて原告の所有資産であり、被告共和化粧品は、これを流用し、処分し、又は担保に供する等の行為をしてはならない。
オ I及びAが「アザレインターナショナル」を創業した後、最初に商品として発売したのが、「アザレグレイスカラー」という水溶性ファンデーションであった。これは、ジュポン時代のヒット商品である「ジュポンエレガンスカラー」のノウハウを生かし、A自身がモニターとなるなどして改良を重ねたものであった。その後、被告共和化粧品からの提案等により新商品も開発、販売され、原告が設立された昭和57年1月ころには、20種類以上の商品がアザレ化粧品として販売されるようになった。
(3) アザレ化粧品の販売網の形成
 I及びAは、個人営業の時代から、「本舗」と呼ばれる販売指定店を設け、本舗のアドバイザーと称する販売員が顧客を訪問して化粧品の使用方法等を紹介・指導し、販売するという訪問販売方式によってのみアザレ化粧品を販売するという流通方法をとった。各本舗は、それぞれ販売活動のできる地域が厳格に定められ(原則として都道府県毎に1本舗)、アザレ化粧品以外の商品の販売を禁止された専属的な販売店であった。この本舗の開拓は、Iが、HやAを同行させて行い、原告が設立されたころには50以上の本舗が開設されるに至っていた。
 原告と本舗との間には販売指定店契約が締結されたが、これらの契約書上には、昭和53年ころのものには、記名(署名)押印のほか、「契約立会人」として被告共和化粧品及びIの記名(署名)押印がある。また、昭和57年ころのものには、同じく「契約立会人」として、被告共和化粧品のほかO弁護士あるいはP弁護士の記名押印がある。
(4) 被告アザレプロダクツの設立
ア 被告共和化粧品は、原告と製造契約を締結した後も、アザレ化粧品以外の化粧品の製造も行っていた。しかしながら、アザレ化粧品が徐々に消費者に受け入れられ、知名度が上がってきたことから、被告共和化粧品に化粧品製造を請け負わせている他の化粧品会社が、アザレ化粧品と同一の製造元による製品であるとの宣伝を行うようになり、アザレ化粧品のブランドの価値が損なわれるおそれが生じたため、Iの意向もあり、完全にアザレ化粧品専門の製造会社を設けることとした。そして、昭和60年7月に被告アザレプロダクツが設立され、Hが代表取締役に就任した。
イ 被告アザレプロダクツは、上記のように、対外的にアザレ化粧品専用の製造工場を有していることを明らかにする目的で設立されたものであるため、従前の被告共和化粧品の設備、人員をいわば流用する形で名目的に独立の法人としたものであった。そのため被告アザレプロダクツの工場設備はそのほとんどが共和化粧品の所有であり、アザレ化粧品の製造作業も被告共和化粧品の従業員が行っている。
ウ 被告アザレプロダクツの設立後、平成元年12月18日に原告と被告アザレプロダクツとの間で、それまでの製造委託契約に代えて新たに契約を締結した。
 同契約の契約書は「委託製造取引契約書」と題するもの(甲1の1)であり、概要、次のような条項が置かれていた。
@ 原告は製品を完成するのに必要な外装用資材を自己資金で作り、被告アザレプロダクツに預け、被告アザレプロダクツは製品中身の製造に必要な原料を仕入れ、加工完成して原告の販売機構である各県の販売指定店に原告の指示に基づいて送付し、納品する。
A 原告は被告アザレプロダクツに対して原告の営業活動により設置する販売店全部の住所・氏名を通知し、被告アザレプロダクツはこの名簿により出荷する。
B 被告アザレプロダクツは、Aにより原告の販売経路や販売方法等の詳細を知る立場を利用して、原告が開発した取引先と直接談合したり、被告アザレプロダクツが別に経営する被告共和化粧品と原告の得意先と取引したりして信頼に背き、原告の経営を阻害する行為を行ってはならない。
C 原告が被告アザレプロダクツに支払うべき製品の代価は被告アザレプロダクツの見積書を原告が承認して決定する。
D 被告アザレプロダクツは、アザレの商標を使用する製品を原告の指示する所以外に、いかなる理由でも出荷してはならないこととする。
E 原告は、アザレの商標を使用する化粧品の製造を被告アザレプロダクツ以外の下請業者に発注してはならない。ただし、医薬品及び医薬部外品は除外する。
F 被告アザレプロダクツは、原告の販売機構内の販売指定店、販売店、販売員から原告の商品と異なる種類の製品でも受注してはならない。
G 製造の内容処方や成分については、原告と被告アザレプロダクツが協議の上決定して製造するものとし、原告の承諾なく変更してはならない。
H 被告アザレプロダクツが原告より供給を受けた資材はすべて原告の所有資産であり、被告アザレプロダクツはこれを流用し、処分し、又は担保に供する等の行為をしてはならない。
(5) アザレ化粧品の売上及び広告宣伝等
ア 原告の設立以降の売上の推移は、別紙「売上高・営業利益・商標使用料比較一覧表」の売上高記載のとおりである。原告が設立された昭和57年度に既に売上高は6億7628万0760円にのぼっていたが、それが昭和59年には、12億2526万6090円になり、その後も平成8年ころまで概ね順調に売上を伸ばし、平成8年度の売上高は71億円超を記録した。
イ 原告と被告アザレプロダクツとの契約関係存続中に販売されたアザレ化粧品の外箱や化粧瓶には、本件各表示が付され、その外箱あるいは瓶底のシール等には、「発売元」として原告が記載され、薬事法に基づき、「製造元」として被告アザレプロダクツが記載されていた。
ウ アザレ化粧品用のパンフレットやチラシは、ほとんど原告が作成し、原告の名前が出所として記載されていた。各地の本舗においても、商品の紹介や化粧品の使用方法が記載されたパンフレットや紙芝居などを作成することはあったが、主に各本舗に属する販売員向けのもので、これを直接顧客に配布することは想定されていないものであった。
エ アザレ化粧品の新聞広告は、平成8年以降、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞に年間120回、半2段(縦約7p×横約19p)の大きさで掲載され、その文面には、いずれも原告のみが広告主として記載されていた。もっとも、この広告内容は、「アザレ化粧品から訪問・直接対面販売のお知らせ」と題されたもので、商品の紹介を内容とするものではなかった。
 雑誌広告については、昭和57年2月から7月まで及び昭和58年2月から5月までを除いて、月刊「健康ファミリー」に商品広告が連続掲載されたほか、女性誌「主婦の友」、「ヘア&メーク」、「MiL」においても商品広告が掲載された。平成13年以降においても、女性誌「VERY」、「ミセス」等にアザレ化粧品の広告が掲載されている。これらの商品広告において、広告主の名前が掲載されるときには、原告の名前が掲載されていた。
 これらの新聞及び雑誌広告のための支出額は、平成8年度で約3089万円、平成9年度で約5532万円、平成10年度で約7648万円である。
オ 各種ファッション雑誌での化粧品の記事には、他の化粧品と並んでアザレ化粧品が取り上げられることがあったが、そこでは、概ねアザレ化粧品は、植物性の自然派化粧品として紹介されており、出所が表示されるときには、原告が記載されていた。
カ 原告は、毎月「アザレリポート」を販売店向けに発行して、各種の連絡や販売方法の指導を行っていたほか、昭和56年以降「販売店コンクール」等を開催して販売店及び販売員の意欲を高める努力をしていた。これに応じて各販売店でも独自に販売員向けの資料を作成したり、販売員の研修を行ったりした。
 また、原告は、各本舗用に、多数の販売促進品を製造し、配布した。
キ 原告は、株式会社コスメティック・トーキョーが、原告と販売店契約を締結していないにもかかわらずアザレ化粧品を販売していることを知り、同社を刑事告発し、同社に製品を横流しした静岡本舗との間の販売指定店契約を解除するなど、アザレ化粧品の販売網の維持管理を積極的に行った。
ク 原告は、上記のような販売及び広告宣伝のために、別紙「売上高・広告宣伝費・販売促進費比較一覧表」記載のとおりの広告宣伝費、販売促進費を支出した。
(6) アザレ化粧品の製品開発等
ア 化粧瓶及び外箱について
 前記(4)ウ記載のとおり、アザレ化粧品の化粧瓶及び外箱については原告が被告アザレプロダクツに供給することとされており、また、各種化粧瓶の意匠については、Iを創作者として意匠登録出願がされ、原告が意匠権を取得している。
イ 原告の研究体制等について
 原告は、福岡県糟屋郡新宮町に研究所を有しており、少なくとも平成4年以降は、社団法人福岡県製薬工業協会の正会員であり、平成10年には化粧品製造業許可を、平成12年には医薬部外品製造業許可をいずれも福岡県知事から受けている。
 原告の研究所には、化粧品の製造設備が設けられているほか薬剤師が配置され、アザレ化粧品の成分や効能に関する質問が本舗から寄せられたときに、その質問に答えたり、クレーム品について微生物検査をするなどしてその原因を究明する業務を行ったり、クリームや化粧水についての新しい処方を考え、サンプルを作るなどしていた。
 また、原告では、平成8年ころからPL法相談室を設け、全国の消費者からの苦情や相談に応じる態勢をとっていた。
ウ 製品化について
 アザレ化粧品を製品化するに当たっては、原告あるいはIが製品のおおよそのイメージを被告アザレプロダクツに提示し、被告共和化粧品の設備を用いて製品化の研究や分析が行われ、その結果を踏まえて被告アザレプロダクツから原告に対して具体的な製品についての提案がなされ、それを原告が検討して採用するという手順を経て行われることが多かった。ただし、実際の製品の製造原価に占める被告アザレプロダクツの割合は3分の1程度であった。
(7) 本件各表示についての商標権
ア 本件各表示については、Iを商標権者とする商標登録出願がなされ、いずれも商標権の設定登録がなされたが、Iは、商標権設定登録後直ちに、原告に対して本件各商標につき独占的通常使用権を設定し、原告に本件各表示を使用させ始めた。
イ その後、Iはワンダフルを設立し、昭和57年1月5日、同社に対して本件各商標を再許諾権付きで使用許諾した(乙5)。同日、ワンダフルは原告との間で原告による商標の使用を許諾することを内容とする、概要次の内容の契約(乙4)を締結した(以下「本件商標使用許諾契約」という。)。
 本件商標使用許諾契約には次の定めがある。
@ 原告は、ワンダフルの商標である「アザレ」を使用する。
A 原告は、当該商標の価値と信用を高めるように常に留意する。
B 原告は、ワンダフルに対して、使用料として、当該商標を使用した製品の出荷高につき末端小売定価の2%を支払う。
C 当該商標使用製品の1ヶ年合計額が実際取引入金金額で1億円を超過した場合は、小売定価の1.5%を支払う。
D 原告よりワンダフルに支払う商標使用料の1年間合計額が2000万円を超える場合は、本商標の価値を高める目的で、原告の要求によりワンダフルは広告援助金を支払い、原告の営業活動を支援しなければならない。
E アザレ関係パッケージボトル販促物品のデザイン使用料及び原告に対するワンダフルの営業協力歩合も、本商標使用料に含まれる。
ウ その後、ワンダフルから本件商標使用許諾契約の改訂の申し入れがあり、昭和60年1月16日、上記イ記載のCを削除し、実績金額に関係なく小売金額の2%が原告からワンダフルに支払われることとされ、同Dも削除し、ワンダフルが独自の活動に資金を使用することができることを原告が認めることとされた。
 そして、本件商標使用許諾契約に基づき、原告からワンダフルに対して、別紙「売上高・営業利益・商標使用料比較一覧表」記載のとおり商標使用料が支払われた。ワンダフルは、本件各商標に関し、原告との間で商標使用契約を締結したのみで、他の者との間で商標使用許諾契約を締結することはなかった。
エ ところで、Iは、死亡に際して全財産を妻である被告Gに相続させる旨の遺言を残していたため、本件各商標権は、いったんは相続により被告Gに帰属したものとされた。被告Gは平成10年11月に本件各商標権につき相続を原因とする移転登録を了し、さらに有限会社ワンダフルの代表者に就任した。ところが、その後、後記のとおり、AとH及び被告Gの対立が生じたため、ワンダフルは、原告に対し、平成11年12月13日付け「御通知」と題する書面を送付し、上記イの本件各商標の使用許諾契約を書面到達後6か月の経過をもって解約する旨通知し、さらに平成12年2月10日付「解約通知書」と題する書面により、同契約を即時解除する旨を通知した。
 しかしながら、上記解約通知に先立ち、補助参加人らは、被告Gに対する本件各商標権の遺贈を対象として遺留分減殺請求権を行使し、共有持分移転登録請求権を被保全権利とする商標権の処分禁止の仮処分を福岡地方裁判所に申し立て(同裁判所平成11年(ヨ)第928号)、平成11年12月10日に申立て認容の決定を受け、更に保全異議(同裁判所平成12年(モ)6018号)でも同仮処分決定が認可され、更に同保全異議決定に対する抗告審(福岡高等裁判所平成12年(ラ)第95号)でも抗告を棄却する旨の決定がなされた。
 もっとも、平成12年9月5日に言い渡された補助参加人らと被告Gの間の本案訴訟の第一審判決(福岡地方裁判所平成11年(ワ)第3714号)では、被告Gから主張された遺留分減殺請求権行使に対する価額賠償の抗弁が認められ、被告Gが補助参加人らに一人当たり約2億6000万円を支払うことによって、本件各商標権等を完全に保有できることとされたが、同判決に対しては控訴がされ、現在控訴審が係属中である。
(8) 紛争の経緯
ア Iは、平成9年11月4日に死亡し、妻である被告Gと子である補助参加人らが相続した。Iの死後、H、東京本舗(アザレコーポレーション)のS(以下「S」という。)、佐賀本舗のT(以下「T」という。)、被告Gは、A及びNらと対立するようになった。その後、Sや被告Gも原告の取締役となったが、平成11年2月の役員改選期において、Sが取締役に再任されない見通しとなったことを不満として、上記H、T及び被告Gは原告の取締役への再任を拒否した。
 その後、被告アザレプロダクツは、平成11年11月4日付けの催告書を原告に送付し、原告の姿勢にはアザレ化粧品の理念に反するものがあり、疑問を抱かざるを得ないとして、新商品の開発及び販売のルールを確認することなどを要求し、納得できる説明がなければ3か月の経過により前記(4)ウ記載の委託製造取引契約を解約する旨を申し入れた。これに対して原告は、同年11月17日付けの回答書を被告アザレプロダクツに送付し、原告及びAにアザレ化粧品の精神にもとる行動はなく、今後も原告と被告アザレプロダクツとの契約を継続していきたい旨を述べるなどした。しかしながら、被告アザレプロダクツは、平成12年2月2日付けの通知書により、同月5日の経過をもって同契約を解約することを申し入れ、原告も同月2日付の内容証明郵便で解約に同意したため、両者の契約は同月5日限りで合意解約された。
イ 上記解約後の平成12年4月ころから、原告は、日本コルマー株式会社を新たな製造元として、アザレ化粧品の販売を開始した。
 他方、被告アザレプロダクツも、独自に被告製品の製造販売を開始した。この動きに呼応して、平成12年4月以降、約18の本舗が原告との間の販売指定店契約の解約の意思表示を行い、被告製品の取扱いを開始した。被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野は、被告製品を販売しているものである。なお、被告製品及びその包装の外観の色彩や瓶の形状は原告製品とは若干異なっているものの、本件各表示と同一の表示が付されている。
2 争点(1)(本件各表示は原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されているか)について
(1) 上記1認定の事実説示にかかる各事実を総合すると、原告(原告設立に先立つ個人企業としてのアザレインターナショナル、有限会社アザレインターナショナルを含む。以下本項(第3、2)において同じ。)と被告アザレプロダクツ(被告アザレプロダクツ設立前は被告共和化粧品。以下本項(第3、2)において同じ。)及び各本舗間の契約関係において、@アザレ化粧品の製造に関しては、委託製造取引契約に基づき、被告アザレプロダクツが原告から発注を受け、原告から供給を受けた化粧瓶及び外箱に詰めて完成させ、原告の指定する販売指定店に供給し、それ以外には販売してはならないという体制がとられていたこと、Aアザレ化粧品には、原告の名称が発売元として表示され、被告アザレプロダクツの表示は製造元として表示されていたものであること、B販売に関しては、販売指定店契約に基づき、原告が各販売店(本舗)から注文を受け付け、被告アザレプロダクツに発注をし、併せて顧客向けのパンフレットを作成したり、販売店への指導・連絡を行い、販促品の交付を行うなどしていたこと、C商標に関しては、原告がワンダフルとの間で本件各商標使用に関する契約を結び、毎年相当額の商標使用料の支払をしていたが、他にワンダフルとの間でこのような契約を締結した者はいなかったことが認められる。
(2) 不正競争防止法2条1項1号の規定は、他人の周知な表示と同一又は類似する表示を使用して需要者を混同させることにより、当該表示に化体した他人の信用にただのりして顧客を獲得する行為を、不正競争行為として禁止し、もって公正な競業秩序の維持、形成を図ろうとするものである。そうすると、同号の規定によって保護される「他人」とは、自らの判断と責任において主体的に、当該表示の付された商品を市場における流通に置き、あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて、需要者の間において、当該表示に化体された信用の主体として認識される者が、これに当たるものと解するのが相当である。
 これを本件についてみると、上記(1)において指摘したとおり、原告と被告アザレプロダクツの間の契約においては、本件各表示の付された容器等は原告の負担により製作されて被告に供給され、被告アザレプロダクツは、原告の発注に基づき原告から供給された化粧瓶・外箱に内容物を詰めてこれを原告の指定する販売店に納入するもので、商品を第三者に販売してはならないとされているものであり、またアザレ化粧品の容器等や広告には発売元として原告の名称が常に記載されていたことに照らせば、原告と被告アザレプロダクツの間の契約は、原告が自己のブランドを付して販売する化粧品類について、被告アザレプロダクツがその内容物を製造し供給する、いわゆるOEM契約と認められる。また、原告と各本舗の間の契約においては、各本舗は、原告を通じて本件各表示の付された商品を入手し、原告の指定する商品を原告の指定する販売方法で販売することのみが認められていたものであって、原告と各本舗の間の契約はいわゆる販売代理店契約と認められる。
 このような契約関係の下においては、アザレ化粧品に関して、原告が、本件各表示の付された化粧品容器等を管理し、その流通についても、原告が、その製造量を決定して、各本舗を通じての販売を管理していたものであり、本件各表示の付された化粧品容器や広告には発売元として常に原告が表示されていたのであるから、自らの判断と責任において本件各表示の付された商品を市場における流通に置き、消費者の間において本件各表示に化体された信用の主体として認識され得る立場にあったのは、原告だけであったと認められる。
 これに対して、被告アザレプロダクツ及び各本舗は、原告との契約関係に基づき、原告が自己のブランドを付して販売する化粧品の製造、流通に関与する限度で、本件各表示を使用していたにすぎないものであり、そもそも独自に商品等表示の主体になり得る立場にはなかったものというべきである。
 そして、前記1において認定の事実関係によれば、本件各表示は昭和52年10月ころからアザレ化粧品に使用されていること、原告が株式会社になった昭和57年1月ころには主力商品を含む20種類以上の商品がアザレ化粧品として販売されるようになり、ほぼ全国を網羅する50以上の本舗が設けられていたこと、昭和57年の原告の売上高は既に6億7600万円余りに達していたことが認められる。加えて、原告は、顧客向けのパンフレットやチラシの製作、販促品の配布、新聞や雑誌の広告等の広告宣伝を自ら行い、アザレ化粧品の広告における発売元としては必ず原告が表示されていたものである。これらの点に照らせば、本件各表示は、原告の商品及び営業の出所を示す表示として遅くとも原告が株式会社に組織変更をした昭和57年1月ころまでには、原告の出所に係る商品ないし原告の営業を示すものとして、需要者の間に広く認識され、現在に至るまでその状態を維持しているものと認めるのが相当である。
(3) この点に関して、被告らは、アザレ化粧品の創業及びその後の事業の拡大は、もっぱらI1人の手によるものであって、A及び原告の貢献はほとんどなかったとし、アザレ化粧品の製造・販売に関しては、Iの強い指導力の下で、「アザレグループ」と呼ばれる一体としてのグループが形成され、その中で、被告アザレプロダクツはアザレ化粧品を製造する役割を担い、各本舗はアザレ化粧品を顧客に販売する役割を担うという役割分担となっていたのであって、需要者の間においても「アザレグループ」として出所が認識されていたものであるから、一体としての「アザレグループ」が商品等表示主体になるとする。そして、単にIから「発売元として表示される役割」を与えられていたにすぎない原告だけを商品等表示の主体と解することは実態に反するとし、本件においては、原告と被告らの間で、互いに商品等表示につき「他人」と主張することはできないと主張する。
 なるほど、前記1において認定の事実関係からすれば、アザレ化粧品はIの卓抜したアイディアがなければ生み出されることはなかったであろうし、創業後アザレ化粧品が名声を博するに至ったのも、Iの才能によるところが大きかったものということができる。また、Iの存命中においては、原告、被告アザレプロダクツ及び各本舗は、Iの強い指導力の下で、Iの定めた方針に従って業務を行っていたことが認められる。しかしながら、他方、証拠(甲35の1、73、91、乙6の1ないし8)によれば、アザレインターナショナルは当初Aの個人企業として始められたこと、アザレ化粧品創業後、有限会社になり、原告が設立されてもなおAが代表者の地位にあったこと、創業時からAはIと行動を共にし、「アザレ」の商号を考案し、自ら商品を顧客に紹介したり、営業を行うこともあったこと、I自身、講演を行う際に「株式会社アザレインターナショナルI」との肩書きで講演を行っていたこと、といった事実も認められるのであって、このような点に照らすならば、アザレ化粧品の創業においては、Aも一定の役割を果たしたものであり、原告及びその前身の有限会社は、Iの意向を受けつつも事業の拡大に主体的に取り組んできたこと、I自身、自己の所属を原告と表示するなどしており、原告を離れた事業活動を行っていたわけではないことが認められる。そうすると、これらの事実に加えて、Iがワンダフルを介して原告のみに対して本件各商標の使用を許諾していたことや、原告と被告アザレプロダクツないし各本舗の間の契約の内容等に照らせば、アザレ化粧品に関連する業務の遂行においてIの果たす役割が前記のとおり大きなものであったにしても、本件各表示について、商品等表示の主体を原告と認定することができるものである。
 なお、被告らは、アザレ化粧品については、販売員による訪問販売の形態での販売しか行われていなかったのであるから、本件各表示が周知性を獲得するに際して、原告の広告宣伝活動は何の役割も果たしていないと主張する。しかしながら、前記1において認定のとおり、原告による新聞広告、雑誌広告は長期間にわたり継続的に行われていることに加え、消費者向けのパンフレットも原告において作成してきたものであって、アザレ化粧品が販売員による訪問販売による販売のみを行っているものであるにしても、原告による広告宣伝活動が本件各表示が周知性を獲得するに際して、少なからぬ役割を果たしたものと認められる。
3 争点(2)(Iから被告Gを除く被告らに対する本件各商標使用の許諾があったか)について
 被告らは、被告アザレ東京及び被告アザレ武蔵野につき昭和57年9月ころ、被告アザレアゼットにつき昭和60年4月ころ、被告アザレウイングにつき昭和61年5月ころ、被告アザレプロダクツにつき昭和60年ころに、本件各商標権の商標権者であったIから、無償での商標使用の許諾を得たと主張する。
 しかしながら、このような許諾のなされた事実を認め得る客観的な証拠はなく、本件全証拠によっても被告ら主張の事実を認めることはできない。被告らは、Iがアザレ化粧品の販売に必要不可欠な製造業者や販売店に対して無償での商標使用許諾を行うことは当然であると主張するが、本件においては、このような合意の存在を窺わせる事情が何ら存在しないばかりか、前記1(7)において認定のとおり、原告はワンダフルに対して本件各商標の使用の対価として毎年数億円にのぼる支払をしているのであって、商標権者であったIが製造業者及び販売店に対して、原告とは別個の使用主体として本件各商標を使用することを無償で許諾したという点については合理的な根拠を見いだすことは困難である。加えて、前記1(3)において認定したとおり、原告と各本舗間の販売店指定契約においては、各本舗に対してアザレ化粧品以外の商品の販売を禁止し、商品の注文も原告を通してのみ行うべきものとされていることに照らせば、被告アザレプロダクツ及び各本舗は、原告が、再許諾権者たるワンダフルから許諾を受けて、本件各商標を使用して行うアザレ化粧品の製造販売に関与する範囲内において、OEM契約による製造業者ないし販売代理店として本件各商標の付されたアザレ化粧品の取扱いをしていたにすぎないと認めるのが相当である。
 以上のとおり、Iから本件各商標の使用許諾を受けていた旨の被告ら(被告Gを除く。)の主張は、採用できない。
4 争点(3)(被告Gによる商標の自己使用として被告らの行為が許されるか)について
 被告らは、予備的な抗弁として、仮にIから被告ら(被告Gを除く。)に対して本件各商標の使用許諾がされた事実が認められないとしても、本件においては、被告Gは、自己の有する本件各商標権の共有者として本件各商標を自己使用して、被告製品の製造・販売を行っているものであり、他の被告らは、そのOEM製造業者ないし販売代理店として被告製品に関与しているにすぎないと主張する。
 しかしながら、本件全証拠によっても、被告Gが自らの業務として、被告製品の製造・販売を行っている事実を認めることはできない。
 むしろ、証拠(甲31、77、78、100、128ないし133、乙18、19、被告アザレプロダクツ及び被告共和化粧品代表者本人、被告G本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品には被告Gが販売していることは表示されず、かえって、少なくとも平成15年5月に至るまでは、被告アザレプロダクツが販売しているかのような表示が付されて販売されていたこと、被告製品の発売当初に作成された被告製品に関するパンフレットには出所の表示として被告アザレプロダクツ又は「アザレグループ」の表示があるのみであったこと、当初、被告製品の発注処理としては、各本舗から被告Gの事務所と被告アザレプロダクツの双方に注文書を送付し、商品は被告アザレプロダクツから各本舗に直接送られるという処理をしていたこと、最近に至り、本件補助参加人らと本件被告Gの間の別件訴訟(福岡高裁平成13年(ネ)第972号)において被告Gの敗訴判決がされたことを踏まえて発注処理を改めた後においても、被告Gの事務所では、各本舗から送付されてくる発注書をそのまま被告アザレプロダクツに転送するという処理をしているにすぎないこと、商品のクレーム対策や品質の管理はすべてアザレプロダクツが行っていること、被告Gの事務所には被告Gのほかに従業員が2名稼働しているのみであるといった事実が認められ、また、被告らは本件訴訟において、一方においては被告プロダクツはIから本件各商標の使用許諾を受けて主体的に被告製品の製造を行っているとの主張をしているものであり、このような各事情に照らせば、被告アザレプロダクツが被告GのOEM製造業者として被告製品の製造を行い、被告Gが自らの商品としてこれを販売し、各本舗が被告Gの販売代理店として被告製品を販売しているという被告らの主張は、到底採用することができない。
5 争点(4)(被告らの商品表示が本件各表示と混同を生じさせるものか)について
 被告製品に本件各表示と同一の表示が付されていることは当事者間に争いがない。原告は、自己の販売する原告製品に本件各表示を付してこれを販売しているものであり、原告製品と被告製品が同一種類の分野に属する化粧品であって、需要者を共通にするものであることからすれば、需要者の間に商品の出所につき混同を生じさせることは、明らかである。
 また、被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング、同アザレ武蔵野及び同アザレプロダクツが、それぞれ「アザレ東京」、「アザレアゼット」、「アザレウイング」、「アザレ武蔵野」及び「アザレプロダクツ」なる商号を使用していることは当事者間に争いないところ、これらの商号にはいずれも、原告の周知の営業表示である本件表示2、3と同一ないし類似の「アザレ」の表示がその要部として含まれているものであるから、上記の被告らが上記各商号を使用することは、需要者を始め、これをみる者に、原告とこれらの被告らが同一の資本関係ないしグループ関係にあるかのような誤認を生じさせるものと認められる。
 なお、被告らは、原告が製造販売しているアザレ化粧品(原告製品)と被告製品との区別はすべての顧客及び販売店、販売員が明確に識別していることであるし、販売網についても、販売員のレベルに至るまで原告のグループに属する者か被告Gのグループに属する者かがはっきりと分かれており、同一の商品等表示を使用しているからといって、商品の出所や営業主体を混同するおそれはないと主張する。しかしながら、すべての需要者が被告らが主張するような明確な認識を有しているとは認められないものであって、被告らの上記主張を採用することはできない。
6 被告らによる不正競争行為のまとめ
 上記2及び5において説示したとおり、本件各表示は原告の商品等表示として周知性を有するものであるところ、被告アザレプロダクツが製造販売し、被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野が販売する被告製品に付された本件各表示と同一の表示は、原告の商品と混同を生じさせるものである。また、「アザレ東京株式会社」、「アザレアゼット株式会社」、「アザレウイング株式会社」、「アザレ武蔵野株式会社」及び「アザレプロダクツ株式会社」の各商号は、本件表示2、3と同一ないし類似の表示を要部として含むものであり、原告の営業と混同を生じさせるものである。そして、上記3及び4に説示のとおり、被告らには本件各表示について、原告に対抗しうる正当な使用権原があるとは認められない。
 したがって、被告アザレプロダクツが本件各表示の付された被告製品を販売する行為、被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野が本件各表示の付された被告製品を販売する行為並びに被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング、同アザレ武蔵野及び同アザレプロダクツが、それぞれ、「アザレ東京株式会社」、「アザレアゼット株式会社」、「アザレウイング株式会社」、「アザレ武蔵野株式会社」及び「アザレプロダクツ株式会社」なる商号を使用することは、いずれも不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為に該当する。
7 差止請求について
(1) 販売行為等の差止め請求について
 前記6に説示したとおり、被告アザレプロダクツが本件各表示の付された被告製品を製造販売する行為、被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野が本件各表示の付された被告製品を販売する行為は、不正競争行為に該当するものであるから、これらの被告らに対して、本件各表示の付された被告製品の販売(被告アザレプロダクツに対しては製造販売)の差止め及びその廃棄を求める原告の請求は理由がある。
 また、被告アザレプロダクツが被告製品を販売する行為は不正競争行為に該当するものであるところ、前記1及び5において説示したとおり、被告共和化粧品は、被告アザレプロダクツと意思を共同して、同被告の被告製品の製造販売に際して、自己の製造設備を貸与し、自己の従業員をこれに従事させるなどして、実質的には被告製品を製造販売していたものであるから、被告共和化粧品は、今後自ら被告製品を製造販売して、原告の営業上の利益を侵害するおそれがあるものと認められる。したがって、被告共和化粧品に対して、本件各表示と同一の表示を使用した化粧品、石けん類又は香料類の製造販売行為の差止めを求める原告の請求は理由がある。もっとも、被告共和化粧品は、被告製品の製造販売に関して上記の限度で関与するものであって、現在、実際に被告製品の製造販売を行っているのは、別法人である被告アザレプロダクツであるから、被告共和化粧品に対する被告製品の廃棄請求は、理由がない。
 他方、被告Gについては、前記5において説示したとおり、被告製品の注文の取次を行っているものではあるが、その状況は前記認定のとおりであって、本件訴訟において本件各商標権の共有者として自ら本件各商標の使用を行っているかのような外観を作出するために、外観上取次行為を行っているにすぎないから、今後自ら不正競争行為を行って原告の営業上の利益を侵害するおそれがあるとは認められない。したがって、被告Gに対する販売行為等の差止請求及び被告製品の廃棄請求は、いずれも理由がない。 
(2) 商号の抹消登記手続請求について
 前記2において認定したとおり、本件各表示は遅くとも原告が設立された昭和57年1月ころには原告の商品表示・営業表示として周知性を獲得したものと認められるところ、「アザレ東京株式会社」、「アザレアゼット株式会社」、「アザレウイング株式会社」、「アザレ武蔵野株式会社」及び「アザレプロダクツ株式会社」の商号はいずれもこれに後れて登記され、使用が開始されたものである。前記6において述べたとおり、被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング、同アザレ武蔵野及び同アザレプロダクツがこれらの商号を使用することは、不正競争行為に該当するものであるから、これらの被告らに対して「アザレ」を含む上記各商号の抹消登記手続を求める原告の請求はいずれも理由がある。
8 争点(5)(原告の損害)について
(1) 被告G、同アザレプロダクツ及び同共和化粧品に対する損害賠償請求について
ア 前記5において説示したとおり、被告アザレプロダクツによる被告製品の製造販売行為は不正競争行為に該当するものと認められ、同被告は不正競争防止法4条に基づき損害賠償責任を負う。また、被告共和化粧品は、前記認定のとおり、被告アザレプロダクツと意思を共同して、同被告の被告製品の製造販売に際して製造設備を貸与し、従業員を従事させているものであるから、共同不法行為者として被告アザレプロダクツと連帯して損害賠償責任を負うものである。
 他方、被告Gについては、前記7において説示したとおり、本件訴訟において本件各商標権の共有者として自ら本件各商標の使用を行っているかのような外観を作出するために、外観上被告製品の取次行為を行っているにすぎないから、共同不法行為者とまでは認めることができない。したがって、同被告に対する損害賠償請求は理由がない。
イ 損害額について
(ア) 前記1において認定のとおり、被告製品の販売が開始されたのは、平成12年4月ころからであるところ、証拠(甲16の16ないし18)ないし弁論の全趣旨によれば、平成9年から同11年までの3年間の原告の営業利益は、次のとおり合計18億8851万0811円であったものと認められる。
 ・第16期(平成9年1月1日から同年12月31日) 3億5086万0391円
 ・第17期(平成10年1月1日から同年12月31日) 5億8472万9473円
 ・第18期(平成11年1月1日から同年12月31日) 9億5292万0947円
(イ) 次に、証拠(甲51、98、121)及び弁論の全趣旨によれば、3年間の営業利益の合計は、次のとおり1億0113万5419円であったことが認められる。
 ・第19期(平成12年1月1日から同年12月31日) 9695万6217円
 ・第20期(平成13年1月1日から同年12月31日) −2621万0492円
 ・第21期(平成14年1月1日から同年12月31日) 3038万9694円
(ウ) 昭和57年から平成11年まで原告の営業利益(甲16の1ないし18により、別紙「売上高・営業利益・商標使用料比較一覧表」記載のとおりであると認める。)は一貫して上昇を続けていたこと、原告の扱っている商品の主力は基礎化粧品であり、しかも自然派化粧品として同一の顧客により継続的に使用されることが想定されているものであって、景気の変動による売上の急激な変化は生じにくいと考えられること等の事情に照らせば、上記(イ)のような急激な営業利益の低下は、被告アザレプロダクツの不正競争行為により生じたものと認められ、被告アザレプロダクツによる不正競争行為がなければ、原告は第16期ないし第18期の3年間の営業利益に相当する額を第19期ないし第21期にも上げられたものと認められる。
 したがって、上記(ア)と(イ)の差額である、17億8737万5392円が被告アザレプロダクツによる不正競争行為により原告に生じた損害として、不正競争行為と相当因果関係のある損害(不正競争防止法5条4項参照)と認めるのが相当である(なお、原告は、平成15年1月1日分以降に生じた損害についても請求しているが、これを認めるべき的確な証拠はなく、本件全証拠によっても認めることはできない。)。
(エ) 弁護士費用
 原告が本件訴訟の訴訟追行を弁護士に委任したことは、当裁判所に顕著であるところ、本件事案の性質、内容、本件訴訟の手続の経緯等の諸般の事情を勘案すると、被告アザレプロダクツの不正競争行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては、5000万円をもって相当と認める。
ウ 以上のとおりであるから、被告G、同アザレプロダクツ及び同共和化粧品に対する損害賠償請求については、被告アザレプロダクツ及び同共和化粧品に対して、18億3737万5392円及びこれに対する平成13年10月20日(被告全員に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである。)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金につき連帯支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。
(2) 被告アザレ東京、同アザレアゼット、同アザレウイング及び同アザレ武蔵野に対する損害賠償請求について
ア 前記6において説示したとおり、被告アザレ東京らは、本件各表示の付された被告製品を販売していたものである。前記1において認定した本件の事実経過に照らせば、被告アザレ東京らは、全員で意思を共同し、一体のグループを形成して、被告アザレプロダクツと意を通じて被告製品を販売していたものであるから、原告に対し共同不法行為者として、不正競争防止法4条に基づく損害賠償責任を連帯して負うものである。
イ 損害額について
(ア) 前記1において認定した各事実に証拠(乙32、66の1、2、証人Q、被告G本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、被告アザレ東京らは、東京地区において、被告アザレ東京を中心として約120の営業所で販売グループを形成していること、平成12年5月ころから平成13年11月ころの1営業所当たりの年間売上高は少なくとも1440万円を下らないことが認められる(証人Qは証人尋問において、乙66号証の2記載の推定売上額は、同証人の知り得た数字及び同証人の経験から間違いない売上額を算出し、それを基に売上額を推算したものである旨を証言しており、一定の信用性が認められる。)。そうすると、被告アザレ東京を中心とする販売グループの年間売上高は、以下の計算式のとおり17億2800万円を下らないものと認められる。
 (計算式)
 14,400,000×120=1,728,000,000
 この年間売上高を基に、平成12年5月1日から平成13年11月30日までの19か月間の被告アザレ東京を中心とする販売グループ売上高を算定すると、下記の計算式のとおり27億3600万円となる。
 (計算式)
 1,728,000,000×19/12=2,736,000,000
(イ) 被告製品の小売販売によって得られる利益は、小売価格の1割5分程度と推測される(この点につき被告らは争っていない。)ので、上記期間において不正競争防止法5条2項により原告の損害と推定される金額は、少なくとも上記の売上高27億3600万円に1割5分を乗じた4億1040万円を下ることはない。
(ウ) 弁護士費用
 原告が本件訴訟の訴訟追行を弁護士に委任したことは、当裁判所に顕著であるところ、本件事案の性質、内容、請求額等諸般の事情を勘案すると、被告アザレ東京らの不正競争行為と相当因果関係を有する弁護士費用としては、2000万円をもって相当と認める。
ウ 以上のとおりであるから、被告アザレ東京らに対する損害賠償請求は、被告アザレ東京らに対して、4億3040万円及びこれに対する平成13年10月20日(被告全員に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである。)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金につき連帯支払を求める限度で理由があるということになるが、本件においては、原告は被告アザレ東京らに対し、4億2900万円とこれに対する平成13年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員についての連帯支払いを求めているのみであるので、被告アザレ東京らに対する上記損害賠償請求は理由がある。
(3) なお、本件において、被告アザレプロダクツ及び同共和化粧品の損害賠償債務(上記(1))と被告アザレ東京らの損害賠償債務(上記(2))とは、共同不法行為者の損害賠償債務として、両者が重複する限度において不真正連帯債務の関係となる。
9 結論
 以上のとおりであるから、原告の被告らに対する請求は、被告Gを除くその余の被告らに対して、上記の各請求を行う限度で理由がある(被告Gに対する請求及び被告被告アザレプロダクツ及び同共和化粧品に対するその余の請求は理由がない。)。また、仮執行宣言については、本件においては相当でないので、これを付さないこととする。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 三村量一
 裁判官 大須賀寛之
 裁判官 松岡千帆
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/